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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182011
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/18 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
B60R19/18 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089287
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】六車 健
(72)【発明者】
【氏名】中野 将和
(57)【要約】
【課題】歩行者の脚部に衝突した際、車両前部構造に備わる緩衝部材のつぶれ残りを防止して、脚部に対する衝突後半の衝撃荷重を抑制する。
【解決手段】緩衝部材30は車幅方向に延びる基部31と、車幅方向に間隔を置いて基部31から車両の上下方向に延びる複数のリブ部32とを一体に有する。車幅方向に隣り合うリブ部32同士の間は空間33になっている。基部31は車両の前後方向に沿った断面において緩衝部材30の中で最も前方に位置する先端36を有し、その先端36とリブ部32の前方側の端32aとが外装部材20の後方空間において露出している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に車幅方向に沿って配置された骨格部材と、
前記骨格部材を覆う外装部材と、
前記外装部材と前記骨格部材との間に配置され、衝突エネルギを吸収する緩衝部材と、を備え、
前記緩衝部材が、車幅方向に延びる基部と、車幅方向に間隔を置いて前記基部から前記車両の上下方向に延びる複数のリブ部とを一体に有し、
車幅方向に隣り合う前記リブ部同士の間が空間になっており、
前記基部が、前記車両の前後方向に沿った断面において前記緩衝部材の中で最も前方に位置する先端を有し、
前記基部の先端と前記リブ部の前方側の端とが、前記外装部材の後方空間において露出している車両前部構造。
【請求項2】
前記基部の先端と前記リブ部の前方側の端とが、同一平面上に位置しかつ前記緩衝部材の前面に位置している請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記緩衝部材の上面は、前記基部の先端から後方に向かって上方側に傾斜しており、
前記複数のリブ部は、前記基部から下方に延びている請求項1又は2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記リブ部の車幅方向視において当該リブ部の縁が後方側に延びる方向は、当該リブ部の前後方向長さの中央よりも前方寄りの位置で変化している請求項1から3のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記基部は、前後方向に沿った断面において後方に向かって上方側に傾斜した直線方向に延びる上壁と、前記各空間の後方を閉塞しかつ車幅方向に隣り合う前記リブ部同士を繋ぐように前記上壁に連なる後壁とを有し、
前記基部の先端は、前記上壁の前方側の端に位置しており、
前記複数のリブ部のそれぞれは、当該リブ部の前方側の端から後方に向かう程に前記上壁から下方に長く延びている請求項1から4のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項6】
前記リブ部の車幅方向長さは、当該リブ部の前後方向長さの1/10以上かつ1/3以下に設けられている請求項1から5のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項7】
前記複数のリブ部の車幅方向の配置ピッチは、100mm以上かつ200mm以下に設けられている請求項1から6のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歩行者の脚部に作用する衝突エネルギを吸収可能な車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、走行中の車両が歩行者と衝突した際、歩行者に与える損害を低減するため、車両の前部において衝突エネルギを吸収する構造が設けられている。特に、歩行者の脚部を保護するため、E/Aコアと呼ばれる緩衝部材が設けられている。この種の緩衝部材は、車両の前部に設けられた骨格部材、例えばバンパービームと、これを覆う外装部材、例えばバンパーフェイシャとの間に配置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
車両の前部が歩行者の脚部に衝突した際、バンパーフェイシャ等の外装部材を介して緩衝部材に前方側から衝撃荷重が作用すると、緩衝部材が車両の前後方向に圧縮変形して衝突エネルギを吸収する。すなわち、バンパービーム等の骨格部材によって後方から支持された緩衝部材が前方側からの衝撃荷重で押しつぶされることにより、衝突エネルギが緩衝部材に吸収されて、車両側から脚部に入力される衝撃荷重が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-137592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の緩衝部材は、その車幅方向の全長で一様な中実断面をもっている。このような緩衝部材は、圧縮変形が進んだ衝突後半でつぶれ残りが多くなり、脚部に入力される衝撃荷重が急上昇する問題がある。
【0006】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、歩行者の脚部に衝突した際に車両前部構造に備わる緩衝部材のつぶれ残りを防止して、脚部に対する衝突後半の衝撃荷重を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明は、車両の前部に車幅方向に沿って配置された骨格部材と、前記骨格部材を覆う外装部材と、前記外装部材と前記骨格部材との間に配置され、衝突エネルギを吸収する緩衝部材と、を備え、前記緩衝部材が、車幅方向に延びる基部と、車幅方向に間隔を置いて前記基部から前記車両の上下方向に延びる複数のリブ部とを一体に有し、車幅方向に隣り合う前記リブ部同士の間が空間になっており、前記基部が、前記車両の前後方向に沿った断面において前記緩衝部材の中で最も前方に位置する先端を有し、前記基部の先端と前記各リブ部の前方側の端とが、前記外装部材の後方空間において露出している車両前部構造を採用した。
【0008】
前記構成においては、前記基部の先端と前記リブ部の前方側の端とが、同一平面上に位置しかつ前記緩衝部材の前面に位置しているのが好ましい。
【0009】
前記構成においては、前記緩衝部材の上面は、前記基部の先端から後方に向かって上方側に傾斜しており、前記複数のリブ部は、前記基部から下方に延びているのが好ましい。
【0010】
前記各構成においては、前記リブ部の車幅方向視において当該リブ部の縁が後方側に延びる方向は、当該リブ部の前後方向長さの中央よりも前方寄りの位置で変化しているのが好ましい。
【0011】
前記各構成においては、前記基部は、前後方向に沿った断面において後方に向かって上方側に傾斜した直線方向に延びる上壁と、前記各空間の後方を閉塞しかつ車幅方向に隣り合う前記リブ部同士を繋ぐように前記上壁に連なる後壁とを有し、前記基部の先端は、前記上壁の前方側の端に位置しており、前記複数のリブ部のそれぞれは、当該リブ部の前方側の端から後方に向かう程に前記上壁から下方に長く延びているのが好ましい。
【0012】
前記各構成においては、前記リブ部の車幅方向長さは、当該リブ部の前後方向長さの1/10以上かつ1/3以下に設けられているのが好ましい。
【0013】
前記各構成においては、前記複数のリブ部の車幅方向の配置ピッチは、100mm以上かつ200mm以下に設けられているのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、上記構成の採用により、歩行者の脚部に衝突した際、車両前部構造に備わる緩衝部材のつぶれ残りを防止して、脚部に対する衝突後半の衝撃荷重を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施形態に係る車両前部構造を示す部分横断面図
図2】実施形態に係る車両前部構造を示す部分側面図
図3】実施形態に係る緩衝部材を上面側から示す斜視図
図4】実施形態に係る車両前部構造の外観を示す部分斜視図
図5】実施形態に係る車両前部構造を示す部分縦断面図
図6】実施形態に係る緩衝部材を下面側から示す斜視図
図7】実施形態に係る車両前部構造が脚部に衝突したときの緩衝部材の変形を示す部分下面図
図8】実施形態に係る緩衝部材の人体入力荷重特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の一例としての実施形態に係る車両前部構造を添付図面の図1~8に基づいて説明する。
【0017】
図1、2に示すように、実施形態に係る車両前部構造は、車両100の前部に配置された骨格部材10と、骨格部材10を覆う外装部材20と、外装部材20と骨格部材10との間に配置された緩衝部材30とを備える。
【0018】
ここで、図1、2、5、7の各図において、矢印Xに沿った方向は車両100の車幅方向(以下、X方向という。)を示し、矢印Yに沿った方向は車両100の前後方向(以下、Y方向という。)を示し、矢印Zに沿った方向は車両100の上下方向(以下、Z方向という。)を示している。図1、2、5、7において、Y方向に沿って図中左方に進む方向が車両100の前後方向における前方に相当し、同じく図中右方に進む方向が車両100の前後方向における後方に相当する。図2、3において、Z方向に沿って図中上方に進む方向が車両100の上下方向における上方に相当し、同じく図中下方に進む方向が車両100の上下方向における下方に相当する。
【0019】
図1、3に示すように、骨格部材10は、X方向に沿って配置されたバンパービームからなる。骨格部材10は、車両100の前部においてX方向の両側に設けられたフロントサイドメンバー(図示省略)に結合されている。骨格部材10は、X方向に延びる前方壁11を有する。
【0020】
図1、4、5に示すように、外装部材20は、骨格部材10を覆うバンパーフェイシャからなる。外装部材20は、骨格部材10に対してY方向の前方側に位置し、かつX方向に延びる前面壁21を有する。また、外装部材20には、前面壁21をY方向に貫通する開口22が形成されている。
【0021】
図3、5に示すように、開口22に対してY方向の後方側に離れた位置にカーエアコンのコンデンサ40が配置されている。骨格部材10のZ方向の上方には、別の骨格部材50が配置されている。車両100の前進走行中に開口22に入った冷却風CWは、開口22を通過後、骨格部材10と別の骨格部材50との間の空間を経て、コンデンサ40に到達する。
【0022】
図1、3、5、6に示すように、緩衝部材30は、X方向に沿って配置されている。緩衝部材30の長手方向はX方向になっている。緩衝部材30は、骨格部材10に固定されている。緩衝部材30のうち、骨格部材10に対する固定部以外の部位は、他の部材に固定されていない。
【0023】
図2に示す車両100の前部が歩行者の脚部Wに衝突した際の衝撃が外装部材20を介して緩衝部材30に作用すると、図7に示すように、緩衝部材30がY方向に圧縮変形することによって、衝突エネルギを吸収する。すなわち、骨格部材10の前方壁11によってY方向の後方から支持された緩衝部材30がY方向の前方側からの荷重で押しつぶされることにより、衝突エネルギが緩衝部材30に吸収されて、車両100の前部側から脚部Wに入力される衝撃荷重が低減される。
【0024】
図1、5、6に示すように、緩衝部材30は、X方向に延びる基部31と、X方向に間隔を置いて基部31からZ方向に延びる複数のリブ部32とからなる。X方向に隣り合うリブ部32同士の間は、空間33になっている。
【0025】
緩衝部材30は、基部31と複数のリブ部32とを一体に成形した発泡材によって構成されている。
【0026】
複数のリブ部32は、基部31からZ方向の下方に延びている。
【0027】
基部31は、図5に示すように、Y方向に沿った断面において後方に向かって上方側に傾斜した直線方向に延びる上壁34と、各空間33の後方を閉塞しかつX方向に隣り合うリブ部32の後部同士を繋ぐように上壁34に連なる後壁35とからなる。
【0028】
緩衝部材30は、後壁35のY方向の後面において骨格部材10の前方壁11に固定されている。
【0029】
また、基部31は、緩衝部材30のX方向の任意の位置を通るY方向に沿った断面において緩衝部材30の中で最も前方に位置する先端36を有する。基部31の先端36は、上壁34の前方側の端に位置しており、緩衝部材30の上面と下面の境界となる。
【0030】
基部31は、先端36を含む前方端面37を有する。基部31をX方向の任意の位置でY方向に沿って切断した断面を考えたとき、基部31の前方端面37は、当該断面において先端36からY方向に対して傾斜する方向へ延びている。このため、基部31の前方端面37は、緩衝部材30の前面に位置し、外装部材20の後方空間において露出している。また、基部31の前方端面37は、上壁34が延びる前述の直線方向の端面を構成する。
【0031】
基部31の前方端面37は、基部31の先端36から厚みをもたせて先端36からの割れを防止するため、また、前方端面37から上壁34の全体に所定以上の厚さを確保することにより、図2に示す脚部Wと車両100の前部との衝突当初、脚部Wに入力される衝撃荷重を大きくする(すなわち緩衝部材30が圧縮変形させられる量を多くして衝突エネルギの吸収性能を良くする)ために形成されている。
【0032】
図1、5に示すように、基部31の先端36を含む前方端面37は、Y方向に関して外装部材20の前面壁21と、骨格部材10の前方壁11との間に配置され、Z方向に関して開口22よりも下方に配置されている。
【0033】
緩衝部材30の上面38は、上壁34の部位において基部31の先端36から後方に向かって上方側に傾斜している。複数のリブ部32を基部31からZ方向の下方に延ばすことにより、緩衝部材30の上面38をリブ部のない平坦状として、滑らかに前述のように傾斜させることができる。緩衝部材30をX方向の任意の位置でY方向に沿って切断した断面を考えたとき、緩衝部材30の上面38が前述の傾斜をもつ領域は、基部31の先端36から、上面38の後端部においてZ方向の上方に最も高い頂上部まで連続している。緩衝部材30の上面38の傾斜部分及び頂上部は、外装部材20の開口22とY方向に対向している。
【0034】
図3~5に示すように、緩衝部材30の上面38は、外装部材20の開口22から露出する。開口22は、前述の冷却風CWによる冷却性能を確保するために開口面積を取らなければならない。緩衝部材30の上面38は、開口22のY方向の後方において特に突出部も持たずに、前述のように滑らかに傾斜しているため、実車では、外装部材20の前面壁21の影に位置し、光を開口22の外へ直線的に反射しない。したがって、緩衝部材30の上面38を開口22から視認することができず、外装部材20の前面に開口22を設ける場合でも、緩衝部材30の配置によって見栄えが悪化することはない。
【0035】
また、図5に示すように、冷却風CWが開口22を通過後、骨格部材10と別の骨格部材50との間の空間へ向かう際、緩衝部材30の上面38は、前述のように滑らかに傾斜しているので、冷却風CWの流れを阻害せず、緩衝部材30よりも高い位置において骨格部材10と別の骨格部材50との間に形成された空間へ導く。したがって、開口22から斜め上方へ冷却風CWを導くためのエアガイド部材を緩衝部材30とは別に装備する必要がなく、低コスト化を図ることができる。また、このようなエアガイド部材を採用すると、エアガイド部材の有無が前述の衝突荷重に影響するから、車両100のエアガイド部材の有無の仕様違いを製造する場合に緩衝部材の設計を別々に行う必要があるが、緩衝部材30を採用すると、エアガイド部材の機能を兼ねるので、仕様違いを製造する場合の低コスト化を図ることもできる。
【0036】
仮に、YZ方向の各長さが緩衝部材30と同等の中実直方体状の緩衝部材を配置した場合、その鉛直前面が開口22の直ぐ後方に立つことになり、日光下で開口22から容易に視認することができ、また、冷却風CWの流れを阻害するので、冷却性能を確保できない。また、中実直方体状の緩衝部材の位置をZ方向に下げる場合、車両100のボディの狭い空間へ移すことになり、その緩衝部材のX方向長さを同等に確保することができない。
【0037】
図1、3、5、6に示すように、各リブ部32は、前方側の端32aを有する。リブ部32の前方側の端32aは、当該リブ部32の中で最もY方向の前方側に位置する部位である。各リブ部32の前方側の端32aは、緩衝部材30の前面に位置し、外装部材20の後方空間において露出している。
【0038】
図示例の各リブ部32の前方側の端32aは、基部31の前方端面37に連続している。緩衝部材30の前方側の先端部は、基部31の先端36と各リブ部32の前方側の端32aと、前方端面37とで構成されており、外装部材20の後方空間を介して外装部材20の後面とY方向に対向している。なお、図示例の各リブ部32は、基部31の前方端面37の下縁上において上壁34に対するZ方向の突出量が実質的に無くなっている。
【0039】
また、リブ部32と交差する任意のY方向に沿った断面において、基部31の先端36とリブ部32の前方側の端32aは、基部31の前方端面37を基準面として同一平面上に位置している。すなわち、当該断面において、基部31の前方端面37は、Y方向に対して傾斜した方向に延びる直線状を成し、その前方端面37の上端に基部31の先端36が位置し、その前方端面37の下端に当該リブ部32の前方側の端32aが位置している。なお、基部31の前方端面37を形成しない場合、基部の先端と各リブ部の前方側の端とを直接に繋いだ(連続させた)態様に変更することも可能である。
【0040】
図2に示す脚部Wと外装部材20との衝突当初、凡そ、その衝突エネルギは、外装部材20の衝突部を介して緩衝部材30に伝わる。このとき、緩衝部材30の中で最初に衝突エネルギが伝わる部位は、凡そ、緩衝部材30の中で最もY方向の前方に位置する基部31の先端36となる。そして、緩衝部材30は、図1に示す基部31の前方端面37からY方向の後方側へ圧縮されていく。基部31の先端36とリブ部32の前方側の端32aとが外装部材20の後方空間において露出しているため、緩衝部材30の前方側の先端部においては、衝突部後方において基部31の先端36からリブ部32の前方側の端32aまで迅速に圧縮が進行する。したがって、リブ部32の前方側の端32aに衝突エネルギが迅速に伝わり、当該リブ部32が上壁34と共にY方向の後方側に圧縮され易い。このため、衝突部後方や衝突部近傍の各リブ部32は、当該リブ部32の圧縮荷重の増加に伴い、図7に示すように、X方向に折れ曲がるように座屈(以下、この座屈現象を横折れという。)を起こし易くなる。横折れしたリブ部32は、その後、X方向へ押し出されるように曲がり易く、Y方向に圧縮されにくくなる。したがって、衝突部近傍のリブ部32が横折れすると、緩衝部材30のY方向の圧縮変形(つぶれ)が進行し易くなり、緩衝部材30のつぶれ残りが防止されるので、脚部Wに入力される衝撃荷重が抑制される。
【0041】
図5、6に示すように、各リブ部32は、当該リブ部32の前方側の端32aから後方に向かう程に上壁34からZ方向の下方に長く延びている。各リブ部32は、上壁34と後壁35とを繋いでおり、上壁34の各空間33に面する下面部に対してZ方向の下方に延び、後壁35の各空間33に面する前面部からY方向の前方に延びている。緩衝部材30の中で各リブ部32のY方向の後方側への圧縮変形に抵抗するのは、上壁34と後壁35のみである。このため、前述のように衝突時にY方向に圧縮されるリブ部32は、特に、当該リブ部32のZ方向の下部から横折れを起こし易い。
【0042】
図1、5に示すように、各リブ部32のX方向視において当該リブ部32の縁32bが後方側に延びる方向は、当該リブ部32のY方向長さL1の中央Hpよりも前方寄りの位置Cpで変化している。リブ部32の縁32bは、リブ部32のZ方向の先端に位置する。Y方向に圧縮されたリブ部32は、前方寄りの位置Cp上において縁32bの延びる方向が変化して断面二次モーメントが変わるため、圧縮応力とひずみのバランスが崩れ、その直後から横折れし易くなる。このため、当該リブ部32は、Y方向長さL1の中央Hpで横折れを起こし易い。リブ部32がY方向長さL1の中央Hpで横折れすると、衝突後半において、前述のように緩衝部材30が後方側につぶれ易くなるので、脚部Wに入力される衝撃荷重が抑えられる。
【0043】
各リブ部32の縁32bは、当該リブ部32の前方側の端32aから後壁35まで延びている。当該リブ部32のY方向長さL1は、縁32bのY方向の全長に相当する。図示例の各リブ部32の縁32bは、当該リブ部32の前方側の端32aからY方向の後方に向かって一定の曲率をもって延び、Y方向長さL1の中央Hpよりも前方寄りの位置Cpで曲率が前述の一定の曲率よりも小さくなり、位置Cpから後方側へ概ね直線状に延びている。この図示例では複数の曲面で縁32bのY方向の全長を構成したが、例えば、Y方向に対する傾斜角度が互いに異なる複数の平面で構成してもよい。
【0044】
各リブ部32の縁32bは、基部31の先端36から上壁34に沿ってY方向の後方側に向かう程に上壁34の延びる直線方向と直交する方向に上壁34から遠ざかる。このため、各リブ部32は、当該リブ部32のX方向視において概ね二等辺三角形状になっている。各リブ部32のX方向長さL2は、Y方向長さL1の全域で略一定である。従い、各リブ部32のX方向に沿った断面積及び断面二次モーメントは、当該リブ部32の前方側の端32aから上壁34に沿ってY方向の後方側に向かう程に増加する。このため、Y方向に圧縮されたリブ部32は、Y方向長さL1の前部すなわち衝突前半においてY方向に圧縮され易く、Y方向長さL1の中程で横折れを起こし易い。
【0045】
各リブ部32のX方向長さL2は、当該リブ部32のX方向の最大幅に相当する。各リブ部32のX方向長さL2は、当該リブ部32のY方向長さL1の1/10以上かつ1/3以下に設けられている。L2/L1を1/3以下にすると、当該リブ部32の横折れが起こり易く、1/3を超えると、横折れが起こらない可能性がある。L2/L1を1/10以上にすると、リブ部32の成形が困難となり、成形できたとしても、リブ部32が割れ易く、衝突時の荷重を受けた際に衝突エネルギの吸収に貢献できない。
【0046】
例えば、緩衝部材30の全長を1040mm、リブ部32のY方向長さL1を120mmにする場合、リブ部32のX方向長さL2を40mmにすると、リブ部32が横折れし易く、リブ部32のX方向長さL2を小さくするとしても、発泡材の成形性から13~15mmが限界となるであろう。
【0047】
複数のリブ部32のX方向の配置ピッチPは、100mm以上かつ200mm以下に設けられている。配置ピッチPは、X方向に隣り合うリブ部32同士の対応位置間のX方向距離に相当する。図7に示す脚部Wの太さは、一般に、約100mmであるから、配置ピッチPを100mm以上にすれば、衝突時、リブ部32に対して斜め方向に入力され易くなり、その結果、リブ部32にX方向の荷重が入り易くなるので、リブ部32が横折れを起こし易くなる。また、配置ピッチPを100mm以上にすれば、横折れしたリブ部32が隣のリブ部32と干渉せず、X方向へ押し出されていく変形が阻害されない。また、配置ピッチPを200mm以下にすれば、子供、大人のいずれの脚部Wとの衝突時でも、その荷重がリブ部32に対して斜め方向に入力され易くなる。なお、配置ピッチPが300mmの場合、衝突部の後方近傍にリブ部32が存在する可能性が少なく、衝突部後方のX方向両側に位置するリブ部32が荷重を受けることを期待できない。
【0048】
緩衝部材30の圧縮変形に伴って脚部Wに入力される衝撃荷重(以下、人体入力荷重という。)の特性を図8に概略的なグラフで示す。ここで、同図の実線の折れ線は、緩衝部材30が奏する人体入力荷重の特性を示すものである。同図の一点鎖線の折れ線は、理想的な人体入力荷重の特性を示し、同図の二点鎖線の折れ線は、前述の中実直方体状の緩衝部材が奏する衝撃荷重の特性を示すものである。
【0049】
一点鎖線で示す理想的な人体入力荷重特性は、衝突当初から人体入力荷重が急激に立ち上がり、速やかに衝突エネルギの吸収性能が上昇するが、その後、脚部の損傷防止に理想的な人体入力荷重が一定に継続するものである。
【0050】
一方、実線で示す緩衝部材30の人体入力荷重特性を見ると(図1、7も参照のこと)、衝突当初からリブ部32に迅速に負荷されるので、人体入力荷重が上昇していくが、理想的な人体入力荷重よりも少し大きな人体入力荷重T1となり、緩衝部材30のY方向の変形量がS1になったとき、圧縮されたリブ部32の横折れが起こる。以降、緩衝部材30がつぶれ易くなるので、人体入力荷重の上昇が緩やかになり、衝突後半において、人体入力荷重が抑制される。
【0051】
これに対し、二点鎖線で示す中実直方体状の緩衝部材の人体入力荷重特性を見ると、衝突前半こそ人体入力荷重が比較的大きく理想的なものに近いが、比較的早期に理想的な人体入力荷重を上回り、人体入力荷重T1、Y方向の変形量S1よりも明らかに大きな人体入力荷重T2、Y方向の変形量S2になって以降、特につぶれにくくなり、人体入力荷重がさらに急上昇していってしまう。
【0052】
実施形態に係る車両前部構造は、上述のようなものであって(図1、2、5、7参照)、その緩衝部材30が車幅方向(X方向)に延びる基部31と、X方向に間隔を置いて基部31から車両100の上下方向(Z方向)に延びる複数のリブ部32とを一体に有し、車幅方向に隣り合うリブ部32同士の間が空間33になっており、基部31が車両100の前後方向(Y方向)に沿った断面において緩衝部材30の中で最も前方に位置する先端36を有し、基部31の先端36とリブ部32の前方側の端32aとが外装部材20の後方空間において露出していることにより、脚部Wと外装部材20との衝突当初、リブ部32の前方側の端32aに衝突エネルギが迅速に伝わり、当該リブ部32が後方側に圧縮され、横折れが起こし易くなり、ひいては、緩衝部材30のつぶれ残りを防止して、脚部Wに対する衝突後半の衝撃荷重を抑制することができる。
【0053】
また、実施形態に係る車両前部構造は、基部31の先端36とリブ部32の前方側の端32aとが同一平面上に位置しかつ緩衝部材30の前面に位置していることにより、
前方端面37から上壁34の全体に所定以上の厚さを確保しつつ、Y方向の位置に関して基部31の先端36の近傍に各リブ部32の前方側の端32aを位置させると共に、基部31の先端36と各リブ部32の前方側の端32aを緩衝部材30の前面に露出させることができ、ひいては、基部31の先端36からの割れを防止すると共に、車両100の前部との衝突当初にリブ部32を迅速に圧縮させ、車両100の前部との衝突当初に脚部Wに入力される衝撃荷重を大きくする(すなわち緩衝部材30が圧縮変形させられる量を多くして衝突エネルギの吸収性能を良くする)ことができる。
【0054】
また、実施形態に係る車両前部構造は、緩衝部材30の上面38が基部31の先端36から後方に向かって上方側に傾斜しており、複数のリブ部32が基部31から下方に延びていることにより、外装部材20の前面に開口22を設ける場合に緩衝部材30の配置によって見栄えが悪化しないようにすると共に、冷却風CWをコンデンサ40に導くためのエアガイド部材を無くして低コスト化を図ることもできる。
【0055】
また、実施形態に係る車両前部構造は、リブ部32の車幅方向(X方向)視においてリブ部32の上下方向(Z方向)の縁32bが後方側に延びる方向がリブ部32の前後方向(Y方向)長さL1の中央Hpよりも前方寄りの位置Cpで変化していることにより、リブ部32が前後方向長さL1の中央Hpで横折れを起こし易くすることができる。
【0056】
また、実施形態に係る車両前部構造は、基部31が前後方向(Y方向)に沿った断面において後方に向かって上方側に傾斜した直線方向に延びる上壁34と、各空間33の後方を閉塞しかつ車幅方向(X方向)に隣り合うリブ部32同士を繋ぐように上壁34に連なる後壁35とを有し、基部31の先端36が上壁34の前方側の端に位置しており、複数のリブ部32のそれぞれが当該リブ部32の前方側の端32aから後方に向かう程に上壁34から下方に長く延びていることにより、リブ部32の前後方向長さの中程で下部側から横折れし易くすることができる。
【0057】
また、実施形態に係る車両前部構造は、リブ部32の車幅方向(X方向)長さL2がリブ部32の前後方向長さL1の1/10以上かつ1/3以下に設けられていることにより、リブ部32で衝突時の荷重を受けることが可能でありながら、リブ部32の成形が困難にならないようにリブ部32を横折れしやすくすることができる。
【0058】
また、実施形態に係る車両前部構造は、複数のリブ部32の車幅方向(X方向)の配置ピッチPが100mm以上かつ200mm以下に設けられていることにより、子供であれ、大人であれ、脚部Wの衝突時の荷重がリブ部32に対して斜め方向に入力され易くなり、ひいては、リブ部32を横折れし易くすると共に、横折れしたリブ部32と隣のリブ部32の干渉を防止することができる。
【0059】
このように、実施形態に係る車両前部構造は、緩衝部材30のつぶれ残りを減らし、外装部材20の開口22からの冷却風CWの流れを邪魔しない緩衝部材30にエアガイド部材の機能を持たせて低コスト化を図り、しかも緩衝部材30を見えにくくして車両100の前部の意匠性を損なわないようにすることができる。
【0060】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
10 骨格部材
20 外装部材
22 開口
30 緩衝部材
31 基部
32 リブ部
32a 前方側の端
32b 縁
33 空間
34 上壁
35 後壁
36 基部の先端
37 前方端面
38 上面
40 コンデンサ
100 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8