(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182134
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20221201BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20221201BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/14 305
B41J2/16 305
B41J2/16 401
B41J2/16 503
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089496
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 章太郎
(72)【発明者】
【氏名】井手 理美子
(72)【発明者】
【氏名】樽見 典明
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EB07
2C056EB34
2C056FA04
2C056FA13
2C057AF63
2C057AG15
2C057AL15
2C057AN05
2C057AP13
2C057AP25
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】接着剤による個別流路の閉塞をより確実に抑制する。
【解決手段】ヘッドの流路部材は、鉛直方向に積層されかつ接着剤を介して互いに接着された複数のプレートで構成されている。複数のプレートのうちの1つは、個別流路の接続路23及び流出路25が開口する下面11nyであって、ノズルが形成されたプレートと接着される下面11ny(接着面)を有する。下面11nyにおいて、接続路23及び流出路25を構成する中空部Vが紙幅方向に並んでおり、紙幅方向に互いに隣接する2つの中空部Vの間に、搬送方向にそれぞれ延びる3本の溝51,52が形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に積層されかつ接着剤を介して互いに接着された複数のプレートで構成され、ノズル及び前記ノズルに連通する圧力室をそれぞれ含む複数の個別流路が形成された、流路部材を備え、
前記複数のプレートは、第1プレートと、前記第1プレートの接着面に接着剤を介して接着される第2プレートと、を含み、
前記接着面には、前記複数の個別流路をそれぞれ構成する複数の中空部が開口しており、
前記接着面において、前記複数の中空部は、前記第1方向と直交する第2方向に並び、前記第2方向に互いに隣接する2つの前記中空部の間に、前記第1方向と直交しかつ前記第2方向と交差する第3方向にそれぞれ延びる3本以上の溝が形成されたことを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記3本以上の溝のうち、前記第2方向に前記中空部と隣接する隣接溝は、大気と連通していないことを特徴とする、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記個別流路は、互いに接続された複数の流路部で構成され、
前記中空部は、前記複数の流路部のうち当該流路部に接続する流路部よりも幅が狭い、絞り流路部を構成することを特徴とする、請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記中空部は、前記絞り流路部を構成する幅狭部と、前記幅狭部の前記第3方向の端部に設けられ、前記幅狭部よりも幅が大きい幅広部と、を有し、
前記3本以上の溝のうち前記第2方向に前記中空部と隣接する隣接溝の前記第3方向の長さは、前記幅狭部の前記第3方向の長さ以下であることを特徴とする、請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記3本以上の溝のうち前記第2方向に前記中空部と隣接する隣接溝以外の中央溝の前記第3方向の長さは、前記幅狭部の前記第3方向の長さよりも長く、
前記接着面に、前記第2方向に延び、前記第2方向に並ぶ複数の前記中央溝を連結する連結溝がさらに形成されたことを特徴とする、請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記複数の中空部は、前記第2方向に配列され、前記第3方向に並ぶ複数の列を形成し、
前記連結溝は、前記第3方向に互いに隣接する2つの前記列に属する前記複数の中央溝を連結することを特徴とする、請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記複数の中空部は、前記第2方向に配列され、前記第3方向に並ぶ複数の列を形成し、
前記複数の列のうち、第1列に属する前記複数の中空部は、前記第2方向に前記第1列と隣接する第2列に属する前記複数の中空部と、前記第2方向に重ならないことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記流路部材に、前記複数の個別流路と連通する共通流路が形成されており、
前記中空部は、一端と、前記共通流路の底部に接続する他端とを有し、
前記第1プレートにおける前記接着面と反対側の面に、前記第2方向に延び、前記第2方向に互いに隣接する2つの前記中空部の前記他端を繋ぐ接続溝が形成されており、
前記3本以上の溝は、いずれも、前記接続溝と前記第1方向に重ならないことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記3本以上の溝は、互いに同じ幅を有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記3本以上の溝は、それぞれ、30~70μmの幅を有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記第2方向に互いに隣接する前記中空部と前記溝との間隔、及び、前記第2方向に互いに隣接する2つの前記溝の間隔は、いずれも、50μm以上であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
第1プレート及び第2プレートを含む複数のプレートのそれぞれに、ノズル及び前記ノズルに連通する圧力室をそれぞれ含む複数の個別流路を構成する複数の中空部を形成する、流路形成工程と、
前記第1プレートにおける前記第2プレートが接着剤を介して接着される接着面であって、前記複数の中空部が開口する接着面に、溝を形成する、溝形成工程と、
前記流路形成工程及び前記溝形成工程の後、前記複数のプレートを第1方向に積層して接着剤を介して互いに接着することで、前記複数の個別流路が形成された流路部材を作製する、接着工程と、を備え、
前記接着面において、前記複数の中空部は、前記第1方向と直交する第2方向に並び、
前記溝形成工程において、前記第2方向に互いに隣接する2つの前記中空部の間に、前記第1方向と直交しかつ前記第2方向と交差する第3方向にそれぞれ延びる3本以上の前記溝を形成することを特徴とする、液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記接着工程の後、前記3本以上の溝のうち前記第2方向に前記中空部と隣接する隣接溝以外の中央溝を大気と連通させ、かつ、前記ノズル及び前記圧力室を封止した状態で、前記複数の個別流路に圧力を印加し、前記複数の個別流路における圧力の変化を測定する、測定工程と、
前記測定工程で測定された圧力の変化に基づいて前記流路部材の不良を判断する、判断工程と、
をさらに備えたことを特徴とする、請求項12に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を介して互いに接着された複数のプレートで構成される流路部材を備えた液体吐出ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のプレートが積層され、隣接するプレートの対向面同士が接着剤により接着された積層体(流路部材)と、積層体に形成された個別流路と、を有する液体吐出ヘッドが示されている。複数のプレートの1つである第1流路プレートの下面には、個別流路を構成する帰還絞り路と、逃がし溝とが形成されている。当該下面は、ノズルプレートが接着剤を介して接着される面(接着面)である。接着剤の余剰分が逃がし溝に流れることで、個別流路の閉塞が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、個別流路を構成する2つの帰還絞り路(中空部)の間に1本の逃がし溝しか設けられていないため、2つの中空部の間の接着領域において、接着剤の付着面積が大きく、接着剤の量が必要以上になり得る。この場合、逃がし溝から接着剤の余剰分が溢れ出し、個別流路が閉塞され得る。
【0005】
本発明の目的は、接着剤による個別流路の閉塞をより確実に抑制できる、液体吐出ヘッド及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液体吐出ヘッドは、第1方向に積層されかつ接着剤を介して互いに接着された複数のプレートで構成され、ノズル及び前記ノズルに連通する圧力室をそれぞれ含む複数の個別流路が形成された、流路部材を備え、前記複数のプレートは、第1プレートと、前記第1プレートの接着面に接着剤を介して接着される第2プレートと、を含み、前記接着面には、前記複数の個別流路をそれぞれ構成する複数の中空部が開口しており、前記接着面において、前記複数の中空部は、前記第1方向と直交する第2方向に並び、前記第2方向に互いに隣接する2つの前記中空部の間に、前記第1方向と直交しかつ前記第2方向と交差する第3方向にそれぞれ延びる3本以上の溝が形成されたことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法は、第1プレート及び第2プレートを含む複数のプレートのそれぞれに、ノズル及び前記ノズルに連通する圧力室をそれぞれ含む複数の個別流路を構成する複数の中空部を形成する、流路形成工程と、前記第1プレートにおける前記第2プレートが接着剤を介して接着される接着面であって、前記複数の中空部が開口する接着面に、溝を形成する、溝形成工程と、前記流路形成工程及び前記溝形成工程の後、前記複数のプレートを第1方向に積層して接着剤を介して互いに接着する、接着工程と、を備え、前記接着面において、前記複数の中空部は、前記第1方向と直交する第2方向に並び、前記溝形成工程において、前記第2方向に互いに隣接する2つの前記中空部の間に、前記第1方向と直交しかつ前記第2方向と交差する第3方向にそれぞれ延びる3本以上の前記溝を形成することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るヘッド1を備えたプリンタ100の平面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿ったヘッド1の断面図である。
【
図4】
図3に示すヘッド1の流路部材11を構成するプレート11nの下面11nyにおける
図2に示す領域IVの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<プリンタの全体構成>
先ず、
図1を参照し、本発明の一実施形態に係るヘッド1を備えたプリンタ100の全体構成について説明する。
【0010】
プリンタ100は、4つのヘッド1を含むヘッドユニット1xと、プラテン3と、搬送機構4と、制御部5とを備えている。
【0011】
ヘッドユニット1xは、紙幅方向(鉛直方向と直交する方向)に長尺であり、位置が固定された状態でノズル21(
図2及び
図3参照)から用紙9に対してインクを吐出するライン式である。4つのヘッド1は、それぞれ紙幅方向に長尺であり、紙幅方向に千鳥状に配置されている。
【0012】
プラテン3は、ヘッドユニット1xの下方に配置され、鉛直方向と直交する方向に延びる平板部材である。プラテン3の上面に、用紙9が支持される。
【0013】
搬送機構4は、搬送方向(鉛直方向及び紙幅方向と直交する方向)にプラテン3を挟んで配置された2つのローラ対4a,4bを有する。制御部5の制御により搬送モータ(図示略)が駆動されると、ローラ対4a,4bが用紙9を挟持した状態で回転し、用紙9が搬送方向に搬送される。
【0014】
制御部5は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)を有する。ASICは、ROMに格納されたプログラムに従い、記録処理等を実行する。記録処理において、制御部5は、PC等の外部装置から入力された記録指令(画像データを含む。)に基づき、搬送モータ及び各ヘッド1のドライバIC(共に図示略)を制御することで、搬送機構4による用紙9の搬送と、各ヘッド1による用紙9へのインクの吐出とを行わせ、用紙9上に画像を記録する。
【0015】
<ヘッドの構成>
次いで、
図2~
図4を参照し、ヘッド1の構成について説明する。
【0016】
ヘッド1は、
図3に示すように、流路部材11と、アクチュエータ部材12とを有する。
【0017】
<流路部材の構成>
流路部材11は、鉛直方向(第1方向)に積層されかつ接着剤を介して互いに接着された15枚のプレート11a~11oで構成されている。各プレート11a~11oには、流路を構成する貫通孔や凹部(中空部)が形成されている。当該流路は、複数の個別流路20、供給流路31及び帰還流路32を含む。
【0018】
複数の個別流路20は、
図2に示すように、紙幅方向(第2方向)に配列され、4つの個別流路列20Rを構成している。4つの個別流路列20Rは、搬送方向に沿った方向(第3方向)に並んでいる。鉛直方向と直交する面において、複数の個別流路20は、全体として千鳥状に配置されている。
【0019】
2つの個別流路列20Rに対し、1組の供給流路31及び帰還流路32が設けられている。
図2左側の2つの個別流路列20Rに属する複数の個別流路20は、
図2左側の組の供給流路31及び帰還流路32に連通している。
図2右側の2つの個別流路列20Rに属する複数の個別流路20は、
図2右側の組の供給流路31及び帰還流路32に連通している。
【0020】
各組の供給流路31及び帰還流路32は、紙幅方向に延びると共に、
図3に示すように、鉛直方向に並んでいる。供給流路31及び帰還流路32は、それぞれの紙幅方向の一端(
図2の上端)に設けられた供給口31x及び帰還口32xを介して、インクタンク(図示略)に連通している。各組の供給流路31及び帰還流路32は、それぞれの紙幅方向の他端(
図2の下端)において、互いに連結されている。
【0021】
ここで、各組の供給流路31及び帰還流路32におけるインクの流れについて説明する。制御部5の制御によりポンプ(図示略)が駆動されることで、インクタンク内のインクが供給口31xを介して供給流路31に供給される。供給流路31に流入したインクは、供給流路31内を紙幅方向の一端(
図2の上端)から他端(
図2の下端)に向かって移動しつつ、当該供給流路31に連通する2つの個別流路列20Rの個別流路20に供給される。供給流路31の紙幅方向の他端(
図2の下端)に到達したインク、及び、各個別流路20から流出したインクは、帰還流路32に流入する。帰還流路32に流入したインクは、帰還流路32内を紙幅方向の他端(
図2の下端)から一端(
図2の上端)に向かって移動し、帰還口32xを介してインクタンクに戻される。
【0022】
供給流路31は、
図3に示すように、プレート11cの下面に形成された凹部とプレート11d~11gに形成された貫通孔とで構成されている。帰還流路32は、プレート11iの下面に形成された凹部とプレート11j~11mに形成された貫通孔とで構成されている。鉛直方向において各組の供給流路31と帰還流路32との間には、ダンパ室33が設けられている。ダンパ室33は、プレート11hの下面に形成された凹部で構成されている。
【0023】
各個別流路20は、ノズル21と、圧力室22と、ノズル21と圧力室22とを接続する接続路23と、圧力室22と供給流路31とを連通させる流入路24と、接続路23と帰還流路32とを連通させる流出路25とを含む。これら流入路24、圧力室22、接続路23、ノズル21及び流出路25は、互いに接続されることで個別流路20を構成し、それぞれ本発明の「流路部」に該当する。
【0024】
ノズル21は、プレート11oに形成された貫通孔で構成され、流路部材11の下面に開口している。
【0025】
圧力室22は、プレート11aに形成された貫通孔で構成され、流路部材11の上面に開口している。
【0026】
接続路23は、圧力室22の搬送方向の一端から下方に延びる円柱状の流路であり、プレート11b~11nに形成された貫通孔で構成されている。接続路23の直下に、ノズル21が配置されている。
【0027】
流入路24は、圧力室22の搬送方向の他端(接続路23が接続する端部とは反対側の端部)の下面に接続する一端と、供給流路31の上面に接続する他端とを有する。
【0028】
流出路25は、接続路23の下端の側面に接続する一端と、帰還流路32の下面(底部)に接続する他端25xとを有する。
【0029】
流入路24及び流出路25は、
図2に示すように、搬送方向に延び、圧力室22の幅(紙幅方向の長さ)よりも小さい幅を有し、絞りとして機能する。
【0030】
供給流路31から各個別流路20に供給されたインクは、
図3に矢印で示すように、流入路24を通って圧力室22に流入し、圧力室22内を略水平に移動して、接続路23に流入する。当該インクは、接続路23を通って下方に移動し、一部がノズル21から吐出され、残りが流出路25を通って帰還流路32に流入する。
【0031】
このようにインクタンクと流路部材11との間でインクを循環させることで、流路部材11に形成された供給流路31及び帰還流路32、さらには個別流路20における、気泡の排出やインクの増粘防止が実現される。
【0032】
<本発明の特徴>
流出路25は、当該流出路25に接続する流路部である接続路23よりも幅が狭く、本発明の「絞り流路部」に該当する。
【0033】
流出路25は、
図3に示すように、プレート11nの下面11nyに形成された凹部と、当該凹部の端部に接続する貫通孔(他端25xを構成する貫通孔)とで構成されている。例えば、プレート11nの厚みは50~60μmであり、凹部の深さは30~40μmである。
【0034】
プレート11nが本発明の「第1プレート」、プレート11oが本発明の「第2プレート」に該当し、プレート11nの下面11ny(本発明の「接着面」)に接着剤を介してプレート11oが接着されている。
【0035】
プレート11nの下面11nyには、各個別流路20の接続路23を構成する貫通孔と、各個別流路20の流出路25を構成する凹部及び貫通孔(他端25xを構成する貫通孔)とが、中空部Vとして開口している(
図4参照)。
【0036】
中空部Vは、
図4に示すように、流出路25を構成する凹部の開口である幅狭部Vaと、幅狭部Vaの搬送方向の一端及び他端のそれぞれに設けられた2つの幅広部Vbとを有する。各幅広部Vbの幅(紙幅方向の長さ:例えば100~150μm)は、幅狭部Vaの幅(例えば70~90μm)よりも大きい。2つの幅広部Vbのうち、一方は、接続路23を構成する貫通孔の開口であり、他方は、流出路25の他端25xを構成する貫通孔の開口である。
【0037】
複数の中空部Vは、プレート11nの下面11nyにおいて、紙幅方向に配列され、搬送方向に並ぶ4つの列Vrを形成している。列Vrは、個別流路列20R(
図2参照)に対応する。各列Vrに属する複数の中空部Vは、例えば解像度50dpiの場合、略508μmのピッチPで紙幅方向に配列されている。
【0038】
各列Vrに属する複数の中空部Vは、紙幅方向に当該列Vrと隣接する列に属する複数の中空部Vと、紙幅方向に重ならず、搬送方向に離隔している。
【0039】
プレート11nの下面11ny及び上面11nxには、溝50が形成されている。溝50は、下面11nyに形成された隣接溝51、中央溝52及び連結溝53と、上面11nxに形成された接続溝54とを含む。なお、溝50は、個別流路20等のインク流路を構成する空間ではない。
【0040】
隣接溝51及び中央溝52は、搬送方向に延びている。連結溝53及び接続溝54は、紙幅方向に延びている。溝51~53の幅は、互いに同じであり、幅狭部Vaの幅よりも小さい。例えば、隣接溝51の幅W1及び中央溝52の幅W2が30~70μmであるのに対し、幅狭部Vaの幅Wvは70~90μmであってよい。接続溝54は、溝51~53よりも幅が大きい。
【0041】
紙幅方向に互いに隣接する2つの中空部Vの間に、3本の溝51,52が形成されている。3本の溝51,52は、それぞれ2つの中空部Vと紙幅方向に重なっており、紙幅方向に中空部Vと隣接する2つの隣接溝51と、紙幅方向において2つの隣接溝51の間に位置する1つの中央溝52とで構成される。紙幅方向に互いに隣接する中空部Vと隣接溝51との間隔D1、及び、紙幅方向に互いに隣接する隣接溝51と中央溝52との間隔D2は、いずれも、50μm以上である。
【0042】
隣接溝51の搬送方向の長さL1は、幅狭部Vaの搬送方向の長さLa以下である。隣接溝51は、幅狭部Vaと紙幅方向に重なり、幅広部Vbと紙幅方向に重なっていない。
【0043】
中央溝52の搬送方向の長さL2は、幅狭部Vaの搬送方向の長さLaよりも長い。
【0044】
例えば、L1=500~550μm、La=560~600μm、L2=700~750μmである。
【0045】
中央溝52は、搬送方向の長さが比較的短い短尺中央溝52aと、搬送方向の長さが短尺中央溝52aよりも長い長尺中央溝52bとを含む。短尺中央溝52aは、幅狭部Va、及び、2つの幅広部Vbの一方(接続路23に対応する部分)と、紙幅方向に重なり、2つの幅広部Vbの他方(流出路25の他端25xに対応する部分)と紙幅方向に重なっていない。長尺中央溝52bは、幅狭部Va及び2つの幅広部Vbと紙幅方向に重なっている。各列Vrにおいて、短尺中央溝52aと長尺中央溝52bとが交互に配置されている。
【0046】
連結溝53は、搬送方向に互いに隣接する2つの列Vrの間にそれぞれ配置されており、当該2つの列Vrに属する複数の長尺中央溝52bを連結している。
【0047】
連結溝53は、プレート11aに形成された大気連通溝(図示略)に連通しており、大気と連通している。連結溝53につながる長尺中央溝52bは、連結溝53を介して大気と連通している。一方、短尺中央溝52a及び隣接溝51は、それぞれ閉じられた空間であり、大気と連通していない。
【0048】
プレート11nの上面11nxに形成された接続溝54は、紙幅方向に互いに隣接する2つの長尺中央溝52bの間において、紙幅方向に互いに隣接する2つの中空部Vの幅広部Vb(流出路25の他端25xに対応する部分)を繋いでいる。他端25xは、本発明の「共通流路」に該当する帰還流路32の底部に接続している(
図3参照)。接続溝54は、当該2つの中空部Vの間に配置された3つの溝(2つの隣接溝51及び1つの短尺中央溝52a)と、搬送方向に重なっているが、鉛直方向には重なっていない。
【0049】
<アクチュエータ部材の構成>
アクチュエータ部材12は、
図3に示すように、流路部材11の上面(プレート11aの上面)に固定されており、下から順に、振動板12aと、共通電極12bと、圧電体12cと、複数の個別電極12dとを含む。
【0050】
振動板12a、共通電極12b及び圧電体12cは、プレート11aに形成された全ての圧力室22を覆っている。一方、個別電極12dは、圧力室22毎に設けられており、圧力室22のそれぞれと鉛直方向に重なっている。
【0051】
共通電極12b及び複数の個別電極12dは、ドライバIC(図示略)と電気的に接続されている。ドライバICは、共通電極12bの電位をグランド電位に維持する一方、個別電極12dの電位を変化させる。具体的には、ドライバICは、制御部5からの制御信号に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を個別電極12dに付与する。これにより、個別電極12dの電位が所定の駆動電位とグランド電位との間で変化する。このとき、振動板12a及び圧電体12cにおいて個別電極12dと圧力室22とで挟まれた部分(アクチュエータ12x)が、圧力室22に向かって凸となるように変形することにより、圧力室22の容積が変化し、圧力室22内のインクに圧力が付与され、ノズル21からインクが吐出される。アクチュエータ部材12は、圧力室22のそれぞれに対応する複数のアクチュエータ12xを有する。
【0052】
<ヘッドの製造方法>
次いで、
図5を参照し、ヘッド1の構成について説明する。
【0053】
先ず、流路部材11の作製工程(S1)と、アクチュエータ部材12の作製工程(S2)とを、並行して行う。
【0054】
流路部材11の作製工程(S1)では、先ず、流路部材11を構成するプレート11a~11oのそれぞれに、流路を構成する貫通孔や凹部(中空部)を形成する(S1a:流路形成工程)。
【0055】
ここで、プレート11n(本発明の「第1プレート」)に対しては、個別流路20を構成する貫通孔や凹部(中空部)を形成すること(S1a)と同時に、溝50(
図4参照)を形成する(S1b:溝形成工程)。具体的には、プレート11nの下面11ny(本発明の「接着面」)に隣接溝51、中央溝52及び連結溝53を形成し、プレート11nの上面11nxに接続溝54を形成する。
【0056】
S1aの凹部やS1bの溝50は、エッチング等で形成する。例えば、プレート11nの下面11nyに対して、1つのフォトマスクを用いて、流出路25を構成する凹部と溝51~53とを同時にエッチングで形成する(S1a,S1b)。
【0057】
S1a,S1bの後、プレート11a~11oを、間に接着剤を介して積層し、互いに接着する(S1c:接着工程)。これにより、流路部材11が完成する。
【0058】
なお、本実施形態では、S1の後、完成した流路部材11についてリーク検査を行う(S3)。
【0059】
S3では、先ず、長尺中央溝52b(
図4参照)が連結溝53を介して大気と連通した状態で、かつ、流路部材11の表面に開口するノズル21及び圧力室22を封止部材で封止した状態として、例えば供給口31x及び帰還口32xからエアを注入して、個別流路20に圧力を印加する。そして、圧力センサ等を用いて、個別流路20における圧力の変化を測定する(S3a:測定工程)。
【0060】
S3aの後、S3aで測定された圧力の変化に基づいて、流路部材11の不良を判断する(S3b:判断工程)。例えば、所定時間内に所定量以上の圧力低下が生じた場合、当該流路部材11はリークが生じ得る不良品であると判断する。流路部材11が不良と判断された場合、S1を再度実行して流路部材11を作製する。リーク検査(S3)で合格した(即ち、不良と判断されなかった)流路部材11を、S4以降の工程で使用する。
【0061】
アクチュエータ部材12の作製(S2)では、振動板12aの表面に共通電極12bをスクリーン印刷により形成した後、共通電極12bの表面に圧電体12cを形成し、圧電体12cの表面に複数の個別電極12dを形成する。
【0062】
S2,S3の後、S3のリーク検査で合格した流路部材11の表面に、S2で作製したアクチュエータ部材12を接着する(S4)。
【0063】
S4の後、COF(Chip On Film)等の配線基板をアクチュエータ部材12に接着すること(S5)で、ヘッド1が完成する。
【0064】
以上に述べたように、本実施形態によれば、プレート11nの下面11ny(
図3に示すプレート11oと接着剤を介して接着される接着面)において、紙幅方向に互いに隣接する2つの中空部Vの間に、3本の溝51,52が形成されている(
図4参照)。この場合、2つの中空部Vの間に1本の溝だけ形成されている場合に比べ、2つの中空部Vの間の接着領域において、接着剤の付着面積が小さくなり、接着剤の量が必要以上になることが抑制される。また、溝の数が多い分、より多くの接着剤を捕捉できる。これにより、接着剤による中空部V(個別流路20)の閉塞をより確実に抑制できる。
【0065】
隣接溝51は、大気と連通していない(
図4参照)。プレート11nとプレート11o(
図3参照)との間に異物が挟まり、異物周りの隙間を介して隣接溝51と中空部Vとが連通する場合がある。この場合において、隣接溝51が大気と連通していると、隣接溝51と中空部Vとの間の圧力差により、中空部V内のインクの一部が隣接溝51に流れ、吐出圧が減少してしまう。この点、本実施形態では、プレート11nとプレート11oとの間に異物が挟まり、異物周りの隙間を介して隣接溝51と中空部Vとが連通した場合でも、隣接溝51が大気と連通していないため、隣接溝51と中空部Vとの間で圧力差が生じ難い。これにより、中空部V内のインクの一部が隣接溝51に流れて吐出圧が減少する問題を抑制できる。
【0066】
中空部Vは、絞り流路部である流出路25を構成する(
図4参照)。絞り流路部は、他の流路部に比べて、流路抵抗が大きいため、接着剤によって閉塞された場合の吐出への影響が大きい。本実施形態では、絞り流路部である流出路25に対して3本の溝51,52を設け、絞り流路部の閉塞を抑制することで、吐出への影響を効果的に抑制できる。
【0067】
隣接溝51の搬送方向の長さL1は、幅狭部Vaの搬送方向の長さLa以下である(
図4参照)。この場合、隣接溝51と幅広部Vbとの干渉を抑制できる。
【0068】
中央溝52の搬送方向の長さL2は、幅狭部Vaの搬送方向の長さLaよりも長い(
図4参照)。プレート11nの下面11nyには、紙幅方向に延び、紙幅方向に並ぶ複数の中央溝(長尺中央溝52b)を連結する連結溝53が形成されている。この場合、連結溝53を大気と連通させることで、複数の長尺中央溝52bを大気と連通させることができる。
【0069】
連結溝53は、搬送方向に互いに隣接する2つの列Vrに属する複数の長尺中央溝52bを連結している(
図4参照)。この場合、1本の連結溝53を大気と連通させることで、2つの列Vrに属する複数の長尺中央溝52bを大気と連通させることができる。
【0070】
各列Vrに属する複数の中空部Vは、紙幅方向に当該列Vrと隣接する列に属する複数の中空部Vと、紙幅方向に重ならない。この場合、列Vr毎に、中空部V間に溝51,52を形成するスペースを確保できる。
【0071】
帰還流路32の底部(
図3参照)においてインクの沈降成分(顔料等)が沈降して滞留することにより、中空部Vの幅広部Vb(流出路25の他端25xに対応する部分)が詰まり得る。この点、本実施形態では、接続溝54によって、紙幅方向に互いに隣接する2つの中空部Vの幅広部Vb(流出路25の他端25xに対応する部分)を繋いでいる(
図4参照)。これにより、沈降成分を含むインクの流れを促進し、詰まりを抑制できる。またこの場合において、プレート11nの上面11nxに形成される接続溝54と、プレート11nの下面11nyに形成される溝51,52とを、鉛直方向に互いに重ならないようにしたことで、プレート11nの局所的な強度低下(貫通孔が生じること等)を抑制できる。
【0072】
溝51,52は、互いに同じ幅を有する(
図4参照)。この場合、溝51,52を容易かつ精確に形成できる。
【0073】
溝51,52は、それぞれ、30~70μmの幅を有する。溝51,52の幅が30μm未満であると、エッチングによる溝51,52の形成が困難になる。溝51,52の幅が70μmを超えると、プレート11nの剛性を確保できない。本実施形態では、溝51,52がそれぞれ30~70μmの幅を有することにより、上記問題を共に抑制できる。
【0074】
紙幅方向に互いに隣接する中空部Vと隣接溝51との間隔D1、及び、紙幅方向に互いに隣接する隣接溝51と中央溝52との間隔D2は、いずれも、50μm以上である。間隔D1,D2が50μm未満であると、接着面積が小さ過ぎることで、接着不良が生じ得る。本実施形態では、間隔D1,D2が50μm以上であることにより、接着面積を確保し、接着不良を抑制できる。
【0075】
プレート11nとプレート11oとの間に大きな異物が挟まると、異物周りの隙間を介して、紙幅方向に隣接する2つの中空部Vが互いに連通する場合がある。2つの中空部Vが互いに連通すると、所望の吐出圧が得られず、吐出不良が生じ得る。本願発明者は、上記のように2つの中空部Vを互いに連通させるような大きな異物は、中央溝52に跨って配置されることに着眼し、中央溝52(長尺中央溝52b)を大気と連通させた状態で、個別流路20における圧力の変化を測定することを考案した(S3a:測定工程)。そして、圧力の変化に基づいて(例えば、所定時間内に所定量以上の圧力低下が生じた場合、中空部Vが中央溝52(長尺中央溝52b)と連通している(即ち、2つの中空部Vを互いに連通させるような大きな異物がプレート11nとプレート11oとの間に挟まっている)として)、流路部材11の不良を判断する(S3b:判断工程)。このように流路部材11の不良を判断することで、吐出不良を未然に防止できる。
【0076】
<変形例>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0077】
上述の実施形態(
図5)では、溝形成工程(S1b)を流路形成工程(S1a)と同時に行っているが、これに限定されず、溝形成工程(S1b)を流路形成工程(S1a)の前又は後に行ってもよい。
【0078】
上述の実施形態(
図4)では2つの中空部Vの間に3本の溝が形成されているが、2つの中空部Vの間に4本以上の溝が形成されてもよい。
【0079】
上述の実施形態(
図4)では、溝51,52が延びる方向(第3方向)は、中空部Vが並ぶ方向(第2方向)と直交するが、第2方向と交差すればよく、例えば
図4において溝51,52が搬送方向に対して斜めの方向に延びてもよい。
【0080】
上述の実施形態(
図3)では、接続路23及び流出路25が開口した下面11nyを有するプレート11nを本発明の「第1プレート」としているが、これに限定されず、流路部材11を構成する任意のプレートを「第1プレート」としてよい。例えば、流入路24が開口した下面を有するプレート11bを「第1プレート」とし、プレート11bの下面において紙幅方向に隣接する2つの流入路24の間に3本以上の溝を形成してもよい。
【0081】
上述の実施形態(
図2)では、1つの共通流路(帰還流路32)に対して2つの個別流路列20Rが設けられているが、これに限定されない。例えば、1つの共通流路(帰還流路32)に対して1つの個別流路列20Rが設けられてもよい。
【0082】
上述の実施形態(
図2)では、個別流路が4列に配置されているが、これに限定されず、個別流路が1~3又は5以上の列に配置されてもよい。
【0083】
上述の実施形態では、中空部は凹部及び貫通孔の双方で構成されるが、中空部は凹部及び貫通孔の一方で構成されてもよい。
【0084】
液体吐出ヘッドは、ライン式に限定されず、シリアル式(紙幅方向と平行な走査方向に移動しつつノズルから吐出対象に対して液体を吐出する方式)であってもよい。
【0085】
吐出対象は、用紙に限定されず、例えば布、基板、プラスチック部材等であってもよい。
【0086】
ノズルから吐出される液体は、インクに限定されず、任意の液体(例えば、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液等)であってよい。
【0087】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機、複合機等にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液体吐出装置(例えば、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液体吐出装置)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 ヘッド(液体吐出ヘッド)
11 流路部材
11a~11o プレート
11n プレート(第1プレート)
11nx 上面
11ny 下面(接着面)
11o プレート(第2プレート)
20 個別流路
21 ノズル
22 圧力室
23 接続路(流路部)
25 流出路(絞り流路部)
32 帰還流路(共通流路)
50 溝
51 隣接溝
52 中央溝
53 連結溝
54 接続溝
V 中空部
Va 幅狭部
Vb 幅広部
Vr 列