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特開2022-182015車両の故障診断装置及び故障診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182015
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】車両の故障診断装置及び故障診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20221201BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G01M17/007 K
B60R16/02 650J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089294
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】愛宕 良則
(57)【要約】
【課題】複数あるECUのいずれかにより故障が検出された場合に、各ECUでログデータの時間が一致するデータを記録することができる車両の故障診断装置及び故障診断方法を提供する。
【解決手段】複数のECU5と、これらのECU5とデータを送受信するIVC2とを備え、それぞれのECU5は、故障を検出した場合に、他のECU5に対して、各自のログデータを記録する旨のデータ記録指示信号を送信し、データ記録指示信号を受信した他のECU5は、故障が検出された時の各自のログデータを記録し、IVC2は、データ記録指示信号を受信した他のECU5に対して、当該ECU5が記録した各自のログデータを出力する旨のデータ読み出し指示信号を送信し、データ読み出し指示信号を受信したECU5は、各自のログデータをIVC2へ送信する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車載電子制御ユニットと、これらの車載電子制御ユニットとデータを送受信する車載通信制御ユニットとを備え、車両の故障診断を実行する車両の故障診断装置において、
それぞれの前記車載電子制御ユニットは、故障を検出した場合に、他の車載電子制御ユニットに対して、各自のログデータを記録する旨のデータ記録指示信号を送信し、
前記データ記録指示信号を受信した他の車載電子制御ユニットは、前記故障が検出された時の各自のログデータを記録し、
前記車載通信制御ユニットは、前記データ記録指示信号を受信した他の車載電子制御ユニットに対して、当該車載電子制御ユニットが記録した前記各自のログデータを出力する旨のデータ読み出し指示信号を送信し、
前記データ読み出し指示信号を受信した車載電子制御ユニットは、前記各自のログデータを前記車載通信制御ユニットへ送信する車両の故障診断装置。
【請求項2】
前記データ記録指示信号は、前記故障が検出された時の時刻情報を含み、
前記データ記録指示信号を受信した他の車載電子制御ユニットは、前記故障が検出された時刻の前後のログデータを記録する請求項1に記載の車両の故障診断装置。
【請求項3】
前記複数の車載電子制御ユニットは、それぞれが統括電子制御ユニットを含む複数の群に分類され、
前記統括電子制御ユニットは、各自の群において、前記データ記録指示信号を受信した他の車載電子制御ユニットが記録した、前記各自のログデータを所定の形式に揃えて前記車載通信制御ユニットに送信する請求項1又は2に記載の車両の故障診断装置。
【請求項4】
車両の故障診断を実行する故障診断モードは、第1故障診断モードと第2故障診断モードを含み、
前記第1故障診断モードでは、前記故障を検出した車載電子制御ユニットを含む全ての車載電子制御ユニットが前記各自のログデータを記録し、記録された前記各自のログデータを前記車載通信制御ユニットへ送信し、
前記第2故障診断モードでは、前記故障を検出した車載電子制御ユニットを含む特定の車載電子制御ユニットが前記各自のログデータを記録し、記録された前記各自のログデータを前記車載通信制御ユニットへ送信する請求項1~3のいずれか一項に記載の車両の故障診断装置。
【請求項5】
前記第2故障診断モードにおいて、故障以外の所定のイベントを検出した場合には、
前記所定のイベントを検出した車載電子制御ユニットは、前記車載通信制御ユニットに対して、前記所定のイベントが発生した時の各自のログデータを出力する旨のデータ読み出し指示信号を要求し、
前記データ読み出し指示信号を受信した前記所定のイベントを検出した車載電子制御ユニットを含む特定の車載電子制御ユニットは、前記所定のイベントが検出された時の各自のログデータを前記車載通信制御ユニットに送信する請求項4に記載の車両の故障診断装置。
【請求項6】
前記第1故障診断モードにおいて記録されたログデータから作成されるデータフレームのデータ量は、前記第2故障診断モードにおいて記録されたログデータから作成されるデータフレームのデータ量より少ない請求項4又は5に記載の故障診断装置。
【請求項7】
前記車載電子制御ユニットは、前記第1故障診断モードで作成されるデータフレームのうち、一部のデータフレームの上書きを許可する請求項4~6のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項8】
前記車載電子制御ユニットは、前記第1故障診断モードで作成されるデータフレームのうち、前記故障が検出された時のログデータを記録する部分の上書きを禁止する請求項7に記載の故障診断装置。
【請求項9】
前記車載電子制御ユニットは、前記第2故障診断モードで作成される全てのデータフレームの上書きを許可する請求項4~8のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項10】
複数の車載電子制御ユニットと、これらの車載電子制御ユニットとデータを送受信する車載通信制御ユニットとを備える車両に対し、故障診断を実行する車両の故障診断方法において、
それぞれの前記車載電子制御ユニットは、故障を検出した場合に、他の車載電子制御ユニットに対して、各自のログデータを記録する旨のデータ記録指示信号を送信し、
前記データ記録指示信号を受信した他の車載電子制御ユニットは、前記故障が検出された時の各自のログデータを記録し、
前記車載通信制御ユニットは、前記データ記録指示信号を受信した他の車載電子制御ユニットに対して、当該車載電子制御ユニットが記録した前記各自のログデータを出力する旨のデータ読み出し指示信号を送信し、
前記データ読み出し指示信号を受信した車載電子制御ユニットは、前記各自のログデータを前記車載通信制御ユニットへ送信する車両の故障診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の故障診断装置及び故障診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
故障を検出した車両から故障コードが送信されると、これを受信した遠隔故障診断サーバが故障診断プログラムを車両に送信し、当該故障診断プログラムに基づいて行われた車両の検査結果から故障内容を解析する車両の遠隔故障診断方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-228553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の故障診断方法では、車両に搭載された複数のECU(Electronic Control Unit)のいずれかにより故障が検出され、故障検出時の車両の作動状態のデータを外部の故障診断装置に転送する場合に、各ECUで記録されたログデータの時間が一致しないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、複数あるECUのいずれかにより故障が検出された場合に、各ECUでログデータの時間が一致するデータを記録することができる車両の故障診断装置及び故障診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の車載電子制御ユニットと、これらの車載電子制御ユニットとデータを送受信する車載通信制御ユニットとを備え、それぞれの車載電子制御ユニットは、故障を検出した場合に、他の車載電子制御ユニットに対して、各自のログデータを記録する旨のデータ記録指示信号を送信し、データ記録指示信号を受信した他の車載電子制御ユニットは、故障が検出された時の各自のログデータを記録する。車載通信制御ユニットは、データ記録指示信号を受信した他の車載電子制御ユニットに対して、当該車載電子制御ユニットが記録した各自のログデータを出力する旨のデータ読み出し指示信号を送信し、データ読み出し指示信号を受信した車載電子制御ユニットは、各自のログデータを車載通信制御ユニットへ送信することで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数あるECUのいずれかにより故障が検出された場合に、各ECUでログデータの時間が一致するデータを記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る車両の故障診断装置の構成を示すブロック図(その1)である。
図2】本発明の比較例に係る車両の故障診断装置の構成を示すブロック図である。
図3】(A)及び(B)のそれぞれは、図1の故障診断装置で送受信される信号の処理例を説明するための図である。
図4】本発明に係る車両の故障診断装置の構成を示すブロック図(その2)である。
図5図4の故障診断装置で送受信される信号の処理例を説明するための図である。
図6】(A)及び(B)のそれぞれは、図1のECUで記録されるログデータの一例を説明するための図である。
図7図1のECUで記録されたログデータから作成されるデータフレームの処理例を説明するための図である。
図8図1のECUで記録されるログデータの処理例を説明するためのタイムチャートである。
図9図4のECUで記録されたログデータから作成されるデータフレームの処理例を説明するための図である。
図10図4のECUで記録されるログデータの処理例を説明するためのタイムチャートである。
図11図1の故障診断装置にて実行される第1故障診断モードの通信手順の一例を示すシーケンス図である。
図12図4の故障診断装置にて実行される第2故障診断モードの通信手順の一例を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《故障診断装置の構成》
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る車両の故障診断装置1の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態の故障診断装置1は、車両に搭載されている。故障診断装置1は、IVC(Inter-Vehicle Communications)2と、GW(Gateway)3と、複数の統括ECU41~43と、複数のECU51~56と、DLC(Data Link Connector)6と、を備えている。なお、IVC2は本発明の車載通信制御ユニットの一例に相当し、統括ECU41~43は統括電子制御ユニットに相当し、ECU51~56は車載電子制御ユニットに相当する。なお、統括ECU41~43を総称して統括ECU4ともいい、ECU51~56を総称してECU5ともいう。
【0010】
IVC2、GW3、各統括ECU4、各ECU5及びDLC6は、CAN(Controller Area Network)その他の車載LANによって接続され、CANプロトコルのメッセージを伝送可能なCANバス等を用いて互いにデータを送受信することができる。
【0011】
IVC2は、コントローラ及び通信回路を備え、CANバスによりGW3に接続されている。IVC2は、GW3を介して故障診断装置1に備えられた各装置との通信を制御する。図1で示すように、IVC2とECU54とがデータを送受信する場合には、ECU54から送信されるデータは、統括ECU42に受信されたのち、GW3を介してIVC2に受信される。これに対して、IVC2から送信されるデータは、GW3を介して統括ECU42に受信されたのち、ECU54に受信される。このように、IVC2はCANバスで接続された統括ECU4、ECU5及びDLC6などの各装置に対して、GW3を介してデータを送信し、各装置から出力されるデータを受信する。なお、IVC2は、GW3を介して複数の装置と同時にデータを送受信してもよい。
【0012】
また、IVC2は、故障診断装置1に備えられた各装置から出力される様々なデータを受信し、たとえば車両の作動状態を示す情報として外部装置へ送信する。具体的には、IVC2は、統括ECU4及びECU5からデータを受信すると、これらのデータを集約し、インターネットなどの電気通信回線網NWを介して、メーカやカーディーラ等のスキャンツール(故障診断ツール)等の外部機器に送信する。電気通信回線網NWは、インターネット、WAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)、公衆回線、LTE(Long Term Evolution)等の移動体通信網等であり、通信経路は有線であっても無線であってもよい。なお、スキャンツール等の外部機器とデータを送受信する際は、IVC2が電気通信回線網NWを介して直接、外部機器とデータを送受信する構成としてもよく、IVC2からGW3を介してDLC6にデータを送信し、DLC6を制御して外部機器とデータを送受信する構成としてもよい。
【0013】
DLC6は、スキャンツール等の外部機器を、車載LANに通信可能に接続させるコネクタである。DLC6にスキャンツール等のコネクタを接続することで、ECU5が備える故障診断機能OBD(On-Board Diagnostics)により生成された故障コードDTC(Diagnostic Trouble Code)を読み取ることができる。故障診断機能OBD及び故障コードDTCについては後述する。
【0014】
GW3は、コントローラ及び通信回路を備え、CANバスによりIVC2、統括ECU4及びDLC6に接続されている。GW3は、IVC2と統括ECU4又はIVC2とDLC6とのデータの送受信や、統括ECU41,42,43間のデータの送受信を中継する中継装置である。一の装置から送信されたデータは、GW3によりプロトコルの変換等の必要な処理が施され、他の装置に送信される。
【0015】
図1に示すIVC2と統括ECU41の例でいうと、IVC2から送信されたデータは、GW3で統括ECU41に転送するためのデータに変換されたのち、統括ECU41に送信される。これに対して、統括ECU41から送信されたデータは、GW3でIVC2に転送するためのデータに変換されたのち、IVC2に送信される。統括ECU41,42,43間でのデータの送受信も同様に、GW3を介して制御される。なお、GW3は、複数の装置と同時にデータを送受信してもよい。
【0016】
このように、IVC2、統括ECU4及びDLC6のデータが、GW3を介して送受信されることで、異なるCANバスに接続されている装置間であっても、相互にデータを送受信することができる。なお、GW3に受信されるデータと、GW3から送信されるデータは、プロトコルの変換等の処理を行わずに同じデータが転送されるものであってもよい。
【0017】
統括ECU4は、コントローラ及び通信回路を備え、CANバスによりGW3及びECU5に接続されている。統括ECU4は、GW3及びECU5とのデータの送受信や、各統括ECU4に接続された各ECU5間のデータの送受信を制御する。本実施形態では、統括ECU4と、各統括ECU4に接続された各ECU5は、複数の群を構成し、車両の基本構成毎に区分けされた制御グループに分類される。図1において、一つの統括ECU4とこれに接続された二つのECU5から構成される三つの群のみを示すが、本実施形態の車両の故障診断装置1を構成する統括ECU4、ECU5及びこれらから構成される群のそれぞれの数は、特に限定されない。
【0018】
図1に示す例でいうと、統括ECU41と、これに接続されたECU51及びECU52が第1制御グループを構成する。同様に、統括ECU42,ECU53及びECU54は第2制御グループを構成し、統括ECU43,ECU55及びECU56は第3制御グループを構成する。これらの制御グループは、ドメインとも称される。ドメインには、たとえばエンジン等を制御するパワートレインドメイン、ステアリング機構等を制御するシャーシドメイン、パワーウィンドウ等を制御するボディドメイン、自律走行制御を行うADAS(Advanced Driver-Assistance System)ドメイン、車両内での情報提示について制御するマルチメディアドメイン等がある。
【0019】
IVC2から送信されるデータは、GW3及び統括ECU4を介してECU5に受信される。これに対して、ECU5から送信されるデータは、統括ECU4及びGW3を介してIVC2に受信される。また、図1に示す第1制御グループでいうと、ECU51とECU52とがデータを送受信する場合には、同じ第1制御グループを構成する統括ECU41を介してデータの送受信がなされる。なお、統括ECU4は、本発明に必須の構成ではなく、必要に応じて省略されてもよい。この場合には、GW3にECU5が直接、接続される構成としてもよい。
【0020】
ECU5は、コントローラ及び通信回路を備え、CANバスにより統括ECU4に接続されている。通常、一の車両に対して複数のECU5が搭載される。ECU5は、統括ECU4とデータを送受信し、統括ECU4及びGW3を介して、IVC2や他のECU5とデータを送受信する。また、ECU5は、各ECU5に接続された図示しない車載機器を制御する。
【0021】
ECU5に備えられたコントローラは、プログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、このROMに格納されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)等を備える。なお、動作回路としては、CPUに代えて又はこれとともに、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いることができる。ECU5は、コントローラのROMに格納されたプログラムをCPUにより実行することによって、ECU5に接続された各種の車載機器に応じた制御を実現する。
【0022】
上述したように、ECU5は、車両の制御グループ毎に分類されたドメインを構成する。たとえば、パワートレインドメインを構成するECU5は、エンジンやモータなどの車両の駆動源等を制御する。シャーシドメインを構成するECU5は、ステアリング機構などのシャーシ関連の車載機器を、ボディドメインを構成するECU5は、パワーウィンドウ等のボディ関連の車載機器を制御する。ADASドメインを構成するECU5は、カメラやレーダ、LIDAR(Light Detection and Ranging)などのセンサからの出力に基づいてセンサフュージョン処理を実行する画像処理装置等の走行支援制御に関連する車載装置を制御する。マルチメディアドメインを構成するECU5は、カーナビゲーション装置等の情報提示機器を制御する。
【0023】
ECU5は、電磁的な方法でデータを書き込み、データを記録するためのEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等をさらに備える。RAMはプログラムの実行中に生じたデータを一時的に記憶する揮発性のメモリであるのに対して、EEPROMは不揮発性のメモリであり、記録したデータの消去及び再度の書き込みが可能である。ECU5は、RAM及びEEPROMを用いて、CANバスを流れる各装置が送受信するデータや、後述する故障診断機能OBDにより記録される、故障コードDTC及び故障検出時に各装置から検出された作動状態データ等を記録する。なお、ECU5がデータを書き込む手段は、特に限定されず、公知の手法を用いることができる。
【0024】
また、本実施形態のECU5は、自己の故障を診断する故障診断機能OBDを備える。故障診断機能OBDは、車両の安全や環境性能を損なうようなシステム、センサ、アクチュエータ等の異常を検出すると、異常情報の記憶と異常を知らせる警告を発する機能である。ECU5は、各ECU5に接続されたセンサやアクチュエータ等から送信される作動状態データをモニタリングし、この作動状態データに基づいて故障診断機能OBDを実行する。
【0025】
故障診断機能OBDには、センサやアクチュエータ等の正常な作動状態の特性データが格納されている。この特性データと、センサやアクチュエータ等から実際に検出された作動状態データ等から、検出されたデータが異常であるか否か判定する。センサやアクチュエータ等から検出された作動状態データが異常であると判定した場合には、その異常が故障であると確定する。ECU5は、センサやアクチュエータ等の個々のデータから異常を判定するだけでなく、複数のセンサや制御プログラムの制御情報の組み合わせから各装置の作動状況等を推定し、故障診断機能OBDの規制を逸脱する異常な作動状態か否かを判定する。
【0026】
ECU5は、センサやアクチュエータ等から検出されたデータが異常であると判定し、故障を確定した場合には、故障コードDTC及びフリーズフレームデータを記録する。故障コードDTCとは、アルファベットと数字の組み合わせから構成されたコードであり、アルファベットからは故障を検出したシステムの箇所を、数字からは故障の系統、故障個所、故障の状態などを読み取ることができる。フリーズフレームデータとは、ECU5が故障を確定した瞬間の、エンジン回転数、車速、水温、負荷の状態などの車両の作動状態を記録したデータである。さらにECU5は、確定した故障の種類によっては、インストルメントパネルの警告ランプを点灯させたり、フェイルセーフを作動したりしてドライバーに車両の異常を知らせる。
【0027】
故障コードDTC及びフリーズフレームデータは、ECU5が備える不揮発性メモリのEEPROM等に記録されるので、メーカやカーディーラ等のスキャンツールを用いて故障に関する車両の異常内容を読み出すことができ、故障個所の特定及び修復を行うことができる。故障個所が修復されると、ECU5に記録された故障コードDTC及びフリーズフレームデータは消去され、インストルメントパネルの警告ランプが消灯される。
【0028】
さて、上述した故障診断機能OBDを用いて故障個所を特定する場合、スキャンツール等の外部装置によって、ECUに記録された故障コードDTC及び故障検出時の車両の作動状態データ(フリーズフレームデータ)の読み出しが行われる。図2に示すように、従来は、DLC6にスキャンツール等の外部装置が接続されると、故障を検出したECU54に記録された故障コードDTC及びフリーズフレームデータが転送される。しかしながら、スキャンツール等によってデータの読み出しを行う場合に、故障検出時の車両の作動状態データ(フリーズフレームデータ)を記録しているECU54と、それ以外のECU51,52,53,55,56で記録されたデータの時系列データ(ログデータ)の時間が一致しないことがある。
【0029】
そこで、本実施形態に係る車両の故障診断装置1では、複数あるECU5のいずれかにより故障が検出された場合に、故障を検出したECU5以外の他のECU5に対してデータ記録指示信号を送信する。そして、データ記録指示信号を受信した他のECU5は、故障が検出された時の各自のログデータを記録する。故障が検出された際に、故障を検出したECU5以外のECU5も同時にログデータを記録することで、各ECUでログデータの時間が一致するデータを記録することができる。この時間が一致するログデータに基づいて故障の解析を行うことにより、故障検出時の車両全体の作動状態から故障要因を検証することができる。以下、故障診断装置1を用いた故障診断制御の実施形態について、図1及び図3図10を参照しながら説明する。
【0030】
図1の故障診断制御は、ECU54により故障コードDTCαが検出され、第1故障診断モードが設定されたシーンを示す。ECU54により検出された故障コードDTCαが、たとえばシステムエラーなどの、故障を検出したECU54を含む全ECU5のログデータが必要となる車両全体に係る故障である場合には、ECU54により第1故障診断モードが設定される。故障コードDTCαが検出されると、ECU54は故障が検出された時のログデータを記録する。また、ECU54は、統括ECU42及びGW3を介して、他のECU5(ここではECU51,52,53,55,56)に対し故障が検出された時の各自のログデータを記録するようにデータ記録指示信号を送信する。これを受信した他のECU5は、ECU54により故障コードDTCαが検出された時の各自のログデータを記録する。
【0031】
ここで、故障診断機能OBDにより故障コードDTCαを検出する際、ECU54がセンサやアクチュエータ等から検出された作動状態データが異常であると判定し、その異常が故障であると確定するまでには時間を要する。そこで、ECU54から送信されるデータ記録指示信号に、故障コードDTCαが検出された時刻t1情報を含めて、時刻t1の前後の時刻のログデータを記録する構成としてもよい。
【0032】
図6(A)及び(B)のそれぞれは、各ECU5で記録されるログデータの一例を示した図である。同図(A)に示すシーンは、ECU54が故障を確定し、故障コードDTCαが検出された時刻t1のログデータを記録する例である。これに対して、同図(B)に示すシーンでは、ECU54が故障を確定し、故障コードDTCαが検出された時刻t1の前後の、時刻t0から時刻t2まで(黒矢印)のログデータを記録する例である。時刻t0及び時刻t2は、特に限定されないが、たとえば時刻t1の3秒前を時刻t0とし、時刻t1の0.6秒後を時刻t2とするなど、ログデータの記録に適した任意の数値を予め設定してもよい。故障コードDTCαが検出された時刻t1の前後のログデータを記録することにより、故障コードDTCαが検出される要因となったセンサやアクチュエータ等の、故障検出直前から故障検出直後までの変化を記録することができ、故障要因の解析の的確性を向上させることができる。
【0033】
ECU54から送信されるデータ記録指示信号は、統括ECU42及びGW3を介してIVC2にも受信される。IVC2は、データ記録指示信号を受信すると、他のECU5と同様に、ECU54により故障コードDTCαが検出された時のログデータを記録する。そして、IVC2は、データ記録指示信号を受信してから所定時間経過後、ECU5に対して各自が記録したログデータを出力するようにデータ読み出し指示信号を順に送信する。所定時間は、特に限定されないが、ECU54から送信されたデータ記録指示信号を、他のECU5及びIVC2が受信してから1分後など、少なくとも他のECU5及びIVC2がログデータを処理及び記録する時間である。
【0034】
図3(A)及び(B)のそれぞれは、IVC2から送信されるデータ読み出し指示信号と、これを受信した各ECU5がIVC2に対してログデータを送信する処理例を示した図である。図3(A)に示すシーンは、IVC2がECU51に対してデータの読み出し処理を行うシーンである。
【0035】
IVC2によりデータ読み出し指示信号(斜線矢印)が送信されると、GW3及び統括ECU41を介して、ECU51に受信される。これを受信したECU51は、自身が記録したログデータ(黒矢印)を統括ECU41及びGW3を介してIVC2に送信する。IVC2は、ECU52~56に対しても同様に、データ読み出し指示信号を順次送信し、これを受信したECU52~56は、データ読み出し指示信号に従って各自が記録したログデータを統括ECU4及びGW3を介してIVC2に送信する。故障を検出したECU54は、ログデータとともに故障コードDTCαもあわせてIVC2に送信する。
【0036】
IVC2は、全てのECU5からログデータを受信すると、故障が検出された時の車両の作動状態を示す情報としてこれらのデータを集約し、ECU54から受信した故障コードDTCαとともにスキャンツール等の外部装置に送信する。これにより、車両に搭載された複数あるECU5のいずれかにより故障が検出された場合に、各ECU5でログデータの時間が一致するデータを記録することができる。
【0037】
なお、IVC2が各ECU5に対してデータの読み出しを行う場合に、統括ECU4によりドメイン毎に処理を行う構成としてもよい。図3(B)に示すシーンは、IVC2が、統括ECU41,ECU51及びECU52で構成されるドメインに対してデータの読み出し処理を行うシーンである。
【0038】
IVC2によりデータ読み出し指示信号(斜線矢印)が送信されると、GW3を介して統括ECU41に受信される。これを受信した統括ECU41は、ECU51,52に対して自身が記録したログデータを出力するように指令信号(白矢印)を送信する。これを受信したECU51,52は、それぞれが記録したログデータ(黒矢印)を統括ECU41に対して送信する。統括ECU41は、ECU51,52の各自のログデータを所定の形式に揃えてGW3を介してIVC2に送信する。IVC2は、統括ECU42,43に対しても同様に、データ読み出し指示信号を順次送信する。これを受信した統括ECU42,43は、各ドメインのECU53~56が記録した各自のログデータを所定の形式に揃えてGW3を介してIVC2に送信する。統括ECU4によりドメイン毎に処理を実行することで、各ECU5のログデータを読み出しする際の、IVC2の演算負荷を軽減することができる。
【0039】
図7は、第1故障診断モードで記録されたログデータから作成されるデータフレームの構成の一例と、データフレームの処理例を説明するための図である。データフレームは、図7に示すように、SSD(Snap Shot Data)フィールドと、TDD(Time Domain Data)フィールド等から構成される。SSDフィールドは、ECU54で検出された故障コードDTCαの種類、データ記録指示信号の送受信状況等を記録し、TDDフィールドは、各システムの作動状態データ、各ECU5の信号の出入力状況等を時系列データ(ログデータ)として記録する。
【0040】
図8は、第1故障診断モードにおけるログデータの処理例を示すタイムチャートである。図8は、縦軸が各システムの作動状態に対応した車両信号を示し、横軸が時間の経過を示す。ECU54が、故障診断機能OBDにより、たとえばセンサAの検出データから故障コードDTCαを検出すると、ECU54は故障コードDTCαを検出した時刻t1を含む時刻t0から時刻t2において故障診断機能OBDの実行フラグを0から1にして、時刻t0から時刻t2に至るまでのセンサAの作動状態を記録する。そして、ECU54は、他のECU5に対してデータ記録指示信号を送信する。ECU54により送信されたデータ記録指示信号を受信した他のECU5は、時刻t0から時刻t2に至るまでの、各ECU5に接続された各装置の作動状態や信号の出入力状況をログデータとして記録する。
【0041】
図8に示す故障診断シーンでいうと、ECU51は、イグニッション及びスタートスイッチの作動状態を、ECU52は、車両の車速の変化と信号Bの出入力状況を、ECU53は、車両のシフトポジションの変化と信号Cの出入力状況を記録する。なお、図示を省略するECU55,56についても同様にログデータを記録する。これらのログデータは、TDDフィールドのデータとして不揮発性メモリのEEPROM等に記憶される。このように、故障を検出したECU54からデータ記録指示信号が送信されると、各ECU5が同期して車両全体の作動状態を表すログデータを記録する。そして、このログデータから一のデータフレームが作成される。
【0042】
第1故障診断モードで作成されるデータフレームのデータ量は、特に限定されないが、メモリの容量に応じて規定され、たとえば5フレームなど予め定められた容量である。図7に示すように、第1故障診断モードで作成されるデータフレームは、故障コードDTCαが最初に検出された際のフレームと、その次に検出された際のフレームを保存し、他のフレームについては上書きする構成としてもよい。一部のデータフレームを上書きすることにより、一定のデータ量でログデータを記録することができる。また、故障が検出された当初のデータフレームの上書きを禁止することにより、故障コードDTCαが検出された初期の、車両全体の作動状態を記録したログデータを保存することができる。
【0043】
図4の故障診断制御は、ECU54により故障コードDTCβが検出され、第2故障診断モードが設定されたシーンを示す。ECU54により検出された故障コードDTCβが、たとえば冷却温度回路の機能不良や、トランスミッションのオーバーヒートといった、車両の特定のシステムに係る故障である場合には、ECU54により第2故障診断モードが設定される。つまり、第1故障診断モードでは、検出された故障コードDTCαがシステムエラーなどの車両全体に係る故障である場合を対象とするのに対して、第2故障診断モードでは、検出された故障コードDTCβが車両の特定のシステムに係る故障である場合を対象とする。なお、故障診断装置1の構成については、図1に示した第1故障診断モードと同様のため、これらのブロックの説明については、上述した実施形態での説明を援用する。
【0044】
故障コードDTCβが検出されると、ECU54は、自身のログデータを記録するとともに、故障コードDTCβに係るECU5(ここではECU53)を特定し、特定したECU5に対し故障が検出された時のログデータを記録するようにデータ記録指示信号を送信する。データ記録指示信号は、各統括ECU4及びGW3を介して特定のECU5に受信される。これを受信した特定のECU5は、ECU54によって故障コードDTCβが検出された時のログデータを記録する。
【0045】
図5は、IVC2から送信されるデータ読み出し指示信号と、これを受信したECU5がIVC2に対してログデータを送信する処理例を示した図である。第2診断モードでは、故障コードDTCβを検出したECU54は、IVC2に対して故障コードDTCβの情報を含むデータ読み出し指示信号の要求(破線矢印)を送信する。これを受信したIVC2は、データ読み出し指示信号(斜線矢印)の送信先を特定する。具体的には、故障コードDTCβの情報に基づいて、データ読み出し指示信号の送信対象ECU5を、故障コードDTCβを検出したECU54のみとするか、ECU54を含む故障コードDTCβに係る特定のECU5とするかを判断する。そして、IVC2は、GW3及び統括ECU41を介して、送信先として特定したECU5にデータ読み出し指示信号を送信する。
【0046】
図5に示すシーンでは、IVC2は、データ読み出し指示信号の送信先をECU54のみと特定して、データの読み出しを行った場合のシーンである。データ読み出し指示信号を受信したECU54は、自身が記録したログデータ(黒矢印)を統括ECU42及びGW3を介してIVC2に送信する。なお、IVC2が故障コードDTCβに係る複数のECU5に対してログデータの読み出しを行う場合には、第1故障診断モードと同様に、データ読み出し指示信号を、送信先として特定した複数のECU5に対して順次送信して処理してもよく、統括ECU4によりドメイン毎に処理する構成としてもよい。
【0047】
このように、ECU54により検出された故障コードDTCに基づく故障内容が、車両全体に係る故障である場合には、故障を検出したECU54は、第1故障診断モードを設定する。第1故障診断モードでは、故障を検出したECU54を含む全てのECU5が各自のログデータを記録し、記録された各自のログデータをIVC2に送信する。これに対して、ECU54により検出された故障内容が、車両の特定のシステムに係る故障である場合には、故障を検出したECU54は、第2故障診断モードを設定する。第2故障診断モードでは、故障を検出したECU54を含む特定のECU5が各自のログデータを記録し、記録された各自のログデータをIVC2に送信する。これにより、ECU5によって検出された故障コードDTCの内容に応じた適切なログデータを記録することができる。
【0048】
なお、第1故障診断モードと第2故障診断モードの設定は、故障を検出したECU54から送信されるデータ記録指示信号の信号IDを、故障コードDTCのコード番号と紐づけして異なる信号IDとする構成としてもよく、故障診断モードに応じたトリガ信号をデータ記録指示信号に含める構成としてもよい。また、その他の公知の手法を用いることができる。
【0049】
図9は、第2故障診断モードで記録されたログデータから作成されるデータフレームの構成の一例と、データフレームの処理例を説明するための図である。データフレームは、第1故障診断モードで作成されるデータフレームと同様に、SSDフィールドと、TDDフィールド等から構成される。故障を検出したECU54からデータ記録指示信号が送信されると、故障に係る特定のECU5が単独でログデータを記録し、一のデータフレームが作成される。
【0050】
第2故障診断モードで作成されるデータフレームのデータ量は、特に限定されないが、たとえば第1故障診断モードで作成される5フレームより多い11フレームなど、車両の特定のシステムに係る故障を詳細に解析するために必要な、ある程度の容量を有するのが好ましい。言い換えると、第1故障診断モードで作成されるデータフレームのデータ量は、第2故障診断モードで作成されるデータフレームのデータ量より少ないので、メモリの容量を抑制することができる。
【0051】
また、一部のデータフレームを上書きする第1故障診断モードに対して、第2故障診断モードで作成されるデータフレームは、全てのデータフレームを上書きする構成としてもよい。上述したように、第2故障診断モードでは、故障コードDTCβを検出したECU54が、自発的にIVC2に対してデータ読み出し指示信号を要求し(図5破線矢印参照)、適時データフレームを送信するので、データフレームの上書きを禁止する必要がない。これにより、メモリの負荷を軽減しつつ、特定のシステムに係る故障を詳細に解析するためのログデータを記録することができる。
【0052】
図10は第2故障診断モードにおけるログデータの処理例を示すタイムチャートである。図10は、縦軸が各システムの作動状態に対応した車両信号情報を示し、横軸が時間の経過を示す。ECU54が、故障診断機能OBDにより、たとえばセンサAの検出データから故障コードDTCβを検出すると、ECU54は故障コードDTCβを検出した時刻t1を含む時刻t0から時刻t2において故障診断機能OBDの実行フラグを0から1にして、時刻t0から時刻t2に至るまでの自身のログデータを記録する。図示は省略するが、故障コードDTCβに関連する特定のECU5が他にある場合には、ECU54は、当該特定のECU5に対してデータ記録指示信号を送信する。データ記録指示信号を受信した特定のECU5は、ECU54と同様に、時刻t0から時刻t2に至るまでの自身のログデータを記録する。
【0053】
図10に示す故障診断シーンでいうと、ECU54は、故障コードDTCβを検出した時刻t0から時刻t2に至るまでの、各装置の作動状態や状態フラグの応答状況、ECUのポートの状態、信号の出入力状況といった、ECU54が実行する制御の詳細をログデータとして記録する。第1故障診断モードにおけるログデータでは、各ECU5が同期して車両全体の作動状態を表すログデータが記録されるのに対して、第2故障診断モードにおけるログデータでは、故障コードDTCβに係る特定のECU5により、特定のシステムについての詳細な作動状態データが記録される。
【0054】
第2故障診断モードで実行されるデータ処理制御は、故障以外の所定のイベントを検出した場合に用いられてもよい。所定のイベントとは、故障コードDTC以外のシステムエラー判定、自律走行制御機能のキャンセル、車両の乗員による特定の操作等である。これらの所定のイベント発生条件をEUC5に予め記憶させ、このイベント発生条件を満たす事象が生じた場合には、第2故障診断モードを用いてECU5によるログデータの記録及びIVC2へのデータ送信を行うことができる。
【0055】
たとえば、「自律走行制御機能(自律速度制御機能及び自律操舵制御機能)を実行中に急ブレーキを検出した場合」をイベントとした場合には、(i)自律走行制御機能をONにしていること、(ii)急ブレーキを検出したこと、をイベント発生条件としてADASドメインのECU5に記憶させる。そして、イベント発生条件を満たす事象を検出すると、当該イベントを検出したECU5は自身のログデータを記録するとともに、このイベントに係る特定のECU5にデータ記録指示信号を送信する。
【0056】
イベントを検出したECU5による、IVC2に対するログデータ読み出し指示信号の要求、IVC2によるログデータの読み出し及びECU5のログデータ送信処理については、第2故障診断モードと共通であるため、ここに援用し、詳しい説明は省略する。これにより、故障として検出されない初期段階の不具合の解析や、車両の各機能の使用態様の分析、故障とフェイルセーフ動作を判別するのに用いられるログデータを記録することができる。
【0057】
なお、イベント検出時のログデータから作成されるデータフレームは、イベントが検出された時の時系列データ(ログデータ)であるTDDフィールドと、車両の特定の作動状況や乗員による特定の操作履歴等を記録するUSD(Usual State Data)フィールドから構成されてもよい。データフレームのデータ量は、特に限定されないが、メモリの容量に応じて規定され、たとえば同一のイベントについて300フレームが記録されると、ECU5からIVC2に対してデータ読み出し指示信号の要求を送信し、IVC2によるデータ読み出し処理がなされると、データフレームを上書きする構成としてもよい。
【0058】
《故障診断処理》
次に、図11及び図12を参照して、本実施形態に係る故障診断処理について説明する。図11は、図1に示す第1故障診断モードにおいて実行される故障診断処理の一例を示すシーケンス図である。なお、以下では、ECU54にて、たとえばシステムエラーなど故障を検出したECU54を含む全ECU5のログデータが必要となる故障を検出した場合について説明する。
【0059】
図11のステップS1にて、ECU54は、故障診断機能OBDを実行して故障を確定し、故障コードDTCαを検出する。ステップS2にて、故障を検出したECU54は、故障コードDTCαに基づいて第1故障診断モードを設定する。次に、ステップS3にて故障コードDTCαを検出した時刻t1の前後の時刻t0から時刻t2までのログデータを記録する。続くステップS4にて、故障を検出したECU54は、他の全ECU5に対して、統括ECU4及びGW3を介してデータ記録指示信号を送信する。ステップS5にて、これを受信した他のECU5は、時刻t0から時刻t2の各自のログデータを記録する。データ記録指示信号は、ステップS6にて、故障を検出したECU54から、統括ECU4及びGW3を介してIVC2にも送信される。ステップS7にて、IVC2は、他のECU5と同様に、時刻t0から時刻t2のログデータを記録する。
【0060】
ステップS8にて、IVC2はGW3及び統括ECU4を介して、故障を検出したECU54にログデータ読み出し指示信号を送信する。ステップS9にて、故障を検出したECU54は、故障コードDTCαとともにステップS3で記録したログデータを、自身のドメインの統括ECU42に送信する。続くステップS10にて、IVC2はGW3及び統括ECU4を介して、他のECU5に対してもログデータ読み出し指示信号を順次送信する。ステップS11にて、他のECU5は、ステップS5で記録したログデータを、各自のドメインの統括ECU4に送信する。続くステップS12にて、各統括ECU4は、ドメインを構成する各ECU5から受信したログデータを所定の形式に揃えてIVC2に送信する。
【0061】
図12は、図4に示す第2故障診断モードにおいて実行される故障診断処理の一例を示すシーケンス図である。なお、以下では、ECU54にて、たとえばエンジン冷却温度回路の機能不良や、トランスミッションのオーバーヒートといった、車両の特定のシステムに係る故障を検出した場合について説明する。
【0062】
まず、ステップS1にて、ECU54は故障診断機能OBDを実行して故障を確定し、故障コードDTCβを検出する。ステップS2にて、故障を検出したECU54は、故障コードDTCβに基づいて第2故障診断モードを設定する。次に、ステップS3にて故障コードDTCβを検出した時刻t1の前後の時刻t0から時刻t2までのログデータを記録する。
【0063】
ステップS4にて、故障を検出したECU54は、故障コードDTCβに係るECU53を特定し、特定したECU53をログデータ記録指示信号の送信先とする。続くステップS5にて、故障を検出したECU54は、統括ECU4を介して、故障に係る特定のECU53にデータ記録指示信号を送信する。ステップS6にて特定のECU53は、故障コードDTCβが検出された時刻t0から時刻t2のログデータを記録する。続くステップS7にて、故障を検出したECU54は、統括ECU4及びGW3を介して、IVC2に故障コードDTCβの情報を含むログデータ読み出し指示信号の要求を送信する。
【0064】
ステップS8にて、IVC2は、故障コードDTCβの情報に基づいてログデータ読み出し指示信号の送信先を特定する。たとえば、故障を検出したECU54のみがログデータ読み出し指示信号の送信先であるとすると、ステップS9にて、IVC2は、特定したECU54に対して、GW3及び統括ECU4を介して、ログデータ読み出し指示信号を送信する。ステップS10にて、故障を検出したECU54は、ステップS3で記録したログデータを、統括ECU4及びGW3を介してIVC2に送信する。
【0065】
以上の通り、本実施形態の故障診断装置1及び故障診断方法によれば、ECU54(車載電子制御ユニット)は、故障を検出した場合に、他のECU5(車載電子制御ユニット)に対して、各自のログデータを記録する旨のデータ記録指示信号を送信し、データ記録指示信号を受信した他のECU5は、故障が検出された時の各自のログデータを記録し、IVC2(車載通信制御ユニット)は、データ記録指示信号を受信した他のECUに対して、当該EUCが記録した前記各自のログデータを出力する旨のデータ読み出し指示信号を送信し、データ読み出し指示信号を受信したECU5は、各自のログデータを前記車載通信制御ユニットへ送信する。これにより、車両に搭載された複数あるECUのいずれかにより故障が検出された場合に、各ECUでログデータの時間が一致するデータを記録することができる。また、ログデータの時間が一致するデータに基づいて故障の解析を行うことにより、故障検出時の車両全体の作動状態から故障要因を検証することができる。
【0066】
また、本実施形態の故障診断装置1及び故障診断情報によれば、データ記録指示信号は、故障が検出された時の時刻情報を含み、データ記録指示信号を受信した他のECU5(車載電子制御ユニット)は、故障が検出された時刻t1の前後のログデータを記録するので、故障コードDTCが検出される要因となったセンサやアクチュエータ等の、故障検出直前から故障検出直後までの変化を記録することができ、故障要因の解析の的確性を向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態の故障診断装置1及び故障診断情報によれば、複数のECU5(車載電子制御ユニット)は、それぞれが統括ECU4(統括電子制御ユニット)を含む複数の群に分類され、統括ECU4(統括電子制御ユニット)は、各自の群において、データ記録指示信号を受信したECU5(車載電子制御ユニット)が記録した各自のログデータを所定の形式に揃えてIVC2(車載通信制御ユニット)に送信する。これにより、各ECU5のログデータを読み出しする際の、IVC2の演算負荷を軽減することができる。
【0068】
また、本実施形態の故障診断装置1及び故障診断情報によれば、車両の故障診断を実行する故障診断モードは、第1故障診断モードと第2故障診断モードを含み、第1故障診断モードでは、故障を検出したECU54(車載電子制御ユニット)を含むの全てのECU5(車載電子制御ユニット)が各自のログデータを記録し、記録された各自のログデータをIVC2(車載通信制御ユニット)へ送信し、第2故障診断モードでは、故障を検出したECU54(車載電子制御ユニット)を含む特定のECU5(車載電子制御ユニット)が各自のログデータを記録し、記録された各自のログデータをIVC2(車載通信制御ユニット)へ送信する。これにより、ECU5よって検出された故障コードDTCの内容に応じた適切なログデータを記録することができる。
【0069】
また、本実施形態の故障診断装置1及び故障診断情報によれば、第2故障診断モードにおいて、故障以外の所定のイベントを検出した場合には、所定のイベントを検出したECU5(車載電子制御ユニット)は、IVC2(車載通信制御ユニット)に対して、所定のイベントが発生した時の各自のログデータを出力する旨のデータ読み出し指示信号を要求し、データ読み出し指示信号を受信した特定のECU5(車載電子制御ユニット)は、所定のイベントが発生した時の各自のログデータをIVC2(車載通信制御ユニット)に送信する。これにより、故障として検出されない初期段階の不具合の解析や、車両の各機能の使用態様の分析、故障とフェイルセーフ動作を判別するのに用いられるログデータを記録することができる。
【0070】
また、本実施形態の故障診断装置1及び故障診断情報によれば、第1故障診断モードにおいて記録されるログデータのデータフレームのデータ量は、第2故障診断モードにおいて記録されるログデータのデータフレームのデータ量より少ないので、メモリの容量を抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態の故障診断装置1及び故障診断情報によれば、ECU5(車載電子制御ユニット)は、第1故障診断モードで作成されるデータフレームのうち、一部のデータフレームの上書きを許可するので、一定のデータ量でログデータを記録することができる。
【0072】
また、本実施形態の故障診断装置1及び故障診断情報によれば、ECU5(車載電子制御ユニット)は、第1故障診断モードで作成されるデータフレームのうち、故障が検出された時のログデータを記録する部分の上書きを禁止するので、故障コードDTCが検出された初期の、車両全体の作動状態を記録したログデータを保存することができる。
【0073】
また、本実施形態の故障診断装置1及び故障診断情報によれば、ECU5(車載電子制御ユニット)は、第2故障診断モードで作成される全てのデータフレームの上書きを許可するので、メモリの負荷を軽減しつつ、特定のシステムに係る故障を詳細に解析するためのログデータを記録することができる。
【0074】
なお、以上に説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0075】
1…故障診断装置
2…IVC
3…GW
4,41,42,43…統括ECU
5,51,52,53,54,55,56…ECU
6…DLC
NW…電気通信回線網
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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