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特開2022-181479鉱物同定システムおよび鉱物同定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181479
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】鉱物同定システムおよび鉱物同定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/21 20060101AFI20221201BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G01N21/21 Z
G01N21/17 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088456
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】小田 航平
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB10
2G059EE01
2G059EE05
2G059FF01
2G059FF03
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM05
2G059MM10
(57)【要約】
【課題】薄片観察によって鉱物を簡易かつ高精度に同定できるようにする。
【解決手段】 薄片21に偏光を照射して薄片21の偏光特性を観察可能な偏光顕微鏡本体2と、偏光顕微鏡本体2で薄片21をオープンニコルで観察した状態を撮影してオープンニコル画像を生成し、薄片21をクロスニコルで観察した状態を撮影してクロスニコル画像を生成するスマートフォン3と、オープンニコル画像とクロスニコル画像とに基づいて薄片21中の鉱物の種類を同定する鉱物同定サーバー4と、を備え、鉱物同定サーバー4は、オープンニコル画像とクロスニコル画像とが入力されると薄片21中の鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された鉱物同定用学習モデルを用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄片に偏光を照射して前記薄片の偏光特性を観察可能な偏光顕微鏡本体と、
前記偏光顕微鏡本体で前記薄片をオープンニコルで観察した状態を撮影してオープンニコル画像を生成し、前記薄片をクロスニコルで観察した状態を撮影してクロスニコル画像を生成する撮影部と、
前記オープンニコル画像と前記クロスニコル画像とに基づいて前記薄片中の鉱物の種類を同定する鉱物同定部と、
を備え、前記鉱物同定部は、前記オープンニコル画像と前記クロスニコル画像とが入力されると前記薄片中の鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された鉱物同定用学習モデルを用いる、
ことを特徴とする鉱物同定システム。
【請求項2】
前記鉱物同定部は、前記薄片用の試料が採掘された場所にも基づいて前記鉱物の種類を同定し、
前記鉱物同定用学習モデルは、前記薄片用の試料が採掘された場所も入力されると前記鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉱物同定システム。
【請求項3】
前記鉱物同定部は、前記薄片用の試料が採掘された深さにも基づいて前記鉱物の種類を同定し、
前記鉱物同定用学習モデルは、前記薄片用の試料が採掘された深さも入力されると前記鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習されている、
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の鉱物同定システム。
【請求項4】
コンピュータを、
薄片に偏光を照射して前記薄片の偏光特性を観察可能な偏光顕微鏡本体で、前記薄片をオープンニコルで観察した状態を撮影したオープンニコル画像と、前記薄片をクロスニコルで観察した状態を撮影したクロスニコル画像とに基づいて、前記薄片中の鉱物の種類を同定する鉱物同定手段として機能させ、
前記鉱物同定手段は、前記オープンニコル画像と前記クロスニコル画像とが入力されると前記薄片中の鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された鉱物同定用学習モデルを用いる、
ことを特徴とする鉱物同定プログラム。
【請求項5】
前記鉱物同定手段は、前記薄片用の試料が採掘された場所にも基づいて前記鉱物の種類を同定し、
前記鉱物同定用学習モデルは、前記薄片用の試料が採掘された場所も入力されると前記鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の鉱物同定プログラム。
【請求項6】
前記鉱物同定手段は、前記薄片用の試料が採掘された深さにも基づいて前記鉱物の種類を同定し、
前記鉱物同定用学習モデルは、前記薄片用の試料が採掘された深さも入力されると前記鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習されている、
ことを特徴とする請求項4または5のいずれか1項に記載の鉱物同定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片観察によって鉱物を同定・特定する鉱物同定システムおよび鉱物同定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地質・地質構造を調査する場合、ボーリング調査で採取した供試体に含まれる鉱物を同定・特定することがある。その際、偏光顕微鏡を用いて薄片観察を行う場合がある。すなわち、供試体の薄片を偏光下に配置し、それぞれの鉱物の光学的性質の違いから薄片中の鉱物の種類を同定していた。
【0003】
一方、目的の鉱物をほぼ完全に取り出すことができる、という鉱物分析方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この方法は、鉱物が含まれる試料を反射顕微鏡に接続したカラーテレビカメラで撮影し、赤、緑、青の色ごとに輪郭保存平滑化処理し、処理後の画像を合成してカラー画像を得て、その画像からの色相、輝度、純度のデータによって特定の鉱物を同定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-331621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、薄片観察において光学的性質の違いを識別するには、専門的な知識と経験を要し、専門家以外には識別が困難であるばかりでなく、専門家によって解釈・判定が異なる場合もあった。つまり、薄片観察によって鉱物を同定するのは、誰もが簡易に行えるものではなく、しかも、同定精度にバラツキが生じるおそれがあった。
【0006】
一方、特許文献1に記載の鉱物分析方法では、反射顕微鏡による画像の色相、輝度、純度に基づいて特定の鉱物を同定するものであり、薄片観察による鉱物の同定に比べて精度が劣るばかりでなく、予め設定された特定・目的の鉱物しか同定することができない。
【0007】
そこで本発明は、薄片観察によって鉱物を簡易かつ高精度に同定・特定可能な鉱物同定システムおよび鉱物同定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、薄片に偏光を照射して前記薄片の偏光特性を観察可能な偏光顕微鏡本体と、前記偏光顕微鏡本体で前記薄片をオープンニコルで観察した状態を撮影してオープンニコル画像を生成し、前記薄片をクロスニコルで観察した状態を撮影してクロスニコル画像を生成する撮影部と、前記オープンニコル画像と前記クロスニコル画像とに基づいて前記薄片中の鉱物の種類を同定する鉱物同定部と、を備え、前記鉱物同定部は、前記オープンニコル画像と前記クロスニコル画像とが入力されると前記薄片中の鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された鉱物同定用学習モデルを用いる、ことを特徴とする鉱物同定システムである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の鉱物同定システムにおいて、前記鉱物同定部は、前記薄片用の試料が採掘された場所にも基づいて前記鉱物の種類を同定し、前記鉱物同定用学習モデルは、前記薄片用の試料が採掘された場所も入力されると前記鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習されている、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の鉱物同定システムにおいて、前記鉱物同定部は、前記薄片用の試料が採掘された深さにも基づいて前記鉱物の種類を同定し、前記鉱物同定用学習モデルは、前記薄片用の試料が採掘された深さも入力されると前記鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習されている、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、コンピュータを、薄片に偏光を照射して前記薄片の偏光特性を観察可能な偏光顕微鏡本体で、前記薄片をオープンニコルで観察した状態を撮影したオープンニコル画像と、前記薄片をクロスニコルで観察した状態を撮影したクロスニコル画像とに基づいて、前記薄片中の鉱物の種類を同定する鉱物同定手段として機能させ、前記鉱物同定手段は、前記オープンニコル画像と前記クロスニコル画像とが入力されると前記薄片中の鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された鉱物同定用学習モデルを用いる、ことを特徴とする鉱物同定プログラムである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4に記載の鉱物同定プログラムにおいて、前記鉱物同定手段は、前記薄片用の試料が採掘された場所にも基づいて前記鉱物の種類を同定し、前記鉱物同定用学習モデルは、前記薄片用の試料が採掘された場所も入力されると前記鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習されている、ことを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明は、請求項4または5に記載の鉱物同定プログラムにおいて、前記鉱物同定手段は、前記薄片用の試料が採掘された深さにも基づいて前記鉱物の種類を同定し、前記鉱物同定用学習モデルは、前記薄片用の試料が採掘された深さも入力されると前記鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1および請求項4に記載の発明によれば、偏光顕微鏡本体で薄片を観察したオープンニコル画像とクロスニコル画像とに基づいて、薄片中の鉱物の種類が自動的に同定される。このため、専門的な知識や経験を有していなくても誰でも、精度にバラツキなく、薄片観察によって鉱物を同定することが可能となる。また、偏光顕微鏡本体で薄片を観察した状態を撮影するだけでよいため、簡易かつ迅速に鉱物を同定することが可能となる。しかも、機械学習された鉱物同定用学習モデルを用いて、オープンニコル画像とクロスニコル画像とに基づいて鉱物の種類が同定されるため、精度高く適正に鉱物の種類を同定することが可能となる。
【0015】
請求項2および請求項5に記載の発明によれば、オープンニコル画像とクロスニコル画像の他に、薄片用の試料が採掘された場所にも基づいて鉱物の種類が同定されるため、精度高く適正に鉱物の種類を同定することが可能となる。すなわち、薄片用の試料が採掘された場所によっても偏光特性が変わる場合があるため、薄片用の試料が採掘された場所も考慮することで、精度高く適正に鉱物の種類を同定することが可能となる。
【0016】
請求項3および請求項6に記載の発明によれば、オープンニコル画像とクロスニコル画像の他に、薄片用の試料が採掘された深さにも基づいて鉱物の種類が同定されるため、精度高く適正に鉱物の種類を同定することが可能となる。すなわち、薄片用の試料が採掘された深さによっても偏光特性が変わる場合があるため、薄片用の試料が採掘された深さも考慮することで、精度高く適正に鉱物の種類を同定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の実施の形態に係る鉱物同定システムを示す概略構成図である。
図2図1の鉱物同定システムのスマートフォンで撮影された第1のオープンニコル画像(a)と第1のクロスニコル画像(b)を示す図である。
図3図1の鉱物同定システムのスマートフォンで撮影された第2のオープンニコル画像(a)と第2のクロスニコル画像(b)を示す図である。
図4図1の鉱物同定システムの鉱物同定サーバーの概略構成ブロック図である。
図5図4の鉱物同定サーバーの鉱物同定用学習モデルの概略構成を示す機能ブロック図である。
図6図1の鉱物同定システムで同定された鉱物の種類が示された第1のオープンニコル画像(a)と第1のクロスニコル画像(b)を示す図である。
図7図1の鉱物同定システムで同定された鉱物の種類が示された第2のオープンニコル画像(a)と第2のクロスニコル画像(b)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0019】
図1は、この発明の実施の形態に係る鉱物同定システム1を示す概略構成図である。この鉱物同定システム1は、薄片観察によって鉱物を同定・特定するシステムであり、この実施の形態では、偏光顕微鏡本体2と、スマートフォン(撮影部)3と、鉱物同定サーバー(鉱物同定部)4と、を備える。ここで、ボーリング調査などで採取した供試体を薄い片状に加工した薄片21を観察対象とする。
【0020】
偏光顕微鏡本体2は、薄片21に偏光を照射して薄片21の偏光特性・光学的性質や複屈折特性を観察可能な顕微鏡であり、既製・市販の偏光顕微鏡と同等の構成となっている。すなわち、鏡柱22の下部に薄片21を配置するためのステージ23が設けられ、鏡柱22の上部に複数の対物レンズ24が配置位置変更自在に設けられている。
【0021】
また、ステージ23の下方に配置された光源25の直上に偏光子(下ニコル)26が設けられ、対物レンズ24の上方に検光子(上ニコル)27が設けられている。そして、光路に偏光子26のみを差し込んだ状態で観察を行う場合をオープンニコル(単ニコル)と呼び、光路に偏光子26と検光子27を差し込んだ状態で観察を行う場合をクロスニコル(直交ニコル)と呼ぶ。また、検光子27の上方には、直筒状の接眼レンズ28が設けられている。
【0022】
スマートフォン3は、タッチパネル(表示機能、入力機能)、通信機能、撮影機能・カメラなどを備えた多機能携帯電話であり、偏光顕微鏡本体2で薄片21をオープンニコルで観察した状態を撮影してオープンニコル画像を生成し、薄片21をクロスニコルで観察した状態を撮影してクロスニコル画像を生成する。すなわち、スマートフォン3を撮影モードにしてカメラを偏光顕微鏡本体2の接眼レンズ28の上に配置する。この際、アダプターなどでスマートフォン3を偏光顕微鏡本体2に仮固定してもよい。そして、薄片21をオープンニコルで観察した状態でカメラをオンすると、オープンニコル画像を撮影、生成し、薄片21をクロスニコルで観察した状態でカメラをオンすると、クロスニコル画像を撮影、生成する。例えば、第1の薄片21に対しては、図2に示すようなオープンニコル画像(a)とクロスニコル画像(b)を生成し、第2の薄片21に対しては、図3に示すようなオープンニコル画像(a)とクロスニコル画像(b)を生成する。
【0023】
また、スマートフォン3には、鉱物同定アプリケーションソフト(以下、「鉱物同定アプリ」という)がインストールされ、この鉱物同定アプリを起動させることで鉱物同定サーバー4から鉱物同定サービスを受けられるようになっている。すなわち、鉱物同定アプリ上でオープンニコル画像とクロスニコル画像を含む鉱物同定要求を鉱物同定サーバー4に送信すると、後述するようにして同定された同定結果を鉱物同定サーバー4から受信できるようになっている。この際、必要に応じて薄片21用の試料が採掘された場所および深さを鉱物同定要求に含められるようになっている。このように、鉱物同定アプリをインストールするだけで、どのスマートフォン3からも、つまり誰でも鉱物同定サービスを受けられるようになっている。
【0024】
鉱物同定サーバー4は、薄片21中の鉱物の種類を同定する鉱物同定サービスを提供するためのサーバーであり、図4に示すように、主として、通信部41と、鉱物同定タスク(鉱物同定部)42と、学習タスク43と、鉱物同定用学習モデル44と、鉱物同定用実績データベース45と、これらを制御などする中央処理部46と、を備える。
【0025】
通信部41は、スマートフォン3などの外部と通信するためのインターフェースである。
【0026】
鉱物同定タスク42は、スマートフォン3から受信した鉱物同定要求に基づいて、薄片21中の鉱物の種類を同定するタスク・プログラムである。すなわち、鉱物同定要求中のオープンニコル画像とクロスニコル画像と、さらに、鉱物同定要求に含まれる場合には、薄片21つまり供試体が採掘された場所および深さに基づいて、薄片21中の鉱物の種類を同定する。以下、薄片21用の試料が採掘された場所および深さが、鉱物同定要求に含まれる場合について説明する。
【0027】
具体的には、鉱物名や採掘場所および深さが既知であるオープンニコル画像とクロスニコル画像が、実績データとして予め記憶されている。そして、鉱物同定要求の採掘場所および深さを考慮しつつ、鉱物同定要求のオープンニコル画像とクロスニコル画像を画像解析して実績データと比較することで、薄片21中(オープンニコル画像中およびクロスニコル画像中)の鉱物の種類を同定する。例えば、鉱物同定要求のオープンニコル画像とクロスニコル画像のRGB値と、実績データのオープンニコル画像とクロスニコル画像のRGB値とを比較して同定する。
【0028】
このような鉱物同定タスク42は、オープンニコル画像とクロスニコル画像、薄片21用の試料の採掘場所および深さが入力されると、薄片21中の鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された鉱物同定用学習モデル44を用いる。この鉱物同定用学習モデル44は、学習タスク43によって作成される。
【0029】
すなわち、学習タスク43は、鉱物同定用実績データベース45に記録・蓄積されている過去の実績データを用いて、ニューラルネットワーク等の公知の機械学習アルゴリズムにより鉱物同定用学習モデル44を作成する。この鉱物同定用実績データベース45は、入力情報として、過去に観察した薄片21のオープンニコル画像、クロスニコル画像、試料の採掘場所および深さと、この薄片21を専門家等が実際に薄片観察して同定・確定した鉱物の種類・名称を含む実績データが記録・蓄積されているデータベースである。なお、過去の実績データには、実際のオープンニコル画像やクロスニコル画像等と実際に同定・確定した鉱物の種類に基づいて作成されたデータの他、事前訓練などで作成されたデータなどが含まれる。
【0030】
この学習タスク43は、図5に示すように、ニューラルネットワークを利用した機械学習・深層学習を用い、鉱物同定用実績データベース45に記録されている実績データに基づいて、例えば、薄片21のオープンニコル画像、クロスニコル画像、試料の採掘場所および採掘深さを入力層、鉱物の種類・名称を出力層、入力層から出力層への画像解析処理を中間層とするニューラルネットワークを作成する。そして、学習タスク43は、鉱物同定用学習モデル44の実績データを学習データとして用いて、中間層における各種パラメータについて学習を行う。すなわち、学習タスク43は、オープンニコル画像、クロスニコル画像、試料の採掘場所および採掘深さから漏れなくかつ精度よく鉱物の種類が抽出・同定されるように、中間層における各種パラメータの学習を行う。
【0031】
このような鉱物同定タスク42によって、例えば、図6図7に示すような同定結果が出力される。すなわち、上記の図2(a)のオープンニコル画像と図2(b)のクロスニコル画像に対して、同定した鉱物の名称・記号を記した図6(a)のオープンニコル画像と図6(b)のクロスニコル画像を同定結果として出力する。同様に、上記の図3(a)のオープンニコル画像と図3(b)のクロスニコル画像に対して、同定した鉱物の名称・記号を記した図7(a)のオープンニコル画像と図7(b)のクロスニコル画像を同定結果として出力する。
【0032】
ここで、図6中の鉱物の記号「sap」は、サポナイトを示し、玄武岩質火砕岩の岩片の間隙にサポナイトが充填されていることが同定される。また、図7中の鉱物の記号「glc」は、海緑石を示し、砂岩中にペレット状の粒子としての海緑石が産出されていることが同定される。このように、オープンニコル画像中およびクロスニコル画像中において鉱物が存在する場合に、その鉱物の存在エリアに対して鉱物の名称・記号を明記した同定結果を出力する。これにより、どこにどのような形状・大きさのどのような鉱物が存在するかが、容易に目視確認できるものである。
【0033】
そして、このような同定結果が鉱物同定要求を送信したスマートフォン3に送信されることで、同定結果がスマートフォン3のタッチパネルに表示されたりするものである。ここで、同定結果をスマートフォン3のみに送信してもよいし、スマートフォン3と他の機器(例えば、鉱物を調査、管理するセンターのコンピュータ)に送信したり、他の機器のみに送信したりしてもよい。つまり、予め登録された所定の送信先に送信される。
【0034】
次に、このような構成の鉱物同定システム1の動作および鉱物同定システム1による鉱物同定方法について説明する。
【0035】
まず、同定・判定対象の薄片21を偏光顕微鏡本体2のステージ23に配置し、鉱物同定アプリを起動させたスマートフォン3を偏光顕微鏡本体2の接眼レンズ28の上に配置する。次に、偏光顕微鏡本体2をオープンニコルにして薄片21をスマートフォン3で撮影し、同様に、偏光顕微鏡本体2をクロスニコルにして薄片21をスマートフォン3で撮影する。続いて、図2図3に示すようなオープンニコル画像とクロスニコル画像を含む鉱物同定要求を鉱物同定サーバー4に送信する。この際、薄片21用の試料が採掘された場所および深さがわかっている場合には、スマートフォン3でその場所と深さを入力して鉱物同定要求に含め、鉱物同定サーバー4に送信する。
【0036】
この鉱物同定要求を受信して鉱物同定サーバー4で鉱物同定タスク42が起動され、上記のようにして、薄片21中(オープンニコル画像中およびクロスニコル画像中)の鉱物の種類が同定される。そして、図6図7に示すように、オープンニコル画像中およびクロスニコル画像中に同定した鉱物の名称・記号を記した同定結果が、スマートフォン3などに送信されるものである。
【0037】
以上のように、この鉱物同定システム1および鉱物同定方法によれば、偏光顕微鏡本体2で薄片21を観察したオープンニコル画像とクロスニコル画像とに基づいて、薄片21中の鉱物の種類が自動的に同定される。このため、専門的な知識や経験を有していなくても誰でも、精度にバラツキなく、薄片観察によって鉱物を同定することが可能となる。また、偏光顕微鏡本体2で薄片21を観察した状態をスマートフォン3で撮影するだけでよいため、簡易かつ迅速に鉱物を同定することが可能となる。しかも、機械学習された鉱物同定用学習モデル44を用いて、オープンニコル画像とクロスニコル画像とに基づいて鉱物の種類が同定されるため、精度高く適正に鉱物の種類を同定することが可能となる。
【0038】
また、オープンニコル画像とクロスニコル画像の他に、薄片21用の試料が採掘された場所にも基づいて鉱物の種類が同定されるため、精度高く適正に鉱物の種類を同定することが可能となる。すなわち、薄片21つまり供試体が採掘された場所によっても偏光特性が変わる場合があるため、薄片21用の試料が採掘された場所も考慮することで、精度高く適正に鉱物の種類を同定することが可能となる。
【0039】
さらに、オープンニコル画像とクロスニコル画像の他に、薄片21用の試料が採掘された深さにも基づいて鉱物の種類が同定されるため、精度高く適正に鉱物の種類を同定することが可能となる。すなわち、薄片21つまり供試体が採掘された深さによっても偏光特性が変わる場合があるため、薄片21用の試料が採掘された深さも考慮することで、精度高く適正に鉱物の種類を同定することが可能となる。
【0040】
また、既存の偏光顕微鏡本体2とスマートフォン3を用いて、オープンニコル画像とクロスニコル画像などを鉱物同定サーバー4に送信するだけで同定結果を得ることができる。すなわち、薄片観察を行うところでは、既存の機器を用いるだけであり新たな機器などを要しないため、容易かつ低コストで鉱物同定システム1を構築して、多様な場所から同定結果を取得することが可能となる。
【0041】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、偏光顕微鏡本体2と、撮影部としてのスマートフォン3と、鉱物同定部としての鉱物同定サーバー4とで鉱物同定システム1を構成しているが、偏光顕微鏡本体2に撮影部を一体的に組み込んだり、さらに、偏光顕微鏡本体2に撮影部と鉱物同定部とを一体的に組み込んだりしてもよい。また、撮影部をスマートフォン3以外の多機能携帯端末や、カメラなどで構成してもよい。さらには、オープンニコル画像中およびクロスニコル画像中の鉱物の存在エリアに鉱物の名称・記号を明記した同定結果を出力しているが、鉱物の存在エリアや境界線を容易、明確に識別できる色に着色した同定結果を出力してもよい。また、鉱物同定アプリを介してスマートフォン3と鉱物同定サーバー4とで情報・データの授受を行っているが、鉱物同定アプリなどを介さずにマニュアルで授受してもよいことは勿論である。
【0042】
一方、次のような鉱物同定プログラムを汎用のコンピュータにインストールすることで、上記のような鉱物同定サーバー4つまり鉱物同定部を構成してもよい。すなわち、コンピュータを、薄片に偏光を照射して薄片の偏光特性を観察可能な偏光顕微鏡本体で、薄片をオープンニコルで観察した状態を撮影したオープンニコル画像と、薄片をクロスニコルで観察した状態を撮影したクロスニコル画像と、薄片用の試料が採掘された場所および深さに基づいて、薄片中の鉱物の種類を同定する鉱物同定手段(鉱物同定タスク42)として機能させ、鉱物同定手段は、オープンニコル画像とクロスニコル画像と薄片用の試料が採掘された場所および深さが入力されると、薄片中の鉱物の種類を同定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された鉱物同定用学習モデル44を用いる、ことを特徴とする鉱物同定プログラム。
【符号の説明】
【0043】
1 鉱物同定システム
2 偏光顕微鏡本体
21 薄片
3 スマートフォン(撮影部)
4 鉱物同定サーバー(鉱物同定部)
42 鉱物同定タスク(鉱物同定部)
44 鉱物同定用学習モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7