(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182171
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】検出器およびX線回折装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/24 20060101AFI20221201BHJP
G01T 1/36 20060101ALI20221201BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20221201BHJP
G01N 23/20008 20180101ALI20221201BHJP
【FI】
G01T1/24
G01T1/36 D
G01N23/207
G01N23/20008
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089560
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】松下 一之
(72)【発明者】
【氏名】栗林 勝
(72)【発明者】
【氏名】三楠 聰
(72)【発明者】
【氏名】中江 保一
【テーマコード(参考)】
2G001
2G188
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001DA01
2G001DA03
2G001DA08
2G001DA09
2G001DA10
2G188AA27
2G188BB02
2G188BB15
2G188CC28
2G188CC32
2G188DD05
2G188DD30
(57)【要約】
【課題】簡易に製造でき、チャージシェアリングの発生を低減することで高計数領域でのエネルギー分解能の低下を抑制できる検出器およびX線回折装置を提供する。
【解決手段】検出部110と読み出し回路120を備える検出器100であって、検出部110が、X線が入射する検出面上で入射X線を遮蔽する遮蔽体111と、検出面全体に所定の電圧を印加するバイアス供給層112と、検出面を通過した入射X線を電荷に変換する半導体層113と、半導体層内の区画される領域毎に設けられ、各々が区画される領域毎に変換された電荷が集められて発生した電流を流す複数の読み出し電極118と、を備え、読み出し電極118の各々は、互いに隙間を設けて配列されており、遮蔽体111は、バイアス供給層112のX線入射側であって隙間に対応する位置に形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出部と読み出し回路を備える検出器であって、
前記検出部は、
X線が入射する検出面上で入射X線を遮蔽する遮蔽体と、
前記検出面全体に所定の電圧を印加するバイアス供給層と、
前記検出面を通過した入射X線を電荷に変換する半導体層と、
前記半導体層内の区画される領域毎に設けられ、各々が前記区画される領域毎に前記変換された電荷が集められて発生した電流を流す複数の読み出し電極と、を備え、
前記読み出し電極の各々は、互いに隙間を設けて配列されており、
前記遮蔽体は、前記バイアス供給層のX線入射側であって前記隙間に対向する位置に形成されていることを特徴とする検出器。
【請求項2】
前記遮蔽体は、10keV以下のエネルギーのX線を前記遮蔽体に入射させたときに入射X線の80%以上を遮蔽することを特徴とする請求項1記載の検出器。
【請求項3】
前記遮蔽体は、W、TaおよびAuのいずれかの元素からなる金属または前記元素を含む合金もしくは化合物で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の検出器。
【請求項4】
前記各区画される領域上の前記バイアス供給層が露出した領域は、互いに同一形状であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の検出器。
【請求項5】
前記遮蔽体は、隣り合う前記読み出し電極間の中央位置を中心として対称に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の検出器。
【請求項6】
前記遮蔽体は、前記区画される領域の境界を覆って幅30μm以上50μm以下に形成された層であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の検出器。
【請求項7】
前記遮蔽体は、物理的に接続されることで前記バイアス供給層上に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の検出器。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の検出器を備えることを特徴とするX線回折装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトンカウンティング方式の検出器およびX線回折装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトンカウンティング方式の半導体検出器は、検出素子である半導体層に入射したX線の光子(フォトン)を個々に計数することができる。検出素子は、一般的にモノシリックであり、バイアス電圧を印加した状態で、その内部にX線が入射すると電荷(チャージ)を発生させる。発生した電荷は、電荷の発生箇所に近接する検出領域毎に検出される。
【0003】
検出領域は、隣接する検出領域と一定サイズの隙間が設けられて、等間隔に配列されている。そのため、この隙間部分は、検出境界領域となる。半導体層中の検出境界領域付近にX線が入射すると、入射X線により発生した電荷が分割されて隣接する検出領域に流れ、複数の電極に分かれて計数されてしまうことがある。このように電荷が分かれる現象は、チャージシェアリングと呼ばれ、X線のエネルギー計測に影響を及ぼす。
【0004】
図13(a)、(b)は、それぞれチャージシェアリングが発生する場合およびしない場合の検出器における電荷の検出動作を模式的に示す図である。
図13(a)に示すように、X線が単一の検出領域910上に入射する場合には、電荷はひとつの検出領域のみに集まり、正確な測定が可能である。しかし、
図13(b)に示すように検出境界領域または検出境界領域の近傍に入射した場合、発生した電荷の雲は検出領域に到達するまでの間に拡がって、一部は隣接する検出領域に達する。つまりチャージシェアリングが発生する。2つの検出領域912、913にわたって生じたチャージシェアリングにより、2つの検出領域にわたって、X線が検出されることになる。
【0005】
上記のようなチャージシェアリングの発生を低減する方法として、検出素子を溝により分離し、分離された素子ごとに電極を形成する方法が知られている(特許文献1、2)。ただし、この方法では、検出素子の形成に緻密な工程を要する。一方、チャージシェアリングの発生を許容し、回路構成やデータ処理によりチャージシェアリングの影響を取り除く方法も知られている(非特許文献1、特許文献3)。例えば、特許文献3記載の方法では、隣り合う電極によって同時に観測された放射線は、電荷が分かれているものと見なし、除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-242111号公報
【特許文献2】特許第4107616号公報
【特許文献3】特開2014-159973号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】P. Wiacek, W. Dabrowski, J. Fink, T. Fiutowski, H.-G. Krane, F. Loyer, A. Schwamberger, K. Swientek and C. Venanzi, “Position sensitive and energy dispersive x-ray detector based on silicon strip detector technology”, Journal of Instrumentation, Volume 10, April 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3記載の方法で高計数領域の測定を行った場合、パルスが頻発するため、同時に各々の検出領域に入射したX線の信号か、1箇所に入射したX線から発生した電荷が分割した信号かの判別が難しくなる。その結果、それぞれの事象を区別して信号の処理を行うことができず、高計数領域での検出器のエネルギー分解能が低下する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、チャージシェアリングの発生を低減するとともに高計数領域でのエネルギー分解能の低下を抑制できる検出器およびX線回折装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の検出器は、検出部と読み出し回路を備える検出器であって、前記検出部が、X線が入射する検出面上で入射X線を遮蔽する遮蔽体と、前記検出面全体に所定の電圧を印加するバイアス供給層と、前記検出面を通過した入射X線を電荷に変換する半導体層と、前記半導体層内の区画される領域毎に設けられ、各々が前記区画される領域毎に前記変換された電荷が集められて発生した電流を流す複数の読み出し電極と、を備え、前記読み出し電極の各々は、互いに隙間を設けて配列されており、前記遮蔽体は、前記バイアス供給層のX線入射側であって前記隙間に対向する位置に形成されていることを特徴としている。
【0011】
このように遮蔽体は、バイアス供給層上に直接形成されており、例えば半導体プロセスを応用して製造できる。また、遮蔽体が各検出領域を区画する検出境界領域への入射X線を遮蔽することで、チャージシェアリングの発生を低減し、高計数領域でもエネルギー分解能を維持できる。また、遮蔽体をバイアス供給層と同電位にすることで、遮蔽体の帯電の影響を排除できる。
【0012】
(2)また、本発明の検出器は、前記遮蔽体が、10keV以下のエネルギーのX線を前記遮蔽体に入射させたときに入射X線の80%以上を遮蔽することを特徴としている。これにより、検出境界領域にX線が入射するのを抑制できる。なお、遮蔽できるX線量は遮蔽体の厚さと材料によって決まる。エネルギー分解能の低下の80%以上を抑制できることで、実用上の影響を問題にならない計数誤差の範囲に収めることができる。
【0013】
(3)また、本発明の検出器は、前記遮蔽体が、W、TaおよびAuのいずれかの元素からなる金属または前記元素を含む合金もしくは化合物で形成されていることを特徴としている。これにより、X線の透過率の低い材料で遮蔽体が形成されているため、各検出領域を区画する領域で入射X線を高い効率で遮蔽できる。
【0014】
(4)また、本発明の検出器は、前記各区画される領域上の前記バイアス供給層が露出した領域が、互いに同一形状であることを特徴としている。これにより、検出器の製造が容易になるとともに、計数の処理を単純化できる。
【0015】
(5)また、本発明の検出器は、前記遮蔽体が、隣り合う前記読み出し電極間の中央位置を中心として対称に形成されていることを特徴としている。これにより、遮蔽の効果が検出面全体にわたって一様になる。
【0016】
(6)また、本発明の検出器は、前記遮蔽体が、前記区画される領域の境界を覆って幅30μm以上50μm以下に形成された層であることを特徴としている。これにより、計数率への影響を抑えながら、効率的にチャージシェアリングの発生を低減できる。
【0017】
(7)また、本発明の検出器は、前記遮蔽体が、物理的に接続されることで前記バイアス供給層上に設けられていることを特徴としている。このように遮蔽体と検出部本体とが別体で構成され、物理的に接続されていることで、X線源に応じて簡易に遮蔽体を交換することが可能となる。
【0018】
(8)また、本発明のX線回折装置は、上記(1)~(7)記載の検出器を備えることを特徴としている。これにより、特にX線回折測定に適したX線によるチャージシェアリングの発生を低減でき、エネルギー分解能の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、チャージシェアリングの発生を低減するとともに高計数領域でのエネルギー分解能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のX線測定システムの構成の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の検出器およびデータ処理装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【
図4】(a)、(b)それぞれ本発明の検出部を示す側断面図および検出表面側の拡大側断面図である。
【
図5】(a)、(b)それぞれ1次元検出器における遮蔽体のレイアウト例を模式的に示す平面図および斜視図である。
【
図6】(a)、(b)それぞれ2次元検出器における遮蔽体のレイアウト例を模式的に示す平面図および斜視図である。
【
図7】照射位置ごとに検出した、波高に対する積算のX線強度を示すグラフである。
【
図8】照射位置ごとに検出した、波高に対する積算のX線強度の微分値を示すグラフである。
【
図9】エネルギー閾値の設定幅ごとに、照射位置に対する各ストリップ/ピクセルのX線強度を検出した結果を示すグラフである。
【
図10】
図9のストリップ/ピクセル別のX線強度を合算したグラフである。
【
図11】シミュレーションを行う検出器のモデルを示す概略図である。
【
図12】(a)、(b)それぞれ遮蔽体の幅ごとに、エネルギー閾値に対し算出された強度を示すグラフおよび遮蔽体の幅に対するPBR値である。
【
図13】(a)、(b)それぞれチャージシェアリングが発生する場合およびしない場合の検出器における電荷(チャージ)の検出動作を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
[実施形態]
(X線測定システムの構成)
図1は、X線測定システム10の構成の一例を示す概略図である。
図1に示すようにX線測定システム10は、X線回折装置20およびデータ処理装置30で構成されている。X線回折装置20は、X線源50および検出器100を備えており、試料SにX線を照射し、回折されたX線を検出器100で検出する。
【0023】
X線源50は、例えば、陰極であるフィラメントから放射された電子束を対陰極であるロータターゲットに衝突させてX線を発生させる。X線源50から放射されるX線は、断面形状が円形のポイントフォーカスまたは矩形のラインフォーカスのX線ビームである。
【0024】
ロータターゲットの外周面には、例えば、CuまたはMoの金属が設けられている。Cuターゲットに電子が衝突したとき、特性線であるCuKα線(波長1.542Å)を含むX線が放射される。Moターゲットに電子が衝突したとき、特性線であるMoKα線(波長0.711Å)を含むX線が放射される。
【0025】
試料Sは、試料支持装置により支持されている。検出器100は、例えば試料Sで回折された回折線を検出する。X線回折装置20に検出器100が搭載されることにより、X線回折測定において検出したX線によるチャージシェアリングの発生を低減でき、特に高計数領域におけるエネルギー分解能の低下の影響を抑制できる。データ処理装置30は、検出器100で取得した計数データを処理し、検出結果を出力する。検出器100の詳細については、後述する。
【0026】
データ処理装置30は、例えばパーソナルコンピュータである。パーソナルコンピュータは、例えば、演算制御するためのCPU、データを記憶するためのメモリを備えており、メモリ内には、システムソフトおよびアプリケーションプログラムソフト等が記憶されている。
【0027】
データ処理装置30には、ユーザの入力を受け付ける入力部としてキーボード等が接続されている。また、データ処理装置30には、ディスプレイやプリンタ等の出力部が接続されている。出力部は、データ処理装置30からの指示に従って測定結果を出力する。
【0028】
(検出器の構成)
【0029】
図2は、検出器100およびデータ処理装置30の機能的な構成を示すブロック図である。また、
図3は、検出器100の構成を示す斜視図である。検出器100は、例えばX線を検出するフォトンカウンティング方式のストリップアレイ型の1次元半導体検出器である。ただし、1次元半導体検出器に限らず、ピクセルアレイ型の2次元半導体検出器であってもよい。検出器100は、検出部110、読み出しIC(読み出し回路)120、メモリ、転送回路を備えている。
【0030】
検出部110は、複数の検出領域110aを有しており、各検出領域110aは、半導体層内において検出領域110aによって区画される領域に入射したX線を検出する。検出部110の複数の検出領域110aは、1次元または2次元的に、一律の形状で原則規則的に配列されている。ただし、一部の検出領域110aは形状や位置が不規則であってもよい。
【0031】
2次元検出器の場合、各検出領域110aの形状は、三角形、六角形等の多角形であってもよいが、矩形であることが好ましく、検出面全面で同一であることが好ましい。また、矩形は正方形であることが好ましい。検出領域110aは、検出部側の読み出し電極118を含んだp層領域として定義される。検出領域110aは、領域の形状に応じて、ストリップ、ピクセルと呼ばれる。
【0032】
検出部110のX線が入射する面の反対側の面には、検出部側の読み出し電極118が形成されている。読み出し電極118の各々は、互いに隙間を設けて配列されている。
【0033】
読み出しIC120は、検出領域110aで検出した電荷信号をIC側の読み出し電極121および増幅器122(後述の
図4(a)参照)を介してパルス信号に変換して計数する。計数回路123と計数回路によってカウントされたパルス信号の計数値を読み出すカウンタ読み出し回路125を有する。
【0034】
計数回路123は、検出領域110a毎に割り当てられており、検出領域110a毎にX線から変換された電荷によって発生した電流を、パルス信号に変えて計数する。読み出しICにも、読み出し電極が形成されており、検出部側の読み出し電極と接続部130を介して接続される。接続部130は、例えば、Au線のワイヤボンディングや微細な球状の半田バンプによるバンプボンディングで形成できる。
【0035】
計数回路123は、分別回路123aおよびカウンタ部123bから構成されている。分別回路123aは、複数の検出領域110aの個々に接続されており、さらにはカウンタ部123bが、分別回路123aの個々に接続されている。カウンタ読み出し回路125は、複数のカウンタ部123bに接続されている。
【0036】
分別回路123aは、複数の検出領域110aの個々に接続されており、検出領域110aのパルス信号を設定されたエネルギー閾値で分別して出力する。カウンタ部123bは、分別回路123aによって設定されたエネルギー閾値の信号の個数を計数する。通常は閾値を固定して測定するが、エネルギー閾値を一定時間ごとに一定値変更していけば、X線波長ごとに分別された個数のデータを取得することもできる。
【0037】
なお、カウンタ部123bは、例えば、分別回路123aによって分別されたパルス信号をカウントできるようにカウンタ回路を内蔵する。カウンタ読み出し回路125は、読み出しIC120ごとにカウンタ部123bでカウントされたデータを読み出す。カウンタ読み出し回路125の出力信号は、エネルギーの閾値により分離されたX線検出データである。
【0038】
カウンタ読み出し回路125は、エネルギー閾値により分別されたデータを取得する。X線検出データは、検出領域110aの位置と関連付けられて、1フレーム毎に検出器100内部のメモリに蓄積される。X線検出データは、転送命令があったときには転送回路を介して検出器100外へ出力され、通信線を通してデータ処理装置30に伝送される。
【0039】
(検出部)
図4(a)、(b)は、それぞれ検出部110を示す側断面図および検出表面側の拡大側断面図である。
図4(a)に示すように、検出部110は、遮蔽体111、バイアス供給層112、半導体層113、絶縁層117および複数の検出部側の読み出し電極118を備えている。半導体層113は、n層114、空乏層115およびp層116を備えている。また、バイアス供給層112、半導体層113、絶縁層117および複数の検出部側の読み出し電極118は、検出部本体を構成する。
【0040】
検出領域110aは、p層116、絶縁層117の一部、検出部側の読み出し電極118で構成され、ストリップまたはピクセルを形成する。検出領域110aにより区画される領域110bは、半導体層113内の領域であって、発生した電荷を、それぞれ対応する検出領域110aに流す。また、検出境界領域110cは、半導体層113内において区画される領域110bの間の領域であり、その内部で発生した電荷は電荷の広がり方によって、分割した後、隣接する両側の検出領域のいずれかによって検出される。いずれも図中の太枠を参照できる。なお、領域110bは便宜的に定義されており、領域110bの内外が物理的に区画されているわけではない(故にチャージシェリングが発生する)。
【0041】
遮蔽体111は、X線の透過を妨げる材料により一定幅を有する線としてX線が入射する検出面側の検出境界領域上に形成されている。遮蔽体111は、バイアス供給層112のX線入射側であって隙間に対向する位置に形成されている。例えば検出領域が1次元の線形である場合には、遮蔽体111は、線状のストリップが連なる縞模様状として形成される。検出領域が2次元の矩形であれば、遮蔽体111は格子状である。このように形成されることで、遮蔽体111は、半導体層113内の検出境界領域へX線が入射するのを防ぐことができる。また、検出領域が2次元の矩形であっても、遮蔽体111を線状にすることを妨げるものではない。
【0042】
各検出領域110aは、半導体層113内に形成され、検出領域110a毎に半導体層113内でX線から変換された電荷が読み出し電極118に集められる。読み出し電極118の各々は、電荷の移動により発生した電流を流す。2つの検出領域に電荷が分かれる領域は電極境界のごく一部分である。あらかじめその部分を遮蔽することによって、チャージシェアリングの発生を低減できる。また、高計数領域では、エネルギー分解能の低下を抑制することできる。遮蔽体111の詳細は後述する。
【0043】
バイアス供給層112は、Al等の金属で形成され、検出面全体に所定の電圧を印加するために用いられる。遮蔽体111は、バイアス供給層112上に直接形成することが好ましい。直接形成する場合は、半導体プロセスなどを用いて製造できる。また、遮蔽体111がバイアス供給層112と同電位になるため、遮蔽体の帯電の影響も排除できる。
【0044】
半導体層113は、バイアス供給層112とn層を通過した入射X線を電荷に変換する。n層114は、n型半導体で構成されている。n型半導体は、Siのような4価の原子による金属に不純物としてP,As,Sb等の5価の原子を加えて形成され、余った自由電子がキャリアとして存在している。
【0045】
空乏層115は、電子および正孔がほとんど存在しない層であり、例えばSiで形成される。p層116は、検出領域ごとに区画され、p型半導体で構成されている。p型半導体は、Siのような4価の原子による金属に不純物としてGa,B,In等の3価の原子を加えて形成され、電子が不足してできた正孔がキャリアとして存在している。
【0046】
絶縁層117は、例えばSiO2のような絶縁体で形成される。複数の読み出し電極118は、例えばAlで形成され、検出領域ごとに区画されたp層116に対応する位置に配置される。複数の読み出し電極118は、各々が検出領域毎に変換された電荷が集められて発生した電流を流す。
【0047】
なお、上記の例では、半導体層113が、X線の入射側からn層114、空乏層115およびp層116の順で構成されているが、n層とp層とを入れ替えた構成であってもよい。
【0048】
(遮蔽体)
遮蔽体111は、材料や幅Wおよび厚みTの設計に応じてX線の遮蔽機能が異なる。
図4(b)に示すように、遮蔽体111の幅Wおよび厚みTは製造時に任意に制御できる。遮蔽体111は、10KeV以下のエネルギーのX線を80%以上遮蔽する厚みTとすることが好ましい。これにより、検出境界領域に入射するX線のうち80%を低減することができる。これにより、チャージシェアリングが発生する確率を、実用上問題にならない程度まで低減することができる。
【0049】
物体に入射する前のX線の強さをI0、遮蔽体の厚さをT、遮蔽体の質量吸収係数をμ、遮蔽体を透過した後のX線の強さをIとすると次式が成立する。
I = I0 e-μT
【0050】
例えば、Cuの特性X線に対して遮蔽体の材質に対応する質量吸収係数を設定し、X線を入射させた後に検出されるX線Iが、入射X線I0の80%となる厚さTを設計値として計算から見積もることができる。なお、一般的に、X線回折測定においては、Cuの特性X線を利用することが多いため、Cuの特性X線を95%以上または99%以上を遮蔽することがさらに好ましい。
【0051】
遮蔽体111は、無機材料で形成され、金属原子で構成される金属または化合物であることが好ましい。特に、W、TaおよびAuのいずれかの元素からなる金属またはこれらの元素を含む合金もしくは化合物で形成されていることが好ましい。これらは含まれる元素の原子番号が大きく安定した物質として存在するため、X線の透過率が低い。このような材料で遮蔽体が形成されているため、検出境界領域110cに入射するX線を高い効率で遮蔽できる。
【0052】
遮蔽体111は、検出部110の一部として一体で形成されていることが好ましいが、検出部本体とは別体として形成され、バイアス供給層112上に物理的に接続されていてもよい。これにより、X線源に応じて簡易に遮蔽体を交換することが可能となる。
【0053】
遮蔽体111は、検出境界領域を覆って形成され、厚さ10μm以上、幅30μm以上50μm以下に形成された線状の層であることが好ましい。例えば、厚さ50μmのWのホイルであれば、Cuの特性X線は10-7しか透過しない。厚さ10μmであっても99%の遮蔽が可能である。これにより、効率的にチャージシェアリングの発生を低減できる。遮蔽体111の設計に関する検証は後述する。
【0054】
なお、回路構成により隣り合う電極で同時に検出した信号をチャージシェアリングの発生とみなしてカウントしない方法では、X線の強度が大きくなると誤計測が増加する。同時に検出した信号が異なるX線によるのか単一のX線からチャージが分かれたのか判別できなくなるからである。しかし、検出器100は、境界部分へのX線の入射を低減するため、X線の強度が増加しても誤計測が生じることはなく、エネルギー分解能の低下は最低限に抑えられる。その結果、高計数領域のX線を受光する場合でもエネルギー分解能の低下を抑制できる。
【0055】
上記の同時検出除去の方法では、X線の強度が大きいと、大幅に計数率が低下する現象が生じる。この方法では、バックグラウンドを除去するために閾値を限界に近い値に設定することから、エネルギー分解能の低下に伴い閾値から外れる放射線が増えるためである。しかし、検出器100であれば、エネルギー分解能の低下が抑えられるため、計数率の低下もある程度抑えられる。
【0056】
(検出器に応じたレイアウト)
検出器100は、2次元検出器および1次元検出器のいずれであってもよい。
図5(a)、(b)は、それぞれ1次元検出器における遮蔽体のレイアウト例を模式的に示す平面図および斜視図である。
図5(a)、(b)に示す検出器100の例では、同じサイズの長方形のストリップが1次元的に配列している。
【0057】
隣り合うストリップの中心間の中央位置(中心間距離を1/2に分ける位置)をストリップ(検出領域)の境界線(破線)として、遮蔽体111はその境界線の直上の位置を基準として、左右対称に1/2×wの幅になるように設けられている。すなわち、遮蔽体111は、隣り合う読み出し電極118間の中央位置(電極の中心間の中央位置)を中心として対称に形成されている。このようにして、遮蔽の効果が検出面全体にわたって一様になる。
【0058】
遮蔽体111の設けられていない領域ではバイアス供給層112が露出しており、この領域に入ったX線が検出される。この領域は、各検出領域上のバイアス供給層が露出した領域である。
【0059】
図6(a)、(b)は、それぞれ2次元検出器における遮蔽体のレイアウト例を模式的に示す平面図および斜視図である。
図6(a)、(b)に示す検出器100の例では、同じサイズの正方形のピクセルが2次元的に配列している。
【0060】
隣り合うピクセルの中心間の中央位置(中心間距離を1/2に分ける位置)をピクセル(検出領域)の境界線(破線)として、遮蔽体111はその境界線の直上の位置を基準として、左右対称に1/2×wの幅になるように設けられている。すなわち、遮蔽体111は、隣り合う読み出し電極118間の中央位置(電極の中心間の中央位置)を中心として対称に形成されている。このようにして、遮蔽の効果が検出面全体にわたって一様になる。
【0061】
遮蔽体111の設けられていない領域ではバイアス供給層112が露出しており、この領域に入ったX線が検出される。この領域は、各検出領域上のバイアス供給層が露出した領域である。なお、読み出しICの境目においては、読み出しIC間の距離を考慮して、遮蔽部材の幅を変えてもよい。
【0062】
図5(a)、(b)および
図6(a)、(b)に示すように、バイアス供給層が露出した領域は、各検出領域上に位置し、互いに同一形状であることが好ましい。すなわち検出領域を区画しない位置においても遮蔽体111が設けられ、露出領域が一定であることが好ましい。これにより、同じレイアウトを繰り返す遮蔽体111を形成すればよくなり、検出器100の製造が容易になる。また、検出領域の形状が一律であるため、計数の処理を単純化できる。
【0063】
(検出器の製造方法)
上記のように構成される検出器100の製造方法を説明する。検出部110のうち遮蔽体111以外の検出部材は、通常の半導体検出器の製造方法により形成できる。遮蔽体111を設ける工程は、少なくともバイアス供給層112による検出面が形成されてから行われ、検出部110のうち遮蔽体111以外の検出部材の準備後に行うことが好ましい。
【0064】
検出部材の検出面のうち露出する領域をマスクし、その上にCVDでW、TaおよびAuのような遮蔽体111の材料を積層する。積層の厚みは、処理時間等により調整できる。積層工程の後、マスクを除去することで遮蔽体111を形成できる。このようなCVDによる方法は、設計通りに正確に遮蔽体111を形成できる点で優れている。上記のように遮蔽体111は、半導体プロセスを応用して製造できる。
【0065】
なお、あらかじめ遮蔽体111となる材料の箔を形成しておき、導電性接着剤で所定位置に接着する方法でも遮蔽体111の形成が可能である。検出部110と遮蔽体111とを別体で構成することによって、直接形成するよりも遮蔽体111を簡易に交換できる。特に、X線源の種類等によって交換が必要な場合には、遮蔽体111の部分のみを交換するだけでよいため、このような設計は有効である。
【0066】
[実験]
好適に遮蔽体を設計するために、100μmのストリップ幅を有する1次元検出器を用いて実験を行なった。所定の波高にピークを有する10μmのスポットサイズのX線を上記の1次元検出器上でストリップを横断する方向に一定間隔で位置を変えて照射し、測定データを検証した。第1および第2の実験については、放射光施設で12keVのX線源を用いた。
【0067】
(第1の実験)
まず、特定のストリップを横断する方向に沿って20μmステップの位置P0~P7でX線強度を検出した。特定のストリップに対し、位置P0、P7は外、位置P1、P6は外との境界、位置P2、P5は境界に近い位置、位置P3、P4は中央領域にあることを示している。
【0068】
図7は、照射位置ごとに検出した、波高に対する積算のX線強度を示すグラフである。横軸は、受光したX線の波高を示しており、位置P3、P4のグラフを参照すると50付近にピークがあることが分かる。なお、横軸は、検出器内のADコンバータのbit単位を示している。位置P3、P4のグラフでは、チャージシェアリングが無いため、ピークのある横軸の50付近からバックグラウンドを示す20付近までフラットである。また、位置P0、P7はX線を受光しないため、20付近までフラットである。一方、位置P1、P2、P5、P6でのX線検出では、チャージシェアリングを生じており、横軸の50から20までグラフが傾斜している。
【0069】
図8は、照射位置ごとに検出した、波高に対する積算のX線強度の微分値を示すグラフである。位置P1、P2、P5、P6のグラフの破線で囲う部分に表れたX線強度データは、チャージシェアリングにより波高が低下したことを示している。
【0070】
(第2の実験)
次に、エネルギー閾値の設定幅の下限を所定間隔で変えながら、10μmステップで照射位置に対する各ストリップのX線強度を検出した。
図9は、エネルギー閾値の設定幅ごとに、照射位置に対する各ストリップのX線強度を検出した結果を示すグラフである。なお、横軸は、検出器内のADコンバータのbit単位を示している。エネルギー閾値の上限を70で固定し、下限を25から45まで5ずつ変化させて測定しており、
図9では、各下限L25~L45に対するX線強度を示している。
図9に示すように、照射位置が境界に近づくにつれて各ストリップで検出されるX線強度は徐々に低下する。特に、下限L25のグラフでは、照射位置が境界を超えて隣のストリップの領域に入ってもX線強度が検出されている。これはチャージシェリングの影響によるものと考えられる。
【0071】
図10は、
図9のストリップ別のX線強度を合算したグラフである。この場合のグラフは位置によらずX線強度が一定であることが理想であるが、下限L25のグラフでは各境界付近に山が生じており、隣り合うストリップで二重にX線がカウントされていることが分かる。また、下限30~45のグラフでは各境界付近に谷が生じており、隣り合うストリップのいずれでもカウントされていない数え落しがなされていることが分かる。
【0072】
[シミュレーション]
モンテカルロシミュレーションによる遮蔽体の幅に対するX線プロファイルのプロットを行なった。
図11は、シミュレーションを行う検出器のモデルを示す概略図である。
図11に示すモデルにおいて、検出器500は、幅dのストリップに対し幅wで設けられた遮蔽体511を備えている。なお、ストリップの幅dは、75μmに固定して計算した。
【0073】
上記のモデルに対し、ストリップの両端から50μmの範囲に入射したX線がストリップにどのように検出されるかをシミュレートした。シミュレーションでは入射X線としてFeおよびCuのKα、Kβ線を用いた。X線が電荷を生成したのち、読み出し電極面で検出される際の電荷雲の広がりは,CuKαでFWHMが20μmである2次元ガウシアンを用いて推定した。遮蔽体の幅wは、0から50μmまで5μm刻みで変化させた。
【0074】
読み出しICのエネルギー分解能はFWHMの4%としてシミュレーションを行った。エネルギープロファイルの性能評価基準として、CuKαのテールに乗るFeKβのPBR(Peak-to-Background Ratio)を用いた。これは、遮蔽体による低エネルギー側のテーリング除去がピーク分離に対して持つ効果を評価するためである。
【0075】
このようにして、検出器500にランダムにX線の光子が入射したとして、入射位置に対して電荷の拡がりを考慮した場合に、対象としているストリップの読み出し電極に入るチャージ量を算出し、算出されたチャージ量を基にX線プロファイルを算出した。
【0076】
遮蔽体を設けると、遮蔽体がカバーする位置に入射したX線は遮蔽体に吸収されるので、吸収された光子は無視した(遮蔽体のX線透過率0%)。
図12(a)、(b)は、それぞれ遮蔽体の幅ごとに、エネルギー閾値に対し算出された強度を示すグラフおよび遮蔽体の幅に対するPBR値である。
図12(a)は、一定量のX線を入射させたときに遮蔽体の幅に応じたX線プロファイルの変化を示している。違いが分かり易いように遮蔽体の幅を0から50μmまで10μm刻みで変えてW0~W50で表し、それぞれのX線プロファイルを示している。
図12(b)は、
図12(a)を元に算出された遮蔽体の幅に対するPBR値を示している。
【0077】
図12(b)に示すように、PBRを指標としたピーク分離能の評価結果から十分な効果が見込める遮蔽体の幅は30μm以上である。30μmより幅の広い遮蔽体を使用した場合、PBRは僅かながら向上するが、開口率が低下する。そのため十分な効果が見込める範囲で、可能な限り狭い遮蔽体を使用することが望ましい。
【符号の説明】
【0078】
10 X線測定システム
20 X線回折装置
30 データ処理装置
50 X線源
100 検出器
110 検出部
110a 検出領域
110b 区画される領域
110c 検出境界領域
111 遮蔽体
112 バイアス供給層
113 半導体層
114 n層
115 空乏層
116 p層
117 絶縁層
118 検出部側の読み出し電極
120 読み出しIC
121 IC側の読み出し電極
122 増幅器
123 計数回路
123a 分別回路
123b カウンタ部
125 カウンタ読み出し回路
130 接続部
500 検出器
511 遮蔽体
S 試料