(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181783
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】複合バルブ装置
(51)【国際特許分類】
F16K 17/06 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
F16K17/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088943
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】冬木 潤
【テーマコード(参考)】
3H059
【Fターム(参考)】
3H059AA02
3H059BB07
3H059BB22
3H059BB30
3H059CA03
3H059CA05
3H059CB15
3H059CC02
3H059CD05
3H059CE09
3H059DD06
3H059EE01
3H059FF03
3H059FF13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リリーフバルブ機構及びサーモバルブ機構を備えつつ、製造コストの低い複合バルブ装置を提供する。
【解決手段】複合バルブ装置は、取付孔に対して取付可能である。リリーフバルブ機構は、取付孔の深さ方向に移動可能な第1バルブ(40)を有している。サーモバルブ機構は、サーモアクチュエータ(80)に固定された第2バルブ(90)と、第2バルブ(90)を収納している筒体(70)と、を有している。リリーフバルブ機構の第1バルブ(40)と、サーモバルブ機構の第2バルブ(90)とは、軸線(Ax)が重なっている。サーモアクチュエータ(80)は第1バルブ(40)に支持されており、筒体(70)は第1バルブ(40)に固定又は一体化されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルが流れる油路と内部で連通していると共に一端が外方へ臨んでいる取付孔に対して取り付け可能であり、
油路を流れるオイルの圧力が所定の圧力に達したときにオイルを逃がすリリーフバルブ機構と、
油路を流れるオイルの温度が所定の温度に達したときに開き、又は、閉じるサーモバルブ機構と、を備え、
前記リリーフバルブ機構は、油路を流れるオイルの圧力を受ける受圧面に加わった力により前記取付孔の深さ方向に沿って前記取付孔の底面から離れる方向へ移動可能な第1バルブと、前記第1バルブを前記取付孔の前記底面に近づける方向へ前記第1バルブに対して力を与えている第1ばねと、前記第1ばねを直接又は間接的に支持していると共に前記取付孔の前記一端を塞いでいる閉塞部材と、を有し、
前記サーモバルブ機構は、オイルの温度が高くなるに連れて前記取付孔の深さ方向に全長が伸びるサーモアクチュエータと、前記サーモアクチュエータに固定されている第2バルブと、内部に前記サーモアクチュエータ及び前記第2バルブを収納している筒体と、を有し、
前記筒体は、前記筒体の内部にオイルを導入可能な導入孔と、前記第2バルブの移動により開閉されると共に前記導入孔から導入されたオイルを筒体の外部へ排出可能な排出孔と、を有しており、
前記リリーフバルブ機構の前記第1バルブと、前記サーモバルブ機構の前記第2バルブとは、軸線が重なっており、
前記サーモアクチュエータは前記第1バルブに当接しており、前記筒体は前記第1バルブに固定又は一体化されている、複合バルブ装置。
【請求項2】
前記サーモバルブ機構の前記筒部及び前記サーモアクチュエータは、前記リリーフバルブ機構の前記第1バルブの前記受圧面と前記軸線方向の反対側に位置している、請求項1に記載の複合バルブ装置。
【請求項3】
前記筒体の外周面は、前記取付孔の内周面に対して摺動可能である、請求項2に記載の複合バルブ装置。
【請求項4】
前記リリーフバルブ機構の前記第1ばねは、圧縮コイルばねであり、
前記サーモバルブ機構の前記第2バルブは、前記第1ばねの径方向の内部に位置している、請求項2又は請求項3に記載の複合バルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リリーフバルブ機構及びサーモバルブ機構を備えた複合バルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧回路のなかのオイルが流れる油路には、オイルを制御するためのバルブ機構が設けられている。バルブ機構に関する従来技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、エンジンに潤滑及び冷却のためのオイルを供給するためのオイルポンプを含む油圧回路が示されている。油圧回路には、オイルポンプから吐出されたオイルの一部をオイルパンに戻す2つの戻し路が設けられている。一方の戻し路には、戻し路を流れるオイルの圧力が所定の圧力に達した際に開くリリーフバルブ機構が設けられている。他方の戻し路には、オイルポンプから吐出されたオイルの温度が所定の温度に達した際にバルブを閉じるサーモバルブ機構が設けられている。
【0004】
このようなサーモバルブ機構の具体的な構成が特許文献2に開示されている。オイルポンプは、インナーギヤ及びアウターギヤを収納しているポンプハウジングを備えている。ポンプハウジングは、吐出されたオイルが流れる吐出路と、サーモバルブ機構を取り付けるための取付孔と、を有する。取付孔は、内部で吐出路と連通していると共に一端が外方へ臨んでいる。
【0005】
サーモバルブ機構は、オイルの温度が高くなるに連れて取付孔の深さ方向に全長が伸びるサーモアクチュエータと、サーモアクチュエータの下端に固定されているバルブと、サーモアクチュエータの全長を縮めるようにサーモアクチュエータに対して力を与えているばねと、内部にサーモアクチュエータと、ばねと、バルブとを収納している筒状の筒体と、サーモアクチュエータ及び筒体を支持していると共に取付孔の開口端を塞いでいる閉塞部材と、を有している。筒体は、吐出路を流れるオイルを筒体の内部に導入する導入孔と、バルブにより開閉されると共に導入孔から導入されたオイルを筒体の外部へ排出する排出孔と、筒体の下端を閉じている底部と、有している。
【0006】
このような構成のサーモバルブ機構を取付孔に差し込み、閉塞部材を取付孔の開口端にねじ込むことにより、取付孔に対してサーモバルブ機構を取り付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6706028号
【特許文献2】特許第6767246号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
オイルポンプのポンプボディに対して、サーモバルブ機構に加えて、さらにリリーフバルブ機構を取り付ける場合、リリーフバルブ機構を取り付けるために別の取付孔を形成する。その取付孔に対してリリーフバルブ機構を差し込み、閉塞部材を取付孔の開口端にねじ込むことにより、取付孔に対してリリーフバルブ機構を取り付けることができる。ただし、リリーフバルブ機構及びサーモバルブ機構を備えたオイルポンプは当然ながら製造コストが嵩んでしまう。
【0009】
本発明は、リリーフバルブ機構及びサーモバルブ機構を備えつつ、製造コストの低い複合バルブ装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1による発明によれば、オイルが流れる油路と内部で連通していると共に一端が外方へ臨んでいる取付孔に対して取り付け可能であり、
油路を流れるオイルの圧力が所定の圧力に達したときにオイルを逃がすリリーフバルブ機構と、
油路を流れるオイルの温度が所定の温度に達したときに開き、又は、閉じるサーモバルブ機構と、を備え、
前記リリーフバルブ機構は、油路を流れるオイルの圧力を受ける受圧面に加わった力により前記取付孔の深さ方向に沿って前記取付孔の底面から離れる方向へ移動可能な第1バルブと、前記第1バルブを前記取付孔の前記底面に近づける方向へ前記第1バルブに対して力を与えている第1ばねと、前記第1ばねを直接又は間接的に支持していると共に前記取付孔の前記一端を塞いでいる閉塞部材と、を有し、
前記サーモバルブ機構は、オイルの温度が高くなるに連れて前記取付孔の深さ方向に全長が伸びるサーモアクチュエータと、前記サーモアクチュエータに固定されている第2バルブと、内部に前記サーモアクチュエータ及び前記第2バルブを収納している筒体と、を有し、
前記筒体は、前記筒体の内部にオイルを導入可能な導入孔と、前記第2バルブの移動により開閉されると共に前記導入孔から導入されたオイルを筒体の外部へ排出可能な排出孔と、を有しており、
前記リリーフバルブ機構の前記第1バルブと、前記サーモバルブ機構の前記第2バルブとは、軸線が重なっており、
前記サーモアクチュエータは前記第1バルブに当接しており前記筒体は前記第1バルブに固定又は一体化されている、複合バルブ装置が提供される。
【0011】
請求項2に記載のごとく、好ましくは、前記サーモバルブ機構の前記筒部及び前記サーモアクチュエータは、前記リリーフバルブ機構の前記第1バルブの前記受圧面と前記軸線方向の反対側に位置している。
【0012】
請求項3に記載のごとく、好ましくは、前記筒体の外周面は、前記取付孔の内周面に対して摺動可能である。
【0013】
請求項4に記載のごとく、好ましくは、前記リリーフバルブ機構の前記第1ばねは、圧縮コイルばねであり、
前記サーモバルブ機構の前記第2バルブは、前記第1ばねの径方向の内部に位置している。
【発明の効果】
【0014】
請求項1では、複合バルブ装置は、オイルが流れる油路と内部で連通していると共に一端が外方へ臨んでいる取付孔に対して取り付け可能である。
【0015】
複合バルブ装置は、油路を流れるオイルの圧力が所定の圧力に達したときに開いてオイルを逃がすリリーフバルブ機構を備えている。リリーフバルブ機構は、油路を流れるオイルの圧力を受ける受圧面に加わった力により取付孔の深さ方向に沿って取付孔の底面から離れる方向へ移動可能な第1バルブと、第1バルブを取付孔の底面に近づける方向へ第1バルブに対して力を与えている第1ばねと、第1ばねを直接又は間接的に支持していると共に取付孔の開口端を塞いでいる閉塞部材と、を有している。
【0016】
複合バルブ装置は、油路を流れるオイルの温度が所定の温度に達したときに開き、又は、閉じるサーモバルブ機構を備えている。サーモバルブ機構は、オイルの温度が高くなるに連れて取付孔の深さ方向に沿って全長が伸びる取付孔の深さ方向に全長が伸びるサーモアクチュエータと、サーモアクチュエータに固定されている第2バルブと、内部にサーモアクチュエータ及び第2バルブを収納している筒状の筒体と、を有している。筒体は、筒体の内部にオイルを導入する導入孔と、第2バルブにより開閉され、導入孔から導入されたオイルを排出する排出孔と、を有している。
【0017】
リリーフバルブ機構の第1バルブと、サーモバルブ機構の第2バルブとは、軸線が重なっている。
【0018】
サーモアクチュエータは、第1バルブに当接している。筒体は、第1バルブに固定又は一体化されている。
【0019】
即ち、複合バルブ装置は、リリーフバルブ機構の第1バルブに対して、サーモバルブ機構のサーモアクチュエータ及び筒体が取り付けられている。換言すると、サーモバルブ機構全体が、第1バルブと共に軸線に沿って移動可能である。複合バルブ装置は単体であるが2つの機能を備えている。
【0020】
複合バルブ装置は単体であるため、複合バルブ装置を取り付けるための取付孔も1つで足りる。ポンプハウジングに対して形成する取付孔の数を減らすことができる。取付孔を塞ぐ閉塞部材も1つで足りる。したがって、製造コストを抑えることができる。さらに、ポンプハウジングのなかで取付孔が占めるスペースも減らすことができ、ポンプハウジングのなかの部品を配置するためのレイアウトの設計の自由度が高まる。
【0021】
請求項2では、サーモバルブ機構の筒部及びサーモアクチュエータは、リリーフバルブ機構の第1バルブの受圧面と軸線方向の反対側に位置している。換言すると、筒部及びアクチュエータは、第1バルブと閉塞部材との間に位置している。筒部およびアクチュエータを第1バルブの受圧面側に設ける場合と比較すると、第1バルブの受圧面の設計の自由度が高まる。
【0022】
請求項3では、筒体の外周面は取付孔の内周面に対して摺動可能であるため、筒体は第1バルブの一部ともいえる。筒体は、リリーフバルブ機構を構成していると共に、サーモバルブ機構も構成している。筒体は、双方の構成要素であるといえるため、部品点数を減らすことができる。
なお、筒体は、サーモアクチュエータを収納する部材である。そのため、リリーフバルブ機構の第1バルブの内部にサーモアクチュエータが収納されているといえる。取付孔の深さ方向の寸法について、複合バルブ装置を小型化することができる。
【0023】
請求項4では、リリーフバルブ機構の第1ばねは、圧縮コイルばねである。サーモバルブ機構の第2バルブは、第1ばねの径方向の内部に位置している。即ち、取付孔の深さ方向について、第1ばねと第2バルブとが重なっている。取付孔の深さ方向の寸法について、複合バルブ装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1の複合バルブ装置と、複合バルブ機構の取付孔を説明する図である。
【
図2】
図1に示された複合バルブ装置の分解斜視図である。
【
図3】
図1に示された複合バルブ装置の断面図である。
【
図4】
図4Aは、閉じ状態のリリーフバルブ機構を説明する図である。
図4Bは、開き状態のリリーフバルブ機構を説明する図である。
【
図5】
図5Aは、開き状態のサーモバルブ機構を説明する図である。
図5Bは、閉じ状態のサーモバルブ機構を説明する図である。
【
図6】
図6Aは、リリーフバルブ機構が閉じ状態であり、かつ、サーモバルブ機構が開き状態である、複合バルブ装置を説明する図である。
図6Bは、リリーフバルブ機構が開き状態であり、かつ、サーモバルブ機構が開き状態である、複合バルブ装置を説明する図である。
【
図7】
図7Aは、リリーフバルブ機構が閉じ状態であり、かつ、サーモバルブ機構が閉じ状態である、複合バルブ装置を説明する図である。
図7Bは、リリーフバルブ機構が開き状態であり、かつ、サーモバルブ機構が閉じ状態である、複合バルブ装置を説明する図である。
【
図8】
図8Aは、実施例2による閉じ状態のリリーフバルブ機構を説明する図である。
図8Bは、実施例2による開き状態のリリーフバルブ機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。図中Upは上、Dnは下を示している。
【0026】
<実施例1>
図1には、実施例1による複合バルブ装置10と、複合バルブ装置10を取付可能な取付孔20が形成されたオイルポンプ(図示なし)のポンプハウジング30と、が示されている。なお、ポンプハウジング30に代えて、内部にオイルが流れる油路が形成されており、その油路と取付孔20の内部が連通していれば、例えばエンジンのシリンダブロック等の構造物でもよい。即ち、複合バルブ装置10は、オイルポンプに限らず、油圧回路のなかで適宜設けることができる。
【0027】
(取付孔)
取付孔20の開口端23は外方へ(下方へ)臨んでいる。取付孔20の径は、開口端23から底面21に亘り一定である。以下、説明の便宜上、取付孔20の深さ方向に沿う方向を上下方向とし、底面21に近づく方向を上側とし、開口端23に近づく方向を下側とする。上下方向は鉛直方向と必ずしも一致しない。
【0028】
(吐出路)
オイルポンプから吐出されたオイルが流れる油路を吐出路31とする。さらに、吐出路31から分岐した油路を第1吐出路32と第2吐出路33とする。
【0029】
第1吐出路32は、取付孔20の底面21の孔を介して、取付孔20の内部と連通している。ポンプハウジング30には、第1吐出路32から流れてきたオイルを取付孔20の内部から排出する第1排出路35と、第2排出路36とが形成されている。2つの排出路35,36は、第2吐出路33よりも上方に位置している。2つの排出路は、取付孔20の内周面22と連通している。
【0030】
第2吐出路33は、取付孔20の内周面22の孔を介して、取付孔20の内部と連通している。詳細には、第2吐出路33は、取付孔20の深さ方向に直交しており、取付孔20の内周面22を径方向に貫通している。
【0031】
ポンプハウジング30には、第2吐出路33から流れてきたオイルを取付孔20の内部から排出する第3排出路37が形成されている。第3排出路37は、第2吐出路33よりも下方に位置している、
【0032】
(複合バルブ装置の機能)
複合バルブ装置10は、第1吐出路32を流れるオイルの圧力によって作動するリリーフバルブ機構11と、第2吐出路33を流れるオイルの熱によって作動するサーモバルブ機構12と、を備えている。
【0033】
(リリーフバルブ機構)
図2及び
図3を参照する。リリーフバルブ機構11は、取付孔20の深さ方向(上下方向)に往復移動可能な第1バルブ40と、第1バルブ40を取付孔20の底面21に近づける方向へ第1バルブ40に対して力を与えている第1ばね51と、第1ばね51を直接又は何らかの部材を介して間接的に支持していると共に取付孔20の開口端23(
図1参照)を塞いでいる閉塞部材24と、を備えている。
【0034】
(第1バルブ)
第1バルブ40は、互いに固定されているバルブ上部60及びバルブ下部70(筒体)とからなる。なお、図示はしないが、バルブ上部60及びバルブ下部70を一体化させてもよい。
【0035】
バルブ上部60の外周面63は、取付孔20の内周面22に対して摺動可能である。バルブ上部60は、略円柱状を呈している。詳細には、バルブ上部60は、取付孔20の底面21と接触可能な環状縁61と、環状縁61よりも凹んでおり第1吐出路32を流れるオイルの圧力を受ける受圧面62と、受圧面62の軸線Axに沿う方向の反対側に設けられておりバルブ下部70を固定可能な環状の固定部64と、が一体となり構成されている。外周面63と、固定部64とは互いに別体であってもよい。
【0036】
バルブ下部70は、筒状の大径部71を有している。大径部71の外周面72は、取付孔20の内周面22に対して摺動可能である。大径部71の上端部73(筒体の一端)の内周面と、固定部64の外周面とは、C型状の止め輪41を介して互いに嵌合している。即ち、バルブ下部70は受圧面62と軸線Axに沿う方向の反対側に設けられている。換言すると、バルブ下部70は、第1バルブ40のバルブ上部60と閉塞部材24との間に位置している。なお、図示はしないが、サーモバルブ機構12をバルブ上部60の受圧面62側に設けても良い。
【0037】
(第1ばね)
第1ばね51は、圧縮コイルばねである。第1ばね51の上端部51aは、大径部71の環状の下端面74に支持又は当接されている。
【0038】
(閉塞部材)
閉塞部材24は、取付孔20の開口端23に対してねじ込まれて固定されている。閉塞部材24は第1ばね51の下端部51bを支持又は当接している。
【0039】
(リリーフバルブ機構の開閉)
図4Aには、閉じ状態のリリーフバルブ機構11が示されている。第1吐出路32を流れるオイルの圧力が所定の圧力に達しない状態では、第1バルブ40の環状縁61は、取付孔20の底面21に接触している。バルブ上部60の外周面63は、第1排出路35を塞いでいる。バルブ下部70の大径部71の外周面72は、第2排出路36を塞いでいる。大径部71は、第2吐出路33を横断するように位置している。なお、この
図4Aは、取付孔20に対して複合バルブ装置10を取り付けた直後の状態ともいえる。
【0040】
第1吐出路32を流れるオイルの圧力が高くなると、第1バルブ40は、第1ばね51から押される力に抗して、下側へ移動する。
【0041】
図4Bには、開き状態のリリーフバルブ機構が示されている。第1吐出路32を流れるオイルの圧力が所定の圧力に達した状態では、第1吐出路32と、第1排出路35及び第2排出路36とは、取付孔20を介して、互いに連通している。第1吐出路32のオイルは、第1排出路35及び第2排出路36に流れ込み、オイルを溜めるオイルパン(不図示)や吸入路(不図示)に戻され、第1吐出路32を流れるオイルの圧力を下げることができる。
【0042】
第1吐出路32を流れるオイルの圧力が下がると、第1ばね51の力により第1バルブ40が上方へ移動し、第1バルブ40は第1排出路35及び第2排出路36を塞ぎ、リリーフバルブ機構は
図4Aに示す閉じ状態となる。
【0043】
なお、第1吐出路32から流れ込んだオイルを逃がす孔の数は適宜変更することができる。少なくとも第1排出路35が開いた状態は、リリーフバルブ機構11の開き状態といえる。
【0044】
(サーモバルブ機構)
図2及び
図3を参照する。サーモバルブ機構12は、バルブ下部70と、バルブ下部70の大径部71に収納されているサーモアクチュエータ80と、サーモアクチュエータ80の下端部80a(サーモアクチュエータ80の一端)に固定されている第2バルブ90と、サーモアクチュエータ80をバルブ上部60へ近づける方向へサーモアクチュエータ80に対して力を与えている第2ばね52と、を備えている。
【0045】
(バルブ下部)
バルブ下部70は、筒状の大径部71の下側の内周縁から閉塞部材24へ延びている筒状の小径部76と、小径部76の下側を塞いでいる底部77と、有している。大径部71と、小径部76と、底部77とは、一体に構成されている。大径部71の内部と小径部76の内部とは連通している。
【0046】
大径部71は、大径部71の内部にオイルを導入するために開口している一対の導入孔75,75を有している。各々の導入孔75,75は、周方向に互いに180度ずれている。
【0047】
小径部76は、大径部71から小径部76の内部に流れ込んだオイルをバルブ下部70の外部に排出するように開口している排出孔78を有している。
【0048】
(サーモアクチュエータ)
サーモアクチュエータ80は、第2吐出路33を流れるオイルの温度が高くなるに連れて取付孔20の深さ方向に全長が伸びる特性を備えている。詳細には、サーモアクチュエータ80は、オイルの熱により膨張するワックス81と、内部にワックス81を収納しているケース82と、ワックス81の内部に一部が埋もれておりワックス81の膨張によりケース82から押し出されて進出するロッド83と、を備えている。
【0049】
ロッド83の上端(サーモアクチュエータの他端)は、第1バルブ40の固定部64の径方向内側にて支持又は当接されている。
【0050】
(第2バルブ)
第2バルブ90は、小径部76の内周面76aに対して摺動可能な外周面91aを有する筒状の本体部91と、本体部91の上端を塞いでいる蓋部92と、蓋部92からサーモアクチュエータ80へ延びておりサーモアクチュエータ80に対して固定される固定部93と、が一体となり構成されている。第2バルブ90の固定部93はサーモアクチュエータ80の下端部80aに対して差し込まれており、双方が共にかしめられて固定されている。
【0051】
第2バルブ90は、第1ばね51の径方向の内部に位置している。
【0052】
第1ばね51は、小径部76を囲うように配置されている。
【0053】
(第2ばね)
第2ばね52は、サーモアクチュエータ80と共にバルブ下部70の大径部71に収納されている。第2ばね52は、圧縮コイルばねであり、サーモアクチュエータ80のケース82を囲うように配されている。
【0054】
第2ばね52の上端部52aは、ケース82の外周面と一体に形成されたばね受け部84に支持又は当接されている。第2ばね52の下端部52bは、大径部71の内周面と小径部76の内周面76aとを接続する環状の段差面70aに支持又は当接されている。
【0055】
(サーモバルブ機構の開閉)
図5Aには、開き状態のサーモバルブ機構12が示されている。第2吐出路33(
図3参照)を流れるオイルの温度が所定の温度に達しない状態では、第2バルブ90の本体部91は、排出孔78よりも上方に位置している。
【0056】
大径部71の導入孔75,75から大径部71の内部に流れ込んだオイルは、第2バルブ90の蓋部92の孔92aを通過し、第2バルブ90の本体部91の内部に流れ込み、小径部76の排出孔78から排出される。
【0057】
オイルの温度が上がると、オイルの熱がサーモアクチュエータ80のケース82を介してワックス81に伝わる。ワックス81が膨張すると、第2ばね52から押される力に抗して、ロッド83がサーモバルブ機構12のケース82に対して上方へ進出する。ロッド83の上端は、第1バルブ40に支持又は当接されている。そのため、第1バルブ40のバルブ上部60に対して、ケース82が下方へ移動する。サーモアクチュエータ80の下端部80aに固定された第2バルブ90は、下方へ移動する。
【0058】
図5Bには、閉じ状態のサーモバルブ機構12が示されている。第2吐出路33(
図3参照)を流れるオイルの温度が所定の温度を超えた状態では、第2バルブ90の本体部91の外周面91aが、排出孔78を塞いでいる。そのため、大径部71の内部に流れ込んだオイルは、排出孔78から排出されない。
【0059】
第2吐出路33を流れるオイルの温度が下がると、第2ばね52の力によりサーモアクチュエータ80のケース82が上方へ移動し、第2バルブ90の本体部91は、排出孔78よりも上方に位置し、サーモバルブ機構12は
図5Aに示す開き状態となる。
【0060】
なお、実施例1による複合バルブ機構10のサーモバルブ機構12は、第2吐出路33を流れるオイルの温度が所定の温度に達したときに閉じる構成であるが、別の油圧回路に複合バルブ機構10を設ける場合、排出孔78の位置を適宜変更して、オイルの温度が所定の温度に達したときに開く構成であってもよい。
【0061】
(複合バルブ装置の開閉)
図4A及び
図4Bに示したリリーフバルブ機構11と、
図5A及び
図5Bに示したサーモバルブ機構12とは、それぞれ独立して作動する。即ち、複合バルブ10には、リリーフバルブ機構11の開閉の状態と、サーモバルブ機構12の開閉の状態を組み合わせた4つの状態がある。
【0062】
図6Aには、リリーフバルブ機構11が閉じ状態であり、かつ、サーモバルブ機構12が開き状態である、複合バルブ装置10が示されている。
【0063】
第1バルブ40は第1排出路35及び第2排出孔36を塞いでいる。第1吐出路32から第1排出路35及び第2排出孔36へオイルは流れない。小径部76の排出孔78は開いている。排出孔78から排出されたオイルは、第3排出路37に流れ込み、オイルを溜めるオイルパンや吸入路に戻される。
【0064】
図6Bには、リリーフバルブ機構11が開き状態であり、かつ、サーモバルブ機構12が開き状態である、複合バルブ装置10が示されている。
【0065】
第1吐出路32と、第1排出路35及び第2排出路36とは、取付孔20を介して、互いに連通している。第1吐出路32を流れるオイルは、取付孔20の内部を介して、第1排出路35及び第2排出路36に流れ込む。小径部76の排出孔78は開いている。排出孔78から排出されたオイルは、第3排出路37に流れ込み、オイルを溜めるオイルパン)や吸入路に戻される。
【0066】
なお、導入路と第2吐出路33とは、第1バルブ40の位置に関わらず、第1バルブ40の内部を介して、常に連通している。
【0067】
図7Aには、リリーフバルブ機構11が閉じ状態であり、かつ、サーモバルブ機構12が閉じ状態である、複合バルブ装置10が示されている。
第1バルブ40は第1排出路35及び第2排出路36を塞いでいる。第2バルブ90は小径部76の排出孔78を塞いでいる。
【0068】
図7Bには、リリーフバルブ機構11が開き状態であり、かつ、サーモバルブ機構12が閉じ状態である、複合バルブ装置10が示されている。
【0069】
第1吐出路32と、第1排出路35及び第2排出路36とは、取付孔20を介して、互いに連通している。第1吐出路32を流れるオイルは、取付孔20の内部を介して、第1排出路35及び第2排出路36に流れ込む。第2バルブ90は小径部76の排出孔78を塞いでいる。
【0070】
(実施例1の効果)
(製造コストの抑制)
図2及び
図3を参照する。複合バルブ装置10は、開口端23が外方へ臨んでいる取付孔20に対して取り付け可能である。取付孔20の内部は、第1吐出路32及び第2吐出路33と連通している。
【0071】
複合バルブ装置10は、第1吐出路32を流れるオイルの圧力が所定の圧力に達したときに開き状態(
図4B参照)となるリリーフバルブ機構11を備えている。リリーフバルブ機構11は、第1吐出路32を流れるオイルの圧力を受ける受圧面62に加わった力により取付孔20の深さ方向に沿って取付孔20の底面21から離れる方向へ移動可能な第1バルブ40と、第1バルブ40を取付孔20の底面21に近づける方向へ第1バルブ40に対して力を与えている第1ばね51と、第1ばね51を支持していると共に取付孔20の開口端23を塞いでいる閉塞部材24と、を有している。
【0072】
複合バルブ装置10は、第2吐出路33を流れるオイルの温度が上昇して所定の温度に達したとき閉じ状態(
図5B参照)となるサーモバルブ機構12を備えている。サーモバルブ機構12は、オイルの温度が高くなるに連れて取付孔20の深さ方向に沿って全長が伸びるサーモアクチュエータ80と、サーモアクチュエータ80の下端に固定されている第2バルブ90と、内部にサーモアクチュエータ80及び第2バルブ90を収納しているバルブ下部70と、を有している。バルブ下部70は、バルブ下部70の内部にオイルを導入する導入孔75,75と、第2バルブ90により開閉され、導入孔75,75から導入されたオイルを排出する排出孔78と、小径部76の下端を閉じている底部77を有している。
【0073】
リリーフバルブ機構11の第1バルブ40と、サーモバルブ機構12の第2バルブ90とは、軸線Axが重なっている。サーモアクチュエータ80のロッド83の上端は、第1バルブ40に支持又は当接されている。バルブ下部70の上端部73は、第1バルブ40に固定又は一体化されている。
【0074】
即ち、複合バルブ装置10は、リリーフバルブ機構11のバルブ上部60に対して、サーモバルブ機構12のサーモアクチュエータ80及びバルブ下部70が取り付けられている。換言すると、サーモバルブ機構12全体が、バルブ上部60と共に軸線Axに沿って移動可能である。複合バルブ装置10は単体であるが、2つの機能を備えている。
【0075】
複合バルブ装置10は単体であるため、複合バルブ装置10を取り付けるための取付孔20も1つで足りる。ポンプハウジング30に対して形成する取付孔20の数を減らすことができる。取付孔20を塞ぐ閉塞部材24も1つで足りる。したがって、製造コストを抑えることができる。
【0076】
さらに、ポンプハウジング30のなかで取付孔20が占めるスペースも減らすことができ、ポンプハウジング30のなかの部品を配置するためのレイアウトの設計の自由度が高まる。
【0077】
なお、バルブ上部60及びバルブ下部70を一体化させれば、部品点数を減らすことができる。
【0078】
(第1バルブの受圧面の設計の自由度の向上)
サーモバルブ機構12のバルブ下部70及びサーモアクチュエータ80は、リリーフバルブ機構11のバルブ上部60の受圧面62と反対側に位置している。そのため、受圧面62側にサーモバルブ機構12を設ける場合と比較すると、バルブ上部60の受圧面62の設計の自由度が高まる。
【0079】
(複合バルブ装置の小型化)
バルブ下部70の大径部71の外周面72は、取付孔20の内周面22に対して摺動可能であるため、バルブ下部70の大径部71は第1バルブ40の一部ともいえる。バルブ下部70は、リリーフバルブ機構11を構成していると共に、サーモバルブ機構12も構成している。バルブ下部70は、双方の構成要素であるといえるため、部品点数を減らすことができる。
【0080】
なお、バルブ下部70は、サーモアクチュエータ80を収納する部材である。そのため、リリーフバルブ機構11の第1バルブ40の内部にサーモアクチュエータ80が収納されているといえる。取付孔20の深さ方向の寸法について、複合バルブ装置10を小型化することができる。
【0081】
加えて、リリーフバルブ機構11の第1ばね51は、圧縮コイルばねである。サーモバルブ機構12の第2バルブ90は、第1ばね51の径方向の内部に位置している。即ち、取付孔20の深さ方向について、第1ばね51と第2バルブ90とが重なっている。取付孔20の深さ方向の寸法について、複合バルブ装置10を小型化することができる。
【0082】
上記の実施例1の効果は、以下に説明する実施例2においても発揮される。実施例1と共通する構成については、実施例1と同一の符号を付すると共に説明は省略する。
【0083】
<実施例2>
図8Aには、リリーフバルブ機構11Aが閉じ状態にある複合バルブ装置10Aが示されている。第1バルブ40Aのバルブ上部60の環状縁61が、取付孔20の底面21と接触している状態において、バルブ下部70Aの導入孔75Aの上端75Aaは、第2吐出路33Aを画定している壁面34の上端34a以下に位置している。
【0084】
図8Bには、リリーフバルブ機構11Aが開き状態にある複合バルブ装置10Aが示されている。第1バルブ40が最も下方に位置しているとき(バルブ下部70Aの小径部76が閉塞部材24に接触している場合や、第1吐出路32を流れるオイルの圧力が最も高まった場合)、バルブ下部70Aの導入孔75Aの導入孔75Aの下端75Abは、第2吐出路33Aを画定している壁面34の下端34b以上に位置している。
【0085】
上記の構成の場合、リリーフバルブ機構11Aの第1バルブ40Aの位置に関わらず、サーモバルブ機構12Aの導入孔75Aの流路面積は一定である。そのため、リリーフバルブ機構11Aの動作は、サーモバルブ機構Aの動作に影響を与えない。
【0086】
なお、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例1,2に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の複合バルブ装置は、オイルポンプに設けるのに好適である。
【符号の説明】
【0088】
10,10A…複合バルブ装置
11,11A…リリーフバルブ機構
12,12A…サーモバルブ機構
20…取付孔
21…取付孔の底面
22…取付孔の内周面
23…取付孔の開口端(外方へ臨んでいる一端)
24…閉塞部材
40,40A…第1バルブ
51…第1ばね
60…バルブ上部
70,70A…バルブ下部(筒体)
72…バルブ下部の外周面(筒体の外周面)
73…バルブ下部の上端部(筒体長さ方向の他端)
75,75A…導入孔
77…筒体の底部
80…サーモアクチュエータ
80a…サーモアクチュエータの下端部(サーモアクチュエータの一端)
83…ロッド(サーモアクチュエータの他端)
90…第2バルブ
Ax…リリーフバルブ機構の軸線、サーモバルブ機構の軸線