(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181505
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088495
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徐 暁師
(57)【要約】
【課題】使用者が上下方向を容易に判別できるマスクを提供する。
【解決手段】複数の機能性シートを積層してなる積層体を有する略長方形のマスク本体と、前記積層体の長手方向端部に沿って付された、審美性を有する複数の表示と、を、備え、前記複数の表示には、装着時に視認可能な上下方向を有する図形を含み、当該上下方向を有する図形の上下方向と、マスク本体を装着した際の上下方向とが一致する、マスクを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の機能性シートを積層してなる積層体を有する略長方形のマスク本体と、
前記積層体の長手方向端部に沿って付された、審美性を有する複数の表示と、
を、備え、
前記複数の表示には、装着時に視認可能な上下方向を有する図形を含み、当該上下方向を有する図形の上下方向と、マスク本体を装着した際の上下方向とが一致する、
マスク。
【請求項2】
前記複数の表示は、前記積層体を構成するシート同士の熱溶着により形成されたエンボス図形である、
請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記複数の表示のうち、前記上下方向を有する図形は、上部領域と下部領域とを備え、
前記下部領域は略上下方向に延在する線状であり、前記上部領域は非線状である、
請求項1または2に記載のマスク。
【請求項4】
前記複数の表示のうち、上下方向を有する図形は、上下方向を有しない図形よりも面積が大きい、請求項1~3のうちいずれか一項に記載のマスク。
【請求項5】
前記複数の表示は、前記マスク本体の長手方向端部に平行に付された複数列に付され、
前記上下方向を有する図形はその各列に含まれており、隣接する列に跨って付されている、
請求項1~4のうちいずれか一項に記載のマスク。
【請求項6】
前記積層体の幅方向端部の少なくとも非肌面側に文字列記載領域を有し、
前記文字列記載領域に、販売元等を示す記号や文字列を設けた、
請求項1~5のうちいずれか一項に記載のマスク。
【請求項7】
前記文字列記載領域には、上下方向を有する補助模様を更に含み、
前記補助模様は、前記複数の表示を構成する図形と関係性を有する、
請求項6に記載のマスク。
【請求項8】
前記文字列記載領域を、前記積層体を構成するシートを熱溶着により接着してエンボス図形として形成した、
請求項6または7に記載のマスク。
【請求項9】
前記文字列記載領域を、印刷、スタンプ、レーザ加工のいずれかにより形成した、
請求項6または7に記載のマスク。
【請求項10】
前記マスク本体の四隅に、輪郭線で構成された補助溶着図形を付し、
前記補助溶着図形は単体で美観を有し、幅方向端部を同時に観察した場合には観念上の関係性を有する、
請求項1~9のうちいずれか一項に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
不織布等からなる機能性シートを積層してなる衛生マスクには、上下方向が存在している。例えば、上方向には、鼻の形状に沿って密着するように変形可能なノーズフィッターが付されている(特許文献1)。顔面の鼻側には非常に大きな凹凸が存在するものの、ノーズフィッターを凹凸に沿わせることで、マスクを顔面に密着させることができる。もし、マスクを上下逆に装着すると、鼻側(上側)で顔面とマスクとの間に空隙が生じ、呼気が当該空隙を通過してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のノーズフィッターは目立たず、多くの衛生マスクはほぼ線対称であり、日本国内で流通する衛生マスクは単色であることが多いため、装着時にマスクの上下方向を判断しにくく、逆に着用すれば、上述の通り正しい装着効果を得られない。このため、マスク表面下部に英数字や記号からなるブランドロゴをエンボスすることで、英数字の向きからも上下方向を判断しやすくする工夫がなされている。しかし、当該マスクを小児用に提供する場合、子供は文字を理解できないので、当該ブランドロゴからは上下方向を規定する効果を得にくいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明では、長手方向端部に施した審美性を有する複数の表示に、装着時に視認可能な上下方向を有する図形を入れることで、使用者が上下方向を容易に判別できるマスクを提供する。
【0006】
詳細には、本発明は、複数の機能性シートを積層してなる積層体を有する略長方形のマスク本体と、前記積層体の長手方向端部に沿って付された、審美性を有する複数の表示と、を、備え、前記複数の表示には、装着時に視認可能な上下方向を有する図形を含み、当該上下方向を有する図形の上下方向と、マスク本体を装着した際の上下方向とが一致する、マスクである。
【0007】
前記複数の表示は、前記積層体を構成するシート同士の熱溶着により形成されたエンボス図形であってよい。
【0008】
前記複数の表示のうち、前記上下方向を有する図形は、上部領域と下部領域とを備え、前記下部領域は略上下方向に延在する線状であり、前記上部領域は非線状であってよい。
【0009】
前記複数の表示のうち、上下方向を有する図形は、上下方向を有しない図形よりも面積が大きくてよい。
【0010】
前記複数の表示は、前記マスク本体の長手方向端部に平行に付された複数列に付され、前記上下方向を有する図形はその各列に含まれており、隣接する列に跨って付されていて
よい。
【0011】
前記積層体の幅方向端部の少なくとも非肌面側に文字列記載領域を有し、前記文字列記載領域に、販売元等を示す記号や文字列を設けてよい。
【0012】
前記文字列記載領域には、上下方向を有する補助模様を更に含み、前記補助模様は、前記複数の表示を構成する図形と関係性を有してよい。
【0013】
前記文字列記載領域を、前記積層体を構成するシートを熱溶着により接着してエンボス図形として形成してよい。
【0014】
前記文字列記載領域を、印刷、スタンプ、レーザ加工のいずれかにより形成してよい。
【0015】
前記マスク本体の四隅に、輪郭線で構成された補助溶着図形を付し、前記補助溶着図形は単体で美観を有し、幅方向端部を同時に観察した場合には観念上の関係性を有してよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マスク長手方向端部に付された模様により、誰でも容易に上下方向を認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態に係るマスクの外観斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るマスク本体部分の平面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るマスクの上下方向を示す溶着模様の拡大図である。
【
図5】
図5は、補助溶着線を更に有するマスク本体部分を示した図である。
【
図6】
図6は、別の形態の補助溶着線を有するマスク本体部分を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係るマスクについて説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0019】
図1は、実施形態に係るマスクの外観斜視図である。
図1に示されるように、マスク1は、マスク本体2、耳紐3,4、側部5,6、ノーズフィッター7を有する。マスク本体2は略長方形状で、シート状の通気性素材で形成されており、着用者の口と鼻を覆うことが可能な大きさを有する。耳紐3,4は、紐状の伸縮性素材で形成されており、マスク本体2の両側部に位置する側部5,6において端部が接合されることにより、マスク本体2の左右両側に環状の輪をそれぞれ形成する。
【0020】
マスク本体2は、通気性と熱可塑性を有する不織布等の各種機能性シートから構成されるものであり、複数の機能性シートの積層体である。そして、複数の機能性シートは、上下左右の縁等において互いに適宜接合されている。マスク本体2は、当該マスク本体2の長辺方向と平行に、プリーツ状(蛇腹状)の立体形状を形成し得る折り目を複数付されている。このような折り目は、マスク本体2が襞状に折り込まれた状態で、左右両側の端部に審美性を有する複数の表示(模様)が断続的に溶着されて側部5,6となることにより、その形状が保持される。すなわち、左右両側の端部に形成されている側部5,6で折り目の展開は阻止され、マスク本体2の中心部付近の領域において、マスク1の装着時に折り目が展開されることで、マスク本体2のプリーツが広げられて立体形状となる。なお、
非装着時にはプリーツが閉じられることで、マスク本体2をかさばらない平面状とすることができる。
【0021】
耳紐3,4を構成する紐状の伸縮性素材は、例えば、ゴム糸と綿の交織帯や、樹脂フィラメントの交編ネット、伸縮性の不織布等で形成される。このような紐状の素材の両端部が、それぞれマスク本体2の左右両側の側部(長手方向両端部)にある側部5,6に接合されることで、当該素材の一端が始点となり、当該素材の他端が終点となるループ状の形態の耳紐3,4がマスク本体2の左右両側に形成される。
【0022】
ノーズフィッター7は、マスク本体2の上部において、長手方向がマスク本体2の左右方向に延在する状態でマスク本体2に固定される部材である。ノーズフィッター7は、マスク本体2を構成するシート状の通気性素材同士の間に挟み込まれる状態で積層体の内部に固定されていてもよいし、或いは、マスク本体2の表面に固定されていてもよい。ノーズフィッター7は、着用者が指で押圧することにより適宜の形状へ変形可能な程度の強度を有すると共に、当該押圧から解放されても形状を維持する塑性変形可能な素材である。このようなノーズフィッター7がマスク本体2の上部に設けられていることにより、着用者は、鼻とマスク本体2との間にできる隙間を塞ぐことができる。
【0023】
マスク本体2の左下(幅方向左側端部)のプリーツが設けられていない部分には、文字列記載領域を設けることができ、当該領域には、例えばブランドロゴ8を付すことができる。ブランドロゴ8は、一例としてはマスクの販売元等を示す記号や文字列であり、販売元の他、製造元、ブランド、商品名、型名を示していてもよい。本図のように、これに加えて更に側部5,6に付されている模様と関係性を有する補助模様9を付してもよい。使用者は、当該文字列記載領域に付されたブランドロゴ8等を視認することにより、マスクの上下方向を容易に判断することができる。
【0024】
側部5,6は、視認性、またシートの離散を防ぐ機能性の面から、積層されたシート全体を溶着させるレーザ溶着、熱ロール溶着、超音波溶着などの熱溶着技術によって形成されることが好適である。文字列記載領域に付されるブランドロゴ8等もこれらの熱溶着技術によって形成されてよいが、後述する別の技術によって形成されてもよい。熱溶着技術によって形成された模様は、積層体の各シートよりも硬いエンボスになり、使用者は当該模様を容易に認識することができる。また、マスク1を構成するその他の各素材も、熱溶着技術によって接合されてよいが、例えば、ミシン糸等による縫合、ホットメルト接着剤等による接着、ヒートシール、その他の各種接合技術を適用し得る。
【0025】
図2は、実施形態に係るマスク本体部分の平面図である。側部5は、本実施形態では、マスク本体2の長手方向端部にマスク本体2の短手方向に平行に設けられた2列の溶着列5A,5Bから構成され、側部6も、同様に2列の溶着列6A,6Bから構成されている。すなわち、長手方向両端部に溶着列(5A,5B,6A,6B)が複数設けられている。溶着列5Aと6Aは、長手方向外側に設けられた溶着列であり、積層体を接着する役割を果たす。溶着列5Bと6Bは、長手方向内側に設けられた溶着列であり、積層体を接着するとともに、溶着部の端部を規定する役割を果たす。各溶着列は、マスク本体2の長手方向端部に略均等に並んでいる。溶着列は2列に限られない。1列とする場合には十分な接着効果を得るために溶着模様の間隔を密にする必要がある。また、溶着列が多すぎると溶着模様が煩雑になって美観を損なうため、2列前後が好適である。当該溶着列に沿って、マスク本体2の長手方向端部に溶着模様Mと点Cが断続的に付されている。
【0026】
本図における溶着模様Mは、クローバーの葉を模した美観を有する図形であるが、クローバーの葉以外の葉、花、或いはキャラクターなどを模した図形であってもよい。このような模様を用いると、単に破線状の溶着列を用いるよりも、マスク本体2の美観を向上さ
せることができる。また、側部5,6を固定するシート部材を別途用いる必要はない。なお、肌触りをよくし、装着跡が残らないようにするため、特に耳紐4,5が接着されている長手方向端部等の肌面に密着する箇所の溶着模様の端部の輪郭は、鋭角でないことが望ましい。
【0027】
溶着模様Mの大きさは同一である必要はない、当該部分が要求される強度に応じてその大きさを変えることができる。マスクは通常複数層の機能性不織布シートで形成されている(例えば、肌触りを重視した肌面側シートと、異物通過を防ぐフィルタシートと、外部環境に耐える丈夫な非肌面側シートの3層)。側部5,6では、これら複数層の不織布シートを溶着して使用時に力がかかっても離散を防ぐことが求められる。プリーツが存在しない部分においては、複数層のシートのみを溶着できればよいため、溶着模様Mの大きさは最小限でよく、また塗りつぶされている必要もない。
【0028】
しかし、プリーツ(蛇腹状の折り目)存在部分では、マスクが複数回折り返されるため、一般的な3層の機能性シートからなるマスクにおいては、シートの接着枚数が最大で15枚(層)になることがある。この状態で、マスクを着用する際にプリーツを開くと、側部5,6には大きな力がかかり、シート同士が剥離しやすくなる。このため、従来のマスク設計においては、設計上のプリーツ部分の層数に対応できるように、溶着線の強度を規定していた。
【0029】
そこで、本実施形態に係るマスクでは、プリーツ部分において、溶着すべき不織布シートの層が多くなる箇所では、塗りつぶしにより溶着面積が増大した、大きな溶着模様M1を付し、また模様同士の密度を高くして強力に溶着する。幅方向上下にあるプリーツが存在しない箇所では、小さく、また輪郭線のみからなるM3を付することができる。また、マスクの幅方向中央部などの溶着すべき不織布シートの枚数が少ない箇所では、塗りつぶしにより溶着面積が増大した、小さな溶着模様M2を付することができる。
【0030】
このように、溶着模様の大きさを変更したり、塗りつぶしの有無によって単位面積あたりの溶着面積を変更したりすることで、側部5,6は、強度が必要となる部分で必要な強度を保つことができる。また、模様M1,M2,M3はいずれもクローバーの葉という、周囲の溶着模様と関連のある形状であり、その大きさや内部の塗りつぶしについて様々なアクセントができるので、使用者、また観察者に与える美観を向上させることができる。
【0031】
点Cは、溶着模様M1,M2,M3で不足する強度を補うために用いられる点状溶着部である。模様(本実施形態ではクローバーの葉)を並べると各側部同士の模様が重なってしまい審美性を損なうが、大きな溶着模様(M1)が溶着されている側部に隣接する側部において当該模様の近傍に点Cを設ければ、複数の側部により強度を維持でき、かつ美観を損なわない。
【0032】
プリーツが存在する部分においては、大量のシートを溶着する必要があり、着用時にプリーツが広がる力に対抗する必要があるため、なるべく点Cの数を少なくし、溶着模様M1,M2のいずれかを配置することが望ましい。
【0033】
各溶着列5A,5B(または6A,6B)のうち任意の一の溶着列に溶着模様Mを付した場合、隣接する溶着列の幅方向同一位置には、溶着模様Mなどの溶着部分を付さないことができる。このようにすることで、隣接する溶着列にはみ出して、複数列の溶着列に跨るような大きな溶着模様M(例えば、溶着模様M1)をマスク側面のアクセントとして付することができる。また、このような大きな溶着模様を付しても隣接溶着列に付された模様と融合してマスクの美観が損なわれることがない。
【0034】
任意の溶着列に大きな溶着模様を付して、強度上隣接する複数の溶着列でもシートを溶着する必要がある場合、当該大きな溶着模様M(例えば、溶着模様M1)の幅方向近傍位置に、大きさや形状を調整した(例えば、溶着模様がクローバーの葉であれば、四つ葉にしたり三つ葉にしたりする)小さな溶着模様M(例えば、溶着模様M2)や点Cなどを設けることができる。また、近傍にある溶着模様M同士が重ならないように、溶着模様M同士の方向を調整することもできる。このようにして調整しながら溶着模様Mと点Cを配置すると、結果的に隣接する溶着模様の大きさ・形状・方向が異なる、審美性が高い溶着列を実現することができる。また、各溶着列5A,5B(または6A,6B)を、側部5(または6)として見た場合、各側部において溶着模様が途切れることがない。
【0035】
このようにしてできた各溶着列(5A,5B,6A,6B)の各列を幅方向から見た場合、隣接する溶着模様の大きさ、形状、方向は異なっている。このように幅方向(縦方向)から見た場合に模様にバリエーションがある溶着列を用いれば、審美性を向上させることができる。また、各溶着列に意味を持たせる場合、これを視認・認識しやすくすることができる。このようにすることで、今まで単にシートの離散を防ぐ機能性を持たせることのみを目的として用いられていた溶着列に、訴求力のあるデザイン性をもたらすことができる。
【0036】
図3は、実施形態に係るマスクの上下方向を示す溶着模様の拡大図である。
図3(a)は、マスク本体2の長手方向左側端部である端部5の拡大図である。本図の上方向はマスクの上方(鼻方向)であり、下方向はマスクの下方(顎方向)である。端部5には、複数の溶着模様Mや点Cが付された溶着列が設けられている。本図の例では、長手方向端部側5Aと、長手方向中央側5Bの2列の溶着列が略平行に設けられている。溶着模様Mには、大きな溶着模様M1(M1の葉身には、クローバーの葉の数のバリエーションが存在する)、小さな溶着模様M2、輪郭線のみからなる溶着模様M3を含む。
【0037】
溶着模様M1は、他の溶着列に干渉して複数列に跨って付された、明確に視認可能な大きなエンボス模様である。そして、溶着模様M1には、非線状の葉身M1Uの他、他の溶着模様M2,M3にはない線状の葉柄M1Lが略上下方向に表現されており、使用者は葉身M1Uと葉柄M1Lとを容易に視認可能である。そして、各溶着模様M1の葉身M1Uは、マスクの上方(鼻方向)側に上部領域として、葉柄M1Lは、マスクの下方(顎方向)側に下部領域として付されている。溶着模様M1のバリエーションにおいても、葉身M1Uと葉柄M1Lの位置関係を逆転させないようにする。
【0038】
ここで、葉身M1Uは上部領域として矢印におけるアローヘッドの役割を果たし、略上下方向に付された葉柄M1Lは下部領域として矢印におけるシャフトの役割を果たし、溶着模様M1は着用者に方向を指し示す。そして、溶着模様M1の指し示す上下方向と、マスク本体2の上下方向とは一致する。よって、使用者は、マスクの端部5,6に付された溶着模様M1を見れば、マスクの上下方向を容易に判断することができる。また、溶着模様M1は輪郭内が塗りつぶされたエンボス模様であるため、使用者は、十分な照明がない環境下でも、溶着模様M1を触ることで、マスクの装着方向を容易に知ることができる。マスクの端部5,6は、使用者がマスクを装着しようとする際に必然的に触れる部分である。このため、当該部分でマスクの上下方向を判断できる本実施形態の利便性は非常に高いと言える。
【0039】
図3(b)は、マスク本体2の左下、ノーズフィッターと反対側の幅方向端部に付された文字列記載領域部分の拡大図である。文字列記載領域には、ブランドロゴ8が付されている。ブランドロゴ8は一例としてはマスクの販売元等を示す英数字または記号であって、使用者はブランドロゴ8を構成する文字または記号の方向を見るだけで、マスクの上下方向を判断することができる。しかし、小児用マスクにブランドロゴ8を付す場合、小児
がブランドロゴ8を構成する文字や記号を理解できず、結果としてブランドロゴがマスクの上下方向を判断するための指標としては機能しないという問題が生じ得る。
【0040】
そこで、ブランドロゴ8の横に、側部5,6に付されている模様と関係性を有する補助模様を付することができる。本図の例では、側部5,6に付されている溶着模様Mと同様、クローバーを模した補助模様9が付されている。ブランドロゴ8の近傍では、機能性シートの離散を防ぐ必要がないため、補助模様9は輪郭線のみで構成して良い。補助模様9にも、葉柄9Lを有する模様を付し、葉身9Uが必ずマスクの上方(鼻方向)側に、葉柄9Lが必ずマスクの下方(顎方向)側を向くようにする。
【0041】
補助模様9においても、溶着模様M1の場合と同様に、葉身9Uが矢印におけるアローヘッドの役割を果たし、葉柄9Lが矢印におけるシャフトの役割を果たす。そして、溶着模様M1の場合と同様に、補助模様9が指し示す上下方向と、マスク本体2の上下方向とは一致する。このため、例え使用者がブランドロゴ8を構成する文字や記号を理解できない場合でも、ブランドロゴ8の横に付された補助模様9の形状を認識することにより、上下方向を正しく判断することができる。
【0042】
文字列記載領域に付されたブランドロゴ8と補助模様9が熱溶着技術により形成されてよいのは前述のとおりである。しかし、ブランドロゴ8と補助模様9には、側部5,6を形成する溶着列に付される溶着模様Mとは異なり、シート同士の離散を防ぐ機能を与える必要はないため、必ずしも熱溶着により形成されている必要はない。また、熱溶着によりエンボス状に形成される溶着模様Mがマスク1の長手方向端部に多数存在する中、文字列記載領域を熱溶着により形成すると、文字列記載領域は目立ちにくくなり、使用者が文字列記載領域をかえって認識しづらくなる虞が生じる。
【0043】
そこで、文字列記載領域については、その形成に以下のような別の手法を用いることができる。これらの手法は、ブランドロゴ8、補助模様9の両方に用いられてもよいが、いずれか一方のみに用いられてもよい。
【0044】
例えば、文字列記載領域は、インクをノズルから噴射して定着させるインクジェット印刷技術により形成されてよい。当該方法による場合、文字列記載領域は、水溶性の、または水と混合した顔料インクを、非肌面側のシートに乗せるか浸透させて乾燥させることで形成して良い。この方法では、熱溶着による方法と違い、複雑な色彩を自由に付加することができる。
【0045】
また、インクジェット印刷技術において、インク着弾後に紫外線を当てることで固化するインク(UV硬化インク)を使用して良い。UV硬化インクはシートに染み込まず、蒸発せずに固化するため、微小な凹凸感のある模様を描くことができる。
【0046】
なお、文字列記載領域は、スタンプにより付加されてよい。上述のインクジェットのような印刷技術を用いるよりも簡易に、対象に色彩を付加することができる。これらの手法では、色彩により、文字列記載領域が非常に目立ちやすくなる。これにより、当該文字列記載領域に付されたブランドロゴ8と補助模様9が上下方向を明確に指し示す効果が期待できる。
【0047】
更に、文字列記載領域は、熱溶着を伴わないエンボス刻印によって形成されてよい。熱溶着を用いる場合、模様は凹部となるが、エンボス刻印を用いる場合、模様は凸部となる。模様の形式が他の部分と異なることで、使用者の触感によってこれらの文字列記載領域に付された模様が識別しやすくなり、暗所でも上下方向の判断がしやすくなる。なお、エンボス刻印と同時にスタンプを用いて、対象に色彩を付加することもできる。
【0048】
図4は、レーザ加工の例を示す図である。文字列記載領域に付されるブランドロゴ8と補助模様9は、レーザ加工により付加することもできる。レーザ加工により、以下のようなマーキングが可能である。
図4(a)は、コーティング剥離による刻印を示した図である。基材となるマスク1の非肌面側シート20の更に非肌面側に、予め色の異なる薄いコーティング21を付しておき、レーザL1のエネルギーにより、コーティング21を剥離する。コーティング21が排除された部分に基材の色が現れるため、文字列記載領域にブランドロゴ8と補助模様9を浮かび上がらせることができる。
【0049】
図4(b)は、掘り込みによる刻印を示した図である。本図の例では、レーザL2により基材となるマスク1の非肌面側シートの表面を融解させ、文字列記載領域にブランドロゴ8と補助模様9を刻印する。通常の不織布シートは白色であるが、表面が融解した不織布は半透明になる。このため、刻印部分のコントラストが変化し、ブランドロゴ8と補助模様9を浮かび上がらせることができる。
【0050】
図4(c)は、発色によるレーザ加工の例を示す図である。本図の例では、基材となるマスク1の非肌面側シート20に、レーザ照射に反応して変色する発色層22を設けておき、当該発色層22にレーザL3を照射することにより発色層を変色させ、文字列記載領域にブランドロゴ8と補助模様9を浮かび上がらせる。また、非肌面側シート20の表面をレーザL3により炭化させることで文字列記載領域を形成してもよい。
【0051】
レーザ加工では、スタンプやインクジェットと違いインクコストが不要になるため、それらの資材管理工数を削減できるというメリットがある。また、レーザ加工がなされた部分はマスク本体においてより注目されやすく、上下方向を把握しやすくなるという利点がある。
【0052】
図5は、補助溶着線を更に備えるマスク本体部分を示した図である。補助溶着線10A,10Bは、マスク四隅の幅方向端部において溶着模様が存在しない位置に配置される輪郭のみからなる補助溶着図形であり、溶着模様Mが存在しない部分でマスクの幅方向端部を更に補強する。補助溶着線10A,10Bは、それぞれ単体で意味を持つ図形であって、マスクの上下(顎側と頬側)で同一の図形であってもよいが、10A,10Bの両方を見た場合に更なる観念を生じ、関係性を認識しやすい図形であることがより望ましい。
【0053】
図5の例では、補助溶着線10Aは飛行中のロケットを、補助溶着線10Bは当該ロケットの排煙を表している。一般にロケットは地面から空に向かって飛行するものであることから、マスクの端部を見てこの溶着図形を同時に認識した使用者は、マスクを装着する際、マスクの上下方向を正確に判断することができる。
図5の例では、補助溶着線10A,10Bはマスクの対角線状に関係性を有しているが、補助溶着線10A,10Bは、同一長手方向の幅方向端部同士で関係性を認識できるように付されていてもよい。
【0054】
補助溶着線10A,10Bによって、各溶着列(5A,5B,6A,6B)におけるマスクの四隅に付されている点Cを代用することもできる。すなわち、補助溶着線10A,10Bによってマスク四隅の強度を十分に確保できるのであれば、補助溶着線10A,10Bの存在する場所では、各溶着列における点Cを付加しなくてよい。また、補助溶着線10A,10B近傍の点Cの量を減らしてもよい。補助溶着線付近の点Cを減らすことで、補助溶着線10A,10Bのデザインが阻害されにくくなる。
【0055】
図6は、別の形態の補助溶着線を有するマスク本体部分を示した図である。本図で示す補助溶着線11,12も、マスク四隅の幅方向端部において溶着模様が存在しない位置に配置される輪郭のみからなる補助溶着図形であり、溶着模様Mが存在しない部分でマスク
の幅方向端部を更に補強するものであることは
図5と同様である。
【0056】
マスクの上下に付する補助溶着線は、必ずしも一つの物体とその物体の残す航跡である必要性はなく、そもそも別の物体を示す図形であってもよい。例えば、本図では、マスク上方に付する補助溶着線11は、飛行中の飛行機の形をしている。そして、マスク下方に付する補助溶着線12は、鉄道車両の形をしている。そして、飛行機は大気中を飛行し、鉄道車両は地表を運行するので、補助溶着線11と補助溶着線12を同時に認識した使用者は、観念上マスクの上下方向を容易に判断することができる。
【0057】
マスク下方に付する補助溶着線は、地表を運行する乗り物であれば種類を問わず、自動車であってよいし、船舶であってもよい。マスク上方に付する補助溶着線も、大気中を飛行する乗り物であれば種類を問わず、ヘリコプターや気球などであってよい。乗り物の種類を変えても、飛行する乗り物と地表を運行する乗り物の組み合わせにより、同様にマスクの上下方向を容易に判断することができる。一般に、子供(特に男児)にとって乗り物は親しみがあるものであり、このような補助溶着線を付せば、子供がマスクを忌避しにくくなる効果を期待できる。
【0058】
また、補助溶着線に付する図形は、人気のキャラクターとしてもよい。マスク上方には設定上空を飛ぶことができる、飛行中のキャラクター、マスク下方には設定上空を飛ばないキャラクターを付すことで、同様の効果を与えることができる。
【0059】
以上、本発明におけるマスクの実施の形態について説明したが、本発明の内容は上記実施の形態に限られるものではない。本図における溶着模様M1は、クローバーの葉身と葉柄を模した図形を溶着して形成されており、葉身と葉柄がマスクの上下方向を示す矢印の役割を果たす。しかし、溶着模様M1は、例えば動物の絵柄で代用してもよい。動物の絵柄を用いる場合、動物の胴体が矢印のアローヘッドとなり、尻尾が矢印のシャフトとなる。よって、動物の絵柄を用いた場合でも、植物の葉身と葉柄を用いた場合と同様に、上下方向を指し示すことができる。
【0060】
また、マスクの上下方向を示す溶着模様は単純な矢印そのものであってもよいし、側部5,6に付する図形は楔型図形を連続したものであってもよい。しかしマスクは顔に着用されるため、審美性を有する図形を用いることがより好ましい。
【0061】
本実施形態では、マスクの上下方向を示す図形を、熱溶着によるエンボス図形である溶着模様として説明した。溶着模様は、マスクの上下方向を示しつつ、機能性シートの積層体を固定することができるため好適であるが、マスクの上下方向を示す図形は印刷によって付されてもよい。この場合、機能性シートの積層体は、既存の溶着線によって別途固定できるため、マスクの上下方向を示す図形は、積層体の固定という役割を離れてより自由な場所に、自由な色彩を持った形で付することができる。
【0062】
以上で開示した実施形態や応用例は、それぞれ組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0063】
1・・マスク
2・・マスク本体
3,4・・耳紐
5,6・・側部
5A,5B,6A,6B・・溶着列
7・・ノーズフィッター
M,M1,M2,M3・・溶着模様
M1U・・葉身
M1L・・葉柄
C・・点
8・・ブランドロゴ
9・・補助模様
9U・・葉身
9L・・葉柄
L1,L2,L3・・レーザ
10A,10B・・補助溶着線
11・・補助溶着線(飛行機)
12・・補助溶着線(鉄道車両)
20・・非肌面側シート
21・・コーティング
22・・発色層