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特開2022-182123加工工程監視装置及び加工工程監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182123
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】加工工程監視装置及び加工工程監視方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20221201BHJP
   B30B 15/28 20060101ALI20221201BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
B30B15/28 K
G05B23/02 302T
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089469
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100221556
【弁理士】
【氏名又は名称】金田 隆章
(72)【発明者】
【氏名】野尻 尚紀
【テーマコード(参考)】
3C100
3C223
4E089
【Fターム(参考)】
3C100AA29
3C100AA56
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB33
3C223AA11
3C223AA12
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB02
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF03
3C223FF08
3C223FF12
3C223FF13
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF42
3C223FF52
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH08
4E089GA02
4E089GB01
4E089GB10
4E089GC04
(57)【要約】
【課題】サイクル加工における各単一サイクルの加工時間に揺らぎが生じた場合であっても、加工機械が正常に動作しているか否かを従来技術より正確に判定することができる加工工程監視装置を提供する。
【解決手段】加工工程監視装置は、データ切出部と、データ長調整部と、判定処理部と、を備える。データ切出部は、各単一サイクルの加工開始時と加工終了時を決定するとともに、加工機械においてサイクル加工中に時間的に変化する第1物理量から、各単一サイクル毎に加工開始時から加工終了時までの第1測定データを切り出す。データ長調整部は、第1測定データのデータ長を、加工機械が正常に動作している場合の単一サイクルにおける第1物理量の変化を基準として示す判定基準データのデータ長に一致するように調整して、第2測定データを生成する。判定処理部は、第2測定データを判定基準データと比較して、加工機械が正常に動作しているか否かを判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一サイクルを繰り返すサイクル加工を行う加工機械を監視し、前記加工機械が正常に動作しているか否かを判定する加工工程監視装置であって、
各単一サイクルの加工開始時と加工終了時を決定するとともに、前記加工機械において前記サイクル加工中に時間的に変化する第1物理量から、各単一サイクル毎に前記加工開始時から前記加工終了時までの第1測定データを切り出すデータ切出部と、
前記第1測定データのデータ長を、前記加工機械が正常に動作している場合の前記単一サイクルにおける前記第1物理量の変化を基準として示す判定基準データのデータ長に一致するように調整して、第2測定データを生成するデータ長調整部と、
前記第2測定データを前記判定基準データと比較して、前記加工機械が正常に動作しているか否かを判定する判定処理部と、
を備える、加工工程監視装置。
【請求項2】
前記データ切出部は、前記加工機械において前記加工開始時及び前記加工終了時に変化する第2物理量に基づいて、前記加工開始時及び前記加工終了時を決定する、
請求項1に記載の加工工程監視装置。
【請求項3】
前記加工機械は、前記単一サイクルにおいて被加工材に荷重を加えて加工を行い、
前記第2物理量は、前記単一サイクルにおいて、前記被加工材に荷重を加えるために移動する前記加工機械の部材の位置を表す情報である、請求項2に記載の加工工程監視装置。
【請求項4】
前記第1測定データに含まれる前記第1物理量の時間的な変化を示す複数のデータ点間のデータを補間するデータ補間部を更に備え、
前記データ長調整部は、前記複数のデータ点と、前記データ補間部により補間されたデータと、を利用することによって、前記第1測定データのデータ長を前記判定基準データのデータ長に一致するように調整して、前記第2測定データを生成する、
請求項1又は2に記載の加工工程監視装置。
【請求項5】
前記データ補間部は、前記複数のデータ点をオーバーサンプリングすることによって、前記複数のデータ点間のデータを補間する、請求項4に記載の加工工程監視装置。
【請求項6】
前記判定基準データは、時間的に所定の割合で分割された複数n個の基準区間を有し、
前記データ長調整部は、
前記第1測定データを、時間的に前記所定の割合で複数n個の区間に分割し、
前記複数n個の区間における前記第1測定データのデータ長のそれぞれを、対応する前記複数n個の基準区間における前記判定基準データのデータ長に一致するように調整することによって、前記第2測定データを生成する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の加工工程監視装置。
【請求項7】
前記データ長調整部は、前記加工機械において前記加工開始時及び前記加工終了時に変化する第2物理量の値が互いに異なる複数の閾値を下回る複数の時点で、前記第1測定データをそれぞれ分割する、
請求項6に記載の加工工程監視装置。
【請求項8】
前記データ長調整部は、前記複数n個の区間のうちの少なくとも1つの区間における前記第1測定データを圧縮することによって、前記少なくとも1つの区間における前記第1測定データのデータ長を、対応する基準区間における前記判定基準データのデータ長に一致するように調整する、請求項5~7のいずれか1項に記載の加工工程監視装置。
【請求項9】
前記複数n個の区間のそれぞれにおける前記第1測定データに含まれる、前記第1物理量の時間的な変化を示す複数のデータ点に対してオーバーサンプリング処理を実行する、前記複数n個の区間のそれぞれに対応する複数n個のオーバーサンプリングフィルタを更に備え、
前記複数n個のオーバーサンプリングフィルタは、互いに独立なカットオフ周波数を有する、
請求項5~8のいずれか1項に記載の加工工程監視装置。
【請求項10】
前記データ長調整部は、前記複数n個の区間のうちの少なくとも1つの区間における前記第1測定データを所定の圧縮率で圧縮することによって、前記少なくとも1つの区間における前記第1測定データのデータ長を、対応する基準区間における前記判定基準データのデータ長に一致するように調整し、
記複数n個のオーバーサンプリングフィルタのそれぞれのカットオフ周波数は、前記圧縮率に基づいて設定される、
請求項9に記載の加工工程監視装置。
【請求項11】
前記データ長調整部は、前記第1測定データをリサンプリングすることによって、前記第1測定データのデータ長を前記判定基準データのデータ長に一致するように調整する、請求項1~10のいずれか1項に記載の加工工程監視装置。
【請求項12】
前記判定処理部による判定結果を出力する出力部を更に備える、請求項1~11のいずれか1項に記載の加工工程監視装置。
【請求項13】
前記加工機械は、プレス機である、請求項1~12のいずれか1項に記載の加工工程監視装置。
【請求項14】
前記第1物理量は、荷重センサによって検出された荷重である、請求項1~13のいずれか1項に記載の加工工程監視装置。
【請求項15】
単一サイクルを繰り返すサイクル加工を行う加工機械を監視し、前記加工機械が正常に動作しているか否かを判定する加工工程監視方法であって、
前記加工機械において前記サイクル加工中に時間的に変化する第1物理量を順次取得する第1物理量取得ステップと、
各単一サイクルの加工開始時と加工終了時を決定するとともに、前記第1物理量から、各単一サイクル毎に前記加工開始時から前記加工終了時までの第1測定データを切り出すデータ切出ステップと、
前記第1測定データのデータ長を、前記加工機械が正常に動作している場合の前記単一サイクルにおける前記第1物理量の変化を基準として示す判定基準データのデータ長に一致するように調整して、第2測定データを生成するデータ長調整ステップと、
前記第2測定データを前記判定基準データと比較して、前記加工機械が正常に動作しているか否かを判定する判定処理ステップと、
を含む、加工工程監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工工程監視装置及び加工工程監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス加工、射出成形、NC加工、産業用ロボット等の分野では、比較的短い単一サイクルを繰り返す加工が用いられている。このような加工機械による加工の状態をセンサによって検出し、検出結果である時系列の加工センシングデータを解析することによって加工機械が正常に動作しているか否かを判定する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された製造装置診断の判定データ作成方法は、設備の正常時の動作を表す状態量と異常時の動作を表す状態量を内分して判定値とし、加工センシングデータの判定に用いることにより、正確な判定結果を提供する。特許文献2に開示されたデータ解析装置及びデータ解析方法は、マスタ波形との類似度が最大となるよう加工センシングデータの波形の位置関係を異ならせ、基準波形との位置関係が適切なものになるようにして、異常検知する方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平9-120365号公報
【特許文献2】特開2020-86843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、サイクル加工における各単一サイクルの加工時間に揺らぎ(時間的な揺らぎ)が生じた場合に、正確に異常検知できなくなるという課題がある。
【0006】
本開示の目的は、サイクル加工における各単一サイクルの加工時間に揺らぎが生じた場合であっても、加工機械が正常に動作しているか否かを従来技術より正確に判定することができる加工工程監視装置及び加工工程監視方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、
単一サイクルを繰り返すサイクル加工を行う加工機械を監視し、前記加工機械が正常に動作しているか否かを判定する加工工程監視装置であって、
各単一サイクルの加工開始時と加工終了時を決定するとともに、前記加工機械において前記サイクル加工中に時間的に変化する第1物理量から、各単一サイクル毎に前記加工開始時から前記加工終了時までの第1測定データを切り出すデータ切出部と、
前記第1測定データのデータ長を、前記加工機械が正常に動作している場合の前記単一サイクルにおける前記第1物理量の変化を基準として示す判定基準データのデータ長に一致するように調整して、第2測定データを生成するデータ長調整部と、
前記第2測定データを前記判定基準データと比較して、前記加工機械が正常に動作しているか否かを判定する判定処理部と、
を備える、加工工程監視装置を提供する。
【0008】
本開示の他の態様は、
単一サイクルを繰り返すサイクル加工を行う加工機械を監視し、前記加工機械が正常に動作しているか否かを判定する加工工程監視方法であって、
前記加工機械において前記サイクル加工中に時間的に変化する第1物理量を順次取得する第1物理量取得ステップと、
各単一サイクルの加工開始時と加工終了時を決定するとともに、前記第1物理量から、各単一サイクル毎に前記加工開始時から前記加工終了時までの第1測定データを切り出すデータ切出ステップと、
前記第1測定データのデータ長を、前記加工機械が正常に動作している場合の前記単一サイクルにおける前記第1物理量の変化を基準として示す判定基準データのデータ長に一致するように調整して、第2測定データを生成するデータ長調整ステップと、
前記第2測定データを前記判定基準データと比較して、前記加工機械が正常に動作しているか否かを判定する判定処理ステップと、
を含む、加工工程監視方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る加工工程監視装置及び加工工程監視方法によれば、サイクル加工における各単一サイクルの加工時間に揺らぎが生じた場合であっても、加工機械が正常に動作しているか否かを従来技術より正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の第1実施形態に係る加工工程監視装置100の構成例を示すブロック図
図2図1のデータ切出部8によって実行されるデータ切出処理を例示する模式図
図3図1のオーバーサンプリングフィルタ9によって実行されるオーバーサンプリング処理と、図1のリサンプリング部10によって実行されるリサンプリング処理と、を説明するための模式図
図4図1のリサンプリング部10によって実行されるリサンプリング処理の前後のショットデータを例示する模式図である。
図5図1のリサンプリング部10によって実行されるリサンプリング処理の結果を表すグラフ
図6】本開示の第2実施形態に係る加工工程監視装置200の構成例を示すブロック図
図7図6のリサンプリング部210によって実行される圧縮処理を説明するための模式図
図8】本開示の第2実施形態の変形例を説明するための模式図
図9】本開示の第3実施形態に係る加工工程監視装置300の構成例を示すブロック図
図10】従来のプレス機による打抜き加工におけるセンシングデータの波形を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示に至った経緯)
従来技術においては、加工機械を用いたサイクル加工の加工時間に揺らぎが生じた場合、加工機械の動作異常を正確に検知できないおそれがある。以下、この課題について説明する。
【0012】
同一の作業を繰り返すサイクル加工の一例は、金属等の被加工材に荷重を加えて加工するサイクルを繰り返す加工方法であり、例えば、被加工材を打抜き加工するプレス加工である。プレス加工に用いられるプレス機には、例えば、パンチ、ダイ等の工具が組み込まれた金型がセットされ、プレス機は、ほぼ一定の周期で上下動作するスライダ動作によって、被加工材を送りながら、被加工材を繰り返し打抜き加工して所定の形状にする。
【0013】
プレス機は、例えば、一定の周期で回転するように制御されるクランクを有するクランク式プレス機を含む。クランク式プレス機において、生産性を向上させるために高速加工が必要な場合には、1分間あたりの加工回数を示すSPM(Shots Per Minute)を高い値に設定する。プレス機は、設定されたSPMとなるようにクランクを高速回転させ、この回転運動をスライド部材(スライダ)の上下運動に変換し、高速に被加工材を加工する。
【0014】
しかしながら、一定速度で加工するよう制御を試みたとしても、加工速度を高い精度で一定に保ち続けることは困難であり、加工速度には揺らぎが生じてしまうという課題がある。加工速度に揺らぎが生じる結果、加工時間にも揺らぎが生じる。プレス機が大きくなるに従って制御に必要なエネルギーが増大し、高い精度で速度を維持することが困難になるため、加工速度の揺らぎは、プレス機のサイズが大きいほど顕著となる。とりわけ、プレス機の始動直後においては、スライダとスライダに取り付けられている重い金型とを、止まった状態から動かす必要があるため、スライダ速度は、設定されたSPMよりも低い速度となってしまう。
【0015】
図10は、従来のプレス機による打抜き加工におけるセンシングデータの波形を示すグラフである。図10(a)は、高さセンサによって測定されたストリッパープレートの高さ(例えば、ダイプレートからの高さ)の時間的変化を示すグラフである。図10(b)は、荷重センサによって測定されたパンチに加わる荷重[N]の時間的変化を示すグラフである。図10(a),10(b)のデータ群は、プレス機の金型に取り付けられたセンサによって取得された複数のデータを重ね合わせたものである。
【0016】
図10(a),10(b)のデータの取得は、図10(a)のストリッパープレートの高さが開始閾値を下回った加工開始時から開始され、終了閾値を上回った加工終了時に終了される。開始閾値及び終了閾値は、図10(a)では同じ閾値に設定されているが、互いに異なる値に設定される場合もある。また、図10では、複数の測定データについて、加工開始時の位置を合わせて重ね合わせたグラフを示している。
【0017】
図10では、加工機械が正常にサイクル加工を実行している状態である正常な加工状態における測定データのみを表示している。図10によると、正常な加工状態であっても、加工終了の時点が一定とはならないことがわかる。これは、前述した加工時間の揺らぎによって、測定データの時間、すなわち加工時間の長さが変わることに起因する。また、図10(b)に示したパンチの荷重データについても、被加工材を打ち抜いている打抜き期間は短く、かつ打抜き期間において荷重データは急峻な変化を伴うものである。したがって、正常な加工状態であっても、複数の荷重データ間には、打抜き加工を特徴付ける打抜き期間における波形形状に時間的な位置ズレが現れる。このような位置ズレは、プレス機の始動直後で、SPMが安定していない間において、更に物理量方向に大きなバラツキをもって現れることになる。
【0018】
したがって、特許文献1で提案されているような、基準値の範囲内に入っているかどうかで異常検知をする従来技術では、基準値を正常な加工状態の波形におけるバラツキを考慮した広いものに設定する必要があるため、微少な異常を検知することができない。
【0019】
また、特許文献2で提案されているような、ピークの位置が基準波形と同じになるように測定波形を時間軸方向にずらす従来技術においても、部分的には基準波形と測定波形とを位置合わせすることができても、全体として合わせるということはできない。加えて、ピークが大きく現れる物理量の場合には部分的であっても位置関係を合わせることはできるが、ピークが大きく現れない物理量の場合、例えば様々なセンサによる多様な物理量の場合には、位置関係を合わせることはできない。
【0020】
さらに、従来技術では、打抜き期間における荷重データの急峻な変化を正確に捉えるために、アナログ信号からデジタル信号に変換するA/D変換におけるサンプリング周波数を高く設定してサンプリングを細かくする必要がある。しかしながら、サンプリング周波数を高くすると、変化が緩慢な打抜き期間以外の時間領域における荷重データや、全体にわたって変化が緩慢なストリッパープレートの高さデータについてもサンプリングが細かくなり、データ量が増大する。したがって、異常を検知するために必要なデータ処理量が増大し、処理時間が増大するという課題がある。
【0021】
以下に記載の実施形態に係る加工工程監視装置は、上記の課題を解決する。
【0022】
以下、適宜図面を参照しながら、実施形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、出願人は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0023】
(第1実施形態)
[構成]
図1は、本開示の第1実施形態に係る加工工程監視装置100の構成例を示すブロック図である。加工工程監視装置100は、高さセンサ1と、荷重センサ2と、コントローラ3,4と、A/D変換器5と、フィルタ6,7と、を備える。高さセンサ1及び荷重センサ2は、サイクル加工を行う加工機械に取り付けられる。加工機械は、例えば、パンチ、ダイ等の工具が組み込まれた金型がセットされるクランク式プレス機である。
【0024】
高さセンサ1は、例えば光学式、電波式、超音波式等の距離センサである。本実施形態では、高さセンサ1は、プレス機のストリッパープレートの高さ、例えばダイプレートとストリッパープレートとの距離を検出する。コントローラ3は、高さセンサ1によって検出された高さに応じた電圧信号を出力する。荷重センサ2は、例えば圧電式力センサ、又はひずみゲージ式等の電気式力センサであり、被加工材を打ち抜く時などにプレス機のパンチに加わる荷重を検出する。コントローラ4は、荷重センサ2によって検出された荷重に応じた電圧信号を出力する。高さセンサ1によって検出される高さ、及び荷重センサ2によって検出される荷重は、本開示の「第1物理量」の一例である。高さセンサ1によって検出される高さは、本開示の「第2物理量」の一例でもあり得る。第2物理量は、加工機械の単一サイクルにおいて、被加工材に荷重を加えるために移動する加工機械の部材、例えばストリッパープレートの位置を表す情報である。コントローラ3,4は、本開示の「物理量取得部」の一例である。
【0025】
A/D変換器5は、入力された電圧信号をデジタル信号に変換する。A/D変換器5は、サンプリング周波数Fs(サンプル/秒)で動作する。すなわち、A/D変換器5は、サンプリング周期1/Fs(秒)間隔でコントローラ3,4から受ける電圧信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0026】
フィルタ6,7は、それぞれ、高さセンサ1及び荷重センサ2に対応するデジタル信号に対してフィルタ処理を行う。フィルタ6,7は、ローパスフィルタ(LPF)、メディアンフィルタ等によって構成され、入力データからノイズを除去する機能を有する。フィルタ6,7は、高さセンサ1及び荷重センサ2そのもの、及び高さセンサ1及び荷重センサ2の出力からフィルタ6,7への入力までの経路において混入するノイズ等を、それぞれ除去する。ノイズが小さいため無視できる場合には、フィルタ6,7のうちの少なくとも一方が省略されてもよい。省略する場合、どちらか一方の信号のみが遅延することがないよう、信号間の位相は、例えば遅延器等を用いることにより、揃えられる。
【0027】
加工工程監視装置100は、データ切出部8と、オーバーサンプリングフィルタ9と、リサンプリング部10と、判定処理部11と、出力部12と、記憶部13と、を更に備える。
【0028】
データ切出部8は、高さセンサ1をソース源とした複数の信号s1と、荷重センサ2をソース源とした複数の信号s2とについて、加工開始及び加工終了の条件が互いに一致するように揃えて第1ショットデータとするための処理を実行する。データ切出部8によって実行されるデータ切出処理の詳細については後述する。データ切出部8は、第1ショットデータをオーバーサンプリングフィルタ9に出力する。第1ショットデータは、本開示の「第1測定データ」の一例である。
【0029】
オーバーサンプリングフィルタ9は、入力された第1ショットデータに含まれるデジタル信号群のそれぞれを、サンプリング周波数8Fsでオーバーサンプリングする。入力された第1ショットデータに含まれるデジタル信号群は、高さセンサ1をソース源とする信号と、荷重センサ2をソース源とする信号とを含む。オーバーサンプリングフィルタ9において実行されるオーバーサンプリング(アップサンプリングとも呼ばれることがある。)の詳細については後述する。オーバーサンプリングフィルタ9は、本開示の「データ補間部」の一例である。オーバーサンプリングフィルタ9は、例えばローパスフィルタであり、例えばFIR(Finite Impulse Response、有限インパルス応答)フィルタである。
【0030】
記憶部13は、加工工程監視装置100の各機能を実現するために必要なプログラム及びデータを含む種々の情報を記録する記録媒体である。記憶部13は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)、光学ドライブ、及びソリッドステートドライブ(SSD)のいずれであってもよい。記憶部13は、内蔵型、外付け型、およびNAS(network-attached storage)型のいずれであってもよいし、クラウドコンピューティングによって実現されてもよい。
【0031】
記憶部13には、例えば、判定基準データ131が格納される。判定基準データ131は、加工機械が正常に動作している場合の単一サイクルにおける測定データの変化を、基準として、示す情報である。判定基準データ131は、例えば、正常な加工状態における高さデータ、荷重データ等の波形データであり、異常検知等の判定の基準となるものである。判定基準データ131は、このような波形データの上限値、下限値等の付随データを含んでもよい。判定基準データ131は、判定基準データ131のデータ長を示す基準データ長を含む。「データ長」は、例えばサンプリング数としてのデータの長さを表す。例えば、サンプリング数が多いほどデータ長は長い。
【0032】
リサンプリング部10には、オーバーサンプリングフィルタ9を経由した第1ショットデータと、判定基準データ131に基づく基準データ長とが入力される。リサンプリング部10は、オーバーサンプリングフィルタ9を経由した第1ショットデータに対して、そのデータ長を基準データ長と一致させるリサンプリング処理を実行し、第2ショットデータを生成する。リサンプリング部10は、第2ショットデータを判定処理部11に出力する。リサンプリング部10は、本開示の「データ長調整部」の一例であり、第2ショットデータは、本開示の「第2測定データ」の一例である。
【0033】
判定処理部11は、第2ショットデータに基づいて、異常検知等の判定処理を実行し、判定結果を出力する。例えば、判定処理部11は、第2ショットデータを判定基準データ131と比較し、比較結果が上限値と下限値との間にない場合、異常があると判定する。
【0034】
出力部12は、判定結果を出力するための出力インタフェースである。出力部12は、例えば、光を発してユーザに一定の情報を報知するLED等の発光装置である。出力部12は、情報を表示可能な液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置であってもよい。出力部12は、音により情報を報知するスピーカ等の音声出力装置であってもよい。出力部12は、加工工程監視装置100と外部機器との通信接続を可能とするための通信インタフェースであってもよい。このような通信インタフェースは、既存の有線通信規格又は無線通信規格に従って通信を行う。
【0035】
加工工程監視装置100の各構成要素は、各構成要素にそれぞれ対応する回路により実現されてもよいし、演算回路により実現されてもよい。このような演算回路は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含み、情報処理に応じて加工工程監視装置100、例えば、データ切出部8、オーバーサンプリングフィルタ9、リサンプリング部10、及び判定処理部11の動作を制御する。このような情報処理は、演算回路がプログラムを実行することにより実現される。演算回路は、1又は複数の専用のプロセッサにより実現されてもよい。また、演算回路の構成要素に関して、実施形態に応じて、適宜、機能の省略、置換及び追加が行われてもよい。
【0036】
図1には、加工工程監視装置100が有し得る種々の構成要素を記載しているが、これら全てを有することは必須ではない。加工工程監視装置100は、動作時において、少なくともデータ切出部8、オーバーサンプリングフィルタ9、リサンプリング部10、判定処理部11及び判定基準データ131を有していればよい。換言すると、加工工程監視装置100は、センサ1及び2、コントローラ3及び4、A/D変換器5、フィルタ6及び7、及び出力部12の一部または全部を有していなくてもよい。加工工程監視装置100の動作時に、センサ1及び2、コントローラ3及び4、A/D変換器5、フィルタ6及び7からの信号を取得できればよい。
【0037】
[動作]
図2は、図1のデータ切出部8によって実行されるデータ切出処理を例示する模式図である。図2(a)は、データ切出部8に入力される、高さセンサ1をソース源とする信号s1を示す。信号s1は、データ切出部8によって切り出される前の状態の信号である。図2(b)は、信号s1に対応するデータ切出部8から出力される信号を示す。図2(b)に示した信号は、信号s1に対してデータ切出部8によるデータ切出処理を実行した結果生成されるものである。図2に示した信号は、A/D変換器5を経由しているため離散信号であるが、図2では、模式的に、連続的に示している。
【0038】
具体的には、データ切出部8は、図2(a)に示した高さセンサ1をソース源とする信号s1をモニターし、信号s1の強度が開始閾値を下回った加工開始時と、終了閾値を上回った加工終了時とを決定する。次に、データ切出部8は、信号s1について、加工開始時から加工終了時までの波形を切り出す。開始閾値及び終了閾値は、図2(a)では同じ閾値に設定されているが、互いに異なる値に設定されてもよい。
【0039】
図2では、高さセンサ1をソース源とする信号s1に対するデータ切出処理のみを説明しているが、データ切出部8は、荷重センサ2をソース源とする信号s2に対してもデータ切出処理を実行する。すなわち、データ切出部8は、信号s2について、信号s1と同一の加工開始時から加工終了時までの波形を切り出す。データ切出部8によって切り出された信号s1,s2は、第1ショットデータを構成する。上記のように、信号s1,s2は、同一の加工開始時から加工終了時までのデータに揃えられるため、第1ショットデータを構成するすべての波形のデータ長は同一となる。
【0040】
図3は、図1のオーバーサンプリングフィルタ9によって実行されるオーバーサンプリング処理と、図1のリサンプリング部10によって実行されるリサンプリング処理と、を説明するための模式図である。図3(a)は、オーバーサンプリングフィルタ9から出力されるショットデータの一例を示す。図3(b)は、リサンプリング部10から出力される第2ショットデータの一例を示す。
【0041】
図3(a)では、サンプリング周波数Fsでサンプリングされたサンプリング点を黒丸シンボルで示し、オーバーサンプリングされたサンプリング点を白丸シンボルで示している。これに対応して、図3(a)では、サンプリング周波数Fsによる測定サンプリングタイミングを直線で示し、8倍のサンプリング周波数8Fsによるオーバーサンプリングタイミングを破線で示している。
【0042】
前述のように、オーバーサンプリングフィルタ9は、例えばFIRによるローパスフィルターである。オーバーサンプリングフィルタ9は、出力信号に、入力信号に対する位相遅れを生じさせないものであることが好ましい。また、オーバーサンプリングフィルタ9のフィルタ定数は、カットオフ周波数が、例えば基準データ長の逆数として求められるサンプリング周波数Fsの半分(ナイキスト周波数)とほぼ同じとなるように設定されることが好ましい。
【0043】
図3(a)に示すように、サンプリング周波数Fsでサンプリングされたサンプリング点(黒丸シンボル)間には、オーバーサンプリングフィルタ9によって、カットオフ周波数以上の高周波成分が遮断された滑らかな曲線の上にのる7つの点群(白丸シンボル)が補間される。
【0044】
次に、リサンプリング部10は、オーバーサンプリングフィルタ9を経由した図3(a)のような第1ショットデータに対して、そのデータ長を基準データ長と一致させるリサンプリング処理を実行し、図3(b)に示すような第2ショットデータを生成する。リサンプリング部10は、図3(a)に実線で示した周期1/Fsの測定サンプリングタイミングを、図3(b)に実線で示した判定サンプリングタイミングにリサンプリングする。図3(b)では、リサンプリング周波数をFrで示している。図3(b)の判定サンプリングタイミングは、基準データ長の逆数として求められる。
【0045】
なお、図3は、判定基準データ131における加工時間、すなわち判定基準データ131の基準データ長よりも、第1ショットデータにおける加工時間、すなわち第1ショットデータのデータ長の方が、わずかに短い場合について図示している。基準データ長と第1ショットデータのデータ長とは、サンプリング周期が同じであっても前述の加工の時間的な揺らぎによって必ずしも一致せず、図3で示している例のように基準データ長より第1ショットデータのデータ長の方が短くなる場合がある。
【0046】
そこで、リサンプリング部10は、両者のデータ長を一致させるリサンプリング処理を実行する。具体的には、第1ショットデータのサンプリング周期は、第1ショットデータの加工開始時及び加工終了時が、判定基準データ131の加工開始時及び加工終了時にそれぞれ一致するように調整される。その結果、第1ショットデータのデータ長と判定基準データ131の基準データ長とが同じになる。図3に示す例においては、第1ショットデータの加工開始時及び加工終了時が、判定基準データ131の加工開始時及び加工終了時にそれぞれ一致するように調整される。その結果、本実施形態では、図3(a)に実線で示した測定サンプリングタイミング間隔は若干広がるように変換される。
【0047】
そして、8倍にオーバーサンプリングされたサンプリング点の中から、すなわち図3(a)の黒丸シンボル及び白丸シンボルの中から、図3(b)に実線で示した判定サンプリングタイミングに時間的に最も近いものが選択され、図3(b)に黒丸シンボルで示すリサンプリングされた第2ショットデータとされる。これにより、図3(b)に実線で示した判定サンプリングタイミングに対応する誤差の小さい補間値を取得することができる。
【0048】
このようにして、オーバーサンプリング処理を実行することによって、A/D変換器5によるA/D変換でのサンプリング周波数Fsを、リサンプリング処理するために物理量の変化の速度に比して極端に高く設定する必要がなくなる。したがって、A/D変換器5によるサンプリング周波数Fsを低く抑えることができ、ハードウエア構成を簡易化し、処理すべきデータ量を低減し、判定処理を高速化させることができる。また、リサンプリング部10は、加工時間の揺らぎによってデータ長が一定にならない場合であっても、第1ショットデータを基準データ長と一致する第2ショットデータに変換し、加工開始時と加工終了時を常に一致させることができる。
【0049】
図4は、図1のリサンプリング部10によって実行されるリサンプリング処理の前後のショットデータを例示する模式図である。図4(a)は、リサンプリング部10によるリサンプリング前のショットデータを示す。図4(a)のショットデータは、荷重センサ2をソース源とする信号情報である。図4(b)は、図4(a)のショットデータに対してリサンプリング部10によるリサンプリング処理を実行することによって得られた第2ショットデータを示す。図4(c)は、判定基準データ131の一例を示す。図4(a),(b),(c)に示したデータは、例えば、時間軸方向に等間隔に並んだ時系列データである。
【0050】
図4(a)のショットデータにおける加工開始時と図4(c)の判定基準データ131における加工開始時を一致させた場合、図4(a)のショットデータにおける加工終了時Taと図4(c)の判定基準データ131における加工終了時Tcとの間には、加工の時間的な揺らぎによる加工時間差ΔTが生じる。また、図4(a)のショットデータと図4(c)の判定基準データ131とを比較すると、加工開始から加工終了までのサンプリング数も異なる。
【0051】
これに対して、図4(b)に示すように、リサンプリング部10によるリサンプリング処理を実行することによって得られた第2ショットデータは、図4(c)の判定基準データ131と同一のデータ長を有し、両者の加工開始から加工終了までのサンプリング数も同一である。このように、リサンプリング部10は、判定対象である第2ショットデータのデータ長を、判定の基礎となる判定基準データ131のデータ長に一致させる。これにより、リサンプリング部10は、第2ショットデータに現れるピーク位置を、判定基準データ131におけるピーク位置と一致させることができる。ここで、ピーク位置とは、例えば、データにピークが現れた時刻であり、加工開始時を基準とした時刻を表す。したがって、判定処理部11は、加工時間に揺らぎが生じたとしても、判定基準データ131との比較に基づく第2ショットデータの判定を高精度に行うことができる。
【0052】
図5は、リサンプリング処理の結果、第2ショットデータにおける打抜き加工を特徴付ける波形のバラツキが低減されたことを表すグラフである。図5(a)は、サイクル加工の様々なサイクルにおいて取得された、図4(b)に示したような第2ショットデータを重ねて表示したグラフである。図5(a)では、第2ショットデータのうちピーク位置とその周辺部分のみが拡大表示されている。図5(b)は、図5(a)に示した複数の第2ショットデータについて、サンプリング時刻t1における荷重の頻度を表すグラフである。図5(b)の横軸は頻度を表し、縦軸は荷重又は荷重に対応する信号レベルを表している。
【0053】
図5(a)に示したサンプリング時刻t1は、波形の立ち上がり部分である。波形の立ち上がり部分は、従来技術では、サイクル加工に異常が発生した場合、及びサイクル加工の加工時間に揺らぎが生じた場合等に、波形の変化が顕著に現れる部分である。
【0054】
リサンプリング部10は、前述のように、判定対象である第2ショットデータのデータ長を、判定の基礎となる判定基準データ131のデータ長に一致させる。これにより、リサンプリング部10は、サイクル加工における特徴となるピーク位置等の波形を、サイクル加工の加工時間に揺らぎが生じた場合であっても、複数のサイクルに対応する複数の波形データ間で一致させることができる。したがって、図5(b)に示すように、複数の波形データ間についてのサンプリング時刻t1における荷重の頻度は、急峻なピークを有する。すなわち、リサンプリング部10は、複数の波形データ間についてのサンプリング時刻t1における荷重の標準偏差を小さくすることができる。
【0055】
これにより、加工工程監視装置100は、判定基準データ131の波形データを基準として、例えば上限値及び下限値を設定して第2ショットデータについて異常検知等の判定を行う場合に、その上限値と下限値との差を狭く設定しても高精度に判定を行うことができる。上限値及び下限値を用いた判定以外に、例えばコサイン類似度、マハラノビス距離等の統計的なデータに基づく判定を行う場合であっても、加工工程監視装置100は、加工時間の揺らぎの影響を低減させて、高精度に判定を行うことができる。
【0056】
出力部12は、判定処理部11による判定結果を出力する。例えば、出力部12は、判定結果を表示するディスプレイである。これにより、加工機械を取り扱うユーザは、判定結果を知ることができる。あるいは、出力部12は、加工機械に対して判定結果を出力してもよい。例えば、異常を示す判定結果が入力された場合、加工機械は、動作を停止し、正常でない加工品の製造、加工機械の故障、異常動作に起因する事故等を未然に防ぐことができる。
【0057】
[効果等]
以上のように、本実施形態に係る加工工程監視装置100は、単一サイクルを繰り返すサイクル加工を行う加工機械を監視し、加工機械が正常に動作しているか否かを判定する。加工工程監視装置100は、データ切出部8と、データ長調整部の一例であるリサンプリング部10と、判定処理部11と、を備える。データ切出部8は、各単一サイクルの加工開始時と加工終了時を決定するとともに、加工機械においてサイクル加工中に時間的に変化する第1物理量から、各単一サイクル毎に加工開始時から加工終了時までの第1ショットデータを切り出す。リサンプリング部10は、前記第1ショットデータのデータ長を、判定基準データ131のデータ長に一致するように調整して、第2ショットデータを生成する。判定基準データ131は、加工機械が正常に動作している場合の単一サイクルにおける第1物理量の変化を基準として示す情報である。判定処理部11は、第2ショットデータを判定基準データ131と比較して、加工機械が正常に動作しているか否かを判定する。第1物理量は、例えば荷重である。
【0058】
上記構成によれば、サイクル加工における各単一サイクルの加工時間に揺らぎが生じた場合であっても、リサンプリング部10が第2ショットデータのデータ長を判定基準データ131のデータ長に一致させるため、加工機械が正常に動作しているか否かを従来技術より正確に判定することができる。
【0059】
データ切出部8は、加工機械において加工開始時及び加工終了時に変化する第2物理量に基づいて、加工開始時及び加工終了時を決定してもよい。第2物理量は、単一サイクルにおいて、被加工材に荷重を加えるために移動する加工機械の部材の位置を表す情報であり、例えばプレス機のストリッパープレートの高さである。
【0060】
上記構成によれば、サイクル加工における各単一サイクルの加工開始時及び加工終了時を精度良く揃えることができ、リサンプリング部10は、第2ショットデータのデータ長を判定基準データ131のデータ長により精度良く一致させることができる。
【0061】
加工工程監視装置100は、オーバーサンプリングフィルタ9を更に備えてもよい。オーバーサンプリングフィルタ9は、第1ショットデータに含まれる第1物理量の時間的な変化を示す複数のデータ点間のデータを補間する。リサンプリング部10は、複数のデータ点と、オーバーサンプリングフィルタ9により補間されたデータと、を利用することによって、第1ショットデータのデータ長を判定基準データ131のデータ長に一致するように調整して、第2ショットデータを生成する。
【0062】
上記構成によれば、データを補間する処理を実行するため、取得する第1物理量のデータ量を低減することができる。したがって、加工工程監視装置100の構成を簡易化して低コスト化しつつ、データ量を減らして処理量を削減し、判定処理を高速化させることができる。
【0063】
(第2実施形態)
図6は、本開示の第2実施形態に係る加工工程監視装置200の構成例を示すブロック図である。図6の加工工程監視装置200は、図1の加工工程監視装置100と比較して、リサンプリング部10に代えて、リサンプリング部210を備える。また、図6の加工工程監視装置200の記憶部13には、図1の判定基準データ131に代えて、判定基準データ231が格納されている。
【0064】
リサンプリング部210は、オーバーサンプリングフィルタ9から出力されたデータの少なくとも一部を圧縮する。例えば、リサンプリング部210は、第1ショットデータのうち加工の特徴を表す波形部分については圧縮せず、その他の波形部分のみを圧縮する。
【0065】
図7は、図6のリサンプリング部210によって実行される圧縮処理を説明するための模式図である。図7(a)は、リサンプリング部210に入力されるデータを示すグラフである。
【0066】
本実施形態では、第1ショットデータは、複数n個(ここで、nは、2以上の整数である。)の区間に分割される。図7(a)に示した例では、第1ショットデータは、加工開始時ta0から時刻ta1までの第1区間Sa1におけるデータD1と、時刻ta1から時刻ta2までの第2区間Sa2におけるデータD2と、時刻ta2から加工終了時ta3までの第3区間Sa3におけるデータD3と、に分割されている。分割は、データ切出部8又はリサンプリング部210によって実行される。図7(a)に示した例では、第1区間Sa1は、加工開始から、パンチが下がり被加工材に到達するまでの区間を表している。第2区間Sa2は、パンチが材料を打ち抜く区間に対応する。第3区間Sa3は、パンチが材料を打ち抜いた後から加工終了までの区間に対応する。
【0067】
各区間Sa1,Sa2,Sa3の長さ、すなわち時刻ta1,ta2,ta3の値は、加工機械による加工の種類に応じて、予め設定される。例えば、プレス機によるサイクル加工では、金型の構造によって、各加工サイクルにおいてパンチが材料を打ち抜くタイミングは、加工開始時ta0を基準とすると、一定の範囲に固定できる。したがって、区間Sa1,Sa2,Sa3の長さの比を固定値に設定することができる。図7(a)に示した例では、区間Sa1,Sa2,Sa3の長さの比は、2:1:7に設定されている。
【0068】
第1ショットデータは、時間的な変化の大きい部分(図7(a)に示した例では、第2区間Sa2)と、変化の小さい部分(図7(a)に示した例では、第1区間Sa1及び第3区間Sa3)とに分割されることが好ましい。
【0069】
図7(b)は、オーバーサンプリングされた図7(a)の第1ショットデータに対してリサンプリング部210による圧縮処理を実行することによって圧縮された圧縮データを示すグラフである。圧縮データは、加工開始時tb0から時刻tb1までの第1区間Sb1と、時刻tb1から時刻tb2までの第2区間Sb2と、時刻tb2から加工終了時tb3までの第3区間Sb3と、を有する。圧縮後の区間Sb1,Sb2,Sb3は、図7(a)の圧縮前の区間Sa1,Sa2,Sa3にそれぞれ対応する。
【0070】
リサンプリング部210は、オーバーサンプリングされた第1ショットデータにおいて時間的な変化の小さい部分を圧縮する一方で、変化の大きい部分については圧縮しないか、変化の小さい部分より小さい圧縮率で圧縮する。例えば、リサンプリング部210は、オーバーサンプリングされた図7(a)の区間Sa1,Sa2,Sa3における波形データを、それぞれ、圧縮率C1,C2,C3で圧縮して図7(b)の区間Sb1,Sb2,Sb3の圧縮データとする。ここで、圧縮率は、圧縮後のデータ量に対する圧縮前のデータ量の割合である。
【0071】
例えば、リサンプリング部210は、区間毎のデータにそれぞれ異なる時間の長さに相当するサンプリング数を割り当てることによって、互いに異なる圧縮率で各区間のデータを圧縮する。
【0072】
図7の例では、C1=4、C2=1、C3=3である。すなわち、図7(a)の第1区間Sa1における波形データは、1/4に圧縮されて図7(b)の第1区間Sb1の圧縮データとされ、図7(a)の第3区間Sa3における波形データは、1/3に圧縮されて図7(b)の第3区間Sb3の圧縮データとされている。これらの区間では、サンプリング数が削減されている。これ対して、図7(a)の第2区間Sa2における波形データは、圧縮されていない。
【0073】
図6の判定基準データ231は、図7の各区間Sb1,Sb2,Sb3にそれぞれ対応する基準区間に分割されている。すなわち、判定基準データ231も、複数n個の基準区間に分割される。さらに、図6の判定基準データ231の各基準区間は、図1の判定基準データ131と比較すると、図7(a)の区間Sa1,Sa2,Sa3に対して実行する圧縮の圧縮率C1,C2,C3でそれぞれ圧縮されている。判定基準データ231の各基準区間は、それぞれ基準データ長を有し、これらをそれぞれ第1基準データ長、第2基準データ長、第3基準データ長と呼ぶ。
【0074】
リサンプリング部210には、判定基準データ231の第1~第3基準データ長が入力される。リサンプリング部210は、圧縮データに対して、各区間Sb1,Sb2,Sb3のデータ長を第1~第3基準データ長とそれぞれ一致させるリサンプリング処理を実行し、第2ショットデータを生成する。
【0075】
本実施形態では、リサンプリング部210は、リサンプリング前後のサンプリング周期が大きく異なるように設定された場合であっても、リサンプリング処理を実行することができる。
【0076】
上記のように、本実施形態に係る加工工程監視装置200において、判定基準データ131は、時間的に所定の割合で分割された複数n個の基準区間を有してもよい。リサンプリング部210は、第1ショットデータを、時間的に所定の割合で複数n個の区間に分割する。また、リサンプリング部210は、複数n個の区間における第1ショットデータのデータ長のそれぞれを、対応する複数n個の基準区間における判定基準データ131のデータ長に一致するように調整することによって、第2測定データを生成する。
【0077】
上記のような加工工程監視装置200は、サイクル加工における各単一サイクルの加工時間全体に対して、加工を特徴付ける加工点の時間(例えば打抜き期間)が短い場合において、より高い効果を発揮する。すなわち、加工工程監視装置200は、プレス機による打抜き加工において、パンチ等の工具にかかる打抜き荷重等の物理量を測定対象とすることによって、工具の状態を詳細に把握するだけでなく、ストリッパープレートによる被加工材の押さえつけ、スクラップのダイの中への押し込みといった動作について加工時間全体にわたる状態を把握することができる。また、本実施形態のように、各単一サイクルの加工時間全体の中の適切な部分につきデータの圧縮を行うことによって、部分的に詳細な状態を把握することと、全体の状態を把握することの双方を実行することができる。さらに、データの圧縮により、取得するデータ量及びデータ処理量を削減して判定処理を高速化させることができる。
【0078】
したがって、加工工程監視装置200は、加工を特徴付ける変化の大きい部分のデータは圧縮せず、変化の緩やかな部分は圧縮した少ないデータ量して、判定処理を実行することができ、判定精度を損なうことなくより高速に判定結果を得ることができる。また、加工工程監視装置200によれば、加工開始から加工終了までの全体の異常検知を一度に行うことが可能となる。加工工程監視装置200によれば、異なる2つの時間でのサンプリング値の相関に基づく判定手法であるマハラノビス距離を用いた判定手法では、より高い効果を得ることができる。
【0079】
リサンプリング部210は、複数n個の区間のうちの少なくとも1つの区間における第1測定データを圧縮することによって、少なくとも1つの区間における第1測定データのデータ長を、対応する基準区間における判定基準データ131のデータ長に一致するように調整してもよい。
【0080】
上記構成によれば、データの圧縮により、取得するデータ量及びデータ処理量を削減して判定処理を高速化させることができる。
【0081】
(第2実施形態の変形例)
以下、図8を参照して本開示の第2実施形態の変形例を説明する。本変形例では、図6の高さセンサ1は、クランク式プレス機のスライダの高さを測定する。例えば、高さセンサ1は、ダイハイトを測定する。ダイハイトは、例えば、スライダ下面からボルスタプレート上面までの距離である。スライダの高さは、本開示の「第2物理量」の一例である。
【0082】
図8(a)は、高さセンサ1によって測定されたスライダの高さの時間的変化を示すグラフである。図8(b)は、荷重センサ2によって測定されたパンチに加わる荷重の時間的変化を示すグラフである。
【0083】
図8(a)に示すように、クランク式プレス機のスライダ高さの時間的変化は、正弦波に近い。被加工物の打ち抜き加工は、加工開始時と、スライダが下死点まで下がる時との間の時点で行われる。
【0084】
データ切出部8又はリサンプリング部210は、図8(a)のスライダ高さが第1中間閾値を下回った時刻tc1と、第1中間閾値より小さい第2中間閾値を下回った時刻tc2とを決定する。第1中間閾値及び第2中間閾値は、例えば記憶部13に予め格納される。なお、第1実施形態において説明したように、高さセンサ1をソース源とする信号s1の強度が開始閾値を下回った加工開始時tc0と、終了閾値を上回った加工終了時tc3とは、データ切出部8によって決定される。
【0085】
これにより、第1ショットデータは、加工開始時tc0から時刻tc1までの第1区間Sc1におけるデータD1と、時刻tc1から時刻tc2までの第2区間Sc2におけるデータD2と、時刻tc2から加工終了時tc3までの第3区間Sc3におけるデータD3と、に分割される。図8に示した例では、第1区間Sc1は、加工開始から、パンチが下がり被加工材に到達するまでの区間を表している。第2区間Sc2は、パンチが材料を打ち抜く区間に対応する。第3区間Sc3は、パンチが材料を打ち抜いた後から加工終了までの区間に対応する。
【0086】
以上のように、本変形例では、リサンプリング部210は、測定されたスライダの高さが互いに異なる複数の閾値、例えば第1中間閾値及び第2中間閾値を下回る複数の時点で、第1ショットデータをそれぞれ分割する。
【0087】
第2実施形態では、図7(a)の各区間Sa1,Sa2,Sa3の長さ、すなわち時刻ta1,ta2,ta3の値は、予め設定されるのに対して、本変形例では、高さセンサ1によるスライダ高さの検出結果を用いて決定される。各区間Sa1,Sa2,Sa3は、高さセンサ1による検出波形と同期して分割されるため、サイクル加工における各単一サイクルの加工時間に揺らぎが生じたとしても、それぞれの分割領域は正確に求められる。したがって、高さセンサ1による検出波形と同期した分割により、それぞれの区間毎に時間的な揺らぎが補正される効果を得ることができるため、図5(b)に示したような特定のサンプリング時刻における荷重の頻度を、よりバラツキのない急峻なもの、すなわち標準偏差の小さいものとすることができる。よって、本変形例によれば、より精度良く異常検知を実行することができる。
【0088】
(第3実施形態)
図9は、本開示の第3実施形態に係る加工工程監視装置300の構成例を示すブロック図である。図6の加工工程監視装置200が1つのオーバーサンプリングフィルタ9を備えるのに対し、図9の加工工程監視装置300は、複数のオーバーサンプリングフィルタを備える。図示の例では、加工工程監視装置300は、3つのオーバーサンプリングフィルタ9a,9b,9cを備える。
【0089】
オーバーサンプリングフィルタ9a,9b,9cは、例えば、互いに独立に設定されたカットオフ周波数を有するローパスフィルタである。すなわち、オーバーサンプリングフィルタ9a,9b,9cのカットオフ周波数は、互いに異なってもよいし、同一であってもよい。
【0090】
オーバーサンプリングフィルタ9aには、加工開始時ta0から時刻ta1までの第1区間Sa1におけるデータD1(図7(a)参照)が入力される。オーバーサンプリングフィルタ9bには、時刻ta1から時刻ta2までの第2区間Sa2におけるデータD2が入力される。オーバーサンプリングフィルタ9cには、時刻ta2から加工終了時ta3までの第3区間Sa3におけるデータD3が入力される。
【0091】
オーバーサンプリングフィルタ9a,9b,9cのカットオフ周波数は、入力されるデータD1,D2,D3についての圧縮率C1,C2,C3に応じて調整される。例えば、第1区間Sa1における波形データが1/4に圧縮される場合(C1=4の場合)、オーバーサンプリングフィルタ9aのカットオフ周波数は、ナイキスト周波数の1/4に設定される。第1区間Sb1における波形データが圧縮されない場合(C2=1の場合)、オーバーサンプリングフィルタ9bのカットオフ周波数は、ナイキスト周波数に設定される。第1区間Sc1における波形データが1/3に圧縮される場合(C3=3の場合)、オーバーサンプリングフィルタ9cのカットオフ周波数は、ナイキスト周波数の1/3に設定される。
【0092】
オーバーサンプリングフィルタが1つしかない場合、圧縮前のサンプリング周波数による高い周波数成分が含まれており、リサンプリング前のサンプリング点に時間軸上で最も近いタイミングの値を取得してリサンプリング点を求める際に、高周波成分を含む値を取得することがある。これに対して、複数のオーバーサンプリングフィルタ9a,9b,9cを備える本実施形態によれば、サンプリング定義が満たされたオーバーサンプリングフィルタ9a,9b,9cを準備することが容易になり、リサンプリングにおいて高周波成分が除かれた正確な値を取得することができる。
【0093】
したがって、加工工程監視装置300は、サンプリング定義を満たしながらデータ量を圧縮して正しい周波数成分が含まれた測定データを得ることができ、判定処理部11による異常検知をより正確に行うことができる。
【0094】
本実施形態では、オーバーサンプリングフィルタの種類を区間の数と同じにし、両者が一対一に対応する例を説明したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、複数の区間に適用される圧縮率がほぼ同じであれば、当該複数の区間に対して1つのオーバーサンプリングフィルタを設けてもよい。
【0095】
また、ある区間に適用される圧縮率が高い場合、例えば8倍以上の圧縮率が適用される場合であれば、圧縮自体がオーバーサンプリングとしての機能を持つことから、当該区間のデータについては必ずしもサンプリング周波数Fs以上にオーバーサンプリングする必要はない。
【0096】
以上のように、本実施形態に係る加工工程監視装置300は、複数n個の区間のそれぞれに対応する複数n個のオーバーサンプリングフィルタを更に備えてもよい。複数n個のオーバーサンプリングフィルタはそれぞれ、複数n個の区間のそれぞれにおける第1測定データに含まれる、第1物理量の時間的な変化を示す複数のデータ点に対してオーバーサンプリング処理を実行する。複数n個のオーバーサンプリングフィルタは、互いに独立なカットオフ周波数を有する。
【0097】
上記構成によれば、入力データが圧縮される場合であっても、リサンプリング部210は、サンプリング定義を満たしつつ入力データをリサンプリングすることができる。したがって、加工工程監視装置300は、サンプリング定義を満たしながらデータ量を圧縮して正しい周波数成分が含まれた測定データを得ることが容易になり、判定処理部11による異常検知をより正確に行うことができる。
【0098】
リサンプリング部210は、複数n個の区間のうちの少なくとも1つの区間における第1測定データを所定の圧縮率で圧縮することによって、少なくとも1つの区間における第1測定データのデータ長を、対応する基準区間における判定基準データ131のデータ長に一致するように調整してもよい。複数n個のオーバーサンプリングフィルタのそれぞれのカットオフ周波数は、圧縮率に基づいて設定される。
【0099】
上記構成によれば、上記の加工工程監視装置300の効果に加えて、各単一サイクルの加工時間全体の中の適切な部分につきデータの圧縮を行うことによって、部分的に詳細な状態を把握することと、全体の状態を把握することの双方を実行することができる。さらに、データの圧縮により、取得するデータ量及びデータ処理量を削減して判定処理を高速化させることができる。
【0100】
(他の実施形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、上記の実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用可能である。また、上記の実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施形態とすることも可能である。以下、他の実施形態を例示する。
【0101】
上記の実施形態では、高さセンサ1及び荷重センサ2によって検出された2つの信号を処理する構成を説明したが、本開示はこれに限定されず、少なくとも1つの信号に基づいて加工開始と加工終了のタイミングを検出できるものであればよい。したがって、物理量を検出するセンサは、2つに限定されず、1つ又は3つ以上であってもよい。上記少なくとも1つの信号は、高さセンサ1又は荷重センサ2によって得られるものに限定されず、例えばPLC(Programmable Logic Controller)等のコントローラからの信号、又はプレス機の回転角、位置等を示す信号であってもよい。
【0102】
上記の実施形態では、第1ショットデータが8倍にオーバーサンプリングされる例について説明したが、オーバーサンプリング係数は1より大きいものであればよく、8に限定されない。オーバーサンプリング係数が大きいと、データ量及び計算量が増大するものの、誤差の小さい補間値を取得することができる。このトレードオフを考慮すれば、オーバーサンプリング係数は8程度とすることが望ましい。
【0103】
上記の実施形態では、データ補間部の一例として、オーバーサンプリングフィルタについて説明したが、データ補間部はこれに限定されず、複数のデータ点間を補間したサンプリング値を得ることができるものであればよい。例えば、データ補間部は、サンプリングした2点間の線形補間、又は3点以上のサンプリング値に基づく曲線補間を実行してもよい。
【0104】
上記の実施形態では、判定基準データ131について、判定を行う上で基準となる波形データとして説明したが、判定基準データ131はこれに限定されず、基準データ長を持つものであればよい。判定基準データ131は、基準データ長の複数の時系列データを機械学習によって学習することによって生成された学習済みモデルであってもよい。判定処理部11は、このような学習済みモデルを用いて、基準データ長と同じデータ長を有する時系列データ、すなわち第2ショットデータの入力に対して、判定結果を出力するものであってもよい。
【0105】
第2実施形態及び第3実施形態のように、圧縮されて低減されたデータを用いて判定処理を行う効果は、判定処理に学習済みモデルを用いる場合に顕著となる。これは、時系列データの機械学習では、時系列データのデータ長が長くなるに従って生成される学習済みモデルのサイズが大きくなる傾向にあり、それに伴って学習済みモデルによる推論処理量が増加するためである。加えて、データ長が長くなるに従って、モデルに適切な学習をさせることが困難になってくるという課題がある。加工の特徴を損なうことなく圧縮された波形データを用いることにより、上記の課題を解決し、判定を高速に行うことが可能である。
【0106】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0107】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0108】
また、上述の実施形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において、種々の変更、置換、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本開示は、単一サイクルを繰り返すサイクル加工を行う加工機械を監視し、加工機械が正常に動作しているか否かを判定する加工工程監視装置及び加工工程監視方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 高さセンサ
2 荷重センサ
3,4 コントローラ
5 A/D変換器
6,7 フィルタ
8 データ切出部
9 オーバーサンプリングフィルタ(データ補間部)
10,210 リサンプリング部(データ長調整部)
11 判定処理部
12 出力部
13 記憶部
100,200,300 加工工程監視装置
131,231 判定基準データ
図1
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