(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181502
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】トラクタの制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/30 20060101AFI20221201BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20221201BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20221201BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20221201BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20221201BHJP
B60W 20/40 20160101ALI20221201BHJP
B60W 20/12 20160101ALI20221201BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20221201BHJP
F01P 5/04 20060101ALI20221201BHJP
F01P 7/04 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B60W10/30 900
B60K6/445 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/15
B60W20/40
B60W20/12
F02D29/06 D
F01P5/04 A
F01P7/04 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088491
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田中 信行
(72)【発明者】
【氏名】菅生 雄基
【テーマコード(参考)】
3D202
3G093
【Fターム(参考)】
3D202AA00
3D202AA03
3D202BB01
3D202BB11
3D202BB47
3D202CC08
3D202CC44
3D202DD00
3D202DD01
3D202DD09
3D202DD24
3G093AA04
3G093AA07
3G093AA09
3G093BA32
3G093CB01
3G093EC02
(57)【要約】
【課題】駆動源として電動モータを備えるトラクタで実施される規定の制御を圃場や一般道でのニーズに合わせて最適な態様にて実施する。
【解決手段】制御装置100は、駆動源として電動モータを備えるトラクタ10を制御する。この制御装置は、走行場所が圃場及び一般道のどちらであるかを判定する判定処理と、この判定処理の判定結果に応じて規定の制御における制御態様を変更する変更処理と、を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械に連結可能な車体と、駆動源としての電動モータと、前記電動モータに電力を供給するバッテリとを備えるトラクタを制御する制御装置であって、
走行場所が圃場及び一般道のどちらであるかを判定する判定処理と、
前記判定処理の判定結果に応じて規定の制御における制御態様を変更する変更処理と、を実行する
トラクタの制御装置。
【請求項2】
前記変更処理は、前記判定処理にて走行場所が一般道であると判定される場合に、圃場であると判定される場合と比較して前記トラクタの快適性が向上するように前記規定の制御における制御態様を変更する処理である
請求項1に記載のトラクタの制御装置。
【請求項3】
前記トラクタは、前記バッテリを冷却する電動ファンを備えており、
前記規定の制御は、前記電動ファンの駆動制御であり、
前記変更処理は、前記判定処理にて走行場所が一般道であると判定される場合、前記トラクタの車速が低いときには高いときに比べて前記電動ファンの回転速度を低くする回転速度制御を前記駆動制御として実施する一方、圃場であると判定される場合には前記バッテリの冷却性能を優先した制御を前記駆動制御として実施する処理である
請求項2に記載のトラクタの制御装置。
【請求項4】
前記変更処理は、前記判定処理にて走行場所が圃場であると判定される場合に、一般道であると判定される場合と比較して前記トラクタの燃費が向上するように前記規定の制御における制御態様を変更する処理である
請求項1に記載のトラクタの制御装置。
【請求項5】
前記トラクタは、駆動源として前記電動モータ及び内燃機関を備えており、
前記内燃機関のクランクシャフトには発電機が接続されており、
前記発電機から前記バッテリが前記発電機から受け入れ可能な電力量が規定値以下になると、前記内燃機関の要求出力を高めて前記電動モータの消費電力を減らすことにより前記バッテリを回復させるバッテリ回復制御を実行するとともに、
前記規定の制御は、前記内燃機関の機関停止に伴う機関回転速度の低下中に前記発電機の発電量を増大させることにより機関回転速度の低下速度を速める引き下げ制御であり、
前記変更処理は、前記判定処理にて走行場所が圃場であると判定される場合に前記引き下げ制御の実行を禁止する一方、一般道であると判定される場合には前記引き下げ制御の実行を許可する処理である
請求項4に記載のトラクタの制御装置。
【請求項6】
前記変更処理は、前記判定処理にて走行場所が圃場であると判定される場合に、一般道であると判定される場合と比較して前記トラクタの電費が向上するように前記規定の制御における制御態様を変更する処理である
請求項1に記載のトラクタの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源として電動モータを備えるトラクタが知られている(例えば特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そうしたトラクタでは、規定の制御が種々実行される。ここで、トラクタは圃場や一般道といった使用状況が大きく異なる場所で使用されるため、要求されるニーズも走行場所によって異なる。そのため、走行場所に応じたニーズに合わせて規定の制御を最適に行うことが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するトラクタの制御装置は、作業機械に連結可能な車体と、駆動源としての電動モータと、前記電動モータに電力を供給するバッテリとを備えるトラクタを制御する制御装置である。この制御装置は、走行場所が圃場及び一般道のどちらであるかを判定する判定処理と、前記判定処理の判定結果に応じて規定の制御における制御態様を変更する変更処理とを実行する。
【0006】
同構成によれば、トラクタの走行場所に応じて規定の制御における制御態様が変更されるため、その規定の制御を圃場や一般道でのニーズに合わせて最適に実施することができる。
【0007】
また、上記制御装置において、前記変更処理は、前記判定処理にて走行場所が一般道であると判定される場合に、圃場であると判定される場合と比較して前記トラクタの快適性が向上するように前記規定の制御における制御態様を変更する処理でもよい。
【0008】
一般道走行時は圃場走行時と比べて振動や騒音が少ないため、そうした振動や騒音といった快適性に関与するニーズが高い。そこで、同構成では、トラクタの走行場所が一般道であると判定される場合には、圃場であると判定される場合と比較して快適性が向上するように規定の制御における制御態様が変更される。そのため、規定の制御を一般道でのニーズに合わせて最適に実施することができる。
【0009】
また、上記制御装置において、前記トラクタは、前記バッテリを冷却する電動ファンを備えており、前記規定の制御は、前記電動ファンの駆動制御であり、前記変更処理は、前記判定処理にて走行場所が一般道であると判定される場合、前記トラクタの車速が低いときには高いときに比べて前記電動ファンの回転速度を低くする回転速度制御を前記駆動制御として実施する一方、圃場であると判定される場合には前記バッテリの冷却性能を優先した制御を前記駆動制御として実施する処理でもよい。
【0010】
同構成によれば、トラクタの走行場所が一般道であると判定される場合には、電動ファンの回転速度が車速に合わせて変更される。従って、一般道走行時にあって電動ファンの振動や騒音が目立ちやすい低車速では電動ファンの回転速度が低くなり、これにより電動ファンの振動や騒音が少なくなる。そのため、一般道では快適性が向上するようになる。
【0011】
一方、トラクタが圃場を走行しているときには、もともとトラクタ走行中の振動や騒音が大きい。そのため、バッテリの冷却性能を優先した制御を実施することで電動ファンの回転速度が高くなっても、電動ファンの振動や騒音は目立ちにくい。そこで、トラクタの走行場所が圃場であると判定される場合には、バッテリの冷却性能を優先した制御が実施される。従って、圃場ではバッテリの冷却性能を高めることができる。
【0012】
なお、同構成において、バッテリの冷却性能を優先した制御としては、例えばバッテリの温度が高いときには低いときに比べて電動ファンの回転速度を高める制御や、電動ファンの回転速度を許容最高回転速度で保持する制御などが挙げられる。
【0013】
また、上記制御装置において、前記変更処理は、前記判定処理にて走行場所が圃場であると判定される場合に、一般道であると判定される場合と比較して前記トラクタの燃費が向上するように前記規定の制御における制御態様を変更する処理でもよい。
【0014】
トラクタは、圃場での作業による走行時間が一般道の走行時間よりも長くなる傾向があるため、一般道よりも圃場での燃費向上が望まれる。そこで、同構成では、トラクタの走行場所が圃場であると判定される場合には、一般道であると判定される場合と比較して燃費が向上するように規定の制御における制御態様が変更される。そのため、規定の制御を圃場でのニーズに合わせて最適に実施することができる。
【0015】
また、上記制御装置において、前記トラクタは、駆動源として前記電動モータ及び内燃機関を備えており、前記内燃機関のクランクシャフトには発電機が接続されている。そして前記制御装置は、前記バッテリが前記発電機から受け入れ可能な電力量が規定値以下になると、前記内燃機関の要求出力を高めて前記電動モータの消費電力を減らすことにより前記バッテリを回復させるバッテリ回復制御を実行する。そして、前記規定の制御は、前記内燃機関の機関停止に伴う機関回転速度の低下中に前記発電機の発電量を増大させることにより機関回転速度の低下速度を速める引き下げ制御であり、前記変更処理は、前記判定処理にて走行場所が圃場であると判定される場合に前記引き下げ制御の実行を禁止する一方、一般道であると判定される場合には前記引き下げ制御の実行を許可する処理でもよい。
【0016】
上記引き下げ制御が実行されると、機関停止時の内燃機関の振動が車体の共振周波数帯を通過する時間が短くなるため、機関停止時における振動が低減されて快適性が向上する。
【0017】
一方、バッテリは充放電を繰り返すと劣化が進むため、発電機から受け入れ可能な電力量が低下する。こうした劣化は、内燃機関の要求出力を高めて電動モータの消費電力を減らすことでバッテリの使用を控えるようにすれば回復する。そこで、バッテリが発電機から受け入れ可能な電力量が規定値以下になると、内燃機関の要求出力を高める上記バッテリ回復制御が実行される。
【0018】
ここで、上記引き下げ制御を実行すると、機関停止時の発電量が増加するためにバッテリの劣化が進みやすくなって上記バッテリ回復制御の実行頻度は増えるようになる。バッテリ回復制御の実行頻度が増えると、内燃機関の要求出力が高められるため、燃費が悪化しやすくなる。
【0019】
この点、同構成では、トラクタの走行場所が圃場であると判定される場合には、引き下げ制御の実行が禁止される。従って、機関停止時のバッテリ劣化が進みにくくなり、これにより上記バッテリ回復制御の実行頻度の増加が抑えられるため、圃場での燃費が向上するようになる。
【0020】
また、上記制御装置において、前記変更処理は、前記判定処理にて走行場所が圃場であると判定される場合に、一般道であると判定される場合と比較して前記トラクタの電費が向上するように前記規定の制御における制御態様を変更する処理でもよい。
【0021】
上述したように、トラクタは、圃場での作業による走行時間が一般道の走行時間よりも長くなる傾向があるため、一般道よりも圃場での電費向上が望まれる。そこで、同構成では、トラクタの走行場所が圃場であると判定される場合には、一般道であると判定される場合と比較して電費が向上するように規定の制御における制御態様が変更される。そのため、規定の制御を圃場でのニーズに合わせて最適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】同実施形態におけるトラクタの電気的構成及び動力伝達経路を表した図。
【
図3】同実施形態のトラクタの制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャート。
【
図4】同実施形態のトラクタの制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、トラクタ及びその制御装置の一実施形態を、図面を参照して説明する。
<トラクタの全体構成>
図1に示すように、トラクタ10は、車両11、作業機械20、及び支持機構30を備えている。車両11は、操舵輪である前輪12F、走行用の駆動輪である後輪12R、及び車体13を有している。車体13には、支持機構30を介して作業機械20が連結可能である。なお、前輪12Fを駆動輪としたり、前輪12F及び後輪12Rをともに駆動輪としてもよい。
【0024】
作業機械20は、車両11から見て後方に位置している。作業機械20は、例えば耕耘用の複数のブレード21を備えている。作業機械20は、圃場の地面GRにブレード21が触れている状態でブレード21を回転させることにより、圃場を耕耘できる。なお、
図1では、複数のブレード21を簡略化して円柱状に図示している。
【0025】
トラクタ10は、支持機構30を備えている。支持機構30は、車体13と作業機械20とを連結している。支持機構30は、支持軸31を有している。図示は省略するが、支持機構30は、その他に、複数のロッド、油圧回路、制御弁、油圧シリンダなどを備えている。支持機構30においては、制御弁等が開閉されることにより油圧シリンダが動作する。これにより、作業機械20は、支持軸31を中心にして回動する。具体的には、作業機械20は、複数のブレード21を接近方向D1または離間方向D2に支持軸31を中心に回動する。接近方向D1は、ブレード21を地面GRに接近させる方向である。離間方向D2は、ブレード21を地面GRから離間させる方向である。
【0026】
<トラクタの動力伝達経路>
図2に示すように、トラクタ10は、駆動源として内燃機関及び電動モータを備えるハイブリッド式のトラクタである。
【0027】
トラクタ10は、内燃機関200、第1電動モータ41、第2電動モータ42、第3電動モータ43、第4電動モータ44、動力分割機構15、動力伝達機構19、PTO25、及び油圧装置35を備えている。第1電動モータ41、第2電動モータ42、第3電動モータ43、及び第4電動モータ44は、発電電動機である。なお、「PTO」とは、「パワー・テイク・オフ」のことである。
【0028】
内燃機関200のクランクシャフトには、動力分割機構15が機械的に接続されている。動力分割機構15は、内燃機関200、第1電動モータ41、及び第2電動モータ42の動力を分割する機構である。
【0029】
この動力分割機構15は、遊星歯車機構を備えており、遊星歯車機構のキャリアCには内燃機関200のクランクシャフトが機械的に接続されている。遊星歯車機構のサンギアSには第1電動モータ41の回転軸が機械的に接続されている。遊星歯車機構のリングギアRには第2電動モータ42の回転軸と動力伝達機構19の入力軸とが機械的に接続されている。この動力分割機構15を介して、内燃機関200のクランクシャフトは第1電動モータ41に接続されている。
【0030】
第1電動モータ41は、内燃機関200の駆動力を利用して発電する発電機として機能する。また、内燃機関200の始動時にはスタータモータとして機能する。
第2電動モータ42は、トラクタ10を走行させるための駆動源である。第1電動モータ41は、動力伝達機構19を介して後輪12Rに繋がっている。動力伝達機構19は、例えばトルクを増幅して出力する減速機構などを含んでいる。
【0031】
第3電動モータ43は、作業機械20の駆動源である。第3電動モータ43は、PTO25を介して作業機械20のブレード21に繋がっている。PTO25は、第3電動モータ43のトルクをブレード21に伝えるための装置である。PTO25は、例えば減速機構などを含んでいる。
【0032】
第4電動モータ44は、油圧装置35の駆動源である。第4電動モータ44は、油圧装置35を駆動する。油圧装置35は、第4電動モータ44からの駆動力に基づいて油圧を発生する。油圧装置35で発生した油圧は、支持機構30に供給される。支持機構30は、供給された油圧に基づき、作業機械20を接近方向D1及び離間方向D2に回動させる。
【0033】
なお、第2電動モータ42は発電電動機であるため、トラクタ10が減速する際に当該第2電動モータ42は発電機として機能する。その際、トラクタ10には、第2電動モータ42の発電量に応じた回生制動力が発生する。
【0034】
<トラクタの電気的構成>
図2に示すように、トラクタ10は、電源回路99を備えている。電源回路99は、バッテリ77、補機バッテリ78、正極ライン81、負極ライン82、システムメインリレー80を備えている。また、電源回路99は、第1コンバータ85、第2コンバータ86、第1インバータ71、第2インバータ72、第3インバータ73、及び第4インバータ74を備えている。
【0035】
バッテリ77は二次電池である。バッテリ77は、トラクタ10の走行、作業機械20の駆動、及び支持機構30の駆動を担う高電圧のバッテリである。バッテリ77は、第1電動モータ41、第2電動モータ42、第3電動モータ43、及び第4電動モータ44に供給する電力を蓄える。
【0036】
補機バッテリ78は二次電池である。補機バッテリ78は、トラクタ10が備える各種補機の駆動を担う低電圧のバッテリである。そうした補機の1つでありバッテリ77を冷却する電動ファン95が補機バッテリ78には接続されている。
【0037】
バッテリ77の高電位側の端子は、正極ライン81を介して、第1コンバータ85及び第2コンバータ86にそれぞれ接続されている。また、バッテリ77の低電位側の端子は、負極ライン82を介して第1コンバータ85及び第2コンバータ86に接続されている。第1コンバータ85及び第2コンバータ86は、電圧の大きさを変換して出力する。第2コンバータ86は、バッテリ77の電圧を降圧して補機バッテリ78に供給する。
【0038】
システムメインリレー80は、正極リレー83、及び負極リレー84を備えている。正極リレー83は、正極ライン81の途中に位置している。負極リレー84は、負極ライン82の途中に位置している。システムメインリレー80は、バッテリ77及び第1コンバータ85の間の電気的導通と、バッテリ77及び第2コンバータ86の間の電気的導通とをそれぞれオンオフする。
【0039】
第1インバータ71及び第2インバータ72及び第3インバータ73は、第1コンバータ85に対して互いに並列接続されている。第1インバータ71は、第1電動モータ41に接続されている。第1インバータ71は、第1コンバータ85と第1電動モータ41との間で直流交流の電力変換を行う。第2インバータ72は、第2電動モータ42に接続されている。第2インバータ72は、第1コンバータ85と第2電動モータ42との間で直流交流の電力変換を行う。第3インバータ73は、第3電動モータ43に接続されている。第3インバータ73は、第1コンバータ85と第3電動モータ43との間で直流交流の電力変換を行う。
【0040】
第4インバータ74及び第1コンバータ85は、バッテリ77に対して並列接続されている。第4インバータ74は、第4電動モータ44に接続されている。第4インバータ74は、バッテリ77と第4電動モータ44との間で直流交流の電力変換を行う。
【0041】
<制御装置などの構成>
トラクタ10は、制御装置100と、操作部90と、GPS装置50とを備えている。
操作部90は、車体13に取り付けられている。具体的には、操作部90は、トラクタ10の乗員が操作可能な位置で車体13に取り付けられている。
【0042】
操作部90は、圃場スイッチS1を備えている。圃場スイッチS1は、トラクタ10の乗員によりオンオフ切り替えが可能なスイッチである。圃場スイッチS1は、例えば、トラクタ10が圃場内で耕耘作業をしているときにオン状態に切り替えられる。圃場スイッチS1がオン状態になると、圃場スイッチS1は、第1信号SIG1を出力する。
【0043】
GPS装置50はGPS衛星から、トラクタ10の現在の位置情報PIに関する信号を受信する。位置情報PIは、緯度及び経度などを含む情報である。
制御装置100は、内燃機関200の燃料噴射量や点火時期、吸入空気量などを制御する。
【0044】
また、制御装置100は、第1インバータ71、第2インバータ72、第3インバータ73、及び第4インバータ74などを制御とする。制御装置100は、それら各インバータを制御することにより、第1電動モータ41、第2電動モータ42、第3電動モータ43、及び第4電動モータ44の駆動を制御する。
【0045】
また、制御装置100は、システムメインリレー80を制御とする。すなわち、制御装置100は、正極リレー83及び負極リレー84による電気的接続のオンオフを切り替える。なお、正極リレー83及び負極リレー84による電気的接続がオンであれば、バッテリ77は通電状態になる。一方、正極リレー83及び負極リレー84による電気的接続がオフであれば、バッテリ77は非通電状態になる。
【0046】
制御装置100は、中央処理装置(以下、CPUという)110や、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリ120を備えている。そして、メモリ120に記憶されたプログラムをCPU110が実行することにより上記の各制御を実施する。また、メモリ120には、地図上での圃場の範囲を示す圃場マップが記憶されている。
【0047】
制御装置100は、上記制御対象を制御する際、第1回転センサ61が検出する第1電動モータ41の回転子の回転角A1を参照する。また、制御装置100は、第2回転センサ62が検出する第2電動モータ42の回転子の回転角A2を参照する。また、制御装置100は、第3回転センサ63が検出する第3電動モータ43の回転子の回転角A3を参照する。また、制御装置100は、第4回転センサ64が検出する第4電動モータ44の回転子の回転角A4を参照する。また、制御装置100は、バッテリ温度センサ69が検出するバッテリ77の温度TIを参照する。また、制御装置100は、電流電圧センサ65が検出するバッテリ情報BIを参照する。なお、バッテリ情報BIには、バッテリ77の電圧及び電流の情報が含まれる。また、制御装置100は、加速度センサ66が検出する車体13の加速度IAを参照する。また、制御装置100は、アクセルポジションセンサ67が検出するアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量ACCPを参照する。また、制御装置100は、クランク角センサ68が検出する内燃機関200のクランクシャフトの回転角に応じた信号Scrを参照する。また、制御装置100は、GPS装置50を介して位置情報PIに関する信号を受信する。
【0048】
なお、制御装置100は、回転角A1に基づいて第1電動モータ41の回転子の回転速度である第1回転速度Nm1を算出する。同様に、制御装置100は、回転角A2に基づいて第2電動モータ42の回転子の回転速度である第2回転速度Nm2を算出する。同様に、制御装置100は、回転角A3に基づいて第3電動モータ43の回転子の回転速度である第3回転速度Nm3を算出する。同様に、制御装置100は、回転角A4に基づいて第4電動モータ44の回転子の回転速度である第4回転速度Nm4を算出する。また、制御装置100は、バッテリ情報BI及び温度TIに基づいてバッテリ77の現在の充電率SOCを算出する。また、制御装置100は、バッテリ77の劣化度合いに応じて変化する最大充電率SOCmaxをバッテリ情報BI及び温度TIなどに基づいて算出する。また、制御装置100は、クランク角センサ68の信号Scrに基づいて機関回転速度NEを算出する。また、制御装置100は、第2回転速度Nm2に基づいてトラクタ10の車速SPを算出する。
【0049】
<制御装置が実行する各種制御>
制御装置100は、アクセル操作量ACCP等に基づいて要求走行出力を算出する。そして、その要求走行出力のうちで内燃機関200に要求する出力である機関要求出力PEと、第2電動モータ42に要求する出力であるモータ要求出力PMとをそれぞれ算出する。そして、算出された機関要求出力PEやモータ要求出力PMが得られるように内燃機関200や第2電動モータ42の出力制御を実施する。
【0050】
また、制御装置100は、バッテリ回復制御を実行する。このバッテリ回復制御は、以下の制御である。
すなわち、バッテリ77は充放電を繰り返すと劣化が進むため、発電機である第1電動モータ41から受け入れ可能な電力量が低下する。ここで、機関始動時には内燃機関200の回転速度が急速に増加するため、第1電動モータ41の発電量が一時的に急増する。このようにして発電量が一時的に急増する機関始動時において、バッテリ77が受け入れ可能な電力量が不足していると、内燃機関200を始動することができなくなる。
【0051】
そうした受け入れ可能な電力量が低下する原因であるバッテリ77の劣化は、内燃機関200の要求出力を高めることで回復する。すなわち、機関要求出力PEを高めると、相対的にモータ要求出力PMは小さくなるために第2電動モータ42の消費電力は少なくなる。第2電動モータ42の消費電力が少なくなると、バッテリ77の使用が抑えられるようになるため、バッテリ77の劣化が回復するようになる。
【0052】
そこで、制御装置100は、例えば上記最大充電率SOCmaxや現在の充電率SOC等に基づき、バッテリ77が受け入れ可能な電力量を算出する。そして、その算出した受け入れ可能な電力量が予め定めた規定値以下になると、上述した機関要求出力PEを高めるバッテリ回復制御を実行する。この機関要求出力PEを高める際には、それまで機関停止していた内燃機関200の運転を開始したり、上記出力制御にて算出された機関要求出力PEを増大補正するなどの処理が行われる。
【0053】
また、制御装置100は、内燃機関200の停止時において引き下げ制御を実行する。この引き下げ制御は、内燃機関200の機関停止に伴う機関回転速度の低下中に第1電動モータ41の発電量を増大させてクランクシャフトの回転抵抗を増加させることにより、機関回転速度の低下速度を速める制御である。この引き下げ制御が実行されると、機関停止時に発生する内燃機関200の振動が車体13の共振周波数帯を通過する時間が短くなるため、機関停止時に発生する振動が低減されて快適性が向上する。
【0054】
図3に、制御装置100が実行する処理の手順を示す。この
図3に示す処理は、メモリ120に記憶されたプログラムをCPU110が例えば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。また、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0055】
本処理を開始すると、まず、CPU110は、圃場判定処理を実行する(S110)。
この圃場判定処理は、トラクタ10の現在の走行場所が圃場または一般道のどちらであるかを判定する判定処理である。CPU110は、例えば以下の条件(A)~(C)のいずれかが成立する場合にトラクタ10の現在の走行場所は圃場であると判定する。一方、条件(A)~(C)のいずれも成立しない場合には、CPU110は、トラクタ10の現在の走行場所は一般道であると判定する。
【0056】
(A)PTO25が作動中である。
(B)圃場スイッチS1がオン状態である。
(C)GPS装置50から取得した現在の位置情報PIが圃場マップにおける圃場の範囲内の位置になっている。
【0057】
次に、CPU110は、圃場判定処理の判定結果が圃場であったか否か、つまりトラクタ10の現在の走行場所が圃場であるか否かを判定する(S120)。
走行場所が圃場ではないと判定する場合(S120:NO)、つまり圃場判定処理にてトラクタ10の現在の走行場所は一般道であると判定されている場合、CPU110は、電動ファン95を駆動制御するための第1冷却制御を実行する(S130)。この第1冷却制御は、トラクタ10の快適性を向上させるための制御であり、具体的には、車速SPが低いときには、車速SPが高いときに比べて電動ファン95の回転速度NFが低くなるように同回転速度NFを可変制御するものである。なお、本実施形態では、車速SPが低いときほど回転速度NFが低くなるように当該回転速度NFを車速SPに応じて連続的に可変させているが、より簡易的には階段状に回転速度NFを変更してもよい。
【0058】
一方、S120の処理にて、走行場所が圃場であると判定する場合(S120:YES)、CPU110は、電動ファン95を駆動制御するための第2冷却制御を実行する(S140)。この第2冷却制御は、バッテリ77の冷却性能を優先した制御であり、具体的には、バッテリ77の温度TIが高いときには、温度TIが低いときに比べて上記回転速度NFが高くなるように同回転速度NFを可変制御するものである。なお、本実施形態では、温度TIが高いときほど回転速度NFが高くなるように当該回転速度NFを温度TIに応じて連続的に可変させているが、より簡易的には階段状に回転速度NFを変更してもよい。
【0059】
そして、S130またはS140の処理を終えると、CPU110は、今回の本処理を終了する。なお、S120、S130、及びS140の処理は、走行場所が圃場及び一般道のどちらであるかを判定する判定処理の判定結果に応じて規定の制御における制御態様を変更する変更処理に相当する。
【0060】
図4に、制御装置100が実行する別の処理の手順を示す。この
図4に示す処理も、メモリ120に記憶されたプログラムをCPU110が例えば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0061】
本処理を開始すると、CPU110は、上述したS110及びS120の処理を実行する。
そして、走行場所が圃場であると判定する場合(S120:YES)、CPU110は、機関停止時における上記引き下げ制御の実行を禁止することで燃費を優先する処理を実行する(S200)。
【0062】
一方、S120の処理にて、走行場所が圃場ではないと判定する場合(S120:NO)、つまり圃場判定処理にてトラクタ10の現在の走行場所は一般道であると判定されている場合には、CPU110は、機関停止時における上記引き下げ制御の実行を許可することで快適性を優先させる処理を実行する(S210)。
【0063】
そして、S200またはS210の処理を終えると、CPU110は、今回の本処理を終了する。なお、S120、S200、及びS210の処理は、走行場所が圃場及び一般道のどちらであるかを判定する判定処理の判定結果に応じて規定の制御における制御態様を変更する変更処理に相当する。
【0064】
<本実施形態の作用及び効果について>
本実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)トラクタ10の走行場所が圃場または一般道のどちらであるのかに応じて規定の制御における制御態様を変更する変更処理を実行するようにしている。具体的には、トラクタ10の走行場所が圃場または一般道のどちらであるのかに応じて、規定の制御である電動ファン95の駆動制御を変更する変更処理が実行される。また、トラクタ10の走行場所が圃場または一般道のどちらであるのかに応じて、規定の制御である引き下げ制御の実行許可または実行禁止が変更される。そのため、それら規定の制御を圃場や一般道でのニーズに合わせて最適に実施することができる。
【0065】
(2)一般道走行時は圃場走行時と比べて振動や騒音が少ないため、そうした振動や騒音といった快適性に関与するニーズが高い。そこで、
図3に示したように、トラクタ10の走行場所が一般道であると判定される場合には、トラクタ10の快適性が向上するように電動ファン95の駆動制御が変更される。また、
図4に示したように、トラクタ10の走行場所が一般道であると判定される場合には、トラクタ10の快適性が向上するように引き下げ制御の実行が許可される。そのため、電動ファン95の駆動制御や引き下げ制御を一般道でのニーズに合わせて最適に実施することができる。
【0066】
(3)上記変更処理としてより具体的には、トラクタ10の走行場所が一般道であると判定される場合、電動ファン95の回転速度NFを車速SPに合わせて変更する第1冷却制御が実行される。従って、一般道走行時にあって電動ファン95の振動や騒音が目立ちやすい低車速では電動ファン95の回転速度NFが低くなり、これにより電動ファン95の振動や騒音が少なくなる。そのため、一般道では快適性が向上するようになる。
【0067】
一方、トラクタ10が圃場を走行しているときには、もともとトラクタ走行中の振動や騒音が大きい。そのため、バッテリ77の冷却性能を優先した制御が実施されることで電動ファン95の回転速度NFが高くなったとしても、電動ファン95の振動や騒音は目立ちにくい。そこで、トラクタ10の走行場所が圃場であると判定される場合には、バッテリの冷却性能を優先した第2冷却制御が実施される。従って、圃場ではバッテリ77の冷却性能を高めることができる。なお、バッテリ77の冷却性能が高められると、バッテリ77の発熱が抑えられるため、同バッテリ77の出力が高まるようになる。また、バッテリ77の熱劣化が抑えられることにより、同バッテリ77の寿命が長くなる。
【0068】
(4)トラクタ10は、圃場での作業による走行時間が一般道の走行時間よりも長くなる傾向があるため、一般道よりも圃場での燃費向上が望まれる。そこで、
図4に示したように、トラクタ10の走行場所が圃場であると判定される場合には燃費が向上するように引き下げ制御の実行が禁止される。そのため、引き下げ制御を圃場でのニーズに合わせて最適に実施することができる。
【0069】
(5)上述した引き下げ制御を実行すると、機関停止時における第1電動モータ41の発電量が増加するためにバッテリ77の劣化が進みやすくなり、これにより上記バッテリ回復制御の実行頻度は増えるようになる。バッテリ回復制御の実行頻度が増えると、機関要求出力PEが高められる頻度も増えるため、内燃機関200の燃費は悪化しやすくなる。そこで、
図4に示したように、トラクタ10の走行場所が圃場であると判定される場合には、引き下げ制御の実行を禁止するようにしている。従って、機関停止時のバッテリ77の劣化が進みにくくなり、これによりバッテリ回復制御の実行頻度の増加が抑えられるため、圃場での燃費が向上するようになる。
【0070】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0071】
・
図3に示した一連の処理の実行を省略してもよい。
・
図4に示した一連の処理の実行を省略してもよい。
・第2冷却制御として、電動ファン95の回転速度NFを許容最高回転速度で保持する制御を実施してもよい。
【0072】
・規定の制御は、電動ファン95の駆動制御や上記引き下げ制御であったが、他の制御でもよい。
・快適性、冷却性能、燃費、電費以外の他のトラクタの性能要求に応じて規定の制御における制御態様を変更してもよい。
【0073】
・トラクタ10のハイブリッドシステムとしては、上述したシリーズ・パラレルシステムに限らず、たとえばパラレルシステムやシリーズシステムであってもよい。
・トラクタ10は、駆動源として内燃機関及び電動モータを備えていたが、駆動源として電動モータのみを備えるものでもよい。この場合でも、
図3に示した一連の処理を実行することにより、当該処理の実行による上記作用及び効果を得ることができる。
【0074】
・制御装置100としては、CPU110とメモリ120とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、実行装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
10…トラクタ
15…動力分割機構
20…作業機械
25…PTO
30…支持機構
41…第1電動モータ
42…第2電動モータ
43…第3電動モータ
44…第4電動モータ
71…第1インバータ
72…第2インバータ
73…第3インバータ
74…第4インバータ
77…バッテリ
78…補機バッテリ
80…システムメインリレー
85…第1コンバータ
86…第2コンバータ
95…電動ファン
99…電源回路
100…制御装置
110…中央処理装置(CPU)
120…メモリ
200…内燃機関