(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181758
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】耐火木製建築部材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20221201BHJP
B27K 3/02 20060101ALI20221201BHJP
B27M 3/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
E04B1/94 R
B27K3/02 C
B27M3/00 D
B27M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088896
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】515046430
【氏名又は名称】株式会社芳賀沼製作
(71)【出願人】
【識別番号】520170852
【氏名又は名称】株式会社日進産業
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】芳賀沼 養一
(72)【発明者】
【氏名】石子 進次郎
【テーマコード(参考)】
2B230
2B250
2E001
【Fターム(参考)】
2B230AA07
2B230BA01
2B250AA01
2B250BA07
2B250CA01
2B250CA11
2B250DA01
2B250FA31
2B250FA46
2E001DE01
2E001EA08
2E001GA11
2E001GA42
2E001GA51
2E001HA14
2E001HA34
2E001HB01
2E001HC01
(57)【要約】
【課題】火災時に燃焼するのを遅らせて、建築物に広く使用可能な耐火木製建築部材を提供する。
【解決手段】本発明の耐火木製建築部材は、木製基材と、前記木製基材の表面、裏面および側面の少なくとも一部に形成される被覆層と、を備え、前記被覆層は、複数の中空セラミックスと、前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、を有し、前記被覆層は、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製基材と、
前記木製基材の表面、裏面および側面の少なくとも一部に形成される被覆層と、を備え、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、
を有し、
前記被覆層は、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む、耐火木製建築部材。
【請求項2】
前記複数の中空セラミックスの粒径は、10μm~150μmである、請求項1記載の耐火木製建築部材。
【請求項3】
前記複数の中空セラミックスの平均粒径は、40μmである、請求項2記載の耐火木製建築部材。
【請求項4】
前記中空セラミックスは、金属酸化物を含む、請求項1から3のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項5】
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)の少なくとも一つを含む、請求項4記載の耐火木製建築部材。
【請求項6】
前記被覆層は、2種類以上の前記金属酸化物による前記中空セラミックスを含む、請求項5記載の耐火木製建築部材。
【請求項7】
前記樹脂バインダーは、アクリル系樹脂である、請求項1から6のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項8】
前記中空セラミックスは、外表面および内部空間を有し、
前記外表面での遠赤外線への変換および前記内部空間での乱反射での遠赤外線の変換の少なくとも一方で、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱は、遠赤外線に変換される、請求項1から7のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項9】
前記複数の中空セラミックスは、前記被覆層において、複数のセラミックス層を形成し、
前記複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する、請求項1から8のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項10】
前記複数のセラミックス層は、前記中空セラミックスの粒径の違いもしくは前記被覆層の形成方法により、形成される、請求項9記載の耐火木製建築部材。
【請求項11】
前記被覆層による遠赤外線の放射により、前記耐火木製建築部材に加わる熱による前記木製基材での温度上昇を抑制可能である、請求項1から10のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項12】
前記被覆層の厚みは、前記被覆層を形成する塗材が、前記木製基材の単位面積当たりの重量として、次の定義である、
塗材の重量: 150g~280g/m2(木製基材の単位面積)
により、規定される、請求項1から11のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項13】
前記被覆層の厚みは、154μm以上291μm以下である、請求項1から11のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の耐火木製建築部材を使用して建築された建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製建築部材であって、耐火能力を有する耐火木製建築部材に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な場所において、住宅、店舗、商業施設、公共施設、医療施設などの様々な種類で多くの建築物がある。これらの建築物は、その特性、大きさ、用途、要求スペックなどによって、使用される材料が選択される。特に、建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床などの構造体においては、コンクリート、新建材、木材、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。勿論、建築物の基礎部分や、骨格部分などにおいても、コンクリート、新建材、木製部材、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。
【0003】
また、コンクリート、新建材、木製部材以外の材料が用いられることもある。
【0004】
最近では、コンクリートだけではなく、柱、梁、外壁、内壁、屋根、床などの構造体に、新建材や木製部材が用いられることが多くなってきている。例えば、木製部材による外壁や床などが構成されることが増えてきている。住宅、店舗、公共施設などにおいては、木製部材により建築された建築物は、環境負荷を低減できるからである。
【0005】
また、居住者や利用者も、木製部材の建築物においては、心身のリラックスを感じることができる。勿論、居住性も高まるメリットがある。木製部材の建築物は、外気温に対する対応性が高い(夏では室内は涼しく、冬では室内は暖かい)、あるいは、室内湿度の適応性が高いといったメリットがある。このため、居住者や利用者の利便性も高まる。
【0006】
加えて、木製部材の建築物は、居住者や利用者の精神的なリフレッシュ効果をもたらす。特に我が国においては、過去から木製建築物が中心であったので、日本人の精神性に高いメリットがある。
【0007】
ここで、コンクリートや新建材などに比較して、木製部材は軽量化できる。建築物の素材である建築部材が軽量化できると、基礎工事や建設工事のコスト低下を図ることができる。加えて工期短縮を図ることができるメリットもある。
【0008】
また、日本の国土の大半が森林であるという実情がある。多くの森林には、当然ながら多くの木があり、木材原料は非常に多くある。しかしながら、日本の森林から木を伐採して木材とすることは、コストの観点から進捗せず、国内の森林資源が有効活用されていない面がある。現実には、国内の建築物や家具などの加工品に使用される木材の大半は、輸入品である。
【0009】
このように日本の森林資源の活用が進まないと、間伐材の処理、森林の植え替え植樹なども進まない問題がある。結果として、森林管理の循環が生まれないことになり、森林荒廃に繋がっている問題がある。
【0010】
日本に潤沢にある森林資源を活用するためにも、木製部材が多種多様な建築物に使用されることが必要となっている。例えば、建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部に木製部材が使用されればよい。この使用により、住宅、店舗、施設、集合住宅などの建築物が建築される。このような木製部材が使用された住宅、店舗、施設、集合住宅などの建築が広まれば、日本の森林資源の活用が進む。こうして、日本の森林管理が促進されるようになる。
【0011】
このように、多くの建築物に木製建築部材が使用されることが望まれている。
【0012】
しかしながら、木製建築部材は、火災発生時に燃えてしまい火災への対応力や耐久力が弱いと考えられている。火災が発生すると焼失に繋がりやすい、周囲への延焼に繋がりやすいといった懸念がある。このような懸念により、木製建築部材の建築物への使用が広がっていない現状がある。
【0013】
このため、木製部材に耐火能力を持たせる技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2021-38655号公報
【特許文献2】特開2020-118022号公報
【特許文献3】特開2020-146923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1は、荷重支持部2と、荷重支持部2の周囲に被覆された耐火被覆層3と、耐火被覆層3の外側に周設された仕上げ木材層4とを備える木質耐火部材1であって、耐火被覆層3が湿式耐火被覆材からなり、荷重支持部2と耐火被覆層3との間、および、耐火被覆層3と仕上げ木材層4との間に、水分遮断層5が形成されている木質耐火部材を、開示する。
【0016】
特許文献1は、水分遮断シートなどの水分遮断層を設けることで、耐火木材において、水分含浸によるデメリットを防止することを目的としている。
【0017】
しかしながら、特許文献1における耐火被覆層は、ロックウールや白セメントなどの吹き付けによって実現されている。このような素材による被覆層は、耐火能力を高めるために厚みを必要として、重量が大きくなってしまう問題がある。すなわち、木質耐火部材の重量が大きくなる。木質耐火部材のような建築部材が重くなると、基礎工事の規模が大きくなるうえに、建築工事そのものの工程や手間が増加して、建築コストが大きくなる問題がある。建築作業時の安全性低下の不安もある。
【0018】
また、石膏ボードなどと同様に、ロックウールなどの吹き付けでの被覆層は、火災発生時などに、被覆層が燃えるまでの時間を稼ぐことはできるが、一旦、被覆層が燃えてしまうと、一気に木材も燃えてしまう。火災による熱が加わることで、熱上昇するメカニズムが働くからである。
【0019】
特許文献2は、耐火木材10は、木質材からなる角柱状の心材12と、心材12の角部に取り付けられた熱緩衝材14Aと、心材12の外側面側に取り付けられた耐火材18Aと、熱緩衝材14Aに支持され耐火材18A及び熱緩衝材14Aを覆う仕上げ材20と、を有する耐火木材を開示する。
【0020】
特許文献2の技術は、耐火のために複雑な構造を形成する。しかしながら、複雑な形成をする必要があり、加工の手間、加工コストが高くなり、多くの建築物に適さない問題がある。建築コストも高くなり、取り扱いも難しいことで、建築作業が困難となる。
【0021】
また、複雑な形状であることで、建築物において、壁材、床材などには適しにくい問題もある。また、内部に熱緩衝材を備えることで耐火能力を実現している。しかしながら、火災の熱により耐火木材全体の温度上昇がされることには変わらず、耐火木材は、温度上昇で燃えてしまう。
【0022】
特許文献1,2も、木材と異なり燃えにくい素材を一部に取り入れることで、火災での燃焼を弱めることに注力しているだけである。実際には、温度上昇が抑えられなければ、耐火木材が火災時に燃えてしまうことに変わりはない。
【0023】
特許文献3は、複数の単位木材14が接合され、木質材料に対する不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための不燃薬剤が含浸された耐火改質木質材料である。単位木材14は、その木口面kが、耐火改質木質材料16の厚み方向の表裏側となるように配置されたものであり、その木口面kから不燃薬剤が注入されて含浸されている耐火改質木材を、開示する。
【0024】
特許文献3は、木材加工時に耐火対応をするために、建築材としてのコストが非常に大きくなる問題がある。また、流通量を確保するのが困難となり、多くの建築物に使用することが難しい問題もある。加えて、木材の特定の部分の利用に偏るので、森林資源の有効活用が困難となる。また、含浸に基づくために、重量が重くなり、建築コストが高くなる問題もある。
【0025】
また、薬剤注入された建築材となっているので、建築物となった後でのガス化影響を住人などが受ける懸念もある。火災時に、何らかの影響のあるガスが生じる懸念もある。
【0026】
従来技術は、(1)重量が重くなって、建築材コストや建築コストを増加させる、(2)建築の手間を生じさせる、(3)火災時の燃焼を遅らせることを実現しにくい、(4)建築材の構造の複雑性による使い勝手の悪さ、などの問題を有している。
【0027】
本発明は、これらの課題に鑑み、火災時に燃焼するのを遅らせて、建築物に広く使用可能な耐火木製建築部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の耐火木製建築部材は、木製基材と、
前記木製基材の表面、裏面および側面の少なくとも一部に形成される被覆層と、を備え、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、
を有し、
前記被覆層は、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【発明の効果】
【0029】
本発明の耐火木製建築部材は、木製基材の表面に非常に薄い被覆層が施されるだけであり、本来の木製基材よりも重量を増加させることを抑えることができる。結果として、建築材コスト、建築コスト、建築における手間を低減できる。また、建築時の安全性を高めることもできる。
【0030】
また、被覆層は、物理的あるいは化学的に耐火を発揮するのではなく、火災などによる熱を、遠赤外線に変換して放射する。これにより、火災などの熱によって建築部材の温度上昇を抑制することができる。この温度上昇の抑制により、火災時の燃焼を遅らせることができ、木造建築物のあるべき耐火能力を高めることができる。
【0031】
また、木製基材の表面に被覆層を施すだけであるので、耐火木製建築部材の複雑性が無く、耐火木製建築部材の製造コストを下げることもでき、加えて、原料である木材の活用割合も増やすことができる。結果として、森林資源の有効活用を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の側面図である。
【
図3】本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の被覆層の構成を説明する説明図である。
【
図4】中空セラミックスが熱を遠赤外線に変換する状態を示す模式図である。
【
図5】中空セラミックスの接続構造により、複数のセラミックス層を形成している被覆層の模式図である。
【
図6】中空セラミックスの粒径により形成される複数のセラミックス層を含む被覆層の模式図である。
【
図7】本発明の実施の形態2における被覆層の模式図である。
【
図9】耐火能力実験での、対象物である木製建築部材にバーナーにより熱(炎)を付与している燃焼面の温度を測定している写真である。
【
図10】、逆側である非燃焼面の温度を測定している状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の第1の発明に係る耐火木製建築部材は、木製基材と、
前記木製基材の表面、裏面および側面の少なくとも一部に形成される被覆層と、を備え、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、
を有し、
前記被覆層は、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【0034】
この構成により、木製を基材としつつも、耐火能力を高めることができ、様々な建築物に利用可能となる。加えて、特殊な耐火部材などを積層する建築材と異なり、重量増加も抑制できる。結果として取り扱い容易性、建築容易性、建築コストの抑制なども実現できる。
【0035】
本発明の第2の発明に係る耐火木製建築部材では、第1の発明に加えて、前記複数の中空セラミックスの粒径は、10μm~150μmである。
【0036】
この構成により、粒径がばらついていることで、様々な成分を含む熱を効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。これにより、耐火能力を高めることができる。
【0037】
本発明の第3の発明に係る耐火木製建築部材では、第2の発明に加えて、前記複数の中空セラミックスの平均粒径は、40μmである。
【0038】
この構成により、被覆層の形成を確実に行える。
【0039】
本発明の第4の発明に係る耐火木製建築部材では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、前記中空セラミックスは、金属酸化物を含む。
【0040】
この構成により、遠赤外線への変換を効率的に行える。
【0041】
本発明の第5の発明に係る耐火木製建築部材では、第4の発明に加えて、前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)の少なくとも一つを含む。
【0042】
この構成により、遠赤外線への変換を効率的に行える。
【0043】
本発明の第6の発明に係る耐火木製建築部材では、第5の発明に加えて、前記被覆層は、2種類以上の前記金属酸化物による前記中空セラミックスを含む。
【0044】
この構成により、燃焼成分などや燃焼特性に対応して、確実に遠赤外線への変換を実現できる。様々な種類の火災に対応が可能である。
【0045】
本発明の第7の発明に係る耐火木製建築部材では、第1から第6のいずれかの発明に加えて、前記樹脂バインダーは、アクリル系樹脂である。
【0046】
この構成により、被覆層を形成する中空セラミックス同士の接着が確実に行える。
【0047】
本発明の第8の発明に係る耐火木製建築部材では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、前記中空セラミックスは、外表面および内部空間を有し、
前記外表面での遠赤外線への変換および前記内部空間での乱反射での遠赤外線の変換の少なくとも一方で、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱は、遠赤外線に変換される。
【0048】
この構成により、耐火能力を向上させることができる。
【0049】
本発明の第9の発明に係る耐火木製建築部材では、第1から第8のいずれかの発明に加えて、前記複数の中空セラミックスは、前記被覆層において、複数のセラミックス層を形成し、
前記複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する。
【0050】
この構成により、燃焼成分のそれぞれに対応して遠赤外線に変換できる。
【0051】
本発明の第10の発明に係る耐火木製建築部材では、第1から第8のいずれかの発明に加えて、前記複数のセラミックス層は、前記中空セラミックスの粒径の違いもしくは前記被覆層の形成方法により、形成される。
【0052】
この構成により、燃焼成分のそれぞれに対応して遠赤外線に変換できる。
【0053】
本発明の第11の発明に係る耐火木製建築部材では、第1から第10のいずれかの発明に加えて、前記被覆層による遠赤外線の放射により、前記耐火木製建築部材に加わる熱による前記木製基材での温度上昇を抑制可能である。
【0054】
この構成により、耐火能力を向上させることができる。
本発明の第12の発明に係る耐火木製建築部材は、第1から第11のいずれかの発明に加えて、前記被覆層の厚みは、前記被覆層を形成する塗材が、前記木製基材の単位面積当たりの重量として、次の定義である、
塗材の重量: 150g~280g/m2(木製基材の単位面積)
により、規定される。
この構成により、建築物内部の保温を高め過ぎずに、確実な遠赤外線への変換・放射を実現できる。
【0055】
本発明の第13の発明に係る耐火木製建築部材では、第1から第11のいずれかの発明に加えて、前記被覆層の厚みは、154μm以上291μm以下である。
【0056】
この構成により、最小限の厚みで重量増加を抑制しつつ、十分な耐火能力を実現できる。
【0057】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0058】
(実施の形態1)
【0059】
(全体概要)
実施の形態1における耐火木製建築部材の全体概要について説明する。
【0060】
図1は、本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の斜視図である。
図2は、本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の側面図である。
図3は、本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の被覆層の構成を説明する説明図である。
【0061】
耐火木製建築部材1は、木造建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部などに用いられる。あるいは、木造を一部とする建築物(木造部分とコンクリートやその他の素材とが混在する建築物)の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部にも用いられる。このとき、これら柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部の全部に、耐火木製建築部材1が用いられてもよいし、一部に用いられてもよい。
【0062】
例えば、火災発生時に建築物が燃えるのを遅らせるために、外壁や内壁には、耐火木製建築部材1が用いられて、他の部分には、一般の木製建築材が用いられてもよい。
【0063】
耐火木製建築部材1は、木造建築物で火災などが発生したときに、全く燃えないようにするのではなく、燃える時間を遅らせることを目的としている。建築に関する基準などにおいても、木造建築物(およびその周囲)で火災などが発生した場合に、全く燃えないようにするのではなく、燃えるのを遅らせることが重要となっている。例えば、外壁が燃え落ちるのに要する時間を、より長くすることが、木造建築物の安全性基準の一つとなっている。
【0064】
このため、耐火木製建築部材1は、火災発生などにおいて、燃えるのを遅らせることができる。
【0065】
木製建築部材1は、木製基材2と、被覆層3とを備える。被覆層3は、木製基材2の表面、裏面および側面の少なくとも一部に形成される。
図1、
図2では、木製基材2の表面もしくは裏面に、被覆層3が形成されている。これは被覆層3の形成の一例である。
【0066】
木製基材2は、スギやヒノキなどの、種々の木材が用いられれば良い。柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部のいずれに使用されるかで、その形状、大きさ、厚みなどが選択されればよい。
図1、
図2では、外壁や内壁などの壁材を一例として、広さのある木製基材2が示されている。
【0067】
被覆層3は、複数の中空セラミックス31と、複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダー32とを、有する。
図3においては、この構成が分かるような状態で示されている。
【0068】
図3に示されるように、被覆層3は、複数の中空セラミックス31を含んでいる。この複数の中空セラミックス31は、樹脂バインダー32により接続されている。この接続により、複数の中空セラミックス31を含む物質が、被覆層3を形成できる。加えて、木製基材2にくっついて形成される。
【0069】
また、複数の中空セラミックス21は、複数の異なる粒径の中空セラミックス31を含む。
図3において示されるように、異なる粒径の中空セラミックス31が、被覆層3に含まれている。
【0070】
被覆層3は、木製基材2および被覆層3の少なくとも一方に加わる熱を、遠赤外線に変換して放射する。
図3においては、木製基材2に熱が加わる矢印Y2が示されている。例えば、火災などでの炎の熱が加わる。被覆層3は、この矢印Y2の方向で加わる熱を、遠赤外線に変換して、矢印Xのように放射する。
【0071】
あるいは、
図3では、被覆層3に矢印Y1の方向に熱が加わることもある。同様に火災による炎などでの熱である。このような矢印Y1で加わる熱についても、被覆層3は、遠赤外線に変換する。更に、変換した遠赤外線を矢印X1のように放射する。
【0072】
このように、耐火木製建築部材1に火災などの炎での熱が加わっても、被覆層3が、これを遠赤外線に変換して外部放射する。加わる熱を、次々と遠赤外線に変換して放射することで、熱が耐火建築木製部材1(木製基材2)にとどまり蓄積することを抑制できる。この抑制は、耐火木製建築部材1(木製基材3)での、加わる熱による燃焼速度を遅らせる。燃焼速度が遅れることで、耐火木製建築部材1の燃焼時間を稼ぐことができる。
【0073】
これにより、木造建築物の火災発生時などにおける耐火性を高めることができる。上述した通り、耐火とは全く燃えないことではなく、燃えるのを遅らせることである。被覆層3が熱を次々と遠赤外線に変換して放射することで、加わる熱が留まったり蓄積したりするのが抑制されるからである。
【0074】
特に、被覆層3は、熱が加わると連続してこれを遠赤外線に変換して放射する。この処理が連続することで、加わった熱による耐火木製建築部材1の燃焼を遅らせることができる。遅れれば、それだけ火災などでの耐久時間が高まる。この耐久時間の増加によって、本発明の耐火木製建築部材1を用いた木造建築物の、火災などの耐久性が高まる。特に、耐火基準を満たすことができるので、木造建築物の広がりが期待できる。
【0075】
(中空セラミックスによる遠赤外線変換)
【0076】
被覆層3は、上述の通り、耐火木製建築部材1に加わる熱を遠赤外線に変換して放射する。被覆層3は、複数の中空セラミックス31を含む。中空セラミックス31は、内部空間310を有する。内部空間310は、加わる熱を、その内部で乱反射させることで、遠赤外線に変換する。
【0077】
図4は、中空セラミックスが熱を遠赤外線に変換する状態を示す模式図である。
図4に示されるように、内部空間310において加わった熱が乱反射する。この乱反射を通じて、熱は、遠赤外線に変換される。変換された遠赤外線は、放射される。
【0078】
このように、被覆層3は、複数の中空セラミックス31を備えることで、熱を遠赤外線に変換できる。
【0079】
また、被覆層3が備える複数の中空セラミックス31は、粒径の異なる中空セラミックス31を含んでいる。粒径が異なることで、中空セラミックス31のそれぞれの内部空間310での乱反射がより多く起こる。また、粒径の異なる中空セラミックス31同士での乱反射も加わり、熱の遠赤外線への変換が、より効果的に生じる。
【0080】
また、加わる熱は、異なる波長の成分を含んでいる。この異なる波長の成分のそれぞれに、粒径の異なる中空セラミックス31が対応する。この対応により、ある粒径の中空セラミックス31は、ある波長の成分の熱を遠赤外線に変換する。別の粒径の中空セラミックス31は、別の波長の成分の熱を遠赤外線に変換する。
【0081】
このように、異なる粒径の中空セラミックス31が含まれていることで、加わる熱を効率的かつ確実に、遠赤外線に変換できる。異なる粒径の中空セラミックス31が含まれていると、異なる波長の成分を有する熱全体を、遠赤外線に変換できる。これにより、耐火木製建築部材1に火災などの熱が加わっても、燃焼を遅らせることが、より確実に行える。
【0082】
また、中空セラミックス31は、その表面での熱の変換により遠赤外線を生み出して、これを放射するメカニズムも発揮する。熱が加わると、中空セラミックス31の表面が、これを遠赤外線に変換する。これにより、被覆層3は、加わる熱を次々と遠赤外線に変換して放射できる。これにより、耐火木製建築部材1に火災などの熱が加わっても、燃焼を遅らせることができる。
【0083】
この点から、被覆層3が異なる粒径の中空セラミックス31を含むことが好適である。異なる粒径の中空セラミックス31が含まれることで、被覆層3における中空セラミックス31の重点密度が高まる。大きな粒径の中空セラミックス31同士の間にできる隙間に、中程度あるいは小さな粒径の中空セラミックス31が入り込むからである。
【0084】
この結果、被覆層3が含む中空セラミックス31の個数密度が高まる。
【0085】
個数密度が高まれば、含まれる中空セラミックス31全体の表面積が増加する。上述の通り、中空セラミックス31は、その表面で熱を遠赤外線に変換する。この表面全体の表面積が増加することで、遠赤外線への変換量が多くなる。この増加によって、加わる熱を遠赤外線に変換することでの耐火能力が更に高まる。
このように、被覆層3が異なる粒径の中空セラミックス31を含むことは、熱を遠赤外線に変換することの能力向上に寄与する。
【0086】
ここで、複数の中空セラミックス31の粒径は、10μm~150μmであることも好適である。また、平均粒径が40μmであることも好適である。
【0087】
中空セラミックス31の粒径が、このような広い範囲であることで、加わる熱を、確実かつ効率的に遠赤外線に変換できる。熱によっては、含まれる波長も様々であるが、中空セラミックス31の粒径が、このような広い範囲でばらついていることは、どのような波長の熱や成分に対しても、遠赤外線への変換が可能となるからである。
【0088】
また、平均粒径が40μmであることで、被覆層3の形成が容易となる。被覆層3は、中空セラミックス31および樹脂バインダー32を含む塗料が、木製基材2の表面などに塗布されることで形成されることもある。この場合に、中空セラミックス31の平均粒径が40μmであることで、塗布などが容易となるメリットがある。また、適切な厚みの被覆層3が形成できるメリットもある。
【0089】
中空セラミックス31は、金属酸化物を含むことも好適である。このような金属酸化物を含むことで、熱を遠赤外線に効率的に変換できる。ここで、金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)の少なくとも一つを含む。
【0090】
これらの金属酸化物を含むことで、中空セラミックス31は、熱を効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。金属酸化物は、内部空間310での乱反射を促進しつつ、乱反射の過程で遠赤外線を生じさせる。このように、金属酸化物を含む中空セラミックス31が含まれる被覆層3は、耐火木製建築部材1に付与される熱を、効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。
【0091】
また、中空セラミックス31が金属酸化物を含むことで、中空セラミックス31による遠赤外線変換の能力や効率が高くなる。中空セラミックス31は、既述したように、その内部空間の乱反射や表面での変換で、熱を遠赤外線に変換して放射する。
【0092】
中空セラミックス31が金属酸化物を含むと、この遠赤外線への変換効果を高めることができる。すなわち、中空セラミックス31による遠赤外線の放射量を増加させることができる。中空セラミックス31が中空であること、複数の粒径であることに加えて、金属酸化物を含むことで、熱を効率よく遠赤外線に変換・放射できる。
【0093】
樹脂バインダー32は、中空セラミックス31同士を接続する。接続することで、被覆層3が一つの層として形成できる。ここで、樹脂バインダー32は、アクリル系樹脂であることも好適である。アクリル系樹脂であることで、樹脂バインダー32による中空セラミックス31同士をより確実に接続できる。
【0094】
また、アクリル系樹脂であることで、被覆層3の軽量化も図ることができる。
【0095】
このようにして形成された被覆層3は、加わる熱を遠赤外線に変換して放射できる。この機能は、加わる熱が、耐火木製建築部材1にとどまって蓄積されて行くことを抑制できる。
【0096】
このような被覆層3による遠赤外線変換の放射により、耐火木製建築部材1に加わる熱による木製基材2での温度上昇を抑制可能である。抑制可能であることで、火災などでの燃焼を抑制でき、燃焼を遅らせることができる。この遅らせるおことで、木造建築物に要求される耐火性能を実現できる。
【0097】
(実施の形態2)
【0098】
次に実施の形態2について説明する。実施の形態2では、各種のバリエーションについて説明する。
【0099】
(複数のセラミックス層)
【0100】
複数の中空セラミックス31は、その接続により生じる構成や粒径によって、被覆層3の中に、複数のセラミックス層を形成できる。
図5は、中空セラミックスの接続構造により、複数のセラミックス層を形成している被覆層の模式図である。
図5では、被覆層3は、第1セラミックス層311と第2セラミックス層312とを備える構成を有している。
【0101】
複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する。
図5に示されるように、第1セラミックス層311は、遠赤外線を放射し、合わせて第2セラミックス層312も、遠赤外線を放射する。それぞれのセラミックス層が遠赤外線を放射する態様を備える。
【0102】
被覆層3を形成する際に、例えば被覆層3の原料となる塗材を木製基材2の表面などに塗布する。このとき、塗材の塗布を複数回に分けることで、
図5のような複数のセラミックス層を形成することができる。
【0103】
被覆層3が複数のセラミックス層を備えることで、それぞれのセラミックス層での遠赤外線の変換と放射が行われる。第1セラミックス層311での遠赤外線の変換と放射、および、第2セラミックス層312での遠赤外線の変換と放射がそれぞれで行われる。このそれぞれで行われることで、より効率的な遠赤外線への変換が行われる。
【0104】
特に、セラミックス層のそれぞれで遠赤外線への変換が行われると、空間的に異なる場所での遠赤外線変換が行われる。これにより、多くの中空セラミックス31全体が遠赤外線変換に活用される。
【0105】
また、セラミックス層のそれぞれで遠赤外線放射が行われると、多面的かつ多重的な遠赤外線放射が行われる。これにより、耐火木製建築部材1に熱が付与される場合でも、より多くの熱が遠赤外線となって放射される。結果として、燃焼を遅らせることができる。
【0106】
また、耐火木製建築部材1に熱が加わり被覆層3が次第に燃え落ちる場合でも、残ったセラミックス層がその機能を維持できる。これにより、より長い間、加わる熱を遠赤外線として放射する機能が維持されて、耐火木製建築部材1の燃焼を遅らせることができる。
【0107】
また、被覆層3の複数のセラミックス層は、中空セラミックス31の粒径によって形成されてもよい。
図6は、中空セラミックスの粒径により形成される複数のセラミックス層を含む被覆層の模式図である。
【0108】
例えば、ある粒径の中空セラミックス31を含む塗材を塗布し、次に、別の粒径の中空セラミックス31を含む塗材を塗布し、更に別の粒径の中空セラミックス31を含む塗材を塗布することを繰り返せば、
図6のような、粒径の異なる複数のセラミックス層を形成できる。
【0109】
図6では、一例として、第1セラミックス層311、第2セラミックス層312、第3セラミックス層313が形成されている。それぞれのセラミックス層は、中空セラミックス31の粒径の相違により形成されている。
【0110】
第1セラミックス層311、第2セラミックス層312、第3セラミックス層313のそれぞれは、耐火木製建築部材1に加わる熱を、遠赤外線に変換して放射する。この状態は、
図6に示される通りである。
【0111】
中空セラミックス31の粒径が異なることで形成される複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱が含む異なる波長成分のそれぞれに対応した遠赤外線変換を行える。これにより、第1セラミックス層311は、ある波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。第2セラミックス層312は、別の波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。第3セラミックス層313は、更に別の波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。
【0112】
また、
図7のように、被覆層3において複数のセラミックス層が形成されてもよい。
図7は、本発明の実施の形態2における被覆層の模式図である。被覆層3においては、異なる粒径の中空セラミックス31が含まれる。この異なる粒径の中空セラミックス31であるが、主となる粒径の中空セラミックス31の粒径違いによって、
図7のように複数のセラミックス層が形成される。
【0113】
図7では、複数のセラミックス層のそれぞれは、異なる粒径の中空セラミックス層31を含む。ただ、第1セラミックス層311は、小さな粒径の中空セラミックス31を中心としたセラミックス層であり、第2セラミックス層312は、中くらいの粒径の中空セラミックス31を中心としたセラミックス層であり、第3セラミックス層313は、大きな粒径の中空セラミックス31を中心としたセラミックス層である。
【0114】
このように、セラミックス層には異なる粒径の中空セラミックス31が含まれるが、主となる粒径によって、複数のセラミックス層が形成される。この複数のセラミック層のそれぞれが、熱を遠赤外線に変換して放射する。この放射により、耐火木製建築部材1の燃焼を遅らせることができる。
【0115】
このように、加わる熱が含む種々の成分のそれぞれに対応して遠赤外線に変換して放射できる。これにより、被覆層3は、耐火木製建築部材1に加わる熱を、確実かつ満遍なく遠赤外線に変換して放射できる。結果として、熱による燃焼を遅らせることが、よりできるようになる。
【0116】
また、上述した通り、複数のセラミックス層が存在することで、いずれかのセラミックス層が燃焼しても、残りのセラミックス層がその機能を維持できる。これにより、より長い時間において、燃焼を遅らせることができる。
【0117】
(異なる金属酸化物の中空セラミックスが含まれること)
【0118】
中空セラミックス31は、金属酸化物を含む。更に、金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)の少なくとも一つを含む。
【0119】
ここで、被覆層3を構成する中空セラミックス31が、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)の少なくとも2以上の種類の金属酸化物を含むことも好適である。
【0120】
異なる2種以上の種類の金属酸化物による中空セラミックス31が、被覆層3に含まれることで、それぞれの中空セラミックス31が、加わる熱の異なる成分(波長成分や温度成分など)のそれぞれに対応して遠赤外線への変換を行える。ある金属酸化物の中空セラミックス31は、ある成分の熱を遠赤外線に変換し、別の種類の金属酸化物の中空セラミックス31は、別の成分の熱を遠赤外線に変換する。
【0121】
このように、複数の種類の金属酸化物による中空セラミックス31が被覆層3を構成することで、加わる熱を、満遍なくかつ確実に遠赤外線に変換できる。この変換後の遠赤外線が放射されて、熱による燃焼を確実に遅らせることができる。
【0122】
(被覆層の厚み)
(被覆層3の塗布形成での観点からの厚み)
【0123】
被覆層3は、木製基材2の表面等に被覆剤である塗材が塗布されることで形成される。この塗布される塗材の量は、木製基材2の単位面積あたりにおいて、次の範囲であることが好ましい。
塗布される塗材の重量 150g~280g/m2
【0124】
木製基材2の表面などに、単位面積当たりにこの範囲の重量の塗材が塗布されて被覆層3が形成されることが好ましい(被覆層3は、塗材が塗布されて乾燥されることで形成される)。すなわち、被覆層3の厚みは、この単位面積あたりに塗布される塗材の重量によって定義される。
【0125】
被覆層3がこの定義によりその厚みが設定されることで、燃焼を遅らせるのに十分な遠赤外線への変換・放射が実現される。また、厚すぎる場合には、中空セラミックス31に含まれる空気が保温効果を有する。このため、被覆層3の厚みがこれ以上厚くなると、この保温効果の総量が大きくなり過ぎて、建築物内部の居住性などを損なう可能性がある。
【0126】
これらのことから、上述のような重量の下限と上限とが設定されることでもよい。
【0127】
(乾燥後に形成される被覆層の観点からの厚み)
上述の単位面積当たりの重量で塗布された塗材が乾燥すると、被覆層の厚みは、154μm以上291μm以下となる。このような観点で厚みを定義することも好適である。。この厚みにより、耐火性として十分なレベルを担保できる。154μmよりも薄いと、燃焼を遅らせるのに十分な遠赤外線への変換と放射が不十分となる。291μmより厚いと、コスト面でのデメリットや変換された遠赤外線の放射がされにくくなるなどのデメリットがある。
【0128】
よって、この厚みの範囲であることが好適である。
【0129】
なお、中空セラミックス31に含まれる空気が保温効果を有する。このため、被覆層3の厚みがこれ以上厚くなると、この保温効果の総量が大きくなり過ぎて、建築物内部の居住性などを損なう可能性がある。
【0130】
このため、被覆層の厚みは、この程度であることが好ましい。
【0131】
特に、塗材を塗布することで被覆層3を形成する場合には、適切な量の塗材を塗布することが必要である。この必要な量の塗布から、上記の厚みに繋がる。
【0132】
(建築物)
実施の形態1,2で説明した耐火木製建築部材1を使用することで、木造建築物(木造部分を一部のみとする建築物も含む)が、建築される。このような建築物は、必要となるところに、耐火木製建築部材1を使用する。例えば壁材や柱などである。
【0133】
これらの部分に耐火木製検知部材1が使用されることで、建築物において火災が発生しても、その燃焼を遅らせることができ、適切な避難や消火を実現できる。これにより、耐火性の高い木造建築物を実現できる。既述したように、木造建築物(他の建築物も同様)での耐火性とは、全く燃えないことではなく、燃焼を十分に遅らせることである。遅らせることができれば、避難や消火を実現できるからである。
【0134】
木造建築物を全く燃えないように(あるいはこれに近づけるように)するには、木製建築部材の表面や内部に、難燃性素材を組み合わせるなどが必要となる。これでは、木製建築部材の重量が大きくなり、基礎工事なども含めた建築コストが増加する。
【0135】
本発明の耐火木製建築部材1は、非常に薄い被覆層3を備えるだけなので、重量増加はほとんどない。このため、建築コストを増加させることを抑制できる。結果として、耐火の基準を満たす木造建築物を広く普及させることもできる。そうなれば、日本の未活用の森林資源を活用でき、日本の森林保護にもつながる。
【0136】
(実施の形態3)
【0137】
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3では、耐火木製建築部材の耐火能力の実験結果について説明する。
【0138】
実験は、被覆層の無い木製建築部材と被覆層のある木製建築部材(被覆層の形成についてのバリエーションを含めて)を固定し、一方の面からガスバーナーで850℃~1000℃で火を当てる。つまり、一方の面から炎を当てて燃焼させる。この状態で、(1)逆の面(非燃焼面)での温度上昇を測定、(2)燃え抜けるまでの時間の測定の2つを実施した。
【0139】
図8は、耐火能力実験を行う状態を示す写真である。
図8は、実験状態の全体を示す写真である。
図9は、耐火能力実験での、対象物である木製建築部材にバーナーにより熱(炎)を付与している燃焼面の温度を測定している写真である。
図10は、逆側である非燃焼面の温度を測定している状態を示す写真である。
【0140】
図8,
図9のように、木製建築部材を固定してセットする。一方の面から、ガスバーナーで850℃~1000℃で火を当てる。つまり一方の面は燃焼面となる。燃焼面に火を当て続けることで、木製建築部材の温度は上がっていき、燃焼させられる。この燃焼の進行による温度上昇は、逆側の面である非燃焼面にも伝わっていく。
【0141】
図9に示すように、燃焼面においては、954℃の熱が付与されていることが分かる。このような熱の付与により、木製建築部材は、燃焼が進む。木製建築部材の内部に熱が伝わって、逆側の非燃焼面の温度も上がっていく。
図10は、この非燃焼面の温度上昇の測定をしている様子を示す。
【0142】
また、
図10に示されるように、温度上昇を燃焼開始からの時間経過と併せて測定する。これにより、上述したように次の2点を測定している。
【0143】
(1)逆の面(非燃焼面)での温度上昇を測定
(2)燃え抜けるまでの時間の測定
【0144】
これらの2点が測定されることで、必要とされる耐火能力を確認できる。既述したように、木製建築部材での耐火能力とは、全く燃えないことではなく、燃え落ちるまでに十分な時間が確保されることである。すなわち、(1)の温度上昇が抑制され、(2)の燃え抜けるまでの時間が十分であればよい。
【0145】
【0146】
実験では、1回目~5回目と、被覆層の異なる木製建築部材を試料として、
図8~
図10で示した方法で実験を行った。1回目~5回目のいずれの試料も、15mmの厚さのスギ板を木製基材としている。
【0147】
1回目の試料:15mmのスギ板の木製基材のみ。被覆層は無い(比較例)
【0148】
2回目の試料:15mmのスギ板の木製基材の加熱面のみに、被覆層を形成する塗材を2回塗布して被覆層を形成した耐火木製建築部材。非加熱面には被覆層は無い。
【0149】
3回目の試料:15mmのスギ板の木製基材の非加熱面のみに、被覆層を形成する塗材を2回塗布して被覆層を形成した耐火木製建築部材。加熱面には被覆層は無い。
【0150】
4回目の試料:3回目と同じ
【0151】
5回目の試料:15mmのスギ板の木製基材の加熱面に塗布剤を1回塗布して被覆層を形成し、非加熱面に塗布剤を2回塗布して被覆層を形成した木製建築部材。
【0152】
【0153】
1回目の試料:被覆層の無い木製建築部材は、約10分で150℃まで上昇して、加熱面に炎が当てられて非加熱面まで燃え抜けてしまっている。当然ながら、これでは不十分である。
【0154】
2回目の試料:約15分で280℃に上昇している。また1回目の試料が燃え抜けた10分後の温度上昇は同程度の150℃である。しかしながら、燃え抜けるまでの耐久時間は15分となり、1回目の木製建築部材に比較して、50%以上の耐火可能時間の向上がなされている。このため、耐火能力として向上していることが確認された。
【0155】
3回目の試料:燃え抜けるまでの時間が約24分と、1回目の試料に比較して2.5倍近くとなり、耐火能力が十分に向上していることが確認された。また、燃え抜ける24分後の温度上昇は200℃以下であり、温度上昇カーブも含めて、温度上昇も抑制されている。特に、上昇カーブの抑制がなされていることで、木製建築部材が使用された建築物で火災が発生したとしても、内部の人を守ることができ、かつ、消火までの避難時間を十分に確保できる。
【0156】
4回目の試料:燃え抜けるまでの時間が約30分となり、更に耐火能力、耐火時間が向上している。温度上昇カーブも3回目の試料と同様である。
【0157】
5回目の試料:燃え抜けるまでの時間が40分近くとなり、更に耐火能力、耐火時間が向上している。温度上昇カーブも3回目の試料と同様である。
【0158】
被覆層が形成された耐火建築木製部材である2回目~5回目の試料では、いずれも耐火時間、耐火能力が向上し、温度上昇も抑制されている。これらの結果、必要となる耐火能力が備わっていることが確認された。
【0159】
また、これらの耐火木製建築部材は、これが使用された建築物で火災が発生したとしても、内部の人を守ることができ、かつ、消火までの避難時間を十分に確保できる。
【0160】
以上のように、実際の耐火実験からも、本発明の耐火木製建築部材の効果が確認された。
【0161】
以上、実施の形態1~3で説明された耐火木製建築部材は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0162】
1 耐火木製建築部材
2 木製基材
3 被覆層
31 中空セラミックス
32 樹脂バインダー
310 内部空間
311 第1セラミックス層
312 第2セラミックス層
313 第3セラミックス層