(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182017
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物及び有機EL素子
(51)【国際特許分類】
H05B 33/04 20060101AFI20221201BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221201BHJP
C08K 5/057 20060101ALI20221201BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H05B33/04
H05B33/14 A
C08K5/057
C08L63/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089297
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000201814
【氏名又は名称】双葉電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 凌
【テーマコード(参考)】
3K107
4J002
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC23
3K107CC45
3K107EE42
3K107EE48
3K107EE49
3K107EE50
3K107EE53
3K107EE55
3K107FF15
4J002CD011
4J002CD021
4J002CD051
4J002CD151
4J002EC076
4J002GP03
4J002GQ00
4J002GQ05
4J002GS00
(57)【要約】
【課題】硬化反応の進行が阻害され難い硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】カチオン重合性樹脂と、酸発生剤と、金属アルコキシドとを含有し、酸発生剤が四級アンモニウム塩である、硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性樹脂と、酸発生剤と、金属アルコキシドとを含有し、
前記酸発生剤が四級アンモニウム塩である、硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
カチオン重合性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属アルコキシドが、カチオン重合性基を有するアルコキシ基を含む、請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属アルコキシドが、β-ジケトン化合物に由来する基又はβ-ケトエステル化合物に由来する基を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記金属アルコキシドの中心金属が、周期表第4族元素、周期表第13族元素、又は周期表第14族元素である、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
素子基板と、
前記素子基板に対して対向配置された封止基板と、
前記素子基板上に設けられた、対向配置された一対の電極及びそれらの間に設けられた有機層を有する発光部と、
前記素子基板と前記封止基板との間に設けられ前記発光部を封止する封止層と、
を備え、
前記封止層が請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む、有機EL素子。
【請求項7】
前記封止層が、前記素子基板及び前記封止基板と接しながら、前記素子基板と前記封止基板との間の前記発光部の周囲の空間を充填している、請求項6に記載の有機EL素子。
【請求項8】
当該有機EL素子が、前記素子基板及び前記封止基板の外周部を封止する封止シール剤をさらに備え、
前記封止層が、前記封止シール剤の内側で前記発光部の周囲の気密空間の少なくとも一部を充填している、請求項6に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記封止層が、前記硬化性樹脂組成物の硬化物を含む硬化膜と、無機膜とを含む積層構造を有している、請求項6に記載の有機EL素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物及び有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子において、発光性の有機層周囲の気密空間を充填するフィル剤等の封止剤が設けられることがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機EL素子用封止剤としての硬化性樹脂組成物が捕水成分(例えば、金属アルコキシド)を含有することにより、有機EL素子への水分の影響を抑制するための捕水機能を硬化性樹脂組成物に付与できると考えられる。ところが、硬化性樹脂組成物がカチオン重合性樹脂及び酸発生剤を含有する場合、捕水成分の影響により、硬化反応の進行が阻害されることがある。硬化反応の進行が阻害されると、硬化性樹脂組成物を適切な位置に固定することは困難となる傾向にある。
【0005】
そこで、本発明は、硬化反応の進行が阻害され難い硬化性樹脂組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
種々の中心金属を有する金属アルコキシドは、捕水成分として機能することが期待される。しかし、本発明者らの検討によると、捕水成分である金属アルコキシドによって酸発生剤が失活し、これが原因となって、硬化反応の進行が阻害されていることが見出された。そこで、本発明者らが酸発生剤の種類を検討したところ、金属アルコキシドを含有する硬化性樹脂組成物に、酸発生剤として四級アンモニウム塩を適用した場合において、硬化反応の進行が阻害され難いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の一側面は、硬化性樹脂組成物に関する。当該硬化性樹脂組成物は、カチオン重合性樹脂と、酸発生剤と、金属アルコキシドとを含有する。酸発生剤は、四級アンモニウム塩である。このような硬化性樹脂組成物は、硬化反応の進行が阻害され難い傾向にある。このような効果を奏する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは、以下のように考えている。酸発生剤は、通常、カチオンとアニオンとから構成される塩である。四級アンモニウムカチオンを含む酸発生剤は、スルホニウム、ヨードニウム等のカチオンを含む酸発生剤に比べて、元素の性質の観点から、カチオンとアニオンとからなる塩として安定であることが推測される。そのため、酸発生剤としての四級アンモニウム塩は、金属アルコキシドが系中に存在しても失活し難く、このような酸発生剤を含有する硬化性樹脂組成物は硬化反応の進行が阻害され難いと考えられる。
【0008】
カチオン重合性樹脂は、エポキシ樹脂であってよい。
【0009】
金属アルコキシドは、カチオン重合性基を有するアルコキシ基を含んでいてもよい。金属アルコキシドは、β-ジケトン化合物に由来する基又はβ-ケトエステル化合物に由来する基を含んでいてもよい。
【0010】
金属アルコキシドの中心金属は、周期表第4族元素、周期表第13族元素、又は周期表第14族元素であってよい。
【0011】
本発明の他の一側面は、有機EL素子に関する。当該有機EL素子は、素子基板と、素子基板に対して対向配置された封止基板と、素子基板上に設けられた、対向配置された一対の電極及びそれらの間に設けられた有機層を有する発光部と、素子基板と封止基板との間に設けられ発光部を封止する封止層とを備える。封止層は、上記の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。このような有機EL素子は、硬化性樹脂組成物の硬化反応の進行が阻害され難いことから、効率的に製造することができ、しかも封止層の捕水機能によって良好な発光寿命を有することが期待できる。
【0012】
有機EL素子の一態様は、封止層が、素子基板及び封止基板と接しながら、素子基板と封止基板との間の発光部の周囲の空間を充填している。有機EL素子の他の一態様は、素子基板及び封止基板の外周部を封止する封止シール剤をさらに備え、封止層が、封止シール剤の内側で発光部の周囲の気密空間の少なくとも一部を充填している。有機EL素子の他の一態様は、封止層が、硬化性樹脂組成物の硬化物を含む硬化膜と、無機膜とを含む積層構造を有している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、硬化反応の進行が阻害され難い硬化性樹脂組成物が提供される。また、本発明によれば、このような硬化性樹脂組成物を用いた有機EL素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】
図2は、有機EL素子の他の一実施形態を示す模式断面図である。
【
図3】
図3は、有機EL素子の他の一実施形態を示す模式断面図である。
【
図4】
図4は、有機EL素子の他の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート、及び、それに対応するメタクリレートの少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル酸」等の他の類似の表現においても同様である。
【0017】
[硬化性樹脂組成物]
一実施形態の硬化性樹脂組成物は、カチオン重合性樹脂と、酸発生剤と、金属アルコキシドとを含有する。硬化性樹脂組成物は、熱によって硬化する熱硬化性樹脂組成物であってよい。
【0018】
<カチオン重合性樹脂>
カチオン重合性樹脂は、例えば、酸等の作用によって反応して硬化物(架橋重合体)を形成する硬化性樹脂であって、カチオン重合性基(例えば、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等)を有する硬化性樹脂であり得る。カチオン重合性樹脂は、硬化物の硬化性、基材密着性、及び柔軟性を高める観点から、例えば、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂等であってよい。
【0019】
エポキシ樹脂は、1個以上のエポキシ基を有する化合物であってよい。1個以上のエポキシ基を有する化合物としては、例えば、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、グリシジルフェニルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、脂環式エポキシ樹脂(例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(例えば、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(例えば、ビス[4-(グリシジルオキシ)フェニル]メタン)、エポキシ変性シリコーン等が挙げられる。
【0020】
オキセタン樹脂は、1個以上のオキセタニル基を有する化合物であってもよい。1個以上のオキセタニル基を有する化合物としては、例えば、オキセタンアルコール、3,3’-オキシビス(メチレン)ビス(3-エチルオキセタン)等が挙げられる。
【0021】
カチオン重合性樹脂の含有量は、硬化性樹脂組成物の全量を基準として、例えば、5~98質量%、50~95質量%、又は80~92質量%であってよい。
【0022】
<酸発生剤>
酸発生剤は、例えば、光又は熱により酸等を発生して重合を開始する化学種であり、通常、カチオンとアニオンとから構成される塩である。酸発生剤は、例えば、熱により酸等を発生する熱酸発生剤であってよい。
【0023】
酸発生剤は、カチオンとして、四級アンモニウムカチオンを有する四級アンモニウム塩である。四級アンモニウム塩は、例えば、下記式(1)で表されるカチオンを有する塩であってよい。
【0024】
【0025】
式(1)中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数1~18のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数7~20のアラルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素原子数6~18のアリール基を示す。
【0026】
置換基としては、例えば、ハロゲン原子、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3~8のシクロアルキル基)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1~6のアルコキシ基)、シクロアルキルオキシ基(好ましくは炭素原子数3~8のシクロアルキルオキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6~14のアリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(好ましくは炭素原子数7~16のアラルキルオキシ基)等が挙げられる。
【0027】
式(1)で表されるカチオンを有する塩は、例えば、アニリニウム塩であってよい。すなわち、式(I)において、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも一つは、置換基を有していてもよい炭素原子数6~18のアリール基であってよい。アニリニウム塩としては、N,N-ジメチルアニリニウム塩、N,N-ジエチルアニリニウム塩等のN,N-ジアルキルアニリニウム塩などが挙げられる。
【0028】
四級アンモニウム塩のアニオンとしては、例えば、BF4
-、BR4
-(Rは、2以上のフッ素原子又は2以上のトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を示す。)、PF6
-、SbF6
-、AsF6
-等が挙げられる。四級アンモニウム塩のアニオンは、構成元素としてホウ素を含むアニオンであってよく、例えば、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートであってよい。
【0029】
酸発生剤としての四級アンモニウム塩は、市販品を用いることができる。構成元素としてホウ素を含むアニオンを有するアニリニウム塩の市販品としては、例えば、K-PURE CXC1821(商品名、King Industries社製)等が挙げられる。
【0030】
酸発生剤の含有量は、硬化性樹脂組成物の全量を基準として、例えば、0.1~10質量%、0.3~5質量%、又は0.5~3質量%であってよい。
【0031】
<金属アルコキシド>
金属アルコキシドは、少なくとも一つのアルコキシ基を有する金属化合物を意味する。種々の中心金属を有する金属アルコキシドは、捕水成分として機能することが期待される。
【0032】
金属アルコキシドの中心金属は、捕水成分として機能の観点から、周期表第4族元素、周期表第13族元素、又は周期表第14族元素であってよい。周期表第4族元素は、チタン原子又はジルコニウム原子であってよい。周期表第13族元素は、ホウ素原子又はアルミニウム原子であってよい。周期表第14族元素は、ケイ素原子又はゲルマニウム原子であってよい。これらの中でも、金属アルコキシドの中心金属は、チタン原子又はジルコニウム原子であってよい。金属アルコキシドの中心金属がチタン原子又はジルコニウム原子であると、硬化反応の進行がより一層阻害され難い傾向にある。
【0033】
金属アルコキシドのアルコキシ基におけるアルキル基としては、例えば、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、ノニル基、デカニル基、ドデカニル基、テトラデカニル基、ヘキサデカニル基が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は、1~28又は1~8であってよい。
【0034】
金属アルコキシドは、アルコキシ基の一部又は全部がアリールオキシ基に置換されていてもよい。アリールオキシ基におけるアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。アリール基の炭素原子数は、6~18であってよい。
【0035】
金属アルコキシドは、カチオン重合性基を有するアルコキシ基を含んでいてもよい。金属アルコキシドがカチオン重合性基を有するアルコキシ基を含むことによって、カチオン重合性樹脂の重合において、金属アルコキシドもカチオン重合性基が重合化されることから、捕水成分としての金属アルコキシドの分散性の向上が期待できる。また、金属アルコキシドのアルコキシ基は、捕水後において、アルコールとして脱離することがある。脱離したアルコールがアウトガスとして放出されると、有機EL素子の劣化の原因となる。金属アルコキシドがカチオン重合性基を有するアルコキシ基を含むと、脱離したアルコールがカチオン重合性樹脂の重合の際に取り込まれることから、アウトガスの放出を抑制することができ、結果として有機EL素子の劣化を防ぐことができる。
【0036】
カチオン重合性基としては、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等が挙げられる。これらの中でも、カチオン重合性基は、エポキシ基であってよい。
【0037】
カチオン重合性基を有するアルコキシ基としては、例えば、下記式(2)で表されるアルキル基(グリセロールジグリシジルエーテルの水酸基から水素原子を1個除いて誘導される基)が例示できる。なお、*は結合手を意味する。
【0038】
【0039】
金属アルコキシドは、β-ジケトン化合物に由来する基又はβ-ケトエステル化合物に由来する基を含んでいてもよい。β-ジケトン化合物及びβ-ケトエステル化合物は、ケトエノール互変異性を示す。例えば、β-ジケトン化合物は、下記で示すケト体とエノール体とをとり得る。β-ジケトン化合物に由来する基は、β-ジケトン化合物のエノール体の水酸基から水素原子を1個除いて誘導される基であり得る。β-ケトエステル化合物に由来する基は、β-ケトエステル化合物のエノール体の水酸基から水素原子を1個除いて誘導される基であり得る。これらの基はβ-ジケトン化合物のカルボニル基又はβ-ケトエステル化合物のカルボニル基が中心金属に配位してキレート化が可能である。これらの基がキレート化することによって、金属アルコキシドの反応性(捕水成分として作用する際の加水分解反応、カチオン重合性樹脂との反応等)を抑制することが可能となる。加水分解反応を抑制することによって、酸化物又は水酸化物の析出を抑制でき、乾燥剤の実使用時に低露点下でも取り扱い易くなることが期待できる。また、カチオン重合性樹脂との反応を抑制することによって、樹脂の増粘又はゲル化を抑えることができ、硬化性樹脂組成物の塗布量を一定に制御し易くなることが期待できる。さらに、一般的なアルコキシ基(例えば、エトキシ基、プロポキシ基)に比べて、キレート化した場合の方が安定であることから、アウトガス(例えば、エトキシ基に由来するエタノール、プロポキシ基のプロパノール)の発生を抑制できることも期待できる。
【0040】
【0041】
式中、RAは、メチル、エチル、ヘプチル等の炭素原子数1~28のアルキル基又はアリル基を示す。アルキル基の水素原子の一部又は全部はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0042】
β-ジケトン化合物としては、例えば、アセチルアセトン、アルキル(エチル、ヘプチル等)アセチルアセトン、アリルアセチルアセトンなどが挙げられる。β-ジケトン化合物のアルキル基の水素原子の一部又は全部はフッ素原子で置換されていてもよい。フッ素原子で置換されたβ-ジケトン化合物としては、例えば、ヘキサフルオロアセチルアセトン等が挙げられる。β-ケトエステル化合物としては、例えば、アセト酢酸アルキル(エチル、ヘプチル等)、マロン酸ジアルキル(ジメチル、ジエチル等)などが挙げられる。β-ケトエステル化合物のアルキル基の水素原子の一部又は全部はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0043】
金属アルコキシドは、例えば、下記一般式(3)で表される化合物であってよい。
【0044】
M(OR)m(R’)n (3)
【0045】
式(3)中、Mは、周期表第4族元素、周期表第13族元素、又は周期表第14族元素を示す。mは、1~4の整数を示し、nは、0~2の整数を示し、m+nは、3又は4を示す。Rは、カチオン重合性基を含む基で置換されていてもよいアルキル基を示す。Rが複数存在する場合、Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。R’は、β-ジケトン化合物に由来する基又はβ-ケトエステル化合物に由来する基を示す。R’が複数存在する場合、R’は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
周期表第4族元素は、チタン原子又はジルコニウム原子であってよい。周期表第13族元素は、ホウ素原子又はアルミニウム原子であってよい。周期表第14族元素は、ケイ素原子又はゲルマニウム原子であってよい。Mは、硬化反応の進行がより一層阻害され難いことから、チタン原子又はジルコニウム原子であってもよい。
【0047】
Mが周期表第13族元素であるとき、m+nは3である。m+nが3であるとき、mは、1~3の整数であってよく、nは、0~2の整数であってよい。Mが周期表第4族元素又は周期表第14族元素であるとき、m+nは4である。m+nが4であるとき、mは、2~4の整数であってよく、nは、0~2の整数であってよい。
【0048】
式(3)中、Rは、カチオン重合性基を含む基で置換されていてもよいアルキル基を示す。カチオン重合性基を含む基で置換されていてもよいアルキル基とは、無置換のアルキル基、及び、カチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基を意味する。カチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基は、無置換のアルキル基の任意の1個又は2個以上の水素原子がカチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基を意味する。
【0049】
無置換のアルキル基としては、例えば、上記の金属アルコキシドのアルコキシ基におけるアルキル基と同様のものが例示できる。無置換のアルキル基の炭素原子数は、1~28又は1~8であってよい。
【0050】
カチオン重合性基を含む基は、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等のカチオン重合性基を含む基である。カチオン重合性基を含む基としては、例えば、エポキシ環を有するアルコール残基(例えば、グリシジルエーテル基)、オキセタン環を有するアルコール残基等が挙げられる。これらの中でも、カチオン重合性基を含む基は、エポキシ環を有するアルコール残基であってよく、グリシジルエーテル基であってもよい。
【0051】
カチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基としては、例えば、下記式(4)で表されるアルキル基が例示できる。なお、*は結合手を意味する。
【0052】
【0053】
式(4)中、R’は、β-ジケトン化合物に由来する基又はβ-ケトエステル化合物に由来する基を示す。β-ジケトン化合物に由来する基は、β-ジケトン化合物のエノール体の水酸基から水素原子を1個除いて誘導される基であり得る。β-ケトエステル化合物に由来する基は、β-ケトエステル化合物のエノール体の水酸基から水素原子を1個除いて誘導される基であり得る。β-ジケトン化合物に由来する基又はβ-ケトエステル化合物に由来する基は、β-ジケトン化合物又はβ-ケトエステル化合物中のカルボニル基がMと錯形成してキレートを形成していてもよいが、キレートを形成していなくてもよい。すなわち、β-ジケトン化合物に由来する基又はβ-ケトエステル化合物に由来する基は、キレート型配位子として作用するものであってもよく、単座型配位子として作用するものであってもよい。R’がβ-ジケトン化合物に由来する基であるときにおいて、キレート型配位子として作用する場合又は単座型配位子として作用する場合は下記に示すとおりである。
【0054】
【0055】
上記式中、M及びRAは、上記と同義である。
【0056】
カチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基及び/又はβ-ジケトン化合物に由来する基若しくはβ-ケトエステル化合物に由来する基を有する一般式(3)で表される化合物は、例えば、周期表第4族元素、周期表第13族元素、又は周期表第14族元素のいずれかの中心原子を有する化合物と、カチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基に対応するアルコール及び/又はβ-ジケトン化合物若しくはβ-ケトエステル化合物を反応させることによって得ることができる。カチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基に対応するアルコール及び/又はβ-ジケトン化合物若しくはβ-ケトエステル化合物とは、同時に加えて反応させてもよく、一方を加えて反応させた後、他方を加えて反応させてもよい。
【0057】
周期表第4族元素、周期表第13族元素、又は周期表第14族元素のいずれかの中心原子を有する化合物は、上記の無置換のアルキル基に対応するアルコキシ基が中心原子に結合している化合物であってよい。無置換のアルキル基に対応するアルコキシ基が中心原子に結合している化合物は、一般式(3)で表される化合物としても使用することができる。また、無置換のアルキル基に対応するアルコキシ基が中心原子に結合している化合物は、市販品をそのまま用いることができる。
【0058】
β-ジケトン化合物に由来する基若しくはβ-ケトエステル化合物に由来する基を有する一般式(3)で表される化合物は、市販品をそのまま用いることができる。この化合物とカチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基に対応するアルコールとを反応させることによって、カチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基及びβ-ジケトン化合物に由来する基若しくはβ-ケトエステル化合物に由来する基を有する一般式(3)で表される化合物を得ることができる。
【0059】
一般式(3)で表される化合物において、カチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基の導入数及びβ-ジケトン化合物に由来する基若しくはβ-ケトエステル化合物に由来する基の導入数の調整は、周期表第4族元素、周期表第13族元素、又は周期表第14族元素のいずれかの中心原子を有する化合物に対する、カチオン重合性基を含む基で置換されたアルキル基に対応するアルコール及びβ-ジケトン化合物若しくはβ-ケトエステル化合物の反応比率を調整することによって行うことができる。
【0060】
反応条件は、用いる原料等に合わせて適宜選択することができる。反応条件は、例えば、無溶媒又は溶媒存在下、反応温度0℃~150℃、反応時間0.5~48時間の範囲で調整することができる。また、反応終了後、揮発成分を減圧留去してもよい。
【0061】
金属アルコキシドの含有量は、硬化性樹脂組成物の全量を基準として、例えば、1~99質量%、5~50質量%、又は8~30質量%であってよい。
【0062】
硬化性樹脂組成物は、主として、カチオン重合性樹脂、酸発生剤、及び金属アルコキシドから構成され得る。カチオン重合性樹脂、酸発生剤、及び金属アルコキシドの合計の含有量は、硬化性樹脂組成物の全量を基準として、例えば、30~99.9質量%、50~99.9質量%、又は70~99.9質量%であってよい。
【0063】
硬化性樹脂組成物は、カチオン重合性樹脂、酸発生剤、及び金属アルコキシド以外のその他の成分をさらに含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、硬化反応遅延剤、ラジカル重合性樹脂(ラジカル重合性基を有する化合物)、ラジカル重合開始剤等が挙げられる。
【0064】
硬化性樹脂組成物は、可使時間の確保の観点から、硬化反応遅延剤をさらに含有していてもよい。硬化反応遅延剤は、特に限定されないが、例えば、ポリオール化合物であってよい。ポリオール化合物としては、例えば、クラウンエーテルが挙げられる。
【0065】
硬化性樹脂組成物は、硬化性又は基材密着性の観点から、ラジカル重合性樹脂をさらに含有していてもよい。ラジカル重合性樹脂におけるラジカル重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。ラジカル重合性樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有するアクリル樹脂であってよく、より具体的には、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であってよい。1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-(o-フェニルフェノール)エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0066】
硬化性樹脂組成物は、ラジカル重合性樹脂を含有する場合、ラジカル重合開始剤をさらに含有していてもよい。ラジカル重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物、ベンゾインケタール、α-ヒドロキシケトン、α-アミノケトン、オキシムエステル、ホスフィンオキシド、トリアリールイミダゾール二量体、ベンゾフェノン化合物、キノン化合物、ベンゾインエーテル、ベンゾイン化合物、ベンジル化合物、アクリジン化合物、N-フェニルグリシン、クマリン等が挙げられる。
【0067】
硬化性樹脂組成物は、塗布が可能なインキ組成物であり得る。硬化性樹脂組成物は、例えば、インクジェットによる塗布法、ディスペンスによる塗布法、ODF(One Drop Fill)法、スクリーン印刷法、スプレー法、ホットメルト法等に適用することができる。硬化性樹脂組成物は、塗膜の作製に好適であることから、インクジェット塗布用のインキ組成物であってよい。インクジェットによる塗布法に適用する場合には、硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、0.01~30mPa・sであってよい。
【0068】
硬化性樹脂組成物は、加熱することによって硬化させる(硬化物を形成する)ことができる。加熱条件は、例えば、加熱温度40℃~150℃、反応時間0.1~5時間の範囲で調整することができる。
【0069】
硬化性樹脂組成物は、有機EL素子の発光部の周囲を封止する有機EL用封止剤として用いることができる。有機EL素子用封止剤は、例えば、発光部の周囲の気密空間を充填するフィル剤であってもよい。
【0070】
[有機EL素子]
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す模式断面図である。
図1に示す有機EL素子1Aは、素子基板2と、素子基板2に対して対向配置された封止基板3と、素子基板2上に設けられた、対向配置された一対の電極(陽極5及び陰極6)とそれらの間に設けられた有機層4とを有する積層体である発光部10と、素子基板2及び封止基板3の外周部を封止する封止シール剤8と、封止シール剤8の内側で発光部10を封止する封止層7とを備えている。封止層7は、上記の実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。封止シール剤8が素子基板2及び封止基板3の外周部を封止することにより、素子基板2及び封止基板3の間で、発光部10の周囲に気密空間が形成される。
【0071】
封止層7は、封止シール剤8の内側で、素子基板2及び封止基板3と接しながら、発光部10の周囲の気密空間を充填している。すなわち、有機EL素子1Aは、いわゆる充填封止構造の有機EL素子であり、封止層7はフィル剤として機能する。発光部10は、封止層7内に埋め込まれている。ただし、気密空間が封止層7によって完全には充填されず、空隙が残っていてもよい。気密空間における封止層の割合は、例えば、50~100体積%、60~100体積%、70~100体積%、80~100体積%、又は90~100体積%であってよい。
【0072】
有機EL素子1Aにおいて、封止層7以外の要素に関しては、当該技術分野において通常のものを適用することができるが、その一例を以下に説明する。
【0073】
素子基板2は、絶縁性及び透光性を有する矩形状のガラス基板からなる、素子基板2上に、透明導電材であるITO(Indium Tin Oxide)によって陽極5(電極)が形成されている。陽極5は、例えば、真空蒸着法、スパッタ法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法により素子基板2上に成膜されたITO膜をフォトレジスト法によるエッチングで所定のパターン形状にパターニングすることにより形成される。電極としての陽極5の一部は、素子基板2の端部まで引き出されて駆動回路(図示せず)に接続される。
【0074】
陽極5の上面には、例えば、真空蒸着法、抵抗加熱法等のPVD法により、有機発光材料を含む薄膜である有機層4が積層されている。有機層4は、単一の層から形成されていてもよく、機能の異なる複数の層から形成されていてもよい。本実施形態における有機層4は、陽極5側から順に、ホール注入層4a、ホール輸送層4b、発光層4c、及び電子輸送層4dが積層された4層構造である。ホール注入層4aは、例えば、数10nmの膜厚の銅フタロシアニン(CuPc)から形成される。ホール輸送層4bは、例えば、数10nmの膜厚のbis[N-(1-naphthyl)-N-phenyl]benzidine(α-NPD)から形成される。発光層4cは、例えば、数10nmの膜厚のトリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)から形成される。電子輸送層4dは、例えば、数nmの膜厚のフッ化リチウム(LiF)から形成される。
【0075】
有機層4(電子輸送層4d)の上面には、真空蒸着法等のPVD法により形成された金属薄膜である陰極6(電極)が積層されている。金属薄膜の材料は、例えばAl、Li、Mg、In等の仕事関数の小さい金属単体やAl-Li、Mg-Ag等の仕事関数の小さい合金であってもよい。陰極6は、例えば数10nm~数100nm、又は50nm~200nmの厚さを有する。陰極6の一部は、素子基板2の端部まで引き出されて駆動回路(図示せず)に接続される。
【0076】
封止基板3は、有機層4を挟んで素子基板2と対向するように配置されている。素子基板2及び封止基板3の外周部は、封止シール剤8により封止されている。封止シール剤としては、例えば、紫外線硬化性樹脂を用いることができる。
【0077】
図2は、有機EL素子の他の一実施形態を示す模式断面図である。
図2に示す有機EL素子1Bは、素子基板2と、素子基板2に対して対向配置された封止基板3と、素子基板2上に設けられた発光部10と、素子基板2及び封止基板3の外周部を封止する封止シール剤8と、封止シール剤8の内側の面上に設けられた乾燥剤層9と、乾燥剤層9の内側で発光部10の周囲を充填する封止層7とから構成される。有機EL素子1Bにおいても、発光部10は封止層7内に埋め込まれている。素子基板2及び封止基板3の間の気密空間が封止層7及び乾燥剤層9によって充填されている。乾燥剤層9は、例えば、酸化カルシウム等のアルカリ土類酸化物を含む酸化物粒子と、バインダーとを含む層であってよい。
【0078】
図3は、有機EL素子の他の一実施形態を示す模式断面図である。
図3に示す有機EL素子1Cは、素子基板2と、素子基板2に対して対向配置された封止基板3と、素子基板2上に設けられた発光部10と、素子基板2及び封止基板3と接しながら、素子基板2と封止基板3との間の発光部10周囲の空間を充填する封止層7とから構成される。
図3の有機EL素子1Cの場合、封止シール剤のような、発光部の周囲に気密空間を形成するような部材は設けられていないが、発光部10が捕水能を有する封止層7内に埋め込まれていることにより、良好な発光寿命を有することができる。
【0079】
図4は、有機EL素子の他の一実施形態を示す模式断面図である。
図4に示す有機EL素子1Dは、素子基板2と、素子基板2に対して対向配置された封止基板3と、素子基板2上に設けられた発光部10と、素子基板2及び封止基板3の外周部を封止する封止シール剤8と、封止シール剤8の内側で発光部10を覆う封止層7とから構成される。有機EL素子1Dにおいても、発光部10は封止層7内に埋め込まれている。
【0080】
有機EL素子1Dを構成する封止層7は、硬化性樹脂組成物の硬化物を含む一つの硬化膜21と、二つの無機膜22とを含む積層構造を有している。発光部10側から、無機膜22、硬化膜21、及び無機膜22の順で積層されている。すなわち、封止層7は最表層としての二つの無機膜22と、それらの内側に配置された硬化膜21とを有する。封止層7を構成する硬化膜及び無機膜の数は限定されず、複数の硬化膜及び無機膜が交互に積層されていてもよい。
図4の場合、封止層7は発光部10を覆うとともに素子基板2の表面も覆っているが、封止シール剤8の内側の素子基板2の全面が覆われていなくてもよい。硬化膜21の厚さは、例えば、0.1~30μmであってもよい。
【0081】
無機膜22は、例えば、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO)、窒素を含む酸化ケイ素(SiON)等から選ばれるケイ素化合物を含む膜であってもよい。無機膜22は、例えば、化学気相成長(CVD)によって形成することができる。無機膜22の厚さは、例えば、0.1~3μmであってもよい。
【0082】
有機EL素子は、例えば、素子基板2又は封止基板3に硬化性樹脂組成物を塗布することを含む方法によって製造することができる。
図4の有機EL素子1Dのように、硬化膜及び無機膜を有する積層構造を有する封止層は、例えば、無機膜に硬化性樹脂組成物を塗布することを含む方法によって製造することができる。
【0083】
一実施形態の有機EL素子の製造方法では、素子基板2上に有機層4等を有する発光部が形成された積層体が準備される。この場合、別途準備した封止基板3上に、上記実施形態の硬化性樹脂組成物をディスペンサ等の方法により塗布して、封止層7を形成する。その後、封止基板3上に塗布した封止層7を囲むように封止シール剤8をディスペンサで塗布する。これらの作業は、露点-76℃以下の窒素で置換されたグローブボックス中で行ってもよい。
【0084】
次に、発光部が搭載された素子基板2と、封止基板3とを、封止層7及び封止シール剤8をそれらの間に挟みながら貼り合わせる。必要により、得られた構造体に紫外線照射及び/又は加熱によって硬化性樹脂組成物及び/又は封止シール剤を硬化することにより、有機EL素子1Aが得られる。有機EL素子1Bも、乾燥剤組成物を用いて乾燥剤層を形成すること以外は同様の方法で、製造することができる。有機EL素子1Cは、封止シール剤を形成しないこと以外は同様の方法で、製造することができる。有機EL素子1Dは、発光部上に無機膜及び硬化膜を順次形成することを含む方法により、製造することができる。
【実施例0085】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0086】
[チタンアルコキシドの合成]
(製造例1)
フラスコに、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)(オルガチックスTC-750(商品名)、マツモトファインケミカル株式会社)10質量部に対して、グリセロールジグリシジルエーテル10質量部(2mol当量)を加えて、120℃で1時間還流を行った。その後、反応によって生じたイソプロパノール等の揮発性成分を、300Paの減圧下、50℃の条件で1時間除去し、さらに300Paの減圧下、120℃の条件で1時間除去し、製造例1のチタンアルコキシドを得た。製造例1のチタンアルコキシドは、オルガチックスTC-750に対して、2mol当量のグリセロールジグリシジルエーテルを反応させたことから、一般式(3)において、mが2であり、nが2であり、Rが式(4)で表されるアルキル基であり、R’がアセト酢酸エチルに由来する基である、チタンアルコキシドであると推測される。
【0087】
[硬化性樹脂組成物の調製]
(実施例1-1)
100質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂(YL983U(商品名)、三菱ケミカル株式会社)、1質量部の四級アンモニウム塩の酸発生剤(カチオン:四級アンモニウム(アニリニウム)、アニオン:B(C6F5)4
-、K-PURE CXC1821(商品名)、King Industries社)、及び10質量部の製造例1のチタンアルコキシドをガラス容器の中で混合して、液状の実施例1-1の硬化性樹脂組成物を得た。
【0088】
(比較例1-1)
四級アンモニウム塩の酸発生剤を用いなかった以外は、実施例1-1と同様にして、液状の比較例1-1の硬化性樹脂組成物を得た。
【0089】
(比較例1-2)
四級アンモニウム塩の酸発生剤を、スルホニウム塩の酸発生剤(カチオン:スルホニウム、アニオン:B(C6F5)4
-、サンエイドSI-B2A(商品名)、三新化学工業株式会社))に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、液状の比較例1-2の硬化性樹脂組成物を得た。
【0090】
(比較例1-3)
四級アンモニウム塩の酸発生剤を、スルホニウム塩の酸発生剤(カチオン:スルホニウム、アニオン:PF6
-、サンエイドSI-300(商品名)、三新化学工業株式会社))に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、液状の比較例1-3の硬化性樹脂組成物を得た。
【0091】
(比較例1-4)
四級アンモニウム塩の酸発生剤を、スルホニウム塩の酸発生剤(カチオン:スルホニウム、アニオン:SbF6
-、サンエイドSI-60(商品名)、三新化学工業株式会社))に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、液状の比較例1-4の硬化性樹脂組成物を得た。
【0092】
(参考例1-1)
製造例1のチタンアルコキシドを用いなかった以外は、実施例1-1と同様にして、液状の参考例1-1の硬化性樹脂組成物を得た。
【0093】
(参考例1-2)
製造例1のチタンアルコキシドを用いなかった以外は、比較例1-1と同様にして、液状の参考例1-2の硬化性樹脂組成物を得た。
【0094】
(参考例1-3)
製造例1のチタンアルコキシドを用いなかった以外は、比較例1-2と同様にして、液状の参考例1-3の硬化性樹脂組成物を得た。
【0095】
(参考例1-4)
製造例1のチタンアルコキシドを用いなかった以外は、比較例1-3と同様にして、液状の参考例1-4の硬化性樹脂組成物を得た。
【0096】
(実施例2-1)
100質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂(YL983U(商品名)、三菱ケミカル株式会社)、1質量部の四級アンモニウム塩の酸発生剤(カチオン:四級アンモニウム(アニリニウム)、アニオン:B(C6F5)4
-、K-PURE CXC1821(商品名)、King Industries社)、及び10質量部のジルコニウムテトラプロポキシドをガラス容器の中で混合して、液状の実施例2-1の硬化性樹脂組成物を得た。
【0097】
(実施例2-1)
100質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂(YL983U(商品名)、三菱ケミカル株式会社)、1質量部の四級アンモニウム塩の酸発生剤(カチオン:四級アンモニウム(アニリニウム)、アニオン:B(C6F5)4
-、K-PURE CXC1821(商品名)、King Industries社)、及び10質量部のジルコニウムアルコキシド(ジルコニウムテトラプロポキシド)をガラス容器の中で混合して、液状の実施例2-1の硬化性樹脂組成物を得た。
【0098】
(比較例2-1)
四級アンモニウム塩の酸発生剤を用いなかった以外は、実施例2-1と同様にして、液状の比較例2-1の硬化性樹脂組成物を得た。
【0099】
(比較例2-2)
四級アンモニウム塩の酸発生剤を、スルホニウム塩の酸発生剤(カチオン:スルホニウム、アニオン:B(C6F5)4
-、サンエイドSI-B2A(商品名)、三新化学工業株式会社))に変更した以外は、実施例2-1と同様にして、液状の比較例2-2の硬化性樹脂組成物を得た。
【0100】
[硬化性の評価]
各硬化性樹脂組成物をスクリュー瓶に0.2g加えて、100℃で1時間加熱した。加熱後、硬化性樹脂組成物が硬化しているかどうかを確認し、硬化していた場合を「硬化」、硬化していなかった場合を「未硬化」と評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0101】
【0102】
【0103】
表1に示すとおり、エポキシ樹脂及び酸発生剤を含有し、金属アルコキシドを含有しない参考例1-1~1-4の硬化性樹脂組成物は、加熱後においていずれも硬化していた。一方で、エポキシ樹脂、酸発生剤、及び金属アルコキシドを含有する硬化性樹脂組成物においては、酸発生剤が四級アンモニウム塩である実施例1-1の硬化性樹脂組成物は、加熱後において硬化していたものの、酸発生剤がスルホニウム塩である比較例1-2~1-4の硬化性樹脂組成物は、加熱後において硬化しておらず、流動性を有していた。このような傾向は、表2に示すとおり、金属アルコキシドとしてジルコニウムアルコキシドを用いた場合も同様であった。これらの結果から、本発明の硬化性樹脂組成物が、硬化反応の進行が阻害され難いことが確認された。
1A,1B,1C,1D…有機EL素子、2…素子基板、3…封止基板、4…有機層、4a…ホール注入層、4b…ホール輸送層、4c…発光層、4d…電子輸送層、5…陽極、6…陰極、7…封止層、8…封止シール剤、9…乾燥剤層、10…発光部。