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特開2022-181564ゴルフクラブのフィッティング装置、方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181564
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ゴルフクラブのフィッティング装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/36 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
A63B69/36 541S
A63B69/36 541W
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088585
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 弘祐
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 佑斗
(72)【発明者】
【氏名】南家 健太
(57)【要約】
【課題】ゴルファーに適した長さのゴルフクラブを精度よく選定するためのフィッティング装置を提供する。
【解決手段】フィッティング装置は、取得部と、算出部と、決定部とを備える。取得部は、ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得する。算出部は、前記計測データに基づいて、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する第1スイング指標を算出する。決定部は、前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適した前記ゴルフクラブの長さである最適クラブ長さを決定する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得する取得部と、
前記計測データに基づいて、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する第1スイング指標を算出する算出部と、
前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適した前記ゴルフクラブの長さである最適クラブ長さを決定する決定部と
を備える、
フィッティング装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記第1スイング指標を所定の第1閾値と比較し、前記第1スイング指標が前記第1閾値以上である場合には、前記最適クラブ長さが第1クラブ長さであると決定する、
請求項1に記載のフィッティング装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記第1スイング指標を前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値と比較し、前記第1スイング指標が前記第2閾値以下である場合には、前記最適クラブ長さが前記第1クラブ長さよりも長い第2クラブ長さであると決定する、
請求項2に記載のフィッティング装置。
【請求項4】
前記計測データには、前記ゴルフクラブのグリップエンドにおける角速度が含まれ、前記第1スイング指標は、前記ゴルフクラブのシャフトに平行な軸周りの角速度に基づいて算出される、
請求項1から3のいずれかに記載のフィッティング装置。
【請求項5】
前記第1スイング指標は、ダウンスイング時における前記角速度の平均値または積分値である、
請求項4に記載のフィッティング装置。
【請求項6】
前記最適クラブ長さに最も合致するゴルフクラブ及び当該ゴルフクラブに含まれるべきシャフトの少なくとも一方を選択する選択部、
をさらに備える、
請求項1から5のいずれかに記載のフィッティング装置。
【請求項7】
ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得する取得部と、
前記計測データに基づいて、前記スイング動作に関する第1スイング指標、第2スイング指標及び第3スイング指標を算出する算出部と、
前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したクラブ長さである最適クラブ長さを決定し、前記第2スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したゴルフクラブの振り易さ指標である最適振り易さ指標を決定し、前記第3スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適した前記シャフトの剛性を示す最適剛性指標を決定する決定部と、
前記最適振り易さ指標、前記最適剛性指標及び前記最適クラブ長さに最も合致するゴルフクラブ及び当該ゴルフクラブに含まれるべきシャフトの少なくとも一方を選択する選択部と
を備え、
前記第1スイング指標は、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する指標である、
フィッティング装置。
【請求項8】
ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得する取得部と、
前記計測データに基づいて、前記スイング動作に関する第1スイング指標、第2スイング指標及び第3スイング指標を算出する算出部と、
前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したクラブ長さである最適クラブ長さを決定し、前記第2スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したゴルフクラブの特定の部位の特性を表す最適特性指標を決定し、前記第3スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適した前記シャフトの剛性を示す最適剛性指標を決定する決定部と、
前記最適特性指標、前記最適剛性指標、及び前記最適クラブ長さに最も合致するゴルフクラブ及び当該ゴルフクラブに含まれるべきシャフトの少なくとも一方を選択する選択部と
を備え、
前記第1スイング指標は、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する指標である、
フィッティング装置。
【請求項9】
前記計測データには、前記ゴルフクラブのグリップエンドにおける角速度が含まれ、前記第1スイング指標は、前記ゴルフクラブのシャフトに平行な軸周りの角速度に基づいて算出される、
請求項7または8に記載のフィッティング装置。
【請求項10】
ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する第1スイング指標をコンピュータを用いて算出するステップと、
前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したクラブ長さである最適クラブ長さを決定するステップと、
を含む、
フィッティング方法。
【請求項11】
ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する第1スイング指標を算出するステップと、
前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したクラブ長さである最適クラブ長さを決定するステップと、
をコンピュータに実行させる、
フィッティングプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルファーに適したゴルフクラブを選定するためのフィッティング装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴルファーにテストクラブを試打させてその動作を計測機器により計測し、当該計測データに基づいて当該ゴルファーに適したゴルフクラブを選定する様々なフィッティング方法が提案されている。その1つとして、特許文献1には、ゴルファーに適したゴルフクラブのシャフトを選定するためのフィッティング方法が開示されている。具体的には、特許文献1では、テストクラブによる計測データに基づいて、ゴルファーに適したゴルフクラブの最適振り易さ指標とともに、当該ゴルファーに適したシャフトの剛性を示す最適剛性指標が決定される。そして、ヘッドを固定した上で、データベースに登録されている多数のシャフトの中から、当該最適振り易さ指標及び当該最適剛性指標にできる限り合致するシャフトが抽出される。かかる方法は、シャフトのフィッティングの精度を向上させる技術として、大いに期待されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-170105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によれば、最適振り易さ指標及び最適剛性指標にできる限り合致するシャフト、ひいてはゴルフクラブを絞り込むことができるが、ゴルフクラブとしてのクラブ長さを調整するため、異なるシャフト長さのオプションが用意されていることがある。このため、特許文献1に開示する方法に限らず、従来の方法により絞り込まれたゴルフクラブの中から、さらにゴルファーに適した長さのゴルフクラブを選択することができる方法が望まれていた。なお、このことは、何らかの方法によってゴルファーに適するシャフト及びゴルフクラブが絞り込まれていない場合に、ゴルファーに適したシャフトまたはゴルフクラブを選択しようとする場合についても同様である。
【0005】
本発明は、ゴルファーに適した長さのゴルフクラブを精度よく選定するためのフィッティング装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係るフィッティング装置は、取得部と、算出部と、決定部とを備える。取得部は、ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得する。算出部は、前記計測データに基づいて、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する第1スイング指標を算出する。決定部は、前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適した前記ゴルフクラブの長さである最適クラブ長さを決定する。
【0007】
第2観点に係るフィッティング装置は、第1観点に係るフィッティング装置であって、前記決定部は、前記第1スイング指標を所定の第1閾値と比較し、前記第1スイング指標が前記第1閾値以上である場合には、前記最適クラブ長さが第1クラブ長さであると決定する。
【0008】
第3観点に係るフィッティング装置は、第2観点に係るフィッティング装置であって、前記決定部は、前記第1スイング指標を前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値と比較し、前記第1スイング指標が前記第2閾値以下である場合には、前記最適クラブ長さが前記第1クラブ長さよりも長い第2クラブ長さであると決定する。
【0009】
第4観点に係るフィッティング装置は、第1観点から第3観点のいずれかに係るフィッティング装置であって、前記計測データには、前記ゴルフクラブのグリップエンドにおける角速度が含まれ、前記第1スイング指標は、前記ゴルフクラブのシャフトに平行な軸周りの角速度に基づいて算出される。
【0010】
第5観点に係るフィッティング装置は、第4観点に係るフィッティング装置であって、前記第1スイング指標は、ダウンスイング時における前記角速度の平均値または積分値である。
【0011】
第6観点に係るフィッティング装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係るフィッティング装置であって、前記最適クラブ長さに最も合致するゴルフクラブ及び当該ゴルフクラブに含まれるべきシャフトの少なくとも一方を選択する選択部をさらに備える。
【0012】
第7観点に係るフィッティング装置は、取得部と、算出部と、決定部と、選択部とを備える。取得部は、ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得する。算出部は、前記計測データに基づいて、前記スイング動作に関する第1スイング指標、第2スイング指標及び第3スイング指標を算出する。決定部は、前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したクラブ長さである最適クラブ長さを決定し、前記第2スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したゴルフクラブの振り易さ指標である最適振り易さ指標を決定し、前記第3スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適した前記シャフトの剛性を示す最適剛性指標を決定する。選択部は、前記最適振り易さ指標、前記最適剛性指標及び前記クラブ長さに最も合致するゴルフクラブ及び当該ゴルフクラブに含まれるべきシャフトの少なくとも一方を選択する。第1スイング指標は、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する指標である。
【0013】
第8観点に係るフィッティング装置は、取得部と、算出部と、決定部と、選択部とを備える。取得部は、ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得する。算出部は、前記計測データに基づいて、前記スイング動作に関する第1スイング指標、第2スイング指標及び第3スイング指標を算出する。決定部は、前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したクラブ長さである最適クラブ長さを決定し、前記第2スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したゴルフクラブの特定の部位の特性を表す最適特性指標を決定し、前記第3スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適した前記シャフトの剛性を示す最適剛性指標を決定する。選択部は、前記最適特性指標、前記最適剛性指標及び前記クラブ長さに最も合致するゴルフクラブ及び当該ゴルフクラブに含まれるべきシャフトの少なくとも一方を選択する。第1スイング指標は、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する指標である。
【0014】
第9観点に係るフィッティング装置は、第7観点または第8観点に係るフィッティング装置であって、前記計測データには、前記ゴルフクラブのグリップエンドにおける角速度が含まれ、前記第1スイング指標は、前記ゴルフクラブのシャフトに平行な軸周りの角速度に基づいて算出される。
【0015】
第10観点に係るフィッティング方法は、以下の(1)~(3)のステップを含む。
(1)ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測デー タを取得するステップ
(2)前記計測データに基づいて、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する第1スイング指標をコンピュータを用いて算出するステップ
(3)前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したクラブ長さである最適クラブ長さを決定するステップ
【0016】
第11観点に係るフィッティング方法は、以下の(1)~(3)のステップをコンピュータに実行させる。
(1)ゴルファーによるゴルフクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得するステップ
(2)前記計測データに基づいて、前記スイング動作中の前記ゴルフクラブの捩り度合いに関する第1スイング指標をコンピュータを用いて算出するステップ
(3)前記第1スイング指標の大きさに応じて、前記ゴルファーに適したクラブ長さである最適クラブ長さを決定するステップ
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1観点によれば、ゴルフクラブによる計測値に基づいて、ゴルフクラブの捩り度合いを表す第1スイング指標が算出される。そして、第1スイング指標に応じて、ゴルファーに適したゴルフクラブの長さである最適クラブ長さが決定される。すなわち、ゴルファーのスイング動作の特徴に基づき、これに適した最適クラブ長さが決定されるため、ゴルファーに適したクラブ長さのゴルフクラブを精度よく選定することができる。
【0018】
本発明の第7観点によれば、ゴルフクラブによる計測値に基づいて、第1スイング指標、第2スイング指標及び第3スイング指標が算出される。そして、第1スイング指標に応じてゴルファーに適したゴルフクラブの長さである最適クラブ長さが決定され、第2スイング指標に応じてゴルファーに適したゴルフクラブの振り易さ指標である最適振り易さ指標が決定され、第3スイング指標に応じてゴルファーに適したシャフトの剛性を示す最適剛性指標が決定される。そして、最適振り易さ指標、最適剛性指標及び最適クラブ長さに最も合致するゴルフクラブ及びこれに含まれるべきシャフトのうち少なくとも一方が選定される。第1スイング指標は、ゴルフクラブの捩り度合いを表す。これにより、様々な観点からゴルファーに適したゴルフクラブが絞り込まれるので、ゴルフクラブを精度よく選定することができる。
【0019】
本発明の第8観点によれば、ゴルフクラブによる計測値に基づいて、第1スイング指標、第2スイング指標及び第3スイング指標が算出される。そして、第1スイング指標に応じてゴルファーに適したゴルフクラブの長さである最適クラブ長さが決定され、第2スイング指標に応じてゴルファーに適したゴルフクラブ特定の部位の特性を表す最適特性指標が決定され、第3スイング指標に応じてゴルファーに適したシャフトの剛性を示す最適剛性指標が決定される。そして、最適特性指標、最適剛性指標及び最適クラブ長さに最も合致するゴルフクラブ及びこれに含まれるべきシャフトのうち少なくとも一方が選定される。第1スイング指標は、ゴルフクラブの捩り度合いを表す。これにより、様々な観点からゴルファーに適したゴルフクラブが絞り込まれるので、ゴルフクラブを精度よく選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るフィッティング装置を備えるフィッティングシステムを示す図。
図2】フィッティングシステムの機能ブロック図。
図3】ゴルフクラブのグリップを基準とするxyz局所座標系を説明する図。
図4】フィッティング処理の流れを示すフローチャート。
図5】(A)アドレス状態を示す図。(B)トップ状態を示す図。(C)インパクト状態を示す図。(D)フィニッシュ状態を示す図。
図6】第1指標算出工程の流れを示すフローチャート。
図7】トップの時刻の導出方法を説明する図。
図8】最適クラブ長さ決定工程の流れを示すフローチャート。
図9】スイング挙動の違いによる角速度ωzの波形の違いを示すグラフ。
図10】スイング平面を説明する図。
図11】二重振り子モデルを概念的に説明する図。
図12】二重振り子モデルを概念的に説明する別の図。
図13】プロモデル領域を示す図。
図14】アベレージモデル領域を示す図。
図15】インターナショナル・フレックス・コード(IFC)を説明する図。
図16】シャフトの曲げ剛性の測定方法を説明する図。
図17】スイング中のシャフトの曲げを説明する図。
図18】変形例に係る第1スイング指標となる角度を説明する図。
図19】最適シャフト重量帯に対応する分割領域に分割された第2スイング指標を示す空間を示す図。
図20A】特定のフレックスに対する、最適シャフト重量帯に対応する分割領域に分割された第1スイング指標を示す空間を示す図。
図20B】別のフレックスに対する、最適シャフト重量帯に対応する分割領域に分割された第1スイング指標を示す空間を示す図。
図20C】さらに別のフレックスに対する、最適シャフト重量帯に対応する分割領域に分割された第1スイング指標を示す空間を示す図。
図21A】捩りのローテーションの動きを示す概念図。
図21B】プッシュのローテーションの動きを示す概念図。
図22】例外処理の流れを示す図。
図23A】ゴルファーによる実施例及び比較例による試打結果を比較する図。
図23B】別のゴルファーによる実施例及び比較例による試打結果を比較する図。
図23C】さらに別のゴルファーによる実施例及び比較例による試打結果を比較する図。
図23D】さらに別のゴルファーによる実施例及び比較例による試打結果を比較する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係るゴルフクラブのフィッティング装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0022】
<1.フィッティングシステムの概略構成>
図1及び図2に、本実施形態に係るフィッティング装置2を備えるフィッティングシステム100(以下、単に「システム100」とも称する)の全体構成を示す。フィッティング装置2は、ゴルファーGによるゴルフクラブ4のスイング動作を計測した計測データに基づいて、当該ゴルファーGに適したゴルフクラブ4を選定するための装置である。本実施形態では、スイング動作の計測は、ゴルフクラブ4のグリップ42に取り付けられたセンサユニット1により行われ、フィッティング装置2は、このセンサユニット1とともに、システム100を構成する。
【0023】
以下、センサユニット1及びフィッティング装置2の構成について説明した後、フィッティング処理の流れについて説明する。
【0024】
<1-1.センサユニットの構成>
センサユニット1は、図1及び図3に示すとおり、ゴルフクラブ4のグリップ42におけるヘッド41と反対側の端部に取り付けられており、グリップ42の挙動を計測する。なお、ゴルフクラブ4は、一般的なゴルフクラブであり、シャフト40と、シャフト40の一端に設けられたヘッド41と、シャフト40の他端に設けられたグリップ42とから構成される。本実施形態に係るシャフト40は、カーボン製のシャフトである。センサユニット1は、スイング動作の妨げとならないよう、小型且つ軽量に構成されている。図2に示すように、本実施形態に係るセンサユニット1には、加速度センサ11、角速度センサ12及び地磁気センサ13が搭載されている。また、センサユニット1には、これらのセンサ11~13による計測データを外部のフィッティング装置2に送信するための通信装置10も搭載されている。なお、本実施形態では、通信装置10は、スイング動作の妨げにならないように無線式であるが、ケーブルを介して有線式にフィッティング装置2に接続するようにしてもよい。
【0025】
加速度センサ11、角速度センサ12及び地磁気センサ13はそれぞれ、グリップ42を基準としたxyz局所座標系におけるグリップ加速度、グリップ角速度及びグリップ地磁気を計測する。より具体的には、加速度センサ11は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップ加速度ax,ay,azを計測する。角速度センサ12は、x軸、y軸及びz軸周りのグリップ角速度ωx,ωy,ωzを計測する。地磁気センサ13は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップ地磁気mx,my,mzを計測する。これらの計測データは、所定のサンプリング周期Δtの時系列データとして取得される。なお、xyz局所座標系は、図3に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、z軸は、シャフト40の延びる方向に一致し、ヘッド41からグリップ42に向かう方向が、z軸正方向である。x軸は、ヘッド41のトゥ-ヒール方向にできる限り沿うように配向され、y軸は、ヘッド41のフェース面の法線方向にできる限り沿うように配向される。
【0026】
本実施形態では、加速度センサ11、角速度センサ12及び地磁気センサ13による計測データは、通信装置10を介してリアルタイムにフィッティング装置2に送信される。しかしながら、例えば、センサユニット1内の記憶装置に計測データを格納しておき、スイング動作の終了後に当該記憶装置から計測データを取り出して、フィッティング装置2に受け渡すようにしてもよい。
【0027】
<1-2.フィッティング装置の構成>
フィッティング装置2は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン等として実現される。図2に示す通り、フィッティング装置2は、本実施形態に係るフィッティングプログラム3(以下、単に「プログラム3」とも称する)を、汎用のパーソナルコンピュータにインストールすることにより製造される。プログラム3は、コンピュータで読み取り可能なCD-ROM等の記録媒体20から、或いは通信部25に接続されるローカルエリアネットワーク(LAN)やインターネット等の通信ネットワークを介して、フィッティング装置2に取得される。プログラム3は、センサユニット1から送られてくる計測データに基づいてスイング動作を解析し、ゴルファーGに適したゴルフクラブ4を選択するのを支援する情報を出力するためのソフトウェアである。プログラム3は、フィッティング装置2に後述する動作を実行させる。
【0028】
フィッティング装置2は、表示部21、入力部22、記憶部23、制御部24及び通信部25を備える。そして、これらの部21~25は、バス線26を介して接続されており、相互に通信可能である。本実施形態では、表示部21は、液晶ディスプレイ等で構成され、後述する情報をユーザに対し表示する。なお、ここでいうユーザとは、ゴルファーG自身やそのインストラクター、ゴルフクラブの販売員等の、フィッティングの結果を必要とする者の総称である。入力部22は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、フィッティング装置2に対するユーザからの操作を受け付ける。通信部25は、フィッティング装置2と外部装置との通信を可能にする通信インターフェースであり、センサユニット1からデータを受信する。
【0029】
記憶部23は、ハードディスク等の不揮発性の記憶装置により構成される。記憶部23内には、プログラム3が格納されている他、センサユニット1から送られてくる計測データが保存される。また、記憶部23内には、対応関係データ28、ヘッドデータベース(DB)27及びシャフトデータベース(DB)29が格納されている。対応関係データ28とは、詳細は後述するが、ゴルフクラブ4の様々なモデル(シリーズ)毎に規定されており、最適振り易さ指標を決定するための条件を示すデータである。同様に詳細は後述するが、ヘッドDB27は、多数のヘッド41のスペックを示す情報が、ヘッド41の種類を特定する情報に関連付けて格納されたデータベースである。
【0030】
制御部24は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部24は、記憶部23内のプログラム3を読み出して実行することにより、仮想的に取得部24A、グリップ挙動導出部24B、肩挙動導出部24C、算出部24D、決定部24E、選択部24F及び表示制御部24Gとして動作する。各部24A~24Gの動作の詳細については、後述する。
【0031】
<2.フィッティング処理>
続いて、システム100により実行されるフィッティング処理について説明する。本実施形態に係るフィッティング処理は、図4に示すとおり、以下の11の工程(S1~S11)から構成されている。
(S1)xyz局所座標系でのグリップ加速度ax,ay,az、グリップ角速度ωx,ωy,ωz及びグリップ地磁気mx,my,mzの計測データを計測する計測工程
(S2)グリップ角速度ωzから第1スイング指標を算出する第1指標算出工程
(S3)第1スイング指標に基づいて、最適クラブ長さを決定する最適クラブ長さ決定工程
(S4)計測工程で得られたxyz局所座標系での計測データを、XYZ全体座標系でのグリップ加速度aX,aY,aZ及びグリップ角速度ωX,ωY,ωZに変換する第1変換工程(第1変換工程では、XYZ全体座標系でのグリップ速度vX,vY,vZも導出される。)
(S5)XYZ全体座標系でのグリップ42の挙動(グリップ角速度ωX,ωY,ωZ及びグリップ速度vX,vY,vZ)を、スイング平面P(後述する)内でのグリップ42の挙動へと変換する第2変換工程
(S6)スイング平面P内でのグリップ42の挙動に基づいて、スイング平面P内でのゴルファーGの疑似的な肩の挙動を導出する肩挙動導出工程
(S7)スイング平面P内でのグリップ42の挙動及び疑似的な肩の挙動に基づいて、第2スイング指標(本実施形態では、後述する腕出力パワーP1_AVE、クラブ入力パワーP2_AVE及びヘッド速度Vh)を算出する第2指標算出工程
(S8)第2スイング指標に基づいて、ゴルファーGに適した振り易さ指標(本実施形態では、後述するスイング慣性モーメントIS)である最適振り易さ指標(本実施形態では、最適スイングMI)を決定する最適振り易さ決定工程
(S9)計測データに基づいて、第3スイング指標(本実施形態では、後述する第1~第4特徴量F1~F4)を算出する第3指標算出工程
(S10)第3スイング指標に基づいて、ゴルファーGに適したシャフト40の剛性を示す最適剛性指標(本実施形態では、後述するEI分布)を決定する最適剛性決定工程
(S11)最適振り易さ指標、最適剛性指標及び最適クラブ長さに合致するゴルフクラブ4、特にシャフト40を選択する最適クラブ選択工程
以下、これらの工程を順に説明する。
【0032】
なお、XYZ全体座標系は、図1に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、Z軸は、鉛直下方から上方に向かう方向であり、X軸は、ゴルファーGの背から腹に向かう方向であり、Y軸は、地平面に平行でボールの打球地点から目標地点に向かう方向である。
【0033】
<2-1.計測工程>
計測工程(S1)では、ゴルファーGにより、上述のセンサユニット1付きゴルフクラブ4がスイングされる。計測工程でスイングされるゴルフクラブ4は、2本のテストクラブのうちの1本である。これらのテストクラブは、異なる種類のゴルフクラブであり、本実施形態では、1本はプロ仕様のゴルフクラブ(以下、プロモデルクラブ)であり、もう1本はアベレージユーザーに適したゴルフクラブ(以下、アベレージモデルクラブ)である。また、本実施形態では、プロモデルクラブは、アベレージモデルクラブよりも重量が大きい。計測工程でいずれのテストクラブがスイングされるかは、ゴルファーGの好みや経験等に基づいて、決定される。
【0034】
続いて、以上のようなゴルフクラブ4のスイング動作中のグリップ加速度ax,ay,az、グリップ角速度ωx,ωy,ωz及びグリップ地磁気mx,my,mzの計測データが、センサユニット1により計測される。この計測データは、センサユニット1の通信装置10を介してフィッティング装置2に送信される。一方、フィッティング装置2側では、取得部24Aが通信部25を介してこれを受信し、記憶部23内に格納する。本実施形態では、少なくともアドレスからインパクトまでの時系列の計測データが計測される。
【0035】
なお、ゴルフクラブのスイング動作は、一般に、アドレス、トップ、インパクト、フィニッシュの順に進む。アドレスとは、図5(A)に示すとおり、ゴルフクラブ4のヘッド41をボール近くに配置した初期の状態を意味し、トップとは、図5(B)に示すとおり、アドレスからゴルフクラブ4をテイクバックし、最もヘッド41が振り上げられた状態を意味する。インパクトとは、図5(C)に示すとおり、トップからゴルフクラブ4が振り下ろされ(ダウンスイング)、ヘッド41がボールと衝突した瞬間の状態を意味し、フィニッシュとは、図5(D)に示すとおり、インパクト後、ゴルフクラブ4を前方へ振り抜いた状態を意味する。
【0036】
計測工程では、以上のゴルフクラブ4が複数回、好ましくは5回以上試打されることが好ましい。この場合、計測データの平均値を算出し、以降の演算に使用することができる。また、ミスショットや計測ミス等による異常値を取り除くため、計測データの標準偏差σを算出するようにし、全ての計測データが平均値±k・σ(kは、定数)以内に収まっていない場合には、計測の追加又はやり直しを求めるメッセージを表示部21上に表示させるようにしてもよい。なお、計測データ自体の平均値ではなく、計測データに基づいて算出される加工値(例えば、後述する腕出力パワーP1_AVE、クラブ入力パワーP2_AVE及びヘッド速度Vh)の平均値を算出するようにしてもよい。加工値の平均値を算出する場合も、同じく標準偏差σに基づくデータの信頼性のチェックを行うことができる。
【0037】
<2-2.第1指標算出工程>
以下、図6を参照しつつ、第1指標算出工程(S2)について説明する。第1指標算出工程では、グリップ角速度ωx,ωy,ωzの計測データに基づいて、第1スイング指標SW1が算出される。第1スイング指標SW1は、スイング動作中のゴルフクラブ4の捩り度合い、言い換えると、ゴルフクラブ4のシャフト軸周りの捻りのローテーションの動き(図21A参照)を表す指標である。本実施形態では、第1スイング指標SW1として、トップからインパクトまでのダウンスイング時のグリップ角速度ωzの平均値が算出される。第1スイング指標SW1は、後述する工程で最適クラブ長さを決定するための指標である。最適クラブ長さを決定するための指標として、このような捩り度合いを表す指標が算出される理由については、後述する。
【0038】
具体的には、まず、取得部24Aが、記憶部23内に格納されているxyz局所座標系でのグリップ角速度ωx,ωy,ωzの時系列の計測データを読み出す(ステップS21)。
【0039】
次に、グリップ挙動導出部24Bが、グリップ角速度ωx,ωy,ωzの計測データに基づいてトップの時刻ti及びインパクトの時刻ttを導出する(ステップS22)。トップの時刻tiの導出方法としては、様々な方法が公知であるが、ステップS22では図7に示すようなグリップ角速度ωyの波形において、グリップ角速度ωyの符号が負から正へと転換するタイミング、すなわちωy=0となるタイミングをトップのタイミングと定義する。従って、グリップ挙動導出部24Bは、ωyの計測データから、ωy=0となる時刻をトップの時刻tiとして特定する。インパクトの時刻ttの導出方法としては、様々な方法が公知であるため、詳細な説明を省略する。なお、本実施形態では、特許第6059878号で説明されている方法に従い、グリップ角速度ωx,ωy,ωzの計測データに基づいてインパクトの時刻ttが導出される。
【0040】
ステップS23では、算出部24Dが、第1スイング指標SW1として、トップの時刻tiからインパクトの時刻ttまでのグリップ角速度ωzの平均値を算出する。本実施形態では、下式に従ってグリップ角速度ωzの平均値が算出される。
【数1】
【0041】
すなわち、本実施形態の第1スイング指標SW1は、トップの時刻tiからインパクトの時刻ttまでの区間でのグリップ角速度ωzの絶対値の積分値を、トップからインパクトまでの期間で除することで算出される。しかしながら、第1スイング指標SW1は、これに限られず、トップの時刻tiからインパクトの時刻ttまでの区間でのグリップ角速度ωzの絶対値の積分値であってもよい。算出された第1スイング指標SW1がRAMまたは記憶部23に保存されると、第1指標算出工程は終了する。
【0042】
<2-3.最適クラブ長さ決定工程>
以下、図8を参照しつつ、第1指標算出工程で算出された第1スイング指標SW1に基づいて、最適クラブ長さを決定する最適クラブ長さ決定工程(S3)について説明する。本実施形態では、第1スイング指標SW1の大きさに応じて、基本クラブ長さ、基本クラブ長さよりも短い第1クラブ長さ、及び基本クラブ長さよりも長い第2クラブ長さのいずれかが最適クラブ長さとして決定される。各クラブ長さは、予め定められており、基本クラブ長さは、これに限定されないが、例えば45.25インチである。また、第1クラブ長さは、これに限定されないが、例えば44.75インチであり、第2クラブ長さは、これに限定されないが、例えば45.75インチである。なお、クラブ長さの計測方法は、シャフトDB29に登録されている多数のシャフト40間で統一されていれば、60度法に基づいて定義されてもよいし、ヒールエンド法に基づいて定義されてもよい。本実施形態のクラブ長さの計測方法は、ヒールエンド法に基づいている。
【0043】
ステップS31では、決定部24Eが、第1スイング指標SW1が所定の第1閾値TH1以上(SW1≧TH1)であるか否かを判定する。第1閾値TH1は、多数の実験データ等に基づいて予め定められた値であり、記憶部23内に格納されていてもよいし、プログラム3に組み込まれていてもよい。本実施形態では、TH1=250と定められている。決定部24Eが、SW1≧TH1であると判定すると、処理はステップS32に進む。一方、決定部24Eが、第1スイング指標SW1が所定の第1閾値TH1未満、つまりSW1<TH1であると判定すると、処理はステップS33に進む。
【0044】
ステップS32では、決定部24Eが、最適クラブ長さを、基本クラブ長さよりも短い第1クラブ長さに決定する。その後、最適クラブ長さ決定工程は終了する。
【0045】
ステップS33では、決定部24Eが、第1スイング指標SW1が所定の第2閾値TH2以下(SW1≦TH2)であるか否かを判定する。第2閾値TH2は、第1閾値TH1と同様に、多数の実験データ等に基づいて予め定められた値であり、記憶部23内に格納されていてもよいし、プログラム3に組み込まれていてもよい。本実施形態では、TH2=75と定められている。決定部24Eが、SW1≦TH2であると判定すると、処理はステップS34に進む。一方、決定部24Eが、第1スイング指標SW1が所定の第2閾値TH2を超えていると判定すると、処理はステップS35に進む。
【0046】
ステップS34では、決定部24Eが、最適クラブ長さを、基本クラブ長さよりも長い第2クラブ長さに決定する。その後、最適クラブ長さ決定工程は終了する。
【0047】
第1スイング指標SW1が第2閾値TH2を超え、第1閾値TH1未満(TH2<SW1<TH1)である場合の処理は、ステップS35の処理となる。ステップS35では、決定部24Eが、最適クラブ長さを、基本クラブ長さに決定する。その後、最適クラブ長さ決定工程は終了する。
【0048】
以上のように、第1スイング指標SW1に基づいて最適クラブ長さを決定可能であることの裏付けは、発明者らの行った実験により確認された。発明者らは、多数のゴルファーにセンサユニット1付きゴルフクラブ4を試打させ、グリップ角速度ωzの時系列のデータを取得した。すると、図9に示すように、ダウンスイング中に捻りのローテーションの動きを多く使用するゴルファーと、捻りのローテーションの動きを殆ど使用しないゴルファーとではグリップ角速度ωzの波形に顕著な差が現れることを見出した。なお、説明の便宜上、図9には両者の代表的な例のみが示されている。そして、発明者らは、各ゴルファーの第1スイング指標SW1が、ローテーションの動きを多く使うグループ、ローテーションの動きが標準的なグループ、ローテーションの動きを殆ど使用しないグループに分かれて分布する傾向にあることを発見した。
【0049】
発明者らは、ローテーションの動きを多く使うゴルファー、つまり第1スイング指標SW1が顕著に大きかったゴルファー10名には第1クラブ長さのゴルフクラブ4で試打を行ってもらい、打球の飛距離と弾道の方向性(左右ズレの少なさ)とを、基本クラブ長さのゴルフクラブ4で試打した場合のそれらと比較した。すると、10名全員について、第1クラブ長さのゴルフクラブ4での試打の方が、方向性は殆ど変わらず最大飛距離が大きくなるか、最大飛距離は殆ど変わらず方向性が向上する結果となった。
【0050】
さらに、発明者らは、ローテーションの動きを殆ど使用しないゴルファー、つまり第1スイング指標SW1が顕著に小さかったゴルファー7名には第2クラブ長さのゴルフクラブ4で試打を行ってもらい、打球の飛距離と弾道の方向性(左右ズレの少なさ)とを、基本クラブ長さのゴルフクラブ4で試打した場合のそれらと比較した。すると、6名について、第2クラブ長さのゴルフクラブ4での試打の方が、方向性は殆ど変わらず最大飛距離が大きくなるか、最大飛距離は殆ど変わらず方向性が向上する結果となった。
【0051】
以上の実験結果は、以下のような理由によるものと考えられる。ローテーションの動きが多く、捩り度合いが大きいスイング動作では、ゴルフクラブ4の切り返し動作(図17(2)参照)が比較的しにくい。しかし、比較的短いゴルフクラブ4を使用すると、切り返し動作がし易くなり、スイングが改善する。また、ローテーションの動きが極端に少なく、捩り度合いが小さいスイング動作では、ゴルフクラブ4の切り返し動作が比較的し易いため、かえってゴルフクラブ4が返り過ぎとなる傾向がある。しかし、比較的長いゴルフクラブ4を使用すると、ゴルフクラブの返り過ぎが抑制され、スイングが改善する。
【0052】
<2-4.第1変換工程>
第1変換工程(S4)では、xyz局所座標系の計測データをXYZ全体座標系の値へと変換する処理が行われる。この処理では、グリップ挙動導出部24Bにより、アドレスからインパクトまでのxyz局所座標系でのグリップ角速度ωx,ωy,ωz及びグリップ加速度ax,ay,azの時系列の計測データが、アドレスからインパクトまでのXYZ全体座標系でのグリップ角速度ωX,ωY,ωZ及びグリップ加速度aX,aY,aZの時系列の計測データにそれぞれ変換される。また、グリップ挙動導出部24Bが、グリップ加速度aX,aY,aZの時系列データを積分することにより、アドレスからインパクトまでのXYZ全体座標系でのグリップ速度vX,vY,vZを導出する。具体的な算出方法については、特許文献1で詳細に説明されているため、ここでは説明を省略する。
【0053】
<2-5.第2変換工程>
第2変換工程(S5)では、第1変換工程で算出されたXYZ全体座標系でのグリップ42の挙動を、スイング平面P内でのグリップ42の挙動へと変換する処理が行われる。本実施形態では、スイング平面Pは、XYZ全体座標系の原点を含み、Y軸及びインパクト時のシャフト40と平行な面として定義される(図10参照)。第2変換工程では、グリップ挙動導出部24Bが、XYZ全体座標系でのグリップ速度vX,vY,vZ及びグリップ角速度ωX,ωY,ωZをスイング平面P内へ射影したグリップ速度vpX,vpY,vpZ及びグリップ角速度ωpX,ωpY,ωpZを算出する。具体的な算出方法については、特許文献1で詳細に説明されているため、ここでは説明を省略する。
【0054】
<2-6.肩挙動導出工程>
肩挙動導出工程(S6)では、スイング平面P内でのグリップの挙動(グリップ速度VGE及びグリップ角速度ωpX)に基づいて、スイング平面P内の疑似的な肩の挙動を導出する処理が行われる。本実施形態では、ゴルフクラブ4の挙動は、ゴルファーGの肩及びグリップ42(或いは、これを握るゴルファーの手首)を節点とし、ゴルファーGの腕及びゴルフクラブ4をリンクとする、図11に示す二重振り子モデルに基づいて解析される。肩挙動導出部24Cは、肩の挙動として、スイング平面P内におけるトップからインパクトまでの肩周りの角速度(腕の角速度)ω1を算出する。具体的な算出方法については、特許文献1で詳細に説明されているため、ここでは説明を省略する。
【0055】
<2-7.第2指標算出工程>
第1指標算出工程(S7)では、グリップ42の挙動及び肩の挙動に基づいて、第2スイング指標を算出する処理が行われる。第2スイング指標とは、最適振り易さ指標を決定するための、ゴルファーGによるスイング動作を特徴付ける特徴量である。本実施形態では、算出部24Dが、第2スイング指標として、腕出力パワーP1_AVE、クラブ入力パワーP2_AVE及びヘッド速度Vhを算出する。ここで、第2スイング指標は、図12に示されるスイング平面P内での新たなXY座標系に準拠して算出される。図12の紙面は、スイング平面Pに等しい。スイング平面P内での新たなXY座標系のX軸は、上述したXYZ全体座標系のY軸に等しく、新たなXY座標系のY軸は、XYZ全体座標系のZ軸をスイング平面P内に投影した軸である。腕出力パワーP1_AVE、クラブ入力パワーP2_AVE及びヘッド速度Vhの具体的な算出方法については、特許文献1や本出願人による先行技術文献である特開2017-217324号公報で詳細に説明されているため、ここでは説明を省略する。
【0056】
特開2017-217324号公報でも説明されている通り、腕出力パワーP1_AVEとは、スイング動作中にゴルファーGがコックを溜める強さを表す指標であると言い換えることができる。また、クラブ入力パワーP2_AVEとは、スイング動作中にゴルファーGがコックを解放する強さを表す指標であると言い換えることができる。
【0057】
<2-8.最適振り易さ決定工程>
最適振り易さ決定工程(S8)では、第2指標算出工程で算出された第2スイング指標に基づいて、最適振り易さ指標が決定される。具体的な最適振り易さ指標の決定手順については、特許文献1で詳細に説明されているため、以下、参考のために簡単に説明する。ここで、最適振り易さ指標とは、最適スイングMIであり、最適スイングMIとは、ゴルファーに適したゴルフクラブ4のスイング慣性モーメントISのことを言う。スイング慣性モーメントIsとは、スイング中の肩回りの慣性モーメントであり、本実施形態では、以下の式に従って定義される。
s=I2+m2(R+L)2+I1+m1(R/2)2
ただし、I2はゴルフクラブ4の重心周りの慣性モーメントであり、ゴルフクラブ4のスペックとして予め定められているものとする。m2はゴルフクラブ4の質量である。RはゴルファーGの腕長さであり、本実施形態ではR=60cm(一定)である。しかし、肩挙動導出工程(S6)における過程で算出される、スイング平面P内におけるトップからインパクトまでの肩とグリップ42との距離R(図11参照)としてもよい。また、Lはグリップ42からゴルフクラブ4の重心までの距離であり、ゴルフクラブ4のスペックとして予め定められているものとする。さらに、m1はゴルファーGの腕の質量であり、例えば、解析を開始する前にゴルファーGの体重を入力しておき、入力された体重に所定の係数を掛ける等して自動的に算出されるものとする。
なお、各ゴルファーGについては、ゴルフクラブ4が変わっても腕の重量は同じである。従って、本実施形態では簡単のため、スイング慣性モーメントIsは、腕の回転分の慣性モーメントを省略し、以下の式に従って算出される。
s=I2+m2(R+L)2
ところで、ISを決定するパラメータであるm2,I2,Lは、ゴルフクラブ4の諸元である。このため、本実施形態のスイング慣性モーメントISも、ゴルフクラブ4の諸元である。
【0058】
決定部24Eは、計測工程で試打されたテストクラブがプロモデルクラブであった場合は、腕出力パワーP1_AVE及びクラブ入力パワーP2_AVEを示す点が、図13に示すP1_AVE-P2_AVE空間におけるどの領域にプロットされるかに応じて、最適スイングMI帯を判定する。P1_AVE-P2_AVE空間を分割する境界線L1~L4を特定する情報、及び境界線L1~L4で分割される分割領域A1~A5と最適スイングMI帯との対応関係を定めるデータは、対応関係データ28として記憶部23内に格納されている。
【0059】
また、決定部24Eは、計測工程で試打されたテストクラブがアベレージモデルクラブであった場合は、腕出力パワーP1_AVE、クラブ入力パワーP2_AVE及びヘッド速度Vhを示す点が、図14に示す腕出力パワーP1_AVE-クラブ入力パワーP2_AVE-ヘッド速度Vh空間におけるどの領域にプロットされるかに応じて、最適スイングMI帯を判定する。ただし、簡単のため、図14では、ヘッド速度Vhを表す軸は省略され、腕出力パワーP1_AVE-クラブ入力パワーP2_AVE平面が示されている。P1_AVE-P2_AVE空間を分割する境界線L5~L6を特定する情報、及び境界線L1~L6で分割される分割領域B1~B3と最適スイングMI帯との対応関係を定めるデータは、対応関係データ28として記憶部23内に格納されている。なお、図2では、対応関係データ28は、フィッティングプログラム3とは別のデータとして示されているが、プログラム3内に組み込まれていてもよい。
【0060】
<2-9.第3指標算出工程>
以下、計測工程で得られた計測データに基づいて、第3スイング指標を算出する第3指標算出工程(S9)について説明する。第3スイング指標とは、最適剛性指標を決定するための、ゴルファーGによるスイング動作を特徴付ける特徴量である。本実施形態では、第3スイング指標として、後述される第1~第4特徴量F1~F4が算出される。
【0061】
第1~第4特徴量F1~F4について理解するためには、まず、最適剛性指標について理解することが重要である。最適剛性指標とは、ゴルファーGに適したシャフト40の剛性を示す指標のことであり、本実施形態では、シャフト40の剛性は、シャフト40の複数の位置における曲げ剛性の分布(以下、EI分布)として評価される。本実施形態に係るEI分布は、定量的に数値を用いて表現され、より具体的には、インターナショナル・フレックス・コード(IFC)を用いて算出される。そのため、まず、このIFCについて説明する。なお、IFCは、本出願人により広く提案されているシャフトの特性を示す公知の指標であり、例えば、特許文献1をはじめとして、既に様々な文献で詳しく説明されている。従って、ここで改めて説明する必要は必ずしもないが、参考のため、ここでも説明を行う。
【0062】
IFCは、図15に示すとおり、シャフト40の延びる方向に沿った4つの位置H1~H4におけるシャフト40の曲げ剛性をそれぞれ0~9の1桁の数値で表し、この4つの数値をシャフト40の延びる方向に沿って配列したコードである。より具体的には、シャフト40のバット端からチップ端に向かってこの順に概ね一定間隔で、4つの測定点H1~H4が定義される。例えば、シャフト40のチップ端から36インチの箇所を測定点H1とし、26インチの箇所を測定点H2とし、16インチの箇所を測定点H3とし、6インチの箇所を測定点H4とすることができる。そして、これらの4つの測定点H1~H4のそれぞれにおける曲げ剛性の値(以下、EI値)J1~J4が計測される。
【0063】
シャフト40の各測定点H(H1~H4)におけるEI値(N・m2)は、様々な方法で測定することができ、例えば、インテスコ社製の2020型計測機(最大荷重500kgf)を用いて図16に示すようにして測定することができる。この測定方法では、2つの支持点111,112でシャフト40を下方から支持しつつ、測定点Hに上方から荷重Fを加えたときのたわみ量を測定する。支持点111と支持点112との間の距離(スパン)は、例えば、200mmとすることができ、測定点Hは、支持点111と支持点112の中間点とすることができる。より具体的には、支持点111,112を支える支持体114,115を固定した状態で、測定点Hにおいて圧子113を一定速度(例えば、5mm/分)で下方へ移動させる。そして、荷重Fが20kgfに達した時点で圧子113の移動を終了させ、この瞬間のシャフト40のたわみ量(mm)を測定し、このたわみ量をEI値(N・m2)に換算する。
【0064】
次に、以上の4つの測定点H1~H4におけるEI値J1~J4を、それぞれ10段階のランク値K1~K4に変換する。具体的には、ランク値K1~K4は、それぞれ測定点H1~H4用の以下の変換表(表1~表4)に従って、EI値J1~J4から算出することができる(表1~4中、変換後のランク値をIFCの欄に示している)。そして、このようにして測定点H1~H4にそれぞれ付与された4つのランク値K1~K4を、よりバット側に対応する値がより左に、よりチップ側に対応する値がより右にくるように配列する。こうして得られた4桁のコードが、IFCである。IFCでは、各桁の数値が大きい程、対応する位置での剛性が高いことを意味する。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0065】
第3指標算出工程では、算出部24Dにより、第1~第4特徴量F1~F4が算出される。本実施形態では、第1~第4特徴量F1~F4は、それぞれゴルファーGに適したEI値J1~J4である最適EI値JS1~JS4、ひいてはゴルファーGに適したランク値K1~K4である最適ランク値KS1~KS4を決定するための指標である。そのため、本実施形態では、第1~第4特徴量F1~F4としては、それぞれ最適EI値JS1~JS4と相関を有する特徴量が選択される。また、本実施形態では、第1~第4特徴量F1~F4として以下の指標が用いられるが、第3スイング指標としては、最適剛性指標との相関が認められる限り、その他の任意の特徴量を用いることができる。
【0066】
第1特徴量F1は、トップ付近のコック方向の角速度ωyの傾きであり、例えばトップから50ms前の角速度ωyと、トップから50ms後の角速度ωyとの和で表すことができる。
【0067】
第2特徴量F2は、トップから、角速度ωyが最大となる時点までの当該角速度ωyの平均値である。第2特徴量F2は、まず、トップからインパクトまでの間で角速度ωyが最大となる時点を求め、トップからこの時点までの角速度ωyの累積値を、トップからこの時点までの時間で除することにより算出される。
【0068】
第3特徴量F3は、角速度ωyが最大となる時点からインパクトまでの当該角速度ωyの平均値である。第3特徴量F3は、角速度ωyが最大となる時点からインパクトまでの角速度ωyの累積値を、角速度ωyが最大となる時点からインパクトまでの時間で除することにより算出される。
【0069】
第4特徴量F4は、トップからインパクトまでの角速度ωyの平均値であり、トップからインパクトまでの角速度ωyの累積値を、トップからインパクトまでの時間で除することにより算出される。
【0070】
ところで、スイング動作中、ゴルフクラブ4のシャフト40は、当該ゴルフクラブの先端に比較的重量が大きいヘッド41が存在するため、その慣性により曲げが生じる。この曲げは、スイングの全過程において、シャフト40の同一箇所に生じるのではなく、図17に示されるように、トップからインパクトに向けてシャフト40の手元側から先端側に伝わる。換言すれば、トップからインパクトに向けてスイングが進行するにしたがい、シャフト40における曲げの位置が当該シャフト40の手元側から先端側に移動する。
【0071】
より具体的には、アドレスからテイクバックを行い、トップに至った時点(図17において(1)で示される時点)では、シャフト40の手元付近に曲げが生じる。ついで、切り返しを行い、ダウンスイング初期(図17において(2)で示される時点)に至ると、曲げはシャフト40の先端側にやや移動する。さらに、ゴルファーGの腕が水平になる時点(図17において(3)で示される時点)では、曲げはシャフト40中央よりも先端側に移動する。そして、インパクト直前(図17において(4)で示される時点)では、曲げはシャフト40の先端付近まで移動する。
【0072】
従って、第1~第4特徴量F1~F4は、それぞれスイング動作中のトップ付近からインパクト付近までの間の第1~第3区間において算出することができる。また、ここでの第1~第3区間は、この順に時間経過に沿った区間であり、互いに一部重複する又は重複することのない区間となっている。
【0073】
<2-10.最適剛性決定工程>
最適剛性決定工程(S10)では、決定部24Eが、第2スイング指標(第1~第4特徴量F1~F4)と最適剛性指標(最適EI値JS1~JS4)との相関関係を表す予め定められた近似式に従って、最適剛性指標(最適EI値JS1~JS4)を決定する。本実施形態に係る近似式は、線形近似式であり、以下のように表される。
S1=a1・F1+b1
S2=a2・F2+b2
S3=a3・F3+b3
S4=a4・F4+b4
【0074】
決定部24Eは、第2指標算出工程で算出された第1~第4特徴量F1~F4をかかる近似式に代入することにより、最適EI値JS1~JS4を算出する。また、決定部24Eは、上述の表1~表4の換算表に従って、最適EI値JS1~JS4をそれぞれ最適ランク値KS1~KS4に変換する。
【0075】
なお、上式中、a1~a4及びb1~b4は、予め行われた多数の実験結果から回帰分析により得られた定数であり、記憶部23内に予め保持されている値である。ここでいう実験とは、例えば、特許文献1と同様に、以下のように行うことができる。すなわち、まず、多数のゴルファーの各々に複数のゴルフクラブを振ってもらい、そのときの飛距離、打球の方向性(左右ズレ)及び官能試験による振り易さを数値化する。そして、その数値から各ゴルファーに適しているゴルフクラブを決定し、当該ゴルフクラブのEI値を当該ゴルファーの最適EI値とする。また、上記と同様の方法で、各ゴルファーの第1~第4特徴量F1~F4を算出する。そして、かかる実験の後、多数のゴルファー分の第1~第4特徴量F1~F4及び最適EI値のデータを回帰分析することで、a1~a4及びb1~b4が算出される。
【0076】
また、より信頼性の高い近似式とするために、a1~a4及びb1~b4の値を条件に応じて変更することができる。例えば、ヘッド速度Vhに応じて、近似式を用意することができる。一例としては、上記実験データを、ヘッド速度帯に応じて分類し(例えば、45m/s以上、41~45m/s、41m/s以下)、同じ分類に属するデータのみを対象に上記近似式を作成し、a1~a4及びb1~b4を決定しておくことができる。そして、最適剛性決定工程では、ゴルファーGのヘッド速度Vhがどのヘッド速度帯に属するかを判断し、当該ヘッド速度帯に対応する近似式を用いて、最適剛性指標を算出する。
【0077】
<2-11.最適クラブ選択工程>
以上の工程S1~S10により、最適クラブ長さ、最適振り易さ指標(最適スイングMI帯)及び最適剛性指標(最適EI値JS1~JS4、最適ランク値KS1~KS4)が決定されると、選択部24Fは、最適クラブ選択工程(S11)を実行する。本工程では、シャフトDB29内に登録されている多数のシャフトの中から、ゴルファーGに適したシャフト40(以下、推奨シャフト)が特定される。また、フィッティングの結果として、ゴルファーGに適したゴルフクラブ4(以下、推奨ゴルフクラブ)も特定される。
【0078】
本実施形態では、まず、選択部24Fは、推奨ゴルフクラブに用いられるべきヘッド41(以下、推奨ヘッド)の種類を決定する。推奨ヘッドの種類の決定は、本明細書では説明されないフィッティング処理により行うこともできるし、表示部21及び入力部22を介してユーザに質問する等してお好みのヘッド41を選択させることにより行うこともできる。そして、選択部24Fは、推奨ヘッドのスペックを示す情報をヘッドDB27内から読み出すととともに、シャフトDB29内に登録されている全てのシャフト40のスペックを示す情報を読み出す。ヘッドDB27内に登録されているヘッド41のスペックを示す情報には、製造メーカー、型番及び重量等が含まれる。一方、シャフトDB29内に登録されているシャフト40のスペックを示す情報には、製造メーカー、型番、4つの位置H1~H4におけるEI値J1~J4及びランク値K1~K4(IFC)、シャフト40の重量、フレックス、トルク、調子、長さ及び重心位置等が含まれる。選択部24Fは、これらの情報から、各シャフト40と推奨ヘッドとを組み合わせた場合のゴルフクラブ4のスイング慣性モーメントISを算出し、その値が最適スイングMI帯に属することとなるゴルフクラブ4(以下、第1絞り込みゴルフクラブ)及びそれに含まれるシャフト40(以下、第1絞り込みシャフト)を特定する。なお、第1絞り込みゴルフクラブ及びシャフトは、通常多数本存在する。
【0079】
続いて、選択部24Fは、各第1絞り込みシャフトについて、当該シャフトのランク値K1~K4と、最適剛性決定工程で決定された最適ランク値KS1~KS4との一致度を算出し、第2絞り込みシャフトとして、一致度の高いシャフトを特定する。一致度は、例えば、以下の数25の式に従って算出することができ、値が小さいほど一致度が高い。
【数2】
【0080】
第2絞り込みシャフトとしては、1本のみ特定されてもよいし、複数本が特定されてもよい。また、第2絞り込みシャフトとしては、第1絞り込みシャフトの中で相対的に一致度が高い所定数のシャフトが特定されてもよいし、一定以上の一致度を有する全てのシャフトが特定されてもよい。
【0081】
続いて、選択部24Fは、ヘッドDB27及びシャフトDB29内に含まれる情報から、各第2絞り込みシャフトと推奨ヘッドとを組み合わせた場合のゴルフクラブ4のクラブ長さを算出し、その値が最適クラブ長さ決定工程(S3)で決定された最適クラブ長さに合致するか、最も近くなるようなシャフトを特定する。なお、クラブ長さは、通常ヘッド側の基準点からグリップのグリップキャップラインまでの長さを含むため、選択部24Fは、各第2絞り込みシャフトと推奨ヘッドとを組み合わせた場合のゴルフクラブ4のクラブ長さとして、グリップ部分による長さを考慮したクラブ長さを算出する。選択部24Fは、特定されたシャフトを推奨シャフトとして選択する。また、選択部24Fは、推奨シャフトと推奨ヘッドとを組み合わせた場合のゴルフクラブ4を推奨ゴルフクラブとして選択する。
【0082】
表示制御部24Gは、シャフトDB29を参照して、推奨シャフトの種類を示す情報とともに、推奨シャフトのスペックを示す情報(IFCの値を含む)を表示部21上に表示させる。さらに、表示制御部24Gは、ゴルファーGの最適クラブ長さ、最適スイングMI帯及び最適ランク値KS1~KS4を表示部21上に表示させる。また、表示制御部24Gは、推奨ゴルフクラブが推奨シャフトと推奨ヘッドとを組み合わせたゴルフクラブであることを示す情報を、表示部21上に表示させる。これにより、ユーザは、ゴルファーGに適したゴルフクラブ4及びシャフト40の種類を知ることができるとともに、当該ゴルフクラブのクラブ長さ、IFCの値、最適スイングMI帯及び最適ランク値KS1~KS4を知ることができる。
【0083】
<3.特徴>
本実施形態によるシステム100によれば、共通のセンサユニット1による計測データに基づいて、例えばゴルファーGの嗜好するヘッド41を含む、ゴルファーGに適した推奨ゴルフクラブが選択される。推奨ゴルフクラブは、最適クラブ長さ、最適振り易さ指標及び最適剛性指標に合致するか、一致度が高いゴルフクラブである。すなわち、クラブ長さ、スイングMI帯及びIFCの観点からゴルファーGに適したゴルフクラブが選択されるため、精度の高いフィッティングを行うことができる。
【0084】
<4.変形例>
以上、本発明の幾つかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0085】
<4-1>
上記実施形態では、最適クラブ選択工程(S11)において、まずスイング慣性モーメントISの値が最適スイングMI帯に属するゴルフクラブまたはこれに含まれるシャフトが絞られ、次に最適剛性指標に合致するシャフトが絞られ、最終的に最適クラブ長さに合致するゴルフクラブまたはこれに含まれるシャフトが特定された。しかし、ゴルフクラブまたはシャフトの絞り込みは、この順序で行われなくてもよい。例えば、最初に最適クラブ長さに合致するゴルフクラブまたはこれに含まれるシャフトが絞り込まれ、その後に最適剛性指標に合致するシャフトが絞られ、あるいはスイング慣性モーメントISの値が最適スイングMI帯に属するゴルフクラブまたはこれに含まれるシャフトが絞られてもよい。
【0086】
<4-2>
上記実施形態のシステム100では、クラブ長さのフィッティングと振り易さのフィッティング及び剛性のフィッティングが合わせて行われた。しかし、システム100は、振り易さのフィッティング及び剛性のフィッティングを省略し、単にクラブ長さのみをフィッティングするシステムとしても構成することができる。つまり、システム100は、工程S1~S3で第1スイング指標SW1に基づいて最適クラブ長さを決定した後、最適クラブ選択工程(S11)で最適クラブ長さに合致するゴルフクラブを選択するように構成されてもよい。この場合のゴルフクラブの選択は、例えば上記実施形態と同様にまず推奨ヘッドを決定し、推奨ヘッドと組み合わせた場合のゴルフクラブ4のクラブ長さが最適クラブ長さに合致するか、最も近くなるようなシャフト40を推奨シャフトとして特定することにより行うことができる。また例えば、記憶部23に予め固定されたヘッド41とシャフト40との組み合わせのデータを格納しておき、最適クラブ長さに合致するか、最も近くなるようなヘッド41とシャフト40とが組み合わせられたゴルフクラブを工程S11で選択するようにしてもよい。さらに、第1スイング指標SW1に基づくクラブ長さのフィッティングは、振り易さのフィッティング及び剛性のフィッティングのうち一方と、あるいは別の方法によるフィッティングと組み合わされてもよい。
【0087】
<4-3>
上記実施形態では、最適振り易さ決定工程(S8)において、最終的に最適スイングMI帯が決定された。しかしながら、最適振り易さ決定工程(S8)では、最適スイングMIから、ゴルファーGに適したゴルフクラブ4の特定の部位の特性を表す最適特性指標が決定されてもよい。例えば、最終的にゴルファーGに適したゴルフクラブ4のシャフト40の重量(最適シャフト重量)が最適特性指標として決定され、最適クラブ選択工程(S11)において、最適シャフト重量に基づいて最適シャフトが絞り込まれてもよい。この場合、第2スイング指標(P1_AVE、P2_AVE、及びVh)を説明変数とし、最適スイングMIを目的変数とする重回帰式を予め算出し、記憶しておくことで、第2スイング指標から最適スイングMIを直接算出してもよい。最適スイングMIと、最適シャフト重量帯との対応関係を対応関係データとして予め定めておくことにより、対応関係データを照合し、算出した最適スイングMIから最適シャフト重量帯を決定することができる。ここで、ゴルフクラブ4のスイング慣性モーメントISとは、ヘッド41のスイング慣性モーメントと、シャフト40のスイング慣性モーメントと、その他の部位(グリップ42、フェラル等)のスイング慣性モーメントとの合計値である。従って、その他の部位のスイング慣性モーメントが記憶部23に記憶されている場合には、これらのデータを参照し、ゴルフクラブ4全体としてのスイング慣性モーメントISが最適化されるよう、推奨シャフト及び推奨ヘッドを選択することができる。その他、シャフト重量帯のみならず、ゴルファーGに適したシャフト40及びグリップ42を合わせた重量帯、ヘッド41分を除くゴルフクラブ4の重量帯等が最適スイングMIとの対応から最適特性指標として決定されてもよい。すなわち、ゴルフクラブ4の特定の部位はシャフト40、シャフト40及びグリップ42、並びにヘッド41を除くゴルフクラブ4の部位であり得る。また、対応関係データは、ヘッド41の種類ごとに用意されてもよいし、ヘッド41の種類に依存しないデータであってもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、最適剛性決定工程(S10)において、最適ランク値KS1~KS4(IFC)が決定されたが、これに代えて、ゴルファーGに適したゴルフクラブ4のシャフト40のフレックス(最適フレックス)が決定されてもよい。最適シャフト重量及び最適フレックスの決定方法、並びに最適シャフト重量及び最適フレックスに基づいたシャフト40の選択方法については、特許文献1で詳細に説明されているため、ここでは説明を省略する。最終的には、最適シャフト重量及び最適フレックスに合致するシャフト40の中から、最適クラブ長さが実現されるようなシャフト40が推奨シャフトとして選択されてもよい。あるいは、最適クラブ長さに合致するゴルフクラブ4の中から、最適シャフト重量及び最適フレックスに合致するシャフト40を含むものが推奨ゴルフクラブとして選択されてもよい。
【0089】
<4-4>
上記実施形態では、ゴルファーGのスイング動作を計測する計測機器として、加速度センサ、角速度センサ及び地磁気センサの3つを有するセンサユニット1が使用されたが、計測機器を他の構成とすることもできる。例えば、地磁気センサを省略することもできる。この場合には、統計的手法により、xyz局所座標系からXYZ全体座標系へと計測データを変換することが可能である。なお、このような手法については、公知技術であるため(要すれば、特開2013-56074号公報参照)、ここでは詳細な説明を省略する。或いは、計測機器として、三次元計測カメラを使用することもできる。三次元計測カメラにより、ゴルファーやゴルフクラブ、ゴルフボールの挙動を計測する手法についても、公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。なお、三次元計測カメラを用いた場合には、計測データのxyz局所座標系からXYZ全体座標系への変換工程を省略することもでき、直接的にXYZ全体座標系でのグリップの挙動を計測することができる。
【0090】
<4-5>
上記実施形態では、最適振り易さ指標として、最適スイングMIを算出することが例示された。しかしながら、ゴルフクラブ4の振り易さを表すその他の様々な指標について、最適振り易さ指標を算出してもよい。例えば、ゴルフクラブ4の重量m2(厳密には、質量をm2とするならば重量はm2g(gは重力加速度)であるが、簡単のためここではいずれもm2で表すこととする)、グリップエンド周りの慣性モーメントIG、及び重心周りの慣性モーメントI2も、ゴルフクラブ4の振り易さを表す指標であり、これらの指標に対して最適振り易さ指標を算出してもよい。また、複数の最適振り易さ指標を算出して、これら全ての最適振り易さ指標に基づいてフィッティングを行ってもよい。例えば、最適スイングMI、ゴルファーに適したグリップエンド周りの慣性モーメントIG(以下、最適グリップエンドMI)、ゴルファーに適した重心周りの慣性モーメントI2(以下、最適重心MI)及びゴルファーに適したゴルフクラブ4の重量m2(以下、最適クラブ重量)の全てを算出し、これら4つの条件に合致するゴルフクラブ4のシャフト40をシャフトDB29内から検索してもよい。m2,I2,L及びIGは、ゴルフクラブ4の諸元である。m2,I2,L及びIGに基づいて最適クラブ重量または最適グリップエンドMIを決定する方法は、特許文献1で詳細に説明されているため、ここでは説明を省略する。
【0091】
<4-6>
上記実施形態では、最適振り易さ指標を決定するための第2スイング指標として、腕出力パワーP1_AVE、クラブ入力パワーP2_AVE及びヘッド速度Vhの3つが組み合わせて用いられた。しかしながら、この例に限られず、例えば、スイング指標としてP1_AVEだけ、P2_AVEだけを用いてもよいし、(P1_AVE,Vh)、(P2_AVE,Vh)、(P1_AVE,P2_AVE)のような2つの指標の組み合わせを用いてもよい。
【0092】
<4-7>
また、最適振り易さ指標としては、上述したクラブ重量m2、グリップエンド周りの慣性モーメントIG、及び重心周りの慣性モーメントI2等、最適スイングMIに限らず様々な指標を設定することができるが、これらの最適振り易さ指標との間に一定の関係(相関)が認められる限り、任意の指標を第2スイング指標とすることができる。例えば、スイング動作時にゴルファーにより発揮される腕エネルギーEAVE、E1、総肩トルクTti及び平均肩トルクTAVEを第2スイング指標として用いることができる。Tti及びTAVEは、スイング動作時にゴルファーにより発揮される肩周りのトルクを表す指標である。EAVE、E1、Tti及びTAVEの算出方法は、特許文献1で詳細に説明されている。また、第2スイング指標として腕エネルギーEAVE、平均肩トルクTAVE及びヘッド速度Vhが算出され、これらの指標EAVE、TAVE、Vhに応じて最適クラブ重量の範囲(以下、最適重量帯)または最適スイングMI帯が算出される場合の手順については、特許文献1で詳細に説明されているため、ここでは説明を省略する。
【0093】
さらに、特許文献1に記載されている以下の指標も、第2スイング指標として用いることができる。
(1)トップの時刻でシャフト40と全体座標系Z軸(グリップよりも下方)とが為す角度θ1(図18参照)
(2)スイング動作中のグリップ42周りのゴルフクラブ4の角速度ω2(=グリップ角速度ωpX)の平均値
(3)トップからインパクトまでの間での角速度ω2の最大値
(4)トップからインパクトまでのグリップ速度VGEの平均値
(5)トップからインパクトまでのグリップ速度VGEの最大値
(6)トップからインパクトまでの間でのグリップ42の移動距離D
(7)コック解放タイミングtrとインパクトの時間との差分(ここでいうコック解放タイミングtrは、腕とシャフト40が為すコック角θ2の解放スピードが速まり、腕のエネルギーがシャフト40のエネルギーへと変わり始めるタイミングと定義することができる。)
(8)コック解放タイミングtrでの腕とシャフト40が為すコック角θ2(図18参照)
(9)ダウンスイング時間、すなわち、トップからインパクトまでの時間
(10)トップの時刻からグリップ42周りのトルクT2が正負逆転する時刻までのトルクT2の積分値
【0094】
<4-8>
上記実施形態では、シャフトの剛性として、曲げ剛性が評価されたが、これに代えて、ねじれ剛性を評価してもよい。ねじれ剛性の値(以下、GJ値)も、シャフト40の延びる方向に沿った複数の位置において測定又は算出することができる。すなわち、シャフト40の延びる方向に沿った複数の位置におけるねじれ剛性の分布を、シャフトの剛性としてもよい。この場合、最適剛性指標としては、ゴルファーGに適したGJ値(最適GJ値)が決定されることになるが、最適GJ値を決定するための第3スイング指標としては、最適GJ値との相関が認められる任意の指標を用いることができる。このような第3スイング指標としては、例えば、特開2014-212862号公報に記載されているような、以下の指標を用いることができる。
【0095】
(1)グリップ角速度ωyが最大となるときからインパクトまでの単位時間あたりのグリップ角速度ωxの変化量の大きさ
(2)トップ付近でのグリップ角速度ωzの変化量
(3)トップからダウンスイング途中であってグリップ角速度ωyが最大となるときまでのグリップ角速度ωzの変化量の大きさ
【0096】
本変形例でも、第3スイング指標と最適GJ値との関係を表す近似式を予め実験により算出し、記憶部23内に格納しておくことで、計測工程で得られる計測データに基づく第2スイング指標から、最適GJ値を決定することができる。
【0097】
また、上記実施形態において、最適剛性指標として、ゴルファーGに適したシャフト40の複数の位置における剛性分布ではなく、ゴルファーGに適したシャフト40のフレックス、調子又はトルクを決定するようにしてもよい。なお、トルクは、シャフト40全体でのねじれ剛性を表す指標である。
【0098】
<4-9>
上記実施形態では、最適振り易さ指標決定工程(S8)の後に最適剛性指標決定工程(S10)が行われたが、シャフト40及びゴルフクラブ4の絞り込み方法はこれに限定されない。例えば、第2スイング指標の大きさに応じて、最適シャフト重量帯を直接算出することもできる。例えば、図19に示すように、(好ましくは、ヘッド41の種類毎に)P1_AVE-P2_AVE(-Vh)空間を領域分割して、最適シャフト重量帯に対応する領域を定義しておき、当該定義情報を図2の対応関係データ28に代わる対応関係データとして予め記憶しておくことができる。この場合、第2指標算出工程で導出される第2スイング指標がどの領域に属するかに応じて、最適特性指標を導出することができる。
【0099】
また、対応関係データとして、最適フレックスごとに、第2スイング指標空間(例えば、P1_AVE-P2_AVE平面)を各最適シャフト重量帯に分割する境界線を特定するデータが予め算出され、記憶されていてもよい。そして、最適クラブ長さによるシャフト40またはゴルフクラブ4の絞り込みは、最適フレックスに合致し、最適シャフト重量帯に属するシャフト40の絞り込み前に行われてもよいし、後に行われてもよい。
【0100】
例えば、図20Aは、最適フレックスが「X」の場合に最適シャフト重量帯を決定するためのデータであり、図20Bは、最適フレックスが「S」の場合に最適シャフト重量帯を決定するためのデータであり、図20Cは、最適フレックスが「SR」の場合に最適シャフト重量帯を決定するためのデータである。すなわち、まず最適剛性指標を決定し、これに対応する対応関係データを選択する。そして、選択された対応関係データに基づき、第2スイング指標の大きさに応じて、最適シャフト重量帯を決定する。この方法によれば、最適振り易さ指標を決定することなく、第2スイング指標から最適シャフト重量帯を直接算出することができる他、最適シャフト重量帯よりも最適剛性指標を優先して、推奨シャフトを決定することができる。
【0101】
<4-10>
上記実施形態や変形例において、フィッティングの精度をより向上させるべく、第2スイング指標が、第2スイング指標を表す空間を分割することにより定義される複数の領域の境界付近に存在する場合には、既出の最適スイングMI帯や最適シャフト重量を修正する境界処理が行われてもよい。最適シャフト重量は、例えば最適シャフト重量帯に存在するとともに、最適フレックスに合致するか、最も近いフレックスを有するシャフトの重量であり、このようなシャフトが1本存在する場合は、そのシャフトの重量を最適シャフト重量とすることができる。また、このようなシャフトが複数本存在する場合は、例えばヘッド41の種類を固定した場合に、ゴルフクラブ4全体としてのスイング慣性モーメントISが最適化されるようなシャフトの重量とすることもできる。例えば、第2スイング指標が、P1_AVE-P2_AVE(-Vh)空間内のいずれかの分割領域の上限境界線と閾値以内の距離に存在する場合、決定部24Eは、既出の最適スイングMI帯を一段階上の領域の最適スイングMI帯に修正し、または既出の最適シャフト重量を、所定量(例えば、2.5g)だけ増量するように調整してもよい。また、第2スイング指標が、P1_AVE-P2_AVE(-Vh)空間内のいずれかの分割領域の下限境界線と閾値以内の距離に存在する場合、決定部24Eは、既出の最適スイングMI帯を一段階下の領域の最適スイングMI帯に修正し、または既出の最適シャフト重量を所定量、所定量(例えば、2.5g)だけ減量するように調整してもよい。
【0102】
<4-11>
変形例4-10では、最適クラブ指標をより精度よく決定するための境界処理について説明したが、本変形例に係る例外処理も、最適クラブ指標をより精度よく決定するための処理である。上記実施形態では、第2スイング指標を算出するに当たり、スイング平面P内での解析が行われたが、上述した第2スイング指標であるP1_AVE,P2_AVEや変形例4-7で示した指標は、スイング平面P内に投影された二次元的なゴルファーGのスイング動作を表す指標である。しかしながら、実際のスイング動作は、三次元的に行われる。本変形例に係る例外処理は、二次元的な解析による誤差を軽減し、最適クラブ指標の精度を向上させるための処理である。
【0103】
本変形例に係る例外処理では、上述した第2スイング指標とともに、スイング平面Pに現れないローテーションの動きを示す指標、及びコックの動きを表す指標(以下、コック指標という)が導出される。スイング平面Pに現れないローテーションの動きは、スイング平面Pに投影されたゴルフクラブ4のシャフト軸周りの捻りのローテーションの動き(図21A参照)を表す指標、すなわち第1スイング指標SW1や、スイング平面Pから飛び出す方向(プッシュ方向)のゴルフクラブ4のローテーションの動き(図21B参照)を表す指標(以下、プッシュ指標という)により評価することができる。ゴルファーGによっては、このようなローテーションの動きによりヘッド速度を獲得している。また、ゴルファーGによっては、ダウンスイング後半のコックの動きによりヘッド速度を獲得することもあるが、そのようなコックの動きの全体像は、必ずしもスイング平面P上に投影されない。ここで説明する例外処理では、このようなゴルファーGについても精度よく、最適振り易さ指標や最適シャフト重量を導出することができる。
【0104】
以下では、一例として、図19のように最適シャフト重量帯が決定される場合に適用される例外処理について説明する。具体的な処理の流れは、図22に示すとおりである。図22に示す例外処理は、最適シャフト重量が、図19に示す判定基準(分割領域C1~C5の境界線L7~L10)に従って決定された後に実行される。
【0105】
ステップS71では、算出部24Dが、ゴルフクラブ4のシャフト軸周りの捻りのローテーションの動きを表す指標(捩り指標)を導出する。捻り指標は、既に第1指標算出工程(S2)が実行されていれば、そこで算出された第1スイング指標SW1を使用することができ、第1指標算出工程が未だ実行されていない場合、上述した第1スイング指標SW1の定義に従って算出することができる。続いて、決定部24Eが、ヘッド速度Vhが所定範囲内であり、かつ、捩り指標が所定値以上であるかを判定する。そして、かかる条件が満たされる場合には、既出の最適シャフト重量を所定量だけ増量するように調整する(ステップS72)。一方、かかる条件が満たされない場合には、処理はステップS73に進む。
【0106】
ステップS73では、算出部24Dが、計測データに基づいて、プッシュ指標を算出する。続いて、決定部24Eが、ヘッド速度Vhが所定範囲内であり、プッシュ指標が所定値以上であり、かつ、既出の最適シャフト重量が所定範囲内であるか否かを判定する。かかる条件が満たされる場合には、既出の最適シャフト重量を所定量だけ増量するように調整する(ステップS74)。一方、かかる条件が満たされない場合には、処理はステップS75に進む。なお、プッシュ指標が所定値以上の場合とは、例えば、トップのωx≧0、かつ、トップからインパクトまでのωyの平均値/トップからインパクトまでのωxの平均値≧1.5が満たされる場合とすることができる。
【0107】
ステップS75では、算出部24Dが、計測データに基づいて、コック指標を算出する。コック指標は、例えば、トップ付近のωyと、ωyが最大となる時刻からインパクトまでのωyの平均値とを比較した値として算出することができる。続いて、決定部24Eが、ヘッド速度Vhが所定範囲内であり、コック指標が所定値以上であり、かつ、既出の最適シャフト重量が所定範囲内であるか否かを判定する。かかる条件が満たされる場合には、既出の最適シャフト重量を所定量だけ増量するように調整する(ステップS76)。
【0108】
以上のステップが完了すると、例外処理は終了する。本例外処理と、変形例4-10の境界処理とは、いずれも最適振り易さ指標及び最適シャフト重量帯をより精度よく決定するための処理であり、両処理は、組み合わせることもできる。この場合、境界処理の後、本例外処理を実行することが好ましい。
【0109】
<4-12>
上記実施形態では、第1スイング指標算出工程(S2)で算出された第1スイング指標SW1と第1閾値TH1及び第2閾値TH2とが比較され、比較結果に応じて最適クラブ長さが基本クラブ長さ、第1クラブ長さ、及び第2クラブ長さのいずれかに決定された。しかし、決定される最適クラブ長さは2種類であってもよく、4種類以上であってもよく、これに応じて第1スイング指標SW1の閾値の数も増減してよい。また、上述した最適クラブ長さ決定工程(S3)において、ステップS31及びステップS32、あるいはステップS33及びステップS34のいずれかが省略されてもよい。具体的には、決定部24Eは、第1スイング指標SW1が第1閾値TH1以上である場合、最適クラブ長さを第1クラブ長さと決定し、それ以外の場合、最適クラブ長さを基本クラブ長さと決定するように構成されてもよい。また、決定部24Eは、第1スイング指標SW1が第2閾値TH2以下である場合、最適クラブ長さを第2クラブ長さと決定し、それ以外の場合、最適クラブ長さを基本クラブ長さと決定するように構成されてもよい。
【実施例0110】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0111】
<実施例>
複数のゴルファーに対し、特許文献1のフィッティング方法(比較例)を適用するとともに、上記実施形態に係るフィッティング方法(実施例)を適用した。
【0112】
比較例の方法では、スイング慣性モーメントISが各ゴルファーの最適スイングMI帯に属するとともに、最適剛性指標に最も合致したIFCのシャフトを有するゴルフクラブのうち1本が、推奨ゴルフクラブとして選択された。推奨ゴルフクラブのクラブ長さは、いずれも基本クラブ長さ(45.25インチ)であった。そして、推奨ゴルフクラブを用いて、各ゴルファーに何球かの試打を行わせ、打球の飛距離及び左右ズレを計測した。
【0113】
実施例の方法では、最適スイングMI帯及び最適剛性指標に加え、上記実施形態の通り、各ゴルファーに適した最適クラブ長さも決定された。そして、最適クラブ長さが第1クラブ長さ(44.75インチ)または第2クラブ長さ(45.75インチ)であると決定されたゴルファーについては、スイング慣性モーメントISが各ゴルファーの最適スイングMI帯に属するとともに、最適剛性指標に最も合致したIFCのシャフトを有し、さらにクラブ長さが最適クラブ長さにカスタマイズされたゴルフクラブを推奨ゴルフクラブとした。そして、推奨ゴルフクラブを用いて、ゴルファーに何球かの試打を行わせ、打球の飛距離及び左右ズレを計測した。
【0114】
図23A~Dは、実施例で基本クラブ長さ以外のクラブ長さが推奨された各ゴルファーについて、実施例及び比較例による推奨ゴルフクラブの飛距離及び左右ズレの計測結果を比較する図である。図23Aは、実施例において、第1スイング指標SW1が第1閾値である250deg/s以上であったため、第1クラブ長さのゴルフクラブが推奨されたゴルファーの例である。図23Aから分かるように、比較例による推奨ゴルフクラブでも飛距離は充分であったところ、基本クラブ長さの推奨ゴルフクラブでは、ボールの方向が左にずれる傾向があり、ボールが捕まりすぎる傾向があることを示唆していた。この点、実施例による推奨ゴルフクラブでは、飛距離は一定水準を保ちながらボールの方向性が安定し、左右ズレが改善される結果となった。図23Bは、実施例において、第1クラブ長さのゴルフクラブが推奨された別のゴルファーの例である。図23Bから分かるように、この例では、実施例によるゴルフクラブを用いた試打で、最大飛距離が大幅に増大した。
【0115】
図24Cは、実施例において、第1スイング指標SW1が第2閾値である75deg/s以下であったため、第2クラブ長さのゴルフクラブが推奨されたゴルファーの例である。図24Cから分かるように、比較例による推奨ゴルフクラブと実施例による推奨ゴルフクラブとでは、左右ズレの程度に殆ど差はなかったものの、実施例によるゴルフクラブを用いた試打で、最大飛距離が大幅に増大した。図24Dは、実施例において、第2クラブ長さのゴルフクラブが推奨された別のゴルファーの例である。図24Dから分かるように、実施例によるゴルフクラブを用いた試打では、左右ズレが比較的安定し、最大飛距離が大幅に増大した。
【0116】
以上の結果から、実施例の方法により選択された推奨ゴルフクラブでは、比較例の方法により選択された推奨ゴルフクラブと比較して、より好ましいスイングが可能となることが分かった。つまり、実施例の方法によれば、ゴルファーにより適したゴルフクラブを推奨し得ることが確認された。
【符号の説明】
【0117】
1 センサユニット(計測装置)
2 フィッティング装置
3 フィッティングプログラム
4 ゴルフクラブ
24A 取得部
24B グリップ挙動導出部
24C 肩挙動導出部
24D 算出部
24E 決定部
24F 選択部
40 シャフト
41 ヘッド
42 グリップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図20C
図21A
図21B
図22
図23A
図23B
図23C
図23D