(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182203
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/10 20060101AFI20221201BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20221201BHJP
F04C 15/06 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F04C2/10 341E
F04C15/00 K
F04C15/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089642
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 信弥
(72)【発明者】
【氏名】吉村 光浩
(72)【発明者】
【氏名】張 銘▲ふぁん▼
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彰馬
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB04
3H041CC11
3H041CC15
3H041CC17
3H041DD04
3H041DD12
3H041DD38
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC11
3H044CC14
3H044CC16
3H044DD04
3H044DD12
3H044DD28
(57)【要約】
【課題】二つの吸入ポートの一方にオイル流量の偏りを生じ難くしてキャビテーションの発生を抑えること。
【解決手段】オイルポンプは、シャフト部材と、シャフト部材と一体的に回転するインナロータと、インナロータの回転に伴って回転し、インナロータとの間に吸入通路からオイルが吸入されると共に吐出通路に向けてオイルが吐出されるロータ室を形成するアウタロータと、インナロータ及びアウタロータを軸回りに回転可能に収容する凹状の収容室を有するボディ部材と、吸入通路の少なくとも一部を有し、収容室を塞ぐように取り付けられたカバー部材と、を備える。ロータ室は、それぞれ吸入通路からロータ室へ吸入されるオイルが通過する第一及び第二吸入ポートを有する。オイルポンプは、吸入通路を主路から第一吸入ポート側と第二吸入ポート側とに分岐させ、主路から第一及び第二吸入ポートそれぞれに導かれるオイルを整流する整流部材を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の駆動により回転するシャフト部材と、
外歯を有し、前記シャフト部材と一体的に回転するインナロータと、
前記外歯に噛合する内歯を有し、前記インナロータの回転に伴って回転し、前記インナロータとの間に吸入通路からオイルが吸入されると共に吐出通路に向けてオイルが吐出されるロータ室を形成するアウタロータと、
前記インナロータ及び前記アウタロータを軸回りに回転可能に収容する凹状の収容室を有するボディ部材と、
前記吸入通路の少なくとも一部を有し、前記収容室を塞ぐように取り付けられたカバー部材と、
を備え、
前記ロータ室は、それぞれ前記吸入通路から前記ロータ室へ吸入されるオイルが通過する第一吸入ポート及び第二吸入ポートを有し、
前記吸入通路を主路から前記第一吸入ポート側と前記第二吸入ポート側とに分岐させ、前記主路から前記第一吸入ポートに導かれるオイルと前記主路から前記第二吸入ポートに導かれるオイルとを整流する整流部材を備える、オイルポンプ。
【請求項2】
前記整流部材は、前記主路から前記第一吸入ポートに導かれるオイルの第一流速と前記主路から前記第二吸入ポートに導かれるオイルの第二流速とが等速になるように、形成配置されている、請求項1に記載されたオイルポンプ。
【請求項3】
前記第一吸入ポート及び前記第二吸入ポートは、前記ロータ室の軸方向両端に軸方向で相対するように設けられ、
前記カバー部材は、前記主路の下流側に設けられて前記主路の出口に連通し前記第一吸入ポートにオイルを導く第一分岐路と、前記主路の下流側に設けられて前記主路の出口に連通し前記第二吸入ポートにオイルを導く第二分岐路と、を有し、
前記ボディ部材は、前記第二分岐路に連通して前記第二吸入ポートにオイルを導く吸入路を有する、請求項1又は2に記載されたオイルポンプ。
【請求項4】
前記整流部材は、前記第一分岐路と前記第二分岐路とを断面積が等しくなるように区画している、請求項3に記載されたオイルポンプ。
【請求項5】
前記整流部材は、前記整流部材の軸方向端面が前記整流部材の板厚方向とは異なる方向の一端から他端まで途切れなく前記アウタロータの軸方向端面に対して軸方向に対向するように、形成配置されている、請求項1乃至4の何れか一項に記載されたオイルポンプ。
【請求項6】
前記整流部材は、前記アウタロータの外形に沿うように湾曲して形成されている、請求項5に記載されたオイルポンプ。
【請求項7】
前記整流部材は、前記整流部材の軸方向端面と前記アウタロータの軸方向端面との間に2mm以下の隙間が形成されるように形成配置されている、請求項5又は6に記載されたオイルポンプ。
【請求項8】
前記整流部材は、前記カバー部材に一体に設けられている、請求項1乃至7の何れか一項に記載されたオイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるオイルポンプが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1記載のオイルポンプは、車両のエンジンにより駆動され、オイルをオイルパンから吸い上げてトランスミッションなどの駆動系に供給する。このオイルポンプは、エンジン駆動により回転するシャフト部材と、シャフト部材と一体的に回転するインナロータと、インナロータに偏心した状態で噛合するアウタロータと、を備えている。インナロータは、複数の外歯を有している。アウタロータは、インナロータの外周側に配置されており、インナロータに偏心した状態で噛合しており、インナロータの外歯の数とは異なる複数の内歯を有している。インナロータ及びアウタロータは、ボディ部材に形成された凹状の収容室に軸回りに回転可能に収容されている。ボディ部材の収容室は、ボディ部材に取り付けられたカバー部材により塞がれている。
【0003】
上記のオイルポンプにおいて、エンジンが駆動されると、シャフト部材及びインナロータが互いに一体で回転すると共に、アウタロータがインナロータに対して偏心した状態で回転する。かかる回転が生じると、インナロータとアウタロータとの間に形成された複数のロータ室の容積が順次、縮小と拡大とを繰り返して変化することで、負圧作用による貯留部からロータ室へのオイルの吸い上げと圧縮作用によるロータ室から駆動系へのオイルの圧送とが行われる。
【0004】
また、上記のオイルポンプにおいて、ロータ室は、二つの吸入ポートを有している。二つの吸入ポートは、ロータ室の軸方向両端に軸方向で相対するように設けられている。各吸入ポートにはそれぞれ、吸入通路から分岐した分岐通路が連通しており、吸入通路から当該分岐通路に進入したオイルが導かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1記載のオイルポンプにおいて、吸入通路から分岐して各吸入ポートに導かれるオイルの流れが整流されていないので、ロータ室に導かれるオイルの流量が一方の吸入ポート側を経由した状態に偏ることがある。かかる偏りが生じると、二つの吸入ポートでオイルが導入される流速に差が生まれて圧力差が生じるため、エロージョンの原因となるキャビテーション(気泡)が発生し易くなる。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、二つの吸入ポートの一方にオイル流量の偏りを生じ難くしてキャビテーションの発生を抑えることが可能なオイルポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、駆動源の駆動により回転するシャフト部材と、外歯を有し、前記シャフト部材と一体的に回転するインナロータと、前記外歯に噛合する内歯を有し、前記インナロータの回転に伴って回転し、前記インナロータとの間に吸入通路からオイルが吸入されると共に吐出通路に向けてオイルが吐出されるロータ室を形成するアウタロータと、前記インナロータ及び前記アウタロータを軸回りに回転可能に収容する凹状の収容室を有するボディ部材と、前記吸入通路の少なくとも一部を有し、前記収容室を塞ぐように取り付けられたカバー部材と、を備え、前記ロータ室は、それぞれ前記吸入通路から前記ロータ室へ吸入されるオイルが通過する第一吸入ポート及び第二吸入ポートを有し、前記吸入通路を主路から前記第一吸入ポート側と前記第二吸入ポート側とに分岐させ、前記主路から前記第一吸入ポートに導かれるオイルと前記主路から前記第二吸入ポートに導かれるオイルとを整流する整流部材を備える、オイルポンプである。
【0009】
この構成によれば、吸入通路からロータ室に導かれるオイルの流量が二つの吸入ポートのうちの何れか一方の吸入ポート側を経由した状態に偏るのを回避することができる。従って、二つの吸入ポートの一方にオイル流量の偏りを生じ難くしてキャビテーションの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るオイルポンプの正面図である。
【
図5】本実施形態のオイルポンプを
図1に示す直線V-Vで切断した断面図である。
【
図6】本実施形態のオイルポンプを正面側から見た分解斜視図である。
【
図7】本実施形態のオイルポンプを背面側から見た分解斜視図である。
【
図8】本実施形態のオイルポンプが備えるボディ部材の背面図である。
【
図9】本実施形態のオイルポンプが備えるカバー部材の正面図である。
【
図10】本実施形態のオイルポンプが備えるボディ部材の収容室にインナロータ及びアウタロータが収容された状態を示す斜視図である。
【
図11】本実施形態のオイルポンプが備えるカバー部材にプレート部材が組み付けられた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1~
図11を用いて、本発明に係るオイルポンプの具体的な実施形態について説明する。
【0012】
一実施形態に係るオイルポンプ1は、吸入口から吸入したオイルを吐出口へ圧送するトロコイド式の内接歯車ポンプである。オイルポンプ1は、例えば車両などに搭載されており、トランスミッションなどの駆動系などに向けて冷却や潤滑のためにオイルを供給する。オイルポンプ1は、
図1~
図4に示す如く、全体としてブロック状に形成されている。
【0013】
オイルポンプ1は、
図5~
図7に示す如く、シャフト部材10と、インナロータ20と、アウタロータ30と、を備えている。シャフト部材10は、車両エンジンなどの駆動源の駆動により回転する軸部材である。シャフト部材10は、軸方向に沿って棒状に延びている。インナロータ20及びアウタロータ30は、トロコイドポンプを構成する回転体である。インナロータ20及びアウタロータ30はそれぞれ、焼結金属(例えば、鉄系や銅鉄系,銅系,ステンレス系など)により形成されている。
【0014】
インナロータ20は、複数の外歯21を有する板状又は柱状の部材である。外歯21は、インナロータ20の外周面に等角度間隔で設けられている。インナロータ20における外歯21の数は、所定数(例えば4個)である。インナロータ20は、中心に貫通するシャフト孔22を有している。インナロータ20は、シャフト孔22にシャフト部材10が挿通されることにより中心でシャフト部材10に支持固定されている。シャフト部材10は、後述のボディ部材50に軸受(図示せず)を介して回転可能に支持されている。インナロータ20は、シャフト部材10と一体的に回転する。
【0015】
アウタロータ30は、複数の内歯31を有する円環状又は円筒状の部材である。内歯31は、アウタロータ30の内周面に等角度間隔で設けられている。アウタロータ30における内歯31の数は、インナロータ20における外歯21の数よりも予め定められた数(例えば一つ)多い所定数(例えば5個)である。
【0016】
アウタロータ30は、インナロータ20を収容可能な内側空間を有している。アウタロータ30は、インナロータ20の外周側に配置されている。アウタロータ30の内歯31は、インナロータ20の外歯21に噛合する。インナロータ20とアウタロータ30とは、偏心している。すなわち、インナロータ20の軸中心とアウタロータ30の軸中心とは、ズレた位置に設けられている。インナロータ20とアウタロータ30とは、互いに偏心した状態で相対回転可能である。アウタロータ30は、インナロータ20の回転に伴って回転する。
【0017】
インナロータ20とアウタロータ30とは、
図5及び
図10に示す如く、インナロータ20の外周面とアウタロータ30の内周面とに囲まれる複数のロータ室40を形成する。ロータ室40は、オイルポンプ1の吸入通路からオイルを吸入すると共に吐出通路に向けてオイルを吐出するための空間である。各ロータ室40の容積は、インナロータ20及びアウタロータ30の回転に伴って、順次、縮小と拡大とを繰り返して変化する。
【0018】
オイルポンプ1は、また、ボディ部材50と、カバー部材60と、ストレーナ70と、プレート部材80と、を備えている。
【0019】
ボディ部材50は、インナロータ20及びアウタロータ30を回転可能に収容する部材である。ボディ部材50は、鉄やアルミニウムなどの金属により形成されている。ボディ部材50は、プレス加工、圧造、又はダイカストにより成形された成形体或いは更に切削加工や研磨加工が施された加工品である。
【0020】
ボディ部材50は、
図5、
図7、及び
図8に示す如く、シャフト孔51と、収容室52と、を有している。シャフト孔51は、シャフト部材10が挿通される貫通孔である。シャフト部材10は、ボディ部材50に対して回転可能に支持されている。収容室52は、インナロータ20及びアウタロータ30を回転可能に収容する略円柱状の空間である。収容室52は、底壁52aと側壁52bとにより囲まれるように凹状に形成されている。
【0021】
収容室52における底壁52a側とは軸方向反対側は、開口している。インナロータ20及びアウタロータ30は、ボディ部材50への組付け時において収容室52の開口側からその収容室52へ挿入される。インナロータ20は、シャフト部材10の回転に伴って一体的に回転する。また、アウタロータ30は、インナロータ20の回転に伴ってボディ部材50に対して回転する。
【0022】
カバー部材60は、収容室52の開口を覆う部材である。カバー部材60は、収容室52を塞ぐように取り付けられている。カバー部材60は、熱可塑性樹脂などにより形成されている。カバー部材60を形成する樹脂は、耐クリープ性や耐荷重性,耐摩耗性などに優れていることが好ましく、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂や熱可塑性ポリイミド樹脂などである。カバー部材60は、射出成形などにより成形される。
【0023】
カバー部材60は、
図5、
図6、及び
図9に示す如く、吸入路61を有している。吸入路61は、オイルパン(図示せず)側に開口する入口61aと、ロータ室40側に開口する出口61bと、を有している。吸入路61は、オイルパン側から入口61aに導入されて出口61bを介してロータ室40に吸入されるオイルが流通する通路である。入口61aと出口61bとは、開口が互いに直交する面に形成されるように設けられている。例えば
図5に示す如く、入口61aはカバー部材60の下面に形成され、出口61bはカバー部材60の側面に形成される。
【0024】
吸入路61の入口61a側には、ストレーナ70がボルト締結などにより取り付けられている。ストレーナ70は、オイルパンから吸入口71を介して吸い上げられたオイルから不純物を除去する。ストレーナ70で不純物が除去されたオイルは、吸入路61へ導かれる。
【0025】
吸入路61は、主路61cと、第一分岐路61dと、第二分岐路61eと、を有している。主路61cは、入口61aを含み吸入路61の上流側に設けられている。第一分岐路61d及び第二分岐路61eはそれぞれ、出口61bを含み吸入路61の下流側に設けられている。主路61cは、第一分岐路61dに連通していると共に、第二分岐路61eに連通している。出口61bは、第一分岐路61d側で開口する第一出口61b-1と、第二分岐路61e側で開口する第二出口61b-2と、を有している。
【0026】
カバー部材60は、整流部材62を有している。整流部材62は、吸入路61を主路61cから第一分岐路61dと第二分岐路61eとに分岐させる部材である。整流部材62は、吸入路61の下流側を第一分岐路61dと第二分岐路61eとに区画すると共に、出口61bを第一出口61b-1と第二出口61b-2とに仕切るように区画する。整流部材62は、主路61cから第一分岐路61dに流れるオイルと主路61cから第二分岐路61eに流れるオイルとを整流する。
【0027】
整流部材62は、板状に形成されている。整流部材62は、カバー部材60に一体に設けられている。尚、整流部材62は、カバー部材60とは別体で形成されてその形成後にカバー部材60に取り付けられるもの(例えば、カバー部材60に設けられた凹溝に嵌められるもの)としてもよい。整流部材62は、出口61b近傍に配置されている。整流部材62は、カバー部材60の入口61aが形成された面に対して平行に延びていると共に、カバー部材60の出口61bが形成された面に対して直交する方向に延びている。ストレーナ70から吸入路61に進入したオイルは、主路61cを流通した後、整流部材62により分岐した第一分岐路61dと第二分岐路61eとに分かれて流通する。
【0028】
第一分岐路61dは、第一出口61b-1でロータ室40側に連通している。主路61cから第一分岐路61dに進入したオイルは、第一出口61b-1からロータ室40へ導かれる。
【0029】
ボディ部材50は、吸入路53を有している。吸入路53は、カバー部材60の吸入路61(具体的には、第二分岐路61e)側に開口する入口53aと、ロータ室40側に開口する出口53bと、を有している。吸入路53は、ボディ部材50の収容室52にインナロータ20及びアウタロータ30が収容された状態でロータ室40に連通するように形成されている。吸入路53は、入口53aでカバー部材60の吸入路61の第二分岐路61eに連通していると共に、出口53bでロータ室40に連通している。吸入路53は、第二分岐路61eの第二出口61b-2から入口53aに導入されて出口53bを介してロータ室40に吸入されるオイルが流通する通路である。
【0030】
吸入路53は、ボディ部材50の収容室52全体のうちアウタロータ30が収容された状態でアウタロータ30の外周面よりも径方向内側に占める領域以外の空間に形成される。すなわち、収容室52は、アウタロータ30が収容された状態でそのアウタロータ30の外周面よりも径方向内側に占める領域と、アウタロータ30が収容された状態で吸入路53が占める領域と、を含む。吸入路53は、入口53aに連なる、収容室52に収容されたアウタロータ30の径方向外側に形成される上流側空間と、出口53bに連なる、アウタロータ30に対して収容室52の開口側とは反対の軸方向奥側に形成される下流側空間と、を含む。
【0031】
第二分岐路61eは、第二出口61b-2で吸入路53の入口53aに連通している。更に、吸入路53は、出口53bでロータ室40に連通している。主路61cから第二分岐路61eに進入したオイルは、第二出口61b-2から吸入路53へ導かれ、その後、吸入路53を流通してロータ室40へ導かれる。
【0032】
各ロータ室40は、第一吸入ポート41と、第二吸入ポート42と、を有している。第一吸入ポート41及び第二吸入ポート42はそれぞれ、カバー部材60の吸入路61側からロータ室40に導かれるオイルが通過するポートである。第一吸入ポート41及び第二吸入ポート42は、ロータ室40を軸方向に挟む位置に設けられており、ロータ室40の軸方向両側に軸方向で相対するように設けられている。
【0033】
尚、ロータ室40の一方の軸方向端面(
図5における右側端面)が吸入路61の第一分岐路61dに露出したときに、その露出した部位が第一吸入ポート41になると共に、ロータ室40の他方の軸方向端面(
図5における左側端面)が吸入路53に露出したときに、その露出した部位が第二吸入ポート42になる。
【0034】
第一吸入ポート41は、第一分岐路61dの第一出口61b-1に連通している。第二吸入ポート42は、吸入路53の出口53bに連通している。ロータ室40には、主路61cから第一分岐路61dに導かれたオイルが第一吸入ポート41を通じて吸入されると共に、主路61cから第二分岐路61eに進入して吸入路53に導かれたオイルが第二吸入ポート42を通じて吸入される。
【0035】
整流部材62は、吸入路61の主路61cから第一分岐路61dに導かれてロータ室40の第一吸入ポート41に導かれるオイルと、主路61cから第二分岐路61e及び吸入路53に導かれてロータ室40の第二吸入ポート42に導かれるオイルと、を整流する。具体的には、整流部材62は、第一吸入ポート41に導かれるオイルの流速(第一流速と称す。)と第二吸入ポート42に導かれるオイルの流速(第二流速と称す。)とが等速になるように、形成配置されている。
【0036】
整流部材62は、第一分岐路61dと第二分岐路61eとを断面積が等しくなるように区画している。すなわち、第一分岐路61dと第二分岐路61eとは、断面積が等しくなるように形成されている。
【0037】
尚、上記のオイル流速や上記の分岐路断面積の「等しい」とは、完全一致に限らず、完全一致と同視できる程度のものを含んでよい。例えば、第一分岐路61dと第二分岐路61eとの間でオイルの流通する流量に偏りが無く、キャビテーションが発生し難い範囲であれば、「等しい」に含まれる。
【0038】
整流部材62は、上記の如く、板状に形成されている。整流部材62は、一方の軸方向端面(
図5における右側端面)が吸入路61に臨み、かつ、他方の軸方向端面(
図5における左側端面)が整流部材62の板厚方向とは異なる方向の一端から他端まで途切れなくアウタロータ30の軸方向端面に対して軸方向に対向するように、形成配置されている。整流部材62の他方の軸方向端面は、アウタロータ30が軸回りに回転しても常にアウタロータ30の軸方向端面に対して対向している。
【0039】
すなわち、整流部材62は、整流部材62の他方の軸方向端面と径方向外側に向いた面とが交差する線分の径方向位置がその線分の全域に亘ってアウタロータ30の内縁端のうち最も大きな内径(最大内径)を有する最大内縁部の径方向位置よりも径方向外側であり、かつ、整流部材62の他方の軸方向端面と径方向内側に向いた面とが交差する線分の径方向位置がその線分の全域に亘ってアウタロータ30の外縁端の径方向位置よりも径方向内側であるように形成配置されている。
【0040】
尚、整流部材62は、アウタロータ30の外縁端と上記の最大内縁部との径方向幅以下の板厚を有していてよい。この場合、整流部材62の他方の軸方向端面は、アウタロータ30の軸方向端面に対して、アウタロータ30の外縁端から上記の径方向幅分だけ径方向内側の部位までの範囲内で対向している。
【0041】
整流部材62は、アウタロータ30の外形に沿うように湾曲して形成されている。具体的には、整流部材62は、シャフト部材10の軸中心回りに弧状に延びるように形成されている。
【0042】
整流部材62は、上記他方の軸方向端面がカバー部材60における吸入路61の出口61bが形成される面と面一になるように形成されている。後述の如く、ボディ部材50とカバー部材60との間に、プレート部材80が介在する。整流部材62は、上記他方の軸方向端面とアウタロータ30の軸方向端面との間に隙間90が形成されるように形成配置されている。尚、上記の隙間90は、第一分岐路61dと第二分岐路61eとの間でオイルが出入りするのを防止するうえでは小さいほど好ましく、ゼロであることがより一層に好ましい。この隙間90は、第一分岐路61dと第二分岐路61eとの間でオイルが出入りするのを防止できる最大の大きさ(例えば2mm)以下に設定されている。
【0043】
カバー部材60は、また、吐出路63を有している。吐出路63は、ロータ室40側に開口する入口63aと、オイル供給対象側に開口する出口63b(
図3参照)と、を有している。吐出路63は、ロータ室40から吐出されて入口63aを通じて進入したオイルが出口63bに向けて流通する通路である。吐出路63を流通して出口63bから排出されたオイルは、オイル供給対象へ供給される。
【0044】
プレート部材80は、ボディ部材50とカバー部材60との間に介在する板状の部材である。プレート部材80は、ボディ部材50の収容室52の開口を閉じるように区画している。プレート部材80は、ロータ室40を所定の高圧状態まで昇圧させるために設けられている。プレート部材80は、ボディ部材50と同様に、鉄やアルミニウムなどの金属により形成されている。プレート部材80は、
図6、
図7、及び
図11に示す如く、吸入孔81と、吐出孔82と、を有している。
【0045】
吸入孔81は、カバー部材60の吸入路61からロータ室40へオイルを導く貫通孔である。吸入孔81は、ボディ部材50とカバー部材60との間に介在した状態で、吸入路61の第一分岐路61dの第一出口61b-1とロータ室40の第一吸入ポート41とに連通すると共に、吸入路61の第二分岐路61eの第二出口61b-2とボディ部材50の吸入路53の入口53aとに連通する。
【0046】
吸入孔81は、吸入路61の出口61bの形状に合致した形状に形成されている。吸入孔81の一部(具体的には、第一分岐路61dとロータ室40とに連通する部分)は、シャフト部材10の軸中心回りに弧状に延びるように形成されている。吸入孔81の他部(具体的には、第二分岐路61eとボディ部材50の吸入路53とに連通する部分)は、吸入孔81の上記一部に連続するように形成されている。吸入路61(具体的には、主路61c、第一分岐路61d、及び第二分岐路61e)と吸入孔81と吸入路53とは全体として、ロータ室40へオイルを吸入するための吸入通路(以下、適宜、吸入通路43と総称する。)を構成している。
【0047】
また、吐出孔82は、ロータ室40からカバー部材60の吐出路63へオイルを導く貫通孔である。吐出孔82は、ボディ部材50とカバー部材60との間に介在した状態で、ロータ室40のロータ室40と吐出路63とに連通する。吐出孔82は、吐出路63の入口63aの形状に合致した形状に形成されている。吐出孔82は、シャフト部材10の軸中心回りに弧状に延びるように形成されている。吐出孔82と吐出路63とは全体として、ロータ室40から吐出されたオイルをオイル供給対象へ供給するための吐出通路(以下、適宜、吐出通路44と総称する。)を構成している。
【0048】
ボディ部材50とプレート部材80とカバー部材60とは、ボディ部材50にシャフト部材10が回転可能に支持されると共にボディ部材50の収容室52にインナロータ20及びアウタロータ30が収容された状態で、ボルト締結などにより互いに締結されている。また、ボディ部材50は、車両の構造物(図示せず)にボルト締結などにより固定されている。
【0049】
次に、オイルポンプ1の動作について説明する。
オイルポンプ1においては、シャフト部材10が回転すると、そのシャフト部材10の回転に合わせてインナロータ20がボディ部材50に対して回転すると共に、そのインナロータ20の回転に合わせてアウタロータ30がボディ部材50に対して回転する。
【0050】
トロコイドポンプを構成するインナロータ20及びアウタロータ30の回転中、ロータ室40の容積が増大する過程では、そのロータ室40の内圧が負圧になる。ロータ室40は、内圧が負圧になるタイミングで吸入通路43に連通する。かかる連通がなされると、オイルが、オイルパンから吸い上げられてストレーナ70を通過し吸入路61の主路61cを流通した後に、第一分岐路61dと吸入孔81とを流通して第一吸入ポート41を介してロータ室40に吸入される経路と、第二分岐路61eと吸入孔81と吸入路53とを流通して第二吸入ポート42を介してロータ室40に吸入される経路と、に分かれてロータ室40に吸い込まれる。
【0051】
また、インナロータ20及びアウタロータ30の回転中、ロータ室40の容積が減少する過程では、そのロータ室40の内圧が上昇する。ロータ室40は、内圧が上昇するタイミングで吐出通路44に連通する。かかる連通がなされると、ロータ室40内のオイルが吐出孔82を介して吐出路63へ吐出され出口63bからオイル供給対象に向けて供給される。
【0052】
インナロータ20及びアウタロータ30の回転によって上記のポンプ作用が連続的に行われると、オイルポンプ1がオイルパンからオイルを吸い上げつつオイル供給対象に向けてオイルを圧送する。従って、オイルポンプ1によれば、オイルパンから吸い上げたオイルをオイル供給対象に向けて圧送することができる。
【0053】
また、オイルポンプ1においては、ロータ室40が二つの吸入ポート41,42を有し、吸入路61側からロータ室40に吸入されるオイルが二つの吸入ポート41,42を通過する。具体的には、主路61cを流通したオイルの一部が第一分岐路61dを含む経路を通って第一吸入ポート41に導かれると共に、そのオイルの残りが第二分岐路61e及び吸入路53を含む経路を通って第二吸入ポート42に導かれる。
【0054】
このオイルポンプ1の構成によれば、インナロータ20の外周面とアウタロータ30の内周面とに囲まれるロータ室40に二つの吸入ポート41,42からオイルを吸入することができる。特に、二つの吸入ポート41,42は、ロータ室40の軸方向両側に軸方向で相対している。このため、ロータ室40を径方向外側に張り出すように大きくすることなく、ロータ室40に吸入されるオイルの最大流量を確保することができる。従って、小型でかつ高性能なオイルポンプ1を実現することができる。
【0055】
また、オイルポンプ1においては、吸入通路43を第一吸入ポート41側と第二吸入ポート42側とに分岐させる整流部材62が設けられている。そして、整流部材62が、吸入通路43からロータ室40の第一吸入ポート41に導かれるオイルと、吸入通路43からロータ室40の第二吸入ポート42に導かれるオイルと、を整流する。この構成によれば、吸入通路43からロータ室40に導かれるオイルの流量が二つの吸入ポート41,42のうちの何れか一方の吸入ポート41,42側を経由した状態に偏ることを抑えることができる。
【0056】
特に、整流部材62は、第一吸入ポート41に導かれるオイルの第一流速と第二吸入ポート42に導かれるオイルの第二流速とが等速となるように形成配置されており、吸入路61の主路61cから分岐する二つの分岐路61d,61eを断面積が等しくなるように区画している。この構成によれば、吸入通路43の主路61cから二つの分岐路61d,61eに導かれるオイルの流量を略均一化して、二つの吸入ポート41,42を介したロータ室40へのオイル吸入を略均一なものとすることができる。
【0057】
このため、オイルポンプ1の構成によれば、二つの吸入ポート41,42でオイルが導入される流速に差が生じるのを抑制して二つの吸入ポート41,42での圧力差を抑えることができる。これにより、エロージョンの原因となるキャビテーションの発生を抑止することができる。
【0058】
また、上記の整流部材62は、整流部材62の他方の軸方向端面が整流部材62の板厚方向とは異なる方向(具体的には、周方向)の一端から他端まで途切れなくアウタロータ30の軸方向端面に対して軸方向に対向するように形成配置されている。
【0059】
このオイルポンプ1の構成によれば、整流部材62の他方の軸方向端面が周方向の一端から他端までの少なくとも一部でその板厚方向全域に亘ってアウタロータ30の外縁端よりも径方向外側に位置する事態は生じないので、第一分岐路61dがボディ部材50の吸入路53に直に連通するのを回避することができる。また、整流部材62の他方の軸方向端面が整流部材62の板厚方向とは異なる方向の一端から他端までの少なくとも一部でその板厚方向全域に亘ってロータ室40に臨む事態は生じないので、第二分岐路61eが第一吸入ポート41に直に連通するのを回避することができる。
【0060】
このため、整流部材62の一方の軸方向端側で一旦、第一分岐路61d側と第二分岐路61e側とに分岐したオイルが、整流部材62の他方の軸方向端側でロータ室40の所望の吸入ポート41,42とは異なる吸入ポート42,41に吸入されるのを防止することができる。
【0061】
尚、上記の整流部材62は、整流部材62の他方の軸方向端面がカバー部材60における吸入路61の出口61bが形成される面と面一になるように形成されており、整流部材62の他方の軸方向端面とアウタロータ30の軸方向端面との間に隙間90が形成されるように形成配置されている。この隙間90は、第一分岐路61dと第二分岐路61eとの間でオイルが出入りするのを防止できる大きさに設定されている。このため、このオイルポンプ1の構成においては、整流部材62の一方の軸方向端側で一旦、第一分岐路61d側と第二分岐路61e側とに分岐したオイルが、整流部材62の他方の軸方向端側で隙間90を介してロータ室40の所望の吸入ポート41,42とは異なる吸入ポート42,41に吸入されるのを防止することができる。
【0062】
また、上記の整流部材62は、アウタロータ30の外形に沿うように湾曲して形成されている。この構成においては、第一分岐路61dとロータ室40とが連通する領域および第二分岐路61eと吸入路53とが連通する領域それぞれをシャフト部材10の軸回り方向に拡大することができる。このため、吸入通路43の流路断面積を増大させて、吸入通路43からロータ室40へ吸入されるオイルの最大流量を増やすことができる。
【0063】
このように、オイルポンプ1は、整流部材62が、整流部材62の他方の軸方向端面が周方向の一端から他端まで途切れなくアウタロータ30の軸方向端面に対して軸方向に対向するように形成配置されつつ、アウタロータ30の外形に沿うように湾曲して形成される構造を有する。この構造によれば、第一分岐路61d側と第二分岐路61e側とに分岐したオイルが他の分岐路61e,61d側に合流して所望の吸入ポート41,42とは異なる吸入ポート42,41に吸入されるのを防止しつつ、吸入通路43からロータ室40へ吸入されるオイルの最大流量を増やすことができる。
【0064】
ところで、上記の実施形態においては、整流部材62が、整流部材62の他方の軸方向端面がカバー部材60における吸入路61の出口61bが形成される面と面一になるように形成されており、整流部材62の他方の軸方向端面とアウタロータ30の軸方向端面との間に隙間90が形成されるように形成配置されている。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、整流部材62が、整流部材62の他方の軸方向端面がカバー部材60における吸入路61の出口61bが形成される面からボディ部材50側に突出するように形成され、整流部材62の他方の軸方向端面とアウタロータ30の軸方向端面との間に形成される隙間90がゼロになるように形成配置されることとしてもよい。かかる変形形態の構成によれば、第一分岐路61d側と第二分岐路61e側とに分岐したオイルが他の分岐路61e,61d側へ合流して所望の吸入ポート41,42とは異なる吸入ポート42,41に吸入されるのを確実に防止することができる。
【0065】
また、上記の実施形態においては、カバー部材60の主路61cから第一分岐路61dと第二分岐路61eとに分岐させる整流部材62が、カバー部材60に一体に設けられている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、カバー部材60の主路61cから第一分岐路61dと第二分岐路61eとに分岐させる整流部材が、カバー部材60とは別体で設けられるものとしてもよい。例えば、整流部材が、プレート部材80に設けられるものとしてもよい。この変形形態において、整流部材は、板状のプレート部材80の板面から吸入路61に進入して第一分岐路61dと第二分岐路61eとに区画するように突出して形成されるものであってよい。
【0066】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1:オイルポンプ、10:シャフト部材、20:インナロータ、30:アウタロータ、40:ロータ室、41:第一吸入ポート、42:第二吸入ポート、43:吸入通路、44:吐出通路、50:ボディ部材、52:収容室、53:吸入路、60:カバー部材、61:吸入路、61c:主路、61d:第一分岐路、61e:第二分岐路、62:整流部材、63:吐出路、70:ストレーナ、80:プレート部材、81:吸入孔、82:吐出孔、90:隙間。