(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181882
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】浄水場運転計画立案装置、浄水場運転計画立案方法、及び浄水場運転管理システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20120101AFI20221201BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G06Q50/06
G05B23/02 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089082
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小泉 賢司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信補
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 由泰
(72)【発明者】
【氏名】横井 浩人
【テーマコード(参考)】
3C223
5L049
【Fターム(参考)】
3C223AA06
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF17
3C223FF22
3C223FF24
3C223FF26
3C223FF43
3C223GG03
3C223HH08
5L049CC06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】浄水場の作業員が有する運転ノウハウを正確に反映して運転計画を立案する浄水場運転計画立案装置、浄水場運転計画立案方法及び浄水場運転管理システムを提供する。
【解決手段】浄水場運転管理システム1において、浄水場運用立案計画装置10は、浄水場40の各設備における水の状態及び作業員が行った各設備の操作の組み合わせを取得し、取得した組み合わせに基づき、浄水場40の各設備における水の状態と当該状態に対応して作業員が行う各設備の操作との関係である運用条件を算出する運用条件抽出部131と、将来の所定の時点において、運用条件の下で、浄水場40における各設備の制約を最も満たす、作業員が各設備に対して行う操作を算出する運用計画立案部14と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサ及びメモリを有し、
浄水場の各設備における水の状態及び作業員が行った各設備の操作の組み合わせを取得し、取得した組み合わせに基づき、前記浄水場の各設備における水の状態と当該状態に対応して作業員が行う各設備の操作との関係である運用条件を算出する運用条件抽出部と、
将来の所定の時点において、前記運用条件の下で、前記浄水場における各設備の制約を最も満たす、作業員が各設備に対して行う操作を算出する運用計画立案部と、
を備える、浄水場運用立案計画装置。
【請求項2】
前記運用条件抽出部は、前記将来の所定の時点における前記浄水場に関する状態値と所定差以内の状態値を有していた過去の時点を特定し、特定した過去の時点における、前記浄水場の各設備における水の状態及び作業員が行った各設備の操作の組み合わせを取得するものであり、
前記取得した組み合わせに基づき、前記浄水場における各設備の水の状態を説明変数とし、前記浄水場における各設備の操作を目的変数とする学習済みモデルを生成することにより運用条件を算出する運用条件学習部を備える、
請求項1に記載の浄水場運用立案計画装置。
【請求項3】
前記運用条件における前記浄水場の前記水の状態は、前記各設備における水の状態の範囲として表され、
前記特定した運用条件に基づき、前記浄水場の各設備における水の状態の範囲を条件とし、当該状態に対応して作業員が行う各設備の操作を結果とした情報を表示する表示部をさらに備える、
請求項1に記載の浄水場運用立案計画装置。
【請求項4】
前記取得した組み合わせにおける各設備を、前記浄水場における水の流路に関して分類することで、異なる各設備の組み合わせに再構成した複数の運用条件の候補を生成し、生成した各候補から、所定の条件を満たす候補を前記運用条件として特定する運用条件探索部をさらに備える、請求項1に記載の浄水場運用立案計画装置。
【請求項5】
前記運用条件探索部は、
前記運用条件抽出部により取得した組み合わせに基づき、前記複数の運用条件の候補を生成し、生成した各運用条件の候補のそれぞれの下での、前記浄水場における各設備の制約を最も満たす場合の各設備の状態を推定し、
過去に行った前記浄水場の各設備の状態を取得し、取得した各設備の状態との乖離度が所定値以下の前記運用条件の候補を、前記運用条件として特定する、
請求項4に記載の浄水場運用立案計画装置。
【請求項6】
前記浄水場の設備における水の状態の範囲が所定幅未満であった時間の特徴を特定する評価時間算出部を備え、
前記運用条件探索部は、前記特定した特徴を有する過去の時点における前記浄水場の設備の状態を取得し、取得した各設備の状態との乖離度が所定値以下の前記運用条件の候補を、前記運用条件として特定する、
請求項5に記載の浄水場運用立案計画装置。
【請求項7】
前記浄水場における所定の設備の制約は、第1の制約及び前記第1の制約より緩やかな第2の制約を有し、
前記運用計画立案部は、前記将来の所定の時点において、前記運用条件の下で、前記所定の設備の前記第1の制約を満たしかつ前記第2の制約からの逸脱量が最も少ない、前記
作業員が各設備に対して行う操作を算出する、
請求項1に記載の浄水場運用立案計画装置。
【請求項8】
前記算出した、作業員が各設備に対して行う操作の内容を表示する表示部を備える、請求項1に記載の浄水場運用立案計画装置。
【請求項9】
情報処理装置が、
浄水場の各設備における水の状態及び作業員が行った各設備の操作の組み合わせを取得し、取得した組み合わせに基づき、前記浄水場の各設備における水の状態と当該状態に対応して作業員が行う各設備の操作との関係である運用条件を算出する運用条件抽出処理と、
将来の所定の時点において、前記運用条件の下で、前記浄水場における各設備の制約を最も満たす、作業員が各設備に対して行う操作を算出する運用計画立案処理と、
を実行する、浄水場運用立案計画方法。
【請求項10】
プロセッサ及びメモリを有し、
浄水場の各設備における水の状態及び作業員が行った各設備の操作の組み合わせを取得し、取得した組み合わせに基づき、前記浄水場の各設備における水の状態と当該状態に対応して作業員が行う各設備の操作との関係である運用条件を算出する運用条件抽出部と、
将来の所定の時点において、前記運用条件の下で、前記浄水場における各設備の制約を最も満たす、各設備に対して行う操作を算出し、算出した操作を指示する信号を送信する運用計画立案部と、
前記信号を受信し、受信した信号に基づき、前記各設備を制御する監視制御装置と、
を備える、浄水場運転管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水場運転計画立案装置、浄水場運転計画立案方法、及び浄水場運転管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場は水源から 取水して各種の浄水処理を行い、需要家に水を供給する。この場合
、需要家の水の需要状況に応じて配水池に水を一時的に貯留する。そして、浄水場内のこれらの設備の間には配管が設けられ、浄水場内の水はこれらの配管を経て需要家に供給される。さらに、各設備は、設計上又は運用上定められた様々な遵守レベルの制約(例えば、水位に関する制約)に従って管理及び運用されなければならない。
【0003】
浄水場はこのように複雑な構成を有しているため、作業員は、水の需要、各設備の状態、及び天候等を把握しこれに応じて行うべき処理(ポンプ操作や配管流量の設定)を決定する運転ノウハウを長年に亘って蓄積している。しかし、作業員のこのような運転ノウハウ、すなわち浄水場の各設備がどのような状態の場合にどのような処理を行うかといった知見の収集は、近年の作業員の減少及び高齢化に伴ってより難しくなっている。
【0004】
このような現状から、例えば特許文献1には、浄水場内における推計及び機器を数理的に解き運転計画を算出する技術が開示されている。そして、この技術は、プラント個別の状況や運転ノウハウを適宜に反映させることを目的の一つとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、考慮できる運転ノウハウが設備の運転範囲に限られている。例えば、ある条件ではこのような運転を行うといった、状況に応じたノウハウを取り込むことができない。また、設備の制約が固定された条件として設定されるため、制約の遵守レベルといった要素が考慮できない。さらに、運転ノウハウが運転計画に取り込まれたか否かの判断が、過去の運転実績と立案した運転計画との単純な差分によって行われるため、運転ノウハウの反映が十分になされない場合がある。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、浄水場の作業員が有する運転ノウハウを正確に反映して運転計画を立案することが可能な浄水場運転計画立案装置、浄水場運転計画立案方法、及び浄水場運転管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一つは、プロセッサ及びメモリを有し、浄水場の各設備における水の状態及び作業員が行った各設備の操作の組み合わせを取得し、取得した組み合わせに基づき、前記浄水場の各設備における水の状態と当該状態に対応して作業員が行う各設備の操作との関係である運用条件を算出する運用条件抽出部と、将来の所定の時点において、前記運用条件の下で、前記浄水場における各設備の制約を最も満たす、作業員が各設備に対して行う操作を算出する運用計画立案部と、を備える、浄水場運用立案計画装置、とする。
【0009】
また、上記課題を解決するための本発明の一つは、情報処理装置が、浄水場の各設備における水の状態及び作業員が行った各設備の操作の組み合わせを取得し、取得した組み合わせに基づき、前記浄水場の各設備における水の状態と当該状態に対応して作業員が行う各設備の操作との関係である運用条件を算出する運用条件抽出処理と、将来の所定の時点において、前記運用条件の下で、前記浄水場における各設備の制約を最も満たす、作業員が各設備に対して行う操作を算出する運用計画立案処理と、を実行する、浄水場運用立案計画方法、とする。
【0010】
また、上記課題を解決するための本発明の一つは、プロセッサ及びメモリを有し、浄水場の各設備における水の状態及び作業員が行った各設備の操作の組み合わせを取得し、取得した組み合わせに基づき、前記浄水場の各設備における水の状態と当該状態に対応して作業員が行う各設備の操作との関係である運用条件を算出する運用条件抽出部と、将来の所定の時点において、前記運用条件の下で、前記浄水場における各設備の制約を最も満たす、各設備に対して行う操作を算出し、算出した操作を指示する信号を送信する運用計画立案部と、前記信号を受信し、受信した信号に基づき、前記各設備を制御する監視制御装置と、を備える、浄水場運転管理システム、とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、浄水場の作業員が有する運転ノウハウを正確に反映して運転計画を立案することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】浄水場運転管理システムの構成の一例を示す図である。
【
図5】浄水場運用計画立案装置及び監視制御装置が備えるハードウェアの一例を説明する図である。
【
図6】浄水場運用計画立案処理の一例を説明するフロー図である。
【
図7】運用条件抽出処理の詳細を説明するフロー図である。
【
図8】類似日の検索方法の一例を説明する図である。
【
図9】学習データへの変換の一例を説明する図である。
【
図10】運用条件のデータ構造の一例を示す図である。
【
図12】運用条件探索処理の詳細を説明するフロー図である。
【
図13】配水池の信頼区間及び評価時刻の算出方法の一例を説明する図である。
【
図14】派生運用条件を制約式に変換する一例を説明する図である。
【
図15】計画立案処理の詳細を説明するフロー図である。
【
図16】最適化モデルの制約の一例を説明する図である。
【
図17】最適化モデルの決定変数及び目的関数の一例を説明する図である。
【
図18】最適化モデルの生成に用いられる説明変数に関するデータの一例を示す図である。
【
図19】最適化モデルの実行により説明変数の値として算出される需要量の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施形態に係る浄水場運転管理システム1の構成の一例を示す図である。浄
水場運転管理システム1は、浄水場40から各設備のデータを取得する監視制御装置20と、監視制御装置20が取得したデータに基づき、浄水場40の各設備の運用計画を立案する浄水場運用計画立案装置10と、浄水場運用計画立案装置10に対してユーザがデータの入力を行い又はユーザに情報を表示するための入出力装置30とを含んで構成される。
【0014】
浄水場40、監視制御装置20、浄水場運用計画立案装置10、及び入出力装置30の間は、例えば、例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)
、インターネット、又は専用線等の有線若しくは無線のネットワーク5により通信可能に接続される。
【0015】
浄水場40は、複数の系統45を備える。各系統45は、ポンプ41、浄水装置43、配水池44、及び管路42等の各設備を備える。管路42は、各設備間を接続している。ポンプ41は、水源から水を取得し、各設備の間で水を流通させ、又は需要家に水を提供する。配水池44は、水を一時的に貯留する。ポンプ41は水源からの取水、設備間や需要家への送配水に用いられる。
【0016】
入出力装置30は、運用条件入力部31、及び表示部32の各機能部を備える。運用条件入力部31は、ユーザから、浄水場40の各設備の運用上の制約(以下、運用条件という)の入力を受け付ける。また、表示部32は、浄水場運用計画立案装置10が出力した情報を画面に表示する。なお、入出力装置30は、キーボード、マウス、カードリーダ、又はタッチパネル等の入力装置と、LCD(Liquid Crystal Display)、音声出力装置(スピーカ)、又は印字装置等の出力装置とを備える。
【0017】
監視制御装置20は、浄水場40の各設備(ポンプ41、管路42、浄水装置43、配水池44等)から、各設備の状態に関するデータ(例えば、ポンプ41及び浄水装置43の起動若しくは停止の状態、又は吐出量や浄水量等の流量、管路42の流量及び水位、配水池44の水の貯留量及び水位の各データ)を取得し、取得したデータを浄水場運用計画立案装置10に送信する。また、監視制御装置20は、浄水場運用計画立案装置10が立案した運転計画に基づき、浄水場40の各設備を制御する。例えば、監視制御装置20は、ポンプ41及び浄水装置43の起動又は停止の制御、管路42の流量及び水位の制御、並びに、配水池44の水の貯留量及び水位の制御を行う。
【0018】
次に、浄水場運用計画立案装置10は、データ収集部11、需要予測部12、制約構成部13、及び運用計画立案部14の各機能部を備える。また、浄水場運用計画立案装置10は、運用実績データ15、設備データ16、ネットワークデータ17、及び環境データ18を、例えばデータベースの形式で記憶している。
【0019】
データ収集部11は、監視制御装置20から送信されてきたデータを受信し、受信したデータを運用実績データ15に記憶する。
【0020】
需要予測部12は、浄水場40が管理する需要家の水の需要量を予測する。
【0021】
制約構成部13は、入出力装置30からのユーザ入力に基づき運用条件を生成する他、自動的に運用条件を生成する機能を有する。すなわち、制約構成部13は、運用条件を生成する運用条件抽出部131を備える。
【0022】
運用条件抽出部131は、浄水場40の各設備における水の状態(例えば、配水池44の水位)とその状態に対応して作業員が行う各設備の操作(例えば、ポンプ41の起動又は停止、管路42の流量調整)との関係である運用条件を特定する。
【0023】
なお、入出力装置30の表示部32は、この運用条件に基づき、浄水場40の各設備における水の状態の範囲を「条件」とし、その状態に対応して作業員が行う各設備の操作を「結果」とした情報を、後述する計画表示画面に表示する。
【0024】
運用計画立案部14は、浄水場40の運転計画の作成対象日である計画日において、上記運用条件の下で、浄水場40における各設備の制約(配水池44の水位の制約等)を最も満たす、作業員が各設備に対して行うべき操作を算出する。
【0025】
運用条件抽出部131は、運用条件学習部132、運用条件探索部133、信頼区間判定部134、及び評価時間算出部135の各機能部を備える。
【0026】
運用条件学習部132は、機械学習を用いて運用条件を特定する。すなわち、運用条件学習部132は、浄水場40の各設備における水の状態とその状態に対応して作業員が行った各設備の操作とを含む過去の実績情報(運用実績データ15)を取得し、その実績情報から選択した水の状態及び設備の操作の間の関係を機械学習することにより、運用条件を特定する。
【0027】
より詳細に説明すると、運用実績データ15は、浄水場40の各設備における水の状態及び水の需要量の情報を有する。運用条件学習部132は、計画日における浄水場40の各設備の水の状態及び水の需要量を需要予測部12に基づき算出し、算出した水の状態及び需要量と類似度が高いと判定された水の状態及び需要量を有する過去の時点の水の状態及び設備の操作の情報を運用実績データ15から抽出する。
【0028】
次に、運用条件探索部133は、運用条件における浄水場40の各設備の水の状態を、水の流路(系統45)の観点から再構成し、再構成した情報に基づく新たな運用条件である派生運用条件を生成する。運用条件探索部133は、各派生運用条件の下で、浄水場40における各設備の制約を最も満たす、作業員が各設備に対して行うべき操作をそれぞれ最適化モデルを構築することで算出する。そして、運用条件探索部133は、最適化モデルにより所定の各設備の操作と共に算出される設備の状態と、過去に実際に行われた各設備の操作との乖離度を算出し、算出した乖離度が最も小さい派生運用条件を、運用計画立案部14に適用する。
【0029】
信頼区間判定部134及び評価時間算出部135は、過去の各タイミングにおける、浄水場40の各設備の水の状態の範囲の情報(例えば、配水池44が許容可能な水位の上限及び下限の情報)に基づき、その水の状態の計測値の信頼区間が所定幅未満である時間帯を特定する。運用条件探索部133は、この信頼区間を対象に、派生運用条件を生成する。
次に、運用実績データ15、設備データ16、及びネットワークデータ17の詳細を説明する。
【0030】
(運用実績データ)
図2は、運用実績データ15の一例を示す図である。運用実績データ15は、各配水池の水位151、各ポンプの運転時間152、各ポンプの吐出流量153、各管路の流量154、及び、各系統における水の需要量155、浄水場40における天候156、及びこれらの情報が示す時刻157の各データ項目を有するデータベースである。なお、ここで説明した設備の種類及びパラメータの種類は一例であり、他の種類の設備及びそのパラメータを含んでいてもよい。
【0031】
(設備データ)
図3は、設備データ16の一例を示す図である。設備データ16は、各設備が有する絶対的な制約(ハード制約)、及び各設備が有する相対的な制約(ソフト制約)の情報を記憶しているデータベースである。なお、本実施形態では、ハード制約は、絶対的な制約(例えば物理的な制約)として設計上の上限及び下限を有する。ソフト制約は、絶対的な制約としての設計上の上限及び下限と、運用上推奨される制約として運用上の上限及び下限とを有する。
【0032】
具体的には、設備データ16は、各配水池の水位165の設計上の上限161及び設計上の下限162、並びに運用上の下限163及び運用上の下限164と、各ポンプの吐出流量166の設計上の上限161及び設計上の下限162、並びに運用上の下限163及び運用上の下限164と、各管路の流量167の設計上の上限161及び設計上の下限162、並びに運用上の下限163及び運用上の下限164とを含むデータである。なお、ここで説明した設備の種類及びパラメータの種類は一例であり、他の種類の設備及びそのパラメータを含んでいてもよい。
【0033】
(ネットワークデータ)
図4は、ネットワークデータ17の一例を示す図である。ネットワークデータ17は、浄水場40の各設備の構成を記憶したデータベースである。本実施形態では、ネットワークデータ17は、配水池44又は浄水施設43等の各設備を頂点、設備間の流路(管路42)を辺、管路42における水の上流側の設備を始点、管路42における水の下流側の設備を終点としてそれぞれ表す。
【0034】
具体的には、ネットワークデータ17は、各配水池174の種別171(頂点)、始点172、及び終点173と、各ポンプ176の種別171、始点172、及び終点173と、各管路177の種別171(辺)、始点172、及び終点173と、各系統の需要量178の種別171(頂点)とを含むデータである。
【0035】
ここで、
図5は、浄水場運用計画立案装置10及び監視制御装置20が備えるハードウェアの一例を説明する図である。浄水場運用計画立案装置10及び監視制御装置20は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、又はGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ91と、ROM(Read Only Memory)、又はRAM(Random Access Memory)等の主記憶装置92と、ハードディスクドライブ(Hard
Disk Drive)、フラッシュメモリ(Flash Memory)、又はSSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置93と、ネットワークインタフェースカード(Network Interface Card: NIC)、無線通信モジュール、USB(Universal Serial Interface)モジュール、又
はシリアル通信モジュール等の通信装置94とを備える。
【0036】
浄水場運用計画立案装置10及び監視制御装置20の機能は、プロセッサ91が、主記憶装置92又は補助記憶装置93に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。また上記のプログラムは、例えば、記録媒体に記録して配布することができる。
次に、浄水場運転管理システム1が行う処理を説明する。
【0037】
<浄水場運用計画立案処理>
【0038】
図6は、浄水場40における各設備の状態とこれに対応して行う作業員の操作を派生運用条件として制約化し、これに基づき浄水場40の将来の運用計画を自動立案する浄水場運用計画立案処理の一例を説明するフロー図である。浄水場運用計画立案処理は、例えば、浄水場運用計画立案装置10にユーザから所定の入力が行われたことを契機に開始される。
【0039】
まず、浄水場運用計画立案装置10のデータ収集部11は、運用実績データ15、設備データ16、ネットワークデータ17、及び環境データ18を読み込む(s1)。例えば、データ収集部11は、運用実績データ15の過去の所定タイミング(例えば過去3年間)のデータのレコード内容、及び、環境データ18の過去の所定タイミング(例えば過去3年間)のデータのレコード内容等を読み込む。
【0040】
運用条件抽出部141は、s1で読み込んだデータに基づき、浄水場40の状態等が計画日と類似する過去の日(類似日)を特定した上でその類似日を用いて運用条件を生成する運用条件抽出処理s2を実行する。運用条件抽出処理s2の詳細は後述する。
【0041】
運用条件探索部142は、運用条件抽出処理s2で生成した運用条件に基づき、最適な運用計画を算出しうる新たな運用条件である派生運用条件を生成する運用条件探索処理s3を実行する。運用条件探索処理s3の詳細は後述する。
【0042】
運用条件探索部142は、運用条件探索処理s3で生成した派生運用条件のいずれにおける運用計画立案結果について、高精度な運用計画を立案できたか(すなわち運用計画立案結果と過去の実績値との乖離が所定の値以下であるか)を判定する(s4)。高精度な運用計画を立案できた場合は(s4:Y)、後述するs6の処理が実行され、高精度な運用計画を立案できなかった場合は(s4:N)、運用条件探索部142は、類似日特定のための判定閾値(詳細は後述)を所定値緩めた上で運用条件抽出処理s2の処理を繰り返す。
【0043】
一方、需要予測部12は、s1の処理が終了すると、計画日における浄水場40の各系統45の水の需要量を算出する(s5)。
【0044】
例えば、需要予測部12は、運用実績データ15における過去の水の需要量及び過去の天候の情報に基づき水の需要量と天候との関係を推定することで、計画日における浄水場40の各系統45の水の需要量を算出する。また、需要予測部12は、運用実績データ15における過去の各設備の水の状態(配水池44の水位等)及び水の需要量に基づき、水の需要量と各設備の水の状態の関係を推定することで、計画日における各系統45の各設備の水の状態を算出する。なお、このような予測の手法は、例えば、特開2020-201609号公報、特開2019-203287号公報、及び特開2018-185678公報に開示されている。
【0045】
運用計画立案部14は、s5で算出した水の需要量、浄水場40の運用に関するハード制約及びソフト制約、運用条件探索処理s3で特定される派生運用条件、並びに、s1で読み込んだ運用実績データ15の最新のデータに基づき、計画日における、作業員が各設備に行う操作及び各設備の状態の情報(運用計画)を生成する計画立案処理s6を実行する。計画立案処理s6の詳細は後述する。
【0046】
表示部32は、計画立案処理s6で生成した運用計画を画面に表示する(s9)。作業員は、表示された運用計画に基づき、計画日における作業内容(ポンプ41の起動又は停止、各管路42の流量の変更等)を確認する。
【0047】
なお、運用計画立案部14は、計画立案処理s6で生成した運用計画の内容を示す信号(例えば、ポンプ41の起動又は停止の指示信号、管路42の流量の制御の指示信号)を、監視制御装置20に送信してもよい(s8)。監視制御装置20は、受信した信号に基づき、浄水場40の各設備を制御する。例えば、監視制御装置20は、ポンプ41の起動若しくは停止の制御、又は各管路42の流量の制御を行う。
以上で浄水場運用計画立案処理は終了する。以下、各処理の詳細を説明する。
【0048】
<運用条件抽出処理s2>
図7は、運用条件抽出処理s2の詳細を説明するフロー図である。
運用条件抽出部141は、需要予測部12を呼び出すことで、計画日の各系統45の水の需要量、及び、計画日の各設備の状態(各配水池44の水位、各ポンプ41の吐出流量、各管路42の流量等)を算出する(s201)。
【0049】
運用条件抽出部141は、s201で算出した水の需要量及び各設備の状態に基づき、水の需要量及び各設備の状態が計画日と類似する過去の日(類似日)を検索し、類似日における水の需要量及び各設備の状態の情報(類似日情報)を取得する(s202)。
【0050】
例えば、運用条件抽出部141は、計画日の0時を基準時刻とし、その基準時刻における天候の情報を取得する。また、運用条件抽出部141は、s201で算出した水の需要量及び各設備の状態から、基準時刻における水の需要量及び各設備の状態を取得する。運用条件抽出部141は、運用実績データ15のレコードから過去の各日のデータを取得し、取得した各データと、先に取得した水の需要量、各設備の状態、及び天候の各データの差分の二乗和を算出する。運用条件抽出部141は、算出したこれらの2つの二乗の和の間の差が所定値(判定閾値)以下の過去の日を類似日とする。なお、ここでの二乗の和(二乗誤差の和)は、例えば以下の式で表される。
【0051】
(二乗誤差の和)
=(計画日の0時の需要予測の値-所定過去日の0時の需要量)2+(計画日の1時の需要予測の値-所定過去日の1時の需要量)2+...
+(計画日の配水池Aの初期水位-所定過去日の配水池Aの初期水位)2+(計画日の配水池Bの初期水位-所定過去日の配水池Bの初期水位)2+...
+(計画日の管路Aの流量-所定過去日の管路Aの流量)2+...
【0052】
なお、この式の各項は、所定の値(例えば、各設備に係る最大値)により規格化してもよいし、所定の係数(0~1の係数)を乗算することで桁を揃えてもよい。
【0053】
ここで、
図8は、類似日の検索方法の一例を説明する図である。同図の場合では、計画日における水の需要量の予測値と、「過去日1」及び「過去日2」の需要量との差がそれぞれ算出される(符号2021)。また、計画日における各配水池44の水位の予測及び各管路42の流量の予測と、「過去日1」及び「過去日2」における各配水池44の水位の予測及び各管路42の流量との差がそれぞれ算出される(符号2022)。同図の場合は、需要量、各配水池44の水位、及び各管路42の流量のいずれについても、「過去日1」の方が「過去日2」より類似日に近い。その結果、「過去日1」のみが類似日と判定される。
【0054】
次に、
図7に示すように運用条件抽出部141は、s202で検索した類似日の数が所定数(例えば、30)以下であるか否かを判定する(s203)。類似日の数が所定数以下である場合は(s203:Y)、運用条件抽出部141はs204の処理を実行し、類似日の数が所定数を超える場合は(s203:N)、運用条件抽出部141はs207の処理を実行する。
【0055】
s204において運用条件抽出部141は、各設備の状態を表す変数の一部を固定して定数(ハード制約値)に設定し、その他を決定変数に設定する。そして、運用条件抽出部141は、これらの設定に基づき、後述する運用計画立案処理s6を、類似日を計算の対象日に設定して呼び出す(s205)。運用条件抽出部141は、運用計画立案処理s6
により得られた決定変数の値と、s204で固定値に設定した変数の値との組み合わせを、類似日に関する新たな類似日情報として記憶する。その後は、s207の処理が行われる。
【0056】
s207において運用条件抽出部141は、s202で取得又はs205で記憶した各類似日情報を、最適化モデルの学習データに変換する。本実施形態では、運用条件抽出部141は、設備の操作(各ポンプ41の操作及び各管路42の流量)を目的変数とし、各設備の水の状態(各配水池44の水位等)を説明変数とする学習データに変換する。なお、この学習データのデータ項目は、運用実績データ15と同様である。
【0057】
ここで、
図9は、学習データへの変換の一例を説明する図である。学習データは、各ポンプの起動を目的変数とする起動学習データ1008と、各ポンプ41の停止を目的変数とする停止学習データ1009とを含む。ポンプ41の起動又は停止は、例えば、ある時刻のポンプ41の吐出流量が正の値かつ一単位時間前の吐出流量が0なら起動(1)、あ
る時刻のポンプ41の吐出流量が0かつ一単位時間前の吐出流量が正の値なら停止(0)
とする。
【0058】
起動学習データ1008は、ポンプ41が起動している類似日の各時間1001における各設備の水の状態を説明変数としている。起動学習データ1008の説明変数xは、各説明変数1002を行とし、類似日の各時間1001を列とする行列データ1004で表される。起動学習データ1008の目的変数yは、ポンプ41が起動している場合は1、ポンプ41が停止している場合は0である目的変数1003を列とするベクトルデータ1005で表される。なお、説明変数1002は、各配水池44の水位、各ポンプ41の運転状態、水の需要量の変化率及び変化量、水の需要量の偏差(平均値との偏差)、及び、水の需要量の前日の同時刻の値との偏差である。
【0059】
停止学習データ1009は、ポンプ41が停止している類似日の各時間1001における各設備の水の状態を説明変数としている。停止学習データ1009の説明変数xは、各説明変数1002を行とし、類似日の各時間1001を列とする行列データ1006で表される。停止学習データ1009の目的変数yは、ポンプ41が停止している場合は1、ポンプ41が起動している場合は0である目的変数1003を列とするベクトルデータ1007で表される。
【0060】
次に、
図7に示すように運用条件抽出部141は、s207で生成した学習データを機械学習することにより、説明変数と目的変数の間の関係を算出すると共に、各説明変数の重要度を算出する(s208)。本実施形態では、運用条件抽出部141は、決定木による学習を行うことで、当該関係を算出し重要度を算出するものとする。
【0061】
運用条件抽出部141は、s208による機械学習の繰り返し数が所定数に達したか否かを判定する(s209)。繰り返し数が所定数に達していない場合は(s209:N)、運用条件抽出部141は、s210の処理を実行し、繰り返し数が所定数に達した場合は(s209:Y)、運用条件抽出部141は、s211の処理を実行する。
【0062】
s210において運用条件抽出部141は、s208で算出した重要度の値が低い説明変数(例えば、重要度が所定の閾値より低い説明変数、又は重要度が低い方から所定件数の説明変数)を、学習データから除外し、s207の処理を繰り返す。
【0063】
s211において運用条件抽出部141は、s210までの処理の結果算出された学習結果の内容を、運用条件として記憶する。また、運用条件抽出部141は、生成した運用情報を画面に表示する。以上で運用条件抽出処理s2は終了する。
【0064】
図10は、運用条件のデータ構造の一例を示す図である。出力1100は、各設備を表すノード1101から構成され、各ノード1101は、設備に関する条件1102及びその閾値1103の情報と、設備の操作1104に関する情報を含む。各ノード1101は、条件1102及び閾値1103により特定される複数の分岐1105(True、False)を有する。なお、運用条件1106は、各設備の状態及び水の需要量が、閾値に関する各条件を満たした場合に作業員が行う設備の操作を表す、「If...then」形式の情報である。なお、この条件は、特定の値に関する条件であってもよいし、時系列的な変化又は過去の値との偏差に関する条件であってもよい。このように、出力1100は、設備の状態を条件、設備の操作を結果とする決定木の情報とすることができる。
【0065】
図11は、運用条件の表示の例を示す図である。運用条件は、同図に示すように、運用条件のデータ構造をツリー形式で表示したものであってもよいし(符号1151)、「if-then形式」の記述で表示したものであってもよい(符号1152)。また、後述する運転計画と共に表示してもよい。例えば、運転計画と共に自然文の形式で表示したものであってもよいし(符号1153)、運転計画の内容を示したテーブルを表示しそのうち運用条件に関連する部分を強調表示等してもよい(符号1154)。
【0066】
<運用条件探索処理s3>
図12は、運用条件探索処理s3の詳細を説明するフロー図である。運用条件探索部142は、運用条件抽出処理s2で取得した類似日情報を読み込む(s301)。
【0067】
そして、運用条件探索部142は、各配水池44の信頼区間を算出する(s302~s304)。すなわち、まず、運用条件探索部142は、運用実績データ15から、各配水池44の過去の所定期間の水位の変動を取得する(s302)。そして、運用条件探索部142は、この所定期間の各時間帯における各配水池44の水位の分布に基づき、当該所定期間における水位の信頼区間の上限及び下限の差が所定値以下である時刻を特定する(s303)。運用条件探索部142は、s302で特定した時刻を評価時刻として記憶する(s304)。
【0068】
図13は、配水池44の信頼区間及び評価時刻の算出方法の一例を説明する図である。まず、運用条件探索部142は、各配水池44の過去の各日の一時間毎(0時、1時、・・・)の水位の変動のデータを運用実績データ15から取得し(符号1301)、その各日の各時間帯における各配水池44の水位のデータに変換する(符号1302)。運用条件探索部142は、この変換したデータに基づき、各配水池44の水位の上限値及び下限値を各時間帯毎に集計する(符号1303)。運用条件探索部142は、この集計データに基づき、水位の上限値及び下限値の差が所定値以下の時間帯1305を評価時刻として特定する。
なお、本実施形態では、配水池44の水位に基づき信頼区間を設定したが、その他の設備の水の状態の信頼区間を設定してもよい。
【0069】
次に、
図12に示すように運用条件探索部142は、運用条件抽出処理s2で生成した運用条件を読み込む(s305)。そして、運用条件探索部142は、この運用条件における各設備の状態(if以下の内容。以下、条件部という。)及び作業員が行う操作(then以下の内容。以下、結果部という。)の内容を再構成した新たな運用条件(派生運用条件)を1又は複数生成する(s306)。そして、運用条件探索部142は、各派生運用条件を、制約式に変換する(s306)。
【0070】
具体的には、まず、運用条件探索部142は、結果部が示す水の流路(具体的には系統45)を特定する。運用条件探索部142は、条件部から、上記特定した系統45に属す
る設備(設備の条件)を全て抽出する。運用条件探索部142は、抽出した設備のうち少なくともいずれかを含む全ての組み合わせを生成し、生成した各組み合わせを新たな条件部とし、これらの各条件部と上記結果部との組み合わせのそれぞれを、派生運用条件とする。
【0071】
例えば、「if A AND B AND C then W」(A、Cは浄水場Pの系統に属する設備の条件
、Bは浄水場Qの系統に属する設備の条件、Wは浄水場Pの設備の操作)なる運用条件がある場合には、「if A AND C then W」が抽出され、これに基づき、「if A AND C then W」、「if C then W」、「if C then W」がそれぞれ新たな派生運用条件として生成される。なお、派生運用条件の生成に際しては、運用条件に係る閾値を変更させた派生運用条件を生成してもよい。
【0072】
さらに、
図14は、派生運用条件を制約式に変換する一例を説明する図である。運用条件探索部142は、「if...then...」の内容を、線形式に変換する。例えば、if節における各条件が、ある変数が2値のいずれを取るかについての条件(例えば、0又は1)である場合は、運用条件探索部142は、各条件における2値の組み合わせが取り得る範囲を示す不等式3061を生成する。
【0073】
また、例えば、if節における各条件が、ある変数が閾値以上の範囲を取るかについての条件(例えば、配水池が所定水位以上であるか否か)である場合は、運用条件探索部142は、ある変数が閾値を超える場合は1、超えない場合は0となるような制約式を含む不等式3062を生成する。
【0074】
また、例えば、if節における各条件が、ある変数が閾値以下の範囲を取るかについての条件(例えば、配水池が所定水位以下であるか否か)である場合も同様に、運用条件探索部142は、ある変数が閾値を超える場合は1、超えない場合は0となるような制約式を含む不等式3063を生成する。
【0075】
次に、
図12に示すように運用条件探索部133は、s306で生成した派生運用条件の下で、設備データ16のハード制約が示す制約を満たし、かつソフト制約からの逸脱が最小となるような、各設備の操作(ポンプ41の操作及び管路42の流量)を算出するための最適化モデルを、派生運用条件ごとに構築する(s307)。本実施形態では、運用条件探索部133は、混合整数計画法により最適化モデルを構築するものとする。最適化モデルの詳細は後述する。
【0076】
運用条件探索部142は、運用条件抽出処理s2で特定した類似日を一つ選択し、選択した類似日の基準時(例えば、0:00)における各変数の値(需要量の変化等)をs307で生成した最適化モデルに入力することにより、その類似日における決定変数の値を算出する(s308)。
【0077】
運用条件探索部142は、s308の処理を、全ての類似日について繰り返す(s309)。
【0078】
運用条件探索部142は、派生運用条件ごとに、s308で最適化モデルにより算出した決定変数の値(計画値)と、運用実績データ15から取得した過去の実績値とを比較する(s310)。すなわち、運用条件探索部142は、s308で決定変数の値を算出した際に算出した、各配水池44の水位(計画値)と、運用実績データ15から取得した評価時刻における各配水池44の水位(実績値)とを比較する。例えば、運用条件探索部142は、各配水池44の水位と評価時刻における各配水池44の水位との二乗誤差を算出する。
【0079】
運用条件探索部142は、s310の結果に基づき、計画値と実績値との乖離が最も小さい派生運用条件及びこれに対応する制約式を特定する(s311)。以上で運用条件探索処理s3は終了する。
【0080】
<計画立案処理s6>
次に、
図15は、計画立案処理s6の詳細を説明するフロー図である。運用計画立案部14は、計画日の基準時刻(例えば、2018年8月2日 0:00)を設定し(s601)、基準時刻の前の直近の期間に係る運用実績データ15を取得する(s602)。
【0081】
次に、運用計画立案部14は、基準時刻以降の各時間(t=0:00、1:00、2:00、・・・)について、各設備のハード制約(設計上限及び設計下限)、水の収支、及び水の需要量の制約等の下で、各設備のソフト制約(各配水池の水位の運用上限及び運用下限、並びに各管路の流量の運用上限及び運用下限)からの逸脱量を最小化する各設備の操作の内容(各管路42の流量及び各ポンプ41の起動又は停止等)を算出するための最適化モデルを構築する(s603)。なお、運用計画立案部14は、t=0:00に係る計算においてその前の時間のデータを用いる場合は、s602で取得したデータを用いる。
【0082】
運用計画立案部14は、例えば混合整数計画法の解法を実行するライブラリパッケージにより行うことで、最適化モデルを構築する。なお、このような最適化モデルの構築の手法は、例えば、特開2018-185678号公報に開示されている。
ここで、最適化モデルの構成の具体例について説明する。
【0083】
(最適化モデルの制約)
図16は、最適化モデルの制約の一例を説明する図である。この制約は、時間tにおいて各ポンプが起動又は停止している場合のそのポンプによる管路の水の流量の制約1401と、時間tにおける各設備(配水池44を除く)の水の流量の収支1402と、時間t-1から時間tにおける各配水池44の水貯留量の収支変化1403と、時間tにおける、各管路42からの流量とこれに対応する系統45における水の需要量との収支1404(需要量の充足条件)と、時間tにおける各配水池44の水位のハード制約1405(設計上の制約)と、時間tにおける各管路42における水の流量のハード制約1406(設計上の制約)と、時間tにおける各配水池44の水位のソフト制約1407(運用上の制約)と、時間tにおける各管路42における水の流量のソフト制約1408(設計上の制約)とを有する。
【0084】
(最適化モデルの決定変数及び目的関数)
続いて、
図17は、最適化モデルの決定変数及び目的関数の一例を説明する図である。まず、決定変数は、時間tにおける各管路の流量1409、時間tにおける各ポンプ41の操作1410(起動又は停止)、及び、時間tにおける各配水池44の水の貯留量1411である。
【0085】
最適化モデルの目的関数1412は、各配水池44の水位のソフト制約(運用上限及び運用下限)からの逸脱量及び各管路の流量のソフト制約(運用上限及び運用下限)からの逸脱量の合計値を最小化する関数である。なお、ソフト制約は時間tごとに異なる値を設定してもよい。また、目的関数には、ポンプの起動時の消費電力量等、他の運用に関する情報を加えてもよい。
【0086】
続いて、
図18は、最適化モデルの生成に用いられる説明変数に関するデータの一例を示す図である。同図に示すように、運用計画立案部14は、「2018年8月1日 23
:00」における各配水池44の水位、各配水池44のポンプの運転時間、各ポンプ41の吐出流量、各管路42の流量、各系統45における水の需要量の情報を取得する。
【0087】
また、
図19は、最適化モデルの実行により運用計画の一部として算出される需要量の予測値の一例を示す図である。同図に示すように、この需要量は、基準時刻以降の各時間(「2018年8月1日 0:00-」、「2018年8月1日 1:00-」、・・・、「2018年8月1日 23:00-」)における各系統45の需要量である。
【0088】
次に、
図15に示すように運用計画立案部14は、s603で生成した最適化モデルに、計画日におけるハード制約及び水の需要量等を入力することにより、各設備の状態及び各設備の操作(すなわち運用計画)を算出する(s604)。例えば、運用計画立案部14は、説明変数として各ポンプ41の吐出流量、各管路42の流量、及び各配水池44の水位を算出し、目的変数として各ポンプ41の操作及び各管路の流量を算出する。
【0089】
そして、運用計画立案部14は、s604で算出した結果を運用計画表示画面に表示し、又はその結果を出力する(s605)。
【0090】
<運用計画表示画面>
図20は、運用計画表示画面1500の一例を示す図である。運用計画表示画面1500は、作業員が計画日に行うべき設備の操作を表示する操作表示欄1510と、運用計画表示欄1520とを含む。
【0091】
操作表示欄1510には、各操作を行う時刻1511、各操作の内容1512、及び各操作に対応する運用条件1513が表示される。なお、各設備の操作のうちポンプ41の停止は、ある時刻の水の流量(又はポンプ41の運転状態)が0、かつ1つ前の時間帯の水の流量(又はポンプ41の運転状態)が正数である場合に表示される。また、ポンプ41の起動は、ある時刻の水の流量(又はポンプ41の運転状態)が正数、かつ1つ前の時間帯の水の流量(又はポンプ41の運転状態)が0である場合に表示される。また、操作表示欄1510には、運用条件探索処理s3で生成された全派生運用条件のうちs311で抽出されなかった派生運用条件は「-」と表示される。
【0092】
運用計画表示欄1520には、運用計画の詳細が表示される。運用計画表示欄1520には、例えば、最適化モデルにおける各決定変数として、各浄水場40における各設備の状態(管路42及びポンプ41の流量、配水池44の水位、管路42のろ過流量等)が表示される。なお、各設備の状態をグラフ化して(トレンドグラフ等)運用計画表示欄1520に表示するようにしてもよい。
【0093】
以上のように、本実施形態の浄水場運用計画立案装置10は、浄水場40の各設備における水の状態(配水池44の水位等)及び作業員が行った各設備の操作(ポンプ41の操作及び管路42の流量等)の組み合わせ(運用実績データ15)を取得し、取得した組み合わせに基づき、浄水場40の各設備における水の状態とその状態に対応して作業員が行う各設備の操作との関係である運用条件を算出する。そして、浄水場運用計画立案装置10は、計画日において、運用条件の下で、浄水場40における各設備の制約を最も満たす、作業員が各設備に対して行う操作を算出する。
【0094】
すなわち、本実施形態の浄水場運用計画立案装置10は、浄水場40での過去の各設備の状態とそのときに行われた各操作を運用条件として設定し、この運用条件を前提として、浄水場40の制約を満たす運用計画(設備の操作等)を算出する。このように、本実施形態の浄水場運用計画立案装置10は、例えば浄水場40で過去に作業員が実際に行った運用操作を反映した、浄水場40に最適化された運用計画を作成することができる。この
ようにして、浄水場の作業員が有する運転ノウハウを正確に反映して運転計画を立案することができる。
【0095】
また、本実施形態の浄水場運用計画立案装置10は、計画日における浄水場40に関する状態値(例えば配水池44の水位)と所定差以内の状態値を有していた過去の類似日を特定する。浄水場運用計画立案装置10は、この類似日における、各設備の水の状態及び操作の組み合わせに基づき、浄水場40における各設備の水の状態を説明変数とし浄水場40における各設備の操作を目的変数とする学習済みモデルを生成することにより、運用条件を算出する。
【0096】
このように、計画日と設備の状態が類似する過去の類似日の設備のデータを学習データとした学習済みモデルを生成して運用条件を求めることで、浄水場40の各設備の状況が日々異なる場合であっても、計画日の状況に即した適切な運用条件を生成することができる。
【0097】
また、本実施形態の浄水場運用計画立案装置10は、浄水場40の各設備における水の状態の範囲(例えば、配水池44の水位の範囲)を条件とし、これに対応して作業員が行う各設備の操作(例えば、ポンプ41の操作)を結果とした情報を表示した画面を表示することで、作業員は、浄水場40で行われてきた(そして行われるべき)運用の概要を把握することができる。
【0098】
また、本実施形態の浄水場運用計画立案装置10は、浄水場40の各設備を、浄水場40における水の流路(系統45)に関して分類することで、各設備の状態に関して再構成した複数の運用条件の候補を生成し、生成した各候補から、所定の条件を満たす候補を運用条件(派生運用条件)として特定する。
【0099】
このように、運用条件を浄水場40の系統45の観点から再構成した複数の運用条件の候補を生成し、これらから運用条件を特定することで、浄水場40が複雑な流路構成を有している場合であっても、適切な運用条件を使用して運用計画を生成することができる。
【0100】
上記所定の条件に関して、本実施形態の浄水場運用計画立案装置10は、各運用条件の候補のそれぞれの下での、浄水場40における各設備の制約を最も満たす場合の各設備の状態(計画値)を推定する。そして浄水場運用計画立案装置10は、過去に行った浄水場の各設備の状態(実績値)との乖離度が小さい運用条件の候補を、運用条件として特定する。このように、各運用条件の候補から算出される理論値たる各計画値に関して、過去の実績値との乖離が最も小さい計画値である候補を運用条件とすることで、最も適切な運用条件を設定することができる。
【0101】
また、本実施形態の浄水場運用計画立案装置10は、浄水場40の設備における水の状態の範囲(例えば、配水池44の水位の上限及び下限の範囲)が所定幅未満であった時間の特徴(信頼区間たる時間帯等)を特定し、この信頼区間における浄水場の設備の状態との乖離度が小さい運用条件の候補を、運用条件として特定する。
【0102】
信頼区間のように、作業員が運用内容を絞り込む必要がありその結果設備の運用の精度が高いと考えられる期間と比較することにより類似度が高い運用条件を採用することで、精度の高い運用計画を生成することができる。特に、浄水場40の運用では配水池44の水位の運用が非常に重要でありこれに該当する。配水池44の水位の変動幅が小さい信頼区間に基づいて運用条件を決定することで、精度の高い運用計画を生成することができる。
【0103】
また、本実施形態では、浄水場40における所定の設備(例えば、配水池44の水位)の制約は、ハード制約及び、ハード制約より緩やかなソフト制約を有しており、浄水場運用計画立案装置10は、計画日において、運用条件の下で、その所定の設備のハード制約を満たしかつソフト制約からの逸脱量が最も少ない各設備への操作を算出する。このように、制約の程度が異なる2つの制約を考慮することで、現場の実態に即したより柔軟な運用計画を生成することができる。
【0104】
また、本実施形態の浄水場運用計画立案装置10は、運用計画の内容、例えば、作業員が各設備に対して行う操作の内容を表示する。これにより、作業員は、計画日に行うべき運用操作を容易に知ることができる。
【0105】
また、本実施形態の浄水場運用計画立案装置10は、運用計画(設備の操作)を実現する指示信号を送信し、監視制御装置20がこの指示信号に基づき各設備を制御する。これにより、浄水場40の作業員が有する運転ノウハウを正確に反映した浄水場40の自動運用を行うことができる。
【0106】
本発明は以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明のより良い理解のために詳細に説明したものであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0107】
例えば、各実施例の各装置が備える各機能の一部は他の装置に設けてもよいし、別装置が備える機能を同一の装置に設けてもよい。
【0108】
また、本実施形態では、浄水場40における設備の操作は、ポンプ41の起動若しくは停止、又は管路42の流量としたが、水のろ過流量の調整等その他の運用操作であってもよい。
【0109】
また、本実施形態では、ソフト制約として配水池44の運用水位の上限及び下限を設定したが、その他の制約、例えばポンプ41の起動順又は起動間隔を設定してもよい。
【0110】
また、本実施形態では、運用条件の情報を学習済みモデルにより生成するものとしたが、その他の情報形式であってもよい。例えば、複数の条件式の組み合わせとしてもよいし、運用条件を表すデータベースを構築する等してもよい。
【0111】
また、本実施形態では、複数の派生運用条件から最適化モデルに利用する派生運用条件を採用する方法として、運用計画による計画値と、過去の実績値とを比較して最も実績値に近い派生運用条件を採用するものとしたが、各派生運用条件が適切であるか否かを判定するその他の評価モデルや式を用いてもよい。また、ユーザに、適切な派生運用条件を選択させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 浄水場運転管理システム、40 浄水場、10 浄水場運用計画立案装置、14 運用計画立案部、131 運用条件抽出部