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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181725
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ナノカーボン材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/166 20170101AFI20221201BHJP
   C01B 32/162 20170101ALI20221201BHJP
   B01J 31/04 20060101ALI20221201BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20221201BHJP
   B01J 29/072 20060101ALI20221201BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C01B32/166
C01B32/162
B01J31/04 M
B01J23/755 M
B01J29/072 M
B01J31/22 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088829
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】714006565
【氏名又は名称】川上 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】川上総一郎
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC01A
4G146AC02A
4G146AD22
4G146AD37
4G146BA13
4G146BA17
4G146BC03
4G146BC28
4G146BC32A
4G146BC32B
4G146BC33A
4G146BC34B
4G146BC38A
4G146BC44
4G146BC46
4G169AA03
4G169AA06
4G169BA02B
4G169BA07B
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC29A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BE08A
4G169BE08B
4G169BE36A
4G169BE36B
4G169CB81
4G169DA02
4G169DA05
(57)【要約】
【課題】廃プラスチックを原料にしたカーボンナノ材料の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルからなる群から選択される一種類以上のポリマーを原料にして有機遷移金属化合物もしくは遷移金属担持酸化物と媒体を添加し、350~800℃ の範囲内の温度、2MPa~50MPaの範囲内の圧力下で反応させる工程を含むことを特徴とするナノカーボン材料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルからなる群から選択される一種類以上のポリマーを原料に有機遷移金属化合物もしくは遷移金属担持酸化物と媒体を添加し、350~800℃ の範囲内の温度、2MPa~50MPaの範囲内の圧力下で反応させる工程を含むことを特徴とするナノカーボン材料の製造方法。
【請求項2】
前記媒体としては、二酸化炭素、水、炭化水素、エーテル、エステル、ケトン、アルコールからなる群から選択される一種以上の物質であることを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン材料の製造方法。
【請求項3】
前記炭化水素が、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ペンタン、ペンテン、ペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘキセン、ヘプタン、ヘプテン、オクタン、オクテン、ノナン、ノネン、デンカン、デセン、トルエン、キシレンの群から選択される一種以上の化合物であることを特徴とする請求項2に記載のナノカーボン材料の製造方法。
【請求項4】
前記アルコールが、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデカノールから選択される一種以上のアルコールであることを特徴とする請求項2に記載のナノカーボン材料の製造方法。
【請求項5】
前記有機遷移金属化合物もしくは遷移金属担持酸化物を構成する遷移金属元素が、ニッケル、コバルト、 鉄、から成る群から選択される一種類以上の元素であることを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン材料の製造方法。
【請求項6】
前記有機遷移金属化合物が、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン、ギ酸ニッケル、酢酸鉄、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、シュウ酸鉄、シュウ酸ニッケル、シュウ酸コバルト、くえん酸ニッケル、くえん酸鉄、ナフテン酸ニッケル、ニッケルフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、ニッケルアセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート 、鉄アセチルアセトナート、ニッケルカルボニル、コバルトカルボニル、鉄カルボニル、ビス(トリフェニルホスフィン)ジカルボニルニッケル、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルから成る群から選択される一種以上を用いることを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン材料の製造方法。
【請求項7】
得られるナノカーボン材料を構成するユニットの直径が2nm~400nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン材料の製造方法。
【請求項8】
得られるナノカーボン材料のユニットの長さが100nm~10000nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン材料の製造方法に関する。より詳しくは、安価な原料と簡単な製造装置からナノカーボン材料を量産可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源から合成されるプラスチックは、安価で軽いという利点から、多くの生活で使用されてきているが、産業廃棄物として排出される量も多く、環境を汚染し、既に深海にも及び、動物の身体内部にまでマイクロプラスチックとして取り込まれている。そのため、産業廃棄物としてのプラスチックス(廃プラスチック)のリサイクルが必須でますます重要になって来ている。しかし、廃プラスチックを再生してプラスチック原料として一部使用する取り組みはされているものの、再生コストが高く、完全なリサイクルには程遠い状況である。再生せず、廃プラスチックを発電用の燃料として燃焼するサーマルリサイクルが大部分で、二酸化炭素排出により地球の温暖化が進む状況下では好ましくはない。廃プラスチックのマテリアルリサイクルは、混在プラスチックの分別、複合材からの素材分離など高度な処理技術が必要とされ、マテリアル材の価格は安価ではない。今後リサイクルをさらに進める技術開発が望まれている。
【0003】
一方、ナノカーボンの代表例であるカーボンナノチューブは、電界放出の性能に優れていること、電気化学反応でリチウムを貯蔵放出すること、機械強度を補うことに優れていること、水素吸蔵能にすぐれていることから、FED(Field Emission Display)などの発光デバイスの電極材料、リチウム二次電池の電極材料、樹脂の補強材料、水素吸蔵システムの水素貯蔵材料などへの応用が研究されている。
【0004】
カーボンナノチューブの製造方法としては、炭化水素などの炭素原料を含むガス雰囲気下でのアーク放電による方法、黒鉛をターゲットにレーザーを照射させて蒸発させて形成するレーザー蒸発法による方法、コバルト金属もしくはニッケル金属の触媒を配した基板上でアセチレンなどの炭素原料となるガスを熱分解することによる方法などが知られている。特許文献1では炭素蒸気と、ルテニウム、ロジウム、パラジウムおよび白金の非磁性遷移金属とを接触させてアーク放電でカーボンナノチューブを気相成長させる製造方法が提案されている。特許文献2では高周波プラズマの周縁部に原料の供給とは独立に、炭素をエッチングする水素ガスやアルゴンガスを供給することにより、収率よくカーボン単層ナノチューブの製造方法が提案されている。特許文献3ではカーボンロッドにレーザーを照射して単層カーボンナノチューブを製造する方法が、特許文献4では芳香族化合物を含有する原料を、遷移金属元素を含有する触媒存在下、高温高圧下で超臨界流体又は亜臨界流体と接触させてナノカーボン材料を製造する製造方法が、それぞれ提案されている。非特許文献1では、触媒前駆体および反応促進剤を含む炭化水素系の溶液を原料としてスプレーで霧状にして高温の加熱炉に導入することによって、流動する気相中で単層カーボンナノチューブを製造する方法も開発されている。
【0005】
また、近年、プラスチック類による環境汚染が世界的な重大な問題となっており、プラスチックの利用削減及びプラスチック代替製品の使用並びに廃プラスチックのリサイクル対応が急務となっている。特許文献5では超臨界水または亜臨界水と廃プラスチックを反応させて廃プラスチックを加水分解して高純度のモノマーを回収する連続運転の可能な廃プラスチック分解処理方法が提案されている。特許文献6ではハロゲンを含む廃プラスチックをアルカリ金属化合物とともに超臨界水を含む高温熱水と接触、反応させてガス化する方法が提案されている。特許文献7では、水を除く超臨界流体を熱媒として高圧加熱下で樹脂含有廃棄物を熱分解した後に、分解生成物を冷却減圧して揮発した塩素を分離して再利用する一方、抽出物および熱分解槽で得られた脱塩残留物を燃料として回収する装置が提案されている。特許文献8では、不飽和ポリエステル樹脂の熱分解温度未満とした亜臨界水を用いて分解して多価アルコール及び有機酸を高収率で回収するが提案されている。
【0006】
しかしながら、上記先行技術文献のいずれの提案において、世界的環境問題となっている廃プラスチックを原料に高付加価値のナノカーボン材料を製造する方法は開示されておらず、廃プラスチック材料を高付加価値材料に転換する製造方法の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-95509号公報
【特許文献2】特開平9-188509号公報
【特許文献3】特開平10-273308号公報
【特許文献4】特開2003-221217号公報
【特許文献5】特開2000-53800号公報
【特許文献6】特開2001-288480号公報
【特許文献7】特開2003-221217号公報
【特許文献8】特開2006-232942号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】産総研TODAY Vol.10,No.7,pp.13-14,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安価な廃プラスチックを使用することが可能なナノカーボン材料の製造方法を提供することを目的とする。なお、本発明で製造されるナノカーボンは、リチウムイオン電池の電極の導電助剤や静電気発生を抑制する添加剤、もしくは強度を高めるためのプラスチック添加材料として使用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルからなる群から選択される一種類以上のポリマーを原料に、有機遷移金属化合物もしくは遷移金属担持酸化物と媒体を添加し、350~800℃の範囲内の温度、2MPa~50MPaの範囲内の圧力下で反応させる工程を含むことを特徴とするナノカーボン材料の製造方法である。350℃は遷移金属化合物を触媒にしてカーボン材料が形成される下限温度で、800℃は製作が比較的容易な耐圧反応装置の使用上限温度である。なお、耐圧反応装置の上限温度はヒーター性能、並びに反応容器の材質や密閉シール部材の耐熱温度によって決まる。
【0011】
前記媒体としては、二酸化炭素、水、炭化水素、エーテル、エステル、ケトン、アルコールからなる群から選択される一種以上の物質であることが好ましい。
さらに、前記炭化水素が、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ペンタン、ペンテン、ペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘキセン、ヘプタン、ヘプテン、オクタン、オクテン、ノナン、ノネン、デンカン、デセン、トルエン、キシレンの群から選択される一種以上の炭化水素化合物であることが好ましい。
前記アルコールとしては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデカノールから選択される一種以上のアルコールであることが好ましい。
【0012】
また、前記媒体に、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン、トリフェニレン、テトラセン、ペンタセン、ベンゾピレン、グリセン、コロネン、オバレンから成る群から選択される一種以上の多環芳香族炭化水素を添加してもよい。多環芳香族炭化水素の添加は高温高圧化の反応でグラフェン構造のカーボン材料の成長を促す。
【0013】
前記350~800℃ の範囲内の温度、2MPa~50MPaの範囲内の圧力の高温高圧下では、前記媒体の少なくとも一種が超臨界流体もしくは亜臨界流体として存在するのが好ましい。上記超臨界流体もしくは亜臨界流体は高密度でありながら、粘度が低く、流動性に富むので、化学反応が促進される。
また、前記反応系に、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス、から選択される一種以上の不活性ガスを添加してもかまわない。反応容器内の圧力をこれにより調整することができる。
【0014】
前記有機遷移金属化合物もしくは遷移金属担持酸化物を構成する遷移金属元素としては、ニッケル、コバルト、 鉄、から成る群から選択される一種類以上の元素であることが好ましい。
また、前記有機遷移金属化合物としては、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン、ギ酸ニッケル、酢酸鉄、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、シュウ酸鉄、シュウ酸ニッケル、シュウ酸コバルト、くえん酸ニッケル、くえん酸鉄、ナフテン酸ニッケル、ニッケルフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、ニッケルアセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート 、鉄アセチルアセトナート、ニッケルカルボニル、コバルトカルボニル、鉄カルボニル、ビス(トリフェニルホスフィン)ジカルボニルニッケル、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルから成る群から選択される一種以上を用いることが好ましい。
【0015】
なお、前記工程得られた反応生成物を400~2800℃の範囲内の温度で熱処理する工程をさらに有することが好ましい。さらに好ましい熱処理の温度範囲として600~2200℃が挙げられる。上記熱処理はアルゴンガス、ヘリウムガス及び窒素ガスから選択される一種以上からなるガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法で得られるナノカーボン材料は、好ましくは、電子顕微鏡下で観察されるユニットの形状が、球状粒子、繊維状、チューブ状、フレーク状のいずれかである。かかる形状の材料において、ユニットの直径は2nm~400nmの範囲にあることが好ましい。本発明の製造方法で得られるナノカーボン材料は、透過電子顕微鏡観察では、平均直径が2nm~400nmの微細構造のカーボンユニットが集まった集合体であることが好ましい。また、本発明の製造方法で得られるナノカーボン材料のユニットの長さが100nm~10000nmの範囲にあることが好ましい。さらに、本発明で得られるナノカーボン材料はその内部もしくは先端部に遷移金属元素を有していても良い。具体的には、遷移金属、遷移金属酸化物、遷移金属炭化物のいずれかを有していても良い。
なお、前記工程で得られた反応生成物であるナノカーボンを、永久磁石もしくは電磁石の磁力により捕集して純度を増す精製工程を有していても良い。
【0017】
また、前記製造工程で発生する水、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素、塩素ガス、塩化水素から成る群から選択される少なくとも一種類以上の物質を冷却及び/または膜分離方法にて回収する工程を有することも好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、各種プラスチックを原料にするナノカーボンの製造方法を提供することができる。また、本発明の製造方法により、産業廃棄物として排出される各種プラスチック(廃プラスチック)を高付加価値のナノカーボン材料に転換できるため、間接的に廃プラスチックの環境への排出を低減し海洋汚染等を抑制し、地球環境の保全に貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のナノカーボン材料の製造方法は、各種プラスチック材料を原料に、有機遷移金属化合物もしくは遷移金属担持酸化物と媒体を添加し、350~800℃の範囲内の温度、2MPa~50MPaの範囲内の圧力下で反応させる工程を含むことを特徴とする製造方法である。上記プラスチック材料としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルからなる群から選択される一種類以上のポリマーが挙げられるが、上記ポリマーに限定されるものではない。また、本発明のナノカーボンの製造方法では、上記ポリマーの溶解度パラメータ値の近傍に前記媒体の溶解度パラメータ値を近づけることが好ましい。つまり、上記ポリマーの溶解度パラメータ値に合うように媒体を選択することが好ましい。前記反応温度の350℃以上で上記ポリマーは溶融し、上記ポリマーの溶解度パラメータ値に近い媒体を選択することで媒体とポリマーが均一に混合することができ、有機遷移金属化合物もしくは遷移金属担持酸化物を触媒に、ナノカーボン材料が合成される。上記ポリマーは既に長い炭素-炭素結合を有しており、不活性ガス下で高温焼成することで炭化は進むが、同時に炭化水素、炭酸ガス、水の生成もあり、グラフェン構造などの構造を有するナノカーボン材料の生成は容易ではない。本発明の製造方法を用いて、上記ポリマーを触媒と媒体存在下、高温高圧条件にて反応させることによって、ナノカーボン材料に転換することができる。
【0020】
また、前記プラスチックの原料との形状としては、塊状、フレーク状、ペレット状、粉体状であることが好ましく、取り扱いの容易性から、フレーク状もしくはペレット状であることがより好ましい。
【0021】
前記媒体としては、二酸化炭素、水、炭化水素、エーテル、エステル、ケトン、アルコールからなる群から選択される一種以上の物質であることが好ましい。
二酸化炭素は低い温度で流動性の高い超臨界流体になり、極性溶媒との混合比率を選択することで幅広い溶解度パラメータ値を有する。水は無毒、不燃で、熱力学的に安定であり、超臨界流体の状態で各種ポリマーを分解することが可能である。炭化水素、エーテル、ケトンはポリマーを溶解する溶媒に成り得る。炭化水素はそれ自体が触媒上で反応してナノカーボン材料にも成り得る。アルコールは、ナノカーボン材料の原料にも成り得るし、分子中に酸素原子を有することで、ナノカーボン材料の成長反応を制御し、好ましい分子構造を形成する助けになり得る。エーテル、ケトンも分子中に酸素原子を有することで、アルコールと同様にナノカーボン材料の成長反応を制御し、好ましい分子構造を形成する助けになり得る。
【0022】
前記炭化水素としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ペンタン、ペンテン、ペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘキセン、ヘプタン、ヘプテン、オクタン、オクテン、ノナン、ノネン、デンカン、デセン、トルエン、キシレンの群から選択される一種以上の炭化水素化合物であることが好ましい。
【0023】
前記アルコールとしては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデカノールから選択される一種以上のアルコールであることが好ましい。
【0024】
なお、各種プラスチック材料の材質、あるいは各種プラスチック材料の混合比に合わせて、ナノカーボン材料の収率が高い媒体種もしくは各種媒体と混合比率を選択することが好ましい。異なる媒体を混合した媒体を使用することで、溶解度パラメータを調整でき、各種ポリマーが媒体に溶解しやすくなり、化学反応が起こりやすくなる。
【0025】
前記350~800℃ の範囲内の温度、2MPa~50MPaの範囲内の圧力の高温高圧下では、前記媒体の少なくとも一種が超臨界流体もしくは亜臨界流体として存在するのが好ましい。前記処理温度は高い方がナノカーボンの結晶構造が発達しやすく結晶性が高まる。触媒反応にてナノカーボンの成長を促すためには、温度条件としては375℃以上がより好ましく、450℃以上がさらに好ましい。また、ナノカーボン材料の結晶性を高めるためには、600℃以上、さらには800℃が好ましい。
高温にすることでポリマーが溶融し、流動性が高まる。高圧にすることで、ポリマーに媒体が浸透しやすくなり、溶解が容易になる。さらに、高温高圧化では液体の粘度が低下する。
【0026】
また、前記媒体に、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン、トリフェニレン、テトラセン、ペンタセン、ベンゾピレン、グリセン、コロネン、オバレンから成る群から選択される一種以上の多環芳香族炭化水素を添加してもよい。上記多環芳香族炭化水素の添加でグラフェン構造が形成されやすくなる。
また、前記反応系に、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス、から選択される一種以上の不活性ガスを添加することも好ましい。
【0027】
前記有機遷移金属化合物もしくは遷移金属担持酸化物を構成する遷移金属元素としては、ニッケル、コバルト、 鉄、から成る群から選択される一種類以上の元素であることが好ましい。
また、前記有機遷移金属化合物としては、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン、ギ酸ニッケル、酢酸鉄、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、シュウ酸鉄、シュウ酸ニッケル、シュウ酸コバルト、くえん酸ニッケル、くえん酸鉄、ナフテン酸ニッケル、ニッケルフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、ニッケルアセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート 、鉄アセチルアセトナート、ニッケルカルボニル、コバルトカルボニル、鉄カルボニル、ビス(トリフェニルホスフィン)ジカルボニルニッケル、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルが挙げられ、上記有機遷移金属化合物は混合して用いてもよく、原料となるポリマーのプラスチック材と媒体に合わせて選択される。上記有機遷移金属化合物は分子構造中に有機物構造を含有するために、ポリマーとの相溶性が増し、触媒反応が起きやすくなる。
前記遷移金属担持酸化物の担体の例としては、シリカ、アルミナ、ゼオライト、活性炭、チタニアが挙げられる。前記遷移金属担持酸化物は高比表面積の担体表面に遷移金属元素が均一に分散されており、少ない遷移金属量で遷移金属元素の触媒効率が高まる。
【0028】
なお、前記工程得られた反応生成物であるナノカーボン材料を400~2800℃の範囲内の温度で熱処理する工程をさらに有することが好ましい。さらに好ましい熱処理の温度範囲として600~2200℃が挙げられる。上記熱処理はアルゴンガス、ヘリウムガス及び窒素ガスから選択される一種以上からなるガス雰囲気下で行うことが好ましい。高温で熱処理することで、ナノカーボン材料の純度を高め、結晶性も高めることができる。
【0029】
本発明の製造方法で得られるナノカーボン材料は、好ましくは、電子顕微鏡下で観察されるユニットの形状が、球状粒子、繊維状、チューブ状、フレーク状のいずれかである。かかる形状の材料において、ユニットの直径は2nm~400nmの範囲にあることが好ましい。本発明の製造方法で得られるナノカーボン材料は、透過電子顕微鏡観察では、平均直径が2nm~400nmの微細構造のカーボンユニットが集まった集合体であることが好ましい。また、本発明の製造方法で得られるナノカーボン材料のユニットの長さが100nm~10000nmの範囲にあることが好ましい。さらに、本発明で得られるナノカーボン材料はその内部もしくは先端部に遷移金属元素を有していても良い。具体的には、遷移金属、遷移金属酸化物、遷移金属炭化物のいずれかを有していても良い。
なお、前記工程で得られた反応生成物であるナノカーボンを、永久磁石もしくは電磁石の磁力により捕集して純度を増す精製工程を有していても良い。
【0030】
また、前記製造工程で発生する水、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素、塩素ガス、塩化水素から成る群から選択される少なくとも一種類以上の物質を冷却及び/または膜分離方法にて回収する工程を有することも好ましい。
本発明の製造方法により形成されるナノカーボン材料の形状は電子顕微鏡観察により、その結晶性等は、X線回折、透過電子顕微鏡観察、ラマン分光分析によって、観察することができる。
【0031】
本発明の製造方法を用いたナノカーボンの作製例としては、以下の手順で行う。
耐食性並びに耐圧性の高温高圧反応容器に原料のプラスチックと有機遷移金属化合物もしくは遷移金属担持酸化物の触媒を挿入し、排気した後、媒体を導入する。次いで、所定の反応温度まで上昇させ、所定時間反応の後、室温以下に冷却した後、反応生成物を取り出す。なお、冷却後の反応容器内の圧力が高い場合はガスを排出した後、反応生成物を取り出す。
さらに、上記反応生成物の純度もしくはその用途によっては、洗浄処理、さらなる熱処理を行う。
【実施例0032】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
〈実施例1〉
ハステロイ(登録商標:Ni-Mo合金)製耐圧容器に、炭素源の原料としてフレーク状のポリエチレン、媒体1としてシクロヘキサン、媒体2としてドライアイス(二酸化炭素)、触媒としてニッケル担持シリカを各々20対30対70対1の質量比率で入れて混合させた後、密封し、温度450℃で6時間反応させて、カーボン材料を得る。なお、ここでドライアイスの代わりに二酸化炭素の高圧ボンベを用いて、外部から二酸化炭素を反応容器中に供給することも可能である。
前記反応圧力の調整は、ドライアイスが気化して炭酸ガス(二酸化炭素)になることを利用して、この炭酸ガスを反応容器外に排出することで行う。具体的には、予め、反応容器の加熱前の圧力と反応容器の温度上昇に伴う圧力上昇の関係、温度-圧力曲線を計測しておき、所定の温度での所望の圧力になるように、加熱前に炭酸ガスを反応容器外に排出することで、上記圧力調整を行う。この圧力調整はドライアイスの温度下で行うため、原料となるシクロヘキサン等の炭化水素の蒸気圧は極めて低く、反応容器外に排出される原料は無視できる。
【0034】
〈実施例2〉
ハステロイ製耐圧容器に、炭素源の原料としてフレーク状のポリプロピレン、媒体1として1-ペンテン、媒体2としてドライアイス、触媒としてニッケロセンを各々20対30対70対1の質量比率で入れて混合させた後、密閉して、実施例1と同様な操作でカーボン材料を作製する。
【0035】
〈実施例3〉
ハステロイ製耐圧容器に、炭素源の原料としてフレーク状のポリスチレン、媒体1としてトルエン、触媒としてギ酸ニッケルを各々20対100対1の質量比率で入れて混合させた後、密閉して、実施例1と同様な操作でカーボン材料を作製する。
【0036】
〈実施例4〉
ハステロイ製耐圧容器に、炭素源の原料としてフレーク状のポリエチレンテレフタレート、媒体1としてn-ヘキサノール、媒体2としてドライアイス、触媒としてニッケル担持シリカを各々20対30対70対1の質量比率で入れて混合させた後、密閉して、実施例1と同様な操作でカーボン材料を作製する。
【0037】
〈実施例5〉
ハステロイ製耐圧容器に、炭素源の原料としてフレーク状のポリエチレンとポリスチレン、媒体1としてアセトン、媒体2としてドライアイス、触媒としてコバルトセンを各々10対10対30対70対1の質量比率で入れて混合させた後、密閉して、実施例1と同様な操作でカーボン材料を作製する。
【0038】
〈実施例6〉
ハステロイ製耐圧容器に、炭素源の原料としてフレーク状のポリ塩化ビニル、媒体1としてイオン交換水、媒体2としてエタノール、触媒として酢酸ニッケル、媒体3としてドライアイスを各々20対70対20対1対10の質量比率で入れて混合させた後、密閉して、温度600℃で2時間反応させて、カーボン材料を得る。
【0039】
〈実施例7〉
ハステロイ製耐圧容器に、炭素源の原料としてフレーク状のポリエチレン、媒体1としてn-ヘキサン、触媒としてフェロセンを各々20対100対1の質量比率で入れて混合させた後、密閉して、温度800℃で1時間反応させて、カーボン材料を得る。
【0040】
〈実施例8〉
ハステロイ製耐圧容器に、炭素源の原料としてフレーク状のポリエチレンテレフタレート、媒体1として1-ブタノール、触媒としてニッケル担持シリカを各々20対100対1の質量比率で入れて混合させた後、密閉して、温度800℃で1時間反応させて、カーボン材料を得る。
【0041】
〈実施例9〉
ハステロイ製耐圧容器に、炭素源の原料としてフレーク状のポリスチレン、媒体1としてエタノール、媒体2としてドライアイス、触媒として鉄-コバルト担持ゼオライト、を各々20対30対70対1の質量比率で入れて混合させた後、密閉して、温度800℃で1時間反応させて、カーボン材料を得る。
【0042】
〈実施例10〉
実施例1において反応温度を350℃にした以外は、実施例1と同様な操作でカーボン材料を得る。
【0043】
〈実施例11〉
実施例1において反応温度を375℃にした以外は、実施例1と同様な操作でカーボン材料を得る。
【0044】
〈実施例12〉
実施例1得られたカーボン材料の一部をアルゴン気流中にて、1500℃で2時間熱処理してカーボン材料を調製する。
【0045】
〈比較例1〉
実施例1において、ポリマー材料を添加しないで実施例1と同様な操作を行い、カーボン材料を得る。
【0046】
〈比較例2〉
実施例2において、ポリマー材料を添加しないで実施例2と同様な操作を行い、カーボン材料を得る。
【0047】
〈比較例3〉
実施例3において、ポリマー材料を添加しないで実施例3と同様な操作を行い、カーボン材料を得る。
【0048】
〈比較例4〉
実施例4において、ポリマー材料を添加しないで実施例4と同様な操作を行い、カーボン材料を得る。
【0049】
〈比較例5〉
実施例5において、ポリマー材料を添加しないで実施例5と同様な操作を行い、カーボン材料を得る。
【0050】
〈比較例6〉
実施例6において、ポリマー材料を添加しないで実施例6と同様な操作を行い、カーボン材料を得る。
【0051】
〈比較例7〉
実施例7において、ポリマー材料を添加しないで実施例7と同様な操作を行い、カーボン材料を得る。
【0052】
〈比較例8〉
実施例8において、ポリマー材料を添加しないで実施例8と同様な操作を行い、カーボン材料を得る。
【0053】
〈比較例9〉
実施例9において、ポリマー材料を添加しないで実施例9と同様な操作を行い、カーボン材料を得る。
【0054】
〈比較例10〉
実施例1において反応温度を300℃にした以外は、実施例1と同様な操作でカーボン材料を得る。
【0055】
〈比較例11〉
実施例9においてポリマー材料を添加しないで、媒体1としてエタノール、媒体2としてドライアイス、触媒として鉄-コバルト担持ゼオライト、を各々50対70対1の質量比率で入れて混合させた後、密閉して、温度800℃で1時間反応させて、カーボン材料を得る。
【0056】
なお、上記実施例1~11、ならびに比較例1~10の各温度条件下での圧力は2~50MPaの範囲内になる。
【0057】
[生成物の評価]
上記各実施例と比較例で得られるカーボン材料は、収量、電子顕微鏡観察での形状、X線回折チャートのピーク位置と半価幅、ラマンスペクトルのピーク位置と強度で評価される。
【0058】
得られたカーボン材料の収量を、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4、実施例5と比較例5、実施例6と比較例6、実施例7と比較例7、実施例8と比較例8、実施例9と比較例9、実施例9と比較例11をそれぞれ比較すると、いずれもポリマー材料を炭素原料として用いた実施例の方が比較例より得られるカーボン材料の収量が大きい。また、実施例5の通り、種別の異なるポリマーを混合してもカーボン材料の生成が可能である。
【0059】
各実施例で得られるカーボン材料の走査電子顕微鏡観察では、直径約10~100nm、長さ約200~1000nmの、ほぼ均一な無数の繊維状ナノカーボンが観察される。また、800℃処理で得られる実施例7,8,9で得られるカーボン材料の透過電子顕微鏡観察では多層カーボンナノチューブが観察される。
【0060】
CuKαの特性X線を回折に使用したX線回折分析では、2θ=25.5~26.5°のカーボン由来の観察ピークが実施例と比較例で得られたカーボン材料に観察される。実施例1と実施例12のカーボン材料はX線回折分析では、カーボン由来の観察ピークの半価幅が実施例12の方がわずかながら狭い。450℃と800℃の熱処理で得られた各実施例のカーボン材料は、800℃処理の方がX線回折チャートのカーボン由来の観察ピークの半価幅が狭い鋭いピークになり、結晶性が高い。
【0061】
カーボン材料のラマン分光測定で得られるラマンスペクトルではグラフェン構造(sp結合)に由来する1580cm-1付近のピーク(以下Gバンドと略す)と構造の乱れと欠陥に起因するバンドとして知られている1360cm-1のピーク(以下 D バンドと略す)、Gバンドに対するDバンドのピーク強度のR値(I1360/I1580)が大きくなると構造の乱れが大きくなること知られており、前記実施例と比較例の800℃で作製されたカーボン材料のR値は、450℃で作製されたカーボン材料より小さく、グラフェン構造が発達した構造を有する。
【0062】
以上、本発明の製造方法では、産業廃棄物として廃棄されるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニルも、原料にでき、ナノカーボン材料を製造できることがわかる。また、プラスチックのリサイクルの場合と異なり、本発明の製造方法ではプラスチックのポリマー種の分別をすることなく、ポリマー種が混合されたプラスチックであってもカーボン材の製造原料に使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上、説明してきたように、本発明によれば、安価な廃プラスチックを原料にしたカーボンナノ材料の製造方法を提供することができる。