(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181469
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】船尾管の船首側シール構造と船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 23/36 20060101AFI20221201BHJP
F16J 15/06 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B63H23/36
F16J15/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088430
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】502116922
【氏名又は名称】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】清水 政宏
(72)【発明者】
【氏名】中家 正史
(72)【発明者】
【氏名】西山 才貴
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040AA17
3J040BA05
3J040EA21
3J040EA22
3J040HA02
3J040HA03
3J040HA15
3J040HA30
(57)【要約】
【課題】船舶に設けられる船尾管の船首側シール構造において、プロペラ軸をそのままにした状態で、シールライナをプロペラ軸から取り外すことを可能にする。
【解決手段】船舶に設けられプロペラ軸1を船体内の機関室から船体外へ通す船尾管5の船首側シール構造10は、プロペラ軸1の外周面に取り付けられるシールライナ11と、船尾管5に結合されシールライナ11を囲むシールケーシング25と、シールケーシング25に取り付けられシールケーシング25とシールライナ11との隙間を塞ぐようにシールライナ11を囲むシール部材27とを備える。シールライナ11は、プロペラ軸1を回る周方向に互いに分離可能に連結されている複数のライナ分割部を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に設けられプロペラ軸を船体内の機関室から船体外へ通す船尾管の船首側シール構造であって、
前記プロペラ軸の外周面に取り付けられるシールライナと、
前記船尾管に結合され、前記シールライナを囲むシールケーシングと、
前記シールケーシングに取り付けられ、該シールケーシングと前記シールライナとの隙間を塞ぐように前記シールライナを囲むシール部材と、を備え、
前記シールライナは、前記プロペラ軸を回る周方向に互いに分離可能に連結されている複数のライナ分割部を有する、船首側シール構造。
【請求項2】
前記プロペラ軸を備え、
前記プロペラ軸は、円柱形状部を有し、
前記円柱形状部は、前記プロペラ軸の径方向に前記シールケーシングに対向するケーシング対向部分と、ケーシング対向部分の船首側端から船首側に延びている並行部分とを含み、
前記プロペラ軸の軸方向における長さを軸方向寸法として、前記並行部分の軸方向寸法は、前記シールライナの軸方向寸法よりも大きい、請求項1に記載の船首側シール構造。
【請求項3】
前記シールライナの船首側において前記円柱形状部の外周面に固定されたクランプリングを有し、
前記円柱形状部の外周面に取り付けられた前記シールライナは、前記円柱形状部に固定された前記クランプリングに固定され、
前記並行部分の軸方向寸法は、前記シールライナの軸方向寸法と前記クランプリングの軸方向寸法との和よりも大きい、請求項2に記載の船首側シール構造。
【請求項4】
前記プロペラ軸は、前記円柱形状部の船首側に位置するテーパ部を有し、
前記並行部分の船首側端は、前記テーパ部の船尾側端に結合されており、
前記テーパ部は、船首側に移行するにつれて、断面の大きさが小さくなっている、請求項2に記載の船首側シール構造。
【請求項5】
前記シールケーシングに取り付けられ、前記プロペラ軸を囲む膨張可能シール部を備え、
膨張可能シール部は、内部空間を有し、当該内部空間に加圧ガスが供給されることにより、膨張可能シール部は、前記シールケーシングと前記シールライナとの隙間を塞ぐように膨張する、請求項1~4のいずれか一項に記載の船首側シール構造。
【請求項6】
プロペラ軸を船体内の機関室から船体外へ通す船尾管と、
船尾管の内周に設けられた軸受に供給される潤滑油が船体内の前記機関室へ漏れることを防止する請求項1~5のいずれか一項に記載の船首側シール構造と、を備える船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶における船尾管の船首側に設けられる船首側シール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶において、プロペラ軸が船体を貫通する箇所には船尾管が設けられる。船尾管
内には、プロペラ軸を回転可能に支持する軸受が設けられている。
【0003】
船尾管の船尾側と船首側には、それぞれシール構造が設けられる。船尾側シール構造により、船尾管の軸受へ供給された潤滑油が船外へ漏れることを防止し、かつ、水(海水)が船内に進入することを防止する。船首側シール構造により、船尾管の軸受へ供給された潤滑油が船内の機関室へ漏れることを防止し、かつ、水(海水)が機関室へ進入することを防止する。
【0004】
船尾側シール構造と船首側シール構造の各々は、シールライナとシールケーシングを有する。シールライナは、プロペラ軸と一体で回転するようにプロペラ軸の外周に取り付けられる。シールケーシングは、シールライナを囲むように船尾管に結合される。シールケーシングには、シールケーシングとシールライナとの隙間をシールするためのシール部材が設けられる。このようなシール構造は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2011/004456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
船舶の運航に伴い、シールライナにおいてシール部材との摺動部分には摩耗が生じる。摩耗したシールライナをプロペラ軸から取り外し、新しいシールライナ又は削正加工(研削加工)したシールライナをプロペラ軸に取り付ける。
【0007】
このようにシールライナを交換等する場合には、シールライナをプロペラ軸から抜き取る作業が必要となる。この作業は、船首側シール構造のシールライナについては次のように行うことができる。
【0008】
船首側シール構造よりも船首側において、プロペラ軸の船首側端部は中間軸に連結されているので、プロペラ軸と中間軸との連結を解除する。その後、中間軸およびその付帯機構を船首側へ移動させ、又は、プロペラ軸を船尾側へ移動させ、次いで、シールライナをプロペラ軸の船首側端部から抜き取る。このように中間軸およびその付帯機構、又は、プロペラ軸を移動させることは、作業負担が大きい。
【0009】
そこで、本発明の目的は、船尾管の船首側シール構造において、プロペラ軸をそのままにした状態で(プロペラ軸と中間軸との連結を解除せずに)、シールライナをプロペラ軸から取り外すことを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明による船首側シール構造は、船舶に設けられプロペラ軸を船体内の機関室から船体外へ通す船尾管の船首側シール構造であって、
前記プロペラ軸の外周面に取り付けられるシールライナと、
前記船尾管に結合され、前記シールライナを囲むシールケーシングと、
前記シールケーシングに取り付けられ、該シールケーシングと前記シールライナとの隙間を塞ぐように前記シールライナを囲むシール部材と、を備え、
前記シールライナは、前記プロペラ軸を回る周方向に互いに分離可能に連結されている複数のライナ分割部を有する。
【0011】
また、上述の目的を達成するため、本発明による船舶は、
プロペラ軸を船体内の機関室から船体外へ通す船尾管と、
前記船尾管の内周に設けられた軸受に供給される潤滑油が船体内の前記機関室へ漏れることを防止する前記船首側シール構造と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明による船首側シール構造では、シールライナは、周方向に互いに分離可能に連結されている複数のライナ分割部を有する。したがって、シールライナが摩耗した場合、シールライナをシールケーシングからずらすように船首側に移動させ、複数のライナ分割部同士の連結を解除することで、各ライナ分割部をプロペラ軸に対して径方向外側に取り外すことができる。よって、プロペラ軸をそのままにした状態で、シールライナをプロペラ軸から取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態による船首側シール構造を備える船舶における船尾管付近を示す。
【
図2】
図1の部分拡大図であり、本発明の実施形態による船首側シール構造を示す。
【
図3A】
図2のIIIA-IIIA断面図であるが、シールライナのみを示す。
【
図3B】
図3Aにおいて、シールライナを構成する第1および第2のライナ分割部を互いに分離させた状態を示す。
【
図4A】
図2のIVA-IVA矢視図であるが、シールライナのみを示す。
【
図4B】
図4Aにおいて、シールライナを構成する第1および第2のライナ分割部を互いに分離させた状態を示す。
【
図5】
図2のV-V断面図であり、クランプリングのみを示している。
【
図6】
図2においてシールライナとクランプリングを船首側にスライドさせた状態を示す。
【
図8】
図7において膨張可能シール部が膨張した状態を示す。
【0014】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態による船首側シール構造10を備える船舶における船尾管5付近を示す。
図1のように、船舶は、プロペラ軸1を船体内の機関室から船体外へ通す船尾管5を船尾側の所定位置に備える。プロペラ軸1には、船体外においてプロペラ3が結合されている。プロペラ軸1は、船体内の機関室に設けられた主機関(図示せず)により回転駆動される。船尾管5の内周には、プロペラ軸1を回転可能に支持する軸受6,7が設けられる。なお、
図1において、右側が船首側であり、左側が船尾側である。
【0016】
船尾管5には、船首側シール構造10と船尾側シール構造20が設けられる。船首側シール構造10は、船尾管5の船首側において、軸受6,7に供給された潤滑油が船体内の機関室へ漏れることを防止する。船尾側シール構造20は、船尾管5の船尾側において、船体外から水(海水)が船尾管5内に進入することを防止するとともに、軸受6,7に供給された潤滑油が船体外に漏れることを防止する。
【0017】
図2は、
図1の部分拡大図であり、本発明の実施形態による船首側シール構造10を示す。船首側シール構造10は、シールライナ11とクランプリング17とシールケーシング25とシール部材27とを備える。
【0018】
(シールライナの構成)
シールライナ11は、
図2のようにプロペラ軸1の外周面に取り付けられる。
図3Aは、
図2のIIIA-IIIA断面図であるが、シールライナ11のみを示す。
図4Aは、
図2のIVA-IVA矢視図であるが、シールライナ11のみを示す。シールライナ11は、プロペラ軸1の中心軸Cの方向から見た場合に中心軸C(プロペラ軸1)を囲む環状形状を有する。
【0019】
シールライナ11は、第1および第2のライナ分割部11a,11bを有する。
図3Bは、
図3Aにおいて、シールライナ11を構成する第1および第2のライナ分割部11a,11bを互いに分離させた状態を示す。
図4Bは、
図4Aにおいて、シールライナ11を構成する第1および第2のライナ分割部11a,11bを互いに分離させた状態を示す。第1および第2のライナ分割部11a,11bは、互いに分離可能に、プロペラ軸1の中心軸Cを回る周方向に連結されていることにより、シールライナ11を形成している。
図3Aの例では、各ライナ分割部11a,11bは、プロペラ軸1の中心軸Cを回る周方向において半周の長さを有する。なお、以下において、各「周方向」は、中心軸Cを回る周方向を意味し、各「軸方向」は、中心軸Cと平行な方向を意味する。
【0020】
図2~
図4Bに示すように、第1および第2のライナ分割部11a,11bの各々は、結合面11a1,11b1を有する。第1のライナ分割部11aの結合面11a1と、第2のライナ分割部11bの結合面11b1とは、互いに周方向に接触して結合される。各結合面11a1,11b1は、周方向を向く面である。
図2~
図4Bのように、各ライナ分割部11a,11bの結合面11a1,11b1において、ボルト穴形成部12が、船首側の2箇所(
図3Aの上下2箇所)と、船尾側の2箇所(
図4Aの上下2箇所)に形成されている。ボルト穴形成部12には、ボルト穴が形成されている。例えば、当該ボルト穴は、ボルト穴形成部12を貫通していてよい。
【0021】
各ボルト穴形成部12の周方向一端面は、対応する結合面11a1,11b1の一部をなしている。当該周方向一端面には上記ボルト穴が開口している。各ライナ分割部11a,11bにおいて、各ボルト穴形成部12の周方向他端面側には空間13が設けられている。空間13は、ボルト15a又はナット15bを配置するための空間13である。各ライナ分割部11a,11bにおいて、空間13は、周方向全周の一部にのみ形成されている。
図3Bのように、空間13は、径方向外側には開放されていてよい。このような各ボルト穴形成部12は、対応するライナ分割部11a,11bの他の部分と一体的に形成されていてよい。
【0022】
第1および第2のライナ分割部11a,11bは、それぞれのボルト穴形成部12同士を、
図3Aと
図4Aのように周方向に合わせた状態で、これらのボルト穴形成部12のボルト穴に挿入されたボルト15aとナット15bにより結合させる。これにより、第1および第2のライナ分割部11a,11bは、互いに分離可能に周方向に結合されて環状のシールライナ11をなす。
【0023】
なお、
図2と
図3B等に示すように、結合面11b1には、結合面11b1から突出するように複数のノックピン16が設けられてよい。複数のノックピン16は、結合面11a1,11b1同士を結合させる時に、結合面11aに形成された複数のピン用穴にそれぞれ挿入されることで、結合面11a1,11b1同士が互いに位置決めされる。
【0024】
(クランプリングの構成)
クランプリング17は、シールライナ11をプロペラ軸1に対して固定するために設けられる。シールライナ11は、第1および第2のライナ分割部11a,11bが互いに周方向に結合されてプロペラ軸1に取り付けられた状態で、軸方向にスライド可能である。クランプリング17は、プロペラ軸1を締め付けることによりプロペラ軸1に固定される。このクランプリング17にシールライナ11が固定されることで、シールライナ11はプロペラ軸1に対して固定される。
【0025】
図5は、
図2のV-V断面図であり、クランプリング17のみを示している。クランプリング17は、第1および第2のリング分割部17a,17bが互いにボルト23a(及びナット23b)により結合されることで、プロペラ軸1(後述の円柱形状部1a)の外周面に締め付け固定される。シールライナ11は、クランプリング17の船尾側において複数のボルト21により軸方向にクランプリング17に固定される。
【0026】
クランプリング17には、周方向における複数箇所にボルト穴が貫通している。これらのボルト穴にボルト21が軸方向に貫通する。これらのボルト21の先端側部分が、それぞれ、シールライナ11における船首側端部を構成する拡径部14に設けた複数の雌ネジ穴に螺合する。これにより、これらのボルト21の頭と拡径部14とでクランプリング17を挟み込む。これにより、シールライナ11は、クランプリング17に固定される。
【0027】
各リング分割部17a,17bは、周方向において半周の長さを有する。第1および第2のリング分割部17a,17bの各々は、周方向両端部においてボルト穴形成部19を有する。各ボルト穴形成部19には、ボルト穴が貫通している。第1および第2のリング分割部17a,17bは、それぞれのボルト穴形成部19同士を、
図5のように周方向に合わせた状態で、これらのボルト穴形成部19のボルト穴に挿入されたボルト23aとナット23bにより結合される。なお、各リング分割部17a,17bには、ボルト23aやナット23bを配置する空間24が形成されている。
【0028】
(シールケーシングとシール部材の構成)
シールケーシング25は、船尾管5の船首側に位置するように船尾管5に結合され、シールライナ11を囲む。
【0029】
シール部材27は、シールケーシング25の内周に取り付けられ、シールケーシング25とシールライナ11との隙間を塞ぐようにシールライナ11を囲む。シール部材27は、軸方向から見た場合に、リング形状を有しており、シールライナ11に接触する内周面を有する。
【0030】
図2のように、シールケーシング25は、軸方向に分割された複数のケーシング分割部25a,25b,25cを有していてよい。複数のケーシング分割部25a,25b,25cは、ボルトにより互いに軸方向に結合されていてよい。シール部材27は、軸方向に隣接するケーシング分割部25a,25b,25c同士に軸方向に挟持されていてよい。
【0031】
(プロペラ軸の構成)
プロペラ軸1は、円柱形状部1aを有する。中心軸Cに直交する平面による円柱形状部1aの断面は、当該断面の軸方向位置によらず、一定の半径を有する円形である。円柱形状部1aは、その船尾側端から船首側端まで軸方向に連続的に延びている。円柱形状部1aの船尾側端は、例えば、プロペラ軸1がプロペラ3に結合される箇所であってよい。円柱形状部1aの船首側端は、シールライナ11よりも船首側の所定位置(後述のテーパ部1bとの結合位置)である。
【0032】
円柱形状部1aは、船尾管5よりも船首側において、ケーシング対向部分1afと並行部分1apを有する。ケーシング対向部分1afは、プロペラ軸1の径方向にシールケーシング25に対向する部分である。並行部分1apは、ケーシング対向部分1afの船首側端から船首側に上記所定位置まで延びている。並行部分1apの船首側端は、円柱形状部1aの船首側端である。
【0033】
並行部分1apの軸方向寸法は、シールライナ11の軸方向寸法よりも大きい。この場合、並行部分1apの軸方向寸法は、シールライナ11の軸方向寸法とクランプリング17の軸方向寸法との和よりも大きくてよい。
【0034】
プロペラ軸1は、円柱形状部1aの船首側に位置するテーパ部1bを有する。円柱形状部1aの船首側端は、テーパ部1bの船尾側端に結合されている。テーパ部1bは、船首側に移行するにつれて、その断面(円形断面)の大きさが小さくなっている。円柱形状部1aとテーパ部1bとは、互いに一体的に形成されていてよい。
【0035】
テーパ部1bの船首側端にはフランジ2が設けられている。プロペラ軸1は、
図1のように、テーパ部1bのフランジ2を介して船首側の中間軸9に同軸に結合されている。中間軸9の船尾側端にはフランジ2,9aが設けられている。フランジ2,9a同士をボルトとナットにより結合することで、プロペラ軸1と中間軸9とが互いに結合されている。プロペラ軸1には、主機関(図示せず)による回転駆動力が中間軸9を介して伝達される。
【0036】
(シールライナ11の取り外し手順1)
シールライナ11は、次の(A)~(D)の順でプロペラ軸1から取り外すことができる。
【0037】
(A)クランプリング17の円柱形状部1aへの固定を解除する。すなわち、クランプリング17によりプロペラ軸1を締め付けている力を弱めて、クランプリング17がプロペラ軸1上を軸方向にスライドできるようにする。
図2や
図5に示す例の場合には、リング分割部17a,17b同士の締結力を弱めるようにボルト23aを若干回す。
【0038】
(B)次に、円柱形状部1aに対して、クランプリング17をシールライナ11と共に船首側にスライドさせる。これにより、シールライナ11を、シールケーシング25に径方向に重ならないように、シールケーシング25の船首側の並行部分1apに移動させる。例えば、シールライナ11を
図2の位置から
図6の位置まで移動させる。この時、並行部分1apの軸方向寸法は、シールライナ11の軸方向寸法とクランプリング17の軸方向寸法との和よりも大きいことにより、シールライナ11とクランプリング17を円柱形状の並行部分1ap上を安定してスライドさせることができる。したがって、スライドの際に、シールケーシング25およびクランプリング17とプロペラ軸1とが、互いに衝突して傷付くことが防止される。
【0039】
(C)次いで、シールライナ11とクランプリング17との固定を解除する。例えば、ボルト21による両者の固定を解除する。
【0040】
(D)その後、クランプリング17を複数のリング分割部(第1および第2のリング分割部17a,17b)に分離して、当該各リング分割部を、径方向外側に並行部分1apから取り外すとともに、シールライナ11を複数のライナ分割部(第1および第2のライナ分割部11a,11b)に分離して、当該各ライナ分割部を、径方向外側に並行部分1apから取り外す。
【0041】
上述のように、シールライナ11をプロペラ軸1(並行部分1ap)から取り外した後、新しいシールライナ11又は削正加工(研削加工)したシールライナ11を、上述の(A)~(D)と逆の手順でシールケーシング25に囲まれる位置に配置されるようにプロペラ軸1に取り付け固定する。
【0042】
(シールライナ11の取り外し手順2)
シールライナ11は、次の(a)~(d)の順でプロペラ軸1から取り外すこともできる。
【0043】
(a)上記(A)と同様にクランプリング17の円柱形状部1aへの固定を解除する。
【0044】
(b)次に、上記(C)と同様に、シールライナ11とクランプリング17との固定を解除する。
【0045】
(c)その後、クランプリング17を複数のリング分割部(第1および第2のリング分割部17a,17b)に分離して、当該各リング分割部を、径方向外側に並行部分1apから取り外す。
【0046】
(d)次いで、円柱形状部1aに対して、シールライナ11を船首側にスライドさせる。これにより、シールライナ11を、シールケーシング25に径方向に重ならないように、シールケーシング25の船首側の並行部分1apに移動させる。この時、並行部分1apの軸方向寸法は、シールライナ11の軸方向寸法よりも大きいことにより、シールライナ11を円柱形状の並行部分1ap上を安定してスライドさせることができる。したがって、スライドの際に、シールケーシング25とプロペラ軸1とが、互いに衝突して傷付くことが防止される。
【0047】
(e)その後、シールライナ11を複数のライナ分割部(第1および第2のライナ分割部11a,11b)に分離して、当該各ライナ分割部を、径方向外側に並行部分1apから取り外す。
【0048】
上述のように、シールライナ11をプロペラ軸1(並行部分1ap)から取り外した後、新しいシールライナ11又は削正加工(研削加工)したシールライナ11を、上述の(a)~(e)と逆の手順でシールケーシング25に囲まれる位置に配置されるようにプロペラ軸1に取り付け固定する。
【0049】
(実施形態による効果)
本発明の実施形態による船首側シール構造10では、シールライナ11は、周方向において互いに分割されている複数のライナ分割部(第1および第2のライナ分割部11a,11b)を有し、当該複数のライナ分割部は、周方向において連結されていることにより、シールライナ11を形成している。したがって、シールライナ11が摩耗した場合、シールライナ11をシールケーシング25からずらすように船首側に移動させ、複数のライナ分割部(第1および第2のライナ分割部11a,11b)同士の連結を解除することで、各ライナ分割部をプロペラ軸1に対して径方向外側に取り外すことができる。よって、プロペラ軸1をそのままにした状態で(例えばプロペラ軸1と中間軸9との連結を解除せずに)、また、シールケーシング25の全体を船尾管5に結合させた状態で、シールライナ11をプロペラ軸1から取り外すことができる。
【0050】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下の変更例1~3のいずれかを単独で採用してもよいし、変更例1~3の2つ以上を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、以下で述べない点は、上述と同じである。
【0051】
(変更例1)
上述では、シールライナ11は周方向において第1および第2のライナ分割部11a,11bに分割されていたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、シールライナ11は、周方向において互いに分割されている複数のライナ分割部を有し、当該複数のライナ分割部は、周方向において互いに分割可能に連結されていることにより、シールライナ11を形成していればよい。この場合、互いに種方向に隣接するライナ分割部同士は、上述と同様の構成(ボルト穴形成部12やボルト15aとナット15b)により連結されてよい。すなわち、各ライナ分割部の周方向端部には、ボルト穴形成部12や空間13が形成されていてよい。
【0052】
(変更例2)
上述では、クランプリング17は周方向において第1および第2のリング分割部17a,17bに分割されていたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、クランプリング17は、周方向において互いに分割されている複数のリング分割部を有し、当該複数のリング分割部は、周方向において互いに分割可能に連結されていることにより、クランプリング17を形成していればよい。この場合、互いに種方向に隣接するリング分割部同士は、上述と同様の構成(ボルト穴形成部19やボルト23aとナット23b)により連結されてよい。すなわち、各リング分割部の周方向端部には、ボルト穴形成部19や空間24が形成されていてよい。
【0053】
(変更例3)
図7は、
図2に対応する図であるが、変更例3の場合の構成を示す。変更例3では、船首側シール構造10は、膨張可能シール部31を備える。膨張可能シール部31は、シールケーシング25(
図7の例ではケーシング分割部25c)の内周に取り付けられ、プロペラ軸1を囲む。膨張可能シール部31は、軸方向から見た場合に環状の部材であり、周方向に連続的に延びて1周している。膨張可能シール部31は、シールライナ11よりも船尾側に位置している。
【0054】
膨張可能シール部31は、軸方向から見た場合に環状である内部空間31aを有する。内部空間31aに加圧ガス(例えば加圧空気)が供給されることにより、膨張可能シール部31は、
図8のように、シールケーシング25とシールライナ11との隙間を塞ぐように膨張する。すなわち、膨張可能シール部31の内周面がプロペラ軸1の外周面に接触して押し付けられる。
【0055】
加圧ガスを内部空間31aに供給するために、ガス供給路33(例えばチューブ)が設けられている。ガス供給路33は、膨張可能シール部31の内部空間31aに連通し、膨張可能シール部31からシールケーシング25(
図7の例ではケーシング分割部25c)の外部へ延びる。
【0056】
本変更例では、シールライナ11をプロペラ軸1から取り外すために、シールライナ11を、シールケーシング25の船首側の並行部分1apに移動させる前に(例えば、上述の取り外し手順1の上記(B)の前に、又は上述の取り外し手順2の上記(d)の前に)、膨張可能シール部31を膨張させる。これにより、シールケーシング25とプロペラ軸1の外周面との隙間が膨張可能シール部31によりシールされる。したがって、プロペラ軸1からシールライナ11を取り外しても、船尾管5内部から潤滑油が機関室内に漏れることが防止される。
【符号の説明】
【0057】
1 プロペラ軸、1a 円柱形状部、1af ケーシング対向部分、1ap 並行部分、1b テーパ部、2 フランジ、3 プロペラ、5 船尾管、6,7 軸受、9 中間軸、9a フランジ、10 船首側シール構造、20 船尾側シール構造、11 シールライナ、11a,11b 第1および第2のライナ分割部、11a1,11b1 結合面、12 ボルト穴形成部、13 空間、14 拡径部、15a ボルト、15b ナット、16 ノックピン、17 クランプリング、17a,17b 第1および第2のリング分割部、19 ボルト穴形成部、21 ボルト、23a ボルト、23b ナット、24 空間、25 シールケーシング、25a,25b,25c ケーシング分割部、27 シール部材、31 膨張可能シール部、31a 内部空間、33 ガス供給路、C 中心軸