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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182195
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】熱処理炉及びプログラム記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   F27D 19/00 20060101AFI20221201BHJP
   F27B 17/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F27D19/00 A
F27B17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089602
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】591159619
【氏名又は名称】島津産機システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(72)【発明者】
【氏名】山田 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼間 洋祐
【テーマコード(参考)】
4K056
【Fターム(参考)】
4K056AA09
4K056AA11
4K056AA12
4K056BA02
4K056BA04
4K056BB06
4K056CA01
4K056CA10
4K056FA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】使用者の知識や経験などに関わらず、昇温パターンを適切に設定できる熱処理炉を提供する。
【解決手段】内部に収容された被処理物を加熱する炉本体と、炉本体内のヒータ20と、ヒータ20の制御装置30とを具備する熱処理炉であって、制御装置30が、被処理物の材料情報と、その材料の種類に対応する初期昇温パターンとを結び付けて記憶している昇温パターン記憶部31と、材料情報を外部から受け付ける材料情報受付部32と、被処理物の処理条件受付部33と、材料情報に対応する初期昇温パターンを昇温パターン記憶部31から取得するとともに、その初期昇温パターンを処理条件受付部33が受け付けた処理条件情報に基づいて修正した昇温パターンである新規昇温パターンを作成する昇温パターン作成部34と、昇温パターン作成部34が作成した新規昇温パターンに基づいてヒータを制御するヒータ制御部35とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収容された被処理物を加熱する炉本体と、前記炉本体内を昇温するヒータと、前記ヒータを制御する制御装置とを具備する熱処理炉であって、
前記制御装置が、
前記被処理物の材料の種類を示す材料情報と、その材料の種類に対応させて予め作成された昇温パターンである初期昇温パターンとを結び付けて記憶する昇温パターン記憶部と、
前記材料情報を外部から受け付ける材料情報受付部と、
前記被処理物の処理条件に関する処理条件情報を外部から受け付ける処理条件受付部と、
前記材料情報受付部が受け付けた前記材料情報に対応する前記初期昇温パターンを前記昇温パターン記憶部から取得するとともに、その初期昇温パターンを前記処理条件受付部が受け付けた前記処理条件情報に基づいて修正した昇温パターンである新規昇温パターンを作成する昇温パターン作成部と、
前記昇温パターン作成部が作成した前記新規昇温パターンに基づいて前記ヒータを制御するヒータ制御部とを備える熱処理炉。
【請求項2】
前記初期昇温パターンが、所定の処理条件を用いて、対応する材料の種類からなる被処理物の熱処理を実行する場合の昇温パターンであり、
前記昇温パターン作成部は、前記初期昇温パターンの所定の処理条件と、前記処理条件受付部で受け付けられた前記処理条件との比較に基づいて、新規昇温パターンを作成する、請求項1記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記処理条件受付部が、熱処理に用いられるバインダの種類、前記被処理物の単体重量、前記被処理物の表面積、前記被処理物の厚さ、前記被処理物の総重量、熱処理に用いられる冶具の種類、前記冶具の個体重量、前記冶具の総重量の少なくとも1つを前記処理条件情報として受け付ける請求項1又は2記載の熱処理炉。
【請求項4】
前記昇温パターン作成部が、前記初期昇温パターンにおいてある温度から別の温度に上昇するまでの時間である昇温時間、前記初期昇温パターンにおいてある温度から別の温度に降下するまでの時間である降温時間、前記初期昇温パターンにおいてある温度を一定に保持する時間である保持時間、前記昇温時間の開始温度或いは終了温度、前記降温時間の開始温度或いは終了温度、又は前記保持時間の保持温度の少なくとも何れかを変更して前記新規昇温パターンを作成する請求項1乃至3のうち何れか一項に記載の熱処理炉。
【請求項5】
前記昇温パターン作成部が、前記処理条件情報に応じて値が定まるパラメータを含む所定の算出式を用いて前記新規昇温パターンを作成する請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の熱処理炉。
【請求項6】
前記初期昇温パターンが、処理内容の異なる複数の時間帯ごとに作成されたものであり、
前記算出式が、前記時間帯に応じて異なる請求項5記載の熱処理炉。
【請求項7】
内部に収容された被処理物を加熱する炉本体と、前記炉本体内を昇温するヒータと、前記ヒータを制御する制御装置とを具備する熱処理炉に用いられる熱処理用プログラムが記憶されたプログラム記憶媒体であって、
前記被処理物の材料の種類を示す材料情報と、その材料の種類に対応させて予め作成された昇温パターンである初期昇温パターンとを結び付けて記憶している昇温パターン記憶部と、
前記材料情報を外部から受け付ける材料情報受付部と、
前記被処理物の処理条件に関する処理条件情報を外部から受け付ける処理条件受付部と、
前記材料情報受付部が受け付けた前記材料情報に対応する前記初期昇温パターンを前記昇温パターン記憶部から取得するとともに、その初期昇温パターンを前記処理条件受付部が受け付けた前記処理条件情報に基づいて修正した昇温パターンである新規昇温パターンを作成する昇温パターン作成部と、
前記昇温パターン作成部が作成した前記新規昇温パターンに基づいて前記ヒータを制御するヒータ制御部と、としての機能を前記制御装置に発揮させる前記熱処理用プログラムが記憶されたプログラム記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理炉及びプログラム記憶媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱処理炉は、特許文献1に示すように、例えば金属やセラミックスなどからなる被処理物の焼結や焼成などに用いられている。
【0003】
このような熱処理炉においては、例えば炉内の昇温時間や保持時間などの昇温パターンを適切に設定することが重要となるが、適切な昇温パターンは、例えば被処理物の材料の種類や被処理物の重量など、種々の処理条件に応じて異なる。
【0004】
そこで、従来は、金属やセラミックスの専門知識やこれらの材料を熱処理した経験を持ち合わせた者が、その知識や経験を頼りに昇温パターンを適切に設定したり、適宜修正したりしている。
【0005】
ところが、近年では、金属3Dプリンタやセラミックス3Dプリンタが市場に投入さていることにより、金属やセラミックスを専門には扱わない者が、金属やセラミックスの熱処理に関わる機会が増えている。こうした者は、上述した知識や経験を持ち合わせていないことが想定され、その結果、昇温パターンを適切に設定することができないといった問題が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実願2019-001409号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、使用者の持ち合わせる知識や経験などに関わらず、昇温パターンを適切に設定できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、内部に収容された被処理物を加熱する炉本体と、前記炉本体内を昇温するヒータと、前記ヒータを制御する制御装置とを具備する熱処理炉であって、前記制御装置が、前記被処理物の材料の種類を示す材料情報と、その材料の種類に対応させて予め作成された昇温パターンである初期昇温パターンとを結び付けて記憶している昇温パターン記憶部と、前記材料情報を外部から受け付ける材料情報受付部と、前記被処理物の処理条件に関する処理条件情報を外部から受け付ける処理条件受付部と、前記材料情報受付部が受け付けた前記材料情報に対応する前記初期昇温パターンを前記昇温パターン記憶部から取得するとともに、その初期昇温パターンを前記処理条件受付部が受け付けた前記処理条件情報に基づいて修正した昇温パターンである新規昇温パターンを作成する昇温パターン作成部と、前記昇温パターン作成部が作成した前記新規昇温パターンに基づいて前記ヒータを制御するヒータ制御部とを備える熱処理炉に関する。
【0009】
本発明の第2の態様は、内部に収容された被処理物を加熱する炉本体と、前記炉本体内を昇温するヒータと、前記ヒータを制御する制御装置とを具備する熱処理炉に用いられる熱処理用プログラムが記憶されたプログラム記憶媒体であって、前記被処理物の材料の種類を示す材料情報と、その材料の種類に対応させて予め作成された昇温パターンである初期昇温パターンとを結び付けて記憶している昇温パターン記憶部と、前記材料情報を外部から受け付ける材料情報受付部と、前記被処理物の処理条件に関する処理条件情報を外部から受け付ける処理条件受付部と、前記材料情報受付部が受け付けた前記材料情報に対応する前記初期昇温パターンを前記昇温パターン記憶部から取得するとともに、その初期昇温パターンを前記処理条件受付部が受け付けた前記処理条件情報に基づいて修正した昇温パターンである新規昇温パターンを作成する昇温パターン作成部と、前記昇温パターン作成部が作成した前記新規昇温パターンに基づいて前記ヒータを制御するヒータ制御部と、としての機能を前記制御装置に発揮させる前記熱処理用プログラムが記憶されたプログラム記憶媒体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被処理物の材料の種類及び処理条件を入力することにより、昇温パターン作成部が、その材料の種類に対応する初期昇温パターンを処理条件情報に基づき修正して新規昇温パターンを作成するので、適切な昇温パターンを半自動的に作成することができる。これにより、使用者の持ち合わせる知識や経験などに関わらず、新規昇温パターンを適切に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態における熱処理炉の構成を示す模式図である。
図2】同実施形態において昇温パターンを説明するグラフ。
図3】同実施形態における制御装置の機能を示す機能ブロック図。
図4】同実施形態における制御装置の動作を示すフローチャート図。
図5】同実施形態における新規昇温パターンの具体例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態における熱処理炉について図面を参照しながら説明する。
【0013】
[全体構成]
この熱処理炉100は、図1に示すように、被処理物Wの例えば脱脂や焼結などの熱処理を行うために用いられる。なお、熱処理炉100は、半焼結、焼成、ろう付け、メタライズ、焼き入れ、焼戻し、焼きなまし、溶体化処理、又は時効熱処理等を行うために用いてもよい。
【0014】
被処理物Wの材料の種類としては、例えば金属や磁性材料等を挙げることができ、より具体的には超硬金属、鉄系金属、非鉄金属、磁性材料、セラミックス、グラファイト、ハイス鋼、ダイス鋼又は低合金鋼等が挙げられる。なお、金属には合金が含まれる。また、被処理物Wは、粉体又は所定形状を有した固体である。
【0015】
熱処理炉100は、図1に示すように、被処理物Wが収容される炉本体10と、炉本体10内を昇温するヒータ20と、ヒータ20を制御する制御装置30とを具備する。
【0016】
炉本体10は、内部が所定圧力に保たれる圧力容器11と、圧力容器11内に設けられた概略直方体状をなす断熱体12と、断熱体12内に設けられ、概略直方体形状をなすとともに内部に被処理物Wが収容されるタイトボックス13と、を備えている。すなわち、圧力容器11、断熱体12、タイトボックス13は入れ子構造をなす。
【0017】
圧力容器11は、その一部が蓋体(図示しない)により開閉可能に構成されており、蓋体が閉じられると、圧力容器11内は気密空間となる。圧力容器11は、ここでは概略直方体形状をなすものであるが、例えば概略筒状をなすものなど形状は適宜変更して構わない。圧力容器11内はポンプPの作用によって内部が減圧されたり、図示しないガス源から圧力容器11内に供給される不活性ガス等によって加圧されたりする。
【0018】
断熱体12は、例えばグラファイトフェルト又はグラファイトフォイルなどの耐熱性材料で構成されており、ここでは概略直方体形状をなすものである。この断熱体12は、ヒータ20で発生する熱が断熱体12の外側へ放熱されるのを防止する。なお、断熱体12としては、概略直方体形状をなすものに限らず、概略筒状をなすものなど、種々の形状に変更して構わない。
【0019】
タイトボックス13は、内部に加熱空間を形成する概略直方体形状をなす箱体であり、この加熱空間に被処理物Wが配置される。被処理物Wは、タイトボックス13内の棚に載置された冶具Zに支持されている。ただし、被処理物Wは、冶具Zを用いることなく棚に支持されていても良い。タイトボックス13の中に被処理物Wが収容されることで、被処理物Wを脱脂処理したときに被処理物Wから放出されるバインダー(ガス及びワックス)がタイトボックス13の外に放出されるのを防ぐことができる。なお、タイトボックス13に収容される被処理物Wは、1つでも良いし複数でも良い。また、タイトボックス13は、概略直方体形状をなすものに限らず、概略筒状をなすものなど、種々の形状に変更して構わない。さらに、熱処理炉100としては、必ずしもタイトボックス13を備えている必要はない。
【0020】
ヒータ20は、断熱体12の内部空間に配置されており、具体的には例えばグラファイト製のヒータプレートやロッドヒーターなどを挙げることができる。ヒータ20は、例えば電極(図示省略)から三相交流の電力が供給され、発熱する。
【0021】
制御装置30は、CPU、プログラム記憶媒体、入力手段、出力手段、及びディスプレイなどを備える汎用乃至専用のコンピュータであり、具体的には、炉本体10内の目標とする温度変化である昇温パターンに基づいてヒータ20を制御する。
【0022】
制御装置30の詳細を説明する前に、まずは昇温パターンについて述べる。
昇温パターンは、図2に示すように、炉本体10内の設定温度の時間変化であり、ここでは、処理内容の異なる複数の時間帯ごとに作成されている。複数の時間帯は、例えば脱脂処理を行う脱脂時間帯、加熱処理(焼結・焼成)を行う熱処理時間帯、及び冷却処理を行う冷却時間帯などである。
【0023】
より具体的に説明すると、昇温パターンは、図2に示すように、昇温、温度保持、及び降温の組み合わせからなる。すなわち、昇温パターンは、ある温度から別の温度に上昇するまでの時間である昇温時間、ある温度を一定に保持する時間である保持時間、ある温度から別の温度に降下するまでの時間である降温時間、昇温時間の開始温度並びに終了温度、保持時間の保持温度、及び降温時間の開始温度並びに終了温度によって表現される。なお、図2に例示した昇温パターンは、複数の直線的な温度変化からなるものであるが、1又は複数の曲線に沿った温度変化を含むものであっても構わない。
【0024】
続いて、制御装置30の詳細を説明する。
制御装置30は、プログラム記憶媒体であるメモリに記憶された熱処理用プログラムが実行されることにより、図3に示すように、昇温パターン記憶部31、材料情報受付部32、処理条件受付部33、昇温パターン作成部34、及びヒータ制御部35としての機能を発揮するように構成されている。
以下、各部の説明を兼ねて図4のフローチャートを参照しながら制御装置30の動作を説明する。
【0025】
昇温パターン記憶部31は、前記メモリの所定領域に設定されており、被処理物Wの材料の種類を示す材料情報と、その材料の種類に対応させて予め作成された昇温パターンである初期昇温パターンとを結び付けて記憶している。
【0026】
材料情報としては、被処理物Wの材料の種類が例えばステンレス鋼、チタン合金等であることを示す情報や、さらに細分化されたSUS304、SUS316、Ti-6Al-4V、Ti-325等であることを示す情報を挙げることができる。
【0027】
初期昇温パターンは、対応する材料の種類からなる被処理物Wの熱処理に用いられる基本の昇温パターンである。好ましい実施形態においては、初期昇温パターンは、対応する材料の種類からなる被処理物Wの熱処理を、所定の処理条件(処理条件の具体例は後述する。)を用いて実行する場合の昇温パターンである。具体的に初期昇温パターンは、例えば昇温時間、保持時間、降温時間、昇温時間の開始温度並びに終了温度、保持時間の保持温度、及び降温時間の開始温度並びに終了温度が、それぞれの材料情報に対応して予め設定されたものである。なお、保持温度は、昇温時間における終了温度又は降温時間における終了温度となる。
【0028】
被処理物Wの材料の種類および処理条件に応じた適切な初期昇温パターンは、例えば実験などにより予め求めておくことができる。そこで、例えば使用者または製造者が、被処理物Wの処理前に、材料の種類と実験などにより予め求めた初期昇温パターンとを結び付けて昇温パターン記憶部31に記憶させておく(S1)。この昇温パターン記憶部31に記憶されている初期昇温パターンは、例えば最新のものに随時更新される。更新方法としては、使用者が入力手段を介して入力することで更新しても良いし、ネットワークを介して自動的に最新のものに更新されても良く、作成した新規昇温パターンを新たな初期昇温パターンとして更新するようにしてもよい。
【0029】
次いで、材料情報受付部32が、外部から入力された材料情報を受け付ける(S2)。本実施形態の制御装置30は、使用者が被処理物Wの処理前に、被処理物Wの材料の種類を複数の中から例えば入力手段を介して選択できるように構成されている。そして、選択された材料の種類を示す材料情報が、材料情報受付部32により受け付けられる。なお、材料情報受付部32は、外部から例えば無線通信により送信された材料情報を受け付けるものであっても良い。
【0030】
続いて、処理条件受付部33が、外部から入力された被処理物Wの処理条件に関する処理条件情報を受け付ける(S3)。処理条件には、使用者が複数の選択肢の中から選択可能な項目や、任意の値に設定可能な項目を含まれており、これらの項目として選択又は設定された内容が処理条件情報に含まれる。こうした項目としては、例えば、熱処理に用いられるバインダの種類、被処理物Wの単体重量、被処理物Wの表面積、被処理物Wの厚さ、複数個の被処理物Wの総重量、熱処理に用いられる冶具Zの種類、冶具Zの個体重量、複数個の冶具Zの総重量の少なくとも1つが挙げられる。なお、バインダの種類や冶具Zの種類は、複数の選択肢の中から選択可能な項目であり、その他の重量、面積、厚さなどは任意の値に設定可能な項目である。
【0031】
本実施形態の制御装置30は、使用者が被処理物Wの処理前に、各項目を例えば入力手段を介して選択又は設定できるように構成されている。そして、選択又は設定された項目それぞれの内容を含む処理条件情報が処理条件受付部33により受け付けられる。なお、処理条件受付部33は、外部から例えば無線通信により送信された処理条件情報を受け付けるものであっても良い。
【0032】
そして、昇温パターン作成部34が、上述した初期昇温パターンを処理条件に応じて最適化した昇温パターンである新規昇温パターンを作成する(S4)。なお、ここでいう「最適化」とは、初期昇温パターンを、熱処理後の被処理物Wに要求されるレベルの物性値等を担保できる程度の昇温パターンに近づけることであり、必ずしも最も適切な昇温パターンを作成することには限られない。また、最適化の具体的な実施態様としては、例えば所定の演算式やプログラムなど、予め定められた規則に基づいて初期昇温パターンを修正する態様を挙げることができる。
【0033】
この昇温パターン作成部34は、材料情報受付部32が受け付けた材料情報に対応する初期昇温パターンを昇温パターン記憶部31から取得するとともに、その初期昇温パターンを処理条件受付部33が受け付けた処理条件情報に基づき修正して作成される。好ましい実施形態において、新規昇温パターンは、初期昇温パターンの所定の処理条件と、入力された新規昇温パターンの処理条件との値の比較に基づいて、詳細後述する温度や時間等の各パラメータを変更することによって作成される。
【0034】
昇温パターン作成部34は、初期昇温パターンの昇温時間、保持時間、降温時間、昇温時間の開始温度或いは終了温度、保持時間の保持温度、又は降温時間の開始温度或いは終了温度の少なくとも何れかを変更することで新規昇温パターンを作成する。
【0035】
言い換えれば、昇温パターン作成部34は、初期昇温パターンに含まれる昇温、温度保持、及び降温それぞれの順番及び回数を変えることなく、昇温及び降温の傾き又は温度保持の長さを変更することで新規昇温パターンを作成する。
【0036】
具体的に昇温パターン作成部34は、所定の算出式を用いて新規昇温パターンを作成する。この算出式には、処理条件情報に応じて値が定まるパラメータが含まれている。なお、算出式は、予め算出用データ記憶部36に算出用データとして予め記憶させてある。この算出用データは、入力手段を介して修正可能なデータである。昇温パターン作成部34は、算出用データ記憶部36から算出式を示す算出用データを取得して新規昇温パターンを作成する。
【0037】
本実施形態の算出式には、上述した処理条件に含まれる種々の項目に対応するパラメータが含まれている。具体的には、例えばバインダの種類や冶具Zの種類といった選択可能な項目に対応するパラメータとして、選択された種類に応じて値が変わるものを挙げることができる。一方、例えば重量、面積、厚さといった任意の値が設定可能な項目に対応するパラメータとしては、設定された値が代入されるものを挙げることができる。
【0038】
より具体的なパラメータの態様として、以下のものを挙げることができる。
【0039】
・第1パラメータ:被処理物Wの単体重量に対応するパラメータ
第1パラメータは、被処理物Wの単体重量が大きいほど、昇温時間が長く、保持時間が長く、降温時間が長くなるように設定された変数である。
好ましくは、新規昇温パターンの「被処理物Wの単体重量」が初期昇温パターンの「被処理物Wの単体重量」より大きい場合には、新規昇温パターンは初期昇温パターンと比べ、昇温時間が長く、保持時間が長く、降温時間が長くなるように設定されている。新規昇温パターンの「被処理物Wの単体重量」が初期昇温パターンの「被処理物Wの単体重量」より小さい場合には、新規昇温パターンは初期昇温パターンと比べ、昇温時間が短く、保持時間が短く、降温時間が短くなるように設定されている。
【0040】
・第2パラメータ:被処理物Wの厚みに対応するパラメータ
第2パラメータは、被処理物Wの厚みが厚いほど、昇温時間が長く、保持時間が長く、降温時間が長くなるように設定された変数である。
好ましくは、新規昇温パターンの「被被処理物Wの厚み」が初期昇温パターンの「被処理物Wの厚み」より大きい場合には、新規昇温パターンは初期昇温パターンと比べ、昇温時間が長く、保持時間が長く、降温時間が長くなるように設定されている。新規昇温パターンの「被処理物Wの厚み」が初期昇温パターンの「被処理物Wの厚み」より小さい場合には、新規昇温パターンは初期昇温パターンと比べ、昇温時間が短く、保持時間が短く、降温時間が短くなるように設定されている。
【0041】
・第3パラメータ:複数個の被処理物Wの総重量に対応するパラメータ
第3パラメータは、複数個の被処理物Wの総重量が大きいほど、昇温時間が長く、保持時間は維持し、降温時間が長くなるように設定された変数である。
好ましくは、新規昇温パターンの「複数個の被処理物Wの総重量」が初期昇温パターンの「複数個の被処理物Wの総重量」より大きい場合には、新規昇温パターンは初期昇温パターンと比べ、昇温時間が長く、保持時間は維持し、降温時間が長くなるように設定されている。新規昇温パターンの「複数個の被処理物Wの総重量」が初期昇温パターンの「複数個の被処理物Wの総重量」より小さい場合には、新規昇温パターンは初期昇温パターンと比べ、昇温時間が短く、保持時間が短く、降温時間が短くなるように設定されている。
【0042】
・第4パラメータ:複数個の冶具Zの総重量に対応するパラメータ
第4パラメータは、複数個の冶具Zの総重量が大きいほど、昇温時間が長く、保持時間は維持し、降温時間が長くなるように設定された変数である。
好ましくは、新規昇温パターンの「複数個の冶具Zの総重量」が初期昇温パターンの「複数個の冶具Zの総重量」より大きい場合には、新規昇温パターンは初期昇温パターンと比べ、昇温時間が長く、保持時間は維持し、降温時間が長くなるように設定されている。新規昇温パターンの「複数個の冶具Zの総重量」が初期昇温パターンの「複数個の冶具Zの総重量」より小さい場合には、新規昇温パターンは初期昇温パターンと比べ、昇温時間が短く、保持時間は維持し、降温時間が短くなるように設定されている。
【0043】
なお、降温時間については、被処理物Wの変形防止の観点から、内外の熱膨張差による変形が生じない程度の冷却速度が好ましく、上述したように被処理物Wの重量又は表面積が大きい程、降温時間を長くすることが望ましく、具体的には傾きを寝かせる(小さくする)ことが好ましい。
【0044】
なお、上述した算出式は、初期昇温パターンに含まれる複数の時間帯、すなわち脱脂時間帯、熱処理時間帯、及び冷却時間帯に応じて異なって作成されていても良い。具体的には、算出式に含まれるパラメータの数や係数などが、脱脂時間帯、熱処理時間帯、及び冷却時間帯に応じて異なっていても良い。
【0045】
ここで、昇温パターン作成部34により作成される新規昇温パターンの具体例を図5に示す。
図5の点線が示す新規昇温パターンは、脱脂処理時のパターンであり、被処理物Wの材料の種類をSUS304、個数を1つ、単体重量を100gに設定した場合に作成されたものである。
これに対して、図5の太線が示す新規昇温パターンは、上記の点線の処理条件に対して、被処理物Wの単体重量のみを変更して500gに設定した場合に作成されたものである。
【0046】
このように、被処理物Wの単体重量を増やすことにより、作成される新規昇温パターンは、上述した第1パラメータで説明したとおり、昇温時間が長く、且つ、保持時間が長くなる。なお、この例では、昇温時間における開始温度並びに終了温度、及び、保持時間の保持温度は、被処理物Wの単体重量に関わらず同じ温度に設定である。
【0047】
このように新規昇温パターンが作成された後、ヒータ制御部35が、昇温パターン作成部34が作成した新規昇温パターンに基づいてヒータ20を制御する(S5)。具体的にヒータ制御部35は、例えば炉本体10内に設けられた図示しない温度センサによる検出温度が新規昇温パターンに追従するよう、ヒータ20への供給電力をフィードバック制御する。
【0048】
[本実施形態の作用効果]
このように構成された熱処理炉100によれば、被処理物Wの材料の種類及び処理条件を入力することにより、昇温パターン作成部34が、その材料の種類に対応する初期昇温パターンを処理条件情報に基づき修正して新規昇温パターンを作成するので、適切な昇温パターンを半自動的に作成することができる。これにより、使用者の持ち合わせる知識や経験などに関わらず、新規昇温パターンを適切に設定することが可能となる。
【0049】
[その他の実施形態]
その他の実施形態について説明する。
【0050】
例えば、処理条件としては、前記実施形態で述べた項目が含まれるものに限らず、例えば炉本体10内の真空度、炉本体10内に窒素ガス、アルゴンガス、又は水素ガスなどの種々のガスを供給するか否かなどの項目が含まれていても良い。
【0051】
昇温パターン作成部34は、算出式の代わりに、ルックアップテーブルを用いて新規昇温パターンを作成しても良い。
【0052】
ヒータ制御部35は、前記実施形態ではヒータ20への供給電力を制御していたが、供給電力や供給電圧などヒータ20への供給エネルギーを制御するものであれば良い。
【0053】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態又はその変形は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0054】
(第1項)一態様に係る熱処理炉は、内部に収容された被処理物を加熱する炉本体と、前記炉本体内を昇温するヒータと、前記ヒータを制御する制御装置とを具備する熱処理炉であって、
前記制御装置が、前記被処理物の材料の種類を示す材料情報と、その材料の種類に対応させて予め作成された昇温パターンである初期昇温パターンとを結び付けて記憶する昇温パターン記憶部と、
前記材料情報を外部から受け付ける材料情報受付部と、
前記被処理物の処理条件に関する処理条件情報を外部から受け付ける処理条件受付部と、
前記材料情報受付部が受け付けた前記材料情報に対応する前記初期昇温パターンを前記昇温パターン記憶部から取得するとともに、その初期昇温パターンを前記処理条件受付部が受け付けた前記処理条件情報に基づいて修正した昇温パターンである新規昇温パターンを作成する昇温パターン作成部と、
前記昇温パターン作成部が作成した前記新規昇温パターンに基づいて前記ヒータを制御するヒータ制御部とを備えていて良い。
【0055】
このように構成された熱処理炉によれば、被処理物の材料の種類及び処理条件を入力することにより、昇温パターン作成部が、その材料の種類に対応する初期昇温パターンを処理条件情報に基づき修正して新規昇温パターンを作成するので、適切な昇温パターンを半自動的に作成することができる。これにより、使用者の持ち合わせる知識や経験などに関わらず、新規昇温パターンを適切に設定することが可能となる。
【0056】
(第2項)他の一態様に係る熱処理炉は、前記初期昇温パターンが、所定の処理条件を用いて、対応する材料の種類からなる被処理物の熱処理を実行する場合の昇温パターンであり、前記昇温パターン作成部は、前記初期昇温パターンの所定の処理条件と、前記処理条件受付部で受け付けられた前記処理条件との比較に基づいて、新規昇温パターンを作成する。
このような構成であれば、処理条件受付部で受け付けられた処理条件に対応した適切な新規昇温パターンを作成することができる。
【0057】
(第3項)他の一態様に係る熱処理炉は、第1項又は第2項の態様の熱処理炉において、前記処理条件受付部が、熱処理に用いられるバインダの種類、前記被処理物の単体重量、前記被処理物の表面積、前記被処理物の厚さ、前記被処理物の総重量、熱処理に用いられる冶具の種類、前記冶具の個体重量、前記冶具の総重量の少なくとも1つを前記処理条件情報として受け付ける。
このような構成であれば、新規昇温パターンを種々の処理条件に対応させながら細やかに修正して、最適な新規昇温パターンを作成することができる。
【0058】
(第4項)他の一態様に係る熱処理炉は、第1項乃至第3項のうち何れか一項の態様の熱処理炉において、前記昇温パターン作成部が、前記初期昇温パターンにおいてある温度から別の温度に上昇するまでの時間である昇温時間、前記初期昇温パターンにおいてある温度から別の温度に降下するまでの時間である降温時間、前記初期昇温パターンにおいてある温度を一定に保持する時間である保持時間、前記昇温時間の開始温度或いは終了温度、前記降温時間の開始温度或いは終了温度、又は前記保持時間の保持温度の少なくとも何れかを変更して前記新規昇温パターンを作成する。
このような構成であれば、初期昇温パターンの昇温時間又は降温時間の傾きの最適化や、保持時間の長さ及び保持温度の最適化を図れる。
【0059】
(第5項)他の一態様に係る熱処理炉は、第1項乃至第4項のうち何れか一項の熱処理炉において、前記昇温パターン作成部が、前記処理条件情報に応じて値が定まるパラメータを含む所定の算出式を用いて前記新規昇温パターンを作成する。
このような構成であれば、新規昇温パターンを作成するための算出式を単純なものとすることで、メモリの小容量化や処理速度の向上などを図れる。
【0060】
(第6項)他の一態様に係る熱処理炉は、第5項の熱処理炉において、前記初期昇温パターンが、処理内容の異なる複数の時間帯ごとに作成されたものであり、前記算出式が、前記時間帯に応じて異なる。
このような構成であれば、例えば算出式に含まれるパラメータの数や係数などを、脱脂処理、加熱処理、及び冷却処理などの処理毎に応じて変えることができ、昇温パターンの処理毎の最適化を図れる。
【0061】
(第7項)一態様に係るプログラム記憶媒体は、内部に収容された被処理物を加熱する炉本体と、前記炉本体内を昇温するヒータと、前記ヒータを制御する制御装置とを具備する熱処理炉に用いられる熱処理用プログラムが記憶されたプログラム記憶媒体であって、
前記被処理物の材料の種類を示す材料情報と、その材料の種類に対応させて予め作成された昇温パターンである初期昇温パターンとを結び付けて記憶している昇温パターン記憶部と、
前記材料情報を外部から受け付ける材料情報受付部と、
前記被処理物の処理条件に関する処理条件情報を外部から受け付ける処理条件受付部と、
前記材料情報受付部が受け付けた前記材料情報に対応する前記初期昇温パターンを前記昇温パターン記憶部から取得するとともに、その初期昇温パターンを前記処理条件受付部が受け付けた前記処理条件情報に基づいて修正した昇温パターンである新規昇温パターンを作成する昇温パターン作成部と、
前記昇温パターン作成部が作成した前記新規昇温パターンに基づいて前記ヒータを制御するヒータ制御部と、としての機能を前記制御装置に発揮させる前記熱処理用プログラムが記憶されたプログラム記憶媒体。
【0062】
このように構成されたプログラム記憶媒体に記憶された熱処理用プログラムによれば、被処理物の材料の種類及び処理条件を入力することにより、昇温パターン作成部が、その材料の種類に対応する初期昇温パターンを処理条件情報に基づき修正して新規昇温パターンを作成するので、適切な昇温パターンを半自動的に作成することができる。これにより、使用者の持ち合わせる知識や経験などに関わらず、新規昇温パターンを適切に設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
100:熱処理炉
W :被処理物
Z :冶具
10 :炉本体
11 :圧力容器
12 :断熱体
13 :タイトボックス
P :ポンプ
20 :ヒータ
30 :制御装置
31 :昇温パターン記憶部
32 :材料情報受付部
33 :処理条件受付部
34 :昇温パターン作成部
35 :ヒータ制御部
36 :算出用データ記憶部
図1
図2
図3
図4
図5