(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182348
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】球面滑り装置用基礎とその施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20221201BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20221201BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
E02D27/34 B
E04H9/02 331E
F16F15/02 L
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089862
(22)【出願日】2021-05-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】酒井 快典
(72)【発明者】
【氏名】山口 路夫
(72)【発明者】
【氏名】高峰 宏周
【テーマコード(参考)】
2D046
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2D046DA12
2E139AA01
2E139AB03
2E139AC20
2E139AC26
2E139AC27
2E139AC33
2E139AD03
2E139CA22
2E139CA24
2E139CC02
2E139CC11
3J048AA07
3J048AB01
3J048BG04
3J048DA03
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】球面滑り装置用基礎の施工の際の工程増の課題を解消しながら、ベースプレートの下方に隙間無く密実なコンクリート基礎が形成されている球面滑り装置用基礎と、その施工方法を提供すること。
【解決手段】上沓51と下沓54とスライダー57とを備える球面滑り装置50を支持するベースプレート10と、ベースプレート10を支持するコンクリート基礎30とを有する球面滑り装置用基礎100であり、ベースプレート10は、スライダー57に作用する荷重Nがスライダー57の下面59から下沓54とベースプレート10を経てコンクリート基礎30に伝達される、荷重伝達領域A2よりも平面視寸法の小さなコンクリート打設開口13を備えており、コンクリート打設開口13が閉塞蓋20により閉塞されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーと、を備える球面滑り装置を支持するベースプレートと、該ベースプレートを支持するコンクリート基礎とを有する、球面滑り装置用基礎であって、
前記ベースプレートは、前記スライダーに作用する荷重が該スライダーの下面から前記下沓と前記ベースプレートを経て前記コンクリート基礎に伝達される、荷重伝達領域よりも平面視寸法の小さなコンクリート打設開口を備えており、
前記コンクリート打設開口が閉塞蓋により閉塞されていることを特徴とする、球面滑り装置用基礎。
【請求項2】
前記スライダーよりも前記コンクリート打設開口の平面視寸法が小さいことを特徴とする、請求項1に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項3】
前記コンクリート打設開口の平面視形状が円形であり、孔径が100mm乃至800mmの範囲にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項4】
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの上面から下面にかけて平面視寸法が小さくなるテーパー状内壁面を有しており、
前記閉塞蓋が前記ベースプレートの前記テーパー状内壁面に相補的な形状の側面を有していることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項5】
前記コンクリート打設開口の内部の下方、もしくは、該コンクリート打設開口の下端には、該コンクリート打設開口の内側へ張り出す係止突起が設けられており、
前記コンクリート打設開口に落とし込まれた前記閉塞蓋が前記係止突起に係止されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項6】
前記閉塞蓋が、前記ベースプレートの上面に係止される係止プレートを備えており、
平面視において、前記係止プレートが前記ベースプレートの上面の全部もしくは一部を被覆していることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項7】
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項8】
上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーと、を備える球面滑り装置を支持する、球面滑り装置用基礎の施工方法であって、
下部構造体の天端の上方のコンクリート基礎用空間の上に、コンクリート打設開口を備えたベースプレートを設置し、該コンクリート基礎用空間の周囲に型枠を設置する、設置工程と、
前記コンクリート打設開口から、前記ベースプレートの下方の前記コンクリート基礎用空間にコンクリートを打設し、該コンクリートが硬化する前に該コンクリート打設開口を閉塞蓋により閉塞する、打設工程と、
打設された前記コンクリートが硬化し、前記型枠を脱型することによりコンクリート基礎が形成され、前記球面滑り装置を支持するベースプレートと、該ベースプレートを支持する前記コンクリート基礎とを有する、球面滑り装置用基礎を施工する、脱型工程とを有することを特徴とする、球面滑り装置用基礎の施工方法。
【請求項9】
前記コンクリート打設開口の平面視寸法は、前記スライダーに作用する荷重が、該スライダーの下面から前記下沓と前記ベースプレートを経て、前記コンクリート基礎に伝達される荷重伝達領域よりも小さな範囲に設定されていることを特徴とする、請求項8に記載の球面滑り装置用基礎の施工方法。
【請求項10】
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることを特徴とする、請求項8又は9に記載の球面滑り装置用基礎の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球面滑り装置用基礎とその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の上部構造体(例えば上部架構)と下部構造体(例えば基礎)の間の免震層に免震装置を設置して免震支承を形成し、地震時の振動を免震支承にて減衰もしくは吸収することにより、地震力を上部構造体に可及的に伝達させない免震建物が建設されている。この免震装置には、積層ゴム装置や、球面滑り装置と平面滑り装置等を含む滑り免震装置などがある。上記する免震装置は、地震による建物振動の振動態様を水平方向に長周期化させ、建物に作用する地震力を低減することを目的としている。
【0003】
上記する免震装置のうち、積層ゴム装置を適用する場合は、積層ゴムの平面視全域にて上部構造体から作用する荷重を支持することから、基準面圧は例えば10N/mm2乃至20N/mm2程度と比較的小さくなる。そのため、積層ゴム装置が載置されるベースプレートと、このベースプレートを支持するコンクリート基礎に過度な集中荷重が作用する恐れがないため、ベースプレートの下方にコンクリート基礎を施工するに当たり、例えばベースプレートにコンクリート打設開口を設け、コンクリート打設開口を介してベースプレートの下方にコンクリート(フレッシュコンクリート)を打設してコンクリート基礎を施工することが可能になる。
【0004】
仮に、ベースプレートにコンクリート打設開口を設けることができない場合は、下部構造体の天端の上方のコンクリート基礎用空間の上にベースプレートを設置し、コンクリート基礎用空間の周囲に型枠を設置し、型枠とベースプレートの間の隙間からコンクリートを打設し、コンクリートをベースプレートの下方において側方へ流しながらコンクリート基礎を施工することになる。免震装置が積層ゴム装置である場合は、ベースプレートの例えば中央に設けられているコンクリート打設開口からコンクリートを打設することから、ベースプレートの下方には空隙が残り難い。
【0005】
一方、免震装置のうち、球面滑り装置を適用する場合は、上沓に作用した上部構造体から作用する荷重は、上沓に比べて平面視寸法の小さなスライダーに伝達され、スライダーから下沓とベースプレートを介してコンクリート基礎に伝達される。そのため、球面滑り装置における基準面圧は例えば60N/mm2程度となって積層ゴム装置に比べて格段に大きな集中荷重となり、このような大きな集中荷重が、ベースプレートとコンクリート基礎に作用することになる。従って、球面滑り装置を支持するベースプレートの下方にコンクリート基礎を施工するに当たり、ベースプレートにコンクリート打設開口を設けると、このコンクリート打設開口が断面欠損となり、ベースプレートにおいてコンクリート打設開口が設けられている領域ではコンクリート基礎に荷重を伝達できなくなる。
【0006】
そのため、積層ゴム装置のように、ベースプレートの例えば中央にコンクリート打設開口を設けることができない場合は、ベースプレートの側方からコンクリートを流しながら施工することになり、ベースプレートの下面と打設されたコンクリートの天端との間には往々にして隙間が生じ得る。そして、このような隙間がベースプレートの下方に残った場合、スライダーからコンクリート基礎に対して十分な荷重伝達ができなくなる。そこで、ベースプレートの下方に空隙を生じさせない方法として、ベースプレートの下方の一定高さまでコンクリート基礎を施工した後、コンクリート基礎とベースプレートの間の空間に無収縮モルタルを施工する方法が挙げられる。しかしながら、滑り免震装置においては、スライダーを介して伝達される60N/mm2程度の高面圧に耐え得るように無収縮モルタルを施工しようとすると往々にして工程数が増加することになり、施工コストの増加に繋がる。
【0007】
以上のことから、球面滑り装置を適用する場合においても、無収縮モルタルの施工による工程増の課題を解消できる球面滑り装置用基礎の施工方法が切望される。
【0008】
ここで、特許文献1には、免震装置のベースプレートの設置方法が提案されている。具体的には、プレートの下面に伸縮自在な支持脚が少なくとも三本設けられたベースプレートを、基礎における免震装置の取り付け箇所に設置し、支持脚を伸縮させてベースプレートのレベルを調整した後、ベースプレートの周りに組立形成された型枠内にコンクリートを打設する設置方法である。この設置方法において、支持脚は正三角形の角部に位置する箇所に設けられ、そのうちの少なくとも一本がベースプレートの下面に設けた免震装置の設置用ナットを利用したものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の免震装置のベースプレートの設置方法においても、ベースプレートとその周囲に配設された型枠の隙間からコンクリートを打設してコンクリート基礎を施工する方法であることから、上記する球面滑り装置用基礎の施工の際に課題となる、コンクリート打設工程に対して無収縮モルタル工程が付加される工程増の課題を解消するものではない。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、球面滑り装置用基礎の施工の際の工程増の課題を解消しながら、ベースプレートの下方に隙間無く密実なコンクリート基礎が形成されている球面滑り装置用基礎と、その施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による球面滑り装置用基礎の一態様は、
上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーと、を備える球面滑り装置を支持するベースプレートと、該ベースプレートを支持するコンクリート基礎とを有する、球面滑り装置用基礎であって、
前記ベースプレートは、前記スライダーに作用する荷重が該スライダーの下面から前記下沓と前記ベースプレートを経て前記コンクリート基礎に伝達される、荷重伝達領域よりも平面視寸法の小さなコンクリート打設開口を備えており、
前記コンクリート打設開口が閉塞蓋により閉塞されていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、ベースプレートがコンクリート打設開口を備えているものの、コンクリート打設開口が閉塞蓋によって閉塞されていることにより、コンクリート打設開口に起因する断面欠損によってスライダーから作用する大きな集中荷重をベースプレートとコンクリート基礎に伝達できないといった課題を解消できる。そのため、球面滑り装置用基礎の施工時には、ベースプレートに設けられているコンクリート打設開口からのコンクリート打設が可能になり、ベースプレートの下方において可及的に短い流動距離にてコンクリートを流すことで、ベースプレートの下方に生じ得る隙間を抑制もしくは抑止しながら密実なコンクリート基礎を施工することが可能になる。すなわち、施工においては無収縮モルタル工程を不要として、隙間のない密実なコンクリート基礎をベースプレートの下方に備えている球面滑り装置用基礎となる。
【0014】
また、ベースプレートに設けられているコンクリート打設開口の寸法に関し、スライダーに作用する荷重がスライダーの下面から下沓とベースプレートを経てコンクリート基礎に伝達される、荷重伝達領域よりも平面視寸法の小さな大きさに設定されていることから、ベースプレートの全域に対するコンクリート打設開口の平面視寸法の割合が大きくなり過ぎることに起因するベースプレートの剛性低下を抑制でき、さらには、コンクリート打設開口を閉塞する閉塞蓋の平面視寸法の内部に荷重伝達領域が含まれることに起因する荷重伝達の不確実性を解消することができる。
【0015】
後者の荷重伝達の不確実性に関してさらに言及すると、コンクリート打設開口の内部に閉塞蓋が係合等によって固定されることから、スライダーからの伝達荷重を閉塞蓋のみが受ける構成では、係合部の固定度が高くないと下方のコンクリート基礎への確実な荷重伝達性を担保できない。本態様では、荷重伝達領域が閉塞蓋(コンクリート打設開口)の周囲のベースプレートに及ぶこと(このようにコンクリート打設開口の範囲を規制していること)から、スライダーからの伝達荷重を例えば閉塞蓋とその周囲のベースプレートを介してコンクリート基礎に確実に伝達することが可能になる。
【0016】
ここで、スライダーの下面から下沓とベースプレートを介してコンクリート基礎の上面に形成される荷重伝達領域は、荷重の広がり角度を0度乃至60度程度の範囲内で設定することにより様々に変化し得るが、この広がり角度の設定は設計者の判断に依拠するものであり、例えば30度や45度に設定できる。具体的には、スライダーと下沓とベースプレートとコンクリート基礎を縦断面的に見た際に、スライダー(の下面)の幅をBとし、下沓とベースプレートの厚みの合計をHとし、さらに、スライダーの左右端から鉛直下方へ延ばした鉛直線と荷重の広がり角度をθとした際に、縦断面におけるコンクリート基礎の上面における荷重伝達領域の幅は、B+2Htanθとなる。例えば、θ=0度に設定した際は、スライダーの幅がそのまま、コンクリート基礎の上面における荷重伝達領域の幅になる。
【0017】
また、本明細書において、「荷重伝達領域」とは、上記するように、コンクリート基礎の上面において伝達される荷重の幅や、コンクリート基礎の上面を上から見た平面視における伝達荷重の平面視寸法(平面視円形の範囲等)を意味する。
【0018】
さらに、ベースプレートに開設されるコンクリート打設開口の平面視形状は、円形、矩形(正方形や長方形)、矩形以外の多角形等、多様な平面視形状が適用できる。また、例えば平面視矩形のベースプレートの内部に、当該ベースプレートに相似な形状で相対的に平面視寸法が小さなコンクリート打設開口が設けられ、当該開口に同形状及び同寸法の閉塞蓋が嵌まり込む形態や、平面視形状が矩形のベースプレートが複数の縦片もしくは横片に等分され、その中の一つの縦片もしくは横片がコンクリート打設開口に設定され、当該開口に同形状及び同寸法の閉塞蓋が嵌まり込む形態等が挙げられる。後者の形態の具体的な例として、ベースプレートを三等分した際の中央の縦片が、コンクリート打設開口に設定されている形態等を例示できる。
【0019】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様は、
前記スライダーよりも前記コンクリート打設開口の平面視寸法が小さいことを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、コンクリート打設開口の平面視寸法がスライダーよりも小さい大きさに設定されていることにより、スライダーの下面の平面視寸法と荷重伝達領域の平面視寸法が同じとなるように設計する場合であっても、コンクリート打設開口(及び閉塞蓋)とその周囲のベースプレートを含む範囲を荷重伝達領域とすることができ、スライダーからの伝達荷重をコンクリート基礎に確実に伝達することが可能になる。また、コンクリート打設開口の平面視寸法がコンクリートを打設可能な最低限の範囲に規制されることにより、ベースプレートの剛性低下を最小限に抑えることができる。
【0021】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様において、
前記コンクリート打設開口の平面視形状が円形であり、孔径が100mm乃至800mmの範囲にあることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、コンクリート打設開口が孔径100mm乃至800mmの範囲にある平面視円形を呈していることにより、一般に適用される打設ホースのうち、最小寸法であるφ100mmの打設ホースをコンクリート打設開口に設置してコンクリート打設を行うことができ、さらに、コンクリート打設開口の最大寸法を、市販されている、もしくは市販の可能性のあるスライダーの最大径であるφ800mm以下に規制することができる。
【0023】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様において、
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの上面から下面にかけて平面視寸法が小さくなるテーパー状内壁面を有しており、
前記閉塞蓋が前記ベースプレートの前記テーパー状内壁面に相補的な形状の側面を有していることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、ベースプレートの上面から下面にかけて平面視寸法が小さくなるテーパー状内壁面(切頭円錐形状の内壁面)を備えたコンクリート打設開口に対して、相補的な形状の側面を有する閉塞蓋が落とし込まれて双方が係合していることにより、双方の係合面積が大きくなり、コンクリート打設開口と閉塞蓋との間の安定した係合構造を形成できる。
【0025】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様において、
前記コンクリート打設開口の内部の下方、もしくは、該コンクリート打設開口の下端には、該コンクリート打設開口の内側へ張り出す係止突起が設けられており、
前記コンクリート打設開口に落とし込まれた前記閉塞蓋が前記係止突起に係止されていることを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、コンクリート打設開口の内部の下方、もしくは、コンクリート打設開口の下端に設けられている、コンクリート打設開口の内側へ張り出す係止突起に対して、閉塞蓋が係止されていることにより、コンクリート打設開口と閉塞蓋との間の安定した係合構造を形成できる。
【0027】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様において、
前記閉塞蓋が、前記ベースプレートの上面に係止される係止プレートを備えており、
平面視において、前記係止プレートが前記ベースプレートの上面の全部もしくは一部を被覆していることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、閉塞蓋に連続する係止プレートがベースプレートの上面に係止されることにより、係止プレートとベースプレートが二枚重ねとなって、従来一般の一枚もののベースプレートと同様に球面滑り装置を支持することになるため、ベースプレートと係止プレートの双方の厚みを、例えば従来一般の一枚もののベースプレートの半分程度の厚みにすることができる。このことにより、可及的に薄くなったベースプレートと係止プレート(を備える閉塞蓋)の取り回し性(ハンドリング性)が良好になり、ベースプレート等の加工性も良好になる。
【0029】
ここで、係止プレートとベースプレートの平面視形状と平面視寸法が同一の場合は、ベースプレートのコンクリート打設開口に閉塞蓋を嵌め込んだ際に、ベースプレートと係止プレートが平面視において完全にラップした構成となる。一方、ベースプレートよりも係止プレートの平面視寸法が小さい場合は、ベースプレートのコンクリート打設開口に閉塞蓋を嵌め込んだ際に、ベースプレートの一部と係止プレートがラップし、ベースプレートの残りの他部には別途の係止プレートが載置されることにより、同様に一枚のベースプレートと一枚の係止プレートの二枚重ね構造が形成される。
【0030】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様において、
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることを特徴とする。
【0031】
本態様によれば、コンクリート打設開口がベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることにより、コンクリート打設開口を介してベースプレートの下方にコンクリートを打設する際に、ベースプレートの全周縁に対して可及的に均等かつ短い流動距離にてコンクリートを流動させることができ、ベースプレートの下面の全域において隙間のない、密実なコンクリート基礎が形成される。
【0032】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の施工方法の一態様は、
上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーと、を備える球面滑り装置を支持する、球面滑り装置用基礎の施工方法であって、
下部構造体の天端の上方のコンクリート基礎用空間の上に、コンクリート打設開口を備えたベースプレートを設置し、該コンクリート基礎用空間の周囲に型枠を設置する、設置工程と、
前記コンクリート打設開口から、前記ベースプレートの下方の前記コンクリート基礎用空間にコンクリートを打設し、該コンクリートが硬化する前に該コンクリート打設開口を閉塞蓋により閉塞する、打設工程と、
打設された前記コンクリートが硬化し、前記型枠を脱型することによりコンクリート基礎が形成され、前記球面滑り装置を支持するベースプレートと、該ベースプレートを支持する前記コンクリート基礎とを有する、球面滑り装置用基礎を施工する、脱型工程とを有することを特徴とする。
【0033】
本態様によれば、打設工程において、ベースプレートの備えるコンクリート打設開口からベースプレートの下方のコンクリート基礎用空間に(フレッシュ)コンクリートを打設することにより、コンクリート打設開口に起因する断面欠損によってスライダーから作用する大きな集中荷重をベースプレートとコンクリート基礎に伝達できないといった課題を解消でき、かつ、ベースプレートの下方において可及的に短い流動距離にてコンクリートを流すことで、ベースプレートの下方に生じ得る隙間を抑制もしくは抑止しながら密実なコンクリート基礎を施工することが可能になる。従って、球面滑り装置用基礎の施工において、無収縮モルタル工程を不要にしながら、隙間のない密実なコンクリート基礎をベースプレートの下方に施工することができる。また、コンクリートが硬化する前にコンクリート打設開口を閉塞蓋によって閉塞することにより、閉塞蓋とコンクリート基礎との密着性が高まり、閉塞蓋を含むベースプレートの全域がコンクリート基礎と高い密着性を有して一体とされた球面滑り装置用基礎を施工することができる。
【0034】
ここで、ベースプレートには、平面視寸法が小さな空気抜き孔を設けておくことにより、ベースプレートの下面までコンクリートが充填された際の空気抜きを行うことができ、この空気抜き孔からコンクリートが溢れ出すことにより、ベースプレートの下面までコンクリートが隙間なく打設されたことを確認することができる。また、閉塞蓋にも空気抜き孔が設けられていているのが好ましい。
【0035】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の施工方法の他の態様において、
前記コンクリート打設開口の平面視寸法は、前記スライダーに作用する荷重が、該スライダーの下面から前記下沓と前記ベースプレートを経て、前記コンクリート基礎に伝達される荷重伝達領域よりも小さな範囲に設定されていることを特徴とする。
【0036】
本態様によれば、ベースプレートに設けられているコンクリート打設開口の寸法に関し、スライダーに作用する荷重がスライダーの下面から下沓とベースプレートを経てコンクリート基礎に伝達される、荷重伝達領域よりも平面視寸法の小さな大きさに設定されていることから、ベースプレートの全域に対するコンクリート打設開口の平面視寸法の割合が大きくなり過ぎることに起因するベースプレートの剛性低下を抑制でき、コンクリート打設開口を閉塞する閉塞蓋の平面視寸法の内部に荷重伝達領域が含まれることに起因する荷重伝達の不確実性が解消された球面滑り装置用基礎を施工することができる。
【0037】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の施工方法の他の態様において、
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることを特徴とする。
【0038】
本態様によれば、コンクリート打設開口がベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることにより、コンクリート打設開口を介してベースプレートの下方にコンクリートを打設する際に、ベースプレートの全周縁に対して可及的に均等かつ短い流動距離にてコンクリートを流動させることができ、ベースプレートの下面の全域において隙間のない、密実なコンクリート基礎を施工することができる。
【発明の効果】
【0039】
以上の説明から理解できるように、本発明の球面滑り装置用基礎とその施工方法によれば、球面滑り装置用基礎の施工の際の工程増の課題を解消しながら、ベースプレートの下方に隙間無く密実なコンクリート基礎が形成されている球面滑り装置用基礎と、その施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】実施形態に係る球面滑り装置用基礎の一例に対して、球面滑り装置が固定されている状態を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のII-II矢視図であって、ベースプレートの一例から閉塞蓋の一例を取り外して示した平面図である。
【
図3】
図1のIII-III矢視図であって、コンクリート基礎の上面にコンクリート打設開口領域と荷重伝達領域を投影した平面図である。
【
図4】ベースプレートの他の例のコンクリート打設開口を、閉塞蓋の他の例が閉塞している状態を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は(a)のb-b矢視図である。
【
図5】ベースプレートのさらに他の例のコンクリート打設開口を、閉塞蓋のさらに他の例が閉塞している状態を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は(a)のb-b矢視図である。
【
図6】ベースプレートのさらに他の例のコンクリート打設開口を、閉塞蓋のさらに他の例が閉塞している状態を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は(a)のb-b矢視図である。
【
図7】実施形態に係る球面滑り装置用基礎の施工方法の一例の工程図である。
【
図8】
図7に続いて、実施形態に係る球面滑り装置用基礎の施工方法の一例の工程図である。
【
図9】
図8に続いて、実施形態に係る球面滑り装置用基礎の施工方法の一例の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、実施形態に係る球面滑り装置用基礎とその施工方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0042】
[実施形態に係る球面滑り装置用基礎]
はじめに、
図1乃至
図6を参照して、実施形態に係る球面滑り装置用基礎の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る球面滑り装置用基礎の一例に対して、球面滑り装置が固定されている状態を示す縦断面図である。また、
図2は、
図1のII-II矢視図であって、ベースプレートの一例から閉塞蓋の一例を取り外して示した平面図であり、
図3は、
図1のIII-III矢視図であって、コンクリート基礎の上面にコンクリート打設開口領域と荷重伝達領域を投影した平面図である。
【0043】
球面滑り装置用基礎100は、球面滑り装置50を支持する鋼製のベースプレート10と、ベースプレート10を支持するコンクリート基礎30とを有する。コンクリート基礎30の下方には、例えば鉄筋コンクリート製の下部構造体40があり、下部構造体40に対してコンクリート基礎30を含む球面滑り装置用基礎100が支持されている。ここで、下部構造体40は、対象の免震建物が高層ビル等の場合には、免震層を構成する免震ピットの底板等であり、橋梁が対象である場合は橋脚や橋台が下部構造体40となる。また、球面滑り装置用基礎100に固定される球面滑り装置50には、上方のベースプレート62を介して鉄筋コンクリート製や鋼製、鉄骨鉄筋コンクリート製の上部構造体60が載置される。
【0044】
ベースプレート10の下面には複数の長ナット15が溶接接合されており、長ナット15の下方のボルト孔15aに、脚ボルト17が螺合し、脚ボルト17の下端が下部構造体40の天端に載置されている。ベースプレート10は、複数の脚ボルト17を介して下部構造体40の天端に対して高さを調整された姿勢で載置される。
【0045】
ベースプレート10の下面12と下部構造体40の天端の間には、ベースプレート10を支持するコンクリート基礎30が形成されている。
図2に示すように、図示例のベースプレート10は、厚みがH0であって平面視形状が辺長B0の正方形(矩形の一例)であり、コンクリート基礎30の平面視形状はベースプレート10よりも若干大寸法の正方形である。尚、ベースプレートとコンクリート基礎の平面視形状は図示例以外にも、円形や楕円形、矩形以外の多角形であってもよい。また、
図1において、コンクリート基礎30の内部の配筋の図示は省略している。
【0046】
図1及び
図2に示すように、ベースプレート10は、その平面視形状の中央に平面視形状が円形のコンクリート打設開口13を備えている。
図1に明りょうに示すように、コンクリート打設開口13は、ベースプレート10の上面11から下面12にかけて平面視寸法が小さくなるテーパー状内壁面13aを有しており、換言すると、コンクリート打設開口13は下方に向かって平面視寸法が小さくなる切頭円錐形状の開口となっている。ここで、コンクリート打設開口の平面視形状は、図示例の円形以外にも、正方形を含む多角形や楕円形等であってもよい。
【0047】
このように、下方に向かって平面視寸法が小さくなる切頭円錐形状のコンクリート打設開口13に対して、
図2に示すように上方からX1方向に鋼製の閉塞蓋20が落とし込まれることにより、コンクリート打設開口13が閉塞される。
【0048】
閉塞蓋20は、コンクリート打設開口13のテーパー状内壁面13aに相補的な形状及び寸法のテーパー状側面23を備えており、コンクリート打設開口13に対して隙間なく嵌まり込むことができ、嵌まり込んだ際に、閉塞蓋20が下方へ落下することなく相互に係合するようになっている。
【0049】
以下で詳説するように、コンクリート基礎30の施工に際してベースプレート10の下方にフレッシュコンクリートを打設する際は、コンクリート打設開口13を使用し、ベースプレート10の下方に密実にフレッシュコンクリートが打設された後、このフレッシュコンクリートが硬化する前に閉塞蓋20がコンクリート打設開口13を閉塞することにより、閉塞蓋20を含むベースプレート10と硬化後のコンクリート基礎30が隙間無く一体化されて、
図1に示す球面滑り装置用基礎100が形成される。
【0050】
図2に示すように、平面視形状が正方形のベースプレート10の各隅角部の近傍には、球面滑り装置50を構成する下沓54をボルト接合するためのボルト孔14bが設けられており、中央にあるコンクリート打設開口13の周囲には複数の空気抜き孔14aが設けられている。この空気抜き孔14aは、ベースプレート10の下方にフレッシュコンクリートが打設された際に、フレッシュコンクリートに押し上げられた空気を抜く作用と、フレッシュコンクリートがベースプレート10の下面12まで隙間無く充填された際に、フレッシュコンクリートが空気抜き孔14aから吹き出して密実に充填されたことを確認できる効果を有している。
【0051】
また、閉塞蓋20も空気抜き孔24を備えており、フレッシュコンクリートが硬化する前にコンクリート打設開口13に落とし込まれた閉塞蓋20からも空気抜きが行われるようになっている。
【0052】
図1に示すように、下沓54の端部近傍に設けられている複数のボルト孔54aと、ベースプレート10における各ボルト孔54aに対応する位置に設けられているボルト孔14bが連通し、これらが長ナット15の上端に開設されているボルト孔15bに連通し、下沓54の上面55からこの連通孔に取付けボルト19が挿通されることにより、ベースプレート10に対して下沓54がボルト接合される。尚、図示を省略するが、図示例のようにボルトの頭部が下沓54の上面55から突出しない取り付け構造が適用されてもよい。
【0053】
ここで、球面滑り装置50の構成について説明する。
図1に示すように、球面滑り装置50は、上沓51と、下沓54と、上沓51と下沓54の間で摺動するスライダー57とを有する。
【0054】
上沓51と下沓54はいずれも、平面視正方形の板材であり、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等から形成されている。上沓51の下面53と下沓54の上面55にはそれぞれ、曲率を有する摺動面(滑り面)が設けられており、この摺動面53、55には、ステンレス製の滑り板(図示せず)が固定されている。また、上沓51と下沓54には、滑り板の外周において、スライダー57の脱落を防止するための平面視環状のストッパーリング(図示せず)が固定されている。
【0055】
一方、スライダー57は、曲率を有する上下の摺動面(滑り面)58,59を備え、略円柱状を呈している。また、スライダー57は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等から形成され、面圧60N/mm2(60MPa)程度の耐荷強度を有している。
【0056】
スライダー57の上下の摺動面58,59には、少なくともPTFEを素材とする摩擦材(図示せず)が取り付けられている。摩擦材は二重織物により形成され、二重織物は、PTFE繊維と、PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維(高強度繊維)とにより形成される。ここで、「PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維」としては、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン4・6などのポリアミドやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルやパラアラミドなどの繊維を挙げることができる。また、メタアラミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラス、カーボン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、LCP、ポリイミド、PEEKなどの繊維を挙げることができる。また、さらに、熱融着繊維や綿、ウールなどの繊維を適用してもよい。その中でも、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、引張強度の極めて高いPPS繊維が望ましい。ここで、少なくともPTFEを素材とする摩擦材としては、二重織物以外のPTFE繊維を含む織物でもよく、また、PTFEのみを素材とする摩擦材、PTFEと他の樹脂の複合素材からなる摩擦材、PTFEを素材とする摩擦材と他の樹脂を素材とする摩擦材との積層構造の摩擦材などであってもよい。
【0057】
図1に示すように、球面滑り装置50に対して上部構造体60から荷重N(鉛直荷重)が作用すると、上沓51に作用した荷重Nは、上沓51に比べて平面視寸法の小さなスライダー57に伝達され、スライダー57から下沓54とベースプレート10を介してコンクリート基礎30に伝達される。そのため、球面滑り装置50における基準面圧は、例えば60N/mm
2程度と大きな集中荷重となり、このような大きな集中荷重が、ベースプレート10とコンクリート基礎30に作用することになる。
【0058】
図1及び
図3に示すように、直径B1のスライダー57から下沓54とベースプレート10を介してコンクリート基礎30の上面に作用する荷重伝達領域A2は、下沓54(のスライダー57の端部に相当する位置)とベースプレート10のそれぞれの厚みの総厚をH1とした際に、直径B2=B1+2×H1×tanθ1の円形で表すことができる。
図3において、A1はコンクリート打設開口領域を示し、A3はベースプレート領域を示す。
【0059】
スライダー57の端部から鉛直下方へ延びる鉛直線L1から、荷重の広がり線L2の間の広がり角度θ1は設計者の判断により設定でき、0度乃至60度程度の範囲内で設定される。尚、
図1に示す角度θ1は、45度程度として示している。
【0060】
図3に示すように、ベースプレート10に開設されているコンクリート打設開口13(及び閉塞蓋20)の平面視寸法であるコンクリート打設開口領域A1は、コンクリート基礎30の上面に形成される荷重伝達領域A2よりも小さくなるように設定されている。
【0061】
図示例のコンクリート打設開口領域A1は、
図1からも明らかなように、スライダー57の平面視寸法(荷重伝達領域A2よりも小さい寸法)よりも小さく設定されている。
【0062】
ここで、コンクリート打設開口13の具体的な孔径は、100mm乃至800mmの範囲に設定されるのが好ましい。一般に適用される打設ホースの最小寸法がφ100mmであることから、コンクリート打設開口13の最小径を100mmに設定することにより、最小寸法の打設ホースをコンクリート打設開口13に設置してコンクリート打設を行うことが可能になる。また、市販されている、もしくは市販の可能性のあるスライダー57の最大径がφ800mmであることから、コンクリート打設開口13の最大径を800mmに設定することにより、最大径のスライダー57の寸法内に規制することができる。
【0063】
このように、ベースプレート10に設けられているコンクリート打設開口13の寸法に関し、スライダー57に作用する荷重Nがスライダー57の下面59から下沓54とベースプレート10を経てコンクリート基礎30に伝達される、荷重伝達領域A2よりも平面視寸法の小さな大きさに設定されていることから、ベースプレート10の全域に対するコンクリート打設開口13の平面視寸法の割合が大きくなり過ぎることに起因する、ベースプレート10の剛性低下を抑制できる。さらに、コンクリート打設開口13を閉塞する閉塞蓋20の平面視寸法の内部に荷重伝達領域A2が含まれることに起因する、荷重伝達の不確実性を解消することができ、スライダー57からの伝達荷重を、閉塞蓋20とその周囲のベースプレート10を介してコンクリート基礎30に確実に伝達することが可能になる。
【0064】
また、ベースプレート10がコンクリート打設開口13を備えているものの、コンクリート打設開口13が閉塞蓋20によって閉塞されていることにより、コンクリート打設開口13に起因する、断面欠損によってスライダー57から作用する60N/mm2もの大きな集中荷重をベースプレート10とコンクリート基礎30に伝達できないといった課題を解消できる。そのため、球面滑り装置用基礎100の施工時には、ベースプレート10に設けられているコンクリート打設開口13からのコンクリート打設が可能になり、ベースプレート10の下方において可及的に短い流動距離にてコンクリートを流すことで、ベースプレート10の下方に生じ得る隙間を抑制もしくは抑止しながら密実なコンクリート基礎30を施工することが可能になる。
【0065】
さらに、ベースプレート10の上面11から下面12にかけて平面視寸法が小さくなるテーパー状内壁面13aを備えたコンクリート打設開口13に対して、相補的な形状のテーパー状側面23を有する閉塞蓋20が落とし込まれて双方が係合していることにより、テーパー状の係合面同士の係合ゆえに双方の係合面積が大きくなり、コンクリート打設開口13と閉塞蓋20との間の安定した係合構造を形成できる。
【0066】
ここで、
図4乃至
図6を参照して、ベースプレートの他の例について説明する。
図4乃至
図6はいずれも、コンクリート打設開口を閉塞蓋が閉塞している状態を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のb-b矢視図である。
【0067】
図4に示すベースプレート10Aは、中央に平面視正方形のコンクリート打設開口13Aが設けられ、コンクリート打設開口13Aに対して平面視正方形で空気抜き孔24を備えた閉塞蓋20Aが嵌まり込んでいる。
図1及び
図2に示すコンクリート打設開口13と異なり、コンクリート打設開口13Aの内壁面は鉛直面であり、ベースプレート10Aの下面のコンクリート打設開口13Aの周囲には、コンクリート打設開口13Aの内側へ張り出す矩形枠状の係止突起18が溶接接合されている。尚、係止突起は、連続した矩形枠状でなくてもよく、正方形の少なくとも二箇所(対向する一対の辺の中央位置や、四辺の各中央位置等)から、複数の係止突起がコンクリート打設開口13Aの内側へ張り出す形態であってもよい。
【0068】
コンクリート打設開口13Aの備える鉛直内壁面に落とし込まれた閉塞蓋20Aは、下方の係止突起18に係止されることにより、下方へ落下することなくコンクリート打設開口13Aに係合される。
【0069】
ここで、図示例は、矩形枠状の係止突起18がベースプレート10Aの下面に固定されている形態であるが、コンクリート打設開口の鉛直内壁面の下方から内側へ係止突起が張り出す形態であってもよい。
【0070】
一方、
図5に示すベースプレートは、空気抜き孔24を備えて平面視正方形の閉塞蓋20Bが、ベースプレート10Cの上面に係止される係止プレート10Bと一体になっている二枚重ねのベースプレートである。そして、係止プレート10Bとベースプレート10Cは平面視形状がともに正方形で同寸法であり、平面視において双方は完全に一致している。
【0071】
ベースプレート10Cの中央にあるコンクリート打設開口13Bに閉塞蓋20Bが嵌まり込んだ際に、ベースプレート10Cの上面に係止プレート10Bが係止され、双方が完全にラップして二枚重ねのベースプレートを形成する。
【0072】
ここで、
図1に示すベースプレート10の厚みH0に対して、ベースプレート10Cと係止プレート10Bの厚みH2は、いずれもその半分のH0/2に設定されている。
【0073】
このように、閉塞蓋20Bに連続する係止プレート10Bがベースプレート10Cの上面に係止されることにより、係止プレート10Bとベースプレート10Cが二枚重ねとなって、従来一般の一枚もののベースプレートと同様に球面滑り装置50を支持することになるため、可及的に薄くなったベースプレート10Cと係止プレート10B(を備える閉塞蓋20B)の取り回し性と加工性が良好になる。このように、係止プレート10Bは、ベースプレート10Cとともに二枚重ねのベースプレートを形成することから、ベースプレート10Cとともに薄厚のベースプレートと称してもよい。
【0074】
図示例のように、平面視正方形(多角形の一例)のコンクリート打設開口13Bに対して、同様に平面視正方形の閉塞蓋20Bが嵌まり込むことから、コンクリート打設開口13Bに対する閉塞蓋20Bの回転が抑止され、相互に重ねられたベースプレート10Cと係止プレート10Bの相対回転が抑止される。
【0075】
ここで、図示例のベースプレート10Cと係止プレート10Bは平面視において双方が完全に一致する形態であるが、係止プレートがベースプレートの途中位置まで広がっている平面視矩形状の形態であってもよい。この形態では、係止プレートの周囲に係止プレートと同厚で平面視が矩形枠状の枠状プレートが配設され、係止プレートと枠状プレートを合わせると、ベースプレートと平面視において完全に一致し、結果として二枚重ねのベースプレートとなる。
【0076】
一方、
図6に示すベースプレート10Dは、縦長の平面視矩形の二枚のベースプレート10Dの内側に、同様に縦長の平面視矩形の閉塞蓋20Cが嵌まり込むことにより、全体として平面視正方形のベースプレートが形成される形態である。
【0077】
図6(b)に示すように、左右のベースプレート10Dのうち、閉塞蓋20Cが嵌まり込む端面はテーパー状内壁面13aとなっており、左右のテーパー状内壁面13aに対して、閉塞蓋20Cの左右にあるテーパー状側面23が係合することにより、左右のベースプレート10Dと閉塞蓋20Cが係合される。
【0078】
[実施形態に係る球面滑り装置用基礎の施工方法]
次に、
図7乃至
図9を参照して、実施形態に係る球面滑り装置用基礎の施工方法の一例について説明する。ここで、
図7乃至
図9は順に、実施形態に係る球面滑り装置用基礎の施工方法の一例の工程図である。
【0079】
図7に示すように、下部構造体40の天端の上方に、コンクリート打設開口13を備えたベースプレート10を設置する。
【0080】
ベースプレート10は、下部構造体40の天端の不陸に対して各脚ボルト17の高さをY1方向に調整することにより、ベースプレート10を所定の高さ位置で平坦な姿勢にする。尚、図示を省略するが、山形鋼等の形鋼材とボルトを組み合わせて高さ調整自在な脚を形成し、複数の当該脚をベースプレートの下面に取り付けてもよく、高さ調整自在な脚の形態は様々に存在する。この平坦姿勢のベースプレート10の下方には、コンクリート基礎用空間Gが形成される。コンクリート打設開口13を使用したフレッシュコンクリートの打設の後に、コンクリート打設開口13に対して閉塞蓋20がX1方向に落とし込まれることになる。
【0081】
下部構造体40の天端にベースプレート10を設置し、ベースプレート10の下方にコンクリート基礎用空間Gを形成したら、
図8に示すように、下部構造体40の天端において、ベースプレート10の周囲に僅かな隙間Sを開けて型枠Kを設置する。
【0082】
この隙間Sは、ベースプレート10の備える空気抜き孔14aと同様に、空気抜き孔としての機能と、端部までフレッシュコンクリートが密実に充填されたことを確認できる機能を有している。また、隙間Sは、フレッシュコンクリートの打設に利用されるものでないことから、大きな寸法(幅)は不要である。そのため、側方からフレッシュコンクリートを打設する際にベースプレートと型枠の間に大きな幅の隙間を設ける場合のように、結果としてコンクリート基礎の規模が大きくなるといった問題は生じない(以上、設置工程)。
【0083】
型枠Kを設置したら、ベースプレート10の中央にあるコンクリート打設開口13の上方に打設ホースPの筒先を固定し、コンクリート打設開口13を介してベースプレート10の下方へY2方向にフレッシュコンクリートCを打設する。
【0084】
ベースプレート10の下方へ打設されたフレッシュコンクリートCは、ベースプレート10の中央から側方の360度方向であるY3方向へ流動していく。
【0085】
ここで、ベースプレートがコンクリート打設開口を備えていない場合は、ベースプレートと型枠との間に大きな隙間を設け、ベースプレートの一端の隙間に打設ホースの筒先を位置決めし、一端からコンクリート基礎用空間の全域にフレッシュコンクリートを流動させる必要があり、従って、フレッシュコンクリートの流動距離は格段に長くなる。
【0086】
例えば、
図8に示すように、ベースプレート10の左端からフレッシュコンクリートを打設する場合、ベースプレート10の右端の型枠Kまでの流動距離はt2となる。これに対して、図示例のようにベースプレート10の中央にあるコンクリート打設開口13からフレッシュコンクリートCを打設する場合は、フレッシュコンクリートCの流動距離t1は流動距離t2の半分未満となり、流動距離は格段に短くなる。
【0087】
このように、フレッシュコンクリートCの流動距離が短くなることにより、ベースプレート10と型枠Kにより形成されているコンクリート基礎用空間Gにおけるコンクリートの充填効率が向上し、コンクリート基礎用空間Gの全域に対して均等かつ速やかにフレッシュコンクリートCを流動させ、充填させることが可能になる。
【0088】
このことにより、ベースプレート10の下面に確実に密着するようにしてフレッシュコンクリートCを打設することができる。この状態でフレッシュコンクリートCが硬化することにより、形成されたコンクリート基礎30の上面とベースプレート10の下面との間に生じ得る隙間の発生が抑制され、ベースプレート10とコンクリート基礎30との強固な一体構造を形成できる。
【0089】
コンクリート基礎用空間Gの全域にフレッシュコンクリートCが打設されたら、フレッシュコンクリートCが硬化する前に、コンクリート打設開口13を閉塞蓋20により閉塞する。このことにより、閉塞蓋20の下面とフレッシュコンクリートCを密着させることができ、形成されたコンクリート基礎30の上面と閉塞蓋20の下面との間においても、強固な一体構造を形成できることから、閉塞蓋20を含むベースプレート10の全体とコンクリート基礎30とを強固に一体化させることが可能になる(以上、打設工程)。
【0090】
コンクリート打設開口13を閉塞蓋20にて閉塞した後、打設されたフレッシュコンクリートCが硬化したら、
図9に示すように、型枠Kを脱型することによって、ベースプレート10とコンクリート基礎30が一体化された球面滑り装置用基礎100が施工される(以上、脱型工程)。
【0091】
図示例の施工方法によれば、ベースプレート10の平面視形状の中央に設けられているコンクリート打設開口13を介してベースプレート10の下方にフレッシュコンクリートCを打設することにより、ベースプレート10の全周縁に対して可及的に均等かつ短い流動距離にてフレッシュコンクリートCを流動させることができ、さらに、フレッシュコンクリートCの硬化前に、コンクリート打設開口13を閉塞蓋20にて閉塞することにより、閉塞蓋20を含むベースプレート10の下面の全域において隙間のない、密実なコンクリート基礎30を施工することができる。そして、このことにより、隙間を埋めるための無収縮モルタル打設工程は不要になり、工程増の問題は生じない。
【0092】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0093】
10,10A,10C,10D:ベースプレート
10B:係止プレート(ベースプレート)
11:上面
12:下面
13,13A,13B:コンクリート打設開口
13a:テーパー状内壁面
14a:空気抜き孔
14b:ボルト孔
15:長ナット
15a,15b:ボルト孔
17:脚ボルト
18:係止突起
19:取付けボルト
20,20A,20B,20C:閉塞蓋
21:上面
22:下面
23:テーパー状側面
24:空気抜き孔
30:コンクリート基礎
40:下部構造体
50:球面滑り装置
51:上沓
52:上面
53:下面(摺動面)
54:下沓
55:上面(摺動面)
56:下面
57:スライダー
58:上面(摺動面)
59:下面(摺動面)
60:上部構造体
62:ベースプレート
100:球面滑り装置用基礎
A1:コンクリート打設開口領域
A2:荷重伝達領域
A3:ベースプレート領域
G:コンクリート基礎用空間
K:型枠
C:フレッシュコンクリート
S:隙間
P:打設ホース
N:荷重
【手続補正書】
【提出日】2021-10-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーと、を備える球面滑り装置を支持するベースプレートと、該ベースプレートを支持するコンクリート基礎とを有する、球面滑り装置用基礎であって、
前記ベースプレートは、前記スライダーに作用する荷重が該スライダーの下面から前記下沓と前記ベースプレートを経て前記コンクリート基礎に伝達される、荷重伝達領域よりも平面視寸法の小さなコンクリート打設開口を備えており、
前記コンクリート打設開口が落とし込み式の閉塞蓋により閉塞されていることを特徴とする、球面滑り装置用基礎。
【請求項2】
上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーと、を備える球面滑り装置を支持するベースプレートと、該ベースプレートを支持するコンクリート基礎とを有する、球面滑り装置用基礎であって、
前記ベースプレートは、前記スライダーに作用する荷重が該スライダーの下面から前記下沓と前記ベースプレートを経て前記コンクリート基礎に伝達される、荷重伝達領域よりも平面視寸法の小さなコンクリート打設開口を備えており、
前記コンクリート打設開口が鋼製の閉塞蓋により閉塞されていることを特徴とする、球面滑り装置用基礎。
【請求項3】
前記スライダーよりも前記コンクリート打設開口の平面視寸法が小さいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項4】
前記コンクリート打設開口の平面視形状が円形であり、孔径が100mm乃至800mmの範囲にあることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項5】
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの上面から下面にかけて平面視寸法が小さくなるテーパー状内壁面を有しており、
前記閉塞蓋が前記ベースプレートの前記テーパー状内壁面に相補的な形状の側面を有していることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項6】
前記コンクリート打設開口の内部の下方、もしくは、該コンクリート打設開口の下端には、該コンクリート打設開口の内側へ張り出す係止突起が設けられており、
前記コンクリート打設開口に落とし込まれた前記閉塞蓋が前記係止突起に係止されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項7】
前記閉塞蓋が、前記ベースプレートの上面に係止される係止プレートを備えており、
平面視において、前記係止プレートが前記ベースプレートの上面の全部もしくは一部を被覆していることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項8】
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の球面滑り装置用基礎。
【請求項9】
上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーと、を備える球面滑り装置を支持する、球面滑り装置用基礎の施工方法であって、
下部構造体の天端の上方のコンクリート基礎用空間の上に、コンクリート打設開口を備えたベースプレートを設置し、該コンクリート基礎用空間の周囲に型枠を設置する、設置工程と、
前記コンクリート打設開口から、前記ベースプレートの下方の前記コンクリート基礎用空間にコンクリートを打設し、該コンクリートが硬化する前に該コンクリート打設開口を落とし込み式の閉塞蓋により閉塞する、打設工程と、
打設された前記コンクリートが硬化し、前記型枠を脱型することによりコンクリート基礎が形成され、前記球面滑り装置を支持するベースプレートと、該ベースプレートを支持する前記コンクリート基礎とを有する、球面滑り装置用基礎を施工する、脱型工程とを有することを特徴とする、球面滑り装置用基礎の施工方法。
【請求項10】
上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーと、を備える球面滑り装置を支持する、球面滑り装置用基礎の施工方法であって、
下部構造体の天端の上方のコンクリート基礎用空間の上に、コンクリート打設開口を備えたベースプレートを設置し、該コンクリート基礎用空間の周囲に型枠を設置する、設置工程と、
前記コンクリート打設開口から、前記ベースプレートの下方の前記コンクリート基礎用空間にコンクリートを打設し、該コンクリートが硬化する前に該コンクリート打設開口を鋼製の閉塞蓋により閉塞する、打設工程と、
打設された前記コンクリートが硬化し、前記型枠を脱型することによりコンクリート基礎が形成され、前記球面滑り装置を支持するベースプレートと、該ベースプレートを支持する前記コンクリート基礎とを有する、球面滑り装置用基礎を施工する、脱型工程とを有することを特徴とする、球面滑り装置用基礎の施工方法。
【請求項11】
前記コンクリート打設開口の平面視寸法は、前記スライダーに作用する荷重が、該スライダーの下面から前記下沓と前記ベースプレートを経て、前記コンクリート基礎に伝達される荷重伝達領域よりも小さな範囲に設定されていることを特徴とする、請求項9又は10に記載の球面滑り装置用基礎の施工方法。
【請求項12】
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることを特徴とする、請求項9乃至11のいずれか一項に記載の球面滑り装置用基礎の施工方法。