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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181457
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20221201BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20221201BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01L29/78 652J
H01L29/78 657D
H01L29/78 655A
H01L29/78 655G
H01L29/78 655B
H01L29/78 655D
H01L29/78 652C
H01L29/78 653A
H01L29/91 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088408
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】住友 正清
(57)【要約】
【課題】スイッチング損失を低減しつつ、リーク電流も低減できる半導体装置を提供する。
【解決手段】IGBT素子を有するIGBT領域11と、FWD素子を有するFWD領域12とが共通の半導体基板30に形成されている半導体装置において、バリア領域36および第1ベース層32aは、半導体基板30の厚さ方向の所定位置にピーク濃度を有し、バリア領域36のピーク濃度をy[×1.0×1016/cm]とし、第1ベース層32aのピーク濃度をx[×10×1017/cm]とすると、y≦1.0429x-2.4371x+1.48を満たす構成となるようにする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IGBT素子を有するIGBT領域(11)と、FWD素子を有するFWD領域(12)とが共通の半導体基板(30)に形成されている半導体装置であって、
前記IGBT領域と前記FWD領域とを有し、第1導電型のドリフト層(31)と、前記ドリフト層上に形成された第2導電型のベース層(32)と、前記IGBT領域において、前記ドリフト層のうちの前記ベース層側と反対側に形成された第2導電型のコレクタ層(43)と、前記FWD領域において、前記ドリフト層のうちの前記ベース層側と反対側に形成された第1導電型のカソード層(44)と、を含み、前記ベース層側の面を一面(30a)とし、前記コレクタ層および前記カソード層側の面を他面(30b)とする前記半導体基板と、
前記ベース層内に形成され、前記ベース層を前記ドリフト層側の第1ベース層(32a)および前記半導体基板の一面側の第2ベース層(32b)に分割する第1導電型のバリア領域(36)と、
前記IGBT領域において、前記ベース層に形成され、前記バリア領域と接続されると共に前記半導体基板の一面から露出するピラー領域(39)と、
前記IGBT領域において、前記ベース層および前記バリア領域を貫通して前記ドリフト層に達するトレンチ(33)の壁面に形成されたゲート絶縁膜(34)と、前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極(35)とを有するトレンチゲート構造と、
前記ベース層の表層部に形成され、前記トレンチと接する第1導電型のエミッタ領域(37)と、
前記半導体基板の一面側に配置され、前記ベース層、前記ピラー領域、および前記エミッタ領域と電気的に接続される第1電極(41)と、
前記半導体基板の他面側に配置され、前記コレクタ層および前記カソード層と電気的に接続される第2電極(45)と、を備え、
前記バリア領域および前記第1ベース層は、前記半導体基板の厚さ方向の所定位置にピーク濃度を有する構成とされ、前記バリア領域のピーク濃度をy[×1.0×1016/cm]とし、前記第1ベース層のピーク濃度をx[×10×1017/cm]とすると、y≦1.0429x-2.4371x+1.48を満たす構成とされている半導体装置。
【請求項2】
前記第1電極は、前記ベース層、前記ピラー領域、および前記エミッタ領域とオーミック接合されている請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記バリア領域は、ピーク濃度が2.8×1016/cm以上とされている請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記IGBT領域は、前記FWD領域側に位置する第1領域(11a)と、前記第1領域を挟んで前記FWD領域と反対側に位置する第2領域(11b)と、を有し、
前記ピラー領域は、少なくとも前記第1領域に形成されている請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁ゲート構造を有する絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下では、IGBTという)素子とフリーホイールダイオード(以下では、FWDという)素子とが共通の半導体基板に形成された半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、IGBT領域およびFWD領域を有する半導体装置において、FWD素子のスイッチング損失を低減した半導体装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、この半導体装置は、N型のドリフト層を構成する半導体基板を有しており、ドリフト層上にベース層が形成されている。そして、IGBT領域およびFWD領域では、ベース層を貫通するように複数のトレンチが形成され、各トレンチには、壁面を覆うようにゲート絶縁膜が形成されていると共に、ゲート絶縁膜上にゲート電極が形成されている。また、IGBT領域には、トレンチと接するように、N型のエミッタ領域が形成されている。そして、半導体基板のうちのベース層側の一面側には、ベース層およびエミッタ領域と電気的に接続される上部電極が形成されている。
【0003】
半導体基板の一面と反対の他面側には、P型のコレクタ層およびN型のカソード層が形成されていると共に、コレクタ層およびカソード層と電気的に接続される下部電極が形成されている。そして、半導体装置は、半導体基板の他面側にコレクタ層が形成されている領域がIGBT領域とされ、カソード層が形成されている領域がFWD領域とされている。
【0004】
また、ベース層には、ベース層を半導体基板の厚さ方向に沿って分割するようにN型のバリア領域が形成されている。そして、ベース層には、半導体基板の一面からバリア領域に達するようにピラー領域が形成され、ピラー領域は、上部電極とも接続されている。なお、ピラー領域は、隣合うトレンチの間にそれぞれ形成され、IGBT領域およびFWD領域の全体に渡って形成されている。
【0005】
このような半導体装置では、バリア領域およびピラー領域が形成されていることにより、FWD領域をダイオード動作させる際、正孔の注入が抑制される。このため、リカバリ電流を小さくでき、リカバリ時間を短くできる。したがって、スイッチング損失を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-225560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような半導体装置では、ピラー領域が上部電極と接続されるため、ピラー領域およびバリア領域を介したリーク電流が懸念される。
【0008】
本発明は上記点に鑑み、スイッチング損失を低減しつつ、リーク電流も低減できる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための請求項1では、IGBT素子を有するIGBT領域(11)と、FWD素子を有するFWD領域(12)とが共通の半導体基板(30)に形成されている半導体装置であって、IGBT領域とFWD領域とを有し、第1導電型のドリフト層(31)と、ドリフト層上に形成された第2導電型のベース層(32)と、IGBT領域において、ドリフト層のうちのベース層側と反対側に形成された第2導電型のコレクタ層(43)と、FWD領域において、ドリフト層のうちのベース層側と反対側に形成された第1導電型のカソード層(44)と、を含み、ベース層側の面を一面(30a)とし、コレクタ層およびカソード層側の面を他面(30b)とする半導体基板と、ベース層内に形成され、ベース層をドリフト層側の第1ベース層(32a)および半導体基板の一面側の第2ベース層(32b)に分割する第1導電型のバリア領域(36)と、IGBT領域において、ベース層に形成され、バリア領域と接続されると共に半導体基板の一面から露出するピラー領域(39)と、IGBT領域において、ベース層およびバリア領域を貫通してドリフト層に達するトレンチ(33)の壁面に形成されたゲート絶縁膜(34)と、ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極(35)とを有するトレンチゲート構造と、ベース層の表層部に形成され、トレンチと接する第1導電型のエミッタ領域(37)と、半導体基板の一面側に配置され、ベース層、ピラー領域、およびエミッタ領域と電気的に接続される第1電極(41)と、半導体基板の他面側に配置され、コレクタ層およびカソード層と電気的に接続される第2電極(45)と、を備えている。そして、バリア領域および第1ベース層は、半導体基板の厚さ方向の所定位置にピーク濃度を有する構成とされ、バリア領域のピーク濃度をy[×1.0×1016/cm]とし、第1ベース層のピーク濃度をx[×10×1017/cm]とすると、y≦1.0429x-2.4371x+1.48を満たす構成とされている。
【0010】
これによれば、バリア領域が形成されていると共にIGBT領域にピラー領域が形成されているため、FWD素子がダイオード動作する際にIGBT領域では、正孔の注入が抑制される。このため、スイッチング損失を低減することができる。
【0011】
また、この半導体装置では、第1ベース層およびバリア領域が上記数式を満たす構成とされている。このため、ピラー領域およびバリア領域を形成することによるリーク電流が増加することを抑制できる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態における半導体装置の平面図である。
図2図1中のII-II線に沿った断面図である。
図3図1中のIII-III線に沿った断面図である。
図4A】第1領域における隣合うトレンチ間のエミッタ領域、コンタクト領域、およびピラー領域の配置関係を示す図である。
図4B】第2領域における隣合うトレンチ間のエミッタ領域およびコンタクト領域の配置関係を示す図である。
図4C】FWD領域における隣合うトレンチ間のベース層およびコンタクト領域の配置関係を示す図である。
図5】第1領域におけるトレンチ近傍の斜視図である。
図6】第1ベース層のピーク濃度が2.0×1017/cmである際の、バリア領域のピーク濃度、ゲート電圧、およびコレクタ電流の関係を示す図である。
図7】第1ベース層のピーク濃度が5.0×1017/cmである際の、バリア領域のピーク濃度、ゲート電圧、およびコレクタ電流との関係を示す図である。
図8】第1ベース層のピーク濃度およびバリア領域のピーク濃度と、リーク電流との関係を示す図である。
図9】第1ベース層のピーク濃度およびバリア領域のピーク濃度と、オン電圧との関係を示す図である。
図10】第1ベース層のピーク濃度およびバリア領域のピーク濃度と、IGBT領域を流れる順方向電流との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の半導体装置は、例えば、インバータ、DC/DCコンバータ等の電源回路に使用されるパワースイッチング素子として利用されると好適である。
【0016】
図1に示されるように、半導体装置は、セル領域10と、当該セル領域10を囲む外周領域20とを有している。本実施形態の半導体装置は、2つのセル領域10を有している。そして、各セル領域10には、IGBT素子として機能するIGBT領域11と、IGBT領域11に隣接し、FWD素子として機能するFWD領域12とが形成されている。つまり、本実施形態の半導体装置は、後述する共通の半導体基板30内にIGBT領域11とFWD領域12とが形成されたRC(Reverse Conductingの略)-IGBTとされている。なお、具体的には後述するが、本実施形態では、半導体基板30の他面30bに位置するコレクタ層43上の部分がIGBT領域11とされ、半導体基板30の他面30bに位置するカソード層44上の部分がFWD領域12とされている。
【0017】
本実施形態では、IGBT領域11およびFWD領域12は、各セル領域10内において、一方向に沿って交互に形成されている。つまり、IGBT領域11およびFWD領域12は、後述する半導体基板30の面方向における一方向に沿って交互に形成されている。具体的には、IGBT領域11およびFWD領域12は、それぞれ長手方向を有する矩形状の領域とされており、当該長手方向と交差する方向に沿って交互に形成されている。また、IGBT領域11およびFWD領域12は、配列方向における両端部にIGBT領域11が位置するように、交互に配列されている。
【0018】
なお、図1中では、IGBT領域11およびFWD領域12は、紙面左右方向を長手方向とする矩形状とされており、紙面上下方向に沿って交互に形成されている。以下、本実施形態の半導体装置の具体的な構成について説明する。
【0019】
半導体装置は、図2および図3に示されるように、N型のドリフト層31を構成する半導体基板30を有している。そして、ドリフト層31上には、P型のベース層32が形成されている。以下、半導体基板30のうちのベース層32側の面を一面30aともいい、半導体基板30のうちの一面30aと反対側の面を他面30bともいう。
【0020】
半導体基板30には、一面30a側からベース層32を貫通してドリフト層31に達するように複数のトレンチ33が形成されている。これにより、ベース層32は、トレンチ33によって複数個に分離されている。本実施形態では、複数のトレンチ33は、IGBT領域11およびFWD領域12にそれぞれ形成されている。また、本実施形態では、複数のトレンチ33は、IGBT領域11およびFWD領域12の配列方向と交差する方向(すなわち、図1中の紙面左右方向)を長手方向としてストライプ状に形成されている。なお、隣合うトレンチ33同士の間隔(すなわち、ピッチ間隔)は、例えば、2μm程度とされる。
【0021】
そして、各トレンチ33は、各トレンチ33の壁面を覆うように形成されたゲート絶縁膜34と、このゲート絶縁膜34の上に形成されたポリシリコン等により構成されるゲート電極35とにより埋め込まれている。これにより、トレンチゲート構造が構成されている。
【0022】
なお、IGBT領域11に形成されたトレンチ33に配置されているゲート電極35は、図示しないゲート配線を介して外周領域20に形成されたゲートパッド等と接続される。ゲートパッドは、図示しない抵抗を介して駆動回路と接続される。そして、このゲート電極35には、所定のパルス状のゲート電圧が印加される。FWD領域12に形成されているトレンチ33に配置されたゲート電極35は、後述する上部電極41と電気的に接続され、所定電位に維持される。
【0023】
ベース層32には、当該ベース層32を半導体基板30の厚さ方向に分割するように、ドリフト層31よりも高不純物濃度とされたN型のバリア領域36が形成されている。以下では、ベース層32のうちのドリフト層31側の部分を第1ベース層32aともいい、ベース層32のうちの半導体基板30の一面30a側の部分を第2ベース層32bともいう。
【0024】
ここで、IGBT領域11のうちのFWD領域12側の領域を第1領域11aとし、IGBT領域11のうちの第1領域11aと異なる領域を第2領域11bとする。本実施形態では、上記のようにIGBT領域11およびFWD領域12が配列されているため、FWD領域12で挟まれている部分のIGBT領域11では、第2領域11bは、第1領域11aで挟まれた構成となる。また、IGBT領域11とFWD領域12との配列方向の両端部に位置するIGBT領域11では、配列方向の端部側の領域の全体が第2領域11bとなる。なお、第1領域11aの範囲は、例えば、IGBT領域11とFWD領域12との境界部と、FWD領域12から半導体基板30の厚さ分だけ離れた部分との間とされる。
【0025】
そして、ベース層32の表層部には、図4Aおよび図4Bに示されるように、IGBT領域11において、ドリフト層31よりも高不純物濃度とされたN型のエミッタ領域37、およびベース層32よりも高不純物濃度とされたP型のコンタクト領域38が形成されている。なお、本実施形態では、図5に示されるように、エミッタ領域37とコンタクト領域38とが同じ深さとされているが、例えば、コンタクト領域38の方がエミッタ領域37よりも深く形成されていてもよい。
【0026】
また、ベース層32の表層部には、図4Aおよび図5に示されるように、IGBT領域11の第1領域11aにおいて、ドリフト層31よりも高不純物濃度とされ、バリア領域36と同程度の不純物濃度とされたピラー領域39が形成されている。ピラー領域39は、図5に示されるように、バリア領域36と接続されるように形成されている。
【0027】
さらに、ベース層32の表層部には、図4Cに示されるように、FWD領域12において、ベース層32よりも高不純物濃度とされたP型のコンタクト領域38が形成されている。
【0028】
つまり、本実施形態のピラー領域39は、IGBT領域11における第1領域11aに形成されており、第2領域11bおよびFWD領域12には形成されていない。言い換えると、本実施形態のIGBT領域11は、ピラー領域39が形成されている領域が第1領域11aとされ、ピラー領域39が形成されていない領域が第2領域11bとされている。
【0029】
そして、第1領域11aでは、図4Aに示されるように、エミッタ領域37、コンタクト領域38、ピラー領域39がトレンチ33の長手方向に沿って順に形成されている。第2領域11bでは、図4Bに示されるように、エミッタ領域37およびコンタクト領域38がトレンチ33の長手方向に沿って交互に形成されている。FWD領域12では、コンタクト領域38がトレンチ33の長手方向に沿って点在して形成されている。そして、FWD領域12では、トレンチ33の長手方向に沿って隣合うコンタクト領域38の間に位置する部分からベース層32が露出した状態となっている。
【0030】
なお、図2および図3中の第1領域11aは、図4A中のII-II線に沿った断面に相当している。図2および図3中の第2領域11bは、図4B中のII-II線に沿った断面に相当している。図2および図3中のFWD領域12は、図4C中のII-II線に沿った断面に相当している。また、図4A図4Cでは、トレンチ33内に配置されるゲート絶縁膜34およびゲート電極35を省略して示してある。
【0031】
半導体基板30の一面30a上には、BPSG(Borophosphosilicate Glassの略)等で構成される層間絶縁膜40が形成されている。層間絶縁膜40には、IGBT領域11において、エミッタ領域37、コンタクト領域38、ピラー領域39を露出させるコンタクトホール40aが形成されている。層間絶縁膜40には、FWD領域12において、ベース層32およびコンタクト領域38を露出させるコンタクトホール40bが形成されている。そして、層間絶縁膜40上には、IGBT領域11において、層間絶縁膜40に形成されたコンタクトホール40aを通じて、エミッタ領域37、コンタクト領域38(すなわち、ベース層32)、およびピラー領域39と電気的に接続される上部電極41が形成されている。層間絶縁膜40上には、FWD領域12において、層間絶縁膜40に形成されたコンタクトホール40bを通じて、ベース層32およびコンタクト領域38と電気的に接続される上部電極41が形成されている。つまり、層間絶縁膜40上には、IGBT領域11においてエミッタ電極として機能し、FWD領域12においてアノード電極として機能する上部電極41が形成されている。なお、本実施形態の上部電極41は、ベース層32、コンタクト領域38、およびピラー領域39とオーミック接合されている。
【0032】
また、本実施形態では、層間絶縁膜40には、FWD領域12において、ゲート電極35を露出させるコンタクトホール40cが形成されている。そして、上部電極41は、このコンタクトホール40bを通じてゲート電極35とも接続されている。これにより、FWD領域12に形成されたゲート電極35は、上部電極41と同電位に維持される。本実施形態では、上部電極41が第1電極に相当している。
【0033】
ドリフト層31のうちのベース層32側と反対側(すなわち、半導体基板30の他面30b側)には、ドリフト層31よりも高不純物濃度とされたN型のフィールドストップ(以下では、単にFS層ともいう)42が形成されている。このFS層42は、必ずしも必要なものではないが、空乏層の広がりを防ぐことで耐圧と定常損失の性能向上を図ると共に、半導体基板30の他面30b側から注入される正孔の注入量を制御するために備えてある。
【0034】
そして、IGBT領域11では、FS層42を挟んでドリフト層31と反対側にP型のコレクタ層43が形成され、FWD領域12では、FS層42を挟んでドリフト層31と反対側にN型のカソード層44が形成されている。つまり、IGBT領域11とFWD領域12とは、半導体基板30の他面30b側に形成される層がコレクタ層43であるかカソード層44であるかによって区画されている。そして、コレクタ層43上の領域がIGBT領域11とされ、カソード層44上の領域がFWD領域12とされている。
【0035】
コレクタ層43およびカソード層44を挟んでドリフト層31と反対側(すなわち、半導体基板30の他面30b)には、コレクタ層43およびカソード層44と電気的に接続される下部電極45が形成されている。つまり、IGBT領域11においてはコレクタ電極として機能し、FWD領域12においてはカソード電極として機能する下部電極45が形成されている。本実施形態では、下部電極45は、コレクタ層43およびカソード層44とオーミック接合されている。また、本実施形態では、下部電極45が第2電極に相当している。
【0036】
本実施形態の半導体装置は、このように構成されることにより、IGBT領域11においては、ベース層32をベースとし、エミッタ領域37をエミッタとし、コレクタ層43をコレクタとするIGBT素子が構成される。また、FWD領域12においては、ベース層をアノードとし、ドリフト層31、FS層42、カソード層44をカソードとしてPN接合されたFWD素子が構成される。
【0037】
以上が本実施形態における半導体装置の構成である。なお、本実施形態では、N型、N型、N型が第1導電型に相当しており、P型、P型が第2導電型に相当している。また、本実施形態では、上記のように構成されることにより、半導体基板30は、コレクタ層43、カソード層44、ドリフト層31、ベース層32、バリア領域36、エミッタ領域37、コンタクト領域38、ピラー領域39等を含んだ構成となっている。また、本実施形態の半導体装置は、半導体基板30にイオン注入されることでベース層32やバリア領域36等が構成される。このため、ベース層32やバリア領域36は、半導体基板30の厚さ方向における所定位置(例えば、略中心)にピーク濃度を有する構成となっている。
【0038】
次に、上記半導体装置の作動について説明しつつ、さらに半導体装置の詳細な構成について説明する。
【0039】
上記のような半導体装置は、下部電極45に上部電極41より高い電圧が印加されると、ベース層32とドリフト層31との間に形成されるPN接合が逆導通状態となって空乏層が形成される。そして、ゲート電極35に、絶縁ゲート構造の閾値電圧Vth未満であるローレベル(例えば、0V)のゲート電圧Vgが印加されているときには、上部電極41と下部電極45との間にコレクタ電流Icは流れない。
【0040】
IGBT素子をオン状態にするには、下部電極45に上部電極41より高い電圧が印加された状態で、IGBT領域11のゲート電極35に、絶縁ゲート構造の閾値電圧Vth以上であるハイレベルのゲート電圧Vgが印加されるようにする。これにより、IGBT領域11では、ベース層32のうちのゲート電極35が配置されるトレンチ33と接している部分に反転層が形成される。そして、IGBT素子は、エミッタ領域37から反転層を介して電子がドリフト層31に供給されることによってコレクタ層43から正孔がドリフト層31に供給され、伝導度変調によりドリフト層31の抵抗値が低下することにより、上部電極41と下部電極45との間にコレクタ電流Icが流れる。
【0041】
また、IGBT素子をオフ状態にし、FWD素子をオン状態にする(すなわち、FWD素子をダイオード動作させる)際には、上部電極41と下部電極45に印加する電圧をスイッチングし、上部電極41に下部電極45より高い電圧を印加する順電圧印加を行う。これにより、ベース層32へ正孔が供給されると共にカソード層44へ電子が供給されることでFWD素子がダイオード動作をする。
【0042】
この際、本実施形態では、IGBT領域11の第1領域11aには、ピラー領域39が形成されている。このため、第1領域11aでは、下部電極45から注入された電子は、ピラー領域39から上部電極41へと低抵抗な状態で抜ける。したがって、第1領域11aでは、バリア領域36およびピラー領域39と、ベース層32との間のPN接合に順バイアスが印加され難くなり、上部電極41からの正孔の注入が低減される。
【0043】
これにより、上部電極41と下部電極45との間の電圧が順バイアスから逆バイアスに切り替わった際、正孔の注入が抑制されているため、リカバリ電流を小さくでき、リカバリ時間を短くできる。したがって、スイッチング損失を低減することができる。
【0044】
ここで、このような半導体装置では、IGBT領域11のゲート電極35にゲート電圧Vgが印加されてコレクタ電流Icが流れ始める際、図5中の矢印Aに示されるように、ピラー領域39およびバリア領域36を介して電子電流に起因するリーク電流が流れる可能性がある。
【0045】
この場合、ゲート電圧Vgとコレクタ電流Ic(すなわち、リーク電流)との関係は、図6および図7に示されるようになる。なお、図6は、第1ベース層32aのピーク濃度が2.0×1017/cmである際のシミュレーション結果であり、図7は、第1ベース層32aのピーク濃度が5.0×1017/cmである際のシミュレーション結果である。また、図6および図7は、閾値電圧Vthが3Vとなるように構成した半導体装置において、バリア領域36のピーク濃度を変化させた際のコレクタ電流Icを示しており、図中の各値はバリア領域36のピーク濃度を示している。そして、図6および図7では、ゲート電圧Vgが3V未満で流れるコレクタ電流Icがリーク電流となる。
【0046】
図6および図7に示されるように、リーク電流は、第1ベース層32aのピーク濃度が高くなることにより、閾値電圧Vthが高くなって小さくなる。また、リーク電流は、バリア領域36のピーク濃度が低くなることにより、内部抵抗が高くなって小さくなる。また、現状では、閾値電圧Vthを印加する前のリーク電流が1.0×10-5A以下となるようにすることが望まれている。
【0047】
そして、リーク電流が1.0×10-5A以下となるバリア領域36のピーク濃度と第1ベース層32aのピーク濃度との関係は、図6および図7から図8に示されるようになる。この場合、バリア領域のピーク濃度をy[×1.0×1016/cm]とし、第1ベース層32aのピーク濃度をx[×1.0×1017/cm]とすると、リーク電流は、下記数式1を満たすことで1.0×10-5Aとなる。したがって、バリア領域36および第1ベース層32aは、下記数式1を満たすようにピーク濃度が調整されている。
【0048】
(数1)y≦1.0429x-2.4371x+1.48
一方、IGBT素子がオン状態である際のオン電圧は、図9に示されるように、第1ベース層32aのピーク濃度を高くするほど反転層が形成され難くなるため、高くなる。また、オン電圧は、バリア領域36のピーク濃度を低くするほどドリフト層31に供給された正孔がベース層32から抜け易くなるため、高くなる。なお、図9は、コレクタ電流Icを400Aとした場合のシミュレーション結果である。
【0049】
また、ダイオード動作時においては、バリア領域36のピーク濃度を高くするほど、下部電極45から注入された電子がピラー領域39から抜け易くなり、上部電極41からの正孔の注入が低減される。本発明者らの検討によれば、図10に示されるように、第1領域11a(すなわち、IGBT領域11)からFWD領域12へ流れ込む順方向電流は、バリア領域36のピーク濃度が2.8×1016cm-3より大きくなると、正孔の注入が低減されて十分に小さくなることが確認された。つまり、バリア領域36のピーク濃度が2.8×1016cm-3より大きくなると、スイッチング損失を十分に低減できることが確認された。
【0050】
したがって、本実施形態の半導体装置における第1ベース層32aのピーク濃度およびバリア領域36のピーク濃度は、上記数式1を満たしつつ、要求される特性を考慮して調整されることが好ましい。すなわち、オン電圧を低くしたい場合には、上記数式1を満たしつつ、第1ベース層32aのピーク濃度を低くすると共にバリア領域36のピーク濃度を高くすればよい。また、スイッチング損失を低減したい場合には、上記数式1を満たしつつ、バリア領域36のピーク濃度が2.8×1016cm-3より高くなるようにすればよい。
【0051】
なお、本実施形態では、IGBT領域11およびFWD領域12(すなわち、セル領域10)の全体において、第1ベース層32aのピーク濃度およびバリア領域36のピーク濃度が一定とされている。つまり、本実施形態では、IGBT領域11およびFWD領域12の全体において、第1ベース層32aのピーク濃度およびバリア領域36のピーク濃度は、上記数式1を満たしつつ、要求される特性を考慮した値に調整されている。
【0052】
以上説明した本実施形態によれば、バリア領域36が形成されていると共に第1領域11aにピラー領域39が形成されている。このため、FWD素子がダイオード動作する際に第1領域11aでは正孔の注入が抑制され、スイッチング損失を低減することができる。
【0053】
また、本実施形態では、第1ベース層32aおよびバリア領域36は、上記数式1を満たすように形成されている。このため、ピラー領域39およびバリア領域36を形成することによるリーク電流が増加することを抑制できる。
【0054】
(1)本実施形態では、上部電極41は、エミッタ領域37、コンタクト領域38、およびピラー領域39とオーミック接合されている。このため、上部電極41としてチタン等も利用でき、材料の選択性を向上できる。
【0055】
(2)本実施形態では、バリア領域36のピーク濃度が2.8×1016/cmとされることにより、スイッチング損失の低減を十分に図ることができる。
【0056】
(3)本実施形態では、IGBT領域11のうちのFWD領域12側に位置する第1領域11aにピラー領域39が配置されている。このため、FWD動作時において、FWD領域12側に位置するIGBT領域11からFWD領域12に正孔が流入され難くなり、スイッチング損失を低減し易くできる。
【0057】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0058】
例えば、上記各実施形態では、第1導電型をN型とし、第2導電型をP型とした半導体装置を説明したが、第1導電型をP型とし、第2導電型をN型とした半導体装置としてもよい。
【0059】
また、上記第1実施形態において、IGBT領域11では、エミッタ領域37およびコンタクト領域38は、トレンチ33の長手方向と交差する方向に配列されていてもよい。この場合、各トレンチ33と接するようにエミッタ領域37が形成され、エミッタ領域37を挟んでトレンチ33と反対側にコンタクト領域38が配置される。そして、第1領域11aでは、コンタクト領域38を貫通してバリア領域36に達するようにピラー領域39が形成される。すなわち、第1領域11aでは、隣合うトレンチ33の間において、トレンチ33の配列方向に沿って、エミッタ領域37、コンタクト領域38、ピラー領域39、コンタクト領域38、エミッタ領域37が順に配置される。このような半導体装置としても、第1ベース層32aおよびバリア領域36が上記数式1を満たすように構成されることにより、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
そして、上記各実施形態において、上部電極41は、ピラー領域39とショットキー接合される材料で構成されていてもよい。これによれば、FWD動作時において、さらに正孔が注入され難くなり、リカバリ損失の低減をさらに図ることができる。
【0061】
また、上記第1実施形態では、セル領域10の全体における第1ベース層32aおよびバリア領域36のピーク濃度が上記の関係を満たすように構成されている例について説明した。しかしながら、リーク電流を低減するためには、少なくともピラー領域39が形成されている第1領域11aの第1ベース層32aおよびバリア領域36のピーク濃度が上記数式1を満たすように形成されていればよい。すなわち、第2領域11bおよびFWD領域12の第1ベース層32aおよびバリア領域36のピーク濃度は、上記数式1を満たすように形成されていなくてもよい。この場合、第2領域11bおよびFWD領域12の一方のみが第1領域11aの第1ベース層32aおよびバリア領域36のピーク濃度と異なるようにしてもよい。
【0062】
また、ピラー領域39は、第1領域11aに加え、第2領域11bに形成されていてもよいし、FWD領域12に形成されていてもよい。例えば、第2領域11bにピラー領域39が形成される場合、平面形状は図4Aと同様となる。また、FWD領域12にピラー領域39が形成される場合、ピラー領域39は、図4C中のコンタクト領域38を貫通しつつ、隣合うトレンチ33に接するように形成される。さらに、ピラー領域39は、第2領域11bのみに形成されていてもよい。すなわち、ピラー領域39は、少なくともIGBT領域11に形成されていればよい。
【0063】
さらに、FWD領域12における半導体基板30の一面30a側の構成は、適宜変更可能であり、例えば、IGBT領域11と同様の構成とされていてもよい。すなわち、FWD領域12では、半導体基板30の一面30a側にエミッタ領域37等が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0064】
11 IGBT領域
12 FWD領域
30 半導体基板
30a 一面
30b 他面
31 ドリフト層
32 ベース層
32a 第1ベース層
32b 第2ベース層
33 トレンチ
34 ゲート絶縁膜
35 ゲート電極
36 バリア領域
37 エミッタ領域
39 ピラー領域
41 上部電極(第1電極)
45 下部電極(第2電極)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10