(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182227
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】サイリスタ制御溶接電源
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20221201BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B23K9/095 501Z
B23K9/073 525
B23K9/073 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089679
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】西野 晋太朗
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082BB02
4E082CA01
4E082DA03
4E082EA01
4E082EC03
4E082EC13
4E082ED01
4E082EE03
4E082EF07
4E082FA04
(57)【要約】
【課題】外部特性制御回路を備えたサイリスタ制御溶接電源において、3相交流商用電源の周波数が変化しても溶接状態を安定に維持すること。
【解決手段】 3相交流商用電源Ivを入力としてサイリスタ位相制御によって溶接電圧v及び溶接電流iを出力して消耗電極式アーク溶接を行うサイリスタ制御溶接電源において、外部特性の傾きRrを制御する外部特性制御部IRCと、交流商用電源IVの周波数Fdを検出する周波数検出部FDと、を備え、外部特性制御部IRCは周波数の検出値Fdに基づいて外部特性の傾きRrを変化させる。さらに、溶接電流iの変化率を可変するインダクタンス値Lrを形成する電子リアクトル制御部IRCを備え、電子リアクトル制御部IRCは周波数の検出値Fdに基づいてインダクタンス値Lrを変化させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流商用電源を入力としてサイリスタ位相制御によって溶接電圧及び溶接電流を出力して消耗電極式アーク溶接を行うサイリスタ制御溶接電源において、
前記サイリスタ制御溶接電源の外部特性の傾きを制御する外部特性制御部と、
前記交流商用電源の周波数を検出する周波数検出部と、を備え、
前記外部特性制御部は、前記周波数の検出値に基づいて前記外部特性の傾きを変化させる、
ことを特徴とするサイリスタ制御溶接電源。
【請求項2】
前記溶接電流の変化率を可変するインダクタンス値を形成する電子リアクトル制御部を備え、
前記電子リアクトル制御部は、前記周波数の検出値に基づいて前記インダクタンス値を変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のサイリスタ制御溶接電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部特性の傾きを制御する外部特性制御部を備えて消耗電極式アーク溶接を行うサイリスタ制御溶接電源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3相交流商用電源を入力としてサイリスタ位相制御によって溶接電圧及び溶接電流を出力して消耗電極アーク溶接を行うサイリスタ制御溶接電源が広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、消耗電極式アーク溶接において、電子リアクトル制御回路及び外部特性制御回路を備えた溶接電源が広く使用されている。電子リアクトル制御回路は、溶接電流の変化率を可変するインダクタンス値を形成する。外部特性制御回路は、溶接電源の外部特性の傾きを制御する。溶接電流の変化率及び外部特性の傾きを適正値に制御することによって、溶接状態を安定化することができる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-71138号公報
【特許文献2】特開2009-178763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、平均溶接電流、溶接ワイヤの材質、溶接速度等の溶接条件に応じて外部特性制御回路によって外部特性の傾きが適正化されるので安定した溶接状態を得ることができる。しかし、この外部特性制御回路をサイリスタ制御溶接電源に採用した場合、交流商用電源の周波数によって出力制御の応答速度及び溶接電流のリップルが変化する。この結果、交流商用電源の周波数が変化すると、外部特性の傾きが適正値でない状態となり、溶接状態が不安定になるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明では、外部特性制御回路を備えたサイリスタ制御溶接電源において、3相交流商用電源の周波数が変化しても、溶接状態を安定に維持することができるサイリスタ制御溶接電源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
3相交流商用電源を入力としてサイリスタ位相制御によって溶接電圧及び溶接電流を出力して消耗電極式アーク溶接を行うサイリスタ制御溶接電源において、
前記サイリスタ制御溶接電源の外部特性の傾きを制御する外部特性制御部と、
前記交流商用電源の周波数を検出する周波数検出部と、を備え、
前記外部特性制御部は、前記周波数の検出値に基づいて前記外部特性の傾きを変化させる、
ことを特徴とするサイリスタ制御溶接電源である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記溶接電流の変化率を可変するインダクタンス値を形成する電子リアクトル制御部を備え、
前記電子リアクトル制御部は、前記周波数の検出値に基づいて前記インダクタンス値を変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のサイリスタ制御溶接電源である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外部特性制御回路を備えたサイリスタ制御溶接電源において、3相交流商用電源の周波数が変化しても溶接状態を安定に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】本発明の実施の形態に係るサイリスタ制御溶接電源のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、溶接電源の外部特性の一例を示す図である。同図の横軸は溶接電流i[A]を示し、縦軸は溶接電圧v[V]を示す。同図は、一般的な消耗電極式アーク溶接に使用される定電圧特性の場合である。同図において、i=0のときにv=Eであり、外部特性の傾きをRm[V/A]とすると、外部特性は下式となる。
v=E-Rm・i
【0013】
外部特性の傾きRmは、正の値であり、この値が大きいほど傾きは大きくなる。外部特性の傾きRmの範囲は、1~10(V/100A)程度である。
【0014】
図2(A)は、溶接電源の等価回路図である。Eは定電圧源を示し、Lmは適正インダクタンス値を示し、Rmは適正抵抗値を示す。抵抗値は溶接電源内部の配線抵抗値及び溶接用ケーブルの抵抗値の合算値となり、この値が外部特性の傾きを決めることになる。
【0015】
同図の等価回路は下式で表すことができる。
E=Rm・i+Lm・di/dt+v ……(1)式
この式において、電流変化di/dt=0のときの溶接電圧vと溶接電流iとの関係が外部特性となる。di/dt=0を上式に代入すると、下式となる。
v=E-Rm・i
上式は
図1で上述した外部特性を表すことになる。
上記(1)式を整理すると、下式となる。
di/dt=(E-v-Rm・i)/Lm
両辺を積分すると、下式となる。
i=∫((E-v-Rm・i)/Lm)・dt
ここで、左辺の溶接電流iを溶接電流制御設定値Ircに、出力電圧Eを出力電圧設定値Erに、適正外部特性傾きRmを外部特性傾き設定値Rrに、適正インダクタンス値Lmをインダクタンス設定値Lrにそれぞれ置換すると、下式となる。
Irc=∫((Er-v-Rr・i)/Lr)・dt ……(2)式
この式に対応する等価回路を
図2(B)に示す。同図において、溶接電圧v及び溶接電流iを検出し、定電流源CCの溶接電流iに相当する溶接電流制御設定値Ircが、上記(2)式の演算値となるように制御する。
【0016】
上述した制御を行うことによって、所望のインダクタンス値Lr及び所望の外部特性の傾きRrを電子的に形成することができる。
【0017】
図3は、本発明の実施の形態に係るサイリスタ制御溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0018】
電源主回路PMは、3相200V等の交流商用電源IVを入力として、後述する点弧信号Pcによって複数のサイリスタを位相制御し、出力電圧Eを出力して溶接電圧v及び溶接電流iを溶接ワイヤ1と母材2との間に供給する。電源主回路PMは、図示は省略するが、例えば、2組の三相半波整流回路及び相間リアクトルから形成されており、2組の三相半波整流回路は、6個のサイリスタを備えている(特許文献1参照)。
【0019】
溶接電源の出力端子と溶接トーチ4との間は溶接ケーブル6aで接続されており、もう一方の出力端子と母材2との間は溶接ケーブル6bで接続されている。
【0020】
溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給モータ(図示は省略)に結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。ワイヤ送給モータの制御回路については省略している。溶接トーチ4の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧vが印加され、溶接電流iが通電する。
【0021】
周波数検出回路FDは、上記の交流商用電源IVの周波数を検出して、周波数検出信号Fdを出力する。周波数検出信号Fdの値は、基本的には50Hz又は60Hzであるが、これらの値からの変動値となる場合もある。
【0022】
電流検出回路IDは、溶接電流iを検出して、電流検出信号idを出力する。電圧検出回路VDは、溶接電圧vを検出して、電圧検出信号vdを出力する。
【0023】
外部特性傾き設定回路RRは、上記の周波数検出信号Fdを入力として、予め定めた傾き算出関数に基づいて外部特性傾き設定信号Rrを出力する。上記の傾き算出関数は、実験によって予め設定されており、周波数検出信号Fdの値が小さいほど外部特性傾き設定信号Rrの値が大きくなる関数である。例えば、Fd=50HzのときはRr=4(V/100A)であり、Fd=60HzのときはRr=2(V/100A)である。
【0024】
インダクタンス設定回路LRは、上記の周波数検出信号Fdを入力として、予め定めたインダクタンス算出関数に基づいてインダクタンス設定信号Lrを出力する。上記のインダクタンス算出関数は、実験によって予め設定されており、周波数検出信号Fdの値が小さいほどインダクタンス設定信号Lrの値が大きくなる関数である。例えば、Fd=50HzのときはLr=200(μH)であり、Fd=60HzのときはLr=150(μH)である。
【0025】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。
【0026】
制御回路IRCは、上記のインダクタンス設定信号Lr、上記の外部特性傾き設定信号Rr、上記の出力電圧設定信号Er、上記の電流検出信号id及び上記の電圧検出信号vdを入力として、上述した(2)式に基づいて、Irc=∫((Er-vd-Rr・id)/Lr)・dtの演算を行い、電流制御設定信号Ircを出力する。この制御回路IRCが、外部特性制御回路及び電子リアクトル制御回路を兼ねている。
【0027】
電流誤差増幅回路EIは、上記の溶接電流制御設定信号Ircと電流検出信号idとの誤差を増幅して、誤差増幅信号Eiを出力する。
【0028】
位相制御回路PCは、上記の誤差増幅信号Eiを入力として、上記の電源主回路PM内の複数のサイリスタを位相制御するための複数の点弧信号Pcを出力する。
【0029】
上述した実施の形態によれば、サイリスタ制御溶接電源の外部特性の傾きを制御する外部特性制御部と、交流商用電源の周波数を検出する周波数検出部と、を備え、外部特性制御部は、周波数の検出値に基づいて外部特性の傾きを変化させる。このために、本実施の形態では、3相交流商用電源の周波数が変化しても、周波数の変化に対応して外部特性の傾きが適正化されるので、溶接状態を安定に維持することができる
【0030】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、溶接電流の変化率を可変するインダクタンス値を形成する電子リアクトル制御部を備え、電子リアクトル制御部は、周波数の検出値に基づいてインダクタンス値を変化させる。このために、本実施の形態では、3相交流商用電源の周波数が変化しても、周波数の変化に対応してインダクタンス値が適正化されるので、溶接状態を安定に維持することができる
【符号の説明】
【0031】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
6a、6b 溶接ケーブル
CC 定電流源
DCL リアクトル
E 出力電圧
EI 電流誤差増幅回路
Ei 誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
FD 周波数検出回路
Fd 周波数検出信号
i 溶接電流
ID 電流検出回路
id 電流検出信号
IRC 制御回路
Irc 溶接電流制御設定信号
IV 交流商用電源
Lio インダクタンス値
Lm 適正インダクタンス値
LR インダクタンス設定回路
Lr インダクタンス設定信号
PC 位相制御回路
Pc 点弧信号
PM 電源主回路
Rio 抵抗値
RR 外部特性傾き設定回路
Rr 外部特性傾き設定信号
v 溶接電圧
VD 電圧検出回路
vd 電圧検出信号