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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181976
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】水蒸気電解用水素極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/067 20210101AFI20221201BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20221201BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20221201BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20221201BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20221201BHJP
   C25B 11/089 20210101ALI20221201BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20221201BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20221201BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20221201BHJP
   H01M 4/86 20060101ALN20221201BHJP
   H01M 4/90 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
C25B11/067
C25B1/042
C25B9/23
C25B11/032
C25B11/054
C25B11/089
C04B35/488
C01G25/00
H01M8/12 101
H01M4/86 M
H01M4/90 M
H01M4/86 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089236
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悟
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】酒井 伸吾
【テーマコード(参考)】
4G048
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD04
4G048AE07
4K011AA24
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
4K021DB34
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB17
5H018EE04
5H018EE13
5H018HH01
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】高温の水蒸気に曝されても電子伝導性の低下が少ない水蒸気電解用水素極を提供すること。
【解決手段】水蒸気電解用水素極は、活性層を含む。前記活性層は、Ni含有粒子と、A23(但し,A=Y、La、及び/又は、Sc)、CeO2及びZrO2の複合酸化物(ACZ)からなるACZ粒子とを含むサーメットからなる。前記ACZ粒子は、粒径の平均値が0.071μm以上2.5μm以下である。前記ACZ粒子は、粒径の標準偏差が0.35μm以下であるものが好ましい。水蒸気電解用電極は、前記活性層のセパレータ側表面に形成された拡散層をさらに備えているものでも良い。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた水蒸気電解用水素極。
(1)前記水蒸気電解用水素極は、活性層を含み、
前記活性層は、
Ni含有粒子と、
23(但し,A=Y、La、及び/又は、Sc)、CeO2及びZrO2の複合酸化物(ACZ)からなるACZ粒子と
を含むサーメットからなる。
(2)前記ACZ粒子は、粒径の平均値が0.071μm以上2.5μm以下である。
【請求項2】
前記ACZ粒子は、粒径の標準偏差が0.35μm以下である請求項1に記載の水蒸気電解用電極。
【請求項3】
前記ACZ粒子は、次の式(2)で表される組成を有する請求項1又は2に記載の水蒸気電解用水素極。
xCeyZr1-x-y2-δ …(2)
但し、
0<x≦0.20、0<y≦0.20、
δは、電気的中性が保たれる値、
Aは、Y、La、及び/又は、Sc。
【請求項4】
前記活性層は、前記Ni含有粒子の含有量が30.0mass%以上70.0mass%以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の水蒸気電解用水素極。
【請求項5】
前記活性層のセパレータ側表面に形成された拡散層をさらに備えた請求項1から4までのいずれか1項に記載の水蒸気電解用水素極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気電解用水素極に関し、さらに詳しくは、固体酸化物電解質として、A23(但し,A=Y、La、及び/又は、Sc)、CeO2及びZrO2の複合酸化物(ACZ)を含む活性層を備えた水蒸気電解用水素極に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、電解質として酸化物イオン伝導体を用いた燃料電池である。SOFCのアノード(燃料極)に、H2、CO、CH4などの燃料ガスを供給し、カソード(酸素極)にO2を供給すると、電極反応が進行し、電力を取り出すことができる。電極反応により生成したCO2やH2Oは、SOFC外に排出される。
一方、固体酸化物形電解セル(SOEC)は、SOFCと構造は同じであるが、SOFCとは逆の反応を起こさせるものである。すなわち、SOECのカソード(水素極)にCO2やH2Oを供給し、電極間に電流を流すと、COやH2を生成させることができる。
【0003】
SOECは、電解質の一方の面にアノード(酸素極)が接合され、他方の面にカソード(水素極)が接合された単セルを備えている。このようなSOECを構成する部材の材料として、一般的には、以下のような材料が用いられている(非特許文献1~6参照)。
(a)電解質: イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、サマリアドープトセリア(SDC)、ランタンストロンチウムガリウムマグネシウム酸化物(LSGM)など。
(b)酸素極: ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)など。
(c)水素極: Ni/YSZ、Ni/SDC、Ni-Fe/SDCなど。
【0004】
SOECの水素極には、一般に、Ni/YSZサーメットが用いられる。しかし、水素極には、水素製造の原料となる水蒸気が高温下(700℃以上)で供給される。そのため、水素極に含まれるNiが容易に酸化され、NiOが形成される。NiOは絶縁体であるため、水素極中にNiOが形成されると、その部分では電子パスが途絶え、電解反応が進行しなくなる。その結果、電解特性が低下する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ebbesen, S. D.; Hansen, J. B.; Morgensen, M. B. ECS Trans. 2013, 57, 3217.
【非特許文献2】Jensen, S. H.; Larsen, P. H.; Mogensen, M. Int. J. Hydrogen Energy 2007, 32, 3253.
【非特許文献3】Katahira, K.; Kohchi, Y.; Shimura, T.; Iwahara, H. Solid State Ionics 2000, 138, 91.
【非特許文献4】Languna-Bercero, M. A.; Skinner, S. J.; Kilner, J. A. J. Power Sources 2009, 192, 126.
【非特許文献5】O'Brien, J. E.; Stoots, C. M.; Herring, J. S.; Lessing, P. A.; Hartvigsen, J. J.; Elangovan, S. J. Fuel Cell Sci. Technol. 2005, 2, 156.
【非特許文献6】Sune Dalgaard Ebbesen, Soren Hojgaard Jensen, Anne Hauch, and Morgens Bjerg Morgensen, Chem. Rev. 2014, 114, 1069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高温の水蒸気に曝されても電子伝導性の低下が少ない水蒸気電解用水素極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係る水蒸気電解用水素極は、以下の構成を備えている。
(1)前記水蒸気電解用水素極は、活性層を含み、
前記活性層は、
Ni含有粒子と、
23(但し,A=Y、La、及び/又は、Sc)、CeO2及びZrO2の複合酸化物(ACZ)からなるACZ粒子と
を含むサーメットからなる。
(2)前記ACZ粒子は、粒径の平均値が0.071μm以上2.5μm以下である。
【0008】
前記ACZ粒子は、粒径の標準偏差が0.35μm以下であるものが好ましい。
また、水蒸気電解用電極は、前記活性層のセパレータ側表面に形成された拡散層をさらに備えているものでも良い。
【発明の効果】
【0009】
ACZ粒子は、酸化物イオン伝導体としての機能に加えて、酸素吸蔵・放出能を持つ。そのため、ACZ粒子とNi含有粒子のサーメットをSOECの水素極の活性層に適用した場合、活性層が高温の水蒸気と接触した時に、ACZ粒子が水蒸気中の酸素イオンをトラップする。その結果、Ni含有粒子の酸化を抑制することができる。
【0010】
さらに、このようなACZ粒子によるNi含有粒子の酸化抑制効果は、ACZ粒子の平均粒径によらず得られるが、その効果の大きさは平均粒径に依存する。具体的には、ACZ粒子の平均粒径が小さくなるほど、Ni含有粒子の酸化抑制効果が向上する。これは、ACZ粒子の平均粒径が小さくなるほど、ACZ粒子の比表面積が増加し、ACZ粒子と酸素との反応効率が向上するためと考えられる。
さらに、ACZ粒子の平均粒径が小さいことに加えて、粒径の標準偏差が相対的に小さい場合には、Ni含有粒子の酸化抑制効果がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】Ni/ACZ(A=Y)を活性層に用いた固体酸化物形電解セルの模式図である。
図2】Ni/YSZを活性層に用いた従来の固体酸化物形電解セルの模式図である。
図3】ACZによるNi酸化メカニズムの模式図である。
図4】実施例3で得られた焼成後のYCZ粉末のXRDパターンである。
【0012】
図5図5(A)は、実施例3で得られたNi/YCZ混合粉末のTEM像である。図5(B)は、図5(A)のNi/YCZ混合粉末に含まれるYCZ粒子の粒度分布である。
図6】実施例3で得られたNi/YCZ混合粉末の700℃における酸素吸蔵量である。
【0013】
図7】Ni/YSZ((Y23)0.08(ZrO2)0.92)混合粉末のXAFSスペクトルである。
図8】温度700℃、酸化雰囲気(2%O2)下における各種混合粉末のNi酸化率(60分経過後)である。
図9】YCZ粒子の平均粒径とNi酸化率との関係を示す図である。
図10】YCZ粒子の粒径の標準偏差とNi酸化率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 水蒸気電解用水素極]
本発明に係る水蒸気電解用水素極(以下、「水素極」ともいう)は、活性層を含む。
本発明に係る水蒸気電解用水素極は、活性層のセパレータ側表面に形成された拡散層をさらに備えていても良い。
【0015】
[1.1. 活性層]
活性層は、
Ni含有粒子と、
23(但し,A=Y、La、及び/又は、Sc)、CeO2及びZrO2の複合酸化物(ACZ)からなるACZ粒子と
を含むサーメットからなる。
【0016】
[1.1.1. 活性層に含まれるNi含有粒子]
活性層に含まれる「Ni含有粒子(以下、「Ni含有粒子(B)」ともいう)」とは、粒子に含まれる金属元素の総質量に対するNiの質量の割合が90mass%以上である金属粒子をいう。Ni含有粒子(B)に含まれるNiの質量割合は、好ましくは、95mass%以上である。
Ni含有粒子(B)は、活性層中において、電極触媒及び電子伝導体としての機能を有する。Ni含有粒子(B)の組成は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
【0017】
Ni含有粒子(B)としては、例えば、Ni、Ni-Fe合金、Ni-Co合金などがある。これらの中でも、Ni含有粒子(B)は、Ni又はNi-Fe合金が好ましい。
【0018】
[1.1.2. ACZ粒子]
[A. 酸素吸蔵・放出能]
ACZ粒子は、元素A(但し,A=Y、La、及び/又は、Sc)、及びCeがドープされたZrO2からなり、活性層中において、酸化物イオン伝導体としての機能、及びNi含有粒子(B)に含まれるNiの酸化を抑制する機能を有する。
【0019】
ZrO2にドープされた元素Aは、主として、ZrO2に高いイオン伝導性を付与する作用がある。ZrO2にドープされたCeは、主として、ZrO2に酸素吸蔵・放出能を付与する作用がある。
そのため、Ni含有粒子(B)を含む水素極にACZ粒子を添加すると、高い電極活性を維持したまま、Ni含有粒子(B)に含まれるNiの酸化が格段に抑制される。Ni含有粒子(B)がNi以外の金属元素を含む場合であっても、少なくともNiの酸化を抑制することができれば、電極内に三相界面(TPB)を確保することができる。
【0020】
次の式(1)に、CZの酸素吸蔵・放出反応の反応式を示す。式(1)中、右側に進む反応は酸化反応を表し、左側に進む反応は還元反応を表す。
CeO2-x-ZrO2+(x/2)O2 ⇔ CeO2-ZrO2 …(1)
【0021】
ZrO2中に固溶しているCeイオンは、周囲の雰囲気中の酸素分圧に応じて、可逆的に3価の状態(還元状態)と、4価の状態(酸化状態)とを取ることができる。そのため、CZが酸化雰囲気に曝される時には、CZは雰囲気中にある酸素イオンを結晶格子内に取り込む。一方、CZが還元雰囲気に曝される時には、CZは結晶格子内にある酸素イオンを雰囲気中に放出する。この点は、ACZも同様である。
【0022】
[B. 組成]
ACZ粒子は、特に、次の式(2)で表される組成を有するものが好ましい。
xCeyZr1-x-y2-δ …(2)
但し、
0<x≦0.20、0<y≦0.20、
δは、電気的中性が保たれる値、
Aは、Y、La、及び/又は、Sc。
【0023】
式(2)中、xは、ACZ粒子に含まれる元素A、Ce、及びZrの総モル数に対する元素Aのモル数を表す。xが小さくなりすぎると、ACZ粒子の耐熱性及びNi含有粒子(B)に含まれるNiの酸化抑制機能が低下する。従って、xは、0超である必要がある。xは、好ましくは、0.05以上である。
一方、xが過剰になると、分相が生じ、CZ構造を維持できなくなり、構造安定性が低下する。従って、xは、0.20以下が好ましい。
【0024】
式(2)中、yは、ACZ粒子に含まれる元素A、Ce、及びZrの総モル数に対するCeのモル数を表す。yが小さくなりすぎると、酸素吸蔵量が低下し、Ni含有粒子(B)に含まれるNiの酸化抑制機能が低下する場合がある。従って、yは、0超である必要がある。yは、好ましくは、0.01以上である。
一方、yが過剰になると、水素極の酸素イオン伝導性が低下するだけでなく、水素極の機械的強度も低下する場合がある。従って、yは、0.20以下が好ましい。
【0025】
元素Aは、Y、La、又は、Scからなる。元素Aは、これらのいずれか1種の元素であっても良く、あるいは、2種以上の元素であっても良い。
【0026】
[C. 平均粒径]
本発明において、ACZ粒子の「粒径」とは、顕微鏡観察により測定された30個以上のACZ粒子の最大寸法の平均値をいう。
ACZ粒子の平均粒径は、Ni含有粒子(B)の酸化抑制効果に影響を与える。一般に、ACZ粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、Ni含有粒子(B)の酸化を十分に抑制することができなくなる場合がある。従って、ACZ粒子の平均粒径は、2.5μm以下である必要がある。平均粒径は、好ましくは、2.0μm以下、1.5μm以下、あるいは、1.0μm以下である。
一方、ACZ粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、粒子同士が凝集しやすくなり、焼成後のACZ粒子が大きくなりやすい。従って、ACZ粒子の平均粒径は、0.071μm以上である必要がある。
【0027】
[D. 標準偏差]
ACZ粒子の粒径の「標準偏差」とは、30個以上のACZ粒子について測定された粒径の標準偏差をいう。
ACZ粒子の粒径の標準偏差もまた、Ni含有粒子(B)の酸化抑制効果に影響を与える。一般に、ACZ粒子の粒径の標準偏差が小さくなるほど、Ni含有粒子(B)の酸化が抑制される。このような効果を得るためには、ACZ粒子の粒径の標準偏差は、0.35μm以下が好ましい。標準偏差は、さらに好ましくは、0.30μm以下、さらに好ましくは、0.10μm以下である。
【0028】
[1.1.3. 活性層の組成]
「Ni含有粒子(B)の含有量」とは、活性層に含まれるACZ粒子及びNi含有粒子(B)の総質量に対するNi含有粒子(B)の質量の割合をいう。
Ni含有粒子(B)の含有量が少なくなりすぎると、セル全抵抗が高くなり、電極反応の効率も低下する。従って、Ni含有粒子(B)の含有量は、30mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、40mass%以上である。
一方、Ni含有粒子(B)の含有量が過剰になると、ACZ粒子の含有量が少なくなり、Ni含有粒子(B)に含まれるNiの酸化を十分に抑制できなくなる。従って、Ni含有粒子(B)の含有量は、70mass%以下が好ましい。
【0029】
[1.1.4. 気孔率]
活性層の気孔率は、電解特性に影響を与える。活性層の気孔率が小さすぎると、ガスの拡散性が低下し、電極反応の効率が低下する。従って、活性層の気孔率は、15%以上が好ましい。気孔率は、好ましくは、20%以上、さらに好ましくは、25%以上である。
一方、活性層の気孔率が大きくなりすぎると、三相界面が相対的に少なくなり、かえって電極反応の効率が低下する。従って、活性層の気孔率は、40%以下が好ましい。気孔率は、好ましくは、35%以下、さらに好ましくは、30%以下である。
【0030】
[1.2. 拡散層]
本発明に係る水蒸気電解用水素極は、活性層のみからなるものでも良く、あるいは、活性層と、活性層のセパレータ側表面に形成された拡散層とを備えているものでも良い。
拡散層は、活性層を支持するためのものである。拡散層と活性層との積層体からなる水素極において、電極反応は、主として活性層内で生じる。そのため、拡散層は、必ずしも高いイオン伝導度を有している必要はない。
【0031】
すなわち、拡散層は、少なくとも、
(a)その電解質層側表面に形成される活性層を支持するための機能、
(b)電解の原料を活性層まで拡散させる機能、
(c)還元反応に必要な電子を集電体から活性層まで輸送する機能、及び、
(d)電極反応により活性層で生成した水素を水素極外に排出する機能
を備えている必要がある。
拡散層の組成は、このような機能を奏する限りにおいて、特に限定されない。拡散層は、Ni含有粒子と、固体酸化物からなる電解質粒子とを含むサーメットが好ましい。
【0032】
[1.2.1. 拡散層に含まれるNi含有粒子]
拡散層に含まれる「Ni含有粒子(以下、「Ni含有粒子(A)」ともいう)」とは、粒子に含まれる金属元素の総質量に対するNiの質量の割合が10mass%以上である金属粒子をいう。Ni含有粒子(A)に含まれるNiの質量割合は、好ましくは、50mass%以上、さらに好ましくは、90mass%以上である。
【0033】
Ni含有粒子(A)は、拡散層中において、電子伝導体としての機能を有する。Ni含有粒子(A)の組成は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。Ni含有粒子(A)としては、例えば、Ni、Ni-Fe合金、Ni-Co合金などがある。
【0034】
[1.2.2. 電解質粒子]
電解質粒子の組成は、拡散層としての機能を奏する限りにおいて、特に限定されない。電解質粒子は、活性層に含まれるACZ粒子と同一の組成を有するものでも良く、あるいは、異なる組成を有するものでも良い。
電解質粒子としては、例えば、
(a)3~15mol%のY23を含むイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、
(b)活性層に含まれるACZ粒子と同一又は類似の組成を持つ材料、
などがある。
これらの中でも、電解質粒子は、YSZが好適である。これは、機械的強度が安定しているためである。
【0035】
[1.2.3. 拡散層の組成]
「Ni含有粒子(A)の含有量」とは、拡散層に含まれる電解質粒子及びNi含有粒子(A)の総質量に対するNi含有粒子(A)の質量の割合をいう。
Ni含有粒子(A)の含有量は、拡散層としての機能を奏する限りにおいて、特に限定されない。また、拡散層に含まれるNi含有粒子(A)の含有量は、活性層に含まれるNi含有粒子(B)の含有量と同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。Ni含有粒子(A)の含有量は、通常、30~70mass%である。
【0036】
[1.2.4. 気孔率]
拡散層の気孔率は、水素極のガス拡散性、強度、電子伝導性などに影響を与える。一般に、拡散層の気孔率が小さすぎると、ガス拡散性が低下する。従って、拡散層の気孔率は、40%以上が好ましい。気孔率は、さらに好ましくは、45%以上、さらに好ましくは、50%以上である。
一方、拡散層の気孔率が大きくなりすぎると、強度及び電子伝導性が低下する。従って、拡散層の気孔率は、60%以下が好ましい。気孔率は、好ましくは、58%以下、さらに好ましくは、55%以下である。
【0037】
[1.3. 用途]
本発明に係る水素極は、固体酸化物形電解セルの水素極だけでなく、固体酸化物形燃料電池の燃料極としても用いることもできる。
【0038】
[2. 水蒸気電解用水素極の製造方法]
本発明に係る水蒸気電解用水素極は、種々の方法により製造することができる。例えば、水素極が活性層と拡散層の2層構造を取る場合、水素極は、
(a)Ni含有粒子(A)の原料、及び、電解質粒子の原料を含む原料混合物(A)を用いて拡散層成形体を作製し、
(b)拡散層成形体の表面に、Ni含有粒子(B)の原料、及び、ACZ粒子の原料を含む原料混合物(B)を用いて活性層成形体を形成し、
(c)得られた積層体を焼結し、
(d)得られた焼結体を還元処理する
ことにより製造することができる。
【0039】
[2.1. 拡散層成形体作製工程]
まず、Ni含有粒子(A)の原料、及び、電解質粒子(A)の原料を含む原料混合物(A)を用いて拡散層成形体を作製する(拡散層成形体作製工程)。
【0040】
Ni含有粒子(A)の原料の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な原料を選択することができる。Ni含有粒子(A)の原料としては、例えば、NiO粉末、Fe23粉末、Fe34粉末、金属FeとNiO又は金属Niとの混合物、CoO粉末、Co23粉末などがある。
【0041】
電解質粒子の原料の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な原料を選択することができる。
例えば、電解質粒子がYSZである場合、その原料としては、
(a)目的とする組成を有するYSZ粉末、
(b)目的とする組成となるように配合されたZrO2粉末と、Y23粉末との混合物
などがある。
【0042】
また、原料混合物(A)中には、造孔材(例えば、カーボン粉末)が含まれていても良い。原料混合物(A)中に添加されたNi含有粒子(A)の原料に含まれる金属酸化物(例えば、NiO粉末)は、焼結体作製後に還元処理される。その際、体積収縮が起こり、焼結体内に気孔が導入される。そのため、造孔材は、必ずしも必要ではない。しかし、原料混合物(A)中に造孔材を添加すると、気孔率の制御の自由度が増大する。
【0043】
拡散層成形体の作製方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。拡散層成形体の作製方法としては、例えば、
(a)原料混合物(A)を含むスラリーをテープ成形し、得られたグリーンシートを複数枚積層し、積層体を静水圧プレスして圧着させる方法、
(b)原料混合物(A)を金型でプレス成形する方法、
などがある。
【0044】
[2.2. 活性層成形体作製工程]
次に、拡散層成形体の表面に、Ni含有粒子(B)の原料、及び、ACZ粒子の原料を含む原料混合物(B)を用いて活性層成形体を形成する(活性層成形体作製工程)。
【0045】
ACZ粒子の原料の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な原料を選択することができる。ACZ粒子の原料としては、例えば、
(a)目的とする組成を有するACZ粉末、
(b)目的とする組成となるように配合されたA23粉末と、CeO2粉末と、ZrO2粉末との混合物、
(c)目的とする組成となるように配合された、元素A、Ce、及び、Zrを含む塩(例えば、硝酸塩)の混合物、
などがある。
さらに、原料混合物(A)と同様の理由から、原料混合物(B)中には、造孔材(例えば、カーボン粉末)が含まれていても良い。
なお、Ni含有粒子(B)の原料の詳細については、Ni含有粒子(A)の原料と同様であるので、説明を省略する。
【0046】
活性層成形体の作製方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。活性層成形体の作製方法としては、例えば、
(a)原料混合物(B)を含むスラリーをテープ成形し、得られたグリーンシートを拡散層成形体の上に積層し、積層体を静水圧プレスして圧着させる方法、
(b)原料混合物(B)を含むスラリーを作製し、拡散層成形体の表面にスラリーをスクリーン印刷する方法、
などがある。
【0047】
[2.3. 焼結工程]
次に、得られた積層体を焼結させる(焼結工程)。焼結条件は、原料組成に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。焼結は、通常、大気雰囲気下において、1000℃~1500℃で1時間~5時間行うのが好ましい。
原料混合物中に2種以上の酸化物が含まれている場合、焼結中に固相反応が進行し、所定の組成を有する固溶体が生成する場合がある。また、原料混合物中に造孔材が含まれている場合、焼結時に造孔材が消失し、焼結体内に気孔が形成される。
【0048】
[2.4. 還元工程]
次に、得られた焼結体を還元処理する(還元工程)。これにより、本発明に係る水素極が得られる。還元処理は、焼結体中に含まれるNiO等の金属酸化物を還元し、Ni含有粒子(A)及びNi含有粒子(B)を生成させるために行われる。還元条件は、特に限定されるものではなく、電極の組成に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。
なお、固体酸化物形電解セルは、後述するように、水素極(カソード)/電解質層/反応防止層/酸素極(アノード)の接合体からなる。水素極の還元は、通常、各層を接合した後に行われる。この点は、固体酸化物形燃料電池セルも同様である。
【0049】
[3. 固体酸化物形電解セル]
図1に、Ni/ACZ(A=Y)を活性層に用いた固体酸化物形電解セルの模式図を示す。図1において、固体酸化物形電解セル(SOEC)10は、
電解質12と、
電解質12の一方の面に接合された水素極14と、
電解質12の他方の面に接合された酸素極16と、
電解質12と酸素極16との間に挿入された中間層18と
を備えている。
【0050】
水素極14には、本発明に係る水蒸気電解用水素極が用いられる。図1において、水素極14は、活性層14aと、活性層14aを支持する拡散層14bとの積層体からなる。また、活性層14aは、Ni粒子と、元素AがYであるACZ粒子(YCZ粒子)とを含むサーメットからなる。
電解質12、酸素極16、及び中間層18の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0051】
例えば、電解質12には、YSZなどを用いることができる。
酸素極16には、(La,Sr)CoO3(LSC)、(La,Sr)(Co,Fe)O3(LSCF)、(La,Sr)MnO3(LSM)などを用いることができる。
中間層18は、電解質12と酸素極16とが直接、接触することにより生じる反応を防止するための層であり、必要に応じて挿入される。例えば、電解質12がYSZであり、酸素極16がLSCである場合、中間層18には、GdドープCeO2(GDC)を用いるのが好ましい。
【0052】
なお、上述したように、本発明に係る水素極は、固体酸化物形燃料電池セル(SOFC)の燃料極に用いることができる。SOFCは、用途が異なる以外は、SOEC10と同一の構造を備えているので、詳細な説明を省略する。
【0053】
[4. 作用]
図2に、Ni/YSZを活性層に用いた従来の固体酸化物形電解セルの模式図を示す。従来のSOEC10’は、電解質12と、電解質12の一方の面に接合された水素極14’と、電解質12の他方の面に接合された酸素極16と、電解質12と酸素極16との間に挿入された中間層18とを備えている。従来のSOEC10’は、水素極14’として、Ni/YSZサーメットが用いられている。
【0054】
水素極14’がNi/YSZサーメットからなるSOEC10’において、水素極14’にH2Oを供給し、水素極14’-酸素極16間に電流を流すと、水素極14’では、次の式(3)に示す還元反応が進行する。
2O+2e- → H2+O2- …(3)
【0055】
しかし、SOEC10’を用いた水電解においては、水素極14’に、原料となる高温(700℃以上)の水蒸気が供給される。そのため、水素極14’に含まれるNiが容易に酸化され、NiOが形成される。NiOは絶縁体であるため、NiOが形成されると、その部分では電子パスが途絶え、電極反応が進行しなくなる。その結果、電解特性は低下する。
この点は、SOFCも同様である。すなわち、SOFCのアノード(燃料極)においては、電極反応により水が生成する。そのため、特に、高負荷運転条件下において、生成した水により燃料極中のNiが酸化され、発電特性が低下する場合がある。
【0056】
これに対し、元素A、及びCeがドープされたZrO2固溶体(ACZ)は、CZに比べて酸素吸蔵能が高い。さらに、ACZは、CZに比べてNiの酸化を抑制する効果が格段に高い。そのため、Ni及びACZを含む水素極を用いて水蒸気電解を行うと、Niの酸化が格段に抑制される。
【0057】
図3に、ACZによるNi酸化メカニズムの模式図を示す。SOECセルにおいて、水素極へのACZの添加によりNiの酸化が格段に抑制されるのは、以下の理由によると考えられる。
【0058】
[A. ACZによる酸素イオンの固定]
NiとACZを含む水素極が高温の水蒸気に曝されると、Niが酸化され、Ni粒子の表面がNiOで被覆された状態となる(ステップ1)。この時、Ni粒子の近傍にACZ粒子があると、NiOから酸素原子又は酸素イオンがスピルオーバーする(ステップ2)。そのトリガーとなるのは、ACZの酸素吸蔵能力と考えられる。
【0059】
[B. ACZによる還元雰囲気の生成]
NiOからスピルオーバーした酸素は、ACZに一時的にトラップされる(ステップ3)。水素極は、Ni触媒から生成したH2によって還元雰囲気になっている。ACZ自身も水分解能を持ち、そこから水素が生成するので、ACZもH2源として機能する。さらに、還元雰囲気下では、ACZはトラップした酸素原子又は酸素イオンを酸素分子として容易に放出する。ACZから放出された酸素分子は、Niを再酸化させる前に、拡散層を通って系外に排出される(ステップ4)。以下、このようなステップ1~4が繰り返されることにより、Ni酸化が抑制されると考えられる。
【0060】
[C. Niの電子状態の変化]
後述するように、Ni/YSZサーメット中に存在するNiの電子状態は、Niが単独で存在する時の電子状態とほとんど変わらない。一方、Ni/ACZサーメット中に存在するNiの電子状態は、Niが単独で存在する時の電子状態とは異なっている。Ni/ACZサーメットがNi/YSZサーメットよりも各段に優れた耐酸化性を示すのは、NiとACZとが共存することによって、Niの電子状態が変化するためと考えられる。
【0061】
この点は、電極触媒としてNi以外の元素を含むNi含有粒子(B)を用いた場合も同様であり、Ni含有粒子(B)とACZとを共存させると、Ni含有粒子(B)に含まれるNiの電子状態が変化し、これによってNi含有粒子(B)に含まれるNiの酸化が抑制されると考えられる。
【0062】
[D. ACZ粒子の粒径の効果]
上述したように、ACZ粒子は、酸化物イオン伝導体としての機能に加えて、酸素吸蔵・放出能を持つ。そのため、ACZ粒子とNi含有粒子(B)のサーメットをSOECの水素極の活性層に適用した場合、高出力下での発電により水蒸気が多量に発生しても、ACZ粒子が水蒸気中の酸素イオンをトラップする。その結果、Ni含有粒子(B)の酸化を抑制することができる。
【0063】
さらに、このようなACZ粒子によるNi含有粒子(B)の酸化抑制効果は、ACZ粒子の平均粒径によらず得られるが、その効果の大きさは平均粒径に依存する。具体的には、ACZ粒子の平均粒径が小さくなるほど、Ni含有粒子(B)の酸化抑制効果が向上する。これは、ACZ粒子の平均粒径が小さくなるほど、ACZ粒子の比表面積が増加し、ACZ粒子と酸素との反応効率が向上するためと考えられる。
さらに、ACZ粒子の平均粒径が小さいことに加えて、粒径の標準偏差が相対的に小さい場合には、Ni含有粒子(B)の酸化抑制効果がさらに向上する。
【実施例0064】
(実施例1~3、比較例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. YCZ粉末(実施例1~3)]
Ce源には、硝酸セリウムを用いた。Zr源には、オキシ硝酸ジルコニウムを用いた。Y源には、硝酸イットリウム6水和物を用いた。硝酸セリウム水溶液に硝酸イットリウム6水和物及びオキシ硝酸ジルコニウムを加えて混合した。これにさらに30mass%過酸化水素水を加えて混合し、混合液Aを得た。各原料の混合比は、Y0.135Ce0.1Zr0.7652組成を有するYCZ粉末が得られる混合比とした。
これとは別に、25%アンモニア水及びイオン交換水を混合し、混合液Bを得た。
混合液Aを混合液Bに攪拌しながら添加した。所定時間経過後、沈殿物を回収した。
【0065】
次に、沈殿物を大気雰囲気下、150℃×7h、及び、400℃×5hの条件下で熱処理し、乾燥させた。さらに、乾燥粉を大気雰囲気下、1400℃×5hの条件下で焼成し、YCZ粉末を得た。焼成後のYCZ粉末に対し、50mass%相当のNiOを添加し、これらを混合した。その後、混合物を800℃のH2還元雰囲気中において1時間焼成し、Ni/YCZ混合粉末を得た。
得られたNi/YCZ混合粉末を粉砕し、分級することで、平均粒径の異なるYCZ粉末を含む3種類のNi/YCZ混合粉末を得た。YCZ粉末の平均粒径及び標準偏差は以下の通りである。
(a)実施例1: 平均粒径2.05μm、標準偏差:0.33μm
(b)実施例2: 平均粒径0.59μm、標準偏差:0.07μm
(c)実施例3: 平均粒径0.32μm、標準偏差:0.014μm
【0066】
[1.2. YSZ粉末(比較例1)]
市販のYSZ((Y23)0.08(ZrO2)0.92)粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、Ni/YSZ混合粉末を得た。Ni/YSZ混合粉末に含まれるYSZ粉末の平均粒径は2.0μmであり、粒径の標準偏差は、0.3μmであった。
【0067】
[1.3. XAFSスペクトル測定用試料の作製]
0.8mgのNi/YCZ混合粉末、又は、Ni/YSZ混合粉末と、40mgのθアルミナ粉末とを混合し、加圧してφ10mm、厚さ0.5mmの圧粉成形体を作製した。
【0068】
[2. 試験方法]
[2.1. XRD測定]
得られた焼成後のYCZ粒子のXRD測定を行った。
[2.2. 透過型電子顕微鏡(TEM)観察]
得られたNi/YSZ混合粉末について、TEM観察を行った。
【0069】
[2.3. 酸素吸蔵量]
得られたNi/YCZ混合粉末、又は、Ni/YSZ混合粉末の酸素吸蔵量を測定した。酸素吸蔵量熱重量分析計を用いて、H2(5%)/N2雰囲気とO2(5%)/N2雰囲気を5分毎に3回切り替える変動雰囲気下において、試料の重量の増減を測定した。2回目のH2(5%)/N2還元時の重量減少を、酸素吸蔵量の代表値として比較した。試料量は15mg、ガス流量は100mL/min、測定温度は700℃とした。
【0070】
[2.4. X線吸収微構造(XAFS)スペクトルの測定]
Ni/YCZ混合粉末、又は、Ni/YSZ混合粉末を含む圧粉成形体を石英製のXAFS測定用セルにセットした。4%H2/Heバランスガス(総量100cc/min)をセル内に導入し、780℃まで温度を上昇させ(60℃/min)、圧粉成形体を還元処理した。その後、700℃に降温し、1分間、Heガスでパージした。次に、セル内の雰囲気を、2%O2/Heガス(加湿無)の酸化雰囲気に切り替えた。
【0071】
XAFSスペクトルは、Heパージを開始した時から測定した。また、リファレンススペクトルとして、NiとNiOを使用した。表1に、XAFS測定条件の詳細を示す。
さらに、酸化雰囲気に切り替えてから60分経過後のXAFSスペクトルから、Ni酸化率を算出した。Ni及びNiOのXAFSスペクトルを用いて、線形最小二乗フィッティングによりNiO/Ni比を求め、これをNi酸化率とした。
【0072】
【表1】
【0073】
[3. 結果]
[3.1. XRD測定]
図4に、実施例3で得られた焼成後のYCZ粉末のXRDパターンを示す。図4より、YCZ相が得られていることが確認できた。この時のシェラー式による結晶子サイズは、70.1nmであった。
【0074】
[3.2. TEM観察]
図5(A)に、実施例3で得られたNi/YCZ混合粉末のTEM像を示す。図5(B)に、図5(A)のNi/YCZ混合粉末に含まれるYCZ粒子の粒度分布を示す。図5より、Ni粒子の周囲に、微細かつ粒径の揃ったYCZ粒子が分布していることが分かる。
【0075】
[3.3. 酸素吸蔵量]
図6に、実施例3で得られたNi/YCZ混合粉末の700℃における酸素吸蔵量を示す。実施例3のNi/YCZ混合粉末の700℃における酸素吸蔵量は、0.414mgであった。一方、比較例1で得られたNi/YSZ混合粉末の酸素吸蔵量は、0mgであった。Ni/YCZ混合粉末のNi酸化の抑制効果は、Ni/YCZ混合粉末の酸素吸蔵能力に対応していると考えられる。
【0076】
[3.4. XAFSスペクトルの測定]
図7に、Ni/YSZ((Y23)0.08(ZrO2)0.92)混合粉末のXAFSスペクトルを示す。図7には、リファレンスNi及びNiOのスペクトルも併せて示した。図7より、Ni/YSZ中のNi(0分)のXAFSスペクトルは、リファレンスのNi金属と同じスペクトルを示すことが分かる。
一方、図示はしないが、Ni/YCZ混合粉末中のNi(0分)のXAFSスペクトルは、Ni金属とは異なるスペクトルを示した。
【0077】
図8に、温度700℃、酸化雰囲気(2%O2)下における各種混合粉末のNi酸化率(60分経過後)を示す。図8より、実施例1~3の混合粉末は、比較例1の混合粉末に比べてNi酸化率が低いことが分かる。
図9に、YCZ粒子の平均粒径とNi酸化率との関係を示す。さらに、図10に、YCZ粒子の粒径の標準偏差とNi酸化率との関係を示す。図9及び図10より、YCZ粒子の平均粒径が小さくなるほど、及び/又は、粒径の標準偏差が小さくなるほど、Ni酸化率が小さくなることが分かる。これは、YCZ粒子の微細化及び均一化に伴い、YCZ粒子の比表面積が増加し、YCZ粒子と酸素との反応効率が向上(YCZ粒子の内部まで反応に寄与する)ためと推定される。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る水素極は、固体酸化物形電解セルの水素極、あるいは、固体酸化物形燃料電池の燃料極として使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10