(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182267
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】流量演算装置、及び流量演算方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/46 20060101AFI20221201BHJP
G01F 1/00 20220101ALI20221201BHJP
【FI】
G01F1/46
G01F1/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089735
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 圭浩
(72)【発明者】
【氏名】坂田 英之
(72)【発明者】
【氏名】浅原 大輝
【テーマコード(参考)】
2F030
【Fターム(参考)】
2F030CA04
2F030CE02
2F030CE04
(57)【要約】
【課題】配管内を流れる流体の流量の測定精度を安定させつつ、測定結果が実流量から乖離することを抑制できる流量演算装置、及び流量演算方法を提供する。
【解決手段】軸線を中心に延びる配管を流れる流体の流量を取得する流量演算装置であって、前記軸線に直交する測定面の上に配置された第一測定点における前記流体の流速の実測値を取得する流速取得部と、前記実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて算出された乱流速度分布を取得する乱流速度分布取得部と、前記乱流速度分布から、平均流速を取得する平均流速取得部と、前記平均流速に、前記配管の流路断面積を乗ずることで平均流量を取得する平均流量取得部と、を備える流量演算装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心に延びる配管を流れる流体の流量を取得する流量演算装置であって、
前記軸線に直交する測定面の上に配置された第一測定点における前記流体の流速の実測値を取得する流速取得部と、
前記実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて算出された乱流速度分布を取得する乱流速度分布取得部と、
前記乱流速度分布から、平均流速を取得する平均流速取得部と、
前記平均流速に、前記配管の流路断面積を乗ずることで平均流量を取得する平均流量取得部と、
を備える流量演算装置。
【請求項2】
前記流速取得部は、前記軸線の径方向に一列に配置された複数の前記第一測定点のそれぞれにおける前記流速の実測値を取得し、
前記乱流速度分布取得部は、各前記実測値毎に前記乱流速度分布を取得し、
前記実測値毎の複数の前記乱流速度分布から、平均速度分布を取得する平均速度分布取得部を更に備え、
前記平均流速取得部は、前記乱流速度分布に代えて前記平均速度分布から、前記平均流速を取得する請求項1に記載の流量演算装置。
【請求項3】
前記流速取得部は、前記軸線と前記測定面との交点に配置された第二測定点における前記流体の前記流速の前記実測値を更に取得する請求項2に記載の流量演算装置。
【請求項4】
軸線を中心に延びる配管を流れる流体の流量を取得する流量演算方法であって、
前記軸線に直交する測定面の上に配置された第一測定点における前記流体の流速の実測値を取得するステップと、
前記実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて算出された乱流速度分布を取得するステップと、
前記乱流速度分布から、平均流速を取得するステップと、
前記平均流速に、前記配管の流路断面積を乗ずることで平均流量を取得するステップと、
を含む流量演算方法。
【請求項5】
前記実測値を取得するステップでは、前記軸線の径方向に一列に配置された複数の前記第一測定点のそれぞれにおける前記流速の実測値を取得し、
前記乱流速度分布を取得するステップでは、各前記実測値毎に前記乱流速度分布を取得し、
前記実測値毎の複数の前記乱流速度分布から、平均速度分布を取得するステップを更に含み、
前記平均流速を取得するステップでは、前記乱流速度分布に代えて前記平均速度分布から、前記平均流速を取得する請求項4に記載の流量演算方法。
【請求項6】
前記軸線と前記測定面との交点に配置された第二測定点における前記流体の前記流速の前記実測値を取得するステップを更に含む請求項5に記載の流量演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流量演算装置、及び流量演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、配管(流体管)内を流れる流体の流量を測定する熱式の流量計が開示されている。流体の流量を測定する際、配管の設置環境によっては、流量計の設置個所よりも上流側の配管の直管長を十分に確保できない場合がある。このような場合、配管内における流体の速度分布は不均一になり、流量計の測定精度が低下することが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の流量計では、配管中の所定位置に複数の流速検知素子を配置し、これら流速検知素子の出力から平均流量を求めている。これにより、配管の直管長を十分に確保できずに配管内における流体の速度分布が不均一な場合であっても、流量計の測定精度を安定させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載の流量計では、各流量検知素子が配管の中心及び該中心からそれぞれ等しい距離離間した状態で周方向に等間隔に配置されている。このため、例えば、配管内の径方向における流体の速度分布が極端に不均一である場合、測定精度の良否に関わらず、配管内を流れる流体の実流量と流量計の測定結果とが乖離してしまう場合がある。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、配管内を流れる流体の流量の測定精度を安定させつつ、測定結果が実流量から乖離することを抑制できる流量演算装置、及び流量演算方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第一態様に係る流量演算装置は、軸線を中心に延びる配管を流れる流体の流量を取得する流量演算装置であって、前記軸線に直交する測定面の上に配置された第一測定点における前記流体の流速の実測値を取得する流速取得部と、前記実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて算出された乱流速度分布を取得する乱流速度分布取得部と、前記乱流速度分布から、平均流速を取得する平均流速取得部と、前記平均流速に、前記配管の流路断面積を乗ずることで平均流量を取得する平均流量取得部と、を備える。
【0008】
また、本開示の第二態様に係る流量演算方法は、軸線を中心に延びる配管を流れる流体の流量を取得する流量演算方法であって、前記軸線に直交する測定面の上に配置された第一測定点における前記流体の流速の実測値を取得するステップと、前記実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて算出された乱流速度分布を取得するステップと、前記乱流速度分布から、平均流速を取得するステップと、前記平均流速に、前記配管の流路断面積を乗ずることで平均流量を取得するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、配管内を流れる流体の流量の測定精度を安定させつつ、測定結果が実流量から乖離することを抑制できる流量演算装置、及び流量演算方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る配管、及び流速計の斜視図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る流量演算装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る流量演算装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の実施形態に係るコンピュータの構成を示すハードウェア構成図である。
【
図7】本開示の実施例に係る流量演算装置の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態に係る配管及び流速計を図面に基づき説明する。
【0012】
(配管)
図1に示すように、配管1は、内部を流体Vが流れる円筒管である。配管1は、軸線Оを中心に、該軸線О方向に沿って延在している。配管1の延在方向における中途位置には、軸線Оに直交する測定面Xが仮想的に形成されている。本実施形態では、測定面Xは、配管1内部を流れる流体Vの測定箇所である第一測定点P1及び第二測定点P2の位置を規定するための仮想面である。
【0013】
図2に示すように、第一測定点P1は、測定面X上における軸線Оの径方向に該軸線Оから間隔をあけて複数配置されている仮想的な点である。本実施形態では、第一測定点P1は、上下方向Dvに六点が一列に並んで配置されている。より詳しくは、軸線Оを対称にして三点ずつが間隔をあけて配置されている。
【0014】
第二測定点P2は、軸線Оと測定面Xとの交点に配置されている仮想的な点である。即ち、第二測定点P2は、配管1内部の中心に配置されている。
【0015】
(流速計)
流速計2は、配管1内を流れる流体Vの流速を測定するピトー管である。流速計2は、配管1の内部を上下方向Dvに移動可能に設けられている。
流速計2は、鼻管3と、元管4と、差圧測定管5と、を有している。
【0016】
鼻管3は、配管1の内部で、流体Vの流れ方向Fに延在している二重管構造を成す管である。鼻管3は、全圧鼻管3aと、静圧鼻管3bと、を有している。静圧鼻管3bは、全圧鼻管3aを外側から覆うように該全圧鼻管3aに設けられており、静圧鼻管3bの管壁と全圧鼻管3aの管壁とは、流れ方向F一方側の一端で接続されている。したがって、静圧鼻管3bの内側では、全圧鼻管3aの内部と静圧鼻管3bの内部とが全圧鼻管3aの管壁によって隔絶されており、それぞれが内側に異なる流路を形成している。
【0017】
全圧鼻管3aの一端には、全圧鼻管3a内と配管1内とを連通させる全圧孔2aが形成されている。全圧孔2aは、測定面X上で流体Vの流れ方向F一方側に開口している。配管1内部を流れる流体Vは、全圧孔2aを介して、全圧の状態で全圧鼻管3a内部に流入する。
【0018】
静圧鼻管3bの側面には、該静圧鼻管3b内と配管1内とを連通させる静圧孔2bが形成されている。静圧孔2bは、静圧鼻管3bの側面に沿って等間隔に複数形成されている。本実施形態では、四つの静圧孔2bが静圧鼻管3bの側面に沿って等間隔に形成されている。
【0019】
各静圧孔2bは、流体Vの流れ方向Fと略直交する方向に開口している。配管1内部の流速計2近傍を流れ方向Fに流れる流体Vのうち全圧孔2aに流入せずに剥離した流体Vは、流速が低下し、圧力が上昇して静圧の状態になる。静圧の状態となった該流体Vは、静圧孔2bを介して、静圧鼻管3b内部に流入する。
【0020】
元管4は、鼻管3の内部に流入した流体Vを配管1の外部へ導く二重管構造を成す管である。元管4は、配管1の管壁を貫通するように配管1の外部から内部にかけて上下方向Dvに延在している。元管4は、全圧元管4aと、静圧元管4bと、を有している。
【0021】
静圧元管4bは、全圧元管4aを外側から覆うように該全圧元管4aに設けられている。全圧元管4aの上方側端部は、全圧鼻管3a内と連通するように該全圧鼻管3aの他端と接続されている。静圧元管4bの上方側端部は、静圧鼻管3b内と連通するように静圧鼻管3bの他端と接続されている。したがって、全圧鼻管3a内を流れる流体Vは、全圧元管4a内に流入し、静圧鼻管3b内を流れる流体Vは、静圧元管4b内に流入する。
【0022】
本実施形態では、静圧元管4bの外周面と配管1の管壁との隙間(図示無し)は、例えば金属シール等で封止されている。つまり、元管4は、静圧元管4bの外周面と配管1の管壁との隙間が封止された状態で、上下方向Dvに移動可能とされている。なお、上記隙間は金属シールで封止される構成に限定されることはなく、合成樹脂等のシール材で封止する構成であってもよい。
【0023】
差圧測定管5は、元管4によって導かれた配管1内部の流体Vを受け入れ、該流体Vの圧力を測定する曲り配管構造を成す管である。差圧測定管5の一端は、全圧元管4aの内部と連通するように該全圧元管4aの下方側端部に接続されている。差圧測定管5の他端は、静圧元管4bの内部と連通するように該静圧元管4bの下方側端部に接続されている。
【0024】
したがって、差圧測定管5は、元管4の全圧元管4aと静圧元管4bとを連通させている。差圧測定管5は、例えばマノメータ等の差圧測定センサ部5aを有している。全圧孔2aから全圧鼻管3aに流入した流体Vと、静圧孔2bから静圧鼻管3bに流入した流体Vとは、鼻管3内及び元管4内でそれぞれ異なる流路を流れ、差圧測定管5に導かれる。
【0025】
これら流路から差圧測定管5に導かれた全圧状態の流体Vと静圧状態の流体Vとに生じる差圧が、差圧測定センサ部5aによって測定される。なお、差圧測定センサ部5aは、マノメータに限定されることはなく、差圧測定センサ部5aは、ダイヤフラム等であってもよい。
【0026】
図1及び
図2に例示する流速計2では、軸線Оよりも下方側の、該軸線Оに最も近接している第一測定点P1で、全圧孔2aが流体Vの流れ方向F一方側に開口している。本実施形態では、流速計2を上下方向Dvに移動させることで、第一測定点P1及び第二測定点P2に全圧孔2aを位置させることができる。即ち、流速計2は上下方向Dvに移動することにより、これら第一測定点P1及び第二測定点P2における流体Vの流速を測定することができる。
【0027】
(流量演算装置)
続いて、本開示の実施形態に係る流量演算装置について説明する。
流量演算装置10は、配管1を流れる流体Vの流量を取得する装置である。
図1に示すように、流量演算装置10は、配管1の外部に設けられている。流量演算装置は、流速計2から測定値を入力として受け取る。
図3に示すように、流量演算装置10は、流速取得部11と、乱流速度分布取得部12と、平均速度分布取得部13と、平均流速取得部14と、平均流量取得部15と、を備えている。
【0028】
(流速取得部)
流速取得部11は、第一測定点P1及び第二測定点P2における流体Vの流速の実測値を取得する。本実施形態では、流速取得部11は、流速計2が測定した実測値を取得する。流速取得部11には、例えば、一端が流速計2の差圧測定センサ部5aに接続されているセンサ信号線(図示無し)の他端が接続される。これにより、流速取得部11は、流速計2の圧力センサが出力する測定値を、上記センサ信号線を介して実測値として取得することができる。
【0029】
(乱流速度分布取得部)
乱流速度分布取得部12は、実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて乱流速度分布を、実測値毎に取得する。本実施形態では、乱流速度分布取得部12は、流速取得部11が取得した第一測定点P1及び第二測定点P2における実測値と、乱流速度分布推定式としての「べき(指数)法則」と、に基づいて乱流速度分布を取得する。乱流速度分布取得部は、配管1内部の軸線の径方向における円管内乱流の速度分布を、実測値と上記乱流速度分布推定式とに基づいて推定する。
【0030】
ここで、乱流速度分布を推定する「べき(指数)法則」について概説する。
乱流速度分布の推定には、日本機械学会編,「機械工学便覧基礎編α4流体工学」,初版,日本国,一般社団法人日本機械学会,2006年1月20日,第8章,p.69-93に記載されている、以下の式(1)が採用される。
u/U=(y/a)^(1/n)=(1-r/a)^(1/n) …(1)
【0031】
ここで、yは、配管1の管壁から第一測定点P1までの距離(既知)である。aは、配管1の半径(既知)である。yは、a-rと表現することが可能であり、この場合、rは軸線Оと測定面Xとの交点から第一測定点P1までの距離(既知)である。uは、配管1の管壁からの距離yにおける流体Vの流れ方向Fの速度である。Uは、軸線Оと測定面Xとの交点(第二測定点P2)における流れ方向Fの速度である。
【0032】
nは、レイノルズ数(Re)によって一意に求めることができる定数である。nの値は、例えば、一般的な実験の結果により導き出された以下の式(2)で決定される。
n=3.45×Re^0.07 …(2)
なお、レイノルズ数(Re)には、4×10^3~3.24×10^6の数値範囲から任意の値が好適に採用される。
【0033】
したがって、流速取得部11が取得する第一測定点P1及び第二測定点P2における実測値と、既知の値から上記の式(1)により求められる理論値と、に基づいて実測値毎に乱流速度分布を推定できる。具体的には、流速取得部11が取得した各実測値に対して上記式(1)を用いて、例えば外挿等のあてはめ(フィッティング)をすることで、実測値毎の乱流速度分布を求めることができる。
【0034】
(平均速度分布取得部)
平均速度分布取得部13は、実測値毎に取得された複数の乱流速度分布から、平均速度分布を取得する。本実施形態では、平均速度分布取得部13は、乱流速度分布取得部12が取得した複数の乱流速度分布を平均化することで、一つの平均速度分布を取得する。
【0035】
(平均流速取得部)
平均流速取得部14は、平均速度分布から平均流速を取得する。本実施形態では、平均流速取得部14は、平均速度分布取得部13が取得した平均速度分布の流速を平均化することで、一つの値である平均流速を取得する。
【0036】
(平均流量取得部)
平均流量取得部15は、平均流速に配管1の流路断面積を乗ずることで平均流量を取得する。本実施形態では、平均流量取得部15は、平均流速取得部14が取得した平均流速から平均流量を導出する。具体的には、平均流量取得部15は、平均流量(Q)を以下の式(3)を用いて導出する。
Q=V×A …(3)
ここで、Vは、平均流速取得部14が取得した平均流速である。Aは、配管1の流路断面積(既知)である。
【0037】
(流量演算装置の動作)
続いて、流量演算装置10の動作について
図4を参照して説明する。
【0038】
流速取得部11は、第一測定点P1における流体Vの流速の実測値を取得する(ステップS1)。次いで、流速取得部11は、第二測定点P2における流体Vの流速の実測値を取得する(ステップS2)。
乱流速度分布取得部12は、流速取得部11が取得した実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて算出された乱流速度分布を、実測値毎に取得する(ステップS3)。
【0039】
平均速度分布取得部13は、乱流速度分布取得部12が実測値毎に取得した複数の乱流速度分布から、平均速度分布を取得する(ステップS4)。
平均流速取得部14は、平均速度分布取得部13が取得した平均速度分布から、平均流速を取得する(ステップS5)。
平均流量取得部15は、平均流速取得部14が取得した平均流速に、配管1の流路断面積を乗ずることで平均流量を取得する(ステップS6)。
【0040】
(作用効果)
上記実施形態の流量演算装置10では、第一測定点における流速の実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて算出された乱流速度分布から平均速度分布を取得する過程を経て、平均流量を測定結果として取得する。これにより、乱流速度分布を取得後に平均化する過程を経ない構成と比較して、配管1内における真の乱流速度分布にあてはまりの良い平均速度分布を得ることができる。つまり、実流量に近い平均流量を最終的に取得することができる。したがって、上流側の直管長の十分な確保が難しい環境であっても、配管1内を流れる流体Vの流量の測定精度を安定させつつ、測定結果が実流量から乖離することを抑制できる。
【0041】
また、上記実施形態の流量演算装置10では、第一測定点P1が測定面X上で軸線Оの径方向に一列に配置されているため、流速取得部11が各第一測定点P1で取得する実測値の分布を、実速度の分布に近づけることができる。したがって、例えば、軸線Оの径方向で流体Vの速度分布が極端に不均一となっても、最終的に平均流量取得部15が取得する流体Vの平均流量を実流量へより近づけることができる。
【0042】
また、発明者らは、第一測定点P1でのみ流体Vの流速を取得した場合の流量演算装置10による測定流量と、第一測定点P1及び第二測定点P2で流速を取得した場合の流量演算装置10による測定流量とを、試験的に取得した。そして、配管1内へ送る流体Vの予め決まっている流量を基準流量とし、上記二パターンの流量の測定結果を基準流量とそれぞれ比較した。その結果、後者の第一測定点P1及び第二測定点P2で流速を取得した場合の方が、第一測定点P1でのみ流体Vの流速を取得した場合よりも、基準流量からの乖離が小さいことを確認した。
【0043】
上記実施形態の流量演算装置10では、配管1内の流路の中心である第二測定点P2でも流体Vの流速の実測値を取得する。これにより、最終的に平均流量取得部15が取得する流体Vの平均流量を実流量へより近づけることができる。
【0044】
また、上記実施形態の流量演算方法によれば、上流直管長の十分な確保が難しい環境でも、配管1内を流れる流体Vの流量の測定精度を安定させつつ、測定結果が実流量から乖離することを抑制できる。
【0045】
また、上記実施形態の流量演算方法によれば、最終的に取得する流体Vの平均流量を実流量へより近づけることができる。
【0046】
[その他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成は各実施形態の構成に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内での構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本開示は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0047】
なお、
図5は、本実施形態に係るコンピュータ1100の構成を示すハードウェア構成図である。
コンピュータ1100は、プロセッサ1110、メインメモリ1120、ストレージ1130、インタフェース1140を備える。
【0048】
上述の流量演算装置10は、コンピュータ1100に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ1130に記憶されている。プロセッサ1110は、プログラムをストレージ1130から読み出してメインメモリ1120に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ1110は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ1120に確保する。
【0049】
プログラムは、コンピュータ1100に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージ1130に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、又は他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。また、コンピュータ1100は、上記構成に加えて、又は上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ1110によって実現される機能の一部又は全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0050】
ストレージ1130の例としては、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ1130は、コンピュータ1100のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース1140又は通信回線を介してコンピュータ1100に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ1100に配信される場合、配信を受けたコンピュータ1100が当該プログラムをメインメモリ1120に展開し、上記処理を実行してもよい。ストレージ1130は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0051】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。
更に、当該プログラムは、前述した機能をストレージ1130に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0052】
なお、上記実施形態では、流速計2を上下方向Dvに移動させ、第一測定点P1及び第二測定点P2で、全圧孔2a及び静圧孔2bから流体Vを受け入れる構成であるが、これら第一測定点P1及び第二測定点P2毎に流速計2を一つずつ設ける構成であってもよい。これにより、流速取得部11は、同一のタイミングで一度に流体Vの流速の実測値を取得できる。したがって、配管を流れる流体の実流量と、測定結果との乖離をより抑制できる。
【0053】
また、上記実施形態では、第一測定点P1が、軸線Оを対称にして上下方向Dvに三点ずつが間隔をあけ、計六点が上下方向Dvに一列に並んで配置されている構成を説明した。しかしながら、この構成に限定されることはない。二点以上の複数の第一測定点P1が測定面X上の任意の位置に配置されている構成であればよい。
これによっても、各第一測定点P1で乱流速度分布を取得し、複数の乱流速度分布を平均化することができる。したがって、配管1内における真の乱流速度分布にあてはまりの良い平均速度分布を得ることができる。
【0054】
更に、一点の第一測定点P1が測定面X上の任意の位置に配置されている構成であってもよい。この場合は、流速取得部11が第一測定点P1における流速の実測値を取得し、乱流速度分布取得部12が、この実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて算出された乱流速度分布を取得する。次いで、平均流速取得部14は、この乱流速度分布から、平均流速を取得する。
これによっても、第一測定点P1で乱流速度分布を取得し、この乱流速度分布から平均流速を取得することができる。したがって、この平均流速から実流量に近い平均流量を最終的に取得することができる。
【0055】
また、上記実施形態では、流速計2は、配管1内を流れる流体Vの流速を測定するピトー管であるが、ピトー管に限定されることはない。流速計2は、流速を計測可能な計測器であればよい。流速を計測可能な計測器としては、例えば、熱線流速計や、電磁流速計等が挙げられる。
【0056】
また、配管1内の流体の流速を測定するにあたっては、上記実施形態の流速計2に代えて、第一測定点P1と同数の鼻管3を有する流速計を用いてもよい。これによっても、流速取得部11は、同一のタイミングで一度に流体Vの流速の実測値を取得できる。
【0057】
また、べき(指数)法則の上記式(1)は、乱流速度分布推定式の一例であり、他の乱流速度分布推定式を用いてもよい。他の乱流速度分布推定式として、例えば、化学工学会編,「化学工学」,第31巻,日本国,公益社団法人化学工学会,1967年,第8号,p.778-783に記載されている、Eq.(13)等を用いてもよい。その他、既知の種々の乱流速度分布推定式を用いて、乱流速度分布を求めてもよい。
【実施例0058】
続いて、流量演算装置の実施例について
図6及び
図7を参照して説明する。
本実施例では、配管の構成が上記実施形態と一部異なっている。本実施例における流速計及び流量演算装置は、上記実施形態と同様の構成である。
【0059】
(配管)
図6に示すように、本実施例の配管1は、軸線Оを中心に、該軸線О方向に沿って延在する直管1cを有するとともに、軸線О方向一方側(上流側)で、軸線Оに対して垂直な方向に曲がる第一エルボ管1aと、第二エルボ管1bと、上下方向Dvに延びる上流管1dと、を有する。
【0060】
第一エルボ管1aは、上下方向Dvに対して垂直な方向である水平方向(面内方向)に曲がる曲がり配管1である。第二エルボ管1bは、上下方向Dv(面外方向)に曲がる曲がり配管1である。上流管1dは、第二エルボ管1bの上流側端部から延びるとともに、配管1の外部に設けられた送風機(図示無し)等から流体Vが送気され、該流体Vを第一エルボ管1aへと導く。
【0061】
したがって、例えば、上記直管1cにおける流速計2が設けられている測定位置から上流側にかけての直管長を長くとることができない配管1の場合、配管1が第一エルボ管1a及び第二エルボ管1bが流体Vの流路における上流側に設けられているため、流体Vの流量の測定精度が劣化しやすい環境と云える。
【0062】
流体Vは、上記第一エルボ管1a及び第二エルボ管1bの如く、軸線Оに対して垂直な方向に曲がる曲がり配管1を経由すると、旋回流になる場合がある。配管1の内部を流れる流体Vは、旋回流になると速度分布が不均一になる。
【0063】
(流体の流速の測定について)
本実施例では、第二エルボ管1b内部の中心位置を原点とし、該原点から直管1cの中途位置にかけて直管長をとった。本実施例では、該直管長の長さを四段階(
図6に示す(a)、(b)、(d)、及び(e))に変更し、それぞれの位置における流体Vの流速を流速計2が取得した。流量演算装置10は流速計2が取得した流体Vの流速を入力として、配管1を流れる流体Vの流量を取得した。
【0064】
本実施例では、JIS B 8330:2000(送風機の試験及び検査方法)の6.2(試験器具及び測定方法)にて規定されているピトー管の測定点の内から上記実施形態の如く六点を、第一測定点P1として採用した。なお、本実施例では、流速計2は、第一測定点P1における流体Vの流速のみを取得した。
【0065】
更に、JIS B 8330:2000(送風機の試験及び検査方法)で規定されている方法を用いて配管1を流れる流体Vの流量を、(a)、(b)、(c)、及び(e)の位置でそれぞれ測定した。本測定の結果を比較例とし、上記実施例の測定結果と比較した。
【0066】
図7に、測定結果をグラフで示す。縦軸は、流量演算装置10が取得した流量を、配管1内へ送る流体Vの予め決まっている流量である基準流量で除した値(基準流量に対する割合)を示している。横軸は、上記四段階で変更させた直管長(L)をそれぞれ配管1の直径(D)で除した値を示している。
【0067】
実施例は、上記実施形態に係る流量演算装置10を用いた場合の結果である。
比較例は、JIS B 8330:2000(送風機の試験及び検査方法)で規定されている方法を用いた場合の結果である。
【0068】
実施例は、いずれも基準流量に対して100±5%の範囲に収まっていることが分かる。
それに対して、比較例は、直管長(L)が短い場合に基準流量に対して100±5%の範囲に収まっていないことが分かる。
【0069】
これらの対比により、上記実施形態に示す流量演算装置10を用いることで、配管1内を流れる流体の流量の測定精度を安定させつつ、測定結果が実流量から乖離することを抑制できることが実証された。
【0070】
[付記]
実施形態に記載の流量演算装置、及び流量演算方法は、例えば以下のように把握される。
【0071】
〔1〕第1の態様に係る流量演算装置10は、軸線Оを中心に延びる配管1を流れる流体Vの流量を取得する流量演算装置10であって、前記軸線Оに直交する測定面Xの上に配置された第一測定点P1における前記流体Vの流速の実測値を取得する流速取得部11と、前記実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて算出された乱流速度分布を取得する乱流速度分布取得部12と、前記乱流速度分布から、平均流速を取得する平均流速取得部14と、前記平均流速に、前記配管1の流路断面積を乗ずることで平均流量を取得する平均流量取得部15と、を備える。
【0072】
上記構成によれば、第一測定点P1で乱流速度分布を取得し、この乱流速度分布から平均流速を取得することができる。したがって、この平均流速から実流量に近い平均流量を最終的に取得することができる。
【0073】
〔2〕第2の態様に係る流量演算装置10は、〔1〕の流量演算装置10であって、前記流速取得部11は、前記軸線Оの径方向に一列に配置された複数の前記第一測定点P1のそれぞれにおける前記流速の実測値を取得し、乱流速度分布取得部12は、各前記実測値毎に前記乱流速度分布を取得し、前記実測値毎の複数の前記乱流速度分布から、平均速度分布を取得する平均速度分布取得部13を更に備え、前記平均流速取得部14は、前記乱流速度分布に代えて前記平均速度分布から、前記平均流速を取得してもよい。
【0074】
上記構成により、第一測定点P1が測定面X上で軸線Оの径方向に一列に配置されているため、流速取得部11が各第一測定点P1で取得する実測値の分布を、実速度の分布に近づけることができる。また、乱流速度分布を取得後に平均化する過程を経ない構成と比較して、配管1内における真の乱流速度分布にあてはまりの良い平均速度分布を得ることができる。つまり、実流量に近い平均流量を最終的に取得することができる。
【0075】
〔3〕第3の態様に係る流量演算装置10は、〔2〕の流量演算装置10であって、前記流速取得部11は、前記軸線Оと前記測定面Xとの交点に配置された第二測定点P2における前記流体Vの前記流速の前記実測値を更に取得してもよい。
【0076】
上記構成によれば、配管1内の流路の中心である第二測定点P2でも流体Vの流速の実測値を取得する。これにより、最終的に平均流量取得部15が取得する流体Vの平均流量を実流量へより近づけることができる。
【0077】
〔4〕第4の態様に係る流量演算方法は、軸線Оを中心に延びる配管1を流れる流体Vの流量を取得する流量演算方法であって、前記軸線Оに直交する測定面Xの上に配置された第一測定点P1における前記流体Vの流速の実測値を取得するステップと、前記実測値と乱流速度分布推定式とに基づいて算出された乱流速度分布を取得するステップと、前記乱流速度分布から、平均流速を取得するステップと、前記平均流速に、前記配管1の流路断面積を乗ずることで平均流量を取得するステップと、を含む。
【0078】
上記方法によれば、第一測定点P1で乱流速度分布を取得し、この乱流速度分布から平均流速を取得することができる。したがって、この平均流速から実流量に近い平均流量を最終的に取得することができる。
【0079】
〔5〕第5の態様に係る流量演算方法は、〔4〕の流量演算方法であって、前記実測値を取得するステップでは、前記軸線Оの径方向に一列に配置された複数の前記第一測定点P1のそれぞれにおける前記流速の実測値を取得し、前記乱流速度分布を取得するステップでは、各前記実測値毎に前記乱流速度分布を取得し、前記実測値毎の複数の前記乱流速度分布から、平均速度分布を取得するステップを更に含み、前記平均流速を取得するステップでは、前記乱流速度分布に代えて前記平均速度分布から、前記平均流速を取得してもよい。
【0080】
上記方法により、第一測定点P1が測定面X上で軸線Оの径方向に一列に配置されているため、流速取得部11が各第一測定点P1で取得する実測値の分布を、実速度の分布に近づけることができる。また、乱流速度分布を取得後に平均化する過程を経ない構成と比較して、配管1内における真の乱流速度分布にあてはまりの良い平均速度分布を得ることができる。つまり、実流量に近い平均流量を最終的に取得することができる。
【0081】
〔6〕第6の態様に係る流量演算方法は、〔5〕の流量演算方法であって、前記軸線Оと前記測定面Xとの交点に配置された第二測定点P2における前記流体Vの前記流速の前記実測値を取得するステップを更に含む。
【0082】
上記方法によれば、最終的に取得する流体Vの平均流量を実流量へより近づけることができる。
1…配管 1a…第一エルボ管 1b…第二エルボ管 1c…直管 1d…上流管 2…流速計 2a…全圧孔 2b…静圧孔 3…鼻管 3a…全圧鼻管 3b…静圧鼻管 4…元管 4a…全圧元管 4b…静圧元管 5…差圧測定管 5a…差圧測定センサ部 10…流量演算装置 11…流速取得部 12…乱流速度分布取得部 13…平均速度分布取得部 14…平均流速取得部 15…平均流量取得部 1100…コンピュータ 1110…プロセッサ 1120…メインメモリ 1130…ストレージ 1140…インタフェース Dv…上下方向 F…流れ方向 О…軸線 P1…第一測定点 P2…第二測定点 V…流体 X…測定面