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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181875
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】液体吸収体および印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/17 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
B41J2/17 201
B41J2/17 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089070
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 秀裕
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA21
2C056EA27
2C056JA17
2C056JB09
2C056JB18
2C056JC11
2C056JC14
2C056JC17
2C056JC18
2C056JC23
2C056JC25
2C056JC27
2C056JC29
(57)【要約】
【課題】難燃性に優れるとともに、液体の吸収性能を長期間にわたって安定的に優れたものとすることができる液体吸収体を提供すること、また、前記液体吸収体を備える印刷装置を提供すること。
【解決手段】本発明の液体吸収体は、水を含む液体を吸収する液体吸収体であって、第1基材と、第2基材と、前記第1基材と前記第2基材との間に設けられた吸収層と、を備え、前記吸収層は、難燃性物質を含み、前記難燃性物質は、互変異性を有する化合物を含み、当該化合物が水酸基を有する互変異性体を有するものである。前記難燃性物質は、メラミンシアヌレートであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む液体を吸収する液体吸収体であって、
第1基材と、
第2基材と、
前記第1基材と前記第2基材との間に設けられた吸収層と、を備え、
前記吸収層は、難燃性物質を含み、
前記難燃性物質は、互変異性を有する化合物を含み、当該化合物が水酸基を有する互変異性体を有するものである、液体吸収体。
【請求項2】
前記互変異性を有する化合物は、分子内に窒素原子を含むものである、請求項1に記載の液体吸収体。
【請求項3】
前記難燃性物質は、メラミンシアヌレートを含む、請求項1または2に記載の液体吸収体。
【請求項4】
前記吸収層中における前記難燃性物質の含有量は、1.0質量%以上10.0質量%以下である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の液体吸収体。
【請求項5】
前記吸収層は、前記難燃性物質に加えて、セルロース繊維と、熱融着性樹脂と、を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の液体吸収体。
【請求項6】
前記液体吸収体は、インクの吸収に用いられるものである、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吸収体。
【請求項7】
前記液体吸収体は、顔料を含む顔料インクの吸収に用いられるものである、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の液体吸収体。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の液体吸収体を備える、印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吸収体および印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターでは、通常、インクの目詰まりによる印刷品質の低下を防止するために実施されるヘッドクリーニング動作や、インクカートリッジ交換後のインク充填動作の際に、廃インクが発生する。そこで、このような廃インクのプリンター内部の機構等に対する不本意な付着が生じないようにするために、廃インクを吸収する液体吸収体を備えている。
【0003】
インクの廃液回収を行う液体吸収体には、プリンターとしての安全のために難燃性を担保する必要がある。そのため、液体吸収体には、難燃剤が添加されている。
【0004】
従来、液体吸収体としては、例えば、天然セルロース繊維および/または合成繊維、熱融着性物質および難燃性物質を空気中で混合解織することによりマット化し、さらに該マットを熱融着性物質の融点以上に加熱した後、プレスロールで圧縮することにより難燃性物質をウェブ中に固着した液体吸収体が用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
液体吸収体に添加される難燃剤は、通常、吸収すべき液体であるインクと反応しにくく、凝集物を生じにくい成分で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-311755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、長期間インクタンク内に滞留したインクは、空気酸化等によって変質するため、難燃剤と、変質したインクとが反応し凝集を引き起こす場合があり、長期にわたってインクの吸収性能を維持することが困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0009】
本発明の適用例に係る液体吸収体は、水を含む液体を吸収する液体吸収体であって、
第1基材と、
第2基材と、
前記第1基材と前記第2基材との間に設けられた吸収層と、を備え、
前記吸収層は、難燃性物質を含み、
前記難燃性物質は、互変異性を有する化合物を含み、当該化合物が水酸基を有する互変異性体を有するものである。
【0010】
また、本発明の適用例に係る印刷装置は、本発明の適用例に係る液体吸収体を備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の液体吸収体の好適な実施形態を模式的に示す縦断面図である。
図2図2は、本発明の液体吸収体の製造に用いる装置の好適な実施形態を模式的に示す構成図である。
図3図3は、印刷装置であるインクジェットプリンターの一例の全体構成を示す外観斜視図である。
図4図4は、図3に示したインクジェットプリンターが備えるインクカートリッジの全体斜視図である。
図5図5は、図4に示したインクカートリッジの分解斜視図である。
図6図6は、図4に示したインクカートリッジの縦断面図である。
図7図7は、図4に示したインクカートリッジの要部拡大断面図である。
図8図8は、図6に示した開閉弁の開閉動作を説明する断面図であり、(a)は開閉弁が閉じられている状態を示す断面図、(b)は廃インクの導入による貯留空間内の圧力上昇により開閉弁が開いた状態を示す断面図、(c)は廃インクの導入が終了して再び開閉弁が閉じた状態を示す断面図である。
図9図9は、印刷装置であるインクジェットプリンターの全体構成を示す概略分解斜視図である。
図10図10は、図9に示したインクジェットプリンターが備える廃インクタンクの分解斜視図である。
図11図11は、図10に示した廃インクタンクに設けられた開閉弁の拡大断面図である。
図12図12は、開閉弁の他の構成例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]液体吸収体
まず、本発明の液体吸収体について説明する。
図1は、本発明の液体吸収体の好適な実施形態を模式的に示す縦断面図である。なお、本明細書で参照する図面は、構成の一部を誇張して示したものであり、実際の寸法等を正確に反映したものではない。
【0013】
液体吸収体A100は、水を含む液体を吸収するものであり、第1基材A1と、第2基材A2と、第1基材A1と第2基材A2との間に設けられた吸収層A3と、を備えている。言い換えると、液体吸収体A100は、第1基材A1と、吸収層A3と、第2基材A2と、が、この順に積層された構造を有している。
【0014】
そして、吸収層A3は、難燃性物質を含んでおり、前記難燃性物質は、互変異性を有する化合物を含み、当該化合物が水酸基を有する互変異性体を有するものである。
【0015】
このような構成により、難燃性に優れるとともに、例えば、液体吸収体A100が酸性の液体と接触した場合、より具体的には、液体吸収体A100と接触する液体が空気酸化等により酸性を呈するものとなった場合等であっても、凝集物の発生を効果的に防止することができ、液体の吸収性能を長期間にわたって安定的に優れたものとすることができる液体吸収体A100を提供することができる。また、使用頻度が少ない場合に、全体としての液体吸収量が少なくても、液体の吸収を開始してから所定期間が経過すると液体の吸収性能が著しく低下する等の問題の発生を効果的に防止することができる。
【0016】
このような優れた効果が得られるのは、以下のような理由によると考えられる。すなわち、従来の難燃剤は、一般に難溶性ではあるが、水等の液体にわずかに溶解する。このような難燃剤を用いた液体吸収体で、例えば、インクを吸わせたまま長期間放置をしておくと、溶解した難燃剤とインクとが反応し、凝集物を生じ、液体吸収体の吸収性能が損なわれる。また、長期間廃液タンク内に滞留したインクは、空気酸化や温度等により変性し、pHやインクに含まれる機能材が変化し、本来のインクとは異なる化学的な性質を提示し始める。これにより、難燃剤との反応がより進行しやすくなり、上記のような問題がより顕著に発生する。これに対し、本発明に係る液体吸収体A100では、難燃性物質が互変異性を有する化合物を含み、当該化合物が水酸基を有する互変異性体を有するものであることにより、前記化合物が水素結合を形成しやすく、液体中に浸漬されても難燃性物質が当該液体中に溶解することが効果的に防止される。また、難燃性物質中に水素イオンが発生した場合でも、当該水素イオンは、水素結合により難燃性物質の分子間にとどまり、インクとの反応性が低くなる。以上のようなことから、インクのような液体による凝集物の発生を長期間にわたって効果的に防止することができる。また、上記のような難燃性物質を含む吸収層A3が、第1基材A1および第2基材A2との間に設けられていることにより、前記難燃性物質が不本意に脱落することが防止される。このようなことから、上記のような優れた効果が得られるものと考えられる。
【0017】
[1-1]第1基材
第1基材A1は、第2基材A2とともに、吸収層A3を挟持している。
第1基材A1は、通常、シート状をなすものである。
第1基材A1は、通液性を有するものであればよいが、通常、繊維を含んでいる。
【0018】
第1基材A1としては、例えば、古紙等の紙、不織布、織布、パルプシート等を用いることができる。
【0019】
繊維としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の合成樹脂繊維、セルロース繊維、ケラチン繊維、フィブロイン繊維等の天然樹脂繊維等が挙げられる。また、これらの繊維には、フォスファフェナンスレン環等の難燃性を付与する化学構造が導入されていてもよい。
【0020】
繊維の平均長さは、特に限定されないが、0.1mm以上であるのが好ましく、1.0mm以上であるのがより好ましく、3.0mm以上であるのがさらに好ましい。なお、繊維の平均長さの上限は、特に限定されず、例えば、第1基材A1がスパンボンド不織布等の長繊維不織布である場合、繊維の平均長さは極めて長いものとなる。
【0021】
繊維の平均幅は、特に限定されないが、0.5μm以上200.0μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上100.0μm以下であるのがより好ましい。
【0022】
第1基材A1は、繊維以外の成分を含んでもよい。このような成分としては、例えば、繊維間を結着するバインダー等が挙げられる。
【0023】
バインダーとしては、例えば、後に[1-3-3]で説明する熱融着性樹脂を用いることができる。
【0024】
ただし、第1基材A1中における繊維以外の成分の含有量は、10.0質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
第1基材A1の目付量は、特に限定されないが、5.0g/m以上80.0g/m以下であるのが好ましく、7.0g/m以上70.0g/m以下であるのがより好ましく、10.0g/m以上60.0g/m以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
これにより、第1基材A1の通液性をより優れたものとしつつ、難燃性物質等の吸収層A3の構成材料が不本意な液体吸収体A100から不本意に脱落することをより効果的に防止することができる。
【0027】
第1基材A1の厚さは、0.01mm以上3mm以下であるのが好ましく、0.05mm以上1mm以下であるのがより好ましい。
【0028】
これにより、第1基材A1の通液性をより優れたものとしつつ、難燃性物質等の吸収層A3の構成材料が不本意な液体吸収体A100から不本意に脱落することをより効果的に防止することができる。また、液体吸収体A100の製造コストの上昇を抑制しつつ、液体吸収体A100の単位体積当たりの吸収可能な液体量をより多くすることができる。
【0029】
[1-2]第2基材
第2基材A2は、第1基材A1とともに、吸収層A3を挟持している。
第2基材A2は、通常、シート状をなすものである。
第2基材A2は、通液性を有するものであればよいが、通常、繊維を含んでいる。
第2基材A2は、上記[1-1]で説明したのと同様の条件を満たすものであるのが好ましいが、第1基材A1と第2基材A2とは、同一の条件のものであってもよいし、異なる条件のものであってもよい。
【0030】
[1-3]吸収層
吸収層A3は、第1基材A1と第2基材A2との間に設けられており、難燃性物質を含んでいる。
【0031】
[1-3-1]難燃性物質
吸収層A3に含まれる難燃性物質は、互変異性を有する化合物を含み、当該化合物が水酸基を有する互変異性体を有するものである。
【0032】
前記互変異性としては、例えば、ケト-エノール互変異性、アミド-イミド酸互変異性、ラクタム-ラクチム互変異性、ニトロソ-オキシム互変異性、ニトロ-アシニトロ互変異性、核内互変異性、原子価互変異性、環鎖互変異性等が挙げられるが、中でも、アミド-イミド酸互変異性が好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0033】
前記互変異性を有する化合物の具体例としては、シアヌル酸、トリアジン類縁体、リン-酸素結合をもつ有機リン化合物、具体的には9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10-H-9-オキサ-10-フォスファフェナンスレン-10-オキサイド等が挙げられる。
【0034】
前記互変異性を有する化合物は、分子内に窒素原子を含むものであるのが好ましい。
窒素元素は水素結合の形成に直接寄与することができる元素であるとともに、難燃性の向上にも有利な元素であるため、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0035】
吸収層A3に含まれる難燃性物質は、少なくとも、前記互変異性を有する化合物を含んでいればよく、前記互変異性を有する化合物とともに、その他の化合物を含んでいてもよい。
【0036】
難燃性物質を構成する前記互変異性を有する化合物以外の化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ハンタイト、ハイドロマグネサイト、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸亜鉛、二水和石膏、アルミン酸カルシウム、ドーソナイト、カオリンクレー等の水和金属塩化合物;ポリリン酸アンモニウム、リン酸グアニジン、ポリリン酸メラミン、リン酸グアニル尿素等のアミノ基および/またはアンモニウム基を含有するリン酸化合物;当該リン酸化合物に、アミノ基および/またはアンモニウム基を含有する化合物を添加した、チッソ・リン系難燃剤;メラミン;ホスファゼン誘導体;Na・10HO等のホウ酸化合物;ポリアクリル酸ナトリウム架橋体等の高吸水性樹脂等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。ポリアクリル酸ナトリウム架橋体等の高吸水性樹脂の市販品としては、例えば、日本触媒化学社製のアクアリック、三菱化学社製のダイヤウェット、東亜合成社製のアロンザップ、日本合成社製のアクアリザーブGP、住友化学社製のスミカゲル、三洋化成社製のサンウエット、荒川化学社製のアラソーブ、ダウケミカル社製のDrytech、ストックハウゼン社製のFavor、鐘紡社製のベルオアシス、Camelot社製のFibersorb等が挙げられる。
【0037】
ただし、吸収層A3を構成する難燃性物質中に占める互変異性を有する化合物の割合は、20.0質量%以上であるのが好ましく、30.0質量%以上であるのがより好ましく、40.0質量%以上99.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
吸収層A3は、難燃性物質として、メラミンシアヌレートを含んでいるのが好ましい。メラミンシアヌレートは、互変異性を有する化合物であるシアヌル酸とともに、互変異性を有さない化合物であるメラミンを含む混合物である。シアヌル酸は3つの水酸基を含む構造を有するが、当該水酸基が互変異性によりカルボニル基に置換された化合物であるイソシアヌル酸は、混合物中のメラミンと多重水素結合を形成する。かかる構造により、メラミンシアヌレートは変質したインクに対しても極めて反応しにくいため、前述したような効果がより顕著に発揮されると考えられる。
【0039】
吸収層A3中における難燃性物質の含有量は、1.0質量%以上20.0質量%以下であるのが好ましく、2.0質量%以上15.0質量%以下であるのがより好ましく、2.5質量%以上10.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0040】
これにより、液体吸収体A100の難燃性および長期間にわたる安定的な液体の吸収性能をより優れたものとすることができる。また、液体吸収体A100の製造コストの低減の点でも有利である。
【0041】
吸収層A3中に含まれる難燃性物質は、いかなる形態を有していてもよいが、粉末状であるのが好ましい。難燃性物質が粉末状をなすものである場合、当該難燃性物質の平均粒径は、0.1μm以上20.0μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上10.0μm以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0042】
なお、本明細書において、平均粒径とは、体積基準の平均粒径のことを指す。平均粒径は、例えば、堀場製作所社製、LA910等、レーザー回折・散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置、すなわち、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた測定により求めることができる。
【0043】
[1-3-2]繊維
吸収層A3は、難燃性物質を含むものであるが、さらに、繊維を含んでいてもよい。
これにより、毛細管現象により、より効率よく液体を吸収することができ、当該液体をより好適に吸収層A3に保持することができる。また、前述した難燃性物質を、吸収層A3中に好適に保持することができる。特に、粉末状の難燃性物質を吸収層A3中により好適に分散させることができ、各部位での不本意な特性のばらつきの発生をより好適に防止することができる。
【0044】
吸収層A3を構成する繊維としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の合成樹脂繊維、セルロース繊維、ケラチン繊維、フィブロイン繊維等の天然樹脂繊維等が挙げられる。また、これらの繊維には、フォスファフェナンスレン環等の難燃性を付与する化学構造が導入されていてもよいが、中でも、セルロース繊維が好ましい。
【0045】
セルロース繊維は、親水性を有する材料であるため、液体吸収体A100に液体が付与された場合に、当該液体と親和して、液体をより好適に保持することができる。また、セルロース繊維は、分子内に多数個の水酸基を有するセルロースを含む材料で構成されており、前述した難燃性物質を構成する互変異性を有する化合物との親和性に優れている。そのため、難燃性物質をより好適に吸収層A3に保持することができる。さらに、セルロース繊維は、再生可能な天然素材で、各種繊維の中でも、安価で入手が容易であるため、生産コストの低減、安定的な生産、環境負荷の低減等の観点からも有利である。
【0046】
なお、本明細書において、セルロース繊維とは、化合物としてのセルロースを主成分とし繊維状をなすものであればよく、セルロースの他に、例えば、ヘミセルロース、リグニンを含むものであってもよい。
【0047】
セルロース繊維としては、例えば、針葉樹および/または広葉樹木材より調製される化学パルプや機械パルプ等の製紙用木材パルプ、古紙パルプ、リンター、その他、麻、綿、ケナフ等より調製される非木材植物繊維を用いることができる。
【0048】
吸収層A3を構成する繊維の平均長さは、特に限定されないが、0.1mm以上50mm以下であるのが好ましく、0.5mm以上30mm以下であるのがより好ましく、1.0mm以上5.0mm以下であるのがさらに好ましい。
【0049】
吸収層A3を構成する繊維の平均幅は、特に限定されないが、0.5μm以上200.0μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上100.0μm以下であるのがより好ましい。
【0050】
吸収層A3中における繊維の含有量は、50.0質量%以上97.0質量%以下であるのが好ましく、60.0質量%以上94.0質量%以下であるのがより好ましく、70.0質量%以上90.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0051】
これにより、液体吸収体A100の難燃性および長期間にわたる安定的な液体の吸収性能をより優れたものとすることができる。また、液体吸収体A100の製造コストの低減の点でも有利である。
【0052】
[1-3-3]熱融着性樹脂
吸収層A3は、さらに、熱融着性樹脂を含んでいてもよい。
【0053】
これにより、吸収層A3の構成材料を好適に接着することができ、例えば、液体吸収体A100から吸収層A3の構成材料が不本意に脱落してしまうこと等をより好適に防止することができ、液体吸収体A100の形状の安定性をより優れたものとすることができる。
【0054】
熱融着性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド;ポリエステル;ポリウレタン等が挙げられる。
【0055】
また、熱融着性樹脂は、例えば、異なる材料で構成された複数の領域を有するものであってもよい。より具体的には、例えば、融点:160℃程度のポリプロピレンのような高融点材料で構成された基部が、融点:130℃程度のポリエチレンのような低融点材料で構成された被覆層で被覆された構造を有するものであってもよい。このような構造であることにより、例えば、液体吸収体A100の製造時において、外側の被覆層が溶融または軟化し、基部は溶融または軟化しない温度で加熱処理を行うことにより、被覆層のみを溶融または軟化させることができ、液体吸収体A100の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、液体吸収体A100の形状の安定性を特に優れたものとすることができる。
【0056】
吸収層A3中における熱融着性樹脂の含有量は、1.5質量%以上30.0質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以上25.0質量%以下であるのがより好ましく、4.0質量%以上20.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0057】
これにより、熱融着性樹脂を含むことによる効果を十分に発揮させつつ、難燃性物質や繊維の含有量を十分に多くすることができ、液体吸収体A100の難燃性および長期間にわたる安定的な液体の吸収性能をより優れたものとすることができる。また、液体吸収体A100の製造コストの低減の点でも有利である。
【0058】
特に、吸収層A3は、難燃性物質に加えて、セルロース繊維と、熱融着性樹脂と、を含んでいるのが好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0059】
[1-3-4]その他の成分
吸収層A3は、上記以外の成分を含むものであってもよい。以下、このような成分を「その他の成分」ともいう。その他の成分としては、例えば、着色剤、凝集抑制剤、界面活性剤、消泡剤、保湿剤、防腐剤、pH調整剤、帯電防止剤等が挙げられる。また吸収層A3は、その他の成分として、例えば、光硬化性樹脂、吸水性樹脂、イオン交換樹脂等の熱融着性樹脂以外の樹脂材料を含んでいてもよい。
【0060】
吸収層A3中におけるその他の成分の含有量は、10.0質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0061】
[1-3-5]その他の条件
吸収層A3の厚さは、2mm以上50mm以下であるのが好ましく、5mm以上20mm以下であるのがより好ましい。
【0062】
これにより、液体吸収体A100の取り扱いのしやすさを十分に優れたものとしつつ、液体吸収体A100の吸収可能な液体量をより多くすることができる。
【0063】
[1-4]その他
液体吸収体A100がセルロース繊維を含むものである場合、液体吸収体A100は、セルロース繊維として、古紙由来のものを含むものであってもよい。これにより、省資源、省エネルギーに寄与することができるとともに、環境保護の観点からも好ましい。
【0064】
液体吸収体A100は、水を含む液体を吸収するものであればよいが、液体吸収体A100が吸収する液体中における水の含有量は、5質量%以上97質量%以下であるのが好ましく、10質量%以上95質量%以下であるのがより好ましく、20質量%以上93質量%以下であるのがさらに好ましく、30質量%以上90質量%以下であるのがもっとも好ましい。
これにより、前述した本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0065】
液体吸収体A100は、水を含む液体を吸収するものであればよいが、液体吸収体A100が吸収する液体中における固形分の含有量は、2質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、3質量%以上45質量%以下であるのがより好ましく、5質量%以上40質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0066】
液体吸収体A100は、上述したような第1基材A1、第2基材A2および吸収層A3を有するものであればよく、さらに、他の構成を有していてもよい。例えば、第1基材A1と吸収層A3との間や、第2基材A2と吸収層A3との間に、これらを接合する接合層が設けられていてもよい。このような場合、前記接合層は、例えば、接着剤で構成されたものとすることができる。また、例えば、本発明の液体吸収体は、上記のような2つの基材、すなわち、第1基材および第2基材と、これらの間に設けられた少なくとも1層の吸収層に加えて、さらに、他の基材や他の吸収層を有していてもよい。言い換えると、例えば、本発明の液体吸収体は、3つ以上の基材と、2つ以上の吸収層とを有し、これらの基材および吸収層が交互に配置された構造を有するものであってもよい。
【0067】
液体吸収体A100の形状は、特に限定されないが、シート状をなすものが好適である。
本発明の液体吸収体は、単一で用いられるものであってもよいし、複数個が同時に用いられるものであってもよい。より具体的には、例えば、所定の容器内に単一の液体吸収体A100を収納して用いてもよいし、所定の容器内に複数の液体吸収体A100を収納して用いてもよい。
【0068】
複数個の液体吸収体A100を同時に用いる場合、例えば、複数個のシート状の液体吸収体A100を所定の位置関係となるように重ね合わせて用いてもよい。また、複数個の小片状の液体吸収体A100を所定の容器内に充填して用いてもよい。
【0069】
液体吸収体A100は、液体の吸収に用いられるものであれば、いかなる用途であってもよいが、インクの吸収に用いられるものであるのが好ましい。
【0070】
インクは、液体吸収体に適用可能な各種液体の中でも、長期にわたる液体吸収体の吸収性能を維持することが特に困難であった。これに対し、本発明では、液体吸収体がインクの吸収に用いられるものであっても上記のような問題の発生を効果的に防止することができる。すなわち、液体吸収体がインクの吸収に用いられるものである場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0071】
インクとしては、例えば、顔料を含む顔料インク、染料を含む染料インク、顔料および染料を含まないクリアインク等が挙げられるが、液体吸収体A100は、顔料インクの吸収に用いられるものであるのが好ましい。
【0072】
各種インクの中でも顔料粒子が分散した顔料インクに適用される液体吸収体では、pHの変化により顔料の凝集塊が液体吸収体の間隙を埋めてしまいやすく、長期にわたってインクの吸収性能を維持することが困難であった。これに対し、本発明では、液体吸収体が顔料インクの吸収に用いられるものであっても上記のような問題の発生を効果的に防止することができる。
【0073】
[2]液体吸収体の製造方法
次に、液体吸収体A100の好適な製造方法について説明する。
図2は、本発明の液体吸収体の製造に用いる装置の好適な実施形態を模式的に示す構成図である。
【0074】
以下の説明では、前記装置として、液体吸収体の吸収層に対応するシートを製造するシート製造装置の例を挙げて説明する。
【0075】
シート製造装置P100は、吸収層A3となるべき部位に対応するシートを製造するものである。
【0076】
図2に示すように、シート製造装置P100は、繊維源を供給する繊維供給手段P1と、供給された繊維源を解繊する解繊手段P2と、熱融着性樹脂および難燃性物質を含む混合物を供給する熱融着性樹脂・難燃性物質供給手段P3と、前記繊維、熱融着性樹脂および難燃性物質を含む混合物を所定形状に成形する成形手段P4と、成形手段P4により製造された成形体を切断する切断手段P5とを備えている。
【0077】
繊維供給手段P1は、繊維源を定量して解繊手段P2に供給する定量フィーダーを備えている。繊維源としては、例えば、セルロース繊維を含む古紙を好適に用いることができる。
解繊手段P2は、繊維源を、所定の大きさに解繊する機能を有している。
【0078】
熱融着性樹脂・難燃性物質供給手段P3は、熱融着性樹脂および難燃性物質を含む混合物を定量して供給する定量フィーダーを備えている。これにより、繊維に対する熱融着性樹脂・難燃性物質の混合比率を好適に調整することができる。
【0079】
成形手段P4は、撹拌により、前記繊維、熱融着性樹脂および難燃性物質を均一に混合する混合部P41と、シート状に成形する成形部P42と、加圧・加熱により、熱融着性樹脂の少なくとも一部を溶融または軟化させ各成分を固定する固定化部P43とを備えている。
【0080】
混合部P41では、撹拌用ガスを導入して各成分の混合を行っている。これにより、より均一な混合を効率よく行うことができる。
【0081】
成形部P42では、通気性を有する搬送手段P6上に付与された混合物を、搬送手段P6を介して吸引することにより、前記混合物を搬送手段P6に密着させるとともに、シート状に成形する。
【0082】
固定化部P43では、所定条件で加熱・加圧することにより、熱融着性樹脂の少なくとも一部を溶融または軟化させ各成分を固定する。これにより、形状の安定性に優れた成形体を得ることができる。
【0083】
固定化部P43での加圧処理は、100℃以上250℃以下の温度で、圧力:1000Pa以上8000Pa以下、時間:30秒間以上120秒間以下の条件で行うのが好ましい。
【0084】
これにより、液体吸収体A100についての液体の吸収性および難燃性を特に優れたものとすることができる。
【0085】
上記のように、固定化部P43での加圧処理時の処理温度は、100℃以上250℃以下であるのが好ましいが、190℃以上240℃以下であるのがより好ましく、200℃以上230℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、上述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
【0086】
また、上記のように、固定化部P43での加圧圧力は、1000Pa以上8000Pa以下であるのが好ましいが、3000Pa以上6000Pa以下であるのがより好ましく、4000Pa以上5000Pa以下であるのがさらに好ましい。
これにより、上述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
【0087】
また、上記のように、固定化部P43での加圧処理の処理時間は、30秒間以上120秒間以下であるのが好ましいが、40秒間以上110秒間以下であるのがより好ましく、50秒間以上100秒間以下であるのがさらに好ましい。
これにより、上述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
【0088】
成形手段P4の下流側には、成形手段P4で製造された成形体としてのシートSを切断する切断手段P5が配置されている。
切断手段P5による切断で、所望の大きさのシートSが得られる。
【0089】
その後、得られたシートSを別途用意した第1基材A1および第2基材A2で挟み込み、これらを接合することにより、液体吸収体A100が得られる。
【0090】
なお、搬送手段P6上に第1基材A1を乗せ、その上に前記混合物を堆積させ、さらにその上に第2基材A2を堆積させたうえで、固定化部P43での加熱・加圧を行う形としてもよい。
【0091】
[3]印刷装置
次に、本発明の印刷装置について説明する。
【0092】
本発明の印刷装置は、前述したような本発明の液体吸収体を備えるものである。
これにより、難燃性に優れるとともに、液体の吸収性能を長期間にわたって安定的に優れたものとすることができる液体吸収体を備える印刷装置を提供することができる。
【0093】
以下、添付図面を参照しながら本発明の印刷装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0094】
図3は、印刷装置であるインクジェットプリンターの一例の全体構成を示す外観斜視図である。図4は、図3に示したインクジェットプリンターが備えるインクカートリッジの全体斜視図である。図5は、図4に示したインクカートリッジの分解斜視図である。図6は、図4に示したインクカートリッジの縦断面図である。図7は、図4に示したインクカートリッジの要部拡大断面図である。図8は、図6に示した開閉弁の開閉動作を説明する断面図であり、(a)は開閉弁が閉じられている状態を示す断面図、(b)は廃インクの導入による貯留空間内の圧力上昇により開閉弁が開いた状態を示す断面図、(c)は廃インクの導入が終了して再び開閉弁が閉じた状態を示す断面図である。
【0095】
インクジェットプリンター1は、複数種のインクを使用してロール紙にカラー印刷するものであり、図3に示すように、プリンター本体を覆うプリンターケース2の前面には、ロール紙カバー5およびインクカートリッジカバー7が開閉自在に装備されている。さらに、プリンターケース2の前面には、電源スイッチ3とともにフィードスイッチやインジケーター等も配置されている。
【0096】
図3に示すように、ロール紙カバー5を開くと、印刷用紙であるロール紙6を収容した用紙収容部8が開放状態になって、用紙の交換が可能になる。また、インクカートリッジカバー7を開くと、カートリッジ装着部9が開放状態になり、該カートリッジ装着部9へのインクカートリッジ10の着脱が可能になる。
【0097】
インクジェットプリンター1では、インクカートリッジカバー7を開く動作に連動して、カートリッジ装着部9の前方にインクカートリッジ10が所定距離だけ引き出される構成になっている。
【0098】
図4図6に示すように、インクカートリッジ10は、インクジェットプリンター1のカートリッジ装着部9に装着されるもので、3個のインクパック11,12,13を収容するカートリッジケース15に、プリンターのインク充填動作やヘッドクリーニング動作の際に生じる廃インクを貯留する廃インク貯留構造17が装備されている。
【0099】
3個のインクパック11,12,13は、カラー印刷用にそれぞれ異なるカラーインクを充填したものである。それぞれのインクパック11,12,13は、同様の構造のもので、インクを収容する可撓性の袋体21と、この袋体21の前端部に接合されたインク取り出し口23とを備えている。
【0100】
袋体21は、2枚のアルミニウムラミネートフィルムを重ね合わせて、それらの周囲を熱融着等の方法によって接合することにより形成されている。アルミニウムラミネートフィルムを採用した理由は、ガスバリヤー性の向上のためである。アルミニウムラミネートフィルムとしては、例えば、アルミニウム箔の外側をナイロンフィルム、内側をポリエチレンフィルムにより挟み込んだ構成のものが採用される。
【0101】
インク取り出し口23は、図6に示すように、基端側の外径が先端側の外径よりも大きく設定されて基端側が袋体21内に固定される筒状体23aと、この筒状体23a内に装着されて該筒状体23aの流路を開閉する弁体23bと、筒状体23aの先端に貼付されて筒状体23aの開口を封止したシールフィルム23cとを備えた構成である。インク取り出し口23の筒状体23aは、例えば硬質プラスチック等で形成されている。そして、シールフィルム23cは、ポリエチレンフィルムで形成されている。
【0102】
そして、インク取り出し口23は、筒状体23aの基端部を袋体21のアルミニウムラミネートフィルムに熱融着等により固定することで、筒状体23aに一体化されている。
カートリッジケース15は、図5および図6に示すように、上ケース31と、この上ケース31の下に連結される下ケース33と、上ケース31と下ケース33とで区画形成した空間を上下に仕切る中間容器壁35とを備えている。
【0103】
上ケース31と下ケース33はプラスチック材料による成形品であり、中間容器壁35は可撓性シート部材であるプラスチックフィルムで形成されている。
上ケース31は、下方を開放した箱形であり、前面容器壁31aは、両側面および後面の容器壁よりも丈が短く設定されている。そして、この前面容器壁31aの下端には、インクパック11,12,13のインク取り出し口23の上半分を位置決めする半円筒状のインクパック位置決め部31bが形成されている。半円筒状のインクパック位置決め部31bは、収容する3個のインクパック11,12,13に合わせて、合計3箇所、形成されている。
【0104】
また、上ケース31の両側面の容器壁である側壁31cの下端で、かつ後端寄りの位置には、下ケース33側の係合部33aに係合することで上下ケース相互を連結する係止突起31dが設けられている。
【0105】
下ケース33は、上部を開放した薄皿状の箱形である。前面容器壁33bは、両側面および後面の容器壁よりも丈が高く設定されており、この前面容器壁33bの上端に、インクパック11,12,13のインク取り出し口23の下半分を位置決めする半円筒状のインクパック位置決め部33cが形成されている。
【0106】
半円筒状のインクパック位置決め部33cは、図6に示すように、上ケース31のインクパック位置決め部31bとでインク取り出し口23を上下から挟み付けることで、インクパック11,12,13のインク取り出し口23を位置決め固定する。この半円筒状のインクパック位置決め部33cも、上述したインクパック位置決め部31bと同様に、収容する3個のインクパック11,12,13に合わせて、合計3箇所、形成されている。
【0107】
また、前面容器壁33bの上端には、前記インクパック位置決め部33cの前端から延出して前記インク取り出し口23の前方を覆うカバー部33dが形成されている。このカバー部33dには、図6に示したように、インクジェットプリンター1のカートリッジ装着部9に装備されたインク供給針41を挿通させる開口33eが貫通形成されている。
開口33eは、3個の半円筒状のインクパック位置決め部33cのそれぞれに中心を一致させて、3個形成されている。
【0108】
そこで、インクカートリッジ10をインクジェットプリンター1のカートリッジ装着部9に装着すると、カートリッジ装着部9に装備されたインク供給針41が気密にインク取り出し口23を貫通し、袋体21内のインクがインク供給針41を介してプリンター側に供給可能になる。インク供給針41には、プリンターの印字ヘッドにインクを供給するための供給チューブ42が接続されている。
【0109】
また、前面容器壁33bの下部寄りの位置には、廃インク貯留構造17における廃インク導入部37を構成する導入口44が形成されている。
廃インク導入部37は、図5および図6に示すように、先端に向かって内径が広がるテーパ管状のゴム製口部材37aと、このゴム製口部材37aの先端に貼着されるシールフィルム37bと、ゴム製口部材37aの後端に当接されることでゴム製口部材37aの開口を塞ぐ弁体37cと、弁体37cをゴム製口部材37aに当接する方向に付勢する圧縮コイルばね37dとを備えている。
【0110】
導入口44には、最前端の開口縁にゴム製口部材37aの前端を係止して抜け止めする突起が装備されている。圧縮コイルばね37dは、弁体37cをゴム製口部材37aの後端に当接させると同時に、ゴム製口部材37aを前方に押圧付勢して、ゴム製口部材37aの前端が導入口44の最前端の突起に密着した状態に保持している。
【0111】
インクカートリッジ10をインクジェットプリンター1のカートリッジ装着部9に装着すると、カートリッジ装着部9に装備された廃インク導入針47がゴム製口部材37aに気密に嵌合すると同時に弁体37cを押込み、廃インク導入針47を介して貯留空間51内に廃インクの導入が可能になる。
【0112】
廃インク導入針47には、インクジェットプリンター1がインク充填動作やヘッドクリーニング動作の際に発生した廃インクを廃インク導入針47に誘導する廃インク誘導チューブ49が接続されている。
【0113】
図4および図5に示すように、下ケース33の側面容器壁33fには、収容した各インクパック11,12,13の種類や、インクの残量、その他の諸データを記録可能なICモジュール53が装備される。
【0114】
このICモジュール53は、インクカートリッジ10をインクジェットプリンター1のカートリッジ装着部9に装着すると、カートリッジ装着部9に装備された接続端子に電気的に接続される。そして、プリンター側の制御回路、またはプリンターが接続されたコンピューターから諸情報の読み書きが可能になる。
【0115】
可撓性シート部材であるポリエチレンフィルム等のプラスチックフィルムによって形成された容器壁である中間容器壁35は、その周縁部を下ケース33の側面容器壁33fおよび前後容器壁33g,33hの上端面に重ね合わせ、重ね合わせた部分を熱融着等の方法によって接合することで、わずかに緊張した状態で下ケース33に固定されている。
【0116】
この中間容器壁35が下ケース33の上端開口を覆うように下ケース33に固定されることで、図6に示すように、下ケース33の底壁33iと中間容器壁35との間には、廃インク貯留構造17を構成する貯留空間51が区画形成される。また、上ケース31の天井壁31eと中間容器壁35との間には、3個のインクパック11,12,13を図5に示すように立てた状態に収容するインクパック収容空間55が区画形成される。
【0117】
インクパック11,12,13は、図7に示すように、その下端が中間容器壁35に当接するように収容されており、インクパック11,12,13の重量が図中矢印(A)に示すように、中間容器壁35を下方に押圧付勢する。
【0118】
そこで、インクパック11,12,13が中間容器壁35を下方に押圧付勢する力は、後述する廃インク貯留構造17の開閉弁65を閉じた状態に維持する付勢力として機能することもできる。この場合、テンションをかけずに中間容器壁35を下ケース33に固定することもできる。
【0119】
本実施形態の廃インク貯留構造17は、図6に示すように、下ケース33と中間容器壁35とによって区画形成されて廃インクを貯留する貯留空間51と、この貯留空間51内に廃インクを導入するための廃インク導入部37と、貯留空間51を外部に連通させる通気孔61と、貯留空間51内に装填されて廃インク導入部37から貯留空間51内に導入された廃インクを浸透吸収する、2枚の液体吸収体としてのインク吸収材63と、通気孔61を開閉する開閉弁65とを備えている。
【0120】
貯留空間51内に廃インクを導入する廃インク導入部37は、図5および図6に示すように、貯留空間51を区画形成している容器壁の一部である前面容器壁33bに形成された導入口44に設けられている。
【0121】
図6に示すように、導入口44の後端、すなわち、図6中での左端は、貯留空間51に連通しており、廃インク導入部37に挿入された廃インク導入針47から導入される廃インクは、導入口44の後端から貯留空間51内に流入する。
【0122】
中間容器壁35に形成された通気孔61は、貯留空間51を大気開放する円形の開口であり、この通気孔61が形成される位置は、貯留空間51内で最後に廃インクが到達する位置が望ましい。本実施形態では、図5に示すように、インクパック11,12,13の下端と干渉しないとともに、廃インク導入部37から離れた後端寄りの位置に通気孔61を設けている。
【0123】
インク吸収材63は、上述した本発明の液体吸収体が適用されたものであり、廃インク導入部37および導入口44を経て貯留空間51内に導入された廃インクが廃インク導入部37側に逆流して外部に漏れることのないように、導入された廃インクを浸透吸収する。
【0124】
通気孔61に設けられる開閉弁65は、廃インク導入部37からの廃インクの導入を妨げないように、廃インクの導入時にのみ通気孔61を開いて貯留空間51内の空気を外部に逃がす。
【0125】
なお、本実施形態の場合、通気孔61を備えた中間容器壁35に使用するプラスチックフィルムには、廃インク導入部37からの廃インクの導入圧によって上方へ膨張可能な程度の可撓性を有したプラスチックフィルムを選定している。
【0126】
また、本実施形態の場合、開閉弁65は、図8に示すように、通気孔61を備えた中間容器壁35と、先端部が通気孔61の周縁に当接して当該通気孔61を塞ぐように貯留空間51内に設けられた弁用構造部材67とを有する。
【0127】
略円柱状の支柱である弁用構造部材67は、先端部に突設されて通気孔61を貫通する位置決め用突起67aと、この位置決め用突起67aの裾部から拡径されて通気孔61の開口周縁に当接する段差面67bとを有し、通気孔61と対峙する下ケース33の底壁33iに一体形成されている。そこで、貯留空間51に装填される2枚のインク吸収材63には、弁用構造部材67を挿通させる孔63aが貫通形成されている。
【0128】
開閉弁65は、図8(a)に示すように、弁用構造部材67の段差面67bが通気孔61の周縁に当接して当該通気孔61を塞いでおり、廃インク導入部37からの廃インクの導入時以外は閉じた状態に保たれる。
【0129】
この開閉弁65は、図8(b)に示すように、廃インクの導入に伴って貯留空間51内の圧力が上昇すると、中間容器壁35が変形して上方へ膨張動作する。すると、通気孔61の周縁が弁用構造部材67の段差面67bから離間するので、開閉弁65は通気孔61を介して貯留空間51を大気開放する。
【0130】
そして、開閉弁65は、図8(c)に示すように、廃インクの導入が終了して貯留空間51内の圧力が低下すると、中間容器壁35自体のテンションおよび中間容器壁35を下方に押圧付勢するインクパック11,12,13によって、通気孔61の周縁が弁用構造部材67の段差面67bに当接する方向に付勢されるので、当該通気孔61は塞がれる。
【0131】
以上に説明した本実施形態の廃インク貯留構造17によれば、貯留空間51を大気開放する通気孔61が、廃インク導入部37からの廃インクの導入時以外は開閉弁65によって閉じた状態に保たれる。
【0132】
そこで、貯留空間51内に導入された廃インク中の水分が通気孔61から外部に蒸散することを抑えて、貯留空間51内における廃インクの固化を防止することができ、インク吸収材63の廃インクの固化に起因した浸透吸収性能の低下を防止することができる。また、上述したように、本発明の液体吸収体は、それ自体が優れた液体の吸収性能を有し、この吸収性能を長期間にわたって安定的に維持することができる。このため、上記のような効果が相乗的に作用し合い、本発明の液体吸収体が適用されたインク吸収材63を備える廃インク貯留構造17を備えるインクジェットプリンター1では、特に長期間にわたって、安定した浸透吸収性能を保持することができる。また、固化した廃インクによる目詰まりが効果的に防止されるため、廃インク導入部37に接続された廃インク供給側の廃インク誘導チューブ49等で異常昇圧が確実に防止され、廃インク誘導チューブ49の外れ等によるインク漏れ等の不都合の発生も確実に防止できる。
【0133】
また、本実施形態の廃インク貯留構造17では、例えば、使用済みのインクカートリッジ10を処分する際等には、上ケース31と下ケース33とを分離した後、下ケース33からプラスチックフィルム製の中間容器壁35を剥がすことで、貯留空間51の一面を大きく開放した状態とすることができ、よって、廃インクが浸透したインク吸収材63を貯留空間51内から簡単に取り出すことができる。したがって、部品や材料のリサイクルやリユースのために使用済みのインクカートリッジ10を分解して、材料別に分類する作業等が容易になる。また、上述したように、本発明の液体吸収体は、それ自体が優れた液体の吸収性能を有し、この吸収性能を長期間にわたって安定的に維持することができる。このため、本発明の液体吸収体が適用されたインク吸収材63を備えるインクジェットプリンター1においては、廃インクが浸透したインク吸収材63を貯留空間51内から取り出す際に、インクの成分がインク吸収材63から脱落することが確実に防止される。
【0134】
また、プラスチックフィルム製の中間容器壁35に貫通形成された通気孔61と対峙する位置の底壁33iに、先端部が通気孔61の周縁に当接して当該通気孔61を塞ぐ弁用構造部材67を一体形成するだけで、通気孔61を開閉する開閉弁65を得ることができる。そこで、開閉弁を装備するための部品追加が必要とならず、構成部品点数の増加や部品組立工程の増加に起因したコストアップが生じない。
【0135】
さらに、上記実施形態のインクカートリッジ10においては、通気孔61を設けた中間容器壁35が、インクパック11,12,13を収容するインクパック収容空間55と、貯留空間51とを区画形成している。
【0136】
そこで、通気孔61がインクカートリッジ10の外部に直接露呈せず、インクパック11、12、13を収容するインクパック収容空間55を介して大気開放されるので、通気孔61に設けた開閉弁65に使用者が不用意に触れてしまい、弁機能に支障をきたすおそれがない。
【0137】
また、本実施形態における弁用構造部材67の先端部には、通気孔61を貫通する位置決め用突起67aが突設されている。
【0138】
そこで、組立時における弁用構造部材67の先端部と中間容器壁35の通気孔61との位置合わせが容易となり、組立性が向上する。
【0139】
なお、廃インク貯留構造を備えたインクカートリッジの具体的構造は、上記実施形態のインクカートリッジ10に限定されない。インクパックの支持構造や、収容するインクパックの数量等が異なる各種のインクカートリッジにも上記のような廃インク貯留構造は適用可能である。
【0140】
また、弁用構造部材の具体的な構造も、上記実施形態の弁用構造部材67の構成に限らない。例えば、弁用構造部材の上端面が通気孔61を塞ぐ厚板状のリブ構造とすることもできる。
【0141】
図9は、印刷装置であるインクジェットプリンターの全体構成を示す概略分解斜視図であり、図10は、図9に示したインクジェットプリンターが備える廃インクタンクの分解斜視図であり、図11は、図10に示した廃インクタンクに設けられた開閉弁の拡大断面図であり、図12は、開閉弁の他の構成例を示す縦断面図である。
【0142】
本実施形態のインクジェットプリンター101は、図9に示すように、底部筐体であるプリンターハウジング111と、その内底部に画成したタンク収容部111sに対して着脱自在に装備される平面視矩形状の廃インクタンク120と、プリンターハウジング111および廃インクタンク120の上側に設置されるプリンター機構部115と、上部筐体である外装カバー112とを備えている。また、廃インクタンク120を収容するタンク収容部111sの後側には、電源ユニット116が装備されている。
【0143】
廃インクタンク120は、貯留空間151内に導入された廃インクを浸透吸収する複数個のインク吸収材122を交換可能に収容した平箱形のタンク本体121と、該タンク本体121の上面開口をゴムパッキン等のシール材123を介して密閉する蓋体124とを備えている。特に、図10に示す構成では、4つのインク吸収材122A,122B,122C,122Dを備えている。また、蓋体124の裏面には、廃インクをタンク周縁部のインク受口部127からタンク中央部に誘導してインク吸収材122の中央上部にて滴下させるチューブ125が装備されている。なお、廃インクタンク120を構成するプラスチック部品の色は、濃色、例えば黒色とするのが好ましい。
【0144】
この廃インクタンク120は、プリンターハウジング111上のタンク収容部111sに嵌め込んでネジ固定され、その上で吸引ポンプの吐出口とチューブ125の基端入口125aとを接続することによって、プリンターハウジング111にセットすることができる。また、取り外す場合は、逆の操作を行うことで、プリンターハウジング111から独立して取り外すことができる。
【0145】
インク吸収材122は、本発明の液体吸収体が適用された薄板状の成形体を最下層から最上層まで多段に積層した積層体として構成されている。特に、図示の構成では、インク吸収材122A,122B,122C,122Dが4段に積層した積層体として構成されている。また、最下層のインク吸収材122Aを除く上3段のインク吸収材122B,122C,122Dの平面中央には、上下に貫通する中央穴1221が設けられ、最上層のインク吸収材122Dには、周縁部から中央穴1221に至るチューブ収容溝1222が形成されている。
【0146】
そして、最上層のインク吸収材122Dに形成されたチューブ収容溝1222にチューブ125が収容され、チューブ125の基端入口125aが蓋体124の周縁部に設けられたインク受口部127に位置決めされるとともに、チューブ125の先端出口125bが最上層のインク吸収材122Dの中央穴1221内に位置決めされている。
【0147】
すなわち、本実施形態の廃インクタンク120は、プリンターのインク充填動作やヘッドクリーニング動作の際に生じる廃インクを貯留する貯留空間151を区画形成する容器壁である蓋体124に、貯留空間151内に廃インクを導入するための廃インク導入部であるインク受口部127と、貯留空間151を大気開放する通気孔173とが設けられた廃インク貯留構造を備えている。
【0148】
さらに、蓋体124に形成された通気孔173には、図11に示すように、廃インクの導入時にのみ開く開閉弁171が設けられている。この開閉弁171は、蓋体124に形成された通気孔173を塞ぐ弁体174が、インク受口部127からの廃インクの導入圧によって開く方向に弾性変形する開閉部174cを有する弾性部材により一体成形されている。
【0149】
弁体174は、通気孔173の周縁部に密着接合される鍔部174aと、この鍔部174aの内周部から通気孔173を貫通した円筒部174bと、この円筒部174bの先端を塞ぐように円筒部174bの先端に連設された円錐状部に軸方向の切れ込み174dを入れて形成した複数の開閉部174cとが、ゴム材料により一体形成されている。
【0150】
開閉弁171の開閉部174cは、廃インクの非導入時には図11(a)に示したように閉じているが、廃インクの導入時には、図11(b)に示したようにインク受口部127からの廃インクの導入圧によって開く方向に弾性変形し、切れ込み174dが開いて貯留空間151内の空気が外部に逃がされる。
【0151】
したがって、開閉弁171を構成する専用の弁体174が必要となるが、その代わりに弁体174の開閉部174cにおける弾性特性を適宜設定することで、開閉弁171による通気孔173の封止性能を向上させ、通気孔173からの水分の蒸散を防止する性能を向上させることができる。
【0152】
また、通気孔173を設ける蓋体124の材質が限定されないため、廃インク貯留構造を備えた廃インクタンク120の設計自由度が向上する。
【0153】
上述した本実施形態の廃インクタンク120によれば、貯留空間151内に導入された廃インク中の水分が通気孔173から外部に蒸散することを抑えて、貯留空間151内における廃インクの固化を防止することができる。また、上述したように、本発明の液体吸収体は、それ自体が優れた液体の吸収性能を有し、この吸収性能を長期間にわたって安定的に維持することができる。このため、上記のような効果が相乗的に作用し合い、本発明の液体吸収体が適用されたインク吸収材122を備える廃インクタンク120を備えるインクジェットプリンター101では、特に長期間にわたって、安定した浸透吸収性能を保持することができる。
【0154】
また、本実施形態のインクジェットプリンター101は、廃インクタンク120だけをプリンターハウジング111から独立して取り外すことができるので、インクで汚れた廃インクタンク120だけを別に管理し、汚れていないプリンターハウジング111については、そのままリサイクルやリユースに回すことができる。また、廃インクタンク120が着脱自在であることから、何らかの事情により、作業者の手等を汚すことなく、廃インクタンク120だけを新品に交換することも可能である。
【0155】
また、本実施形態の廃インクタンク120は、使用済みで処分する際等には、蓋体124を開けて廃インクが浸透したインク吸収材122をタンク本体121から取り出した後、蓋体124から弁体174やチューブ125等を取り外すことで、簡単に分解することができる。したがって、部品や材料のリサイクルやリユースのために使用済みの廃インクタンク120を分解して、材料別に分類する作業等が容易になる。
【0156】
なお、廃インク導入部からの廃インクの導入圧によって開く開閉部を有する弁体が一体成形される開閉弁の構成は、上記開閉弁171の構成に限定されるものではなく、種々の形態を採りうることはいうまでもない。
【0157】
図12に示した開閉弁175は、例えば図示しない容器壁の通気孔内に螺着固定される略円筒状の弁座177と、この弁座177に着座する弁体178とを備えている。
【0158】
弁座177は、円筒内周面に形成された段差面177aを弁体178の着座面としたものである。弁体178は、外周部が段差面177aに着座する円板状の弁本体178aと、この弁本体178aの中心部を支持する支持部178bとが、弾性部材により一体成形されている。
【0159】
そして、図中に2点鎖線で示すように、廃インクの導入時には貯留空間側の圧力上昇に伴って弁本体178aの外周部が弁座177から離間する方向に弾性変形し、図中に矢印で示すように、その時に形成される隙間から貯留空間側の空気を外部に逃がすことができる。
【0160】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0161】
例えば、液体吸収体の製造に用いるシート製造装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0162】
また、前述した実施形態では、製造装置が、熱融着性樹脂および難燃性物質を含む混合物を供給する熱融着性樹脂・難燃性物質供給手段を備えるものとして説明したが、熱融着性樹脂と難燃性物質とは、互いに独立して供給するもの、すなわち、熱融着性樹脂供給手段と難燃性物質供給手段とを別個に備えるものであってもよい。これにより、例えば、液体吸収体が適用される印刷装置の種類等に応じて、熱融着性樹脂と難燃性物質との配合比率を好適に変更することができ、多種の液体吸収体を好適に製造することができる。また、熱融着性樹脂を含まない吸収層を形成する場合には、熱融着性樹脂を供給しなくてよい。
【0163】
また、前述した実施形態では、吸収層となるべき部位に対応するシートを切断した後に、当該シートを第1基材および第2基材で挟み込み、これらを接合する場合について代表的に説明したが、前記シートを切断する前に、第1基材および第2基材と接合してもよい。
【0164】
また、前述した実施形態では、吸収層となるべき部位に対応するシートを製造した後に、第1基材、第2基材を接合する場合について代表的に説明したが、例えば、吸収層となるべき部位に対応するシートは、直接、第1基材や第2基材の表面に形成してもよい。
【0165】
また、本発明の液体吸収体は、上述した装置を用いて製造されるものに限定されず、いかなる装置を用いて製造されたものであってもよい。
【0166】
また、本発明の印刷装置は、本発明の液体吸収体を備えるものであればいかなるものであってもよく、上述したような構成を有するものに限定されない。
【0167】
また、本発明の印刷装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【実施例0168】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[4]液体吸収体の製造
以下のようにして、液体吸収体を製造した。
【0169】
(実施例1)
まず、図2に示すようなシート製造装置を用意した。
このシート製造装置の繊維供給手段から供給されたセルロース繊維源としての古紙を、解繊手段としての解繊装置により解繊した。
【0170】
次に、解繊手段で解繊された古紙の搬送経路中に、熱融着性樹脂・難燃性物質供給手段から、熱融着性樹脂と難燃性物質との混合物を供給し、セルロース繊維と熱融着性樹脂と難燃性物質との混合物を得た。熱融着性樹脂としてはポリエステルとポリエチレンとの重量比50:50のポリマーブレンドを用い、難燃性物質としては、平均粒径が14μmであるメラミンシアヌレートの粉体を用いた。
【0171】
次に、上記混合物を、成形手段の混合部に導入し、撹拌用ガスにより、これらをさらに混合した。
【0172】
次に、この混合物を、通気性を有する不織布で構成された搬送手段上に乗せた第1基材上に付与し、搬送手段を介して吸引することにより、前記第1基材および混合物を搬送手段に密着させるとともに積層した。
【0173】
その後、得られた混合物および第1基材の積層体を、別途用意した第2基材で挟み込み、これらを重ね合わせた状態で、処理温度:220℃、圧力:4500Pa、処理時間:90秒間の条件で、加熱および加圧処理を施すことにより、これらを接合し、液体吸収体を得た。
【0174】
第1基材および第2基材としては、いずれも、スパンボンド法により得られたポリエステル長繊維不織布(東洋紡社製、商品名エクーレ、目付量30g/m、厚さ0.2mmのもの)を用いた。
【0175】
その後、切断手段としての超音波カッターにより切断し、液体吸収体の小片を得た。
得られた液体吸収体の小片は、縦15cm、横5cm、厚さ10mmの直方体状をなすものであり、セルロース繊維の含有量が75質量%、難燃性物質の含有量が10質量%、熱融着性樹脂の含有量が15質量%であった。
【0176】
(実施例2)
難燃性物質として、メラミンシアヌレートの代わりに、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10-H-9-オキサ-10-フォスファフェナンスレン-10-オキサイドを用いた以外は、前記実施例1と同様にして液体吸収体を製造した。
【0177】
(実施例3)
難燃性物質として、メラミンシアヌレートと水酸化アルミニウムとの混合物を用いた以外は、前記実施例1と同様にして液体吸収体を製造した。メラミンシアヌレートと水酸化アルミニウムとの比率は、質量比で、7:3とした。
【0178】
(実施例4)
吸収層中におけるセルロース繊維と熱融着性樹脂と難燃性物質との比率が、質量比で、78:15:7となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして液体吸収体を製造した。
【0179】
(実施例5)
難燃性物質として、メラミンシアヌレートとポリリン酸メラミンとの混合物を用いた以外は、前記実施例1と同様にして液体吸収体を製造した。メラミンシアヌレートとポリリン酸メラミンとの比率は、質量比で、7:3とした。
【0180】
(実施例6)
吸収層中におけるセルロース繊維と熱融着性樹脂と難燃性物質との比率が、質量比で、80:15:5となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして液体吸収体を製造した。
【0181】
(比較例1)
難燃性物質として、メラミンシアヌレートの代わりに、平均粒径10μmのポリリン酸アンモニウムを用いた以外は、前記実施例1と同様にして液体吸収体を製造した。
【0182】
(比較例2)
難燃性物質として、メラミンシアヌレートの代わりに、平均粒径4μmのポリリン酸メラミンを用いた以外は、前記実施例1と同様にして液体吸収体を製造した。
前記各実施例および各比較例の液体吸収体の構成等を表1にまとめて示す。
【0183】
【表1】
【0184】
[5]評価
以上のようにして得られた液体吸収体に関して、以下のような評価を行った。
[5-1]インクの浸透性
まず、以下のようにして、評価用の混合顔料インクを調製した。
すなわち、自己分散型のカーボンブラック(オリエント化学CW-1):5質量%(体積平均粒径150nm)、樹脂エマルジョン(スチレン-アクリル酸):3質量%、アセチレン系界面活性剤(オルフィンE1010):0.5質量%、グリセリン:5質量%、2-ピロリドン:2質量%、1,2-ヘキサンジオール:2質量%、残分水からなるブラックインクと、ピグメントイエロー74を樹脂で被覆した色材:3質量%、樹脂エマルジョン(スチレン-アクリル酸):3質量%、アセチレン系界面活性剤(オルフィンE1010):0.3質量%、グリセリン:3質量%、2-ピロリドン:2質量%、1,2-ヘキサンジオール:2質量%、残分水からなるイエローインクと、ピグメントレッド122を樹脂で被覆した色材:3質量%、樹脂エマルジョン(スチレン-アクリル酸):3質量%、アセチレン系界面活性剤(オルフィンE1010):0.3質量%、グリセリン:3質量%、2-ピロリドン:2質量%、1,2-ヘキサンジオール:2質量%、残分水からなるマゼンタインクと、ピグメントブルー15:3を樹脂で被覆した色材:3質量%、樹脂エマルジョン(スチレン-アクリル酸):3質量%、アセチレン系界面活性剤:(オルフィンE1010)0.3質量%、グリセリン:3質量%、2-ピロリドン:2質量%、1,2-ヘキサンジオール:2質量%、残分水からなるシアンインクとをそれぞれ調製し、これらを等質量混合して、容器内に入れた状態で密栓して25℃で14日間静置したものを、評価用の混合顔料インクとした。
【0185】
なお、ピグメントイエロー74を被覆する樹脂、ピグメントレッド122を被覆する樹脂、および、ピグメントブルー15:3を被覆する樹脂としては、以下のようにして合成された水不溶性ポリマーを用いた。すなわち、有機溶媒としてのメチルエチルケトン:20質量部、重合連鎖移動剤としての2-メルカプトエタノール:0.03質量部、重合開始剤としての2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル):1.2質量部、メタクリル酸:20質量部、スチレンモノマー:45質量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(PO=9):5質量部、ポリエチレングリコール・プロピレングリコールモノメタクリレート(EO=5、PO=7):10質量部、および、スチレンマクロマー(東亜合成社製、商品名:AS-6S、数平均分子量:6000、重合性官能基:メタクロイルオキシ基):20質量部を反応容器内に入れ、この反応容器内を窒素ガスで十分に置換した後、75℃攪拌下で重合し、さらにその後、重合性成分100質量部に対してメチルエチルケトン:40質量部に溶解した2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル):0.9質量部を加え、80℃で1時間熟成させることにより、水不溶性ポリマー溶液を得、これを減圧乾燥することにより、水不溶性ポリマーを得た。ただし、上記の記載において、POはプロピレンオキサイドを示し、EOはエチレンオキサイドを示す。
【0186】
また、母材となる顔料粒子、すなわち、ピグメントイエロー74、ピグメントレッド122およびピグメントブルー15:3に対する前記水不溶性ポリマーによる被覆は、以下のように行った。すなわち、上記水不溶性ポリマー:5質量部をメチルエチルケトン:15質量部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和し、さらに、母材となる顔料:15質量部を加え、水を加えながら分散機で混練した。その後、得られた混練物にイオン交換水:100質量部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、水不溶性ポリマーで被覆された色材の水分散液(固形分濃度:20質量%)を得た。
【0187】
また、樹脂エマルジョン(スチレン-アクリル酸)は、以下のようにして得た。すなわち、撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水:800gおよびラウリル硫酸ナトリウム:1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら75℃まで昇温した。内温を75℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム6gを添加し、溶解後、予めイオン交換水:450g、ラウリル硫酸ナトリウム:2gにアクリルアミド:20g、メチルメタクリレート:600g、ブチルアクリレート:215g、メタクリル酸:30g、トリエチレングリコールジアクリレート:5gを撹拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に5時間かけて滴下し、滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分30質量%、pH8に調整することにより、樹脂エマルジョン(スチレン-アクリル酸)を得た。
【0188】
上記のようにして得られた混合顔料インクを用いて、前記各実施例および各比較例で製造した液体吸収体について、以下のようにしてインクの浸透性の評価を行った。
まず、前記各実施例および各比較例で製造した液体吸収体を、200mmの辺が鉛直方向となるようにして、その下端部を混合顔料インクが充填された容器内に入れ、静置した。このとき、容器内の混合顔料インクの液面は、液体吸収体の下端から15mmの位置となるようにした。
【0189】
2時間静置した際に、液体吸収体の下端から顔料インクが浸透した高さを測定し、以下の基準に従い評価した。浸透高さが大きいほど、インクの浸透性に優れているといえる。
【0190】
A:浸透高さが120mm以上。
B:浸透高さが100mm以上120mm未満。
C:浸透高さが100mm未満。
【0191】
[5-2]難燃性
前記各実施例および各比較例で製造した液体吸収体について、JIS K6400-6に準拠した方法により燃焼速度を求めた。すなわち、前記各実施例および各比較例で製造した液体吸収体の小片について、15cmの辺が水平方向となるように、その一端を把持し、その他端を、38mm炎で60秒間接炎し、標線間100mmの燃焼速度を求め、以下の基準に従い評価した。燃焼速度が小さいほど、難燃性に優れているといえる。
【0192】
A:燃焼速度が5mm/分未満である。
B:燃焼速度が5mm/分以上である。
【0193】
[5-3]インクの凝集性
前記各実施例および各比較例で製造した液体吸収体について、以下のようにしてインクの凝集性を評価した。すなわち、密閉のできる蓋つき容器に、混合顔料インク10gを入れ、これに液体吸収体1gを浸漬して密栓し、60℃で72時間加温した。その後、開栓して目視による観察を行い、液体吸収体におけるインクの凝集の発生状況について、以下の基準に従い評価した。
【0194】
A:凝集が認められない。
B:液体吸収体の表面に凝集が認められる。
C:インク全体がゲル化している。
これらの結果を表2に示す。
【0195】
【表2】
【0196】
表2から明らかなように、本発明では、インクの浸透性に優れるとともに難燃性に優れた液体吸収体を提供することができた。また、本発明では、インクの凝集が効果的に防止されていることが確認された。この結果から、液体の吸収性能を長期間にわたって安定的に優れたものとすることができると言える。これに対し、比較例では、満足な結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0197】
A100…液体吸収体、A1…第1基材、A2…第2基材、A3…吸収層、P100…シート製造装置、P1…繊維供給手段、P2…解繊手段、P3…熱融着性樹脂・難燃性物質供給手段、P4…成形手段、P41…混合部、P42…成形部、P43…固定化部、P5…切断手段、P6…搬送手段、1…インクジェットプリンター、2…プリンターケース、3…電源スイッチ、5…ロール紙カバー、6…ロール紙、7…インクカートリッジカバー、8…用紙収容部、9…カートリッジ装着部、10…インクカートリッジ、11,12,13…インクパック、15…カートリッジケース、17…廃インク貯留構造、21…袋体、23…インク取り出し口、23a…筒状体、23b…弁体、23c…シールフィルム、31…上ケース、31a…前面容器壁、31b…インクパック位置決め部、31c…側壁、31d…係止突起、31e…天井壁、33…下ケース、33a…係合部、33b…前面容器壁、33c…インクパック位置決め部、33d…カバー部、33e…開口、33f…側面容器壁、33g,33h…前後容器壁、33i…底壁、35…中間容器壁、37…廃インク導入部、37a…ゴム製口部材、37b…シールフィルム、37c…弁体、37d…圧縮コイルばね、41…インク供給針、42…供給チューブ、44…導入口、47…廃インク導入針、49…廃インク誘導チューブ、51…貯留空間、53…ICモジュール、55…収容空間、61…通気孔、63…インク吸収材、63a…孔、65…開閉弁、67…弁用構造部材、67a…位置決め用突起、67b…段差面、101…インクジェットプリンター、111…プリンターハウジング、111s…タンク収容部、112…外装カバー、115…プリンター機構部、116…電源ユニット、120…廃インクタンク、121…タンク本体、122,122A,122B,122C,122D…インク吸収材、1221…中央穴、1222…チューブ収容溝、123…シール材、124…蓋体、125…チューブ、125a…基端入口、125b…先端出口、127…インク受口部、151…貯留空間、171…開閉弁、173…通気孔、174…弁体、174a…鍔部、174b…円筒部、174c…開閉部、174d…切れ込み、175…開閉弁、177…弁座、177a…段差面、178…弁体、178a…弁本体、178b…支持部、S…シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図12