(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181772
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】油圧装置、成形機および油圧装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/67 20060101AFI20221201BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B29C45/67
B29C45/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088928
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】川崎 衛
(72)【発明者】
【氏名】寺山 寛
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 俊彦
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AP10
4F202AR04
4F202CA11
4F202CB01
4F202CL12
4F202CL18
4F202CL22
4F202CR03
4F202CR04
4F206AP10
4F206AR04
4F206JA07
4F206JL02
4F206JN31
4F206JQ82
4F206JT21
4F206JT33
(57)【要約】
【課題】油圧アクチュエータに対する圧抜きを行いつつ、油圧ポンプの作動油の気泡に基づくキャビテーションの発生を防止できる射出成形機などの成形機に用いられる油圧装置を提供すること。
【解決手段】本発明の油圧装置は、サーボモータ(43)により正回転する油圧ポンプ(41)から油圧アクチュエータ(18)に対して、第1供給油圧(Pa)で作動油が順流で流れる基準動作と、基準動作において、作動油の供給圧力を第1供給油圧(Pa)よりも低い第2供給油圧(p)に低減することで作動油を逆流の流れに変更し、正回転する油圧ポンプ(41)に逆回転を誘発させる回転変更動作と、を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、
前記油圧ポンプの駆動源であって、正回転または逆回転するサーボモータと、
第1油室と第2油室を備え、前記油圧ポンプから前記第1油室作動油が供給されることで動作する油圧アクチュエータと、を備える油圧装置であって、
前記サーボモータにより前記正回転する前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに対して、第1供給油圧で前記作動油が順流で流れる基準動作と、
前記基準動作において、前記作動油の供給圧力を前記第1供給油圧よりも低い第2供給油圧に低減することで前記作動油を逆流の流れに変更し、前記正回転する前記油圧ポンプに前記逆回転に誘発させる回転変更動作と、
を行うことを特徴とする油圧装置。
【請求項2】
前記基準動作において前記サーボモータは基準トルク値で駆動され、
前記回転変更動作において前記サーボモータは第1トルク値で駆動され、
前記第1トルク値は前記基準トルク値よりも小さい、
請求項1に記載の油圧装置。
【請求項3】
前記第1トルク値による前記サーボモータの制御が、
駆動トルクの上限を規定する第1トルク制御、または、駆動トルクを前記第1トルク値に維持制御する第2トルク制御である、
請求項1または請求項2に記載の油圧装置。
【請求項4】
前記回転変更動作において、
前記第1油室における前記作動油の実油圧が予め定められた基準油圧より小さくなると、前記第1トルク値を増大させる、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の油圧装置。
【請求項5】
前記回転変更動作において、
前記油圧ポンプの前記逆回転の実回転数が予め定められる基準回転数よりも小さくなると、前記第1トルク値を減少させる、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の油圧装置。
【請求項6】
前記回転変更動作において、
前記第1油室において降圧を開始してからの実経過時間が予め定められる第1基準時間に達すると、前記第1トルク値を減少させる、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の油圧装置。
【請求項7】
前記第1トルク値を、前記逆回転による前記第1油室の降圧が進むにつれて連続的にまたは段階的に減少させる、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の油圧装置。
【請求項8】
油圧ポンプと、前記油圧ポンプの駆動源であって、正回転または逆回転するサーボモータと、第1油室と第2油室を備え、前記油圧ポンプから前記第1油室作動油が供給されることで動作する油圧アクチュエータと、を備える請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の油圧装置と、
固定金型を保持する固定盤と、前記固定盤に対向して配置され、可動金型を保持する可動盤と、を備える型締装置と、を備え、
前記可動盤は、前記油圧アクチュエータにより動作する、
ことを特徴とする成形機。
【請求項9】
油圧ポンプと、前記油圧ポンプの駆動源であって、正回転または逆回転するサーボモータと、第1油室と第2油室を備え、前記油圧ポンプから前記第1油室作動油が供給されることで動作する油圧アクチュエータと、を備える油圧装置の運転方法であって、
前記サーボモータにより前記正回転する前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに対して、第1供給油圧で前記作動油が順流で流れる基準動作と、
前記基準動作において、前記作動油の供給圧力を前記第1供給油圧よりも低い第2供給油圧に低減することで前記作動油を逆流の流れに変更し、正回転する前記油圧ポンプに前記逆回転を誘発させる回転変更動作と、
を行うことを特徴とする油圧装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプを用いて油圧アクチュエータを駆動させる、例えば射出成形機に適用される油圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、型締装置と射出装置を備える。型締装置は固定金型および移動金型の型締めを行い、射出装置は固定金型と移動金型の間に形成刺されるキャビティに向けて溶融樹脂を射出する。油圧式の型締装置および射出装置は、作動油を供給する油圧ポンプと、油圧ポンプから供給される作動油により駆動される油圧アクチュエータと、を備える。油圧アクチュエータの駆動に基づいて成形サイクルにおける計量工程、射出工程などの各動作工程に対する制御が行われる。また、動作工程が切換わる際には、前の動作工程の挙動(残留圧力)が次の動作工程に影響を与えることなく、円滑かつ速やかに切換わるように、通常、油圧アクチュエータに対する圧抜きが行われる。
【0003】
特許文献1は、油圧ポンプにおける駆動モータの回転数を可変制御し、油圧アクチュエータを駆動することにより成形サイクルにおける所定の動作工程の制御を行う制御手段を備える射出成形機における圧抜きの制御方法を開示する。特許文献1の制御方法は、駆動モータに、サーボ回路に接続することにより正回転制御または逆回転制御可能なサーボモータを用いるとともに、動作工程間の切換または動作工程内における動作変更の際にサーボモータを逆回転制御することにより動作工程における圧力を所定圧力となるアンロード圧力まで強制的に低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、射出シリンダ等の油圧アクチュエータから油圧ポンプに至るまでの回路内全体の残留圧力を、目的とする所定圧力まで確実に低下させることができる。これにより、特許文献1によると、切換時におけるショック圧の発生等の不具合を回避し、円滑な切換えを行うことができるとともに、高精度で安定した動作制御を実現できる、とされる。
ところが、特許文献1は、アクチュエータの油圧を低下させるときに、アクチュエータ側の作動油を油圧ポンプでタンク側に吐き出すことになるので、油圧ポンプの油圧が低下することになる。油圧ポンプの油圧が常圧、つまり大気圧より低くなると、作動油中に気泡が発生する。流動している作動油の中に気泡が発生すると、キャビテーションが発生するおそれがある。キャビテーションは油圧ポンプに損傷を与えるおそれがある。
【0006】
以上より、本発明は、油圧アクチュエータに対する圧抜きを行いつつ、油圧ポンプの作動油に気泡、ひいてはキャビテーションが発生するのを防止できる射出成形機などの成形機に用いられる油圧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の油圧装置は、油圧ポンプと、油圧ポンプの駆動源であって、正回転または逆回転するサーボモータと、第1油室と第2油室を備え、油圧ポンプから第1油室作動油が供給されることで動作する油圧アクチュエータと、を備える。
本発明の油圧装置は、基準動作と回転変更動作を行う。基準動作は、サーボモータにより正回転する油圧ポンプから油圧アクチュエータに対して、第1供給油圧で作動油が順流で流れる。回転変更動作は、基準動作において、作動油の供給圧力を第1供給油圧よりも低い第2供給油圧に低減することで作動油を逆流の流れに変更し、正回転する油圧ポンプに逆回転を誘発させる。
【0008】
本発明の油圧装置は、好ましくは、基準動作においてサーボモータは基準トルク値で駆動され、回転変更動作においてサーボモータは第1トルク値で駆動される。第1トルク値は基準トルク値よりも小さい。
【0009】
本発明の油圧装置は、好ましくは、第1トルク値によるサーボモータの制御が、駆動トルクの上限を規定する第1トルク制御、または、駆動トルクを第1トルク値に維持制御する第2トルク制御である。
【0010】
本発明の油圧装置は、好ましくは、回転変更動作において、第1油室における作動油の実油圧が予め定められた基準油圧より小さくなると、第1トルク値を増大させる。
【0011】
本発明の油圧装置は、好ましくは、回転変更動作において、油圧ポンプの逆回転の実回転数が予め定められる基準回転数よりも小さくなると、第1トルク値を減少させる。
【0012】
本発明の油圧装置は、好ましくは、回転変更動作において、第1油室において降圧を開始してからの実経過時間が予め定められる第1基準時間に達すると、第1トルク値を減少させる。
【0013】
本発明の油圧装置は、好ましくは、第1トルク値を、逆回転による第1油室の降圧が進むのにつれて連続的にまたは段階的に減少させる。
【0014】
本発明は、以上で説明した油圧装置と型締装置を備える成形機を提供する。この成形機の型締装置は、固定金型を保持する固定盤と、固定盤に対向して配置され、可動金型を保持する可動盤と、を備え、可動盤は、油圧アクチュエータにより動作する。
【0015】
本発明は、油圧ポンプと、油圧ポンプの駆動源であって、正回転または逆回転するサーボモータと、第1油室と第2油室を備え、油圧ポンプから第1油室作動油が供給されることで動作する油圧アクチュエータと、を備える油圧装置の運転方法を提供する。
この運転方法は、基準動作と回転変更動作を備える。基準動作はサーボモータにより正回転する油圧ポンプから油圧アクチュエータに対して、第1供給油圧で作動油が順流で流れる。回転変更動作は、基準動作において、作動油の供給圧力を第1供給油圧よりも低い第2供給油圧に低減することで作動油を逆流の流れに変更し、正回転する油圧ポンプに逆回転を誘発させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポンプの逆流時に常に油圧が常圧よりも高いため、油中に気泡が発生しない。このためキャビテーションが発生することがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る射出成形機の概略構成を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る油圧ポンプの正回転から逆回転への変更動作を説明する図であって、第2油室がタンクと連通している型締動作を説明する図である。
【
図3】本実施形態に係る油圧ポンプの正回転から逆回転への変更動作を説明する図であって、第2油室がタンクと連通していない型締ブロックの動作を説明する図である。
【
図4】本実施形態に係る射出成形機の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本実施形態に係る射出成形機の処理手順の他の例を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態におけるサーボモータの速度、駆動トルクおよび第1油室における作動油の圧力の関係を示すグラフであって、
図4のS105の手順が示される図である。
【
図7】本実施形態におけるサーボモータの速度、駆動トルクおよび第1油室における作動油の圧力の関係を示すグラフであって、
図4のS111の手順が示される図である。
【
図8】本実施形態におけるサーボモータの速度、駆動トルクおよび第1油室における作動油の圧力の関係を示すグラフであって、サーボモータの回転が停止する例が示されている図である。
【
図9】本実施形態におけるサーボモータの速度、駆動トルクおよび第1油室における作動油の圧力の関係を示すグラフであって、
図5のS211の手順が示される図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る射出成形機1について説明する。射出成形機1は、油圧アクチュエータとしての型締シリンダ18を用いて射出成形を行ういずれかの段階において、型締シリンダ18の作動油が供給される側の第1油室18Aから油圧ポンプ41に向けて作動油を逆流させることで、油圧ポンプ41をそれまでの正回転から逆回転にさせる。この油圧ポンプ41に逆回転を誘発させる経路中の作動油に気泡が発生するのを避けることを通じて、キャビテーションの発生を避けることができる。以下、射出成形機1の概略構成(
図1)、作動油を逆流させることによる油圧ポンプ41の正回転から逆回転への回転変更動作の説明(
図2,
図3)および回転変更動作を伴う射出成形機1の制御手順(
図4~
図9)の順に、本実施形態を説明する。なお、射出成形機1は、
図1に示すように、構成要素として型締装置2と射出装置3を備えるが、本実施形態においては主に型締装置2を対象として説明する。したがって、射出装置3は一部のみが
図1に示される。
【0019】
[射出成形機1の概略構成:
図1]
射出成形機1は、
図1に示すように、型締装置2と射出装置3を主たる要素として備える。射出装置3としては、射出バレル5のみが示されている。射出バレル5は、固定金型14と可動金型15との間に形成されるキャビティに射出材料である溶融樹脂を射出する。
【0020】
[型締装置2:
図1]
型締装置2は、所望の形状の成形品を得るための一対の固定金型14および可動金型15をそれぞれ支持する固定盤12および可動盤13と、型締めのための駆動力を発生させる型締シリンダ18と、型締シリンダ18に作動油を供給する油圧供給システム30と、各種構成を制御するコントローラ100と、を備える。可動金型15を保持する可動盤13は固定盤12に対して進退移動可能に設けられる。型締装置2は、本発明における油圧装置を含んでいる。
【0021】
固定盤12にはストロークが小さくかつ断面積の大きな油圧アクチュエータの一方の要素である型締シリンダ18が、その四隅に設けられている。なお、型締シリンダ18は、可動盤13に設けることもできる。型締シリンダ18の中を摺動するピストン16はその一側面にそれぞれタイバー17の一端が接続され、このタイバー17は対向する可動盤13が型閉のため近づくと、可動盤13の4隅に開けられた4個の挿通孔をそれぞれ貫通する。ピストン16は、油圧アクチュエータの他方の要素である。ピストン16の外周面には、作動油の漏えい防止のためのパッキンが巻き回されてもよい。
【0022】
型締シリンダ18は、ピストン16を境にして第1油室18Aと第2油室18Bを備える。第1油室18Aは、型締の際に油圧源40からの作動油が供給される。第1油室18Aに作動油が供給されることで、ピストン16が動作、
図1においては右向きに移動して型締めがなされると、第2油室18Bから作動油が排出される。後述するように、第1油室18Aには第1配管51が接続されており、第2油室18Bには第2配管53が接続されている。
【0023】
第1油室18Aおよび第2油室18Bには、内部の作動油の圧力を測定する第1圧力センサ21Aおよび第2圧力センサ21Bが設けられる。第1圧力センサ21Aで測定される第1油室18Aにおける作動油の圧力および第2圧力センサ21Bで測定される第2油室18Bにおける作動油の圧力は、コントローラ100に送られる。
【0024】
各タイバー17の他端は、それぞれ等ピッチまたは不等ピッチの複数のリング状の平行溝(または螺旋状のねじ溝)が形成されている。可動盤13の背面には、各タイバー17のリング状の平行溝と噛合するハーフナット19が設けられている。
この可動盤13の停止位置でハーフナット19が作動してハーフナット19の内側のリング状の平行溝がタイバー17の先端部のリング状の平行溝と係合してタイバー17とハーフナット19とが結合する。その後、型締シリンダ18の第1油室18Aに作動油を供給することで第1油室18Aを所定の圧力で昇圧して型締めする。このようにして型締動作を行った後に、型締めの昇圧状態を維持する型締ブロックの状態において射出バレル5から固定金型14と可動金型15とで形成されるキャビティ内に溶融樹脂を射出して成形品を成形する。
型締装置2は、例えばボールねじナットなどの可動盤13の移動手段を備えるが、本実施形態においては、その記載が省略されている。
【0025】
[油圧供給システム30:
図1]
油圧供給システム30は、
図1に示すように、型締シリンダ18に向けて作動油を吐出する油圧源40と、油圧源40に連なり、油圧源40から吐出される作動油を型締シリンダ18に届ける作動油回路50と、を備える。本実施形態の油圧供給システム30において、一例として、複数の型締シリンダ18に対応して一つの作動油回路50が設けられ、一つの作動油回路50に対して共通する油圧源40が一台だけ設けられている。なお、4個の型締シリンダ18に対し、それぞれに独立する作動油回路50を備えるようにしてもよいし、また、4個の型締シリンダ18に対し、それぞれ独立した油圧源40を備えるようにしてもよい。
油圧供給システム30における油圧源40および作動油回路50の動作は、コントローラ100により制御される。
【0026】
[油圧源40:
図1]
油圧源40は、サーボモータ(SM)43と、駆動源であるサーボモータ43の回転駆動により動作して作動油を吐出する油圧ポンプ41と、サーボモータ43に付随して回転速度および回転方向を検出するエンコーダ(E)45と、を備える。
【0027】
サーボモータ43は、回転角度をエンコーダ45が検出しており、検出された回転角度はコントローラ100に出力される。コントローラ100は、サーボモータ43の回転数の指令値に対応するパルス信号を生成しサーボモータ43に出力してサーボモータ43を指令値で回転駆動させる。コントローラ100には、サーボモータ43のエンコーダで検出された回転角度が継続して入力されており、コントローラ100は、当該回転角度に基づいてフィードバック補正をしながら指令値に基づく回転数(回転速度)が得られるようにサーボモータ43を制御する。
【0028】
ここで、サーボモータ43は、サーボ機構において回転角度、回転速度等を制御する用途に使用可能なモータであるかぎり、その種類は任意である。例えば、ACサーボモータ、DCサーボモータ、ステッピングモータなどを適用できる。また構造についても、例えば、ステータ構造は分布巻き型でも集中巻き型でもどちらでもよいし、ロータ構造は表面磁石貼付型(SPM)モータでも、内部磁石埋込型(IPM)モータのどちらでもよい。
【0029】
油圧ポンプ41には作動油を作動油回路50に向けて供給する吐出管46が接続される。油圧ポンプ41には、一例として固定容量型のポンプが適用される。また、タンク49に臨んで作動油が排出される排出管47が設けられる。吐出管46および排出管47は、後述する切換弁回路55に接続される。吐出管46には油圧センサ48が設けられ、この油圧センサ48は吐出管46を流れる作動油の圧力を測定する。油圧センサ48で測定される作動油の圧力はコントローラ100に送られる。
【0030】
[作動油回路50:
図1]
作動油回路50は、油圧源40から吐出される作動油を型締シリンダ18に供給する経路および給油動作を担う。この動作は、型締動作における昇圧時と、射出工程前における型締ブロックと、射出工程における型締ブロックと、を含んでいる。作動油回路50は、以下の構成を備える。
なお、作動油回路50において、上流および下流は、油圧ポンプ41を正回転させて作動油が流れる向きを基準にしており、油圧ポンプ41が正回転するときには油圧ポンプ41が最も上流に位置することになる。また、正回転と逆回転は、回転の向きが互いに逆であることを意図しているにすぎない。
【0031】
[コントローラ100]
コントローラ100は、
図4~
図9を参照して説明する第1手順および第2手順に必要な要素を備えている。この要素としては、第1手順および第2手順を実行するためのプログラムがある。また、この要素としては、第1手順および第2手順を実行するのに必要な測定される実測データの取得がある。さらに、この要素としては、実測データと比較される基準データがある。
実測データとしては実油圧Pa、実逆回転数Raおよび実経過時間Tiaなどがあり、基準データとしては基準油圧Pc、基準回転数Rc、基準トルク値Trc、第1基準時間Tic1および第2基準時間Tic2などがある。
【0032】
実測データは、第1手順および第2手順を実行する際に第1圧力センサ21A、エンコーダ45などの測定機器から取得する。なお、コントローラ100はタイマ機能を備えており、実経過時間Tiaは自身から取得することになる。
基準データは、コントローラ100が備える記憶領域に保存されており、実測データとの比較の際には記憶領域から読み出されている。
【0033】
[第1配管51,第2配管53,切換弁回路55:
図1]
作動油回路50は、
図1に示すように、型締動作の際に油圧ポンプ41から吐出される作動油が型締シリンダ18に向けて流れる第1配管51と、型締動作の際に型締シリンダ18から排出される作動油が流れる第2配管53と、を備える。型締動作の際には第1配管51から流れる作動油は、型締シリンダ18の第1油室18Aに供給され、第2配管53に流れる作動油は、型締シリンダ18の第2油室18Bから排出される。
型開き動作の際には、型締シリンダ18の第2油室18Bに第2配管53から作動油が供給される一方、型締シリンダ18の第1油室18Aから排出される作動油が第1配管51を流れる。
【0034】
切換弁回路55は、上流側が吐出管46および排出管47に接続され、下流側が第1配管51および第2配管53に接続される。
切換弁回路55は、例えば型締動作の際には、吐出管46と第1配管51とを連通するとともに、排出管47と第2配管53とを連通する作動油の経路を構成する。また、切換弁回路55は、例えば型開き動作の際には、吐出管46と第2配管53とを連通するとともに、排出管47と第1配管51とを連通する作動油の経路を構成する。さらに、切換弁回路55は、型締ブロック時には、吐出管46と第1配管51とを連通するが、第2配管53は封止する。以上の連通および封止の状態はあくまで例示である。
【0035】
[油圧ポンプ41の正回転から逆回転への変更動作:
図2,
図3]
本実施形態は、油圧アクチュエータである型締シリンダ18から油圧ポンプ41に向けて作動油を逆流させることで、油圧ポンプ41をそれまでの正回転から逆回転に回転の向きを変更させる。この油圧ポンプ41への作動油の逆流、逆回転により、油圧ポンプ41の作動油の圧力が常圧(大気圧)よりも高いために作動油に気泡が発生するのを避けることができる。この正回転から逆回転への変更動作の具体例を
図2(第1形態)および
図3(第2形態)を参照して説明する。
【0036】
[第1形態(型締動作):
図2]
はじめに、型締動作における油圧ポンプ41の正回転から逆回転への回転変更動作について、
図2を参照して説明する。
型締動作においては、
図2(a)に示すように、サーボモータ43の正回転駆動により油圧ポンプ41が運転されることにより、型締シリンダ18の第1油室18Aに作動油が供給される。作動油の流れは矢印にて示されており、これを順流とする。この作動油の順路における上流は油圧ポンプ41の側が該当し、下流が型締シリンダ18の側に該当する。
このときの油圧ポンプ41における作動油の吐出圧力はPaであり、かつ第1油室18Aに作動油による型締油圧Paが作用している。第2油室18Bはタンク49に連通している。型締油圧Paは型締動作をするのに必要であり、次に説明する第2吐出油圧pに比べて高圧である必要がある。
【0037】
図2(a)の型締動作(基準動作)の過程で、次に説明するように、油圧ポンプ41の正回転から逆回転への回転変更動作が誘発される。この回転変更動作は、コントローラ100が油圧源40(油圧ポンプ41、サーボモータ43およびエンコーダ45)の動作を制御することにより行われる。
【0038】
図2(b)に示すように、油圧ポンプ41が正回転して発生させている、油圧ポンプ41の吐出圧力を高圧の第1吐出油圧Paから低圧の第2供給油圧p(Pa>p)に切り替える。これにより、第1油室18Aの型締油圧Paと油圧ポンプ41の第2供給油圧pの差によって、第1油室18Aの内部の作動油は、第1油室18Aから油圧ポンプ41に向けて流出する。第1油室18Aの内部の作動油が流出するので、第1油室18Aの内部の圧力は低下、つまり降圧する。また、この第1油室18Aからの作動油の流れは、
図2(b)に示すように、作動油を送り出す油圧ポンプ41を基準とすれば逆流である。また、第1油室18Aからの作動油の流れ(逆流)は、流れてくる元側(第1油室18A)が上流であり、流れていく先側(油圧ポンプ41)が下流となる。なお、高圧な第1吐出油圧Paから低圧な第2供給油圧pへの切り替えは、油圧ポンプ41を駆動するサーボモータ43の駆動トルクをそれまでよりも小さい値(第1トルク値Tr1)にすることにより実行されるが、これについては後述する射出成形機1の制御手順において言及する。
【0039】
ところで、作動油の流れに対向する、換言すれば作動油の流れを押し留めようとする圧力が背圧であることから、
図2(b)の場合、変更後の油圧ポンプ41からの作動油の第2供給油圧pが背圧に該当する。
そして、第1油室18Aから作動油が第1配管51および吐出管46を介して油圧ポンプ41に流れ込むため、油圧ポンプ41は作動油に押されて、それまでの正回転を維持することができず逆回転に回転方向が強制的に変更される。油圧ポンプ41の回転変更に追従してサーボモータ43も正回転から逆回転に回転の向きが変更される。
【0040】
以上説明したように、第1形態においてアクチュエータである型締シリンダ18の側からの作動油の逆流によって油圧ポンプ41が逆回転してしまうことを利用して、第1油室18Aの作動油に圧力を負荷しながら降圧させる。これにより、油圧ポンプ41への作動油の逆流時に常に油圧が常圧よりも高くなるため、作動油の中に気泡が発生するのを抑えることを通じて、キャビテーションが発生することを防止できる。
【0041】
ここで、油圧ポンプ41の回転を正回転から逆回転への回転変更動作を起こすためのきっかけである第1吐出油圧Paから第2供給油圧pへの切り替えについて説明する。
第2供給油圧pは、油圧ポンプ41における最も低い吐出圧力またはこの近傍の極めて低い圧力を想定している。一方で、第1油室18Aから油圧ポンプ41へ作動油の逆流による背圧発生の目的である作動油中の気泡およびキャビテーションの発生を防止するには、油圧ポンプ41が制御可能な最低の吐出圧力程度の低い油圧でも可能であり、かつ第1油室18Aの型締油圧Paを速やかに降圧するためには、背圧(吐出圧力)pは低圧であるほど好ましい。
以上より、第1吐出油圧Paから切り替えられた第2供給油圧pは、油圧ポンプ41が制御可能な最低の吐出圧力程度であることが好ましい。このことは、次に説明する第2形態においても同様である。
【0042】
[第2形態(型締ブロック状態):
図3]
はじめに、型締ブロック状態における油圧ポンプ41の正回転から逆回転への回転変更動作について、
図3を参照して説明する。ここで、型締ブロック状態とは、
図2で説明した型締動作により必要な型締めの状態が得られた後に、型締シリンダ18の少なくとも型締側油室である第1油室18Aを密封し、その型締めの状態を維持することを言う。この型締装置ブロック状態において、射出成形における可塑化工程、射出工程および保圧工程が実行される。
【0043】
型締ブロックの状態において、
図3(a)に示すように、第1油室18Aおよび第2油室18Bの内部は密封され、それぞれの作動油には型締油圧Pa、対向油圧Pbが発生している。対向油圧Pbは、型締力に対向する作動油の圧力であることから、第1形態と同様に、回転変更のための第2供給油圧pに比べて高圧である。
【0044】
図3(a)の型締ブロックの状態(基準動作)において、次に説明するように、油圧ポンプ41の正回転から逆回転への回転変更動作が誘発される。この回転変更動作は、コントローラ100が油圧源40(油圧ポンプ41、サーボモータ43およびエンコーダ45)の動作を制御することにより実行される。
【0045】
図3(b)に示すように、油圧ポンプ41が正回転して発生させている、油圧ポンプ41の吐出圧力を高圧である第1供給油圧Paから低圧である第2吐出油圧pに切り替えた後に、第2油室18Bの密封を解除して型締ブロックを解除する。これにより、型締油圧Paが発生している第1油室18Aと、管内油圧が第2吐出油圧pである第1配管51と、吐出管46とが連通する。これにより生じる第1油室18Aと、第1配管51と、吐出管46との圧力差によって、第1油室18Aの内部の作動油は、第1油室18Aから油圧ポンプ41に向けて流出する。第1油室18Aの内部の作動油が流出するので、第1油室18Aの内部の圧力は低下、つまり降圧する。また、この第1油室18Aからの作動油の流れは、
図3(b)に示すように、作動油を送り出す油圧ポンプ41を基準とすれば逆流である。また、第1油室18Aからの作動油の流れ(逆流)は、流れてくる元側(第1油室18A)が上流であり、流れていく先側(油圧ポンプ41)が下流となる。
【0046】
作動油の流れに対向する、換言すれば作動油の流れを押し留めようとする圧力が「背圧」であることから、
図3(b)の場合、油圧ポンプ41の第2吐出油圧pが背圧に該当する。
そして、第1油室18Aの側から作動油が第1配管51および吐出管46を介して油圧ポンプ41に流れ込むため、油圧ポンプ41は作動油に押されて、それまでの正回転を維持することができず逆回転に回転方向が強制的に変更される。
【0047】
以上説明したように、第2形態においてもアクチュエータである型締シリンダ18の側からの作動油の逆流によって油圧ポンプ41が逆回転してしまうことを利用して、アクチュエータの油圧に圧力を負荷しながら降圧させる。これにより、油圧ポンプ41への作動油の逆流時に常に油圧が常圧よりも高くなるため、作動油の中に気泡が発生するのを抑えることを通じて、キャビテーションが発生することを防止できる。
【0048】
[射出成形機1の制御手順:
図4~
図9]
回転変更動作を伴う射出成形機1の制御手順の具体例を、
図4~
図9を参照して説明する。この具体的制御手順は、以上で説明した第1形態、第2形態における油圧ポンプ41の逆回転の動作を維持しつつ、経路中の作動油に気泡が発生するのを防止することを目的とする。以下では、型締動作について、第1手順と第2手順の二つの制御手順を例示する。なお、以下では第1手順と第2手順を区別して説明するが、第1手順と第2手順を組み合わせて一つの制御手順とすることもできるし、第1手順と第2手順の中から必要な制御要素を抜き出して、第1手順と第2手順とは異なる他の制御手順にすることもできる。
【0049】
[第1手順:
図4,
図6,
図7,
図8]
第1手順について、
図4、
図6~
図8を参照して説明する。
型締動作が開始された後に、
図4に示すように、それまで正回転している油圧ポンプ41を逆回転へ回転変更が誘発される(
図4 S101)。この回転変更は、サーボモータ43の駆動トルクを低下させることで発生する。例えば、回転変更の前までのサーボモータ43の駆動トルクをTrc(基準トルク値Trc)とすると、回転変更の移行に伴ってサーボモータ43の駆動トルクを第1トルク値Tr1(Trc>Tr1)に減少させる。この基準トルク値Trcおよび第1トルク値Tr1は、前述した第1形態および第2形態で説明した第1供給油圧Paおよび第2吐出油圧p(Pa>p)に対応する。したがって、第1形態および第2形態で説明したように、第1油室18Aの側から作動油が第1配管51および吐出管46を介して油圧ポンプ41に流れ込むため、油圧ポンプ41は作動油に押されて、それまでの正回転から逆回転に回転の向きが変更される。
【0050】
サーボモータ43の第1トルク値Tr1による駆動制御は、駆動トルクを第1トルク値Tr1に維持制御するトルク制御であってもよいし、駆動トルクの上限を規定するトルク制限制御であってもよい。トルク制限制御は、駆動トルクの上限を上限トルク値Tr3(Tr3>Tr1)と規定して実行される。このトルク制限は、所定の位置を保持するように制御する位置制御、または、所定の正回転方向の回転数を維持するように制御する回転数制御の、いずれの制御であってもよい。
【0051】
次に、油圧ポンプ41が逆回転で運転されている最中に、コントローラ100は、油圧ポンプ41について測定される逆回転数(実逆回転数)Raと予め定められる基準回転数Rcとを比較する(
図4 S103)。コントローラ100は、実逆回転数Raが基準回転数Rcよりも小さくなると(S103 Y)、第1トルク値Tr1が減少するようにサーボモータ43の動作を制御する(
図4 S105)。このとき、第1トルク値Tr1は予め定められる第2トルク値Tr2まで減少できる。サーボモータ43の第1トルク値Tr1を減少させることで逆回転抵抗が小さくなるとともに逆流抵抗が低減する。そうすることで、第1油室18Aからの作動油の逆流量をこれまでよりも増大させて、逆回転が停止しないように制御する。
【0052】
第1トルク値Tr1を減少させる制御(S105)は、少なくとも実逆回転数Raが基準回転数Rc以上になるまで継続される(
図4 S107 N,Y)。
【0053】
次に、油圧ポンプ41が逆回転で運転されている最中に、吐出管46における油圧Paと基準油圧Pcとが比較される(
図4 S109)。この比較は、コントローラ100により行われる。つまり、コントローラ100は、吐出管46に設けられる圧力センサ48で測定される油圧(実油圧)Paを継続して取得するともに、自信が保持する基準油圧Pcとの大小関係を判断する(S109)。
【0054】
実油圧Paが基準油圧Pcよりも小さくなったことが判明すれば(S109 Y)、コントローラ100は第1トルク値Tr1をこれまでよりも増大させるようにサーボモータ43の動作を制御する(
図4 S111)。第1トルク値Tr1を増大させることで逆回転抵抗を増大して、逆流抵抗を増大させて吐出管46の油圧の低下を抑制する。これにより、吐出管46の油圧を常圧よりも高く維持して気泡の発生を防止できる。圧力流である逆流において、最下流付近の吐出管46の油圧を常圧よりも高く維持することで、吐出管46内の圧力よりも高い圧力を有する上流側の作動油全体の油圧を常圧よりも高く維持して気泡の発生を防止できる。基準油圧Pcは吐出管46の油圧を常圧よりも高く維持することを前提に設定される。
【0055】
図6は、第1トルク値Tr1を増大する具体例を示している。
図6に示すように、吐出管46の逆流油圧(アクチュエータ側油圧)Paが運転の経過ともなって小さくなり、基準油圧Pcまで下がったとする。そうすると、コントローラ100の指示により、サーボモータ43の駆動トルクおよび速度を増大させることで、第1トルク値Tr1を増大させる。
【0056】
第1トルク値Tr1を増大する制御(S111)は、すくなくとも実油圧Paが基準油圧Pc以上になるまで継続される(
図4 S113 N,Y)。
【0057】
図7は
図4のステップS105における第1トルク値Tr1を減少させる具体的事例を示している。この事例では、実逆回転数Raが基準回転数Rcよりも小さくなると、モータトルク制御(指令),モータトルク(実)が、第1トルク値Tr1からを第2トルク値Tr2に減少されている。
【0058】
油圧ポンプ41またはサーボモータ43の回転系部材の摺動個所の静摩擦係数が大きいと、逆回転が停止すると、静摩擦力を越えるほどの逆回転力が付加されるまで逆回転をさせることができない。
【0059】
しかし、作動油の逆流が停止することによりアクチュエータ側である第1油室18Aの油圧が低下せずに逆回転方向に力が付加され続けることによって、逆回転が再開することがある。この場合、静摩擦力を超える逆回転力は大きく、且つ静摩擦力が解放されるのは瞬時にエネルギが解放されるため加速が大きい。これにより再開した逆回転の回転数が大きくなり、油圧ポンプ41またはサーボモータ43の許容逆回転数上限を超えてしまい破損が生じるおそれがある。
図8にはこの具体的事例が示されており、逆回転していたのに回転が停止した後に、サーボモータ43は逆回転を再開するものの、許容逆回転数上限を超える。
図4のS103~S107の手順は、許容逆回転数上限を超えるのを防止する効果をも奏する。
【0060】
以上のS103~S113の制御は、型締工程が完了するまで、または型開工程が開始するまで継続される(
図4 S115)。
【0061】
[第2手順:
図5,
図9]
次に、第2手順について、
図5および
図9を参照して説明する。なお、第2手順における
図5のS201、S209~S215は、第1手順における
図4のS101、S109~S115と同じ制御内容であることから、以下では
図5のS203~S207の手順について説明する。第2手順におけるS203~S207の制御は、第1手順におけるS103~S107の制御と同様の目的であって、油圧ポンプ41の逆回転を停止させないことを目的としている。
【0062】
コントローラ100は、アクチュエータ側である第1油室18Aの降圧を開始後からの経過時間Tiaと第1基準時間Tic1を比較する(
図5 S203)。経過時間Tiaが第1基準時間Tic1に到達する(Tia=Tic1)する、つまりタイムアップすると(S203 Y)、第1トルク値Tr1を減少させる(
図5 S205)。このとき、第1トルク値Tr1は予め定められる第2トルク値Tr2まで減少できる。サーボモータ43の第1トルク値Tr1を減少させることで逆回転抵抗が小さくなるとともに逆流抵抗が低減する。そうすることで、第1油室18Aからの作動油の逆流量をこれまでよりも増大させて、逆回転が停止しないように制御する。
【0063】
図9は
図5のステップS205における第1トルク値Tr1を減少させる具体的事例を示している。この事例では、経過時間Tiaが第1基準時間Tic1に達すると、モータトルク制御(指令),モータトルク(実)が、第1トルク値Tr1から第2トルク値Tr2に減少されている。
【0064】
第1トルク値Tr1を減少させる制御(S205)は、経過時間Tiaが第2基準時間Tic2に到達する(Tia=Tic2)するまで継続される(
図5 S207 N,Y)。
【0065】
[射出成形機1が奏する効果]
以下、本実施形態に係る油圧機構が奏する効果を説明する。
本実施形態に係る油圧機構は、アクチュエータである型締シリンダ18の側からの作動油の逆流によって油圧ポンプ41が逆回転してしまうことを利用して、第1油室18Aから吐出管46の間の作動油に圧力を負荷しながら降圧させる。これにより、油圧ポンプ41への作動油の逆流時に常に油圧が常圧よりも高くなるため、作動油の中に気泡が発生するのを抑えることを通じて、キャビテーションが発生することを防止できる。
【0066】
本実施形態に係る油圧機構は、実油圧Paが基準油圧Pcよりも小さくなったことが判明すると、コントローラ100は第1トルク値Tr1をこれまでよりも増大するようにサーボモータ43の動作を制御する。第1トルク値Tr1を増大することで逆回転抵抗を増大して、逆流抵抗を増大させて吐出管46の油圧の低下を抑制する。これにより、吐出管46の油圧を常圧よりも高く維持して気泡の発生を防止できる。圧力流である逆流において、最下流付近の吐出管46の油圧を常圧よりも高く維持することで、吐出管46内の圧力よりも高い圧力を有する上流側の作動油全体の油圧を常圧よりも高く維持して気泡の発生を防止できる。
【0067】
本実施形態に係る油圧機構は、実逆回転数Raが基準回転数Rcよりも小さくなると、第1トルク値Tr1が減少するようにサーボモータ43の動作が制御される。サーボモータ43の第1トルク値Tr1を減少させることで逆回転抵抗が小さくなるとともに逆流抵抗が低減する。そうすることで、第1油室18Aからの作動油の逆流量をこれまでよりも増大させて、逆回転が停止しないように制御する。
【0068】
本実施形態に係る油圧機構は、経過時間Tiaが第1基準時間Tic1に到達すると、第1トルク値Tr1を減少させる。サーボモータ43の第1トルク値Tr1を減少させることで逆回転抵抗が小さくなるとともに逆流抵抗が低減する。そうすることで、第1油室18Aからの作動油の逆流量をこれまでよりも増大させて、逆回転が停止しないように制御する。
【0069】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
以上の実施形態においては、型締装置2を対象として説明したが、射出装置3においても、油圧アクチュエータ、油圧ポンプおよびサーボモータを用いて例えば射出シリンダを動作させることが行われているので、本発明の適用対象にできる。
【0070】
以上で説明した実施形態においては、第1トルク値Tr1を一定にすることを前提として説明したが、逆回転による降圧が進むのにつれて第1トルク値Tr1を所定の変化率で連続的にまたは所定の変化値で段階的に小さくしてもよい。このとき所定の変化率および所定の変化値は、予め設定された一定値でもよいし、変更の直前に測定した実効値(実油圧Pa、実逆回転数Ra)と基準値(基準油圧Pc、基準回転数Rc)の差に基づいて算出した値でもよい。
アクチュエータ側である第1油室18Aの降圧開始時の油圧は大きいため、圧力流である逆流の流量が大きい。このため油圧ポンプ41の逆回転数が高くなり、逆回転数が過大になり易くなる。これに対し、降圧開始時の逆流抵抗を高くして、つまり第1トルク値Tr1を増大して逆流量を抑制して、油圧ポンプ41またはサーボモータ43の逆回転数の上昇を抑制する。また、降圧が進むのにつれてアクチュエータ側の油圧が連続的にまたは段階的に低くなり逆回転力が低下する。このため第1トルク値Tr1が大きいままだと、逆回転数が低下して逆流量も低下し降圧の進捗が遅くなるので、逆流抵抗を低くして(第1トルク値Tr1を小さくして)逆流を促進して、油圧ポンプ41またはサーボモータ43の逆回転数の低下を抑制する。このときアクチュエータ側の油圧が連続的にまたは段階的に低くなり逆回転力が低下するので、逆流する作動油の油圧もまた連続的にまたは段階的に低くなる。これによるとトルクおよび油圧の変更時の衝撃を低減でき油圧回路の損傷を防止できる。
この場合、実油圧Paが基準油圧Pcよりも小さくなったことが判明した際の、または実逆回転数Raが基準回転数Rcよりも小さなった際の、あるいは経過時間Tiaが第1基準時間Tic1に到達した際の、第1トルク値Tr1の変更も所定の変化率で連続的にまたは所定の変化値で段階的に変更してもよい。
これによって、キャビテーションの原因となる気泡が発生するような急激な油圧の低下を防止できるとともに、油圧ポンプ41の逆回転数が過大になるのを防止できる。
また、逆流により誘発される油圧ポンプ41およびサーボモータ43の逆回転を利用して、電流の電源回生を行ってもよい。これにより一旦消費した電力を回収して省エネルギ効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 射出成形機
2 型締装置
3 射出装置
5 射出バレル
12 固定盤
13 可動盤
14 固定金型
15 可動金型
16 ピストン
17 タイバー
18 型締シリンダ
18A 第1油室
18B 第2油室
19 ハーフナット
21A 第1圧力センサ
21B 第2圧力センサ
30 油圧供給システム
40 油圧源
41 油圧ポンプ
43 サーボモータ
45 エンコーダ
46 吐出管
47 排出管
49 タンク
50 作動油回路
51 第1配管
53 第2配管
55 切換弁回路
100 コントローラ
p 第2吐出油圧
Pa 第1吐出油圧,型締油圧,実油圧
Pc 基準油圧
Rc 基準回転数
Ra 実逆回転数
Trc 基準トルク値
Tr1 第1トルク値
Tr2 第2トルク値
Tr3 上限トルク値
Tic1 第1基準時間
Tic2 第2基準時間
Tia 実経過時間