(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181890
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】部材選定方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20221201BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20221201BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20221201BHJP
H01C 17/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01G4/30 311Z
H01G4/30 517
H01G13/00 361Z
H01F41/00 Z
H01C17/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089096
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】今枝 拓也
(72)【発明者】
【氏名】森田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】畑中 真志
(72)【発明者】
【氏名】兼子 俊彦
【テーマコード(参考)】
5E001
5E032
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E032BB11
5E032CA01
5E082AB03
5E082BC38
(57)【要約】
【課題】積層電子部品の信頼性を高めることができると共に、積層電子部品の部材を効率的に選定することができる部材選定方法を提供する。
【解決手段】部材選定方法は、積層電子部品の部材を選定するための方法であって、第1グリーンシートの弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシートの厚さに関するパラメータ、第2グリーンシートの弾性率に関するパラメータ、導電層の弾性率に関するパラメータ、及び導電層の厚さに関するパラメータの少なくとも1つを変化パラメータとして設定する変化パラメータ設定工程と、変化パラメータの少なくとも1つの値が異なる複数のデータセットの各々について、数値解析により、加圧工程において有効部に発生する歪みを算出する算出工程と、算出工程における算出結果に基づいて変化パラメータと歪みとの間の回帰モデルを作成するモデル作成工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に積層された誘電体層及び電極層を備える積層電子部品であって、前記誘電体層となる第1グリーンシート及び第2グリーンシートと、前記電極層となる導電層と、を有する積層体を加圧する加圧工程を含む製造方法により製造され、前記積層体は、前記加圧工程の前の状態において、交互に積層された前記第1グリーンシート及び前記導電層を含む内側積層体と、前記第2グリーンシートを含み、前記積層体の積層方向において前記内側積層体を挟む一対の外側積層体と、を有する、前記積層電子部品の部材を選定するための部材選定方法であって、
前記部材選定方法は、
前記第1グリーンシートの弾性率に関するパラメータ、前記第1グリーンシートの厚さに関するパラメータ、前記第2グリーンシートの弾性率に関するパラメータ、前記導電層の弾性率に関するパラメータ、及び前記導電層の厚さに関するパラメータの少なくとも1つを変化パラメータとして設定する変化パラメータ設定工程と、
前記内側積層体において前記積層方向から見た場合に前記導電層の各々と重なる領域を有効部とすると、前記変化パラメータの少なくとも1つの値が異なる複数のデータセットの各々について、数値解析により、前記加圧工程において前記有効部に発生する歪みを算出する算出工程と、
前記算出工程における算出結果に基づいて前記変化パラメータと前記歪みとの間の回帰モデルを作成するモデル作成工程と、を含む、部材選定方法。
【請求項2】
前記算出工程では、前記積層方向に垂直な方向における前記歪みを算出する、請求項1に記載の部材選定方法。
【請求項3】
前記モデル作成工程では、重回帰分析により前記回帰モデルを作成する、請求項1又は2に記載の部材選定方法。
【請求項4】
前記変化パラメータ設定工程では、前記第1グリーンシートの弾性率に関するパラメータ、前記第1グリーンシートの厚さに関するパラメータ、及び前記第2グリーンシートの弾性率に関するパラメータを前記変化パラメータとして設定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の部材選定方法。
【請求項5】
前記変化パラメータ設定工程と前記算出工程との間に、実験計画法を用いて前記複数のデータセットを設定するデータセット設定工程を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の部材選定方法。
【請求項6】
前記回帰モデルにより算出される前記歪みが0.05以下となるように前記積層電子部品の部材を選定する選定工程を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の部材選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層電子部品の部材を選定するための部材選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、積層セラミック電子部品の製造に用いられるセラミックグリーンシートを、適切な機械的材料特性を有するように設計する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、積層電子部品の部材は、熟練者の経験や感性に基づく多くの実験により選定されてきた。しかしながら、積層セラミックコンデンサ等の積層電子部品においては薄層化及び多層化が進んでおり、従来の方法では部材の選定に要する時間が長期化するおそれがある。そのため、より効率的な部材の選定方法が求められる。また、積層電子部品には、信頼性の向上が併せて求められる。
【0005】
そこで、本発明は、積層電子部品の信頼性を高めることができると共に、積層電子部品の部材を効率的に選定することができる部材選定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の部材選定方法は、交互に積層された誘電体層及び電極層を備える積層電子部品であって、誘電体層となる第1グリーンシート及び第2グリーンシートと、電極層となる導電層と、を有する積層体を加圧する加圧工程を含む製造方法により製造され、積層体は、加圧工程の前の状態において、交互に積層された第1グリーンシート及び導電層を含む内側積層体と、第2グリーンシートを含み、積層体の積層方向において内側積層体を挟む一対の外側積層体と、を有する、積層電子部品の部材を選定するための部材選定方法であって、部材選定方法は、第1グリーンシートの弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシートの厚さに関するパラメータ、第2グリーンシートの弾性率に関するパラメータ、導電層の弾性率に関するパラメータ、及び導電層の厚さに関するパラメータの少なくとも1つを変化パラメータとして設定する変化パラメータ設定工程と、内側積層体において積層方向から見た場合に導電層の各々と重なる領域を有効部とすると、変化パラメータの少なくとも1つの値が異なる複数のデータセットの各々について、数値解析により、加圧工程において有効部に発生する歪みを算出する算出工程と、算出工程における算出結果に基づいて変化パラメータと歪みとの間の回帰モデルを作成するモデル作成工程と、を含む。
【0007】
この部材選定方法では、第1グリーンシートの弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシートの厚さに関するパラメータ、第2グリーンシートの弾性率に関するパラメータ、導電層の弾性率に関するパラメータ、及び導電層の厚さに関するパラメータの少なくとも1つを変化パラメータとして設定し、変化パラメータの少なくとも1つの値が異なる複数のデータセットの各々について、数値解析により、加圧工程において有効部に発生する歪みを算出し、算出結果に基づいて変化パラメータと歪みとの間の回帰モデルを作成する。これにより、変化パラメータを変化させた場合の歪みを回帰モデルを用いて予測することができ、歪みが小さくなるように積層電子部品の部材を選定することができる。その結果、歪みを小さくして構造欠陥の発生を抑制することができ、積層電子部品の信頼性を高めることができる。また、数値解析により歪みを算出して回帰モデルを作成するため、例えば条件を変更しつつ積層電子部品を実際に作成して実験を行う場合と比べて、効率的に部材を選定することができる。よって、この部材選定方法によれば、積層電子部品の信頼性を高めることができると共に、積層電子部品の部材を効率的に選定することができる。
【0008】
算出工程では、積層方向に垂直な方向における歪みを算出してもよい。この場合、構造欠陥の発生を一層抑制することができ、積層電子部品の信頼性を一層高めることができる。
【0009】
モデル作成工程では、重回帰分析により回帰モデルを作成してもよい。この場合、回帰モデルを簡便に且つ精度良く作成することができ、一層効率的に部材を選定することができる。
【0010】
変化パラメータ設定工程では、第1グリーンシートの弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシートの厚さに関するパラメータ、及び第2グリーンシートの弾性率に関するパラメータを変化パラメータとして設定してもよい。この場合、これらのパラメータは積層体の有効部に発生する歪みに与える影響が大きいことから、積層電子部品の信頼性を高めることができると共に積層電子部品の部材を効率的に選定することができるとの上記作用効果が顕著に奏される。
【0011】
本発明の部材選定方法は、変化パラメータ設定工程と算出工程との間に、実験計画法を用いて複数のデータセットを設定するデータセット設定工程を更に含んでいてもよい。この場合、データセットの数を低減することができ、一層効率的に部材を選定することができる。
【0012】
本発明の部材選定方法は、回帰モデルにより算出される歪みが0.05以下となるように積層電子部品の部材を選定する選定工程を更に含んでいてもよい。この場合、構造欠陥の発生を一層抑制することができ、積層電子部品の信頼性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、積層電子部品の信頼性を高めることができると共に、積層電子部品の部材を効率的に選定することができる部材選定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る積層電子部品の断面図である。
【
図2】加圧工程前の状態における積層体の断面図である。
【
図3】部材選定方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】数値解析のために設定されたデータセットを示す表である。
【
図6】(a)は、第1グリーンシート及び第2グリーンシートの組成及び弾性率を示す表であり、(b)は、導電層の組成及び弾性率を示す表である。
【
図8】(a)及び(b)は、クラック及びショートの発生率を確認した結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
[積層電子部品]
【0016】
図1には、積層コンデンサである積層電子部品1が示されている。積層電子部品1は、素体2を備えている。素体2は、略直方体状に形成されている。直方体形状は、角部及び稜線部が面取りされた直方体形状、及び、角部及び稜線部が丸められた直方体形状を含む。素体2は、一対の主面2aと、第1側面2b及び第2側面2cと、を有する。一対の主面2aは、第1方向D1において互いに対向する。第1側面2b及び第2側面2cは、第1方向D1に垂直な第2方向D2において互いに対向する。一方の主面2aは、実装面を構成する。積層電子部品1は、例えば、一方の主面2aにおいて実装対象(例えば電子部品又は基板等)に半田付けにより実装される。
【0017】
図1には、積層電子部品1の第1方向D1及び第2方向D2に平行な断面が示されている。第1方向D1及び第2方向D2に垂直な方向を第3方向とすると、この例では、第2方向D2における素体2の長さは、第1方向D1における素体2の長さ(高さ)及び第3方向における素体2の長さ(幅)の各々よりも長い。第1方向D1における素体2の長さと第3方向における素体2の長さとは、互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0018】
素体2は、複数の誘電体層3と、複数の第1電極層10と、複数の第2電極層20と、を有する。各誘電体層3は、例えば誘電体材料(BaTiO3系、Ba(Ti,Zr)O3系、又は(Ba,Ca)TiO3系等の誘電体セラミック)を含むセラミックグリーンシートの焼結体からなる。実際の素体2においては、隣り合う誘電体層3は、互いの間の境界を視認することができない程度に一体化されている。
【0019】
複数の第1電極層10と複数の第2電極層20とは、第1方向D1において誘電体層3を介して互いに向かい合うように交互に配置されている。すなわち、複数の誘電体層3、複数の第1電極層10、及び複数の第2電極層20は、第1方向D1において第1電極層10、誘電体層3、第2電極層20、誘電体層3、第1電極層10の順に繰り返し並ぶように積層されている。第1方向D1における一対の最外層は、誘電体層3である。誘電体層3、第1電極層10及び第2電極層20の積層方向は、第1方向D1と一致する。
【0020】
第1電極層10及び第2電極層20は、例えばNi又はCu等の導電性材料により形成されている。第1電極層10及び第2電極層20は、例えば、当該導電性材料を含む導電性ペーストの焼結体からなる。第1電極層10及び第2電極層20は、素体2内に配置された内部電極として機能する。第1電極層10及び第2電極層20は、互いに異なる極性を有する。
【0021】
各第1電極層10は、第1本体部11及び第1延在部12を有している。第1本体部11は、後述する第2電極層20の第2本体部21と第1方向D1において向かい合うことによって静電容量を形成する部分である。第1本体部11は、第1方向D1から見た場合に例えば矩形状を呈する。第1延在部12は、第1本体部11から第1側面2bに至るように延在しており、第1側面2bに露出している。第1延在部12は、第1側面2bを覆うように素体2の外表面に設けられた外部電極(図示省略)に電気的に接続されている。
【0022】
各第2電極層20は、第2本体部21及び第2延在部22を有している。第2本体部21は、第1方向D1から見た場合に例えば矩形状を呈する。第2延在部22は、第2本体部21から第2側面2cに至るように延在しており、第2側面2cに露出している。第2延在部22は、第2側面2cを覆うように素体2の外表面に設けられた外部電極(図示省略)に電気的に接続されている。
【0023】
素体2は、容量形成部(有効部)5及びマージン部6を有している。容量形成部5は、第1電極層10と第2電極層20とが互いに向かい合うことによって静電容量を形成する部分である。容量形成部5は、第1方向D1から見た場合に、複数の第1電極層10の各々及び複数の第2電極層20の各々と重なっている。マージン部6は、素体2における容量形成部5以外の部分である。
【0024】
図2を参照しつつ、積層電子部品1の製造方法について説明する。まず、内側積層体30と、第1方向D1において内側積層体30を挟む一対の外側積層体40と、を含む積層体8が用意される。内側積層体30は、交互に積層された複数の第1グリーンシート31及び複数の導電層32を含む。第1グリーンシート31は、焼成後に誘電体層3となるセラミック部材である。導電層32は、焼成後に第1電極層10又は第2電極層20となる部材であり、例えば導電性ペーストである。各外側積層体40は、複数の第2グリーンシート41を含む積層体である。内側積層体30において第1方向D1(積層方向)から見た場合に導電層32の各々と重なる領域は、焼成後に容量形成部5となる。
【0025】
続いて、積層体8が第1方向D1において加圧される。この加圧工程(プレス成形工程)により隣接する層同士が一体化され、所定の大きさを有するチップが得られる。
図2に示されるように加圧工程前のマージン部6には第1グリーンシート31及び導電層32が配置されない余白領域Rが存在するが、
図1に示されるように加圧工程後のマージン部6おいては隣接する第1グリーンシート31同士が一体化されている。なお、実際には、切断後に各々がチップとなる複数の部分を有する積層体8を加圧工程において加圧し、その後に積層体8を切断することで所定の大きさを有する複数のチップを得てもよい。チップが焼成されることで、素体2が得られる。その後、素体2の外面に外部電極を設ける工程等を経て、積層電子部品1が得られる。
[部材選定方法]
【0026】
図3を参照しつつ、積層電子部品1における部材選定方法について説明する。まず、後述するデータセット設定工程において値を変化させる変化パラメータを設定する(ステップS1、変化パラメータ設定工程)。変化パラメータ設定工程では、第1グリーンシート31の弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータ、第2グリーンシート41の弾性率に関するパラメータ、導電層32の弾性率に関するパラメータ、及び導電層32の厚さに関するパラメータの少なくとも1つを変化パラメータとして設定する。この例では、第1グリーンシート31の弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータ、及び第2グリーンシート41の弾性率に関するパラメータが変化パラメータとして設定されている。
【0027】
第1グリーンシート31の弾性率に関するパラメータは、第1グリーンシート31の弾性率に応じて変化するパラメータであればよい。第1グリーンシート31の弾性率に関するパラメータは、例えば、加圧工程における温度での第1グリーンシート31の弾性率であり、例えば
図4に示される引張試験で得られる応力-歪み曲線から算出される。または、第1グリーンシート31の弾性率に関するパラメータは、動的粘弾性測定(DMA)により測定された貯蔵弾性率であってもよい。
【0028】
同様に、第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータ、第2グリーンシート41の弾性率に関するパラメータ、導電層32の弾性率に関するパラメータ、及び導電層32の厚さに関するパラメータは、それぞれ、第1グリーンシート31の厚さ、第2グリーンシート41の弾性率、導電層32の弾性率、及び導電層32の厚さに応じて変化するパラメータであればよい。導電層32の弾性率に関するパラメータは、例えば、加圧工程におえる温度での導電層32の弾性率であり、例えば
図4に示される引張試験で得られる応力-歪み曲線から算出される。または、導電層32の弾性率に関するパラメータは、動的粘弾性測定により測定された貯蔵弾性率であってもよい。一例として、第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータ及び導電層32の厚さに関するパラメータは、第1グリーンシート31及び導電層32の厚さ自体であってもよい。
【0029】
続いて、変化パラメータの少なくとも1つの値が異なる複数のデータセットを設定する(ステップS2、データセット設定工程)。この例では、
図5に示されるように、25個のデータセットが設定(作成)される。各データセットは、導電層32、第1グリーンシート31及び第2グリーンシート41の弾性率、素体2の寸法(長さ、幅、高さ)、マージン部6の寸法(長さ、幅、高さ)、導電層32、第1グリーンシート31及び第2グリーンシート41の厚さ、並びに第1グリーンシート31及び第2グリーンシート41の積層数をパラメータとして含んでいる。すなわち、各データセットは、変化パラメータだけでなく他のパラメータも含んでいる。この例では、複数のデータセットの間においては、変化パラメータだけでなく、マージン部6の寸法、第2グリーンシート41の厚さ、並びに第1グリーンシート31及び第2グリーンシート41の積層数の少なくとも1つが異なっている。導電層32の弾性率、素体2の寸法、及び導電層32の厚さは固定値とされており、すべてのデータセットについて等しい値となっている。
【0030】
データセット設定工程では、実験計画法を用いて複数のデータセットを設定する。実験計画法としては、例えばD最適計画法が用いられ得る。データセット工程では、例えば、データセット間で値を変化させるパラメータ(因子)の各々について、とり得る複数の値(水準)が設定される。それらの値をD最適計画法を用いて組み合わせることで、
図5に示されるような複数のデータセットを設定することができる。なお、それらの複数の値を直交表を用いて割り付けることで複数のデータセットが設定されてもよい。
【0031】
各パラメータの水準の設定は、各パラメータがとり得る範囲を設定した上で、当該範囲内において複数の値を設定することで実施され得る。例えば、
図6(a)の上段に示される組成において第1グリーンシート31及び第2グリーンシート41の弾性率が230MPaで最大となり、
図6(a)の下段に示される組成において第1グリーンシート31及び第2グリーンシート41の弾性率が28MPaで最小となる場合、第1グリーンシート31及び第2グリーンシート41の弾性率の範囲は28MPa~230MPaに設定され得る。この例では、水準数は5であり、
図5に示されるように、第1グリーンシート31及び第2グリーンシート41の弾性率には、「28MPa」,「78.5MPa」,「129MPa」,「179.5MPa」又は「230MPa」が設定されている。
図6(a)の上段の組成では、S-PVC(Solid - Per Volume Concentration)(グリーンシート中の誘電体粒子の体積比率)が52%であり、バインダーとしてポリビニルブチラールが用いられ、可塑剤が15PHR(Per Hundred Resin)含まれる。
図6(a)の下段の組成では、S-PVCが48%であり、バインダーとしてポリビニルブチラールが用いられ、可塑剤が35PHR含まれる。
図6(b)に示されるように、導電層32においては、S-PVCが60%であり、バインダーとしてエチルセルロースが用いられ、共材が15PHP(Per HundredPigment)(顔料(Ni)100当たりの配合量)含まれ、導電層32の弾性率は910MPaである。
【0032】
続いて、複数のデータセットの各々について、数値解析により、上述した製造工程の加圧工程において容量形成部5に発生する歪みを算出する(ステップS3、算出工程)。この例では、数値解析には有限要素法が用いられる。
【0033】
この例では、算出工程において、第1方向D1(積層方向)に垂直な第2方向D2における歪みを算出する。また、容量形成部5のうち導電層32(第1電極層10及び第2電極層20)に発生する歪みを算出する。
図2に示される加圧工程前における容量形成部5(導電層32)の第2方向D2における長さをX1とし、
図1に示される加圧工程後における容量形成部5(導電層32)の第2方向D2における長さをX2とすると、歪みAは(X2-X1)/X1で表される。なお、歪みAは最大歪みであり、加圧工程において第1方向D1における容量形成部5の内側部分のほうが外側よりも大きく変形する場合、第1方向D1における容量形成部5の中央部での歪みである。
図7には、各データセットについて算出された歪みAの例が示されている。
【0034】
続いて、算出工程における算出結果に基づいて、変化パラメータと歪みAとの間の回帰モデルを作成する(ステップS4、モデル作成工程)。この例では、重回帰分析により回帰モデルとして回帰式を作成する。これにより、歪みAに関して下記式(1)のような回帰式が得られる。
A=P1+P2×E1+P3×E2+P4×D1 …(1)
上記式において、E1は第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータを表す変数であり、E2は第2グリーンシート41の厚さに関するパラメータを表す変数であり、D1は第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータを表す変数である。P1は切片であり、P2,P3,P4は偏回帰係数である。
【0035】
続いて、モデル作成工程において作成された回帰モデルにより算出される歪みAが所定値以下となるように、積層電子部品1の部材を選定する(ステップS5、選定工程)。例えば、歪みAが0.05以下となるように、変化パラメータ(第1グリーンシート31の弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータ、及び第2グリーンシート41の弾性率に関するパラメータ)を設定することで、積層電子部品1の部材を選定する。これにより、歪みAが小さくなるように積層電子部品1の部材を選定することができ、構造欠陥の発生を抑制することができる。なお、選定工程において歪みAが所定値以下となるように部材を選定することができない場合、変化パラメータ設定工程又はデータセット設定工程に戻り、変化パラメータ又はデータセットを変更した上で再度後工程を実施してもよい。
【0036】
図8(a)及び
図8(b)は、第1グリーンシート31及び第2グリーンシート41の厚さを固定値として第2グリーンシート41の弾性率を変化させた5個のデータセットに対応する積層電子部品1を実際に作成し、クラック及びショートの発生率を確認した結果を示す表である。
図8(a)及び
図8(b)から、歪みAが0.05以下である場合、積層電子部品1にクラック及びショートが発生しておらず、構造欠陥の発生が抑制されていたことが分かる。上記部材選定方法では、変化パラメータ設定工程から選定工程の実施に1ヶ月を要し、クラック及びショートの発生率の確認に1ヶ月を要した。一方、例えば25個のデータセットに対応する積層電子部品1を実際に作成して実験する場合、5ヶ月を要する。したがって、本実施形態に係る部材選定方法によれば、部材の選定に要する時間を60%程度削減可能である。
[作用及び効果]
【0037】
以上説明した部材選定方法では、第1グリーンシート31の弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータ、第2グリーンシート41の弾性率に関するパラメータ、導電層32の弾性率に関するパラメータ、及び導電層32の厚さに関するパラメータの少なくとも1つを変化パラメータとして設定し、変化パラメータの少なくとも1つの値が異なる複数のデータセットの各々について、数値解析により、加圧工程において容量形成部5(有効部)に発生する歪みを算出し、算出結果に基づいて変化パラメータと歪みとの間の回帰モデルを作成する。これにより、変化パラメータを変化させた場合の歪みを回帰モデルを用いて予測することができ、歪みが小さくなるように積層電子部品1の部材を選定することができる。その結果、歪みを小さくして構造欠陥(例えばクラック、ショート)の発生を抑制することができ、積層電子部品1の信頼性を高めることができる。また、数値解析により歪みを算出して回帰モデルを作成するため、例えば条件を変更しつつ積層電子部品1を実際に作成して実験を行う場合と比べて、効率的に部材を選定することができる。よって、この部材選定方法によれば、積層電子部品1の信頼性を高めることができると共に、積層電子部品1の部材を効率的に選定することができる。
【0038】
算出工程では、第1方向D1(積層方向)に垂直な第2方向D2における歪みが算出される。これにより、構造欠陥の発生を一層抑制することができ、積層電子部品1の信頼性を一層高めることができる。
【0039】
モデル作成工程では、重回帰分析により回帰モデルが作成される。これにより、回帰モデルを簡便に且つ精度良く作成することができ、一層効率的に部材を選定することができる。
【0040】
変化パラメータ設定工程では、第1グリーンシート31の弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータ、及び第2グリーンシート41の弾性率に関するパラメータが変化パラメータとして設定される。この場合、これらのパラメータは積層体8の容量形成部5に発生する歪みに与える影響が大きいことから、積層電子部品1の信頼性を高めることができると共に積層電子部品1の部材を効率的に選定することができるとの上記作用効果が顕著に奏される。
【0041】
データセット設定工程では、実験計画法を用いて複数のデータセットが設定される。これにより、データセットの数を低減することができ、一層効率的に部材を選定することができる。
【0042】
選定工程では、回帰モデルにより算出される歪みが0.05以下となるように、積層電子部品1の部材が選定される。これにより、構造欠陥の発生を一層抑制することができ、積層電子部品1の信頼性を一層高めることができる。
[変形例]
【0043】
本発明は、上記実施形態に限られない。変化パラメータ設定工程では、第1グリーンシート31の弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータ、第2グリーンシート41の弾性率に関するパラメータ、導電層32の弾性率に関するパラメータ、及び導電層32の厚さに関するパラメータの少なくとも1つが変化パラメータとして設定されればよい。例えば、第1グリーンシート31の弾性率に関するパラメータ、第1グリーンシート31の厚さに関するパラメータ、及び第2グリーンシート41の弾性率に関するパラメータに加えて又は代えて、導電層32の弾性率に関するパラメータ及び導電層32の厚さに関するパラメータの少なくとも一方が変化パラメータとして設定されてもよい。
【0044】
算出工程では、第1方向D1(積層方法)における容量形成部5の歪みが算出されてもよい。この場合、容量形成部5のうち第1グリーンシート31(誘電体層3)に発生する歪みが算出されてもよい。算出工程の数値解析には有限要素法以外の解析手法が用いられてもよい。モデル作成工程では、重回帰分析以外のモデル化手法が用いられてもよい。例えば、回帰モデルはニューラルネットワークであってもよい。データセット設定工程では、実験計画法を用いることなく複数のデータセットが設定されてもよい。
【0045】
積層電子部品1は、積層インダクタ、積層圧電アクチュエータ、積層バリスタ、積層サーミスタ、又は積層複合部品等であってもよい。積層電子部品1が積層バリスタ又は積層サーミスタである場合、内側積層体30において第1方向D1から見た場合に導電層32の各々と重なる領域は、電気的特定を発現する有効部として機能する。
【符号の説明】
【0046】
1…積層電子部品、3…誘電体層、5…容量形成部(有効部)、8…積層体、10…第1電極層、20…第2電極層、30…内側積層体、31…第1グリーンシート、32…導電層、40…外側積層体、41…第2グリーンシート、D1…第1方向(積層方向)。