IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三鷹ホールディングスの特許一覧

特開2022-18164近赤外線遮光性保護被膜組成物、その組成物が硬化された近赤外線遮光性保護被膜、並びに、その被膜が形成されたレンズ及び眼鏡
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018164
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】近赤外線遮光性保護被膜組成物、その組成物が硬化された近赤外線遮光性保護被膜、並びに、その被膜が形成されたレンズ及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20220120BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20220120BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220120BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20220120BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220120BHJP
   C08K 7/26 20060101ALI20220120BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20220120BHJP
   C08K 5/3475 20060101ALI20220120BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20220120BHJP
   C09D 5/34 20060101ALI20220120BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20220120BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220120BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220120BHJP
【FI】
G02B5/22
G02C7/10
C08L83/04
C08K5/5415
C08L1/02
C08K7/26
C08K5/3415
C08K5/3475
C08K5/07
C09D5/34
C09D183/04
C09D7/61
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020121069
(22)【出願日】2020-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】520006735
【氏名又は名称】株式会社三鷹ホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【弁理士】
【氏名又は名称】友野 英三
(72)【発明者】
【氏名】羽澤 学
【テーマコード(参考)】
2H006
2H148
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA03
2H006BA06
2H006BE05
2H148CA04
2H148CA05
2H148CA12
2H148CA13
2H148CA20
4J002AB013
4J002CP03W
4J002CP03X
4J002DE108
4J002DE138
4J002DJ018
4J002EE039
4J002EU026
4J002EU179
4J002EX036
4J002FA043
4J002FA108
4J002FD059
4J002FD207
4J002GH01
4J002GP01
4J002HA05
4J038BA021
4J038BA022
4J038DL031
4J038HA216
4J038HA446
4J038HA476
4J038JB36
4J038JC30
4J038JC38
4J038KA08
4J038KA12
4J038MA07
4J038NA09
4J038NA11
4J038NA19
4J038PB03
4J038PB08
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】本発明は、基材に塗布することができ、塗布後に形成される被膜が、可視光線透明性を損なうことなく、近赤外線を効果的に遮光し、基材に耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、及び、耐薬品性等の機能を付与することができる近赤外線遮光性保護被膜組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、その塗料によって形成された近赤外線遮光性、耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、及び、耐薬品性等の機能を有する保護被膜、並びに、その被膜が形成されたレンズ及びそのレンズを用いた眼鏡を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー、アルコキシシラン、ナノファイバー及び/又は中空粒子、並びに、近赤外線遮光剤を少なくとも配合することを特徴とする組成物である。この組成物から形成される硬化被膜は、近赤外線を効果的に遮光し、耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、及び、耐薬品性等の機能を備え、この硬化皮膜を被覆したレンズ及びそのレンズを用いた眼鏡は、眼球を近赤外線から保護することができる。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー、アルコキシシラン、ナノファイバー、及び、近赤外線遮光剤が配合されている近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項2】
シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー、アルコキシシラン、中空粒子、及び、近赤外線遮光剤が配合されている近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項3】
中空粒子を更に含む請求項1に記載の近赤外線遮光性保護皮膜組成物。
【請求項4】
紫外線遮光剤を更に含む請求項1~3のいずれか一項に記載の近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項5】
前記ナノファイバーが、セルロースナノファイバー又は合成樹脂ナノファイバーである請求項1、3、及び、4のいずれか一項に記載の近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項6】
前記中空粒子が、二酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、及び、酸化亜鉛(ZnO)から選択される材質の中空粒子を少なくとも一つ以上含む請求項2~5のいずれか一項に記載の近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項7】
前記近赤外線遮光剤が、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、アズレノシアニン系化合物、ヘミポルフィラジン系化合物、ベンジフタロシアニン系化合物、ジイモニウム系化合物、ニッケルジチオレン系化合物、シアニン系化合物、スクアリウム系化合物、スズドープ酸化インジウム(ITO)粒子、アンチモンドープ三酸化スズ(ATO)粒子、セシウム酸化タングステン(CsWO)、及び、六ホウ化ランタン(LaB)から選択される近赤外線遮光剤を少なくとも一つ以上含む請求項1~6に記載の近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項8】
前記紫外線遮光剤が、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、サリチル酸フェニル系化合物、フェニルシアノアクリレート系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、ヒドロキシフェニル-s-トリアジン系化合物、アミノ安息香酸アルキル系化合物、メトキシケイ皮酸アルキル系化合物、ベンジリデン系化合物、ジベンゾイルメタン系化合物、酸化チタン(TiO)粒子、及び、酸化亜鉛(ZnO)粒子から選択される紫外線遮光剤を少なくとも一つ以上含む請求項4~6のいずれか一項に記載の近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項9】
前記シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー100重量部に対し、アルコキシシランが10~90重量部である請求項1~8に記載の近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項10】
前記シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーは、少なくともアルコキシ基又はシラノール基を有する請求項9に記載の近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項11】
前記シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー中に含まれるアルコキシ基が、10~70重量%である請求項10に記載の近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項12】
前記シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー中に含まれるシラノール基が、3~10重量%である請求項10に記載の近赤外線遮光性保護被膜組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の近赤外線遮光性保護被膜組成物が硬化された近赤外線遮光性保護被膜。
【請求項14】
請求項13に記載の近赤外線遮光性保護被膜が、少なくとも片面に形成されたレンズ。
【請求項15】
請求項14に記載されたレンズを用いた眼鏡。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に塗布することができ、塗布後に形成される被膜が、近赤外線を遮光し、基材に耐擦傷性及び耐衝撃性を付与することができる近赤外線遮光性保護被膜形成塗料に関する。また、本発明は、その塗料によって形成された近赤外線遮光性保護被膜、並びに、その被膜が形成されたレンズ及び眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽から放射される莫大なエネルギーの内、宇宙空間を通過して地球に届くのは、その僅か20億分の1に過ぎないが、そのエネルギーの源である太陽光は、空気、水、土等と同様、地球上の生物の存在にとって不可欠な環境要素の一つである。特に、地上に届く太陽光は、大気圏を通過する過程において、様々な分子によって吸収及び分散され、約52%の可視光線、約42%の赤外線、及び、約6%の紫外線から構成されるスペクトル分布を有しており、それぞれが、地球上の生体系及び生態系に様々な作用効果をもたらしている(非特許文献1)。
【0003】
可視光線は、物体の存在を目で認識することができる視覚を司る目に見える光であると共に、体内時計の調節を担っているばかりか、生態系の食物連鎖の起点である光合成反応を推進する有用作用がある。赤外線は、可視光線よりも波長が長い、人間の目で見ることができない低エネルギーの光であるが、物体及び生体を温める温熱作用が特徴的である。そして、紫外線は、可視光線よりも波長が短い、人間の目で見ることができない高エネルギーの光であるため、殺菌、ビタミンD合成反応、及び、オゾン生成反応を生起する化学作用がある。
【0004】
しかし、太陽光は、生体系及び生態系に対してこのような有益な作用効果ばかりではなく、有害な作用効果ももたらす。特に、高エネルギーの紫外線は、その化学作用が人体の皮膚や眼球に及び、皮膚のシミ、シワ、日焼け、癌、良性腫瘍、及び、光線過敏症、並びに、眼球の角膜炎及び白内障等を引き起こす危険な光として認識される場合が多い。その為、古くから、紫外線吸収剤及び紫外線散乱剤を中心とした開発が活発に行われ、その紫外線遮光技術が、化粧品、ガラス、及び、眼鏡等に幅広く活用されてきた(例えば、非特許文献2、3、4、及び、5)。
【0005】
このように、従来、人体に障害を及ぼす太陽光としては、紫外線が取り上げられることが多かったが、近年、赤外線、特に、近赤外線の人体に及ぼす障害にも十分な注意を要することが指摘されるようになってきた。これは、紫外線が地上に届く太陽光の約6%でしかないのに対し、赤外線は約42%を占めることに加え、紫外線よりも長い近赤外線の波長が、皮膚や眼球を透過し易いことに基づいた障害を生起することが確認されてきたことに基づいている。更に、近赤外線は、自然環境下の太陽光に含まれるだけでなく、照明器具、暖房器具、及び、調理器具等の電化製品から放射されており、室内における日常生活においても暴露されていることもその原因にあげることができる。
【0006】
例えば、近赤外線の皮膚に対する障害については、近赤外線が、紫外線より長い波長であるため、皮膚の奥深くまで到達して筋組織を破壊し、シワだけでなく、タルミを促進する原因となっていることが明らかになってきた(例えば、非特許文献6)。また、近赤外線の眼球に対する障害ついては、紫外線が水晶体を透過することができないのに対して、近赤外線は、水晶体を透過するため、網膜火傷及び白内障を引き起こす原因であることが明らかになりつつある(例えば、非特許文献1、7、及び、8、並びに、特許文献1)。網膜火傷は、近赤外線が水晶体を透過して網膜で集光するためである。一方、白内障は、近赤外線が透過する水晶体の温度上昇を招き、クリスタリンタンパクの非可逆的変性等の熱障害による水晶体の混濁を引き起すためである。この水晶体の混濁には、角膜、虹彩、毛様体、及び、網膜に近赤外線が吸収されて発生する温度上昇が、二次的に水晶体に伝達されることが関与すると共に、温度上昇した水晶体に暴露される紫外線も関与しているものと考えられている(特許文献1)。このような状況を鑑み、近赤外線の功罪の両面に関する研究が、医療、化粧品、及び、眼鏡等の様々な領域で活発に行われるようになってきた(非特許文献9)。
【0007】
特に、眼鏡等の光学レンズに的を絞ると、その近赤外線遮光技術は、多層反射防止膜の形成と近赤外線遮光剤の分散及び被覆に大きく分類することができる。
【0008】
前者は、低屈折率と高屈折率の誘電体膜を交互に多数形成した多層反射防止膜によって、近赤外線を遮光する方法であり、近赤外線の遮光効果に優れているが、真空プロセスを用いて、精密に温度及び膜厚が制御された誘電体膜を多数形成する必要がある。この技術は、誘電体膜の層数を低減することによって眼鏡のレンズに使用される場合もあるが、精密な近赤外線の遮光が要求される、撮像素子用のフィルタ、カメラやミュージックプレイヤーのディスプレイ等に採用され得るもので、基板の両面に対し、例えば、低屈折率のシリカ(S i O , 二酸化ケイ素) と高屈折率のチタニア( T i O , 二酸化チタン) を交互に各面20層積層した誘電体多層膜を形成しているため、高価な電子機器、光学機器、計測機器等のレンズに適用されるのが一般的である(特許文献1及び2)。
【0009】
後者は、眼鏡やサングラス等のレンズに広く適用される、近赤外線から眼球を保護する技術である。比較的古くから開発されており、20年以上前に、眼鏡やサングラスレンズ等のレンズに使用するためのフタロシアニン系色素である近赤外線遮光剤(近赤外線遮蔽剤)と紫外線遮光剤(紫外線遮蔽剤)を含有する低融点ポリカーボネート(PC)組成物が開示されている(特許文献3)。これは、光学用透明性樹脂としてレンズ等に適用されるポリカーボネートに近赤外線遮光機能等を付与する場合の課題を解決する試みである。すなわち、PCのガラス転移温度(Tg)が高く、過酷な温度条件で成形加工しなければならないため、機能を付与するためのフタロシアニン系色素等の添加剤の熱分解及びその熱分解生成物よるPCの分解を解決すると共に、添加剤の不均一分散を解決することを目的としており、その目的を達成するための解決策が、PCを変性した低融点PCである。
【0010】
更に、上記低融点PCと同様の目的で、例えば、熱分解温度以下で成形加工な熱硬化性樹脂であるポリウレタン(PU)を改良することによって、成形加工時における近赤外線遮光剤及び紫外線遮光剤の熱分解及びその熱分解生成物によるPUの分解、並びに、不均一分散を解決することができる光学用透明性樹脂に適したPU組成物が提案されている(特許文献4及び5)。
【0011】
このように、光学用透明性樹脂に近赤外線遮光機能を付与するための課題である、成形加工時における近赤外線遮光剤等の添加剤の熱分解及びその熱分解生成物による光学用透明性樹脂の分解、並びに、近赤外線遮光剤等の添加剤の不均一分散は、光学用透明性樹脂の改良により解決する技術が提案されてきたが、特許文献6では、近赤外線遮光剤である縮合複素環式化合物を、ステアリン酸マグネシウムと共に光学用透明性樹脂に分散する技術が提案されている。この混合物を分散する樹脂及びその効果に関する記載はないが、ステアリン酸マグネシウムが、錠剤を製造する際の粉末や顆粒の流動性を高め、圧縮成形時の滑りを良好にし、粉末の付着を防ぎ、成形体表面に光沢を与える滑沢剤として用いられるため、光学用透明性樹脂の改良を施すことなく、近赤外線遮光剤の光学用透明性樹脂への均一分散を実現可能にする技術ではないかと推測される。更に、特許文献6には、レンズに塗布するハードコーティング材への、縮合複素環式化合物/ステアリン酸マグネシウム混合物の適用も記載されているが、詳細は不明である。
【0012】
また、光学用透明性樹脂の開発と並行して、近赤外線遮光剤の近赤外線吸収波長の拡大及び有機溶媒可溶化等を目的として、近赤外線領域700~2000nmに吸収を有する各種有機系近赤外線遮光剤、例えば、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、アズレノシアニン系化合物、ヘミポルフィラジン系化合物、ニッケルジチオレン系化合物、スクアリウム系化合物、キノン系化合物、ジインモニウム系化合物、アゾ系化合物等も開発されてきた(特許文献3、並びに、非特許文献10~14)。
【0013】
しかし、有機系近赤外線遮光剤は、吸収波長の拡大が困難であるため、種々の吸収波長に対応した複数の有機色素を含有させると、可視光透過率が低下するという問題がある上、有機色素の耐候性及び耐久性が低く、使用される環境及び時間によっては、近赤外線遮光機能が経時的に低下するという問題もある。そのため、無機系近赤外線遮光剤も開発された(特許文献7及び8、並びに、非特許文献15及び16)。例えば、スズドープ酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide、ITO)粒子、アンチモンドープ三酸化スズ(Antimony Trioxide、ATO)粒子、及び、複合タングステン酸化物粒子等を挙げることができるが、有機系近赤外線遮光剤同様、光学用透明性樹脂に対する均一分散が困難であるという共通した問題がある。
【0014】
そのため、特許文献7では、有機系近赤外線遮光剤の分散均一化同様、成形加工時の粘性が低い熱硬化性樹脂として、イソシアネート組成物とチオール組成物とから生成されるチオウレタン樹脂を適用し、光学用透明性樹脂の改良による複合タングステン酸化物粒子のレンズへの分散均一化が図られている。また、特許文献8では、分散剤を使用した複合タングステン酸化物粒子のマスターバッチ及び分散液を開発することによって、光学用透明性樹脂への均一な分散を図っている。マスターバッチは、光学用透明性樹脂の成型加工によるレンズの製造に適用され、分散液は、成形加工されたレンズへのコーティング材に適用される。
【0015】
以上、近赤外線遮光剤を使用して、眼鏡やサングラスのレンズに近赤外線遮光機能を持たせるために付随する、近赤外線遮光剤の熱分解及びその熱分解生成物による光学用透明性樹脂の分解、並びに、近赤外線遮光剤の不均一分散の問題を中心とする従来技術を説明してきたが、レンズの近赤外線遮光機能及びその他の機能を大きく左右する重要な技術にはレンズの製造方法がある。
【0016】
大別すると二つの製造方法がある。一方は、近赤外線遮光剤をレンズの成形加工工程で光学用透明性樹脂に分散させる方法であり、例えば、光学用透明性樹脂であるPC系樹脂、PU系樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系樹脂、ポリスチレン(PSt)系樹脂、及び、ポリ(4-メチルペンテン-1)(TPX)系樹脂等を溶融した状態で近赤外線遮光剤を混合及び分散した後、成形し、冷却又は硬化させて近赤外線遮光機能を備えたレンズを製造する方法である。他方は、成形加工されたレンズに近赤外線遮光剤を含むコーティング材を塗布する方法であり、例えば、上記光学用透明性樹脂が成形加工されたレンズに、近赤外線遮光剤が分散された塗料を、ディップコーティング等の方法で塗布した後、乾燥又は硬化させて近赤外線遮光機能を備えたレンズを製造する方法である。
【0017】
前者の方法は、上述したように、近赤外線遮光剤を光学用透明性樹脂に均一に分散することが困難であるため、光学用透明性樹脂の改質、近赤外線遮光剤の粒子化、近赤外線遮光剤の分散剤が必要であり、光学用透明性樹脂及びレンズの特性低下を生起する可能性がある。しかし、レンズに占める近赤外線遮光剤の配合量を高く設定することができるだけでなく、異なる近赤外線波長領域を吸収することができる近赤外線遮光剤を複数使用することによって、近赤外線遮光機能を向上させることもできる可能性がある。
【0018】
後者の方法は、レンズに占める近赤外線遮光剤の配合量を高く設定することができないが、光学用透明性樹脂に限定されず、ガラスを含めたあらゆる素材及び形態のレンズに適用することができる上、レンズの耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、及び、耐薬品性等の機能をレンズに付与することができる可能性がある。更に、近赤外線が放射されている、照明器具、暖房器具、及び、調理器具等の電化製品にも適用することが容易であり、産業上の利用範囲が極めて広いという特長もある。
【0019】
このように、レンズに赤外線吸収剤含有塗料をコーティングする方法には、近赤外線遮光機能を備えたレンズを製造する方法には、数多くの特長があるにもかかわらず、レンズに適用されることは少ない(例えば、特許文献6及び8)。また、例えば、樹脂ガラスや光学フィルム等に数多く開発されているハードコーティング剤には、耐擦傷性、耐熱性、及び、耐摩耗性等を維持し、クラック等の発生を防止する機能が付与されているが、近赤外線遮光機能を付与するものは認められない(例えば、特許文献9及び10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許第6451057号公報
【特許文献2】特許第5597780号公報
【特許文献3】特開平7-188538号公報
【特許文献4】特許第6640184号公報
【特許文献5】特表2018-529829号公報
【特許文献6】特開2020-3744号公報
【特許文献7】特開2019-15922号公報
【特許文献8】特開2019-20602号公報
【特許文献9】特開2013-64029号公報
【特許文献10】特許第6557412号公報
【特許文献11】特開2012-131201号公報
【特許文献12】特開2001-233611号公報
【特許文献13】特許5778997号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】佐々木政子,“絵とデータで読む太陽紫外線-太陽と賢く仲良くつきあう法-”,独立行政法人国立環境研究所,2006年3月
【非特許文献2】岡崎具視,“最近の紫外線吸収剤開発の現状”,色材協会誌,65(5),298-307(1992)
【非特許文献3】坂井章人,“微粒子粉体:紫外線防止と粉体”,J.Jpn.Soc.Colour Mater.,84(9),pp.329-334(2011)
【非特許文献4】小平広和,“自動車用高性能紫外線カットコート強化ガラス”,NEW GLASS,Vоl.27,No.104(2012)
【非特許文献5】株式会社ヴィトワ,“紫外線より怖い!?近赤外線とは”,[online],[2020年6月25日検索],インターネット,<https://www.vitowa.co.jp/mall/beautycolumn01.php>
【非特許文献5】打越哲郎,板倉明子,松永知佳,石垣隆正,“機能性セラミックス粒子の紫外線防御機構と特性”,表面科学Vol.35,No.1,pp.45-49(2014)
【非特許文献6】医療検索サイトMedical Note, “赤外線障害”,[online],[2020年6月24日検索],インターネット,<https://medicalnote.jp/diseases/赤外線障害>
【非特許文献7】眼科先進医療研究会,“白内障の基礎知識”,[online],[2020年6月24日検索],インターネット,<http://www.asahi-net.or.jp/~pd2k-nim/basic/>
【非特許文献8】(特定非営利活動法人)皮膚の健康研究機構内近赤外線研究会事務局,“第7回近赤外線研究会記録集,2016年4月9日,アーバンネット神田カンファレンス(東京)
【非特許文献9】熊谷洋二郎,“近赤外線吸収色素”,日本印刷学会誌,第38巻,第1号,35-40(2001)
【非特許文献10】株式会社日本触媒,“近赤外吸収色素イーエクスカラー(登録商標) シリーズ”,[online],[2020年7月9日検索],インターネット,<https://www.shokubai.co.jp/ja/rd/materials08.html>
【非特許文献11】山田化学工業株式会社,“近赤外吸収材料”,[online],[2020年7月9日検索],インターネット,<https://ymdchem.com/publics/index/122/>
【非特許文献12】東京化成工業株式会社,“近赤外線吸収色素”,[online],[2020年6月24日検索],インターネット,<https://www.tcichemicals.com/JP/ja/c/12985>
【非特許文献13】内山真伸,村中厚哉,“フタロシアニン系近赤外線吸収色素のデザイン技術”,2014年4月20日,理研No.07717,07960,[online],[2020年6月24日検索],インターネット,<https://www.riken.jp/collab/ip/07717_07960/index.html>
【非特許文献14】住友金属鉱山株式会社,“近赤外線遮蔽材料”,[online],[2020年7月9日検索],インターネット,<https://www.smm.co.jp/products/material/ink/>
【非特許文献15】三菱マテリアル電子化成株式会社,“熱線カット材料(近赤外線カット材料)”,[online],[2020年6月24日検索],インターネット,<https://www.mmc-ec.co.jp/category/biz/products/kinsekigaicut/>
【非特許文献16】CNF研究会(近畿経済産業局・(地独)京都市産業技術研究所),“セルロースナノファイバー関連サンプル提供企業一覧”,第2版,2016年9月20日,[online],[2020年6月24日検索],インターネット,<http://tc-kyoto.or.jp/2019/09/CNF_Sample_8th.pdf>
【非特許文献17】株式会社スギノマシン,“セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバーとは”,[online],[2020年7月7日検索],インターネット,<https://www.sugino.com/site/biomass-nanofiber/guidance.html>
【非特許文献18】矢野浩之,“セルロースナノファイバーの製造と利用”,機能紙研究会誌,No.49,pp.15-20,2010年10月
【非特許文献19】帝人株式会社,“超極細ポリエステルナノファイバー”,[online],[2020年7月7日検索],インターネット,<https://www.teijin.co.jp/rd/technology/pnf/>
【非特許文献20】エム・テックス株式会社,“ナノファイバー素材マジックファイバーの概要”,[online],[2020年7月7日検索],インターネット,<https://www.mtechx.co.jp/jpn/portfolio/magic-fiber/>
【非特許文献21】高橋実,藤正督,HAN Yong-Sheng,“中空粒子の合成とその応用”,Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan 12,pp.87-96(2005)
【非特許文献22】日鉄鉱業株式会社研究開発部,“シリナックス(中空ナノシリカ)”,[online],[2020年7月7日検索],インターネット,<https://www.nittetsukou.co.jp/rdd/rdd/products/index.html>
【非特許文献23】松本油脂製薬株式会社,“マイクロビーズ(商品名・マツモトマイクロスフェアー(登録商標)Mシリーズ、Sシリーズ)”,[online],[2020年7月7日検索],インターネット,<https://www.mtmtys.co.jp/product/general/data03.html>
【非特許文献24】松本油脂製薬株式会社,“高分子中空微小球コンポジット(商品名:マツモトマイクロスフェアー(登録商標)MFLシリーズ)”,[online],[2020年7月7日検索],インターネット,<https://www.mtmtys.co.jp/product/general/data03.html>
【非特許文献25】株式会社KRI,“ナノサイズ有機系中空粒子の作製”,[online],[2020年7月7日検索],インターネット,<http://www.kri-inc.jp/tech/1269335_11451.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
成形加工されたレンズに近赤外線遮光剤が分散された塗料をディップコーティング等の方法で塗布した後、乾燥又は硬化させることによって、近赤外線遮光機能を備えたレンズを製造する方法は、光学用透明性樹脂に限定されず、ガラスを含めたあらゆる素材及び形態のレンズに適用することができる上、レンズの耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、及び、撥水性等の機能をレンズに付与することができる上に、近赤外線が放射されている、照明器具、暖房器具、及び、調理器具等の電化製品にも適用することが容易であり、産業上の利用範囲が極めて広いという特長があるにもかかわらず、レンズに採用されることは少ない。これは、レンズに占める近赤外線遮光剤の配合量を高く設定することができず、求められる近赤外線遮光機能を十分に満足することが困難であることに起因しているものと考えられる。
【0023】
そこで、本発明は、基材に塗布することができ、塗布後に形成される被膜が、可視光線透明性を損なうことなく、近赤外線を効果的に遮光し、基材に耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、及び、撥水性等の機能を付与することができる近赤外線遮光性保護被膜組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、その塗料によって形成された近赤外線遮光性、耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、及び、撥水性等の機能を有する保護被膜、並びに、その被膜が形成されたレンズ及びそのレンズを用いた眼鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー、アルコキシシラン、ナノファイバー、及び、近赤外線遮光剤が配合されている近赤外線遮光性保護被膜組成物であり、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー、アルコキシシラン、中空粒子、及び、近赤外線遮光剤が配合されている近赤外線遮光性保護被膜組成物である。より好ましくは、ナノファイバーと中空粒子が併存する近赤外線遮光性保護被膜組成物である。より更に好ましくは、これらの組成物に、紫外線遮光剤を更に配合した近赤外線保護被膜組成物である。
【0025】
この組成物におけるナノファイバー及び中空粒子は、本発明の目的を達成する上で極めて重要な役割を果たしている。
【0026】
現在、ナノファイバーは、生分解性、並びに、力学的及び熱的性質の両面から、セルロース、チキン、キトサンからなるバイオマスナノファイバーに対する関心が高く、数多くのバイオマスナノファイバーが登場している(例えば、特許文献10、並びに、非特許文献17及び18)。これらのバイオマスナノファイバーは、可視光線の波長400~800nmより細い、直径約3~200nmのセルロース分子が配向した微結晶の繊維であるため、バイオマスナノファイバーで補強された透明なプラスチック材料は、透明性が損なわれることなく、力学的及び熱的性質が向上する(非特許文献19)。更に最近では、ポリエステルやポリプロピレン等のプラスチックナノファイバーも開発されている(非特許文献20及び21)。
【0027】
本発明の近赤外線遮光性保護皮膜組成物に配合するためのナノファイバーは、透明性という観点から、可視光線の波長よりも細いファイバーであれば、特に材質が限定されるものではないが、本発明のバインダー成分となるシリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーとアルコキシシランとの縮合反応によって生成する硬化膜への分散安定性という観点から、アミド基やアミノ基を持たないセルロースナノファイバー又はプラスチックナノファイバーであることが好ましく、水酸基を持たないプラスチックナノファイバーであることがより好ましい。
【0028】
従来、ナノファイバーのハードコート層への適用は、蜘蛛の巣状に分散されたナノファイバーが、ハードコート層の乾燥及び硬化時におけるクラックの発生を防止すると共に、ハードコート層の力学的及び熱的性質を向上させることができるためであった(例えば、特許文献10及び11)。しかし、近赤外線遮光剤と共存させる場合、ナノファイバーは、次のような新しく重要な役割を果たしていることを見出し、本発明の完成に至った。ナノファイバーは、組成物中においては、その基本単位となる直径約3~200nmのミクロフィブリル又はその束が均一に分散しているが、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーとアルコキシシランとの縮合反応によって生成する硬化膜においては、ミクロフィブリルの束が更に数十~数百nmの束となり、蜘蛛の巣状に分散又は積層されるため、近赤外線遮光剤が効果的に機能するように、近赤外線を複雑に乱反射するばかりか、近赤外線を遮光する機能を発現することを見出した。すなわち、ナノファイバーは、近赤外線遮光性保護皮膜中における近赤外線遮光剤の配合量が少なくても近赤外線遮光機能を十分に発現させることができるのである。
【0029】
また、近赤外線遮光性保護皮膜中におけるこのような構造のナノファイバーの存在は、紫外線遮光剤を含む場合には、紫外線遮光剤が効果的に機能するように、紫外線を複雑に乱反射するため、紫外線遮光剤の配合量が少なくても紫外線遮光機能を十分に発現することが可能となる。
【0030】
更に、近赤外線遮光性保護皮膜中におけるナノファイバーは、被膜の透明性を維持し、上記効果を発現すると共に、耐衝撃性及び耐熱性を向上させることができる。
【0031】
そして、このようなナノファイバーの効果を発現させるためには、縮合反応によって硬化被膜を生成するシリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーとアルコキシシランの1~10wt%含有させることが好ましい。
【0032】
一方、中空粒子には、無機系のSiO、TiO、水酸化アルミニウム(Al(OH))、酸化アルミニウム(Al)、ZnO、及び、硫化亜鉛(ZnS)等を材質とするもの、有機系のポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリアクリルニトリル系樹脂、及び、ポリスチレン系樹脂等を材質とするものが開発されている(例えば、特許文献12~14、並びに、非特許文献22~26)。
【0033】
本発明の近赤外線遮光性保護被膜組成物に配合するための中空粒子も、透明性という観点から、可視光線の波長よりも小さな直径の中空粒子であれば、特に材質が限定されるものではないが、保護被膜の力学的及び熱的性質という観点からSiO、TiO、及び、ZnOの中空粒子であることが好ましく、紫外線遮光性という観点から、TiO及びZnOの中空粒子であることがより更に好ましい。
【0034】
このような中空粒子、特にSiOの中空粒子は、従来、屈折率が低いため、光学フィルムのハードコート層において、低反射率化及び低ヘイズ化を目的として使用されてきた(例えば、特許文献13)。しかし、近赤外線遮光剤と共存させる場合、ナノファイバー同様、赤外線遮光剤が効果的に機能するように、近赤外線を複雑に乱反射し、近赤外線遮光性保護皮膜中における近赤外線遮光剤の配合量が少なくても近赤外線遮光機能を十分に発現させることができるという新たな機能を見出し、本発明を導くことができた。
【0035】
また、紫外線遮光剤を含む場合には、紫外線遮光剤が効果的に機能するように、紫外線を複雑に乱反射し、紫外線遮光剤の配合量が少なくても紫外線遮光機能を十分に発現することが可能となる。特に、TiO及びZnOの中空粒子の場合、紫外線遮光剤としても機能するため、より好ましい(特許文献14、並びに、非特許文献3及び22)。
【0036】
そして、このような中空粒子の効果を発現させるためには、縮合反応によって硬化被膜を生成するシリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーとアルコキシシランの1~10wt%含有させることが好ましい。
【0037】
このようなナノファイバー及び中空粒子の近赤外線及び紫外線を散乱する機能によって、数mmの厚さのレンズを形成する光学用透明性樹脂と、1~100μm程度の厚さの保護皮膜とに、同濃度の近赤外線遮光剤及び紫外線遮光剤が配合された場合においても、近赤外線遮光剤及び紫外線遮光剤の総配合量に劣る後者であっても、近赤外線遮光剤及び紫外線遮光剤の総配合量に勝る前者と匹敵する近赤外線遮光機能及び紫外線遮光機能を発現することが可能となる。更に、本発明の保護皮膜にナノファイバーと中空粒子を併用すれば、これらの相乗効果により、近赤外線遮光剤及び紫外線遮光剤の効果を一層高めることができ、配合量が少なくても十分な近赤外線遮光機能及び紫外線遮光機能を発現することができる。
【0038】
さて、このような保護皮膜組成物に適用される近赤外線遮光剤は、特に限定されるものではなく、近赤外線領域を吸収する有機化合物及び無機化合物を適用することができる。有機化合物としては、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、アズレノシアニン系化合物、ヘミポルフィラジン系化合物、ベンジフタロシアニン系化合物、ジイモニウム系化合物、ニッケルジチオレン系化合物、シアニン系化合物、及び、スクアリウム系化合物が好ましく用いられる(特許文献3、並びに、非特許文献10~14)。無機化合物としては、ITO粒子、ATO粒子、CsWO粒子、及び、LaB粒子が好ましく用いられる(特許文献7及び8、並びに、非特許文献15及び16)。また、これらから選択される近赤外線遮光剤を二つ以上混合して用いることもできる。
【0039】
特に、有機系近赤外線遮光剤は、近赤外線遮光性、可視光線透過性、及び、耐熱性という観点から、溶媒可溶性の、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、アズレノシアニン系化合物、ヘミポルフィラジン系化合物、ベンジフタロシアニン系化合物、ジイモニウム系化合物、及び、ニッケルジチオレン系化合物がより好ましく用いられる(特許文献3、並びに、非特許文献10~14)。これらの配合量は、保護皮膜の膜厚及び溶解性に応じて設定する必要があるが、縮合反応によって硬化被膜を生成するシリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーとアルコキシシランの0.005~5wt%となるように配合することが好ましい。
【0040】
無機系近赤外線遮光剤は、近赤外線遮光性という観点から、0.1≦X≦0.5、2.2≦Y≦3.0であるCsWO粒子及びLaB粒子がより好ましく用いられる(特許文献8及び非特許文献15)。これらの配合量は、保護皮膜の膜厚及び分散性に応じて設定する必要があるが、縮合反応によって硬化被膜を生成するシリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーとアルコキシシランの0.01~10wt%となるように配合することが好ましい。
【0041】
紫外線遮光剤も、特に限定されるものではなく、紫外線領域を吸収する有機化合物及び無機化合物を適用することができる。有機化合物及び無機化合物のいずれも適用することができ、特に限定されるものではない。有機化合物としては、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、フェニルシアノアクリレート系化合物、サリチル酸フェニル系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、ヒドロキシフェニル-s-トリアジン系化合物、アミノ安息香酸アルキル系化合物、メトキシケイ皮酸アルキル系化合物、ベンジリデン系化合物、及び、ジベンゾイルメタン系化合物が好ましく用いられる。無機化合物としては、TiO粒子及びZnO粒子が好ましく用いられる。また、これらから選択される紫外線遮光剤を二つ以上混合して用いることもできる。
【0042】
有機系紫外線遮光剤としては、特に紫外線遮光性という観点から、B領域紫外線(290~320nm)の遮光効果に優れる、溶媒可溶性のヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、及び、ヒドロキシフェニル-s-トリアジン系化合物から選択される少なくとも一つ以上の紫外線遮光剤と、A領域紫外線(320~400nm)の遮光効果に優れる、溶媒可溶性のアミノ安息香酸アルキル系化合物、メトキシケイ皮酸アルキル系化合物、ベンジリデン系化合物、及び、ジベンゾイルメタン系化合物から選択される少なくとも一つ以上の紫外線遮光剤とを併用することが好ましい。
【0043】
無機系紫外線遮光剤は、化粧品等のように透明性を必ずしも必要としない場合、0.2~1.0μmの粒子径の光散乱効果による紫外線遮光機能が活用されてきたが、本発明の無機系紫外線遮光剤は、紫外性遮光性及び透明性が必要であるため、紫外線を吸収する能力が高く、透明性に優れる、10~100nmの粒子径の無機系紫外線遮光剤を用いることが好ましい。更に、紫外線の散乱効果を加味すると、30~80nmの粒子径の無機系紫外線遮光剤であることがより好ましい。また、ZnOは、TiOよりもA領域紫外線に対する紫外線遮光能が高いため、TiO粒子とZnO粒子とを併用することがより更に好ましい(非特許文献3)。
【0044】
また、紫外線遮光性及び透明性を高めるために、上記有機系紫外線遮光剤と上記無機系紫外線遮光剤から選択して併用することが好ましい。
【0045】
近赤外線遮光剤を含有させるのは、近赤外線が透過する水晶体の温度上昇を招き、クリスタリンタンパクの非可逆的変性等の熱障害による水晶体の混濁を引き起すことによって生じる、白内障の主因を防止するためであるが、紫外線遮光剤を含有させるのは、この水晶体の混濁には、角膜、虹彩、毛様体、及び、網膜に近赤外線が吸収されて発生する温度上昇が、二次的に水晶体に伝達されることが関与すると共に、温度上昇した水晶体に暴露される紫外線も関与しているものと考えられているからである(特許文献1、並びに、非特許文献7及び8)。
【0046】
一方、ナノファイバー、中空粒子、近赤外線遮光剤、及び、紫外線遮光剤等を均一に分散すると共に固定化し、レンズを保護するための耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、及び、撥水性等を備え、レンズと強固に接着するための被膜を形成する結合材(バインダー)としては、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーとアルコキシシランとの縮合反応によって生成される有機-無機複合材が好ましい。
【0047】
このような縮合反応によって生成される有機-無機複合材の物性は、縮合反応の起点となり、架橋反応を制御するアルコキシシランの影響を最も大きく受けるが、保護膜の膜厚やレンズの形態等に応じた耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、及び、撥水性、並びに、密着性を確保するために必要なアルコキシシランの配合量は、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー100重量部に対し10~90重量部である。これらの物理的及び化学的諸性質のバランスを考慮すると、アルコキシシランは、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー100重量部に対し20~80重量部であることがより好ましく、30~70重量部であることがより好ましい。また、アルコキシシランの縮合反応による架橋密度の制御を速やかに行うためには、アルコキシシランが、一分子中に少なくとも二つ以上のアルコキシ基を備えている必要がある。
【0048】
更に、保護膜の膜厚やレンズの形態等に応じた耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、及び、撥水性、並びに、密着性をよりきめ細かく変化させるためには、架橋密度を穏やかに制御することができるアルコキシ基又はシラノール基をシリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーに備えることが好ましい。特に、保護膜として求められる物理的及び化学的諸性質を変化させるためには、アルコキシ基が、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー中に10~70重量%含まれることが好ましく、15~45重量%であることがより更に好ましい。同様に、シラノール基は、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー中に3~10重量%含まれることがより好ましい。更に、物理的及び化学的諸性質をより高い領域で確保するためには、アルコキシ基とシラノール基とがこれらの割合で併存することが好ましい。
【0049】
ここで、上記シリコーンレジンとシリコーンオリゴマーは、明確に区別できるものではないが、分子量の大きさによって使い分けられるものである。分子量が大きいものをレジン、小さいものをオリゴマーと呼称する。
【0050】
シリコーンレジンは、25℃の粘度が100mm/sec以上のものが好ましく用いられる。一方、シリコーンオリゴマーは、25℃の粘度が100mm/sec未満のものが好ましく用いられる。これらは、保護被膜として要求される物理的及び化学的諸性質をより繊細に変化させることができると共に、ナノファイバー、中空粒子、近赤外線遮光剤、及び、紫外線遮光剤等の分散性に影響を及ぼすため、これらの添加剤の種類に応じた分子量のシリコーンレジン及びシリコーンオリゴマーを単独或いは二種以上配合して用いることが好ましい。
【0051】
更に、シリコーンレジン及びシリコーンオリゴマーのシリコーン化合物は、メチル系或いはメチルフェニル系に分けられるが、この場合も、分子量同様、単独或いは二種以上配合して用いることが好ましい。特に、撥水性が求められる場合には、メチル系が好ましく、撥水性が弊害になる場合は、メチルフェニル系が好ましい。
【0052】
そして、シリコーンレジン及びシリコーンオリゴマーに、架橋反応を促進する官能基として導入されるアルコキシキ基及びシラノール基は、これらに限定されず、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、及び、メルカプト基等の各種官能基を有していてもよく、いずれも架橋密度を制御すると共に、縮合反応で生成される物理的及び化学的諸性質に影響を及ぼすため、保護膜の最適化を目的として導入することができる。ただし、この場合、それぞれの官能基の反応に適した触媒及び硬化条件を設定することが望ましい。
【0053】
このようなシリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーの市販品の代表例としては、信越化学工業社製のKC-89、KR-500、KR-212、KR-213、KR-9218、X-41-1053、X-41-1059A、X-41-1056、X-41-1805、X-41-1818、X-41-1810、X-40-2651、X-40-2655A、KR-513、KC-89S、X-40-9225、X-40-9246、X-40-9250、KR-401N,X-40-9227、X-40-9247、KR-510、X-40-2308、X-40-9238等を挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
もう一方の主成分であるアルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フィニルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
また、一般的にシランカップリング剤と呼ばれる、官能基を有するアルコキシシランも用いることができる。この場合も、上述したように、いずれも架橋密度を制御し、上記重縮合反応で生成される皮膜の物性を最適化するために導入することができ、それぞれの官能基の反応に適した触媒及び硬化条件を設定することが望ましい。具体的な化合物としては、信越化学工業社製、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製等のシランカップリング剤を用いることができる。例えば、ビニル基を有する、ビニルトリメトキシシランやビニルトリエトキシシラン等、エポキシ基を有する、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等、(メタ)アクリロイル基を有する、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等、アミノ基を有する、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
本発明の近赤外線遮光性保護被膜組成物は、レンズ等の基材に塗布する塗料として使用され、溶媒に溶解したシリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーとアルコキシシランに、ナノファイバー、中空粒子、近赤外線遮光剤、及び、紫外線遮光剤等を均一に分散される。また、近赤外線遮光性保護被膜は、この塗料を基材に塗布、乾燥した後、硬化工程を経て形成されるものである。
【0057】
ここで、溶媒は、上記シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーと各種アルコキシシランとの配合物に対する溶解性、塗料の塗布適性、乾燥性、及び、乾燥後の膜厚等を考慮して選択される。特に制限はないが、トルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、フェニルメチルエーテル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を、単体或いは2種以上配合して用いることができる。特に、塗布適性と乾燥後の膜厚に従って、塗料の粘度が決定されることが多いため、溶媒の配合量は、用いるシリコーン化合物、アルコキシシラン化合物によって決定されなければならない。
【0058】
また、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーとアルコキシシランとが溶媒に溶解された溶液に、ナノファイバー、中空粒子、近赤外線遮光剤、及び、紫外線遮光剤等を均一に分散するために、分散剤を使用することが好ましい。分散剤は、分散される素材によって選択しなければならないが、水酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等の官能基を有するものが好ましい。
【0059】
このような塗料から、縮合反応によって近赤外線遮光性保護皮膜を形成するためには、その塗料として、少なくともシリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー、アルコキシシラン、及び、溶媒から構成され、塗布、乾燥後、適度な水分と温度があれば、加水分解重縮合反応を生じ、所望の物理的及び化学的諸性質を有する保護皮膜を得るための硬化(架橋反応)を完結し得る。しかしながら、時間の短縮のためには、有機スズ化合物や有機チタン化合物等の触媒を用いてもよい。例えば、スズ系触媒としては、ジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズジラウリレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート、ビス(アセトキシジブチルスズ)オキサイド、ビス(ラウロキシジブチルスズ)オキサイド、ジブチルスズビスアセチルアセトナート、ジブチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル、ジオクチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル等、チタン系触媒としては、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラ(アセチルアセトナート)、ジオクタノキシチタンジオクタネート、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、金属石鹸や有機白金化合物等を用いてもよい。特に好ましくは、ジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズジラウリレート、ジブチルスズジオクチエート、及び、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物である。
【0060】
また、アルコキシ基以外の官能基に基づく架橋反応については、塗料のポットライフ、反応性等を考慮して、適切な触媒及び硬化条件を設定することが望ましい。
【0061】
更に、静電気によるゴミの付着や電気ショック等を防止することを目的とする帯電防止剤、皮膜自体の劣化を防止する酸化防止剤、及び、太陽光に暴露されて生成するラジカルによる劣化を防止するヒンダードアミン系光安定化剤(Hindered Amine Light Stabilizers、HALS)も加えることができる。また、皮膜の汚染を防止するために、光触媒を加えてもよい。上記各種材料に特に制限はないが、近赤外線遮光性保護被膜としての機能を損なわないものを選択する必要がある。
【0062】
帯電防止剤は、透明性という観点から。有機系のものが好ましく用いられる。特に、高分子系帯電防止剤が、耐久性の観点から優れている。この高分子帯電防止剤には、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、導電性高分子等を挙げることができる。
【0063】
酸化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イオウ系等を挙げることができる。一方、金属不活性剤には、溶解した金属イオンと反応して不活性なキレート化合物を作るタイプのものと、金属表面に付着し保護皮膜を生成するタイプのものがあり、前者ではチオカルバメート系やサルチル酸系等を、後者ではベンゾトリアゾール系、イミダゾール系、チアジアゾール系等を挙げることができる。
【0064】
HALSとしては、ラジカル捕捉剤として、最も幅広く使用されているテトラメチルピぺリジン系化合物が好ましい。
【0065】
光触媒としては、アナターゼ型TiOが好ましく用いられるが、可視光にも応答する光触媒である、銅化合物修飾酸化タングステンや白金化合物処理TiOがより好ましく用いられる。保護被膜の透明性という観点からは、30nm以下の粒子径のものが好ましく、10nm以下であればより好ましい。
【0066】
このような塗料は、一般的な混合、撹拌、及び、分散によって製造されるため、特別な装置を必要とはしないが、分散機は、近赤外線遮光保護被膜の特性に大きな影響を及ぼすため、材料に適した装置を使用することが好ましい。分散機は、高圧噴射式分散機、超音波分散機、容器駆動型ミルである回転ミル、振動ミル、及び、遊星ミル、媒体撹拌ミルであるアトライター、ビーズミル(サンドミル)、ボールミル等から選択して用いることが好ましい。
【0067】
本発明の近赤外線遮光性保護被膜組成物の塗料を塗布、乾燥、そして、硬化して作製され近赤外遮光性保護被膜は、眼球を近赤外線から守るため、レンズに形成することを主たる目的としている。従って、本発明の近赤外線遮光性保護被膜が形成されたレンズを製造するための、本発明の近赤外線遮光性保護被膜組成物の塗料の塗布方法としては、曲面への塗料の塗布を行うことが容易に行えるディップコーティング法が好ましい。この方法は、塗料中に、塗布対象物を垂直に浸漬し、そのまま垂直に引き上げ、乾燥させる簡単な塗布方法であり、式(1)より明らかなように、乾燥前の膜厚は、塗料の粘度及び密度と塗布対象物の引き上げ速度に依存し、乾燥後の膜厚は、更に塗料の濃度によって決定される。
【0068】
h=a(ηu/dg)1/2 (1)
h:乾燥前の膜厚 η:塗料の粘度 u:引き上げ速度
d:塗料の密度 g:重力加速度 a:係数
【0069】
本発明の近赤外線遮光性保護被膜の膜厚は、要求される物理的及び化学的諸性質に応じて異なる近赤外線遮光性保護被膜組成物によって設定される必要があるため、それぞれに最適な乾燥前の膜厚を設定する必要がある。また、ディップコーティングの場合、レンズの両面に近赤外線遮光性保護被膜が形成されるが、片面だけに近赤外線遮光被膜が必要な場合には、例えば、弱粘着剤が形成された保護フィルムを利用すればよい。
【0070】
なお、レンズと近赤外線遮光性保護被膜との接着性は、基本的に、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマーとアルコキシシランとの配合比で制御されうるが、特に、密着力が悪い場合には、レンズの前処理をすることが好ましい。この前処理には、レンズの材質に応じて、溶剤処理、酸・アルカリ処理、シランカップリング処理、プラズマ処理、オゾン処理、コロナ処理、(遠)紫外線処理等一般的な方法から選択して用いることができる。
【0071】
また、塗布後の乾燥であるが、特に制限はなく、一般的な熱風乾燥、赤外線乾燥、遠赤外線乾燥、または、これらを組み合わせて用いることができる。更に、塗膜中に、不飽和二重結合を有する場合には、紫外線硬化装置を併用することが好ましい。
【0072】
本発明の近赤外線遮光性保護被膜の最終硬化膜厚は、既に簡単に触れたように、レンズに使用することを主たる目的としているため、近赤外線遮光性保護被膜組成物の構成によるが、近赤外線遮光性及び透明性という観点から、1~100μmであることが好ましく、10~75μmであることがより好ましく、30~50μmであることがより更に好ましい。
【0073】
そして、本発明の近赤外線遮光性保護被膜は、あらゆる材質及びあらゆる形態のレンズに形成することができるため、あらゆる形態の眼鏡を作製することができるという特長がある。
【発明の効果】
【0074】
本発明の近赤外線遮光性保護被膜組成物が塗料とされ、塗布、乾燥、硬化された近赤外線遮光性保護被膜は、ナノファイバー及び/又は中空粒子の効果により、膜厚が薄いにもかかわらず、近赤外線遮光性に優れ、眼球を近赤外線から堅固に保護することができる。更に、本発明のこのような近赤外線遮光性保護被膜は、有機-無機複合材からなるため、耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、及び、撥水性、並びに、レンズとの接着性に優れており、レンズの材質にかかわらず、レンズを堅固に保護することができる。しかも、レンズの材質及び形態に限定されることなく、本発明の近赤外線遮光性保護被膜をレンズに形成することができるため、あらゆる形態の眼鏡を作製することができる。
【0075】
本発明の近赤外線遮光性保護被膜組成物は、種々の粘度及び特性の塗料にすることができ、塗布方法がディップコーティング法に限定されることはないため、近赤外線が放射されている照明器具、暖房器具、及び、調理器具等の電化製品の近赤外線遮光性保護被膜として形成することによって、近赤外線遮光性保護被膜を形成したレンズを用いた眼鏡を着用することなく、室内における日常生活において暴露されている近赤外線から眼球を保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下、本発明の近赤外線遮光性保護被膜組成物、その組成物が硬化された近赤外線遮光性保護被膜、並びに、その被膜が形成されたレンズ、及び、そのレンズを用いた眼鏡について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載した技術思想によってのみ限定されるものである。
≪実施例1≫
【0077】
シリコーンレジンとしては、水酸基を5wt%有するメチルフェニル系シリコーンであるKR-212(信越化学工業社製)を100重量部、シリコーンオリゴマーとしては、メトキシ基を15wt%有するメチルフェニル系シリコーンであるKR-9218(信越化学工業社製)を100重量部、メチルトリメトキシシラン100重量部を、5リットルのフラスコに加え、60℃で1時間撹拌し、均一な溶液とした。更に、溶液粘度が、25℃で、25mm/secとなるように溶剤を加えた。
【0078】
この溶液に、ナノファイバー、近赤外線遮光剤、及び、紫外線遮光剤を所定量配合し、ボールミルで12時間分散した後、触媒を配合して、近赤外線遮光性保護皮膜組成物の塗料を作成した。ここで、ナノファイバーは、直径10~50nm、繊維長数μmのセルロースナノファイバーを、シリコーンレジン、シリコーンオリゴマー、及び、アルコキシシランからなる結合材総重量の3重量%、近赤外線遮光剤は、日射遮蔽分散液YMF-02A(住友金属鉱山社製)の日射遮蔽微粒子を結合材総重量の1重量%、紫外線遮光剤は、ルチル型TiO粒子TTO-55(A)(石原産業社製)とZnO粒子FZO-50(石原産業社製)とを1対1(体積比)で混合したものを結合材総重量の1重量%、触媒は、これらを全て配合した塗料に対し、ジブチルスズジラウリレートを1ppm用いた。
【0079】
この溶液は、あすみ技研製ディップコーターN100のディップコーティング槽に移され、処理速度1mm/secでガラスレンズに塗布した。その後、25℃で乾燥、24時間放置した。
【0080】
その結果、レンズの両面に強固に接着した、膜厚約20μmの近赤外線遮光性保護皮膜が形成された。現在、詳細なデータを測定中であるが、分光光度測定、鉛筆硬度測定、デュポン式落下衝撃試験、火炎試験、種々の薬品との接触試験等の簡単な結果から、近赤外線遮光性、紫外線遮光性、耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、及び、撥水性に優れていることが確認できた。
≪実施例2≫
【0081】
シリコーンレジンとしては、水酸基を5wt%有するメチルフェニル系シリコーンであるKR-212(信越化学工業社製)を100重量部、シリコーンオリゴマーとしては、メトキシ基を15wt%有するメチルフェニル系シリコーンであるKR-9218(信越化学工業社製)を100重量部、メチルトリメトキシシラン100重量部を、5リットルのフラスコに加え、60℃で1時間撹拌し、均一な溶液とした。更に、溶液粘度が、25℃で、25mm/secとなるように溶剤を加えた。
【0082】
この溶液に、中空粒子、近赤外線遮光剤、及び、紫外線遮光剤を所定量配合し、ボールミルで12時間分散した後、触媒を配合して、近赤外線遮光性保護皮膜組成物の塗料を作成した。ここで、中空粒子は、直径50~60nmの中空SiO粒子有機溶剤分散液であるスルーリア(登録商標)(日揮触媒化成社製)のSiO粒子を、シリコーンレジン、シリコーンオリゴマー、及び、アルコキシシランからなる結合材総重量の3重量%、近赤外線遮光剤は、日射遮蔽分散液YMF-02A(住友金属鉱山社製)の日射遮蔽微粒子を結合材総重量の1重量%、紫外線遮光剤は、ルチル型TiO粒子TTO-55(A)(石原産業社製)とZnO粒子FZO-50(石原産業社製)とを1対1(体積比)で混合したものを結合材総重量の1重量%、触媒は、これらを全て配合した塗料に対し、ジブチルスズジラウリレートを1ppm用いた。
【0083】
この溶液は、あすみ技研製ディップコーターN100のディップコーティング槽に移され、処理速度1mm/secでガラスレンズに塗布した。その後、25℃で乾燥、24時間放置した。
【0084】
その結果、レンズの両面に強固に接着した、膜厚約20μmの近赤外線遮光性保護皮膜が形成された。現在、詳細なデータを測定中であるが、分光光度測定、鉛筆硬度測定、デュポン式落下衝撃試験、火炎試験、種々の薬品との接触試験等の簡単な結果から、近赤外線遮光性、紫外線遮光性、耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、及び、撥水性に優れていることが確認できた。
≪実施例3≫
【0085】
シリコーンレジンとしては、水酸基を5wt%有するメチルフェニル系シリコーンであるKR-212(信越化学工業社製)を100重量部、シリコーンオリゴマーとしては、メトキシ基を15wt%有するメチルフェニル系シリコーンであるKR-9218(信越化学工業社製)を100重量部、メチルトリメトキシシラン100重量部を、5リットルのフラスコに加え、60℃で1時間撹拌し、均一な溶液とした。更に、溶液粘度が、25℃で、25mm/secとなるように溶剤を加えた。
【0086】
この溶液に、ナノファイバー、中空粒子、近赤外線遮光剤、及び、紫外線遮光剤を所定量配合し、ボールミルで12時間分散した後、触媒を配合して、近赤外線遮光性保護皮膜組成物の塗料を作成した。ここで、ナノファイバーは、直径10~50nm、繊維長数μmのセルロースナノファイバーを、シリコーンレジン、シリコーンオリゴマー、及び、アルコキシシランからなる結合材総重量の1.5重量%、中空粒子は、直径50~60nmの中空SiO粒子有機溶剤分散液であるスルーリア(登録商標)(日揮触媒化成社製)のSiO粒子を、結合材総重量の1.5重量%、近赤外線遮光剤は、日射遮蔽分散液YMF-02A(住友金属鉱山社製)の日射遮蔽微粒子を結合材総重量の1重量%、紫外線遮光剤は、ルチル型TiO粒子TTO-55(A)(石原産業社製)とZnO粒子FZO-50(石原産業社製)とを1対1(体積比)で混合したものを結合材総重量の1重量%、触媒は、これらを全て配合した塗料に対し、ジブチルスズジラウリレートを1ppm用いた。
【0087】
この溶液は、あすみ技研製ディップコーターN100のディップコーティング槽に移され、処理速度1mm/secでガラスレンズに塗布した。その後、25℃で乾燥、24時間放置した。
【0088】
その結果、レンズの両面に強固に接着した、膜厚約20μmの近赤外線遮光性保護皮膜が形成された。現在、詳細なデータを測定中であるが、分光光度測定、鉛筆硬度測定、デュポン式落下衝撃試験、火炎試験、種々の薬品との接触試験等の簡単な結果から、近赤外線遮光性、紫外線遮光性、耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、及び、撥水性に優れていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、シリコーンレジン及び/又はシリコーンオリゴマー、アルコキシシラン、ナノファイバー及び/又は中空粒子、並びに、近赤外線遮光剤を少なくとも配合することを特徴とする組成物であり、この組成物から形成される硬化被膜は、近赤外線を効果的に遮光し、耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、及び、耐薬品性等の機能を備え、この硬化皮膜を被覆したレンズ及びそのレンズを用いた眼鏡は、眼球を近赤外線から保護することができる上、ハードコートとしての機能も果たすことができる。更に、紫外線遮光剤を含有させることもできるため、眼球を紫外線からも保護することができる。
【0090】
しかし、本発明の近赤外線遮光性保護皮膜組成物及びその効果皮膜は、レンズやそのレンズを用いた眼鏡に形成して、眼球を保護するために使用できるだけでなく、サングラス、サンバイザー等に使用できるのは言うまでもなく、近赤外線及び紫外線が放射されている照明器具、暖房器具、及び、調理器具等の電化製品に適用することによって、眼球を保護することも可能である。
【0091】
更に、ガラス及びプラスチック等との接着性が高く、近赤外線遮光性、紫外線遮光性、耐擦傷性、耐衝撃性、耐熱性、及び、耐薬品性等のハードコート機能も有しているので、無機及び有機光学レンズ、光学フィルム、建築物及び自動車等に使用される無機及び有機ガラス等へ幅広く応用することが可能である。