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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181646
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】角度誤差検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/42 20060101AFI20221201BHJP
   G01S 3/22 20060101ALI20221201BHJP
   G01S 13/44 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G01S3/42 C
G01S3/22
G01S13/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088696
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 薫
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AD07
5J070AE04
5J070AH45
5J070AK04
(57)【要約】
【課題】追尾受信に用いられるアンテナの角度誤差検出をより正確に検出することが可能な角度誤差検出装置を提供する。
【解決手段】角度誤差検出装置12aは、追尾対象からの周波数信号をアンテナ11の異なる箇所で受信した第1、第2の受信信号を用いて周波数信号の受信方向の角度誤差を検出するにあたり、第1の自動利得制御部32aは第1、第2の受信信号の和信号を所定の信号レベルに増幅し、第2の自動利得制御部32bは差信号を共通のゲインで増幅する。角度誤差検出部12は、増幅された差信号に基づき角度誤差を検出し、補正部42は、第2の自動利得制御部32bから出力された周波数成分に含まれる雑音電力に対する差信号の信号電力の比であるC/N比が、前記ゲインに応じて変化することに伴う前記角度誤差のずれを補正する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
追尾対象からの周波数信号を、アンテナの第1の受信部にて受信した第1の受信信号と、前記第1の受信部とはアンテナ内の受信位置が異なる第2の受信部にて受信した第2の受信信号とに基づいて、前記アンテナの正面方向に対する、前記周波数信号の受信方向の角度誤差を検出する角度誤差検出装置において、
前記第1の受信信号及び第2の受信信号から求めた和信号を予め設定された信号レベルに増幅する第1の自動利得制御部と、
前記差信号を前記第1の自動利得制御部と共通のゲインで増幅する第2の自動利得制御部と、
前記第2の自動利得制御部にて増幅された差信号に基づき、前記角度誤差を検出する角度誤差検出部と、
前記第2の自動利得制御部から出力された周波数成分に含まれる雑音電力に対する差信号の信号電力の比であるC/N比が、前記ゲインに応じて変化することに伴って生じる前記角度誤差のずれを補正する補正部と、を備えたことを特徴とする角度誤差検出装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記ゲインとC/N比との対応関係を用いて前記角度誤差のずれを補正することを特徴とする請求項1に記載の角度誤差検出装置。
【請求項3】
前記第1、第2の自動利得制御部の後段側に設けられ、これら前記第1、第2の自動利得制御部から出力される周波数成分の周波数帯域幅よりも狭い通過帯域幅を有する帯域フィルタを備え、
前記補正部は、前記ゲインとC/N比との対応関係と、前記増幅後の信号が前記帯域フィルタを通過する前後の信号レベルの比と前記C/N比との対応関係とを加算した結果を用いて前記角度誤差のずれを補正することを特徴とする請求項2に記載の角度誤差検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は追尾対象に対するアンテナの角度誤差を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行体などの追尾対象から出力される周波数信号である通信信号を受信する受信施設には、アンテナの正面方向に対する通信信号の受信方向のずれ(角度誤差)を検出した結果に基づいて、通信信号の受信方向がアンテナの正面方向と揃うようにアンテナの向きを変えることができるもの(追尾受信システム)がある。
【0003】
角度誤差の検出手法としては、アンテナ内に設けられた、配置位置の異なる2つの開口部(第1の受信部、第2の受信部)にて各々、受信された通信信号の信号レベル(振幅)に基づいて角度誤差を求めるモノパルス測角法が知られている。
このモノパルス測角法においては、第1の受信部にて受信した通信信号Aと、第2の受信部にて受信した通信信号Bとの和信号A+B、及び差信号A-Bを用いて角度誤差を求める計算が行われる。
【0004】
一方、アンテナが受信する信号の信号レベルは、角度誤差の大きさや気象条件などに起因して変化する。このため、和信号や差信号は、自動利得制御部(以下、AGC(Automatic Gain Controller)とも記す)を用いて増幅した後、角度誤差の検出に用いられる。
【0005】
しかしながら、アンテナが受信する周波数成分には雑音が含まれているため、和信号や差信号を増幅する際には、これらの信号と合わせて雑音までもが増幅されてしまう。この結果、増幅後の和信号や差信号の信号レベルを目標値まで正確に増幅することが困難となり、正しい角度誤差を検出することができないおそれがある。
【0006】
ここで特許文献1、2には、目標対象物やターゲットから受信した信号から得た和信号や差信号を用いて、信号を受信した方向を求めるレーダ装置、モノパルスレーダが記載されている。
しかしながら、これら特許文献1、2には、和信号・差信号を増幅する際に雑音が角度誤差の検出結果に与える影響や、その対策については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表昭56-500394号公報:請求項1、8、第3欄第12行目~第4欄第15行目、第1図
【特許文献2】特開2010-66069号公報:請求項1、段落0013~0015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、追尾受信に用いられるアンテナの角度誤差検出をより正確に検出することが可能な角度誤差検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る角度誤差検出装置は、追尾対象からの周波数信号を、アンテナの第1の受信部にて受信した第1の受信信号と、前記第1の受信部とはアンテナ内の受信位置が異なる第2の受信部にて受信した第2の受信信号とに基づいて、前記アンテナの正面方向に対する、前記周波数信号の受信方向の角度誤差を検出する角度誤差検出装置において、
前記第1の受信信号及び第2の受信信号から求めた和信号を予め設定された信号レベルに増幅する第1の自動利得制御部と、
前記差信号を前記第1の自動利得制御部と共通のゲインで増幅する第2の自動利得制御部と、
前記第2の自動利得制御部にて増幅された差信号に基づき、前記角度誤差を検出する角度誤差検出部と、
前記第2の自動利得制御部から出力された周波数成分に含まれる雑音電力に対する差信号の信号電力の比であるC/N比が、前記ゲインに応じて変化することに伴って生じる前記角度誤差のずれを補正する補正部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
上述の角度誤差検出装置は、以下の構成を備えていてもよい。
(a)前記補正部は、前記ゲインとC/N比との対応関係を用いて前記角度誤差のずれを補正すること。
(b)前記第1、第2の自動利得制御部の後段側に設けられ、これら前記第1、第2の自動利得制御部から出力される周波数成分の周波数帯域幅よりも狭い通過帯域幅を有する帯域フィルタを備え、前記補正部は、前記ゲインとC/N比との対応関係と、前記増幅後の信号が前記帯域フィルタを通過する前後の信号レベルの比と前記C/N比との対応関係とを加算した結果を用いて前記角度誤差のずれを補正すること。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自動利得制御部(AGC)から出力された雑音電力が角度誤差の検出に与える影響について、信号のC/N比と対応関係を有するAGCのゲインを用いて角度誤差のずれを補正することにより、雑音の影響を抑えたより正確な角度誤差を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る角度誤差検出装置を備えた追尾受信システムの構成図である。
図2】角度誤差検出装置の構成例を示す概略ブロック図である。
図3】複素ベクトル表示された和信号及び差信号である。
図4】規格化された差信号レベルと角度誤差との関係を示す説明図である。
図5】AGCによる信号レベルの増幅に係る第1の説明図である。
図6】AGCによる信号レベルの増幅に係る第2の説明図である。
図7】第1の実施形態に係る角度誤差検出装置のブロック図である。
図8】増幅後の和信号のC/N比-AGCゲイン特性を示す説明図である。
図9】AGCによる信号レベルの増幅に係る第3の説明図である。
図10】第2の実施形態に係る角度誤差検出装置のブロック図である。
図11】ディジタルフィルタを通過する前後の信号レベルの変化に係る説明図である。
図12】増幅後の和信号のC/N比-AGCゲイン及びディジタルフィルタ前後の信号レベル比の加算値の特性を示す説明図である。
図13】実施例におけるC/N比と角度誤差の検出誤差との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る角度誤差検出装置を備えた追尾受信システム1の構成例を示している。
当該追尾受信システム1は、追尾対象から出力された通信信号(周波数信号)を受信するアンテナ11と、このアンテナ11の向きを変化させるアンテナ駆動機構15と、アンテナ11から取得した通信信号(受信信号)の和信号及び差信号に基づき、アンテナ11の正面方向に対する通信信号の受信方向のずれ(角度誤差:θ)を検出する角度誤差検出装置12と、角度誤差検出装置12にて検出された角度誤差に基づいてアンテナ11の駆動方向や駆動量を求める追尾制御部13と、追尾制御部13にて決定された駆動方向や駆動量に基づき、アンテナ駆動機構15の駆動制御を行うアンテナ駆動部14と、を備える。
【0014】
図2は、実施の形態に係る角度誤差検出装置12の構成例を示している。
例えば図2に示す追尾対象8は、所定の周波数範囲の通信信号を出力する。この通信信号は、前記周波数範囲内の周波数を有する搬送波によって変調されたベースバンド信号を含んでいる。
アンテナ11は、互いに受信位置が異なる第1の受信部2a、第2の受信部2bを備える。方位方向の測角を行う場合は、第1の受信部2a、第2の受信部2bは横方向に異なる位置に配置され、高さ方向の測角を行う場合は、第1の受信部2a、第2の受信部2bは高さ方向に異なる位置に配置される。
【0015】
これら第1、第2の受信部2a、2bにて受信された通信信号A(第1の受信信号)、B(第2の受信信号)は、例えばアンテナ11側に設けられた加算部21、22を経て、各々、和信号A+B、差信号A-Bとして出力される。
なお、図2に示す例においては、アンテナ11側で和信号、差信号を得る場合について説明したが、これらの信号を得る加算部21、22は、角度誤差検出装置12側に設けてもよい。
【0016】
角度誤差検出装置12は、不要な成分を除去する帯域フィルタである受信フィルタ31a、31bや、受信フィルタ31a、31b通過後の和信号、差信号を増幅する可変増幅器32a、32bが設けられた受信処理部3と、通信信号の復調や角度誤差の検出を行う検波部41が設けられた信号処理ブロック4とを備える。
【0017】
可変増幅器32a、32bは、後述のAGC制御部432と組み合わせて動作するAGC(自動利得制御部)を構成している。可変増幅器32aとAGC制御部432とは、第1の自動利得制御部に相当し、可変増幅器32bとAGC制御部432とは、第2の自動利得制御部に相当する。
ここで本例の角度誤差検出装置12の具体的な構成を説明する前に、和信号、差信号を用いて角度誤差を検出する手法の一例、及びAGCを用いてこれらの信号を増幅する処理が角度誤差の検出結果に及ぼす影響について図3~6を参照しながら説明しておく。
【0018】
図3は、加算部21、22から出力された和信号、差信号を直交検波して得られた直交成分(Q成分)を実軸(Re軸)、同相成分(I成分)を虚軸(Im)軸にプロットしてベクトル表示した図である。図3に示すように、通常、和信号及び差信号は、互いに異なる信号レベルを有する(図3における和信号ベクトル、差信号ベクトルの長さが異なっている)。
【0019】
また、図3に示す和信号、差信号の信号レベルは角度誤差に応じて変化する。このとき、角度誤差が小さい範囲においては、和信号(Σ)に対する差信号(Δ)の信号レベルの比が、角度誤差(θ)にほぼ対応する関係(θ≒Δ/Σ)があることを利用して角度誤差を検出する。
【0020】
一方、追尾受信システム1が設けられている通信施設などにおいては、和信号をメインの復調系(不図示)にて復調し、後段の処理が行われるため、復調される和信号の信号レベルが一定であることが求められる。
【0021】
そこで、和信号、差信号の増幅を行う可変増幅器32a、32bにおいて、和信号側の可変増幅器32aは、出力される信号レベルが一定となるように和信号を増幅する。一方、差信号側の可変増幅器32bは、和信号側の可変増幅器32aと同じゲインにて増幅を行う。この結果、可変増幅器32bから出力される差信号の信号レベル(差信号レベル)は、可変増幅器32aから出力される和信号の信号レベル(一定値)にて規格化された値(「Δ/Σ」に対応する値)となる(図4)。
【0022】
一方で、可変増幅器32a、32bによる信号の増幅には以下に説明する特性がある。
図5(a)、(b)は、雑音レベルに対して、信号レベルが比較的高い、強電界時における、増幅前後の信号レベルの変化の様子を模式的に示している。
【0023】
図2を用いて説明したように、可変増幅器32a、32bの前段には、受信フィルタ31a、31bが設けられているので、各可変増幅器32a、32bには受信フィルタ31a、31bの通過帯域幅Wに対応する周波数成分が入力される。そして、この周波数成分には、和信号/差信号(以下、単に「信号S」ともいう)のほか、雑音Nが含まれている(図5(a))。
【0024】
ここで例えば可変増幅器32a、32bに設定されるAGCの制御レベル(出力レベル)がLであるとする。このとき可変増幅器32a、32bは、既述の帯域幅Wの周波数成分の平均レベルがLとなるように信号S及び雑音Nを増幅する。
【0025】
これを作図的に説明すると、図5(b)に示すように、制御レベルLよりも高い信号レベル部分の面積(実線のハッチを付した領域の面積)と、信号Sまたは雑音Nが制御レベルLに到達していない部分の面積(破線のハッチを付した領域の面積)とがほぼ同じになるよう信号S及び雑音Nの増幅が行われる。
この結果、信号Sの信号レベルはLとなる。
【0026】
これに対して図6(a)、(b)は、雑音レベルが図5(a)と同程度である一方、増幅前の信号Sのレベルが制御レベルLよりも小さい、弱電界時における増幅前後の様子を示している。
図5(b)の場合と同様に、可変増幅器32a、32bに入力される帯域幅Wの周波数成分の平均レベルがLとなるように信号S及び雑音Nを増幅すると、信号Sの信号レベルはLまで増幅される。しかしながら、雑音Nを含む帯域幅W内の全ての周波数成分が増幅されることにより、弱電界時における増幅後の信号レベル(L)は、強電界時における増幅後の信号レベル(L)よりも小さくなってしまう(L<L)。
【0027】
このように、可変増幅器32bにて増幅された差信号は、受信時の電界状態によって信号レベルが変化してしまうため、角度誤差の検出結果に誤差が生じてしまうおそれがある。
そこで本実施の形態に係る角度誤差検出装置12は、電界状態の相違に起因して発生する上述の角度誤差を補正する機能を有する。以下、図7、8を参照しながら、角度誤差の補正機能を含む角度誤差検出装置12の構成について説明する。
【0028】
既に説明した受信処理部3の後段の構成について説明すると、角度誤差検出装置12には可変増幅器32a、32bにて増幅された和信号、差信号のA/D変換を行うA/D変換部43と、ディジタル変換された和信号を復調して復調信号を得ると共に、差信号の信号レベルに基づき角度誤差を求める検波部41と、検波部41にて求めた角度誤差の補正を行う補正部42と、を備える。
【0029】
A/D変換部43は、可変増幅器32a、32bにて増幅された和信号、差信号をA/D変換するA/D変換器431a、431bと、ディジタル信号に変換された和信号、差信号に含まれる周波数成分の周波数帯域幅よりも通過帯域幅が狭く、不要な周波数成分を除去する帯域フィルタであるディジタルフィルタ433a、433bと、を備える。
【0030】
AGC制御部432は、増幅された和信号の信号レベル(和信号レベル)を検出し、可変増幅器32aから出力される和信号の信号レベルが目標の信号レベルに近づくように可変増幅器32aのゲインを調整する制御電圧を出力する。
AGC制御部432は、和信号側の可変増幅器32aと共通の制御電圧を、差信号側の可変増幅器32bに対しても出力する。この構成により、和信号の信号レベル(AGC制御部432に設定されている、和信号の目標の信号レベル)に対して規格化された信号レベルを有する差信号が可変増幅器32bから出力される。
【0031】
検波部41は、ディジタル変換された和信号に対して復調処理を行い、得られた復調信号を後段の通信信号の処理部へ出力する。
また、角度誤差の検出については、例えば図4を用いて説明した差信号の信号レベル(差信号レベル)と、角度誤差との関係に基づき、ディジタル変換された差信号の信号レベル、及び差信号を直交検波して得られた差信号ベクトルの回転角度から角度誤差(角度誤差量及び方向)を求める。
【0032】
一方、図5(b)、図6(b)を用いて説明したように、増幅後の差信号は、受信時の電界状態に応じて信号レベルが変化しているおそれがある。
そこで本例の角度誤差検出装置12は、アンテナ11にて受信する雑音レベルがほぼ一定であるとき、和信号の信号レベルを一定にするように調整される可変増幅器32a、32bのゲイン(AGCゲイン)と、和信号の信号電力と雑音電力との比を示すC/N比との間に対応関係があることを利用して、検波部41にて得られた角度誤差の補正を行う。
【0033】
図8は、和信号のC/N比とAGCゲイン(増幅前の平均レベル/増幅後の平均レベル)との対応関係(C/N比-AGCゲイン特性)の例を示している。なお、互いに共通の構成の可変増幅器32a、32bを用いる場合、差信号のC/N比-AGCゲイン特性についても、図8に示すものと共通の特性となる。従って、図8は差信号のC/N比とAGCゲインとの関係にも対応している。
【0034】
AGCゲインは、AGC制御部432から可変増幅器32a、32bへ出力される制御電圧により制御されるので、この制御電圧を補正部42にて利用すれば、図8の特性を利用して角度誤差の補正量を求めることができる。補正部42は、上記特性に基づき角度誤差の補正を行う。
【0035】
例えば補正部42は、図8の特性に応じて特定されるC/N比と角度誤差量との関係を対応付けた補正テーブルを備える。C/N比はAGC制御部432から取得した制御電圧と対応付けられており、当該制御電圧に基づき、補正テーブルから補正値を読み出し、検波部41にて求めた角度誤差を補正する。
なお、角度誤差の補正量を求める手法は、上述の例に限定されるものではない。例えば増幅後の和信号の実際の信号レベル(例えば図5(b)のL)が目標の信号レベルと一致するAGCゲインを基準として、基準のC/N比と、AGC制御部432から取得したAGCゲイン(制御電圧)より特定されるC/N比との差分値を求め、この差分値に比例係数を乗算して角度誤差の補正量を取得し、検波部41にて求めた角度誤差に加算する演算を行ってもよい。
【0036】
本実施の形態に係る角度誤差検出装置12によれば、AGCを構成する可変増幅器32a、32bから出力された雑音電力に対する、和信号または差信号のC/N比と対応関係を有するAGCのゲインを用いて角度誤差のずれを補正するので、通信信号受信時の電界状態の違いに起因して発生する角度誤差の特定結果のずれを低減することができる。
【0037】
次いで、上述の第1の実施形態に係る角度誤差検出装置12を更に改善した角度誤差検出装置12aの構成について、図10を参照しながら説明する。
図10において、図7を用いて説明した角度誤差検出装置12と共通の構成要素には、図7中に示したものと同じ符号を付してある。
【0038】
図8に示すように和信号(差信号であってもよい)のC/N比-AGCゲイン特性は、C/N比がゼロに近づくに連れて飽和してしまう。このため、前記特性に基づいて補正量を算出すると、僅かなAGCゲインの変化で、角度誤差の補正量が大きく変化してしまい、より正確な補正が困難となる場合もある。
【0039】
上述の現象は、弱電界時においては、図6(a)、(b)や、新たに図9(a)、(b)に示すように、増幅前後において、信号(例えば和信号)Sに着目したときの実質的なゲインを十分に大きくすることが困難であることに起因する。
【0040】
そこで図10に示す第2の実施形態に係る角度誤差検出装置12aにおいては、AGC制御部432から取得したAGCゲイン(制御電圧)に加えて、ディジタルフィルタ433aに入力される周波数帯域、及びディジタルフィルタ433aから出力される周波数帯域での和信号、及び雑音の平均レベル比を用いて補正量を求める。
【0041】
ディジタルフィルタ433aに入力される周波数成分の帯域幅W図11(a))と比較して、ディジタルフィルタ433aで処理された後は、帯域幅Wが狭くなる(図11(b))。
この結果、雑音レベルの影響が相対的に小さくなり、ディジタルフィルタ433aによる処理前の平均レベル(制御レベルLに増幅されている)よりも、処理後の平均レベルL’の方が大きな値となる。当該処理により、C/N比がゼロに近い領域では、処理後の平均レベルL’は、実際の信号(本例では和信号)Sの信号レベルにより近い値となる。
【0042】
さらにこのとき、和信号のC/N比と、ディジタルフィルタ433aにて処理した前後レベルの比との間には、図12(b)に示す対応関係があることが分かった。ここでディジタルフィルタ433a前後のレベル比は、ディジタルフィルタ433aから出力される周波数成分の平均レベル(図11(b)のL’)に対する、ディジタルフィルタ433aに入力される周波数成分の平均レベル(図11(a)のL)の比(L/L’)を示している。
【0043】
図12(b)に示す、C/N比と、ディジタルフィルタ433a前後のレベル比との対応関係(C/N比-フィルタ前後レベル比特性)によれば、C/N比がゼロに近い領域にて、C/N比に対するレベル比の感度が高い(傾きが大きい)。
そこで、C/N比がゼロに近い領域においては、このレベル比に基づいて角度誤差の補正量を求めれば、正確な補正が可能となる。
【0044】
一方で、ディジタルフィルタ433a前後のレベル比は、C/N比が大きくなるに連れて飽和してしまう傾向がみられる。このため、C/N比の大きな領域では、角度誤差の補正に活用することは難しい。
【0045】
以上に確認した特徴をまとめると、図8図12(a)に転記してある)を用いて確認したC/N比-AGCゲイン特性は、C/N比が大きな領域における角度誤差の補正量を求める場合により適しているといえる。
また、図12(b)を用いて確認したC/N比-フィルタ前後レベル比特性は、C/N比がゼロ近傍の領域における角度誤差の補正を行う場合により適していると言える。
【0046】
そこで第2の実施の形態に係る角度誤差検出装置12aは、C/N比-AGCゲイン特性(図12(a))と、C/N比-フィルタ前後のレベル比特性(図12(b))との加算値(図12(c))を利用して角度誤差の補正量を算出する。
【0047】
図10に示す角度誤差検出装置12aに設けられている演算部44は、AGC制御部432からA/D変換器431a、431bの制御電圧を取得し、AGCゲインの値を算出する。また、和信号側のディジタルフィルタ433aの前後の各帯域幅W、Wにおける周波数成分の平均レベルに基づきそのレベル比を算出する。そして、これらの値の和を補正部42へと出力する。演算部44も本実施の形態の補正部の一部を構成している。
【0048】
例えば補正部42は、図12(c)の特性に応じて特定されるAGCゲイン(C/N比に対応する)及びディジタルフィルタ433a前後のレベル比の加算値(「AGCゲイン+レベル比」)と、角度誤差量との関係を対応付けた補正テーブルと備える。AGC制御部432から取得した制御電圧、及び演算部44から取得したレベル比に基づき、前記加算値を算出し、補正テーブルから当該加算値に対応する補正値を読み出し、検波部41にて求めた角度誤差を補正する。
また、他の例として、増幅後の和信号の実際の信号レベル(例えば図5(b)のL)が目標の信号レベルと一致する加算値の値を基準として、基準のC/N比と、「AGCゲイン+レベル比」より特定されるC/N比との差分値を求め、この差分値に比例係数を乗算して角度誤差の補正量を取得し、検波部41にて求めた角度誤差に加算する演算を行ってもよい。
【0049】
図10図12を用いて説明した第2の実施形態に係る角度誤差検出装置12aによれば、幅広い信号レベル範囲に亘って、より精度の高い角度誤差の補正を行うことができる。
【実施例0050】
(実験)
第1、第2の実施形態に係る角度誤差検出装置12、12aを用い、電界状態が変化した場合に検出された角度誤差と、実際の角度誤差との差(検出誤差[°])を求めた。
A.実験条件
(実施例1)
和信号のC/N比が-10、-5、0、5、10、20、30[dB]となるように、アンテナ11を介して通信信号を入力し、図7を用いて説明した第1の実施形態に係る角度誤差検出装置12にて角度誤差を検出し、実際の角度誤差との検出誤差を求めた。検出誤差値は各々のC/N比について所定期間中の検出誤差の二乗平均値(RMS:Root Mean Square)を算出することにより求めた。
(実施例2)
図10を用いて説明した第2の実施形態に係る角度誤差検出装置12aにて角度誤差を求めた点を除いて実施例1と同様の実験を行った。
【0051】
B.シミュレーション結果
実施例1、2の結果を図13に示す。図13の横軸は、和信号のC/N比、縦軸は検出誤差を示す。実施例1の結果は一点鎖線で示し、実施例2の結果は実線で示してある。
【0052】
図13に示す結果によれば、第1、第2の実施形態に係る角度誤差検出装置12、12aの双方において、C/N比が0dB以上の範囲で、検出誤差は1°未満となった。
特に、C/N比に対するAGCゲイン、ディジタルフィルタ433a前後のレベル比の双方の特性(図12(c))を利用した第2の実施形態に係る角度誤差検出装置12aでは、角度誤差1°のポイントにおいて、C/N比で5dBの感度の改善が見られた。
【符号の説明】
【0053】
11 アンテナ
12、12a
角度誤差検出装置
2a 第1の受信部
2b 第2の受信部
32a、32b
可変増幅器
41 検波部
42 補正部
432 AGC制御部
433a、433b
ディジタルフィルタ
44 演算部
8 追尾対象
図1
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図13