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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182181
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ビルダグリプチン含有医薬品
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/20 20060101AFI20221201BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221201BHJP
   A61J 1/03 20060101ALI20221201BHJP
   A61J 3/06 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A61K9/20
A61K31/40
A61P3/10
A61K47/26
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/12
A61J1/03 370
A61J3/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089578
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】307020615
【氏名又は名称】キョーリンリメディオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 真一
(72)【発明者】
【氏名】南 眞太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡本 理瑚
【テーマコード(参考)】
4C047
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047AA25
4C047BB13
4C047BB17
4C047BB20
4C047BB22
4C047CC15
4C047GG34
4C047LL08
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC21
4C076DD38A
4C076DD41C
4C076DD67A
4C076EE32
4C076EE32B
4C076EE38B
4C076FF41
4C076FF65
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC07
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA03
4C086ZC35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ビルダグリプチンを含有する医薬品において、製造性と錠剤特性に優れ、尚且つ分解物の増加量が抑えられた高純度のビルダグリプチンを含有する医薬品を提供する。
【解決手段】有効成分としてビルダグリプチン、並びに賦形剤、崩壊剤、結合剤及び滑沢剤からなる群から選ばれる1つ以上の添加剤を含有する錠剤が包装された医薬品であって、当該医薬品を40℃相対湿度75%の条件下で6箇月間保存した時の当該錠剤の水分活性値が0.2Aw以下、個々の分解物の含有量が0.3%以下、分解物の合計量が1%以下である包装形態であることを特徴とする、ビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてビルダグリプチン、並びに賦形剤、崩壊剤、結合剤及び滑沢剤からなる群から選ばれる1つ以上の添加剤を含有する錠剤が包装された医薬品であって、当該医薬品を40℃相対湿度75%の条件下で6箇月間保存した時の当該錠剤の水分活性値が0.2Aw以下、個々の分解物の含有量が0.3%以下、分解物の合計量が1%以下である包装形態であることを特徴とする、ビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
【請求項2】
賦形剤がD-マンニトール又は乳糖であり、崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース又は部分アルファー化デンプンであり、結合剤がヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムであることを特徴とする、請求項1に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
【請求項3】
ビルダグリプチンの平均粒子径が70~350μm、賦形剤が平均粒子径が50~150μmのD-マンニトール、崩壊剤がヒドロキシプロポキシ基の置換度が8~11、平均粒子径が35~55μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結合剤が平均分子量が80,000~150,000、平均粒子径が40~155μmのヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
【請求項4】
1錠剤中に、ビルダグリプチンを50mg、D-マンニトールを40~100mg、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを30~100mg、ヒドロキシプロピルセルロースを5~10mg及びステアリン酸マグネシウムを1~5mg含有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
【請求項5】
錠剤の強度が5kN以上、崩壊時間が5分以内、10分間の溶出率が90%以上であることを特徴とする、請求項4に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
【請求項6】
錠剤がPTPに充填されており、乾燥剤と共にアルミラミネート袋に封入された包装形態であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
【請求項7】
錠剤がPTPに充填されており、吸湿層を有する多層構造のアルミラミネート袋に封入された包装形態であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
【請求項8】
PTPが、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート及び環状オレフィンコポリマーからなる群から選ばれる1又は2以上の材質の単層又は多層構造であり、透湿度が0.5~3.0g/m・24hr、厚さが0.2~0.3mmであることを特徴とする、請求項6又は7に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
【請求項9】
錠剤が乾燥剤入りの蓋で施栓されたボトル容器に充填された包装形態であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
【請求項10】
乾燥剤が合成ゼオライトであり、ボトル容器の材質が950~970g/mの密度を有する高密度ポリエチレンであることを特徴とする、請求項9に記載のビルダグルプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
【請求項11】
有効成分としてビルダグリプチン、並びに賦形剤、崩壊剤、結合剤及び滑沢剤からなる群から選ばれる1つ以上の添加剤を含有する錠剤であって、当該錠剤の強度が5kN以上、崩壊時間が5分以内、10分間の溶出率が90%以上であることを特徴とする、ビルダグリプチンを含有する錠剤。
【請求項12】
賦形剤がD-マンニトール又は乳糖であり、崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース又は部分アルファー化デンプンであり、結合剤がヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムであることを特徴とする、請求項11に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤。
【請求項13】
ビルダグリプチンの平均粒子径が70~350μm、賦形剤が平均粒子径が50μm~150μmのD-マンニトール、崩壊剤がヒドロキシプロポキシ基の置換度が8~11、平均粒子径が35~55μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結合剤が平均分子量が80,000~150,000、平均粒子径が40~155μmのヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする、請求項11又は12に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤。
【請求項14】
1錠剤中に、ビルダグリプチンを50mg、D-マンニトールを40~100mg、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを30~100mg、ヒドロキシプロピルセルロースを5~10mg及びステアリン酸マグネシウムを1~5mg含有することを特徴とする、請求項11から13のいずれか1項に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤。
【請求項15】
有効成分としてビルダグリプチン、並びに添加剤としてD-マンニトール、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを乾式造粒法によって粒状化し、次いで、ステアリン酸マグネシウムを加えた混合物を圧縮成形することを特徴とするビルダグリプチンを含有する錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造性と製剤特性に優れた、ビルダグリプチンを有効成分として含有する錠剤、更には保存安定性に優れた、ビルダグリプチンを有効成分として含有する錠剤が包装された医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルダグリプチンはジペプチジルペプチダーゼ(DPP-4)を選択的、かつ可逆的に阻害する経口投与可能な2型糖尿病治療薬であり、内因性のGLP-1濃度を高めることで、血糖依存性にインスリン分泌を促進させるとともにグルカゴン分泌を抑性し、血糖降下作用を発揮する有用な薬剤である。
【0003】
しかし、ビルダグリプチンは吸湿性であり、安定性の問題が存在し、尚且つ本質的に圧縮不可能とされることから、これらの問題を解決する錠剤化の技術として、ビルダグリプチンを含む成分を直接圧縮法で製造した技術(特許文献1,特許文献2)、溶融法造粒法で製造した技術(特許文献3)及び特定の添加剤を用いて製造した技術(特許文献4)が各々開示されている。
【0004】
特許文献1及び特許文献2のビルダグリプチン含有錠では、直接圧縮法で製造した錠剤中の粒子サイズ分布、成分組成、水分量、及び有効成分の溶解率の値等が開示されているが、本発明により得られた錠剤が、どのような優れた圧縮特性を示し、どのような優れた錠剤強度を示すのか、具体的な数値のデータは示されていない。また、安定性に関しても具体的な数値データは示されていない。
【0005】
一方、特許文献3のビルダグリプチンを含有する錠剤については、安定性試験における分解物のデータが開示されており、直接圧縮法よりも溶融造粒法の方が安定性に優れていることが示されている。しかし、特許文献3における溶融造粒法は、疎水性溶融成分が特定の温度で状態変化(融解と凝固)することを利用した造粒方法である。この方法を用いる場合には、用いる疎水性溶融成分の溶融温度まで加熱できる特殊な造粒装置が必要となる。また、加熱温度の違いで溶融状態が変化し、それが造粒状態に大きく影響すると考えられるため、再現性良く造粒するためには、厳密な温度管理が必要となる。そのため溶融造粒法は、一般的な造粒法である乾式造粒法や湿式造粒法等と比較すると、製造が難しく、尚且つ煩雑な製造方法である。
【0006】
特許文献4におけるビルダグリプチンを含有する錠剤では、特定の添加剤を選定することにより、日本国内で市販されているビルダグリプチン含有錠よりも保存安定性が優れていることを示すデータが開示されている。しかし、錠剤成形時における問題の有無や、得られた錠剤の強度や崩壊性及び溶出性等に関するデータは全く示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5122144号公報
【特許文献2】特許第5739835号公報
【特許文献3】特許第5147399号公報
【特許文献4】特開2017-222592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ビルダグリプチンは錠剤化に適さず、保存中に分解物の生成量が多い等の問題を有する。しかし、ビルダグリプチンを含有する錠剤の製造性や製剤特性と共に、錠剤中に含まれるビルダグリプチンの安定性を改善する総合的な技術的手段は、これまで知られていなかった。
【0009】
そこで、本発明は安価な錠剤成分と簡便な製造方法により、製造性と製剤特性に優れ、尚且つ分解物の増加量が抑えられた高純度のビルダグリプチンを含有する医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ビルダグリプチンと特定の添加剤を含有する錠剤とすることで、打錠障害の無い良好な製造性と、優れた錠剤強度及び速やかな崩壊性、更には溶出試験の試験液のpHに依存せず、速やかに溶出するビルダグリプチンを含有する錠剤が得られることを見出した。また、このビルダグリプチンを含有する錠剤を特定の包装形態の医薬品とすることで、各々の医薬品を40℃相対湿度75%の条件下で6箇月間保存した場合、当該錠剤に検出される個々の分解物の最大量や合計量が抑制された、優れた安定性を示す医薬品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は以下の発明を含む
(1)有効成分としてビルダグリプチン、並びに賦形剤、崩壊剤、結合剤及び滑沢剤からなる群から選ばれる1つ以上の添加剤を含有する錠剤が包装された医薬品であって、当該医薬品を40℃相対湿度75%の条件下で6箇月間保存した時の当該錠剤の水分活性値が0.2Aw以下、個々の分解物の含有量が0.3%以下、分解物の合計量が1%以下である包装形態であることを特徴とする、ビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
(2)賦形剤がD-マンニトール又は乳糖であり、崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース又は部分アルファー化デンプンであり、結合剤がヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムであることを特徴とする、(1)に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
(3)ビルダグリプチンの平均粒子径が70~350μm、賦形剤が平均粒子径が50~150μmのD-マンニトール、崩壊剤がヒドロキシプロポキシ基の置換度が8~11、平均粒子径が35~55μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結合剤が平均分子量が80,000~150,000、平均粒子径が40~155μmのヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
(4)1錠剤中に、ビルダグリプチンを50mg、D-マンニトールを40~100mg、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを30~100mg、ヒドロキシプロピルセルロースを5~10mg及びステアリン酸マグネシウムを1~5mg含有することを特徴とする、(1)から(3)のいずれか1つに記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
(5)錠剤の強度が5kN以上、崩壊時間が5分以内、10分間の溶出率が90%以上であることを特徴とする、(4)に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
(6)錠剤がPTPに充填されており、乾燥剤と共にアルミラミネート袋に封入された包装形態であることを特徴とする、(1)から(5)のいずれか1つに記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
(7)錠剤がPTPに充填されており、吸湿層を有する多層構造のアルミラミネート袋に封入された包装形態であることを特徴とする、(1)から(5)のいずれか1つに記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
(8)PTPが、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート及び環状オレフィンコポリマーからなる群から選ばれる1又は2以上の材質の単層又は多層構造であり、透湿度が0.5~3.0g/m・24hr、厚さが0.2~0.3mmであることを特徴とする、(6)又は(7)に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
(9)錠剤が乾燥剤入りの蓋で施栓されたボトル容器に充填された包装形態であることを特徴とする、(1)から(5)のいずれか1つに記載のビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
(10)乾燥剤が合成ゼオライトであり、ボトル容器の材質が950~970g/mの密度を有する高密度ポリエチレンであることを特徴とする、(9)に記載のビルダグルプチンを含有する錠剤が包装された医薬品。
(11)有効成分としてビルダグリプチン、並びに賦形剤、崩壊剤、結合剤及び滑沢剤からなる群から選ばれる1つ以上の添加剤を含有する錠剤であって、当該錠剤の強度が5kN以上、崩壊時間が5分以内、10分間の溶出率が90%以上であることを特徴とする、ビルダグリプチンを含有する錠剤。
(12)賦形剤がD-マンニトール又は乳糖であり、崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース又は部分アルファー化デンプンであり、結合剤がヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムであることを特徴とする、(11)に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤。
(13)ビルダグリプチンの平均粒子径が70~350μm、賦形剤が平均粒子径が50~150μmのD-マンニトール、崩壊剤がヒドロキシプロポキシ基の置換度が8~11、平均粒子径が35~55μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結合剤が平均分子量が80,000~150,000、平均粒子径が40~155μmのヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする、(11)又は(12)に記載のビルダグリプチンを含有する錠剤。
(14)1錠剤中に、ビルダグリプチンを50mg、D-マンニトールを40~100mg、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを30~100mg、ヒドロキシプロピルセルロースを5~10mg及びステアリン酸マグネシウムを1~5mg含有することを特徴とする、(11)から(13)のいずれか1つに記載のビルダグリプチンを含有する錠剤。
(15)有効成分としてビルダグリプチン、並びに添加剤としてD-マンニトール、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを乾式造粒法によって粒状化し、次いで、ステアリン酸マグネシウムを加えた混合物を圧縮成形することを特徴とするビルダグリプチンを含有する錠剤の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明におけるビルダグリプチンを含有する錠剤は、簡便に製造でき、打錠時のトラブルが無いため製造性が良好であり、且つ錠剤強度と崩壊性及び溶出性に優れる。また、この錠剤の水分活性値を抑えた包装形態とすることで、40℃相対湿度75%の条件下に6箇月間保存しても分解物の生成量を大きく抑制できることから、高純度のビルダグリプチンを含有する医薬品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0014】
本発明における乾式造粒法とは、錠剤製造において,直接圧縮法に適さない流動性や混合性に問題のある成分を用いて錠剤化する場合に適用する造粒法である。水および水以外の溶媒も全く用いずに各成分を混合し、この混合物を回転する2本のローラーで薄い板状に圧縮成形するか、またはスラッグマシン等で任意の形状に圧縮成形し、得られた圧縮成形物を、破砕造粒装置等を用いて任意の粒度に調節することが可能であり、この乾式造粒プロセスにより、各成分が均一で流動性が良好な錠剤化に適した造粒粒子が得られる。
【0015】
本発明において、平均粒子径とはレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における、積算値50%の粒子径を意味する。
【0016】
本発明に係るビルダグリプチンの平均粒子径は500μm以下であり、好ましくは400μm以下であり、より好ましくは70~350μmであり、90~300μmが特に好適である。本発明に係るビルダグリプチン含有錠剤の1錠中のビルダグリプチンの含有量は、例えば、50mgである。
【0017】
本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤は、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び滑沢剤からなる群から選ばれる1つ以上の添加剤を含有する。
【0018】
(賦形剤)
本発明に係るビルダグリプチン含有錠剤において、賦形剤として、例えば、D-マンニトール、エリスリトール、ソルビトールおよびキシリトールなどの糖アルコール、トレハロース、ショ糖、乳糖などを単体又は適宜組み合わせて使用することができる。このうち、D-マンニトール及び乳糖が好ましく、D-マンニトールが特に好ましい。
【0019】
本発明に係るD-マンニトールは平均粒子径が、50~150μmのものが好ましく、70~130μmのものがより好ましく、約70μmのものが特に好適である。本発明に係るビルダグリプチン含有錠剤の1錠中のD-マンニトールの含有量は、40~100mgが好ましい。
【0020】
(崩壊剤)
本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤において、崩壊剤として、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン等を単体又は適宜組み合わせて使用することができる。このうち、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及び部分アルファー化デンプンが好ましく、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましい。
【0021】
本発明に係る低置換度ヒドロキシプロピルセルロースのヒドロキシプロポキシ基の置換度は8~11が好ましく、11が特に好適である。また、平均粒子径が35~55μmのものが好ましく、約45μmのものが特に好適である。本発明に係るビルダグリプチン含有錠剤の1錠中の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、30~100mgが好ましい。
【0022】
(結合剤)
本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤において、結合剤として、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、マクロゴール及び上記に賦形剤として示した化合物等から選択することができる。これらの結合剤は、単体または適宜組み合わせて使用することができる。このうち、ヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましい。
【0023】
本発明に係るヒドロキシプロピルセルロースは、平均分子量が、80,000~150,000のものが好ましく、100,000~140,000のものがより好ましく、約100,000のものが特に好適である。また、平均粒子径が40~155μmのものが特に好適である。本発明に係るビルダグリプチン含有錠剤の1錠中のヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、5~10mgが好ましい。
【0024】
(滑沢剤)
本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤において、滑沢剤として、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、水素添加植物油、マイクロクリスタリンワックス、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール等から選択することができる。これらの滑沢剤は、単体または適宜組み合わせて使用することができる。このうち、ステアリン酸マグネシウムが特に好ましい。
【0025】
本発明に係わるステアリン酸マグネシウムの錠剤中の添加量は0.5から4%であり、好ましくは1から3%であり、より好ましく2%であり、その半分量の1%を乾式造粒工程の時に添加し、残り1%は錠剤を圧縮成形する際に添加するのが好適である。本発明に係るビルダグリプチン含有錠剤の1錠中のステアリン酸マグネシウムの含有量は、1~5mgが好ましい。
【0026】
(コーティング剤)
本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤は、コーティング剤を含有してもよく、医薬用途で使用可能なコーティング剤であればよい。例えば、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、PVAコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、オパドライ、カルナウバロウ、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマー等が挙げられる。また、遮光剤や着色剤等の成分を添加しても良い。
【0027】
本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品において、PTP包装におけるPTPの材質は特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート及び環状オレフィンコポリマー等であり、各々単層又は複数の素材をラミネート加工したものを用いても良い。このうち、ポリ塩化ビニル単層、ポリ塩化ビニル/ポリ塩化ビニリデン/ポリ塩化ビニルの3層構造のラミネートが好ましい。また、透湿度が0.5~3.0g/m・24hrのものが好ましく、約0.68g/m・24hr、約2.7g/m・24hrのものが特に好ましい。また、厚さが0.2~0.3mmのものが好ましく、約0.21mm、約0.25mmのものが特に好ましい。アルミラミネート袋の材質に関しては、アルミ箔の層を有していれば特に限定されないが、吸湿層を有する多層構造のアルミラミネートが好ましく、吸湿層を有する5層構造(ポリエチレンテレフタレート層/アルミニウム層/ポリエチレン層/吸湿層/ポリエチレン層)のアルミラミネート袋を用いるのが特に好適である。
【0028】
本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品において、ボトル容器の材質は特に限定されないが、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられ、ポリエチレンが特に好ましい。ボトル容器の材質の密度は950~970g/mであることが好ましく、955~965g/mであることが更に好ましく、約961g/mであることが特に好ましい。
【0029】
本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品において、乾燥剤は特に限定されないが、シリカゲル、塩化カルシウム、ゼオライト等が挙げられる。本発明においては、PTPの包装形態で用いる乾燥剤の場合は塩化カルシウムが好適であり、シート状に成型されたものが、包装が嵩張らないため好適である。ボトル容器の包装形態の場合はゼオライトが好適であり、容器の蓋に装着できるように成形されたものが好ましい。
【0030】
本発明の一実施形態における水分活性とは、錠剤中に存在する水分子の中で、有効成分や添加剤等と物理的あるいは化学的な相互作用により吸着している水分子(結合水)を除く、水本来の分子特性を有する水分子(自由水)のことである。水分活性値は以下の式で表される。
水分活性値(Aw)=P/P
P :当該錠剤の水蒸気圧
:純水の水蒸気圧
純水は自由水が100%であるため,水分活性は1.00(=P/P)となる。水分活性が1.00に近いほど自由水の割合が100%に近いことを示す。
本発明の一実施形態における水分活性は露点測定法のMeter社のAquaLab4TEで測定した。
【0031】
本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤は、製造性及び製剤特性に優れ、尚且つ特定の包装形態の医薬品とすることで、保存中の錠剤の分解物量が極めて少ない、優れた品質を有する。本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤は、強度が5kN以上、崩壊時間が5分以内、10分間の溶出率が90%以上である。また、本発明に係るビルダグリプチンを含有する錠剤が包装された医薬品は、当該医薬品を40℃相対湿度75%の条件下で6箇月間保存した時の当該錠剤の水分活性値が0.2Aw以下であり、個々の分解物の含有量が0.3%以下であり、分解物の合計量が1%以下である。
【0032】
次に実施例を挙げて、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【実施例0033】
[試験例1]
ビルダグリプチンと添加剤の配合試験
【0034】
ビルダグリプチンを含有する医薬品に添加する各種成分とビルダグリプチンとの配合試験を行った。ビルダグリプチンと各種添加剤の配合比は、賦形剤として添加する成分の場合は1:4、崩壊剤として添加する成分の場合は1:1、結合剤又は滑沢剤として添加する成分の場合は2:1とした。
試料の調製は、ビルダグリプチンと各種成分を各々乳鉢で良く混合し、その混合物をバイアル瓶に充填し試料とした。この試料の入ったバイアル瓶を開放状態で、40℃相対湿度75%の恒温恒湿槽に入れて4週間保存するか、または、試料の入ったバイアル瓶に蓋をして密封し、60℃の恒温槽に入れて4週間保存するか、あるいは試料をシャーレに入れて、曝光試験装置の中で積算照度が120万ルクスになるまで保存し光線を照射した。各々の条件で保存した試料中のビルダグリプチン分解物の量を液体クロマトグラフィーにより測定した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
ビルダグリプチンと各種成分との配合試験の結果、賦形剤では乳糖水和物、無水乳糖及びD-マンニトール、崩壊剤では部分アルファー化デンプンと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結合剤ではヒドロキシプロピルセルロースとヒプロメロース、滑沢剤ではステアリン酸マグネシウムがビルダグリプチンとの配合によるビルダグリプチン分解物の生成量が少なかった。一方、特許文献1及び特許文献2の技術で用いられる結晶セルロースとデンプングリコール酸ナトリウムは、ビルダグリプチンとの配合によりビルダグリプチン分解物の生成量が比較的多く認められた。
【0037】
[試験例2]
錠剤の製造方法の違いによる安定性への影響
【0038】
参考例1
ビルダグリプチン100g、D-マンニトール196g、部分アルファ―化デンプン88g及びヒドロキシプロピルセルロース12gを撹拌造粒装置(パウレック社製,VG-01)に入れて、ブレードを毎分250回転、クロススクリューを1600回転で3分間混合し、これに精製水60gを加えて3分間造粒した。この造粒物を流動層(パウレック社製、MP-01)に入れて80℃で15分間乾燥した後、調粒機(パウレック社製 QC-197S)で調粒した。この調粒物297gとステアリン酸マグネシウム3gをビニール袋に入れて手で混合し打錠末を得た.この打錠末をロータリー式打錠機で圧縮成形し、直径8mmで質量200mgの錠剤を得た。
【0039】
参考例2
ビルダグリプチン100g、D-マンニトール196g、部分アルファ―化デンプン88g及びヒドロキシプロピルセルロース12gを流動層造粒装置(パウレック社製、MP-01)に入れ、流動化させながら精製水107.2gを噴霧し造粒した。噴霧終了後に80℃で24分間乾燥した後、この乾燥した造粒物を調粒機(パウレック社製、QC-197S)で調粒した。この調粒物297gとステアリン酸マグネシウム3gをビニール袋に入れて手で混合し、打錠末を得た。この打錠末をロータリー式打錠機で圧縮成形し、直径8mm質量200mgの錠剤を得た。
【0040】
参考例3
ビルダグリプチン100g、D-マンニトール196g、部分アルファ―化デンプン88g、ヒドロキシプロピルセルロース12g及びステアリン酸マグネシウム2gをビニール袋にいれて手で混合した。この混合末を乾式造粒装置(フロイント産業社製、TF-LABO)のローラーコンパクターで圧縮成形した。この圧縮成形物を1mmの目開きのスクリーンを装着した調粒機(フロイント産業社製 TF-LABO用オシレーター)で破砕し造粒物を得た。この造粒物270.2gとステアリン酸マグネシウム1.354gをビニール袋にいれて手で混合し,打錠末とした。この打錠末をロータリー式打錠機で圧縮成形し直径8mm質量200mgの錠剤を得た。
【0041】
参考例1,2及び3の各錠剤をガラス瓶に入れ、蓋をしない開放条件で、40℃相対湿度75%に3日間保存し、ビルダグリプチンの分解物量を液体クロマトグラフィーにより測定した。その結果、表2に示すように乾式造粒法が最も分解物の少ない製法であった。
【0042】
【表2】
【0043】
[試験例3]
錠剤に含まれる成分とそれらの組成比の違いによる錠剤物性への影響
【0044】
参考例4
ビルダグリプチン50g、D-マンニトール98g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース40g、ヒドロキシプロピルセルロース10g及びステアリン酸マグネシウム1gをビニール袋に入れて手で混合した。この混合末を乾式造粒装置(フロイント産業社製、TF-LABO)で圧縮成形した。この圧縮成形物を1mmの目開きのスクリーンを装着した調粒機(フロイント産業社製 TF-LABO用オシレーター)で破砕し造粒物を得た。この造粒物175.8gとステアリン酸マグネシウム0.88gをビニール袋に入れて手で混合し,打錠末とした。この打錠末をロータリー式打錠機で圧縮成形し直径8mm質量200mgの錠剤を得た。
【0045】
参考例5
ビルダグリプチン50g、D-マンニトール40g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース97.9g、ヒドロキシプロピルセルロース10g及びステアリン酸マグネシウム1gをビニール袋に入れて手で混合した。この混合末を乾式造粒装置(フロイント産業社製、TF-LABO)で圧縮成形した。この圧縮成形物を1mmの目開きのスクリーンを装着した調粒機(フロイント産業社製 TF-LABO用オシレーター)で破砕し造粒物を得た。この造粒物180gとステアリン酸マグネシウム0.9gをビニール袋に入れて手で混合し,打錠末とした。この打錠末をロータリー式打錠機で圧縮成形し直径8mm質量200mgの錠剤を得た。
【0046】
参考例6
ビルダグリプチン100g、D-マンニトール196g、部分アルファ―化デンプン88g、ヒドロキシプロピルセルロース12g及びステアリン酸マグネシウム2gをビニール袋に入れて手で混合した。この混合末を乾式造粒装置(フロイント産業社製、TF-LABO)で圧縮成形した。この圧縮成形物を1mmの目開きのスクリーンを装着した調粒機(フロイント産業社製 TF-LABO用オシレーター)で破砕し造粒物を得た。この造粒物270.2gとステアリン酸マグネシウム1.354gをビニール袋に入れて手で混合し,打錠末とした。この打錠末をロータリー式打錠機で圧縮成形し直径8mm質量200mgの錠剤を得た。
【0047】
参考例4、5、6及び実施例3(後述)の錠剤の強度(硬度)及び崩壊時間を測定した。その結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
添加剤としてD-マンニトールを1錠中に40~98mg、崩壊剤として低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを1錠中に38~98mg、ヒドロキシプロピルセルロースを6~10mg及びステアリン酸マグネシウムを2~4mg用いることで、錠剤強度が5kN以上で崩壊時間が5分以内の優れた特性を有する錠剤が得られた。
【0050】
[試験例4]
ビルダグリプチンの粒子径の違いによる製造性及び製剤特性への影響
【0051】
実施例1
平均粒子径が92μmのビルダグリプチン250g、D-マンニトール490g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース200g、ヒドロキシプロピルセルロース50g及びステアリン酸マグネシウム5gをビニール袋に入れて手で混合した。この混合末を乾式造粒装置(フロイント産業社製、TF-LABO)で圧縮成形した。この圧縮成形物を1mmの目開きのスクリーンを装着した調粒機(フロイント産業社製 TF-LABO用オシレーター)で破砕し造粒物を得た。この造粒物942.1gとステアリン酸マグネシウム4.7gをビニール袋に入れて手で混合し,打錠末とした。打錠末から後述の方法により錠剤を得た。
【0052】
実施例2
平均粒子径が274.4μmのビルダグリプチン50g、D-マンニトール98g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース40g、ヒドロキシプロピルセルロース10g及びステアリン酸マグネシウム1gをビニール袋に入れて手で混合した。この混合末を乾式造粒装置(フロイント産業社製、TF-LABO)で圧縮成形した。この圧縮成形物を1mmの目開きのスクリーンを装着した調粒機(フロイント産業社製 TF-LABO用オシレーター)で破砕し造粒物を得た。この造粒物160.8gとステアリン酸マグネシウム0.808gをビニール袋に入れて手で混合し、打錠末とした。打錠末から後述の方法により錠剤を得た。
【0053】
実施例3
平均粒子径が92.09μmのビルダグリプチン375g、D-マンニトール735g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース285g、ヒドロキシプロピルセルロース75g及びステアリン酸マグネシウム7.5gをビニール袋に入れて手で混合した。この混合末を乾式造粒装置(フロイント産業社製、TF-LABO)で圧縮成形した。この圧縮成形物を1mmの目開きのスクリーンを装着した調粒機(フロイント産業社製 TF-LABO用オシレーター)で破砕し造粒物を得た。この造粒物1432.8gとステアリン酸マグネシウム14.5gをビニール袋に入れて手で混合し,打錠末とした。打錠末から後述の方法により錠剤を得た。
【0054】
比較例1
平均粒子径が11.27μmのビルダグリプチン50g、D-マンニトール98g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース40g、ヒドロキシプロピルセルロース10g及びステアリン酸マグネシウム1gをビニール袋に入れて手で混合した。この混合末を乾式造粒装置(フロイント産業社製、TF-LABO)で圧縮成形した。この圧縮成形物を1mmの目開きのスクリーンを装着した調粒機(フロイント産業社製 TF-LABO用オシレーター)で破砕し造粒物を得た。この造粒物174.4gとステアリン酸マグネシウム0.876gをビニール袋に入れて手で混合し,打錠末とした。打錠末から後述の方法により錠剤を得た。
【0055】
実施例1、2、3及び比較例1の各打錠末を、圧縮特性評価装置(日本バリデーションテクノロジー社製 GTP-2型)を用いて約70Mpaの圧力で成形し、錠剤の排出圧力と脱離圧力を各々測定した。排出圧力は圧縮成形した錠剤を臼から排出するのに必要な圧力を表す指標であり、脱離圧力は錠剤を杵から引き離すときに必要な圧力の指標である。排出圧力及び脱離圧力は共に小さい値であるほど打錠性が良好であることを示す。一方、実施例1、2、3及び比較例1の各打錠末をロータリー打錠機(畑鐵工所社製 HT-EX18SS2)でも圧縮成形し、錠剤強度及び崩壊時間を測定した。錠剤強度は、岡田精工社製の錠剤硬度計PC-30型を用いて測定した。崩壊時間は、富山産業社製の崩壊試験器NT-20Hを用いて測定した。各々の結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
平均粒子径が11μmのビルダグリプチンで製造した比較例1の錠剤は打錠時にスティッキングが激しく発生し、錠剤が成形できなかった。一方、粒子径が92μmと274μmの粒度のビルダグリプチンを用いて製造した各々実施例1、3と実施例2の錠剤は,打錠障害が無く、良好な硬度と崩壊時間を示した。また、比較例1の圧縮測定評価装置による排出圧力と脱離圧力は、実施例1、2及び3よりも明らかに高い値を示していることから、平均粒子径が90~300μmのビルダグリプチンを用いることで、打錠性が顕著に改善されることが、圧縮及び排出過程の物理的指標からも確認された。
【0058】
[試験例5]
実施例3の錠剤からのビルダグリプチンの溶出特性
【0059】
実施例3の錠剤について、第17改正日本薬局方溶出試験法のパドル法にて毎分50回転で試験を行った。試験液は水、pH1.2、pH5.0及びpH6.8で各々行い、試験液中に溶出したビルダグリプチンの量を液体クロマトグラフィーにより測定した。結果を表5に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
実施例3の方法で得られた錠剤からのビルダグリプチンの溶出性は、いずれも10分間でほぼ100%であり、尚且つ試験液の種類に関わらず優れた溶出性を示すことが確認された。
【0062】
[試験例6]
PTPの包装形態の違いによる安定性
【0063】
実施例4
実施例3と同様な方法で製造した錠剤を透湿度が2.7g/m・24hr、厚さ0.25mmのポリ塩化ビニルシートでPTP包装した。このPTPを厚さ1mmのシート状に成型された塩化カルシウムの乾燥剤と共にアルミラミネート袋に入れて密封した。
【0064】
実施例5
実施例3と同様な方法で製造した錠剤を透湿度が2.7g/m・24hr、厚さ0.25mmのポリ塩化ビニルシートでPTP包装した。このPTPを、吸湿機能を有する5層(ポリエチレンテレフタレート層/アルミニウム層/ポリエチレン層/吸湿層/ポリエチレン層)のアルミラミネート袋(スタープラスチック工業社製、ハイスターMA)に入れて密封した。
【0065】
実施例6
実施例3と同様な方法で製造した錠剤を透湿度が0.68g/m・24hr、厚さ0.21mmの3層(ポリ塩化ビニル/ポリ塩化ビニリデン/ポリ塩化ビニル)のラミネートシートでPTP包装した。このPTPを厚さ1mmのシート状に成型された塩化カルシウムの乾燥剤と共にアルミラミネート袋に入れて密封した。
【0066】
比較例2
実施例3と同様な方法で製造した錠剤を透湿度が2.7g/m・24hr、厚さ0.25mmのポリ塩化ビニルシートでPTP包装した。このPTPをアルミラミネート袋に入れて乾燥剤を入れずに密封した。
【0067】
実施例4、5、6及び比較例2の試料を各々40℃相対湿度75%の条件下で6箇月間保存し、ビルダグリプチン分解物の含有量を液体クロマトグラフィーにより測定した。結果を表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
乾燥剤を入れずにアルミラミネートで封入した比較例2は、40℃相対湿度75%で6箇月間保存すると、個々の分解物の最大量が0.5%を超え、合計量も1%を超えた。また水分活性値も開始時より増加した。一方、乾燥剤を入れてアルミラミネート袋で封入した実施例4及び実施例6では、同条件で保存すると、水分活性値が0.2以下に低下し、個々の分解物の最大量が0.3%以下、合計量も1%以下に抑制されていた。また、吸湿層を有する5層のアルミラミネート袋で封入した実施例5では、同条件で保存すると、水分活性値が0.1以下に低下し、分解物の個々の最大量が0.13%、合計量も0.61%と非常に抑制されていた。
【0070】
[試験例7]
ボトル容器の包装形態の違いによる安定性
【0071】
実施例7
実施例3と同様な方法で製造した錠剤を密度961g/mのポリエチレン容器に入れ、合成ゼオライト製の乾燥剤を装着したポリプロピレン製の蓋で施栓し密封した。
【0072】
比較例3
実施例3で製造した錠剤を密度943g/mのポリエチレン容器にいれ、シリカゲル性の乾燥剤を装着したポリプロピレン製の蓋で施栓し密封した。
【0073】
実施例7と比較例3を各々40℃相対湿度75%の条件下で6箇月間保存し、ビルダグリプチン分解物の含有量を液体クロマトグラフィーにより測定した。結果を表7に示す。
【0074】
【表7】
【0075】
合成ゼオライト製の乾燥剤を装着した蓋で施栓した実施例7では、40℃相対湿度75%で6箇月間保存すると、水分活性値が0.1以下まで低下し、個々の分解物の最大量が0.10%、合計量が0.28%であり、シリカゲル性の乾燥剤を装着した蓋で施栓した比較例3よりも水分活性値及び分解物量が極めて少なくなることを見出した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明により、打錠障害の無い良好な製造性と、優れた錠剤強度と崩壊性および溶出性を有し、更には保存期間中の分解物の生成量が極めて少ない高純度のビルダグリプチンを含有する医薬品が提供される。