(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182132
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】レーザー干渉計
(51)【国際特許分類】
G01P 3/36 20060101AFI20221201BHJP
G01S 17/58 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G01P3/36 E
G01S17/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089492
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】清水 武士
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA07
5J084AD04
5J084BA04
5J084BA36
5J084BA51
5J084BB15
5J084BB16
5J084BB17
5J084BB40
5J084CA21
5J084CA29
5J084CA49
5J084CA64
(57)【要約】
【課題】振動素子の振動条件によらず、測定対象物に由来するドップラー信号をより正しく復調することができるレーザー干渉計を提供すること。
【解決手段】レーザー光を射出する光源と、前記光源から射出された前記レーザー光を、第1光路と第2光路に分ける光分割器と、前記第1光路または前記第2光路に設けられ、電流を流すことにより振動する振動素子を備え、前記振動素子を用いて前記レーザー光を変調する光変調器と、前記第1光路または前記第2光路に設けられている測定対象物で反射した前記レーザー光を受光して受光信号を出力する受光素子と、基準信号および変調信号に基づいて、前記測定対象物に由来するドップラー信号を前記受光信号から復調する復調回路と、を備え、振動している前記振動素子に流れる前記電流の振幅値をIq[A]とし、前記振動素子の振動周波数をf[Hz]とするとき、Iq/f≦1×10
-7を満たすレーザー干渉計。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を射出する光源と、
前記光源から射出された前記レーザー光を、第1光路と第2光路に分ける光分割器と、
前記第1光路または前記第2光路に設けられ、電流を流すことにより振動する振動素子を備え、前記振動素子を用いて前記レーザー光を変調する光変調器と、
前記第1光路または前記第2光路に設けられている測定対象物で反射した前記レーザー光を受光して受光信号を出力する受光素子と、
基準信号および前記光変調器に由来する変調信号に基づいて、前記測定対象物に由来するドップラー信号を前記受光信号から復調する復調回路と、
を備え、
振動している前記振動素子に流れる前記電流の振幅値をIq[A]とし、前記振動素子の振動周波数をf[Hz]とするとき、
Iq/f≦1×10-7を満たすことを特徴とするレーザー干渉計。
【請求項2】
前記基準信号を出力する発振回路を備え、
前記振動素子は、前記発振回路の信号源である請求項1に記載のレーザー干渉計。
【請求項3】
前記振動素子は、水晶振動子であり、
前記水晶振動子に流れる電流の前記振幅値Iq[A]、および、前記水晶振動子の前記振動周波数f[Hz]は、
2×10-10≦Iq/f≦1×10-7を満たす請求項2に記載のレーザー干渉計。
【請求項4】
前記発振回路は、インバーター、帰還抵抗、制限抵抗、第1コンデンサーおよび第2コンデンサーを備える回路であり、
前記第1コンデンサーの容量をC
g[pF]とし、前記第2コンデンサーの容量をC
d[pF]とするとき、
前記発振回路の負荷容量C
L[pF]が下記式(a)で与えられ、
【数1】
前記負荷容量C
L[pF]は、50pF以上150pF以下である請求項3に記載のレーザー干渉計。
【請求項5】
前記制限抵抗の抵抗値は、30Ω以上200Ω以下である請求項4に記載のレーザー干渉計。
【請求項6】
前記振動素子は、Si振動子であり、
前記Si振動子に流れる電流の前記振幅値Iq[A]、および、前記Si振動子の前記振動周波数f[Hz]は、
4×10-10≦Iq/f≦5×10-8を満たす請求項2に記載のレーザー干渉計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー干渉計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、振動している物体にレーザービームを照射し、ドップラー効果により変化したレーザービームの周波数を利用して、物体の速度を測定するレーザードップラー速度計(レーザー干渉計)が開示されている。レーザードップラー速度計では、物体の振動現象の方向性を検出するために、レーザー光源から出射した光を変調する構造が必要となる。このため、特許文献1では、音響光学変調器や電気光学変調器を用いることが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、高価なAOM(音響光学変調器)に代えて、ピエゾ素子または水晶振動子のような振動素子を用いたレーザー振動計(レーザー干渉計)が開示されている。これらの振動素子にレーザー光を照射することにより、レーザー光の周波数がシフトする。このようにして周波数がシフトしたレーザー光を参照光として用いることにより、振動している物体によってドップラーシフトを受けた散乱レーザー光からドップラー信号を復調する。このドップラー信号から物体の振動速度を計測することができる。このようなレーザー振動計によれば、安価な振動素子を用いることができるので、レーザー振動計の低コスト化が図られる。
【0004】
一方、特許文献3には、光変調器に正弦波信号を印加し、レーザー光源からの光ビームを周波数偏移させた参照光ビームと、光ビームを被測定対象に照射して得られる反射光ビームと、を光検出素子で受光するとともに、受光信号に対して所定の演算処理を行い、その後、FM復調処理を行うように構成されたレーザードップラー速度計が開示されている。このようなレーザードップラー速度計では、FM復調処理の前に所定の演算処理を行うことで、参照光ビームの周波数が正弦波状に偏移する場合でも、受光信号から被測定対象の速度に応じた信号を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-54293号公報
【特許文献2】特開2007-285898号公報
【特許文献3】特開平2-38889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
振動素子を用いたレーザー干渉計では、被測定対象の速度を正しく計測することができない場合があった。具体的には、振動素子の振動条件によっては、参照光における変調信号の強度が著しく小さくなる。そのような場合には、被測定対象に由来するドップラー信号を正しく復調することができない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の適用例に係るレーザー干渉計は、
レーザー光を射出する光源と、
前記光源から射出された前記レーザー光を、第1光路と第2光路に分ける光分割器と、
前記第1光路または前記第2光路に設けられ、電流を流すことにより振動する振動素子を備え、前記振動素子を用いて前記レーザー光を変調する光変調器と、
前記第1光路または前記第2光路に設けられている測定対象物で反射した前記レーザー光を受光して受光信号を出力する受光素子と、
基準信号および前記光変調器に由来する変調信号に基づいて、前記測定対象物に由来するドップラー信号を前記受光信号から復調する復調回路と、
を備え、
振動している前記振動素子に流れる前記電流の振幅値をIq[A]とし、前記振動素子の振動周波数をf[Hz]とするとき、
Iq/f≦1×10-7を満たすことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るレーザー干渉計を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1に示すセンサーヘッド部を示す概略構成図である。
【
図3】
図2に示す光変調器の第1構成例を示す斜視図である。
【
図4】光変調器の第2構成例の一部を示す平面図である。
【
図6】振動素子の表面に対して垂直な方向から入射光K
iが入射したとき、複数の回折光が発生することを説明する概念図である。
【
図7】入射光K
iの進行方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°となるように構成された光変調器を説明する概念図である。
【
図8】入射光K
iの進行方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°となるように構成された光変調器を説明する概念図である。
【
図9】入射光K
iの進行方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°となるように構成された光変調器を説明する概念図である。
【
図10】パッケージ構造を有する光変調器を示す断面図である。
【
図11】一段インバーター発振回路の構成を示す回路図である。
【
図13】光変調器に由来する変調信号の位相ψ
mの時間変化を示す概念図である。
【
図14】受光信号I
PDの交流成分I
PD・ACの波形に対し、各パラメーターが与える影響を説明する図である。
【
図15】振動周波数fが5MHzである水晶振動子の等価直列抵抗とドライブレベルとの関係を示すグラフである。
【
図16】
図15に示す関係から求めた、水晶振動子に流れる電流値とドライブレベルとの関係を示すグラフである。
【
図17】変位振幅150nm、振動周波数10kHzで振動するピエゾアクチュエーターを測定対象物としたとき、復調回路で復調されたサンプル信号の位相変化を示すグラフである。
【
図18】B値と、振動している水晶振動子に流れる電流の振幅値Iqと、の関係を示すグラフである。
【
図19】復調回路で測定対象物由来のサンプル信号を復調して変位を計測したとき、B値と、計測変位の決定係数(R
2値)および標準偏差と、の関係を示すグラフである。
【
図20】所定の初期条件を与えてシミュレートした受光信号の波形の一例である。
【
図21】発振回路の負荷容量C
LとΔfとの関係を示すグラフである。
【
図22】振動素子に対する印加電圧Vqが10Vである場合および5Vである場合について、それぞれ、負荷容量C
LとB値との関係を示すグラフである。
【
図24】発振回路の制限抵抗Rdの抵抗値を50Ω、100Ω、200Ωの3水準に振ったときの、第2コンデンサーCdの容量と、一次CRローパスフィルターのカットオフ周波数fcと、の関係を示すグラフである。
【
図25】発振回路の負荷容量C
Lを80pF、100pF、120pF、150pFの4水準に振ったときの、発振回路の制限抵抗Rdの抵抗値とB値との関係を示すグラフである。
【
図26】発振回路の負荷容量C
Lを80pF、100pF、120pF、150pFの4水準に振ったときの、発振回路の制限抵抗Rdの抵抗値とΔfとの関係を示すグラフである。
【
図27】第1変形例に係るレーザー干渉計が備える光学系の実装構造を示す概略構成図である。
【
図28】第2変形例に係るレーザー干渉計が備える光学系の実装構造を示す概略構成図である。
【
図29】第3変形例に係るレーザー干渉計が備える光学系の実装構造を示す概略構成図である。
【
図30】第4変形例に係るレーザー干渉計が備える光学系の実装構造を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のレーザー干渉計を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、実施形態に係るレーザー干渉計を示す機能ブロック図である。
【0010】
図1に示すレーザー干渉計1は、光学系50および発振回路54を備えるセンサーヘッド部51と、光学系50からの受光信号が入力される復調回路52と、を有する。
【0011】
1.センサーヘッド部
図2は、
図1に示すセンサーヘッド部51を示す概略構成図である。
【0012】
1.1.光学系
センサーヘッド部51は、前述したように、光学系50を備える。
光学系50は、
図2に示すように、光源2と、偏光ビームスプリッター4(光分割器)と、1/4波長板6と、1/4波長板8と、検光子9と、受光素子10と、周波数シフター型の光変調器12と、測定対象物14が配置されたセット部16と、を備える。
【0013】
光源2は、所定の波長の出射光L1(第1レーザー光)を射出する。受光素子10は、受けた光を電気信号に変換する。光変調器12は、振動素子30を備えており、出射光L1を変調し、変調信号を含む参照光L2(第2レーザー光)を生成する。セット部16は、必要に応じて設けられればよいが、測定対象物14を配置することができるようになっている。測定対象物14に入射した出射光L1は、測定対象物14に由来するドップラー信号であるサンプル信号を含む物体光L3(第3レーザー光)として反射する。
【0014】
光源2から射出される出射光L1の光路を、光路18とする。光路18は、偏光ビームスプリッター4の反射により、光路20に結合される。光路20上には、偏光ビームスプリッター4側から1/4波長板8および光変調器12がこの順で配置されている。また、光路18は、偏光ビームスプリッター4の透過により、光路22に結合される。光路22上には、偏光ビームスプリッター4側から1/4波長板6およびセット部16がこの順で配置されている。
【0015】
光路20は、偏光ビームスプリッター4の透過により、光路24に結合される。光路24上には、偏光ビームスプリッター4側から検光子9および受光素子10がこの順で配置されている。
【0016】
光源2から射出された出射光L1は、光路18および光路20を経て、光変調器12に入射する。また、出射光L1は、光路18および光路22を経て、測定対象物14に入射する。光変調器12で生成された参照光L2は、光路20および光路24を経て、受光素子10に入射する。測定対象物14での反射により生成された物体光L3は、光路22および光路24を経て、受光素子10に入射する。
【0017】
以下、光学系50の各部についてさらに説明する。
1.1.1.光源
光源2は、可干渉性を有する線幅の細い出射光L1を射出するレーザー光源である。線幅を周波数差で表すと、線幅がMHz帯以下のレーザー光源が好ましく用いられる。具体的には、HeNeレーザーのようなガスレーザー、DFB-LD(Distributed feedback - laser diode)、FBG-LD(Fiber bragg Grating付き laser diode)、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)のような半導体レーザー素子等が挙げられる。
【0018】
光源2は、特に半導体レーザー素子を含むことが好ましい。これにより、光源2を特に小型化することが可能になる。このため、レーザー干渉計1の小型化を図ることができる。特に、レーザー干渉計1のうち、光学系50が収容されるセンサーヘッド部51の小型化および軽量化が図られるため、レーザー干渉計1の操作性を高められる点でも有用である。
【0019】
1.1.2.偏光ビームスプリッター
偏光ビームスプリッター4は、入射光を透過光と反射光とに分割する光学素子である。また、偏光ビームスプリッター4は、P偏光を透過し、S偏光を反射させる機能を有する。以下、直線偏光であって、P偏光とS偏光の比を例えば50:50にした出射光L1を、偏光ビームスプリッター4に入射する場合を考える。
【0020】
偏光ビームスプリッター4では、前述したように、出射光L1のS偏光を反射し、P偏光を透過させる。
【0021】
偏光ビームスプリッター4で反射した出射光L1のS偏光は、1/4波長板8で円偏光に変換され、光変調器12に入射する。光変調器12に入射した出射光L1の第1円偏光は、fm[Hz]の周波数シフトを受け、参照光L2として反射する。したがって、参照光L2は、周波数fm[Hz]の変調信号を含む。参照光L2は、再び1/4波長板8を透過するときP偏光に変換される。参照光L2のP偏光は、偏光ビームスプリッター4および検光子9を透過して受光素子10に入射する。
【0022】
偏光ビームスプリッター4を透過した出射光L1のP偏光は、1/4波長板6で円偏光に変換され、動いている状態の測定対象物14に入射する。測定対象物14に入射した出射光L1の第2円偏光は、fd[Hz]のドップラーシフトを受け、物体光L3として反射する。したがって、物体光L3は、周波数fd[Hz]のサンプル信号を含む。物体光L3は、再び1/4波長板6を透過するときS偏光に変換される。物体光L3のS偏光は、偏光ビームスプリッター4で反射され、検光子9を透過して受光素子10に入射する。
【0023】
前述したように、出射光L1は可干渉性を有しているため、参照光L2および物体光L3は、干渉光として受光素子10に入射する。
【0024】
なお、偏光ビームスプリッターに代えて無偏光ビームスプリッターを用いるようにしてもよい。この場合、1/4波長板6および1/4波長板8が不要となるため、部品点数の削減によるレーザー干渉計1の小型化を図ることができる。また、偏光ビームスプリッター4以外の光分割器を用いるようにしてもよい。
【0025】
1.1.3.検光子
互いに直交するS偏光およびP偏光は、互いに独立しているので、単純に重ね合わせただけでは干渉によるうなりが現れない。そこで、S偏光とP偏光を重ね合わせた光波を、S偏光およびP偏光の双方に対して45°傾けた検光子9に通す。検光子9を用いることにより、互いに共通した成分同士の光を透過させ、干渉を生じさせることができる。その結果、検光子9では、参照光L2と物体光L3とが干渉し、|fm-fd|[Hz]の周波数を持つ干渉光が生成される。
【0026】
1.1.4.受光素子
参照光L2および物体光L3は、偏光ビームスプリッター4および検光子9を介して受光素子10に入射する。これにより、参照光L2と物体光L3とが光ヘテロダイン干渉し、|fm-fd|[Hz]の周波数を持つ干渉光が受光素子10に入射する。この干渉光から後述する方法でサンプル信号を復調することにより、最終的に、測定対象物14の動き、すなわち振動速度や変位を求めることができる。受光素子10としては、例えばフォトダイオード等が挙げられる。
【0027】
1.1.5.光変調器
図3は、
図2に示す光変調器12の第1構成例を示す斜視図である。
【0028】
1.1.5.1.光変調器の第1構成例の概要
周波数シフター型の光変調器12は、光変調振動子120を有している。
図3に示す光変調振動子120は、板形状の振動素子30と、振動素子30を支持する基板31と、を備えている。
【0029】
振動素子30は、電位を加えることにより、面に沿う方向に歪むように振動するモードを繰り返す材料で構成されている。本構成例では、振動素子30は、MHz帯の高周波領域で、振動方向36に沿って厚みすべり振動する水晶AT振動子である。振動素子30の表面には、回折格子34が形成されている。回折格子34は、振動方向36と交差する成分を持つ溝32、すなわち、振動方向36と交差する方向に延在する直線状の複数の溝32が周期的に並んでなる構造を有している。
【0030】
基板31は、互いに表裏の関係を有する表面311および裏面312を有している。表面311には、振動素子30が配置されている。また、表面311には、振動素子30に電位を加えるためのパッド33が設けられている。一方、裏面312にも、振動素子30に電位を加えるためのパッド35が設けられている。
【0031】
基板31の大きさは、例えば、長辺が0.5mm以上10.0mm以下程度とされる。また、基板31の厚さは、例えば、0.10mm以上2.0mm以下程度とされる。一例として、基板31の形状は、1辺が1.6mmの正方形とされ、その厚さは0.35mmとされる。
【0032】
振動素子30の大きさは、例えば、長辺が0.2mm以上3.0mm以下程度とされる。また、振動素子30の厚さは、例えば、0.003mm以上0.5mm以下程度とされる。
【0033】
一例として、振動素子30の形状は、1辺が1.0mmの正方形とされ、その厚さは0.07mmとされる。この場合、振動素子30は、基本発振周波数24MHzで発振する。なお、振動素子30の厚さを変えたり、オーバートーンまで考慮したりすることにより、発振周波数を1MHzから1GHzの範囲で調整することが可能である。
【0034】
なお、
図3では、回折格子34が振動素子30の表面全体に形成されているが、一部にのみ形成されていてもよい。
【0035】
光変調器12による光変調の大きさは、光変調器12に入射する出射光L1の波数ベクトルと光変調器12から出射する参照光L2の波数ベクトルとの差分波数ベクトルと、振動素子30の振動方向36のベクトルとの内積で与えられる。本構成例では、振動素子30が厚みすべり振動するが、この振動は面内振動であることから、振動素子30単体の表面に対して垂直に光を入射しても、光変調はできない。そこで、本構成例では、振動素子30に回折格子34を設けることにより、後述する原理によって光変調を可能にしている。
【0036】
図3に示す回折格子34は、ブレーズド回折格子である。ブレーズド回折格子は、回折格子の断面形状が階段状になっているものをいう。回折格子34の直線状の溝32は、その延在方向が振動方向36に対して直交するように設けられている。
【0037】
図1および
図2に示す発振回路54から
図3に示す振動素子30に駆動信号Sdを供給する(交流電圧を印加する)と、振動素子30が発振する。振動素子30の発振に必要な電力(駆動パワー)は、特に限定されないが、0.1μW~100mW程度と小さい。このため、発振回路54から出力した駆動信号Sdを増幅することなく、振動素子30を発振させるために用いることができる。
【0038】
また、従来の光変調器は、光変調器の温度を維持する構造が必要な場合もあるため、体積を小さくすることが難しかった。また、従来の光変調器は、消費電力が大きいため、レーザー干渉計の小型化および省電力化が困難であるという課題を有していた。これに対し、本構成例では、振動素子30の体積が非常に小さく、発振に要する電力も小さいため、レーザー干渉計1の小型化および省電力化が容易である。
【0039】
1.1.5.2.回折格子の形成方法
回折格子34の形成方法は、特に限定されないが、一例として、機械刻線式(ルーリングエンジン)を用いた方法で型を作り、水晶AT振動子の振動素子30の表面に成膜した電極上に、ナノインプリント法で溝32を形成する方法が挙げられる。ここで、電極上としたのは、水晶AT振動子の場合は、原理上、電極上で高品質な厚みすべり振動を発生させることができるためである。なお、溝32を形成するのは、電極上に限定されず、非電極部の材料の表面上であってもよい。また、ナノインプリント法に代えて、露光およびエッチングによる加工方法、電子線描画リソグラフィー法、集束イオンビーム加工法(FIB)等を用いるようにしてもよい。
【0040】
また、水晶AT振動子のチップ上にレジスト材料で回折格子を形成し、そこに、金属膜や誘電体多層膜によるミラー膜を設けるようにしてもよい。金属膜やミラー膜を設けることにより、回折格子34の反射率を高めることができる。
【0041】
さらに、水晶AT振動子のチップやウエハー上にレジスト膜を形成し、エッチングによって加工を施した後、レジスト膜を除去し、その後、加工面に金属膜やミラー膜を形成するようにしてもよい。この場合、レジスト材料が除去されるため、レジスト材料の吸湿等による影響がなくなり、回折格子34の化学的安定性を高めることができる。また、Au、Alのような導電性の高い金属膜を設けることにより、振動素子30を駆動する電極としても用いることができる。
【0042】
なお、回折格子34は、陽極酸化アルミナ(ポーラスアルミナ)のような技術を用いて形成されてもよい。
【0043】
1.1.5.3.光変調器の他の構成例
振動素子30は、水晶振動子に限定されず、例えば、Si振動子、弾性表面波(SAW)デバイス、セラミック振動子等であってもよい。
【0044】
図4は、光変調器12の第2構成例の一部を示す平面図である。
図5は、光変調器12の第3構成例を示す平面図である。
【0045】
図4に示す振動素子30Aは、Si基板からMEMS技術を用いて製造されたSi振動子である。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は、微小電気機械システムのことである。
【0046】
振動素子30Aは、隙間を介して同一平面上に隣り合う第1電極301および第2電極302と、第1電極301上に設けられた回折格子載置部303と、回折格子載置部303上に設けられた回折格子34と、を備えている。第1電極301および第2電極302は、例えば、静電引力を駆動力として、
図4の左右方向に、すなわち、
図4に示す第1電極301と第2電極302とを結ぶ軸に沿って互いに接近と離間とを繰り返すように振動する。これにより、回折格子34に面内振動を与えることができる。Si振動子の発振周波数は、例えば1kHzから数100MHz程度である。
【0047】
図5に示す振動素子30Bは、表面波を利用するSAWデバイスである。SAW(Surface Acoustic Wave)は、弾性表面波のことである。
【0048】
振動素子30Bは、圧電基板305と、圧電基板305上に設けられた櫛歯状電極306と、接地電極307と、回折格子載置部303と、回折格子34と、を備えている。櫛歯状電極306に交流電圧を印加すると、逆圧電効果により、弾性表面波が励振される。これにより、回折格子34に面内振動を与えることができる。SAWデバイスの発振周波数は、例えば数100MHzから数GHz程度である。
【0049】
以上のようなデバイスについても、回折格子34を設けることにより、水晶AT振動子の場合と同様、後述する原理によって光変調が可能になる。
【0050】
一方、振動素子30が水晶振動子である場合、水晶が持つ極めて高いQ値を利用して、高精度な変調信号を生成することができる。Q値とは、共振のピークの鋭さを示す指標である。また、水晶振動子は、外乱にも影響を受けにくいという特長を持つ。したがって、水晶振動子を備える光変調器12で変調された変調信号を用いることにより、測定対象物14に由来するサンプル信号を高精度に取得することができる。
【0051】
1.1.5.4.振動素子による光変調
次に、振動素子30を用いて光を変調する原理について説明する。
【0052】
図6は、振動素子30の表面に対して垂直な方向から入射光K
iが入射したとき、複数の回折光が発生することを説明する概念図である。
【0053】
振動方向36に沿って厚みすべり振動をしている回折格子34に入射光K
iが入射すると、回折現象により、
図6に示すように、複数の回折光K
nsが発生する。nは、回折光K
nsの次数であり、n=0、±1、±2、・・・である。なお、
図6に示す回折格子34には、
図3に示すブレーズド回折格子ではなく、別の回折格子の例として、凹凸の繰り返しによる回折格子を図示している。また、
図6では、回折光K
0sの図示を省略している。
【0054】
図6では、入射光K
iが振動素子30の表面に対して垂直な方向から入射しているが、この入射角は特に限定されず、振動素子30の表面に対して斜めに入射するように入射角を設定するようにしてもよい。斜めに入射させた場合には、回折光K
nsの進行方向もそれに対応して変化する。
【0055】
なお、回折格子34の設計によっては、│n│≧2の高次の光は出現しないことがある。そこで、安定して変調信号を得るために、│n│=1に設定するのが望ましい。すなわち、
図2のレーザー干渉計1において、周波数シフター型の光変調器12は、±1次回折光が参照光L2として利用されるように配置されることが好ましい。この配置により、レーザー干渉計1による計測の安定化を実現することができる。
【0056】
一方、回折格子34から│n│≧2の高次の光が出現している場合には、±1次回折光ではなく、±2次以上のいずれかの回折光が参照光L2として利用されるように、光変調器12を配置するようにしてもよい。これにより、高次の回折光を利用することができるので、レーザー干渉計1の高周波化と小型化を実現することができる。
【0057】
本実施形態では、一例として、光変調器12に入射する入射光Kiの進入方向と光変調器12から出射する参照光L2の進行方向とのなす角度が180°となるように、光変調器12が構成されている。以下、3つの例について説明する。
【0058】
図7ないし
図9は、それぞれ、入射光K
iの進行方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°となるように構成された光変調器12を説明する概念図である。
【0059】
図7に示す光変調器12は、振動素子30に加えてミラー37を備えている。ミラー37は、回折光K
1sを反射して回折格子34に戻すように配置されている。このとき、ミラー37に対する回折光K
1sの入射角とミラー37における反射角とのなす角度が180°になっている。この結果、ミラー37から出射して回折格子34に戻された回折光K
1sは、回折格子34で再び回折し、光変調器12に入射する入射光K
iの進行方向と反対の方向に進行することになる。このため、ミラー37を追加することによって、前述した、入射光K
iの進入方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°という条件を満たすことができる。
【0060】
またこのようにミラー37を経由させることで、光変調器12で生成される参照光L2は、2回の周波数変調を受けたものとなる。したがって、ミラー37を併用することにより、振動素子30単体を用いた場合に比べて、より高周波の周波数変調が可能になる。
【0061】
図8では、
図6の配置に対し、振動素子30を傾けている。このときの傾斜角度θは、前述した、入射光K
iの進入方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°という条件を満たすように設定されている。
【0062】
図9に示す回折格子34は、ブレーズ角θ
Bを有するブレーズド回折格子である。そして、振動素子30の表面の法線Nに対し、入射角βで進行する入射光K
iが回折格子34に入射すると、法線Nに対してブレーズ角θ
Bと同じ角度で参照光L2が戻ることになる。したがって、入射角βをブレーズ角θ
Bと等しくすることで、前述した、入射光K
iの進入方向と参照光L2の進行方向とのなす角度が180°という条件を満たすことができる。この場合、
図7に示すミラー37を用いずに、また、
図8に示すように振動素子30自体を傾けることなく、前記条件を満たすことができるので、レーザー干渉計1のさらなる小型化および高周波化を図ることができる。特に、ブレーズド回折格子の場合には、前記条件を満たす配置を「リトロー配置」といい、回折光の回折効率を特に高めることができるという利点もある。
【0063】
なお、
図9のピッチPは、ブレーズド回折格子のピッチを表しており、一例として、ピッチPが1μmとされる。また、ブレーズ角θ
Bは、25°とされる。この場合、前記条件を満たすためには、入射光K
iの法線Nに対する入射角βも25°にすればよい。
【0064】
1.1.5.5.パッケージ構造
図10は、パッケージ構造を有する光変調器12を示す断面図である。
【0065】
図10に示す光変調器12は、筐体である容器70と、容器70に収容されている光変調振動子120と、発振回路54を構成する回路素子45と、を備えている。なお、容器70は、例えば、真空等の減圧雰囲気、または、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気に気密封止されている。
【0066】
容器70は、
図10に示すように、容器本体72とリッド74とを有している。このうち、容器本体72は、その内部に設けられた第1凹部721と、第1凹部721の内側に設けられ、第1凹部721より深い第2凹部722と、を有している。容器本体72は、例えば、セラミックス材料、樹脂材料等で構成されている。また、図示しないが、容器本体72は、内面に設けられた内部端子、外面に設けられた外部端子、内部端子と外部端子とを接続する配線等を備えている。
【0067】
また、容器本体72の開口部は、図示しないシールリングや低融点ガラス等の封止部材を介して、リッド74で塞がれている。リッド74の構成材料には、レーザー光を透過可能な材料、例えばガラス材料等が用いられる。
【0068】
第1凹部721の底面には、光変調振動子120が配置されている。光変調振動子120は、図示しない接合部材により、第1凹部721の底面に支持されている。また、容器本体72の内部端子と光変調振動子120との間は、例えばボンディングワイヤー、接合金属等の図示しない導電材料を介して電気的に接続されている。
【0069】
第2凹部722の底面には、回路素子45が配置されている。回路素子45は、ボンディングワイヤー76を介して容器本体72の内部端子と電気的に接続されている。これにより、光変調振動子120と回路素子45との間も、容器本体72が備える配線を介して電気的に接続される。なお、回路素子45には、後述する発振回路54以外の回路が設けられていてもよい。
【0070】
このようなパッケージ構造を採用することにより、光変調振動子120と回路素子45とを重ねることができるので、両者の物理的距離を近づけることができ、光変調振動子120と回路素子45との間の配線長を短くすることができる。このため、駆動信号Sdに外部からノイズが入ったり、反対に駆動信号Sdがノイズ源になったりするのを抑制することができる。また、1つの容器70で、光変調振動子120と回路素子45の双方を外部環境から保護することができる。このため、センサーヘッド部51の小型化を図りつつ、レーザー干渉計1の信頼性を高めることができる。
【0071】
なお、容器70の構造は、図示した構造に限定されず、例えば、光変調振動子120と回路素子45とが、個別のパッケージ構造を有していてもよい。また、図示しないものの、容器70には、発振回路54を構成するその他の回路要素が収容されていてもよい。なお、容器70は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。
【0072】
1.2.発振回路
図1に示すように、発振回路54は、光学系50の光変調器12に入力される駆動信号Sdを出力する。また、発振回路54は、復調回路52に入力される基準信号Ssを出力する。
【0073】
発振回路54には、振動素子30を発振可能な回路であれば、特に限定されず、様々な構成の回路が用いられる。
図11は、回路構成の一例として、一段インバーター発振回路の構成を示す回路図である。
【0074】
図11に示す発振回路54は、回路素子45と、帰還抵抗Rfと、制限抵抗Rdと、第1コンデンサーCgと、第2コンデンサーCdと、第3コンデンサーC3と、を備えている。
【0075】
回路素子45は、インバーターICである。回路素子45の端子X1および端子X2は、それぞれ回路素子45の内部のインバーターに接続された端子である。端子GNDは、グランド電位に接続され、端子Vccは、電源電位に接続される。端子Yは、発振出力用の端子である。
【0076】
端子X1とグランド電位との間には、第1コンデンサーCgが接続されている。また、端子X2とグランド電位との間には、互いに直列に接続された制限抵抗Rdおよび第2コンデンサーCdが、端子X2側からこの順で接続されている。さらに、端子X1と第1コンデンサーCgとの間には、帰還抵抗Rfの一端が接続され、端子X2と制限抵抗Rdとの間には、帰還抵抗Rfの他端が接続されている。
【0077】
また、第1コンデンサーCgと帰還抵抗Rfの間には振動素子30の一端が接続され、第2コンデンサーCdと制限抵抗Rdの間には振動素子30の他端が接続されている。これにより、振動素子30が、発振回路54の信号源となる。
【0078】
図12は、振動素子30のLCR等価回路の例である。
図12に示すように、振動素子30のLCR等価回路は、直列容量C
1、直列インダクタンスL
1、等価直列抵抗R
1、および並列容量C
0で構成されている。
【0079】
図11に示す発振回路54では、第1コンデンサーCgの容量をC
gとし、第2コンデンサーCdの容量をC
dとするとき、負荷容量C
Lが以下の式(a)で与えられる。
【0080】
【0081】
そうすると、発振回路54の端子Yから出力される発振周波数foscは、以下の式(b)で与えられる。
【0082】
【0083】
fQは、振動素子30の固有振動数である。
上記式(b)によれば、負荷容量CLを適宜変更することにより、端子Yから出力される信号の発振周波数foscを微調整し得ることがわかる。
【0084】
また、振動素子30の固有振動数fQと、発振回路54の発振周波数foscと、の差Δfは、以下の式(c)で与えられる。
【0085】
【0086】
ここで、C1<<C0、C1<<CLであるので、Δfは、近似的に以下の式(d)で与えられる。
【0087】
【0088】
したがって、発振回路54の発振周波数foscは、振動素子30の固有振動数fQに応じた値となる。
【0089】
ここで、振動素子30が例えば容器70に固定されるとき、固定部を介して温度による膨張応力を受けると、固有振動数fQが変動する。また、振動素子30を傾けると、自重による重力等の影響を受けて、固有振動数fQが変動する。
【0090】
発振回路54では、このような理由で固有振動数fQが変動したとしても、上記式(d)に基づいて、その変動に連動するように発振周波数foscが変化することになる。つまり、発振周波数foscは、常にΔfだけ、固有振動数fQからずれた値となる。これにより、振動素子30の振動が安定し、変位振幅L0を安定して得ることができる。変位振幅L0を安定させることができれば、光変調器12の変調特性を安定させることができ、復調回路52におけるサンプル信号の復調精度を高めることができる。
【0091】
一例として、Δf=|fosc-fQ|≦3000[Hz]であるのが好ましく、600[Hz]であるのがより好ましい。
【0092】
なお、発振回路54に代えて、例えばファンクションジェネレーターやシグナルジェネレーター等の信号生成器を用いてもよい。
【0093】
2.復調回路
復調回路52は、受光素子10から出力された受光信号から、測定対象物14に由来するサンプル信号を復調する復調処理を行う。サンプル信号には、例えば位相情報および周波数情報が含まれている。そして、位相情報からは、測定対象物14の変位情報を取得することができ、周波数情報からは、測定対象物14の速度情報を取得することができる。このように異なる情報を取得することができれば、変位計や速度計としての機能を持たせられるため、レーザー干渉計1の高機能化を図ることができる。
【0094】
復調回路52は、変調処理の方式に応じて、その回路構成が設定される。本実施形態に係るレーザー干渉計1では、振動素子30を備えた光変調器12が用いられている。振動素子30は、単振動する素子であるため、周期内で振動速度が刻々と変化する。このため、変調周波数も時間で変化することになり、従来の復調回路をそのまま用いることはできない。
【0095】
従来の復調回路とは、例えば、音響光学変調器(AOM)を用いて変調された変調信号を含む受光信号からサンプル信号を復調する回路を指す。音響光学変調器では、変調周波数が変化しない。このため、従来の復調回路は、変調周波数が変化しない変調信号を含む受光信号からサンプル信号を復調することはできるが、変調周波数が変化する光変調器12で変調された変調信号を含む場合、そのままでは復調することはできない。
【0096】
そこで、
図1に示す復調回路52は、前処理部53と、復調処理部55と、を備えている。受光素子10から出力された受光信号は、まず、前処理部53を通された後、復調処理部55に導かれる。前処理部53は、受光信号に前処理を施す。この前処理により、従来の復調回路で復調可能な信号が得られる。したがって、復調処理部55では、公知の復調方式により、測定対象物14由来のサンプル信号を復調する。
【0097】
2.1.前処理部の構成
図1に示す前処理部53は、第1バンドパスフィルター534と、第2バンドパスフィルター535と、第1遅延調整器536と、第2遅延調整器537と、乗算器538と、第3バンドパスフィルター539と、第1AGC540と、第2AGC541と、和算器542と、を備えている。なお、AGCは、Auto Gain Controlである。
【0098】
また、受光素子10と前処理部53との間には、受光素子10側から電流電圧変換器531およびADC532がこの順で接続されている。電流電圧変換器531は、トランスインピーダンスアンプであり、受光素子10からの電流出力を電圧信号に変換する。ADC532は、アナログ-デジタル変換器であり、所定のサンプリングビット数でアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0099】
受光素子10から出力された電流出力は、電流電圧変換器531で電圧信号に変換される。電圧信号は、ADC532でデジタル信号に変換され、分岐部jp1で第1信号S1と第2信号S2の2つに分割される。
図1では、第1信号S1の経路を第1信号経路ps1とし、第2信号S2の経路を第2信号経路ps2とする。
【0100】
さらに、発振回路54と第2遅延調整器537との間には、ADC533が接続されている。ADC533は、アナログ-デジタル変換器であり、所定のサンプリングビット数でアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0101】
第1バンドパスフィルター534、第2バンドパスフィルター535および第3バンドパスフィルター539は、それぞれ、特定の周波数帯の信号を選択的に透過させるフィルターである。
【0102】
第1遅延調整器536および第2遅延調整器537は、それぞれ、信号の遅延を調整する回路である。乗算器538は、2つの入力信号の積に比例した出力信号を生成する回路である。
和算器542は、2つの入力信号の和に比例した出力信号を生成する回路である。
【0103】
次に、第1信号S1、第2信号S2および基準信号Ssの流れに沿って、前処理部53の作動を説明する。
【0104】
第1信号S1は、第1信号経路ps1上に配置された第1バンドパスフィルター534に通された後、第1遅延調整器536で群遅延が調整される。第1遅延調整器536で調整する群遅延は、後述する第2バンドパスフィルター535による第2信号S2の群遅延に相当する。この遅延調整によって、第1信号S1が通過する第1バンドパスフィルター534と、第2信号S2が通過する第2バンドパスフィルター535および第3バンドパスフィルター539と、の間でフィルター回路の通過に伴う遅延時間を揃えることができる。第1遅延調整器536を通過した第1信号S1は、第1AGC540を経て、和算器542に入力される。
【0105】
第2信号S2は、第2信号経路ps2上に配置された第2バンドパスフィルター535に通された後、乗算器538に入力される。乗算器538では、第2信号S2に対し、第2遅延調整器537から出力された基準信号Ssが乗算される。具体的には、発振回路54から出力されたcos(ωmt)で表される基準信号Ssは、ADC533でデジタル変換、第2遅延調整器537で位相の調整が行われ、乗算器538に入力される。ωmは、光変調器12による変調信号の角周波数であり、tは、時間である。その後、第2信号S2は、第3バンドパスフィルター539に通された後、第2AGC541を経て、和算器542に入力される。
【0106】
和算器542では、第1信号S1と第2信号S2の和に比例する出力信号が、復調処理部55に出力される。
【0107】
2.2.前処理の基本原理
次に、前処理部53における前処理の基本原理について説明する。なお、ここでいう基本原理とは、特開平2-38889号公報に記載されている原理のことをいう。また、この基本原理では、変調信号として周波数が正弦波状に変化し、かつ測定対象物14の変位も光軸方向に単振動で変化している系について考える。ここで、Em、Ed、φを、
【0108】
【0109】
としたとき、受光素子10から出力される受光信号IPDは、理論的に次式で表される。
【0110】
【0111】
なお、Em、Ed、φm、φd、φ、ωm、ωd、ω0、am、adは、それぞれ以下のとおりである。
【0112】
【0113】
また、式(4)中の<>は、時間平均を表している。
上記式(4)の第1項および第2項は、直流成分を表しており、第3項は、交流成分を表している。この交流成分をIPD・ACとすると、IPD・ACは次式のようになる。
【0114】
【0115】
ここで、次式のようなν次ベッセル関数が知られている。
【0116】
【0117】
上記式(5)を上記式(8)および式(9)のベッセル関数を使って級数展開すると、次のように変形できる。
【0118】
【0119】
ただし、J0(B)、J1(B)、J2(B)、・・・は、それぞれベッセル係数である。
【0120】
以上のように展開すると、理論的には、特定の次数に対応する帯域をバンドパスフィルターによって抽出することが可能であるといえる。
【0121】
そこで、前述した前処理部53では、この理論に基づいて、以下のフローで受光信号に前処理を行っている。
【0122】
まず、前述したADC532から出力された受光信号は、分岐部jp1で第1信号S1と第2信号S2の2つに分割される。第1信号S1は、第1バンドパスフィルター534に通される。第1バンドパスフィルター534は、中心角周波数がωmに設定されている。これにより、第1バンドパスフィルター534を通過後の第1信号S1は、次式で表される。
【0123】
【0124】
一方、第2信号S2は、第2バンドパスフィルター535に通される。第2バンドパスフィルター535の中心角周波数は、第1バンドパスフィルター534の中心角周波数とは異なる値に設定されている。ここでは、一例として、第2バンドパスフィルター535の中心角周波数が2ωmに設定されている。これにより、第2バンドパスフィルター535通過後の第2信号S2は、次式で表される。
【0125】
【0126】
第2バンドパスフィルター535通過後の第2信号S2には、乗算器538で基準信号Ssが乗算される。乗算器538通過後の第2信号S2は、次式で表される。
【0127】
【0128】
乗算器538通過後の第2信号S2は、第3バンドパスフィルター539に通される。第3バンドパスフィルター539の中心角周波数は、第1バンドパスフィルター534の中心角周波数と同じ値に設定されている。ここでは、一例として、第3バンドパスフィルター539の中心角周波数がωmに設定されている。これにより、第3バンドパスフィルター539通過後の第2信号S2は、次式で表される。
【0129】
【0130】
その後、上記式(11)で表される第1信号S1は、第1遅延調整器536で位相を、第1AGC540で振幅を調整される。
【0131】
また、上記式(14)で表される第2信号S2も、第2AGC541で振幅が調整され、第1信号S1の振幅に対して第2信号S2の振幅が揃えられる。
【0132】
そして、第1信号S1および第2信号S2は、和算器542で和算される。和算結果は、次式で表される。
【0133】
【0134】
上記式(15)のように、和算の結果、不要項が消え、必要項を取り出すことができる。この結果が復調処理部55に入力される。
【0135】
2.3.復調処理部の構成
復調処理部55は、前処理部53から出力された信号から測定対象物14に由来するサンプル信号を復調する復調処理を行う。復調処理としては、特に限定されないが、公知の直交検波法が挙げられる。直交検波法は、入力信号に対し、互いに直交する信号を外部から混合する操作を行うことにより、復調処理を行う方法である。
【0136】
図1に示す復調処理部55は、乗算器551と、乗算器552と、移相器553と、第1ローパスフィルター555と、第2ローパスフィルター556と、除算器557と、逆正接演算器558と、出力回路559と、を備えたデジタル回路である。
【0137】
2.4.復調処理部による復調処理
復調処理では、まず、前処理部53から出力された信号を、分岐部jp2で2つに分割する。分割後の一方の信号に対し、乗算器551において、発振回路54から出力した、cos(ωmt)で表される基準信号Ssを乗算する。分割後の他方の信号に対しては、乗算器552において、発振回路54から出力した基準信号Ssの位相を移相器553で-90°シフトさせた、-sin(ωmt)で表される信号を乗算する。基準信号Ss、および、基準信号Ssの位相をシフトさせた信号は、互いに位相が90°ずれた信号である。
【0138】
乗算器551を通過した信号は、第1ローパスフィルター555を通され、その後、信号xとして除算器557に入力される。乗算器552を通過した信号は、第2ローパスフィルター556を通され、その後、信号yとして除算器557に入力される。除算器557では、信号yを信号xで除する除算を行い、その出力y/xを逆正接演算器558に通して、出力atan(y/x)を求める。
【0139】
その後、出力atan(y/x)を出力回路559に通すことにより、測定対象物14由来の情報として位相φdが求められる。出力回路559では、位相アンラップ処理により、隣り合う点に2πの位相飛びがある場合の位相接続を行う。復調処理部55から出力された位相情報から、測定対象物14の変位情報を算出することができる。これにより、測定対象物14の変位を計測する変位計が実現される。また、変位情報から、速度情報を求めることができる。これにより、測定対象物14の速度を計測する速度計が実現される。
【0140】
以上、復調処理部55の回路構成について説明したが、上記のデジタル回路の回路構成は、一例であり、これに限定されない。また、復調処理部55は、デジタル回路に限定されず、アナログ回路であってもよい。アナログ回路には、F/Vコンバーター回路やΔΣカウンター回路が含まれていてもよい。
【0141】
また、上述した復調処理部55の回路構成は、測定対象物14由来の周波数情報が求められるようになっていてもよい。周波数情報に基づいて、測定対象物14の速度情報を算出することができる。
【0142】
2.5.復調処理と振動素子の振動条件との関係
振動素子30の振動条件は、サンプル信号の復調処理における復調精度に影響を及ぼす。上記式(7)に含まれるB値は、変調信号の位相偏移であるが、このB値が小さい場合、レーザー干渉計1における初期の光路位相差によっては、受光素子10から出力される受光信号IPDの交流成分IPD・ACの強度が著しく低下することがある。以下、この課題をより詳細に説明する。
【0143】
受光素子10から出力される受光信号IPDの交流成分IPD・ACの強度は、上記式(5)から、cos(ψm-ψd+φ0)を含んでいる。ここで、ψmは、光変調器12由来の変調信号の位相であり、ψdは、測定対象物14由来のサンプル信号の位相であり、φ0は、光路20の初期位相と光路22の初期位相との差、すなわち、レーザー干渉計1における初期の光路位相差である。位相ψmは、上記式(5)に基づき、ψm=Bsin(ωmt)と表される。また、ここでは、位相ψd=0とする。
【0144】
図13は、光変調器12に由来する変調信号の位相ψ
mの時間変化を示す概念図である。前述したように、位相ψ
mは、前述したB値を用いて、ψ
m=Bsin(ω
mt)と表される。したがって、変調信号の位相ψ
mの時間変化は、
図13に示すように、正弦波の波形で表される。
【0145】
図14は、受光信号I
PDの交流成分I
PD・ACの波形に対し、各パラメーターが与える影響を説明する図である。
【0146】
図14のうち、上のグラフは、B値が比較的小さい場合、具体的には、例えばB値がπより小さい場合に、受光信号I
PDの交流成分I
PD・ACが示す波形の一例である。
【0147】
B値がπより小さい場合、初期の光路位相差φ0が0やπという特定の値をとると、受光信号IPDの交流成分IPD・ACの強度が著しく小さくなる。この場合、復調処理における復調精度が低下し、最終的に得られる変位情報や速度情報の精度が低下する。一方、初期の光路位相差φ0が±π/2という特定の値をとるときには、B値がπより小さい場合であっても、受光信号IPDの交流成分IPD・ACの強度は比較的大きい。したがって、B値が比較的小さい場合には、復調精度が、レーザー干渉計1における初期の光路位相差φ0の影響を受けやすいという課題がある。
【0148】
図14のうち、下のグラフは、B値が比較的小さい場合と、B値が比較的大きい場合と、において、初期の光路位相差φ
0が等しいときの受光信号I
PDの交流成分I
PD・ACが示す波形の一例を比較したものである。
【0149】
この波形から分かるように、例えば、B値がπより大きい場合には、B値がπより小さい場合に比べて、受光信号IPDの交流成分IPD・ACの強度が大きくなる。したがって、B値を大きくすることにより、受光信号IPDの交流成分IPD・ACの強度は、レーザー干渉計1における初期の光路位相差φ0の影響を受けにくくなる。
【0150】
B値は、変調信号の周波数f
mに対する変調信号のドップラー周波数偏移f
mmaxの比である。そして、振動素子30が、例えば
図8に示すように傾斜角度θで傾けられた姿勢で用いられる場合、この振動素子30によって生成される変調信号についてのB値は、下記式(16)で表される。
【0151】
【0152】
上記式(16)において、λは、出射光L1の波長であり、Lqは、振動素子30の変位の振幅値である。上記式(16)からわかるように、B値は、振動素子30の変位の振幅値Lqに依存する。よって、振動素子30の変位の振幅値Lqを大きくすることにより、B値を大きくすることができる。
【0153】
特に、振動素子30に設けられた回折格子34が前述したリトロー配置で設けられている場合には、下記式(17)が成り立つ。
【0154】
【0155】
上記式(17)において、nは、回折次数であり、Pは、回折格子34のピッチである。以上の式(16)および式(17)から、下記式(18)が成り立つ。
【0156】
【0157】
上記式(18)からわかるように、リトロー配置で設けられている場合も、B値は、振動素子30の変位の振幅値Lqに依存する。よって、振動素子30の変位の振幅値Lqを大きくすることにより、B値を大きくすることができる。
【0158】
なお、
図8では、面内振動する振動素子30を傾けた姿勢で用いているが、振動素子30は面外振動する素子であってもよい。その場合のB値は、下記式(19)で表される。
【0159】
【0160】
上記式(19)からわかるように、面外振動の場合も、B値は、振動素子30の変位の振幅値Lqに依存する。よって、振動素子30の変位の振幅値Lqを大きくすることにより、B値を大きくすることができる。
【0161】
以上のようなB値と変位の振幅値Lqとの関係を踏まえ、本発明者は、変位の振幅値Lqを大きくする方法について鋭意検討を重ねた。そして、本発明者は、振動素子30が振動しているとき、振動素子30に流れる電流の振幅値と変位の振幅値Lqとの間に相関があることを見出した。そして、電流の振幅値を最適化することによって、変位の振幅値Lqを効率的にかつ安定的に高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0162】
具体的には、実施形態に係るレーザー干渉計1は、光源2と、偏光ビームスプリッター4(光分割器)と、光変調器12と、受光素子10と、復調回路52と、を備える。光源2は、レーザー光を射出する。偏光ビームスプリッター4は、光源2から射出されたレーザー光を、光路20(第1光路)と光路22(第2光路)に分ける。光変調器12は、光路20に設けられ、電流を流すことにより振動する振動素子30を備え、振動素子30を用いてレーザー光を変調する。受光素子10は、光路22に設けられた測定対象物14で反射したレーザー光を受光して受光信号を出力する。復調回路52は、基準信号Ssおよび光変調器12に由来する変調信号に基づいて、測定対象物14に由来するサンプル信号(ドップラー信号)を受光信号から復調する。
【0163】
本実施形態では、特に、光源2が射出するレーザー光を出射光L1とし、光変調器12で変調され、変調信号を含むレーザー光を参照光L2とし、測定対象物13で反射し、サンプル信号(ドップラー信号)を含むレーザー光を物体光L3とする。そして、受光素子10は、物体光L3と参照光L2との干渉光を受光し、復調回路52は、基準信号Ssと、参照光L2が含む変調信号と、に基づいて、物体光L3が含むサンプル信号を復調する。
【0164】
このようなレーザー干渉計1において、振動している振動素子30に流れる電流の振幅値をIq[A]とし、振動素子30の振動周波数をf[Hz]とするとき、Iq/f≦1×10-7を満たすように、Iqおよびfを設定する。
【0165】
これにより、振動素子30の振動条件によらず、レーザー干渉計1において必要最低限の精度でサンプル信号を復調できる確率が高くなる。つまり、Iq/fが前記範囲内にあることで、振動素子30の励振電力(ドライブレベル)が適正な範囲内に収まるため、振動素子30に異常発振が生じるのを抑制し、B値が低下するのを抑制することができる。なお、Iq/fが前記上限値を上回ると、振動素子30のドライブレベルが過大になり、等価直列抵抗の増大という非線形現象を引き起こす。等価直列抵抗の増大により、電流の振幅値Iqが低下する。これにより、B値の低下を招く。
【0166】
また、発振回路54は、水晶振動子のみではなく、Si振動子、セラミック振動子等も発振可能である。
【0167】
振動素子30が水晶振動子である場合、水晶振動子に流れる電流の振幅値Iq[A]、および、水晶振動子の振動周波数f[Hz]は、2×10-10≦Iq/f≦1×10-7を満たしているのが好ましく、2×10-9≦Iq/f≦3×10-8を満たしているのがより好ましく、4×10-9≦Iq/f≦3×10-8を満たしているのがさらに好ましい。
【0168】
Iq/fが前記範囲を満たすことにより、水晶振動子の振動条件によらず、測定対象物14に由来するサンプル信号をより高い精度で復調することができる。つまり、振動条件によって復調精度が低下するという問題が発生しにくくなる。これにより、サンプル信号を従来よりも正しく復調することが可能なレーザー干渉計1を実現することができる。
【0169】
なお、Iq/fが前記下限値を下回ると、振動条件によっては、水晶振動子の変位の振幅値Lqが不足し、B値が小さくなるおそれがある。これにより、十分な復調精度を得ることができないおそれがある。一方、Iq/fが前記上限値を上回ると、水晶振動子のドライブレベルが過大になり、電流の振幅値Iqが低下し、B値の低下を招くおそれがある。この場合も、十分な復調精度を得ることができないおそれがある。
【0170】
なお、振動している振動素子30に流れる電流の振幅値Iqは、
図11に示す振動素子30の直後に電流プローブを取り付け、励振電流波形をオシロスコープに表示し、その波形から実効電流値を算出することによって求められる。
【0171】
ここで、上述した電流の振幅値IqとB値との関係は、理論的には、以下のように説明することができる。
【0172】
振動素子30のLCR等価回路を理論的に表す微分方程式は、ばね系の機械振動系を理論的に表す微分方程式と対応関係を有する。この対応関係に基づくと、振動素子30に流れる電流は機械振動系の速度に対応し、振動素子30に印加される電荷は機械振動系の変位に対応する。
【0173】
電荷は電流の時間積分で与えられる。したがって、B値と、振動素子30の変位の振幅値Lqと、振動素子30に流れる電流と、の関係は、下記式(20)で表される。
【0174】
【0175】
発振回路54において時間に対する電流の変化が正弦波状である場合、B値と、振動素子30の変位の振幅値Lqと、振動素子30に流れる電流と、の関係は、下記式(21)で表される。
【0176】
【0177】
負荷容量CLを振ったとき、光変調器12由来の変調信号の角周波数ωmの変化は、数100Hzレベルであるため、ほとんどないとみなすことができる。以上の理由から、B値および変位の振幅値Lqは、電流の振幅値Iqに比例することが説明される。
【0178】
この場合、振動素子30の種類、具体的には、水晶、Si、セラミックス等、振動素子30の構成材料に応じて比例定数が異なる。この比例定数は、「圧電体効率÷構成材料のヤング率×素子構造因子」で算出される係数に基づいて見積もることができる。
【0179】
ここで、振動周波数fがそれぞれ32kHzの水晶振動子とSi振動子を例に説明する。水晶振動子の圧電体は、水晶であり、一方、Si振動子では、圧電体として、例えばニオブ酸リチウムや窒化アルミニウム等が用いられる。水晶の圧電係数d33は、約2.0pm/Vであり、Si振動子の圧電体の圧電定数d33は、約5.5pm/Vである。圧電定数d33は、単位強さの電界が与えられたときに生じる歪みの比を表す定数であるので、これらの値および各振動子の等価直列抵抗値から、オームの法則に基づいて、単位量の電流値が与えられたときに生じる歪みの比を表す定数に換算すると、水晶では60nm/Aとなり、Si振動子の圧電体では440nm/Aとなる。つまり、Si振動子の圧電体は水晶よりも7.3倍程度、圧電係数が高いことがわかる。
【0180】
これらの値に、前述した「Iq/f」を掛けると、各圧電体の変位量換算効率、すなわち前述した圧電体効率が求められる。振動周波数fが32kHzの水晶振動子、およびSi振動子に、同じ電圧をかけたときのIq/fを比較すると、等価直列抵抗値の比から、Si振動子の値は水晶振動子の0.375倍となる。圧電体効率の算出結果を比較すると、Si振動子の圧電体は水晶よりも2.75倍程度、圧電体効率が高いことがわかる。
【0181】
一方、ヤング率について比較すると、水晶は約76GPaであり、Siは約185GPaである。したがって、Siは、水晶に比べて、圧電体に発生した応力を変位に変換しにくいといえる。
【0182】
以上の算出結果から、「圧電体効率÷構成材料のヤング率」で表される係数を算出すると、Si振動子の係数は、水晶振動子の係数の約1.1倍となる。
【0183】
また、素子構造因子は、圧電体の伸縮を素子の変位に変換する構造由来のパラメーターである。例えば、kHz帯の振動子では、素子の変位が得やすい構造として片持ち梁式の構造がある。片持ち梁式の構造では屈曲振動が主振動であり、素子の腕先端の変位は腕長に比例する。したがって、この場合の素子構造因子は腕長となる。水晶振動子では、腕長を例えば1.2mmのように、1mm以上とすることが可能である。一方、Si振動子は等価直列抵抗が水晶振動子よりも大きく、腕長は例えば0.55mmのように、水晶振動子より短くなる。つまり、Si振動子の腕長は水晶振動子の0.45倍となり、前述した「圧電体効率÷構成材料のヤング率×素子構造因子(=素子の腕長)」で表される係数を算出すると、Si振動子の係数は、水晶振動子の係数の約0.5倍となる。
【0184】
この係数は、等しい電流値が流れたときの変位量の比に相当する。したがって、水晶振動子と同じ変位量を得るためには、Si振動子には、約2倍の電流値が必要になることがわかる。
【0185】
以上の説明から、電流の振幅値Iqの導出においては、前述したIq/fの範囲内において、振動素子30の種類を踏まえた補正を行ってIqを算出し、その算出値を設定可能であることが、理論的に説明できる。
【0186】
以下、振動素子30が水晶振動子である場合を例にして、実測値等を踏まえつつ、さらに説明する。
【0187】
2.6.水晶振動子の振動条件
次に、振動素子30が水晶振動子である場合について振動条件をより詳細に説明する。
【0188】
2.6.1.電流の振幅値Iqとドライブレベルとの関係
まず、電流の振幅値Iqとドライブレベルとの関係について説明する。
一般に、水晶振動子では、ドライブレベルが所定のしきい値を超えると、等価直列抵抗が増大するという非線形現象を起こす。このような非線形現象は、水晶振動子に流れる電流値を減少させ、それに伴ってB値が小さくなる。例えば、振動周波数fが1MHzで、等価直列抵抗が最小レベルの1Ωである水晶振動子の場合、流すことができる電流値は最大100mA程度であると見積もられる。また、振動周波数fが5MHzで、等価直列抵抗が5Ωである水晶振動子の場合、流すことができる電流値は最大500mA程度であると見積もられる。したがって、水晶振動子では、Iq/fの上限値が1×10-7となる。
【0189】
図15は、振動周波数fが5MHzである水晶振動子の等価直列抵抗とドライブレベルとの関係を示すグラフである。
図16は、
図15に示す関係から求めた、水晶振動子に流れる電流値とドライブレベルとの関係を示すグラフである。
【0190】
図15に示すように、水晶振動子の等価直列抵抗は、水晶振動子のドライブレベルが所定のしきい値を超えると、急激に増加する。このような非線形現象は、水晶振動子に流れる電流値を減少させる。振動周波数fが5MHzで、等価直列抵抗が5Ωである水晶振動子の場合、ドライブレベルが100mW付近にしきい値が存在すると見積もられる。
【0191】
図16には、等価直列抵抗CIが1Ω、3Ω、10Ω、50Ω、100Ωのときの、水晶振動子に流れる電流値とドライブレベルとの関係を示している。
【0192】
例えば、等価直列抵抗CIが1Ωである水晶振動子をドライブレベル100mWで動作させると、最大300mA程度の電流が流れると見積もられる。実際の素子としては、100mA程度が可能であって、この値を用いることで、この水晶振動子では、Iq/fの上限値が1×10-7となる。
【0193】
以上のような理由から、Iq/fの上限値は、基本的には1×10-7とされ、好ましくは3×10-8とされる。
【0194】
2.6.2.電流の振幅値IqとB値との関係
次に、電流の振幅値IqとB値との関係について説明する。
Iq/fが前記下限値以上である場合、前述したように、水晶振動子の振動条件によらず、レーザー干渉計1において必要最低限の復調精度が得られる。つまり、Iq/fの前記下限値は、
図1に示すADC532、533が十分に性能の高い(サンプリングビット数が高い)場合に復調可能なB値に基づいて求められる。具体的には、ADC532、533のサンプリングビット数は、14ビットが現実的な最も高い値であるといえる。そうすると、サンプリングビット数が14ビットであるADC532、533を用いた復調回路52で復調可能な最も低いB値を求めることにより、Iq/fの下限値が導かれる。
【0195】
図17は、変位振幅150nm、振動周波数10kHzで振動するピエゾアクチュエーターを測定対象物としたとき、復調回路52で復調されたサンプル信号の位相変化を示すグラフである。
図17では、B値を0.05とし、受光信号の電圧のSN比(信号対雑音比)を80dBと60dBに異ならせたとき、復調精度がどのように変化するのかを比較している。
【0196】
受光信号のSN比を80dBとした場合、サンプリングビット数が14ビットという高精度のADC532、533でサンプリングすることにより、
図17に示すように、正弦波状の位相変化を最低限の精度で復調することができている。
【0197】
これに対し、受光信号のSN比を60dBとした場合、サンプリングビット数が14ビットという高精度のADC532、533でサンプリングしたとしても、
図17に示すように、復調結果には不規則な波形しか現れず、正弦波状の位相変化を復調することができていない。
【0198】
以上の結果から、B値が0.05以上であれば、サンプリングビット数が14ビットのADC532、533でサンプリングすることにより、復調回路52においては、必要最低限の精度で復調処理を行うことができると認められる。
【0199】
よって、必要最低限の復調精度を実現するためのB値の下限値は、0.05と求められる。
【0200】
図18は、B値と、振動している水晶振動子に流れる電流の振幅値Iqと、の関係を示すグラフである。
【0201】
図18に示すように、B値と電流の振幅値Iqとの間には回帰直線で表される相関が認められる。
図18に示す数式は、B値をyとし、電流の振幅値Iqをxとしたとき、yとxの間に成り立つ式の一例である。また、R
2は、実験値の回帰分析によって求められた決定係数の一例である。
図18に示す例では、B値と電流の振幅値Iqとが、比較的高い決定係数で回帰直線モデルに適合している。
【0202】
図18に示す数式から、B値が0.05である場合の電流の振幅値Iqを算出すると、約0.4mAとなる。水晶振動子の振動周波数fが様々に選択されることを考慮すると、電流の振幅値Iqの下限値は1mAとできる。
図18に示す水晶振動子の振動周波数fが5MHzであるとき、Iq/fの下限値は2×10
-10となる。
【0203】
図19は、復調回路52で測定対象物14由来のサンプル信号を復調して変位を計測したとき、B値と、計測変位の決定係数(R
2)および標準偏差と、の関係を示すグラフである。なお、
図19では、ADC532のサンプリングビット数を4、8、11、12、16ビットの5段階に変えつつ、計測した結果を図示している。
【0204】
測定対象物14には、一例として、振動周波数10kHzで振動している試料を使用している。振動素子のB値は、0.265~2.000で振っている。また、レーザー光には、VCSELから射出させた波長850nmのレーザー光を使用している。
【0205】
図19に示すように、一般的な性能であるサンプリングビット数が8ビットのADC532を用いた場合でも、B値にかかわらず、目標精度を達成できている。なお、この目標精度とは、以下のとおりである。
【0206】
・ビット数にかかわらず、B値が0.5超で、決定係数R2が99.9%以上であること
・サンプリングビット数が8ビット以上の場合、B値にかかわらず標準偏差が1nm以下であること
・サンプリングビット数が4ビットの場合、B値が1.0超である場合の標準偏差が1nm以下であること
【0207】
なお、サンプリングビット数が8ビットであるときの標準偏差の推移をみると、B≧0.5であれば、十分に余裕をもって目標精度を達成していることが認められる。したがって、8ビット以上の場合、B≧0.5であれば、計測時のロバスト性を十分に高めることができる。また、復調精度の観点からも、B値は大きいほど有利であることが認められる。前述した
図18に示す数式により、B≧0.5を満たす場合の、水晶振動子に流れる電流の振幅値Iqを算出すると、10.5mA以上となる。この場合、水晶振動子の振動周波数fが5~6MHzであるとすると、Iq/fの下限値は2×10
-9となる。
【0208】
なお、
図19の上図では、4ビットのデータ以外、決定係数1.000付近でマーカーが重なっていて区別することができない。また、
図19の下図では、12ビットのデータと16ビットのデータが、標準偏差0付近でほぼ重なっていて区別することができない。
【0209】
図20は、所定の初期条件を与えてシミュレートした受光信号の波形の一例である。受光素子10から出力される受光信号は、前述したように、直流成分と交流成分とに分けられる。
図20では、レーザー干渉計1における初期の光路位相差φ
0が取り得る様々な状態を再現するため、φ
0に緩やかな周期変動を与えている。したがって、
図20において、直流成分cos(φ
0)は、長い波の周期に対応し、交流成分cos(ψ
m-ψ
d+φ
0)は、短い波の周期に対応している。ψ
mは、光変調器12由来の変調信号の位相であって、ψ
m=Bsin(ω
mt)で表される。ψ
dは、測定対象物14由来のサンプル信号の位相である。なお、
図20では、位相ψ
d=0としている。また、一例として、B=0.27としている。
【0210】
長い波の周期および短い波の周期は、計測条件に応じて様々に変化することになる。そこで、いかなる動きをする測定対象物14であっても、安定した計測を行うためには、受光信号の波形を表す線が、
図20の「最適ゾーン」と記載した2つの領域に入っていることが求められる。最適ゾーンとは、受光信号の交流成分に、基本波である角周波数1・ω
mの信号成分と、高調波である角周波数2・ω
mの信号成分の、双方が現れる領域のことをいう。つまり、最適ゾーンから外れている場合、
図20に示すように、1・ω
mの信号成分が消失したり、2・ω
mの信号成分が消失したりすることになる。1・ω
mの信号成分とは、上記式(10)において第1バンドパスフィルター534の中心角周波数ω
mに対応した成分である。また、2・ω
mの信号成分とは、上記式(10)において第2バンドパスフィルター535の中心角周波数2ω
mに対応した成分である。
【0211】
受信信号の波形を表す線が「最適ゾーン」に入るためには、交流成分のうち、ψm+φ0の振幅がπ/3より大きければよいことになる。また、π/2より大きいことが好ましい。
【0212】
これを踏まえると、変調信号の位相ψmの変化振幅をΔψmとし、サンプル信号の位相ψdの変化振幅をΔψdとしたとき、Δψm+Δψd>π/3が少なくとも成り立っていればよい。そして、Δψmがπ/3に向かってできるだけ大きい方が好ましい。これにより、安定した計測が可能になる。
【0213】
なお、前述したψ
m=Bsin(ω
mt)の式から、変調信号の位相ψ
mの変化振幅Δψ
mがB値に相当する。したがって、B値は、π/3以上であるのが好ましい。これにより、測定対象物14の変位がより微小であっても、安定して計測することができる。前述した
図18に示す数式により、B≧π/3を満たす場合の、水晶振動子に流れる電流の振幅値Iqを算出すると、22.9mA以上となる。この場合、水晶振動子の振動周波数fが5~6MHzであるとすると、Iq/fの下限値は4×10
-9となる。
【0214】
以上のような理由から、Iq/fの下限値は、好ましくは2×10-10とされ、より好ましくは2×10-9とされ、さらに好ましくは4×10-9とされる。
【0215】
したがって、振動素子30が水晶振動子である場合、水晶振動子に流れる電流の振幅値Iq[A]、および、水晶振動子の振動周波数f[Hz]は、2×10-10≦Iq/f≦1×10-7を満たしているのが好ましく、2×10-9≦Iq/f≦3×10-8を満たしているのがより好ましく、4×10-9≦Iq/f≦3×10-8を満たしているのがさらに好ましい。
【0216】
Iq/fが前記範囲を満たすことにより、水晶振動子の振動条件によらず、測定対象物14に由来するサンプル信号をより高い精度で復調することができる。また、測定対象物14がいかなる動きをする場合でも、サンプル信号を安定的に復調することができる。
【0217】
以上、水晶振動子の振動条件について説明したが、水晶振動子は、AT振動子であっても、音叉型振動子であっても、その他の振動子であってもよい。
【0218】
下記の表1は、振動周波数fがMHz帯の水晶振動子とkHz帯の水晶振動子とで、前述したIq/fの算出結果を比較したものである。なお、表1に示す各数値は、一例である。
【0219】
【0220】
上記の表1に示すように、振動周波数fがMHz帯の水晶振動子とkHz帯の水晶振動子とでIq/fを算出したとき、双方の水晶振動子でIq/fはほぼ同等である。MHz帯の水晶振動子の代表例はAT振動子であり、kHz帯の水晶振動子の代表例は音叉型振動子である。よって、水晶振動子であれば、振動子の振動モードによらず、Iq/fが前記範囲を満たすように設定されればよいことが説明される。
【0221】
2.7.Si振動子の振動条件
発振回路54は、水晶振動子のみではなく、Si振動子、セラミック振動子等も発振可能である。ここでは、振動素子30がSi振動子である場合について振動条件をより詳細に説明する。なお、以下の説明では、水晶振動子の場合との相違点のみを説明し、同様の事項については説明を省略する。
【0222】
2.7.1.電流の振幅値Iqとドライブレベルとの関係
まず、電流の振幅値Iqとドライブレベルとの関係について説明する。
Si振動子でも、ドライブレベルが所定のしきい値を超えると、等価直列抵抗が増大するという非線形現象を起こす。したがって、Si振動子でも、Iq/fの上限値は、基本的には1×10-7であるが、水晶よりも小型化が容易なSiは非線形性が発現しやすく流せる電流量が低下する傾向があり、好ましくは5×10-8とされる。
【0223】
2.7.2.電流の振幅値IqとB値との関係
次に、電流の振幅値IqとB値との関係について説明する。
Si振動子やセラミック振動子では、水晶振動子に比べて直列等価抵抗が高いため、電流が流れにくい傾向がある。このため、Iq/fの下限値は、好ましくは4×10-10とされ、より好ましくは4×10-9とされ、さらに好ましくは8×10-9とされる。
【0224】
したがって、振動素子30がSi振動子である場合、Si振動子に流れる電流の振幅値Iq[A]、および、Si振動子の振動周波数f[Hz]は、4×10-10≦Iq/f≦5×10-8を満たしているのが好ましく、4×10-9≦Iq/f≦5×10-8を満たしているのがより好ましく、8×10-9≦Iq/f≦5×10-8を満たしているのがさらに好ましい。
【0225】
Iq/fが前記範囲を満たすことにより、Si振動子の振動条件によらず、測定対象物14に由来するサンプル信号をより高い精度で復調することができる。また、測定対象物14がいかなる動きをする場合でも、サンプル信号を安定的に復調することができる。
【0226】
2.8.発振回路の設定とB値との関係
実施形態に係るレーザー干渉計1は、前述したように発振回路54を備える。この発振回路54は、前述した信号発生器で置き換えられてもよいが、前述した一段インバーター発振回路のように、振動素子30からの出力を入力に戻すことで、特定の共振周波数の信号を選択的に増幅する回路であるのが好ましい。このような回路は、振動素子30からの出力を利用して振動素子30の振動が高安定に維持される。つまり、振動素子30が発振回路54の信号源となる。したがって、このような発振回路54によれば、回路構成の簡素化および小型化が容易である。
【0227】
また、発振回路54は、精度の高い基準信号Ssを出力し、これが復調回路52に入力される。発振回路54から出力された基準信号Ssが復調回路52に入力されることにより、基準信号Ssを発生させる信号発生器等を別途用意する必要がなくなる。このため、そのような観点でも、発振回路54は、レーザー干渉計1の小型化および軽量化に寄与する。
【0228】
さらに、発振回路54を用いた場合、前述したように、様々な原因によって振動素子30の固有振動数fQが変動したとしても、固有振動数fQに追従するように発振周波数foscを変化させることができる。これにより、前述したΔf(=fosc-fQ)が著しく増加することが抑制され、それに伴って、Δfと関連するB値が小さくなってしまうことも抑制される。その結果、前述した発振回路54を用いることで、より大きなB値を確保することができる。
【0229】
ただし、上記式(b)で与えられるように、発振回路54の発振周波数foscは、振動素子30の固有振動数fQとは一致しないため、Δfは常に0超の値となる。このため、B値をより大きくするためには、Δfを所定の範囲に最適化する必要がある。
【0230】
2.8.1.負荷容量CLとB値との関係
発振回路54の負荷容量CLは、上記式(a)で与えられるが、Δfは、上記式(d)のように、この負荷容量CLについて反比例する。
【0231】
図21は、発振回路54の負荷容量C
LとΔfとの関係を示すグラフである。
図21に示すグラフと上記式(d)とは、一致している。したがって、負荷容量C
Lを適宜変更することにより、Δfを調整することができる。
【0232】
図22は、振動素子30に対する印加電圧Vqが10Vである場合および5Vである場合について、それぞれ、負荷容量C
LとB値との関係を示すグラフである。
【0233】
印加電圧Vqが10Vである場合および5Vである場合のいずれも、負荷容量C
Lに対するB値の変化は、極大値を伴っている。そして、
図22のグラフから、負荷容量C
Lが50~150pFという範囲内に、B値の極大値があることが認められる。
【0234】
【0235】
図23における「最適ゾーンZS」は、
図22から導かれた、負荷容量C
Lが50pF以上150pF以下に対応する領域である。
図23から、Δfが240[Hz]以上600[Hz]以下のとき、大きなB値が得られることが認められる。
【0236】
なお、
図23では、最適ゾーンZSよりもΔfが大きいゾーンを「高ΔfゾーンZH」とし、最適ゾーンZSよりもΔfが小さいゾーンを「低ΔfゾーンZL」としている。
【0237】
高ΔfゾーンZHでは、Δfが600Hz超であり、その周波数帯域ではインピーダンスが大きくなっている。このため、振動素子30の変位が得られにくくなっている。
【0238】
低ΔfゾーンZLでは、Δfが240Hz未満であり、負荷容量C
Lが150pF超になっている。ここで、
図11に示す発振回路54の制限抵抗Rdおよび第2コンデンサーCdは、一次CRローパスフィルターと等価である。例えば、負荷容量C
Lを100pFとするためには、第2コンデンサーCdの容量を160~250pFにする必要がある。その場合、一次CRローパスフィルターのカットオフ周波数は、10MHz程度となる。通常、一次CRローパスフィルターでは、カットオフ周波数の1/10~1/5程度の周波数から減衰が生じ始めるため、例えば5MHzの発振周波数で振動素子30を発振させる場合、一次CRローパスフィルターが発振動作に影響を及ぼす。つまり、一次CRローパスフィルターが発振回路54の電圧信号を通過させるため、発振回路54の電圧信号が減衰する。このため、低ΔfゾーンZLでは、振動素子30の変位が得られにくくなる。
【0239】
2.8.2.制限抵抗Rdの抵抗値とB値との関係
発振回路54の制限抵抗Rdの抵抗値は、振動素子30に流れる電流の振幅値Iqを確保するために影響度が高いと考えられる。その理由は、主に2つ挙げられる。1つは、制限抵抗Rdは、発振回路54を流れる電流値を制限するため、その抵抗値が小さいほど、電流の振幅値Iqは大きくなると考えられるからである。もう1つは、前述した一次CRローパスフィルターのカットオフ周波数は制限抵抗Rdの抵抗値に依存すると考えられるからである。
【0240】
図24は、発振回路54の制限抵抗Rdの抵抗値を50Ω、100Ω、200Ωの3水準に振ったときの、第2コンデンサーCdの容量と、一次CRローパスフィルターのカットオフ周波数fcと、の関係を示すグラフである。
【0241】
図24に示すように、制限抵抗Rdの抵抗値が小さいほど、カットオフ周波数fcが高くなっている。このため、カットオフ周波数fcの観点からすると、制限抵抗Rdの抵抗値が小さいほど、電流の振幅値Iqを大きくするためには有利である。
【0242】
図25は、発振回路54の負荷容量C
Lを80pF、100pF、120pF、150pFの4水準に振ったときの、発振回路54の制限抵抗Rdの抵抗値とB値との関係を示すグラフである。
図26は、発振回路54の負荷容量C
Lを80pF、100pF、120pF、150pFの4水準に振ったときの、発振回路54の制限抵抗Rdの抵抗値とΔfとの関係を示すグラフである。
【0243】
図25では、負荷容量C
Lによらず、制限抵抗Rdの抵抗値が50Ωより小さくなると、B値が小さくなっている。このようにB値が小さくなる理由として、
図26に示すように、制限抵抗Rdの抵抗値が50Ωより小さくなると、Δfが大きくなることが挙げられる。Δfが大きくなると、前述したように、
図23に示す高ΔfゾーンZHに侵入し、振動素子30の変位が得られにくくなる。このため、B値が小さくなると考えられる。
【0244】
一方、
図25では、負荷容量C
Lによらず、制限抵抗Rdの抵抗値に対するB値の変化は、極大値を伴っている。したがって、
図25に示す制限抵抗Rdの抵抗値とB値との関係に基づくと、制限抵抗Rdの抵抗値は、30Ω以上200Ω以下であるのが好ましく、40Ω以上120Ω以下であるのがより好ましい。これにより、大きなB値を効率的かつ安定的に得ることができる。
【0245】
なお、負荷容量CLが150pFの場合、B値は高いものの、特に制限抵抗Rdの抵抗値が100Ω以下の場合において、発振安定性が低下する場合がある。このため、前述したように、負荷容量CLは好ましくは50pF以上150pF以下とされるが、より好ましくは50pF以上150pF未満とされる。
【0246】
以上のように、発振回路54は、インバーターICである回路素子45、帰還抵抗Rf、制限抵抗Rd、第1コンデンサーCgおよび第2コンデンサーCdを備える回路である。第1コンデンサーCgの容量をCgとし、第2コンデンサーCdの容量をCdとするとき、負荷容量CLが以下の式(a)で与えられる。
【0247】
【0248】
このとき、負荷容量CL[pF]は、50pF以上150pF以下であるのが好ましく、50pF以上150pF未満であるのがより好ましい。
【0249】
負荷容量CLをこのような範囲にすることで、より大きなB値を得ることができる。これにより、振動素子30の振動条件によらず、測定対象物14に由来するサンプル信号をより高い精度で復調することができる。
【0250】
3.レーザー干渉計の第1~第4変形例
次に、第1~第4変形例に係るレーザー干渉計について説明する。
【0251】
図27は、第1変形例に係るレーザー干渉計が備える光学系の実装構造を示す概略構成図である。
図28は、第2変形例に係るレーザー干渉計が備える光学系の実装構造を示す概略構成図である。
図29は、第3変形例に係るレーザー干渉計が備える光学系の実装構造を示す概略構成図である。
図30は、第4変形例に係るレーザー干渉計が備える光学系の実装構造を示す概略構成図である。
【0252】
以下、第1~第4変形例について説明するが、以下の説明では、前記実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、
図27ないし
図30において、前記実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0253】
図27に示すレーザー干渉計1の光学系50Dは、基板39を備えている。光源2、光変調器12および受光素子10は、それぞれ、この基板39上に実装されている。そして、
図27に示す基板39には、光路22と直交する方向に沿って、受光素子10、光源2および光変調器12がこの順で並ぶように配置されている。
【0254】
また、
図27に示す光学系50Dは、プリズム40、42を備えている。プリズム40は、受光素子10と検光子9との間の、光路24上に設けられている。プリズム42は、光変調器12と1/4波長板8との間の、光路20上に設けられている。
【0255】
さらに、
図27に示す光学系50Dは、凸レンズ44を備えている。凸レンズ44は、光源2と偏光ビームスプリッター4との間の、光路18上に設けられている。凸レンズ44を設けることにより、光源2から出た出射光L1を集束させて、有効に利用することができる。
【0256】
以上のような第1変形例でも、前記実施形態と同様、光路20(第1光路)に光変調器12が設けられ、光路22(第2光路)に測定対象物14が設けられている。
【0257】
図28に示すレーザー干渉計1の光学系50Eは、素子等の配置が異なる以外、
図27に示す光学系50Dと同様である。
【0258】
図28に示す基板39には、光路22と直交する方向に沿って、光源2、受光素子10および光変調器12がこの順で並ぶように配置されている。プリズム40は、光路18上に設けられ、プリズム42は、光路20上に設けられている。
【0259】
以上のような第2変形例でも、前記実施形態と同様、光路20(第1光路)に光変調器12が設けられ、光路22(第2光路)に測定対象物14が設けられている。
【0260】
図29に示すレーザー干渉計1の光学系50Fは、素子等の配置が異なるとともに、受光素子10が受光するレーザー光が異なる以外、
図28に示す光学系50Eと同様である。
【0261】
図29に示す基板39には、光路22と直交する方向に沿って、光源2、光変調器12および受光素子10がこの順で並ぶように配置されている。プリズム42は、光路24上に設けられている。
【0262】
光源2から射出された出射光L1は、プリズム40を経て、偏光ビームスプリッター4で第1光路と第2光路に分けられる。
図29に示す第3変形例では、光路22と光路20とを合わせた光路が第1光路に相当し、光路24が第2光路に相当する。
【0263】
偏光ビームスプリッター4で反射した出射光L1は、1/4波長板6を経て、動いている状態の測定対象物14に入射する。出射光L1は、測定対象物14でドップラーシフトを受け、物体光L3として反射する。物体光L3は、1/4波長板6、偏光ビームスプリッター4および1/4波長板8を経て、光変調器12に入射する。物体光L3は、光変調器12で周波数シフトを受け、物体参照光L4として反射する。物体参照光L4は、1/4波長板8、偏光ビームスプリッター4、プリズム42および検光子9を経て、受光素子10に入射する。
【0264】
一方、偏光ビームスプリッター4を透過した出射光L1は、プリズム42および検光子9を経て、受光素子10に入射する。
【0265】
そして、物体参照光L4および出射光L1は、干渉光として受光素子10に入射する。物体参照光L4は、変調信号およびサンプル信号を含むレーザー光である。
【0266】
以上のような第3変形例では、測定対象物14および光変調器12がそれぞれ第1光路に設けられている。
【0267】
また、本変形例では、受光素子10が、物体参照光L4と出射光L1との干渉光を受光し、復調回路52は、基準信号Ssと、物体参照光L4が含む変調信号と、に基づいて、物体参照光L4が含むサンプル信号を復調する。
【0268】
図30に示すレーザー干渉計1の光学系50Gは、偏光ビームスプリッター4が有する光反射面の向きが異なる以外、
図29に示す光学系50Fと同様である。
【0269】
光源2から出射された出射光L1は、プリズム40を経て、偏光ビームスプリッター4で第1光路と第2光路に分けられる。
図30に示す第4変形例では、光路20と光路22とを合わせた光路が第1光路に相当し、光路24が第2光路に相当する。
【0270】
偏光ビームスプリッター4で反射した出射光L1は、1/4波長板8を経て、光変調器12に入射する。出射光L1は、光変調器12で周波数シフトを受け、参照光L2として反射する。参照光L2は、1/4波長板8、偏光ビームスプリッター4および1/4波長板6を経て、動いている状態の測定対象物14に入射する。参照光L2は、測定対象物14でドップラーシフトを受け、物体参照光L4として反射する。物体参照光L4は、1/4波長板6、偏光ビームスプリッター4、プリズム42および検光子9を経て、受光素子10に入射する。
【0271】
一方、偏光ビームスプリッター4を透過した出射光L1は、プリズム42および検光子9を経て、受光素子10に入射する。
【0272】
そして、物体参照光L4および出射光L1は、干渉光として受光素子10に入射する。物体参照光L4は、変調信号およびサンプル信号を含むレーザー光である。
【0273】
以上のような第4変形例では、測定対象物14および光変調器12がそれぞれ第1光路に設けられている。
【0274】
また、本変形例でも、受光素子10が、物体参照光L4と出射光L1との干渉光を受光し、復調回路52は、基準信号Ssと、物体参照光L4が含む変調信号と、に基づいて、物体参照光L4が含むサンプル信号を復調する。
【0275】
以上のような
図27ないし
図30に示す実装構造によれば、レーザー干渉計1の小型化を容易に図ることができる。なお、素子の配置は、図示した配置に限定されない。なお、前述した「第1光路」および「第2光路」は、互いに入れ替わってもよい。例えば、第4変形例の場合、光路20と光路22とを合わせた光路が第2光路であって、光路24が第1光路であってもよい。前記実施形態や他の変形例でも同様である。
【0276】
また、
図27ないし
図30に示す実装構造では、受光素子10のサイズが例えば0.1mm角であり、光源2のサイズが例えば0.1mm角であり、光変調器12のサイズが例えば0.5~10mm角である。そして、これらを実装する基板39のサイズについては、例えば1~10mm角とされる。これにより、この基板39のサイズ程度まで、光学系の小型化を図ることができる。
以上のような第1~第4変形例においても、前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0277】
以上、本発明のレーザー干渉計を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明のレーザー干渉計は、前記実施形態に限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、前記実施形態に係るレーザー干渉計には、他の任意の構成物が付加されていてもよい。また、本発明の実施形態は、前記実施形態および前記各変形例のうちの任意の2つ以上を含み合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0278】
1…レーザー干渉計、2…光源、4…偏光ビームスプリッター、6…1/4波長板、8…1/4波長板、9…検光子、10…受光素子、12…光変調器、14…測定対象物、16…セット部、18…光路、20…光路、22…光路、24…光路、30…振動素子、30A…振動素子、30B…振動素子、31…基板、32…溝、33…パッド、34…回折格子、35…パッド、36…振動方向、37…ミラー、39…基板、40…プリズム、42…プリズム、44…凸レンズ、45…回路素子、50…光学系、50D…光学系、50E…光学系、51…センサーヘッド部、52…復調回路、53…前処理部、54…発振回路、55…復調処理部、70…容器、72…容器本体、74…リッド、76…ボンディングワイヤー、120…光変調振動子、301…第1電極、302…第2電極、303…回折格子載置部、305…圧電基板、306…櫛歯状電極、307…接地電極、311…表面、312…裏面、531…電流電圧変換器、532…ADC、533…ADC、534…第1バンドパスフィルター、535…第2バンドパスフィルター、536…第1遅延調整器、537…第2遅延調整器、538…乗算器、539…第3バンドパスフィルター、542…和算器、551…乗算器、552…乗算器、553…移相器、555…第1ローパスフィルター、556…第2ローパスフィルター、557…除算器、558…逆正接演算器、559…出力回路、721…第1凹部、722…第2凹部、540…第1AGC、541…第2AGC、C0…並列容量、C1…直列容量、C3…第3コンデンサー、Cd…第2コンデンサー、Cg…第1コンデンサー、GND…GND端子、K-2s…回折光、K-1s…回折光、K0s…回折光、K1s…回折光、K2s…回折光、Ki…入射光、L1…直列インダクタンス、L1…出射光、L2…参照光、L3…物体光、L4…物体参照光、N…法線、P…ピッチ、R1…等価直列抵抗、R2…決定係数、Rd…制限抵抗、Rf…帰還抵抗、S1…第1信号、S2…第2信号、Sd…駆動信号、Ss…基準信号、Vcc…端子、X1…端子、X2…端子、Y…端子、ZH…高Δfゾーン、ZL…低Δfゾーン、ZS…最適ゾーン、jp1…分岐部、jp2…分岐部、ps1…第1信号経路、ps2…第2信号経路、x…信号、y…信号、β…入射角、θ…傾斜角度、θB…ブレーズ角