(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182174
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20221201BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089566
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 章太郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056FA04
2C056HA05
2C056KB16
2C057AF41
2C057AG32
2C057AG33
2C057AG44
2C057AP02
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】供給絞り及び帰還絞りの製造誤差がノズル近傍の圧力に与える影響を少なくする。
【解決手段】上下方向に積層された複数のプレート11a~11kにより構成された流路ユニット11に、複数の個別流路のそれぞれと供給マニホールド31とを繋ぐ複数の供給絞り24と、複数の個別流路のそれぞれと帰還マニホールド32とを繋ぐ複数の帰還絞り25と、が形成されている。供給絞り24と帰還絞り25とは、互いに異なるプレート11b、11jに形成されており、インクの流動方向と直交する面での断面が第1辺及び第2辺を有する略矩形形状を有している。第1辺の長さ、第2辺の長さ、及び、第1辺と第2辺との比であるアスペクト比は、いずれも、供給絞り24と帰還絞り25とで実質的に同じである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向に積層された複数のプレートにより構成され、
前記複数のプレートに、
液体を吐出するノズルをそれぞれ有する複数の個別流路と、
前記複数の個別流路に共通して設けられており、前記複数の個別流路に液体を供給する供給マニホールドと、
前記複数の個別流路のそれぞれと前記供給マニホールドとを繋ぐ複数の供給絞りと、
前記複数の個別流路に共通して設けられており、前記複数の個別流路から流出した液体が流れ込む帰還マニホールドと、
前記複数の個別流路のそれぞれと前記帰還マニホールドとを繋ぐ複数の帰還絞りと、が形成されており、
前記供給絞りと前記帰還絞りとは、
前記複数のプレートのうちの互いに異なるプレートに形成され、
液体の流動方向と直交する面での断面が第1辺及び前記第1辺の長さ以上の長さを有する第2辺を有する矩形形状を有しており、
前記第1辺の長さ、前記第2辺の長さ、及び、前記第1辺と前記第2辺との比であるアスペクト比は、いずれも、前記供給絞りと前記帰還絞りとで実質的に同じであることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記供給絞りと前記帰還絞りとは、互いに同じ厚みの前記プレートに形成された貫通孔により画定されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記供給絞りと前記帰還絞りとは、前記積層方向の一方側の面に開口する凹部により画定されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1辺は、前記積層方向に沿って延びており、前記第2辺の長さよりも短いことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
同一の前記個別流路に接続された前記供給絞りと前記帰還絞りとは、前記積層方向において部分的に重なっていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記供給絞り及び前記帰還絞りは、それぞれ、前記複数のプレートの1つである隣接プレートにより覆われており、
前記供給絞りに対する前記隣接プレートの前記液体に対する接触角、及び、前記帰還絞りに対する前記隣接プレートの前記液体に対する接触角は、いずれも45°以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記供給絞りと前記帰還絞りとは、前記流動方向に沿う長さが互いに異なっていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記供給絞りの前記第1辺の長さをLS1、前記帰還絞りの前記第1辺の長さをLR1、前記供給絞りの前記第2辺の長さをLS2、前記帰還絞りの前記第2辺の長さをLR2、前記供給絞りの前記アスペクト比(LS2/LS1)をAS、前記帰還絞りの前記アスペクト比(LR2/LR1)をARとしたとき、
0.8<LS1/LR1<1.2、
0.8<LS2/LR2<1.2、且つ、
0.8<AS/AR<1.2
であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、積層された複数のプレートにより構成され、複数の吐出孔(ノズル)にそれぞれ接続された複数の加圧室を備えた流路部材と、複数の加圧室内の液体をそれぞれ加圧する複数の加圧部と、を備えた液体吐出ヘッドが開示されている。流路部材は、複数の加圧室に共通して設けられており、複数の加圧室に液体を供給する第1共通流路(供給マニホールド)と、複数の加圧室のそれぞれと第1共通流路とを繋ぐ複数の第1個別流路及び複数の第2個別流路(供給絞り)と、複数の加圧室に共通して設けられており、複数の加圧室から流出した液体が流れ込む第2共通流路(帰還マニホールド)と、複数の加圧室のそれぞれと第2共通流路とを繋ぐ複数の第3個別流路(帰還絞り)と、をさらに備えている。第1個別流路及び第2個別流路(供給絞り)と、第3個別流路(帰還絞り)とは、互いに異なるプレートに形成されている。
【0003】
特許文献1の液体吐出ヘッドにおいては、第1共通流路から第1個別流路及び第2個別流路を介して加圧室に液体を供給し、加圧室に供給された液体の一部を第3個別流路を介して第2共通流路に送っている。すなわち、かかる液体吐出ヘッドにおいては、第1共通流路から加圧室を介して第2共通流路に液体を送り、ヘッド内の液体を循環させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような液体吐出ヘッドにおいては、ヘッド内で循環する液体がノズルから漏れ出すことがないように、ノズル近傍の液体の圧力を調整する必要がある。具体的には、ノズル近傍の液体の圧力が所望の圧力となるように、第1共通流路の液体を加圧室に供給する流路(第1個別流路及び第2個別流路)である供給絞りの流路抵抗と、加圧室の液体を第2共通流路に送る流路(第3個別流路)である帰還絞りの流路抵抗との、バランスをとる必要がある。しかしながら、製造誤差により、同一の加圧室に繋がる供給絞りと帰還絞りとの間で、設計値からのずれ量の差が大きくなると、ノズル近傍の液体の圧力が所望の圧力から大きくずれてしまう。
【0006】
特に、特許文献1のように供給絞りと帰還絞りとを互いに異なるプレートに形成する場合、プレート毎に製造誤差の程度が異なり、供給絞りと帰還絞りとの間で、設計値からのずれ量の差が大きくなり易い。
【0007】
本発明の目的は、供給絞り及び帰還絞りの製造誤差がノズル近傍の圧力に与える影響を少なくすることができる液体吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体吐出ヘッドは、積層方向に積層された複数のプレートにより構成され、前記複数のプレートに、液体を吐出するノズルをそれぞれ有する複数の個別流路と、前記複数の個別流路に共通して設けられており、前記複数の個別流路に液体を供給する供給マニホールドと、前記複数の個別流路のそれぞれと前記供給マニホールドとを繋ぐ複数の供給絞りと、前記複数の個別流路に共通して設けられており、前記複数の個別流路から流出した液体が流れ込む帰還マニホールドと、前記複数の個別流路のそれぞれと前記帰還マニホールドとを繋ぐ複数の帰還絞りと、が形成されている。前記供給絞りと前記帰還絞りとは、前記複数のプレートのうちの互いに異なるプレートに形成され、液体の流動方向と直交する面での断面が第1辺及び前記第1辺の長さ以上の長さを有する第2辺を有する矩形形状を有しており、前記第1辺の長さ、前記第2辺の長さ、及び、前記第1辺と前記第2辺との比であるアスペクト比は、いずれも、前記供給絞りと前記帰還絞りとで実質的に同じである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体吐出ヘッドによると、供給絞りと帰還絞りとが互いに異なるプレートに形成された場合においても、供給絞りと帰還絞りとの矩形形状の断面の、第1辺の長さ、第2辺の長さ、及び、アスペクト比のそれぞれが実質的に同じであるので、供給絞りと帰還絞りとの間での設計値からのずれ量の差を小さくすることができる。よって、供給絞り及び帰還絞りの製造誤差がノズル近傍の圧力に与える影響を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るインクジェットヘッドを備えたプリンタの平面図である。
【
図2】
図1に示すインクジェットヘッドの平面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿ったインクジェットヘッドの断面図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿ったインクジェットヘッドの部分断面図である。
【
図5】
図2のV-V線に沿ったインクジェットヘッドの断面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下、本発明の好適な第1実施形態について説明する。
【0012】
(プリンタの全体構成)
図1に示すように、本実施形態にかかるプリンタ100は、インクジェットヘッド1(本発明の「液体吐出ヘッド」)、キャリッジ2、ガイドレール3a、3b、プラテン4、搬送ローラ5a、5b及びインクタンク6を備えている。
【0013】
キャリッジ2は、水平方向に沿う走査方向(
図1中左右方向)に延びた2本のガイドレール3a、3bに支持され、ガイドレール3a、3bに沿って走査方向に移動する。インクジェットヘッド1は、キャリッジ2に搭載され、キャリッジ2とともに走査方向に移動する。以下の説明においては、走査方向のうち
図1の右方を「一方」とし、
図1の左方を「他方」とする。
【0014】
インクジェットヘッド1には、インクタンク6から図示しない管を介してブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクが供給される。インクジェットヘッド1は、その下面であるノズル面11y(
図3参照)に開口する複数のノズル21からインクを吐出する。
【0015】
複数のノズル21は、平面視で走査方向と直交する搬送方向(
図1中下方から上方に向かう方向)に沿ったノズル列21aを形成している。インクジェットヘッド1は、走査方向に並んだ4列のノズル列21aを有する。複数のノズル21からは、
図1において走査方向の最も右方に位置するノズル列21aを構成するものから順に、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが吐出される。なお、インクジェットヘッド1の構成については後ほど詳細に説明する。
【0016】
プラテン4は、インクジェットヘッド1の下面であるノズル面11yと対向して配置され、走査方向に記録用紙Pの全長にわたって延びている。プラテン4は、記録用紙Pを下方から支持する。搬送ローラ5a、5bは、搬送方向においてキャリッジ2よりも上流側及び下流側にそれぞれ配置され、記録用紙Pを搬送方向に搬送する。
【0017】
プリンタ100では、搬送ローラ5a、5bによって、記録用紙Pを搬送方向に所定距離ずつ搬送させる搬送処理と、キャリッジ2を走査方向に移動させつつ、インクジェットヘッド1の複数のノズル21からインクを吐出させる走査処理とを交互に行うことで、記録用紙Pに印刷を行う。すなわち、プリンタ100は、シリアル式である。なお、以下の説明においては、走査方向と搬送方向との両方に直交する方向を上下方向とする。
【0018】
(インクジェットヘッド1)
次に、
図2~
図5を参照しつつ、インクジェットヘッド1の詳細な構成について説明する。
図2に示すように、インクジェットヘッド1は、上面視で搬送方向に長尺な矩形形状を有している。インクジェットヘッド1は、流路ユニット11及び圧電アクチュエータ12などを備えている。
【0019】
流路ユニット11は、
図3~
図5に示すように、上下方向(本発明の「積層方向」)に積層されかつ互いに接着された11枚のプレート11a~11kで構成されている。流路ユニット11内には、複数の個別流路20、複数の供給絞り24、複数の帰還絞り25、供給マニホールド31、帰還マニホールド32及び連結流路33が形成されている。なお、
図2においては、個別流路20、供給絞り24及び帰還絞り25の図示を省略している。
【0020】
各プレート11a~11kには、個別流路20、供給絞り24、帰還絞り25、供給マニホールド31、帰還マニホールド32及び連結流路33を構成する貫通孔及び凹部が形成されている。各プレート11a~11kに形成される貫通孔及び凹部は、エッチングにより形成される。
【0021】
図2に示すように、供給マニホールド31及び帰還マニホールド32は4つずつ形成されている。供給マニホールド31及び帰還マニホールド32は、いずれも搬送方向に沿って延びている。4つの供給マニホールド31は、走査方向に等間隔で並んでいる。4つの帰還マニホールド32についても、走査方向に等間隔で並んでいる。
図3~
図5に示すように、帰還マニホールド32は、供給マニホールド31の下方に位置している。4つの供給マニホールド31及び4つの帰還マニホールド32は、上下方向にそれぞれ重なっている。4つの供給マニホールド31及び4つの帰還マニホールド32には、それぞれブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが流れる。
【0022】
図5に示すように、供給マニホールド31における搬送方向の上流側の端部と帰還マニホールド32における搬送方向の上流側の端部とは、連結流路33により連結されている。
【0023】
供給マニホールド31は、搬送方向の下流側の端部に設けられた供給口31aを介してインクタンク6に連通している。また、帰還マニホールド32は、搬送方向の下流側の端部に設けられた帰還口32aを介してインクタンク6に連通している。供給口31a及び帰還口32aは、流路ユニット11の上面11xに開口している。
【0024】
複数の個別流路20は、
図3に示すように、ノズル21をそれぞれ有している。上下に並ぶ一対の供給マニホールド31及び帰還マニホールド32は、1つのノズル列21a(
図1参照)に含まれる複数のノズル21をそれぞれ有する複数の個別流路20に共通して設けられる。供給マニホールド31は、該供給マニホールド31に対して設けられた複数の個別流路20にそれぞれインクを供給する。帰還マニホールド32には、該帰還マニホールド32に対して設けられた複数の個別流路20からそれぞれ流出したインクが流れ込む。
図3に示すように、個別流路20は、走査方向に関して該個別流路20が接続されている供給マニホールド31及び帰還マニホールド32の他方側に位置している。
【0025】
複数の供給絞り24は、供給マニホールド31と、該供給マニホールド31に対して設けられた複数の個別流路20のそれぞれとを繋ぐ。複数の帰還絞り25は、帰還マニホールド32と、該帰還マニホールド32に対して設けられた複数の個別流路20のそれぞれとを繋ぐ。
【0026】
インクタンク6内のインクは、水頭差により供給口31aから供給マニホールド31に送り込まれる。供給マニホールド31に送り込まれたインクは、供給マニホールド31内を搬送方向の下流側から上流側に向かって移動しつつ、供給絞り24を介して各個別流路20に供給される(
図3参照)。各個別流路20から流出したインクは、帰還絞り25を介して帰還マニホールド32に流入する。また、供給マニホールド31における搬送方向の上流側の端部に到達したインクは、連結流路33を通って帰還マニホールド32に流入する。帰還マニホールド32に流入したインクは、帰還マニホールド32内を搬送方向の上流側から下流側に向かって移動し、帰還口32aを介してインクタンク6に戻される。
【0027】
図3~
図5に示すように、供給マニホールド31は、プレート11cに形成された下方が開放された凹部と、プレート11d及びプレート11eに形成された貫通孔とで画定されている。帰還マニホールド32は、プレート11gに形成された下方が開放された凹部と、プレート11h及びプレート11iに形成された貫通孔とで画定されている。
【0028】
上下方向において供給マニホールド31と帰還マニホールド32との間には、ダンパ室30が設けられている。ダンパ室30は、プレート11fに形成された下方が開放された凹部で画定されている。プレート11fにおける凹部の底部は、供給マニホールド31のダンパ膜31dとして機能する。プレート11gにおける帰還マニホールド32を画定する凹部の底部は、帰還マニホールド32のダンパ膜32dとして機能する。
【0029】
各個別流路20は、
図3に示すように、ノズル21と、圧力室22と、第1流路23a及び第2流路23bからなる接続流路23とを含む。
【0030】
ノズル21は、プレート11kに形成された貫通孔で画定され、流路ユニット11の下面であるノズル面11yに開口している。
【0031】
圧力室22は、プレート11aに形成された貫通孔で画定され、流路ユニット11の上面11xに開口している。圧力室22は、走査方向の一方側の端部に供給絞り24が接続されており、走査方向の他方側の端部に接続流路23が接続されている。
【0032】
接続流路23は、ノズル21と圧力室22とを互いに接続している。接続流路23の第1流路23aは、プレート11jに形成された貫通孔で画定されている。第1流路23aは、上面視でノズル21と重なっている。すなわち、第1流路23aは、途中にノズル21が接続されている。第1流路23aは、走査方向の一方側の端部に帰還絞り25が接続されており、走査方向の他方側の端部に第2流路23bが接続されている。接続流路23の第2流路23bは、プレート11b~11iに形成された貫通孔で画定され、上下方向に沿って伸延している。第2流路23bは、走査方向に関してノズル21と離隔しており圧力室22と第1流路23aとを繋いでいる。
【0033】
供給絞り24は、供給マニホールド31と圧力室22とを互いに接続している。供給絞り24は、プレート11bに形成された凹部であってプレート11bの下面に開口する凹部と、該凹部における走査方向の他方側の端部に位置する貫通孔と、プレート11cに形成された貫通孔と、で画定されている。プレート11bに形成された凹部は、走査方向に沿って延びている。プレート11bに形成された凹部は、深さ(上下方向に沿う長さ)及び幅(搬送方向に沿う長さ)が走査方向に関して一定である。供給絞り24は、プレート11bに形成された貫通孔により圧力室22に接続されている。また、供給絞り24は、プレート11cに形成された供給マニホールド31を画定する凹部の底部に形成された貫通孔により、供給マニホールド31に接続されている。供給絞り24は、走査方向(インクの流動方向)と直交する面での断面積が圧力室22よりも小さい。
【0034】
帰還絞り25は、接続流路23の第1流路23aと帰還マニホールド32とを互いに接続している。帰還絞り25は、プレート11jに形成された凹部であってプレート11jの下面に開口する凹部と、該凹部における走査方向の一方側の端部に位置する貫通孔と、で画定されている。プレート11jに形成された凹部は、走査方向に沿って延びている。プレート11jに形成された凹部は、深さ(上下方向に沿う長さ)及び幅(搬送方向に沿う長さ)が走査方向に関して一定である。帰還絞り25は、プレート11jに形成された凹部における走査方向の一方側の端部に位置する貫通孔により帰還マニホールド32に接続されている。帰還絞り25を画定するプレート11jの凹部における走査方向の他方側の端部は、接続流路23の第1流路23aを画定する貫通孔に繋がっている。帰還絞り25は、走査方向(インクの流動方向)と直交する面での断面積が接続流路23の第1流路23aよりも小さい。
【0035】
供給マニホールド31からのインクは、供給絞り24において走査方向の一方側から他方側に流れて圧力室22に流入し、圧力室22内を略水平に流れ、接続流路23に流入する。接続流路23に流入したインクは、第2流路23bにおいて下方に流れた後、第1流路23aに流れ込む。第1流路23aに流れ込んだインクは、一部がノズル21から吐出され、残りが帰還絞り25において走査方向の他方側から一方側に流れて帰還マニホールド32に流入する。
【0036】
このようにインクタンク6と流路ユニット11との間でインクを循環させることで、流路ユニット11に形成された供給マニホールド31及び帰還マニホールド32、さらには供給絞り24、個別流路20及び帰還絞り25における、エアの排出やインクの増粘防止が実現される。また、インクが沈降成分(沈降が生じ得る成分。顔料等)を含む場合、当該成分が攪拌されて沈降が防止される。
【0037】
圧電アクチュエータ12は、
図3~
図5に示すように、下から順に、振動板12a、共通電極12b、圧電層12c及び複数の個別電極12dを含む。
【0038】
振動板12aは、流路ユニット11の上面11xに配置されている。振動板12aの上面における複数の圧力室22と対向する領域には、下方から順に積層された共通電極12b、圧電層12c及び個別電極12dが配置されている。振動板12a、共通電極12b及び圧電層12cは、複数の圧力室22に跨って配置されている。個別電極12dは、圧力室22毎に設けられており、上面視で各圧力室22と重複している。
【0039】
共通電極12b及び複数の個別電極12dは、図示しない配線部材を介して図示しないドライバICに接続されている。ドライバICは、共通電極12bの電位をグランド電位に維持する一方、個別電極12dの電位を変化させる。これにより、振動板12a及び圧電層12cにおいて個別電極12dと圧力室22とで挟まれた部分(アクチュエータ12x)が、圧力室22に向けて凸となるように変形する。この変形によって、圧力室22の容積が小さくなって圧力室22内のインクの圧力が上昇し、圧力室22に連通するノズル21からインクが吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ12は、圧力室22のそれぞれに対応する複数のアクチュエータ12xを有する。
【0040】
(供給絞り24及び帰還絞り25)
次に、供給絞り24及び帰還絞り25についてより詳細に説明する。
図4に示すように、供給絞り24及び帰還絞り25は、いずれも走査方向(インクの流動方向)と直交する面での断面が、上下方向(積層方向)に沿って延びる第1辺及び搬送方向に沿って延びる第2辺を有する略矩形形状である。ここで、供給絞り24の第1辺の長さをL
S1、帰還絞りの第1辺の長さをL
R1、供給絞りの第2辺の長さをL
S2、帰還絞りの第2辺の長さをL
R2とする。また、供給絞り24のアスペクト比(L
S2/L
S1)をA
S、帰還絞り25のアスペクト比(L
R2/L
R1)をA
Rとする。
【0041】
供給絞り24及び帰還絞り25は、第1辺の長さ、第2辺の長さ、及び、第1辺と第2辺との比であるアスペクト比が、いずれも実質的に同じである。具体的には、供給絞り24の第1辺の長さLS1及び帰還絞り25の第1辺の長さLR1の関係は、0.8<LS1/LR1<1.2となる。供給絞り24の第2辺の長さLS2及び帰還絞り25の第2辺の長さLR2の関係は、0.8<LS2/LR2<1.2となる。供給絞り24のアスペクト比AS及び帰還絞り25のアスペクト比ARの関係は、0.8<AS/AR<1.2となる。
【0042】
一例として、供給絞り24については第1辺の長さLS1=30μm、第2辺の長さLS2=88μmとし、帰還絞り25については第1辺の長さLR1=28μm、第2辺の長さLR2=84μmとする。このとき、供給絞り24のアスペクト比ASは約2.9であり、帰還絞りのアスペクト比ARは3.0である。また、LS1/LR1は約1.1であり、LS2/LR2は約1.0であり、AS/ARは約1.0である。供給絞り24及び帰還絞り25の第1辺の長さの差(LS1-LR1)と、供給絞り24及び帰還絞り25の第2辺の長さの差(LS2-LR2)とは、いずれも、±4μm以下であることが好ましい。
【0043】
供給絞り24及び帰還絞り25は、いずれも、上下方向(積層方向)に沿う第1辺の長さが搬送方向に沿う第2辺の長さよりも短い。すなわち、LS1<LS2、且つ、LR1<LR2である。
【0044】
また、供給絞り24の走査方向(インクの流動方向)に沿う長さLS3と、帰還絞り25の走査方向(インクの流動方向)に沿う長さをLR3とは、互いに異なっている。具体的には、例えばLS3=610~700μm、LR3=500~600μmである。
【0045】
図3及び
図4に示すように、同一の個別流路20に接続された供給絞り24と帰還絞り25とは、上下方向(積層方向)において部分的に重なっている。
【0046】
上述のように、供給絞り24は、プレート11bの下面に開口する凹部によって画定されている。供給絞り24は、プレート11bの下方でプレート11bに隣接するプレート11cにより覆われている。また、帰還絞り25は、プレート11jの下面に開口する凹部によって画定されている。帰還絞り25は、プレート11jの下方でプレート11jに隣接するプレート11kにより覆われている。供給絞り24を覆うプレート11cのインクに対する接触角、及び、帰還絞り25を覆うプレート11kのインクに対する接触角は、いずれも45°以下である。
【0047】
(実施形態の特徴)
以上のように、上述の実施形態のインクジェットヘッド1では、上下方向に積層された複数のプレート11a~11kにより構成された流路ユニット11に、複数の個別流路20のそれぞれと供給マニホールド31とを繋ぐ複数の供給絞り24と、複数の個別流路20のそれぞれと帰還マニホールド32とを繋ぐ複数の帰還絞り25と、が形成されている。供給絞り24と帰還絞り25とは、互いに異なるプレート11b、11jに形成されており、インクの流動方向と直交する面での断面が第1辺及び第2辺を有する略矩形形状を有している。第1辺の長さ、第2辺の長さ、及び、第1辺と第2辺との比であるアスペクト比は、いずれも、供給絞り24と帰還絞り25とで実質的に同じである。具体的には、供給絞り24の第1辺の長さLS1及び帰還絞り25の第1辺の長さLR1の関係は、0.8<LS1/LR1<1.2となる。供給絞り24の第2辺の長さLS2及び帰還絞り25の第2辺の長さLR2の関係は、0.8<LS2/LR2<1.2となる。供給絞り24のアスペクト比AS及び帰還絞り25のアスペクト比ARの関係は、0.8<AS/AR<1.2となる。また、LS1-LR1と、LS2-LR2とは、いずれも、±4μm以下である。
【0048】
上述の構成によると、供給絞り24と帰還絞り25とが互いに異なるプレート11b、11jに形成された場合においても、供給絞り24と帰還絞り25との矩形形状の断面の、第1辺の長さ、第2辺の長さ、及び、アスペクト比のそれぞれが実質的に同じであるので、供給絞り24と帰還絞り25との間での設計値からのずれ量の差を小さくすることができる。よって、供給絞り24及び帰還絞り25の製造誤差がノズル21近傍の圧力に与える影響を少なくすることができる。
【0049】
また、上述の実施形態のインクジェットヘッド1では、供給絞り24と帰還絞り25とは、いずれもプレート(供給絞り24はプレート11b、帰還絞り25はプレート11j)の下面に開口する凹部により画定されている。したがって、供給絞り24と帰還絞り25とを同じ条件で形成することができるので、製造誤差の程度を同等にでき、供給絞り24と帰還絞り25との間での設計値からのずれ量の差をより確実に小さくすることができる。
【0050】
さらに、上述の実施形態のインクジェットヘッド1では、供給絞り24及び帰還絞り25の矩形形状断面は、上下方向に沿って延びる第1辺が搬送方向に沿って延びる第2辺よりも短い。エッチングにより供給絞り24や帰還絞り25を形成する場合、各絞り24、25の深さを大きく(第1辺の長さを長く)するのは困難である。上述の構成では、各絞り24、25の深さである第1辺は、各絞り24、25の幅である第2辺よりも短い。したがって、各絞り24、25をエッチングにより容易に形成することができる。
【0051】
加えて、上述の実施形態のインクジェットヘッド1では、同一の個別流路20に接続された供給絞り24と帰還絞り25とは、上下方向(積層方向)において部分的に重なっている。したがって、同一の個別流路20に接続された供給絞り24と帰還絞り25とが、各プレート11b、11jの面内における同じ位置又は近接した位置に形成される。よって、絞り形成装置(エッチング装置)の性能上、製造誤差の程度を同等にでき、供給絞り24と帰還絞り25との間での設計値からのずれ量の差をより確実に小さくすることができる。
【0052】
さらに、上述の実施形態のインクジェットヘッド1では、供給絞り24及び帰還絞り25は、それぞれ、隣接するプレート(供給絞り24はプレート11c、帰還絞り25はプレート11k)により覆われており、プレート11c、11kのインクに対する接触角は、いずれも45°以下である。各絞り24、25を画定する面のインクに対する接触角が45°を超えると、各絞り24、25がインクで満たされず(即ち、各絞り24、25に適正にインクが導入されず)、ノズル21近傍のインクの圧力が設計値からずれてしまう。上述の構成では、各絞り24、25を画定する面のインクに対する接触角が45°以下であり、濡れ性が良いので、各絞り24、25がインクで満たされやすい(即ち、各絞り24、25に適正にインクを導入することができる)。よって、ノズル21近傍のインクの圧力の設計値からのずれを少なくすることができる。
【0053】
また、上述の実施形態のインクジェットヘッド1では、供給絞り24と帰還絞り25とは、走査方向(インクの流動方向)に沿う長さが互いに異なっている。本実施形態においては、供給絞り24及び帰還絞り25は、インクの流動方向に直交する断面の第1辺及び第2辺の長さが実質的に同一であるが、インクの流動方向に沿う長さを調整することで、ノズル21近傍のインクの圧力が所望の圧力となるように設計することができる。
【0054】
<第2実施形態>
次に、
図6を参照しつつ、本発明の第2実施形態にかかるインクジェットヘッド101について説明する。本実施形態のインクジェットヘッド101は、供給絞り124及び帰還絞り125の構成が第1実施形態と異なっている。以下、第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0055】
図6に示すように、本実施形態のインクジェットヘッド101の流路ユニット111は、12枚のプレート11a~11i、111j~111lで構成されている。ノズル121は、プレート111lに形成された貫通孔で画定されており、接続流路23の第1流路123aは、プレート111j、111kに形成された貫通孔で画定されている。
【0056】
供給絞り124は、プレート11bに形成された貫通孔により画定されている。帰還絞り125は、プレート111kに形成された貫通孔により画定されている。供給絞り124が形成されたプレート11bと、帰還絞り125が形成されたプレート111kとは、厚みが同じである。プレート11b、111kの厚みは、いずれも50μmである。供給絞り124及び帰還絞り125は、インクの流動方向と直交する面での断面が第1辺及び第2辺を有する略矩形形状を有している。第1辺の長さ、第2辺の長さ、及び、第1辺と第2辺との比であるアスペクト比は、いずれも、供給絞り124と帰還絞り125とで実質的に同じである。
【0057】
供給絞り124は、供給絞り124を画定する貫通孔が形成されたプレート11bに隣接するプレート11a、11cによって覆われている。帰還絞り125は、帰還絞り125を画定する貫通孔が形成されたプレート111kに隣接するプレート111j、111lによって覆われている。供給絞り124を覆うプレート11a、11cのインクに対する接触角、及び、帰還絞り125を覆うプレート111j、111lのインクに対する接触角は、いずれも45°以下である。
【0058】
第2実施形態のインクジェットヘッド101においても、第1実施形態と同様に、供給絞り124と帰還絞り125との間での設計値からのずれ量の差を小さくすることができる。よって、供給絞り124及び帰還絞り125の製造誤差がノズル21近傍の圧力に与える影響を少なくすることができる。
【0059】
また、インクジェットヘッド101においては、供給絞り124及び帰還絞り125が、同じ厚みのプレート11b、111kに形成された貫通孔により画定されている。したがって、供給絞り124と帰還絞り125とにおいて、深さを同じにすることができるので、製造誤差による供給絞り124と帰還絞り125との間での設計値からのずれ量の差をより確実に小さくすることができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0061】
上述の実施形態においては、供給絞り24及び帰還絞り25が、いずれもプレート(供給絞り24はプレート11b、帰還絞り25はプレート11j)の下面に開口する凹部によって画定されている場合について説明したが、供給絞り24及び帰還絞り25は、プレートの上面に開口する凹部によって画定されていてもよい。
【0062】
上述の実施形態においては、供給絞り24(124)及び帰還絞り25(125)のインクの流動方向と直交する面での矩形断面は、上下方向(積層方向)に沿って延びる第1辺が搬送方向に沿って延びる第2辺よりも短い場合について説明したが、これには限定されない。第1辺の長さは、第2辺の長さ以上であってもよい。
【0063】
さらに、上述の実施形態においては、同一の個別流路20に接続された供給絞り24(124)と帰還絞り25(125)とが、上下方向(積層方向)において部分的に重なっている場合について説明したが、これら供給絞り24(124)と帰還絞り25(125)とは、上下方向(積層方向)において重なっていなくてもよい。
【0064】
また、上述の実施形態においては、供給絞り24(124)及び帰還絞り25(125)を覆うプレート11c、11k(11a、11c、111j、111l)は、いずれもインクに対する接触角が45°以下である場合について説明したが、これには限定されない。これらのプレートのインクに対する接触角は、45°よりも大きくてもよい。
【0065】
さらに、上述の実施形態においては、供給絞り24(124)のインクの流動方向に沿う長さLS3と、帰還絞り25(125)のインクの流動方向に沿う長さをLR3とが、互いに異なっている場合について説明したが、これら絞りのインクの流動方向に沿う長さは同じであってもよい。
【0066】
アクチュエータ12xは、圧電素子を用いたピエゾ方式のものに限定されず、その他の方式(例えば、発熱素子を用いたサーマル方式、静電力を用いた静電方式等)のものであってもよい。
【0067】
プリンタ100の記録形式は、シリアル式に限定されず、記録用紙Pの幅方向に長尺であり、且つ、位置が固定されたヘッドのノズルからインクを吐出するライン式であってもよい。
【0068】
ノズル21から吐出される液体は、インクに限定されず、任意の液体(例えば、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液等)であってよい。また、吐出対象は、記録用紙Pに限定されず、例えば布、基板等であってもよい。
【0069】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機、複合機等にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液体吐出装置(例えば、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液体吐出装置)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 インクジェットヘッド
20 個別流路
24、124 供給絞り
25、125 帰還絞り
31 供給マニホールド
32 帰還マニホールド
11a~11k プレート