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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182170
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】無人搬送車の駆動ユニット
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/30 20060101AFI20221201BHJP
   B62D 9/00 20060101ALI20221201BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B60K17/30 Z
B62D9/00
B60L15/20 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089559
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(71)【出願人】
【識別番号】514293639
【氏名又は名称】尼得科台湾股▲ふん▼有限公司
【住所又は居所原語表記】Room 1001,10F,No.88,Sec.2,Jhongsiao E.Road,Jhongjheng District,Taipei City 100,Taiwan
(72)【発明者】
【氏名】顔 國智
(72)【発明者】
【氏名】▲ウー▼ 耿彰
(72)【発明者】
【氏名】▲ご▼ 友績
(72)【発明者】
【氏名】王 國▲みん▼
(72)【発明者】
【氏名】林 秀瑛
【テーマコード(参考)】
3D043
5H125
【Fターム(参考)】
3D043AA06
3D043AB08
3D043CB04
3D043CB05
5H125AA11
5H125BA04
5H125CB00
5H125DD15
5H125EE08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】省電力と小型・コンパクト化を実現することができる無人搬送車の駆動ユニットを提供する。
【解決手段】車体100の底部に固定されたクラウンギヤ(旋回ギヤ)2と、クラウンギヤ2の中心を貫通して車体から垂直に延びる支軸3と、支軸に水平面内で回動可能に支持されたフレーム4と、フレームに回転可能に横架されたホイール軸8と、ホイール軸に結着されたホイール9を備える無人搬送車の駆動ユニット1であって、ホイール軸の軸方向両端部に、駆動源である第1モータM1及び第2モータM2、第1遊星ギヤ機構G1と第2遊星ギヤ機構G2をそれぞれ配置し、第1及び第2遊星ギヤ機構の各キャリアc1,c2をホイール軸にそれぞれ結着するとともに、第1及び第2遊星ギヤ機構のリングギヤr1,r2をクラウンギヤにそれぞれ噛合させて構成されることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の底部に固定された旋回ギヤと、該旋回ギヤの中心を貫通して前記車体から垂直に延びる支軸と、該支軸に水平面内で回動可能に支持されたフレームと、該フレームに回転可能に横架されたホイール軸と、該ホイール軸に結着されたホイールを備える無人搬送車の駆動ユニットであって、
前記ホイール軸の軸方向両端部に、駆動源である第1モータ及び第2モータ、第1遊星ギヤ機構と第2遊星ギヤ機構をそれぞれ配置し、
前記第1及び第2遊星ギヤ機構の各キャリアを前記ホイール軸にそれぞれ結着するとともに、前記第1及び第2遊星ギヤ機構のリングギヤを前記旋回ギヤにそれぞれ噛合させて構成されることを特徴とする無人搬送車の駆動ユニット。
【請求項2】
前記各リングギヤは、複数のギヤ列を介して前記旋回ギヤにそれぞれ噛合していることを特徴とする請求項1に記載の無人搬送車の駆動ユニット。
【請求項3】
一対の前記第1及び第2モータと前記第1及び第2遊星ギヤ機構及び前記各ギヤ列は、前記ホイールの両側にそれぞれ対称的に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の無人搬送車の駆動ユニット。
【請求項4】
前記第1及び第2モータの回転方向と回転速度を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、
前記無人搬送車が直進走行するときは、前記第1及び第2モータを同一方向及び同一速度で回転駆動し、
前記無人搬送車が旋回走行するときには、前記第1及び第2電動モータを同一方向に所定の速度差をもって回転駆動し、
前記無人搬送車が旋回のみを行うときには、前記第1及び第2モータを互いに逆方向に同一速度で回転駆動することを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の無人搬送車の駆動ユニット。
【請求項5】
車体の底部に固定された旋回ギヤと、該旋回ギヤの中心を貫通して前記車体から垂直に延びる支軸と、該支軸に水平面内で回動可能に支持されたフレームと、該フレームに回転可能に横架されたホイール軸と、該ホイール軸に結着されたホイールを備える無人搬送車の駆動ユニットであって、
前記ホイール軸の軸方向一端部に、駆動源であるモータと遊星ギヤ機構を配置し、前記ホイール軸の軸方向他端部に第1ブレーキを取り付け、前記支軸に第2ブレーキを取り付け、
前記遊星ギヤ機構のキャリアを前記ホイール軸に結着するとともに、前記遊星ギヤ機構のリングギヤを前記旋回ギヤに噛合させて構成されることを特徴とする無人搬送車の駆動ユニット。
【請求項6】
前記リングギヤは、複数のギヤ列を介して前記旋回ギヤに噛合していることを特徴とする請求項5に記載の無人搬送車の駆動ユニット。
【請求項7】
前記モータの回転方向と回転速度及び前記第1ブレーキと前記第2ブレーキのON/OFFを制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、
前記無人搬送車が直進走行するときには、前記第1ブレーキをOFFし、前記第2ブレーキをONした状態で前記モータを所定速度で回転駆動し、
前記無人搬送車が旋回走行するときには、前記第1ブレーキと前記第2ブレーキを共にOFFした状態で前記モータを所定速度で回転駆動し、
前記無人搬送車が旋回のみを行うときには、前記第1ブレーキをONし、前記第2ブレーキをOFFした状態で前記モータを所定速度で回転駆動することを特徴とする請求項5または6に記載の無人搬送車の駆動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源である電動モータの動力伝達経路に遊星ギヤ機構を設けた無人搬送車の駆動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
無人搬送車(AGV(Automatic Guided Vehicle))は、生産現場を中心に原材料や部品、完成品などの搬送に幅広く活用されており、製品の保管や出荷を担う物流センターや病院といった各種非製造業の分野へも広く導入されている。
【0003】
ところで、近年の人口知能と制御のめざましい進歩によって、職場や家庭、公共の場などにおいて人間と協力し合うことができるスマートな無人搬送車が出現している。このような無人搬送車が複雑な環境や限られたスペースの領域で動作する場合、この無人搬送車が全方向に移動することができる機能を有していることは非常に有益である。このような全方向に移動可能な無人搬送車として、ホイール軸に垂直なパッシブローラを備えた全方向ホイール(ユニバーサルホイール)と45°の角度に向けられたローラ(メカナムホイール)が提案され、既に実用に供されている。
【0004】
しかしながら、従来の全方向ホイールは、製造が複雑で路面の凹凸に対して弱く、積載量に制限を受けるなどの問題があり、その用途が限られていた。
【0005】
そこで、駆動と旋回の双方の機能を備えた通常のホイールが現在も使用されているが、このホイールの駆動と旋回を実現するために、走行のための駆動用モータとステアリングのための旋回用モータを各々独立に設けた駆動ユニットが採用されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60-078831号公報
【特許文献2】米国特許第6491127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、駆動用モータと旋回用モータを各々独立に設ける構成を採用すると、これらの駆動用モータと旋回用モータはそれぞれ独立に動作するため、これらの駆動用モータと旋回用モータには余計な駆動力を要していた。このため、これらの駆動用モータと旋回用モータを備える駆動ユニットが大型化するとともに、駆動ユニットの消費電力が大きくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、省電力と小型・コンパクト化を実現することができる無人搬送車の駆動ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る無人搬送車の駆動ユニットは、車体の底部に固定された旋回ギヤと、該旋回ギヤの中心を貫通して前記車体から垂直に延びる支軸と、該支軸に水平面内で回動可能に支持されたフレームと、該フレームに回転可能に横架されたホイール軸と、該ホイール軸に結着されたホイールを備え、前記ホイール軸の軸方向両端部に、駆動源である第1モータ及び第2モータ、第1遊星ギヤ機構と第2遊星ギヤ機構をそれぞれ配置し、前記第1及び第2遊星ギヤ機構の各キャリアを前記ホイール軸にそれぞれ結着するとともに、前記第1及び第2遊星ギヤ機構のリングギヤを前記旋回ギヤにそれぞれ噛合させて構成されることを特徴とする。
【0010】
また、第2発明に係る無人搬送車の駆動ユニットは、車体の底部に固定された旋回ギヤと、該旋回ギヤの中心を貫通して前記車体から垂直に延びる支軸と、該支軸に水平面内で回動可能に支持されたフレームと、該フレームに回転可能に横架されたホイール軸と、該ホイール軸に結着されたホイールを備え、前記ホイール軸の軸方向一端部に、駆動源であるモータと遊星ギヤ機構を配置し、前記ホイール軸の軸方向他端部に第1ブレーキを取り付け、前記支軸に第2ブレーキを取り付け、前記遊星ギヤ機構のキャリアを前記ホイール軸に結着するとともに、前記遊星ギヤ機構のリングギヤを前記旋回ギヤに噛合させて構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、一対の第1及び第2モータの駆動力は、無人搬送台車の走行と旋回の双方に使用されるため、各モータに必要とされる駆動力が小さくて済み、これらの第1及び第2モータの小型化と省電力化が実現し、その結果として駆動ユニットの省電力と小型・コンパクト化が実現される。
【0012】
第2発明によれば、1つのモータの駆動力によって無人搬送車の走行と旋回がなされるため、該モータの更なる小型化と省電力が可能となり、当該駆動ユニットの一層の省電力と小型・コンパクト化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1発明に係る無人搬送車の駆動ユニットの斜視図である。
図2】第1発明に係る無人搬送車の駆動ユニットの縦断面図である。
図3】第1発明に係る無人搬送車の駆動ユニットのモータと遊星ギヤ機構部分の分解斜視図である。
図4】第1発明に係る無人搬送車の駆動ユニットの駆動系の構成を模式的に示す図である。
図5】第1発明に係る無人搬送車の駆動ユニットの各回転要素の角速度の値を表形式で示す図である。
図6】第2発明に係る無人搬送車の駆動ユニットの斜視図である。
図7】第2発明に係る無人搬送車の駆動ユニットの縦断面図である。
図8】第2発明に係る無人搬送車の駆動ユニットの駆動系の構成を模式的に示す図である。
図9】第2発明に係る無人搬送車の駆動ユニットの各回転要素の角速度の値とブレーキのON/OFFを表形式で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1発明]
まず、第1発明を図1図5に基づいて以下に説明する。
【0015】
図1は第1発明に係る無人搬送車の駆動ユニットの斜視図、図2は同駆動ユニットの縦断面図、図3は同駆動ユニットのモータと遊星ギヤ機構部分の分解斜視図、図4は同駆動ユニットの駆動系の構成を模式的に示す図、図5は同駆動ユニットの各回転要素の角速度の値を表形式で示す図である。
【0016】
図1及び図2に示す駆動ユニット1は、無人搬送車の車体100(図2参照)の底部に取り付けられ、無人搬送車を床面FL(図2参照)上で走行及び旋回させるものであって、実際には複数設けられている。なお、各駆動ユニット1の構成と作用は同じであるため、以下、1つの駆動ユニット1の構成と作用について説明する。
【0017】
無人搬送車の車体100の底部には、旋回ギヤである大径のクラウンギヤ2が密着するように水平に固定されており、このクラウンギヤ2の中心部には、車体100の底面から垂直下方に向かって垂直に延びる支軸3が貫通している。そして、この支軸3には、門型のフレーム4の上端中央部が該支軸3を中心として水平面内で回動可能に支持されている。具体的には、図2に示すように、円筒状のカラー部材5がフレーム4の天板4Aの中心を貫通しており、このカラー部材5は、複数のボルト6(図2には2つのみ図示)によってフレーム4の天板4Aに固定されている。そして、このカラー部材5の内部に上方から挿入された支軸3にカラー部材5が上下2つの軸受7によって回動可能に支持されることによって、前述のようにフレーム4が支軸3を中心として水平面内で回動可能に支持されている。
【0018】
ここで、フレーム4には、天板4Aから垂直下方に互いに平行に延びる一対の側板4Bが設けられており、これらの側板4Bの下部には、ホイール軸8が回転可能に水平に横架されている。そして、このホイール軸8の軸方向中央部には、床面FL上を転動するホイール(駆動輪)9が挿通固着されており、このホイール9は、その一部がフレーム4内に収容されている。
【0019】
また、図2に示すように、ホイール軸8の軸方向両端部(図2の左右両端部)には、駆動源である第1モータM1と第2モータM2がそれぞれ配置されており、これらの第1電動モータM1と第2モータM2の各内側には、第1遊星ギヤ機構G1と第2遊星ギヤ機構G2がそれぞれ配置されている。すなわち、ホイール9を中心としてこれの両側(図2の左右)に第1モータM1と第2モータM2及び第1遊星ギヤ機構G1と第2遊星ギヤ機構G2が振り分けられて対称的に配置されている。ここで、一方の第1モータM1と第1遊星ギヤ機構G1の構成について説明する。なお、他方の第2モータM2の構成は、第1モータM1のそれと同じであるため、同一要素には同一符号を付し、それらについての説明は省略する。また、第2遊星ギヤ機構G2の構成も第1遊星ギヤ機構G1のそれと同じであるが、第2遊星ギヤ機構G2においては、サンギヤをs2、リングギヤをr2、遊星ギヤをp2、キャリアをc2とそれぞれ表示している。
【0020】
第1モータM1は、図2に示すように、小型・薄型で省電力タイプの正逆転可能なものであって、フレーム4の一方の側板4Bにリングプレート10を介して取り付けられたモータハウジング11内にステータ12とロータ13を収容して構成されている。ここで、ステータ12には不図示の三相コイルが巻装されており、中空軸状のロータ(モータ出力軸)13は、ホイール軸8の一端部に嵌着されている。そして、ロータ13は、軸受14によってモータハウジング11に回転可能に支持されている。
【0021】
また、第1遊星ギヤ機構G1は、図2及び図3に示すように、ロータ13のフレーム4内に臨む一端外周に取り付けられた小径のサンギヤs1と、該サンギヤs1の周囲に配置された大径のリングギヤr1と、これらのサンギヤs1とリングギヤr1に噛合して自転しながら公転する3つの遊星ギヤp1(図3参照)と、これらの遊星ギヤp1を軸受15と軸16を介して回転(自転)可能に支持するキャリアc1を含んで構成されている。ここで、キャリアc1は、その中心部がホイール軸8の外周に結着されており、軸受17によってロータ13に相対回転可能に支持されている。また、このキャリアc1とリングギヤr1とは、軸受18によって相対回転可能に支持されている。
【0022】
ところで、フレーム4の側板4Bには、互いに平行且つ水平に配された上下2本の中間軸19,20が2列の軸受21,22によってそれぞれ回転可能に支持されており、下側の中間軸20の軸方向両端部(フレーム4の側板4Bの内側と外側)には大小異径の中間ギヤ23,24がそれぞれ結着されている。そして、一方の中間ギヤ23は、リングギヤr1の軸方向一端外周に刻設されたギヤ25に噛合している。
【0023】
他方、上側の中間軸19の軸方向一端(フレーム4の側板4Bの外側に突出する部分)には、ファイナルギヤ26が結着されており、このファイナルギヤ26は、これよりも小径の前記中間ギヤ24に噛合するとともに、大径の前記クラウンギヤ2に噛合している。ここで、2つの中間ギヤ23,24とファイナルギヤ26は、リングギヤr1の回転をクラウンギヤ2に伝達するギヤ列を構成しており、このギヤ列を介してリングギヤr1がクラウンギヤ2に噛合している。なお、互いに噛合するクラウンギヤ2とファイナルギヤ26をベベルギヤで構成しても良い。
【0024】
なお、以上は一方(図2の左側)のギヤ列についてのみ説明したが、他方(図2の右側)のギヤ列の構成は、一方のギヤ列の構成と同じであるため、該ギヤ列を構成する要素には同一符号を付し、これらについての再度の説明は省略する。
【0025】
以上のように構成された駆動ユニット1においては、各一対の第1及び第2電動モータM1,M2と第1及び第2遊星ギヤ機構G1,G2及びギヤ列(中間ギヤ23,24とファイナルギヤ26は、ホイール9の両側(図2の左右)にそれぞれ対称的に配置されている。
【0026】
ここで、本実施の形態に係る駆動ユニット1の駆動系の構成を図4に模式的に示すが、本図においては、リングギヤr1,r2は、2つの中間ギヤ23,24と1つのファイナルギヤ26をそれぞれ含むものであって、便宜上、これらのリングギヤr1,r2が直接クラウンギヤ2に噛合しているものとして図示している。
【0027】
また、本発明に係る駆動ユニット1は、第1モータM1と第2モータM2の各回転方向と回転速度を制御する制御手段としてのECU(Electronic Control Unit)30を備えており、このECU30と第1及び第2モータM1,M2とは電気的に接続されている。
【0028】
ここで、図4に示すように、第1モータM1の角速度をω、第2モータM2の角速度をω、第1遊星ギヤ機構G1のキャリアc1の角速度をω、第2遊星ギヤ機構G2のキャリアc2の角速度をω、第1遊星ギヤ機構G1のリングギヤr1の角速度をω、第2遊星ギヤ機構G2のリングギヤr2の角速度をω、ホイール9の旋回角速度をωとし、サンギヤs1,s2のリングギヤr1,r2に対するギヤ比をξ、リングギヤr1,r2のクラウンギヤ2に対するギヤ比をεとすると、これらの間には次式が成立する。なお、図4に示すように、ホイール軸8の図示矢印+方向を正転、-方向を逆転とする。
【0029】
ω=(1+ξ)ω-ξω ・・・(1)
ω=(1+ξ)ω-ξω ・・・(2)
ここで、第1遊星ギヤ機構G1のキャリアc1と第2遊星ギヤ機構G2のキャリアc2は、共にホイール軸8に結着されているため、これらの角速度ωとωとは常に等しい。このため、次式が成立する。
【0030】
ω=ω ・・・(3)
したがって、以上の(1)~(3)式から次式が導き出される。
【0031】
ω-ω=ξ(ω-ω) ・・・(4)
また、フレーム4が支軸3を中心として回動してホイール9(無人搬送車)が旋回可能となるためには、第1遊星ギヤ機構G1のリングギヤr1の角速度ωと第2遊星ギヤ機構G2のリングギヤr2の角速度ωとは、方向が互いに逆であり、絶対値が等しいことが必要になり、これらとホイール9の旋回角速度ωとの間には、次式が成立する。
【0032】
-ω=ω=εω ・・・(5)
次に、本発明に係る駆動ユニット1の作用を無人搬送車が直進走行する場合と、旋回走行する場合及び旋回のみを行う(停止した状態で旋回する)場合のそれぞれについて図4及び図5に参照しながら以下に説明する。
【0033】
1)直進走行の場合:
無人搬送車が直進走行する場合には、ECU30は、第1モータM1と第2モータM2を同方向(正転または逆転)に同一速度で回転駆動する。すると、第1モータM1と第2モータM2の回転は、第1遊星ギヤ機構G1と第2遊星ギヤ機構G2の各サンギヤs1,s2から遊星ギヤp1,p2及びキャリアc1,c2を経てホイール軸8に伝達されるとともに、リングギヤr1,r2からクラウンギヤ2へと伝達される。ここで、リングギヤr1,r2は、同じ方向に回転しようとするが、これらのリングギヤr1,r2が同じ方向に同速度で回転すると、クラウンギヤ2の回転がロックし、このクラウンギヤ2に対するホイール9の旋回角速度ωは、図5に示すように0(ω=0)となる。
【0034】
上述のように、クラウンギヤ2の回転がロックされると、このクラウンギヤ2に噛合するリングギヤr1,r2の回転もロックされ、図5及び(5)式から明らかなように、リングギヤr1,r2の角速度ω,ωは共に0となる(ω=ω=0)。
【0035】
したがって、第1遊星ギヤ機構G1と第2遊星ギヤ機構G2は、共に減速機構として作用し、サンギヤs1,s2から入力される駆動力によって軸16の回りを自転しながらサンギヤs1,s2の回りを公転する遊星ギヤp1,p2とこれらの遊星ギヤp1,p2を支持するキャリアc1,c2が減速された状態で回転する。このように、キャリアc1,c2が回転すると、これらのキャリアc1,c2が結着されたホイール軸8とホイール9が回転し、無人搬送車が直進走行(前進または後進)する。
【0036】
ここで、第1モータM1の角速度ωと第2モータM2の角速度ω図5に示すように共に100(相対的な数値で絶対的な実際の数値rad/secではない)であって、ギヤ比ξ=4、ε=5と仮定した場合、第1遊星ギヤ機構G1のキャリアc1の角速度ωと第2遊星ギヤ機構G2のキャリアc2の角速度ωは、(1)式と(2)式から図5に示すように、ω=ω=20となる。つまり、第1モータM1と第2モータM2の回転速度が1/5に減速されて(トルクが5倍に増幅されて)ホイール軸8とホイール9に伝達される。
【0037】
2)旋回走行の場合:
無人搬送車が旋回走行する場合には、ECU30は、第1モータM1と第2モータM2を同方向に互いに速度差をもってそれぞれ回転駆動する。すると、直進走行時と同様に第1モータM1と第2モータM2の回転は、第1遊星ギヤ機構G1と第2遊星ギヤ機構G2の各サンギヤs1,s2から遊星ギヤp1,p2及びキャリアc1,c2を経てホイール軸8に伝達されるとともに、リングギヤr1,r2からクラウンギヤ2へと伝達される。ここで、図5に示すように、第1モータM1の角速度ωが120で、第2モータM2の角速度ωが80である場合、ホイール軸8に結着されている第1遊星ギヤ機構G1のキャリアc1の角速度ωと第2遊星ギヤ機構G2のキャリアc2の角速度ωとは、(3)式に示すように等しく(ω=ω)、直進走行時と同様にω=ω=20となる(図5参照)。この場合、第1遊星ギヤ機構G1のリングギヤr1と第2遊星ギヤ機構G2のリングギヤr2とは互いに逆方向に角速度ω,ωでそれぞれ回転し、これらのリングギヤr1,r2に噛合するクラウンギヤ2に対してフレーム4とこれに支持されたホイール9とが支軸3を中心として水平面内を角速度ωで回動する。このように、ホイール9が支軸3を中心として角速度ωで回転することによって、無人搬送車の旋回走行が可能となる。
【0038】
ここで、第1遊星ギヤ機構G1のリングギヤr1の角速度ωと第2遊星ギヤ機構G2のリングギヤr2の角速度ωを(1)式と(2)式によってそれぞれ求めると、図5に示すように、ω=-5、ω=5となる。また、ホイール9の旋回速度ωを(5)式より求めると、図5に示すように、ω=1となる。
【0039】
3)旋回のみの場合:
無人搬送車が停止した状態で、その場で旋回する場合には、ECU30は、第1モータM1と第2モータM2を逆方向に同一速度でそれぞれ回転駆動する。この場合は、図5に示すように、ホイール軸8に直結されている第1遊星ギヤ機構G1のキャリアc1の角速度ωと第2遊星ギヤ機構G2のキャリアc2の角速度ωは、共に0である(ω=ω=0)。したがって、この状態では、第1遊星ギヤ機構G1の遊星ギヤp1と第2遊星ギヤ機構G2の遊星ギヤp2は、サンギヤs1,s2の回りを公転することなく自転し、リングギヤr1,r2をそれぞれ角速度ω,ωで互いに逆方向に回転させる。この結果、フレーム4とこれに支持されたホイール軸8とホイール9が支軸3を中心として水平方向に角速度ωで回動し、このようにホイール9が支軸3を中心として回動することによって無人搬送車が角速度ωでその場で旋回する。
【0040】
このとき、図5に示すように、第1モータM1が角速度ω=20、第2モータM2が角速度ω=-20で回転駆動されたとすると、第1遊星ギャ機構G1のリングギヤr1の角速度ωと第2遊星ギヤ機構G2のリングギヤr2の角速度ωは、(1)式と(2)式からそれぞれ以下のように求められる。
【0041】
ω=-ω/ξ=-20/4=-5
ω=-ω/ξ=20/4=5
また,ホイール9の旋回角速度ωは、(5)式から以下のように求められる。
【0042】
ω=-ω/ε=ω/ε=5/5=1
以上の説明で明らかなように、本発明に係る駆動ユニット1によれば、一対の第1モータM1と第2モータM2の駆動力は、無人搬送車の走行と旋回の双方に使用されるため、これらの第1モータM1と第2モータM2に必要とされる駆動力が小さくて済み、これらの第1モータM1と第2モータM2の小型化と省電力化が実現し、その結果として当該駆動ユニット1の省電力と小型・コンパクト化が実現されるという効果が得られる。
【0043】
[第2発明]
次に、第2発明を図6図9に基づいて以下に説明する。
【0044】
図6は第2発明に係る無人搬送車の駆動ユニットの斜視図、図7は同駆動ユニットの縦断面図、図8は同駆動ユニットの駆動系の構成を模式的に示す図、図9は同駆動ユニットの各回転要素の角速度の値とブレーキのON/OFFを表形式で示す図であり、図6図8においては、図1図4において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0045】
本発明に係る駆動ユニット1Aは、図6及び図7に示すように、ホイール軸8の軸方向一端部(図2の左端部)にモータMと遊星ギヤ機構Gを配置し、同ホイール軸8の軸方向他端部(図2の右端部)に第1ブレーキBr1を配置するとともに、支軸3の下端部に第2ブレーキBr2を取り付けて構成されている。なお、ギヤ列などを含む他の構成は、前記第1発明のそれと同じである。また、互いに噛合するファイナルギヤ26とクラウンギヤ2をベベルギヤで構成しても良いことは前記第1発明と同様である。
【0046】
電動モータMの構成は、前記第1発明に係る第1モータM1と第2モータM2の構成と同じであり、遊星ギヤ機構Gの構成も前記第1発明に係る第1遊星ギヤ機構G1と第2遊星ギヤ機構G2の構成と同じである。すなわち、モータMは、モータハウジング11内にステータ12とロータ13を収容して構成されており、遊星ギヤ機構Gは、サンギヤsと、リングギヤrと、複数(3つ)の遊星ギヤp及びキャリアcを含んで構成されている。
【0047】
また、第1ブレーキBr1と第2ブレーキBr2は、共に電磁ブレーキで構成されており、第1ブレーキBr1は、ONすることによってホイール軸8(ホイール9)の回転をロックし、OFFすることによってホイール軸8(ホイール9)の回転のロックを解除する機能を果たす。また、ブレーキBr2は、ONすることによってホイール9の旋回をロックし、OFFすることによってホイール9の旋回のロックを解除する機能を果たす。
【0048】
ここで、本発明に係る駆動ユニット1Aの駆動系の構成を図8に模式的に示すが、本図においても、図4と同様に、リングギヤrは、2つの中間ギヤ23,24と1つのファイナルギヤ26を含むものであって、便宜上、リングギヤrが直接クラウンギヤ2に噛合しているものとして図示している。
【0049】
そして、本発明に係る駆動ユニット1Aは、モータMの回転速度と第1ブレーキBr1及び第2ブレーキBr2のON/OFFを制御する制御手段としてのECU30を備えており、このECU30は、モータMと第1ブレーキBr1及び第2ブレーキBr2に電気的に接続されている。
【0050】
ここで、図8に示すように、モータMの角速度をω、遊星ギヤ機構Gのキャリアcの角速度をω、リングギヤrの角速度をω、ホイール9の旋回角速度をωとし、サンギヤsのリングギヤrに対するギヤ比をξ、リングギヤrのクラウンギヤ2に対するギヤ比をεとすると、これらの間には次式が成立する。なお、図8に示すように、ホイール軸8の図示矢印+方向を正転、-方向を逆転とする。
【0051】
ω=(1+ξ)ω-ξω ・・・(6)
ここで、第1ブレーキBr1がONされてホイール軸8(ホイール9)の回転がロックされた場合には、遊星ギヤ機構Gのキャリアcの角速度ω=0となるため、(6)式は次のように表される。
【0052】
ω=-ξω=-ξεω ・・・(7)
また、第2ブレーキBr2がONされてリングギヤrの回転がロックされた場合には、このリングギヤrの角速度ω=0となるため、(6)式は次のように表される。
【0053】
ω=(1+ξ)ω ・・・(8)
次に、本発明に係る駆動ユニット1Aの作用を無人搬送車が直進走行する場合と、旋回走行する場合及び旋回のみを行う(停止した状態で旋回する)場合のそれぞれについて図8及び図9を参照しながら以下に説明する。
【0054】
1)直進走行の場合:
無人搬送車が直進走行する場合には、ECU50は、図9に示すように、第1ブレーキBr1をOFF、第2ブレーキBr2をONしてホイール9の旋回と遊星ギヤ機構Gのリングギヤrの回転をロックした状態で、モータMを所定速度で回転駆動する。すると、モータMの回転は、遊星ギヤ機構Gのサンギヤsから遊星ギヤp及びキャリアcを経てホイール軸8に伝達され、このホイール軸8とこれに結着されたホイール9とが回転し、無人搬送車が直進走行(前進または後進)する。
【0055】
ここで、モータMの角速度ω図9に示すように100であって、ギヤ比ξ=4,ε=5と仮定した場合、遊星ギヤ機構Gのキャリアcの角速度ωは、(8)式より以下のように求められる。
【0056】
ω=ω/(1+ξ)=100/5=20
したがって、モータMの回転速度が1/5に減速されて(トルクが5倍に増幅されて)ホイール軸8とホイール9に伝達される。
【0057】
2)旋回走行の場合:
無人搬送車が旋回走行する場合には、ECU30は、図9に示すように、第1ブレーキBr1と第2ブレーキBr2を共にOFFするとともに、モータMを所定速度で回転駆動する。すると、モータMの回転は、遊星ギヤ機構Gのサンギヤsから遊星ギヤp及びキャリアcを経てホイール軸8に伝達されるとともに、リングギヤrからクラウンギヤ2へと伝達される。ここで、図9に示すように、モータMの角速度ωが120で、遊星ギヤ機構Gのホイール軸8に結着されているキャリアcの角速度ωはω=20となる。この場合、遊星ギヤ機構Gのリングギヤrが角速度ωで回転し、このリングギヤrに噛合するクラウンギヤ2に対してフレーム4とこれに支持されたホイール9とが支軸3を中心として水平面内を角速度ωで回動する。このように、ホイール9が支軸3を中心として角速度ωで回転することによって、無人搬送車の旋回走行が可能となる。
【0058】
ここで、遊星ギヤ機構Gのリングギヤrの角速度ωを(6)式によって求めると、図9に示すように、ω=-5となる。また、ホイールの旋回速度ωを(7)式より求めると、
ω=((1+ξ)ω-ω)/ξ
=(5×20-120)/4=-5
となる(図9参照)。
【0059】
また、(7)式よりホイール9の旋回角速度ωを求めると、
ω=ω/ε=-5/5=-1
となる(図9参照)。
【0060】
3)旋回のみの場合:
無人搬送車が停止した状態で、その場で旋回する場合には、ECU30は、第1ブレーキBr1をONするとともに、第2ブレーキBr2をOFFし、モータMを所定速度で回転駆動する。この場合は、ホイール軸8(ホイール9)の回転がロックされているため、遊星ギヤ機構Gのホイール軸8に結着されているキャリアcの回転もロックされ、図9に示すように、該キャリアcの角速度ωは0となる(ω=0)。したがって、この状態では、遊星ギヤ機構Gの遊星ギヤpは、サンギヤsの回りを公転することなく自転し、リングギヤrを角速度ωで回転させる。この結果、フレーム4とこれに支持されたホイール軸8とホイール9が支軸3を中心として水平方向に角速度ωで回動し、このようにホイール9が支軸3を中心として回動することによって無人搬送車が角速度ωでその場で旋回する。
【0061】
このとき、図9に示すように、モータMが角速度ω=100で回転駆動されたとすると、遊星ギヤ機構Gのリングギヤrの角速度ωは、(7)式から以下のように求められる。
【0062】
ω=-ω/ξ=-100/4=-25
また,ホイール9の旋回角速度ωは、(7)式から以下のように求められる(図9参照)。
【0063】
ω=ω/ε=-25/5=-5
以上の説明で明らかなように、本発明に係る駆動ユニット1Aによれば、1つのモータMの駆動力によって無人搬送車の走行と旋回がなされるため、該モータMの更なる小型化と省電力が可能となり、当該駆動ユニット1Aの一層の省電力と小型・コンパクト化が実現されるという効果が得られる。
【0064】
なお、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0065】
1,1A 駆動ユニット
2 クラウンギヤ(旋回ギヤ)
3 支軸
4 フレーム
8 ホイール軸
9 ホイール
23,24 中間ギヤ
26 ファイナルギヤ
30 ECU(制御手段)
100 無人搬送車の車体
Br1 第1ブレーキ
Br2 第2ブレーキ
G 遊星ギヤ機構
G1 第1遊星ギヤ機構
G2 第2遊星ギヤ機構
M モータ
M1 第1モータ
M2 第2モータ
c,c1,c2 キャリア
r,r1,r2 リングギヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9