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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181504
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】半割スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/02 20060101AFI20221201BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F16C9/02
F16C17/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088494
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 知弘
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011BA09
3J011BA13
3J011CA01
3J011KA03
3J011LA08
3J011MA02
3J011NA01
3J011PA01
3J011QA02
3J011SB02
3J011SB03
3J011SB04
3J033AA05
3J033AB03
3J033AB04
3J033GA02
3J033GA05
3J033GA07
(57)【要約】
【課題】疲労の発生を防ぎながら、運転時に焼付が生じ難い内燃機関のクランク軸用半割スラスト軸受の提供。
【解決手段】半割スラスト軸受は、裏金層と軸受合金層とを有する。半割スラスト軸受は、それぞれの周方向端面に隣接して形成された2つのスラストリリーフを有し、各スラストリリーフは、平坦なスラストリリーフ面を有する。スラストリリーフにおいて、半割スラスト軸受の壁厚が摺動面側から周方向端面側に向かって薄くなっており、スラストリリーフ面は、内周縁、外周縁、周方向端、および摺動面とスラストリリーフ面との境界であるスラストリリーフ境界により画定され、各スラストリリーフ面は、裏金層が露出した露出領域および軸受合金層により被覆された被覆領域からなり、被覆領域は、スラストリリーフ境界の全長、及び外周縁の全長を含んで延在し、露出領域は、内周縁の一部及び周方向端の一部を含んで延在する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半円環形状の半割スラスト軸受であって、
前記半割スラスト軸受は、Fe合金製の裏金層と、前記裏金層の表面上に設けられた軸受合金層とを有し、前記軸受合金層は、前記軸線方向力を受ける摺動面を形成し、前記裏金層は、前記摺動面と平行な背面を形成し、
前記半割スラスト軸受は、それぞれの周方向端面に隣接して形成された2つのスラストリリーフを有し、各スラストリリーフは、前記摺動面と前記周方向端面との間に延びる平坦なスラストリリーフ面を有し、前記スラストリリーフにおいて、前記半割スラスト軸受の壁厚が摺動面側から周方向端面側に向かって薄くなっており、前記スラストリリーフ面は、内周縁、外周縁、周方向端、および前記摺動面と前記スラストリリーフ面との境界であるスラストリリーフ境界により画定され、
各スラストリリーフ面は、前記裏金層が露出した露出領域および前記軸受合金層により被覆された被覆領域からなり、
前記被覆領域は、前記スラストリリーフ境界の全長、及び前記外周縁の全長を含んで延在し、前記露出領域は、前記内周縁の一部及び前記周方向端の一部を含んで延在することを特徴とする半割スラスト軸受。
【請求項2】
前記被覆領域は、スラストリリーフ境界から延び前記半割スラスト軸受の分割平面(HP)に平行な方向の全長に亘って被覆領域の延在する境界側領域と、該境界側領域から前記周方向端まで外周縁に沿って延在する端部側領域とを含み、前記端部側領域の前記分割平面(HP)に平行な方向の長さ(L1)は、前記周方向端において最小で、前記境界側領域へ向かって大きくなることを特徴とする、請求項1に記載の半割スラスト軸受。
【請求項3】
前記端部側領域の前記分割平面(HP)に平行な方向の長さ(L1)は、5~100μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の半割スラスト軸受。
【請求項4】
前記外周縁において測定した、前記分割平面から前記スラストリリーフ境界までの前記分割平面に垂直方向の長さをスラストリリーフ長さ(LT)としたとき、前記分割平面に垂直に測定した、前記露出領域の最大長さ(L2)が、前記スラストリリーフ長さ(LT)の20~70%であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の半割スラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受を円筒形状に組み合わせて構成される主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に回転自在に支承される。一対の半割軸受のうちの一方又は両方が、クランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受と組み合わせて用いられる。半割スラスト軸受は、半割軸受の軸線方向端面の一方又は両方に配設される。半割スラスト軸受は、クランク軸に生じる軸線方向力を受けるために配置される。すなわち、半割スラスト軸受は、クラッチによってクランク軸と変速機とが接続される際等に、クランク軸に対して入力される軸線方向力を支承する。
【0003】
半割スラスト軸受の半円環形状の周方向両端近傍の摺動面側には、周方向端面へ向かって軸受部材の厚さが薄くなるようにスラストリリーフが形成されている。一般にスラストリリーフは、半割スラスト軸受の周方向端面から摺動面までの長さや周方向端面での深さが、径方向の位置によらずに一定になるよう形成される。スラストリリーフは、半割スラスト軸受を分割型軸受ハウジング内に組み付ける際の一対の半割スラスト軸受の端面同士の位置ずれを吸収するために設けられる(特許文献1の図10参照)。
【0004】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受からなる主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に支承される。このとき潤滑油は、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから主軸受の壁内の貫通口を通じて、主軸受の内周面に沿って形成された潤滑油溝内に送り込まれる。潤滑油はこのようにして主軸受の潤滑油溝内に供給され、その後半割スラスト軸受に供給される。なお、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるスラスト軸受には、一般に、Fe合金製の裏金層の一方の表面にアルミニウム軸受合金又は銅軸受合金等の軸受合金製の摺動層を形成した積層構造体が用いられる。
【0005】
従来の(裏金層と摺動層を有する)半割スラスト軸受では、半割スラスト軸受の摺動面にクランク軸からの軸線方向力が入力される際に、半割スラスト軸受の周方向端面部に加わる衝撃力によりスラストリリーフおよびスラストリリーフに隣接する摺動面の軸受合金に疲労(割れや剥離)が生じることを防ぐため、スラストリリーフの表面の半割スラスト軸受の周方向端面側に裏金層であるFe合金を露出するようにしている(特許文献2の図4図5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-201145号公報
【特許文献2】特開2017-110703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、内燃機関の軽量化のためにクランク軸の軸径が小径化され、従来のクランク軸よりも低剛性となっており、内燃機関の運転時にクランク軸に撓みが発生しやすく、クランク軸の振動が大きくなる傾向にある。このためクランク軸のスラストカラー面は半割スラスト軸受の摺動面に対して傾斜しながら摺接し、且つその傾斜方向はクランク軸の回転に伴い変化する。
【0008】
また、一対の半割軸受からなる主軸受の軸線方向の各端部に一対の半割スラスト軸受が組み付けられる場合、分割型軸受ハウジング内に組み付けた際の一対の半割スラスト軸受の端面同士の位置がずれていると、一方の半割スラスト軸受の摺動面とクランク軸のスラストカラー面との間の隙間が、他方の半割スラスト軸受とクランク軸のスラストカラー面との間の隙間よりも大きくなる。あるいは、主軸受の軸線方向の各端部に1つの半割スラスト軸受だけが組み付けられる場合、この半割スラスト軸受が配置されない分割型軸受ハウジングの側面とクランク軸のスラストカラー面との間に大きな隙間が形成される。このような隙間が形成された状態で内燃機関の運転がなされクランク軸の撓みが発生すると、クランク軸のスラストカラー面は形成された隙間側へさらに傾斜する(図11参照)。
【0009】
このような隙間側へ大きく傾斜した状態でクランク軸が回転すると、半割スラスト軸受の周方向両端面を含む面内での半割スラスト軸受に対するスラストカラー面の傾斜は、より大きくなる。このスラストカラー面の傾斜は、半割スラスト軸受の周方向両端面を含む面内において、(a)半割スラスト軸受のクランク軸の回転方向後方側のスラストリリーフの表面とクランク軸のスラストカラー面とが接触し、クランク軸の回転方向前方側のスラストリリーフの表面とスラストカラー面とが離間した傾斜状態と、(b)半割スラスト軸受のクランク軸の回転方向前方側のスラストリリーフの表面とスラストカラー面とが接触し、クランク軸の回転方向後方側のスラストリリーフの表面とスラストカラー面とが離間した傾斜状態とを、クランク軸の回転に伴って繰り返す(図12A、12B参照)。この場合に、半割スラスト軸受は、スラストリリーフの表面に露出する裏金層のFe合金の径方向の外側端部付近がクランク軸のスラストカラー面と直接接触するので、焼付が起きやすかった。
【0010】
したがって本発明の目的は、疲労の発生を防ぎながらも、運転時に損傷(焼付)が生じ難い内燃機関のクランク軸用半割スラスト軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半円環形状の半割スラスト軸受が提供され、その半割スラスト軸受は、Fe合金製の裏金層と、裏金層の表面上に設けられた軸受合金層とを有し、軸受合金層は、軸線方向力を受ける摺動面を形成し、裏金層は、摺動面と平行な背面を形成する。そして、この半割スラスト軸受は、それぞれの周方向端面に隣接して形成された2つのスラストリリーフを有し、各スラストリリーフは、摺動面と周方向端面との間に延びる平坦なスラストリリーフ面を有する。このスラストリリーフにおいて、半割スラスト軸受の壁厚が摺動面側から周方向端面側に向かって薄くなっており、摺動面とスラストリリーフ面との境界をスラストリリーフ境界と称するとき、スラストリリーフ面は、内周縁、外周縁、周方向端、およびスラストリリーフ境界により画定される。各スラストリリーフ面は、裏金層が露出した露出領域および軸受合金層により被覆された被覆領域からなり、被覆表面は、スラストリリーフ境界の全長、及び外周縁の全長を含んで延在し、露出領域は、内周縁の一部及び周方向端の一部を含んで延在することを特徴とする。
【0012】
本発明の一具体例によれば、被覆領域は、スラストリリーフ境界から延び半割スラスト軸受の分割平面(HP)に平行な方向の全長に亘って被覆領域の延在する境界側領域と、この境界側領域から周方向端まで外周縁に沿って延在する端部側領域とを含むことができる。端部側領域の分割平面(HP)に平行な方向の長さ(L1)は、周方向端において最小で、境界側領域へ向かって大きくなることができる。
【0013】
本発明の一具体例によれば、端部側領域の分割平面(HP)に平行な方向の長さ(L1)は、5~100μmにできる。
【0014】
本発明の一具体例によれば、外周縁において測定した、分割平面からスラストリリーフ境界までの分割平面に垂直方向の長さをスラストリリーフ長さ(LT)としたとき、分割平面に垂直に測定した、露出領域の最大長さ(L2)が、スラストリリーフ長さ(LT)の20~70%である
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】軸受装置の分解斜視図。
図2】軸受装置の正面図。
図3】軸受装置の軸線方向断面図。
図4】半割軸受の正面図。
図5図4に示す半割軸受を径方向内側から見た底面図。
図6】具体例1の半割スラスト軸受の正面図。
図7】具体例1の半割スラスト軸受の周方向端部近傍の拡大正面図。
図8】具体例1の半割スラスト軸受の周方向端部近傍を、外側(図7のY1矢視方向)から見た拡大側面図。
図9図7のA-A断面図。
図10図7のB-B断面図。
図11】スラストカラー面と一対の半割スラスト軸受の接触状態を示す図。
図12A】周方向両端面側から見た運転中のスラストカラー面の摺動面に対する傾斜の変化を示す図。
図12B】周方向両端面側から見た運転中のスラストカラー面の摺動面に対する傾斜の変化を示す図。
図13】別の実施形態の半割スラスト軸受の正面図。
図14】別の実施形態の半割スラスト軸受の周方向端部近傍の側面図。
図15】別の実施形態の半割スラスト軸受の周方向端部近傍の側面図。
図16】別の実施形態の半割スラスト軸受の周方向端部近傍の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
(軸受装置の全体構成)
まず、図1図3を用いて本発明の具体例1に係る軸受装置1の全体構成を説明する。図1図3に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔(保持孔)5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合される。受座6、6には、クランク軸のスラストカラー12を介して軸線方向力f(図3参照)を受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合される。
【0018】
図2図5に示すように、主軸受を構成する半割軸受7のうち、シリンダブロック2側(上側)の半割軸受7の内周面には潤滑油溝71が形成され、また潤滑油溝71内には外周面に貫通する貫通孔72が形成されている。なお、潤滑油溝71は、上下両方の半割軸受に形成することもできる。
【0019】
さらに、半割軸受7には、半割軸受7同士の当接面に隣接して、周方向両端部にクラッシュリリーフ73、73が形成されている。クラッシュリリーフ73は、半割軸受7の周方向端面に隣接する領域の壁厚が、周方向端面に向かって徐々に薄くなるように形成された壁厚減少領域である。クラッシュリリーフ73は、一対の半割軸受7、7を組み付けたときの突合せ面の位置ずれや変形を吸収することを企画して形成される。
【0020】
(半割スラスト軸受の構成)
次に、図2図3図6および図7を用いて具体例1の半割スラスト軸受8の構成について説明する。
図2に示すように、本具体例の半割スラスト軸受8は、周方向中央を含む範囲に延び、軸線方向力fを受ける摺動面81(軸受面)と、周方向両端面83、83に隣接する領域に形成された2つのスラストリリーフ82、82とを有し、スラストリリーフ82は、平坦なスラストリリーフ面(平面)82Sを有している。摺動面81には、潤滑油の保油性を高めるために、2つの油溝81a、81aが形成されていてもよい。
【0021】
スラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8の壁厚が周方向端面83に向かって徐々に薄くなるように、周方向両端面83に隣接する摺動面81側の領域に、半割スラスト軸受8の径方向全長に亘って形成される壁厚減少領域である(図8も参照)。スラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8を分割型の軸受ハウジング4内に組み付けた際に生じ得る、一対の半割スラスト軸受8、8の周方向端面83、83同士の位置ずれを緩和するために形成される。
【0022】
図6および図7に示すように、本具体例のスラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8の内径側端面8iと外径側端面8oとの間で略一定長さであるスラストリリーフ長さLTを有している。ただし、スラストリリーフ長さLTは、半割スラスト軸受8の内径側端面8iと外径側端面8oの間で変化してもよい。その場合は、外径側端面8oにおけるスラストリリーフ長さをスラストリリーフ長さLTと称する。特に乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30~100mm程度)に使用する場合、半割スラスト軸受8の周方向端面83からのスラストリリーフ長さLTは3~10mmである。
【0023】
スラストリリーフ82のスラストリリーフ面82Sは、摺動面81から周方向端面83に向かって、徐々に裏金層側に後退しており、それにより上記の通り、半割スラスト軸受8の壁厚が周方向端面83に向かって徐々に薄くなっている。スラストリリーフ面82Sと摺動面81との境界をスラストリリーフ境界101と称すると、スラストリリーフ面82Sは、内周縁102、外周縁103、周方向端104およびスラストリリーフ境界101により画定される。ここで、内周縁102は、内径側端面8iとスラストリリーフ面82Sとの交線であり、外周縁103は、外径側端面8oとスラストリリーフ面82Sとの交線であり、周方向端104は、周方向端面83とスラストリリーフ面82Sとの交線である。
【0024】
スラストリリーフ面82Sには、裏金層が露出した領域110(以下、「露出領域」という)と軸受合金層により被覆された領域120(以下、「被覆領域)という)とが存在する。露出領域110および被覆領域120は同一平面内に延び、それにより平坦なスラストリリーフ面82Sを構成している。被覆領域120は、スラストリリーフ境界101の全長、及び外周縁103の全長を含んで延在し、露出領域110は、内周縁102の一部及び周方向端104の一部を含んで延在する。すなわち、被覆領域120は、スラストリリーフ境界101の全長から周方向端104に向かって、外周縁103の全長に沿って、および内周縁102の所定長さに沿って延びる。露出領域110は、スラストリリーフ面82Sの内周縁102と周方向端104の交差する周方向端部内周側隅部140を含んで、内周縁102と周方向端104のそれぞれの所定長さを含むように延在する。
【0025】
図6および図7に示すように、被覆領域120は、スラストリリーフ境界101から延び、分割平面(HP)に平行な方向のスラストリリーフ面82Sの全長に亘って被覆領域の延在する境界側領域122と、この境界側領域122から外周縁103に沿って周方向端104まで延在する端部側領域121とを含むことができる。境界側領域122と露出領域110との境界は周方向端面83に略平行になることが好ましいが、平行でなくてもよく、傾いていても、曲がりをもって変化してもよい。なお、境界側領域122と露出領域110との境界は傾いていても、曲がりをもって変化している領域も被覆領域120の境界側領域122に含める。
【0026】
周方向端面83から、被覆領域の境界側領域122と露出領域110との境界までの長さの最大値として定義される露出領域長さL2は、スラストリリーフ長さLTの20~70%(すなわちL2/LT=0.2~0.7)であることが好ましい。境界側領域122と露出領域110との境界が周方向端面83に略平行であれば、露出領域長さL2は、半割スラスト軸受8の内径側端面8iにおいて測定できる。
【0027】
ここで、スラストリリーフ82のスラストリリーフ長さLTは、半割スラスト軸受8の半円環形状の径中心CP1を含む平面であって一対の半割スラスト軸受を配置した場合の対称面となる平面(以下、分割平面HP)からスラストリリーフ境界101までの、分割平面HPに垂直に測定した長さとして定義される。本具体例では、周方向両端面83は分割平面HP内に位置しているため、スラストリリーフ長さLTは、周方向端面83から、スラストリリーフ面82Sが摺動面81の内周縁と交わる点までの垂直方向の長さとして定義され得る。スラストリリーフ82の露出領域長さL2も、分割平面HPに垂直方向に測定した長さとして定義されることが理解されよう。
【0028】
被覆領域の端部側領域121の半割スラスト軸受8の分割平面(HP)に平行な方向の長さ(L1)は、スラストリリーフ面82Sの周方向端104において最小で、境界側領域122へ向かって大きくなるようにすることが好ましい。被覆領域の端部側領域121の長さ(L1)は、5~100μmとすることが好ましく、10~50μmとすることがより好ましい。被覆領域の端部側領域121の長さ(L1)が5μm未満であると、被覆領域120に隣接した付近の露出領域110とスラストカラー面が直接に接触する場合が生じ得る。他方、被覆領域の端部側領域121の長さ(L1)が100μmを超えると、内燃機関の運転時に半割スラスト軸受8の周方向端面83に加わる衝撃負荷がスラストリリーフ82の境界線側の軸受合金層85に伝わりやすくなる(背景技術を参照)。被覆領域の端部側領域121の長さL1は、スラストリリーフ面82Sの分割平面(HP)に平行な方向の長さLの2%以下(L1<L×0.02)とすることが好ましい。なお、被覆領域の端部側領域121の長さ(L1)は、境界側領域122と接続する付近では、100μmよりも大きくなっていてもよい(100μmよりも大きい分割平面(HP)に平行な方向の長さの領域を「移行領域」と称してもよい)。
【0029】
図8に示すように、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82は、周方向端面83において、半割スラスト軸受8の内径側端面8iと外径側端面8oとの間で一定である軸線方向深さRD1を有するように形成される。スラストリリーフ82の軸線方向の深さRD1は、0.1~1mmとすることができる。しかし、スラストリリーフ82の軸線方向の深さRD1は、半割スラスト軸受8の内径側端面8iと外径側端面8oの間で変化してもよい。
【0030】
ここで、スラストリリーフ82の軸線方向深さとは、半割スラスト軸受8の摺動面81を含む平面からスラストリリーフ面82Sまでの軸線方向距離を意味する。換言すれば、スラストリリーフ82の軸線方向深さは、摺動面81をスラストリリーフ82上まで延長した仮想摺動面からスラストリリーフ面82Sまで垂直に測定した距離である。したがって、半割スラスト軸受8の周方向端面83におけるスラストリリーフ82の軸線方向深さRD1は、摺動面81を延長した仮想摺動面から、スラストリリーフ面82Sと周方向端面83との交点までの距離として定義される。
【0031】
半割スラスト軸受8は、Fe合金製の裏金層84に薄い軸受合金層85を接着したバイメタルを用いて、半円環形状の略平板として形成される。摺動面81を形成する軸受合金層85として、Cu軸受合金やAl軸受合金等を用いることができ、また裏金層84のFe合金として、鋼やステンレス鋼等を用いることができる。
【0032】
裏金層84は、摺動面81とは反対側に、摺動面81と平行な半割スラスト軸受8の背面84Sを形成する。
【0033】
以下、図7図10を参照して、半割スラスト軸受8の裏金層84と軸受合金層85の配置について説明する。
図7のB-B断面(摺動層部分)を示す図10から理解されるように、摺動面81における軸受合金層85は、径方向断面において、径方向の中央を含む範囲に延びる等厚部88であって、その軸線方向の厚さT1が一定である等厚部88と、外径側端面8oに隣接した増厚部90を有している。増厚部90は、その軸線方向の厚さT2が等厚部88の厚さT1より大きくなっている。増厚部90の厚さT2は、より詳細には、内径側の等厚部88に向かって連続して小さくなっている。なお、この断面において半割スラスト軸受8の軸線方向の厚さTaは一定である。
【0034】
図9に、図7のA-A断面(スラストリリーフ面82Sの被覆領域の端部側領域121と露出領域110を含む、分割平面HPと平行な断面)を示す。図9から理解されるように、軸受合金層85は、外径側端面8oに隣接する付近にのみ形成され(被覆領域の端部側領域121)、その軸線方向の厚さT3は、外径側端面8oに向かって連続して大きくなっている。なお、この断面においても半割スラスト軸受8の軸線方向の厚さTbは一定である。被覆領域の端部側領域121における軸受合金層85の軸線方向の厚さT3は、外径側端面8o(外周縁103)において5~50μmとすることが好ましい。
【0035】
図8は、半割スラスト軸受8の周方向端部の近傍を外径側(図7のY1矢視方向)から見た側面図である。
図8に描かれている点線は、摺動面81の等厚部88において軸受合金層85が裏金層84と接している面を表し、換言すれば、軸受合金層84に増厚部90を形成しなかった場合の軸受合金層85と裏金層84との境界である。スラストリリーフ82を形成する前の半割スラスト軸受8の周方向端部の近傍は、摺動面81部と同じ等厚部88および増厚部90を有しており、スラストリリーフ82を形成する際に、スラストリリーフ境界側では、等厚部88および増厚部90が残るように軸受合金層85を除去し(被覆領域の境界側領域122が残る)、端部側領域では、等厚部88は完全に除去され増厚部90のみが残る(被覆領域の端部側領域121のみが残り、他は露出領域121になる)ように軸受合金層85を除去することで、スラストリリーフ82が形成される。
【0036】
なお、半割スラスト軸受8の軸受合金層85の摺動面81上にオーバーレイ層を形成してもよい。オーバーレイ層として、Sn、Sn合金、Bi、Bi合金、Pb、Pb合金等の金属や合金、或いは樹脂摺動材料を用いることができる。樹脂摺動材料は、樹脂バインダと固体潤滑剤とから形成される。樹脂バインダとしては公知の樹脂を用いることができるが、耐熱性の高いポリアミドイミド、ポリイミドおよびポリベンゾイミダゾールのうちの一種以上を用いることが好ましい。また、ポリアミドイミド、ポリイミドおよびポリベンゾイミダゾールのうちの一種以上からなる耐熱性の高い樹脂と、ポリアミド、エポキシおよびポリエーテルサルフォンのうちの一種以上からなる1~25体積%の樹脂とを混合した樹脂組成物や、ポリマーアロイ化した樹脂組成を樹脂バインダとして使用してもよい。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素等を用いることができる。樹脂摺動材料に対する固体潤滑剤の添加割合は、20~80体積%が好ましい。また、樹脂摺動材料の耐摩耗性を高めるために、セラミックスや金属間化合物等の硬質粒子を樹脂摺動材料に対して0.1~10体積%含有させてもよい。
【0037】
このオーバーレイ層は、クランク軸の軸線方向力fを受ける軸受合金層85の摺動面81のみでなく、スラストリリーフ82のスラストリリーフ面82S、油溝81aの表面、半割スラスト軸受8の内径側端面8i、外径側端面8o、背面84S、周方向端面83等にも付与されてもよい。オーバーレイ層82bの厚さは0.5~20μmであり、望ましくは1~10μmである。
なお、本明細書において、摺動面81、スラストリリーフ面82S、内径側端面8i、外径側端面8o、背面84Sおよび周方向端面83は、オーバーレイ層82bを付与しなかった場合の表面として定義される。
【0038】
(作用)
次に、図2図3図11図12Aおよび図12Bを用いて、本具体例の半割スラスト軸受8の作用を説明する。
一般に、半割軸受7は半割スラスト軸受8と同心に、且つ主軸受を構成する半割軸受7の周方向両端面74を含む平面が、半割スラスト軸受8の周方向両端面83を含む平面と実質的に一致するように配置される。
【0039】
内燃機関の運転時、特にクランク軸が高速回転する運転条件では、クランク軸に撓み(軸線方向の撓み)が発生してクランク軸の振動が大きくなる。この大きな振動により、クランク軸には半割スラスト軸受8の摺動面81へ向かう軸線方向力fが周期的に発生する。半割スラスト軸受8の摺動面81は、この軸線方向力fを受ける。
【0040】
一対の半割軸受7、7からなる主軸受の軸線方向の各端部に一対の半割スラスト軸受8、8が組み付けられる場合、分割型軸受ハウジング4に組み付けた際に一対の半割スラスト軸受8、8の端面83、83同士の位置が軸線方向にずれていると、一方の半割スラスト軸受8の摺動面81とクランク軸のスラストカラー面12との間の隙間が、他方の半割スラスト軸受8の摺動面81とスラストカラー面12との間の隙間よりも大きくなる(図11参照)。あるいは、主軸受の軸線方向の各端部に1つの半割スラスト軸受8だけが組み付けられる場合、半割スラスト軸受8が配置されないほうの分割型軸受ハウジング4の側面とクランク軸のスラストカラー面12との間に大きな隙間が形成される。このような隙間が形成された状態で内燃機関が運転されクランク軸の撓みが発生すると、クランク軸のスラストカラー面12は大きな隙間側へさらに傾斜する。このような隙間側へ大きく傾斜した状態でクランク軸が回転すると、半割スラスト軸受8の周方向両端面83を含む面内での半割スラスト軸受8に対するスラストカラー面12の傾斜がより大きくなり、半割スラスト軸受8の周方向両端部のスラストリリーフ82の外径側端部8o付近の表面がクランク軸のスラストカラー面12と直接接触する。
より詳細には、周方向両端面83を含む面に垂直な方向から半割スラスト軸受8を見たとき、クランク軸のスラストカラー面12は、(1)半割スラスト軸受8のクランク軸の回転方向後方側の周方向端部側に傾斜している状態(図12A参照)と、(2)半割スラスト軸受8のクランク軸の回転方向前方側の周方向端部側に傾斜している状態(図13B参照)とを、周期的に繰り返す。
【0041】
本具体例の半割スラスト軸受8スラストリリーフ面82Sは、周方向端面側に裏金層84が露出した表面(露出領域110)を有するが、露出領域110の外径方向側には、軸受合金層84により被覆された表面(被覆領域120、特に端部側領域121)が存在し、摺動面側にも軸受合金層84により被覆された表面(被覆領域120、特に境界側領域122)が存在するので、半割スラスト軸受8は、周方向両端面83を含む面内でのスラストカラー面12の傾斜が大きくなっても、裏金層84の露出した表面とスラストカラー面12との接触が防がれる(被覆領域120の境界側領域122または端部側領域121のみが、スラストカラー面12と接触する)ため、スラストリリーフの表面82Sに損傷(焼付)が起き難くなる。
【0042】
ここで、特許文献2に記載されるように半割スラスト軸受のスラストリリーフの表面の外径側端部付近に裏金層が露出している場合、上記理由により、特に半割スラスト軸受8のスラストリリーフ表面の外径側端部付近の裏金層が露出した表面とクランク軸のスラストカラー面12とが直接接触し、損傷(焼付)が起きやすい。他方、半割スラスト軸受のスラストリリーフの表面が軸受合金層に被覆された表面からなる場合、内燃機関の運転時の周方向端面に加わる衝撃力が、スラストリリーフおよびスラストリリーフと隣接する摺動面の軸受合金層に伝わり、軸受合金層に疲労(割れや剥離)が生じやすくなる。本発明では、上記構成を有することにより、内燃機関の運転時のクランク軸の撓みに起因して半割スラスト軸受に対するクランク軸のスラストカラー面の傾斜角度が大きくなった場合でも、軸受合金層に疲労(割れや剥離)が生じることを防ぎながらも、半割スラスト軸受の損傷(焼付)も起きにくくなっている。
【0043】
以上、図面を参照して、本発明の具体例を詳述してきたが、具体的な構成はこの具体例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は本発明に含まれる。
【0044】
例えば、図13に示すように、本発明は、位置決めおよび回転止めのために半径方向外側に突出する突出部8pを備える半割スラスト軸受8に適用することもできる。また、半割スラスト軸受8は、周方向端部近傍において内周面を半径R の円弧状に切り欠くこともできる。
また、図14に示すように、この半割スラスト軸受8の円周方向長さは、具体例1に示す半割スラスト軸受8よりも所定の長さS1だけ短くてもよい。
【0045】
さらに、図15に示すように、半割スラスト軸受8は、裏金層84の背面84S側に、周方向両端部83に隣接して、スラストトリリーフ82に似た形状の背面リリーフ92を有することができる。
【0046】
また誤組付け防止のため、図16に示すように一対の半割スラスト軸受8の2つの突合せ部のうち一方のみにおいて、それぞれの半割スラスト軸受8の周方向端面を傾斜端面83Aとして形成して突合せることもできる。この場合、傾斜端面83Aは、傾斜していない他方の突合せ部の周方向端面83を通る平面(分割平面HP)に対して所定の角度θ2だけ傾斜して形成されている。あるいは、傾斜端面83Aに代えて、それぞれの周方向端面を対応する凹凸形状といった他の形状とすることもできる。
しかし、いずれの場合も、スラストリリーフ長さLTは、半割スラスト軸受8の分割平面HPから、スラストリリーフ82の表面が摺動面81の内周縁と交わる点までの垂直方向の長さとして定義されることが当業者には理解されよう。
【0047】
また図1では、軸受装置1に半割スラスト軸受8を4つ使用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも1つの本発明による半割スラスト軸受8を使用することで所望の効果を得ることができる。さらに、本発明の軸受装置1において、半割スラスト軸受8は、クランク軸を回転自在に支承する半割軸受7の軸線方向の一方又は両方の端面に、半割軸受7と一体に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 軸受装置
4 軸受ハウジング
7 半割軸受
11 ジャーナル部
12 スラストカラー
71 潤滑油溝
72 貫通孔
73 クラッシュリリーフ
74 周方向端面
75 摺動面
8 半割スラスト軸受
81 摺動面
81a 油溝
82 スラストリリーフ
82S スラストリリーフ面
83 周方向端面
84 裏金層
84S 背面
85 軸受合金層
8i 内径側端面
8o 外径側端面
88 等厚部
90 増厚部
101 スラストリリーフ境界
102 内周縁
103 外周縁
104 周方向端
110 露出領域
120 被覆領域
121 被覆領域の端部側領域
122 被覆領域の境界側領域
RD1 スラストリリーフの深さ
LT スラストリリーフの長さ
L1 端部側領域の長さ
L2 露出領域の長さ
Ta 半割スラスト軸受の厚さ
Tb 半割スラスト軸受の厚さ
T1 等厚部での軸受合金層の厚さ
T2 増厚部での軸受合金層の厚さ
T3 端部側領域での軸受合金層の厚さ
HP 分割平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16