IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-エンジン始動装置 図1
  • 特開-エンジン始動装置 図2
  • 特開-エンジン始動装置 図3
  • 特開-エンジン始動装置 図4
  • 特開-エンジン始動装置 図5
  • 特開-エンジン始動装置 図6
  • 特開-エンジン始動装置 図7
  • 特開-エンジン始動装置 図8
  • 特開-エンジン始動装置 図9
  • 特開-エンジン始動装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181657
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】エンジン始動装置
(51)【国際特許分類】
   F02N 11/08 20060101AFI20221201BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20221201BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F02N11/08 V
F02N11/08 Z
F02D45/00 362
F02D29/02 321B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088710
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】刑部 鉄也
【テーマコード(参考)】
3G093
3G384
【Fターム(参考)】
3G093BA14
3G093BA21
3G093CA01
3G093DA01
3G093DA07
3G384BA39
3G384CA01
3G384DA04
3G384DA13
3G384FA56Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】スイングバック制御において逆転させたクランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に達したとの判断を正確に行い、エンジンの始動を確実に行う。
【解決手段】エンジン始動装置11は、電動発電機12、電磁ピックアップ32および駆動制御回路35を備え、電動発電機12のロータケース14はクランクシャフト5に回転不能に結合され、ロータケース14の周壁部16には指標部a~kが設けられ、電磁ピックアップ32は、各指標部a~kが検出基準位置Pdを通過したことを検出し、駆動制御回路35は、電動発電機12により、クランクシャフト5を逆転させ、クランク角が反転実行クランク角に達したときにクランクシャフト5を正転させるスイングバック制御を行う。駆動制御回路35は、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したことを、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて認識する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンケースと、前記エンジンケースに設けられたシリンダと、前記エンジンケース内に設けられたクランクシャフトと、前記シリンダ内に設けられたピストンと、前記クランクシャフトと前記ピストンとを接続するコネクティングロッドとを備えた4サイクルエンジンを始動させるエンジン始動装置であって、
電動機と、電磁ピックアップと、制御部とを備え、
前記電動機は、
前記クランクシャフトに固定され、前記クランクシャフトと共に回転するロータケース、および前記ロータケースに固定された複数の磁界形成部を有するロータと、
前記エンジンケースに固定されたコア、および前記コアに設けられた3個以上のコイルを有するステータとを備え、
前記ロータケースは、有底円筒状に形成され、底板部、前記底板部の外周側に設けられた周壁部、前記底板部の中央に設けられた挿入穴を有し、前記クランクシャフトの端部が前記挿入穴内に挿入され、前記クランクシャフトの端部に前記クランクシャフトに対して回転不能に結合され、
前記周壁部の外面または前記底板部の外周側部分の外面には、磁性材料により形成された複数の指標部が前記ロータケースの中央を中心とする円上に前記ロータケースの全周に亘ってそれぞれ所定の間隔を置いて設けられ、
前記複数の指標部は、形状、大きさ、または前記複数の指標部のうち前記ロータケースの周方向における一方の隣に設けられた指標部との間隔が前記複数の指標部のうちの他の指標部と異なる1個の特異指標部を含み、
前記電磁ピックアップは、前記エンジンケースに固定され、前記ロータの回転時における前記各指標部の軌道に対向するように配置され、前記ロータの回転時に前記各指標部が所定の検出基準位置を通過したことを示すパルス状の検出信号を出力し、
前記制御部は、前記ロータを前記ステータに対して一の方向に回転させることにより前記クランクシャフトを逆転させ、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したときに、前記ロータの回転方向を反転させることにより前記クランクシャフトを正転させるスイングバック制御を行い、
前記反転実行クランク角は、前記クランクシャフトが逆転している間に、前記ピストンが膨張下死点から圧縮上死点に向かって前記シリンダ内を上昇する区間内の一のクランク角に設定され、
前記制御部は、前記スイングバック制御において、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が前記反転実行クランク角に達したことを前記検出信号に基づいて認識することを特徴とするエンジン始動装置。
【請求項2】
n(nは3以上の整数)個の前記指標部を備え、
前記n個の指標部のうちの1個の指標部が前記特異指標部であり、
前記制御部は、前記スイングバック制御において、前記検出信号に基づいて、前記クランクシャフトが逆転を開始した後に前記特異指標部が前記検出基準位置を通過した第1の時点から、引き続きm(mは1以上n/2以下の整数)個の前記指標部が前記検出基準位置を通過する第2の時点までの間に前記検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否かを判断し、前記第1の時点から前記第2の時点までの間に前記検出信号の出力レベルが前記基準出力レベル以下になった場合には、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が前記第2の時点に前記反転実行クランク角に達したと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン始動装置。
【請求項3】
n(nは3以上の整数)個の前記指標部を備え、
前記n個の指標部のうちの1個の指標部が前記特異指標部であり、
前記制御部は、前記スイングバック制御において、前記検出信号に基づいて、前記クランクシャフトが逆転を開始した後に前記特異指標部が前記検出基準位置を初めて通過した第1の時点から、引き続きm(mは1以上n/2以下の整数)個の前記指標部が前記検出基準位置を通過する第2の時点までの間に前記検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否かを判断し、前記第1の時点から前記第2の時点までの間に前記検出信号の出力レベルが前記基準出力レベル以下になった場合には、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が前記第2の時点に前記反転実行クランク角に達したと判断し、一方、前記第1の時点から前記第2の時点までの間に前記検出信号の出力レベルが前記基準出力レベル以下になっていない場合には、前記第2の時点の後に前記特異指標部が前記検出基準位置を再び通過し、その後引き続きm個の前記指標部が前記検出基準位置を通過した第3の時点に、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が前記反転実行クランク角に達したと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン始動装置。
【請求項4】
n(nは3以上の整数)個の前記指標部を備え、
前記n個の指標部のうちの1個の指標部が前記特異指標部であり、
前記制御部は、前記スイングバック制御において、前記検出信号に基づいて、前記クランクシャフトが逆転を開始した後に前記特異指標部が前記検出基準位置を通過し、その後引き続きm(mは1以上n未満の整数)個の前記指標部が前記検出基準位置を通過した時点に前記検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否かを判断し、当該時点に前記検出信号の出力レベルが前記基準出力レベル以下になった場合には、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が当該時点に前記反転実行クランク角に達したと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン始動装置。
【請求項5】
n(nは3以上の整数)個の前記指標部を備え、
前記n個の指標部のうちの1個の指標部が前記特異指標部であり、
前記制御部は、前記スイングバック制御において、前記検出信号に基づいて、前記クランクシャフトが逆転を開始した後に前記特異指標部が前記検出基準位置を初めて通過し、その後引き続きm(mは1以上n未満の整数)個の前記指標部が前記検出基準位置を通過した第1の時点に前記検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否かを判断し、前記第1の時点に前記検出信号の出力レベルが前記基準出力レベル以下になった場合には、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が前記第1の時点に前記反転実行クランク角に達したと判断し、一方、前記第1の時点に前記検出信号の出力レベルが前記基準出力レベル以下になっていない場合には、前記第1の時点の後に前記特異指標部が前記検出基準位置を再び通過し、その後引き続きm個の前記指標部が前記検出基準位置を通過した第2の時点に、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が前記反転実行クランク角に達したと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン始動装置。
【請求項6】
前記n個の指標部は(n-1)個の通常指標部および1個の前記特異指標部を含み、
前記各通常指標部と、前記n個の指標部のうち前記クランクシャフトの逆転方向において当該通常指標部の隣に設けられた他の指標部との間隔が360/(n+1)度に設定され、
前記特異指標部と、前記n個の指標部のうち前記クランクシャフトの逆転方向において当該特異指標部の隣に設けられた指標部との間隔が180/(n+1)度に設定され、
前記クランクシャフトのクランク角が前記反転実行クランク角であるときに、前記(n-1)個の通常指標部のうち前記特異指標部から前記クランクシャフトの正転方向においてX度離れた通常指標部の位置と前記検出基準位置とが互いに一致するように前記n個の指標部の配置および前記検出基準位置が設定され、
X={360/(n+1)}・m
であることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のエンジン始動装置。
【請求項7】
前記n個の指標部は(n-1)個の通常指標部および1個の前記特異指標部を含み、
前記n個の指標部はそれぞれ等間隔に設けられ、
前記(n-1)個の通常指標部はそれらの形状または大きさがそれぞれ互いに同一であり、
前記特異指標部はその形状または大きさが前記各通常指標部と異なり、
前記クランクシャフトのクランク角が前記反転実行クランク角であるときに、前記(n-1)個の通常指標部のうち前記特異指標部から前記クランクシャフトの正転方向においてX度離れた通常指標部の位置と前記検出基準位置とが互いに一致するように、前記n個の指標部の配置および前記検出基準位置が設定され、
X=(360/n)・m
であることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のエンジン始動装置。
【請求項8】
n(nは3以上の整数)個の前記指標部を備え、
前記n個の指標部のうちの1個の指標部が前記特異指標部であり、
前記制御部は、前記スイングバック制御において、前記検出信号に基づいて、前記クランクシャフトが逆転を開始した後に前記特異指標部が前記検出基準位置を通過した時点において、前記検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否か判断し、当該時点において前記検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になった場合には、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が当該時点に前記反転実行クランク角に達したと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン始動装置。
【請求項9】
前記複数の磁界形成部は、前記ロータケースにおいて、前記底板部の外周側かつ前記周壁部の内周側に前記ロータケースの全周に亘って配列され、
前記ステータは前記複数の磁界形成部の配列の内周側に配置され、
前記制御部は、前記各コイルに流す電流を前記検出信号に基づいて制御することにより、前記ステータに対して前記ロータを回転させることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のエンジン始動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機によりクランクシャフトを回転させてエンジンを始動させるエンジン始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン始動装置は、エンジンの始動時に、エンジンの始動のきっかけとなる回転力を電動機によりエンジンのクランクシャフトに生じさせる装置である。下記の特許文献1には、エンジン始動時のモータの駆動制御について記載されている。
【0003】
また、エンジン始動装置に利用される制御として、スイングバック制御が知られている。スイングバック制御とは、エンジンの始動時にクランクシャフトを一旦逆転させてから正転させることで、電動機の動力によりクランクシャフトが圧縮上死点を乗り越えるための助走距離をかせぐといった制御である。
【0004】
スイングバック制御においては、エンジン始動時に、まず、電動機を一の方向に回転させることによってクランクシャフトを逆転させる。そして、逆転しているクランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に達したときに、電動機の回転方向を反転させることによってクランクシャフトを正転させる。クランクシャフトが圧縮上死点手前のクランク角から正転を開始すると、そのクランクシャフトは、次の圧縮上死点のクランク角に達するまでに概ね2回転することになる。このようにクランクシャフトが正転方向に概ね2回転する間に、圧縮上死点を乗り越えるのに十分な回転力をクランクシャフトに生じさせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/142578号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スイングバック制御においては、逆転しているクランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に達したときに、電動機の回転方向を反転させることによってクランクシャフトを正転させる。従来のスイングバック制御では、逆転しているクランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に達したことを電動機の回転数の移動平均に基づいて判断する。
【0007】
すなわち、スイングバック制御では、まず、電動機を一の方向に回転させて、停止しているクランクシャフトを逆転させるが、このクランクシャフトを逆転させるために電動機からクランクシャフトに与える回転トルクは、クランクシャフトが圧縮上死点を乗り越えることができるほどに大きくはない。その結果、逆転しているクランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に接近すると、エンジンのシリンダ内の圧力によってピストンの上昇速度が減少し、それに伴い、クランクシャフトの回転数が減少する。従来のスイングバック制御では、このクランクシャフトの回転数の減少を、クランクシャフトと共に回転している電動機のロータの回転数の移動平均に基づいて判断する。そして、逆転しているクランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に達したと判断されたタイミングで電動機の回転方向を反転させる。
【0008】
しかしながら、逆転しているクランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に達したことを電動機の回転数の移動平均に基づいて判断する方法には、次のような問題がある。
【0009】
エンジンの始動時においては、クランクシャフトを逆転させる際に電動機に加わる負荷が、そのときのエンジンの温度によって異なる。例えば、エンジン停止直後でエンジンが暖まっているときと、エンジンが長期間停止していてエンジンが冷えているときとでは、エンジン停止直後でエンジンが暖まっているときの方が、エンジン始動時にクランクシャフトを逆転させる際の電動機の負荷が小さくなる。そのため、エンジン始動時にクランクシャフトを逆転させる際において、電動機の回転数の移動平均がそのときのエンジンの温度によって変化する。したがって、逆転しているクランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に達したことを電動機の回転数の移動平均に基づいて判断する方法では、クランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に達したとの判断が、そのときのエンジンの温度によって不正確になることがある。その結果、エンジン始動時のエンジンの温度によって、電動機の回転方向を反転させるタイミングが変動することがある。エンジン始動時のエンジンの温度が低く、電動機の回転方向を反転させるタイミングが所定のタイミングよりも早くなった場合には、クランクシャフトの回転方向を逆転から正転に切り替えてからクランクシャフトのクランク角が次の圧縮上死点のクランク角に達するまでの間に、その圧縮上死点を乗り越えるのに十分な回転力をクランクシャフトに生じさせることができず、エンジンの始動に失敗するおそれがある。
【0010】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、スイングバック制御において逆転させたクランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に達したとの判断を正確に行うことができ、スイングバック制御によるエンジンの始動を確実に行うことができるエンジン始動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のエンジン始動装置は、エンジンケースと、前記エンジンケースに設けられたシリンダと、前記エンジンケース内に設けられたクランクシャフトと、前記シリンダ内に設けられたピストンと、前記クランクシャフトと前記ピストンとを接続するコネクティングロッドとを備えた4サイクルエンジンを始動させるエンジン始動装置であって、電動機と、電磁ピックアップと、制御部とを備え、前記電動機は、前記クランクシャフトに固定され、前記クランクシャフトと共に回転するロータケース、および前記ロータケースに固定された複数の磁界形成部を有するロータと、前記エンジンケースに固定されたコア、および前記コアに設けられた3個以上のコイルを有するステータとを備え、前記ロータケースは、有底円筒状に形成され、底板部、前記底板部の外周側に設けられた周壁部、前記底板部の中央に設けられた挿入穴を有し、前記クランクシャフトの端部が前記挿入穴内に挿入され、前記クランクシャフトの端部に前記クランクシャフトに対して回転不能に結合され、前記周壁部の外面または前記底板部の外周側部分の外面には、磁性材料により形成された複数の指標部が前記ロータケースの中央を中心とする円上に前記ロータケースの全周に亘ってそれぞれ所定の間隔を置いて設けられ、前記複数の指標部は、形状、大きさ、または前記複数の指標部のうち前記ロータケースの周方向における一方の隣に設けられた指標部との間隔が前記複数の指標部のうちの他の指標部と異なる1個の特異指標部を含み、前記電磁ピックアップは、前記エンジンケースに固定され、前記ロータの回転時における前記各指標部の軌道に対向するように配置され、前記ロータの回転時に前記各指標部が所定の検出基準位置を通過したことを示すパルス状の検出信号を出力し、前記制御部は、前記ロータを前記ステータに対して一の方向に回転させることにより前記クランクシャフトを逆転させ、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したときに、前記ロータの回転方向を反転させることにより前記クランクシャフトを正転させるスイングバック制御を行い、前記反転実行クランク角は、前記クランクシャフトが逆転している間に、前記ピストンが膨張下死点から圧縮上死点に向かって前記シリンダ内を上昇する区間内の一のクランク角に設定され、前記制御部は、前記スイングバック制御において、逆転している前記クランクシャフトのクランク角が前記反転実行クランク角に達したことを前記検出信号に基づいて認識することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スイングバック制御において逆転させたクランクシャフトのクランク角が圧縮上死点手前のクランク角に達したとの判断を正確に行うことができ、スイングバック制御によるエンジンの始動を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施例のエンジン始動装置が設けられたエンジンを示す説明図である。
図2図1中のエンジンに設けられたクランクシャフト、および本発明の第1の実施例のエンジン始動装置における電動発電機を分解した状態を示す斜視図である。
図3図1中の切断線III-IIIで切断した電動発電機を図1中の右側から見た状態を示す説明図である。
図4】本発明の第1の実施例のエンジン始動装置における駆動制御回路、および駆動制御回路に接続されたコイル等を示す回路図である。
図5】エンジンの始動直前にクランクシャフトがクランクシャフトの正転方向において排気上死点の手前に停止している場合のスイングバック制御を示す説明図である。
図6】エンジンの始動直前にクランクシャフトがクランクシャフトの正転方向において圧縮上死点の手前に停止している場合のスイングバック制御を示す説明図である。
図7】本発明の第1の実施例のエンジン始動装置の電動発電機において、クランクシャフトのクランク角が、反転実行クランク角に達した状態を示す説明図である。
図8】本発明の第1の実施例のエンジン始動装置におけるスイングバック制御を示すフローチャートである。
図9】本発明の第1の実施例のエンジン始動装置において、クランクシャフトが逆転を開始した後に特異指標部が検出基準位置を初めて通過した時点から、引き続き2個の通常指標部が検出基準位置を通過する時点までの間に、電磁ピックアップから出力された検出信号を示す波形図である。
図10】本発明の第2の実施例のエンジン始動装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態のエンジン始動装置は、4サイクルのエンジンを始動させる装置である。エンジンは、エンジンケースと、エンジンケースに設けられたシリンダと、エンジンケース内に設けられたクランクシャフトと、シリンダ内に設けられたピストンと、クランクシャフトとピストンとを接続するコネクティングロッドとを備えている。
【0015】
本発明の実施形態のエンジン始動装置は、電動機と、電磁ピックアップと、制御部とを備えている。
【0016】
電動機はロータおよびステータを備えている。ロータは、クランクシャフトに固定され、クランクシャフトと共に回転するロータケース、およびロータケースに固定された複数の磁界形成部を有している。磁界形成部として例えば永久磁石を用いることができる。ステータは、エンジンケースに固定されたコア、およびコアに設けられた3個以上のコイルを有している。ロータは界磁として機能し、ステータは電機子として機能する。
【0017】
ロータケースは有底円筒状に形成されている。ロータケースは、底板部、底板部の外周側に設けられた周壁部、底板部の中央に設けられた挿入穴を有している。また、ロータケースは、クランクシャフトの端部が挿入穴内に挿入され、クランクシャフトの端部にクランクシャフトに対して回転不能に結合されている。
【0018】
また、ロータケースの周壁部の外面または底板部の外周側部分の外面には、磁性材料により形成された複数の指標部が、ロータケースの中央を中心とする円上にロータケースの全周に亘ってそれぞれ所定の間隔を置いて設けられている。なお、指標部間の間隔は所定であればよく、一定であるか否かは問わない。
【0019】
また、これら複数の指標部は、形状、大きさ、または複数の指標部のうちロータケースの周方向における一方の隣に設けられた指標部との間隔が複数の指標部のうちの他の指標部と異なる1個の特異指標部を含んでいる。具体的には、複数の指標部の構成として次の3通りの構成のうちの1つを採用することができる。
(1)複数の指標部のうち、特異指標部以外の指標部の形状はそれぞれ互いに同一であり、特異指標部の形状は特異指標部以外の指標部の形状と異なっている。
(2)複数の指標部のうち、特異指標部以外の指標部の大きさはそれぞれ互いに同一であり、特異指標部の大きさは特異指標部以外の指標部の大きさと異なっている。
(3)複数の指標部において、ある1個の指標部と、ロータケースの周方向において当該指標部の一方の隣に設けられた他の指標部との間隔を「指標部間隔」というとすると、複数の指標部のうち、特異指標部以外の指標部についての指標部間隔はそれぞれ互いに同一であり、特異指標部についての指標部間隔は特異指標部以外の指標部についての指標部間隔と異なっている。
【0020】
電磁ピックアップはエンジンケースに固定されている。また、電磁ピックアップは、ロータの回転時における各指標部の軌道に対向するように配置されている。具体的には、電磁ピックアップは、エンジンケースにおいて、ロータの回転時における各指標部の軌道上の1箇所に設定された所定の検出基準位置に近い場所に、当該検出基準位置と対向するように配置されている。電磁ピックアップは、ロータの回転時に各指標部が検出基準位置を通過したことを検出し、各指標部が検出基準位置を通過したことを示すパルス状の検出信号を出力する。
【0021】
制御部は電動機の駆動を制御する。具体的には、制御部は、ロータをステータに対して回転させる制御を行う。また、制御部は、ロータをステータに対して一の方向に回転させることによりクランクシャフトを逆転させ、逆転しているクランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したときに、ロータの回転方向を反転させることによりクランクシャフトを正転させるスイングバック制御を行う。反転実行クランク角は、クランクシャフトが逆転している間に、ピストンが膨張下死点から圧縮上死点に向かってシリンダ内を上昇する区間内の一のクランク角に設定されている。具体的には、圧縮上死点のクランク角を0度とし、そのクランク角からクランクシャフトの正転方向をプラスとし、そのクランク角からクランクシャフトの逆転方向をマイナスとすると、反転実行クランク角は、クランクシャフトの逆転方向において、-540度以上、-720度未満の範囲の一にクランク角に設定されている。この範囲には、クランクシャフトの逆転方向における圧縮上死点の手前のクランク角が含まれている。また、制御部は、スイングバック制御において、逆転しているクランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したことを、電磁ピックアップから出力された検出信号に基づいて認識する。
【0022】
以下、制御部が、スイングバック制御において、逆転しているクランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したことを電磁ピックアップから出力された検出信号に基づいて認識することができる原理を説明する。
【0023】
エンジン始動時に、制御部は、まず、電動機のロータを一の方向に回転させることによってクランクシャフトを逆転させる。ロータが回転することにより、ロータケースに設けられた複数の指標部が移動する。複数の指標部はロータケースの中央を中心とする円上に設けられているので、それぞれの指標部が移動する軌道は同一の円となる。ロータが回転することにより各指標部は当該軌道上の一箇所に設定された検出基準位置を順次通過する。また、各指標部は磁性材料により形成されているので、指標部が検出基準位置を通過したとき、指標部が検出基準位置を通過したことが電磁ピックアップにより検出され、電磁ピックアップからパルス状の検出信号が出力される。制御部は、電磁ピックアップから出力された検出信号に基づいて、各指標部が検出基準位置を通過したことを認識することができる。
【0024】
また、複数の指標部は1個の特異指標部を含んでいる。特異指標部以外の指標部の形状がそれぞれ互いに同一であり、特異指標部の形状が特異指標部以外の指標部の形状と異なっている場合には、特異指標部が検出基準位置を通過したときに電磁ピックアップから出力される検出信号の波形と、特異指標部以外の指標部が検出基準位置を通過したときに電磁ピックアップから出力される検出信号の波形とが互いに異なる。また、特異指標部以外の指標部の大きさがそれぞれ互いに同一であり、特異指標部の大きさが特異指標部以外の指標部の大きさと異なっている場合には、特異指標部が検出基準位置を通過したときに電磁ピックアップから出力される検出信号の波形または振幅と、特異指標部以外の指標部が検出基準位置を通過したときに電磁ピックアップから出力される検出信号の波形または振幅とが互いに異なる。また、特異指標部以外の指標部についての指標部間隔がそれぞれ互いに同一であり、特異指標部についての指標部間隔が特異指標部以外の指標部についての指標部間隔と異なっている場合には、互いに隣り合う特異指標部と特異指標部以外の指標部とが検出基準位置を順次通過したときに電磁ピックアップから順次出力される2つの検出信号の間隔と、互いに隣り合う特異指標部以外の2つの指標部が検出基準位置を順次通過したときに電磁ピックアップから順次出力される2つの検出信号の間隔とが互いに異なる。したがって、制御部は、検出信号の波形、振幅または出力間隔に基づいて、検出基準位置を通過した指標部が、特異指標部か特異指標部以外の指標部かを識別することができる。
【0025】
また、指標部間の間隔は所定であり、特異指標部の個数は1個であるので、制御部は、電磁ピックアップから出力された検出信号に基づいて、特異指標部が検出基準位置を通過したこと、または特異指標部から所定の角度離れた位置に設けられた特異指標部以外の指標部が検出基準位置を通過したことを認識することにより、ロータの回転角度が0度から360度までの範囲における一の角度になったことを認識することができる。さらに、ロータケースはクランクシャフトの端部にクランクシャフトに対して回転不能に結合されているので、制御部は、電磁ピックアップから出力された検出信号に基づいて、特異指標部が検出基準位置を通過したこと、または特異指標部から所定の角度離れた位置に設けられた特異指標部以外の指標部が検出基準位置を通過したことを認識することにより、クランクシャフトの回転角度が0度から360度までの範囲における一の角度になったことを認識することができる。
【0026】
しかしながら、4サイクルエンジンでは、エンジンの1サイクルにおいて、クランクシャフトは720度回転する。したがって、クランクシャフトの回転角度が0度から360度までの範囲における一の角度になったことを認識することができるだけでは、クランクシャフトのクランク角が、エンジンの1サイクルの範囲における一のクランク角になったことを認識することはできない。それゆえ、クランクシャフトの回転角度が0度から360度までの範囲における一の角度になったことを認識することができるだけでは、クランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したことを認識することができない場合が生じる。その場合とは、例えば、エンジン始動直前において、クランクシャフトがクランクシャフトの正転方向において圧縮上死点の手前に停止している場合である。
【0027】
エンジンが稼働している状態からクラッチが切られてエンジンが停止した場合、慣性力によりクランクシャフトは正転方向に回転を継続するが、その後、ピストンがシリンダ内の圧力に抗し切れずに上昇を停止した時点でクランクシャフトが停止する。そのクランクシャフトの停止位置は、クランクシャフトの正転方向において圧縮上死点の手前または排気上死点の手前となる。エンジン始動直前において、クランクシャフトがクランクシャフトの正転方向において圧縮上死点の手前に停止している場合、スイングバック制御において、クランクシャフトの逆転を開始させてから、クランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達するまでに、クランクシャフトの回転量は360度を超える。例えば、クランクシャフトの正転方向において圧縮上死点の手前のクランク角が-45度であり、反転実行クランク角が-675度に設定されているとすると、クランクシャフトの逆転を開始させてから、クランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達するまでに、クランクシャフトの回転量は630度になる。この場合、逆転しているクランクシャフトが反転実行クランク角に達したことを認識するためには、逆転しているクランクシャフトの回転角度が-315度になったことと-675度になったこととを判別しなければならない。それゆえ、クランクシャフトの回転角度が0度から360度までの範囲における一の角度になったことを認識することができるだけでは、クランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したことを認識することができない。そこで、本発明の実施形態のエンジン始動装置は、上述したように、電磁ピックアップから出力された検出信号に基づいて、クランクシャフトの回転角度が0度から360度までの範囲における一の角度になったことを認識する構成に加えて、次の構成を備えている。
【0028】
第1に、クランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角であるときに、特異指標部と検出基準位置とが一致するように、または特異指標部から所定の角度離れた位置に設けられた特異指標部以外の指標部と検出基準位置とが一致するように、各指標部の配置および検出基準位置が設定されている。以下、クランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角であるときに検出基準位置と一致する位置に設けられた特異指標部または特異指標部以外の指標部を「反転判断指標部」という。この設定により、例えば、反転実行クランク角が-675度に設定されているとすると、エンジン始動直前にクランクシャフトが例えばクランクシャフトの正転方向において圧縮上死点の手前で停止している場合には、クランクシャフトの逆転を開始させてから反転判断指標部が検出基準位置を初めて通過した時点においてクランクシャフトのクランク角が-315度(クランクシャフトの逆転方向において反転実行クランク角よりも360度前のクランク角)となり、その後、反転判断指標部が検出基準位置を再び通過した時点においてクランクシャフトのクランク角が-675度となり、反転実行クランク角に達する。また、エンジン始動直前にクランクシャフトが例えばクランクシャフトの正転方向において排気上死点の手前で停止している場合には、クランクシャフトの逆転を開始させてから反転判断指標部が検出基準位置を初めて通過した時点においてクランクシャフトの回転角度が-675度となり、反転実行クランク角に達する。制御部は、電磁ピックアップから出力された検出信号に基づいて、反転判断指標部が検出基準位置を通過したことを認識することにより、クランクシャフトの回転角度が-315度および-675度のいずれかの角度になったことを認識することができる。
【0029】
第2に、制御部は、クランクシャフトの逆転を開始させてから反転判断指標部が検出基準位置を初めて通過した時点において電磁ピックアップから出力された検出信号の出力レベル(振幅)が、所定の基準出力レベル以下であるか否かを判断する。そして、制御部は、その検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下である場合には、逆転しているクランクシャフトが-675度になり、反転実行クランク角に達したと判断する。一方、クランクシャフトの逆転を開始させてから反転判断指標部が検出基準位置を初めて通過した時点において電磁ピックアップから出力された検出信号の出力レベルが上記基準出力レベル以下でない場合には、制御部は、逆転しているクランクシャフトが反転実行クランク角に達していない(クランクシャフトのクランク角が-315度になったにすぎない)と判断する。
【0030】
ここで、クランクシャフトの逆転を開始させてから反転判断指標部が検出基準位置を初めて通過した時点における検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下であるか否かに基づいて、逆転しているクランクシャフトが反転実行クランク角に達したか否かを判断することができる理由は次の通りである。
【0031】
例えば、逆転しているクランクシャフトのクランク角が-315度になったときと、-675度になったときとでシリンダ内の圧力を比較すると、逆転しているクランクシャフトのクランク角が-675度になったときの方がシリンダ内の圧力が大きい。なぜなら、-315度はクランクシャフトの逆転方向において排気上死点手前のクランク角であるのに対し、-675度はクランクシャフトの逆転方向において圧縮上死点手前のクランク角だからである。また、エンジンが停止している状態では、シリンダ内の圧力が大きくなるとピストンの上昇速度が減少するので、逆転しているクランクシャフトのクランク角が-315度になったときと、-675度になったときとでクランクシャフトの回転数を比較すると、逆転しているクランクシャフトのクランク角が-675度になったときの方がクランクシャフトの回転数が低くなる。さらに、電磁ピックアップから出力される検出信号の出力レベルは、検出基準位置を通過するときの指標部の移動速度が遅くなるに連れて小さくなる。検出基準位置を通過するときの指標部の移動速度はクランクシャフトの回転数が低くなるに従って遅くなるので、逆転しているクランクシャフトのクランク角が-315度になったときと、-675度になったときとで電磁ピックアップから出力される検出信号の出力レベルを比較すると、逆転しているクランクシャフトのクランク角が-675度になったときの方が電磁ピックアップから出力される検出信号の出力レベルが小さくなる。したがって、クランクシャフトの逆転を開始させてから反転判断指標部が検出基準位置を初めて通過した時点における検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下であるか否かに基づいて、逆転しているクランクシャフトが反転実行クランク角に達したか否かを判断することができる。
【0032】
以上が、制御部が、スイングバック制御において、逆転しているクランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したことを電磁ピックアップから出力された検出信号に基づいて認識することができる原理である。
【0033】
制御部は、クランクシャフトの逆転を開始させてから反転判断指標部が検出基準位置を初めて通過した時点における検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下であり、これに基づいて、逆転しているクランクシャフトが反転実行クランク角に達したと判断した場合には、その時点において、ロータの回転方向を反転させて、クランクシャフトを正転させる。一方、制御部は、クランクシャフトの逆転を開始させてから反転判断指標部が検出基準位置を初めて通過した時点における検出信号の出力レベルが上記基準出力レベル以下でなく、これに基づいて、逆転しているクランクシャフトが反転実行クランク角に達していないと判断した場合には、その後、反転判断指標部が検出基準位置を再び通過したことを検出信号に基づいて認識し、その時点において、ロータの回転方向を反転させて、クランクシャフトを正転させる。
【0034】
以上説明した通り、本発明の実施形態のエンジン始動装置は、スイングバック制御において、逆転させたクランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したことを電磁ピックアップから出力された検出信号に基づいて判断する。これにより、逆転させたクランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したとの判断が、エンジンの温度によって不正確になることを抑制することができる。このように、本発明の実施形態のエンジン始動装置によれば、スイングバック制御において、逆転させたクランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したとの判断を正確に行うことができ、スイングバック制御によるエンジンの始動を確実に行うことができる。
【実施例0035】
(エンジン)
図1は、本発明の第1の実施例のエンジン始動装置11が設けられたエンジン1を示している。なお、図中の矢印Fd、Bd、Ld、Rdはエンジン1が設けられた車両の前、後、左、右をそれぞれ示している。
【0036】
図1において、エンジン1は、単気筒の4サイクルエンジンであり、例えば鞍乗型車両等の車両に搭載される。エンジン1は、クランクケース2、シリンダ3、シリンダヘッド4、クランクシャフト5、ピストン6、およびコネクティングロッド7を備えている。シリンダ3は、クランクケース2の前部から略前方に突出するようにクランクケース2に設けられている。シリンダヘッド4はシリンダ3の前端側に設けられている。クランクシャフト5はクランクケース2内に設けられている。また、クランクシャフト5は、全体的に見て左右方向に伸長し、クランクケース2に回転可能に支持されている。ピストン6はシリンダ3内に略前後方向に往復動可能に設けられている。また、ピストン6はコネクティングロッド7を介してクランクシャフト5と接続されている。エンジン1の作動時において、シリンダ3内でピストン6が往復動することにより、クランクシャフト5が回転する。なお、クランクケース2はエンジンケースの具体例である。
【0037】
また、クランクケース2内における右部には、エンジン始動装置11の構成要素である電動発電機12および電磁ピックアップ32が設けられている。なお、図1において、電磁ピックアップ32は電動発電機12に隠れた位置に配置されているため、図示されていない。さらに、クランクケース2において、電動発電機12の右方には、エンジン1を冷却するための冷却風を発生させるファン8が設けられている。また、クランクシャフト5の左端側部分には変速機9のドライブプーリ10が接続されている。
【0038】
(クランクシャフト)
図2は、クランクシャフト5、および分解した状態の電動発電機12を示している。また、図2中の右上側は、図2中の切断線II-IIで切断したクランクシャフト5を図2中の左上側(車両の右方)から見た状態を示している。
【0039】
図2に示すように、クランクシャフト5は、左右方向に伸長するクランクジャーナル5A、クランクジャーナル5Aからその径方向に伸長したクランクアーム5B、およびクランクアーム5Bの先端側に設けられたクランクピン5Cを備えている。クランクジャーナル5Aは軸受を介してクランクケース2に回転可能に支持される。クランクピン5Cにはコネクティングロッド7を介してピストン6が連結されている。また、クランクジャーナル5Aの径方向においてクランクピン5Cの反対側には、カウンタウェイト5Dが設けられている。図2中の右上側に示すように、クランクジャーナル5Aの軸心がクランクシャフト5の回転軸心Qである。クランクシャフト5はその回転軸心Qを中心に回転することができる。
【0040】
また、クランクジャーナル5Aの右端側には、右方に伸びるに従って径が小さくなるテーパ部5Eが設けられている。また、テーパ部5Eの外周面にはキー溝5Fが形成されている。図2中の右上側に示すように、車両の右方からクランクシャフト5を見たとき、キー溝5Fは、テーパ部5Eの外周面において、クランクピン5Cの軸心Cpの方向を向いた位置に形成されている。
【0041】
ここで、クランクシャフト5を車両の右方から見た場合において、クランクシャフト5の回転軸心Qから見てクランクピン5Cの軸心Cpが位置する方向を「クランクシャフト5の軸心から見たクランクピン5Cの方向」という。図2中の右上側の一点鎖線Dcは、クランクシャフト5のクランク角が0度となった時点、すなわち、ピストン6が圧縮上死点に達した時点におけるクランクシャフト5の軸心から見たクランクピン5Cの方向を示している。クランクシャフト5を車両の右方から見た場合において、クランクシャフト5の軸心から見たキー溝5Fの方向は、クランクシャフト5の軸心から見たクランクピン5Cの方向と一致している。
【0042】
(エンジン始動装置)
図3は、図1中の切断線III-IIIで切断した電動発電機12を図1中の右側から見た状態を示している。また、図3には、電磁ピックアップ32および駆動制御回路35が模式的に描かれている。
【0043】
エンジン始動装置11は、エンジン1の始動時に、エンジン1の始動のきっかけとなる回転力を電動機によりクランクシャフト5に生じさせる装置である。図3に示すように、エンジン始動装置11は、電動機としての電動発電機12、電磁ピックアップ32、および制御部としての駆動制御回路35を備えている。電動発電機12は、エンジン1の始動時には、クランクシャフト5を回転させる電動機(具体的にはブラシレスモータ)として機能し、エンジン1の始動後には、エンジン1の作動によるクランクシャフト5の回転を利用して発電を行う発電機として機能する。電動発電機12は、上述したように、クランクケース2内に右部に設けられている。
【0044】
電磁ピックアップ32は、電動発電機12に設けられた磁界形成部21A~24Lの位置を検出する機能、およびクランクシャフト5のクランク角を検出する機能を有している。電磁ピックアップ32は、クランクケース2内の右部であって電動発電機12のロータケース14の周壁部16の外面と対向する位置に設けられている。また、電磁ピックアップ32は、クランクケース2に例えばブラケット等を介して固定されている。
【0045】
駆動制御回路35は、電動発電機12の駆動制御、およびスイングバック制御を行う回路である。エンジン1およびエンジン始動装置11が設けられた車両が鞍乗型車両である場合には、駆動制御回路35は、例えば、保護ケースに収容され、鞍乗型車両のシートの下側、フロントカウルの内側等、鞍乗型車両において雨等が当たり難い箇所に配置されている。
【0046】
(電動発電機)
電動発電機12は、図3に示すように、ロータ13およびステータ25を備えている。ロータ13はクランクシャフト5に固定され、クランクシャフト5と共に回転する。一方、ステータ25はクランクケース2に固定されている。ロータ13は界磁として機能し、ステータ25は電機子として機能する。電動発電機12は、エンジン始動時に、ステータ25に対してロータ13を回転させることにより、クランクシャフト5を回転させる。
【0047】
ロータ13は、図2に示すように、ロータケース14、12個の磁界形成部21A~21L、および磁石支持部材23を備えている。
【0048】
ロータケース14は、例えば鉄鋼等の磁性材料により有底円筒状に形成されている。ロータケース14は、円板状の底板部15、底板部15の外周側に設けられた周壁部16、底板部15の中央に設けられたボス部17を備えている。また、ボス部17の中央には、クランクシャフト5の右端部が挿入される挿入穴18が設けられている。また、挿入穴18の内周面にはキー溝19が形成されている。
【0049】
ロータケース14の挿入穴18内には、図3に示すように、クランクシャフト5の右端部、具体的にはテーパ部5Eが挿入されている。ロータケース14は、挿入穴18内において、テーパ部5Eの外周面に形成されたキー溝5Fと、挿入穴18の内周面に形成されたキー溝19とが互いに対向し、これらキー溝5F、19の位置がロータケース14の周方向において互いに一致するように、クランクシャフト5に対して位置決めされている。そして、ロータケース14は、これら2つのキー溝5F、19にキーを嵌合することにより、クランクシャフト5に、クランクシャフト5に対して回転不能に結合され、固定されている。また、ロータケース14の中心はクランクシャフト5の回転軸心Qと一致している。
【0050】
また、図3中の一点鎖線Dcは、図2中の右上側の一点鎖線Dcと同じものであり、クランクシャフト5のクランク角が0度となった時点におけるクランクシャフト5の軸心から見たクランクピン5Cの方向を示している。クランクシャフト5に結合したロータケース14を車両の右方から見た場合において、クランクシャフト5の回転軸心Qから見たキー溝19の方向は、クランクシャフト5の軸心から見たクランクピン5Cの方向と一致している。
【0051】
磁界形成部21A~21Lは、ロータケース14内に磁界を形成する磁石である。12個の磁界形成部21A~21Lは、図3に示すように、ロータケース14内において、底板部15の外周側かつ周壁部16の内周側に、ロータケース14の中央(クランクシャフト5の回転軸心Q)を中心とする円に沿うように配置されている。また、磁界形成部21A~21Lは、ロータケース14の全周に亘って等間隔に配置されている。磁界形成部21A~21Lの間隔は30度である。また、磁界形成部21A~21Lは、ロータケース14の周方向において互いに隣り合う2つの磁界形成部の磁極が互いに異なるように配置されている。具体的には、内周側がN極となるように磁極が設定された磁界形成部21A、21C、21E、21G、21I、21Kと、内周側がS極となるように磁極が設定された磁界形成部21B、21D、21F、21H、21J、21Lとがロータケース14内の周方向において1つずつ交互に配置されている。
【0052】
磁界形成部21A~21Lは、図2に示すように、4枚の磁石板22A~22Dにより形成されている。各磁石板22A~22Dは例えばフェライト磁石またはネオジム磁石等の永久磁石であり、円弧状に湾曲した板状に形成されている。磁石板22Aおよび22Cは、その両端側部分の内周側がそれぞれN極となるように着磁され、中央部分の内周側がS極となるように着磁されている。また、磁石板22Bおよび22Dは、その両端側部分の内周側がそれぞれS極となるように着磁され、中央部分の内周側がN極となるように着磁されている。ロータケース14には、金属等の磁性材料により円筒状に形成された磁石支持部材23が取り付けられる。磁石板22A~22Dは、ロータケース14と磁石支持部材23との間に保持される。磁界形成部21A~21Lは、このようにしてロータケース14に固定され、ロータケース14と共に回転する。
【0053】
ステータ25は、図3に示すように、コア26、およびU相、V相、W相の3相の駆動電流を流す合計18個のコイル31U~31Wを備えている。コア26は、例えば金属材料により円板状に形成されたベース部27を備えている。ベース部27はクランクケース2に固定されている。ベース部27の中央には、ロータケース14のボス部17を挿入するための挿通穴28が形成されている。また、ベース部27の外周側には、例えば、鉄鋼等の磁性材料により形成された18個のティース29が設けられている。各ティース29はベース部27の外周側からベース部27の径方向に突出している。18個のティース29はベース部27の外周の全周に亘ってそれぞれ互いに等しい間隔(20度)を持って配置されている。
【0054】
18個のコイル31U~31Wは、U相の駆動電流を流す6個のコイル31U、V相の駆動電流を流す6個のコイル31V、およびW相の駆動電流を流す6個のコイル31Wにより構成されている。18個のコイル31U~31Wは、18個のティース29に巻線を施すことにより形成されている。これらコイル31U~31Wは、クランクシャフト5の逆転方向Rにおいて、コイル31U、コイル31V、コイル31Wの順番に配置されている。
【0055】
また、ステータ25は、磁界形成部21A~21Lの配列の内周側に、ロータケース14と同軸に配置されている。また、コア26の挿通穴28内には、ロータケース14のボス部17が挿入されている。ステータ25は、ステータ25に対してロータ13が回転可能となるように、ロータ13から離れた状態でロータケース14内に配置されている。
【0056】
(指標部)
また、ロータケース14の周壁部16の外面には、n(nは3以上の整数)個の指標部が設けられている。各指標部は磁性材料により形成されている。また、n個の指標部は、ロータケース14の中央(回転軸心Q)を中心とする円上に、ロータケース14の全周に亘ってそれぞれ所定の間隔を置いて設けられている。また、n個の指標部は、(n-1)個の通常指標部および1個の特異指標部を含んでいる。また、各通常指標部と、n個の指標部のうちクランクシャフト5の逆転方向Rにおいて当該通常指標部の隣に設けられた他の指標部との間隔が360/(n+1)度に設定されている。また、特異指標部と、n個の指標部のうちクランクシャフト5の逆転方向Rにおいて当該特異指標部の隣に設けられた指標部との間隔が180/(n+1)度に設定されている。また、後述するスイングバック制御において、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角であるときに、(n-1)個の通常指標部のうち、特異指標部からクランクシャフト5の正転方向においてX度離れた通常指標部の位置と検出基準位置Pdとが互いに一致するようにn個の指標部の配置が設定され、X度について、次の数式が成り立つ。
X={360/(n+1)}・m
【0057】
指標部について具体的に説明すると、本実施例においては、図3に示すように、ロータケース14の周壁部16の外面に11個の指標部a~kが設けられている。すなわち、本実施例において、上記nは11である。各指標部a~kはロータケース14の周壁部16の外面から径方向に突出した突起(凸部)である。各指標部a~kは、例えばプレス加工または成形等によりロータケース14の周壁部16と一体形成されている。なお、磁性材料からなる11個の円柱状の小片をロータケース14の周壁部16に溶接またはねじ止め等の手段で取り付けることにより指標部a~kを形成してもよい。
【0058】
本実施例における11個の指標部a~kは、ロータケース14の中央(回転軸心Q)を中心とする円上に、ロータケース14の全周に亘って設けられている。指標部a~kのうち、指標部aが特異指標部であり、それ以外の指標部b~kが通常指標部である。各通常指標部b~kと、指標部a~kのうちクランクシャフト5の逆転方向Rにおいて当該通常指標部の隣に設けられた他の指標部との間隔は30度に設定されている。また、特異指標部aと、指標部a~kのうちクランクシャフト5の逆転方向Rにおいて当該特異指標部の隣に設けられた指標部(通常指標部k)との間隔は60度に設定されている。
【0059】
また、図3に示すように、クランクシャフト5に結合したロータケース14を車両の右方から見たときに、ロータケース14の周壁部16において、クランクシャフト5の回転軸心Qから見てキー溝19の方向に位置する位置を「ロータの回転基準位置Pa」というとすると、特異指標部aは、クランクシャフト5の逆転方向Rにおいてロータの回転基準位置Paから40度離れた位置に配置されている。
【0060】
指標部a~kには2つの役割が与えられている。指標部a~kの第1の役割は、電動発電機12の回転制御を行うために、18個のコイル31U~31Wに対する12個の磁界形成部21A~21Lの位置を駆動制御回路35のマイクロコンピュータ41の回転制御部42に認識させることである。指標部a~kの第2の役割は、スイングバック制御を行うために、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したことを駆動制御回路35のマイクロコンピュータ41のスイングバック制御部43に認識させることである。
【0061】
通常指標部b~kの間隔(30度)は、磁界形成部21A~21Lの間隔(30度)と等しい。また、各指標部a~kは、磁界形成部21B~21Lにおいて互いに隣り合う2つの磁界形成部の境界に対向する位置に配置されている。指標部a~kのこの構成により、指標部a~kは、上記第1の役割を果たすことができる。なお、磁界形成部21Aと磁界形成部21Bとの境界に対向する位置には指標部が配置されていないが、各指標部a~kにより、上記第1の役割を果たすことができる。
【0062】
また、11個の指標部a~kは、10個の通常指標部b~kおよび1個の特異指標部aを含んでおり、各通常指標部b~kと、指標部a~kのうちクランクシャフト5の逆転方向Rにおいて当該通常指標部の隣に設けられた他の指標部との間隔が30度に設定され、特異指標部aと、指標部a~kのうちクランクシャフト5の逆転方向Rにおいて当該特異指標部aの隣に設けられた指標部との間隔が60度に設定されている。さらに、後述するように、特異指標部aが、クランクシャフト5の逆転方向Rにおいてロータの回転基準位置Paから40度離れた位置に配置されていることにより、スイングバック制御において、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角であるときに、通常指標部b~kのうち、特異指標部aからクランクシャフト5の正転方向において60度離れた通常指標部c(クランクシャフト5の正転方向において特異指標部aから数えて2個目の通常指標部)の位置が検出基準位置Pdと一致する。指標部a~kのこの構成により、指標部a~kは、上記第2の役割を果たすことができる。
【0063】
(電磁ピックアップ)
電磁ピックアップ32は、図3に示すように、ロータケース14の外周側に、ロータケース14からその径方向に所定距離離れた位置に配置されている。また、電磁ピックアップ32は、ロータ13の回転時における指標部a~kの軌道Eと対向するように配置されている。電磁ピックアップ32は、上述したように、クランクケース2に固定されている。
【0064】
電磁ピックアップ32は、ロータ13の回転時に各指標部a~kが所定の検出基準位置Pdを通過したことを検出する。検出基準位置Pdは、ロータ13の回転時における指標部a~kの軌道E上の1箇所に設定されている。電磁ピックアップ32は、ロータ13の回転時に各指標部a~kが検出基準位置Pdを通過したことを検出することができるように、検出基準位置Pdに近い場所に、検出基準位置Pdと対向するように配置されている。
【0065】
また、検出基準位置Pdは、スイングバック制御において、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したことを駆動制御回路35のマイクロコンピュータ41のスイングバック制御部43に認識させるために、クランクシャフト5、電動発電機12および電磁ピックアップ32を車両の右方から見た場合において、クランクシャフト5の回転軸心Qから検出基準位置Pdを見た方向が、クランクシャフト5のクランク角が65度(または425度)となったときのクランクシャフト5の軸心から見たクランクピン5Cの方向と一致するように設定されている。
【0066】
また、電磁ピックアップ32は、ロータ13の回転時に各指標部a~kが検出基準位置Pdを通過したことを示すパルス状の検出信号を出力する。すなわち、電磁ピックアップ32は、磁石およびピックアップコイルを内蔵している。ロータ13の回転時には、電磁ピックアップ32に内蔵された磁石により形成された磁界が指標部a~kの接近、離間により変化し、それに伴ってピックアップコイルに電圧が発生する。電磁ピックアップ32はその電圧に対応した信号を検出信号として出力する。電磁ピックアップ32は駆動制御回路35のマイクロコンピュータ41に接続されている(図4参照)。電磁ピックアップ32から出力された検出信号はマイクロコンピュータ41の回転制御部42およびスイングバック制御部43にそれぞれ入力される。
【0067】
(駆動制御回路)
図4は駆動制御回路35、および駆動制御回路35に接続されたコイル31U、31V、31W等を示している。なお、図4において、コイル31U、31V、31Wについては電気的な観点から模式的に示している。
【0068】
駆動制御回路35は、図4に示すように、駆動電流供給回路36およびマイクロコンピュータ41を備えている。また、マイクロコンピュータ41は回転制御部42およびスイングバック制御部43を有している。なお、回転制御部42およびスイングバック制御部43は、マイクロコンピュータ41がコンピュータプログラムを実行することによって実現されるものである。
【0069】
駆動電流供給回路36および回転制御部42は、コイル31U、31V、31Wにそれぞれ流す駆動電流を制御することにより電動発電機12の回転を制御する回路である。駆動電流供給回路36の入力端子37には、車両に搭載されたバッテリーから出力される例えば12Vの直流電圧Vbが印加され、これにより、駆動電流供給回路36に直流電流が供給される。また、駆動電流供給回路36の出力側には電流検出用抵抗39を介してコイル31U、31V、31Wが接続されている。また、駆動電流供給回路36は、6個のFET(電界効果トランジスタ)38A~38Fを備えている。FET38A~38Fのオン、オフにより、コイル31U、31V、31Wに供給される駆動電流が切り換わる。マイクロコンピュータ41には、駆動電流供給回路36のFET38A~38Fのそれぞれのゲート端子G1~G6が接続されている。マイクロコンピュータ41の回転制御部42は、駆動電流供給回路36のFET38A~38Fのオン、オフを切り換えることにより、コイル31U、31V、31Wのそれぞれに流す駆動電流を制御し、ステータ25に対するロータ13の回転方向および回転数(回転速度)を制御する。また、マイクロコンピュータ41には電磁ピックアップ32が接続されている。また、マイクロコンピュータ41は、車両に設けられたメインコントローラと接続されている。
【0070】
マイクロコンピュータ41は、ロータ13を回転させる制御として、オープンループ制御およびクローズドループ制御の2通りの制御を行う。オープンループ制御は、予め設定された制御シーケンスに従ってFET38A~38Fのオン、オフを切り換えることにより、コイル31U、31V、31Wのそれぞれに駆動電流を流すタイミングを制御するものである。一方、クローズドループ制御は、例えばベクトル制御であり、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいてFET38A~38Fのオン、オフを切り換えることにより、コイル31U、31V、31Wのそれぞれに駆動電流を流すタイミングを制御するものである。また、詳細な説明を省略するが、ロータ13が回転しているとき、回転角度に応じて特定のコイル31に無負荷誘起電圧が生じる。クローズドループ制御においては、電磁ピックアップ32からの検出信号に加え、上記無負荷誘起電圧に基づいてコイル31U、31V、31Wのそれぞれに流す駆動電流が制御される。
【0071】
また、駆動電流供給回路36とコイル31U、31V、31Wとの間には電流検出用抵抗39が接続されている。詳細な説明は省略するが、マイクロコンピュータ41は、電流検出用抵抗39を用いてコイル31U、31V、31Wのそれぞれを流れる駆動電流を検出することができる。
【0072】
スイングバック制御部43は、エンジン1の始動時にクランクシャフト5を一旦逆転させてから正転させることで、電動発電機12の動力によりクランクシャフト5が圧縮上死点を乗り越えるための助走距離をかせぐスイングバック制御を行う。
【0073】
(スイングバック制御)
図5は、エンジン1の始動直前にクランクシャフト5がクランクシャフト5の正転方向において排気上死点の手前に停止している場合のスイングバック制御を示している。図6は、エンジン1の始動直前にクランクシャフト5がクランクシャフト5の正転方向において圧縮上死点の手前に停止している場合のスイングバック制御を示している。図5および図6において、図中の上側の特性線図は、クランクシャフト5のクランク角とシリンダ3内の圧力との関係を示している。また、図5および図6において、特性線図の直ぐ下側のa~kは、指標部a~Kが検出基準位置を通過するタイミングをクランクシャフト5のクランク角と対応付けて示したものである。また、図5および図6において、図中の最も下側のt1、t2等は、スイングバック制御における個々の処理が実行されるタイミングをクランクシャフト5のクランク角と対応付けて示したものである。また、図5および図6に示すように、ピストン6が圧縮上死点に達した時点をクランクシャフト5のクランク角の0度としている。
【0074】
スイングバック制御部43は、スイングバック制御において、電動発電機12のロータ13をステータ25に対してクランクシャフト5の逆転方向Rに回転させることによりクランクシャフト5を逆転させ、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したときに、ロータ13の回転方向を反転させることによりクランクシャフト5を正転させる。また、スイングバック制御部43は、スイングバック制御において、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したことを、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて認識する。
【0075】
反転実行クランク角は、スイングバック制御において、逆転させたクランクシャフト5の回転方向を逆転から正転に切り替えるクランク角である。反転実行クランク角は、クランクシャフト5が逆転している間に、ピストン6が膨張下死点から圧縮上死点に向かってシリンダ3内を上昇する区間内の一のクランク角に設定されている。すなわち、反転実行クランク角は、クランクシャフト5の逆転方向において、-540度以上かつ-720度未満の角度に設定されている。本実施例において、反転実行クランク角は-675度に設定されている。
【0076】
スイングバック制御において、スイングバック制御部43は、図5に示すように、電動発電機12のロータ13をクランクシャフト5の逆転方向Rに回転させて、クランクシャフト5の逆転を開始させた後、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて、クランクシャフト5が逆転を開始した時点t0の後に特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点t1から、引き続きm(mは1以上n/2以下の整数)個の通常指標部が検出基準位置を通過する時点t2までの間に検出信号の出力レベル(振幅)が所定の基準出力レベル以下になったか否かを判断する。本実施例においては、mは2に設定されている(なお、mが1以上n/2以下の整数に限定されている点については後述する)。したがって、スイングバック制御部43は、クランクシャフト5が逆転を開始した時点t0の後に特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点t1から、引き続き2個の通常指標部が検出基準位置Pdを通過する時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になったか否かを判断する。
【0077】
そして、図5において、時点t1から時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になった場合には、スイングバック制御部43は、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が時点t2に反転実行クランク角に達したと判断する。一方、時点t1から時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になっていない場合には、スイングバック制御部43は、図6に示すように、時点t2の後に特異指標部aが検出基準位置Pdを再び通過し、その後引き続きm個(2個)の指標部が検出基準位置Pdを通過した時点t3に、逆転しているクランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したと判断する。
【0078】
時点t2は、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過してから2個目の通常指標部が検出基準位置Pdを通過した時点である。また、時点t3は、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部aが検出基準位置Pdを再び通過してから2個目の通常指標部が検出基準位置Pdを通過した時点である。クランクシャフト5が逆転しているときに、特異指標部aが検出基準位置Pdを通過してから検出基準位置Pdを通過する2個目の通常指標部は、通常指標部cである。すなわち、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したとスイングバック制御部43が判断するタイミングは、図5の場合においても、図6の場合においても、通常指標部cが検出基準位置Pdを通過したときである。
【0079】
逆転しているクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したとき、スイングバック制御部43は、ロータ13の回転方向を反転させ、クランクシャフト5の回転方向を逆転から正転に切り替える。その後、エンジン1において、吸気、圧縮、膨張、排気の工程が開始されてエンジン1が始動した場合には、マイクロコンピュータ41は、電動発電機12の制御を発電制御に切り替える。
【0080】
図7は、電動発電機12において、クランクシャフト5のクランク角が、反転実行クランク角として設定された-675度に達した状態を示している。電動発電機12は、上述したように、11個の指標部a~kのうち、各通常指標部b~kと、指標部a~kのうちクランクシャフト5の逆転方向Rにおいて当該通常指標部の隣に設けられた他の指標部との間隔が30度に設定され、特異指標部aと、指標部a~kのうちクランクシャフト5の逆転方向Rにおいて当該特異指標部aの隣に設けられた指標部との間隔が60度に設定され、特異指標部aが、クランクシャフト5の逆転方向Rにおいてロータの回転基準位置Paから40度離れた位置に配置されているという構成を有している。このような構成を有している電動発電機12においては、図7に示すように、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したときに、通常指標部b~kのうち、特異指標部aからクランクシャフト5の正転方向において60度離れた通常指標部cの位置が検出基準位置Pdと一致する。特異指標部aからクランクシャフト5の正転方向において60度離れた通常指標部cは、クランクシャフト5が逆転しているときに、特異指標部aが検出基準位置Pdを通過してから検出基準位置Pdを通過する2個目の通常指標部に相当する。また、本実施例における通常指標部cは、上述した本発明の実施形態における反転判断指標部に相当する。
【0081】
図8はスイングバック制御の具体的な流れを示している。エンジン1が停止し、クランクシャフト5およびロータ13が停止している状態において、例えば、車両に設けられたメインコントローラからマイクロコンピュータ41にエンジン始動信号が出力されたとき、図8に示すスイングバック制御が開始される。なお、車両に設けられたメインコントローラは、車両のエンジン始動スイッチがオンになったとき、またはアイドリングストップ後にスロットルがオンになったときに、エンジン始動信号をマイクロコンピュータ41に出力する。
【0082】
スイングバック制御において、スイングバック制御部43は、まず、電動発電機12のロータ13をクランクシャフト5の逆転方向Rに回転させ、クランクシャフト5の逆転を開始させる(ステップS1)。
【0083】
続いて、スイングバック制御部43は、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて、特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過したか否かを判断する(ステップS2)。特異指標部aと、クランクシャフト5の逆転方向Rにおいて当該特異指標部の隣に設けられた指標部との間隔は、各通常指標部b~kと、クランクシャフト5の逆転方向Rにおいて当該通常指標部の隣に設けられた他の指標部との間隔と異なるので、スイングバック制御部43は、電磁ピックアップ32から出力される検出信号の間隔に基づいて、検出基準位置Pdを通過した指標部が特異指標部aであるのか、通常指標部b~kであるのかを判別することができる。
【0084】
特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した場合(ステップS2:YES)、続いて、スイングバック制御部43は、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点t1から、引き続き2個の通常指標部が検出基準位置Pdを通過する時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になったか否かを判断する(ステップS3)。
【0085】
ここで、図9は、上記時点t1から上記時点t2までの間に、電磁ピックアップ32から出力された検出信号の波形を示している。図5に示すように、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点t1において、逆転しているクランクシャフト5のクランク角がクランクシャフト5の逆転方向において圧縮上死点の手前のクランク角である場合には、図9中の(A)に示すように、電磁ピックアップ32から出力される検出信号の例えば正側の出力レベルが基準出力レベルVt以下になる。一方、図6に示すように、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点t1において、逆転しているクランクシャフト5のクランク角がクランクシャフト5の逆転方向において排気上死点の手前のクランク角である場合には、図9中の(b)に示すように、電磁ピックアップ32から出力される検出信号の例えば正側の出力レベルが基準出力レベルVtよりも大きくなる。このように、時点t1から時点t2までの間において、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が圧縮上死点手前である場合と、排気上死点手前である場合とで検出信号の出力レベルが異なる理由については、本発明の実施形態の説明の中で述べた通りである(なお、厳密には、本発明の実施形態の説明の中では、時点t2において、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が圧縮上死点手前である場合と排気上死点手前である場合とで検出信号の出力レベルが異なる理由について述べているが、それは、時点t1から時点t2までの間において、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が圧縮上死点手前である場合と排気上死点手前である場合とで検出信号の出力レベルが異なる場合にも当てはまる)。スイングバック制御部43は、ステップS3において、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点から、引き続き2個の通常指標部が検出基準位置Pdを通過する時点までの間に、電磁ピックアップ32から出力された検出信号の正側の出力レベルが基準出力レベルVt以下になったか否かを判断する。
【0086】
また、ステップS3において、スイングバック制御部43は、特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点t1に電磁ピックアップ32から出力された検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下であるか否かを判断してもよいし、特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過してから引き続き1個の通常指標部が検出基準位置Pdを通過した時点に電磁ピックアップ32から出力された検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下であるか否かを判断してもよいし、特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過してから引き続き2個の通常指標部が検出基準位置Pdを通過した時点t2に電磁ピックアップ32から出力された検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下であるか否かを判断してもよい。
【0087】
クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点t1から、引き続き2個の通常指標部が検出基準位置Pdを通過する時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になった場合には(ステップS3:YES)、続いて、スイングバック制御部43は、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて、特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過してから2個目の通常指標部が検出基準位置Pdを通過したか否かを判断する(ステップS4)。この判断は、特異指標部aが検出基準位置Pdを通過したことが認識された後に、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて、検出基準位置Pdを通過する通常指標部の個数をカウントすることにより行うことができる。
【0088】
そして、特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過してから2個目の通常指標部が検出基準位置Pdを通過した場合には(ステップS4:YES)、スイングバック制御部43は、ロータ13の回転方向を反転させ、クランクシャフト5の回転方向を逆転から正転に切り替える(ステップS7)。その後、エンジン1において、吸気、圧縮、膨張、排気の工程が開始されてエンジン1が始動した場合には(ステップS8:YES)、マイクロコンピュータ41は、電動発電機12の制御を発電制御に切り替える(ステップS9)。
【0089】
一方、ステップS3の判断の結果、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点t1から、引き続き2個の通常指標部が検出基準位置Pdを通過する時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下にならない場合には(ステップS3:NO)、続いて、スイングバック制御部43は、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて、時点t2の後に、特異指標部aが検出基準位置Pdを再び通過したか否かを判断する(ステップS5)。
【0090】
特異指標部aが検出基準位置Pdを再び通過した場合(ステップS5:YES)、続いて、スイングバック制御部43は、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて、特異指標部aが検出基準位置Pdを再び通過してから2個目の通常指標部が検出基準位置Pdを通過したか否かを判断する(ステップS6)。
【0091】
そして、特異指標部aが検出基準位置Pdを再び通過してから2個目の通常指標部が検出基準位置Pdを通過した場合には(ステップS6:YES)、スイングバック制御部43は、ロータ13の回転方向を反転させ、クランクシャフト5の回転方向を逆転から正転に切り替える(ステップS7)。その後、エンジン1において、吸気、圧縮、膨張、排気の工程が開始されてエンジン1が始動した場合には(ステップS8:YES)、マイクロコンピュータ41は、電動発電機12の制御を発電制御に切り替える(ステップS9)。
【0092】
ところで、上述したように、ロータケース14の周壁部16の外面には、n(nは3以上の整数)個の指標部が設けられ、スイングバック制御部43は、スイングバック制御において、検出信号に基づいて、クランクシャフトが逆転を開始した後に特異指標部が検出基準位置Pdを初めて通過した時点t1から、引き続きm(mは1以上n/2以下の整数)個の指標部が検出基準位置Pdを通過する時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になったか否かを判断し、時点t1から時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になった場合には、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が時点t2に反転実行クランク角に達したと判断し、一方、時点t1から時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になっていない場合には、時点t2の後に特異指標部が検出基準位置Pdを再び通過し、その後引き続きm個の指標部が検出基準位置Pdを通過した時点t3に、逆転しているクランクシャフトのクランク角が反転実行クランク角に達したと判断する。このように、本発明の実施例においては、上記nが3以上に制限され、mが1以上n/2以下に制限されている。これらの制限を設けた理由は、図6に示すように、エンジン1の始動直前において、クランクシャフト5がクランクシャフト5の正転方向において圧縮上死点の手前に停止している状態でスイングバック制御が行われる場合に、クランクシャフト5の逆転を開始させてから特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過するまでの間に、クランクシャフト5の回転数を十分に大きくし、特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点において、電磁ピックアップ32から出力される検出信号の出力レベルが基準出力レベルを確実に超えるようにするためである。
【0093】
具体的に説明すると、上述したように、本実施例では、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角であるときに、(n-1)個の通常指標部のうち特異指標部からクランクシャフト5の正転方向においてX度離れた通常指標部の位置が検出基準位置Pdと一致するように指標部a~kの配置および検出基準位置Pdが設定され、X度について、次の数式が成り立つ。
X={360/(n+1)}・m
したがって、上記数式を見ればわかる通り、mが大きくなると、Xが大きくなり、その結果、図6の場合、すなわち、エンジン1の始動直前において、クランクシャフト5がクランクシャフト5の正転方向において圧縮上死点の手前に停止している状態でスイングバック制御が行われた場合に、クランクシャフト5が逆転を開始してから特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過する時点におけるクランクシャフト5のクランク角が0度に近づく。そのため、図6の場合において、クランクシャフト5が逆転を開始してから特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過するまでの間に、クランクシャフト5の回転数が大きくならず、特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過した時点において、電磁ピックアップ32から出力される検出信号の出力レベルが基準出力レベルを超えないといった事態が発生する可能性がある。このような事態が発生すると、図8に示すスイングバック制御が正常に行われなくなる。このような事態の発生を防ぐために、nが3以上の整数である場合には、mを1以上n/2以下の整数に制限する。なお、nが3以上の整数である場合に、mを、1以上n/2未満の整数、または1以上n/3以下の整数に制限してもよい。また、nが4以上の整数である場合には、mを1以上n/4以下の整数に制限してもよい。
【0094】
本実施例では、反転クランク角が-675度であり、nが11であり、mが2であり、通常指標部の間隔が30度であるので、図6の場合において特異指標部aが検出基準位置Pdを初めて通過する時点のクランクシャフト5のクランク角は、次の計算により-255度となる。
-675+360+30×2=-255
また、mを1以上n/2以下の整数に制限し、nが11である場合に、mの最大値は5となる。反転クランク角が-675度であり、nが11であり、mが5であり、通常指標部の間隔が30度であるとき、図6の場合において特異指標部aが検出基準位置を初めて通過する時点のクランクシャフト5のクランク角は、次の計算により-165度となる。
-675+360+30×5=-165
【0095】
以上説明した通り、本発明の第1の実施例のエンジン始動装置11は、スイングバック制御において、クランクシャフト5を逆転させた後に特異指標部aが検出基準位置Pdを1回または2回通過してから2個目の通常指標部が検出基準位置Pdを通過したか否かを、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて判断し、当該2個目の通常指標部が検出基準位置Pdを通過したときに、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したと判断して、クランクシャフト5の回転方向を逆転から正転に切り替える。このように、本実施例のエンジン始動装置11は、スイングバック制御において、逆転させたクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したことを電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて認識する。したがって、逆転させたクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したことの認識が、エンジン1の温度によって不正確になることを抑制することができる。本実施例のエンジン始動装置11によれば、スイングバック制御において、逆転させたクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したことを正確に認識することができ、スイングバック制御によるエンジン1の始動を確実に行うことができる。
【0096】
また、本実施例のエンジン始動装置11によれば、スイングバック制御において、逆転させたクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したか否かの判断を、電動発電機12の回転制御を行うために設けた指標部a~kを利用して行うことができる。電動発電機12の回転制御とスイングバック制御とに指標部a~kを兼用することにより、電動発電機12の構造を単純化することができる。
【0097】
また、本実施例のエンジン始動装置11は、スイングバック制御において、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部が検出基準位置Pdを通過した時点t1から、引き続きm個(2個)の指標部が検出基準位置Pdを通過する時点t2までの間に検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否かを判断し、時点t1から時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になった場合には、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が時点t2に反転実行クランク角に達したと判断し、一方、時点t1から時点t2までの間に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下にならない場合には、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が時点t2に反転実行クランク角に達していないと判断する。この構成により、エンジン始動直前において、クランクシャフト5がクランクシャフト5の正転方向において圧縮上死点手前に停止している場合と、排気上死点手前に停止している場合とのいずれの場合においても、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したことを的確に判断することができる。
【0098】
なお、第1の実施例のエンジン始動装置11において、n(nは3以上の整数)個の指標部を備え、n個の指標部のうちの1個の指標部が特異指標部であり、スイングバック制御において、スイングバック制御部43は、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部が検出基準位置Pdを初めて通過し、その後引き続きm(mは1以上n未満の整数)個の指標部が検出基準位置を通過した第1の時点に検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否かを判断し、第1の時点に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になった場合には、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が第1の時点に反転実行クランク角に達したと判断し、一方、第1の時点に検出信号の出力レベルが基準出力レベル以下になっていない場合には、第1の時点の後に特異指標部が検出基準位置を再び通過し、その後引き続きm個の指標部が検出基準位置を通過した第2の時点に、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したと判断するようにしてもよい。この構成は、検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否かの判断を行うタイミングを、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部が検出基準位置Pdを初めて通過し、その後引き続きm個の指標部が検出基準位置を通過した時点に限定したものである。この構成によれば、mの制限を緩和することができる。
【0099】
また、第1の実施例のエンジン始動装置11において、n(nは3以上の整数)個の指標部を備え、n個の指標部のうちの1個の指標部が特異指標部であり、スイングバック制御部43は、スイングバック制御において、電磁ピックアップ32から出力された検出信号に基づいて、クランクシャフト5が逆転を開始した後に特異指標部が検出基準位置Pdを通過した時点において、検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否か判断し、当該時点において検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になった場合には、逆転しているクランクシャフト5のクランク角が当該時点に反転実行クランク角に達したと判断するようにしてもよい。この構成は、検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否かの判断、およびクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したか否かの判断を、特異指標部が検出基準位置Pdを通過した時点に行うこととしたものである。この構成よれば、検出信号の出力レベルが所定の基準出力レベル以下になったか否かの判断、およびクランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角に達したか否かの判断を行うタイミングを、特異指標部に基づいて容易に決定することができる。
【実施例0100】
図10は、本発明の第2の実施例のエンジン始動装置51を示している。第2の実施例のエンジン始動装置51において、電動発電機52のロータケース14の周壁部の外面にn個の指標部が設けられている。また、n個の指標部は(n-1)個の通常指標部および1個の特異指標部を含んでいる。また、n個の指標部はロータケース14の周方向においてそれぞれ等間隔に設けられている。さらに、(n-1)個の通常指標部はそれらの形状または大きさがそれぞれ互いに同一であり、特異指標部はその形状または大きさが各通常指標部と異なっている。また、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角であるときに、(n-1)個の通常指標部のうち特異指標部からクランクシャフト5の正転方向においてX度離れた通常指標部の位置と検出基準位置とが互いに一致するように、複数の指標部の配置および検出基準位置が設定され、X度について、次の数式が成り立つ。
X=(360/n)・m
【0101】
具体的には、図10に示すように、ロータケース14の周壁部の外面に12個の指標部a~lが設けられている。また、指標部a~lは11個の通常指標部b~lおよび1個の特異指標部aを含んでいる。また、指標部a~lはロータケース14の周方向においてそれぞれ等間隔に設けられている。さらに、通常指標部b~lはそれらの形状または大きさがそれぞれ互いに同一であり、特異指標部aはその形状または大きさが各通常指標部b~lと異なっている。より具体的には、特異指標部aは、ロータケース14の周方向において、各通常指標部b~lよりも長い。また、クランクシャフト5のクランク角が反転実行クランク角であるときに、通常指標部b~lのうち特異指標部aからクランクシャフト5の正転方向において60度離れた通常指標部cの位置と検出基準位置とが互いに一致するように、指標部a~lの配置および検出基準位置Pdが設定されている。
【0102】
第2の実施例のエンジン始動装置51によっても、第1の実施例のエンジン始動装置11と同様の作用効果が得られる。
【0103】
なお、上記各実施例では、磁界形成部の個数を12個、コイルの個数を18個、指標部の個数を11個または12個としたが、磁界形成部の個数、コイルの個数および指標部の個数はこれに限定されない。また、本発明のエンジン始動装置を適用するエンジンは車両用に限定されない。
【0104】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うエンジン始動装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
1 エンジン
2 クランクケース(エンジンケース)
3 シリンダ
5 クランクシャフト
6 ピストン
7 コネクティングロッド
11、51 エンジン始動装置
12、52 電動発電機(電動機)
13 ロータ
14 ロータケース
15 底板部
16 周壁部
18 クランクシャフト挿入穴(挿入穴)
21A~21L 磁界形成部
a~l 指標部
a 特異指標部
25 ステータ
26 コア
31U~31W コイル
32 電磁ピックアップ
35 駆動制御回路(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10