(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182010
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】自動体外式除細動器
(51)【国際特許分類】
A61N 1/39 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
A61N1/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089284
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】501115759
【氏名又は名称】千葉 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】松井 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】野田 龍三
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ01
4C053JJ23
(57)【要約】
【課題】小型且つ軽量で、短時間のうちに使用可能になる自動体外式除細動器を提供する。
【解決手段】電極パッド30Aと、電極パッド30Bと、電源部19と、高電圧生成部16Aとを有する自動体外式除細動器1Aを提供する。高電圧生成部16Aは、一次側コイル160aと二次側コイル160bと、一次側コイル160a及び二次側コイル160bが巻回されるコアとにより形成されるトランス160を含む。二次側コイル160bの一端には電極パッド30Aに接続され、他端は電極パッド30Bに接続される。一次側コイル160aは電源部19に接続される。電源部19は、電極パッド30Aと電極パッド30Bとの間の電位差をトランス160に発生させるための電力をトランス160に供給する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極パッドと、
第2電極パッドと、
電源部と、
前記電源部から印加される電圧を昇圧するインダクタ又はトランスを含む高電圧生成部と、を備え、
前記インダクタ又は前記トランスの一方の出力端には前記第1電極パッドが接続され、
前記インダクタ又は前記トランスの他方の出力端には前記第2電極パッドが接続され、
前記第1電極パッドから見た前記一方の出力端と前記第2電極パッドから見た前記他方の出力端との間の容量が10マイクロファラドよりも小さい、
自動体外式除細動器。
【請求項2】
前記高電圧生成部は、
前記他方の出力端と前記第2電極パッドとの間に介挿される整流素子を更に含む、
請求項1に記載の自動体外式除細動器。
【請求項3】
前記高電圧生成部は、
前記インダクタを含み、
前記電源部から前記電力を供給される配線材は、導電性質を有し且つ比透磁率の値が1より大きく、前記インダクタのコアの役割を兼ねる、
請求項1又は請求項2に記載の自動体外式除細動器。
【請求項4】
前記高電圧生成部は、
前記トランスを含み、
前記電源部から前記電力を供給される配線材は、導電性質を有し且つ比透磁率の値が1より大きく、前記トランスのコアの役割を兼ね、
前記配線材には、前記トランスの二次側コイルを巻回するための貫通孔が、前記電源部から供給される電流の流れる方向に沿って設けられる、
請求項1又は請求項2に記載の自動体外式除細動器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動体外式除細動器、に関する。
【背景技術】
【0002】
自動体外式除細動器(AED;Automated External Defibrillator)は、心停止の最も一般的な原因である心室細動又は心室頻拍の際に使用される医療機器である。心停止状態の患者の心臓に自動体外式除細動器を用いて体外から電気ショック(高電圧パルス)を与えることによって、一定のリズムで拍動する正常な状態に戻る場合がある。自動体外式除細動器に関する先行技術文献としては特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、高電圧パルスを発生させるための高耐圧コンデンサが自動体外式除細動器に内蔵されている。自動体外式除細動器から患者に与える電気ショックの発生に要するエネルギーが150ジュールであり、高耐圧コンデンサに印可される電圧が2000ボルト程度であるとすると、高耐圧コンデンサの容量は75マイクロファラド以上であることが必要となる。高耐圧コンデンサのサイズは大きく、重量も重いため、自動体外式除細動器自体の小型及び軽量化が難しいという問題があった。また、高耐圧コンデンサは充電に長時間を要するため、従来の自動体外式除細動器には、使用可能になるまでに、即ち電気ショックの出力が可能になるまでに、長時間を要するという問題もあった。
【0005】
本開示は上述した事情に鑑みてなされたものであり、小型且つ軽量で、短時間のうちに使用可能になる自動体外式除細動器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の自動体外式除細動器の一態様は、第1電極パッドと、第2電極パッドと、電源部と、前記電源部から印加される電圧を昇圧するインダクタ又はトランスを含む高電圧生成部と、を備える。前記インダクタ又は前記トランスの一方の出力端には前記第1電極パッドが接続される。前記インダクタ又は前記トランスの他方の出力端には前記第2電極パッドが接続される。前記第1電極パッドから見た前記一方の出力端と前記第2電極パッドから見た前記他方の出力端との間の容量が10マイクロファラドよりも小さい。
【0007】
より好ましい態様の自動体外式除細動器では、前記高電圧生成部は、前記他方の出力端と前記第2電極パッドとの間に介挿される整流素子を更に含んでもよい。
【0008】
別の好ましい態様の自動体外式除細動器では、前記高電圧生成部は、前記インダクタを含み、前記電源部から前記電力を供給される配線材は、導電性を有し且つ比透磁率の値が1より大きく、前記インダクタのコアの役割を兼ねてもよい。
【0009】
更に別の好ましい態様の自動体外式除細動器では、前記高電圧生成部は、前記トランスを含み、前記電源部から前記電力を供給される配線材は、導電性質を有し且つ比透磁率の値が1より大きく、前記トランスのコアの役割を兼ね、前記配線材には、前記トランスの二次側コイルを巻回するための貫通孔が、前記電源部から供給される電流の流れる方向に沿って設けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の第1実施形態による自動体外式除細動器1Aの外観の一例を示す図である。
【
図2】自動体外式除細動器1Aの使用の様子を示す図である。
【
図3】自動体外式除細動器1Aの機能構成例を示す機能ブロック図である。
【
図4】本開示の第2実施形態による自動体外式除細動器1Bの機能構成例を示す機能ブロック図である。
【
図5】変形例(1)に係る高電圧生成部16Cの一例を示す図である。
【
図6】変形例(1)に係る高電圧生成部16Dの一例を示す図である。
【
図7】変形例(1)に係る高電圧生成部16Eの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に述べる各実施形態には技術的に好ましい種々の限定が付されている。なお、図面において各部の寸法及び縮尺は実際のものと適宜異なる。また、以下に記載する実施形態は、本開示の好適な具体例である。このため、以下の実施形態には、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかし、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0012】
(A:第1実施形態)
図1は、本開示の第1実施形態に係る自動体外式除細動器1Aの外観の一例を示す図である。
図1に示されるように、自動体外式除細動器1Aは、本体部10と、電極パッド30A及び電極パッド30Bと、本体部10と電極パッド30Aとを電気的に接続するケーブル40Aと、本体部10と電極パッド30Bとを電気的に接続するケーブル40Bと、を有する。電極パッド30Aは本開示における第1電極パッドの一例である。電極パッド30Bは本開示における第2電極パッドの一例である。
図2は、自動体外式除細動器1Aの使用の様子を示す図である。自動体外式除細動器1Aの使用の際には、電極パッド30A及び電極パッド30Bは、心停止状態の患者の右胸付近及びわき腹付近にそれぞれ装着される。
【0013】
図1に示されるように、本体部10の平面には、表示部11と、操作部12とが設けられる。表示部11は、例えば液晶ディスプレイとその駆動回路とを含む。表示部11には、自動体外式除細動器1Aの操作状態等を示す情報が表示される。操作部12は、自動体外式除細動器1Aの使用者に動作開始を指示させるためのボタン等の各種操作子を含む。
【0014】
図3は、自動体外式除細動器1Aの機能構成を示す機能ブロック図である。
図3に示されるように、自動体外式除細動器1Aは、表示部11及び操作部12の他に、記憶部13、制御部14、通信部15、高電圧生成部16A、心電図信号取得部17、状態検出部18、電源部19,及び音声出力部20を有する。記憶部13、制御部14、通信部15、高電圧生成部16A、心電図信号取得部17、状態検出部18、電源部19、及び音声出力部20は本体部10に内蔵される。
【0015】
電源部19は、出力電圧が12ボルト程度の電池を含む。電源部19は、電池の他に、商用電源から供給される交流電力により上記電池を充電する充電器を含んでもよい。
図3に示すように、電源部19は、高電圧生成部16Aに接続される。
図3では詳細な図示が省略されているが、電源部19は、表示部11、操作部12、記憶部13、制御部14、通信部15、心電図信号取得部17、状態検出部18、及び音声出力部20の各部にも接続される。電源部19は、表示部11、操作部12、記憶部13、制御部14、通信部15、高電圧生成部16A、心電図信号取得部17、状態検出部18、及び音声出力部20の各部に動作電力を供給する。
【0016】
制御部14は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、即ちコンピュータを含む。制御部14には、単一のコンピュータが含まれてもよく、また、複数のコンピュータが含まれてもよい。また、制御部14は、ゲートアレイ、及びA/Dコンバータを含む。表示部11、操作部12、記憶部13、通信部15、高電圧生成部16A、心電図信号取得部17、状態検出部18、及び音声出力部20の各々は制御部14に接続される。
【0017】
制御部14は、記憶部13に記憶されている制御プログラム(
図3では図示略)に従って作動することにより、自動体外式除細動器1Aの制御中枢として機能する。制御プログラムに従って作動している制御部14は、表示部11、操作部12、記憶部13、通信部15、高電圧生成部16A、心電図信号取得部17、状態検出部18、及び音声出力部20の各々の作動制御を行うことによって、心電図解析及び電気ショックの出力制御等を行う。
【0018】
記憶部13は、
図3では詳細な図示を省略したが、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリとRAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリとを含む。不揮発性メモリには、前述の制御プログラムが予め記憶されている。揮発性メモリは、前述の制御プログラムを実行する際のワークエリアとして制御部14によって利用される。また、揮発性メモリには、心電図信号等が一時的に記憶される。
【0019】
通信部15は、制御部14による制御の下、サーバ装置等の外部機器と無線又は有線の通信を行う通信インタフェースである。音声出力部20は、スピーカ等の放音装置を含む。音声出力部20は、制御部14による制御の下、音声ガイドや音声による警告等の出力を行う。
【0020】
電極パッド30Aはケーブル40Aを介して高電圧生成部16A、心電図信号取得部17、及び状態検出部18に接続される。また、電極パッド30Bはケーブル40Bを介して高電圧生成部16A、心電図信号取得部17、及び状態検出部18に接続される。
【0021】
心電図信号取得部17は、電極パッド30A及び電極パッド30Bからの心電図信号に含まれる雑音のフィルタリング、及び雑音をフィルタリング済の心電図信号の増幅等を行う。心電図信号取得部17により増幅された心電図信号は、制御部14に送られ、心電図解析等に用いられる。
【0022】
状態検出部18は、例えば、電極パッド30A及び電極パッド30Bと患者の体表面の間とのインピーダンスを測定することにより、電極パッド30A及び30Bの患者への装着状態を検出する。状態検出部18は、電極パッド30A及び30Bの患者への装着状態を示す装着状態信号を制御部14へ出力する。
【0023】
高電圧生成部16Aは、制御部14からの制御信号に基づいて、電極パッド30A及び電極パッド30Bから患者に与える電気ショックに係る高電圧パルス(より具体的には、電極パッド30Aと電極パッド30Bとの間の電位差)を発生させる。
図3に示されるように、高電圧生成部16Aは、トランス160と、制御部14からの制御信号に応じてオン/オフが切り替えられるスイッチ161と、を含む。
【0024】
トランス160は、一次側コイル160a及び二次側コイル160b、を含む。
図3では詳細な図示を省略したが、一次側コイル160a及び二次側コイル160bは、フェライト等で形成されたコア(鉄心)に巻回される。
図3に示されるように、スイッチ161とトランス160の一次側コイル160aとは、電源部19に直列に接続される。また、トランス160の二次側コイル160bの一端(即ち、トランス160の一方の出力端)はケーブル40Aを介して電極パッド30Aに接続される。二次側コイル160bの他端(即ち、トランス160の他方の出力端)はケーブル40Bを介して電極パッド30Bに接続される。
【0025】
スイッチ161がオフからオンに切り替わると、電源部19から一次側コイル160aに供給される電力に応じた電圧V2が二次側コイル160bに発生する。ここで、一次側コイル160aの巻数をN1とし、二次側コイル160bの巻数をN2とし、電源部19から一次側コイル160aに印加される電圧をV1とすると、電圧V2は、以下の式(1)により表される。
V2=V1×(N2/N1)…(1)
【0026】
心停止状態の患者の心臓を正常な状態に戻すためには、電圧値が2000~3000ボルト及び電流値が30アンペア程度の電気ショック(パルス)を患者に与えることが必要となる。高耐圧コンデンサを用いた従来の自動体外式除細動器では、所定の充電時間にわたって高耐圧コンデンサを充電することで150ジュール程度のエネルギーが高耐圧コンデンサに蓄積され、高耐圧コンデンサに蓄積されたエネルギーを2.5ミリ秒等の短時間のうちに放出することで電気ショックの発生が実現された。これに対して、本実施形態の自動体外式除細動器1Aでは、トランス160における逆起電力を利用して直流12ボルトから2000ボルトの高電圧が得られる。ただし、本実施形態では、高電圧が得られる時間は、パルス状の極短時間になる。本実施形態の自動体外式除細動器1Aでは、パルスの連続波エネルギーを波形整形及び極性制御により必要なエネルギーが得られる。また、電源部19から一次側コイル160aに印加される電圧V1は12ボルトであるため、心停止状態の患者の心臓を正常な状態に戻す電気ショックの発生には、エネルギー保存則により、電源部19から一次側コイル160aへ5000アンペア程度の大電流を供給することが必要となる。この場合、巻数比N2/N1を167程度とすることで、心停止状態の心臓を正常な状態に戻すための電気ショックを発生させることができる。本実施形態では、N1は1であり、N2は167である。即ちN2/N1は167である。
【0027】
本実施形態の自動体外式除細動器1Aは、従来の自動体外式除細動器とは異なり、高電圧を保持するための高耐圧コンデンサを含まない。自動体外式除細動器1Aは高耐圧コンデンサを含まないので、自動体外式除細動器1Aの小型化及び軽量化が可能となる。また、高耐圧コンデンサを用いる従来の自動体外式除細動器では、高耐圧コンデンサの充電完了までに長時間(約10秒等)を要するという問題があった。本実施形態の自動体外式除細動器1Aでは、トランス160における相互誘導により電圧V2が発生するので、高耐圧コンデンサの充電に要するような長時間の充電時間は要しない。理由は次の通りである。
【0028】
パルスの連続波エネルギーの出力のため、自動体外式除細動器1Aにおいてもトランス160を充電する必要がある。トランス160に充電に要する時間は、トランス160の時定数τ1が大きいほど長くなる。ここで、トランス160の時定数τ1は以下の式(2)により表される。式(2)においてL1はトランス160の一次側のインダクタンスであり、R1は同一次側の抵抗値である。
τ1=L1/R1・・・(2)
【0029】
前述したように、トランス160の一次側には5000アンペア程度の電流を流れるので、一次側の抵抗値R1は数ミリオーム程度であることが必要となる。一次側の抵抗値R1は数ミリオーム程度であると、τ1が大きくなり、トランス160の充電に長い時間を要するかのように見える。しかし、トランス160の一次側のインダクタンスL1と同二次側のインダクタンスL2との間には以下の式(3)に示す関係がある。つまり、τ1は二次側の巻線数N2の二乗に反比例する。τ1は二次側の巻線数N2の二乗に反比例するので、τ1を十分に小さくすること(即ち、トランス160の充電時間を十分に短くすること)ができる。
L1=L2/N22・・・(3)
【0030】
以上説明したように、本実施形態によれば、小型且つ軽量で、短時間のうちに使用可能になる自動体外式除細動器1Aを提供することができる。本実施形態では、トランス160の一方の出力端にはケーブル40Aを介して電極パッド30Aが接続され、トランス160の他方の出力端にはケーブル40Bを介して電極パッド30Bが接続された。しかし、トランス160の一方の出力端と他方の出力端との間にノイズ対策又は過渡電圧対策のための回路が介挿されてもよい。この種の回路は、容量が3マイクロファラドよりも小さい小容量のコンデンサを含む場合がある。この種の回路がトランス160の一方の出力端と他方の出力端との間に介挿されたとしても、電極パッド30A側から見たトランス160の一方の出力端と電極パッド30B側から見たトランス160の他方の出力端との間の容量は3マイクロファラドよりも小さくなる。一方、高電圧パルスを発生させるためのエネルギーの蓄積に高耐圧コンデンサを用いる従来の自動体外式除細動器では、高電圧パルスを発生させるためのエネルギーは150ジュール程度であり、高耐圧コンデンサに印可される電圧が2000ボルトであるとすると、この高耐圧コンデンサの容量は75マイクロファラドとなる。子供用の従来の自動体外式除細動器であれば高電圧パルスを発生させるためのエネルギーは50ジュールであるため、高耐圧コンデンサの容量は75マイクロファラドよりも小さくなるが、高耐圧コンデンサに印可される電圧を3000ボルトと高めに想定したとしても、高耐圧コンデンサの容量は10マイクロファラド以上になる。つまり、高耐圧コンデンサを用いた従来の自動体外式除細動器では、電極パッド側から見た高電圧生成部の一方の出力端と他方の出力端との間の容量は10マイクロファラド以上となる。本実施形態の自動体外式除細動器1Aでは、トランス160の一方の出力端と他方の出力端との間にノイズ対策(出力の平滑化)又は過渡電圧対策のために小容量のコンデンサを含む回路が介挿されてもよい。ノイズ対策等のための小容量のコンデンサは、電気ショックの発生のためのエネルギーの蓄積には寄与せず、当該コンデンサの容量は概ね3マイクロファラドよりも小さい。このような小容量のコンデンサを含む回路が自動体外式除細動器1Aの一方の出力端と他方の出力端との間に介挿されたとしても、両出力端の間の容量は10マイクロファラド(より具体的には3マイクロファラド)よりも小さくなる。この点において、本実施形態の自動体外式除細動器1Aは、高耐圧コンデンサを用いた従来の自動体外式除細動器とは区別される。
【0031】
(B:第2実施形態)
図4は、自動体外式除細動器1Bの機能構成を示す機能ブロック図である。
図4では
図3におけるものと同じ構成要素には同じ符号が付されている。自動体外式除細動器1Bは、高電圧生成部16Aに代えて高電圧生成部16Bを有する。高電圧生成部16Bは、トランス160に代えてインダクタ163を有する。インダクタ163は、図示せぬコアに巻回されたコイル163aを有する。また、高電圧生成部16Bは、例えばダイオード等の整流素子162を備える。
【0032】
図4に示されるように、スイッチ161とインダクタ163のコイル163aとは、電源部19に直列に接続される。コイル163aの一端(即ち、インダクタ163の一方の出力端)はケーブル40Aを介して電極パッド30Aに接続される。コイル163aの他端(インダクタ163の他方の出力端)は整流素子162及びケーブル40Bを介して電極パッド30Bに接続される。整流素子162は、コイル163aを充電する際に、電源部19→電極パッド30A→患者→電極パッド30B→電源部19といった経路に沿って電流が流れないようにするために設けられる。電極パッド30A→患者→電極パッド30Bの経路における抵抗値が、コイル163aの抵抗値よりも十分に大きい場合には、整流素子162は省略されてもよい。また、第1実施形態における高電圧生成部16Aに整流素子162が追加されてもよい。
【0033】
本実施形態の自動体外式除細動器1Bでは、電源部19からインダクタ163に供給される電流をI、インダクタ163のインダクタンスをLとすると、スイッチ161をオフからオンに切り替えることによって、コイル163aには、充電エネルギーJi=L×I2/2が蓄えられる。
【0034】
コイル163aを充電した後、スイッチ161をオンからオフに切り替えると、コイル163aにおける自己誘導によって、充電エネルギーJiに応じた電圧V2が電極パッド30A及び電極パッド30B間に発生する。このため、電源部19からインダクタ163に供給される電流Iとコイル163aのインダクタンスLの少なくとも一方を適切に設定することで、心停止状態の心臓を正常な状態に戻すための電気ショックに必要な電圧V2を発生させることができる。本実施形態の自動体外式除細動器1Bも高耐圧コンデンサを含まないので、自動体外式除細動器1Bの小型化及び軽量化が可能となり、長時間の充電も必要ない。
【0035】
本実施形態によっても、小型且つ軽量で、短時間のうちに使用可能になる自動体外式除細動器1Bを提供することができる。本実施形態においても、インダクタ163の一方の出力端と他方の出力端との間にノイズ対策又は過渡電圧対策のための回路が介挿されてもよく、この種の回路がインダクタ163の一方の出力端と他方の出力端との間に介挿されたとしても、電極パッド30A側から見たインダクタ163の一方の出力端と電極パッド30B側から見たインダクタ163の他方の出力端との間の容量は10マイクロファラドよりも小さくなる。この点においても本実施形態の自動体外式除細動器1Bは、高耐圧コンデンサを用いた従来の自動体外式除細動器とは区別される。
【0036】
(C:変形)
上述した第1実施形態及び第2実施形態は以下のように変形され得る。
(1)
図4に示す自動体外式除細動器1Bにおいて電気ショックに必要な高電圧を発生させるには、インダクタ163に5000アンペア程度の大電流を供給することが必要となり、スイッチ161を介してインダクタ163を電源部19に接続する配線材及びコイル163aを形成する配線材を太くすることが必要となる。コイル163aを形成する配線材を太くするとコアを大きくすることが必要となる。しかし、配線材を太くすること、及びコアを大きくすることはインダクタ163の大型化につながり好ましくない。
【0037】
インダクタの大型化を避けつつ、インダクタに大電流を供給できるようにする方策としては、配線材の内部インダクタンスを利用すること、換言すれば配線材にコアの役割を兼ねさせることが考えられる。配線材のインダクタンスLは、配線材の内部におけるインダクタンスである内部インダクタンスLiと配線材の外部空間における外部インダクタンスLoとを用いて以下の式(4)のように表される。
L=Li+Lo・・・(4)
【0038】
配線材の長さをl、配線材の長手方向と直交する面により配線材の断面を半径aの円とすると、内部インダクタンスLi及び外部インダクタンスLoは以下の式(5)及び式(6)により表される。なお、式(5)及び式(6)においてπは円周率であり、μは配線材の透磁率、μ0は真空の透磁率である。配線材の透磁率μは真空の透磁率μ0と配線材の比透磁率μsとの積で表される(すなわち、μ=μ0×μs)。また、式(6)におけるln()は自然対数を意味する。
Li=μ×l/(8×π)・・・(5)
L0≒μ0×l×(ln(2×l/a)-1)/(2×π)・・・(6)
【0039】
通常の配線材ではμsは約1である。a=1ミリメートル、l=1メートルとすると、通常の配線材ではLiは50ナノヘンリ程度となり、Loは1.32マイクロヘンリとなる。従って、通常の配線材全体のインダクタンスLは1.37マイクロヘンリとなる。通常の配線材ではμs≒1であり、内部インダクタンスLiを大きくすることはできない。しかし、配線材として導電性を有する強磁性材料を用いること、即ち配線材の比透磁率μsを1よりも大きな値とすることで、内部インダクタンスLiを大きくすることができる。また、配線材の内部インダクタンスLiは配線材の断面の半径aには依存しないので、5000アンペア程度の電流を流すために配線材を太く(即ち断面積を大きくして電気抵抗を小さく)しても内部インダクタンスLiは特段の影響を受けない。
【0040】
図5は、本変形例の高電圧生成部16Cの一例を示す図である。なお、
図5には、高電圧生成部16Cの他に、高電圧生成部16Cに接続される電源部19と、電極パッド30A及び電極パッド30Bと、ケーブル40A及びケーブル40Bとが図示されている。
図4における高電圧生成部16Bと比較すれば明らかなように、高電圧生成部16Cは、インダクタ163に代えてインダクタ164を有する。なお、インダクタ164の一方の出力端と他方の出力端との間にノイズ対策又は過渡電圧対策のための回路が介挿されてもよく、この種の回路がインダクタ164の一方の出力端と他方の出力端との間に介挿されたとしても、電極パッド30A側から見たインダクタ164の一方の出力端と電極パッド30B側から見たインダクタ164の他方の出力端との間の容量は10マイクロファラドよりも小さくなる。この点において本変形例の高電圧生成部16Cを有する自動体外式除細動器は、高耐圧コンデンサを用いた従来の自動体外式除細動器とは区別される。
【0041】
インダクタ164は、磁性金属等を円筒形に形成して成る第3部材164cを、各々ネオジム磁石等を用いて円盤状に形成された第1部材164a及び第2部材164bで挟持することで構成される。インダクタ164が太い円筒状に形成されているのは、電源部19からインダクタ164に5000アンペアの大電流が供給されるからである。第1部材164a、第2部材164b及び第3部材164cは、電源部19からの電力が供給される配線材の役割を担うとともに、インダクタ164におけるコアの役割を担う。電源部19からの電力が供給される配線材を第1部材164a、第2部材164b及び第3部材164cにより構成したのは、μsを1よりも大きな値とするためである。
【0042】
インダクタ164におけるコアの役割を担う配線材の比透磁率μsの好適な値は、以下のように考察される。一般的なコアにおける磁束密度Bの最大値は2テスラ程度である。一方、磁束密度Bと磁場Hとの間にはB=μHの関係がある。ここで、H=I/lの関係があるので、I=5000アンペア、l=1メートルを代入して整理すると、μs=32となる。従って、μsの好適な値は10~100と考えられる。
図5に示す高電圧生成部16Cを用いる場合、μsの値が10~100となるように、第1部材164a、第2部材164b及び第3部材164cの各々の素材及び形状を調整すればよい。
【0043】
μsの値が10~100という条件を満たせば、インダクタにおけるコアの役割を担い、且つ電源部19からの電力が供給される配線材をネオジム磁石等の永久磁石により形成してもよい。
図6に示す高電圧生成部16Dは、コアの役割を担い、且つ電源部19からの電力が供給される配線材を永久磁石により構成したインダクタ165を有する。また、第1実施形態における高電圧生成部16Aに代えて、
図7に示す高電圧生成部16Eが用いられてもよい。高電圧生成部16Eは、トランス160に代えてトランス166を有する。トランス166は、導電性を有する永久磁石により構成され、トランス166におけるコアの役割を兼ねる配線材166aと、当該コアに巻回される二次側コイル166bとを有する。配線材166aには、電源部19から供給される電流の流れる方向に沿って、二次側コイル166bを巻回するための貫通孔166cが設けられる。
【0044】
(2)自動体外式除細動器1Aの本体部10は通信部15を備えている。このため、
図8に示すように、自動体外式除細動器1Aがインターネット101に接続され、且つインターネット101にサーバ装置100が接続されている場合、自動体外式除細動器1Aはインターネット101を介してサーバ装置100とデータ通信を行うことができる。自動体外式除細動器1Aを備え付けとして活用する場合、患者に電気ショック等の処置が実行された場合に、本体部10の識別IDとともに、その旨をサーバ装置100に通知すれば、処置の実行タイミングにおいて、リアルタイムに、サーバ装置100側で、どの機器で、どの日時に処置が実行されたのかを把握することが可能となる。そして、サーバ装置100側の処理で、自動的に救急センタに処置が行われた場所(機器の識別IDと紐づけて管理)、日時を通報することも可能となる。また、自動体外式除細動器1Aを携帯用として用いる場合、予めサーバ装置100側にユーザ登録をしておければ、処置が行われたタイミングで、自動的にユーザを特定し、救急センタ等に通報することが可能となる。また、自動体外式除細動器1Aが携帯可能な小型自動体外式除細動器である場合、GPS受信機等の現在位置を特定できる機能が追加されてもよい。自動体外式除細動器1Aの現在位置を特定できれば、その後の救急救命活動にも有利になると思われるからである。第2実施形態の自動体外式除細動器1Bも同様である。
【符号の説明】
【0045】
1A、1B…自動体外式除細動器、10…本体部、30A、30B…電極パッド、40A,40B…ケーブル、11…表示部、12…操作部、13…記憶部、14…制御部、15…通信部、16A、16B…高電圧生成部、160…トランス、160a…一次側コイル、160b…二次側コイル、161…スイッチ、162…整流素子、163…インダクタ、163a…コイル、17…心電図信号取得部、18…状態検出部、19…電源部,20…音声出力部、100…サーバ装置、101…インターネット。