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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181568
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ラチェットレンチ
(51)【国際特許分類】
   B25B 13/46 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
B25B13/46 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088591
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000151690
【氏名又は名称】株式会社東日製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聖司
(72)【発明者】
【氏名】府川 祐介
(72)【発明者】
【氏名】増田 直也
(57)【要約】
【課題】 ラチェットギアの歯の強度が低下することを抑制するとともに、振り角を小さくできるラチェットレンチを提供する
【解決手段】 ラチェットレンチ(1)のラチェット機構(3)は、ラチェットギア(35)の周方向において互いに異なる位置に配置された内側ヘッドソ(31,32)及び外側ヘッドソ(33,34)を有する。内側ヘッドソ及び外側ヘッドソのそれぞれは、弾性部材(37a~37d)の付勢力を受けてラチェットギアの歯と噛み合うことにより、所定方向におけるラチェットレンチの回転力をラチェットギアに伝達する。内側ヘッドソ及び外側ヘッドソの一方がラチェットギアの歯と噛み合う状態にあるとき、内側ヘッドソ及び外側ヘッドソの他方がラチェットギアの歯と噛み合わない状態にある。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラチェット機構を備えたラチェットレンチであって、
前記ラチェット機構は、ラチェットギアの周方向において互いに異なる位置に配置された内側ヘッドソ及び外側ヘッドソを有し、
前記内側ヘッドソ及び前記外側ヘッドソのそれぞれは、弾性部材の付勢力を受けて前記ラチェットギアの歯と噛み合うことにより、所定方向における前記ラチェットレンチの回転力を前記ラチェットギアに伝達し、
前記内側ヘッドソ及び前記外側ヘッドソの一方が前記ラチェットギアの歯と噛み合う状態にあるとき、前記内側ヘッドソ及び前記外側ヘッドソの他方が前記ラチェットギアの歯と噛み合わない状態にあることを特徴とするラチェットレンチ。
【請求項2】
前記内側ヘッドソ及び前記外側ヘッドソの一方が前記ラチェットギアの歯と噛み合う状態にあるとき、前記内側ヘッドソ及び前記外側ヘッドソの他方は、前記ラチェットギアの歯に乗り上げた状態にあることを特徴とする請求項1に記載のラチェットレンチ。
【請求項3】
前記内側ヘッドソは、
第1方向における前記ラチェットレンチの回転力を前記ラチェットギアに伝達する第1内側ヘッドソと、
前記第1方向とは逆の第2方向における前記ラチェットレンチの回転力を前記ラチェットギアに伝達する第2内側ヘッドソと、を含んでおり、
前記ラチェットレンチは、前記第1内側ヘッドソ及び前記第2内側ヘッドソの間に配置されたカムを有し、
前記カムは、前記第1内側ヘッドソ及び前記第2内側ヘッドソの一方を押し込むことにより、前記ラチェットレンチとの噛み合いを回避する位置に移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載のラチェットレンチ。
【請求項4】
前記外側ヘッドソは、
前記第1方向における前記ラチェットレンチの回転力を前記ラチェットギアに伝達する第1外側ヘッドソと、
前記第2方向における前記ラチェットレンチの回転力を前記ラチェットギアに伝達する第2外側ヘッドソと、を含むことを特徴とする請求項3に記載のラチェットレンチ。
【請求項5】
前記カムによって押し込まれた前記第1内側ヘッドソは、前記第1外側ヘッドソを押し込むことにより、前記ラチェットレンチとの噛み合いを回避する位置に前記第1外側ヘッドソを移動させることを特徴とする請求項4に記載のラチェットレンチ。
【請求項6】
前記カムによって押し込まれた前記第2内側ヘッドソは、前記第2外側ヘッドソを押し込むことにより、前記ラチェットレンチとの噛み合いを回避する位置に前記第2外側ヘッドソを移動させることを特徴とする請求項4に記載のラチェットレンチ。
【請求項7】
前記内側ヘッドソ及び前記外側ヘッドソのそれぞれは、前記ラチェットギアの歯と噛み合う位置と、前記ラチェットギアの歯から退避した位置との間で回転可能であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のラチェットレンチ。
【請求項8】
前記内側ヘッドソ及び前記外側ヘッドソのそれぞれは、前記ラチェットギアの歯と噛み合う位置と、前記ラチェットギアの歯から退避した位置との間でスライド可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のラチェットレンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラチェットレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
ラチェットレンチは、レンチ本体の先端部にボルトやナットなどの締付部材が連結され、使用者の操作により、レンチ本体が締付部材の回転軸の周りで往復動することで、締付部材を一方向に回して締め付ける、または緩める(例えば、特許文献1)。ラチェットレンチには、レンチ本体を一方向へ回した際にのみ、レンチ本体からのトルクを締付部材へ伝達するラチェット機構が組み込まれている。
【0003】
図1に示すように、ラチェットレンチ1Aのラチェット機構4Aにおいて、2本のヘッドソ41、42を備え、締付部材を回す方向を反時計方向A、時計方向Bのいずれにも設定できるものがある。ラチェット機構4Aは、カム46が図1中左側に回されると、締付部材を回す方向が反時計方向Aに設定される。具体的には、カム46がバネ47bの付勢力に抗して図1中左側のヘッドソ42を押し込むことにより、ヘッドソ42をラチェットギア45から離すとともに、図1中右側のヘッドソ41がバネ47aに付勢されてラチェットギア45に噛み合う。
【0004】
この状態で、ラチェットレンチ1Aを反時計方向Aに回すと、ヘッドソ41は、ラチェットレンチ1Aと共に反時計方向Aに移動し、ラチェットギア45を反時計方向Aに回す。ラチェットギア45には、締付部材にソケットを介して連結される角ドライブが一体に形成されている。従って、ラチェットレンチ1Aを反時計方向Aに回すことで、ラチェットギア45、角ドライブ及びソケットを介して締付部材を反時計方向Aに回すことができる。一方、ラチェットレンチ1Aを時計方向Bに回すと、ヘッドソ41は、ラチェットレンチ1Aと共に時計方向Bに移動しながら、ラチェットギア45の歯を乗り越える。従って、ラチェットレンチ1Aを時計方向Bに回すと、ラチェットレンチ1Aは空転する。
【0005】
ラチェット機構4Aにおいて、カム46が図1中右側に回されると、締付部材を回す方向が時計方向Bに設定される。具体的には、カム46がバネ47aの付勢力に抗して図1中右側のヘッドソ41を押し込むことにより、このヘッドソ41をラチェットギア45から離すとともに、図1中左側のヘッドソ42がバネ47bに付勢されてラチェットギア45に噛み合う。
【0006】
この状態で、ラチェットレンチ1Aを時計方向Bに回すと、ヘッドソ42は、ラチェットレンチ1Aと共に時計方向Bに移動し、ラチェットギア45を時計方向Bに回す。従って、ラチェットレンチ1Aを時計方向Bに回すことで、ラチェットギア45、角ドライブ及びソケットを介して締付部材を時計方向Bに回すことができる。一方、ラチェットレンチ1Aを反時計方向Aに回すと、ヘッドソ42は、ラチェットレンチ1Aと共に反時計方向Aに移動しながら、ラチェットギア45の歯を乗り越える。従って、ラチェットレンチ1Aを反時計方向Aに回すと、ラチェットレンチ1Aは空転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-176361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ラチェットレンチ1Aを空転させるためには、この空転方向において、ヘッドソ41(又はヘッドソ42)がラチェットギア45の歯を乗り越える必要がある。例えば、ラチェットギア45の歯数が24である場合、ヘッドソ41(又はヘッドソ42)がラチェットギア45の1つの歯を乗り越えるときのラチェットレンチ1Aの振り角は、15度(=360度÷24(歯数))となる。振り角は、ラチェットギア45の歯数が多いほど小さくなる。
【0009】
ラチェットレンチ1Aは、狭い作業スペースで使用されることがあるため、振り角は小さいことが好ましい。そこで、ラチェットギア45の歯数を多くすることで、振り角を小さくすることが考えられる。しかし、この場合には、ラチェットギア45の歯たけが小さくなるため、ラチェットギア45の歯の強度が低下しやすくなる。
【0010】
本発明の目的は、ラチェットギアの歯の強度が低下することを抑制するとともに、振り角を小さくできるラチェットレンチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ラチェット機構を備えたラチェットレンチである。ラチェット機構は、ラチェットギアの周方向において互いに異なる位置に配置された内側ヘッドソ及び外側ヘッドソを有する。内側ヘッドソ及び外側ヘッドソのそれぞれは、弾性部材の付勢力を受けてラチェットギアの歯と噛み合うことにより、所定方向におけるラチェットレンチの回転力をラチェットギアに伝達する。内側ヘッドソ及び外側ヘッドソの一方がラチェットギアの歯と噛み合う状態にあるとき、内側ヘッドソ及び外側ヘッドソの他方がラチェットギアの歯と噛み合わない状態にある。
【0012】
内側ヘッドソ及び外側ヘッドソの一方がラチェットギアの歯と噛み合う状態にあるとき、内側ヘッドソ及び外側ヘッドソの他方を、ラチェットギアの歯に乗り上げた状態とすることができる。
【0013】
内側ヘッドソとしては、第1内側ヘッドソ及び第2内側ヘッドソを用いることができる。第1内側ヘッドソは、第1方向におけるラチェットレンチの回転力をラチェットギアに伝達する。第2内側ヘッドソは、第1方向とは逆の第2方向におけるラチェットレンチの回転力をラチェットギアに伝達する。ここで、第1内側ヘッドソ及び第2内側ヘッドソの間にカムを配置することができる。カムは、第1内側ヘッドソ及び第2内側ヘッドソの一方を押し込むことにより、ラチェットレンチとの噛み合いを回避する位置に移動させることができる。
【0014】
外側ヘッドソとしては、第1外側ヘッドソ及び第2外側ヘッドソを用いることができる。第1外側ヘッドソは、第1方向におけるラチェットレンチの回転力をラチェットギアに伝達する。第2外側ヘッドソは、第2方向におけるラチェットレンチの回転力をラチェットギアに伝達する。
【0015】
カムによって押し込まれた第1内側ヘッドソは、第1外側ヘッドソを押し込むことにより、ラチェットレンチとの噛み合いを回避する位置に第1外側ヘッドソを移動させることができる。カムによって押し込まれた第2内側ヘッドソは、第2外側ヘッドソを押し込むことにより、ラチェットレンチとの噛み合いを回避する位置に第2外側ヘッドソを移動させることができる。
【0016】
内側ヘッドソ及び外側ヘッドソのそれぞれは、ラチェットギアの歯と噛み合う位置と、ラチェットギアの歯から退避した位置との間で回転させることができる。一方、内側ヘッドソ及び外側ヘッドソのそれぞれは、ラチェットギアの歯と噛み合う位置と、ラチェットギアの歯から退避した位置との間でスライドさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】従来のラチェット機構を示す図である。
図2】トルクレンチの側面図である。
図3】トルクレンチの平面図である。
図4】本実施形態のラチェット機構において、第1内側ヘッドソがラチェットギアと噛み合うとともに、第1外側ヘッドソがラチェットギアの歯に乗り上げた状態を示す図である。
図5】本実施形態のラチェット機構において、第1外側ヘッドソがラチェットギアと噛み合うとともに、第1内側ヘッドソがラチェットギアの歯に乗り上げた状態を示す図である。
図6】本実施形態のラチェット機構において、第2内側ヘッドソがラチェットギアと噛み合うとともに、第2外側ヘッドソがラチェットギアの歯に乗り上げた状態を示す図である。
図7】本実施形態のラチェット機構において、第2外側ヘッドソがラチェットギアと噛み合うとともに、第2内側ヘッドソがラチェットギアの歯に乗り上げた状態を示す図である。
図8】変形例のラチェット機構を示す図である。
図9】ヘッドソをスライドさせる構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて実施形態を説明する。
図2は、トルクレンチ1の側面図であり、図3は、トルクレンチ1の平面図であって、図2に示す矢印Dの方向からトルクレンチ1を見たときの図である。トルクレンチ1は、所定のトルクで締付部材(ボルトやナット等)を締め付ける機能と、往復動させることで締付部材を一方向に回すラチェットレンチとしての機能とを有する。
【0019】
トルクレンチ1は、ヘッド21と、長手状で偏平な筒状のチューブ22と、チューブ22の基端に設けられ、作業者によって把持されるハンドル23と、ヘッド21に設けられた角ドライブ24とを備える。角ドライブ24には、締付部材(不図示)に連結するソケット(不図示)が嵌められ、角ドライブ24は、ソケットを介して締付部材と一体に回転する。
【0020】
ヘッド21の一部は、チューブ22に収容されており、チューブ22内においてトグル機構に接続されている。また、ヘッド21は、ヘッドピン25を介してチューブ22に接続されており、チューブ22に対してヘッドピン25を中心に回転可能である。トグル機構では、締付部材に対する締付トルクを設定可能であり、締付トルクが設定トルクに到達するまでは、ヘッド21がチューブ22に対して固定された状態となる。締付トルクが設定トルクに到達すると、トグル機構は、チューブ22に対するヘッド21の回転を許容する。これにより、締付部材を設定トルクで締め付けることができる。
【0021】
ヘッド21には、締付部材を締め付けるためのトルクレンチ1の回転方向を設定するレバー26が設けられている。レバー26を回転させることにより、後述するカム36(図4等)を回転させることができ、トルクレンチ1によって締付部材を締め付ける方向を切り替えることができる。
【0022】
図4は、ヘッド21に組み込まれたラチェット機構3を示す図である。ラチェット機構3は、トルクレンチ1が往復動することで、角ドライブ24を介して締付部材を一方向に回転させる。ラチェット機構3は、上述したレバー26の操作によって、締付部材を締め付けるときのトルクレンチ1の回転方向を図4の反時計方向A及び図4の時計方向Bのいずれにも設定できる。
【0023】
ラチェット機構3は、第1内側ヘッドソ31、第2内側ヘッドソ32、第1外側ヘッドソ33、第2外側ヘッドソ34、ラチェットギア35及びカム36を備える。第1内側ヘッドソ31、第2内側ヘッドソ32、第1外側ヘッドソ33及び第2外側ヘッドソ34は、ラチェットギア35の周方向において互いに異なる位置に配置されている。
【0024】
第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33は、カム36に対して一方の側(図4の右側)に配置されており、第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34は、カム36に対して他方の側(図4の左側)に配置されている。そして、カム36は、第1内側ヘッドソ31及び第2内側ヘッドソ32の間に配置されている。
【0025】
第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33は、トルクレンチ1を反時計方向Aに回転させて締付部材を締め付けるときに用いられる。第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34は、トルクレンチ1を時計方向Bに回転させて締付部材を締め付けるときに用いられる。第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33の動作や、第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34の動作については、後述する。
【0026】
第1内側ヘッドソ31の基端部は、軸部38aを介してヘッド21に取り付けられており、第1内側ヘッドソ31は、軸部38aを中心に回転可能である。また、第1内側ヘッドソ31にはバネ37aが接続されており、第1内側ヘッドソ31がバネ37aの付勢力を受けることにより、第1内側ヘッドソ31の先端部がラチェットギア35に噛み合うことができる。
【0027】
第1外側ヘッドソ33の基端部は、軸部38cを介してヘッド21に取り付けられており、第1外側ヘッドソ33は、軸部38cを中心に回転可能である。また、第1外側ヘッドソ33にはバネ37cが接続されており、第1外側ヘッドソ33がバネ37cの付勢力を受けることにより、第1外側ヘッドソ33の先端部がラチェットギア35に噛み合うことができる。
【0028】
第2内側ヘッドソ32の基端部は、軸部38bを介してヘッド21に取り付けられており、第2内側ヘッドソ32は、軸部38bを中心に回転可能である。また、第2内側ヘッドソ32にはバネ37bが接続されており、第2内側ヘッドソ32がバネ37bの付勢力を受けることにより、第2内側ヘッドソ32の先端部がラチェットギア35に噛み合うことができる。
【0029】
第2外側ヘッドソ34の基端部は、軸部38dを介してヘッド21に取り付けられており、第2外側ヘッドソ34は、軸部38dを中心に回転可能である。また、第2外側ヘッドソ34にはバネ37dが接続されており、第2外側ヘッドソ34がバネ37dの付勢力を受けることにより、第2外側ヘッドソ34の先端部がラチェットギア35に噛み合うことができる。
【0030】
ラチェットギア35は、ヘッド21に対して回転可能に取り付けられており、角ドライブ24の回転軸と同軸上に配置されている。ラチェットギア35は、角ドライブ24と一体に形成されているため、角ドライブ24と共に回転する。ラチェットギア35の歯数は、適宜決めることができる。
【0031】
カム36は、ヘッド21に回転可能に取り付けられているとともに、軸部36aを介してレバー26(図3)に接続されている。これにより、レバー26を回転させることにより、カム36を回転させることができる。カム36は、第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33をラチェットギア35に噛み合わせる位置と、第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34をラチェットギア35に噛み合わせる位置との間で回転することができる。
【0032】
図4に示すように、カム36を回転させることにより、バネ37bの付勢力に抗して第2内側ヘッドソ32を押し込むと、第2内側ヘッドソ32の先端部がラチェットギア35から離れることにより、ラチェットギア35との噛み合いが解除される。また、カム36によって押し込まれた第2内側ヘッドソ32の先端部は、バネ37dの付勢力に抗して第2外側ヘッドソ34を押し込む。これにより、第2外側ヘッドソ34の先端部がラチェットギア35から離れることにより、ラチェットギア35との噛み合いが解除される。
【0033】
一方、第1内側ヘッドソ31は、カム36によって押し込まれていないため、バネ37aの付勢力を受けることにより、ラチェットギア35と噛み合うことができる。また、第1外側ヘッドソ33は、バネ37cの付勢力を受けることにより、ラチェットギア35と噛み合うことができる。
【0034】
第1内側ヘッドソ31がラチェットギア35に噛み合っているとき、トルクレンチ1を反時計方向Aに回転させることにより、トルクレンチ1の操作力が第1内側ヘッドソ31を介してラチェットギア35に伝達され、ラチェットギア35を反時計方向Aに回転させることができる。これにより、締付部材を反時計方向Aに回転させて締め付けることができる。
【0035】
一方、トルクレンチ1を時計方向Bに回転させると、第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33は、ヘッド21と共に時計方向Bに移動する。このとき、第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33は、ラチェットギア35の歯を乗り越えながら時計方向Bに移動するため、トルクレンチ1は空転する。
【0036】
図4に示すように、第1内側ヘッドソ31の先端部がラチェットギア35の歯と噛み合っているとき、第1外側ヘッドソ33の先端部は、ラチェットギア35の歯に乗り上げて、ラチェットギア35に噛み合っていない状態となる。図4に示す状態からトルクレンチ1を時計方向Bに回転させると、図5に示すように、第1外側ヘッドソ33の先端部がラチェットギア35の歯と噛み合う状態になるとともに、第1内側ヘッドソ31の先端部がラチェットギア35の歯に乗り上げた状態となる。
【0037】
図5に示すように、第1外側ヘッドソ33の先端部がラチェットギア35に噛み合っている状態において、トルクレンチ1を反時計方向Aに回転させれば、トルクレンチ1の操作力が第1外側ヘッドソ33を介してラチェットギア35に伝達され、ラチェットギア35を反時計方向Aに回転させることができる。これにより、締付部材を反時計方向Aに回転させて締め付けることができる。
【0038】
なお、カム36を回転させることにより、バネ37aの付勢力に抗して第1内側ヘッドソ31を押し込む場合には、第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33が、上述した第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34の動作と同様の動作を行う。
【0039】
具体的には、図6に示すように、カム36によって押し込まれた第1内側ヘッドソ31の先端部がラチェットギア35から離れることにより、ラチェットギア35との噛み合いが解除される。また、第1内側ヘッドソ31の先端部が、バネ37cの付勢力に抗して第1外側ヘッドソ33を押し込むことにより、第1外側ヘッドソ33の先端部がラチェットギア35から離れてラチェットギア35との噛み合いが解除される。
【0040】
図4及び図5では、第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33の噛み合い状態を示しているが、第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34の噛み合い状態についても、同様である。具体的には、図6に示すように、第2内側ヘッドソ32の先端部がラチェットギア35に噛み合っているときには、第2外側ヘッドソ34の先端部がラチェットギア35の歯に乗り上げた状態となる。また、図7に示すように、第2外側ヘッドソ34の先端部がラチェットギア35に噛み合っているときには、第2内側ヘッドソ32がラチェットギア35の歯に乗り上げた状態となる。
【0041】
本実施形態によれば、図4及び図5を用いて説明したように、第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33について、ラチェットギア35と噛み合うタイミングをずらしている。また、図6及び図7を用いて説明したように、第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34について、ラチェットギア35と噛み合うタイミングをずらしている。
【0042】
これにより、トルクレンチ1を往復動させながら締付部材を締め付けるときに、トルクレンチ1を空転させるときの振り角を小さくすることができる。また、トルクレンチ1の振り角を小さくするためにラチェットギア35の歯数を増やす必要が無くなるため、歯数を増やすことによる歯の強度の低下を抑制することができる。以下、この理由について説明する。
【0043】
ラチェット機構3において、例えば、第1外側ヘッドソ33を省略し、第1内側ヘッドソ31だけを設けた場合には、第1内側ヘッドソ31の先端部がラチェットギア35の少なくとも1つの歯を乗り越えなければ、トルクレンチ1を再び反時計方向Aに回転させて締付部材を締め付けることができない。本実施形態では、第1内側ヘッドソ31がラチェットギア35の歯に乗り上げたときに、第1外側ヘッドソ33がラチェットギア35に噛み合うため(図5参照)、第1内側ヘッドソ31がラチェットギア35の歯を乗り越えなくても、トルクレンチ1を再び反時計方向Aに回転させて締付部材を締め付けることができる。これにより、第1内側ヘッドソ31がラチェットギア35の歯を乗り越えなければならない場合と比べて、トルクレンチ1の振り角を小さくすることができ、例えば、振り角を半分にすることができる。
【0044】
実施形態では、ラチェットレンチとしてトルクレンチ1を例示したが、トルクレンチ1に限るものではなく、ラチェット機構を備えたものであればよい。
【0045】
(変形例1)
本実施形態では、カム36を回転させることにより、トルクレンチ1を反時計方向Aに回転させて締付部材を締め付ける場合と、トルクレンチ1を時計方向Bに回転させて締付部材を締め付ける場合とを切り替えることができるようにしている。しかし、このような構造に限るものではなく、トルクレンチ1を一方向だけに回転させて締付部材を締め付ける場合であっても、本発明を適用することができる。
【0046】
ここで、トルクレンチ1を反時計方向Aだけに回転させて締付部材を締め付ける場合には、第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33だけを設ければよい。すなわち、第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34を省略することができる。また、トルクレンチ1を時計方向Bだけに回転させて締付部材を締め付ける場合には、第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34だけを設ければよい。すなわち、第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33を省略することができる。
【0047】
なお、トルクレンチ1を反時計方向Aに回転させて締付部材を締め付けるために、第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33を設け、トルクレンチ1を時計方向Bに回転させて締付部材を締め付けるために、第2外側ヘッドソ34を省略して第2内側ヘッドソ32だけを設けることができる。一方、トルクレンチ1を反時計方向Aに回転させて締付部材を締め付けるために、第2外側ヘッドソ33を省略して第1内側ヘッドソ31だけを設け、トルクレンチ1を時計方向Bに回転させて締付部材を締め付けるために、第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34を設けることができる。
【0048】
(変形例2)
図8は、変形例2のラチェット機構3を示す図である。変形例2では、ヘッドソの構成が本実施形態と異なっている。
【0049】
本実施形態では、トルクレンチ1を反時計方向Aに回転させて締付部材を締め付けるためのヘッドソとして、2つのヘッドソ(第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33)を用いている。また、トルクレンチ1を時計方向Bに回転させて締付部材を締め付けるためのヘッドソとして、2つのヘッドソ(第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34)を用いている。
【0050】
変形例2では、トルクレンチ1を反時計方向Aに回転させて締付部材を締め付けるためのヘッドソとして、3つのヘッドソを用いている。具体的には、本実施形態で説明した第1内側ヘッドソ31及び第1外側ヘッドソ33に加えて、他のヘッドソ35を設けている。ヘッドソ35は、軸部38eを中心に回転可能であり、バネ37eによってラチェットギア35と噛み合う方向に付勢されている。
【0051】
ここで、第1外側ヘッドソ33が第1内側ヘッドソ31に押し込まれて回転したとき、第1外側ヘッドソ33は、ヘッドソ35を押し込むことにより、ラチェットギア35との噛み合いを回避する位置にヘッドソ35を回転させる。これにより、カム36の操作によって、ヘッドソ31,33,35のすべてをラチェットギア35との噛み合いを回避する位置に回転させることができる。
【0052】
また、変形例2では、トルクレンチ1を時計方向Bに回転させて締付部材を締め付けるためのヘッドソとして、3つのヘッドソを用いている。具体的には、本実施形態で説明した第2内側ヘッドソ32及び第2外側ヘッドソ34に加えて、他のヘッドソ36を設けている。ヘッドソ36は、軸部38fを中心に回転可能であり、バネ37fによってラチェットギア35と噛み合う方向に付勢されている。
【0053】
ここで、第2外側ヘッドソ34が第2内側ヘッドソ32に押し込まれて回転したとき、第2外側ヘッドソ34は、ヘッドソ36を押し込むことにより、ラチェットギア35との噛み合いを回避する位置にヘッドソ36を回転させる。これにより、カム36の操作によって、ヘッドソ32,34,36のすべてをラチェットギア35との噛み合いを回避する位置に回転させることができる。
【0054】
なお、トルクレンチ1を反時計方向Aに回転させて締付部材を締め付けるためのヘッドソとしては、4つ以上のヘッドソを用いることもできる。ここで、すべてのヘッドソについて、ラチェットギア35と噛み合うタイミングをずらすことができ、1つのヘッドソがラチェットギア35に噛み合っているとき、他のすべてのヘッドソをラチェットギア35の歯に乗り上げた状態とすることができる。
【0055】
また、トルクレンチ1を時計方向Bに回転させて締付部材を締め付けるためのヘッドソとしては、4つ以上のヘッドソを用いることもできる。ここで、すべてのヘッドソについて、ラチェットギア35と噛み合うタイミングをずらすことができ、1つのヘッドソがラチェットギア35に噛み合っているとき、他のすべてのヘッドソをラチェットギア35の歯に乗り上げた状態とすることができる。
【0056】
(変形例3)
本実施形態において、例えば、第1内側ヘッドソ31は、軸部38aを中心に回転可能であるとともに、バネ37aによってラチェットギア35と噛み合う方向に付勢されている。変形例3では、図9に示すように、第1内側ヘッドソ31をスライド(直進運動)させるようにしている。
【0057】
ヘッド21の本体部には、第1内側ヘッドソ31の一部を収容可能な凹部21aが形成されており、第1内側ヘッドソ31は、凹部21aに沿ってスライドすることができる。また、凹部21aにはバネ37aが収容されている。バネ37aは、凹部21aの底面と第1内側ヘッドソ31の端面とに接触しており、第1内側ヘッドソ31をラチェットギア35と噛み合う方向に付勢する。
【0058】
図9では、第1内側ヘッドソ31をスライドさせる構造について説明したが、本実施形態で説明した他のヘッドソ32~34についても、図9に示す構造を採用することができる。このような構造であっても、本実施形態と同様に、トルクレンチ1の振り角を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 トルクレンチ(ラチェットレンチ)
3 ラチェット機構
31 第1内側ヘッドソ
32 第2内側ヘッドソ
33 第1外側ヘッドソ
34 第2外側ヘッドソ
35 ラチェットギア
36 カム
37a~37d:バネ(弾性部材)
図1
図2
図3
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図5
図6
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図8
図9