(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181489
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】医療用シート
(51)【国際特許分類】
A61B 90/20 20160101AFI20221201BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A61B90/20
A61B5/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088476
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】横尾 正浩
(72)【発明者】
【氏名】窪田 健太郎
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB01
4C038VC07
(57)【要約】
【課題】顕微手術時における組織の正確な寸法把握に寄与できる医療用シートを提供する。
【解決手段】医療用シート1は、シート状の本体10と、印刷により本体10上に形成され、等間隔かつ平行に配置された複数の線20とを備える。線20のピッチPは1ミリメートル以下であり、線20の幅は、ピッチPの50%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の本体と、
印刷により前記本体上に形成され、等間隔かつ平行に配置された複数の線と、
を備え、
前記複数の線のピッチが1ミリメートル以下であり、
前記複数の線の幅が、前記ピッチの50%以下である、
医療用シート。
【請求項2】
前記線は、第一線と、前記第一線より幅の広い第二線とを含む、
請求項1に記載の医療用シート。
【請求項3】
前記第一線は、隣り合う前記第二線間に所定の数ずつ配置されている、
請求項2に記載の医療用シート。
【請求項4】
印刷により前記本体上に形成され、前記ピッチおよび前記幅の少なくとも一方を表示する情報部をさらに備える、
請求項1から3のいずれか一項に記載の医療用シート。
【請求項5】
前記情報部は、前記本体上に複数形成されている、
請求項4に記載の医療用シート。
【請求項6】
前記線および前記情報部を被覆するコーティングをさらに備える、
請求項4に記載の医療用シート。
【請求項7】
前記本体の可視光線反射率の少なくとも一つのピークが、波長450nm~570nmの範囲内に存在する、請求項1に記載の医療用シート。
【請求項8】
前記本体の可視光線反射率のピーク値が10%以下である、
請求項1に記載の医療用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用シート、より詳しくは、術場に配置して各種計測等に使用する医療用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
手術用顕微鏡を用いて血管や神経等の微細な組織を剥離、縫合する顕微手術(マイクロサージャリー)が各種臓器を対象として広く行われている。
【0003】
顕微手術では、直径50μmから100μm程度の針と、直径10μmから20μm程度の糸とが用いられる。針及び糸のいずれも微細であり、極めて精密な作業が要求される。
また、組織の縫合においては、縫合される2つの組織の寸法を合わせることが要求される場合があり、組織の寸法を術場で正確に把握することが重要である。
【0004】
医療用途の計測部材として、特許文献1には、医療用の目盛付粘着テープが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の目盛付粘着テープは、治療経過を写真で記録することを目的としており、患部に貼り付けて使用される。すなわち、体内の臓器に対して使用することは考慮されていない。
さらに、顕微手術では、処置対象の組織に目盛付粘着テープを貼り付けることはできないため、特許文献1に記載の目盛付粘着テープを適用できない。
【0007】
また、現在顕微手術にて用いられている医療用シートは、格子ピッチ1mm、線幅100μm以上のものが主流である。手術には高い技術、精度が求められるため、より微細な格子ピッチおよび線幅が求められる場合も増えている。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、顕微手術時における組織の正確な寸法把握に寄与できる医療用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シート状の本体と、印刷により本体上に形成され、等間隔かつ平行に配置された複数の線とを備える医療用シートである。
複数の線のピッチは1ミリメートル以下であり、複数の線の幅は、ピッチの50%以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の医療用シートは、顕微手術時における組織の正確な寸法把握に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る医療用シートの平面図である。
【
図2】実施例に係る医療用シートの模式平面図である。
【
図4】他の実施例に係る医療用シートの模式平面図である。
【
図6】他の実施例に係る医療用シートの模式平面図である。
【
図7】比較例に係る医療用シートの模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、
図1から
図7を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る医療用シート1の平面図である。医療用シート1は、シート状の本体10と、本体10上に形成された複数の線20および情報部30を備えている。
【0013】
本体10は、生体適合性を有する材料で形成されている。生体適合性を有する材料としては、具体的には、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の高分子、これらの高分子の共重合体、またチタン合金やステンレス、コバルト合金等の金属とその酸化物シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、合成ゴム等の熱硬化系エラストマーや、ポリスチレン系(TPS)、ポリオレフィン系(TPO)、ウレタン系(TPU)、ポリエステル系(TPEE)等の熱可塑性エラストマーなどの弾性を有する材料を例示できる。また、上記で示された高分子のバインダーに無機の粉体を含有してもよい。無機の粉体は、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタンとできる。無機の粉体の含有量は、重量比で5%から70%含有できる。また無機の顔料を含有してもよい。
本体10の形態としては、フィルム状、板状のいずれでもよい。さらに、可撓性を有するフレキシブルなものと、実質的に曲がらない剛性のあるもののいずれでもよく、対象とする臓器や手技等を考慮して適宜選択できる。
【0014】
本体10は、不透明であればよく、具体的には透過率が1%以下であればよい。本体10の複数の線20が設けられている面とは反対側の面に接している生体組織が、本体10を通して視認されなければ、顕微手術時における組織を正確に確認することができる。
本体10の色は、生体組織の補色が好ましい。この補色は青,緑みの青、青緑、青みの緑、緑、黄みの緑、黄緑の青から黄緑までの色とできる。この青から黄緑までの色は、マンセル色標でのB、BG,G,GYにあたる。本体10の色彩を青から黄緑までの色とすることで、生体組織が視認しやすくなる。具体的には、本体10のL*ab色空間におけるL*,a,bの範囲は、それぞれ、25以上80以下、-80以上0以下、-50以上50以下が好ましい。
【0015】
本体10においては、可視光線(波長帯域350nm~800nm程度)のうち、570nmから800nmでのスペクトル反射率が20%以下であることが好ましい。上述した金属で本体を形成する等の場合は、塗料の全面印刷等により上記色彩を実現できる。本体10の明度が低いと、生体組織とのコントラストが良好となり好ましい。このような明度を有する本体の可視光線のピーク反射率は、概ね10%以下である。
【0016】
本体10の厚さに特に制限はないが、15μm以上、2mm以下とできる。高弾性材料の場合は0.1mm~1.0mm程度、低弾性の材料の場合は0.02mm~0.2mm程度、金属の場合は0.01mm~0.1mm程度とできる。
【0017】
本実施形態で例示された本体10での平面視形状は、角丸四角形であるが、平面視形状はこれには限られず、三角形、円形等、適宜決定できる。本体10での平面視形状は、角丸の多角形が好ましい。このような形態であれば、組織を傷つけにくく、ピンセットやマニピュレータでつまみやすい。また、多角形は凸包とできる。凸包であれば組織に引っかかりづらい。
【0018】
線20および情報部30は、印刷により本体10上に形成されている。
複数の線20は、同一方向に延びる直線であり、等間隔かつ平行に配置されている。すなわち、医療用シート1において、隣接する2本の線20における幅方向中心間の距離であるピッチ(
図1に示すP)は、一定である。
【0019】
本実施形態では、線20として、第一線20aと、第一線20aより太い(幅が広い)第二線20bとの2種類設けられている。隣接する2本の第二線20b間には、4本の第一線20aが配置されている。したがって、隣接する2本の第二線20bのピッチは、
図1に示されるピッチPの5倍となっている。
【0020】
情報部30は、線20の仕様に関する情報を含む医療用シート1に関する情報を表示する。本実施形態の情報部は、「P 500」「L1 50」「L2 100」の3つの文字列からなる。「P 500」は、ピッチPが500μmであることを示し、「L1 50」は、第一線20aの幅が50μmであることを示し、「L2 100」は、第二線20bの幅が100μmであることを示している。
情報部30は、複数の線における一部の線間に設けられている。情報部の数や配置間隔、並びに情報部が示す情報の内容は、適宜設定できる。医療用シート1は、後述するように術野や術場の大きさ等に応じて、一部を小さく切り出して使用される場合があるため、想定される最小の切り出しサイズに少なくとも一つの情報部が存在する程度に数や配置間隔を設定するのが好ましい。
【0021】
線20および情報部30を形成するためのインキは、顔料と、バインダーとを有する。本実施形態では、線20および情報部30が同一のインキで形成されているが、それぞれ異なるインキで形成されてもよい。
【0022】
顔料としては、有機顔料、無機顔料のいずれも使用できる。
無機顔料としては、チタン、亜鉛、金、銀、銅、鉄等の金属の、酸化物、水酸化物、硫化物、セレン化物、フェロシアン化物、もしくは、それらの金属のクロム酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、燐酸塩が使用できる。さらに上述の金属の単体もしくはそれらの合金等、炭素、パール顔料であるオキシ塩化ビスマス、雲母チタン、魚鱗箔等を例示できる。その中でも、生体適合性を有する、二酸化チタン(チタニア)、酸化亜鉛、タルク、シリカ、マイカ、アルミナ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、金属石鹸、シリコーンが好ましい。
有機顔料としては、ニトロソ系、ニトロ系、アゾ系、レーキ系、フタロシアニン系、縮合多環材料、その他の炭素化合物を例示できる。
【0023】
バインダーとしては樹脂を使用できる。樹脂は、組成物とでき、組成物は、オリゴマー、ポリマーの混合とできる。樹脂は可溶性のものとできる。樹脂は、硬化性樹脂でもよい。硬化性樹脂は、電離放射線硬化樹脂、熱硬化樹脂とできる。電離放射線硬化樹脂は、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂とできる。樹脂の種類は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、チオール樹脂またはこれらの混合とできる。アクリル樹脂としては、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、またはこれらの混合を用いることができる。その他の樹脂としては、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、ポリプロピレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、COC(環状オレフィン・コポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、MS(メタクリル酸スチレン共重合体)、AS(アクリロニトリルスチレン共重合体)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PI(ポリイミド)、フェノール樹脂やメラミン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド等を用いることが可能である。
【0024】
また、上記以外にも、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、POM(ポリオキシメチル)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニルサルフィド)等のエンジニアプラスチックや、スーパーエンジニアプラスチックをバインダーとして用いることも可能である。
【0025】
線20および情報部30を形成するためのインキには、本体10の表面の特性に応じて、水性インキ、非水性インキを使い分けることが好ましい。本体10の表面が親水性である場合は水性インキを用いることが好ましい。本体10の表面が疎水性である場合は非水性インキを用いることが好ましい。
インキの固形分および粘度の調製には、各種溶媒を使用できる。例えば、水性インキでは水(精製水)を使用することができる。非水性インキでは、常温で蒸発しにくい沸点の高い溶剤(脂肪族炭化水素、グリコールエーテル、高級アルコールなど)や、常温で蒸発しやすい沸点の低い溶剤(MEK、エタノール、アセトンなど)を単独または組み合わせて使用できる。
【0026】
線20および情報部30を形成するための印刷方法には特に制限はない。印刷方法として、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビアオフセット印刷、反転オフセット印刷、スクリーンオフセット印刷、タンポ印刷、インクジェット印刷などを例示できる。
これらのうち、グラビアオフセット印刷やスクリーンオフセット印刷は、幅の小さい線を安定して形成できるため、線幅が100μm以下の場合に特に好適である。
【0027】
線20および情報部30を形成するインキは、生体適合性を有する材料で形成されていることが好ましい。生体適合性を有する材料で形成されていないインキで線20および情報部30を形成した後に、透明性を有する生体適合性のコーティングでインキ部分を覆うことにより、医療用シート1の生体適合性を確保することもできる。この場合、コーティングは、線20および情報部30のみを被覆してもよいし、本体10の全面を覆ってもよい。
コーティングの材料としては、本体10、線20および情報部30を形成するインキに使用できる生体適合性を有する材料を使用することができる。好ましくは、シリコーン樹脂等を例示できる。
【0028】
線20および情報部30と、本体10とは、一定以上の明度差があると、コントラストが良好になり、好ましい。例えば、可視光線の平均反射率(%)の差が30ポイント程度あるとコントラストが良好となる。または、線20および情報部30と本体10のコントラストは、色濃度差で、0.1以上、2.0以下とでき、より視認性を上げるためには0.5以上、1.5以下が好ましい。
【0029】
上記の様に構成された医療用シート1の使用時の動作について説明する。
医療用シート1は、そのまま、あるいは適宜の大きさに切って処置が行われる術場に置かれる。処置対象の臓器や組織を医療用シート1上の適宜の位置に置いたり、医療用シート1のわずかに上方に位置させたりすると、線20および情報部30に基づいて、臓器や組織の寸法を把握することができる。この際、同一のピッチで配置された複数の線20は、寸法を示す目盛りとして機能し、第二線20bによりピッチ5つ分の寸法も直感的かつ容易に把握できる。さらに、医療用シート1を初めて使う使用者も、線20の幅やピッチ等の各種パラメータを、情報部30により容易に把握することができる。
【0030】
医療用シート1に設けられた線20は、すべて同一方向に延びているため、本体10上には、周囲を線20で囲まれた領域が存在しない。したがって、線20間に血液等が飛散したり付着したりしても、線20が延びる方向のいずれかに容易に移動させることができる。その結果、このような領域に血液や体液等が溜まって寸法測定の妨げになる等の事態を好適に抑制できる。
【0031】
本実施形態において、ピッチPの値は適宜決定できるが、顕微手術における有用性の観点からは、少なくとも1.0mm以下であることが好ましい。100μm以下の径の針を使用するような術式に使用する等の場合、ピッチは600μm以下であることが好ましい。ロボット等を用いるような、さらに拡大率の高い術式に用いる場合、ピッチを200μm以下にすることもできる。デバイスの進化等に伴い、今後さらに拡大率の高い術式が行われることが十分にありうるが、医療用シート1は、ピッチの値を変更することにより好適に対応できる。
【0032】
線20の幅は、視認性の観点からは、5μm以上が好ましい。また、線幅は、ピッチの50%以下であれば、顕微手術の際に組織の寸法を把握しやすい。ピッチの20%より大きく50%以下であれば、顕微手術中に目盛りとして視認がしやすい。ピッチの10%より大きく20%以下であると、目視で生体組織を正確に計測しやすい。ピッチの10%以下であると、目視での測定において基準位置を正確に決められる。線幅をピッチの50%より大きく、80%以下とすることもできる。この範囲では、血液の付着がひどい場合でも目盛りを視認可能とできる。
ピッチが600μm以下である場合、線幅はピッチの25%以下とすることが好ましい。ピッチ600μm以下のシートは細い針糸が使用される術式に適しているが、線幅ではこれより太くなると、そのような術中において針や糸の位置が把握しにくくなる。
線20の幅は、印刷の精度等を考慮して、設定値の±5%以内に設定される。このような設定により、術中に線20が拡大して観察されても、幅方向両端部の凹凸が目立たず、略直線状に安定する。
【0033】
線20の高さ(本体10上に形成される層の厚さ)は、視認のしやすさから1μm以上10μm以下が好ましい。線20の断面形状は、半円形、半楕円形、三角形、台形、矩形、台形または矩形の上部が凸状の曲面となった形状などが例示できる。断面形状の角にエッジがあると、線20上に表面張力により血液や洗浄液が残留しやすくなるが、断面形状における角部が丸まっていると、複数の線20上に血液や洗浄液が滞留しにくくなるので好ましい。さらに、好ましくは、半円形、半楕円形、三角形、台形であると、線20上に血液や洗浄液等が滞留しにくくなり、医療用シートからも流れやすくなるため、顕微手術中の線20の視認性を保ちやすい。
【0034】
本実施形態の医療用シート1について、実施例を用いてさらに説明する。本発明は、以下の各実施例の具体的内容によって何ら限定されない。
【0035】
(実施例1)
図2に、実施例1の医療用シート1Aを模式的に示す。
医療用シート1Aの本体10として、平面視二等辺三角形のシリコーン製ゴムシートを用いた。二等辺三角形は、底辺10mm、高さ50mmであり、本体10の厚さは0.5mmである。
本体10の可視光線反射率は、500nmにピークを有し、ピークにおける反射率は64%である。
【0036】
本体10上に、白色インキ(バインダー:シリコーン樹脂、顔料:チタニア)を使用したグラビアオフセット印刷により、線20および情報部30を形成した。線20および情報部30の設定は以下の通りとした。
線の延びる方向:本体10の底辺(短辺)と垂直
ピッチP:100μm
第一線20aの幅:10μm
第二線20bの幅:20μm
・情報部の文字列
P 100
L1 10
L2 20
線間領域の幅は、90μmまたは85μmであり、上記文字列を全て納めることが困難であるため、
図3に示すように、線の一部を除去して形成した。情報部は、縦500μmごとおよび横500μmごとの頻度で配置した。
【0037】
実施例1の医療用シート1Aを、双眼顕微鏡を用いて倍率40倍で観察したところ、線20の2種類の線、および情報部30を明瞭に視認できた。
医療用シート1Aにブタの血管を置いて双眼顕微鏡で観察したところ、線20および情報部30に基づいて長さ、直径等の寸法を容易に把握することができた。
【0038】
(実施例2)
図4に、実施例2の医療用シート1Bを模式的に示す。
医療用シート1Bの本体10として、正方形のPETフィルムを用いた。正方形の一辺の長さは25mmであり、本体10の厚さは0.2mmである。
本体10の可視光線反射率は、540nmにピークを有し、ピークにおける反射率は0.7%である。
【0039】
本体10上に、メタリックインキ(顔料 銀粒子)を使用したスクリーンオフセット印刷により、線20および情報部30を形成した。線20および情報部30の設定は以下の通りとした。
線の延びる方向:本体10の一辺(
図4において上下方向に延びる辺)と平行
ピッチP:500μm
第一線20aの幅:50μm
第二線20bの幅:100μm
・情報部の文字列
P 500
L1 50
L2 100
線間領域は、上記文字列を全て印刷できる大きさであるため、線の一部を除去せずに線間領域に情報部30全体を形成した。情報部30は、
図5に示すような態様で、縦500μmごとおよび横500μmごとの頻度で配置した。
【0040】
線20および情報部30の形成後、全面にシリコーン樹脂を塗布、乾燥して線20および情報部30を被覆するコーティングを形成した。
【0041】
実施例2の医療用シート1Bを、双眼顕微鏡を用いて倍率40倍で観察したところ、線20および情報部30を明瞭に視認できた。コーティングによる視認性の低下は認められなかった。
医療用シート1Bにブタの神経を置いて双眼顕微鏡で観察したところ、線20および情報部30に基づいて長さ、直径等の寸法を容易に把握することができた。
【0042】
(実施例3)
図6に、実施例3の医療用シート1Cを模式的に示す。
医療用シート1Cの本体10として、長方形のシリコーン製ゴムシートを用いた。長方形は、長辺15mm、短辺10mmであり、本体10の厚さは0.5mmである。
本体10の可視光線反射率は、500nmにピークを有し、ピークにおける反射率は64%である。
【0043】
本体10上に、白色インキ(バインダー:シリコーン樹脂、顔料:チタニア)を使用したグラビア印刷により、複数の線20および情報部30を形成した。インキには、標準的な乾燥速度の溶剤を用い、固形分は20%とした。複数の線20および情報部30の設定は以下の通りとした。
線の延びる方向:本体10の短辺と垂直
ピッチP:900μm
第一線20aの幅:300μm
第二線20bの幅:450μm
・情報部の文字列
P 900
L1 300
L2 450
線間領域は、上記文字列を全て印刷できる大きさであるため、線の一部を除去せずに線間領域に情報部30全体を形成した。情報部は、縦4500μmごと、および横4500μmごとに配置した。
【0044】
実施例3の医療用シート1Cを、双眼顕微鏡を用いて倍率40倍で観察したところ、本体10に対して複数の線20および情報部30を明瞭に視認できた。
医療用シート1Cにブタの血管を置いて双眼顕微鏡で観察したところ、複数の線20および情報部30に基づいて長さ、直径等の寸法を容易に把握することができた。
【0045】
(比較例)
図7に、比較例の医療用シート1Dを模式的に示す。比較例は、実施例3に対して線及び情報部の態様のみを変更している。線および情報部の具体的態様は以下の通りである。
線の延びる方向:本体10の短辺と垂直
ピッチP:900μm
第一線20aの幅:600μm
第二線 なし(線幅1種類)
情報部 なし
【0046】
比較例の医療用シート1Dを、双眼顕微鏡を用いて倍率40倍で観察したところ、本体10に対して線20を明瞭に視認できた。しかし、ブタの血管を置いて双眼顕微鏡で観察したところ、線幅が大きいために血管径の把握が難しかった。また、線幅が1種類のため血管の長さの把握がしにくかった。さらに、情報部もないため、初めて使用する使用者にとっては寸法の把握が容易でなかった。
【0047】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更が2以上適宜組み合わされてもよい。
【0048】
・上述した各例では、本体の平面視周縁部に線のない領域が存在するが、これは必須ではなく、本体上の全面に線が設けられてもよい。
・本体の周縁に、鉗子等でつまみやすくするための小片が突出して設けられてもよい。
・本体の可視光線反射率は、複数のピークを有してもよい。この場合でも、少なくとも一つのピークが波長450nm~570nmの範囲内に存在すれば、生体組織とのコントラストが良好となり、視認性に優れる。
【0049】
・本発明の医療用シートには、格子を形成しない範囲において、延びる方向の異なる線が設けられてもよい。例えば、同一方向の延びる複数の線の長手方向中間部に、複数の線と直交する1本の線が設けられてもよい。
複数の線を精度の良い目盛りとして機能させるためには、測定したい部位が複数の線と直交するように医療用シート上に対象物を置く必要がある。上述した1本の線を設けることにより、対象物を置く際の目安となり、精度良い計測を行いやすくなる。その一方で、長手方向中間部に設けられた1本の線は、線20と格子を形成しないため、複数の線間に位置する液体等は、長手方向の何れかに容易に移動させることができる。したがって、血液や体液等が溜まって寸法測定の妨げになりにくい。
【0050】
・線や情報部を形成するインキが生体適合性を有するものであっても、コーティングを設けてもよい。医療用シートの使用中においては、乾燥を防ぐために継続して生理食塩液等がかけられるため、コーティングにより、生理食塩液等による線や情報部へのアタックを抑制することができる。
【0051】
・複数の線の線幅は、1種類であっても3種類以上であってもよい。また、医療用シートは、線のピッチが異なる複数の領域を有してもよい。このような態様の変化に応じて、それぞれの領域に対応する内容を表示する情報部が形成されてもよい。
また、第二線が1本だけ設けられてもよい。例えば、左右方向に複数配置された線のうち、左端又は右端の線を第二線とすることにより、第二線を測定のための基準線として使用しやすくなる。さらに、第二線の幅方向中央に細い補助線を異なる色で形成すると、測定対象物の端部を補助線に合わせることでより正確に対象物の寸法を測定しやすくなる。
【0052】
・本発明に係るシートにおいて、情報部は必須ではなく、設けられなくてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1、1A、1B、1C 医療用シート
10 本体
20 線
20a 第一線
20b 第二線
30 情報部
P ピッチ