(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181992
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】原子力電池
(51)【国際特許分類】
G21H 1/10 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
G21H1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089260
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 譲
(72)【発明者】
【氏名】宮寺 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】木村 礼
(72)【発明者】
【氏名】中込 宇宙
(72)【発明者】
【氏名】浅野 和仁
(57)【要約】
【課題】使用済燃料から得られる同位体を原子力電池の発熱体の一部として使用すること
によって、生産調達が容易な発熱体を有する原子力電池を得ることができる。
【解決手段】アルファ線放出核種を発熱体として用いた原子力電池5において、その発熱
体6を、崩壊過程で半減期100万年以上の核種に移行する間にエネルギー100keV
以上のガンマ線を発しない放射線遮蔽材となる第1発熱体1と、この第1発熱体1の内側
に配置され崩壊過程で半減期100万年以上の核種に移行する間にエネルギー100ke
V以上のガンマ線を発する第2発熱体2とから構成したことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルファ線放出核種を発熱体として用いた原子力電池において、その発熱体を、崩壊過
程で半減期100万年以上の核種に移行する間にエネルギー100keV以上のガンマ線
を発しない放射線遮蔽材となる第1発熱体と、この第1発熱体の内側に配置され崩壊過程
で半減期100万年以上の核種に移行する間にエネルギー100keV以上のガンマ線を
発する第2発熱体とから構成したことを特徴とする原子力電池。
【請求項2】
アルファ線放出核種を発熱体として用いた原子力電池において、その発熱体を、崩壊過
程で半減期100万年以上の核種に移行する間にエネルギー100keV以上のガンマ線
を発しない放射線遮蔽材となる第1発熱体と、崩壊過程で半減期100万年以上の核種に
移行する間にエネルギー100keV以上のガンマ線を発する第2発熱体とから構成され
、この第2発熱体は第1発熱体を介して熱電素子が配置されていることを特徴とする原子
力電池。
【請求項3】
前記第1発熱体は、同位体分離された高純度アメリシウム241またはプルトニウム2
38を、金属または酸化物またはフッ化物の形で含むことを特徴とする請求項1または請
求項2記載の原子力電池。
【請求項4】
前記第2発熱体は、2種以上の放射性同位体を金属または酸化物またはフッ化物の形で
含むことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項記載の原子力電池。
【請求項5】
前記放射性同位体は、原子炉の使用済燃料から取り出されたアメリシウム-241、ア
メリシウム-242m、アメリシウム-243、キュリウム-243、キュリウム-24
4、キュリウム-245、キュリウム-246、ネプツニウム-237を含むことを特徴
とする請求項4記載の原子力電池。
【請求項6】
前記第1発熱体の外側に比熱容量が第1発熱体よりも大きな蓄熱材を設置することを特
徴とする請求項1から5の何れか1項記載の原子力電池。
【請求項7】
前記第2発熱体の外側に比熱容量が第2発熱体よりも大きな蓄熱材を設置することを特
徴とする請求項2記載の原子力電池。
【請求項8】
前記第1発熱体の外側に放射熱量が第1発熱体よりも小さな材料を塗布することを特徴
とする請求項1から5の何れか1項記載の原子力電池。
【請求項9】
前記蓄熱材の外側に放射熱量が第1発熱体よりも小さな材料を塗布することを特徴とす
る請求項6記載の原子力電池。
【請求項10】
前記第2発熱体の外側に放射熱量が第2発熱体よりも小さな材料を塗布することを特徴
とする請求項2記載の原子力電池。
【請求項11】
前記蓄熱材の外側に放射熱量が第2発熱体よりも小さな材料を塗布することを特徴とす
る請求項7記載の原子力電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、熱電変換方式に基づく原子力電池に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力電池は、半減期の長い放射性同位体が出す放射線のエネルギーを電気エネルギー
に変える仕組みの電池である。この放射線のエネルギーを熱エネルギーとして利用する熱
電変換方式を採る放射性同位体熱電気転換器(RTG;Radioisotope thermoelectric ge
nerator)が宇宙開発の黎明期から長く宇宙探査等で実用化されている。このRTGは、
両端に温度差を生じさせると起電力が生じる熱電素子のゼーベック効果を利用し、放射性
同位体の原子核崩壊の際に発生する熱エネルギーを電気エネルギーに変換する。
【0003】
このようなRTGでは、熱源となる放射性同位体として、主にプルトニウム238(P
u-238)が用いられてきた。しかしながらこのPu-238は、発熱密度が高くガン
マ線を放出しないという熱源として望ましい性質を持つ一方で、生産に照射施設が必要と
なり調達コストが極端に高いといった課題があった。このため、生産調達コストがより安
価である放射性同位体が、RTGの熱源として提案されている。
【0004】
そこで、RTGの熱源として利用が検討されるその他の放射性同位体として、アメリシ
ウム241(Am-241)が挙げられている。このAm-241が、放射線遮蔽と発熱
密度の観点より、Pu-238から代替されるRTGの熱源として有望視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Richard Ambrosi, et al., “Americium-241 Radioisotope Thermoelectric Generator Development for Space Applications”, INAC 2013, Recife, Brazil, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放射性同位体の熱源として熱電素子を用いた原子力電池(RTG)は、放射性同位体とし
てアルファ核種であるプルトニウム238やアメリシウム241が主に用いられる。しか
しながら高純度のプルトニウム238やアメリシウム241は高エネルギーのガンマ線を
放出せず、扱いが比較的容易であるが、生産・調達コストが極端に高いという課題を抱え
ている。
【0008】
一方、原子炉の使用済燃料からは、ウランとプルトニウムを回収後には大量のアメリシ
ウム241が得られるが、崩壊の過程で100keV超のガンマ線を放出するアメリシウ
ム243などが含まれ、重い遮蔽体が必要となるため宇宙探査機向けの電源としては適し
ていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記実施形態に係る原子力電池は、アルファ線放出核種を発熱体として用いた原子力電
池において、その発熱体を、崩壊過程で半減期100万年以上の核種に移行する間にエネ
ルギー100keV以上のガンマ線を発しない放射線遮蔽材となる第1発熱体と、この第
1発熱体の内側に配置され崩壊過程で半減期100万年以上の核種に移行する間にエネル
ギー100keV以上のガンマ線を発する第2発熱体とから構成したことを特徴とする。
【0010】
また、上記実施形態に係る原子力電池は、アルファ線放出核種を発熱体として用いた原
子力電池において、その発熱体を、崩壊過程で半減期100万年以上の核種に移行する間
にエネルギー100keV以上のガンマ線を発しない放射線遮蔽材となる第1発熱体と、
崩壊過程で半減期100万年以上の核種に移行する間にエネルギー100keV以上のガ
ンマ線を発する第2発熱体とから構成され、この第2発熱体は第1発熱体を介して熱電素
子が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態は、上述した課題を解決するためになされたものであり、使用済燃料
から得られる同位体を原子力電池の発熱体の一部として使用することによって、生産調達
が容易な発熱体を有する原子力電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1の構成を説明する原子力電池の一部切欠き概略斜視図。
【
図2】本発明の実施例2の構成を説明する原子力電池の一部切欠き概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態である原子力電池の実施例について、図面を参照して説明する
。
【0014】
(実施例1)
まず、
図1を参照して実施例1を説明する。なお、
図1は本発明の実施例1の構成を説
明する原子力電池の一部切欠き概略斜視図である。
【0015】
図1に示されるように、実施例1に係る原子力電池5は、発熱体6と、この発熱体6に
接続され熱を電気に変換する熱電変換素子3と、この熱電変換素子3に接続された放熱体
7から構成されている。
【0016】
この発熱体6は、外側発熱体(第1発熱体)1の内側に内側発熱体(第2発熱体)2が
配置され、外側発熱体1は崩壊過程で100keV以上のガンマ線を発せずアルファ線放
出核種から形成され、内側発熱体2は崩壊過程で100keV以上のガンマ線を発するア
ルファ線放出核種からなり遮蔽が必要となるアメリシウム241、243を含む発熱体で
形成されている。そしてこの外側発熱体1は高価な高純度のアメリシウム241またはプ
ルトニウム238を、金属または酸化物またはフッ化物の形で含んで形成されている。ま
た、内側発熱体2は原子炉の使用済み燃料から取り出された安価なアメリシウム-241
、アメリシウム-242m、アメリシウム-243、キュリウム-243、キュリウム-
244、キュリウム-245、キュリウム-246、ネプツニウム-237のうち2種類
以上を含んでいる。
【0017】
アメリシウム-241は遮蔽が容易な59.54keVのガンマ線を崩壊過程で発する
が、アメリシウム-243は崩壊過程で最大277.60keVのガンマ線を発するため
遮蔽が必要となる。アメリシウム-241、アメリシウム-243の半減期はそれぞれ4
32年、7370年であり、崩壊過程で生ずる100万年以上の半減期の長寿命核種から
の寄与は無視できる。
【0018】
アメリシウム-241は密度が金属で13.7g/cm3、酸化物でも11.7gと大
きい。従って本実施例1の構成により、発熱体2から発せられる最大277.60keV
のガンマ線の遮蔽に外側発熱体1を使うことができ、結果、発熱体全体の材料調達コスト
を下げることができる。
【0019】
また、アメリシウム-242m、キュリウム-243、キュリウム-244、キュリウ
ム-245、キュリウム-246、ネプツニウム-237についても上述したアメリシウ
ム-241、アメリシウム-243と同様の性質を有しているので同様の効果を得ること
ができる。
【0020】
(実施例2)
次に,本発明に係る原子力電池の実施例2を,
図2を用いて説明する.なお,
図1と同一
の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
図2に示された本実施例2に係る原子力電池5aは第1発熱体(外側発熱体:高純度ア
メリシウム241発熱体)8の片側端面に第2発熱体(内側発熱体:アメリシウム241
、243を含む発熱体)9と、逆側端面に熱電変換素子3を配置し、第1発熱体8及び第
2発熱体9の周囲に蓄熱材4を配置する構成となっている。蓄熱材4の比熱容量は第1発
熱体8及び第2発熱体9より大きく設定されている。なお、第1発熱体8は上述した実施
例1の外側発熱体1と同じ組成で形成され、第2発熱体9は上述した実施例1の内側発熱
体2と同じ組成で形成されている。
【0022】
このように構成された本実施例2の形態において、第1発熱体8により第2発熱体9か
ら発せられるガンマ線から熱電変換素子3を遮蔽することができる。
【0023】
また第1発熱体8及び第2発熱体9で熱を蓄熱材4に蓄熱することができ、蓄熱材4を
いわばバッテリーのように使うことができる。
【0024】
なお、実施例2における蓄熱材4は実施例1に示す外側発熱体(第1発熱体)1の周囲
に蓄熱材4を配置することによっても実施例2と同様の効果を得ることができる。
【0025】
また、実施例2において、蓄熱材4を省略することによって、実施例1の効果のみを得
ることができる。さらに、実施例1および実施例2において外周に放射熱量が発熱体1,
2,8,9または蓄熱材4よりも小さな材料(図示さず)を発熱体1,2,8,9または
蓄熱材4の外側に塗布または配置することで原子力電池の放射冷却を低減することができ
る。
【0026】
一般に宇宙探査機では短時間にパルス動作する機器があり、従来はバッテリーを併用す
ることで高負荷運転に対応していたが、バッテリーは使用温度や寿命の問題があった。そ
こで、発熱体の放射線遮蔽材に蓄熱材を使用することでバッテリー不要、もしくは小容量
のバッテリーで高負荷運転に対応できるようにすることができる。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したも
のであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0028】
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を
逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
【0029】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲
に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0030】
1…外側発熱体(高純度アメリシウム241発熱体)
2…内側発熱体(アメリシウム241、243を含む発熱体)
3…熱電変換素子
4…蓄熱材
5、5a…原子力電池
6…発熱体
7…放熱体
8…第1発熱体(高純度アメリシウム241発熱体)
9…第2発熱体(アメリシウム241、243を含む発熱体)