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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181729
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
C08L27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088835
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000167820
【氏名又は名称】広島化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126310
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】金川 沙織
(72)【発明者】
【氏名】森 俊和
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD031
4J002CD162
4J002DC007
4J002EH146
4J002EJ028
4J002EJ038
4J002FD022
4J002FD026
4J002FD037
4J002FD078
4J002GF00
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】加工安定性を損なうことなく暗所黄変やピンキング等の変色を抑制して耐変色性に優れたポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、可塑剤を10重量部以上60重量部以下、及び安定剤を1重量部以上5重量部以下含有し、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤を配合しないか、又は、フェノール系酸化防止剤を配合する場合に、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対する含有量が0.06重量部以下で、かつ全組成物中の含有量が500重量ppm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、可塑剤を10重量部以上60重量部以下、及び安定剤を1重量部以上5重量部以下含有し、
酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤を配合しないか、又は、フェノール系酸化防止剤を配合する場合に、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対する含有量が0.06重量部以下で、かつ全組成物中の含有量が500重量ppm以下である、
ことを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂フィルム。
【請求項2】
前記可塑剤は、フタル酸エステル系可塑剤及びエポキシ系可塑剤が併用される請求項1に記載のポリ塩化ビニル系樹脂フィルム。
【請求項3】
前記安定剤は、Ba-Zn系複合安定剤である請求項1又は請求項2に記載のポリ塩化ビニル系樹脂フィルム。
【請求項4】
前記安定剤は、フェノール系酸化防止剤を含まない安定剤組成物である請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のポリ塩化ビニル系樹脂フィルム。
【請求項5】
前記請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを床材本体の上層を構成するクリア層として用いた床材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの技術に関し、より詳細には、主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂に少なくとも可塑剤及び安定剤を含有するポリ塩化ビニル系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ塩化ビニル系樹脂は、加工性、柔軟性、透明性に優れた樹脂として、例えば、包装フィルムや容器、農業用フィルム、工業用フィルム、建材用フィルム、床材等に幅広く使用されている。中でも、床材用のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムとしては、シート状又はタイル状の床材本体の上層を構成するクリア層として多くの床材に用いられている。
【0003】
この種の床材用のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂に対して可塑剤、安定剤、及び酸化防止剤等の各種配合剤を含有したポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなり、カレンダーロール機やTダイ成形機等にてフィルム状に成形される。ポリ塩化ビニル系樹脂組成物においては、生産加工時や使用時のポリ塩化ビニル系樹脂の酸化劣化を防止するために各種の配合剤が好適に選択されて配合されている。
【0004】
ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムに配合される酸化防止剤としては、一般的にはフェノール系酸化防止剤が多く用いられている。フェノール系酸化防止剤は、アルキルラジカルを捕捉する添加剤として卓越した効果を発揮するが、一方で、熱・湿度・NOx(窒素酸化物)等の影響を受けてキノン系化合物へと変化するため、フェノール系酸化防止剤の構造変化に起因する変色(暗所黄変・ピンキング等)が発生し易いという問題がある。特に、NOxは、ボイラーやエンジンあるいは暖房器具等からも日常的に発生する反応性ガスの一つであるため、屋内床材用のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムにフェノール系酸化防止剤を用いる場合には、より高度な変色制御が要求される。
【0005】
かかる観点から、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されるように、フェノール系酸化防止剤の構造変化に起因する変色(暗所黄変・ピンキング等)を抑制することを目的として、フェノール系酸化防止剤に対して所定のリン系酸化防止剤を組み合わせて配合した樹脂組成物が提案されている。しかしながら、特許文献1及び特許文献2にて開示される樹脂組成物では、ポリオレフィン系樹脂組成物に対する変色抑制効果は期待できるものの、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物に対しては、単にフェノール系酸化防止剤に他の酸化防止剤を組み合わせて配合しただけでは、期待される耐変色性を発揮できず、反って加工安定性が悪化してしまう場合があった。
【0006】
このように、従来のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムでは、加工安定性及び耐変色性の点で酸化防止剤の選択と配合に改善の余地を残したものとなっているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57-202346号公報
【特許文献2】特開平9-255827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムに関し、前記従来の課題を解決するもので、加工安定性を損なうことなく暗所黄変やピンキング等の変色を抑制して耐変色性に優れたポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂に対して少なくとも可塑剤及び安定剤を含むポリ塩化ビニル系樹脂組成物において、フェノール系酸化防止剤を選択的に配合することで、加工安定性を保持しながら耐変色性を高めて、NOx等による変色(暗所黄変・ピンキング等)を抑制した従来にないポリ塩化ビニル系樹脂フィルムが得られることを見出し、本発明の完成に至ったのである。
【0010】
すなわち、請求項1においては、主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、可塑剤を10重量部以上60重量部以下、及び安定剤を1重量部以上5重量部以下含有し、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤を配合しないか、又は、フェノール系酸化防止剤を配合する場合に、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対する含有量が0.06重量部以下で、かつ全組成物中の含有量が500重量ppm以下であるものである。
【0011】
請求項2においては、前記可塑剤は、フタル酸エステル系可塑剤及びエポキシ系可塑剤が併用されるものである。
【0012】
請求項3においては、前記安定剤は、Ba-Zn系複合安定剤であるものである。
【0013】
請求項4においては、フェノール系酸化防止剤を含まない安定剤組成物であるものである。
【0014】
請求項5においては、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを床材本体の上層を構成するクリア層として用いた床材であるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、加工安定性を損なうことなく暗所黄変やピンキング等の変色を抑制して耐変色性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂に対して少なくとも可塑剤及び安定剤を含み、フェノール系酸化防止剤を選択的に配合したポリ塩化ビニル系樹脂組成物よりなるフィルム状の樹脂成形体として形成されている。
【0017】
1.ポリ塩化ビニル系樹脂
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムでは、主材として、フィルム状成形体とした場合に透明性に優れ、かつ柔軟性に富むポリ塩化ビニル系樹脂が用いられる。ポリ塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルを主モノマーとする種々のポリマーであり、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと他のモノマーとの共重合体を用いることができる。この内、共重合体としては、例えば、ウレタン-塩化ビニル共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル-塩ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル共重合体等が挙げられる。塩化ビニルの単独重合体、及び塩化ビニルと他のモノマーとの共重合体は、少なくとも1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、特に限定するものではないが、通常用いられるJIS K 6721に基づいた平均重合度が400以上3000以下のものを用いることができ、加工性、成形性の点から、好ましくは平均重合度が700以上1700以下のものが用いられ、より好ましくは平均重合度が900以上1500以下のものが用いられる。
【0019】
2.可塑剤
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムでは、ポリ塩化ビニル系樹脂に可塑剤が混練されて用いられる。可塑剤としては、ポリ塩化ビニル系樹脂に通常用いられるものとして、例えば、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘキシルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジオクチルセバケート等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;トリオクチルトリメリテート(TOTM)、トリデシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;トリクレジルホスフェート(TCP)、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリキシリルホスフェート、トリオクチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクロロエチルホスフェート、トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3-ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(ブロモクロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3-ジブロモプロピル)-2,3-ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、含ハロゲンポリホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;ポリエステル系高分子可塑剤、エポキシ化大豆油(ESBO)、エポキシ化アマニ油、液状エポキシ樹脂等のエポキシ系可塑剤;塩素化パラフィン;五塩化ステアリン酸アルキルエステル等の塩素化脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは、少なくとも1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
可塑剤としては、少なくともフタル酸エステル系可塑剤を含み、好ましくはエポキシ系可塑剤が併用して用いられる。フタル酸エステル系可塑剤は、可塑化効率が高くポリ塩化ビニル系樹脂に優れた柔軟性を付与できるとともに、エポキシ系可塑剤を併用することで、分子内のエポキシ基により熱安定性も向上させることができるからである。フタル酸エステル系可塑剤としては、好ましくはDOPが用いられ、エポキシ系可塑剤としては好ましくはエポキシ化大豆油が用いられる。
【0021】
可塑剤の配合量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対する含有量が10重量部以上60重量部以下の割合で用いられ、好ましくは20重量部以上40重量部以下の割合で用いられる。可塑剤の含有量を10重量部以上とすることでポリ塩化ビニル系樹脂の柔軟性が良好となり、また60重量部以下とすることでポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの成形時にべたつきが少なく成形性に優れるからである。
【0022】
なお、可塑剤におけるフタル酸エステル系可塑剤及びエポキシ系可塑剤の配合割合は、特に限定されず、フタル酸エステル系可塑剤に対してエポキシ系可塑剤が所定の割合で配合される。エポキシ系可塑剤の配合割合が少なすぎると耐熱性が低減するので好ましくなく、また逆に多過ぎると加工性が低減するので好ましくない。
【0023】
3.安定剤
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムでは、安定剤としてポリ塩化ビニル系樹脂に通常用いられるものが混練されて用いられる。安定剤としては、例えば、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、ケイ酸鉛等の鉛系安定剤;カリウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、鉛等の金属と2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、ベヘニン酸等の脂肪酸から誘導される金属石けん系安定剤;アルキル基、エステル基、脂肪酸基、マレイン酸基、含硫化物基等を有してなる有機スズ系安定剤;Ba-Zn系、Ca-Zn系、Ba-Ca-Sn系、Ca-Mg-Sn系、Ca-Zn-Sn系、Pb-Sn系、Pb-Ba-Ca系等の複合安定剤;バリウム、亜鉛等の金属基と2-エチルヘキサン酸、イソデカン酸、トリアルキル酢酸等の分岐脂肪酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、ナフテン酸等の脂環族酸、石炭酸、安息香酸、サリチル酸、それらの置換誘導体等の芳香族酸といった有機酸から誘導される金属塩系安定剤;エポキシ樹脂、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル等のエポキシ化合物、有機亜リン酸エステル等の非金属系安定剤等が挙げられる。これらは、少なくとも1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0024】
安定剤としては、Ba-Zn系やCa-Zn系等の複合安定剤が好ましく用いられる。Ba-Zn系複合安定剤は、液状、ペースト状や粉末状のいずれでもよい。また、この複合安定剤としては、安定剤とともに石油系炭化水素、アルコール、グリセリン誘導体等の有機溶剤に溶解し、さらに亜リン酸エステル、エポキシ化合物、発色防止剤、透明性改良剤、光安定剤、ブリードアウト防止剤、滑剤等のその他の樹脂用配合剤からなる安定剤組成物としたものを用いてもよいが、その場合は、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを高度に変色制御するためにフェノール系酸化防止剤を含まないものが好ましい。
【0025】
安定剤の配合量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対する含有量が1重量部以上5重量部以下の割合で用いられ、好ましくは1.5重量部以上4重量部以下の割合で用いられる。安定剤の含有量を1重量部以上とすることでポリ塩化ビニル系樹脂の熱安定性が良好となり、また5重量部以下とすることでポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの成形後にべたつきや噴き出しが少なく製品安定性に優れるからである。
【0026】
4.酸化防止剤
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムでは、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤配合が選択的に混練されて用いられる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、1,3,5-トリス[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。これらは、少なくとも1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0027】
フェノール系酸化防止剤としては、特に耐変色性に優れ、少量での酸化防止効果が大きいことから、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート)が好ましく用いられる。
【0028】
フェノール系酸化防止剤の配合量は、フェノール系酸化防止剤を配合しないか、又は、フェノール系酸化防止剤を配合する場合には、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対する含有量が0.06重量部以下で、好ましくは0.001重量部以上0.06重量部以下で、より好ましくは0.002重量部以上0.03重量部以下の割合で用いられるとともに、全組成物中の含有量が500重量ppm以下で、好ましくは10重量ppm以上500重量ppm以下で、より好ましくは20重量ppm以上250重量ppm以下で用いられる。フェノール系酸化防止剤の含有量を0.06重量部以下でかつ全組成物中の含有量が500重量ppm以下とすることでポリ塩化ビニル系樹脂のNOx等による変色(暗所黄変・ピンキング等)を抑制でき、耐変色性が良好となるからである。
【0029】
5.その他の成分
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムには、上述した各配合剤以外に、本発明の効果を損なわない範囲において必要に応じて、その他の安定剤、滑剤、帯電防止剤、耐候助剤、着色剤等公知の添加剤を含有してもよい。いずれの添加剤においても公知のものを用いて添加することができる。
【0030】
6.ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、公知の製造方法にて成形することができ、例えば、二軸混練機、連続式若しくはバッチ式のニーダー、ロール混練機又はバンバリーミキサー等を用いて樹脂組成物が均一分散するように混練し、得られた混練物をカレンダー法、若しくはTダイ法又はインフレーション法(溶融押出成形法)等によりフィルム状に成形される。例えば、カレンダー法による場合には、ロール温度は150℃以上200℃以下に設定され、好ましくは160℃以上190℃以下に設定される。
【0031】
ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、単層であっても、又は多層であってもよい。ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みは、特に限定されるものではなく、0.03mm以上5mm以下が好ましく、0.05mm以上3mm以下がより好ましい。このようなポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを床材に使用する場合には、シート状又はタイル状の床材本体の上層を構成するクリア層として好適に用いることができる。
【実施例0032】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例により制限されるものではない。
【0033】
<耐変色性評価(1)>
ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの変色抑制を評価するため、以下のとおり耐変色性評価試験を行った。
【0034】
試料は、主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂に対して、表1に示す割合で各配合剤をそれぞれ配合したポリ塩化ビニル系樹脂組成物をテストロール機にて180℃で10分間混練することで、厚さが0.3mmの試料(ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム)を得た。各試料は、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム中のフェノール系酸化防止剤の配合割合が異なるように調製している(実施例1~7、比較例1~4)。
【0035】
試験方法は、デシケータ中に各試料を3cm×8cmに裁断した試料片をそれぞれ吊設し、A液(85%リン酸14.29gを蒸留水57.14gに溶解させたもの)及びB液(ガス濃度が3%となるように亜硝酸ナトリウム1.18gを蒸留水14.29gに溶解させたもの)の混合溶液を同じくデシケータ中に設置して密閉し、暴露温度40℃で72時間NOxを暴露させた。
【0036】
評価は、測色色差計を使用して試料片のNOx暴露前のYI値、及びNOx暴露後のYI値を測定し、その変化を黄変度ΔYI(ΔYI=YI-YI)として算出するとともに、NOx暴露後に暗所にて1週間保管した後の試料片の表面状態を目視観察した結果に基づいて以下の基準(4点方式)で行った。
「◎」:ΔYI≦5.0で、かつ目視にて僅かな変色が見られる。
「〇」:5.0<ΔYI≦5.8で、かつ目視にて僅かな変色が見られる。
「△」:5.0<ΔYI≦5.8で、かつ目視にて明確な変色が見られる。
「×」:5.8<ΔYIで、かつ目視にて明確な変色が見られる。
【0037】
【表1】
【0038】
なお、表1における各組成分の詳細は、以下のとおりである。
(A)PVCとしては、ポリ塩化ビニル系樹脂であるポリ塩化ビニル樹脂(カネビニールS1001N/カネカ社製)を用いた。
(B)可塑剤としては、可塑剤(1)にフタル酸エステル系可塑剤であるDOP(ジェイ・プラス社製)、可塑剤(2)にエポキシ系可塑剤であるエポキシ化大豆油(ケミサイザーSE-100/三和合成化学社製)を用いた。
(C)安定剤としては、フェノール系酸化防止剤を配合しない安定剤組成物であるBa-Zn系複合安定剤(アデカスタブQL-1007/ADEKA社製)を用いた。
(D)酸化防止剤としては、酸化防止剤(1)にフェノール系酸化防止剤であるビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)](Irganox245/BASFジャパン社製)、酸化防止剤(2)にフェノール系酸化防止剤であるであるオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート(Irganox1076/BASFジャパン社製)を用いた。
【0039】
表1に示すように、実施例1~7に係るポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、NOxによる変色(暗所黄変・ピンキング等)を抑制して、優れた耐変色性を有していることが明らかとなった。特に、フェノール系酸化防止剤を配合しない実施例1に係る試料と比較しても、フェノール系酸化防止剤を所定量含む実施例2~7に係る試料は、同等の耐変色性を示しており、この結果から、フェノール系酸化防止剤を配合した場合に、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対する含有量が0.06重量部以下で、かつ全組成物中の含有量が500重量ppm以下とすることで、高度に変色制御できることが明らかとなった。
【0040】
<耐変色性評価(2)>
次に、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの量産を想定して熱履歴を付加した場合の変色抑制を評価するため、以下のとおり耐変色性評価試験を行った。
【0041】
試料は、主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂に対して、表1の実施例1に示した割合で各配合剤(酸化防止剤は配合しない)を配合したポリ塩化ビニル系樹脂組成物をテストロール機にて180℃で20分間混練(混練物A)することで、厚さが0.3mmの試料(実施例8―1)を得た。また、上記の混練物Aを、表1の実施例1に示す割合のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(新練物)とともに所定割合(混練物A:新練物=20:80)で混練りし、テストロール機にて180℃で10分間混練(混練物B)することで、厚さが0.3mmの試料(実施例8―2)を得て、更に、上記の混練物Bを、表1の実施例1に示す割合のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(新練物)とともに所定割合(混練物B:新練物=20:80)で混練りし、テストロール機にて180℃で10分間混練することで、厚さが0.3mmの試料(実施例8―3)を得た。
【0042】
試験方法及び評価は、上述した耐変色性評価(1)と同様の方法で各試料片にNOxを暴露させて、黄変度ΔYIを算出するとともに、NOx暴露後に暗所にて1週間保管した後の試料片の表面状態を目視観察した結果に基づいて同様の基準(4点方式)で行った。
【0043】
<加工安定性評価>
ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの加工安定性の評価は、上述した耐変色性評価(2)で用いた試料(実施例8-1~8-3)の調製する際に、ロール表面への樹脂組成物の固着(プレートアウト等)が見られる場合を「×」、ロール表面への樹脂組成物の固着が見られない場合を「〇」とする基準(2点方式)で行った。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示すように、熱履歴を付加しない場合のポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(実施例8-1)と比較して、熱履歴を付加したポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(実施例8-2、8-3)においても同等の耐変色性を示し、かつ加工安定性が損なわれることなく良好で、優れた熱安定性を有することが明らかとなった。