(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182221
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20221201BHJP
C25B 1/26 20060101ALI20221201BHJP
C25B 11/02 20210101ALI20221201BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20221201BHJP
C25B 15/029 20210101ALI20221201BHJP
【FI】
C25B9/00 D
C25B1/26 C
C25B11/02 301
C25B9/60
C25B15/029
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089672
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】村上 季己
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA09
4K011AA20
4K011AA29
4K011DA03
4K021AB07
4K021BA03
4K021BC09
4K021CA05
4K021CA06
4K021CA15
4K021DA09
4K021DA15
(57)【要約】
【課題】電解用電極間に電圧を印加した際に、電解質に含まれる有効塩素濃度の検出精度を向上させ、電解質の電気分解反応の制御性を向上させることが可能な電解装置を提供する。
【解決手段】電解装置1は、電解質9(塩化物水溶液)を電気分解することで次亜塩素酸水を生成する一対の電極5(陽極5a、陰極5b)と、電解質9中に設置された一対の電極5に電流を印加する電源2と、電解質9に含まれる有効塩素濃度を検出する有効塩素濃度検出部20と、電解質9中において、一対の電極5と有効塩素濃度検出部20との間に設置された仕切板10と、を備える。そして、電源2は、有効塩素濃度検出部20にて検出した有効塩素濃度に基づいて、一対の電極5間に流す電流が制御される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物水溶液を電気分解することで次亜塩素酸水を生成する一対の電極と、
前記塩化物水溶液中に設置された前記一対の電極に電流を印加する電源と、
前記塩化物水溶液に含まれる有効塩素濃度を検出する濃度検出部と、
前記塩化物水溶液中において、前記一対の電極と前記濃度検出部との間に設置された仕切板と、
を備え、
前記電源は、前記濃度検出部にて検出した前記有効塩素濃度に基づいて、前記一対の電極間に流す電流が制御されることを特徴とする電解装置。
【請求項2】
前記電源は、前記濃度検出部にて検出した前記有効塩素濃度が基準値以下となった場合に、前記一対の電極間に前記電流を流すのを停止するように制御されることを特徴とする請求項1に記載の電解装置。
【請求項3】
前記仕切板は、前記電源が前記一対の電極に電流を印加した際に、前記一対の電極において発生する気泡が前記濃度検出部に到達しないように、前記一対の電極と前記濃度検出部との間に位置する前記塩化物水溶液を分断するように設置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電解装置。
【請求項4】
前記仕切板は、前記塩化物水溶液の液面以上の位置から、前記一対の電極の前記液面とは反対側の端部よりも下方の位置にまで延在していることを特徴とする請求項3に記載の電解装置。
【請求項5】
前記一対の電極のそれぞれは、板状の導電性基材と、前記導電性基材の表面を被覆する触媒層とを有して構成されることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化物水溶液の電気分解によって次亜塩素酸水を生成する電解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電解装置の電解用電極間に電圧を印加することにより、水道水のような電解質を電気分解して電解水を生成し、この電解水を用いて空気中に浮遊する細菌、ウイルス、臭気物質等の除去を行う空気浄化装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の空気浄化装置に設けられた電解装置では、電解質(塩化物水溶液)の濃度条件に基づいて予め設定される電解時間によって電気分解反応を制御して、所望濃度の電解水(次亜塩素酸水)を生成している。しかしながら、従来の電解装置では、装置内に供給される電解質の濃度バラツキまたは電解用電極の経時劣化などの影響を受けて、電気分解反応が当初の設定通りに行われず、電解水が目標濃度で生成されなくなるということが懸念される。この対策として、電解質に含まれる有効塩素濃度に基づいて電気分解反応を制御する方法があるが、有効塩素濃度を検出するセンサ部に電解用電極から発生する気泡が付着してしまい、正確な有効塩素濃度が測定できなくなるという課題がある。
【0005】
そこで本発明は、電解用電極間に電圧を印加した際に、電解質に含まれる有効塩素濃度の検出精度を向上させ、電解質の電気分解反応の制御性を向上させることが可能な電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そして、この目的を達成するために、本発明に係る電解装置は、塩化物水溶液を電気分解することで次亜塩素酸水を生成する一対の電極と、塩化物水溶液中に設置された一対の電極に電流を印加する電源と、塩化物水溶液に含まれる有効塩素濃度を検出する濃度検出部と、塩化物水溶液中において、一対の電極と濃度検出部との間に設置された仕切板と、を備える。そして、電源は、濃度検出部にて検出した有効塩素濃度に基づいて、一対の電極間に流す電流が制御されるものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電解用電極間に電圧を印加した際に、電解質に含まれる有効塩素濃度の検出精度を向上させ、電解質の電気分解反応の制御性を向上させることが可能な電解装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る電解装置を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、電解装置の電気分解反応における有効塩素濃度、塩化物イオン濃度、及び有効塩素濃度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る電解装置は、塩化物水溶液を電気分解することで次亜塩素酸水を生成する一対の電極と、塩化物水溶液中に設置された一対の電極に電流を印加する電源と、塩化物水溶液に含まれる有効塩素濃度を検出する濃度検出部と、塩化物水溶液中において、一対の電極と濃度検出部との間に設置された仕切板と、を備える。そして、電源は、濃度検出部にて検出した有効塩素濃度に基づいて、一対の電極間に流す電流が制御される。
【0010】
こうした構成によれば、仕切板によって、一対の電極(電解用電極)において電気分解時に発生する水素、酸素あるいは塩素などの気泡が濃度検出部に付着することが抑制され、塩化物水溶液に含まれる有効塩素濃度の検出精度が向上し、塩化物水溶液の電気分解反応による次亜塩素酸水(電解水)を目標濃度で生成することができる。つまり、電解装置は、一対の電極間に電圧を印加した際に、電解質に含まれる有効塩素濃度の検出精度を向上させ、電解質の電気分解反応の制御性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る電解装置では、電源は、濃度検出部にて検出した有効塩素濃度が基準値以下となった場合に、一対の電極間に電流を流すのを停止するように制御されることが好ましい。これにより、電解装置は、一対の電極間に電圧を印加した際に、電解質の電気分解反応の制御性をより確実に向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る電解装置では、仕切板は、電源が一対の電極に電流を印加した際に、一対の電極において発生する気泡が濃度検出部に到達しないように、一対の電極と濃度検出部との間に位置する塩化物水溶液を分断するように設置されている。このようにすることで、一対の電極において電気分解時に塩化物水溶液中に発生する気泡が濃度検出部に到達しないので、濃度検出部において塩化物水溶液に含まれる有効塩素濃度の検出精度を向上させることができる。これにより、電解装置は、一対の電極間に電圧を印加した際に、電解質の電気分解反応の制御性をより確実に向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係る電解装置では、仕切板は、塩化物水溶液の液面以上の位置から、一対の電極の液面とは反対側の端部よりも下方の位置にまで延在していることが好ましい。これにより、電気分解時に塩化物水溶液中に発生する気泡が濃度検出部により確実に到達しなくなるので、濃度検出部において塩化物水溶液に含まれる有効塩素濃度の検出精度を向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係る電解装置では、一対の電極のそれぞれは、板状の導電性基材と、導電性基材の表面を被覆する触媒層とを有して構成されることが好ましい。これにより、塩化物水溶液(電解質)と触媒層との間で電気分解反応が促進される一方、一対の電極の表面を構成する触媒層の経時劣化の影響を受けることなく、塩化物水溶液の電気分解反応による次亜塩素酸水を目標濃度で生成することができる。つまり、電解装置は、一対の電極間に電圧を印加した際に、電解質の電気分解反応の制御性をさらに向上させることができる。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0016】
(実施の形態1)
まず、
図1を参照して、本発明の実施の形態1に係る電解装置1について説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係る電解装置1を示す模式的断面図である。
【0017】
電解装置1は、電解質9である塩化物水溶液(例えば、塩水)を電気分解することで次亜塩素酸水を生成する装置である。電解装置1は、
図1に示すように、電源2と、反転制御回路3と、電解槽4と、一対の電極5(陽極5a、陰極5b)と、仕切板10と、制御部11と、有効塩素濃度検出部20と、を備えて構成される。なお、有効塩素濃度検出部20は、請求項の「濃度検出部」に相当する。
【0018】
電源2は、反転制御回路3を介して、一対の電極5を構成する陽極5a及び陰極5bと接続され、陽極5aと陰極5bとの間に一定の電流(定電流)を流して電圧を印加する機器である。電源2は、後述する制御部11からの制御信号を受けてオン/オフを切り替える。
【0019】
反転制御回路3は、タイマーを用いた継電器などのような電気的機器によって構成される。そして、反転制御回路3は、電解質9の電気分解を行っている際に、一定の時間間隔で、陽極5aと陰極5bとの間で極性を反転させる。これにより、一対の電極5(陽極5a、陰極5b)の対向する電極表面8にスケールあるいは気泡が付着することが抑制される。
【0020】
電解槽4は、槽内部に電解質9が充填されており、充填された電解質9の中に一対の電極5(陽極5a、陰極5b)が所定の間隔で対向して収容されている。なお、一対の電極5は、電極間を無隔膜の状態で収容されている。また、電解槽4には、後述する有効塩素濃度検出部20が収容されるとともに、一対の電極5と有効塩素濃度検出部20との間には仕切板10が設置されている。
【0021】
ここで、電解質9は、次亜塩素酸水を生成可能な電解質であり、少量でも塩化物イオンを含んで入れば特に制限はなく、例えば、溶質として塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等を溶解した水溶液が挙げられる。また、塩酸でも問題ない。本実施の形態では、電解質9として、水道水に塩化ナトリウムを加えた塩化物水溶液(塩水)を使用している。
【0022】
一対の電極5は、陽極5aと、陽極5aに対向する陰極5bとによって構成される。そして、陽極5aと陰極5bのそれぞれは、チタン基体6と、触媒被膜7とを備えて構成される。なお、
図1では、説明上、陽極5aと陰極5bとして示しているが、上述した通り、一定の時間間隔で、陽極5aと陰極5bとの間で極性を反転させている。
【0023】
チタン基体6は、平板形状であり、導電性基体である。なお、導電性基体には、チタン、タンタル、ニッケル、ステンレス等が使用できるが、次亜塩素酸に対する耐食性が大きいチタンが好ましい。また、チタン基体6の形状は、板、円筒、エキスパンデッドメタル等の任意の形状であってもよい。
【0024】
触媒被膜7は、陽極5aと陰極5bとが対向する面において、チタン基体6の表面を被覆するように所定の厚みで形成されている。触媒被膜7は、触媒とバルブメタルとを含む。触媒被膜7に含まれる触媒には、例えば、イリジウム、白金族金属等が使用され、電解質9の電気分解反応を活性化させる。特に白金に酸化イリジウムを高分散させた触媒は、次亜塩素酸の生成に高活性である。また、触媒被膜7に含まれるバブルメタルは、バインダとして触媒被膜7の強度を高めるために使用される。バルブメタルには、例えば、タンタル、アルミニウム、ニオブ、チタン等があるが、触媒に用いられる白金(白金族金属)との接着性及び次亜塩素酸に対する耐食性の観点でタンタルが好ましい。ここで、チタン基体6は、請求項の「導電性基材」に相当し、触媒被膜7は、請求項の「触媒層」に相当する。
【0025】
有効塩素濃度検出部20は、電解質9中の有効塩素濃度を検出するための機器である。そして、有効塩素濃度検出部20は、電解質9の電気分解の際に、電解質9中の有効塩素濃度を検出し、検出した有効塩素濃度に関する情報を後述する制御部11に出力する。
【0026】
具体的には、有効塩素濃度検出部20は、塩化物イオン電極23と、比較電極24と、塩化物イオン電極23からの電圧値に基づいて塩化物イオン濃度に変換する塩化物イオン濃度変換部22と、塩化物イオン濃度の変化量に基づいて有効塩素濃度に変換する有効塩素濃度変換部21とを備える。
【0027】
塩化物イオン電極23は、電解質9中に含まれる塩素イオンに応答する感応膜23aを有している。そして、塩化物イオン電極23では、この感応膜23aが電解質9中の塩素イオンと接すると、その塩素イオン活量に応じた膜電位が生じる。ここで、塩化物イオン電極23は、固体膜電極あるいは液体膜形電極などあるが、内部液の補填が不要な固体膜電極が構成されることが好ましい。これにより、頻繁な内部液交換が不要となり、作業者の操作性を向上させることができる。また、感応膜23aは加圧成形膜、単結晶膜あるいはセラミック膜などあるが、塩化物イオンが検出できればいずれの種類でも問題ない。
【0028】
比較電極24は、電解質9中に浸漬した塩化物イオン電極23の対極として接続される電極である。比較電極24は、広く一般的に使用されている銀/塩化銀電極を使うことが望ましいが、電極反応が可逆であり、電極電位つまり膜電位がネルンストの式にしたがうこと、膜電位が測定中に変動をしないこと、電流が流れたとしても膜電位が大きく変動せず、電流が切れれば直ぐに元の電極電位に戻ることなどの条件が達成されれば、その他種類の電極でも問題ない。
【0029】
塩化物イオン電極23は、電解質9中に浸漬した比較電極24を対極として接続され、両電極間(塩化物イオン電極23と比較電極24との間)の電位差、つまり膜電位を検出し、その情報を塩化物イオン濃度変換部22に出力する。
【0030】
塩化物イオン濃度変換部22は、塩化物イオン電極23における膜電位(つまり塩化物イオン電極23と比較電極24との間の電位差)に関する情報を受け付け、受け付けた膜電位に対応する塩化物イオン濃度に変換し、変換した塩化物イオン濃度に関する情報を有効塩素濃度変換部21に出力する。
【0031】
有効塩素濃度変換部21は、塩化物イオン濃度変換部22から出力された塩化物イオン濃度に基づき、有効塩素濃度に換算し、電解質9における有効塩素濃度に関する情報として制御部11に出力する。なお、有効塩素濃度への換算方法については後述する。
【0032】
制御部11は、電解装置1の動作を制御する。より詳細には、制御部11は、電源2、反転制御回路3、及び有効塩素濃度検出部20との間で、無線または有線によって通信可能に接続されている。そして、制御部11は、有効塩素濃度検出部20からの有効塩素濃度に関する情報に基づいて電源2のオン/オフ動作を制御する。制御部11は、例えば、有効塩素濃度検出部20からの有効塩素濃度が基準値以下となった場合に、電源2をオフにして一対の電極5間に電流を流すのを停止するように制御する。この時、基準値は、目標有効塩素濃度の95%に達した値としている。また、制御部11は、電源2のオン/オフ動作に連動して、反転制御回路3の動作制御を行う。
【0033】
仕切板10は、電源2が一対の電極5(陽極5a、陰極5b)に電流を印加した際に、電解質9の電気分解反応によって一対の電極5から発生する水素、酸素あるいは塩素などの気泡12が有効塩素濃度検出部20に到達して付着し、有効塩素濃度検出部20において電解質9に含まれる有効塩素濃度が正確に検出できないことがないように電解槽4内に設置される部材である。ここで、仕切板10は、ポリプロピレンあるいは塩化ビニルなどの耐腐食性の高い材料により構成される。
【0034】
より詳細には、仕切板10は、一対の電極5と有効塩素濃度検出部20との間の電解質9中に設置される。仕切板10は、所定の厚みを有する平板で構成され、鉛直方向上下の長さにおいて、電解質9の満水時の液面9aと同程度の位置から、一対の電極5の液面9aとは反対側の端部5cよりも下方の位置にまで延在するように形成されている。なお、仕切板10の上方の端部は、電解質9の満水時の液面9aよりも上方の位置(つまり液面9a以上の位置)であってもよい。また、特に図示していないが、仕切板10の幅(ここでの幅は、
図1における奥行方向の長さ)についても、少なくとも一対の電極5の幅(及び有効塩素濃度検出部20の幅)よりも長く形成されている。そして、仕切板10は、一対の電極5と有効塩素濃度検出部20との間に位置する電解質9を物理的に分断している。つまり、仕切板10は、一対の電極5から発生する気泡12を含む電解質9が有効塩素濃度検出部20側に流れ込まないようにしている。
【0035】
以上のように、電解装置1は構成される。
【0036】
次に、
図2を参照して、電解装置1において、電解質9として塩水を用いた電気分解反応により生成する次亜塩素酸について説明する。
図2は、電解装置1の電気分解反応における有効塩素濃度、塩化物イオン濃度、及び有効塩素濃度の経時変化を示す図である。より詳細には、
図2の(a)は、塩水の電気分解反応により生成する次亜塩素酸の有効塩素濃度及び塩化物イオン濃度の経時変化を示す図である。
図2の(a)では、横軸が電解時間、縦軸が濃度となっている。また、有効塩素濃度は、既存測定法(電気化学方式であるクロラインメータ)で測定した際の値である。また、
図2の(b)は、既存測定法(クロラインメータ)によって測定した有効塩素濃度(●)と、塩化物イオン電極を用いて塩化物イオン濃度を検出し、その塩化物イオン濃度から換算して推定した有効塩素濃度(仕切板あり▲/仕切板なし◆)の経時変化を示す図である。
図2の(b)では、横軸が電解時間、縦軸が有効塩素濃度となっている。
【0037】
ここで、
図2には、次亜塩素酸の目標有効塩素濃度を第一濃度(例えば、120ppm)とした電気分解反応の例を示している。なお、第一濃度は、塩水(塩水に含まれる塩化物イオン)の濃度を3.45mmol/Lとして電気分解反応を行うことにより得られる有効塩素濃度である。
【0038】
電解装置1では、上述の通り、電源2から一対の電極5(陽極5a、陰極5b)に直流電圧を印加して、所定濃度の塩水を電解処理することによって次亜塩素酸(HClO)が生成される。この際の電解水生成メカニズムとしては、塩水(水道水に塩化ナトリウムを溶解した塩化物水溶液)を使用しているので、一対の電極5での電気化学反応としては、以下の式(1)~式(6)となる。
【0039】
(陽極)
2H2O→O2↑+2H++2e-・・・式(1)
2Cl-→Cl2+2e-・・・式(2)
Cl2→H2O⇔HClO+HCl・・・式(3)
(陰極)
2H2O+2e-→H2↑+2OH-・・・式(4)
Na++OH-→NaOH・・・式(5)
Cl2+2NaOH→2NaClO+H2・・・式(6)
上記した各式の通り、陽極5aでは、水分子および塩化物イオンから電子が奪われ、それぞれ酸素ガスおよび塩素ガスとなる。このうち、塩素ガスは速やかに水と反応して次亜塩素酸が生成される。
【0040】
一方、陰極5bでは、水分子が電子を受け、水素ガスが生成される。
【0041】
電解装置1では、こうした電気化学反応が進行することによって塩水(塩水に含まれる塩化物イオン)が消費され、次亜塩素酸および次亜塩素酸ナトリウムが逐次生成される。つまり、電解装置1では、
図2の(a)に示すように、塩水を用いた電気分解反応が進行していくにつれて、時間の経過とともに塩水中の塩化物イオンが消費され、次亜塩素酸及び次亜塩素酸ナトリウムが生成され、有効塩素濃度が増加していき、最終的には、塩水(塩水に含まれる塩化物イオン)がすべて消費されることで目標有効塩素濃度(第一濃度)となって安定化する。
【0042】
ここで、消費された塩化物イオンがすべて次亜塩素酸もしくは次亜塩素酸ナトリウムになったとすれば、塩化物イオンの消費量が有効塩素濃度として換算することができ、以下の式(7)のように表すことができる。
【0043】
ACC = C0 - C1・・・式(7)
ここで、ACCは有効塩素濃度[mg/L]、C0は電気分解前の初期塩化物イオン濃度、C1は任意の時間での電気分解中の塩化物イオン濃度を表している。
【0044】
そして、
図2の(b)に示すように、電解装置1に仕切板10がある場合(仕切板あり▲のプロット)には、塩化物イオン電極23で塩化物イオン濃度を測定し、式(7)を用いて有効塩素濃度に換算すると、時間の経過とともに有効塩素濃度が増加していき、目標有効塩素濃度(第一濃度)となって安定化している。この傾向は、既存測定法(電気化学方式であるクロラインメータ)で測定した際の有効塩素濃度(●のプロット)の経時変化とほぼ一致している。
【0045】
これに対して、電解装置1に仕切板10がない場合(仕切板なし◆のプロット)には、既存測定法との間で有効塩素濃度の検出誤差が約20%生じており、電解装置1に仕切板10がない場合には、正確に有効塩素濃度が検出できていないことが分かる。このことは、電解槽4内に仕切板10を設けることによって、有効塩素濃度検出部20において電解質9に含まれる有効塩素濃度の検出精度が向上していること示す。
【0046】
以上のように、電解装置1では、電解質9(塩化物イオン)に含まれる塩化物イオン濃度(つまりは換算される有効塩素濃度)を高精度で検出することができるので、電解装置1内に供給される電解質9に濃度バラツキが生じたり、一対の電極5(陽極5a、陰極5b)の表面を被覆する触媒被膜7が劣化したりしても、その影響を反映した状態で電気分解反応における終点(塩水の電気分解反応が完了して目標有効塩素濃度となる次亜塩素酸が生成された状態)を特定することができる。つまり、電解装置1では、一対の電極5間に電圧を印加した際に、電解質9の電気分解反応の制御性を向上させることができる。
【0047】
以上、実施の形態1に係る電解装置1によれば、以下の効果を享受することができる。
【0048】
(1)電解装置1は、電解質9(塩化物水溶液)を電気分解することで次亜塩素酸水を生成する一対の電極5(陽極5a、陰極5b)と、電解質9中に設置された一対の電極5に電流を印加する電源2と、電解質9に含まれる有効塩素濃度を検出する有効塩素濃度検出部20と、電解質9中において、一対の電極5と有効塩素濃度検出部20との間に設置された仕切板10と、を備えるように構成した。そして、電源2は、有効塩素濃度検出部20にて検出した有効塩素濃度に基づいて、一対の電極5間に流す電流が制御される。
【0049】
こうした構成によれば、仕切板10によって、一対の電極5(電解用電極)において電気分解時に発生する水素、酸素あるいは塩素などの気泡12が有効塩素濃度検出部20に付着することが抑制され、電解質9に含まれる有効塩素濃度の検出精度が向上し、電解質9の電気分解反応による次亜塩素酸水(電解水)を目標濃度で生成することができる。つまり、電解装置1は、一対の電極5間に電圧を印加した際に、電解質9に含まれる有効塩素濃度の検出精度を向上させ、電解質9の電気分解反応の制御性を向上させることができる。
【0050】
(2)電解装置1では、電源2は、有効塩素濃度検出部20にて検出した有効塩素濃度が基準値(例えば、目標有効塩素濃度の95%に達した値)以下となった場合に、一対の電極5間に電流を流すのを停止するように制御されるようにした。これにより、電解装置1は、一対の電極5間に電圧を印加した際に、電解質9の電気分解反応の制御性をより確実に向上させることができる。
【0051】
(3)電解装置1では、仕切板10は、電源2が一対の電極5に電流を印加した際に、一対の電極5において発生する気泡12が有効塩素濃度検出部20に到達しないように、一対の電極5と有効塩素濃度検出部20との間に位置する電解質9を分断するように設置されるようにした。このようにすることで、一対の電極5において電気分解時に電解質9中に発生する気泡12が有効塩素濃度検出部20に到達しないので、有効塩素濃度検出部20において電解質9に含まれる有効塩素濃度の検出精度を向上させることができる。これにより、電解装置1は、一対の電極5間に電圧を印加した際に、電解質9の電気分解反応の制御性をより確実に向上させることができる。
【0052】
(4)電解装置1では、仕切板10は、電解質9の液面9aと同程度の位置あるいは液面9aよりも上方の位置(つまり液面9a以上の位置)から、一対の電極5の液面9aとは反対側の端部5cよりも下方の位置にまで延在するようにした。これにより、電気分解時に電解質9中に発生する気泡12が有効塩素濃度検出部20により確実に到達しなくなるので、有効塩素濃度検出部20において電解質9に含まれる有効塩素濃度の検出精度を向上させることができる。
【0053】
(5)電解装置1では、仕切板10を、一対の電極5と有効塩素濃度検出部20との間に位置する電解質9を分断するように設置した。これにより、一対の電極5と有効塩素濃度検出部20との間の間隔を狭めても、一対の電極5において発生する気泡12が有効塩素濃度検出部20に到達しないようにできるので、電解装置1を小型化することができる。
【0054】
(6)電解装置1では、仕切板10を、一対の電極5と有効塩素濃度検出部20との間に位置する電解質9を分断するように設置した。これにより、電源2をオン状態として一対の電極5間に電圧を印加している際中であっても、有効塩素濃度検出部20において電解質9に含まれる有効塩素濃度を高精度に検出することができる。
【0055】
(7)電解装置1では、一対の電極5のそれぞれは、板状のチタン基体6と、チタン基体6の表面を被覆する触媒被膜7とを有して構成した。これにより、塩化物水溶液(電解質9)と触媒被膜7との間で電気分解反応が促進される一方、一対の電極5の表面を構成する触媒被膜7の経時劣化の影響を受けることなく、塩化物水溶液の電気分解反応による次亜塩素酸水を目標濃度で生成することができる。つまり、電解装置1は、一対の電極5間に電圧を印加した際に、電解質9の電気分解反応の制御性をさらに向上させることができる。
【0056】
以上、本発明に関して実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素あるいは各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0057】
本実施の形態に係る電解装置では、仕切板10を、所定の厚みを有する平板で構成したが、これに限られない。例えば、仕切板10を、一対の電極5において発生する気泡は遮断するものの、電解質9は流通するような細孔を有するメッシュ状の構成としてもよい。これにより、一対の電極5の領域における電解質9と有効塩素濃度検出部20の領域における電解質9とが混ざりやすくなるので、有効塩素濃度検出部20において一対の電極5の領域における電解質9に含まれる有効塩素濃度の検出精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る電解装置は、無隔膜電解において、電解用電極間に電圧を印加した際に、電解質の電気分解反応の制御性を向上させることができるので、次亜塩素酸水を生成する電解装置として有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 電解装置
2 電源
3 反転制御回路
4 電解槽
5 電極
5a 陽極
5b 陰極
5c 端部
6 チタン基体
7 触媒被膜
8 電極表面
9 電解質
9a 液面
10 仕切板
11 制御部
12 気泡
20 有効塩素濃度検出部
21 有効塩素濃度変換部
22 塩化物イオン濃度変換部
23 塩化物イオン電極
23a 感応膜
24 比較電極