(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182309
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】レーザーによる薄膜部の形成方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/36 20140101AFI20221201BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20221201BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089806
(22)【出願日】2021-05-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 「令和元年度ぎふ技術革新センター運営協議会共同研究助成事業助成金に係る事業実績報告書」に本願発明の「レーザーによる薄膜部の形成方法」を記載して、ぎふ技術革新センター運営協議会(岐阜県関市小瀬1288)に提出(令和3年2月1日) ウェブサイト(https://www.mdpi.com/2073-4360/13/9/1448)にて、本願発明の「レーザーによる薄膜部の形成方法」を公開(令和3年4月30日)
(71)【出願人】
【識別番号】593215829
【氏名又は名称】アテナ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】亀山 展和
(72)【発明者】
【氏名】吉田 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 満孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】深川 仁
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD03
4E168DA02
4E168DA23
4E168DA32
4E168DA42
4E168DA43
4E168FB01
4E168HA02
4E168JA17
(57)【要約】
【課題】シート状の被加工材に安定して薄膜部を形成することができるレーザーによる薄膜部の形成方法を提供する。
【解決手段】被加工材10の表面側からレーザー光線Lを照射してレーザー加工を施すに際して、被加工材のレーザー照射位置の温度上昇を抑制する手段20により、被加工材の裏面側の溶断を抑止し、これによって被加工材のレーザー照射位置Pに薄膜部15を形成することを特徴とする。また、温度上昇を抑制する手段は、被加工材の裏面側に密着配置されるベース部材20Aであることが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材の表面側からレーザー光線を照射してレーザー加工を施すに際して、前記被加工材のレーザー照射位置の温度上昇を抑制する手段により、前記被加工材の裏面側の溶断を抑止し、これによって前記被加工材のレーザー照射位置に薄膜部を形成することを特徴とするレーザーによる薄膜部の形成方法。
【請求項2】
前記温度上昇を抑制する手段が、前記被加工材の裏面側に密着配置されるベース部材である請求項1に記載のレーザーによる薄膜部の形成方法。
【請求項3】
前記ベース部材が金属板である請求項2に記載のレーザーによる薄膜部の形成方法。
【請求項4】
前記金属板が、銅、アルミニウム、真鍮、鉄、ステンレス鋼のいずれかよりなる請求項3に記載のレーザーによる薄膜部の形成方法。
【請求項5】
前記被加工材が、合成樹脂材料を含むシート状物である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーザーによる薄膜部の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被加工材にレーザー光線を照射して被加工材に薄膜部を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コンビニエンスストアやスーパーマーケット等で販売される加工食品を収容する食品用容器には、ポリプロピレン(PP)やポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂シートの成形品が用いられる。近年、マイクロプラスチック問題が注目されており、環境負荷の低減を目的として、合成樹脂材料の使用の抑制や、再利用等が推奨されている。
【0003】
合成樹脂製の食品用容器では、使用後の廃棄、回収等の利便性を向上させる手段として、小容化(減容化)が有効である。合成樹脂製容器の小容化としては、例えば、容器の胴部に形成された複数の屈曲部により、容器が上方から押し込まれた際に屈曲部を変形させてつぶれやすくした構造が知られている(特許文献1参照)。このように、合成樹脂製の成形品を小容化するには、屈曲部等の力を加えることで容易に変形させることができる部位が設けられる。しかしながら、屈曲部では成形品の構造が複雑化するため、改善が求められていた。
【0004】
成形品を簡素な構造としつつ容易に変形させることが可能な手段として、例えば、変形部分にミシン目や薄膜部等を形成することが考えられる。ミシン目は、機械加工やレーザー加工等により容易に形成することが可能であるが、食品用容器に設けた場合、内容物の漏出や外部からの異物混入等が生じやすくなる。これに対して、薄膜部は、内容物の漏出や異物混入等のおそれがなく、適切な変形が可能であると考えられる。
【0005】
ところで、レーザー加工は、合成樹脂の加工技術として高速かつ低コストで極めて有効であることが知られている。しかしながら、例えば合成樹脂シートは薄く、レーザー光線の照射により容易に溶断可能である一方において、貫通させずに適切な厚みの薄膜部を形成するようにレーザー加工を制御することは照射条件の変動もあり容易ではなかった。そこで、本発明者らは鋭意研究を重ね、被加工材にレーザー光線の照射加工するに際して、貫通させることなく薄膜部を安定して形成することができる方法を見出すに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、被加工材に薄膜部を安定して形成することができるレーザーによる薄膜部の形成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1の発明は、被加工材の表面側からレーザー光線を照射してレーザー加工を施すに際して、前記被加工材のレーザー照射位置の温度上昇を抑制する手段により、前記被加工材の裏面側の溶断を抑止し、これによって前記被加工材のレーザー照射位置に薄膜部を形成することを特徴とするレーザーによる薄膜部の形成方法に係る。
【0009】
請求項2の発明は、前記温度上昇を抑制する手段が、前記被加工材の裏面側に密着配置されるベース部材である請求項1に記載のレーザーによる薄膜部の形成方法に係る。
【0010】
請求項3の発明は、前記ベース部材が金属板である請求項2に記載のレーザーによる薄膜部の形成方法に係る。
【0011】
請求項4の発明は、前記金属板が、銅、アルミニウム、真鍮、鉄、ステンレス鋼のいずれかよりなる請求項3に記載のレーザーによる薄膜部の形成方法に係る。
【0012】
請求項5の発明は、前記被加工材が、合成樹脂材料を含むシート状物である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーザーによる薄膜部の形成方法に係る。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係るレーザーによる薄膜部の形成方法によると、被加工材の表面側からレーザー光線を照射してレーザー加工を施すに際して、前記被加工材のレーザー照射位置の温度上昇を抑制する手段により、前記被加工材の裏面側の溶断を抑止し、これによって前記被加工材のレーザー照射位置に薄膜部を形成するため、レーザー加工の照射条件が変動しても被加工材の裏面側が貫通されることなく、簡易かつ安定的に薄膜部を形成することができる。
【0014】
請求項2の発明に係るレーザーによる薄膜部の形成方法によると、請求項1の発明において、前記温度上昇を抑制する手段が、前記被加工材の裏面側に密着配置されるベース部材であるため、被加工材の裏面側に対して温度上昇抑制効果を効率的に作用させることができる。
【0015】
請求項3の発明に係るレーザーによる薄膜部の形成方法によると、請求項2の発明において、前記ベース部材が金属板であるため、高熱伝導率や高反射率を備えてベース部材として好適であるとともに、レーザー加工時にベース部材に損傷や変形等が発生しにくくなる。
【0016】
請求項4の発明に係るレーザーによる薄膜部の形成方法によると、請求項3の発明において、前記金属板が、銅、アルミニウム、真鍮、鉄、ステンレス鋼のいずれかよりなるため、容易に入手できて取り扱いやすく、経済性もあり、工業的な利用に適している。
【0017】
請求項5の発明に係るレーザーによる薄膜部の形成方法によると、請求項1ないし4の発明において、前記被加工材が、合成樹脂材料を含むシート状物であるため、レーザー加工を容易に施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施例に係るレーザーによる薄膜部の形成方法の概略断面図である。
【
図3】銅板のベース部材を用いてレーザー加工を行った場合の薄膜部の厚さを測定した結果を表したグラフである。
【
図4】ベース部材を使用せずにレーザー加工を行った場合の薄膜部の厚さを測定した結果を表したグラフである。
【
図5】アルミ板のベース部材を用いてレーザー加工を行った場合の薄膜部の厚さを測定した結果を表したグラフである。
【
図6】真鍮板のベース部材を用いてレーザー加工を行った場合の薄膜部の厚さを測定した結果を表したグラフである。
【
図7】鋼板のベース部材を用いてレーザー加工を行った場合の薄膜部の厚さを測定した結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施例に係るレーザーによる薄膜部の形成方法を表した概略断面図である。この実施例は、シート状の被加工材10の表面側からレーザー光線Lを照射してレーザー加工を施すに際して、被加工材10のレーザー照射位置Pの温度上昇を抑制する手段20により、被加工材10の裏面側の溶断を抑止し、これによって被加工材10のレーザー照射位置Pに薄膜部15を形成するものである。
【0020】
レーザー加工は、CO2レーザー(炭酸ガスレーザー)等の適宜のレーザーを使用した公知の加工方法が挙げられる。また、レーザーの出力は、連続波(CW)レーザーやパルスレーザー等、特に限定されないが、高速処理が可能な連続波レーザーは大量生産等の工業的利用に適しており、好ましい。
【0021】
被加工材10は、レーザー光線Lの照射によるレーザー加工が容易な合成樹脂材料を含む素材からなるシート状物である。被加工材10としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の公知の合成樹脂材料からなるシート材等が挙げられる。これらの樹脂材料は、入手しやすく、成形性にも優れるため、工業的な利用に適している。また、環境負荷低減の観点から、タルク等の無機質充填材が含有された合成樹脂材料(フィラー入りポリプロピレン;PPF等)からなるシート材等を用いることも可能である。被加工材10の厚さは適宜であるが、例えば、0.2~1mm程度である。
【0022】
薄膜部15は、被加工材10の表面側からのレーザー光線Lの照射によって被加工材10の厚みより薄く形成された部位である。この薄膜部15では、
図2に示すように、レーザー光線の照射位置Pにおいて、被加工材10の表面側はレーザー照射により溝状に除去され、裏面側は溶断されずに所定の厚さ(T)が保持された非貫通部分となる。なお、薄膜部15の幅及び長さは設計された適宜のものとすることができる。
【0023】
被加工材10である合成樹脂を含むシート状物は、例えば、コンビニエンスストア等で販売される加工食品の容器等の成形体の材料等に好適に使用される。被加工材10を食品用容器として成形して用いる場合、薄膜部15は容器胴部に形成することが好ましい。このような容器では、容器の上方から押し込むことにより、複雑な構造なしで薄膜部15が変形部として機能して、容器の小容化(減容化)が可能となる。また、薄膜部15は非貫通部分であるから、容器として使用した場合に異物混入や内容物の漏出等のおそれがなく、容器としての強度が損なわれることがない。
【0024】
温度上昇を抑制する手段20は、被加工材10のレーザー光線が照射される表面側とは反対側となる裏面側を、レーザー照射によって溶断される温度に到達しないようにして、被加工材10の裏面側の溶断を抑止するものである。
【0025】
レーザー加工に際して、被加工材10は、レーザー照射の加熱によりレーザー照射位置Pが溶解又は蒸発されて、表面側から裏面側に向かって除去される。この時、被加工材10のレーザー照射位置Pに対応する裏面側には、温度上昇抑制手段20によりレーザー照射の加熱を上回る温度上昇抑制効果が作用して、裏面側の所定厚さ(T)に相当する部分が溶断されない温度に保持されると考えられる。このように、被加工材10の裏面側は、レーザー照射時においても溶断温度に到達しないため、溶断が抑止される。そのため、被加工材10のレーザー照射位置Pは、表面側が除去されてその裏面側が貫通されていない薄膜部15となる。
【0026】
温度上昇抑制手段20としては、レーザー加工時に被加工材10の裏面側がレーザー照射による溶断温度に到達しないように制御可能な手段であれば特に限定されるものではない。例えば、実施例に示すような金属板等のベース部材の他、エアブローやアシストガス等の空冷手段、水冷手段、その他の適宜の温度調節装置等が挙げられる。
【0027】
温度上昇抑制手段20は、被加工材10の裏面側に密着配置されるベース部材20Aが好ましい。このベース部材20Aは、被加工材10が載置可能な平坦面を有する板状部材であり、被加工材10の裏面側が平坦面に密着配置されることにより、被加工材10の裏面側とベース部材20Aとの間で熱平衡状態を形成すると考えられる。そこで、ベース部材20Aは、被加工材の熱伝導率よりも格段に高い熱伝導率かつレーザー光線の反射率が高い(レーザー光線を吸収しにくい)素材で構成することが好ましい。
【0028】
高熱伝導率のベース部材は、被加工材よりも高い熱伝導率を備えることにより、被加工材10の裏面に対してレーザー照射による温度上昇よりも熱平衡状態を保持するように機能すると考えられる。また、高反射率(低吸収率)のベース部材は、レーザー光線を吸収しにくいことから、レーザー光線の吸収による温度上昇が抑制されて、損傷や変形等を抑制することができ、製品の品質低下等を防止することができる。
【0029】
ベース部材20Aには、金属板を用いることが実務上好ましい。金属板は、高熱伝導率や高反射率を備えるとともに、合成樹脂材料を含む被加工材10の昇華温度より高い溶融温度を有している。そのため、レーザー加工時に被加工材10のレーザー照射位置Pが昇華温度に加熱されても、ベース部材20Aに損傷や変形等が発生しにくい。金属板としては、銅、アルミニウム、真鍮、鉄、ステンレス鋼のいずれかよりなるものが好ましい。これらの金属板は、容易に入手できて、既存の設備をほとんど変更することなく設置可能で取り扱いやすいため、工業的な利用に適している。
【0030】
被加工材10のベース部材20Aへの密着配置は、例えば、真空吸引等の適宜の手法によって行われる。実施例では、ベース部材20Aの複数個所に吸引孔21が形成されて、吸引孔21を介して被加工材10とベース部材20Aの間が真空吸引されて両者が密着される。被加工材10とベース部材20Aとが密着されることにより、被加工材10の裏面側に対して温度上昇抑制効果をより効率的に作用させることができる。
【0031】
本発明の薄膜部形成方法では、ベース部材20Aを用いることにより、レーザー照射のエネルギーが増大しても薄膜部15の厚さT(被加工材10の裏面側の残り厚さ)がほぼ一定に形成される。そのため、レーザー照射の条件を細かく制御することなく容易にかつ安定して薄膜部15を形成することができる。
【0032】
また、ベース部材20Aは、常温(室温)環境下で使用することが可能であるが、レーザー加工時に被加工材10の裏面側を溶断温度に到達させずに溶断を抑止できるのであれば、適宜加温や冷却等をしてもよい。なお、加温や冷却等によりベース部材20Aと接触する被加工材10の裏面側の温度を制御することによって、裏面側の温度上昇抑制を調整して薄膜部15の厚さを調節することが可能である。
【実施例0033】
[薄膜部の形成]
スポットサイズ100μm、焦点距離111mmのCWCO2レーザー(パナソニック株式会社製;LP-431U)を使用し、真空吸引可能な厚さ10mmの銅板からなるベース部材に厚さ300μmの透明PPシート(被加工材)を載置して21kPaで真空吸引して透明PPシートの裏面側をベース部材に密着させ、透明PPシートの表面にレーザーの焦点を合わせて長さ10mmのスキャンを1回実行するようにレーザー光線を照射して、PPシート表面にレーザー加工を施した。レーザー照射の条件は、波長を10.6μm、出力を30Wに固定し、レーザースキャン速度を60~150mm/sとした。また、ベース部材に用いた銅板は、熱伝導率401W/m・K、波長10.6μmの吸収率1%、溶融温度1084℃である。
【0034】
レーザー加工後、レーザー干渉計(株式会社キーエンス製;SI-F1000V及びSI-F80)を使用して、PPシートに形成された薄膜部の中心部分の厚さを測定した。測定結果について、表1にレーザースキャン速度ごとのエネルギーの線密度P/S(単位長さ当たりのエネルギー;J/m)と薄膜部の厚さ(μm)を示し、
図3に横軸をエネルギーの線密度(P/S:単位はJ/m)、縦軸を薄膜部の厚さ(μm)としたグラフを示す。なお、エネルギーの線密度のPはレーザー出力(W)、Sはレーザー走査速度(mm/s)である。
【0035】
【0036】
比較例として、被加工材の裏面側にベース部材を配置せず、被加工材の裏面側が空気となる従来のレーザー加工方法により、PPシート表面にレーザー加工を施した。レーザースキャン速度は115~600mm/sとした。測定結果は、表2及び
図4のグラフに示した。
【0037】
【0038】
[ベース部材の比較]
ベース部材として、銅板の代わりにアルミニウム板、真鍮板、鋼板(JIS SS400)をそれぞれ使用して、PPシート表面にレーザー加工を施した。各ベース部材の厚さや真空吸引の条件は銅板と同様であり、レーザースキャン速度は75~120mm/sとした。測定結果は、表3及び
図5~7のグラフに示した。なお、アルミニウム板は、熱伝導率236W/m・K、波長10.6μmの吸収率1%、溶融温度660℃であり、真鍮板は、熱伝導率111W/m・K、波長10.6μmの吸収率2%、溶融温度930℃であり、鋼板は、熱伝導率50W/m・K、波長10.6μmの吸収率10%、溶融温度1500℃である。
【0039】
【0040】
[結果と考察]
まず、表2及び
図4に示したベース部材を使用しない従来のレーザー加工方法による比較例では、エネルギーの線密度(P/S)の増加に伴って薄膜部の厚さが減少する(PPシートの加工部分が深くなる)傾向が確認され、エネルギーの線密度(P/S)が210~250J/mの時には薄膜部に部分的に貫通している箇所が見られた。また、エネルギー線密度(P/S)が260J/mの時には、レーザー加工部分が完全に貫通して薄膜部を形成することができなかった。
【0041】
これに対し、PPシートの裏面側に銅板をベース部材として密着配置させた場合では、表1及び
図3から理解されるように、エネルギーの線密度(P/S)の増加に伴って薄膜部の厚さが減少し、エネルギーの線密度(P/S)が280J/m以上で薄膜部の厚さが50~60μmで安定して形成された。比較例との対比から理解されるように、従来方法では過剰にレーザー照射が行われるとPPシートのレーザー加工部分が貫通してしまうが、PPシートの裏面側に銅板(ベース部材)が密着配置されたことにより、過剰なレーザー照射が行われても、レーザー加工部分(薄膜部)が貫通せずにほぼ一定の厚さが保持されることがわかった。
【0042】
また、銅板の代わりにアルミニウム板、真鍮板、鋼板をベース部材に用いた場合では、表3及び
図5~7から理解されるように、銅板と同様に過剰なレーザー照射が行われてもほぼ一定の厚さで貫通していない薄膜部が形成された。銅板、アルミニウム板、真鍮板、鋼板は、熱伝導率がいずれもPPシートの熱伝導率(0.1~0.2W/m・K)より格段に高く、ベース部材として好適に使用できることがわかった。
【0043】
以上図示し説明したように、本発明のレーザーによる薄膜部の形成方法は、被加工材の表面側からレーザー光線を照射してレーザー加工を施すに際して、被加工材のレーザー照射位置の温度上昇を抑制する手段により、被加工材の裏面側の溶断を抑止してレーザー照射位置に薄膜部を形成するため、レーザー加工の照射条件が変動して過剰なレーザー照射が行われても、被加工材の裏面側が貫通されることがなく所定の厚さを保持することができる。そのため、照射されるレーザー光線の出力等に誤差が生じても適切に薄膜部を形成することができる。つまり、レーザー照射を細かく制御しなくてもほぼ一定の厚さの薄膜部を安定して形成することができる。また、金属板のようなベース部材を被加工材の裏面側に密着配置すれば、より簡便かつ効率的に安定して薄膜部を形成することが可能となる。
以上の通り、本発明のレーザーによる薄膜部の形成方法は、レーザー加工により複雑なレーザー制御をすることなく簡易かつ安定的に薄膜部を形成することができる。商用化可能な食品用容器の製造の他、様々な製品の加工に利用することが可能である。