(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018162
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】レーザースライシング剥離装置及びそれを用いたスライシング剥離方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
H01L21/304 611
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020121065
(22)【出願日】2020-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 比宇麻
(72)【発明者】
【氏名】納谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】池野 順一
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋平
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA11
5F057AA33
5F057BA01
5F057BB03
5F057BB06
5F057BB09
5F057CA02
5F057CA06
5F057DA17
5F057DA22
(57)【要約】
【課題】剥離に必要な力の低減が可能で、コンパクトかつシンプルな構造からなるレーザースライシング剥離装置及びそれを用いたレーザースライシング剥離方法の提供を目的とする。
【解決手段】インゴット又はウェハブロックからウェハをスライシングするためのレーザースライシング剥離装置であって、インゴット又はウェハブロックに剥離層を形成するためのレーザー光を照射するレーザー処理手段と、前記剥離層形成後のウェハ部材の一部を研削する研削手段と、前記研削後のウェハをインゴット又はウェハブロックから剥離する剥離手段とを備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴット又はウェハブロックからウェハをスライシングするためのレーザースライシング剥離装置であって、
インゴット又はウェハブロックに剥離層を形成するためのレーザー光を照射するレーザー処理手段と、
前記剥離層形成後のウェハ部材の一部を研削する研削手段と、
前記研削後のウェハをインゴット又はウェハブロックから剥離する剥離手段とを備えることを特徴とするレーザースライシング剥離装置。
【請求項2】
前記研削手段は、前記ウェハ部材の周縁部を研削することを特徴とする請求項1に記載のレーザースライシング剥離装置。
【請求項3】
インゴット又はウェハブロックからウェハをスライシングするためのレーザースライシング剥離方法であって、
インゴット又はウェハブロックの端面からその内部の所定の深さにレーザー光を集光させながら該レーザー光を前記端面に沿って相対移動させることで該インゴット又はウェハブロックに剥離層を形成するレーザー処理工程と、
前記レーザー処理後にウェハ部材の一部を研削する研削工程と、
前記研削後のウェハをインゴット又はウェハブロックから剥離する剥離工程とを備えることを特徴とするレーザースライシング剥離方法。
【請求項4】
前記研削工程は、前記ウェハ部材の周縁部を径方向に所定の厚み分研削することを特徴とする請求項3に記載のレーザースライシング剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を用いてインゴット等からウェハなどの基板材をスライシングするための、スライシング剥離装置及びそれを用いた方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェハはSi、SiC、GaN等の結晶からなる半導体材料であり、現在ワイヤソーを用いてインゴットから切削により所定の厚みのウェハを製造している。
このワイヤソーを用いた切削加工は、ワイヤー径の切削ロスや接触加工によるひずみ、加工ダメージ等があるために、他の方法によるウェハの製造が期待されている。
【0003】
例えば特許文献1に、インゴット内部にレーザー光の集光点を合せた状態で、集光点をインゴットに対して相対的に移動して加工領域を形成し、加工領域にて剥離(分離)することでウェハ(基板)を製造する方法を開示する。
同公報の
図2を参照すると、インゴット(1)内部に加工領域(10)を形成するレーザー光照射手段とは別に、加工領域(10)の径方向にさらに切り欠き用レーザー光照射手段(50)を用いてレーザー光を照射し、剥離の起点になる切り欠き(9)を形成している。
しかし、これではインゴットに対して2方向からレーザー光を照射しなければならず、装置及び工程が複雑となる。
また、切り欠き用レーザー光の照射によってもインゴット(1)の周縁部、インゴット(12)近傍の周縁部に対する亀裂の生成が不十分となる可能性があり、ウェハ(11)をインゴット(12)から剥離するのに、非常に大きな剥離力が必要となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、剥離に必要な力の低減が可能で、コンパクトかつシンプルな構造からなるレーザースライシング剥離装置及びそれを用いたレーザースライシング剥離方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレーザースライシング剥離装置は、インゴット又はウェハブロックからウェハをスライシングするためのレーザースライシング剥離装置であって、インゴット又はウェハブロックに剥離層を形成するためのレーザー光を照射するレーザー処理手段と、前記剥離層形成後のウェハ部材の一部を研削する研削手段と、前記研削後のウェハをインゴット又はウェハブロックから剥離する剥離手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
ここでスライシングとは、例えばインゴット等の原材料から所定の厚さのウェハを分断して製造する方法をいう。
インゴットは鋳造された半導体素材をいうが、予め厚みのあるウェハから薄いウェハを2枚、あるいはそれ以上に分割する場合にも本発明が適用されることから、厚みのあるウェハをウェハブロックと表現した。
例えば、インゴット等の内部の所定の深さにレーザー光の焦点を絞りながらレーザー光をインゴット等の端面に沿って相対移動させ、インゴット等の内部に複数の亀裂を生成することで剥離層を形成し、剥離層でウェハを剥離する。
【0008】
本発明者らは予備検討により、このようなスライシングではインゴット等の形状などを原因として剥離層となるべき一部にレーザー光を照射する際に焦点がずれたり、亀裂に必要な応力が発生せずに亀裂生成が不十分となることを見出した。
これでは、亀裂不十分な領域が剥離に対し強い強度を有するため、ウェハの剥離に必要な力が大きくなる。
特にウェハは厚みが薄く、機械的に周縁部をチャックするのが難しいため、吸着パッド等を用いた吸着剥離手段を採用しようとすると、大きな吸着パッドや強い吸引手段が必要で装置が大型化し、複雑となる。
そこで本発明は、レーザー処理後にウェハ部材のレ-ザー処理不十分な領域等を研削し、亀裂不十分な領域を除去したウェハを剥離するため、剥離に必要な力を低減する。
【0009】
本発明において、前記研削手段は、前記ウェハ部材の周縁部を研削することが好ましい。
円柱状のインゴット等は、端面に沿ってレーザー光を集光させながら相対移動させると周縁部が亀裂不十分となりやすい。
そこで、ウェハ部材の周縁部を径方向に一部除去することで、インゴット等の亀裂不十分な領域が少なくなり、剥離に必要な力が低減される。
【0010】
上記のようなスライシング剥離装置を用いた本発明に係るレーザースライシング剥離方法は、インゴット又はウェハブロックからウェハをスライシングするためのレーザースライシング剥離方法であって、インゴット又はウェハブロックの端面からその内部の所定の深さにレーザー光を集光させながら該レーザー光を前記端面に沿って相対移動させることで該インゴット又はウェハブロックに剥離層を形成するレーザー処理工程と、前記レーザー処理後にウェハ部材の一部を研削する研削工程と、前記研削後のウェハをインゴット又はウェハブロックから剥離する剥離工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記研削工程は、前記ウェハ部材の周縁部を径方向に所定の厚み分研削することが好ましい。
本発明者らの予備検討により、円柱状のインゴット等は周縁部が亀裂生成不十分になることが分かっている。
そこで、ウェハ部材の周縁部を所定の厚み分研削することで、より確実に剥離に必要な力の低減を可能とする。
研削工程は、例えば砥石をウェハ部材の周縁部に接触させながら相互回転することで、容易に周縁部を所定の厚み分だけ径方向に研削できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、インゴット等の内部に剥離層を形成するためのレーザー光を照射し、剥離層となるべき一部に亀裂生成が不十分となる場合であっても、予め研削によりウェハ部材の亀裂不十分領域を除去することで、剥離手段によるウェハの剥離を弱い力で可能とする。
本発明に係る装置及び方法は、シンプルな手段及び工程で、簡単に剥離に必要な力を低減でき、インゴット等からのウェハ製造性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るレーザースライシング剥離方法を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図に基づいて、本発明に係るスライシング剥離装置及びそれを用いた方法の実施例を説明する。
本発明に係るスライシング剥離方法は、まずは
図1(a)に示すように、レーザー処理手段20を用いてインゴット1の上面からインゴット1内部の所定の深さにレーザー光を集光させながら、レーザー光をインゴット1の上面に沿って相対移動させることでインゴット1に剥離層10を形成する。
剥離層10形成後のインゴット1は、剥離層10を境として上方側がウェハ部材2、下方側がインゴット1aとなり、ウェハ部材2は研削工程を経てインゴット1aから剥離されるウェハ3となる。
【0015】
本発明者らは、予備検討として小径の円柱状であるSiCインゴットに上記レーザー処理工程を施し、研削工程を施さずにインゴットからのウェハの剥離を試みた。
この予備検討によって剥離したウェハの剥離面の写真を、
図2に示す。
図2は剥離面の上下左右及び中央部の拡大写真(a)~(e)を、剥離面上に表現した。
図2(a)~(e)に示すように、レーザー光の照射により亀裂が平行に発生している亀裂生成領域10aに対して、円状の剥離面の上下左右端部、すなわち周縁部は亀裂が不十分な亀裂不十分領域11となっていた。
この予備検討の結果から、本発明者らは円形であるインゴット端面に沿ってレーザー光を照射する場合に、インゴットの周縁部では亀裂が伸張しにくい状態となることを見出した。
また、この周縁部の径方向の深さは0.15~0.23mmレベルの極わずかであり、研削により外径がわずかに小さくなっても製品には影響がないことも明らかになった。
レーザースライシング方法におけるレーザー照射は、剥離面全体を対象とすることでインゴットからのウェハの剥離を可能、又は弱い力での剥離が可能になるため、亀裂不十分領域11をいかに無くせるかが重要となる。
そこで、本発明に係るスライシング剥離方法においては、レーザー処理工程後に研削工程を加えることにした。
【0016】
研削工程は、
図1(b)に示すように、研削手段30を用いてウェハ部材2の周縁部2bを研削する。
例えば、研削手段30として回転制御された砥石をウェハ部材2の外周面に沿わせた状態で相互に回転移動し、周縁部2bをウェハ相当部2aまで研削する。
なお、研削手段30側をウェハ部材2の周縁部2bに沿って回転させる、又は/及び、位置固定した研削手段30に沿わせてインゴット1を回転させてもよい。
研削する周縁部2bは、
図2に示す亀裂不十分領域11に相当する所定の厚み分を研削し、外部から亀裂が見えるようにするのが好ましい。
これにより、研削後のウェハ相当部2aを、
図1(c)に示すように剥離手段(図示省略)を用いてインゴット1aから剥離してウェハ3を製造する。
なお、剥離手段は公知の剥離手段を用いることができ、例えばインゴット1aの下側を固定又は下方に引っ張り、ウェハ3を上方へ吸着等にて剥離する。
剥離後のインゴット1a端面を平滑に研削することで、繰り返しウェハ3の製造が可能となる。
【0017】
本実施例においてはインゴットからウェハを製造する方法について説明したが、厚みを有するウェハ(ウェハブロック)から薄いウェハを製造する場合にも本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0018】
1 インゴット
2 ウェハ部材
2b 周縁部
3 ウェハ
10 剥離層
20 レーザー処理手段
30 研削手段