(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181520
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】バッテリ制御装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/388 20190101AFI20221201BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20221201BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20221201BHJP
G01R 31/3828 20190101ALI20221201BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20221201BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20221201BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20221201BHJP
【FI】
G01R31/388
H02J7/00 P
H02J7/00 M
H01M10/48 P
H01M10/48 301
G01R31/3828
B60L50/60
B60L58/12
B60L3/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088513
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 健太
(72)【発明者】
【氏名】藤本 健大
(72)【発明者】
【氏名】内田 義宏
(72)【発明者】
【氏名】菅生 雄基
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 遼太
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA03
2G216BA42
2G216BA65
2G216CA11
2G216CB35
2G216CB51
2G216CB55
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503CB11
5G503DA08
5G503EA05
5G503FA06
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125AC24
5H125BC08
5H125BC21
5H125CD04
5H125DD03
5H125DD04
5H125EE22
5H125EE23
5H125EE25
5H125EE27
5H125EE30
(57)【要約】
【課題】本明細書は、バッテリの満充電容量を高い精度で推定する技術を提供する。
【解決手段】本明細書が開示するバッテリ制御装置は、バッテリの電圧(バッテリ電圧)が所定の開始電圧閾値を下回っている状態から所定の終了電圧閾値を超えるまでバッテリが充電され、かつ、バッテリが所定の許可条件を満たす場合、充電開始から充電終了までの間にバッテリに供給された電流量と、充電開始時と充電終了時のバッテリ電圧に基づいてバッテリの満充電容量を推定する。本明細書が開示する制御装置は、高い精度で満充電容量を推定することができる条件(許可条件)を記憶しておき、許可条件が成立した場合に満充電容量を推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの満充電容量を推定するバッテリ制御装置であり、
前記バッテリの電圧(バッテリ電圧)が所定の開始電圧閾値を下回っている状態から所定の終了電圧閾値を超えるまで前記バッテリが充電され、かつ、前記バッテリが所定の許可条件を満たす場合、充電開始から充電終了までの間に前記バッテリに供給された電流量と、充電開始時と充電終了時の前記バッテリ電圧に基づいて前記満充電容量を推定する、バッテリ制御装置。
【請求項2】
前記許可条件は、
(1)充電開始時と充電終了時の前記バッテリの温度が所定の許容温度閾値を超えていること、
(2)充電開始前に、少なくとも所定の待機時間の間、前記バッテリに出入りする電流が所定の第1電流閾値を下回っていること、
(3)充電中に前記バッテリへ供給される平均電流が所定の第2電流閾値を超えていること、
(4)充電開始から充電終了までの充電時間が所定の充電時間閾値よりも短いこと、
(5)前記充電時間が、前記電流量を前記充電時間で除した平均電流に対応した容量推定禁止時間よりも短いこと、
のいずれかである、請求項1に記載のバッテリ制御装置。
【請求項3】
予め定められた放電条件で前記バッテリの放電を行った後、前記終了電圧閾値に達しなかった充電が行われた充電回数を記憶し、
充電終了時に前記終了電圧閾値を超えたときに記憶されている前記充電回数が所定の回数閾値を超えていた場合、前記許可条件に関わらず前記満充電容量の推定を禁止する、
請求項1または2に記載のバッテリ制御装置。
【請求項4】
充電開始時と充電終了時の前記バッテリの開放電圧に基づいて前記満充電容量を推定する、請求項1から3のいずれか1項に記載のバッテリ制御装置。
【請求項5】
前記バッテリ制御装置は、走行用のモータを駆動するインバータに前記バッテリが接続されている自動車に搭載されており、
前記許可条件は、充電開始前に、少なくとも所定の待機時間の間、前記インバータが前記バッテリから遮断されていること、
である、請求項1から4のいずれか1項に記載のバッテリ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、再充電が可能なバッテリの制御装置に関する。特に、満充電容量を正確に推定することのできるバッテリ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリは、経時劣化により満充電容量が変化する。満充電容量とは、充電率100%に対応するバッテリの電気容量を意味する。満充電容量が変化すると、バッテリの充電率(残容量と満充電容量の比)と、バッテリの実際の残容量が整合しなくなる。従って、バッテリ制御装置は定期的に満充電容量を再推定することが望ましい。
【0003】
一方、バッテリの状態によっては満充電容量の推定精度が低下するおそれがある。特許文献1に開示されている推定方法では、満充電容量の推定に先立って、所定の放電速度以下でバッテリを放電する。満充電容量は、バッテリ電圧と、バッテリに充電された電流量に基づいて推定される。ゆっくりと放電することで、放電後のバッテリの電圧変動(開放電圧の変動)を抑えることができ、満充電容量を精度よく推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書は、従来の技術とは異なるアプローチでバッテリの満充電容量を高い精度で推定する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示するバッテリ制御装置は、バッテリの電圧(バッテリ電圧)が所定の開始電圧閾値を下回っている状態から所定の終了電圧閾値を超えるまでバッテリが充電され、かつ、バッテリが所定の許可条件を満たす場合、充電開始から充電終了までの間にバッテリに供給された電流量と、充電開始時と充電終了時のバッテリ電圧に基づいてバッテリの満充電容量を推定する。
【0007】
本明細書が開示する制御装置は、高い精度で満充電容量を推定することができる条件(許可条件)を記憶しておき、許可条件が成立した場合に満充電容量を推定する。従って、高い精度で満充電容量を推定することができる。
【0008】
許可条件の例は、次の通りである。(1)充電開始時と充電終了時のバッテリの温度が許容温度閾値を超えていること。(2)充電開始前に、少なくとも所定の待機時間の間、バッテリに出入りする電流が所定の第1電流閾値を下回っていること。(1)または(2)の許可条件が成立すると、電池分極に起因するバッテリの電圧変動(バッテリの開放電圧の変動)が小さくなる。満充電容量は、充電開始時と終了時のバッテリ電圧と、バッテリに供給された電流量に基づいて推定される。バッテリの電圧変動(開放電圧の変動)が小さければ、満充電容量を高い精度で推定することができる。
【0009】
許可条件の別の例は、次の通りである。(3)充電中のバッテリへ供給される平均電流が所定の第2電流閾値を超えていること。(4)充電開始から充電終了までの充電時間が所定の充電時間閾値よりも短いこと。(5)充電時間が、電流量を充電時間で除した平均電流に対応した容量推定禁止時間よりも短いこと。バッテリに供給される電流量は、バッテリに充電される電流を計測する電流センサの計測値を積算することで得られる。電流センサの計測値には、オフセット誤差が含まれ得る。(3)~(5)の許可条件は、電流センサの計測値に含まれるオフセット誤差の積算値を小さくする。すなわち、これらの許可条件が成立すると、充電中にバッテリに供給された電流量の計測精度が向上する。従って、満充電容量を高い精度で推定することができる。特に、(5)の条件は、充電中の平均電流にもオフセット誤差の影響が含まれる場合に有効である。平均電流に対応した容量推定禁止時間は、典型的には、予めバッテリ制御装置に記憶されている。
【0010】
バッテリ制御装置は、次の処理を含んでいてもよい。バッテリ制御装置は、予め定められた放電条件でバッテリの放電を行った後、終了電圧閾値に達しなかった充電が行われた充電回数を記憶する。バッテリ制御装置は、充電終了時に終了電圧閾値を超えたときに記憶されている充電回数が所定の回数閾値を超えていた場合、許可条件に関わらず満充電容量の推定を禁止する。
【0011】
終了電圧閾値に達しない充電が繰り返し行われることも、バッテリの開放電圧の変動が大きくなる。許可条件を満たしていても、終了電圧閾値に達しなかった充電が所定回数以上行われていた場合に満充電容量の推定を禁止することで、精度の低い推定が行われることを回避することができる。
【0012】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例の制御装置を備えたハイブリッド車の電力系のブロック図である。
【
図2】満充電容量推定を実施するか否かの判定処理のフローチャートである(第1実施例)。
【
図4】推定許可フラグを操作する処理のフローチャートである(1)。
【
図5】推定許可フラグを操作する処理のフローチャートである(2)。
【
図6】満充電容量推定を実施するか否かの判定処理のフローチャートである(第2実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施例)図面を参照して実施例のバッテリ制御装置(制御装置10)を説明する。制御装置10は、ハイブリッド車2に搭載されている。
図1に、制御装置10を含むハイブリッド車2の電力系のブロック図を示す。ハイブリッド車2は、走行用に、2個のモータ31、32とエンジン33を備える。ハイブリッド車2は、メインバッテリ21とインバータ26を備えており、インバータ26が、メインバッテリ21の出力電力(直流電力)をモータ31、32の夫々の駆動電力(三相交流電力)に変換する。
【0015】
モータ31、32の出力軸、および、エンジン33の出力軸は、動力分配機構34にてギアを介して係合している。動力分配機構34は、エンジン33の出力トルクと、モータ31、32の出力トルクを合成し、車軸35に伝達する。合成された出力トルクはデファレンシャルギア36を介して駆動輪37に伝達される。
【0016】
動力分配機構34は、エンジン33の出力トルクを車軸35とモータ31に分配する場合がある。エンジン33の出力トルクの一部で逆駆動されるモータ31は、発電機として機能する。モータ31が発電した電力(交流電力)は、インバータ26にて直流電力に変換され、メインバッテリ21に充電される。
【0017】
モータ31、32は、車両の慣性エネルギを使って発電する場合がある。車両の慣性エネルギで得られる電力は回生電力と呼ばれる。回生電力も、インバータ26にて直流電力に変換されてメインバッテリ21に充電される。
【0018】
上記したように、メインバッテリ21は、モータ31、32が発電した電力で充電される場合がある。
【0019】
また、メインバッテリ21は、家庭用コンセントなどの外部電源50によって充電される場合がある。メインバッテリ21には、高電圧リレー27を介して電力注入口28が接続されている。電力注入口28には、外部電源50が接続され得る。
図1では、外部電源50は仮想線で描いてある。外部電源50は、ハイブリッド車2が停止している場合にのみ、電力注入口28を介してメインバッテリ21に接続されることが可能である。
【0020】
メインバッテリ21には降圧コンバータ41も接続されている。降圧コンバータ41は、メインバッテリ21の出力電力の電圧を補器バッテリ42の電圧へ下げる。降圧コンバータ41で降圧された電力は、補器バッテリ42に供給されるとともに、複数の補器43、44に供給される。補器43、44とは、補器バッテリ42の電力で駆動されるデバイスの総称である。オーディオやナビゲーション装置が補器43、44の例である。
【0021】
メインバッテリ21とインバータ26は、システムメインリレー25を介して接続されている。システムメインリレー25が開くと、メインバッテリ21がインバータ26やモータ31、32から電気的に遮断される。高電圧リレー27を閉じ、外部電源50でメインバッテリ21を充電するとき、システムメインリレー25は開かれ、メインバッテリ21がインバータ26(モータ31、32)から遮断される。
【0022】
ハイブリッド車2は、メインバッテリ21の電圧を計測する電圧センサ22、メインバッテリ21に出入りする電流を計測する電流センサ23、メインバッテリ21の温度を計測する温度センサ24も備えている。センサ22-24の計測値は制御装置10に送られる。
【0023】
制御装置10は、ハイブリッド車2の走行駆動系(すなわち、インバータ26やエンジン33)を制御するとともに、センサ22-24の計測値に基づいてメインバッテリ21を制御する。制御装置10は、外部電源50でメインバッテリ21が充電されたときに、メインバッテリ21の満充電容量を推定する場合がある。制御装置10は、コンピュータ11と記憶装置12を備えている。記憶装置12に格納された容量推定プログラムをコンピュータ11が実行するとき、制御装置10はメインバッテリ21の満充電容量を推定するバッテリ制御装置として機能する。
【0024】
先に述べたように、メインバッテリ21は、モータ31、32による回生電力で充電される場合と、外部電源50により充電される場合がある。満充電容量の推定は、外部電源50による充電であって、所定の許可条件が成立した場合にのみ実施される。許可条件が成立しない場合、満充電容量が正確に推定できない可能性があるため、満充電容量の推定を実施しない。逆に、許可条件が成立したときに限って満充電容量を推定することで、満充電容量を正確に推定することができる。
【0025】
制御装置10が満充電容量推定を行うか否かを判断するための処理のフローチャートを
図2に示す。
図2の処理は、電力注入口28に外部電源50が接続されると開始される。なお、制御装置10は、
図2の処理とは別に、システムメインリレー25が開かれてからの経過時間を計測している。説明の便宜上、システムメインリレー25が開かれてからの経過時間をメインリレー開放時間と称する。メインリレー開放時間は、許可条件で用いられることがある。許可条件については後に詳しく説明する。
【0026】
制御装置10は、バッテリ電圧とバッテリ温度を取得する(ステップS2)。バッテリ電圧は電圧センサ22により計測され、バッテリ温度は温度センサ24により計測される。ステップS2は充電開始の直前に実行されるので、説明の都合上、ステップS2で取得されるバッテリ電圧とバッテリ温度を開始電圧と開始温度と称する。
【0027】
外部電源50による充電は、システムメインリレー25が開かれている間に実行される。システムメインリレー25が開放かれている間、大きな電力を消費し得るインバータ26とモータ31、32がメインバッテリ21から切り離される。システムメインリレー25が開かれており、かつ、充電開始前は、メインバッテリ21にはわずかな電流のみが出入り可能である。電流の出入りがほとんどない状態のメインバッテリ21の電圧は開放電圧と呼ばれる。満充電容量は、充電前と充電後のメインバッテリ21の開放電圧を用いて推定される。ステップS2で取得される開始電圧はメインバッテリ21の充電を開始するときの開放電圧に相当する。
【0028】
次いで制御装置10は、高電圧リレー27を閉じ、メインバッテリ21の充電を開始する(ステップS3)。制御装置10は、充電が開始されてから終了するまでの間にメインバッテリ21に供給される電流を積算する(ステップS5:NO、S4)。積算された値は、充電が開始されてから終了するまでの間にメインバッテリ21に供給された電流量を表す。メインバッテリ21に供給される電流は電流センサ23で計測される。
【0029】
制御装置10は、メインバッテリ21の電圧を監視しており、電圧が終了電圧閾値を超えると充電を終了する(ステップS5:YES)。ただし、外部電源50の側の不具合などによりメインバッテリ21の電圧が終了電圧閾値に達する前に充電が終了する場合もあり得る。
【0030】
充電が終了すると、制御装置10は、高電圧リレー27を開き(ステップS6)、続いて、バッテリ電圧とバッテリ温度を取得する(ステップS7)。説明の都合上、ステップS6で取得したバッテリ電圧とバッテリ温度を終了電圧と終了温度と称する。ステップS6で高電圧リレー27を開いているので、ステップS6でバッテリ電圧を取得する際、メインバッテリ21には電流が流れていない。すなわち、終了電圧は、充電が終了したときのメインバッテリの開放電圧に相当する。
【0031】
制御装置10は、開始電圧と開始電圧閾値を比較し、終了電圧と終了電圧閾値を比較する(ステップS8)。開始電圧が開始電圧閾値を下回っており、かつ、終了電圧が終了電圧閾値を超えているとき、制御装置10は、許可条件をチェックする(ステップS8:YES、S9)。開始電圧が開始電圧閾値を上回っているか、または、終了電圧が終了電圧閾値を下回っている場合、制御装置10は、満充電容量を推定することなく、処理を終了する(ステップS8:NO)。
【0032】
開始電圧閾値は、典型的には、メインバッテリ21の充電率(SOC:State Of Charge)=10%に相当する電圧に設定されている。終了電圧閾値は、メインバッテリ21の充電率=90%に相当する電圧に設定されている。良く知られているように、バッテリの充電率とバッテリ電圧には相関があり、制御装置10は、開始電圧から充電開始時の充電率を得ることができ、終了電圧から充電終了時の充電率を得ることができる。
【0033】
ステップS8の条件は、メインバッテリ21に相応の電流量が充電されることを保証する。相応の電流量が充電されたときに満充電容量の推定を実施することで、推定精度を高めることができる。
【0034】
制御装置10は、予め定められている許可条件が成立した場合に満充電容量推定処理を実施する(ステップS9:YES、S10)。許可条件は、予め、制御装置10(記憶装置12)に記憶されている。
【0035】
許可条件は、次通りである。(1)充電開始時と充電終了時のメインバッテリ21の温度が所定の許容温度閾値を超えていること。(2)充電開始前に、少なくとも所定の待機時間の間、メインバッテリ21に出入りする電流が所定の第1電流閾値を下回っていること。(3)充電中にバッテリへ供給される平均電流が所定の第2電流閾値を超えていること。(4)充電時間が所定の充電時間閾値よりも短いこと。(5)充電時間が、充電開始から充電終了までの間にメインバッテリ21に供給された電流量を充電時間で除した平均電流に対応した容量推定禁止時間よりも短いこと。
【0036】
許可条件は、(1)から(5)の条件のいずれか1個が成立することでよいし、(1)から(5)の中から選択した複数の条件が全て成立することであってもよい。また、条件(1)に代えて、充電開始から充電終了までの間、メインバッテリ21の温度が継続して許容温度閾値を超えていること、を条件にしてもよい。
【0037】
(1)または(2)の条件が成立すると、メインバッテリ21の電池分極に起因する開放電圧の変動が小さくなることが知られている。なお、実施例の場合、システムメインリレー25が開かれている間、メインバッテリ21に出入りする電流が第1電流閾値を下回ることが保証される。従って、先に述べたメインリレー開放時間が待機時間を超えている間、メインバッテリ21に出入りした電流が第1電流閾値を下回ることが保証される。(2)の条件は、「充電開始前に、少なくとも待機時間の間、インバータ26がメインバッテリ21から遮断されていること」と言い換えてもよい。
【0038】
第1電流閾値は、例えば、0.001[cレート]であるとよい。[cレート]とは、バッテリの充電(放電)スピードを表す単位である。1.0[cレート]は、1時間でバッテリを充電率0%から100%に充電すること(あるいは、1時間でバッテリを充電率100%から0%へ放電すること)に相当する。
【0039】
メインバッテリ21の満充電容量は、メインバッテリ21がフルに充電されたときの電流容量であって、充電率100%に対応する電流容量を意味する。満充電容量は、充電開始時と終了時のバッテリ電圧(開放電圧)と、充電開始から充電終了までの間にメインバッテリ21に供給された電流量から推定される。許可条件(1)または(2)が成立すると、電気分極に起因する開放電圧の変動を抑えられるので、高い精度で満充電容量を推定することができる。
【0040】
(3)または(4)の条件が成立すると、電流を積算するときの電流センサのオフセット誤差の蓄積を抑えることができる。オフセット誤差とは、メインバッテリ21に流れる実際の電流と、電流センサ23の計測値の間のずれを意味する。オフセット誤差が大きいとメインバッテリ21に供給された電流量(電流センサ23の計測値の積算値)の誤差が大きくなる。充電中にバッテリへ供給される平均電流が所定の第2電流閾値を超えていると(許可条件(3))、オフセット誤差の影響が相対的に小さくなる。また、充電時間が短い場合も(許可条件(4))、オフセット誤差の影響が相対的に小さくなる。許可条件(3)または(4)が成立すると、電流センサのオフセット誤差の影響を抑えられるので、満充電容量が高い精度で推定することができる。
【0041】
充電中にメインバッテリ21へ供給される平均電流が大きいと、充電時間が短くなるから、条件(3)と条件(4)は等価である。第2電流閾値は、例えば、0.2[cレート]であり、充電時間閾値は、たとえば、5[時間]である。
【0042】
(5)の条件が成立する場合、電流を積算するときの電流センサ23のオフセット誤差の影響をより効果的に抑えることができる。平均電流が定まれば、大まかな充電時間(予想充電時間)が定まる。充電は、バッテリ電圧が終了電圧閾値に達したときに終了する。充電時間が予想よりも長いという現象は、電流センサ23の計測値に大きなオフセット誤差が含まれており、実際にメインバッテリ21へ供給される電流が電流センサ23の計測値よりも小さい場合に生じる。容量推定禁止時間は、平均電流に対応した予想充電時間よりも長い時間に設定される。それでも実際の充電時間が容量推定禁止時間を超えている場合、電流センサ23の計測値に大きなオフセット誤差が含まれることを意味する。実際の充電時間が容量推定禁止時間を超えている場合は満充電容量の推定を中止することで、オフセット誤差が大きい場合(すなわち、満充電容量の推定の精度が下がる場合)を除外することができる。逆にいえば、実際の充電時間が容量推定禁止時間よりも短い場合に満充電容量の推定を許可することで、満充電容量を正確に推定することができる。平均電流に対応した容量推定禁止時間は、典型的には、予め制御装置10に記憶されている。例えば、制御装置10の記憶装置12に、複数の平均電流と、それぞれの平均電流に対応する容量推定禁止時間が記憶されている。あるいは、制御装置10の記憶装置12に、平均電流と容量推定禁止時間の関係式が記憶されている。
【0043】
図3を参照して満充電容量推定処理を説明する。先に述べたように、メインバッテリ21の開放電圧と充電率の間には相関がある。制御装置10は、相関を記憶している。制御装置10は、相関を参照し、開始電圧を充電開始時の充電率(開始SOC)に換算し、終了電圧を充電終了時の充電率(終了SOC)に換算する(ステップS12)。なお、SOCの単位は[%]である。制御装置10は、開始SOC、終了SOC、ステップS4で積算した電流(充電された電流量)を用いて満充電容量を算出する(ステップS13)。満充電容量は、[電流積算値]×100/([終了SOC]-[開始SOC])の式によって得られる。
【0044】
最後に制御装置10は、記憶している古い満充電容量を、ステップS13で算出した新たな満充電容量で更新する(ステップS14)。
【0045】
(第2実施例)続いて、第2実施例のバッテリ制御装置について説明する。第2実施例のバッテリ制御装置(制御装置10)は、充電前の放電の状態に依存して満充電容量推定を行うか否かを決定する。ゆっくり放電することで、電池分極に起因する開放電圧の変動が小さくなる。一方、少ない電流量の充電を繰り返し実行することは、電池分極に起因する開放電圧の変動を大きくする。そこで、制御装置10は、所定の放電条件を満たした放電が実施されてから次の充電までの間に小電流量の充電が多数回実行された場合には満充電容量の推定を禁止する。電池分極に起因する開放電圧の変動が大きいことが予想される場合に満充電容量の推定を禁止することで、精度の低い満充電容量推定を回避することができる。
【0046】
第2実施例の制御装置10が実行する処理を
図4から
図6を参照して説明する。第2実施例では、制御装置10が実行するプログラム内で定義されたフラグ変数(推定許可フラグ)と、経過時間を計測するカウンタ変数(充電カウンタ)を用いる。
図4と
図5は、推定許可フラグと充電カウンタを操作する処理のフローチャートである。
【0047】
図4の処理は一定の周期で繰り返し実行される。制御装置10は、放電条件を満たした放電が実施されると、推定許可フラグにONをセットし、充電カウンタをゼロクリアする(ステップS22:YES、S23)。放電条件とは、メインバッテリ21の電圧が開始電圧閾値を下回るまで、所定の第3電流閾値を下回る電流で放電を実施することである。先に述べたように、ゆっくりと放電することで(第3電流閾値を下回る放電電流でメインバッテリ21を放電することで)、電池分極に起因する電圧変動を抑えることができる。第3電流閾値は、例えば、0.1[cレート]である。
【0048】
制御装置10は、メインバッテリ21の充電が行われる毎に
図5の処理を実行する。先に述べたように、ハイブリッド車2は、外部電源50による充電のほか、モータ31、32が生成する回生電力によっても充電される。
図5の処理は、外部電源50による充電と、回生電力による充電のいずれの場合にも実行される。
【0049】
図5の処理は、推定許可フラグにONが設定されているときに実行される(ステップS32:YES、S33)。
【0050】
充電が終了すると、制御装置10は、充電終了時のメインバッテリ21の電圧(終了電圧)を取得し、終了電圧を終了電圧閾値と比較する(ステップS33)。終了電圧閾値は、
図2のステップS8で用いた閾値と同じである。終了電圧が終了電圧閾値を超えている場合(ステップS33:NO)、制御装置10は処理を終了する。終了電圧が終了電圧閾値を下回っている場合、制御装置10は、充電カウンタをインクリメントする(ステップS33:YES、S34)。すなわち、制御装置10は、終了電圧閾値に達しない充電が実施された回数を記憶する。そして、制御装置10は、充電カウンタの回数が所定の回数閾値を超えている場合、推定許可フラグにOFFをセットする(ステップS35:YES、S36)。終了電圧閾値に達しない充電が行われても、充電カウンタが回数閾値以下の場合、推定許可フラグは変更されない(ステップS35:NO)。
【0051】
図4、5のフローチャートの処理の意味は次の通りである。すなわち、制御装置10は、放電条件を満たした放電が実施されると放電許可フラグにONをセットする。しかし、その後、終了電圧閾値に達しない充電が回数閾値を超えて実施されると、制御装置10は、放電許可フラグにOFFを設定する。
【0052】
システムメインリレー25が開放され、電力注入口28に外部電源50が接続されると、制御装置10は
図6の処理を開始する。制御装置10は、
図2のステップS2からS8までの処理を実行する。ステップS2からS7までの処理については説明を省略する。
【0053】
開始電圧が開始電圧閾値を下回り、かつ、終了電圧が終了電圧閾値を上回っている場合、制御装置10は、推定許可フラグを参照する(ステップS8:YES、S41)。ステップS41にて、推定許可フラグがONであれば許可条件をチェックする(ステップS41:YES、S9)。許可条件が成立していれば、制御装置10は満充電容量推定処理を実行する(ステップS9:YES、S10)。一方、ステップS41にて、推定許可フラグがOFFであれば、制御装置10は満充電容量推定を実行しない(ステップS41:NO)。別言すれば、制御装置10は、推定許可フラグがOFFであれば、満充電容量推定を禁止する。
【0054】
先に述べたように、第2実施例の制御装置10は、所定の放電条件を満たした放電が実施されてから次の充電までの間に小電流量の充電が多数回実行された場合には満充電容量の推定を禁止する。電池分極に起因する開放電圧の変動が大きいことが予想される場合に満充電容量の推定を禁止することで、精度の低い満充電容量推定を回避することができる。
【0055】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。制御装置10は、バッテリ電圧が開始電圧閾値を下回っている状態から終了電圧閾値を超えるまでバッテリが充電された場合に満充電容量を推定する。先に述べたように、バッテリ電圧と充電率には相関関係がある。また、バッテリに充電された電流量とバッテリ電圧との間にも相関関係がある。充電終了時のバッテリ電圧をチェックすることと、充電終了時の充電率をチェックすること、あるいは、充電終了時までにバッテリに供給された電流量をチェックすることは技術的に等価である。制御装置10は、充電率が所定の終了充電率を超えるまでバッテリが充電されたときに満充電容量推定を行ってもよい。あるいは、制御装置は、バッテリに充電された電流量が所定の電流量閾値を超えた場合に満充電容量推定を行ってもよい。
【0056】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0057】
2:ハイブリッド車 10:制御装置 11:コンピュータ 12:記憶装置 21:メインバッテリ 22:電圧センサ 23:電流センサ 24:温度センサ 25:システムメインリレー 26:インバータ 27:高電圧リレー 28:電力注入口 31、32:モータ 33:エンジン 34:動力分配機構 35:車軸 36:デファレンシャルギア 37:駆動輪 41:降圧コンバータ 42:補器バッテリ 43、44:補器 50:外部電源