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特開2022-181528小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置、小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法、及び小判型凹凸付きアンカー孔が形成されたコンクリート構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181528
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置、小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法、及び小判型凹凸付きアンカー孔が形成されたコンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/14 20060101AFI20221201BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20221201BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20221201BHJP
   B23B 41/04 20060101ALI20221201BHJP
   B23B 45/14 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B28D1/14
E04B1/41 502Z
E04G23/02 D
B23B41/04
B23B45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088523
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596105208
【氏名又は名称】第一カッター興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】東 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】内田 健
【テーマコード(参考)】
2E125
2E176
3C036
3C069
【Fターム(参考)】
2E125AF01
2E125AG10
2E125AG13
2E176BB36
3C036AA17
3C036EE13
3C069AA04
3C069BA09
3C069BB01
3C069BB04
3C069BC02
3C069CA10
3C069EA01
(57)【要約】
【課題】補強材のコンクリート構造物に対する定着力の高い凹凸付きアンカー孔を短時間で削孔できる小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置を提供する。
【解決手段】アンカー孔削孔装置1において、ベースプレート3上を走行してガイド手段4及び削孔機本体2を回転軸22と直交する一方向の前後二方向に進退動する前後進退動手段5を備え、削孔したアンカー孔h1の内周面に同時に複数の凹部を形成する凹部形成治具6が回転軸22に装着可能となっており、凹部形成治具6は、回転軸に装着可能な棒材からなる軸体と、この軸体の外周から所定間隔をあけて外側に円盤状に突出する複数の円形刃と、を有し、削孔機本体2で凹部形成治具6を回転駆動しながら前後進退動手段5でガイド手段4及び削孔機本体2を前後動してアンカー孔に前後二方向に凹部が形成された小判型凹凸を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を回転駆動する駆動手段を有する削孔機本体と、この削孔機本体をコンクリート構造物に固定するためのベースプレートと、このベースプレートに立設されて前記削孔機本体を前記回転軸の軸方向にガイドするガイド手段と、を備えたアンカー孔削孔装置であって、
前記ベースプレート上を走行して前記ガイド手段及び前記削孔機本体を前記回転軸と直交する一方向の前後二方向に順に進退動する前後進退動手段を備え、
削孔したアンカー孔の内周面に同時に複数の凹部を形成する凹部形成治具が前記回転軸に装着可能となっており、
前記凹部形成治具は、前記回転軸に装着可能な棒材からなる軸体と、この軸体の外周から所定間隔をあけて外側に円盤状に突出する複数の円形刃と、を有し、
前記削孔機本体で前記凹部形成治具を回転駆動しながら前記前後進退動手段で前記ガイド手段及び前記削孔機本体を前後動してアンカー孔に前後二方向に凹部が形成された小判型凹凸を形成すること
を特徴とする小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置。
【請求項2】
前記凹部形成治具は、前記軸体の長さ方向に所定間隔をあけて前記アンカー孔の必要定着長さ以上に亘って前記円形刃が形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置を用いて小判型凹凸付きアンカー孔を削孔する小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法であって、
前記回転軸にコアビットを装着してアンカー孔を削孔するアンカー孔削孔工程と、
前記コンクリート構造物から前記ベースプレートを取り外すことなく、前記コアビットに替えて前記凹部形成治具を前記回転軸に装着する治具取替工程と、
前記アンカー孔削孔工程で削孔したアンカー孔に前記凹部形成治具を挿入し、前記削孔機本体で前記凹部形成治具を回転駆動しながら前記前後進退動手段で前記ガイド手段及び前記削孔機本体を進退動して前記アンカー孔の内周面に前後二方向に凹部が形成された小判型凹凸を形成する凹部形成工程を行うこと
を特徴とする小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法。
【請求項4】
補強材で内部補強されたコンクリート構造物であって、
請求項3に記載の小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法によりアンカー孔が削孔されているとともに、そのアンカー孔の内周面に前記前後二方向にのみ凹んだ凹部が所定間隔をあけて複数形成された小判型凹凸付きアンカー孔が形成されていること
を特徴とする小判型凹凸付きアンカー孔が形成されたコンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置、小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法、及び小判型凹凸付きアンカー孔が形成されたコンクリート構造物に関し、詳しくは、補強材のコンクリート構造物に対する定着力の高い凹凸付きアンカー孔を短時間で削孔できる小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置、小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法、及び小判型凹凸付きアンカー孔が形成されたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維補強や補強筋などの定着を確保するため、コンクリート構造物に削孔して補強材を設置し、エポキシ樹脂などの硬化材でコンクリート構造物と補強材を一体化する定着方法が知られている。このとき、例えば、炭素繊維などの高強度な補強材を使用して補強効果をより高めたい場合には、補強材の引張強度に応じて定着長を長くする必要がある。
【0003】
しかし、コンクリート構造物の設置部位によっては必ずしも必要な定着長さを確保できるものではなく、必要な定着長を短くすることが求められている。そのため、削孔された孔に対して凹凸処理を施し、定着耐力を向上させることが知られている。しかし、定着耐力の高い凹凸付きアンカー孔を形成するには、通常の円形のアンカー孔を削孔して、その後、専用治具を押し当ててアンカー孔の内周面に凹部を一段ずつ形成する必要があり、一つの凹凸付きアンカー孔を削孔するのに長時間を要するという問題があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、本願出願人が提案した、円板状部12にビット13を円板周方向に間隔をおいて備えているヘッド15を振り回すように揺動させ、またアンカー孔4の軸方向に位置をずらして同様にヘッド15を振り回すように揺動させることにより、凹凸付きアンカー孔を形成する拡径溝形成装置14が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0018]、図面の図2等参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の拡径溝形成装置14は、凹部を複数段ずつ形成することができるものの、やはり凹凸付きアンカー孔を形成するのに時間がかかり、作業性効率が悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-45997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、補強材のコンクリート構造物に対する定着力の高い凹凸付きアンカー孔を短時間で削孔できる小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置、小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法、及び小判型凹凸付きアンカー孔が形成されたコンクリート構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置は、回転軸を回転駆動する駆動手段を有する削孔機本体と、この削孔機本体をコンクリート構造物に固定するためのベースプレートと、このベースプレートに立設されて前記削孔機本体を前記回転軸の軸方向にガイドするガイド手段と、を備えたアンカー孔削孔装置であって、前記ベースプレート上を走行して前記ガイド手段及び前記削孔機本体を前記回転軸と直交する一方向の前後二方向に順に前後動する前後進退動手段を備え、削孔したアンカー孔の内周面に同時に複数の凹部を形成する凹部形成治具が前記回転軸に装着可能となっており、前記凹部形成治具は、前記回転軸に装着可能な棒材からなる軸体と、この軸体の外周から所定間隔をあけて外側に円盤状に突出する複数の円形刃と、を有し、前記削孔機本体で前記凹部形成治具を回転駆動しながら前記前後進退動手段で前記ガイド手段及び前記削孔機本体を前後動してアンカー孔に前後二方向に凹部が形成された小判型凹凸を形成することを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置は、請求項1に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置において、前記凹部形成治具は、前記軸体の長さ方向に所定間隔をあけて前記アンカー孔の必要定着長さ以上に亘って前記円形刃が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る小判型凹凸付きアンカー孔削方法は、請求項1又は2に記載の小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置を用いて小判型凹凸付きアンカー孔を削孔する小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法であって、前記回転軸にコアビットを装着してアンカー孔を削孔するアンカー孔削孔工程と、前記コンクリート構造物から前記ベースプレートを取り外すことなく、前記コアビットに替えて前記凹部形成治具を前記回転軸に装着する治具取替工程と、前記アンカー孔削孔工程で削孔したアンカー孔に前記凹部形成治具を挿入し、前記削孔機本体で前記凹部形成治具を回転駆動しながら前記前後進退動手段で前記ガイド手段及び前記削孔機本体を前後動して前記アンカー孔の内周面に前後二方向に凹部が形成された小判型凹凸を形成する凹部形成工程を行うことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る小判型凹凸付きアンカー孔が形成されたコンクリート構造物は、補強材で内部補強されたコンクリート構造物であって、請求項3に記載の小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法によりアンカー孔が削孔されているとともに、そのアンカー孔の内周面に前記前後二方向にのみ凹んだ凹部が所定間隔をあけて複数形成された小判型凹凸付きアンカー孔が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1~4に係る発明によれば、削孔機にコアドリルビットを装着してアンカー孔を削孔し、盛り変えることなくそのまま削孔機に凹部形成治具を装着して前後進退動手段で進退動しながら回転駆動することで、アンカー孔の内周面に前後二方向にのみ凹部が形成された小判型のアンカー孔を短時間で形成することができる。このため、補強材のコンクリート構造物に対する定着力の高い凹凸付きアンカー孔を短時間で削孔することができる。
【0013】
特に、請求項2に係る発明によれば、凹部形成治具は、アンカー孔の必要定着長さ以上に亘って円形刃が形成されているので、凹部形成治具でアンカー孔の全長に亘って必要な凹部を形成することができる。このため、さらに短時間で定着力の高い凹凸付きアンカー孔を削孔することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置に示す側面図である。
図2図2は、同上の小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置の凹部形成治具のみを示す側面図であり、(a)が第1実施形態に係る凹部形成治具、(b)が第2実施形態に係る凹部形成治具である。
図3図3は、同上の凹部形成治具を示す水平断面図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法のアンカー孔削孔工程を示す工程説明図である。
図5図5は、同上の小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法の治具取替工程を示す工程説明図である。
図6図6は、同上の小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法の凹部形成工程を示す工程説明図である。
図7図7は、同上の小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法の完了後の小判型凹凸付きアンカー孔が形成されたコンクリート構造物を示す図である。
図8図8は、アンカー引抜試験の状況を示す写真である。
図9図9は、アンカー引抜試験の試験後の破壊形態を示す写真である。
図10図10は、アンカー引抜試験の試験結果を示す荷重-変位グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置、小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法、及び小判型凹凸付きアンカー孔が形成されたコンクリート構造物の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
<小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置>
先ず、図1図3を用いて、本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置1(以下、単に削孔装置1ともいう)について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置に示す側面図であり、図2は、削孔装置1の凹部形成治具のみを示す側面図であり、(a)が第1実施形態に係る凹部形成治具、(b)が第2実施形態に係る凹部形成治具である。また、図3は、図2(a),(b)の凹部形成治具6,6’を示す水平断面図である(第1実施形態、第2実施形態とも同一となる)。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る削孔装置1は、鉄筋コンクリート構造物などのコンクリート構造物C1の表面に固定して、コンクリート構造物C1にアンカー孔h1など比較的大径の孔を削孔する据付タイプの削孔機である。この削孔装置1は、削孔機本体2と、この削孔機本体2をコンクリート構造物C1に固定するためのベースプレート3と、このベースプレート3に立設されて削孔機本体2をガイドするガイド手段4と、を備えている。また、削孔装置1は、ガイド手段4及び削孔機本体2を一方向に前後動する前後進退動手段5も備えている。
【0018】
(削孔機本体)
削孔機本体2は、筐体20内に駆動手段である駆動モーター21が収容された削孔装置1の主要構成要素であり、駆動モーター21でスピンドルである回転軸22を回転駆動する装置である。この回転軸22には、カップリング23(レジューサー)を介して後述のコアビット24や実施形態に係る凹部形成治具6,6’が、ねじ止めされて装着可能となっている。
【0019】
(ベースプレート)
ベースプレート3は、コンクリート構造物C1に削孔して設けたあと施工アンカーで固定するための基体プレートである。勿論、コンクリート構造物C1にアンカー孔をあけて削孔装置1を固定できない場所では、真空を利用して吸着してコンクリート構造物C1に固定する吸着パッドとしても構わない。なお、符号、31は、コンクリート構造物C1の外部表面の凹凸(不陸)に応じてベースプレート3の水平又は垂直を調整するための高さ調整ボルト31である。
【0020】
(ガイド手段)
ガイド手段4は、ベースプレート3で支持固定され、ベースプレート3のプレート面に対して直交して立設され支柱40を基体とする手段であり、削孔機本体2を回転軸22の軸方向にガイドする機能を有している。
【0021】
この支柱40には、支柱40の長手方向に沿ってラック41が形成されている。また、ガイド手段4には、このラック41と噛合する図示しないギアを有して、前述の筐体20と一体化して支柱40の周囲を囲繞するホルダー42が設けられている。このホルダー42は、支柱40を囲繞することで削孔機本体2をぶれないように支持するとともに、ラック41と噛合することで段階的、定量的に支柱40に沿って上下動(コンクリート構造物C1へ近接方向又は遠隔方向に移動)する機能を有している。
【0022】
なお、符号43は、ラック41と噛合するギアを手動で回転させてホルダー42を上下動させる送りハンドル43である。
【0023】
(前後進退動手段)
前後進退動手段5は、駆動モーターを有し、ベースプレート3上を走行してガイド手段4及び削孔機本体2を回転軸22と直交する一方向である図示X方向に前後動する手段である。ここで、X方向とは、図1に示すように、支柱40に中心軸と回転軸22の中心軸を結んだ回転軸22と直交する方向を指している。また、このX方向に沿ってベースプレート3から回転軸22方向へ離れて前進する方向が前進方向X1であり、X方向に沿ってベースプレート3へ向け後退して近づく方向が後退方向X2である。
【0024】
(凹部形成治具)
凹部形成治具6(6’)は、図2に示すように、前述の回転軸22に装着可能な棒材からなる軸体60(60’)と、この軸体60(60’)の外周から長さ方向に所定間隔をあけて外側に円盤状に突出する複数の円形刃61(61’)と、を有している。この円形刃61(61’)は、図示実施形態では、芯-芯の距離が25mmピッチで形成されている。
【0025】
また、図3に示すように、円形刃61(61’)には、円弧状の欠込み62(62’)が複数(図示形態では6カ所)形成されている。このため、後述のように、この円形刃61(61’)が回転しながらコンクリート構造物C1のアンカー孔h1の内周面に当接されることにより、欠込み62(62’)からコンクリートを欠き出しながら削り取る。つまり、凹部形成治具6(6’)は、アンカー孔h1の内周面に同時に複数の凹部を形成する機能を有している。なお、円形刃61(61’)の軸体60(60’)の外周からの突出距離D1は、5mmとなっている。
【0026】
図示実施形態では、凹部形成治具6(6’)には、25mmピッチで円形刃が16枚形成されており、アンカー孔h1の必要定着長さ以上に亘って円形刃61(61’)が形成されている。このため、凹部形成治具6(6’)は、アンカー孔h1に必要な凹部を一度に形成することができる。なお、アンカー孔h1の必要定着長さは、補強材の引張強度に応じて適宜定められるものであり、後述の引抜試験などから求められるものである。
【0027】
また、図2(a)に示す第1実施形態に係る凹部形成治具6と、図2(b)に示す第2実施形態に係る凹部形成治具6’との相違点は、円形刃61(61’)の厚みだけである。図示形態では、凹部形成治具6の円形刃61の厚さt1=5mmであり、凹部形成治具6’の円形刃61’の厚さt2=10mmとなっている。
【0028】
<小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法>
次に、図4図7を用いて、本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法について説明する。
【0029】
(アンカー孔削孔工程)
図4は、本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法のアンカー孔削孔工程を示す工程説明図である。図4に示すように、本実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法では、先ず、コンクリート構造物C1にアンカー孔h1を削孔するアンカー孔削孔工程を行う。
【0030】
具体的には、図4に示すように、前述の削孔装置1の回転軸22に通常のアンカー孔削孔用のコアビット24を装着し、駆動モーター21でコアビット24を回転駆動する。そして、削孔装置1のガイド手段4及び送りハンドル43を用いて、回転軸22の軸方向に沿ってコンクリート構造物C1にコアビット24を回転しながら押圧して、平面視円形のアンカー孔h1を削孔する。
【0031】
(治具取替工程)
次に、図5に示すように、本実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法では、コアビット24に替えて前述の凹部形成治具6を回転軸22に装着する治具取替工程を行う。図5は、本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法の治具取替工程を示す工程説明図である。
【0032】
このとき、本工程では、削孔装置1をベースプレート3でコンクリート構造物C1の外表面に据え付けた位置のまま、ベースプレート3を取り外して段取り変えをすることなく、コアビット24から前述の凹部形成治具6に取り替える。このため、特許文献1に記載されている従来の凹凸付きアンカー孔を形成する際に行っていた段取り変えの時間を省略して施工時間を短縮することができる。
【0033】
(凹部形成工程)
次に、図6に示すように、本実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法では、削孔機本体2で凹部形成治具6を回転駆動しながら前後進退動手段5でガイド手段4及び削孔機本体2を前後動してアンカー孔h1の内周面に小判型凹凸を形成する凹部形成工程を行う。図6は、本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法の凹部形成工程を示す工程説明図である。
【0034】
本工程では、先ず、図6(a)に示すように、前述のアンカー孔削孔工程で削孔した円形のアンカー孔h1内に治具取替工程で回転軸22に装着した凹部形成治具6を挿入する。このとき、アンカー孔h1の直径をφ1=32mmである場合、円形刃61の直径は31mm程度の略アンカー孔h1の直径φ1程度とする。
【0035】
次に、図6(b)に示すように、削孔機本体2の駆動モーター21で凹部形成治具6を回転させながら、前後進退動手段5でガイド手段4ごと削孔機本体2を前進方向X1に前進させて、回転する円形刃61をアンカー孔h1の内周面に押し当てて前側凹部R1を切削する。
【0036】
反対に、図6(c)に示すように、削孔機本体2の駆動モーター21で凹部形成治具6を回転させながら、前後進退動手段5でガイド手段4ごと削孔機本体2を後退方向X2に後退させて、回転する円形刃61をアンカー孔h1の内周面に押し当てて後側凹部R2を切削する。
【0037】
このとき、前後進退動手段5で削孔機本体2を繰り返し、前進・後退させ、凹部形成治具6で少しずつ前側凹部R1及び後側凹部R2を切削してもよいし、前進及び後退を1回だけ行って切削してもよい。
【0038】
いずれにしろ、凹部形成治具6の軸体60がアンカー孔h1の内周面に当接すると、円形刃61でアンカー孔h1の内周面を切削することができなくなり、前側凹部R1及び後側凹部R2の切削作業が終了する。
【0039】
本工程が終了し、凹部形成治具6を引き上げると、図6(d)に示すように、小判型(楕円型)凹凸付きアンカー孔h1’が形成されていることとなる。つまり、円形のアンカー孔h1から凹部形成治具6の円形刃61で削り取った部分が、前側凹部R1及び後側凹部R2となり、削り取られなかった残りの円形のアンカー孔h1の内周面が凸部となった小判型(楕円型)凹凸付きアンカー孔h1’となる。また、前述のように、円形刃61の軸体60からの突出距離D1は、5mmとなっているので、三日月状の凹部(前側凹部R1及び後側凹部R2)の最も厚い部分もD1=5mmとなっている。
【0040】
本工程が終了すると本実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法の全ての工程が完了する。小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法により、コンクリート構造物C1には、図7に示すように、コンクリート構造物C1に回転軸22の軸方向と直交する一方向であるX方向に沿った前進方向X1と後退方向X2の前後二方向にのみ凹んだ三日月状(図6も参照)の凹部(前側凹部R1及び後側凹部R2)が上下に所定間隔をあけて複数形成された小判型凹凸付きアンカー孔h1’が形成されることとなる。図7は、判型凹凸付きアンカー孔削孔方法の完了後の小判型凹凸付きアンカー孔h1’が形成されたコンクリート構造物C1を示す図である。
【0041】
この小判型凹凸付きアンカー孔h1’は、従来の凹凸付きアンカー孔と相違して、前後二方向にのみにしか凹部が形成されておらず、付着力や補強材の定着力が従来の円周の全方向に凹部が形成されたアンカー孔より弱いおそれもある。
【0042】
しかし、後述の引抜試験により、二方向にのみ凹部が形成され小判型凹凸付きアンカー孔h1’は、全周に凹部が形成された凹凸付きアンカー孔と遜色ない引抜強度(最大荷重)を有することが判明した。
【0043】
また、後述の引抜試験では、円形刃61の刃厚を変えて厚くすることで、引抜強度(最大荷重)が大きくなることも判明した。よって、円形刃61の刃厚を変えて厚くすれば、短時間で小判型凹凸付きアンカー孔h1’を形成することができ、しかも従来の全方向に凹部が形成されたアンカー孔より引抜強度を高くすることも可能である。
【0044】
[施工時間]
次に、従来の特許文献1に記載の拡径溝形成装置による施工時間と、本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法による施工時間を計測し、その結果を次表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1におけるコアとは、前述のアンカー孔削孔工程で述べた通常のアンカー孔削孔用のコアビットでコンクリート構造物に円形のアンカー孔を削孔する作業時間である。
【0047】
また、表1における凹凸処理とは、円形のアンカー孔の内周面に凹凸を形成するための作業時間である。つまり、従来例の凹凸処理は、特許文献1に記載の拡径溝形成装置で凹凸を形成する作業時間であり、実施例の凹凸処理が、前述の本実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法の治具取替工程と凹部形成工程の合計の作業時間である。
【0048】
表1に示すように、本実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法による作業時間は、従来の特許文献1に記載の拡径溝形成装置による施工時間の半分程度に短縮できたことが分かる。
【0049】
また、表1から、作業時間短縮の主要因は、凹凸処理の作業時間、即ち、アンカー孔に凹凸を形成する時間が大幅に短縮できた点にあると考えられる。本実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法では、拡径溝形成装置と相違して、段取り変えをすることなく、アンカー孔削孔工程→治具取替工程→凹部形成工程とスムーズに移行して、しかも、凹部形成治具6で一つのアンカー孔に必要な凹部を一度に全部形成できるからである。
【0050】
以上、説明した本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置1及びそれを用いた小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法によれば、削孔機本体2にコアビット24を装着してアンカー孔h1を削孔し、盛り変える(段取り変えを行う)ことなくそのまま削孔機本体2に凹部形成治具6を装着して前後進退動手段5で進退動しながら回転駆動することで、アンカー孔h1の内周面に前後二方向にのみ凹部(前側凹部R1及び後側凹部R2)が形成された小判型凹凸付きアンカー孔h1’を従来の約半分の短時間で形成することができる。このため、補強材のコンクリート構造物C1に対する定着力の高い凹凸付きアンカー孔を短時間で削孔することができる。
【0051】
[アンカー引抜試験1]
次に、削孔部の凹凸が耐力の向上に寄与するかを確認するために行ったアンカー引抜試験1について説明する。図8の写真に示すように,鉄筋コンクリート製の供試体に、直径40×深さ400mmの円形のアンカー孔を削孔したものと、同じ削孔を行い、その内周面に刃厚を5mmとして、凹凸を25mmの同ピッチで全周形成した供試体を作成した。
【0052】
そして、これらの2種類のアンカー孔に補強材として炭素繊維からなる棒材を挿入して接着剤で固めて鉄筋コンクリートの供試体に定着させ、補強材を引き抜いてその時の最大荷重を計測した。結果は、図9に示すように全て補強材の接合部分ではなく、母材であるコンクリート部分で破壊するコーン破壊をしており、鉄筋コンクリートの供試体に有効に補強材が定着できていたことがわかる。このアンカー引抜試験1の試験結果は、次表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示すように、削孔部に凹凸の処理を行わない削孔のみが最大荷重330kNであるのに対し、凹凸削孔の処理を行ったものが最大荷重464kNと、最大荷重が大きくなった。この結果から、削孔のみと比較して凹凸削孔の処理を行うことで、補強材の定着力がコンクリート供試体内のより広い範囲で抵抗されたため、最大荷重が大きくなったということがわかる。この点が凹凸削孔の有意点である。
【0055】
[アンカー引抜試験2]
次に、本発明の効果を確認するために行ったアンカー引抜試験2について説明する。図8の写真に示すように、鉄筋コンクリート製の供試体に、直径32mm×深さ400mmの円形のアンカー孔を削孔し、その内周面に従来の刃厚を5mmとし凹凸を25mmの同ピッチで全周形成したものと、前述のように前後二方向にのみ刃厚を10mmとし三日月状(図6も参照)の凹部(前側凹部R1及び後側凹部R2)を25mmの同ピッチで形成したものを、前述の凹部形成治具6,6’で形成し、No.1,No.2の計2種類の凹凸付きアンカー孔を形成した供試体を作成した。
【0056】
ここで、刃厚を開発品で10mmとした理由は、全周に凹凸処理を行わない代わりに、凹部を厚くすることで、引き抜きに対する抵抗性を確保するためである。一方で、従来工法で刃厚を10mmと厚くすると施工時間が極めて長くなり、実用性を逸脱することから、従来工法は刃厚5mmを標準としている。
【0057】
そして、これらの2種類のアンカー孔に補強材として炭素繊維からなる棒材を挿入して接着剤で固めて鉄筋コンクリートの供試体に定着させ、補強材を引き抜いてその時の最大荷重を計測した。結果は、図9に示すように全て補強材の接合部分ではなく、母材であるコンリート部分で破壊するコーン破壊をしており、鉄筋コンクリートの供試体に有効に補強材が定着できていたことが分かる。このアンカー引抜試験の試験結果は、次表3及び図10の荷重-変位グラフに示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3及び図10に示すように、第2実施形態に係る刃厚10mmの凹部形成治具6’で形成したNo.2(2方向)が最大荷重542kNであるのに対し、No.1(全周)が最大荷重508kNとなっており、全周に凹部を形成したアンカー孔より2方向にのみ刃厚が倍の10mm厚の凹部を形成したアンカー孔の方が、引抜抵抗力が高くなることが判明した。
【0060】
よって、以上の実験結果から、本発明によれば、施工時間を半分程度に短縮できるとともに、引抜抵抗力が削孔のみで定着体とするよりも優れ、かつ、全周凹部を設けた従来の凹凸付きアンカー孔より優れた小判型凹凸付きアンカー孔を形成できることが証明できた。
【0061】
以上、本発明の実施形態に係る小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置1及び削孔装置1を用いた小判型凹凸付きアンカー孔削孔方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0062】
特に、削孔部に補強材とコンクリートとを一体とする接着剤は、繊維とコンクリート間を充填し接着するものであれば、エポキシ樹脂やセメント系などにも適用できることは云うまでもない。また、補強材として炭素繊維からなるものを例示して説明したが、本発明は、これらに限られず、補強材が鋼棒などの他の素材からなるものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1:削孔装置(小判型凹凸付きアンカー孔削孔装置)
2:削孔機本体(削孔機)
20:筐体
21:駆動モーター(駆動手段)
22:回転軸(スピンドル)
23:カップリング
24:コアビット
3:ベースプレート
31:高さ調節ボルト
4:ガイド手段
40:支柱
41:ラック
42:ホルダー
43:送りハンドル
5:前後進退動手段
6,6’:凹部形成治具
60,60’:軸体
61,61’:円形刃
62,62’:欠込み
C1:コンクリート構造物
h1:アンカー孔
h1’:小判型凹凸付きアンカー孔
R1:前側凹部(凹部)
R2:後側凹部(凹部)
X1:前進方向(X方向)
X2:後退方向(X方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10