(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181544
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】誘電体組成物および積層セラミック電子部品。
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088548
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】村上 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】末田 有一郎
(72)【発明者】
【氏名】並木 亮太
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE05
5E082AA01
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG26
(57)【要約】
【課題】高温多湿環境に対する耐久性が優れる誘電体組成物および積層セラミック電子部品を提供すること。
【解決手段】
本発明に係る誘電体組成物は、ABO
3で表されるペロブスカイト型化合物を主成分として含む誘電体粒子と、Ba、Ti、Si、Ni、およびOを含む第1偏析と、を有する。また、当該誘電体組成物を有する積層セラミック電子部品では、セラミック層と内部電極層との境界において、Ba、Ti、Si、Ni、およびOを含む第1偏析が存在する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABO3で表されるペロブスカイト型化合物を主成分として含む誘電体粒子と、
Ba、Ti、Si、Ni、およびOを含む第1偏析と、を有する誘電体組成物。
【請求項2】
前記第1偏析におけるSiに対するNiのモル比(Ni/Si)が、0.1以上である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記第1偏析の平均粒径が、0.05μm以上、0.30μm以下である請求項1または2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
Mgを含む第2偏析を有する請求項1~3のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項5】
前記ペロブスカイト型化合物がチタン酸バリウムである請求項1~4のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項6】
ABO3で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とするセラミック層と、Niを含む内部電極層と、が交互に積層してある素子本体を有し、
前記セラミック層と前記内部電極層との境界において、Ba、Ti、Si、Ni、およびOを含む第1偏析が存在する積層セラミック電子部品。
【請求項7】
前記境界の単位長さあたりに含まれる前記第1偏析の個数が、0.2個/μm以上、3.2個/μm以下である請求項6に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項8】
前記第1偏析におけるSiに対するNiのモル比(Ni/Si)が、0.1以上である請求項6または7に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項9】
前記第1偏析の平均粒径が、0.05μm以上、0.30μm以下である請求項6~8のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項10】
前記セラミック層の内部には、Mgを含む第2偏析が含まれる請求項6~9のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項11】
前記ペロブスカイト型化合物がチタン酸バリウムである請求項6~10のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物、および、当該誘電体組成物を含む積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、誘電体組成物からなるセラミック層と内部電極層とを交互に積層した積層セラミック電子部品が知られている。この積層セラミック電子部品では、セラミック層と内部電極層との間で収縮率や線膨張係数などの特性に差があり、この特性の違いに起因して、クラックや層間剥離などの構造欠陥が生じ、高温多湿環境下における耐久性が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、高温多湿環境に対する耐久性が優れる誘電体組成物および積層セラミック電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明に係る誘電体組成物は、
ABO3で表されるペロブスカイト型化合物を主成分として含む誘電体粒子と、
Ba、Ti、Si、Ni、およびOを含む第1偏析と、を有する。
【0006】
上記の特徴を有する本発明の誘電体組成物は、積層セラミック電子部品に適用することができる。本発明者等は、鋭意検討した結果、上記の誘電体組成物を有する積層セラミック電子部品は、高温多湿環境下においても優れた耐久性を示すことを見出した。
【0007】
好ましくは、前記第1偏析におけるSiに対するNiのモル比(Ni/Si)が、0.1以上である。
【0008】
好ましくは、前記第1偏析の平均粒径が、0.05μm以上、0.30μm以下である。
【0009】
好ましくは、本発明の誘電体組成物が、Mgを含む第2偏析をさらに有する。
【0010】
好ましくは、前記ペロブスカイト型化合物が、チタン酸バリウムである。
【0011】
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る積層セラミック電子部品は、
ABO3で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とするセラミック層と、Niを含む内部電極層と、が交互に積層してある素子本体を有し、
前記セラミック層と前記内部電極層との境界において、Ba、Ti、Si、Ni、およびOを含む第1偏析が存在する。
【0012】
本発明者等は、鋭意検討した結果、積層セラミック電子部品が上記の特徴を有することで、高温多湿環境下における耐久性が向上することを見出した。耐久性が向上する理由は、必ずしも明らかではないが、所定の元素を含む第1偏析により、セラミック層と内部電極との接合強度が向上したことに起因すると考えられる。
【0013】
好ましくは、前記境界の単位長さあたりに含まれる前記第1偏析の個数が、0.2個/μm以上、3.2個/μm以下である。
【0014】
また、本発明の積層セラミック電子部品において、好ましくは、前記第1偏析におけるSiに対するNiのモル比(Ni/Si)が、0.1以上である。
【0015】
また、本発明の積層セラミック電子部品において、好ましくは、前記第1偏析の平均粒径が、0.05μm以上、0.30μm以下である。
【0016】
また、本発明の積層セラミック電子部品において、好ましくは、前記ペロブスカイト型化合物がチタン酸バリウムである。
【0017】
また、好ましくは、前記セラミック層の内部には、Mgを含む第2偏析が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態では、本発明に係るセラミック電子部品の一例として、
図1に示す積層セラミックコンデンサ2について説明する。積層セラミックコンデンサ2は、素子本体4と、当該素子本体4の外面に形成してある一対の外部電極6と、を有する。
【0020】
図1に示す素子本体4の形状は、通常、略直方体状であって、X軸方向で対向する2つの端面4aと、Y軸方向で対向する2つの側面4bと、Z軸方向で対向する2つの側面4bとを有する。ただし、素子本体4の形状は、特に制限されず、楕円柱状、円柱状、その他角柱状等であってもよい。また、素子本体4の外形寸法も、特に制限されず、たとえば、X軸方向の長さL0を0.4mm~5.7mm、Y軸方向の幅W0を0.2mm~5.0mm、Z軸方向の高さT0を0.2mm~3.0mmとすることができる。なお、本実施形態において、X軸、Y軸、Z軸は、相互に垂直である。
【0021】
そして、素子本体4は、X軸およびY軸を含む平面に実質的に平行なセラミック層10と内部電極層12とを有し、素子本体4の内部では、セラミック層10と内部電極層12とがZ軸方向に沿って交互に積層してある。ここで、「実質的に平行」とは、ほとんどの部分が平行であるが、多少平行でない部分を有していてもよいことを意味し、セラミック層10と内部電極層12とは、多少、凹凸があったり、傾いていたりしてもよい。
【0022】
セラミック層10の1層当たりの平均厚み(層間厚み)は、特に制限されず、たとえば、100μm以下とすることができ、好ましくは30μm以下である。また、セラミック層10の積層数については、所望の特性に応じて決定すればよく、特に限定されない。たとえば、20層以上、より好ましくは50層以上とすることができる。
【0023】
一方、内部電極層12は、各セラミック層10の間に積層され、その積層数は、セラミック層10の積層数に応じて決定される。そして、内部電極層12の1層当たりの平均厚みは、特に制限されず、たとえば、3.0μm以下とすることができる。なお、セラミック層10の平均厚みや内部電極層12の平均厚みは、金属顕微鏡を用いて
図1に示すような断面を観察し、少なくとも5箇所以上で各層(10、12)の厚みを計測することで算出すればよい。
【0024】
また、内部電極層12は、一方の端部が、素子本体4のX軸方向で対向する2つの端面4aに交互に露出するように、積層してある。そして、一対の外部電極6が、それぞれ、素子本体4の一方の端面4aに形成され、交互に配置された内部電極層12の露出端に電気的に接続してある。このように外部電極6を形成することで、外部電極6と内部電極層12とで、コンデンサ回路が構成される。
【0025】
図1に示すように、一対の外部電極6は、素子本体4のX軸方向の端面4aに形成される端面部と、素子本体4の4つの側面4bにおいてX軸方向の端部に形成された延長部と、を一体的に有する。すなわち、一対の外部電極6は、それぞれ、素子本体4の端面4aから側面4bに回り込むように形成されており、X軸方向で互いに接触しないように絶縁されている。
【0026】
なお、外部電極6の延長部は、必須ではなく、外部電極6が端面部のみで構成してあってもよい。もしくは、積層セラミックコンデンサ2を基板に面実装する場合には、外部電極6の延長部は、少なくとも基板の実装面と対向する側面4bに形成されていればよく、実装面とは反対側の側面4bには形成しなくともよい。
【0027】
また、外部電極6は、焼付電極層や、樹脂電極層、メッキ電極層などを含むことができ、単一の電極層で構成してあってもよいし、複数の電極層を積層して構成してあってもよい。たとえば、外部電極6は、焼付電極層-Niメッキ層-Snメッキ層の三層構造(記載の順番に積層する)とすることができ、この場合、外部電極6の最表面にSnメッキ層が位置するため、外部電極6のハンダ濡れ性が良好となる。
【0028】
次に、セラミック層10や内部電極層12の成分や内部組織の焼成について説明する。
【0029】
セラミック層10は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする誘電体組成物で構成してある。ここで、セラミック層10の主成分(誘電体組成物の主成分)とは、セラミック層10において80モル%以上を占める成分を意味する。本実施形態では、主成分であるペロブスカイト型化合物は、チタン酸バリウム(BT)であることが好ましく、このチタン酸バリウムは、組成式(Ba1-a-b Sra Cab )m(Ti1-c-d Zrc Hfd )O3で表すことができる。
【0030】
上記組成式において、符号a、b、c、d、mは、それぞれ、元素比率を示しており、各元素比率は、特に限定されず、公知の範囲に設定することができる。たとえば、mは、Bサイトに対するAサイトの元素比率を示しており、一般的に1.0~1.1の範囲とすることができる。また、aはAサイトに占めるSrの元素比率を示し、bはAサイトに占めるCaの元素比率を示している。本実施形態では、0≦a+b≦0.1とすることが好ましい。また、cはBサイトに占めるZrの元素比率を示し、dはBサイトに占めるHfの元素比率を示している。本実施形態では、0≦c+d≦0.15とすることが好ましい。なお、上記組成式における酸素(O)の元素比率は、化学量論組成から若干偏倚していてもよい。
【0031】
また、セラミック層10には、上述した主成分の他に、副成分が含まれていてもよい。副成分としては、たとえば、Mn化合物、Mg化合物、Cr化合物、Ni化合物、希土類元素化合物、Si化合物、Li化合物、B化合物、V化合物、Al化合物、Ca化合物などが挙げられ、副成分の種類や組み合わせ、およびその添加量は、特に限定されない。
【0032】
一方、内部電極層12は、導電性材料で構成してあり、少なくともNiを含んでいる。より具体的に、内部電極層12の導電性材料は、純NiまたはNi合金であることが好ましく、内部電極層12におけるNiの含有率が85wt%以上であることがより好ましい。導電性材料がNi合金である場合には、Mn、Cu、Crなどから選択された1種類以上の内部電極用副成分が含有していてもよい。
【0033】
また、内部電極層12には、上記の導電性材料の他に、セラミック層10の主成分と同様の組成を有するペロブスカイト型化合物の粒子が共材として含まれていてもよく、後述する第1偏析11bの粒子が内包されていてもよい。また、内部電極層12には、SやP等の非金属成分が微量に(たとえば、0.1質量%以下程度)含まれていてもよく、空隙が含まれていてもよい。上記のように、共材粒子や第1偏析11bの粒子、空隙などの非金属成分が内部電極層12に含まれる場合、内部電極層12には、これら非金属成分の影響で、電極(導電性材料)が存在しない途切れ部分が形成される場合がある。
【0034】
なお、セラミック層10や内部電極層12の成分組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)、レーザアブレーションICP質量分析(LA-ICP-MS)、蛍光X線分析(XRF)、エネルギー分散型X線分析(EDX)、波長分散型X線分光器(WDS)を擁する電子線マイクロアナライザ(EPMA)などにより分析すればよい。
【0035】
上記の成分を含むセラミック層10は、
図2に示すような内部組織を有しており、セラミック層10には、母相である誘電体粒子11aと、所定の特徴を有する偏析相(11b、11c)と、誘電体粒子11aの間に位置する粒界11dと、が含まれている。
【0036】
誘電体粒子11aは、前述したセラミック層10の主成分(ペロブスカイト型化合物)で構成してある。セラミック層10に副成分が含まれる場合、誘電体粒子11aには、主成分の他に、副成分が固溶していてもよい。また、誘電体粒子11aは、コアシェル構造を有していてもよい。誘電体粒子11aの平均粒径は、0.05μm~2μmとすることができ、0.1μm~1μmとすることが好ましい。なお、当該平均粒径は、
図2に示すようなセラミック層10の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)などを用いて観察し、得られた断面写真を画像解析することで測定できる。たとえば、誘電体粒子11aの平均粒径は、少なくとも100個以上の誘電体粒子11aの円相当径を計測することで、算出すればよい。
【0037】
本実施形態の素子本体4には、
図2に示すように、第1偏析11bが含まれている。この第1偏析11bは、SiとNiの合計濃度が誘電体粒子11aよりも高い複合酸化物の相である。そして、第1偏析11bには、少なくともBa、Ti、Si、Ni、およびOが含まれており、その他セラミック層10の構成元素(主成分に含まれ得るSr、Ca、Zr、Hfなどの元素、副成分元素など)が含まれていてもよい。
【0038】
第1偏析11bでは、特に、Niが所定の比率で含有してあることが好ましい。具体的に、第1偏析11bにおけるSiに対するNiのモル比(Ni/Si)が、0.1以上であることが好ましい。当該モル比Ni/Siの上限値は、特に限定されず、たとえば0.8以下であることが好ましい。また、第1偏析11bに含まれる酸素を除く元素の総含有量を100モルとすると、Ni含有量とSi含有量の和は、3モル%以上であることが好ましく、5モル%~20モル%であることがより好ましい。なお、第1偏析11bにおける他の元素の含有比は、特に限定されず、第1偏析11bは、たとえば、組成式Ba2(NieTi1-e)Si2O8―eで表される複合酸化物相とすることができる。上記組成式中のeは、Tiサイトを置換したNiの原子比率である。
【0039】
この第1偏析11bは、EDXまたはWDSによるマッピング分析と点分析とを併用して特定することが好ましい。たとえば、
図2に示すような素子本体4の断面において、マッピング分析を実施し、得られたSiのマッピング画像からSiが偏析している箇所を特定する。そして、Siが偏析している箇所で点分析を実施し、当該偏析で、Ba、Ti、Si、Ni、Oが検出された場合には、この偏析が第1偏析11bであると特定すればよい。なお、上記のマッピング分析において特定する「Siが偏析している箇所」とは、具体的に、誘電体粒子11aよりもSi濃度が高い領域を意味する。また、マッピング分析における測定視野や解像度などの測定条件は、偏析の解析が可能な条件に適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0040】
第1偏析11bの平均粒径は、0.5μm以下とすることができ、0.05μm~0.30μmとすることが好ましい。なお、第1偏析11bの平均粒径は、上記の方法で少なくとも5個以上の第1偏析11bを特定した後、これら第1偏析11bの円相当径を画像解析により測定することで算出すればよい。
【0041】
本実施形態において、第1偏析11bは、
図2に示すように、セラミック層10と内部電極層12との境界20に存在している。「第1偏析11bが境界20に存在する」とは、第1偏析11bが、セラミック層10の誘電体粒子11aと内部電極層12との両方に対して直に接していることを意味する。たとえば、第1偏析11bは、セラミック層10の層内において内部電極層12と接するように存在している場合がある。また、第1偏析11bは、セラミック層10側よりも内部電極層12側に食い込んで存在している場合がある。なお、第1偏析11bの一部は、境界20ではなく、内部電極層12と接することなくセラミック層10の内部に存在していてもよい。
【0042】
境界20の単位長さあたりに含まれる第1偏析11bの個数N1は、0.15個/μm以上とすることができ、0.20個/μm~3.20個/μmとすることが好ましい。この単位長さあたりの個数N1は、素子本体4の断面をSEMやSTEMにより複数の視野で観察し、少なくとも合計100μm以上の境界20に存在する第1偏析11bの個数を計測することで算出すればよい。すなわち、個数N1は、計測された第1偏析11bの数NL/解析した境界20の合計長さLZで表すことができる。
【0043】
なお、境界20は、SEMやSTEMなどにより高倍で観察すると、蛇行していたり、部分的に途切れていたりする。個数N1を測定する際には、境界20の蛇行箇所や途切れ箇所などを正確に測定して合計長さL
Zを算出する必要はなく、断面写真の幅を境界20の長さとみなせばよい。たとえば、
図2に示すように、内部電極層12と断面写真の1辺が実質的に平行となるように、断面写真を撮影し、断面写真のX軸方向の幅L
Z1を、当該観測視野における境界20の長さとみなす。
【0044】
本実施形態のセラミック層10には、第1偏析11b以外に、Mgを含む第2偏析11cが存在することが好ましい。この第2偏析11cは、Mgの濃度が誘電体粒子11aよりも高い複合酸化物の相である。また第2偏析11cには、Mg以外に、セラミック層10の構成元素が含まれていてもよく、特に、O、Ba、Tiが含まれることが好ましい。この第2偏析11cの詳細な組成は、特に限定されず、たとえば、第2偏析11cが、六方晶のBa(Ti1-X,MgX)O3であることが好ましい。当該組成式におけるxは、Mgの原子数比を表している。そして、xの数値範囲は、任意であり、たとえば、0.02~0.30とすることができる。また、上記組成式における酸素の原子数比は、3.0であるが、若干偏倚していてもよい。
【0045】
この第2偏析11cについては、EDXまたはEDSによるマッピング分析により特定することができる。この際、マッピング分析は、第1偏析11bの解析と同様に実施すればよい。そして、マッピング分析により得られたMgのマッピング像から、誘電体粒子11aよりもMg濃度が高い領域を抽出し、当該領域を第2偏析11cと判断すればよい。
【0046】
第2偏析11cの平均粒径は、2μm以下とすることができ、0.01μm~1μmとすることが好ましい。なお、第2偏析11cの平均粒径は、第1偏析11bの平均粒径と同様に測定すればよい。つまり、上記の方法で少なくとも5 個以上の第2偏析11cを特定した後、これら第2偏析11cの円相当径を画像解析により測定することで、平均粒径を算出すればよい。
【0047】
また、第2偏析11cについては、セラミック層10の内部に存在することが好ましい。「セラミック層10の内部」とは、第2偏析11cが、内部電極層12と直に接することなく、誘電体粒子11aに囲まれて存在していることを意味する。ただし、第2偏析11cの一部が、内部電極層12と接するように境界20に存在していてもよい。セラミック層10の単位断面積あたりに含まれる第2偏析11cの個数N2は、0.002個/μm2~1個/μm2であることが好ましい。なお、個数N2は、上述したマッピング分析を複数の視野で実施し、特定した第2偏析11cの数を、測定視野の合計面積で除することで算出すればよい。
【0048】
なお、誘電体粒子11aの間に存在する粒界11dについては、主成分の構成元素や副成分元素により構成されている。また、粒界11dでは、副成分に起因する他の偏析相(第1偏析11bおよび第2偏析11c以外の偏析相)が存在していてもよい。さらに、セラミック層10には、上述した誘電体粒子11aや偏析相の他に、空隙や副相粒子が存在していてもよい。
【0049】
次に、
図1に示す積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例を説明する。
【0050】
まず、素子本体4の製造工程について、説明する。素子本体4の製造工程では、焼成後にセラミック層10となる誘電体用ペーストと、焼成後に内部電極層12となる内部電極用ペーストとを準備する。
【0051】
誘電体用ペーストは、たとえば以下のような方法で製造される。まず、誘電体原料を湿式混合等の手段によって均一に混合し、乾燥させる。その後、所定の条件で熱処理することで、仮焼粉を得る。次に、得られた仮焼粉に、公知の有機ビヒクルまたは公知の水系ビヒクルを加えて混練し、誘電体用ペーストを調製する。なお、誘電体用ペーストには、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、誘電体、副成分化合物、ガラスフリットなどから選択される添加物が含有されていてもよい。
【0052】
また、セラミック層10に第2偏析11cを形成する場合には、上記の誘電体用ペーストに第2偏析用原料粉末を添加する。この第2偏析用原料粉末は、たとえば、MgCO3粉末と、BaCO3粉末と、TiO2粉末とを所定の比率で混合し、仮焼きした後、適宜粉砕処理することで得られる。そして、準備した第2偏析用原料粉末を、上記の誘電体原料の仮焼粉と一緒に、ビヒクルに混ぜ合わせて誘電体用ペーストを調製すればよい。
【0053】
一方、内部電極用ペーストは、導電性金属またはその合金からなる導電性粉末(好ましくはNi粉末もしくはNi合金粉末)と、第1偏析用原料粉末と、公知のバインダや溶剤とを、混練して調製する。この際に添加する第1偏析用原料粉末は、たとえば、BaCO3粉末と、TiO2粉末と、SiO2粉末と、NiO粉末とを所定の比率で混合し、仮焼きした後、適宜粉砕処理することで得られる。この第1偏析用原料粉末を内部電極用ペースト中に添加することで、境界20に第1偏析11bを存在させることができる。
【0054】
なお、内部電極用ペーストには、必要に応じて、共材としてセラミック粉末(たとえばチタン酸バリウム粉末)が含まれていてもよい。共材は、焼成過程において導電性粉末の焼結を抑制する作用を奏する。
【0055】
次に、誘電体用ペーストを、ドクターブレード法などの手法によりシート化することで、セラミックグリーンシートを得る。そして、このセラミックグリーンシート上に、スクリーン印刷等の各種印刷法や転写法により、内部電極用ペーストを所定のパターンで塗布する。さらに、内部電極パターンを形成したグリーンシートを複数層に渡って積層した後、積層方向にプレスすることでマザー積層体を得る。なお、この際、マザー積層体の積層方向の上面および下面には、セラミックグリーンシートが位置するように、セラミックグリーンシートと内部電極パターンとを積層する。
【0056】
上記の工程により得られたマザー積層体を、ダイシングや押切りにより所定の寸法に切断し、複数のグリーンチップを得る。グリーンチップは、必要に応じて、可塑剤などを除去するために固化乾燥をしてもよく、固化乾燥後に水平遠心バレル機などを用いてバレル研磨してもよい。バレル研磨では、グリーンチップを、メディアおよび研磨液とともに、バレル容器内に投入し、当該バレル容器に対して回転運動や振動などを与える。このバレル研磨により、切断時に生じたバリなどの不要箇所を研磨し、グリーンチップの角部に丸み(角R)を形成する。なお、バレル研磨後のグリーンチップは、水などの洗浄液で洗浄し乾燥させる。
【0057】
次に、上記で得られたグリーンチップに対して、脱バインダ処理および焼成処理を施し、素子本体4を得る。
【0058】
脱バインダ処理の条件は、セラミック層10の主成分組成や内部電極層12の主成分組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。たとえば、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間、保持温度を好ましくは180~400℃、温度保持時間を好ましくは0.5~24時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0059】
焼成処理の条件は、セラミック層10の主成分組成や内部電極層12の主成分組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。たとえば、焼成時の保持温度は、好ましくは1200~1350℃、より好ましくは1220~1300℃であり、その保持時間は、好ましくは0.5~8時間、より好ましくは1~3時間である。また、焼成雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、N2とH2との混合ガスを加湿して用いることができる。さらに、内部電極層12をNiやNi合金等の卑金属で構成する場合には、焼成雰囲気中の酸素分圧を、1.0×10-14~1.0×10-10MPaとすることが好ましい。
【0060】
なお、焼成処理後には、必要に応じてアニールを施してもよい。アニールは、セラミック層10を再酸化するための処理であり、焼成処理を還元性雰囲気で実施した場合には、アニールを実施することが好ましい。アニール処理の条件もセラミック層10の主成分組成などに応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。たとえば、保持温度を950~1150℃とすることが好ましく、温度保持時間を0~20時間とすることが好ましく、昇温速度および降温速度を50~500℃/時間とすることが好ましい。また、雰囲気ガスとして加湿したN2ガス等を用いることが好ましく、アニール雰囲気中の酸素分圧は、1.0×10-9~1.0×10-5MPaとすることが好ましい。
【0061】
上記した脱バインダ処理、焼成処理およびアニール処理において、N2ガスや混合ガス等を加湿するためには、たとえばウェッター等を使用すればよく、この場合、水温は5~75℃程度が好ましい。また、脱バインダ処理、焼成処理およびアニール処理は、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0062】
次に、上記で得られた素子本体4の外面に、一対の外部電極6を形成する。外部電極6の形成方法は、特に限定されない。たとえば、外部電極6として焼付電極を形成する場合には、ガラスフリットを含む導電性ペーストを素子本体4の端面にディップ法により塗布した後、素子本体4を所定の温度で加熱すればよい。また、外部電極6として樹脂電極を形成する場合には、熱硬化性樹脂を含む導電性ペーストを素子本体4の端面に塗布し、その後、素子本体4を熱硬化性樹脂が硬化する温度で加熱すればよい。さらに、上記の方法で焼付電極や樹脂電極を形成した後、スパッタリング、蒸着、電解メッキ、もしくは無電解メッキなどを施し、多層構造を有する外部電極6を形成してもよい。
【0063】
上記の工程により、外部電極6を有する積層セラミックコンデンサ2が得られる。
【0064】
(実施形態のまとめ)
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、ABO3で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とするセラミック層10と、Niを含む内部電極層12と、が交互に積層してある構造を有する。そして、セラミック層10と内部電極層12との境界20において、Ba、Ti、Si、Ni、およびOを含む第1偏析が存在する。
【0065】
積層セラミックコンデンサ2が上記の特徴を有することで、高温多湿環境下において絶縁抵抗が低下し難くなり、高温多湿環境に対する耐久性が向上する。耐久性が向上する理由は、必ずしも明らかではないが、所定の元素を含む第1偏析11bにより、セラミック層10と内部電極層12との接合強度が向上したことに起因すると考えられる。
【0066】
一般的に、誘電体セラミックスで構成されているセラミック層と、Niで構成される内部電極層とでは、収縮率や線膨張係数等の材料特性が異なり、この特性の違いにより内部電極層の剥離やセラミック層におけるクラックなどが生じやすい。本実施形態の積層セラミックコンデンサ2では、境界20に存在する第1偏析11bが、BaやTiを含む複合酸化物であるため、誘電体粒子11aに対して接合しやすい特性を有すると考えられる。また、第1偏析11bは、Niを含んでいるため内部電極層12とも接合しやすい特性を有していると考えられる。
【0067】
このように、第1偏析11bは、セラミック層10の誘電体粒子11aと内部電極層12のNiとの両方に対して高い親和性を有しており、この第1偏析11bが境界20に存在することで、セラミック層10と内部電極層12との接合強度を向上できると考えられる。その結果、本実施形態の積層セラミックコンデンサ2では、内部電極層12の剥離やセラミック層10におけるクラックの発生を抑制でき、高温多湿環境に対する耐久性が向上すると考えられる。
【0068】
特に、本実施形態では、第1偏析11bにおけるNi/Si比が0.1以上であり、当該構成により、セラミック層10と内部電極層12との接合強度をより向上できると考えられる。その結果、高温多湿環境に対する耐久性をより向上させることができる。
【0069】
また、第1偏析11bの平均粒径を0.05μm以上、0.30μm以下とすることで、内部電極層12の剥離やセラミック層10におけるクラックの発生をより好適に抑制できる。その結果、高温多湿環境に対する耐久性をより向上させることができる。
【0070】
また、本実施形態の積層セラミックコンデンサ2では、セラミック層10の内部にMgを含む第2偏析11c(好ましくは、第2偏析11cが六方晶のBa(Ti1-X,MgX)O3)が存在しており、この第2偏析11cにより、高温多湿環境に対する耐久性をより向上させることができる。また、第2偏析11cによりセラミック層10の焼結性を向上させることができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0072】
たとえば、本実施形態では、積層セラミック電子部品として積層セラミックコンデンサ2を例示したが、本発明の積層セラミック電子部品は、たとえば、バンドパスフィルタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、サーミスタ、バリスタなどであってもよい。
【0073】
また、本実施形態では、セラミック層10と内部電極層12とをZ軸方向に積層したが、積層方向は、X軸方向もしくはY軸方向であってもよい。その場合、内部電極層12の露出面に合わせて外部電極6を形成すればよい。また、内部電極層12は、スルーホール電極を介して、素子本体4の外面に引き出されていてもよく、この場合、スルーホール電極と外部電極6とが電気的に接合する。
【実施例0074】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0075】
(実験1)
実施例1
実施例1では、以下の手順で、
図1に示す積層セラミックコンデンサ2を作製した。
【0076】
まず、誘電体用ペーストと内部電極用ペーストとを準備した。具体的に、誘電体用ペーストは、セラミック層10の主成分となるチタン酸バリウム粉末(BaTiO3粉末)と、副成分粉末(MgCO3粉末、Dy2O3粉末、MnCO3粉末、SiO2粉末)と、有機ビヒクルとを混ぜ合わせて作製した。なお、誘電体原料粉末であるチタン酸バリウム粉末は、水熱合成法で作製したものを使用した。
【0077】
一方、内部電極用ペーストについては、Ni粉末と、第1偏析用原料粉末と、共材であるチタン酸バリウム粉末と、バインダと、溶媒とを混ぜ合わせて作製した。この際内部電極用ペーストに添加した第1偏析用原料粉末は、Ba-Ti-Si-Ni-O系の複合酸化物粉末であり、BaCO3粉末と、TiO2粉末と、SiO2粉末と、NiO粉末とを所定の比率で混合し、仮焼きした後、粉砕処理することで得た。
【0078】
次に、上記の誘電体用ペーストと内部電極用ペーストとを用いて、シート法によりグリーンチップを製造した。そして、当該グリーンチップに対して、脱バインダ処理、焼成処理、およびアニール処理を施し、寸法がL0×W0×T0=2.0mm×1.25mm×1.25mmである素子本体4を得た。また、得られた素子本体4において、内部電極層12に挟まれたセラミック層10の積層数は、600とし、セラミック層10の平均厚みは、0.8μmとし、内部電極層12の平均厚みは、0.8μmとした。
【0079】
次に、上記の素子本体4の外面に、Cuを含む焼付電極層と、Niメッキ層と、Snメッキ層とを、記載の順に形成した。以上の工程により、実施例1に係るコンデンサ試料を得た。
【0080】
実施例2
実施例2では、Ba-Ti-Si-Ni-O系の複合酸化物粉末である第1偏析用原料粉末を、内部電極用ペーストだけでなく、誘電体用ペーストにも添加した。実施例2におけるその他の実験条件は、実施例1と同様にして、実施例2に係るコンデンサ試料を得た。
【0081】
実施例3
実施例3では、チタン酸バリウム粉末と、第2偏析用原料粉末と、副成分粉末(MgCO3粉末、Dy2O3粉末、MnCO3粉末、SiO2粉末)と、有機ビヒクルとを混ぜ合わせて誘電体用ペーストを作製した。この誘電体用ペーストに添加した第2偏析用原料粉末は、Ba(Ti,Mg)O3で表される複合酸化物粉末であり、MgCO3粉末と、BaCO3粉末と、TiO2粉末とを所定の比率で混合し、仮焼きした後、粉砕処理することで得た。なお、実施例3においても、内部電極用ペーストには、第1偏析用原料粉末を添加しており、上記以外の実験条件は実施例1と同様として、実施例3に係るコンデンサ試料を得た。
【0082】
比較例1
比較例1では、偏析用原料粉末を使用せずに誘電体用ペーストと内部電極用ペーストとを準備した。すなわち、比較例1における誘電体用ペーストは、チタン酸バリウム粉末と、副成分粉末(実施例1と同じ副成分)と、有機ビヒクルとを混ぜ合わせて作製し、比較例1における内部電極用ペーストは、Ni粉末と、共材であるチタン酸バリウム粉末と、バインダと、溶媒とを混ぜ合わせて作製した。比較例1における上記以外の実験条件は、実施例1と同様として、比較例1に係るコンデンサ試料を得た。
【0083】
比較例2
比較例2では、内部電極用ペーストに、Niを含まないセラミック粉末を添加した。具体的に、比較例2における内部電極用ペーストには、Ba-Ti-Si-O系のフレスノイト粉末を添加し、当該フレスノイト粉末は、BaCO3粉末と、TiO2粉末と、SiO2粉末とを混ぜ合わせて仮焼きすることで得た。比較例2における上記以外の実験条件は、実施例1と同様として、比較例2に係るコンデンサ試料を得た。
【0084】
比較例3
比較例3では、Ba-Ti-Si-Ni-O系の複合酸化物粉末である第1偏析用原料粉末を、内部電極用ペーストではなく、誘電体用ペーストにのみ添加した。比較例3における上記以外の実験条件は、実施例1と同様として、比較例3に係るコンデンサ試料を得た。
【0085】
実験1で製造した各実施例および各比較例に係るコンデンサ試料については、以下に示す評価を実施した。
【0086】
偏析の解析
実験1では、各コンデンサ試料の断面をSTEMにより観察し、その際にEDXによるマッピング分析および点分析をすることで、境界20に存在する偏析相、および、セラミック層10の内部に存在する偏析相を特定した。各実施例および各比較例における測定結果を表1に示す。なお、表1の偏析相の欄に記載されている「-」は、該当の箇所では、偏析相が観測されなかったことを意味する。
【0087】
耐久性評価
コンデンサ試料の高温多湿環境下での耐久性を評価するために、プレッシャークッカーバイアス試験(PCBT)を行った。具体的に、コンデンサ試料に対して、4Vの電圧を印加した状態で、当該コンデンサ試料を温度121℃、湿度95%、気圧2.026×105Paの環境下に24時間放置した。そして、PCBT前後で、コンデンサ試料の絶縁抵抗を測定し、PCBT後の絶縁抵抗が、試験前の絶縁抵抗に対して、1/10以下にまで低下した試料を不合格(NG)と判断した。当該試験を、各実施例および各比較例につき、それぞれ80個の試料に対して行い、NG率(NGとなったサンプル数/試験サンプル数(80))を算出した。なお、PCBT24h後のNG率は、0/80を合否基準とする。評価結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
表1に示すように、比較例1~3では、セラミック層10と内部電極層12との境界20において、Niを含む第1偏析11bが存在しておらず、十分な耐久性が得られなかった。一方、境界20に第1偏析11bが存在する実施例1~3では、PCBTのNG率が0/80であり、高温多湿環境に対する耐久性が各比較例よりも向上していることが確認できた。実施例1~3では、セラミック層10におけるクラックや、内部電極層12の剥離が各比較例よりも抑制できており、これにより耐久性が向上したと考えられる。
【0090】
なお、各実施例1~3については、上記のPCBT24h(条件1)よりも厳しい条件で耐久性の評価を実施した。具体的に、条件1よりも厳しい条件2のPCBTでは、放置時間を500時間とし、各実施例における試験サンプル数を400個とし、これら以外の条件(印加電圧等)は、条件1と同様とした。表1に示すように、500時間のPCBTでは、実施例3のNG率が0/400となり、実施例1、2よりも実施例3の耐久性が特に良好であることが確認できた。この結果から、境界20の第1偏析11bと併せて、セラミック層10に第2偏析11cを形成することにより、高温多湿環境下における耐久性がさらに向上することが立証できた。
【0091】
(実験2)
実験2では、境界20に存在する第1偏析11bにおけるNi/Si比の水準を振って、実施例11~14に係るコンデンサ試料を得た。具体的に、第1偏析11bにおけるNi/Si比は、第1偏析用原料粉末を調製する際に、SiO2粉末およびNiO粉末の合計添加量を固定したうえで、SiO2粉末の添加量に対するNiO粉末の添加量を変更することにより制御した。実験2における上記以外の実験条件は、実験1の実施例1と同様にし、実験1と同様の評価を実施した。
【0092】
実験2の耐久性評価では、実験1と同様にして24時間のPCBT(条件1)を実施したと共に、試験時間を延ばした240時間でのPCBT(条件3)も実施した。より具体的に、240時間のPCBTでは、コンデンサ試料に対して、4Vの電圧を印加した状態で、当該コンデンサ試料を温度121℃、湿度95%、気圧2.026×105Paの環境下に240時間放置し、試験前後の絶縁抵抗を測定した。実験2では、240時間のPCBTを、各実施例11~14につき、それぞれ400個のコンデンサ試料に対して実施し、そのNG率を算出した。実験2の評価結果を、表2に示す。
【0093】
【0094】
表2に示すように、実施例11~14では、いずれも、境界20においてBa-Ti-Si-Ni-O系の第1偏析11bが存在することが確認でき、24時間のPCBTのNG率が0/80であった。一方、240時間のPCBTでは、試料12~14においてNG率が、0/400となり、特に良好な結果となった。この結果から、第1偏析11bにおけるNi/Si比は、0.1以上であることが好ましいことがわかった。
【0095】
実験3
実験3では、第1偏析11bの平均粒径の水準を振って、実施例21~24に係るコンデンサ試料を作製した。第1偏析11bの平均粒径は、第1偏析用原料粉末を調製する際の粉砕条件により制御した。実験3における上記以外の実験条件は、実験1の実施例1と同様とし、実験3においても、実験2と同様の評価(偏析の解析、24時間のPCBT、240時間のPCBT)を実施した。実験3の評価結果を表3に示す。
【0096】
【0097】
表3の結果から、第1偏析11bの平均粒径は、0.05μm以上、0.30以下であることが好ましいことがわかった。
【0098】
実験4
実験4では、境界20の単位長さあたりに存在する第1偏析11bの個数N1の水準を振って、実施例31~33に係るコンデンサ試料を作製した。個数N1は、内部電極用ペースト中に添加する第1偏析用原料粉末の添加量により制御し、STEMによる断面解析により個数N1を測定した。実験4における上記以外の実験条件は、実験1の実施例1と同様とし、実験4においても実験2と同様の評価を実施した。実験4の評価結果を、表4に示す。
【0099】
【0100】
表4の結果から、境界20の単位長さあたりに存在する第1偏析11bの個数N1は、0.2個/μm以上、3.2個/μm以下であることが好ましいことがわかった。