(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182012
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】変位測定システム及び変位測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 7/00 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
G01B7/00 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089289
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000201869
【氏名又は名称】倉敷化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】守安 信夫
(72)【発明者】
【氏名】橋本 亘平
(72)【発明者】
【氏名】笹舘 敦弥
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩毅
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA02
2F063BB03
2F063BD15
2F063CA08
2F063DA12
2F063DA21
2F063DC08
2F063DD03
2F063GA52
(57)【要約】
【課題】ホール素子と磁石を用いた変位測定システムにて、変位の測定誤差を低減する。
【解決手段】変位測定システム1は、外側部材10に対する内側部材20の所定方向Xにおける基準位置からの変位xを測定する。外側部材は、所定方向に対向配置される第1対向部11及び第2対向部12を有する。内側部材は、第1対向部と第2対向部との間に配置される。第1測定部2は、第1対向部における内側部材側の内面に固定される第1ホール素子30と、内側部材における第1対向部側の外面に固定される第1磁石40とを有し、第1ホール素子が第1磁石の磁束密度を検出することで、第1距離d1を測定する。第2測定部3は、第2対向部における内側部材側の内面に固定される第2ホール素子31と、内側部材における第2対向部側の外面に固定される第2磁石41とを有し、第2ホール素子が第2磁石の磁束密度を検出することで、第2距離d2を測定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側部材に対する内側部材の、所定方向における基準位置からの変位を測定する変位測定システムであって、
前記外側部材は、前記所定方向に対向配置される第1対向部及び第2対向部を有し、
前記内側部材は、前記第1対向部と前記第2対向部との間に配置され、
前記第1対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第1対向部側の部分の一方に設けられる第1ホール素子と、前記第1ホール素子に対向するように前記第1対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第1対向部側の部分の他方に設けられる第1磁石とを有し、前記第1ホール素子が前記第1磁石の磁束密度を検出することで、前記第1ホール素子と前記第1磁石との第1距離を測定する第1測定部と、
前記第2対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第2対向部側の部分の一方に設けられる第2ホール素子と、前記第2ホール素子に対向するように前記第2対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第2対向部側の部分の他方に設けられる第2磁石とを有し、前記第2ホール素子が前記第2磁石の磁束密度を検出することで、前記第2ホール素子と前記第2磁石との第2距離を測定する第2測定部と、を備える、変位測定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の変位測定システムにおいて、
前記第1測定部により測定された第1距離と前記第2測定部により測定された第2距離とに基づいて、前記変位を算出する算出部を、さらに備える、変位測定システム。
【請求項3】
請求項2に記載の変位測定システムにおいて、
前記変位をx、前記第1距離から前記基準位置における前記第1距離の初期値を引いた第1変位をx1、前記第2距離から前記基準位置における前記第2距離の初期値を引いた第2変位をx2とすると、
前記算出部は、以下の式で前記変位を算出する、変位測定システム。
x=(x1-x2)/2
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の変位測定システムにおいて、
前記第1ホール素子と前記第1磁石との第1対向方向と、前記第2ホール素子と前記第2磁石との第2対向方向とは、互いに平行である、変位測定システム。
【請求項5】
請求項4に記載の変位測定システムにおいて、
前記第1対向方向及び前記第2対向方向は、前記所定方向に一致している、変位測定システム。
【請求項6】
請求項5に記載の変位測定システムにおいて、
前記第1ホール素子、前記第1磁石、前記第2ホール素子及び前記第2磁石は、前記所定方向に延びる同一直線上に配置される、変位測定システム。
【請求項7】
外側部材に対する内側部材の、所定方向における基準位置からの変位を測定する変位測定方法であって、
前記外側部材は、前記所定方向に対向配置される第1対向部及び第2対向部を有し、
前記内側部材を、前記第1対向部と前記第2対向部との間に配置し、
前記第1対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第1対向部側の部分の一方に設けられる第1ホール素子と、
前記第1ホール素子に対向するように前記第1対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第1対向部側の部分の他方に設けられる第1磁石と、
前記第2対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第2対向部側の部分の一方に設けられる第2ホール素子と、
前記第2ホール素子に対向するように前記第2対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第2対向部側の部分の他方に設けられる第2磁石と、を設け、
前記第1ホール素子が前記第1磁石の磁束密度を検出することで、前記第1ホール素子と前記第1磁石との第1距離を測定する第1測定ステップと、
前記第2ホール素子が前記第2磁石の磁束密度を検出することで、前記第2ホール素子と前記第2磁石との第2距離を測定する第2測定ステップと、
前記第1測定ステップにより測定された前記第1距離と前記第2測定ステップにより測定された前記第2距離とに基づいて、前記変位を算出する算出ステップと、を含む、変位測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位測定システム及び変位測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホール素子及び磁石を用いた変位測定システムが知られている。例えば、特許文献1に係るサスペンション用防振ゴム変位測定装置は、サスペンションブッシュにおける内筒の外周部に磁石を配置し、その磁石に相対する外筒の内周部にホール素子を配置する。内筒と外筒との間には、ゴム弾性体が介在している。ゴム弾性体に変形が生じた場合、磁石とホール素子との間の距離が変化し、ホール素子が磁束密度の変化を電気量に変換して出力を行う。これにより、サスペンションブッシュの変位を迅速、容易に且つ効率よく出力することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る変位測定装置では、防振ゴムは所定方向(ブッシュの軸直角方向)に変位しており、ホール素子及び磁石によって、所定方向における変位が測定される。ここで、防振ゴムは、所定方向だけでなく、所定方向に直交する方向(ブッシュの軸方向)にも変位することがある。この場合、所定方向における変位の測定値に誤差が生じる。
【0005】
すなわち、ホール素子は、ホール素子と磁石との距離を測定している。このため、所定方向に直交する方向への変位量も、所定方向への変位量に、誤差として含まれてしまう。このような誤差は、周囲温度の変化や電磁ノイズ等によっても生じ得る。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ホール素子及び磁石を用いた変位測定システムにおいて、変位の測定誤差を低減して測定精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る変位測定システムは、外側部材に対する内側部材の、所定方向における基準位置からの変位を測定する変位測定システムであって、前記外側部材は、前記所定方向に対向配置される第1対向部及び第2対向部を有し、前記内側部材は、前記第1対向部と前記第2対向部との間に配置され、前記第1対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第1対向部側の部分の一方に設けられる第1ホール素子と、前記第1ホール素子に対向するように前記第1対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第1対向部側の部分の他方に設けられる第1磁石とを有し、前記第1ホール素子が前記第1磁石の磁束密度を検出することで、前記第1ホール素子と前記第1磁石との第1距離を測定する第1測定部と、前記第2対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第2対向部側の部分の一方に設けられる第2ホール素子と、前記第2ホール素子に対向するように前記第2対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第2対向部側の部分の他方に設けられる第2磁石とを有し、前記第2ホール素子が前記第2磁石の磁束密度を検出することで、前記第2ホール素子と前記第2磁石との第2距離を測定する第2測定部と、を備える。
【0008】
かかる構成によれば、第1測定部(第1ホール素子及び第1磁石のペア)と、第2測定部(第2ホール素子及び第2磁石のペア)とは、所定方向において、内側部材を挟んで互いに反対側に配置される。このため、内側部材が外側部材に対して所定方向に変位すると、第1距離及び第2距離は、互いに逆位相(正負が逆)に変動する。
【0009】
ここで、内側部材は、外側部材に対して、所定方向だけでなく、所定方向に直交する方向にも、変位することがある。この場合、第1距離及び第2距離は、所定方向に直交する方向への変位の影響をも受けて、互いに同位相(正負が同じ)に測定誤差が生じる。なお、このような同位相の測定誤差は、周囲温度の変化や電磁ノイズ等によっても生じ得る。
【0010】
ここで、第1距離から基準位置における第1距離の初期値を引いた値を第1変位とし、第2距離から基準位置における第2距離の初期値を引いた値を第2変位とする。
【0011】
測定誤差は、第1変位と第2変位とで互いに同位相に現われるので、第1変位から第2変位を差し引くことによって、相殺される。一方、所定方向における変位は、第1変位と第2変位とで互いに逆位相に現われるので、第1変位から第2変位を差し引いても相殺されず、当該差し引いた値を一定の値(例えば2)で割ることによって得られる。
【0012】
以上の通り、ホール素子及び磁石を用いた変位測定システムにおいて、変位の測定誤差を低減して測定精度を向上させることができる。
【0013】
一実施形態では、前記第1測定部により測定された第1距離と前記第2測定部により測定された第2距離とに基づいて、前記変位を算出する算出部を、さらに備える。
【0014】
かかる構成によれば、ユーザが手計算しなくても、算出部によって、自動的に変位を算出することができる。
【0015】
一実施形態では、前記変位をx、前記第1距離から前記基準位置における前記第1距離の初期値を引いた第1変位をx1、前記第2距離から前記基準位置における前記第2距離の初期値を引いた第2変位をx2とすると、前記算出部は、以下の式で前記変位を算出する。x=(x1-x2)/2。
【0016】
かかる構成によれば、簡単な計算式によって、変位を算出することができる。
【0017】
一実施形態では、前記第1ホール素子と前記第1磁石との第1対向方向と、前記第2ホール素子と前記第2磁石との第2対向方向とは、互いに平行である。
【0018】
かかる構成によれば、所定方向への変位に起因する(すなわち測定誤差を含まない)、第1変位及び第2変位の絶対値は、互いに同じになる。これにより、第1変位から第2変位を差し引く際に、第1変位及び第2変位に対して互いに異なる補正係数を掛ける等の必要がないので、変位の計算が簡単になる。
【0019】
一実施形態では、前記第1対向方向及び前記第2対向方向は、前記所定方向に一致している。
【0020】
かかる構成によれば、第1変位及び第2変位を、所定方向に対応するように角度変換する必要がなく、変位の計算がより簡単になる。
【0021】
一実施形態では、前記第1ホール素子、前記第1磁石、前記第2ホール素子及び前記第2磁石は、前記所定方向に延びる同一直線上に配置される。
【0022】
かかる構成によれば、内側部材が外側部材に対して回転したり傾いたりした場合等であっても、変位の測定精度を維持する上で有利である。
【0023】
本発明に係る変位測定方法は、外側部材に対する内側部材の、所定方向における基準位置からの変位を測定する変位測定方法であって、前記外側部材は、前記所定方向に対向配置される第1対向部及び第2対向部を有し、前記内側部材を、前記第1対向部と前記第2対向部との間に配置し、前記第1対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第1対向部側の部分の一方に設けられる第1ホール素子と、前記第1ホール素子に対向するように前記第1対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第1対向部側の部分の他方に設けられる第1磁石と、前記第2対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第2対向部側の部分の一方に設けられる第2ホール素子と、前記第2ホール素子に対向するように前記第2対向部における前記内側部材側の部分、及び、前記内側部材における前記第2対向部側の部分の他方に設けられる第2磁石と、を設け、前記第1ホール素子が前記第1磁石の磁束密度を検出することで、前記第1ホール素子と前記第1磁石との第1距離を測定する第1測定ステップと、前記第2ホール素子が前記第2磁石の磁束密度を検出することで、前記第2ホール素子と前記第2磁石との第2距離を測定する第2測定ステップと、前記第1測定ステップにより測定された第1距離と前記第2測定ステップにより測定された第2距離とに基づいて、前記変位を算出する算出ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ホール素子及び磁石を用いた変位測定システムにおいて、変位の測定誤差を低減して測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、変位測定システムを模式的に示す正面図である。
【
図2】
図2は、測定部における出力電圧と距離との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、変位測定システムによる変位測定方法を示す正面図である。
【
図4】
図4は、変位測定システムを防振部材に適用した場合の第1の態様を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、変位測定システムを防振部材に適用した場合の第2の態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0027】
(変位測定システムの基本構成)
図1は、変位測定システム1を示す。変位測定システム1は、外側部材10に対する内側部材20の、所定方向Xにおける基準位置からの変位x(
図3参照)を測定する。外側部材10は、固定部材であり、図示しない基礎に固定されている。外側部材10は、正面視で略コ字状に形成されており、所定方向Xに間隔を空けて対向配置されるとともに同方向に延びる第1対向部11及び第2対向部12と、各対向部11,12の長手方向端部同士を互いに接続する接続部13と、を有する。所定方向Xにおける第1対向部11側を、所定方向X一方側という。所定方向Xにおける第2対向部12側を、所定方向X他方側という。
【0028】
内側部材20は、略直方体状のブロックで形成されている。内側部材20は、第1対向部11と第2対向部12との間に、配置される。内側部材20は、可動部材であり、外側部材10に対して、所定方向Xに変位可能である。
図1において、内側部材20は、外側部材10に対して、所定方向Xにおける基準位置に位置付けられている(変位ゼロ)。
【0029】
変位測定システム1は、第1測定部2と、第2測定部3と、算出部6と、を備える。第1測定部2は、第1対向部11における内側部材20側の内面(部分)に固定される第1ホール素子30と、内側部材20における第1対向部11側の外面(部分)に固定される第1磁石40とを、有する。第1ホール素子30と第1磁石40とは、互いに対向する。
【0030】
第2測定部3は、第2対向部12における内側部材20側の内面(部分)に固定される第2ホール素子31と、内側部材20における第2対向部12側の外面(部分)に固定される第2磁石41とを、有する。第2ホール素子31と第2磁石41とは、互いに対向する。
【0031】
第1測定部2は、第1ホール素子30が第1磁石40の磁束密度を検出することで、第1ホール素子30と第1磁石40との第1距離d1を測定する。第2測定部3は、第2ホール素子31が第2磁石41の磁束密度を検出することで、第2ホール素子31と第2磁石41との第2距離d2を測定する。
【0032】
図2は、ホール素子30,31の出力電圧[V]と距離d1,d2[mm]との関係を示すグラフである。ホール素子30,31は、磁束密度を電気量に変換して出力する。ホール素子30,31は、コンピュータで構成された算出部6に接続されている。
図2に示すように、距離d1,d2は、ホール素子30,31の出力電圧の関数である。
図2に示す関数(グラフ)は、実験又は数値シミュレーションによって、例えば多項式の形で、あるいはマップとして、予め用意されている。
【0033】
ホール素子30,31の出力電圧を、
図2に示す関数(グラフ)に当てはめることによって、距離d1,d2が得られる。ここで、内側部材20が外側部材10に対して所定方向Xにおける基準位置に位置するときの、第1距離d1及び第2距離d2の値を、初期値とする。本実施形態では、
図1に示すように、第1距離d1及び第2距離d2の初期値は、同じ値d0である。
【0034】
第1測定部2(第1ホール素子30及び第1磁石40)と第2測定部3(第2ホール素子31及び第2磁石41)とは、所定方向Xにおいて、内側部材20を挟んで互いに反対側に、配置される。詳細には、第1測定部2と第2測定部3とは、所定方向Xにおいて、内側部材20を挟んで互いに正反対側(180°反対側)に、配置される。
【0035】
第1ホール素子30と第1磁石40との第1対向方向S1と、第2ホール素子31と第2磁石41との第2対向方向S2とは、互いに平行である。第1対向方向S1及び第2対向方向S2は、所定方向Xに一致している。第1ホール素子30、第1磁石40、第2ホール素子31及び第2磁石41は、所定方向Xに延びる同一直線上に配置される。
【0036】
(変位測定方法)
図3は、変位測定システム1による変位測定方法を示す。上述したように、第1測定部2(第1ホール素子30及び第1磁石40のペア)と、第2測定部3(第2ホール素子31及び第2磁石41のペア)とは、所定方向Xにおいて、内側部材20を挟んで互いに正反対側(180°反対側)に配置される。このため、内側部材20が外側部材10に対して所定方向Xに変位すると、第1距離d1及び第2距離d2は、互いに逆位相(正負が逆)且つ同じ絶対値で変動する。
【0037】
図3において、内側部材20は、外側部材10に対して、基準位置から所定方向X他方側(第2対向部12側)に、xだけ変位している。すなわち、後述する測定誤差eの影響がなければ、第1距離d1はd0+x、第2距離d2はd0-xとなる。
【0038】
ここで、内側部材20は、外側部材10に対して、所定方向Xだけでなく、所定方向Xに直交する方向(以下、「直交方向Y」という)にも、変位することがある。なお、直交方向Yとして
図3における左右方向を例示しているが、直交方向Yとして
図3における紙面垂直方向を含んでもよい。すなわち、直交方向Yは、所定方向Xに直交する全ての方向を含んでもよい。この場合、第1距離d1及び第2距離d2は、直交方向Yへの変位の影響をも受けて、互いに同位相(正負が同じ)且つ同じ絶対値で測定誤差eが生じる。
【0039】
測定誤差eの影響を考慮すると、第1距離d1はd0+x+e、第2距離d2はd0-x+eとなる。ここで、第1距離d1から基準位置における第1距離d1の初期値d0を引いた値を第1変位x1とし、第2距離d2から基準位置における第2距離d2の初期値d0を引いた値を第2変位x2とする。すなわち、第1変位x1はx+eであり、第2変位x2は-x+eである。
【0040】
測定誤差eは、第1変位x1と第2変位x2とで互いに同位相且つ同じ絶対値で現われるので、第1変位x1から第2変位x2を差し引くことによって、相殺されて、ゼロになる。一方、所定方向Xにおける変位xは、第1変位x1と第2変位x2とで互いに逆位相且つ同じ絶対値で現われるので、第1変位x1から第2変位x2を差し引いても相殺されず、当該差し引いた値を2で割ることによって得られる。数式で表すと、x=(x1-x2)/2となる(x1=x+e,x2=-x+e)。
【0041】
上述の計算は、算出部6によって行われる。すなわち、算出部6は、第1測定部2により測定された第1距離d1と第2測定部3により測定された第2距離d2とに基づいて、詳細には第1距離d1から初期値d0を引いた第1変位x1と第2距離d2から初期値d0を引いた第2変位x2とに基づいて、式x=(x1-x2)/2で、変位xを算出する。
【0042】
このように、変位測定システム1は、第1測定部2により測定された第1距離d1と第2測定部3により測定された第2距離d2とに基づいて、変位xを算出可能である。
【0043】
(防振部材への適用)
図4~
図7は変位測定システム1を防振部材50に適用した場合を示し、
図4,5は第1の態様、
図6,7は第2の態様を示す。
図4,6において、H1は水平方向のうちの左右方向、H2は水平方向のうちの前後方向、Vは水平方向に直交する鉛直方向である。
【0044】
図4,6に示すように、防振部材50は、基礎4に対して被支持体5を弾性支持する。防振部材50は、基礎4に載置されたロアプレート51と、ロアプレート51の鉛直方向上側に配置されたアッパープレート52と、ロアプレート51とアッパープレート52との間に介在する4つのゴム弾性体53と、を備える。
【0045】
ロアプレート51及びアッパープレート52は、略正方形板状であり、鉛直方向に互いに対向して、水平方向に延びている。アッパープレート52の上には、被支持体5が載置されている。ゴム弾性体53は、ロアプレート51とアッパープレート52との間の四隅に配置されている。ゴム弾性体53は、ロアプレート51及びアッパープレート52を介して、被支持体5を基礎4に対して弾性支持する。被支持体5(アッパープレート52)は、ゴム弾性体53の弾性変形によって、基礎4(ロアプレート51)に対して、鉛直方向及び水平方向に変位可能である。
【0046】
図4,6に示すように、防振部材50には、変位測定システム1が適用される。変位測定システム1の外側部材10は、ブラケット54を介して基礎4に固定されている。
図4に示すように、第1の態様では、外側部材10における第1対向部11及び第2対向部12は、鉛直方向に対向配置される。
図6に示すように、第2の態様では、外側部材10における第1対向部11及び第2対向部12は、左右方向に対向配置される。
【0047】
図5,7に示すように、第1対向部11の内面には、第1ホール素子30が固定されている。第2対向部12の内面には、第2ホール素子31が固定されている。
【0048】
変位測定システム1の内側部材20は、被支持体5側のアッパープレート52に固定されている。内側部材20は、第1対向部11と第2対向部12との間に、配置されている。 第1の態様では、内側部材20の4つの外側面のうち鉛直方向下側の外側面には、第1磁石40が固定されている。内側部材20の4つの外側面のうち鉛直方向上側の外側面には、第2磁石41が固定されている。
【0049】
第2の態様では、内側部材20の4つの外側面のうち左右方向一方側の外側面には、第1磁石40が固定されている。内側部材20の4つの外側面のうち左右方向他方側の外側面には、第2磁石41が固定されている。
【0050】
図5に示すように、第1の態様は、鉛直方向の変位を測定する装置であり、所定方向Xが鉛直方向に一致し、直交方向Yが前後方向に一致する。なお、第1の態様において、直交方向Yとして左右方向を含んでもよい。
図7に示すように、第2の態様は、水平方向のうちの左右方向の変位を測定する装置であり、所定方向Xが左右方向に一致し、直交方向Yが前後方向に一致する。なお、第2の態様において、直交方向Yとして鉛直方向を含んでもよい。
【0051】
図示しないが、変位測定システム1を防振部材50に適用した場合において、水平方向のうちの前後方向の変位を測定する態様を含んでもよい。この場合、所定方向Xが前後方向に一致し、直交方向Yが左右方向に一致する。なお、当該態様において、直交方向Yとして鉛直方向を含んでもよい。
【0052】
(作用効果)
ホール素子30,31及び磁石40,41を用いた変位測定システム1において、所定方向Xにおける変位xの測定誤差eを低減して測定精度を向上させることができる。
【0053】
ユーザが手計算しなくても、算出部6によって、自動的に変位xを算出することができる。
【0054】
上述の簡単な計算式によって、変位xを算出することができる。
【0055】
第1対向方向S1と第2対向方向S2とが互いに平行なので、所定方向Xへの変位xに起因する(すなわち測定誤差eを含まない)、第1変位x1及び第2変位x2の絶対値は、互いに同じになる(x,-x)。これにより、第1変位x1から第2変位x2を差し引く際に、第1変位x1及び第2変位x2に対して互いに異なる補正係数を掛ける等の必要がないので、変位xの計算が簡単になる。
【0056】
第1対向方向S1及び第2対向方向S2が所定方向Xに一致しているので、第1変位x1及び第2変位x2を、所定方向Xに対応するように角度変換する必要がなく、変位xの計算がより簡単になる。
【0057】
第1ホール素子30、第1磁石40、第2ホール素子31及び第2磁石41が、所定方向Xに延びる同一直線上に配置されるので、内側部材20が外側部材10に対して回転したり傾いたりした場合等であっても、変位xの測定精度を維持する上で有利である。
【0058】
変位測定システム1を、ゴム弾性体53を有する防振部材50に適用することによって、ゴム弾性体53の状態(例えば永久ひずみ)をより正確に監視することができる。また、振動状態を時刻歴データあるいは周波数分析により把握でき、防振部材の異常検知や、最適な防振部材の選定、設計に有効である。
【0059】
ホール素子30,31及び磁石40,41を用いた変位測定システム1は、光学式(レーザ式)変位センサや渦電流式変位センサを用いた変位測定システムに比較して、小型・軽量且つ安価という利点がある。変位測定システム1を軽量化することによって、変位測定システム1自体の質量増加による振動測定精度への悪影響を、抑制することができる。また、変位測定システム1を小型化することによって、狭いスペースに変位測定システム1を配置する上で有利になる。
【0060】
(その他の実施形態)
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0061】
外側部材10(第1対向部11及び第2対向部12)に磁石(第1磁石40、第2磁石41)を設けるとともに、内側部材20にホール素子(第1ホール素子30、第2ホール素子31)を設けてもよい。
【0062】
すなわち、第1測定部2が、第1対向部11における内側部材20側の内面(部分)に設けられる第1磁石40と、内側部材20における第1対向部11側の外面(部分)に設けられる第1ホール素子30とを、有するとともに、第2測定部3が、第2対向部12における内側部材20側の内面(部分)に設けられる第2磁石41と、内側部材20における第2対向部12側の外面(部分)に設けられる第2ホール素子31とを、有してもよい。なお、ホール素子30,31は、周囲の鉄やアルミ等の磁性体や導体から極力遠ざけられる方がよい。
【0063】
また、ホール素子30,31及び磁石40,41の配置構成(ホール素子30,31及び磁石40,41が外側部材10及び内側部材20のうちのどちらに設けられるか)が、第1測定部2と第2測定部3とで、互いに逆になってもよい。例えば、第1対向部11における内側部材20側の内面(部分)に第1磁石40が設けられ、内側部材20における第1対向部11側の外面(部分)に第1ホール素子30が設けられ、第2対向部12における内側部材20側の内面(部分)に第2ホール素子31が設けられ、内側部材20における第2対向部12側の外面(部分)に第2磁石41が設けられてもよい。
【0064】
なお、
図1,3に示すように、ホール素子30,31及び磁石40,41の配置構成が、第1測定部2と第2測定部3とで互いに同じ方が好ましい。
【0065】
第1ホール素子30、第1磁石40、第2ホール素子31及び第2磁石41は、所定方向Xに延びる同一直線上に配置されるのではなく、直交方向Y(
図1における左右方向)において互いにずれて配置されてもよい。
【0066】
第1対向方向S1及び第2対向方向S2は、所定方向Xに一致するのではなく、所定方向Xに対して斜め方向に延びてもよい。なお、この場合、第1変位x1及び第2変位x2を、所定方向Xに対応するように、角度変換する必要がある。
【0067】
第1対向方向S1と第2対向方向S2とは、互いに平行でなくてもよい。換言すると、第1測定部2(第1ホール素子30及び第1磁石40)と第2測定部3(第2ホール素子31及び第2磁石41)とは、所定方向Xにおいて、内側部材20を挟んで互いに正反対側(180°反対側)に、配置される必要はなく、180°から多少ずれてもよい。すなわち、測定誤差eが第1変位x1と第2変位x2とで互いに同位相に生じるとともに、所定方向Xへの変位xによって第1変位x1と第2変位x2とが互いに逆位相に変動するように、第1対向方向S1と第2対向方向S2とが設定されればよい。
【0068】
なお、この場合、第1変位x1から第2変位x2を差し引く際に、第1変位x1及び第2変位x2に対して、互いに異なる補正係数等を掛ける必要が生じ得る。例えば、x=(ax1-bx2)/2となる(a,bは補正係数)。
【0069】
変位測定システム1の外側部材10は、ブラケット54を介して基礎4に固定されるのではなく、例えば、基礎4側のロアプレート51に固定されてもよい。
【0070】
変位測定システム1の内側部材20が防振部材50における基礎4側に含まれるとともに、外側部材10が防振部材50における被支持体5側に含まれてもよい。すなわち、外側部材10が可動部材であるとともに、内側部材20が固定部材であってもよい。外側部材10の移動によって、外側部材10に対して内側部材20が相対的に移動すればよい。
【0071】
防振部材50は、弾性体として、ゴム弾性体53ではなく、例えば、コイルばねや空気ばね等を備えてもよい。
【0072】
同位相の測定誤差eは、直交方向Yへの変位だけでなく、周囲温度の変化や電磁ノイズ等によっても生じ得る。
【0073】
第1磁石40と第2磁石41とは、互いに別個の部材で形成される必要はなく、例えば、1つの部材で構成されてもよい。この場合、当該1つの部材(磁石)は、第1磁石40の機能と、第2磁石41の機能と、を含む。
【0074】
第1距離d1の初期値と第2距離d2の初期値とは、互いに異なってもよい。
【0075】
変位測定システム1は、防振ブッシュ(図示せず)に適用されてもよい。防振ブッシュは、内筒(内側部材)と外筒(外側部材)との間にゴム弾性体が介在している。例えば、外筒の内周面には、第1ホール素子30及び第2ホール素子31が、内筒を径方向両側から挟むように、設けられる。内筒の外周面には、第1磁石40及び第2磁石41が、第1ホール素子30及び第2ホール素子31に対向するように、設けられる。なお、外筒の内周面に磁石40,41が設けられるとともに、内筒の外周面にホール素子30,31が設けられてもよい。また、磁石及びホール素子のうちの一方又は両方が、ゴム弾性体の中に設置されてもよい。
【0076】
本発明に係る変位測定方法は、外側部材10に対する内側部材20の、所定方向Xにおける基準位置からの変位xを測定する変位測定方法であって、外側部材10は、所定方向Xに対向配置される第1対向部11及び第2対向部12を有し、内側部材20を、第1対向部11と第2対向部12との間に配置し、第1対向部11における内側部材20側の部分、及び、内側部材20における第1対向部11側の部分の一方に設けられる第1ホール素子30と、第1ホール素子30に対向するように第1対向部11における内側部材20側の部分、及び、内側部材20における第1対向部11側の部分の他方に設けられる第1磁石40と、第2対向部12における内側部材20側の部分、及び、内側部材20における第2対向部12側の部分の一方に設けられる第2ホール素子31と、第2ホール素子31に対向するように第2対向部12における内側部材20側の部分、及び、内側部材20における第2対向部12側の部分の他方に設けられる第2磁石41と、を設け、第1ホール素子30が第1磁石40の磁束密度を検出することで、第1ホール素子30と第1磁石40との第1距離d1を測定する第1測定ステップと、第2ホール素子31が第2磁石41の磁束密度を検出することで、第2ホール素子31と第2磁石41との第2距離d2を測定する第2測定ステップと、第1測定ステップにより測定された第1距離d1と第2測定ステップにより測定された第2距離d2とに基づいて、変位xを算出する算出ステップと、を含む。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、変位測定システムに適用できるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0078】
X 所定方向
Y 直交方向
x 変位
e 測定誤差
d1 第1距離
d2 第2距離
x1 第1変位
x2 第2変位
S1 第1対向方向
S2 第2対向方向
1 変位測定システム
2 第1測定部
3 第2測定部
6 算出部
10 外側部材
11 第1対向部
12 第2対向部
20 内側部材
30 第1ホール素子
31 第2ホール素子
40 第1磁石
41 第2磁石