(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181472
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】紙送りロール
(51)【国際特許分類】
B65H 5/06 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
B65H5/06 B
B65H5/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088433
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】山口 和志
(72)【発明者】
【氏名】松田 浩稔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 里志
(72)【発明者】
【氏名】作田 学
【テーマコード(参考)】
3F049
【Fターム(参考)】
3F049AA01
3F049AA02
3F049CA02
3F049CA04
3F049CA14
3F049CA16
3F049LA01
3F049LB01
(57)【要約】
【課題】長期にわたって用紙の搬送不良を抑えた紙送りロールを提供する。
【解決手段】軸体12と軸体12の外周面上に形成された弾性体層14とを備え、弾性体層14を有する部分に外径が一段小さい第1外径部10aと第1外径部10aよりも外径が大きい第2外径部10bとを有し、第1外径部10aと第2外径部10bとの間には、軸方向に沿った方向に外径が変わるように第1外径部10aと第2外径部10bとの間をつなぐ傾斜部10cを有し、傾斜部10cの弾性体層14を有する部分に占める割合が3%以上80%以下であり、第1外径部10aと第2外径部10bの外径差が50μm以上1000μm以下であり、弾性体層14の外周面には表面凹凸を形成する複数の凸部14aが形成されており、第1外径部10aにおける表面粗さRzが第1外径部10aと第2外径部10bの段差の50%以上200%以下である、紙送りロール10とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外周面上に形成された弾性体層と、を備えた紙送りロールであって、
前記弾性体層を有する部分に、外径が一段小さい第1外径部と、前記第1外径部よりも外径が大きい第2外径部と、を有し、
前記第1外径部と前記第2外径部との間には、軸方向に沿った方向に外径が変わるように前記第1外径部と前記第2外径部との間をつなぐ傾斜部を有し、
前記傾斜部の前記弾性体層を有する部分に占める割合が、3%以上80%以下であり、
前記第1外径部と前記第2外径部の外径差が、50μm以上1000μm以下であり、
前記弾性体層の外周面には、表面凹凸を形成する複数の凸部が形成されており、
前記第1外径部における表面粗さRzが、前記第1外径部と前記第2外径部の段差の50%以上200%以下である、紙送りロール。
【請求項2】
前記傾斜部における前記弾性体層に形成された凸部の延出方向は、前記第1外径部における前記弾性体層に形成された凸部の延出方向および前記第2外径部における前記弾性体層に形成された凸部の延出方向と異なる方向にある、請求項1に記載の紙送りロール。
【請求項3】
前記傾斜部の前記弾性体層を有する部分に占める割合が、10%以上50%以下である、請求項1または請求項2に記載の紙送りロール。
【請求項4】
前記第2外径部は、軸方向の中心を含む領域にある、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の紙送りロール。
【請求項5】
前記第1外径部、前記第2外径部および前記傾斜部における表面粗さRzが、25μm以上500μm以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の紙送りロール。
【請求項6】
前記軸体は、前記第2外径部において外径が一段大きい部分を有しており、前記軸体の外形に起因して前記第1外径部、前記第2外径部および前記傾斜部が形成されている、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の紙送りロール。
【請求項7】
請求項6に記載の紙送りロールの製造方法であって、
筒状に形成された前記弾性体層に前記軸体を挿入して形成する、紙送りロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器において好適に用いられる紙送りロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙送りロールは、例えばゴム架橋体などの弾性材料によって円筒状に形成され、その周面が用紙との接触面となる。紙送りロールの周面には、用紙から発生する紙粉が付着することがある。そして、用紙と繰り返し接触するうちに、紙送りロールの周面には紙粉が蓄積することがある。紙粉が蓄積すると、用紙に対する周面の接触面積が低下し、用紙に対する接触面の摩擦係数が低下する。その結果、用紙の搬送不良を生じることがある。
【0003】
用紙の搬送不良を抑制するために、紙送りロールの周面に凹凸を形成したものが知られている(特許文献1)。例えば特許文献1には、紙送りロールの周面に、周方向に延びる凹溝が軸方向に所定間隔で複数形成されているとともに、上記凹溝の無い部分による凸帯の外周面と上記凹溝の溝底の双方にシボ形状による微細凹凸部が形成されたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の紙送りロールは、いずれも使用初期から長期にわたって、紙粉の蓄積を抑え、良好な摩擦係数を維持するという点で、未だ十分とはいえない。ロール周面に凹凸が形成されていれば、その凹部に紙粉が排出されることで紙粉の蓄積が抑えられ、良好な摩擦係数が維持される。しかしながら、長期の使用によりロール周面の凹凸が摩耗すると、紙粉が排出されなくなり、ロール周面に紙粉が付着し、ロール周面の摩擦係数が低下して用紙の搬送不良が生じるおそれがある。特に、近年使用されている用紙の中には低品質の用紙があり、低品質の用紙は紙粉が多く発生しやすく、比較的早期に用紙の搬送不良を生じやすい。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、長期にわたって用紙の搬送不良を抑えた紙送りロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る紙送りロールは、軸体と、前記軸体の外周面上に形成された弾性体層と、を備えた紙送りロールであって、前記弾性体層を有する部分に、外径が一段小さい第1外径部と、前記第1外径部よりも外径が大きい第2外径部と、を有し、前記第1外径部と前記第2外径部との間には、軸方向に沿った方向に外径が変わるように前記第1外径部と前記第2外径部との間をつなぐ傾斜部を有し、前記傾斜部の前記弾性体層を有する部分に占める割合が、3%以上80%以下であり、前記第1外径部と前記第2外径部の外径差が、50μm以上1000μm以下であり、前記弾性体層の外周面には、表面凹凸を形成する複数の凸部が形成されており、前記第1外径部における表面粗さRzが、前記第1外径部と前記第2外径部の段差の50%以上200%以下である。
【0008】
前記傾斜部における前記弾性体層に形成された凸部の延出方向は、前記第1外径部における前記弾性体層に形成された凸部の延出方向および前記第2外径部における前記弾性体層に形成された凸部の延出方向と異なる方向にあるとよい。前記傾斜部の前記弾性体層を有する部分に占める割合は、10%以上50%以下であるとよい。前記第2外径部は、軸方向の中心を含む領域にあるとよい。前記第1外径部、前記第2外径部および前記傾斜部における表面粗さRzは、25μm以上500μm以下であるとよい。前記軸体は、前記第2外径部において外径が一段大きい部分を有しており、前記軸体の外形に起因して前記第1外径部、前記第2外径部および前記傾斜部が形成されているとよい。
【0009】
そして、本発明に係る紙送りロールの製造方法は、上記の紙送りロールの製造方法であって、筒状に形成された前記弾性体層に前記軸体を挿入して形成するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る紙送りロールによれば、軸体と、前記軸体の外周面上に形成された弾性体層と、を備えた紙送りロールであって、前記弾性体層を有する部分に、外径が一段小さい第1外径部と、前記第1外径部よりも外径が大きい第2外径部と、を有し、前記第1外径部と前記第2外径部との間には、軸方向に沿った方向に外径が変わるように前記第1外径部と前記第2外径部との間をつなぐ傾斜部を有し、前記傾斜部の前記弾性体層を有する部分に占める割合が、3%以上80%以下であり、前記第1外径部と前記第2外径部の外径差が、50μm以上1000μm以下であり、前記弾性体層の外周面には、表面凹凸を形成する複数の凸部が形成されており、前記第1外径部における表面粗さRzが、前記第1外径部と前記第2外径部の段差の50%以上200%以下である。本発明に係る紙送りロールは、第1外径部と第2外径部の段差があるため、通紙の枚数が多くなって第2外径部の表面凹凸が摩耗しても、第1外径部の表面凹凸により摩擦係数は維持される。このとき、第2外径部から第1外径部に、用紙と接触する主要部が切り替わるが、第1外径部と第2外径部との間をつなぐ傾斜部により、第2外径部から第1外径部の切り替わり途中においても、摩擦係数の低下が抑えられる。以上により、長期にわたって用紙の搬送不良を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る紙送りロールの軸方向断面図である。
【
図3】他の実施形態に係る紙送りロールの軸方向断面図である。
【
図4】他の実施形態に係る紙送りロールの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る紙送りロールについて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る紙送りロールの軸方向断面図である。
【0013】
本発明の一実施形態に係る紙送りロール10は、軸体12と、軸体12の外周面上に形成された弾性体層14と、を備える。
【0014】
軸体12は、金属製または樹脂製の中実体で構成されている。軸体12は、外径の大きさが異なる部分を有する段付き形状となっている。軸体12の軸方向の両端部は、外径が一段小さい軸小径部12aとなっており、軸体12の軸方向の中央部は、外径が一段大きい軸大径部12bとなっている。軸小径部12aおよび軸大径部12bは、それぞれ均一の外径を有しており、それぞれ円柱状に構成されている。軸大径部12bは、軸体12の軸方向の中央部分を含む部分であり、連続的で単一の構成よりなる。軸小径部12aは、軸大径部12bの両端にそれぞれ配置され、一対の構成よりなる。軸小径部12aおよび軸大径部12bは、同一の軸中心で一体に構成されている。
【0015】
軸小径部12aと軸大径部12bの外径差は、50μm以上1000μm以下であるとよい。これにより、後述する紙送りロール10の第1外径部10aと第2外径部10bの外径差を所望の範囲に設定することができる。軸小径部12aと軸大径部12bの外径差は、より好ましくは100μm以上700μm以下、さらに好ましくは100μm以上500μm以下である。
【0016】
軸体12に占める軸大径部12bの長さの割合は、後述する紙送りロール10の第1外径部10aと第2外径部10bの割合のバランスに優れるなどの観点から、1.5%以上45%以下であることが好ましい。軸体12に占める軸大径部12bの長さの割合は、より好ましくは5%以上40%以下、さらに好ましくは10%以上30%以下である。
【0017】
弾性体層14は、円筒状(チューブ状)で周方向につなぎ目のないシームレス構造である。弾性体層14は、軸体12の外周に被せて配置されている。軸体12の外周に被せる前の弾性体層14は、円筒状であり、内径および外径がそれぞれ軸方向全体に均一であり、また、厚さが均一である。弾性体層14の外周面には、表面凹凸(表面粗さ)を形成する複数の凸部14aが形成されている。複数の凸部14aは、弾性体層14の外周面において、周方向および軸方向にそれぞれ均一に分布している。複数の凸部14aは、弾性体層14の外周面に直交する方向に延びる円柱で構成されている。弾性体層14の軸方向の長さは、軸体12の軸方向の長さよりも短くなっている。
【0018】
弾性体層14は、段付き形状の軸体12の外周を覆うように、軸体12の両端の所定範囲が露出する範囲で、軸体12の外周に被せられている。軸体12の外周を覆う弾性体層14は、段付き形状の軸体12の外形に起因して、両端部の外径は一段小さい小径となり、中央部の外径は一段大きい大径となっている。
【0019】
紙送りロール10は、段付き形状の軸体12の外周を円筒状の弾性体層14が覆うことで構成されており、軸体12の外形に起因して、弾性体層14を有する部分に、外径が一段小さい第1外径部10aと、第1外径部10aよりも外径が大きい第2外径部10bと、を有するものとなっている。また、軸体12の外形に起因して、第1外径部10aと第2外径部10bとの間には、軸方向に沿った方向に外径が変わるように第1外径部10aと第2外径部10bとの間をつなぐ傾斜部10cを有するものとなっている。第1外径部10aは、弾性体層14を有する部分の両端部にあり、外径が一段小さい部分である。第2外径部10bは、弾性体層14を有する部分の中央部分(軸方向の中心を含む領域)にあり、外径が一段大きい部分である。第1外径部10aと第2外径部10bの間には、所定の大きさの段差があるものとなっている。
図1において、D1は第1外径部10aの外径を示しており、D2は第2外径部10bの外径を示しており、第1外径部10aと第2外径部10bの段差は、外径差の半分の大きさで表される。第1外径部10aおよび第2外径部10bの外径は、
図1に示すように、表面凹凸を含む大きさである。
【0020】
弾性体層14の外周面には、表面凹凸(表面粗さ)を形成する複数の凸部14aが形成されているので、第1外径部10a、第2外径部10bおよび傾斜部10cのそれぞれに、表面凹凸(表面粗さ)を有する。第1外径部10aにおける弾性体層14に形成された凸部14aの延出方向および第2外径部10bにおける弾性体層14に形成された凸部14aの延出方向は、それぞれ径方向の外側であり、第1外径部10aおよび第2外径部10bにおける弾性体層14の外周面に直交する方向に凸部14aは延びている。一方、傾斜部10cにおける弾性体層14に形成された凸部14aの延出方向は、傾斜部10cにおける弾性体層14の外周面に直交する方向に凸部14aは延びているため、第1外径部10aにおける弾性体層14に形成された凸部14aの延出方向および第2外径部10bにおける弾性体層14に形成された凸部14aの延出方向と異なる方向にある。
【0021】
このような構成の紙送りロール10において、通紙が行われると、次のようになる。
図2には、紙送りロール10の耐久過程を示している。
【0022】
図2(a)に示すように、通紙初期には、紙送りロール10は、外径の大きい第2外径部10bの弾性体層14において用紙Pに接触する。外径の小さい第1外径部10aの弾性体層14には用紙Pは接触しない。そして、通紙の枚数が多くなるにつれて、
図2(b)、
図2(c)に示すように、第2外径部10bの弾性体層14の表面凹凸は摩耗し、表面凹凸がなくなる。第2外径部10bで表面凹凸がなくなると、第2外径部10bでは紙粉が付着しやすくなって摩擦係数が低下する。
【0023】
ここで、紙送りロール10は、第1外径部10aと第2外径部10bの段差があるため、第2外径部10bが摩耗すると、
図2(d)に示すように、外径が一段小さい第1外径部10aの弾性体層14において用紙Pに接触するようになる。紙送りロール10は、通紙の枚数が多くなって第2外径部10bの表面凹凸が摩耗しても、第1外径部10aの表面凹凸により摩擦係数が維持される。
【0024】
このとき、第2外径部10bから第1外径部10aに、用紙Pと接触する主要部が切り替わる。そして、紙送りロール10は、第1外径部10aと第2外径部10bとの間をつなぐ傾斜部10cを有しているため、
図2(b)、
図2(c)に示すように、第2外径部10bの表面凹凸が摩耗した後、紙送りロール10は、傾斜部10cの弾性体層14において用紙Pに接触するようになる。このため、第2外径部10bから第1外径部10aの切り替わり途中に、摩擦係数の低下を抑えて切り替わりをスムーズに行うようにすることができる。第1外径部10aと第2外径部10bの段差が大きくなると、第2外径部10bから第1外径部10aの切り替わり途中で摩擦係数の低下が生じやすくなるが、この場合に特に有効となる。
【0025】
傾斜部10cの弾性体層14を有する部分に占める割合は、3%以上80%以下であるとよい。紙送りロール10は、傾斜部10cを有することで上記効果を奏するが、上記効果が有効となる範囲として、傾斜部10cの弾性体層14を有する部分に占める割合は3%以上である。また、この観点から、傾斜部10cの弾性体層14を有する部分に占める割合は、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上である。一方で、傾斜部10cの弾性体層14を有する部分に占める割合が80%を超えると、相対的に第1外径部10aと第2外径部10bの割合が小さくなり、紙送りロール10を段付き構造とすることの利点が薄れ、摩擦係数の低下が抑えられない。また、この観点から、傾斜部10cの弾性体層14を有する部分に占める割合は、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下である。傾斜部10cの弾性体層14を有する部分に占める割合は、弾性体層14全体の長さから第1外径部10aと第2外径部10bの長さを差し引いた残りの長さで表される。
【0026】
第1外径部10aと第2外径部10bの外径差は、50μm以上1000μm以下であるとよい。上記外径差が小さすぎると、紙送りロール10を段付き構造とすることの利点が薄れ、摩擦係数の低下が抑えられない。また、この観点から、上記外径差は、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは150μm以上である。一方で、上記外径差が大きすぎると、その分、弾性体層14の表面粗さを大きくする必要があり、表面凹凸を形成するための凸部14aの大きさを大きくするにはその幅も大きくする必要があり、表面凹凸の効果が低下して摩擦係数の低下が抑えられない。また、この観点から、上記外径差は、より好ましくは700μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。
【0027】
第1外径部10aにおける表面粗さRzは、第1外径部10aと第2外径部10bの段差の50%以上200%以下であるとよい。上記段差に対し上記表面粗さRzが小さすぎると、第2外径部10bの表面凹凸が摩耗した後で、第1外径部10aの弾性体層14において用紙に接触することができず、第2外径部10bから第1外径部10aの切り替わり時において摩擦係数の低下が抑えられない。また、この観点から、上記表面粗さRzは、上記段差に対し、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上である。一方で、上記段差に対し上記表面粗さRzが大きすぎると、第2外径部10bから第1外径部10aの切り替わりが早くなるため、摩擦係数の低下が早くなり、長期にわたって用紙の搬送不良を抑えることができない。また、この観点から、上記表面粗さRzは、上記段差に対し、より好ましくは170%以下、さらに好ましくは150%以下である。
【0028】
第1外径部10a、第2外径部10bおよび傾斜部10cにおける表面粗さRzは、25μm以上500μm以下であるとよい。上記表面粗さRzが25μm以上であると、第1外径部10a、第2外径部10bおよび傾斜部10cの各部において十分な摩擦係数が維持される。また、この観点から、上記表面粗さRzは、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上である。そして、上記表面粗さRzが500μm以下であると、適度な表面粗さであり、第1外径部10aと第2外径部10bの外径差を適度な範囲に収めやすい。また、この観点から、上記表面粗さRzは、より好ましくは400μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。表面粗さRzは、十点平均粗さであり、JIS B0601(1994)に準拠して、任意の5か所で測定された値の平均値である。十点平均粗さRzは、レーザー顕微鏡(例えばキーエンス製「VK-9510」など)を用いて観察することにより測定することができる。
【0029】
次に、本発明に係る紙送りロールの材料構成について説明する。
【0030】
軸体12は、金属製または樹脂製の中実体で構成されている。金属材料としては、ステンレス、アルミニウム、鉄にメッキを施したものなどが挙げられる。樹脂材料としては、ポリアセタール(POM)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート、ナイロン等の合成樹脂などが挙げられる。なお、必要に応じて、軸体12上に接着剤、プライマー等を塗布してもよく、また上記接着剤、プライマー等は必要に応じて導電化してもよい。
【0031】
弾性体層14は、ゴム、エラストマー、樹脂などの弾性材料で構成されている。ゴム状の弾性材料であればその材料は特に限定されるものではない。例えば、ウレタンゴム、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、EPDMなどの公知の材料を用いることができる。
【0032】
弾性体層14は、非導電性、導電性、半導電性のいずれであってもよい。弾性体層14は、非導電性が特に好ましい。非導電性としての弾性体層14の体積抵抗率は、1012~1014Ω・cmの範囲である。
【0033】
弾性体層14は、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。添加剤としては、滑剤、加硫促進剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤などを挙げることができる。
【0034】
弾性体層14の厚さは、特に限定されるものではなく、0.1~10mmの範囲内などで適宜設定すればよい。弾性体層14の厚さは、表面凹凸を形成する凸部14aを含む厚さである。
【0035】
弾性体層14は、成形金型による成形などによって形成することができる。例えば、芯材をロール成形金型の中空部に同軸的に設置し、未架橋のゴム組成物などを注入して、加熱・硬化(架橋)させた後、脱型するなどにより、チューブ状の弾性体層14を形成することができる。成形金型は、その内周面に凸部14aに対応する形状の凹部が形成されたものを用いることができる。弾性体層14の凸部14aは、例えば、成形金型による型転写によって形成することができる。
【0036】
成形金型の内周面の凹部は、放電加工、エッチング、ショットブラスト、研磨、共析めっき、これらの組み合わせなどの各種凹部形成方法によって形成することができる。共析めっきでは、均一な樹脂粒子をめっき液中に含ませ、めっき金属とともに樹脂粒子を成形金型の内周面に析出させ、めっき表面に現れる樹脂粒子を除去することにより、成形金型の内周面に凹部を形成することができる。
【0037】
紙送りロール10は、筒状に形成された弾性体層14に軸体12を挿入して形成することができる。
【0038】
以上の構成の紙送りロール10によれば、第1外径部10aと第2外径部10bの段差があるため、通紙の枚数が多くなって第2外径部10bの表面凹凸が摩耗しても、第1外径部10aの表面凹凸により摩擦係数は維持される。このとき、第2外径部10bから第1外径部10aに、用紙と接触する主要部が切り替わるが、第1外径部10aと第2外径部10bとの間をつなぐ傾斜部10cにより、第2外径部10bから第1外径部10aの切り替わり途中においても、摩擦係数の低下が抑えられる。以上により、長期にわたって用紙の搬送不良を抑えることができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【0040】
例えば、上記実施形態では、軸体12は外径の大きさが異なる部分を有する段付き形状として示されているが、軸体は外径の大きさが均一の円柱状(段なし形状)であってもよい。
【0041】
図3には、他の実施形態に係る紙送りロールを示す。
図3に示す紙送りロール30は、軸体32と、軸体32の外周面上に形成された弾性体層34と、を備える。軸体32は軸方向全体に外径の大きさが均一の円柱状(段なし形状)である。弾性体層34は、内側弾性体層341と外側弾性体層342の2層構成となっている。内側弾性体層341は、軸方向の長さが相対的に短くなっており、外側弾性体層342は、軸方向の長さが内側弾性体層341よりも長くなっている。
【0042】
内側弾性体層341および外側弾性体層342は、それぞれ円筒状(チューブ状)で周方向につなぎ目のないシームレス構造である。内側弾性体層341および外側弾性体層342は、それぞれ、ゴム、エラストマー、樹脂などの弾性材料で構成されている。内側弾性体層341は、軸体32の軸方向の中央位置において、軸体32の外周に被せて配置されている。外側弾性体層342は、内側弾性体層341を覆うように、軸体32と内側弾性体層341の外周に被せて配置されている。軸体32の外周に被せる前の内側弾性体層341および外側弾性体層342は、それぞれ、円筒状であり、内径および外径がそれぞれ軸方向全体に均一であり、厚さが均一である。内側弾性体層341の外周面には、表面凹凸(表面粗さ)を形成する複数の凸部が形成されていない。外側弾性体層342の外周面には、表面凹凸(表面粗さ)を形成する複数の凸部34aが形成されている。複数の凸部34aは、外側弾性体層342の外周面において、周方向および軸方向にそれぞれ均一に分布している。複数の凸部34aは、弾性体層34の外周面に直交する方向に延びる円柱で構成されている。
【0043】
軸体32と内側弾性体層341の外周を覆う外側弾性体層342は、軸体32に内側弾性体層341が被せられたものの外形に起因して、両端部の外径は一段小さい小径となり、中央部の外径は一段大きい大径となっている。
【0044】
紙送りロール30は、軸体32と内側弾性体層341の外周を円筒状の外側弾性体層342が覆うことで構成されていることから、これらの外形に起因して、外側弾性体層342を有する部分に、外径が一段小さい第1外径部30aと、第1外径部30aよりも外径が大きい第2外径部30bと、を有するものとなっている。また、これらの外形に起因して、第1外径部30aと第2外径部30bとの間には、軸方向に沿った方向に外径が変わるように第1外径部30aと第2外径部30bとの間をつなぐ傾斜部30cを有するものとなっている。第1外径部30aは、外側弾性体層342を有する部分の両端部にあり、外径が一段小さい部分である。第2外径部30bは、外側弾性体層342を有する部分の中央部分にあり、外径が一段大きい部分である。
【0045】
図4には、他の実施形態に係る紙送りロールを示す。
図4に示す紙送りロール40は、軸体42と、軸体42の外周面上に形成された弾性体層44と、を備える。軸体42は軸方向全体に外径の大きさが均一の円柱状(段なし形状)である。
【0046】
弾性体層44は、円筒状(チューブ状)で周方向につなぎ目のないシームレス構造である。弾性体層44は、ゴム、エラストマー、樹脂などの弾性材料で構成されている。弾性体層44は、軸体42の外周に被せて配置されている。軸体42の外周に被せる前の弾性体層44は、円筒状であるが、軸方向の中央部分に肉厚の部分を有する段付き形状である。弾性体層44の内径は、軸方向全体に均一である。弾性体層44の外径は、軸方向の両端部が一段小さく、軸方向の中央部が一段大きくなっている。弾性体層44の軸方向の両端部は、肉厚が一段薄い薄肉部44aとなっており、弾性体層44の軸方向の中央部は、肉厚が一段厚い厚肉部44bとなっている。また、弾性体層44の薄肉部44aと厚肉部44bの間は、軸方向に沿った方向に肉厚が変わる肉厚傾斜部44cとなっている。弾性体層44の外周面には、表面凹凸(表面粗さ)を形成する複数の凸部44dが形成されている。複数の凸部44dは、弾性体層44の外周面において、周方向および軸方向にそれぞれ均一に分布している。複数の凸部44dは、弾性体層44の外周面に直交する方向に延びる円柱で構成されている。
【0047】
紙送りロール40は、軸体42の外周を弾性体層44が覆うことで構成されていることから、弾性体層44の外形に起因して、弾性体層44を有する部分に、外径が一段小さい第1外径部40aと、第1外径部40aよりも外径が大きい第2外径部40bと、を有するものとなっている。また、第1外径部40aと第2外径部40bとの間には、軸方向に沿った方向に外径が変わるように第1外径部40aと第2外径部40bとの間をつなぐ傾斜部40cを有するものとなっている。第1外径部40aは、弾性体層44を有する部分の両端部にあり、外径が一段小さい部分である。第2外径部40bは、弾性体層44を有する部分の中央部分にあり、外径が一段大きい部分である。
【0048】
また、上記実施形態では、第2外径部10bは、弾性体層14を有する部分の中央部分を含む部分にあるが、第2外径部は、弾性体層を有する部分の中央部分を含まない部分にあってもよい。また、上記実施形態では、第2外径部10bは、弾性体層14を有する部分の中央部分に連続的で単一の構成よりなる(1か所に存在する)が、第2外径部は、弾性体層を有する部分の2か所以上に存在していてもよい。例えば、軸体が軸方向に軸小径部と軸大径部を交互にそれぞれ複数有することで第2外径部が弾性体層を有する部分の2か所以上に存在していてもよい。また、
図3に示す内側弾性体層が軸方向に複数存在することで第2外径部が弾性体層を有する部分の2か所以上に存在していてもよい。また、
図4に示す厚肉部が軸方向に複数存在することで第2外径部が弾性体層を有する部分の2か所以上に存在していてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、紙送りロール10は、第1外径部10aと第2外径部10bの2段構成の段付きとなっているが、第1外径部よりも外径が小さくかつ第2外径部よりも外径が大きい第3外径部を有する構成であってもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、第1外径部10aおよび第2外径部10bは、軸方向に対称となるように配置されているが、軸方向に非対称となる位置に配置されていてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、表面凹凸を形成する複数の凸部14aは、円柱状となっているが、複数の凸部は、円柱状に限定されず、種々の形状のものであってもよい。凸部の形状としては、半球状、不定形、柱体、錐体、球台、楔形などが挙げられる。柱体としては、円柱体、楕円柱体、角柱体(四角柱体、五角柱体など)、扇形柱体、D形柱体、ギア形柱体などが挙げられる。また、柱体の頭部が斜面状、曲面状に切り取られたような形状の截頭柱体(截頭円柱体、截頭角柱体など)であってもよい。錐体としては、円錐体、楕円錐体、角錐体(四角錐体、五角錐体など)などが挙げられる。また、錐体の頭部が平面状(錐台)、斜面状、曲面状に切り取られたような形状の截頭錐体(截頭円錐体、截頭角錐体など)であってもよい。球台は、球体が二つの平行な平面で切り取られたような形状の立体である。球面が二つの平行な平面に交わるときに、これら二平面に挟まれた球面の部分が球帯であり、球帯とこれらの二平面で囲まれた立体が球台である。球台の二平面のうちの一方の平面は球の中心を通る面であってもよいし、球台の二平面の両方が球の中心を通らない面であってもよい。球台の二平面は、平面に近い面であればよく、例えば球帯よりも曲率半径の大きい曲面であってもよい。また、円柱体、楕円柱体、角柱体、扇形柱体、D形柱体、ギア形柱体、錐台、球台の各上底(上側平面)は、研磨面であってもよい。研磨面は、各上底を研磨することにより形成することができる。
【0052】
また、上記実施形態では、軸体12は、金属製または樹脂製の中実体で構成されているが、軸体12は、金属製または樹脂製の中空体(円筒体)で構成されていてもよい。
【実施例0053】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0054】
(実施例1)
表1に記載の外径および各部長さを有する
図1に示す構造の2段の段付きシャフトを準備し、φ10mm、厚さ5mm、外周面の表面粗さRz150μmの全長30mmのゴムチューブ(ウレタン製)に段付きシャフトを挿入することで、
図1に示すような紙送りロールを作製した。なお、ゴムチューブは、内周面に所定の複数の凹部を有する筒状成形金型を用い、芯材の外周にウレタンゴム組成物の弾性体層を形成することにより作製した。ゴムチューブの外周面には、表面凹凸(表面粗さ)を形成する複数の凸部が形成されている。複数の凸部は、ゴムチューブの外周面において、周方向および軸方向にそれぞれ均一に分布している。複数の凸部は、ゴムチューブの外周面に直交する方向に延びる円柱で構成されている。
【0055】
(実施例2~9、比較例1~2)
段付きシャフトの軸大径部と軸小径部の長さの割合を変えて第1外径部、第2外径部、傾斜部の長さの割合を変更した以外は実施例1と同様にして紙送りロールを作製した。
【0056】
(実施例10~13、比較例3~4)
段付きシャフトの軸大径部と軸小径部の外径を変えて第1外径部と第2外径部の段差を変更し、ゴムチューブ外周面の表面粗さRzを変更した以外は実施例3と同様にして紙送りロールを作製した。
【0057】
(比較例5~6)
ゴムチューブ外周面の表面粗さRzを変更した以外は実施例3と同様にして紙送りロールを作製した。
【0058】
(比較例7)
シャフトを段付きのものから段なしのものに変更した以外は実施例1と同様にして紙送りロールを作製した。
【0059】
作製した紙送りロールの耐久評価を行った。
【0060】
(耐久評価)
紙送りロールをFRR方式の給紙システムを持った市販の複写機に組み込み、紙送り性の評価を行った。用紙には市販のPPC用紙を用い、60万枚(600k枚)通紙を行い、紙詰まりの発生回数を測定した。紙詰まりの発生回数が1回以下のものを「A」、紙詰まりの発生回数が2回以上5回以下のものを「B」、紙詰まりの発生回数が6回以上10回以下のものを「C」、紙詰まりの発生回数が11回以上で耐久試験を中止し、その時の通紙枚数が40万枚(400k枚)以上60万枚(600k枚)未満のものを「D」、40万枚(400k枚)未満のものを「E」とした。
【0061】
【0062】
【0063】
比較例7は、軸体であるシャフトが段なしのものであり、弾性体層を有する部分に外径が一段小さい第1外径部と第1外径部よりも外径が大きい第2外径部とを有しておらず、段差を有していない。このため、摩擦係数の低下が抑えられず、耐久評価がE評価であった。これに対し、実施例1~13は、軸体であるシャフトが段付きのものであり、弾性体層を有する部分に、所定の大きさで、外径が一段小さい第1外径部と第1外径部よりも外径が大きい第2外径部とを有し、第1外径部と第2外径部との間には、軸方向に沿った方向に外径が変わるように第1外径部と第2外径部との間をつなぐ傾斜部を有している。このため、摩擦係数の低下が抑えられ、耐久評価がC、BまたはAであった。
【0064】
比較例1は、傾斜部の割合が小さいため、第2外径部から第1外径部の切り替わり途中において摩擦係数の低下が抑えられず、耐久評価がD評価であった。また、比較例2は、傾斜部の割合が大きいため、相対的に第1外径部と第2外径部の割合が小さくなり、紙送りロールを段付き構造とすることの利点が薄れ、摩擦係数の低下が抑えられず、耐久評価がD評価であった。これに対し、実施例1~9は、傾斜部の割合が適度であり、摩擦係数の低下が抑えられているため、耐久評価がBまたはAであった。
【0065】
比較例3は、第2外径部と第1外径部の外径差が小さく段差が小さいため、紙送りロールを段付き構造とすることの利点が薄れ、摩擦係数の低下が抑えられず、耐久評価がD評価であった。また、比較例3は、表面粗さRzも小さくなるため、この点でも摩擦係数の低下が抑えられず、耐久評価がD評価であった。そして、比較例4は、第2外径部と第1外径部の外径差が大きく段差が大きいため、表面粗さを大きくする必要があり、凸部の幅も大きくなって、表面凹凸の効果が低下して摩擦係数の低下が抑えられず、耐久評価がD評価であった。これに対し、実施例3、10~13は、第2外径部と第1外径部の外径差および段差が適度であり、表面粗さも適度に設定できるため、摩擦係数の低下が抑えられ、耐久評価がC、BまたはAであった。
【0066】
比較例5は、弾性体層の表面粗さRzが小さく、第2外径部と第1外径部の段差に対する表面粗さRzが小さいため、用紙との接触部が第2外径部から第1外径部に移行する際の摩擦係数の低下が抑えられず、紙送りロールを段付き構造とすることの利点が薄れ、耐久評価がD評価であった。そして、比較例6は、弾性体層の表面粗さRzが大きく、凸部の幅も大きくなって、表面凹凸の効果が低下して摩擦係数の低下が抑えられず、紙送りロールを段付き構造とすることの利点が薄れ、耐久評価がD評価であった。これに対し、実施例3、10~13は、第2外径部と第1外径部の外径差および段差が適度であり、表面粗さも適度に設定できるため、摩擦係数の低下が抑えられ、耐久評価がC、BまたはAであった。
【0067】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。