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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182071
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】モーターロータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20220101AFI20221201BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H02K1/27 501A
H02K1/27 501K
H02K1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089385
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 洋三
【テーマコード(参考)】
5H601
5H622
【Fターム(参考)】
5H601AA08
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601GA02
5H601GA24
5H601GA32
5H601GC02
5H601GC12
5H601GC26
5H601HH01
5H601KK30
5H622CA02
5H622CA10
5H622CB03
5H622CB04
5H622CB05
5H622PP10
(57)【要約】
【課題】従来のモーターロータは、カシメにより永久磁石を固定する構造であるため、アモルファス材のような脆性材料をコア板に適用することが困難であった。
【解決手段】複数のコア板2を積層して成り且つその積層方向に貫通した透孔3を有するコア材2と、透孔3に収容した永久磁石5とを備え、永久磁石5が、側面に、少なくともロータ軸回り方向Rに開放された凹部6を有し、複数のコア板2のうちの一部のコア板2が、ロータ軸回り方向にずれた状態で凹部6に係合しているモーターロータ1とし、アモルファス材などの薄板をコア板2に用いた場合でも、永久磁石5を充分に固定することができ、モータの性能向上に貢献する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコア板を積層して成り且つその積層方向に貫通した透孔を有するコア材と、
前記透孔に収容した永久磁石とを備えたモーターロータであって、
前記永久磁石が、側面に、少なくともロータ軸回り方向に開放された凹部を有し、
複数の前記コア板のうちの一部のコア板が、前記凹部に係合していることを特徴とするモーターロータ。
【請求項2】
前記永久磁石が、前記コア板の積層方向に配置した複数の前記凹部を有し、
複数の前記コア板のうちの一部のコア板が、ロータ軸回り方向の一方向から前記凹部に係合していると共に、
複数の前記コア板のうちの別の一部のコア板が、ロータ軸回り方向の他方向から別の前記凹部に係合していることを特徴とする請求項1に記載のモーターロータ。
【請求項3】
前記コア板と前記凹部との係合箇所が、前記永久磁石のロータ軸側であって、且つ前記前記コア材の半径方向に一致する前記永久磁石の中心線に対して対称となる位置に設けてあることを特徴とする請求項1又は2に記載のモーターロータ。
【請求項4】
請求項1に記載のモーターロータを製造するに際し、
前記コア材が、前記透孔と、前記コア板の積層方向に開放された貫通孔とを有し、
前記コア材の前記透孔に前記永久磁石を収容した後、
前記貫通孔に挿入した治具により、複数の前記コア板のうちの一部のコア板をロータ軸回り方向に押圧して前記凹部に係合させることを特徴とするモーターロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを構成するモーターロータの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のモーターロータとしては、例えば、特許文献1に記載されているものがある。特許文献1に記載のモータコアは、複数のコア板を積層して成ると共に、永久磁石を収容する透孔を有する。透孔の内部には、選択したコア板に、固定片や凹部が形成してある。そして、モータコアは、透孔に永久磁石を収容し、固定片を凹部内に折り曲げて永久磁石に圧接させることにより、透孔内に永久磁石を固定した構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-172441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、モータの性能向上を図るために、モーターロータのコア板に、アモルファス材などの薄板を用いることが検討されている。しかしながら、従来のモーターロータは、固定片を折り曲げて永久磁石に圧接する構造、いわゆるカシメにより永久磁石を固定する構造であるため、アモルファス材のような脆性材料をコア板に適用することが困難であるという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0005】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたもので、アモルファス材などの薄板をコア板に用いた場合でも、永久磁石を充分に固定することができ、モータの性能向上に貢献することができるモーターロータ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わるモーターロータは、複数のコア板を積層して成り且つその積層方向に貫通した透孔を有するコア材と、透孔に収容した永久磁石とを備えている。そして、モーターロータは、永久磁石が、側面に、少なくともロータ軸回り方向に開放された凹部を有し、複数のコア板のうちの一部のコア板が、凹部に係合していることを特徴としている。
【0007】
本発明に係わるモーターロータの製造方法は、上記のモーターロータを製造するに際し、コア材に、透孔と、コア板の積層方向に開放された貫通孔とを形成し、コア材の透孔に永久磁石を収容した後、貫通孔に挿入した治具により、複数のコア板のうちの一部のコア板をロータ軸回り方向に押圧して凹部に係合させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係わるモーターロータ及びその製造方法は、上記構成を採用したことにより、アモルファス材などの薄板をコア板に用いた場合でも、永久磁石を充分に固定することができ、モータの性能向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係わるモーターロータの第1実施形態を説明する図であって、全体の4分の1の部分を示す平面図である。
図2図1に示す永久磁石を説明する斜視図(A)、及び永久磁石の凹部の他の例を示す斜視図(B)である。
図3図1中のA-A線矢視に基づく要部の断面図であって、永久磁石を収容した状態を示す断面図(A)、及び永久磁石を固定した状態を示す断面図(B)である。
図4】第1実施形態に適用可能なコア板を説明する各々平面図(A)~(D)である。
図5】本発明に係わるモーターロータの第2実施形態を説明する図であって、永久磁石を収容した状態を示す断面図(A)、及び永久磁石を固定した状態を示す断面図(B)である。
図6】第2実施形態に適用可能なコア板を説明する各々平面図(A)~(F)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〈第1実施形態〉
図1に示すモーターロータ1は、外周側に配置されるステータ(図示略)とともにモータを構成し、ロータ軸Crを中心にして回転する。モーターロータ1は、複数のコア板2を積層して成り且つその積層方向に貫通した透孔3を有するコア材4と、透孔3に収容した永久磁石5とを備えている。
【0011】
永久磁石5は、図2(A)に示すように、側面に、少なくともロータ軸回り方向(矢印R方向)に開放された凹部6を有する。そして、モーターロータ1は、複数のコア板2のうちの一部のコア板2が、凹部6に係合している構造を有する。この実施形態では、一部のコア板2が、ロータ軸回り方向(R方向)にずれた状態で凹部6に係合している。
【0012】
コア材4は、その外周に沿って透孔3を所定間隔で有すると共に、コア板2の積層方向に開放された複数の貫通孔7を有している。また、図示例の永久磁石5は、矩形の平板状であって、コア板2の積層方向に主面の長辺を一致させた姿勢で透孔3に収容される。なお、コア材4は、必要に応じて他のコア材と積層されて積層体を構成し、積層体の上下に配置するエンドプレートや回転軸などが取り付けられる。
【0013】
上記の永久磁石5は、透孔3に収容した姿勢において、ロータ軸Cr側となる主面とその両側面のうちの片方の側面との角に、複数(図示例では3個)の凹部6が所定間隔で形成してある。これにより、凹部6は、少なくともロータ軸回り方向に開放され、ロータ軸Cr側にも開放されている。
【0014】
次に、図3に基づいて、上記ロータモータ1及びその製造方法を説明する。
すなわち、ロータモータ1の製造方法は、図3(A)に示すように、複数のコア板2を積層した後、透孔3に永久磁石5を収容する。次に、上記製造方法では、図2(B)に示すように、複数のコア板2のうちの一部のコア板2、より具体的には、永久磁石5の各凹部6に対応する位置にあるコア板2をロータ軸回り方向にずらせる。
【0015】
この際、上記製造方法では、透孔3の近傍の貫通孔7に挿入する治具8を用いる。この治具8は、図2(B)に示すように、本体8Aに、各凹部6の位置に対応する突起8Bを有し、透孔3に挿入した後、各突起8Bで該当する夫々のコア板2を押圧してロータ軸回りに移動させる。これにより、各凹部6にコア板2の一部分を係合させる。
【0016】
このようにして、上記のモーターロータ1及びその製造方法では、コア材4における透孔3内に永久磁石5を固定する。なお、図面には、理解し易くする都合上、各凹部6に1枚のコア板2を係合させた状態を示している。但し、コア板2にアモルファス材から成る薄板を用いる場合には、その板厚が0.1mm程度であるから、1つの凹部6に1枚のコア板2を係合させるのは容易ではない。このような場合には、図示した各コア板2を多数のコア板2から成るコア板群(2)と置き換えることができ、各凹部6にコア板群(2)を係合させて永久磁石5を固定する。
【0017】
上記のモーターロータ1及びその製造方法は、コア板のカシメにより永久磁石を固定する従来に比べて、コア板2を折り曲げることなく永久磁石5を固定し得るので、アモルファス材などの脆性材料から成る薄板をコア板に用いた場合でも、永久磁石5を充分に固定することができ、モータの性能向上に貢献することができる。
【0018】
また、上記のモーターロータ1及びその製造方法では、コア板(コア板群)2と永久磁石5とが噛み合う構造であるから、カシメのように摩擦力で固定状態を維持する構造よりも永久磁石5を強固に固定することができ、隣接する凹部6間の積層部分を充分に固定することができる。
【0019】
さらに、コア板のカシメにより永久磁石を固定する従来の構造では、透孔の内部にコア板の変形部分を収容する空間が必要である。これに対して、上記のモーターロータ1及びその製造方法では、コア板2をロータ軸回りに移動させた際、図1(B)に示すように、移動したコア板2と永久磁石5との間に隙間Sが生じるものの、この隙間Sは凹部6の深さ程度の極めて小さいものである。
【0020】
なお、上記のモーターロータ1及びその製造方法では、永久磁石5の凹部6の位置、数、及び形態が上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、図2(B)に示す凹部6A,6Bのいずれか又は両方を採用することも可能である。図2(B)中で上側に示す凹部6Aは、永久磁石5の板厚方向に沿って形成した溝状を成し、その全体でロータ軸回り方向に開放されている。また、図2(B)中で下側に示す凹部6Bは、永久磁石5のロータ軸Cr側の面において、端部からロータ軸回り方向の一定範囲内に形成した溝状を成し、その端部でロータ軸回り方向に開放されている。
【0021】
また、上記のモーターロータ1及びその製造方法では、永久磁石5に形成する凹部6の形態に応じて、これに係合するコア板2の形態を適宜選択し得る。この実施形態のモーターロータ1には、例えば、図4(A),(B)に示すような2種類のコア板2A,2Bを用いることができる。
【0022】
図4(A)に示す第1コア板2Aは、凹部6以外に対応するもので、透孔3を形成するための開口部Hを有し、永久磁石5との係合時に不動である。図4(B)に示す第2コア板2Bは、永久磁石5の凹部6に対応するもので、同じく開口部Hを有すると共に、開口部Hの縁部に、凹部6への係合部分となる突片2Pを有し、永久磁石5との係合時に移動する。各開口部Hは、各コア板2A、2Bを積層した際に、互いに連通して透孔3を形成する。
【0023】
そして、上記のコア板2A,2Bは、互いに積層する際、図4(C)に示すように、透孔3内で永久磁石5と突片2Pとが干渉しないように、第2コア板2Bを予めずらせた状態にする。そして、透孔3に永久磁石5を収容した後、第2コア板2Bを初期のずれ方向と逆の方向に移動させて、永久磁石5の凹部6に第2コア板2Bの突片2Pを係合し、永久磁石55を透孔3内に固定する。これにより、モーターロータ1は、全てのコア板2A,2Bの開口部H全体が一致して、図3(B)に示す隙間Sの無い構造を実現する。
【0024】
〈第2実施形態〉
図5及び図6は、本発明に係わるモーターロータの第2実施形態を説明する図である。なお、第2実施形態では、第1実施形態と同様の構成部位に同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0025】
図5(A)に示すモーターロータ1は、永久磁石5が、コア板2の積層方向に配置した複数の凹部6を有している。図示例の永久磁石5は、ロータ軸Cr側となる主面とその一側面との角(図中で左側の角)に複数の凹部6を有し、同主面とその他側面との角(図中で右側の角)に複数の凹部6を有する。両側面の各凹部6は、夫々の数が限定されるものではないが、コア板2の積層方向において互いに異なる位置に設けてある。
【0026】
そして、モーターロータ1は、図5(B)に示すように、コア板2のうちの一部のコア板2が、ロータ軸回り方向の一方向(矢印R1方向)から各凹部6に夫々係合している。また、モーターロータ1は、複数のコア板2のうちの別の一部のコア板2が、ロータ軸回り方向の他方向(矢印R2)から別の各凹部6に夫々係合している。
【0027】
この実施形態のモーターロータ1は、例えば図6(A)~(C)に示すような3種類のコア板2A,2B,2Cを用いることができる。図6(A)に示す第1コア板2Aは、凹部6以外に対応するもので、透孔3を形成するための開口部Hを有し、永久磁石5との係合時に不動である。
【0028】
図6(B)に示す第2コア板2Bは、永久磁石5の一方側の凹部6に対応するもので、同じく開口部Hを有すると共に、開口部Hの縁部に、凹部6への係合部分となる突片2Pを有する。図6(C)に示す第3コア板2Cは、永久磁石5の他方側の凹部6に対応するもので、同じく開口部Hを有すると共に、開口部Hの縁部において、第2コア板2Bの突片Pと対称的な位置に、凹部6への係合部分となる突片2Qを有する。各開口部Hは、各コア板2A~2Cを積層した際に、互いに連通して透孔3を形成する。
【0029】
そして、上記のコア板2A~2Cは、互いに積層する際、図6(D)に示すように、透孔3内で永久磁石5と突片2P,2Qとが干渉しないように、予め第2及び第3のコア板2B,2Cを互いに相反する方向にずらせた状態にする。
【0030】
そして、透孔3に永久磁石5を収容した後、図6(E)に示すように、第2コア板2Bを初期のずれ方向と逆の方向(矢印R1方向)に移動させて、永久磁石5の一方側の凹部6に第2コア板2Bの突片2Pを係合する。
【0031】
次に、図6(F)に示すように、また、第3コア板2Cを初期のずれ方向と逆の方向(矢印R2方向)に移動させて、永久磁石5の他方側の凹部6に第2コア板2Bの突片2Pを係合する。これにより、モーターロータ1は、透孔3内に永久磁石5を固定する。なお、第2及び第3のコア板2B,2Cの移動は、同時に行うことも可能である。
【0032】
このようにして、上記のモーターロータ1は、第1実施形態と同様に、アモルファス材などの脆性材料から成る薄板をコア板2に用いた場合でも、永久磁石5を充分に固定することができ、とくに、永久磁石5をその両側で拘束することで、固定力をより一層高めることができ、モータの性能向上に貢献することができる。
【0033】
また、上記のモーターロータ1は、コア板2と凹部6との係合箇所が、永久磁石5のロータ軸側であって、且つコア材4の半径方向に一致する永久磁石5の中心線Cmに対して対称となる位置に設けた構成である。要するに、上記のモーターロータ1は、コア板2と凹部6との係合箇所が、永久磁石5のロータ軸側の両端部に配置された構成である。
【0034】
上記のモーターロータ1は、回転によって永久磁石5の重心に生じる遠心力に対する耐久性が向上する。つまり、モーターロータ1の回転時には、図6(F)に示すように、永久磁石5の重心に遠心力F1が生じ、永久磁石5がコア材4からの反力F2を受ける。この際、永久磁石5は、曲げモーメントや不均一で局所的に過大となる荷重が生じると、破損する恐れがある。
【0035】
そこで、上記のモーターロータ1は、コア材4における永久磁石5の拘束箇所を、遠心力F1の方向(中心線Cm)に対して対称的な1つの面、複数の面、若しくは点である構造にしている。これにより、上記のモーターロータ1は、永久磁石5の重心に対して対称的な箇所で同永久磁石5を拘束することで、遠心力による永久磁石5の破損を抑制して、耐久性を高めることができる。また、永久磁石5の耐久性の向上は、モータの最高回転数の向上に寄与し得るので、モータの小型化も可能になる。
【0036】
本発明に係わるモーターロータは、その構成が上記の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。また、上記のモーターロータは、実質的にモーターの構成と同等である発電機のロータに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 モーターロータ
2 コア板
2 A~2C コア板
3 透孔
4 コア材
5 永久磁石
6 凹部
7 貫通孔
8 治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6