(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181967
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】トルク測定装置
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
G01L3/10 301J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089226
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大寺 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌弘
(57)【要約】
【課題】回転軸の磁歪効果部に対してセンサ基板の径方向位置を正確に規制することができ、かつ、軸方向寸法を抑えることができる、トルク測定装置を提供する。
【解決手段】トルク測定装置1は、伝達するトルクに応じて透磁率が変化する磁歪効果部(中間軸部6)を軸方向一部分に有する回転軸2と、非磁性材により円環状に構成され、磁歪効果部の周囲に配置されて使用時にも回転しないホルダ3と、円筒状に構成され、磁歪効果部の透磁率の変化を検出するための磁界を発生させるコイルを有し、ホルダ3に対して同軸に支持されるセンサ基板4と、センサ基板4と同じ軸方向位置における周方向複数箇所において、磁歪効果部とホルダ3との間に保持され、磁歪効果部に対するホルダ3の径方向位置を規制する規制部材5とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝達するトルクに応じて透磁率が変化する磁歪効果部を軸方向一部分に有する、回転軸と、
非磁性材により円環状に構成され、前記磁歪効果部の周囲に配置されて使用時にも回転しない、ホルダと、
円筒状に構成され、前記磁歪効果部の透磁率の変化を検出するための磁界を発生させるコイルを有し、前記ホルダに対して同軸に支持されるセンサ基板と、
前記センサ基板と同じ軸方向位置における周方向複数箇所において、前記磁歪効果部と前記ホルダとの間に保持され、前記磁歪効果部に対する前記ホルダの径方向位置を規制する規制部材と、を備える、
トルク測定装置。
【請求項2】
前記規制部材は、磁性材により構成され、かつ、前記ホルダに対する周方向の移動を阻止されており、
前記コイルと前記規制部材とは、互いに異なる周方向位置に配置されている。
請求項1に記載のトルク測定装置。
【請求項3】
前記規制部材は、前記磁歪効果部の外周面に対して転がり接触する転動体により構成されている、請求項2に記載のトルク測定装置。
【請求項4】
使用時にも回転しない保持器を備え、
前記転動体は、前記保持器により保持されることで、前記ホルダに対する周方向の移動を阻止されている、
請求項3に記載のトルク測定装置。
【請求項5】
前記保持器は、前記ホルダに固定されている、請求項4に記載のトルク測定装置。
【請求項6】
前記保持器は、磁性材により構成され、かつ、前記コイルと径方向に重畳しない形状を有する、請求項4または5に記載のトルク測定装置。
【請求項7】
前記ホルダは、周方向複数箇所に、径方向内側に開口するホルダ除肉部を有し、
前記転動体は、前記ホルダ除肉部の内側に配置されている、
請求項3~6のうちのいずれかに記載のトルク測定装置。
【請求項8】
前記転動体は、ニードルにより構成されている、請求項3~7のうちのいずれかに記載のトルク測定装置。
【請求項9】
前記規制部材は、前記ホルダに固定され、かつ、前記磁歪効果部の外周面に滑り接触する摺動部材により構成されている、請求項1または2に記載のトルク測定装置。
【請求項10】
前記センサ基板は、前記磁歪効果部の中心軸を中心とする前記規制部材の外接円の直径よりも小さい内径を有し、かつ、前記規制部材が配置される周方向箇所に、径方向に貫通する基板除肉部を有し、
前記規制部材は、前記基板除肉部の内側に配置されている、
請求項1~9のうちのいずれかに記載のトルク測定装置。
【請求項11】
前記センサ基板の周囲に配置されたバックヨークを備える、請求項1~10のうちのいずれかに記載のトルク測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクを測定することが可能なトルク測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の分野では、パワートレインすなわち動力伝達機構を構成する回転軸により伝達しているトルクを測定し、その測定結果を利用して、動力源であるエンジンや電動モータの出力制御や、変速機の変速制御を実行するシステムの開発が進んでいる。
【0003】
従来、回転軸により伝達しているトルクを測定する方法として、磁歪式のトルク測定方法が知られている。磁歪式のトルク測定方法では、回転軸の軸方向一部分に備えられた磁歪効果部の近傍に、磁歪効果部の透磁率の変化を検出するためのセンサを配置する。回転軸にトルクが加わり、磁歪効果部に弾性的な捩れ変形が生じると、逆磁歪効果に基づいて磁歪効果部の透磁率が変化する。これにより、センサの出力信号が、磁歪効果部の透磁率の変化に対応して変化するため、回転軸が伝達しているトルクを測定することができる。
【0004】
たとえば特開2019-52912号公報(特許文献1)には、磁歪式のトルク測定装置の具体的な構造が記載されている。特開2019-52912号公報(特許文献1)に記載されたトルク測定装置は、軸方向一部分に磁歪効果部を有する回転軸と、該回転軸をハウジングに対して回転自在に支持するためのラジアルニードル軸受と、該ラジアルニードル軸受を構成する外輪に対して軸方向に隣接して配置され、かつ、該外輪に支持されたホルダと、該ホルダに内嵌支持され、かつ、前記磁歪効果部の周囲に配置されたセンサとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁歪式のトルク測定装置では、回転軸の磁歪効果部に対してセンサの径方向位置を正確に規制することが、トルク測定の精度を確保する上で非常に重要となる。
【0007】
この点に関して、特開2019-52912号公報に記載されたトルク測定装置では、ラジアルニードル軸受を構成する外輪は、ラジアルニードル軸受を構成する複数個のニードルによって、回転軸に対する径方向位置を正確に規制されている。センサは、このような外輪に対し、ホルダを介して支持されている。このため、回転軸の磁歪効果部に対してセンサの径方向位置を正確に規制することができる。
【0008】
しかしながら、特開2019-52912号公報に記載されたトルク測定装置には、軸方向寸法を抑える面から、未だ改良の余地がある。すなわち、特開2019-52912号公報に記載されたトルク測定装置では、回転軸の磁歪効果部に対してセンサの径方向位置を規制する複数個のニードルと、該センサとが、軸方向に並んで配置されている。このため、トルク測定装置の軸方向寸法が嵩みやすい。
【0009】
本発明は、回転軸の磁歪効果部に対してセンサ基板の径方向位置を正確に規制することができ、かつ、軸方向寸法を抑えることができる、トルク測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様のトルク測定装置は、回転軸と、ホルダと、センサ基板と、規制部材とを備える。
【0011】
前記回転軸は、伝達するトルクに応じて透磁率が変化する磁歪効果部を軸方向一部分に有する。
【0012】
前記ホルダは、非磁性材により円環状に構成され、前記磁歪効果部の周囲に配置されて使用時にも回転しない。
【0013】
前記センサ基板は、円筒状に構成され、前記磁歪効果部の透磁率の変化を検出するための磁界を発生させるコイルを有し、前記ホルダに対して同軸に支持される。
【0014】
前記規制部材は、前記センサ基板と同じ軸方向位置における周方向複数箇所において、前記磁歪効果部と前記ホルダとの間に保持され、前記磁歪効果部に対する前記ホルダの径方向位置を規制する。
【0015】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記規制部材は、磁性材により構成され、かつ、前記ホルダに対する周方向の移動を阻止されており、前記コイルと前記規制部材とは、互いに異なる周方向位置に配置されている。
【0016】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記規制部材は、前記磁歪効果部の外周面に対して転がり接触する転動体により構成されている。
【0017】
本発明の一態様のトルク測定装置は、使用時にも回転しない保持器を備え、前記転動体は、前記保持器により保持されることで、前記ホルダに対する周方向の移動を阻止されている。
【0018】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記保持器は、前記ホルダに固定されている。
【0019】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記保持器は、磁性材により構成され、かつ、前記コイルと径方向に重畳しない形状を有する。
【0020】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記ホルダは、周方向複数箇所に、径方向内側に開口するホルダ除肉部を有し、前記転動体は、前記ホルダ除肉部の内側に配置されている。
【0021】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記転動体は、ニードルにより構成されている。
【0022】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記規制部材は、前記ホルダに固定され、かつ、前記磁歪効果部の外周面に滑り接触する摺動部材により構成されている。
【0023】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記センサ基板は、前記磁歪効果部の中心軸を中心とする前記規制部材の外接円の直径よりも小さい内径を有し、かつ、前記規制部材が配置される周方向箇所に、径方向に貫通する基板除肉部を有する。前記規制部材は、前記基板除肉部の内側に配置されている。
【0024】
本発明の一態様のトルク測定装置は、前記センサ基板の周囲に配置されたバックヨークを備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様のトルク測定装置によれば、回転軸の磁歪効果部に対してセンサ基板の径方向位置を正確に規制することができ、かつ、軸方向寸法を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例のトルク測定装置の断面図である。
【
図3】
図3は、第1例のトルク測定装置の斜視図である。
【
図4】
図4は、第1例のトルク測定装置を、回転軸を省略して示す斜視図である。
【
図5】
図5は、第1例のトルク測定装置を、回転軸を省略して示す分解斜視図である。
【
図6】
図6は、第1例のトルク測定装置を構成するセンサ基板の展開図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態の第2例のトルク測定装置の部分断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態の第3例のトルク測定装置の断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態の第4例のトルク測定装置の断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施の形態の第5例のトルク測定装置の断面図である。
【
図13】
図13は、第5例のトルク測定装置を構成するセンサ基板の展開図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施の形態の第6例のトルク測定装置の断面図である。
【
図16】
図16は、第6例のトルク測定装置を構成するセンサ基板の展開図である。
【
図17】
図17は、本発明の実施の形態の第7例のトルク測定装置の断面図である。
【
図19】
図19は、第7例のトルク測定装置を構成するセンサ基板の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図6を用いて説明する。
【0028】
本例のトルク測定装置1は、回転軸2により伝達しているトルクを測定する装置であり、各種の機械装置に組み込んで用いることができる。本例のトルク測定装置1を組み込む機械装置の具体例として、自動車のパワートレインを構成する機械装置、たとえば、オートマチックトランスミッション(AT)、ベルト式無段変速機、トロイダル型無段変速機、オートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)などの車側の制御で変速を行うトランスミッション、またはトランスファー、マニュアルトランスミッション(MT)などが挙げられる。なお、対象となる車両の駆動方式、すなわち、FF、FR、MR、RR、4WDなどの方式は、特に問わない。本例のトルク測定装置1を組み込む機械装置の具体例として、さらに、風車、鉄道車両、鉄鋼の圧延機などを構成する減速機、増速機などの、歯車で動力軸の回転数を変化させる装置が挙げられる。
【0029】
本例のトルク測定装置1は、回転軸2と、ホルダ3と、センサ基板4と、規制部材5とを備える。
【0030】
なお、特に断らない限り、トルク測定装置1に関して、軸方向は、回転軸2の軸方向、すなわち、
図1における左右方向である。トルク測定装置1に関して、軸方向一方側は、
図1における左側であり、軸方向他方側は、
図1における右側である。
【0031】
回転軸2は、伝達するトルクに応じて透磁率が変化する磁歪効果部を軸方向一部分に有する。本例では、回転軸2は、エンジン(E)からトランスミッション(TM)へトルクを伝達する回転軸である。ただし、本発明を実施する場合には、回転軸2として、各種機械装置を構成する回転軸を採用することができる。
【0032】
本例では、
図1に示すような、回転軸2の軸方向中間部を構成する中間軸部6を、磁歪効果部として機能させる。中間軸部6は、回転軸2のうち、後述するコイル11がその周囲に配置される部分である。このために、本例では、回転軸2を磁性金属により構成している。回転軸2を構成する磁性金属としては、たとえば、JISに規定されている、SCr420、SCM420などの浸炭鋼、S45Cなどの炭素鋼といった、各種磁性鋼を用いることができる。中間軸部6の外周面は、円筒面により構成されている。
【0033】
本例のトルク測定装置1の使用状態で、回転軸2は、図示しないハウジングに対して、図示しない転がり軸受により回転自在に支持される。
【0034】
回転軸2にトルクが加わり、中間軸部6に捩れ変形が生じると、中間軸部6にトルクに応じた応力、すなわち、軸方向に対して45゜方向の引っ張り応力、および、軸方向に対して-45゜方向の圧縮応力が作用する。これに伴い、逆磁歪効果によって、中間軸部6の各方向の透磁率が変化する。
【0035】
ホルダ3は、たとえば
図5に示すように、非磁性材により円環状に構成され、中間軸部6の周囲に配置されて使用時にも回転しない。
【0036】
本例では、ホルダ3は、非磁性材である合成樹脂により構成されている。ただし、ホルダ3を構成する非磁性材として、たとえば、セラミックスなどを用いることもできる。
【0037】
本例では、ホルダ3は、円筒状のホルダ円筒部7と、ホルダ円筒部7の軸方向一方側の端部から全周にわたり径方向外側に向けて伸長する第1外向フランジ8と、ホルダ円筒部7の軸方向他方側の端部から全周にわたり径方向外側に向けて伸長する第2外向フランジ9とを有する。第1外向フランジ8の外径は、第2外向フランジ9の外径よりも大きい。第1外向フランジ8は、径方向外側の端部の周方向複数箇所(図示の例では、周方向等間隔となる4箇所)に、軸方向に貫通する通孔10を有する。
【0038】
ホルダ3は、中間軸部6の周囲に配置されている。使用時に、ホルダ3は、通孔10のそれぞれに挿通した図示しないボルトを前記ハウジングに備えられたねじ孔に螺合することによって、該ハウジングに結合固定される。これにより、ホルダ3は、使用時に回転することを阻止される。
【0039】
センサ基板4は、円筒状に構成され、中間軸部6の透磁率の変化を検出するための磁界を発生させるコイル11(
図6参照)を有し、ホルダ3に対して同軸に支持されている。
【0040】
本例では、センサ基板4は、帯板状のフレキシブル基板(FPC)を円筒状に丸めることにより構成されている。ただし、本発明を実施する場合には、センサ基板を、円筒状のリジッド基板により構成することもできる。コイル11は、センサ基板4に備えられたプリント配線により構成されている。使用時には、コイル11に交流電圧を印加することで、コイル11の周囲に、中間軸部6の透磁率の変化を検出するための磁界を発生させる。
【0041】
コイル11は、トルクの検出精度を向上させる観点から、センサ基板4の全周領域に配置されていることが好ましい。ただし、本例では、コイル11の周囲に発生する磁界が、磁性材製の規制部材5の影響を受けにくくするために、コイル11は、規制部材5と異なる周方向位置に配置されている。
【0042】
図6は、センサ基板4の展開図を示している。本例では、コイル11は、
図6において、仮想線(二点鎖線)で示された規制部材5と異なる周方向位置、すなわち、一点鎖線で囲んだα部のそれぞれに、1個、または、たとえば周方向に並べて複数個配置されている。したがって、本例では、コイル11の個数は、規制部材5の個数の整数倍である。なお、
図6の展開図において、左端の規制部材5と右端の規制部材5とは、同一の規制部材5を表している。なお、本発明を実施する場合で、規制部材を非磁性材製とする場合には、コイルを、規制部材と同じ軸方向位置に配置することができ、たとえば、センサ基板の全周領域に配置することもできる。
【0043】
図6では、コイル11の具体的な形状の図示を省略している。本発明を実施する場合、コイル11の具体的な形状としては、中間軸部6の透磁率の変化に伴ってコイル11に電圧変化が生じる各種の形状、たとえば、1組の対辺が周方向に平行で、もう1組の対辺が周方向に対して45゜傾斜している、平行四辺形などを採用することができる。
【0044】
本例では、センサ基板4は、ホルダ円筒部7の軸方向中間部、すなわち、ホルダ円筒部7のうちで軸方向に関して第1外向フランジ8と第2外向フランジ9との間に位置する部分に外嵌支持されている。これにより、センサ基板4は、ホルダ3に対して同軸に支持されている。本例では、センサ基板4の外周面は、第2外向フランジ9の外周面よりも小径である。すなわち、センサ基板4の外周面は、第2外向フランジ9の外周面よりも径方向外側に突出していない。
【0045】
本例のトルク測定装置1は、センサ基板4の周囲に配置されたバックヨーク12を備える。バックヨーク12は、コイル11により発生する磁束の磁路となる部材であって、軟鋼などの磁性材により、全体を円筒状に構成されている。バックヨーク12は、センサ基板4の周囲に、センサ基板4と同軸に配置された状態で、ホルダ3に支持されている。このために具体的には、バックヨーク12の軸方向一方側の端面を、ホルダ3の第1外向フランジ8の軸方向他方側の側面の径方向中間部に当接させ、かつ、バックヨーク12の軸方向他方側の端部の内周面を、ホルダ3の第2外向フランジ9の外周面に、締り嵌め、接着などにより外嵌固定している。
【0046】
本例では、バックヨーク12の内周面とセンサ基板4の外周面との間に、全周にわたり隙間を介在させている。これにより、バックヨーク12とセンサ基板4とを電気的に絶縁している。ただし、たとえば、バックヨーク12の内周面とセンサ基板4の外周面とのうちの少なくとも一方に備えられた絶縁層などにより、バックヨーク12とセンサ基板4とを電気的に絶縁できるのであれば、バックヨーク12の内周面とセンサ基板4の外周面とを接触させることもできる。
【0047】
規制部材5は、センサ基板4と同じ軸方向位置における周方向複数箇所において、中間軸部6とホルダ3との間に保持され、中間軸部6に対するホルダ3の径方向位置を規制している。
【0048】
本例では、規制部材5は、ホルダ円筒部7の軸方向中間部内周面と中間軸部6の外周面との間の周方向複数箇所に配置され、かつ、これらの内周面と外周面との間に挟持されている。これにより、規制部材5は、中間軸部6に対するホルダ3の径方向位置を規制している。
【0049】
規制部材5の個数は、3個以上で、かつ、できるだけ少ないことが好ましい。本例では、規制部材5は、4個であり、周方向に関して等間隔に配置されている。
【0050】
本発明を実施する場合、規制部材5は、必要とされる強度や耐摩耗性などの特性を確保できる限り、任意の材料で構成することができる。本例では、規制部材5は、磁性鋼などの磁性材により構成されている。これに伴い、本例では、規制部材5は、ホルダ3に対する周方向の移動を阻止されている。すなわち、使用時において、コイル11の径方向内側を磁性材製の規制部材5が周方向に横切ると、コイル11の周囲に発生する磁界が影響を受けて、トルクの検出精度が悪化する。したがって、このような不都合が発生することを防止するために、本例では、規制部材5は、ホルダ3に対する周方向の移動を阻止されている。
【0051】
なお、本発明を実施する場合には、規制部材を、合成樹脂、非磁性鋼、セラミックスなどの非磁性材により構成することもできる。この場合には、規制部材は、コイル11の周囲に発生する磁界に影響を与えない。したがって、この場合には、ホルダ3に対する規制部材5の周方向の移動を許容することもできる。
【0052】
本例では、規制部材5は、中間軸部6の外周面に対して転がり接触する転動体、具体的にはニードル(針状ころ)により構成されている。ただし、本発明を実施する場合、該転動体として、玉を用いることもできる。本例では、規制部材5は、自身の径方向中心部に、軸方向に貫通する中心孔13を有する。
【0053】
本例のトルク測定装置1は、使用時にも回転しない保持器14を備える。本例では、規制部材5は、保持器14に保持されることで、ホルダ3に対する周方向の移動を阻止されている。
【0054】
本例では、保持器14は、ホルダ3に固定されている。ただし、本発明を実施する場合、保持器を、前記ハウジングに固定することもできる。
【0055】
保持器14は、必要とされる強度などの特性を確保できる限り、任意の材料により構成することができる。本例では、保持器14は、磁性鋼などの磁性材により構成されている。これに伴い、本例では、コイル11の周囲に発生する磁界に影響を与えにくくするために、保持器14は、コイル11と径方向に重畳しない形状を有する。
【0056】
具体的には、保持器14は、規制部材5のそれぞれの中心孔13に軸方向中間部が緩く挿通された円柱状の柱部15と、軸方向に離隔して互いに同軸に配置され、かつ、柱部15のそれぞれの軸方向両側の端部に接続された2つの円環状のリム部16と、リム部16のそれぞれの周方向複数箇所から径方向外側に向けて伸長した接続部17とを有する。本例では、接続部17は、周方向に関して柱部15と同じ位置に配置されている。なお、2つのリム部16のうち、少なくともいずれか一方のリム部16は、規制部材5のそれぞれの中心孔13に柱部15を挿通した後、該柱部15の軸方向端部に、接着、溶接などの方法で接続される。
【0057】
本例では、保持器14をホルダ3に固定するために、接続部17のそれぞれの径方向外側の端部を、ホルダ円筒部7の軸方向両側の端部の径方向内端部に、接着、包埋などの方法で接続している。この状態で、規制部材5のそれぞれは、柱部15を中心とする回転(自転)を自在とされ、かつ、ホルダ3に対する周方向の移動を阻止されている。
【0058】
すなわち、本例では、この状態で回転軸2が回転すると、規制部材5のそれぞれは、周方向に移動することなく、柱部15を中心として回転する。この際に、規制部材5の外周面と中間軸部6の外周面との接触態様は、転がり接触となり、規制部材5の外周面とホルダ円筒部7の内周面との接触態様は、滑り接触となる。
【0059】
また、保持器14をホルダ3に固定した状態で、保持器14を構成する柱部15のそれぞれは、コイル11と異なる周方向位置に配置されることで、コイル11と径方向に重畳していない。また、保持器14を構成するリム部16および接続部17のそれぞれは、コイル11と異なる軸方向位置に配置されることで、コイル11と径方向に重畳していない。したがって、本例では、コイル11の周囲に発生する磁界が、保持器14の影響を受けにくくすることができる。
【0060】
なお、本発明を実施する場合には、保持器の構造として、規制部材5の中心孔13に軸方向中間部を緩く挿通した柱部15、および、柱部15の軸方向両側の端部から径方向外側に向けて伸長した接続部17のみを備えた構造を採用することもできる。
【0061】
なお、本発明を実施する場合には、保持器を、合成樹脂、非磁性鋼、セラミックスなどの非磁性材により構成することもできる。この場合には、保持器は、コイル11の周囲に発生する磁界に影響を与えない。したがって、この場合には、保持器の形状として、コイル11と径方向に重畳する形状を採用することもできる。
【0062】
本例のトルク測定装置1では、回転軸2にトルクが加わることで中間軸部6に捩れ変形が生じ、中間軸部6の各方向の透磁率がそれぞれ変化すると、センサ基板4に備えられた複数のコイル11の内側を通過する磁束が変化することにより、該コイル11のインダクタンスが変化することに基づいて、該コイル11の電圧が変化する。このため、これらのコイル11の電圧を利用して、より具体的には、これらのコイル11を含んで構成されるブリッジ回路の差動電圧などを利用して、回転軸2が伝達しているトルクを測定することができる。
【0063】
本例では、ホルダ円筒部7の軸方向中間部内周面と中間軸部6の外周面との間に挟持された規制部材5によって、中間軸部6に対するホルダ3の径方向位置、すなわち、中間軸部6に対するセンサ基板4のコイル11の径方向位置を正確に規制することができる。したがって、トルクの測定精度を確保しやすい。
【0064】
本例では、中間軸部6に対してセンサ基板4の径方向位置を規制する複数個の規制部材5を、センサ基板4の径方向内側に配置する構成を採用している。このため、複数個の規制部材5とセンサ基板4とを軸方向に並べて配置する構成を採用する場合に比べて、トルク測定装置1の軸方向寸法を小さく抑えることができる。
【0065】
本例では、センサ基板4の径方向内側に配置される規制部材5として、直径が小さいニードルを用いている。このため、センサ基板4の内径を小さくすること、すなわち、コイル11と中間軸部6との間隔を小さくすることが容易となる。したがって、この面でも、トルクの測定精度を確保しやすい。
【0066】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図7を用いて説明する。
【0067】
本例のトルク測定装置1aでは、ホルダ3aを構成する第2外向フランジ9aの外径を実施の形態の第1例の場合よりも小さくすることにより、第2外向フランジ9aの外周面とバックヨーク12の内周面との間に全周にわたり隙間を介在させている。本例では、バックヨーク12の軸方向一方側の端面を、ホルダ3aの第1外向フランジ8の軸方向他方側の側面の径方向中間部に接着することにより、ホルダ3aに対してバックヨーク12を固定している。
その他の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0068】
[実施の形態の第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、
図8を用いて説明する。
【0069】
本例のトルク測定装置1bでは、ホルダ3bは、ホルダ円筒部7の軸方向一方側の端部から全周にわたり径方向内側に向けて伸長する第1内向フランジ18と、ホルダ円筒部7の軸方向他方側の端部から全周にわたり径方向内側に向けて伸長する第2内向フランジ19とを有する。第1内向フランジ18および第2内向フランジ19のそれぞれの内周面は、規制部材5の中心軸よりも径方向内側に位置しており、かつ、中間軸部6の外周面に近接対向している。
【0070】
バックヨーク12aは、円筒状のヨーク円筒部20と、ヨーク円筒部20の軸方向一方側の端部から全周にわたり径方向内側に向けて突出したヨーク円輪部21とを有する。ヨーク円筒部20は、センサ基板4aの周囲に配置されており、ヨーク円輪部21は、センサ基板4aの軸方向一方側に隣接する位置に配置されている。本例では、ヨーク円輪部21の径方向内側の端面を、ホルダ円筒部7の外周面に、締り嵌め、接着などにより外嵌することで、ホルダ3bに対してバックヨーク12aを固定している。
【0071】
本例では、たとえば、図示しないハウジングとホルダ3bとの間に、図示しない留め具を掛け渡すことにより、ハウジングに対するホルダ3bの回転を阻止することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0072】
[実施の形態の第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、
図9~
図10を用いて説明する。
【0073】
本例のトルク測定装置1cでは、ホルダ3cは、周方向複数箇所に、径方向内側に開口するホルダ除肉部22を有する。転動体であるニードルにより構成された規制部材5は、このホルダ除肉部22の内側に配置されている。
【0074】
本例では、
図10に示すように、ホルダ除肉部22は、ホルダ円筒部7aの軸方向中間部のうち、規制部材5が配置される周方向箇所である、周方向等間隔となる4箇所に備えられている。本例では、ホルダ除肉部22のそれぞれは、軸方向に伸長し、かつ、径方向内側にのみ開口する、矩形の凹部により構成されている。
【0075】
規制部材5は、ホルダ除肉部22の内側に1つずつ配置されている。この状態で、規制部材5のそれぞれは、中間軸部6の外周面とホルダ除肉部22の底部との間に挟持されている。これにより、規制部材5は、中間軸部6に対するホルダ3cの径方向位置、すなわち、中間軸部6に対するセンサ基板4のコイル11(
図6参照)の径方向位置を規制している。また、この状態で、ホルダ円筒部7aのうち、ホルダ除肉部22から外れた部分の内周面は、規制部材5の中心軸よりも径方向内側に位置しており、かつ、中間軸部6の外周面に近接対向している。
【0076】
本例では、規制部材5を保持する保持器14aは、軸方向中間部が規制部材5の中心孔13に緩く挿通された円柱状の柱部のみによって構成されている。本例では、保持器14aをホルダ3cに固定するために、保持器14aの軸方向両側の端部を、ホルダ円筒部7aのうちでホルダ除肉部22の軸方向両側に隣接する部分に、接着、包埋などの方法で接続している。この状態で、規制部材5のそれぞれは、保持器14aを中心とする回転(自転)を自在とされ、かつ、ホルダ3cに対する周方向の移動を阻止されている。
【0077】
本例では、規制部材5の外周面は、ホルダ除肉部22の周方向側面には接触しない。ただし、本発明を実施する場合には、保持器14aを省略し、規制部材5の外周面をホルダ除肉部22の周方向側面に接触させることによって、ホルダ3cに対する規制部材5の周方向の移動を阻止することもできる。いずれにしても、本例の構造のように、ホルダ3cに備えられた径方向内側に開口するホルダ除肉部22の内側に規制部材5を配置すれば、ホルダ3cの外径を小さくすることができるため、トルク測定装置1cの径寸法をコンパクト化することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0078】
[実施の形態の第5例]
本発明の実施の形態の第5例について、
図11~
図13を用いて説明する。
【0079】
本例のトルク測定装置1dでは、ホルダ3dのホルダ円筒部7bに備えられたホルダ除肉部22aは、軸方向に伸長し、かつ、径方向内側および径方向外側のそれぞれに開口する、矩形の貫通孔により構成されている。本例では、ホルダ除肉部22aの内側に配置された規制部材5は、ホルダ3dに対して保持器14aにより支持された状態で、外周面を中間軸部6の外周面に転がり接触させている。これにより、規制部材5は、中間軸部6に対するホルダ3dの径方向位置、すなわち、中間軸部6に対するセンサ基板4aのコイル11の径方向位置を規制している。本例では、規制部材5の外周面は、ホルダ3dには接触しないが、規制部材5は、ホルダ3dと一体の保持器14aに支持されているので、規制部材5とホルダ3dとの相対的な位置関係は一定に保たれる。これにより、規制部材5と接している中間軸部6とホルダ3d、すなわち、中間軸部6とホルダ3dに対して一体のセンサ基板4aとの相対的な位置関係を一定に規制することができる。
【0080】
本例では、センサ基板4aは、中間軸部6の中心軸を中心とする規制部材5の外接円の直径よりも小さい内径を有する。これに伴い、センサ基板4aは、規制部材5が配置される周方向等間隔となる4箇所に、径方向に貫通する基板除肉部23を有する。規制部材5は、基板除肉部23の内側に配置されている。これにより、センサ基板4aと規制部材5との干渉が避けられている。本例では、基板除肉部23は、センサ基板4aの軸方向他方側の側縁に開口する切り欠きにより構成されている。ただし、本発明を実施する場合、基板除肉部は、センサ基板を径方向に貫通する透孔により構成することもできる。
【0081】
本例では、ホルダ3dを構成する第1外向フランジ8aの外径を、バックヨーク12の外径と同じ大きさとしている。本例では、たとえば、図示しないハウジングとホルダ3dとの間に、図示しない留め具を掛け渡すことにより、ハウジングに対するホルダ3dの回転を阻止する。
【0082】
本例では、規制部材5の外周面がホルダ3dに滑り接触しないため、該滑り接触による発熱や摩耗を防止することができる。また、センサ基板4aの内径を、中間軸部6の中心軸を中心とする規制部材5の外接円の直径よりも小さくしているため、センサ基板4aのコイル11と中間軸部6との間隔を、より小さくすることができる。したがって、その分、トルクの測定精度を向上させることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第4例と同様である。
【0083】
[実施の形態の第6例]
本発明の実施の形態の第6例について、
図14~
図16を用いて説明する。
【0084】
本例のトルク測定装置1eでは、規制部材5aは、ホルダ3eに固定され、かつ、中間軸部6の外周面に滑り接触する摺動部材(ブッシュ)により構成されている。
【0085】
本例では、規制部材5aは、矩形ブロック状の本体部24と、本体部24の径方向外側の端部の全周に備えらえた鍔部25とを有する。本例では、規制部材5aをホルダ3eに固定するために、規制部材5aの本体部24の径方向外側部および鍔部25を、ホルダ3eを構成するホルダ円筒部7cの軸方向中間部に包埋している。
【0086】
本例では、規制部材5aの本体部24の径方向内側面を中間軸部6の外周面に滑り接触させている。これにより、規制部材5aは、中間軸部6に対するホルダ3eの径方向位置、すなわち、中間軸部6に対するセンサ基板4のコイル11の径方向位置を規制している。本例では、規制部材5aがホルダ3eに固定されているため、トルク測定装置1eの組み立てを容易に行うことができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0087】
[実施の形態の第7例]
本発明の実施の形態の第7例について、
図17~
図19を用いて説明する。
【0088】
図17は、本例のトルク測定装置1fの断面図を示している。
図17における上半部は、規制部材5bが存在する円周方向位置での断面図を示しており、
図17における下半部は、規制部材5bが存在しない円周方向位置での断面図を示している。
【0089】
本例のトルク測定装置1fでは、摺動部材により構成された規制部材5bは、全体を矩形ブロック状に構成されている。規制部材5bは、ホルダ3fを構成するホルダ円筒部7dを径方向に貫通している。換言すれば、規制部材5bは、径方向中間部がホルダ円筒部7dに包埋されている。さらに、規制部材5bは、径方向中間部の周方向両側の側面に、軸方向に伸長する溝26を有しており、溝26の内側にホルダ3を構成する合成樹脂の一部が入り込んでいる。これにより、ホルダ3fに対して規制部材5bが径方向に位置決めされている。
【0090】
本例では、センサ基板4aは、中間軸部6の中心軸を中心とする規制部材5bの外接円の直径よりも小さい内径を有する。これに伴い、センサ基板4aは、規制部材5bが配置される周方向等間隔となる4箇所に、径方向に貫通する基板除肉部23を有する。規制部材5bは、基板除肉部23の内側に配置されている。これにより、センサ基板4aと規制部材5bとの干渉が避けられている。本例では、基板除肉部23は、センサ基板4aの軸方向他方側の側縁に開口する切り欠きにより構成されている。
【0091】
本例では、センサ基板4aの内径を、中間軸部6の中心軸を中心とする規制部材5bの外接円の直径よりも小さくしているため、センサ基板4aのコイル11と中間軸部6との間隔を、より小さくすることができる。したがって、その分、トルクの測定精度を向上させることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第6例と同様である。
【0092】
上述した各実施の形態の構造は、矛盾が生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0093】
1、1a~1f トルク測定装置
2 回転軸
3、3a~3f ホルダ
4、4a センサ基板
5、5a、5b 規制部材
6 中間軸部
7、7a~7d ホルダ円筒部
8 第1外向フランジ
9、9a 第2外向フランジ
10 通孔
11 コイル
12、12a バックヨーク
13 中心孔
14、14a 保持器
15 柱部
16 リム部
17 接続部
18 第1内向フランジ
19 第2内向フランジ
20 ヨーク円筒部
21 ヨーク円輪部
22、22a ホルダ除肉部
23 基板除肉部
24 本体部
25 鍔部
26 溝