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特開2022-1815785’→3’エキソヌクレアーゼ活性を測定するための基質組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181578
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を測定するための基質組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20221201BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12Q1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088604
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 峻史
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ34
4B063QQ42
4B063QR14
4B063QR32
4B063QS16
(57)【要約】
【課題】 DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を測定するための基質組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の5’→3’エキソヌクレアーゼの活性を測定するための基質組成物は、第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドから構成される二本鎖ポリヌクレオチドを基質として含み、ここで第2ポリヌクレオチドは、第1ポリヌクレオチドの5’末端側から連続する少なくとも一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列と、該相補的な塩基配列の3’末端側に該第1ポリヌクレオチドの塩基配列に対して非相補的で一本鎖ポリヌクレオチド領域を形成する塩基配列とを含む塩基配列からなることを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’→3’エキソヌクレアーゼの活性を測定するための基質組成物であって、第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドから構成される二本鎖ポリヌクレオチドを基質として含み、ここで第2ポリヌクレオチドは、第1ポリヌクレオチドの5’末端側から連続する少なくとも一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列と、該相補的な塩基配列の3’末端側に該第1ポリヌクレオチドの塩基配列に対して非相補的で一本鎖ポリヌクレオチド領域を形成する塩基配列とを含む塩基配列からなることを特徴とする、5’→3’エキソヌクレアーゼの活性を測定するための基質組成物。
【請求項2】
前記第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドから構成される二本鎖ポリヌクレオチドの全長が10~100塩基長である、請求項1に記載の基質組成物。
【請求項3】
前記5’→3’エキソヌクレアーゼ活性がDNAポリメラーゼ由来である、請求項1又は2に記載の基質組成物。
【請求項4】
前記DNAポリメラーゼがFamilyAに属するDNAポリメラーゼである、請求項3に記載の基質組成物。
【請求項5】
前記DNAポリメラーゼが、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、Z05ポリメラーゼ、及びそれらの変異体からなる群から選択される、請求項3又は4に記載の基質組成物。
【請求項6】
前記第1ポリヌクレオチドの塩基長と前記第2ポリヌクレオチドの塩基長が互いに異なる、請求項1~5のいずれかに記載の基質組成物。
【請求項7】
前記第1ポリヌクレオチドの塩基配列が、前記第2ポリヌクレオチドの塩基配列の一部に対して完全に相補的である、請求項1~6のいずれかに記載の基質組成物。
【請求項8】
前記第2ポリヌクレオチドが、3’末端側及び5’末端側の両方において、前記第1ポリヌクレオチドの塩基配列に対して非相補的で一本鎖ポリヌクレオチド領域を形成する塩基配列を有している、請求項1~7のいずれかに記載の基質組成物。
【請求項9】
前記第1ポリヌクレオチドが、第2ポリヌクレオチドの5’末端側から連続する少なくとも一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列と、該相補的な塩基配列の3’末端側に該第2ポリヌクレオチドの塩基配列に対して非相補的で一本鎖ポリヌクレオチド領域を形成する塩基配列とを含む塩基配列からなる、請求項1~6のいずれかに記載の基質組成物。
【請求項10】
一本鎖ポリヌクレオチド領域の長さが1~10塩基長である、請求項1~9のいずれかに記載の基質組成物。
【請求項11】
第2ポリヌクレオチドが、3’末端側に1~10塩基長の一本鎖ポリヌクレオチド領域及び5’末端側に1~10塩基長の一本鎖ポリヌクレオチド領域を有している、請求項8に記載の基質組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の基質組成物を基質として用いることを特徴とする、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を測定する方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載の基質組成物を基質として用いることを特徴とする、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質をスクリーニングする方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれかに記載の基質組成物を基質として用いることを特徴とする、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質の効果を定量する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素の活性の評価に用いる基質に関する。より詳細には、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction、以下「PCR」と表記する)等の核酸増幅法に用いられるDNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を定量可能な基質組成物及びそれに関連する技術等に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAポリメラーゼを用いた核酸テンプレートからのDNAの合成は、分子生物学の分野において、シーケンシング法や核酸増幅法等、様々な方法に利用・応用されている。中でも、核酸増幅法は、研究分野のみならず、遺伝子診断、親子鑑定といった法医学分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等において、既に実用化されている。
【0003】
代表的な核酸増幅法は、PCRである。PCRは、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって、試料中の標的核酸を増幅する方法である。(2)アニーリングと(3)伸長を同温度かつ1ステップで行い、2ステップを1サイクルとする場合もある。
【0004】
PCRは、原理的には1コピー、現実でも数コピー相当の核酸サンプルから増幅できる感度、特定部分のみを増幅する特異性などの特徴から、広く医学・生物学の研究や臨床診断等に利用されてきた。現在、PCRは更なる開発が行われており、複数のプライマーを同時に増幅するMultiplexPCR法や、蛍光色素や蛍光標識プローブを用いて、増幅産物の生成過程を経時的にモニタリングするリアルタイムPCR法など、様々な技術が存在する。
【0005】
これらの核酸増幅法は、HTS(High Throughput Screening)などの大量サンプルの遺伝子解析や、多検体を処理する必要がある食品検査や環境検査等にも広く使用されている。大量サンプルを解析する場合、核酸増幅反応液を調製後に長時間(例えば、数時間から数日間)放置されることが想定される。しかしながら、前記反応液を常温で放置することで、前記反応液の安定性が低下することが懸念される。例えば、TaqMan(登録商標)プローブ法(例えば非特許文献1を参照)では、調製後の反応液を常温で放置することで、Ct(Threshold cycle)値が遅れる、あるいは、Ct値の検出そのものが不能になる現象が複数例確認されている(特許文献1及び2)。
【0006】
特許文献1、2では、上記のような長時間の放置で生じる反応液の安定性低下の一因として、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性が完全に抑制されておらず核酸テンプレート、プライマー、プローブ等を経時的に分解してしまうためと推察している。そして、これらの文献では、硫酸アンモニウム、酢酸テトラメチルアンモニウム、キレート剤といった特定の成分を共存させることにより、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を抑制して、核酸検出反応液中での核酸プローブを安定化したことを記載している。
【0007】
5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素を含みながら、長時間放置しても安定な核酸増幅検出試薬は、大量サンプルの遺伝子解析等の様々な場面において今後益々重要となり得る。従って、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を抑制できる更なる有用な手法の開発が求められている。そしてこのような手法の開発には、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を高精度に定量し評価できる手法の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-163904号公報
【特許文献2】再表2016/136324号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hollandら,Proc.Natl.Acad.Sci.第88巻,1991年,第7276-7280頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術を鑑みてなされたものであり、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性をより高精度に評価できる更なる有用な手法を提供することを目的とする。加えて、本発明は、この手法を用いて5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害できる物質を効率よくスクリーニングする手法などを提供することを更なる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による分解を受け易く、その活性の定性的及び/又は定量的な評価に適した、特定構造の二本鎖ポリヌクレオチドを特定した。そして、この知見に基づいてさらに鋭意研究を重ねた結果、DNAポリメラーゼ等の酵素の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を定量的に測定できる手法、及び5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質の効果を定量できる手法等を開発した。
【0012】
代表的な本発明は、以下の通りである。
[項1] 5’→3’エキソヌクレアーゼの活性を測定するための基質組成物であって、第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドから構成される二本鎖ポリヌクレオチドを基質として含み、ここで第2ポリヌクレオチドは、第1ポリヌクレオチドの5’末端側から連続する少なくとも一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列と、該相補的な塩基配列の3’末端側に該第1ポリヌクレオチドの塩基配列に対して非相補的で一本鎖ポリヌクレオチド領域を形成する塩基配列とを含む塩基配列からなることを特徴とする、5’→3’エキソヌクレアーゼの活性を測定するための基質組成物。
[項2] 前記第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドから構成される二本鎖ポリヌクレオチドの全長が10~100塩基長である、項1に記載の基質組成物。
[項3] 前記5’→3’エキソヌクレアーゼ活性がDNAポリメラーゼ由来である、項1又は2に記載の基質組成物。
[項4] 前記DNAポリメラーゼがFamilyAに属するDNAポリメラーゼである、項3に記載の基質組成物。
[項5] 前記DNAポリメラーゼが、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、Z05ポリメラーゼ、及びそれらの変異体からなる群から選択される、項3又は4に記載の基質組成物。
[項6] 前記第1ポリヌクレオチドの塩基長と前記第2ポリヌクレオチドの塩基長が互いに異なる、項1~5のいずれかに記載の基質組成物。
[項7] 前記第1ポリヌクレオチドの塩基配列が、前記第2ポリヌクレオチドの塩基配列の一部に対して完全に相補的である、項1~6のいずれかに記載の基質組成物。
[項8] 前記第2ポリヌクレオチドが、3’末端側及び5’末端側の両方において、前記第1ポリヌクレオチドの塩基配列に対して非相補的で一本鎖ポリヌクレオチド領域を形成する塩基配列を有している、項1~7のいずれかに記載の基質組成物。
[項9] 前記第1ポリヌクレオチドが、第2ポリヌクレオチドの5’末端側から連続する少なくとも一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列と、該相補的な塩基配列の3’末端側に該第2ポリヌクレオチドの塩基配列に対して非相補的で一本鎖ポリヌクレオチド領域を形成する塩基配列とを含む塩基配列からなる、項1~6のいずれかに記載の基質組成物。
[項10] 一本鎖ポリヌクレオチド領域の長さが1~10塩基長である、項1~9のいずれかに記載の基質組成物。
[項11] 第2ポリヌクレオチドが、3’末端側に1~10塩基長の一本鎖ポリヌクレオチド領域及び5’末端側に1~10塩基長の一本鎖ポリヌクレオチド領域を有している、項8に記載の基質組成物。
[項12] 項1~11のいずれかに記載の基質組成物を基質として用いることを特徴とする、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を測定する方法。
[項13] 項1~11のいずれかに記載の基質組成物を基質として用いることを特徴とする、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質をスクリーニングする方法。
[項14] 項1~11のいずれかに記載の基質組成物を基質として用いることを特徴とする、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質の効果を定量する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による分解を受け易く、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性の定性的及び/又は定量的な評価に適した二本鎖ポリヌクレオチドが提供される。この二本鎖ポリヌクレオチドを用いることで、例えば、DNAポリメラーゼ等の酵素の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を高精度に定量できる。また、この二本鎖ポリヌクレオチドを使用することで、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する化合物のスクリーニング及びその阻害化合物の効果の定量等も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の基質である二本鎖ポリヌクレオチドの構成を示す模式図である。
図2】試験例2において使用した、配列番号4のオリゴDNAと、配列番号8から14の各オリゴDNAとの組み合わせによって設計された基質DNAの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(定義等)
本発明における基質は、広義のポリヌクレオチドである。従って、DNA、RNA、DNAとRNAの混合物であってもよく、次に例示するように公知の化学修飾が施されている類似体類であってもよい。例えば、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えばホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換したものであってもよい。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えば-CH、-CHCHOCH、-CHCHNHC(NH)NH、-CHCONHCH、-CHCHCN等であり得る)に置換してたものであってもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン塩基、プリン塩基)に化学修飾を施したものであってもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位にメチル基やカチオン性官能基導入したもの、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルを置換したもの等が挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えばビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、本発明の基質はDNAで構成されたポリヌクレオチドであり得る。なお、ポリヌクレオチドはオリゴヌクレオチドを含む概念である。
【0016】
(5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を測定するための基質組成物)
本発明の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を測定するための基質組成物は、所定の構造を有する二本鎖ポリヌクレオチドを基質として含む。具体的には、本発明の基質組成物は、第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドから構成される二本鎖ポリヌクレオチドを基質として含み、ここで前記第2ポリヌクレオチドは、前記第1ポリヌクレオチドの5’末端側から連続する少なくとも一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列(図1においてI-b、II-b、III-bで示される領域(以下、まとめてb領域ともいう)の塩基配列)と、該相補的な塩基配列の3’末端側に該第1ポリヌクレオチドの塩基配列に対して非相補的で一本鎖ポリヌクレオチド領域を形成する塩基配列(図1においてI-a、II-a、III-aで示される領域(以下、まとめてa領域ともいう)の塩基配列)とを少なくとも含む塩基配列からなることを特徴とする。本発明の基質組成物は、上記二本鎖ポリヌクレオチドで構成される基質からなるものであってもよいし、この基質を任意の溶媒(例えば、水、緩衝剤など)に溶解したもの又はこれを凍結乾燥させたもの等であってもよい。
【0017】
上記の二本鎖ポリヌクレオチドで構成される本発明の基質は、第1ポリヌクレオチドと第2ポリヌクレオチドとの間で部分的に二本鎖構造を形成すると共に、少なくとも一方の鎖の3’末端において一本鎖構造を有することを特徴としている。5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼは通常、二本鎖ポリヌクレオチドを認識して結合し、二本鎖のうちの片方の鎖を分解する。従って、本発明の基質は、二本鎖構造を有している必要がある。なお、後述の実施例の結果に示されるように、一本鎖領域を有さず二本鎖構造の両端が共に平滑末端となっている場合には、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を適切に評価できなかったことが分かっている。従って、本発明は、単に二本鎖構造を有すればよいという訳ではないという予想外の知見に基づくものである。
【0018】
本発明の基質は、二本鎖構造を形成する少なくとも一方のポリヌクレオチドの3’末端側に一本鎖領域を形成するように構成されている。このような一本鎖領域が存在することで、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素(5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを有するDNAポリメラーゼ等)が二本鎖構造の5’末端付近に結合し易くなり、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性が発揮され易くなる。従って、本発明の基質は、上記第2ポリヌクレオチドが、3’末端側に一本鎖領域(図1、a領域)を有し、且つ、第1ポリヌクレオチドの5’末端側から連続する塩基配列領域と相補的で対合可能な領域(図1、b領域)を有する限り、特に限定されない。よって、第2ポリヌクレオチドの5’末端側にも一本鎖領域(図1の例においてII-cで示される領域)を有していても良いし(図1の例II)、又は第1ポリヌクレオチドの3’末端側に第2ポリヌクレオチドとは非相補的な塩基配列を有し一本鎖を形成する領域(図1の例においてIII-cで示される領域)を有していても良いし(図1の例III)、或いはこのような更なる一本鎖を有さず、第1ポリヌクレオチドの3’末端及び第2ポリヌクレオチドの5’末端が平滑末端を形成していてもよい(図1の例I)。
【0019】
本発明の基質において二本鎖を形成する領域は、第1ポリヌクレオチドの全長と同じ(即ち、第1ポリヌクレオチドの塩基配列が、第2ポリヌクレオチドの塩基配列の一部に対して完全に相補的な塩基配列となる)であってもよいし(図1の例I、II)、第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドのそれぞれ一部の重なりで形成される領域であってもよい(図1の例III)。好ましくは、第1ポリヌクレオチドの塩基配列が、第2ポリヌクレオチドの塩基配列の一部に対して完全に相補的であるように構成されていることが望ましい。
【0020】
特定の実施形態において、本発明の基質は、前記第2ポリヌクレオチドが、3’末端側及び5’末端側の両方において、前記第1ポリヌクレオチドの塩基配列に対して非相補的で一本鎖ポリヌクレオチド領域を形成する塩基配列を有するものであり得る(図1の例II)。ここで、短鎖となる第1ポリヌクレオチドの塩基配列はその全領域が、長鎖の第2ポリヌクレオチドの塩基配列の一部と完全に相補的となり、強固な相補鎖を形成して安定な構造となり得る。そして、このような構造の二本鎖ポリヌクレオチドを基質とすることで、短鎖となる第1ポリヌクレオチドの5’末端のみが分解されるので、より安定して5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を定量的に評価できる。
【0021】
別の実施形態において、本発明の基質は、前記第1ポリヌクレオチドが、第2ポリヌクレオチドの5’末端側から連続する少なくとも一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列と、該相補的な塩基配列の3’末端側に該第2ポリヌクレオチドの塩基配列に対して非相補的で一本鎖ポリヌクレオチド領域を形成する塩基配列とを含む塩基配列からなるものであり得る(図1の例III)。このような構造の二本鎖ポリヌクレオチドを基質とすることによって、第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドの両方の5’末端が分解されるので、定量的な評価がやや複雑にはなるが、定性的により高感度に5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を評価することが可能となり得る。
【0022】
本発明の基質を構成する第1ポリヌクレオチドの塩基長と第2ポリヌクレオチドの塩基長は、同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。一つの実施形態では、第1ポリヌクレオチドの塩基長と第2ポリヌクレオチドの塩基長は互いに異なることが好ましい。
【0023】
本発明の基質の全長(塩基長)は特に限定されず、任意の長さであり得る。ここで、本発明の基質を構成する二本鎖ポリヌクレオチドの全長とは、2つのポリヌクレオチドの塩基配列が非相補的で対合しない一本鎖領域(突出末端又は粘着末端領域などともいう)を含む。従って、本明細書において全長(塩基長)とは、図1の例IではI-a及びI-bを足した領域、例IIではII-a、II-b及びII-cを足した領域、例IIIではIII-a、III-b及びIII-cを足した領域の塩基長を指す。好ましい実施形態では、本発明の基質の全長は、10~1000塩基であり得、より好ましくは10~500塩基、さらに好ましくは10~100塩基であることが望ましい。
【0024】
本発明の基質において、2つのポリヌクレオチドが二本鎖を形成する領域(図1、b領域)の長さは特に限定されないが、あまり短すぎない方が望ましく、例えば、5~950塩基であり得、好ましくは10~450塩基、より好ましくは15~100塩基、更に好ましくは20~50塩基であることが望ましい。このような長さで相補鎖を形成するように設計することで、基質を構成する二本鎖ポリヌクレオチドがより安定した構造になると共に、十分な感度で5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を評価することが可能となる。
【0025】
また、本発明の基質において、第2ポリヌクレオチドの3’末端側に形成される一本鎖領域(図1、a領域)の長さも特に限定されないが、あまり長すぎない方が望ましい。例えば、この一本鎖領域の塩基長は、1~100塩基であり得、より好ましくは1~50塩基、さらに好ましくは1~10塩基であることが望ましい。このような長さで第2ポリヌクレオチドの3’末端に一本鎖領域を有することで、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素(例えば、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを有するDNAポリメラーゼ)が第1ポリヌクレオチドの5’末端付近に作用し易くなるというメリットがある。また、第1ポリヌクレオチドの3’末端側にも一本鎖領域を有するように設計する場合、この第1ポリヌクレオチドの一本鎖領域(図1、III-c領域)の長さも上記と同様の長さであることが、上記と同じ理由により望ましい。ここで、第2ポリヌクレオチドの3’末端側の一本鎖領域の長さと第1ポリヌクレオチドの3’末端側の一本鎖領域の長さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
本発明の基質を構成する第2ポリヌクレオチドが3’末端側及び5’末端側の両方に一本鎖領域を有する場合も、それぞれ上記と同様の長さの一本鎖領域を有することが好ましく、例えば、3’末端側に1~50塩基長の一本鎖ポリヌクレオチド領域及び5’末端側に1~50塩基長の一本鎖ポリヌクレオチド領域を有するように設計されたものであり得、好ましくは3’末端側に1~10塩基長の一本鎖ポリヌクレオチド領域及び5’末端側に1~10塩基長の一本鎖ポリヌクレオチド領域を有するように設計されたものであり得る。ここで、3’末端側の一本鎖領域の長さと5’末端側の一本鎖領域の長さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
特定の実施形態では、本発明の基質を構成する二本鎖ポリヌクレオチドの好ましい例として、配列番号1及び配列番号5の組み合わせ;配列番号2及び6の組み合わせ:配列番号3及び7の組み合わせ:配列番号4及び8の組み合わせ:配列番号4及び9の組み合わせ:配列番号4及び12の組み合わせ:配列番号4及び14の組み合わせで構成される基質DNAが挙げられるが、特に限定されない。
【0028】
本発明の基質はプローブのように構成されたものであってもよく、該プローブは、少なくとも1種類の標識物質で標識されたハイブリダイゼーションプローブのように構成されたものであってもよい。標識としては蛍光色素や放射性同位元素が挙げられるが特に限定されない。このようなプローブを用いることによって、リアルタイムPCR法を利用して5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を評価することができる。ハイブリダイゼーションプローブとしては、例えば、TaqMan加水分解プローブ[米国特許第5,210,015号公報、米国特許第5,538,848号公報、米国特許第5,487,972号公報、米国特許第5,804,375号公報(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)]、モレキュラービーコン[米国特許第5,118,801号公報(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)]、FRETハイブリダイゼーションプローブ[国際公開第97/46707号、国際公開第97/46712号、国際公開第97/46714号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)]等が挙げられる。
【0029】
好ましい実施形態では、第1ポリヌクレオチドの5’末端を蛍光物質で標識し、且つ3’末端を消光物質(クエンチャー)で標識するように設計する。このように蛍光標識することで、リアルタイムPCRを用いて評価する場合にも5’→3’エキソヌクレアーゼ活性をより確実に評価することが可能となる。また、第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドの両方の5’末端を蛍光標識し、且つ両方の3’末端を消光物質で標識してもよく、この場合、5’末端における蛍光標識は、第1ポリヌクレオチドと第2ポリヌクレオチドとで互いに異なる蛍光標識で標識してもよい。
【0030】
本発明の基質を蛍光標識する場合、標識に使用される蛍光物質は、特に限定されないが、例えば、ローダミン若しくはその誘導体(例えば、5-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、6-カルボキシ-X-ローダミン、5-カルボキシローダミン6G(CR6G)、テトラメチルローダミン(TAMRA))、又はそれらの塩などのローダミン系化合物;フルオロセイン又はその誘導体(例えば、FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’,7’-ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5’-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト))、VIC(登録商標)、BODIPY(登録商標)シリーズ、ローダミン又はその誘導体(例えば、5-カルボキシローダミン6G(CR6G)やテトラメチルローダミン(TAMRA))、Cy(登録商標)色素(例えば、Cy3、Cy5)、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩等の非ローダミン系化合物等があげられる。標識に使用される消光物質もまた特に限定されないが、例えば、TAMRA(テトラメチル-ローダミン)、DABCYL(4-(4-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸)、BHQ1(BHQ:Black Hole Quencher(登録商標))、BHQ2、BHQ3等を用いることができる。
【0031】
本発明の基質を標識ハイブリダイゼーションプローブとして設計する場合、二本鎖ポリヌクレオチドは特に限定されないが、例えば、配列番号2及び6の組み合わせ;配列番号3及び7の組み合わせ;配列番号4及び8の組み合わせで構成される蛍光標識された基質DNAが挙げられるが、特に限定されない。
【0032】
(5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を測定する方法)
一つの実施形態において、本発明は、前記基質組成物を用いて5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を測定する方法を提供する。この測定方法は、例えば、本発明の基質組成物と、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素とを共存させる工程を包含し得る。一例として、当該酵素が活性を発揮しない温度条件下(例えば、冷凍又は冷却条件下)で本発明の基質組成物及び当該酵素を一定期間共存させた場合と、当該酵素の至適温度付近(例えば、20℃以上、又は30℃以上)で本発明の基質組成物及び当該酵素を同じ期間共存させた場合とを比較し、本発明の基質組成物の分解を示す指標の差を判定することで、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を評価することができる。
【0033】
特定の実施形態では、本発明の基質を用いて、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を下記のように確認することができる。
下記の成分:
DNAポリメラーゼ単独(1ユニット(U))、又は、DNAポリメラーゼ(1U)及びホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体又はその断片(0.005μg/μL);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;及び
1.5mM MgCl
0.3μM 本発明の基質組成物(基質DNA);
を含む溶液を調製し、これを37℃及び-20℃で24時間インキュベートする。インキュベート後に、ゲル電気泳動において基質DNAを示すバンドを定量、もしくは、標識した基質DNAから遊離した標識化合物を定量する。そして、37℃でインキュベートした場合と-20℃でインキュベートした場合の定量値(強度)を単に比較することによって、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を評価することができる。また、下記の式に数値を当てはめることで、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を定量することもできる。
活性(%)={(-20℃で24時間曝露した場合のバンドの定量値)-(37℃で24時間曝露した場合のバンドの定量値)}/{-20℃で24時間曝露した場合のバンドの定量値}×100
もしくは、
活性(%)={(37℃で24時間曝露した場合の基質DNAから遊離した標識化合物の定量値)-(-20℃で24時間曝露した場合の基質DNAから遊離した標識化合物)}/{37℃で24時間曝露した場合の基質DNAから遊離した標識化合物の定量値}×100
なお上記においてバンドの強度は、目視判定で定性的に評価することもできるが、例えば、DNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置(MultiNA、株式会社島津製作所)およびDNA-500キット(製品コード:S292-27910-91、株式会社島津製作所)などの市販の測定機器を使用して評価することもできる。
【0034】
(5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質をスクリーニングする方法、及び5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質の効果を定量する方法)
本発明の基質組成物は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質をスクリーニングする方法、又は5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質の効果を定量する方法において非常に有用である。例えば、本発明のこれらの方法は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素の至適温度付近(例えば、20℃以上、又は30℃以上)で、本発明の基質組成物と、当該酵素と、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害剤の候補物質を一定期間共存させた場合における、本発明の基質組成物の分解を示す指標を評価すればよい。
【0035】
特定の実施形態では、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する候補物質を、37℃で24時間にわたり、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼ及び本発明の基質組成物(基質DNA)と共存させて、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する当該候補物質の阻害能を下記(1)又は(2)の方法で定量的に確認することもできる。
(1)5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する候補物質及びDNAポリメラーゼを、基質DNAと共存させて37℃で24時間曝露した反応液と、コントロール(例えば、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による分解を受けていない未処理の基質DNA)の反応液について、ゲル電気泳動により基質DNAのバンド強度を比較する。バンド強度の差が小さいほど、当該候補物質は、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能が高いことを意味する。
(2)5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する候補物質を、少なくとも一方のポリヌクレオチドが蛍光標識された本発明の基質組成物(二本鎖基質DNA)及び5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼと共存させて、37℃で24時間曝露した反応液と、コントロール(例えば、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による分解を受けていない未処理の基質DNA)の反応液について、リアルタイムPCRでのサイクル初期の蛍光強度を比較する。蛍光強度の差が小さいほど、当該候補物質は、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能が高いことを意味する。
【0036】
(1)の方法を用いる場合、使用する候補物質によっては基質DNAの定量値に影響を及ぼす場合がある。その場合には、以下のような数式に基づき、基質DNAの分解率(%)を算出することができる。基質DNAの分解率(%)が小さいほど、使用した化合物の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能が高いことを意味する。
分解率(%)={断片化されたバンドの定量値の合計}/{基質DNAのバンドの定量値+断片化されたバンドの定量値の合計}×100
【0037】
上記分解率(%)における値は、好ましくは30%以下である。より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0038】
本発明の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質のスクリーニング方法では、上記のような確認方法において5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能が認められた候補物質を選択すればよい。
【0039】
一つの実施形態において、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害剤は、例えば、25℃で24時間、48時間、又は72時間、或いは、37℃で24時間にわたり、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素(例えば、DNAポリメラーゼ)及び核酸テンプレート、プライマー、プローブ等の核酸と共存させても、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による核酸の分解を抑制することができる。したがって、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害剤は、核酸増幅用試薬等の安定性を向上させるために好適に使用することができる。
【0040】
5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素は特に限定されず、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを有するDNAポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼなどの任意の酵素であり得る。好ましくは、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼである。一実施形態において、DNAポリメラーゼは、耐熱性DNAポリメラーゼであることが好ましい。ここで、「耐熱性」とは、例えば60℃で30分間のように高温で熱処理しても、DNAポリメラーゼ活性を好ましくは50%以上保持している性質をいう。耐熱性DNAポリメラーゼとしては、例えば、Thermus aquaticus由来のDNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼ)、Thermus thermophilus HB8由来のDNAポリメラーゼ(Tthポリメラーゼ)、Thermus sp Z05由来のDNAポリメラーゼ(Z05ポリメラーゼ)、Bacillus caldotenax由来のDNAポリメラーゼ(Bcaポリメラーゼ)、Bacillus stearothermophilus由来のDNAポリメラーゼ(Bstポリメラーゼ)、Thermococcus kodakarensis由来のDNAポリメラーゼ(KODポリメラーゼ)、Pyrococcus furiosus由来のDNAポリメラーゼ(Pfuポリメラーゼ)、Pyrococcus woesei由来のDNAポリメラーゼ(Pwoポリメラーゼ)、Thermus brockianus由来のDNAポリメラーゼ(Tbrポリメラーゼ)、Thermus filiformis由来のDNAポリメラーゼ(Tfiポリメラーゼ)、Thermus flavus由来のDNAポリメラーゼ(Tflポリメラーゼ)、Thermotoga maritima由来のDNAポリメラーゼ(Tmaポリメラーゼ)、Thermotoga neapolitana由来のDNAポリメラーゼ(Tneポリメラーゼ)、Thermococcus litoralis由来のDNAポリメラーゼ(Ventポリメラーゼ)、Pyrococcus GB-D由来のDNAポリメラーゼ(DEEPVENTポリメラーゼ)等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、Taqポリメラーゼ等の用語には変異体も含まれる。ここで、変異体とは、元のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ポリメラーゼ活性、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性、及び耐熱性等の酵素学的性質が維持されているものをいう。変異体のポリメラーゼ活性ドメインは、元のDNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性ドメインのアミノ酸配列に対して85%以上(好ましくは90%以上又は95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなることが好ましい。変異体の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインは、元のDNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインのアミノ酸配列に対して85%以上(好ましくは90%以上又は95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなることが好ましい。変異体におけるアミノ酸の変異は保存的置換であることが好ましい。
【0041】
一実施形態において、DNAポリメラーゼは、Family Aに属するDNAポリメラーゼであることが好ましい。Family Aに属するDNAポリメラーゼとしては、例えば、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、Z05ポリメラーゼ、Tmaポリメラーゼ、Bcaポリメラーゼ、Bstポリメラーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない。また、野生型であっても変異体であってもよい。
【0042】
DNAポリメラーゼは、Taqポリメラーゼ(配列番号15)、Tthポリメラーゼ(配列番号16)、Z05ポリメラーゼ(配列番号17)及びそれらの変異体からなる群より選択されることが好ましい。
【0043】
DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性は以下のようにして測定する。
ポリメラーゼ活性が強い場合には、保存緩衝液(50mM Tris-HCl(pH8.0),50mM KCl,1mM ジチオスレイトール,0.1%(v/v) ポリエチレングリコールソルビタンモノラウラート(Tween(商標) 20),0.1%(v/v) オクチルフェニル-ポリエチレングリコール(Nonidet(商標) P40),50%(v/v) グリセリン)でDNAポリメラーゼ溶液を希釈して測定を行う。
(1)下記のA液25μl、B液5μl、C液5μl、滅菌水10μl、及びDNAポリメラーゼ溶液5μlをマイクロチューブに加えて75℃にて10分間反応する。
(2)その後氷冷し、E液50μl及びD液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。
(3)この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、0.1N 塩酸及びエタノールで十分洗浄する。
(4)フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)で計測し、鋳型DNAのヌクレオチドの取り込みを測定する。ポリメラーゼ活性の1単位(ユニット)はこの条件で30分当りの10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分(即ち、D液を添加したときに不溶化する画分)に取り込むDNAポリメラーゼ量とする。
A液:40mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)16mM 塩化マグネシウム15mM ジチオスレイトール100μg/mL BSA(牛血清アルブミン)
B液:1.5μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C液:1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)
D液:20%(w/v) トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E液:1mg/mL 仔牛胸腺DNA
【実施例0044】
以下、試験例をもって、本発明を具体的に説明する。もっとも、本発明は下記試験例に限定されるものではない。
【0045】
試験例1.基質における配列依存性の検討
配列番号1から8に記載のオリゴDNAを用いて、二本鎖ポリヌクレオチド基質(基質DNA)を調製し、ポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による分解を受けるかを確認した。なお、本試験例で調製した基質はいずれも異なる配列を有するように設計した。
【0046】
(1)反応液
活性測定用ミックス1:
Tthポリメラーゼ(0.05U/μL、TTH-301、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl
0.3μM 基質DNA;
【0047】
[基質DNA]
配列番号1から8に記載のオリゴDNAをそれぞれ別個に合成し、下記表1に示す組み合わせとなるように、配列番号1と5、配列番号2と6、配列番号3と7、配列番号4と8をそれぞれ等量に混合して二本鎖を形成させ、基質DNAとした。
【0048】
(2)反応
前記活性測定ミックス1を20μLずつ調製し、-20℃又は25℃で24時間曝露した。その後、DNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置(MultiNA、株式会社島津製作所)およびDNA-500キット(製品コード:S292-27910-91、株式会社島津製作所)を使用して、各サンプルを分析した。
【0049】
(3)結果
各サンプルを分析した際のバンド面積の定量値を表1に示す。いずれの基質DNAにおいても、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼの存在下で、25℃で24時間曝露した場合では、-20℃で24時間曝露した場合に比べて、バンドの定量値が著しく低下し、基質DNAの分解が確認された。従って、基質DNAの配列に依存せずに5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を評価できることを確認した。
【0050】
【表1】
【0051】
試験例2.基質における構造の検討
配列番号4のオリゴDNA及び配列番号8から14のオリゴDNAから構成される基質DNAを設計し、ポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による分解を受けるか確認した。
【0052】
(1)反応液
活性測定用ミックス1:
Tthポリメラーゼ(0.05U/μL、TTH-301、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl
0.3μM 基質DNA;
【0053】
[基質DNA]
配列番号4及び配列番号8から14に記載のオリゴDNAをそれぞれ別個に合成し、下記表2に示すように、配列番号4と配列番号8~14のいずれかをそれぞれ等量に組み合わせて混合して二本鎖を形成させ、基質DNAとした。
【0054】
(2)反応
前記活性測定ミックス1を20μLずつ調製し、-20℃又は25℃で24時間曝露した。その後、DNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置(MultiNA、株式会社島津製作所)およびDNA-500キット(製品コード:S292-27910-91、株式会社島津製作所)を使用して、各サンプルを分析した。
【0055】
(3)結果
各サンプルを分析した際のバンド面積の定量値を表2に示した。
本試験例に用いた各オリゴDNAの組み合わせで構成される二本鎖ポリヌクレオチド基質の構造を図2に示す。各基質DNAの両末端のうち、少なくとも一方の3’末端が突出した一本鎖DNA領域を有する基質DNAでは、分解が確認された。しかし、いずれの末端にも一本鎖DNA領域を有さずに二本鎖DNAを形成している場合、もしくは3’末端突出を有さずに5’末端が突出した一本鎖DNA領域を有する場合には、基質DNAの分解は確認されなかった。従って、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性は、少なくとも一方の3’末端が突出した一本鎖DNA領域と部分的に相補的な二本鎖DNA領域を有した基質DNAにおいてのみ、二本鎖DNAの片側の鎖を5’→3’方向に分解することが分かった。また、基質DNAの両端のうち共に3’末端が突出した一本鎖DNA領域を有する配列番号4及び12の組み合わせでは、最も基質DNAの分解が顕著となった。これは、基質DNAが両端から分解されるため、分解量が大きくなるためだと考えられる。従って、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を定量するためには、少なくとも一方の3’末端側に突出した一本鎖DNA領域を有し、かつ部分的に相補的な二本鎖DNA領域を有する基質DNAを設計する必要があることが明らかとなった。
【0056】
【表2】
【0057】
試験例3.基質DNAを分解するポリメラーゼの種類
配列番号4及び配列番号8に記載のオリゴDNAから構成される基質DNAを設計し、ポリメラーゼの種類により5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による分解の程度が影響を受けるか確認した。
【0058】
(1)反応液
活性測定用ミックス1:
Tthポリメラーゼ(0.05U/μL、TTH-301、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl
0.3μM 基質DNA;
活性測定用ミックス2:
国際公開第2018/096961号に記載のTthポリメラーゼ(変異体)(0.05U/μL);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl
0.3μM 基質DNA;
活性測定用ミックス3:
Taqポリメラーゼ(0.05U/μL、TAP-201、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl
0.3μM 二本鎖基質DNA;
【0059】
[基質DNA]
配列番号4及び配列番号8に記載のオリゴDNAをそれぞれ別個に合成し、等量を混合して二本鎖を形成させ、基質DNAとした。
【0060】
(2)反応
前記活性測定ミックス1を20μLずつ調製し、-20℃又は37℃で24時間曝露した。その後、DNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置(MultiNA、株式会社島津製作所)およびDNA-500キット(製品コード:S292-27910-91、株式会社島津製作所)を使用して、各サンプルを分析した。
【0061】
(3)結果
各サンプルを分析した際のバンド面積の定量値を表3に示した。いずれのポリメラーゼにおいても、37℃で24時間曝露した場合では、-20℃で24時間曝露した場合に比べて、バンドの定量値が低下し、基質DNAの分解が確認された。ここで、各ポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を下記の式で算出した。また、今回の結果から、野生型Tthポリメラーゼ及び国際公開第2018/096961号に記載のTthポリメラーゼ(変異体)は活性がそれぞれ97%、99%となり、活性44%を示したTaqポリメラーゼよりも5’→3’エキソヌクレアーゼ活性が強いことが明らかになった。
活性(%)={(-20℃で24時間曝露した場合のバンドの定量値)-(37℃で24時間曝露した場合のバンドの定量値)}/{-20℃で24時間曝露した場合のバンドの定量値}×100
【0062】
【表3】
【0063】
試験例4.蛍光標識基質DNAを用いた5’→3’エキソヌクレアーゼ活性の評価
配列番号2から4に記載の蛍光標識基質DNAプローブ及び配列番号6から8に記載のオリゴDNAを組み合わせて、蛍光標識二本鎖ポリヌクレオチド基質(蛍光標識基質DNA)を調製し、ポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による分解を受けるかを確認した。なお、本試験例で調製した基質はいずれも異なる配列を有するように設計した。
【0064】
(1)反応液
活性測定用ミックス4:
Tthポリメラーゼ(0.05U/μL、TTH-301、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl
0.3μM 蛍光標識基質DNA;
【0065】
[蛍光標識基質DNA]
配列番号2から4に示される配列の5’末端をFAM及び3’末端をBHQ1で標識した蛍光標識基質DNAプローブを設計した。各配列はそれぞれ別個に合成し、下記表4の組み合わせとなるように、配列番号2及び6、配列番号3及び7、配列番号4及び8の組み合わせで等量に混合して二本鎖を形成させ、蛍光標識基質DNAとした。
【0066】
(2)反応
前記活性測定ミックス4を20μLずつ調製し、-20℃又は37℃で24時間曝露した。その後、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を使用して、以下の温度サイクルで反応を実施した。60℃、45秒の伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
(温度サイクル)
工程1:95℃ 1分
工程2:95℃ 15秒-60℃ 45秒 50サイクル(PCR)
【0067】
(3)結果
リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)で測定したMulticomponent Dataにおける10サイクル目の蛍光値を表4に示す。いずれの蛍光標識基質DNAにおいても、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼの存在下で、37℃で24時間曝露した場合では、-20℃で24時間曝露した場合に比べて、蛍光値の上昇が確認された。従って、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって基質DNAは分解されており、蛍光標識基質DNAを用いても5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を評価できることを確認した。
【0068】
【表4】
【0069】
試験例5.5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害剤の評価
配列番号4及び8に記載のオリゴDNAから構成される二本鎖ポリヌクレオチド基質(基質DNA)を設計し、ポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する化合物の評価を行った。
【0070】
(1)反応液
活性測定用ミックス1:
Tthポリメラーゼ(0.05U/μL、TTH-301、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl
0.3μM 基質DNA;
【0071】
[基質DNA]
配列番号4及び配列番号8に示されるオリゴDNAをそれぞれ別個に合成し、等量に組み合わせて混合して二本鎖を形成させ、基質DNAとした。
【0072】
[5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害剤]
再表2016/136324号公報において5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害によるプローブ安定化効果を確認しているフェナントロリン、エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTA)を選定した。
【0073】
(2)反応
前記活性測定ミックス1において、阻害剤なし(0mM)、フェナントロリン20,40mM、EDTA20,40mMとなるように調整した反応液を20μLずつ調製し、25℃で24時間曝露した。その後、DNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置(MultiNA、株式会社島津製作所)およびDNA-500キット(製品コード:S292-27910-91、株式会社島津製作所)を使用して、各サンプルを分析した。
【0074】
(3)結果
各サンプルを分析した際のバンド面積の定量値を表5に示した。ここでは、最も配列長の長いバンドを基質DNAとして面積値を算出し、基質DNAよりも短いバンドは断片化されたDNAとして面積値の合計を算出した。下記の式から、基質DNA中の分解されたDNAの割合を分解率(%)として算出した。
分解率(%)={断片化された面積値の合計(mV・μm)}/{基質DNAの面積値(mV・μm)+断片化されたDNAの面積値の合計(mV・μm)}×100
阻害剤なしの分解率36%に対して、フェナントロリン及びEDTAを20mM以上添加した場合では分解率は1~5%まで低減し、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害能を確認できた。
【0075】
【表5】
【0076】
上記の結果に示されるように、本発明の基質組成物を用いることにより、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質を評価でき、そのような阻害物質のクリーニング及び阻害物質の効果の程度を適正に評価できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明により、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を高精度にすることができる。本発明は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する物質の効率的なスクリーニングや開発に役立ち、長期間保管しても安定な核酸増幅試薬の開発等に貢献できる。
図1
図2
【配列表】
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