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特開2022-182029インダクタ、トランス、及び電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182029
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】インダクタ、トランス、及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20221201BHJP
   H02M 3/00 20060101ALI20221201BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20221201BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20221201BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61N 1/39 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
H01F17/04 Z
H02M3/00 H
H01F17/04 A
H01F17/04 F
H01F30/10 A
H01F30/10 C
H01F30/10 Z
H01F30/10 M
H01F37/00 A
H01F37/00 C
H01F37/00 Z
H01F5/00 F
A61N1/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089320
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】520322026
【氏名又は名称】ASKLEPIOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597019609
【氏名又は名称】株式会社 シーディエヌ
(74)【代理人】
【識別番号】110002055
【氏名又は名称】特許業務法人iRify国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】松井 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】野田 龍三
【テーマコード(参考)】
4C053
5E070
5H730
【Fターム(参考)】
4C053JJ01
5E070AA01
5E070AA11
5E070AB01
5E070BA20
5E070BB05
5E070CA02
5E070CA20
5H730AS04
5H730BB14
5H730BB23
5H730DD02
5H730EE02
(57)【要約】
【課題】小型且つ大電流の入力に対応可能なインダクタを提供する。
【解決手段】スイッチ161を電源部19から供給される電流に応じた誘導電圧を発生させるインダクタ163において、比透磁率の値11よりも大きく、且つ導電性を有し電源部19から電流を供給される配線材にコアの役割を兼ねさせる。電源部19から電流を供給される配線材は、導電性を有する永久磁石により構成される第1部材163aと、強磁性を有する金属により形成される第2部材163bと、導電性を有する永久磁石により形成される第3部材163cとを、電源部19から供給される電流の流れる方向に積層して構成される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部から供給される電流の変化に応じて誘導電圧を発生させるインダクタにおいて、
比透磁率が1よりも大きな値であり、且つ導電性を有し前記電流を供給される配線材に、コアの役割を兼ねさせる、
ことを特徴とするインダクタ。
【請求項2】
前記配線材は、導電性を有する永久磁石を含む、請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記配線材は、導電性を有する永久磁石である、請求項1に記載のインダクタ。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちの何れか1項に記載のインダクタを含み、
前記電源部から供給される入力電圧を出力電圧に変圧して出力するトランスにおいて、
前記入力電圧が印加される一次側或いは前記出力電圧を出力する二次側の何れか一方、又は前記一次側と前記二次側との両方が前記インダクタの磁気結合により構成される、
ことを特徴とするトランス。
【請求項5】
電源部から供給される電力を変圧して出力するトランスにおいて、
二次側コイルと、
強磁性と導電性とを有し前記電源から電流を供給される配線材であって、前記二次側コイルを巻回するための貫通孔が前記電流の流れる方向に沿って設けられた配線材と、を備え、
前記配線材は、前記二次側コイルを巻回されるコアの役割を兼ねる、
ことを特徴とするトランス。
【請求項6】
請求項1乃至3のうちの何れか1項に記載のインダクタ、或いは請求項4又は請求項5に記載のトランス、を備える、
ことを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インダクタ、トランス、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動体外式除細動器(AED;Automated External Defibrillator)は、心停止の最も一般的な原因である心室細動又は心室頻拍の際に使用される医療機器である。心停止状態の患者の心臓に自動体外式除細動器を用いて体外から電気ショック(高電圧パルス)を与えることによって、一定のリズムで拍動する正常な状態に戻る場合がある。自動体外式除細動器に関する先行技術文献としては特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013-543781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動体外式除細動器は2000ボルト程の直流高電圧を必要とする。しかし、自動体外式除細動器の電源部は電池であることが一般的であり、この電源部の出力電圧は12ボルト程度である。12ボルトの直流電圧を2000ボルト程の直流高電圧に変換するには昇圧回路が用いられる。昇圧回路の具体例としては、図11に示されるようにインダクタLLを用いた回路C1、又は図12に示されるようにトランスTRを用いた回路C2が挙げられる。図11及び図12におけるスイッチSWは、電池Batの直流電力を変化電流・電圧に変換する役目を担う。回路C1におけるインダクタLLは、変化電流に対して変化電圧を発生させる。回路C2におけるトランスTRは変化電圧又は電流に対して変化電圧を発生させる。この変化電圧から高電圧が得られる。この高電圧をダイオードDで整流することにより、負荷RLへ供給する直流高電圧が得られる。
【0005】
自動体外式除細動器において発生させる電気ショックの電圧は2000ボルト程度であり、その電流は30アンペア程度であることが一般的である。電池の電圧は12ボルトであるから、エネルギー保存則から換算すると、一次側電流は5000アンペアになる。このような電流を電池側で発生させるとすると、一次側の線材を太くすることが必要となる。
【0006】
しかし、一次側の線材を太くすると、コアも太くすることが必要となり、インダクタ全体又はトランス全体の大型化を招く。 インダクタ又はトランスの大型化は、インダクタ又はトランスを含む昇圧回路を搭載する自動体外式除細動器の大型化を招き、好ましくない。このような機器全体の大型化という問題は、自動体外式除細動器には限らず、インダクタ又はトランスを含む昇圧回路を搭載する電子機器であれば、電子機器の種類を問わずに同様に発生する。
【0007】
本開示は上述した事情に鑑みてなされたものであり、小型且つ大電流の入力に対応可能なトランス又はインダクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様のインダクタ、電源部から供給される電流の変化に応じて誘導電圧を発生させるインダクタにおいて、比透磁率が1よりも大きな値であり、且つ導電性を有し前記電流を供給される配線材に、コアの役割を兼ねさせる、ことを特徴とする。
【0009】
より好ましい態様のインダクタにおいて、前記配線材は、導電性を有する永久磁石を含む。
【0010】
より好ましい態様のインダクタにおいて、前記配線材は、導電性を有する永久磁石である。
【0011】
本開示の一態様のトランスは、前記電源部から供給される入力電圧を出力電圧に変圧して出力するトランスにおいて、上記何れかの態様のインダクタを含み、前記入力電圧が印加される一次側或いは前記出力電圧を出力する二次側の何れか一方、又は前記一次側と前記二次側との両方が前記インダクタの磁気結合により構成される。
【0012】
本開示の別の態様のトランスは、電源部から供給される電力を変圧して出力するトランスにおいて、二次側コイルと、比透磁率が1よりも大きな値であり、且つ導電性を有し前前記電源から電流を供給される配線材であって、前記二次側コイルを巻回するための貫通孔が前記電流の流れる方向に沿って設けられた配線材と、を備える。そして、前記配線材は、前記二次側コイルを巻回されるコアの役割を兼ねる。
【0013】
本開示の一態様の電子機器は、上記何れかの態様のインダクタ、或いは上記何れかの態様のトランス、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の電子機器の一実施形態による自動体外式除細動器1の外観の一例を示す図である。
図2】自動体外式除細動器1の使用の様子を示す図である。
図3】自動体外式除細動器1の機能構成例を示す機能ブロック図である。
図4】高電圧生成部16の構成例を示す図である。
図5】変形例(1)に係るインダクタ164の一例を示す図である。
図6】変形例(2)に係るトランス166の一例を示す図である。
図7】変形例(2)に係るトランス167の一例を示す図である。
図8】変形例(2)に係るトランス168の一例を示す図である。
図9】変形例(2)に係るトランス169の一例を示す図である。
図10】変形例(3)に係るトランス170の一例を示す図である。
図11】インダクタLLを用いた昇圧回路の一例を示す図である。
図12】トランスTRを用いた昇圧回路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に述べる実施形態には技術的に好ましい種々の限定が付されている。なお、図面において各部の寸法及び縮尺は実際のものと適宜異なる。また、以下に記載する実施形態は、本開示の好適な具体例である。このため、以下の実施形態には、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかし、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0016】
(A:実施形態)
図1は、本開示の実施形態に係る自動体外式除細動器1の外観の一例を示す図である。図1に示されるように、自動体外式除細動器1は、本体部10と、電極パッド30A及び電極パッド30Bと、本体部10と電極パッド30Aとを電気的に接続するケーブル40Aと、本体部10と電極パッド30Bとを電気的に接続するケーブル40Bと、を有する。図2は、自動体外式除細動器1の使用の様子を示す図である。自動体外式除細動器1の使用の際には、電極パッド30A及び電極パッド30Bは、心停止状態の患者の右胸付近及びわき腹付近にそれぞれ装着される。
【0017】
図1に示されるように、本体部10の平面には、表示部11と、操作部12とが設けられる。表示部11は、例えば液晶ディスプレイとその駆動回路とを含む。表示部11には、自動体外式除細動器1の操作状態等を示す情報が表示される。操作部12は、自動体外式除細動器1の使用者に動作開始を指示させるためのボタン等の各種操作子を含む。
【0018】
図3は、自動体外式除細動器1の機能構成を示す機能ブロック図である。図3に示されるように、自動体外式除細動器1は、表示部11及び操作部12の他に、記憶部13、制御部14、通信部15、高電圧生成部16、心電図信号取得部17、状態検出部18、電源部19、及び音声出力部20を有する。記憶部13、制御部14、通信部15、高電圧生成部16、心電図信号取得部17、状態検出部18、電源部19、及び音声出力部20は本体部10に内蔵される。
【0019】
電源部19は、出力電圧が12ボルト程度の電池を含む。電源部19は、電池の他に、商用電源から供給される交流電力により上記電池を充電する充電器を含んでもよい。図3に示すように、電源部19は、高電圧生成部16に接続される。図3では詳細な図示が省略されているが、電源部19は、表示部11、操作部12、記憶部13、制御部14、通信部15、心電図信号取得部17、状態検出部18、及び音声出力部20の各部にも接続される。電源部19は、表示部11、操作部12、記憶部13、制御部14、通信部15、高電圧生成部16、心電図信号取得部17、状態検出部18、及び音声出力部20の各部に動作電力を供給する。
【0020】
制御部14は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、即ちコンピュータを含む。制御部14には、単一のコンピュータが含まれてもよく、また、複数のコンピュータが含まれてもよい。また、制御部14は、ゲートアレイ、及びA/Dコンバータを含む。表示部11、操作部12、記憶部13、通信部15、高電圧生成部16、心電図信号取得部17、状態検出部18、及び音声出力部20の各々は制御部14に接続される。
【0021】
制御部14は、記憶部13に記憶されている制御プログラム(図3では図示略)に従って作動することにより、自動体外式除細動器1の制御中枢として機能する。制御プログラムに従って作動している制御部14は、表示部11、操作部12、記憶部13、通信部15、高電圧生成部16、心電図信号取得部17、状態検出部18、及び音声出力部20の各々の作動制御を行うことによって、心電図解析及び電気ショックの出力制御等を行う。
【0022】
記憶部13は、図3では詳細な図示を省略したが、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリとRAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリとを含む。不揮発性メモリには、前述の制御プログラムが予め記憶されている。揮発性メモリは、前述の制御プログラムを実行する際のワークエリアとして制御部14によって利用される。また、揮発性メモリには、心電図信号等が一時的に記憶される。
【0023】
通信部15は、制御部14による制御の下、サーバ装置等の外部機器と無線又は有線の通信を行う通信インタフェースである。音声出力部20は、スピーカ等の放音装置を含む。音声出力部20は、制御部14による制御の下、音声ガイドや音声による警告等の出力を行う。
【0024】
電極パッド30Aはケーブル40Aを介して高電圧生成部16、心電図信号取得部17、及び状態検出部18に接続される。電極パッド30Bはケーブル40Bを介して高電圧生成部16、心電図信号取得部17、及び状態検出部18に接続される。
【0025】
心電図信号取得部17は、電極パッド30A及び電極パッド30Bからの心電図信号に含まれる雑音のフィルタリング、及び雑音をフィルタリング済の心電図信号の増幅等を行う。心電図信号取得部17により増幅された心電図信号は、制御部14に送られ、心電図解析等に用いられる。
【0026】
状態検出部18は、例えば、電極パッド30A及び電極パッド30Bと患者の体表面の間のインピーダンスを測定することにより、電極パッド30A及び30Bの患者への装着状態を検出する。状態検出部18は、電極パッド30A及び30Bの患者への装着状態を示す装着状態信号を制御部14へ出力する。
【0027】
高電圧生成部16は、制御部14からの制御信号に基づいて、電極パッド30A及び電極パッド30Bから患者に与える電気ショックに係る高電圧パルス(より具体的には、電極パッド30Aと電極パッド30Bとの間の電位差)を発生させる。図3に示されるように、高電圧生成部16は、インダクタ163と、制御部14からの制御信号に応じてオン/オフが切り替えられるスイッチ161と、例えばダイオード等の整流素子162とを備える。
【0028】
図3に示されるように、スイッチ161とインダクタ163とは、電源部19に直列に接続される。インダクタ163の一端(即ち、インダクタ163の一方の出力端)はケーブル40Aを介して電極パッド30Aに接続される。インダクタ163の他端(インダクタ163の他方の出力端)は整流素子162及びケーブル40Bを介して電極パッド30Bに接続される。整流素子162は、インダクタ163を充電する際に、電源部19→電極パッド30A→患者→電極パッド30B→電源部19といった経路に沿って電流が流れないようにするために設けられる。電極パッド30A→患者→電極パッド30Bの経路における抵抗値が、インダクタ163の抵抗値よりも十分に大きい場合には、整流素子162は省略されてもよい。
【0029】
電源部19からインダクタ163に供給される電流をI、インダクタ163のインダクタンスをLとすると、スイッチ161をオフからオンに切り替えることによって、インダクタ163には、充電エネルギーJi=L×I2/2が蓄えられる。
【0030】
インダクタ163を充電した後、スイッチ161をオンからオフに切り替えると、インダクタ163における自己誘導によって、充電エネルギーJiに応じた誘導電圧Vが電極パッド30A及び電極パッド30B間に発生する。このため、電源部19からインダクタ163に供給される電流Iとインダクタ163のインダクタンスLの少なくとも一方を適切に設定することで、心停止状態の心臓を正常な状態に戻すための電気ショックに必要な誘導電圧Vを発生させることができる。
【0031】
心停止状態の患者の心臓を正常な状態に戻すためには、電圧値が2000~3000ボルト及び電流値が30アンペア程度の電気ショック(パルス)を患者に与えることが必要となる。高耐圧コンデンサを用いた従来の自動体外式除細動器では、所定の充電時間にわたって高耐圧コンデンサを充電することで150ジュール程度のエネルギーが高耐圧コンデンサに蓄積され、高耐圧コンデンサに蓄積されたエネルギーを2.5ミリ秒等の短時間のうちに放出することで電気ショックの発生が実現された。これに対して、本実施形態の自動体外式除細動器1では、インダクタ1603おける逆起電力を利用して直流12ボルトから2000ボルトの高電圧が得られる。ただし、本実施形態では、高電圧が得られる時間は、パルス状の極短時間になる。本実施形態の自動体外式除細動器1では、パルスの連続波エネルギーを波形整形及び極性制御により必要なエネルギーが得られる。電源部19からインダクタ163に印加される電圧は12ボルトであるから、心停止状態の患者の心臓を正常な状態に戻す電気ショックの発生には、エネルギー保存則により、電源部19かららインダクタ163へ5000アンペア程度の大電流を供給することが必要となる。
【0032】
一般に、インダクタは、フェライト等で形成されたコア(鉄心)にコイルを巻回して構成される。このようなインダクタをインダクタ163として用い、5000アンペア程度の大電流をインダクタ163に供給する場合、スイッチ161を介してインダクタ163を電源部19に接続する配線材及びコイルを形成する線材を太くすることが必要となる。コイルを形成する線材を太くするとコアを大きくすることが必要となる。しかし、配線材を太くすること、及びコアを大きくすることはインダクタ163の大型化につながり好ましくない。
【0033】
そこで、本実施形態では、インダクタ163の大型化を避けつつ、インダクタ163に大電流を供給できるようにするために、電源部19から電力の供給を受ける配線材の内部インダクタンスが利用される。換言すれば、本実施形態におけるインダクタ163では、電源部19から電力の供給を受ける配線材がコアの役割を兼ねる。配線材のインダクタンスLは、配線材の内部におけるインダクタンスである内部インダクタンスLiと配線材の外部空間における外部インダクタンスLoとを用いて以下の式(1)のように表される。
L=Li+Lo・・・(1)
【0034】
配線材の長さをl、配線材の長手方向と直交する面による配線材の断面を半径aの円とすると、内部インダクタンスLi及び外部インダクタンスLoは以下の式(2)及び式(3)により表される。なお、式(2)及び式(3)においてπは円周率であり、μは配線材の透磁率、μ0は真空の透磁率である。配線材の透磁率μは真空の透磁率μ0と配線材の比透磁率μsとの積で表される(すなわち、μ=μ0×μs)。また、式(3)におけるln()は自然対数を意味する。
Li=μ×l/(8×π)・・・(2)
L0≒μ0×l×(ln(2×l/a)-1)/(2×π)・・・(3)
【0035】
通常の配線材ではμsは約1である。a=1ミリメートル、l=1メートルとすると、通常の配線材ではLiは50ナノヘンリ程度となり、Loは1.32マイクロヘンリとなる。従って、通常の配線材全体のインダクタンスLは1.37マイクロヘンリとなる。通常の配線材ではμs≒1であり、内部インダクタンスLiを大きくすることはできない。しかし、配線材として導電性を有する強磁性材料を用いること、即ち配線材の比透磁率μsを1よりも大きな値とすることで、内部インダクタンスLiを大きくすることができる。また、配線材の内部インダクタンスLiは配線材の断面の半径aには依存しないので、5000アンペア程度の電流を流すために配線材を太く(即ち断面積を大きくして電気抵抗を小さく)しても内部インダクタンスLiは特段の影響を受けない。
【0036】
図4は、本実施形態におけるインダクタ163の構成例を示す図である。なお、図4には、インダクタ163の他に、インダクタ163とともに高電圧生成部16を構成する他の構成要素(スイッチ161及び整流素子162)と、電源部19と、電極パッド30A及び電極パッド30Bと、ケーブル40A及びケーブル40Bとが図示されている。インダクタ163は、磁性金属等を円筒形に形成して成る第3部材163cを、各々ネオジム磁石等を用いて円盤状に形成された第1部材163a及び第2部材163bで挟持することにより構成される。インダクタ163が太い円筒状に形成されているのは、電源部19からインダクタ163に5000アンペアの大電流が供給されるためである。第1部材163a、第2部材163b及び第3部材163cは、電源部19からの電力が供給される配線材の役割を担うとともに、インダクタ163におけるコアの役割を担う。換言すれば、インダクタ163においてコアの役割を担い、且つ電源部19からの電力が供給される配線材は、第1部材163a、第2部材163b及び第3部材163cを、電源部19から供給される電流の流れる方向に積層して構成される。電源部19からの電力が供給される配線材を第1部材163a、第2部材163b及び第3部材163cを積層して構成したのは、μsを1よりも大きな値とするためである。
【0037】
インダクタ163におけるコアの役割を担う配線材の比透磁率μsの好適な値は、以下のように考察される。一般的なコアおける磁束密度Bの最大値は2テスラ程度である。一方、磁束密度Bと磁場Hとの間にはB=μHの関係がある。ここで、H=I/lの関係があるので、I=5000アンペア、l=1メートルを代入して整理すると、μs=32となる。従って、μsの好適な値は10~100と考えられる。図4に示すインダクタ163では、μsの値が10~100となるように、第1部材163a、第2部材163b及び第3部材163cの各々の素材及び形状が調整されている。
【0038】
以上説明したようにインダクタ163は、コイルを有さないため、大型化を回避しつつ大電流の入力に対応可能である。インダクタ163は小型且つ大電流の入力に対応可能であるため、自動体外式除細動器1の大型化を回避できる。
【0039】
(B:変形)
上述した実施形態は以下のように変形され得る。
(1)上記実施形態では、インダクタ163におけるコアの役割を担うとともに電源部19からの電力が供給される配線材が、第1部材163a、第2部材163b及び第3部材163cにより構成された。しかし、μsの値が1よりも大きな値、より具体的には10~100という条件を満たせば、コアの役割を担い、且つ電源部19からの電力が供給される配線材は、ネオジム磁石等の永久磁石により形成されてもよい。図5に示すインダクタ164では、コアの役割を担い、且つ電源部19からの電力が供給される配線材が永久磁石により構成されている。なお、図5には、図4と同様に、インダクタ164の他に、インダクタ164とともに高電圧生成部16を構成する他の構成要素(スイッチ161及び整流素子162)と、電源部19と、電極パッド30A及び電極パッド30Bと、ケーブル40A及びケーブル40Bとが図示されている。図5に示すインダクタ164によっても、小型が可能になり、且つ大電流の入力が可能になる。
【0040】
(2)上記実施形態における高電圧生成部16は、インダクタ163を用いて構成された。しかし、図6に示すように、インダクタ163に代えて、トランス166を用いて高電圧生成部16が構成されてもよい。トランス166は、導電性を有し、且つ比透磁率μsの値が1よりも大きな値である配線材166aと、コイル166bとを備える。コイル166bは本開示における二次側コイルの一例である。配線材166aは、図4に示すインダクタ163における配線材のように永久磁石を含んで構成されてもよい。具体的には、図6に示すトランス166の配線材166aは、インダクタ163における配線材と同様に、導電性を有する第1永久磁石と、強磁性を有する金属と、導電性を有する第2永久磁石と、を電源から供給される電流の流れる方向に積層して構成されてもよい。また、配線材166aは、図5に示すインダクタ164における配線材のように永久磁石であってもよい。配線材166aは、トランス166におけるコアの役割を兼ね、コイル166bは当該コアに巻回される。配線材166aには、電源部19から供給される電流の流れる方向に沿って、コイル166bを巻回するための貫通孔166cが設けられる。図6に示すトランス166によれば、インダクタ163と同様に、大型化を回避しつつ大電流の入力への対応が可能になる。
【0041】
また、図7に示すように、トランス166に代えて、トランス167を用いて高電圧生成部16が構成されてもよい。トランス167は、コイル166b1とコイル166b2とを有する点においてトランス166と異なる。コイル166b1及びコイル166b2は本開示における二次側コイルの一例である。コイル166b1及びコイル166b2の各々の一端はケーブル40Aを介して電極パッド30Aに接続される。コイル166b1の他端は整流素子162a及びケーブル40Bを介して電極パッド30Bに接続され、コイル166b2の他端は整流素子162b及びケーブル40Bを介して電極パッド30Bに接続される。図7に示すトランス167によっても、トランス166と同様に、大型化を回避しつつ大電流の入力への対応が可能になる。
【0042】
また、トランス166又はトランス167に代えて、図8に示すトランス168を用いて高電圧生成部16が構成されてもよい。トランス168は、コアの役割を兼ねる配線材168aにコイル166b1及びコイル166b2の各々を巻回して構成される。図8における符号Iは、電源部19から配線材168aに供給される電流を示す。配線材168aは、導電性を有し、且つ比透磁率μsの値は1よりも大きい。配線材168aは、コイル166b1を巻回するための貫通孔166c1とコイル166b2を巻回するための貫通孔166c2とを有する。図8に示すトランス168によっても、トランス166と同様に、大型化を回避しつつ大電流の入力への対応が可能になる。
【0043】
また、トランス166、トランス167又はトランス168に代えて、図9に示すトランス169を用いて高電圧生成部16が構成されてもよい。図9は、トランス169を、電源部19からの電流の流入側から見た平面図である。図9に示すように、トランス169は、コアの役割を兼ねる配線材169aにコイル166b1、166b2、166b3、及び166b4の各々を巻回して構成される。コイル166b1、166b2、166b3、及び166b4は本開示における二次側コイルの一例である。配線材169aは、配線材166a1、配線材166a2、配線材166a3、及び配線材166a4を配線材166eにより接続して構成される。配線材166a1は、トランス166における配線材166aと同様に構成され、貫通孔166c1を有する。配線材166a1には、コイル166b1が巻回される。配線材166a2は、トランス166における配線材166aと同様に構成され、貫通孔166c2を有する。配線材166a2には、コイル166b2が巻回される。配線材166a3は、トランス166における配線材166aと同様に構成され、貫通孔166c3を有する。配線材166a3には、コイル166b3が巻回される。配線材166a4は、トランス166における配線材166aと同様に構成され、貫通孔166c4を有する。配線材166a4には、コイル166b4が巻回される。配線材166eは、配線材166a1、配線材166a2、配線材166a3及び配線材166a4の各々と同じ素材で構成される。図9に示すトランス169によっても、トランス166と同様に、大型化を回避しつつ大電流の入力への対応が可能になる。
【0044】
(3)前述したトランス166では、電源部19からの入力電圧が印加される一次側とし出力電圧を出力する二次側との両方がインダクタ163と同等のインダクタの磁気結合により構成された。この点は、トランス167、168及び169においても同様である。しかし、図10に示すトランス170のように一次側或いは二次側の何れか一方が、インダクタ163と同等のインダクタの磁気結合により構成されてもよい。図10に示すトランス170は、配線材166aと、配線材166aに各々巻回されるコイル166b1、コイル166b2、及びコイルb3を有する。トランス170におけるコイル166b2は一次側コイルであり、トランス170におけるコイル166b3はコイル166b2と対を成す二次側コイルである。コイル166b1の出力とコイル166b3の出力とは別系統であってもよいし、図10にて点線で示すように両系統が接続され、一つの系統として利用されてもよい。
【0045】
(4)上記実施形態における自動体外式除細動器1は、インダクタ163を用いて構成された高電圧生成部16を有する電子機器の一例であった。しかし、本開示の適用対象の電子機器は、自動体外式除細動器には限定されず、所謂家電、家庭用ゲーム機、パーソナルコンピュータ、又はカーナビ等の電子機器であってもよい。要は、インダクタ又はトランスを含む昇圧回路を搭載する電子機器であれば、本開示の適用が可能である。また、インダクタ163又はインダクタ164が単体で製造又は販売されてもよい。同様に、トランス166、トランス167、トランス168、トランス169、又はトランス170が単体で製造又は販売されてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…自動体外式除細動器、10…本体部、30A,30B…電極パッド、40A,40B…ケーブル、11…表示部、12…操作部、13…記憶部、14…制御部、15…通信部、16…高電圧生成部、166,167,168,169,170…トランス、166a,166a1,166a2,166a3,166a4、166d,166e,168a,169a…配線材、166b,166b1,166b2,166b3,166b4…コイル、166c,166c1,166c2,166c3,166c4…貫通孔、161…スイッチ、162…整流素子、163,164…インダクタ、17…心電図信号取得部、18…状態検出部、19…電源部,20…音声出力部。
図1
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図12